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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140641
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ガス缶の気化補助器
(51)【国際特許分類】
   F24C 3/14 20210101AFI20241003BHJP
   F23D 14/28 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F24C3/14 K
F23D14/28 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051886
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】516053475
【氏名又は名称】有限会社日本OMC
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】百武 省彦
(57)【要約】
【課題】熱源を必要とせず、簡単な構成で、液化石油ガスの気化力を維持することが可能なガス缶の気化補助器の提供。
【解決手段】底部22の外側面に凹部22Bを有する金属製のガス容器20に液化石油ガスが充填されたガス缶2の気化補助器1であって、凝固点が液化石油ガスの沸点よりも高い水を入れた液槽内にガス容器20を保持して浸ける籠3であり、液槽の底に接触したままの状態で揺動可能な籠3からなり、籠3を揺動させるとガス容器20の底部22の凹面22Aにより形成された凹部22B内の空気が抜け、代わりに凹部22B内に水が入って満たされることで、ガス容器20の底部22の凹面22Aに隙間無く水を密着させることができ、このガス容器20の底部22の凹面22Aからも、ガス容器20内の液化石油ガスに水が持つ潜熱が熱伝導され、ガス容器20内の液化石油ガスの沸点を下回るのをさらに防止することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部の外面側に凹部を有する金属製のガス容器に液化石油ガスが充填されたガス缶の気化補助器であって、
凝固点が前記液化石油ガスの沸点よりも高い液体を入れた液槽内に前記ガス容器を保持して浸ける籠であり、前記液槽の底に接触したままの状態で揺動可能な籠からなるガス缶の気化補助器。
【請求項2】
前記籠は、直立状態において前記液槽の底に接触する底部と、前記底部の両端部よりそれぞれ外側斜め上方に位置し、傾斜させた際に前記液槽の底に接触する第1傾斜接触部および第2傾斜接触部とを有する請求項1記載のガス缶の気化補助器。
【請求項3】
前記液体の粘度が100,000mPa・s以下である請求項1または2に記載のガス缶の気化補助器。
【請求項4】
前記液体が水である請求項1または2に記載のガス缶の気化補助器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製のガス容器に充填された液化石油ガスの気化力を維持するガス缶の気化補助器に関する。
【背景技術】
【0002】
キャンプや避難所等においては、ランタンやバーナー等のガス機器の燃料として、ガス容器(缶)に液化石油ガスが充填された、いわゆるCB缶やOD缶などのガス缶が良く使用される。ガス缶の中は常に高圧であるため、この高圧に耐えられるようにガス容器は金属製となっており、圧力で容器が変形しないように底には凹みが設けられている。
【0003】
ところで、このようなガス缶では、液化石油ガスが気化する際の気化熱によってガス容器の温度が低下する。そのため、ガス機器を周囲温度が低温の環境で連続的に使用すると、ガス容器の温度が充填された液化石油ガスの沸点を下回って液化石油ガスの気化が阻害され、ガス容器内に液化石油ガスが残っているにも関わらず、燃焼が止まってしまうことがある。
【0004】
そこで、このような現象を予防するために、特許文献1,2に記載の技術が知られている。特許文献1には、液化ガスを封入したカートリッジの上端にバーナーを有する携帯コンロにおいて、バーナーの五徳上に、横風を防ぐことのできる円筒状の風防板を配設し、風防板には着脱可能に垂設されたヒート板を取り付け、ヒート板を介してバーナー側の熱をカートリッジに伝えるようにした携帯コンロ用装備具が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、低温液体ボンベ本体の高さとほぼ同一とした円筒状形の温水ジャケットによって低温液体ボンベの外周面を覆い、ヒーターが設けられた温水源からの温水を温水ジャケット内部に循環させることによって、低温液体ボンベに気化熱を供給するようにした低温液体ボンベ気化用温水ジャケットが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平5-66405号公報
【特許文献2】特開平8-338594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の装備具では、カートリッジを連結した携帯コンロに装着するだけであるため、簡単に使用できる。しかし、バーナー側の熱をカートリッジに伝えるため、加熱しすぎると暴発の恐れがある。また、特許文献2では、低温液体ボンベを覆った温水ジャケットに温水を循環させるため、温水を加熱するヒーター等の熱源が別途必要である。そのため、特許文献2に記載の装置では、キャンプや避難所等のように熱源が簡単に得られないような場所には適さない。
【0008】
そこで、本発明においては、熱源を必要とせず、簡単な構成で、液化石油ガスの気化力を維持することが可能なガス缶の気化補助器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のガス缶の気化補助器は、底部の外面側に凹部を有する金属製のガス容器に液化石油ガスが充填されたガス缶の気化補助器であって、凝固点が前記液化石油ガスの沸点よりも高い液体を入れた液槽内に前記ガス容器を保持して浸ける籠であり、液槽の底に接触したままの状態で揺動可能な籠からなる。
【0010】
本発明のガス缶の気化補助器は、籠にガス容器を保持した状態で、凝固点が液化石油ガスの沸点よりも高い液体を入れた液槽内に浸けて使用する。これにより、籠に保持されたガス容器が、この凝固点が液化石油ガスの沸点よりも高い液体と接触し、ガス容器内の液化石油ガスに、この凝固点が液化石油ガスの沸点よりも高い液体が持つ潜熱が熱伝導され、ガス容器内の液化石油ガスの沸点を下回るのを防止することができる。特に、この籠は、液槽の底に接触したままの状態で揺動可能であることにより、籠を揺動させるとガス容器の底部の外面に形成された凹部内の空気が抜け、代わりに凹部内に液体が入って満たされることで、ガス容器の底部の凹部の外面に隙間無く液体を密着させることができ、このガス容器の底部の凹部の外面からも、ガス容器内の液化石油ガスに液体が持つ潜熱が熱伝導され、ガス容器内の液化石油ガスの沸点を下回るのをさらに防止することができる。
【0011】
ここで、籠は、直立状態において液槽の底に接触する底部と、底部の両端部よりそれぞれ外側斜め上方に位置し、傾斜させた際に液槽の底に接触する第1傾斜接触部および第2傾斜接触部とを有することが望ましい。これにより、籠を液槽の底に底部を接触させた直立状態から傾斜させて第1傾斜接触部を接触させ、次に逆方向に傾斜させて底部を接触させた直立状態を経て、反対側の第2傾斜接触部を接触させ、また逆方向に傾斜させて底部を接触させた直立状態を経て、第1傾斜接触部および第2傾斜接触部を交互に液槽の底に接触させることにより液槽中で揺動させることができ、容易にガス容器の底部の凹部内の空気を抜き、代わりに液体を入れて満たすことが可能となる。
【0012】
また、液体の粘度は、100,000mPa・s以下、好ましくは1,000mPa・s、より好ましくは100mPa・s以下、さらに好ましくは10mPa・s以下であることが望ましい。これにより、液槽内の液体が持つ潜熱がガス容器内の液化石油ガスに熱伝導されて液体の温度が変化した際に液槽内で自然対流することで、液槽内の液体の温度分布を均一にすることができる。
【発明の効果】
【0013】
(1)凝固点が前記液化石油ガスの沸点よりも高い液体を入れた液槽内に前記ガス容器を保持して浸ける籠であり、液槽の底に接触したままの状態で揺動可能な籠からなるガス缶の気化補助器によれば、ガス容器の外周面だけでなくガス容器の底部の凹部の外面からガス容器内の液化石油ガスに、この凝固点が液化石油ガスの沸点よりも高い液体が持つ潜熱が熱伝導され、ガス容器内の液化石油ガスの沸点を下回るのを防止することができ、熱源を必要とせず、簡単な構成で、液化石油ガスの気化力を維持することが可能となる。
【0014】
(2)籠が、直立状態において液槽の底に接触する底部と、底部の両端部よりそれぞれ外側斜め上方に位置し、傾斜させた際に液槽の底に接触する第1傾斜接触部および第2傾斜接触部とを有することにより、籠を液槽中で容易に揺動させることができ、容易にガス容器の底部の凹部内に液体を入れて満たすことが可能となる。
【0015】
(3)液体の粘度が100,000mPa・s以下であることにより、液槽内の液体の温度分布を均一にすることができ、液槽内の液体が持つ潜熱がガス容器内の液化石油ガスに効率良く熱伝導され、ガス容器内の液化石油ガスの沸点を下回るのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態におけるガス缶の気化補助器の斜視図である。
図2図1の気化補助器を斜め下方からみた斜視図である。
図3図1の気化補助器の使用方法を示す正面図である。
図4図1の気化補助器の使用方法を示す正面図である。
図5】本発明の別の実施の形態におけるガス缶の気化補助器の斜視図である。
図6図5の気化補助器を斜め下方からみた斜視図である。
図7図5の気化補助器の使用方法を示す正面図である。
図8図5の気化補助器の使用方法を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明の実施の形態におけるガス缶の気化補助器を示す斜視図、図2図1の気化補助器を斜め下方からみた斜視図、図3および図4図1の気化補助器の使用方法を示す正面図である。
【0018】
図1および図2に示すように、本発明の実施の形態における気化補助器1は、ガス缶2を保持する籠3からなる。ガス缶2は、金属(鋼)製のガス容器20に液化石油ガス(以下、単に「ガス」と称す。)が充填されたものであり、いわゆるCB缶やOD缶として市販されているものである。なお、本実施形態においては、気化補助器1は、ガス容器20の内容量が5,000cm3以下のガス缶2に対して使用する。この種のガス缶2は、ガス缶2自身の外周部を利用して、気化に必要な熱をガス容器20が接触している空気塊から取り込む自然気化方式である。
【0019】
ガスは、ノルマルブタン(沸点-0.5℃)、イソブタン(沸点-11.7℃)やプロパン(沸点-42.1℃)等を単体または所定の比率で配合した混合ガスである。ガス容器20は、円筒状の側壁部21と、容器内側に向かって凸状の凹面22Aを有する底部22と、ガス機器(図示せず。)が取り付けられる天蓋部23とから構成される。天蓋部23には、ガス機器と接続するためのボス部24が設けられている。なお、ガス容器20の側壁部21、底部22および天蓋部23の厚みは0.2mm~3.0mmである。
【0020】
籠3は、図3に示すように、水40を入れた液槽4内にガス缶2を保持して浸けるためのものである。水40は、凝固点がガス缶2のガス容器20に充填されたガスの沸点よりも高い液体である。水40の凝固点(融点)は0℃である。
【0021】
籠3は、直立状態において液槽4の底41に接触する底部30と、底部30の両端部30A、30Bよりそれぞれ外側斜め上方に位置し、傾斜させた際に液槽4の底41に接触する第1傾斜接触部31Aおよび第2傾斜接触部31Bと、ガス缶2を保持する保持部32と、ボス部24とガス機器とを接続するガスホース5を受けるホース受け部33とを有する。籠3は、ガス缶2を保持して液槽4の水40内に浸けた際に、ガス缶2内のガスが空となっても液槽4内に沈み、底41に底部30が接触して直立するようにその重量が設定されている。
【0022】
保持部32は、直径10mm程度の直線形状の棒鋼を折り曲げたり、溶接したりして組み合わせることにより、ガス缶2を収容可能な直方体の籠状に形成したものである。保持部32の下部には、ガス缶2を載置する載置部34が設けられている。保持部32の一面には、保持部32内にガス缶2を側面からスライドして収めるために開放されたガス缶出入口35が設けられている。
【0023】
ガス缶出入口35の上下方向の中部には、保持部32に収容したガス缶2がガス缶出入口35から外に飛び出さないように、ガス缶出入口35を開閉可能な支持バー36が設けられている。支持バー36は上方向に持ち上げることで取り外し、ガス缶出入口35を開放して、ガス缶出入口35からガス缶2を出し入れすることができる。
【0024】
保持部32の上部には、ガス容器20のボス部24を挟み込んで支持する挟持部37が設けられている。ガス缶2を保持部32に収容する際には、ガス缶出入口35の支持バー36を取り外してガス缶出入口35を開放し、ガス缶2のボス部24が挟持部37内に入るように側面からスライドして挿入する。その後、支持バー36を取り付けると、ガス缶2はボス部24が挟持部37に挟持された状態で保持部32に保持される。
【0025】
底部30、第1傾斜接触部31Aおよび第2傾斜接触部31Bは、保持部32のガス缶出入口35の下部と、ガス缶出入口35と反対側の下部とにそれぞれ設けられている。底部30、第1傾斜接触部31Aおよび第2傾斜接触部31Bは、直径10mm程度の直線形状の棒鋼を底部30の端部30A,30Bの位置でそれぞれ外側斜め上方へ折り曲げることにより形成されている。
【0026】
図3に示すように、底部30の下面はガス缶2を載置する載置部34の上面と平行であり、籠3にガス缶2を保持して水40を入れた液槽4に浸けた通常状態では、籠3に保持されたガス缶2の底部22は水平に維持される。また、図3に示す状態から図4に示す状態へ、液槽4の底41に接触したままの状態で籠3を斜めに倒すと、籠3の第1傾斜接触部31Aの下面が液槽4の底41に接触し、籠3に保持されたガス缶2の底部22は斜めに維持される。なお、逆方向に倒しても同様に、籠3の第2傾斜接触部31Aの下面が液槽4の底41に接触し、籠3に保持されたガス缶2の底部22は斜めに維持される。
【0027】
ホース受け部33は、保持部32の上部に設けられている。ホース受け部33は、直径10mm程度の直線形状の棒鋼により形成されている。ホース受け部33は、ガスホース5をガス缶2に付けたままの状態でガス缶2を保持部32のガス缶出入口35から出し入れできるように、ガス缶出入口35と同じ側を開放したコ字状に形成した受け本体33Aと、受け本体33Aを保持部32上に所定の間隔を設けて支持する支持脚33Bとから構成される。
【0028】
上記構成のガス缶2の気化補助器1は、図3に示すように、籠3にガス缶2を保持した状態で、水40を入れた液槽4内に浸けて使用する。底部30の下面はガス缶2を載置する載置部34の上面と平行であり、籠3にガス缶2を保持して水40を入れた液槽4に浸けたままの状態では、籠3に保持されたガス缶2の底部22は水平に維持され、ガス容器20の底部22の凹面22Aと底部22の外側面(ガス容器20の底面)との間に形成された凹部22B内には空気が溜まった状態となる。
【0029】
この状態でガス機器を周囲温度が低温の環境で連続的に使用した場合、籠3に保持されたガス容器20が、凝固点がガスの沸点よりも高い水40と接触しているため、ガス容器20内のガスに水40が持つ潜熱が熱伝導され、ガス容器20内のガスの沸点を下回るのをある程度は防止することができる。しかし、この状態では、ガス容器20の底部22の凹部22B内に空気が溜まっているため、底部22の凹面22Aには水40が接触しておらず、水40が持つ潜熱の熱伝導が不十分となり、ガス容器20の温度が充填されたガスの沸点を下回ってガスの気化が阻害され、ガス容器20内にガスが残っているにも関わらず、燃焼が止まってしまうことがある。
【0030】
そこで、本実施形態における気化補助器1では、籠3を揺動させてガス容器20の底部22の凹部22B内を水40で満たすようにする。すなわち、この気化補助器1では、図3に示す直立状態から図4に示す傾斜状態へ、液槽4の底41に接触したままの状態で籠3を傾けると、籠3の第1傾斜接触部31Aの下面が液槽4の底41に接触し、籠3に保持されたガス缶2の底部22が斜めになるため、ガス容器20の底部22の凹部22B内の空気が抜け、凹部22B内に液槽4内の水40が浸入する。
【0031】
次に、逆方向に傾斜させて底部30を接触させた直立状態を経て、反対側の第2傾斜接触部31Bを接触させ、また逆方向に傾斜させて底部30を接触させた直立状態を経て、第1傾斜接触部31Aおよび第2接触部31Bを交互に液槽4の底41に接触させることにより液槽4中で揺動させる。すなわち、図3に示す直立状態から図4に示す傾斜状態へ傾けたり、図4に示す状態から図3に示す状態を経由して籠3を逆方向に傾けたり、再度図4に示す状態へ傾けたりを繰り返して揺動させると、凹部22B内の空気が全て抜け、凹部22B内が水40で満たされる。
【0032】
これにより、ガス容器20の底部22の凹面22Aに隙間無く水40を密着させることができる。水40は空気の20倍以上の熱伝導率を持つため、この水40の潜熱を利用して、このガス容器20の底部22の凹面22Aからも、ガス容器20内のガスに水40が持つ潜熱が熱伝導され、ガス容器20内のガスの沸点を下回るのを防止することができる。したがって、本実施形態における気化補助器1では、熱源を必要とせず、簡単な構成で、ガスの気化力を維持することができる。
【0033】
前述のように、ガス缶2は、通常、ガス容器20を空気の中に露出させてその空気から気化熱を連続的に吸収して気化力熱を得ているが、本実施形態における気化補助器1では、空気の代わりに、空気が持つ熱伝導率の20倍以上の熱伝導率を持つ水を利用することで、気化熱伝導の効率性を高めている。液体の水1gの温度が1℃下がるために放出する熱量は4.186Jであり、水の比熱は4.186J/g・Kである。また、0℃の水1gが0℃の氷1gになるために放出する熱量は、333.6J/g・Kである。沸点が-11.7℃である液化イソブタンを例に作用を説明すると、空気に比べて高い熱伝導率を持つ水がガス容器20の表面に接触している状態で、例えば液槽4内の水が10℃とすると、その液槽4内の水の水温が0℃になるまでは水1g当り4.186Jの熱量を常に放出し続ける。すなわち、沸点がガスの沸点-11.7℃より約12℃高い温度である0℃の液槽4内の水の全てが0℃の氷に変化するまでは1g当り333.6J/gの熱量が常に放出され続けるので、液化イソブタンガスの気化に必要な気化熱量を安定的にかつ連続的に供給することができる。本実施形態における気化補助器1では、この水の冷めにくく凍結しにくいという特性を利用している。
【0034】
なお、液槽4に入れる水40に代えて、他の液体を使用することも可能である。要するに、液槽4内には、凝固点がガス容器20に充填されたガスの沸点よりも高い、好ましくは10℃以上高い、より好ましくは15℃以上高い液体を充填する。液槽4内に充填する液体として、凝固点がガス容器20に充填されたガスの沸点よりも高い油を使用することも可能であるが、この場合、流動しうる最低温度である流動点がガスの沸点よりも高い油を使用することが望ましい。
【0035】
また、液槽4内に充填する液体の粘度は、0.01~100,000mPa・sとする。液体が純水の場合、粘度は0℃で約1.8mPa・sであるが、液体の粘度が100,000mPa・s以下であれば、液槽4内の液体が自然対流するので、液槽4内の液体の温度分布を均一にすることができ、液槽4内の液体が持つ潜熱がガス容器20内のガスに効率良く熱伝導され、ガス容器20内のガスの沸点を下回るのを防止することができる。
【0036】
特に、液体が水40の場合、その比重が4℃で最大となるという特性があり、液槽4内の水40の自然対流を生み出すことで水40を攪拌させることができる。液槽4内の水40に対流が起こらなければ、ガス容器20の表面の特定の部位、特に、底部22で大きな気化熱が求められるので、その部分の温度が急速に低下し、接触部分凍結が始まり、気化力低下に繋がる。一方、本実施形態における気化補助器1では、液槽4内の水40と接触している部分の水温が4℃になった場合、その比重により水40が自然に下層部に移動することになり、4℃を下回る水温になるとその水塊の比重が軽くなることで水40が上層部に移動する。この作用により液槽4の水40の攪拌が自然に行われ、全量凍結までの時間がかかることになり、結果的に長時間に亘って333.6J/gの凝固熱量を気化熱としてガス容器20に供給することができる。
【0037】
なお、本実施形態においては、籠3は、直立状態において液槽4の底41に接触する底部30と、底部30の両端部30A,30Bよりそれぞれ外側斜め上方に位置し、傾斜させた際に液槽4の底に接触する第1傾斜接触部31Aおよび第2傾斜接触部31Bとによって揺動可能としているが、底部30、第1傾斜接触部31Aおよび傾斜接触部31Bを弧状(曲線状)として、液槽4の底41に接触したままの状態で揺動可能としても良い。
【0038】
次に、本発明の別の実施形態について説明する。図5は本発明の別の実施の形態におけるガス缶の気化補助器を示す斜視図、図6図5の気化補助器を斜め下方からみた斜視図、図7および図8図5の気化補助器の使用方法を示す正面図である。前述の気化補助器1が棒鋼を組み合わせることにより籠3を形成しているのに対し、図5および図6に示す気化補助器6では主に鋼板を組み合わせることにより籠7を形成したものである。
【0039】
籠7は、直立状態において液槽4の底41に接触する底部70と、傾斜させた際に液槽4の底41に接触する第1傾斜接触部71Aおよび第2傾斜接触部71Bと、ガス缶2を保持する保持部72とを有する。籠7は、ガス缶2を保持して液槽4の水40内に浸けた際に、ガス缶2内のガスが空となっても液槽4内に沈み、底41に底部70が接触して直立するようにその重量が設定されている。
【0040】
保持部72は、厚さ3mm程度の鋼板を折り曲げたり、溶接したりして組み合わせることにより、ガス缶2を収容可能な直方体の籠状に形成したものである。保持部72の側面には液槽4内の水40が保持部72内に出入りできるように開口部72Aが適宜設けられている。保持部72の下部には、ガス缶2を載置する載置部74が設けられている。保持部72の一面には、保持部72内にガス缶2を側面からスライドして収めるために開放されたガス缶出入口75が設けられている。
【0041】
ガス缶出入口75の上下方向の中部には、保持部72に収容したガス缶2がガス缶出入口75から外に飛び出さないように、ガス缶出入口75を開閉可能な支持バー76が設けられている。支持バー76は上方向に持ち上げることで取り外し、ガス缶出入口75を開放して、ガス缶出入口75からガス缶2を出し入れすることができる。
【0042】
保持部72の上部には、ガス容器20のボス部24を挟み込んで支持する挟持部77が設けられている。挟持部77は保持部72の上面にガス缶出入口75へ向かって設けられた切欠きにより形成されている。ガス缶2を保持部72に収容する際には、ガス缶出入口75の支持バー76を取り外してガス缶出入口75を開放し、ガス缶2のボス部24が挟持部77内に入るように側面からスライドして挿入する。その後、支持バー76を取り付けると、ガス缶2はボス部24が挟持部77に挟持された状態で保持部72に保持される。
【0043】
底部70は、保持部72の底面から下方へ向けて垂直に延設された平板70A,70Bからなる。平板70A,70Bは、保持部72のガス缶出入口75が設けられている面に対して直交方向に延び、かつ所定間隔で設けられている。第1傾斜接触部71Aおよび第2傾斜接触部71Bは、この底部70の平板70A,70Bの両端部よりそれぞれ外側斜め上方に位置する保持部72の角である。
【0044】
図7に示すように、底部70の下面はガス缶2を載置する載置部74の上面と平行であり、籠7にガス缶2を保持して水40を入れた液槽4に浸けた通常状態では、籠7に保持されたガス缶2の底部22は水平に維持される。また、図7に示す状態から図8に示す状態へ、液槽4の底41に接触したままの状態で籠7を斜めに倒すと、籠7の第1傾斜接触部71Aが液槽4の底41に接触し、籠7に保持されたガス缶2の底部22は斜めに維持される。なお、逆方向に倒しても同様に、籠7の第2傾斜接触部71Aが液槽4の底41に接触し、籠7に保持されたガス缶2の底部22は斜めに維持される。
【0045】
上記構成の気化補助器6においても、図7に示す直立状態から図8に示す傾斜状態へ、液槽4の底41に接触したままの状態で籠7を傾けると、籠7の第1傾斜接触部71Aが液槽4の底41に接触し、籠7に保持されたガス缶2の底部22が斜めになるため、ガス容器20の底部22の凹部22B内の空気が抜け、凹部22B内に液槽4内の水40が浸入する。
【0046】
次に、逆方向に傾斜させて底部70を接触させた直立状態を経て、反対側の第2傾斜接触部71Bを接触させ、また逆方向に傾斜させて底部70を接触させた直立状態を経て、第1傾斜接触部71Aおよび第2接触部71Bを交互に液槽4の底41に接触させることにより液槽4中で揺動させる。すなわち、図7に示す直立状態から図8に示す傾斜状態へ傾けたり、図8に示す状態から図7に示す状態を経由して籠7を逆方向に傾けたり、再度図8に示す状態へ傾けたりを繰り返して揺動させると、凹部22B内の空気が全て抜け、凹部22B内が水40で満たされる。
【0047】
これにより、ガス容器20の底部22の凹面22Aに隙間無く水40を密着させることができる。水40は空気の20倍以上の熱伝導率を持つため、この水40の潜熱を利用して、このガス容器20の底部22の凹面22Aからも、ガス容器20内のガスに水40が持つ潜熱が熱伝導され、ガス容器20内のガスの沸点を下回るのを防止することができる。したがって、本実施形態における気化補助器6においても、熱源を必要とせず、簡単な構成で、ガスの気化力を維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、金属製のガス容器に充填された液化石油ガスの気化力を維持するガス缶の気化補助器として有用であり、特に、熱源を必要とせず、簡単な構成で、液化石油ガスの気化力を維持することが可能なガス缶の気化補助器として好適である。
【符号の説明】
【0049】
1,6 気化補助器
2 ガス缶
3,7 籠
4 液槽
5 ガスホース
20 ガス容器
21 側壁部
21A 外周面
22 底部
22A 凹面
22B 凹部
23 天蓋部
30,70 底部
31A,71A 第1傾斜接触部
31B,71B 第2傾斜接触部
32,72 保持部
33 ホース受け部
33A 受け本体
33B 支持脚
34,74 載置部
35,75 ガス缶出入口
36,76 支持バー
37,77 挟持部
40 水
41 底
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8