IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本食品化工株式会社の特許一覧

特開2024-140649新規酵素剤、酵素剤の製造方法およびコージオリゴ糖の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140649
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】新規酵素剤、酵素剤の製造方法およびコージオリゴ糖の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/12 20060101AFI20241003BHJP
   C12P 19/14 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C12N9/12 ZNA
C12P19/14 Z
C12N15/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051901
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】竹地 紀昭
(72)【発明者】
【氏名】石倉 幹大
(72)【発明者】
【氏名】高木 宏基
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AF03
4B064AF04
4B064CA21
4B064CB30
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA10
4B064DA11
4B064DA20
(57)【要約】
【課題】コージビオースホスホリラーゼ活性を有する新規酵素剤、当該酵素剤の製造方法、および当該酵素剤を用いたコージビオースの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、以下のタンパク質(1)から(3)のいずれかを有効成分として含む、脱リン酸化を伴う糖縮合反応触媒用の酵素剤が提供される。(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ脱リン酸化を伴う糖縮合反応を触媒する活性を有するタンパク質;(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1~80個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ脱リン酸化を伴う糖縮合反応を触媒する活性を有するタンパク質。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のタンパク質(1)から(3)のいずれかを有効成分として含む、脱リン酸化を伴う糖縮合反応触媒用の酵素剤。
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ脱リン酸化を伴う糖縮合反応を触媒する活性を有するタンパク質;
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1~80個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ脱リン酸化を伴う糖縮合反応を触媒する活性を有するタンパク質。
【請求項2】
脱リン酸化を伴う縮合反応がα-1,2グリコシド結合の形成反応である、請求項1に記載の酵素剤。
【請求項3】
コージオリゴ糖の製造に用いるための、請求項1に記載の酵素剤。
【請求項4】
請求項1に記載のタンパク質(1)から(3)のいずれかをコードするDNAが導入された形質転換細胞を培養する工程を含む、請求項1または2に記載の酵素剤の製造方法。
【請求項5】
糖基質に、請求項1から3のいずれか一項に記載の酵素剤を作用させてコージオリゴ糖を得る工程を含む、コージオリゴ糖の製造方法であって、
糖基質が
(i) β-グルコース-1-リン酸、並びに、
(ii) グルコース、キシロース、メチルα-D-グルコピラノシド、スクロース、マルトース、セロビオース、トレハロースおよび澱粉分解物からなる群より選択される少なくとも一つ
を含む、方法。
【請求項6】
糖質の加リン酸分解によりβ-グルコース-1-リン酸を生成させる工程をさらに含み、加リン酸分解に供される上記糖質がマルトース、トレハロースおよびコージビオースからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記加リン酸分解を、請求項1の(1)から(3)に記載のタンパク質以外のホスホリラーゼを基質糖質に作用させることにより実施する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ホスホリラーゼが、マルトースホスホリラーゼおよびトレハロースホスホリラーゼからなる群から選択される1種または2種である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項5に記載の方法を実施してコージオリゴ糖を得る工程、および食品、飼料、餌料、化粧料、または医薬品を得る工程を含む、食品、飼料、餌料、化粧料、または医薬品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱リン酸化を伴う糖縮合反応触媒用の酵素剤に関する。本発明は、前記酵素剤の製造方法に関する。また、本発明は、糖基質に、前記酵素剤を作用させてコージオリゴ糖を得る工程を含むコージオリゴ糖の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α-1,2グリコシド結合を有するオリゴ糖、特にグルコース2分子がα-1,2結合で結合したコージビオースは低う蝕性または抗う蝕性を示し、腸内ビフィズス菌増殖作用を有することが報告されている(特許文献1)。コージビオースは麹汁、酒、蜂蜜、ビールなどに微量に存在する希少糖である。
【0003】
コージビオースはコージビオースホスホリラーゼの働きにより産生することができる。微生物を利用した方法では、Leuconostoc mesenteroidesを培養して得たオリゴ糖を加酢分解してコージビオースを単離する方法が従来知られているが、この方法は非常に煩雑であった。また、酵素を利用した方法として、例えば、サーモアナエロビウム属に属する微生物由来のコージビオースホスホリラーゼを利用したコージビオースの製造方法がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2832037号
【特許文献2】特許第4171761号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コージオリゴ糖は健康食品や医薬品への利用が期待されている有用な希少糖であるが、製造コストが高いという課題がある。また、工業的に利用可能なコージビオースホスホリラーゼの種類が少なく、基質特異性や生産能についての選択肢が少ないという課題がある。これらの背景から、異種タンパク質発現系における大量生成に適した酵素についての需要があった。
【0006】
よって、本発明は、コージビオースホスホリラーゼ活性を有する新規酵素剤、当該酵素剤の製造方法、および当該酵素剤を用いたコージビオースの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、アノキシバチルス属(Anoxybacillus)微生物の遺伝子がコージビオースホスホリラーゼ活性を有するタンパク質をコードしており、異種タンパク質発現に適していることを見出し、さらに研究を進めることで本発明を完成するに至った。本発明はこの知見に基づくものである。
【0008】
本発明によれば以下の発明が提供される。
<1> 以下のタンパク質(1)から(3)のいずれかを有効成分として含む、脱リン酸化を伴う糖縮合反応触媒用の酵素剤。
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ脱リン酸化を伴う糖縮合反応を触媒する活性を有するタンパク質;
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1~80個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ脱リン酸化を伴う糖縮合反応を触媒する活性を有するタンパク質。
<2> 脱リン酸化を伴う縮合反応がα-1,2グリコシド結合の形成反応である、<1>に記載の酵素剤。
<3> コージオリゴ糖の製造に用いるための、<1>または<2>に記載の酵素剤。
<4> <1>に記載のタンパク質(1)から(3)のいずれかをコードするDNAが導入された形質転換細胞を培養する工程を含む、<1>から<3>のいずれか一に記載の酵素剤の製造方法。
<5> 糖基質に、<1>から<3>のいずれか一に記載の酵素剤を作用させてコージオリゴ糖を得る工程を含む、コージオリゴ糖の製造方法であって、
糖基質が
(i) β-グルコース-1-リン酸、並びに、
(ii) グルコース、キシロース、メチルα-D-グルコピラノシド、スクロース、マルトース、セロビオース、トレハロースおよび澱粉分解物からなる群より選択される少なくとも一つ
を含む、方法。
<6> 糖質の加リン酸分解によりβ-グルコース-1-リン酸を生成させる工程をさらに含み、加リン酸分解に供される上記糖質がマルトース、トレハロースおよびコージビオースからなる群より選択される少なくとも一つである、<5>に記載の製造方法。
<7> 前記加リン酸分解を、<1>の(1)から(3)に記載のタンパク質以外のホスホリラーゼを基質糖質に作用させることにより実施する、<6>に記載の製造方法。
<8> 前記ホスホリラーゼが、マルトースホスホリラーゼおよびトレハロースホスホリラーゼからなる群から選択される1種または2種である、<7>に記載の製造方法。
<9> <5>に記載の方法を実施してコージオリゴ糖を得る工程、および食品、飼料、餌料、化粧料、または医薬品を得る工程を含む、食品、飼料、餌料、化粧料、または医薬品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コージオリゴ糖の製造に用いることができる新規酵素剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A図1Aは、アノキシバチルス・フラビサーマス(Anoxybacillus flavithermus)のゲノム情報から取得した機能未確認タンパク質のアミノ酸配列である。
図1B図1Bは、アノキシバチルス・フラビサーマス由来の機能未確認タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列(配列番号2)である。
図1C図1Cは、アノキシバチルス・フラビサーマス由来の機能未確認タンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)から最初のメチオニンを削り、Hisタグを付加したアミノ酸配列である。
図1D図1Dに示す配列番号4に記載の塩基配列は、配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列の5′末端および3′末端に発現ベクター連結用の配列(下線部)を含む。
図1E図1Eは、パエニバチルス属の種(Paenibacillus sp.) SH-55由来のマルトースホスホリラーゼのアミノ酸配列である。
図1F図1Fは、パエニバチルス属の種(Paenibacillus sp.) SH-55由来のマルトースホスホリラーゼをコードする塩基配列である。
図2図2は、実施例2の加リン酸分解試験の結果を示すグラフである。
図3図3は、実施例3の脱リン酸反応試験の結果を示すグラフである。
図4-1】図4は、β-グルコース-1-リン酸とグルコースを原料とした、アノキシバチルスKPによるオリゴ糖の合成の結果である。図4-1は、反応開始前のクロマトグラムである。
図4-2】図4-2は、反応開始15時間後のクロマトグラムである。
図4-3】図4-3は、反応開始40時間後のクロマトグラムである。
図4-4】図4-4は、反応開始82時間後のクロマトグラムである。
図5図5は、反応開始前と反応開始82時間後の糖組成を比較したグラフである。
図6図6は、マルトースを原料とし、アノキシバチルスKPとマルトースホスホリラーゼを併用したオリゴ糖の合成の結果である。
図7図7は、マルトースとキシロースを原料とし、アノキシバチルスKPとマルトースホスホリラーゼを併用したオリゴ糖の合成の結果である。
図8図8は、マルトースとスクロースを原料とし、アノキシバチルスKPとマルトースホスホリラーゼを併用したオリゴ糖の合成の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に記載する本発明の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書について、糖質の記載は特に明記しない場合はD体を表す。また、「~」を用いて表される数値範囲は「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。本明細書では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。
【0012】
本発明の酵素による反応液(反応生成物)の糖組成(%)は、HPLCで検出されたピークの総面積を100とした場合の、各糖類に対応するピークの面積比率(%)として算出したものである。
【0013】
本明細書中「糖縮合反応」または「縮合反応」は、簡単な構造の分子(例えば水やリン酸)が脱離して複数の分子が結びつく反応を指し、特に2つの糖分子からリン酸(H3PO4)が脱離して1つの糖分子ができる反応を指す。
【0014】
本明細書中、「オリゴ糖」は、単糖分子が2~10個結合した糖質を意味し、「多糖類」は、単糖分子が多数個、具体的には10個より多く重合した糖質を意味する。
【0015】
本明細書において「コージオリゴ糖」は、少なくとも一つのα-1,2グリコシド結合を有するオリゴ糖を指し、主にグルコースがα-1,2結合で結合した糖質であるが、α-1,2結合のほかに、α-1,4結合など他のグリコシド結合や構成糖としてグルコース以外の糖を含む糖質も含む用語として使用する。本明細書中「コージオリゴ糖」は、コージビオース、コージトリオース、コージテトラオース、コージペンタオース、コージヘキサオース、コージヘプタオース、コージオクタオース、α-1,2結合で結合したグルコシルキシロース、コージビオシルグルコース(Glc(α1-2)Glc(α1-4)Glc)、コージビオシルフラクトシド(Glc(α1-2)Glc(α1-2β)Fru)などを含む。
【0016】
(酵素剤)
本発明は、以下のタンパク質(1)から(3)のいずれかを有効成分として含む、脱リン酸化を伴う糖縮合反応触媒用の酵素剤を提供する。
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ脱リン酸化を伴う糖縮合反応を触媒する活性を有するタンパク質;
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1~80個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ脱リン酸化を伴う糖縮合反応を触媒する活性を有するタンパク質。
本発明の一実施態様では、脱リン酸化を伴う縮合反応が、α-1,2グリコシド結合の形成反応である。
なお、本明細書中において、上記タンパク質(1)から(3)を、本発明の酵素剤に含まれるタンパク質、または本発明のタンパク質と記載する場合がある。
【0017】
配列番号1に記載のアミノ酸配列は、アノキシバチルス・フラビサーマス(Anoxybacillus flavithermus)のゲノム情報から取得したアミノ酸配列(GENBANK:ACJ34384.1)である。ここで、配列番号1に記載のアミノ酸配列は、糖ヒドロラーゼ/ホスホリラーゼとアノテーションされているものの、タンパク質として発現させた場合の具体的性質は、本願出願時において知られていなかった。
【0018】
本発明者らは、アノキシバチルス・フラビサーマス由来の上記タンパク質を、枯草菌を宿主とする異種発現系において発現させ、その酵素活性を解析したところ、当該タンパク質は、ドナー基質として、少なくともβ-グルコース-1-リン酸を認識し、アクセプター基質として、少なくともグルコース、キシロース、メチルα-D-グルコピラノシド、スクロース、マルトース、セロビオースおよびトレハロースを認識し、リン酸を脱離して、コージオリゴ糖を生成することを発見した。すなわち、本発明者らは、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質が、脱リン酸化を伴う糖縮合反応を触媒する活性を有することを見出した。タンパク質が脱リン酸化を伴う糖縮合反応を触媒する活性を有することは、被験タンパク質を基質であるβ-グルコース-1-リン酸およびグルコースに作用させ、二糖やリン酸の生成を検出することにより判定することができる。
【0019】
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質による触媒反応は可逆的であり、例えばグルコースとβ-グルコース-1-リン酸の脱リン酸反応を触媒してコージビオースを生成することができ、さらにその逆方向に進む反応で、コージビオースの加リン酸分解反応を触媒してグルコースとβ-グルコース-1-リン酸を生成することができる。従って、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質は、コージビオースホスホリラーゼ(EC 2.4.1.230)活性を有するといえる。以下、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質を、「アノキシバチルスKP」と記載することがある。アノキシバチルスKPは、脱リン酸化を伴う糖縮合反応の際、グルコースと炭素2-4位の水酸基の向きが同じ単糖をアクセプター基質として認識し、二糖以上については立体構造によるが、基本的には、β-グルコース-1-リン酸が結合する箇所がグルコースである場合にアクセプター基質として認識すると考えられる。
【0020】
「コージビオースホスホリラーゼ活性」は、リン酸の存在下、コージビオースを加リン酸分解し、β-グルコース-1-リン酸とグルコースを生成する酵素活性である。この加リン酸分解反応の逆反応(糖転移反応、合成反応)では、β-グルコース-1-リン酸と、グルコースおよび/またはその他糖質とを基質として、コージオリゴ糖を生成することができる。なお、ホスホリラーゼ活性を有するタンパク質は、一般的に加リン酸分解反応と共に逆反応を触媒することが知られている。後記する実施例では、アノキシバチルスKPが加リン酸分解反応と脱リン酸化を伴う糖縮合反応を触媒することを確認している。
【0021】
「コージビオースホスホリラーゼ活性を有するタンパク質」であるか否かは、例えば、被験タンパク質を基質であるβ-グルコース-1-リン酸およびグルコースに作用させ、α-1,2グリコシド結合により結合した二糖や無機リン酸が生成するか否かにより判定することができる。すなわち、加リン酸分解の逆反応(脱リン酸化を伴う糖縮合反応)を触媒する活性を有するタンパク質であるか否かにより、「コージビオースホスホリラーゼ活性を有するタンパク質」であるか否かを判定することができる。α-1,2グリコシド結合により結合した糖の生成の程度は、例えば、無機リン酸量や重合糖を定量することにより測定することができる。
【0022】
アノキシバチルスKPのアミノ酸配列(配列番号1)は、既知のコージビオースホスホリラーゼ(以下、KPと記載する場合がある)であるサーモアナエロビウム・ブロッキイ由来KP(特許第4171761号)に対して30.3%一次アミノ酸配列同一性を有している(同一性はClustalW(Larkin M.A.et al.,2007,Bioinformatics,23:2947-2948)を用いて評価した)。従来のKPと比較してアミノ酸配列の同一性が低いため、本発明のアノキシバチルス由来の酵素がコージビオースホスホリラーゼ活性を有する確証は無く、ましてや産業上利用可能な諸性質(耐熱性や酵素活性を有するpH域等)を持つことは全く予想できなかった。本発明のアノキシバチルス由来の酵素の機能未確認のタンパク質をコードする遺伝子をクローニングして組換えタンパク質を得た結果、高いコージビオースホスホリラーゼ活性を有し、枯草菌による発現系においても良好にタンパク質が得られることが確認され、産業上非常に有用な酵素であることが見出された。特に、後記する実施例に記載された、枯草菌を宿主とした異種タンパク質発現では、酵素は菌体外に分泌されるため、精製の必要がないか、または簡単な手順で単離精製することができる。KPは基本的に菌体内酵素であるため、枯草菌発現系の場合でも菌体内に発現する。後記する実施例で使用している枯草菌発現ベクターにはタンパク質を菌体外に発現させるためのシグナルペプチド配列が含まれており、その配列をKPと連結させることで良好に菌体外に発現させることができる。また、菌体外発現用シグナルペプチド配列を有するものであれば、必ず菌体外発現するというものではないため、本発明のアノキシバチルスKPとの相性が良く菌体外への発現が良好であったと考えられる。枯草菌での異種タンパク質発現に適したアノキシバチルスKPはこの点においても有用であるといえる。
【0023】
本発明の酵素アノキシバチルスKPは、pH5~9の範囲、好ましくはpH5.5~7.5の範囲で上述の加リン酸分解および/または脱リン酸反応の活性を示す。
【0024】
本発明の酵素アノキシバチルスKPは、25~65℃の範囲、好ましくは50~60℃の範囲で上述の加リン酸分解および/または脱リン酸反応の活性を示す。アノキシバチルスKPは耐熱性を有し、幅広い温度域で安定的に使用できる。正確な温度管理が難しい工業的規模での利用にも適している。後記する実施例では、本発明の酵素アノキシバチルスKPが58℃のアッセイにおいてコージオリゴ糖を成功裏に合成することが示されている。
【0025】
本発明の酵素剤に含まれるタンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して、90%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ脱リン酸化を伴う糖縮合反応を触媒する活性を有するタンパク質であってもよい。一実施態様では、本発明の酵素剤に含まれるタンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ脱リン酸化を伴う糖縮合反応を触媒する活性を有するタンパク質であってもよい。
【0026】
アミノ酸配列同一性は、比較する2本のアミノ酸配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならばギャップを導入した後、2本のアミノ酸配列間で同一であるアミノ酸残基のパーセントとして定義される。アミノ酸配列同一性は、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、MEGAまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することにより決定することができる。
【0027】
さらには、本発明の酵素剤に含まれるタンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1~80個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質からなり、かつ脱リン酸化を伴う糖縮合反応を触媒する活性を有するタンパク質であってもよい。「配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1~80個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加された」とは、配列番号1に記載のアミノ酸配列が置換、挿入、欠失および/または付加により変異されたことを意味する。前記置換などにより変異されるアミノ酸の個数は、例えば、1~80個、1~70個、1~60個、1~50個、1~40個、1~30個、1~20個、1~10個、1~5個、または1~3個程度であり得る。前記アミノ酸配列において、前記変異は連続して生じてもよいし、不連続に生じてもよい。アミノ酸の挿入としては、例えば、アミノ酸配列の内部への挿入が挙げられる。さらに、アミノ酸の付加は、例えば、アミノ酸配列のN末端もしくはC末端への付加であっても、N末端およびC末端の両末端への付加であってもよい。アミノ酸の置換は、保存的置換であってもよい。「保存的置換」は、タンパク質の機能を実質的に変えないように、1個または複数個のアミノ酸を、別のアミノ酸および/またはアミノ酸誘導体に置換することを意味する。保存的置換において、置換されるアミノ酸と置換後のアミノ酸とは、例えば、性質および/または機能が類似していることが好ましい。具体的には、疎水性および親水性の指標、極性、電荷などの化学的性質、あるいは二次構造などの物理的性質が類似していることが好ましい。性質および/または機能が類似するアミノ酸またはアミノ酸誘導体は、当該技術分野において公知である。例えば、非極性アミノ酸(疎水性アミノ酸)としては、例えば、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性アミノ酸(中性アミノ酸)は、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷を有するアミノ酸(塩基性アミノ)酸は、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられ、負電荷を有するアミノ酸(酸性アミノ酸)は、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
【0028】
本発明の酵素剤は、コージオリゴ糖の製造に用いることができる。コージビオースをはじめとするコージオリゴ糖の工業的規模での製造は従来酵素の活性や合成効率が十分ではない点から制限があった。本発明の酵素剤は、異種発現系により酵素を高発現させて用いることができるので、工業的規模での使用に適している。
【0029】
本発明の酵素剤は、有効成分である上記(1)から(3)のタンパク質そのものでもよい。本発明の酵素剤は、上記タンパク質(1)から(3)のいずれかを有効成分として含む酵素組成物であってもよく、脱リン酸化を伴う糖縮合反応を阻害しないものであれば、さらなる成分を含むことができる。これらは、例えば、緩衝液、安定化剤、賦形剤など、通常の酵素製剤に用いる成分であってもよい。このようなさらなる成分は、先行技術より公知であり、また当業者によく知られている。また、本発明の酵素剤は、その形状も特に制限は無く、固体(たとえば、粉末状)や液体であり得る。本発明の酵素剤は、例えば、固体や液体のものを、糖基質の溶液に添加することにより使用することができる。
【0030】
本発明の酵素剤は、例えば、本発明のタンパク質が固定化担体に固定された酵素剤として提供することができる。固定化された酵素剤とすることで、例えば、高基質濃度および高温において、コージオリゴ糖の製造を行うことができ、また、バイオリアクター方式によるコージオリゴ糖の製造を行うこともできる。
【0031】
上記固定化担体は、特に制限されず、例えば、有効成分であるタンパク質が吸着または架橋結合され、タンパク質の活性が保持されるものであれば使用できる。
【0032】
上記固定化担体は、例えば、陰イオン交換担体、陽イオン交換担体、疎水性担体等が挙げられる。上記固定化担体の具体例は、例えば、イオン交換ゲルである。上記イオン交換ゲルは、例えば、ダイヤイオン(登録商標)SK1B、ダイヤイオン(登録商標)PK212、ダイヤイオン(登録商標)HPA25、ダイヤイオン(登録商標)UBK555等のダイヤイオン(登録商標)シリーズ(三菱ケミカル社製);セパビーズ(登録商標)SP-207、セパビーズ(登録商標)SP-850等のセパビーズ(登録商標)シリーズ(三菱ケミカル社製);デュオライトA568、デュオライトPWA7、デュオライトXAD761等のデュオライトシリーズ(住化ケムテックス社製)等が挙げられる。
【0033】
(本発明酵素剤の製造方法)
【0034】
本発明の酵素剤に含まれるタンパク質は野生株より精製してもよいし、遺伝子組換え技術により作製した組換えタンパク質であってもよい。
【0035】
一実施形態では、本発明は、以下のタンパク質(1)から(3)のいずれかをコードするDNAが導入された形質転換細胞を培養する工程を含む、酵素剤の製造方法に関する。
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して90%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ脱リン酸化を伴う糖縮合反応を触媒する活性を有するタンパク質;
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1~80個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ脱リン酸化を伴う糖縮合反応を触媒する活性を有するタンパク質。
【0036】
上記タンパク質をコードするDNAは、宿主での発現を最適化するように使用コドンを選択することができる。宿主が使用するコドンの情報は、Codon Usage Database(www.kazusa.or.jp/codon/)から入手可能である。宿主用コドンの選択は、枯草菌のコドン頻度(https://www.kazusa.or.jp/codon/cgi-bin/showcodon.cgi?species=1423)あるいは大腸菌のコドン頻度(http://www.kazusa.or.jp/codon/cgi-bin/showcodon.cgi?species=37762)などを参考に実施することができる。
【0037】
上記タンパク質をコードするDNAは、例えば配列番号2に記載の塩基配列を含むDNAである。配列番号2に記載の塩基配列は、アノキシバチルス・フラビサーマス(Anoxybacillus flavithermus)のゲノム情報から取得したアミノ酸配列(GENBANK:ACJ34384.1)をコードする塩基配列である。配列番号2に記載の塩基配列は、枯草菌での良好な発現を企図して、コドン最適化が行われている。
【0038】
本発明の一実施形態では、上記タンパク質をコードするDNAの5′末端および3′末端に発現ベクター連結用の配列を付加することができる。
【0039】
本発明のタンパク質をコードするDNAを発現ベクターに作動可能に挿入し、その発現ベクターで宿主細胞を形質転換して、本発明のタンパク質をコードするDNAが導入された形質転換細胞を得ることができる。本発明におけるDNA分子の作製は、Molecular Cloning : A Laboratory Manual 2nd Ed (Sambrook, J., Fritsch, E. R., & Maniatis, T., Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989))に記載の方法に準じて行なうことができる。
【0040】
本発明において利用できるベクターは、使用する宿主細胞の種類を勘案しながら、ウイルス、プラスミド、コスミドベクターなどから適宜選択できる。例えば、宿主細胞が枯草菌の場合はpJEXOPT2系(特許5126879号を参照)、pHT系のプラスミド、大腸菌の場合はλファージ系のバクテリオファージ、pET系、pUC系、pCold系、pGEX系のプラスミド、酵母の場合はYEp、YCp系、YIp系のベクター、あるいはpLeu4、pPPLeu4、pJPLeu4系(特開平4-218382号公報に記載)などが挙げられるが、これらに限定されない。このプラスミドは形質転換体を選択するためのマーカーを含んでいてもよく、該選択マーカーとしては薬剤耐性マーカーや栄養要求マーカー遺伝子を使用することができるが、これらに限定されない。
【0041】
さらに、本発明で利用できる発現ベクターは、酵素遺伝子の発現に必要なDNA配列、例えばプロモーター、ターミネーター、リボゾーム結合部位、転写終結シグナルなどの転写調節信号、翻訳調節信号などを有することができる。該プロモーターとしては、枯草菌においてはズブチリシン、SPAC等のプロモーター、酵母ではアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)、酸性フォスファターゼ(PHO)、ガラクトース遺伝子(GAL)、グリセルアルデビド3リン酸脱水素酵素遺伝子(GAP)等のプロモーターを用いることができるが、これらに限定されない。シグナルペプチドの付与は、目的酵素が培養上清中に分泌され、精製が容易になるという利点があるので使用することが好ましい。また、シグナルペプチドを枯草菌や酵母由来のもの(例えば、インベルターゼシグナル、酸性フォスファターゼシグナル、λ-ファクターシグナルなど)に置き換えることができる。また、大腸菌においては、一般に慣用されるlacプロモーターやT7プロモーターのほかに、cspAプロモーター等を用いて分子シャペロンを同時に発現させるなど、発現をより効率化する工夫を行うことができる。DNAはエレクトロポレーション法、リポフェクション法などによりベクターを使用せずに宿主細胞に導入することもできる。
【0042】
形質転換細胞の培養は、使用する宿主細胞に関して一般的な方法を用いることができる。通常は、1~4日程度の培養により細胞内または細胞外の培養物中に酵素が生成され蓄積される。培養条件(培地、pH、温度等)に関しては、例えば、細菌では25~37℃、酵母では25~30℃、真核細胞では37℃程度が一般的である。培養条件については、遺伝子発現実験マニュアル(講談社)等を参照することができる。
【0043】
宿主細胞としては、大腸菌、枯草菌等の細菌、カンディダ・ウチリス(Candida utilis)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccaromyces cerevisiae)、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)等の酵母、リゾープス・ニベウス(Rhizopus niveus)、リゾープス・デルマー(Rhizopus delemar)、および高等真核生物(例えばCHO細胞など)を用いることができる。枯草菌としてはバチルス(Bacillus)属に属する微生物を用いることが好ましい。バチルス属にはタンパク質を菌体外へ分泌する株(例えば、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)など)が存在することが知られている。またプロテアーゼを殆ど分泌しない株も知られており、このような株を宿主として用いることも好ましい。本発明においては、宿主細胞として酵母、糸状菌または細菌が好ましいが、細菌がより好ましく、特に大腸菌やバチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)が好ましい。
【0044】
本発明の一実施形態において、酵素剤の製造方法は、形質転換細胞が産生したタンパク質の単離および/または精製する工程をさらに含む。
形質転換細胞が産生したタンパク質の単離・精製は、公知の分離方法や精製方法を適当に組み合わせて行なうことができる。これらの分離・精製方法としては例えば塩沈殿、溶媒沈殿のような溶解性の差を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過およびSDS-ポリアクリル電気泳動のような分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーのような電荷の差を利用する方法、疎水クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーのような疎水性の差を利用する方法、さらに等電点電気泳動のような等電点の差を利用する方法、このほかにアフィニティークロマトグラフィー等が挙げられる。実施例に記載した精製方法のほかに、一般的な分離・精製法に関しては、例えば蛋白質・酵素の基礎実験法(南江堂)等を参照することができる。
【0045】
(コージオリゴ糖の製造方法)
本発明は、糖基質に、上記酵素剤を作用させてコージオリゴ糖を得る工程を含む、コージオリゴ糖の製造方法であって、
糖基質が
(i) β-グルコース-1-リン酸、並びに、
(ii) グルコース、キシロース、メチルα-D-グルコピラノシド、スクロース、マルトース、セロビオース、トレハロースおよび澱粉分解物からなる群より選択される少なくとも一つ
を含む、方法を提供する。
【0046】
本発明においては、例えば、10mM~1M β-グルコース-1-リン酸および10mM~1M グルコースを含む反応水溶液(pH5~9)を作製し、反応溶液に対し終濃度が基質固形分1g当たり0.1~50Uの本発明の酵素剤を添加し、25~65℃で1~100時間保持することでコージオリゴ糖を生成することができる。
【0047】
本発明のコージオリゴ糖の製造方法においては、本発明の酵素剤をβ-グルコース-1-リン酸とグルコースおよび/またはその他糖質とを含む糖質水溶液に作用させてもよい。該糖質水溶液はグルコース以外の糖質を含んでいてもよく、例えば、キシロース、メチルα-D-グルコピラノシド、スクロース、マルトース、セロビオース、トレハロースおよび澱粉分解物からなる群より選択される少なくとも一つを含んでいてもよい。澱粉分解物は、例えば一般的な澱粉(例えば、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉等)を酸又は酵素(例えば、α-アミラーゼ等)を用いて処理した液化液であってもよい。澱粉分解物はオリゴ糖を含むことが好ましい。また、後述する本発明の酵素剤以外のホスホリラーゼの基質であるマルトース、トレハロース、コージビオースなどの糖質を含んでいてもよい。
【0048】
一実施形態では、本発明のコージオリゴ糖の製造方法は、糖質の加リン酸分解によりβ-グルコース-1-リン酸を生成させる工程をさらに含み、加リン酸分解に供される上記糖質がマルトース、トレハロースおよびコージビオースからなる群より選択される少なくとも一つである。
【0049】
一実施形態では、本発明のコージオリゴ糖の製造方法は、本発明の酵素剤以外(コージビオースホスホリラーゼ以外)のホスホリラーゼを基質糖質に作用させることにより実施することができる。特定の実施形態では、本発明の酵素剤以外(コージビオースホスホリラーゼ以外)のホスホリラーゼが、マルトースホスホリラーゼ(EC 2.4.1.8)およびトレハロースホスホリラーゼ(EC 2.4.1.231)からなる群から選択される1種または2種である。
【0050】
本発明のコージオリゴ糖の製造方法においては、糖質の加リン酸分解によりβ-グルコース-1-リン酸を生成させる工程をさらに含んでいてもよい。上記加リン酸分解反応は、本発明の酵素剤以外のホスホリラーゼにより実施することができる。本発明のコージオリゴ糖の製造方法において、本発明の酵素剤に加えて本発明の酵素剤以外のホスホリラーゼを使用した場合、本発明の酵素剤以外のホスホリラーゼの加リン酸分解反応によりβ-グルコース-1-リン酸が供給され、生成したβ-グルコース-1-リン酸と、グルコース(あるいは、当該反応中に生成したコージオリゴ糖)に対して本発明の酵素剤が作用して、コージオリゴ糖を製造することができる。この態様では、原料としてβ-グルコース-1-リン酸を添加することなく、反応系においてβ-グルコース-1-リン酸を供給しつつコージオリゴ糖を製造することができる点で有利である。
【0051】
上記加リン酸分解反応を触媒するホスホリラーゼとしては、例えば、マルトースを基質とするマルトースホスホリラーゼ、トレハロースを基質とするトレハロースホスホリラーゼが挙げられ、ホスホリラーゼ活性を有する酵素製剤を用いることができ、市販の酵素製剤も用いることができる。酵素製剤としては、特に制限ないが、例えばパエニバチルス属の種(Paenibacillus sp.) SH-55由来の酵素(特許5345766号)を用いることができる。この酵素は耐熱性マルトースホスホリラーゼであるので、同様に耐熱性である本発明の酵素剤とともに、高温(例えば58℃)での反応に用いることができる。また、上記ホスホリラーゼの基質として用いられるマルトース、トレハロースなどの糖質についても特に制限はなく、純品や各種混合物を用いることができる。β-グルコース-1-リン酸の入手性やコストを考慮すると、安価で安定かつ大量に入手可能なβ-グルコース-1-リン酸供給用基質およびグルコースや澱粉分解物といった糖質を原料としてコージオリゴ糖を製造する本発明の製造方法は、工業生産上大きなメリットを有するといえる。
【0052】
本発明の酵素剤とマルトースホスホリラーゼを併用する場合の製造条件は使用する酵素の性質などに基づいて適宜調整することができる。例えば、マルトース0.01~1Mおよびリン酸二水素カリウムなどのリン酸塩0.5~50mMを含む反応水溶液(pH5~9)を作製し、マルトース1g当たり0.1~50U(終濃度)の本発明の酵素剤およびマルトース1g当たり0.1~50U(終濃度)のマルトースホスホリラーゼを添加し、25~65℃で1~100時間保持することでコージオリゴ糖を製造することができる。所望のコージオリゴ糖(コージオリゴ糖含有組成物)が得られた後、必要に応じて酵素を失活させ、更に常法により濾過、脱色、脱臭、脱塩などの精製処理や濃縮処理を行うことができる。得られたコージオリゴ糖は、前記と同様の処理を行うことができる。
【0053】
本発明においては、所望のコージオリゴ糖が得られた後、必要に応じて酵素の失活処理、濾過・脱色・脱臭・脱塩などの精製処理および/または濃縮処理を行うことができる。これらの処理は常法に従って実施することができる。得られたコージオリゴ糖は、適宜濃縮して液状品としてもよく、噴霧乾燥などにより粉末品としてもよい。さらに、膜分画・樹脂分画などの分画処理や微生物による資化処理などによって残存した原料・副産物を除去したり特定重合度のものを分取したりしてもよい。
【0054】
本発明は、上記コージオリゴ糖の製造方法を実施してコージオリゴ糖を得る工程、および食品、飼料、餌料、化粧料、または医薬品を得る工程を含む、食品、飼料、餌料、化粧料、または医薬品の製造方法を提供する。
【0055】
コージオリゴ糖の製造方法を実施して得られたコージオリゴ糖を用いて食品、飼料、餌料、化粧料、または医薬品を得る工程では、コージオリゴ糖を原料の一つとして、食品、飼料、餌料、化粧料、または医薬品を製造すること、またはコージオリゴ糖そのものを適当な形態(粉末、液体など)に調製し、食品、飼料、餌料、化粧料、または医薬品として提供することができる。
【0056】
本発明の方法で製造される食品の例には、限定されるものではないが、各種炭水化物類(パン、麺、米飯、もち)、各種和菓子類(せんべい、あられ、おこし、求肥、もち類、まんじゅう、どら焼き、ういろう、餡類、羊羹、水羊羹、錦玉、カステラ、飴玉)、各種洋菓子類(パン、ビスケット、クラッカー、クッキー、パイ、ドーナツ、蒸しケーキ、プリン、ゼリー、ムース、ババロア、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、ヌガー、キャンディー、シロップ類)、各種氷菓(アイスクリーム、シャーベット、ジェラート、かき氷)、各種ペースト状食品(フラワーペースト、ピーナッツペースト、マーガリン、フルーツペースト)、各種飲料(果汁含有飲料、果汁ジュース、野菜ジュース、サイダー、ジンジャーエール、アイソトニック飲料、アミノ酸飲料、ゼリー飲料、コーヒー飲料、緑茶、紅茶、ウーロン茶、麦茶、乳飲料、乳酸菌飲料、ココア、ビール、発泡酒、第三のビール、ノンアルコール飲料、ビール風味飲料、リキュール、チューハイ、清酒、果実酒、蒸留酒、栄養ドリンク、健康飲料、粉末飲料)、各種調味料(醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、ふりかけ、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、麺つゆ、ソース、ケチャップ、たくあん漬の素、白菜漬の素、焼肉のタレ、カレールウ、シチューの素、スープの素、ダシの素、複合調味料、みりん、新みりん)、果物・野菜加工品(ジャム、マーマレード、シロップ漬、糖果、漬物)、各種乳製品(チーズ、ヨーグルト、バター、練乳、粉乳)、粉末食品(粉末スープ、粉末ムース、粉末ゼリー、粉末甘味料)、栄養食、ダイエット食、スポーツ用栄養食、流動食、半固形流動食、介護食、嚥下食等が挙げられる。
【0057】
本発明の方法で製造される飼料および餌料の例には、限定されるものではないが、家畜、家禽、魚介類、昆虫(ミツバチ、蚕など)用飼料および餌料を挙げることができる。その形態としては、粉体、ペレット、錠剤、練り餌、カプセルなどである。
【0058】
本発明の方法で製造される化粧料の例には、限定されるものではないが、保湿剤および美容剤などを挙げることができる。それらの形態としては、乳液、化粧水、クリームおよびエマルジョンなどである。
【0059】
本発明の方法で製造される医薬品の例には、限定されるものではないが、例えば抗肥満剤、血糖値上昇抑制剤、整腸剤などを挙げることができ、それらの形態としては、錠剤、粉剤、液剤、カプセル剤などである。
【実施例0060】
以下の例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0061】
略号の説明
β-G1P: β-グルコース-1-リン酸
Glc: グルコース
Tre: トレハロース
Koj: コージビオース
Nig: ニゲロース
Mal: マルトース
Glc: グルコース
αMDG: メチルα-D-グルコピラノシド
Xyl: キシロース
Ara: アラビノース
Cel: セロビオース
Suc: スクロース
グルコース、キシロース、フルクトースはD体を使用し、アラビノースはL体を使用した。
【0062】
実施例1:酵素の準備
従来知られているホスホリラーゼの配列を基に相同性検索を行った。相同性検索により得られた多数について機能スクリーニングを行い、コージビオースホスホリラーゼ活性を有する可能性がある遺伝子を9つ選び、遺伝子組換えにより枯草菌を宿主とする異種タンパク質発現系で発現させた。9つのうち、コージビオースホスホリラーゼ活性を有していたものは4つであった。4つのタンパク質についてコージビオースホスホリラーゼ活性の発現条件を解析し、アノキシバチルス・フラビサーマス(Anoxybacillus flavithermus)由来タンパク質(GENBANK:ACJ34384.1)を選抜した。このタンパク質は、解析した4つの中でも、枯草菌宿主での発現が高く、コージビオースホスホリラーゼ活性の発現が良好であり、かつ活性発現の温度条件が比較的高温であり(例えば、50℃)、pH条件が中性である点が優れている。
【0063】
1.コージビオースホスホリラーゼ活性を有する酵素
本実施例では、アノキシバチルス・フラビサーマス(Anoxybacillus flavithermus)から糖ヒドロラーゼ/ホスホリラーゼと推定される機能未確認のタンパク質(GENBANK:ACJ34384.1)をコードする遺伝子をクローニングして組換えタンパク質を得た。
このアミノ酸配列(配列番号1)およびアミノ酸配列をコードする遺伝子(以下、目的遺伝子1)から開始コドンを除いた塩基配列(配列番号2)を図1に示す。配列番号3は、配列番号1のアミノ酸配列から開始コドンと推定されるメチオニン残基を削り、さらにHisタグを付加した配列である。配列番号4に記載の塩基配列は、配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列の5′末端および3′末端に発現ベクター連結用の配列を含む。配列番号2に記載の塩基配列は、枯草菌での良好な発現を企図して、コドン最適化が行われている。
【0064】
目的遺伝子1を枯草菌(Bacillus subtilis)で発現させるための発現プラスミドを構築した。まず、pUC57ベクターに配列番号4に記載の塩基配列を有するDNAが挿入されたプラスミドを鋳型として、プライマー1(5′-ACTGCCACTGCTCTTGGATC-3′(配列番号5))および、プライマー2(5′-GGTAAGTGCAAAGTTGAAGC-3′(配列番号6))を用いて目的遺伝子をPCR増幅した。
【0065】
PCR増幅用の反応液の組成を以下に示す。
2×Primestar Max Premix(タカラバイオ) 25μL
50μM センス鎖増幅プライマー1 0.15μL
50μM アンチセンス鎖増幅プライマー2 0.15μL
40ng/μL テンプレート 0.5μL
2O 24.2μL
【0066】
PCR増幅反応のプログラムは、まず、96℃に2分間保持した後、98℃で10秒間→55℃で5秒間→72℃で20秒間を1サイクルとして30サイクル行った後にさらに72℃で5分間保持した。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動し、増幅断片(2466bp)に相当するバンドをゲルから切り出し、illustraTM GFXTM PCR DNA and Gel Band Purification Kit (Cytiva)を用いて抽出し精製した。
【0067】
In-Fusion(登録商標)クローニング反応で用いる線状化プラスミドの作製のため、ベクターpJEXOPT2(特許5126879号を参照)を本実施例に最適化するために改変したプラスミドを鋳型として、プライマー3(5'-AACTTTGCACTTACCTGACG-3'(配列番号7))およびプライマー4(5'-AAGAGCAGTGGCAGTTGTTG-3'(配列番号8))を用いてPCRを行った。
PCR増幅の反応液の組成は、プライマーおよび鋳型以外は目的遺伝子1の増幅に使用したものと同じであった。PCR増幅反応のプログラムは、まず、96℃に2分間保持した後、98℃で10秒間→55℃で5秒間→72℃で60秒間を1サイクルとして30サイクル行った後にさらに72℃で5分間保持した。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動し、増幅断片(6903bp)に相当するバンドをゲルから切り出し、illustraTM GFXTM PCR DNA and Gel Band Purification Kit (Cytiva)を用いて抽出し精製した。目的遺伝子1の増幅DNA断片およびベクターpJEXOPT2の増幅断片をIn-Fusion HD Cloning Kit (タカラバイオ)を用いて連結した。連結反応は50℃にて15分間保持することにより行った。
【0068】
連結反応液を2.5μL用いてE.coli DH5αを形質転換し、培養した培養液からillustraTM plasmidPrep Mini Spin Kit(Cytiva)によりプラスミドDNAを作製した。得られたプラスミドを「本酵素発現用プラスミド」とした。上記の本酵素発現用プラスミドを用いて、常法により枯草菌ISW1214(タカラバイオ)を形質転換し、7.5μg/mLテトラサイクリンを含むDM3再生寒天培地(組成:8.1%コハク酸ナトリウム、1%寒天、0.5%カザミノ酸、0.5%酵母エキス、0.15%リン酸2水素カリウム、0.35%リン酸水素2カリウム、0.5%グルコース、0.4%塩化マグネシウム、0.01%ウシ血清アルブミン0.001%メチオニン、0.001%ロイシン)にて30℃で2日間培養した。得られたコロニーを用い、前培養を経た後、本培養を72時間培養した(特許5126879号に記載の通り培養したが、培地の組成は改変したものを使用した)。遠心分離(5,800×g、4℃、15分間)行い、上清をポアサイズが0.45μmのフィルター(メルク)で濾過し、酵素液1を得た。
【0069】
2.マルトースホスホリラーゼの作製
マルトースホスホリラーゼは、特許5345766号に開示されているマルトースホスホリラーゼ変異体を用いた。この変異体は、パエニバチルス属の種(Paenibacillus sp.) SH-55由来の野生型マルトースホスホリラーゼにアミノ酸置換を導入したものである。このマルトースホスホリラーゼ変異体のアミノ酸配列(配列番号9)およびアミノ酸配列をコードする遺伝子(以下、目的遺伝子2)の塩基配列(配列番号10)を図1EおよびFに示す。配列番号10に記載の塩基配列は、枯草菌での良好な発現を企図して、コドン最適化が行われている。
【0070】
目的遺伝子2を枯草菌(Bacillus subtilis)で発現させるための発現プラスミドを構築した。まず、pUC57-Miniベクターに配列番号10が挿入されたプラスミドを鋳型として、プライマー5(5'-TCCCCAGCACAAGCAATGAAGCAGTATCTGAAGCT-3'(配列番号11))および、プライマー6(5'-CTGCAGGTCGACTTACTTGCTCGCCGCGGTAATCT-3'(配列番号12))を用いて目的遺伝子をPCR増幅した。
【0071】
PCR増幅用の反応液の組成を以下に示す。
2×Primestar Max Premix(タカラバイオ) 25μL
50μM センス鎖増幅プライマー5 0.20μL
50μM アンチセンス鎖増幅プライマー6 0.20μL
40ng/μL テンプレート 0.1μL
2O 23.6μL
【0072】
PCR増幅反応のプログラムは、まず、96℃に1分間保持した後、98℃で10秒間→55℃で15秒間→72℃で15秒間を1サイクルとして35サイクル行った後にさらに72℃で5分間保持した。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動し、増幅断片(2334bp)に相当するバンドをゲルから切り出し、illustraTM GFXTM PCR DNA and Gel Band Purification Kit(Cytiva)を用いて抽出し精製した。
【0073】
In-Fusion(登録商標)クローニング反応で用いる線状化プラスミドの作製のため、ベクターpJEXOPT2(特許5126879号を参照)を本実施例に最適化するために改変したプラスミドを鋳型として、プライマー7(5'-TGCTTGTGCTGGGGATCCAAGAGCAGTGGCAG-3'(配列番号13))およびプライマー8(5'-TAAGTCGACCTGCAGATCTCTAGAA-3'(配列番号14))を用いてPCRを行った。
PCR増幅の反応液の組成は、プライマーおよび鋳型以外は目的遺伝子2の増幅に使用したものと同じであった。PCR増幅反応のプログラムは、まず、96℃に2分間保持した後、98℃で10秒間→55℃で15秒間→72℃で60秒間を1サイクルとして35サイクル行った後にさらに72℃で5分間保持した。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動し、増幅断片(6951bp)に相当するバンドをゲルから切り出し、illustraTM GFXTM PCR DNA and Gel Band Purification Kit(Cytiva)を用いて抽出し精製した。目的遺伝子1の増幅DNA断片およびベクターpJEXOPT2の増幅断片をIn-Fusion HD Cloning Kit (タカラバイオ)を用いて連結した。連結反応は50℃にて15分間保持することにより行った。
【0074】
連結反応液を2.5μL用いてE.coli DH5αを形質転換し、培養した培養液からillustraTM plasmidPrep Mini Spin Kit(Cytiva)によりプラスミドDNAを作製した。得られたプラスミドを「本酵素発現用プラスミド」とした。上記の本酵素発現用プラスミドを用いて、常法により枯草菌ISW1214(タカラバイオ)を形質転換し、7.5μg/mLテトラサイクリンを含むDM3再生寒天培地(組成:8.1%コハク酸ナトリウム、1%寒天、0.5%カザミノ酸、0.5%酵母エキス、0.15%リン酸2水素カリウム、0.35%リン酸水素2カリウム、0.5%グルコース、0.4%塩化マグネシウム、0.01%ウシ血清アルブミン0.001%メチオニン、0.001%ロイシン)にて30℃で2日間培養した。得られたコロニーを用い、前培養を経た後、本培養を72時間培養した(特許5126879号に記載の通り培養したが、培地の組成は改変したものを使用した)。遠心分離(5,800×g、4℃、15分間)行い、上清をポアサイズが0.45μmのフィルター(メルク)で濾過し、酵素液2を得た。
【0075】
実施例2:活性測定
・コージビオースホスホリラーゼ活性の測定方法
酵素液1を用いて、脱リン酸反応によりβ-G1Pから遊離するリン酸量を測定した。リン酸の測定法については、基質溶液1 18μL(100mM β-G1P 2μL、100mM グルコース 2μL、200mM HEPES-NaOH緩衝液(pH 7.0)4μL、超純水10μL)に希釈酵素液1 2μLを添加し、50℃、10分間反応後、95℃、5分間失活処理を行った。失活後の反応液にモリブデン試薬200μLと、10%アスコルビン酸50μLを添加し、30℃、10分間発色させた。この溶液200μLを96well assay plate(IWAKI)に採取し、Micro plate reader(infinite F50、TECAN)を用いて750nmの吸光度を測定した。なお、酵素液添加直後に失活処理をしたものをブランクとして用いた。遊離リン酸検量線の作製には0~1mMのKH2PO4溶液を用いた。この条件において1分間に1μmolのリン酸を遊離するのに必要な酵素量を1単位として定義した。
【0076】
・マルトースホスホリラーゼ活性の測定方法
酵素液2を用いて、基質となるマルトースの加リン酸分解により遊離するグルコース量を測定した。基質溶液2 18μL(100mM KH2PO4 2μL、100mM 二糖基質 2μL、200mM HEPES-NaOH緩衝液(pH 8.0)4μL、超純水10μL)に希釈酵素液2 2μLを添加し、50℃、10分間反応後、95℃、5分間失活処理を行った。用いた二糖基質は、Tre、Koj、Nig、Malである。失活後の反応液にグルコースCII-テストワコー(富士フィルム和光純薬)200μLを添加し、37℃、10分間発色させた。この溶液200μLを96 well assay plate(IWAKI)に採取し、Micro plate reader(infinite F50、TECAN)を用いて492nmの吸光度を測定した。なお、酵素液添加直後に失活処理をしたものをブランクとして用いた。Glc検量線の作製には0~1.1mMのGlc溶液を用いた。この条件において1分間に1μmolの二糖を加リン酸分解するのに必要な酵素量を1単位として定義した。
【0077】
実施例3:加リン酸分解試験
実施例1で作製した酵素(酵素液1)がコージビオースホスホリラーゼ活性を有することを確認すべく、α-グルコ二糖を用いて加リン酸分解活性を評価した。
各10mMのα-1,1結合、α1,2結合、α1,3結合、またはα1,4結合で結合した二糖基質(Tre、Koj、Nig、Mal)と10mMのKH2PO4を含む20mM HEPES-NaOH緩衝液(pH7.0)18μLに実施例1で作製した酵素液1を20倍希釈し2μL添加し(0.024単位)、30℃で10分間反応後、95℃、5分間失活処理をおこなった。失活後の反応液に、200mM HEPES-NaOH緩衝液30μLとグルコースCII-テストワコー200μLを添加し、37℃、10分間呈色した。この溶液200μLを採取し、Micro plate reader(infinite F50、TECAN)を用いて492nmの吸光度を測定することで、遊離したグルコースの量を測定した。結果を表1および図2に示す。
【表1】
その結果、実施例1で作製した異種発現タンパク質(酵素液1)が、α1,2結合の二糖であるコージビオースを特異的に加リン酸分解することが明らかとなり、コージビオースホスホリラーゼ活性を有することを確認した。
【0078】
実施例4:脱リン酸反応試験
実施例1で作製した酵素(酵素液1)が加リン酸分解反応の逆反応を触媒するかについて確認すべく、β-G1Pと各糖質(アクセプター)の脱リン酸反応について検討した。1.3%のアクセプターと2.0%のβ-G1Pを含む20mM HEPES-NaOH緩衝液(pH7.0)20μLに、実施例1で作製した酵素液1を250倍希釈し20μLを添加し(0.002単位)、37℃で10分間反応した。この反応液から20μL採取し、ホスファC-テストワコーの発色液200μLを混合度、30℃、10分間呈色した。この溶液100μLを採取し、Micro plate reader(infinite F50、TECAN)を用いて750nmの吸光度を測定することで、遊離したリン酸の量を測定した。本試験ではアクセプター基質を超純水に置き換えたものをブランクとし、サンプル吸光度との差を算出した。結果を表2および図3に示す。
【表2】
結果、実施例1で作製した酵素は、調べた糖の中では、グルコース、メチルα-D-グルコピラノシド、キシロース、マルトース、トレハロース、セロビオースおよびスクロースをアクセプターとすることが明らかとなった。一方、アラビノースはアクセプターとして認識されなかった。
以下、実施例1で作製したコージビオースホスホリラーゼ活性を有する異種発現タンパク質を、アノキシバチルスKPと記載する。
【0079】
実施例5:β-グルコース-1-リン酸とグルコースを原料とした、アノキシバチルスKPによるオリゴ糖の合成
以下の条件で、グルコースがα-1,2グリコシド結合により結合した二糖および/または重合度3以上のオリゴ糖を合成した。
グルコースを1%とβ-G1Pを1%含む20mM HEPES-NaOH緩衝液(pH7.0)に、アノキシバチルスKPをグルコース1g当たり5単位になるように加え、50℃で82時間反応させた。その反応液を沸騰水で10分間処理し、酵素を失活させた後、イオン交換樹脂により脱塩し、糖組成をHPLCで分析した。分析条件はカラム:ULTRON PS-80N・L(二本連結)、溶離液:水、流速:0.5mL/min、カラム温度:50℃、検出器:示差屈折検出器とした。
【0080】
図4に、反応開始前、反応開始15時間後、40時間後、82時間後のクロマトグラムを示す。結果、本反応液は少なくとも重合度2~4であるオリゴ糖を含有することが確認された。
反応開始前(0時間)の24.619分のピークがβ-G1P、44.807分のピークがグルコースである。
反応開示82時間後(反応終了時)の24.718分のピークがβ-G1P、44.731分がグルコースである、30.368分のピークは重合度3(DP3)の糖に相当すると考えられる。標品との比較により、35.196分のピークはコージビオース(DP2)であると考えられる。
表3および図5に、反応開始前と反応開始82時間後の糖組成を比較した表およびグラスを示す。
【表3】
反応液中の糖組成(%)は、HPLCで検出されたピークの総面積を100とした場合の、各糖類に対応するピークの面積比率(%)として算出したものである。基質であるβ-G1Pとグルコースが減少し、DP2(コージビオース)、DP3およびDP4以上のオリゴ糖が生成した。
【0081】
実施例6:アノキシバチルスKPとマルトースホスホリラーゼを併用したオリゴ糖の合成1
以下の条件で、マルトースを原料とし、グルコースがα-1,2グリコシド結合により結合した二糖および/または重合度3以上のオリゴ糖を合成した。
マルトースを833mMとKH2PO4を10mM含む溶液(pH調整なし)に、アノキシバチルスKPをマルトース1g当たり20単位と実施例1で作製したマルトースホスホリラーゼ(酵素液2)をマルトース1g当たり10単位になるように加え、50℃で49時間反応させた。その反応液を沸騰水で10分間処理し、酵素を失活させた後、1Nの塩酸でpH4.8に調整し、グルコアミラーゼであるDextrozyme Peak(ノボザイムズ社)を2μL添加し、60℃で4時間反応させ残存するマルトースを分解した。その反応液を沸騰水で10分間処理し、酵素を失活させた後、イオン交換樹脂により脱塩し、糖組成をHPLCで分析した。分析条件はカラム:ULTRON PS-80N・L(二本連結)、溶離液:水、流速:0.5mL/min、カラム温度:50℃、検出器:示差屈折検出器とした。
【0082】
結果を表4および図6に示す。
【表4】
49時間反応させた本反応液は、DP2を8.1%、DP3を39.2%、およびDP4以上を4.6%含有していた。DP2は標品との比較により、コージビオースであることを確認した。原料のマルトースとリン酸からマルトースホスホリラーゼの働きにより、β‐G1Pとグルコースが生成され、さらにアノキシバチルスKPの働きにより、コージビオース(とリン酸)が生成されたと考えられる。
DP3には、コージトリオースやコージビオシルグルコース(Glc(α1-2)Glc(α1-4)Glc)が含まれると考えられる。DP4はコージオリゴ糖であると考えられる。
【0083】
実施例7:アノキシバチルスKPとマルトースホスホリラーゼを併用したオリゴ糖の合成2
以下の条件で、マルトースとキシロースを原料とし、α-1,2グリコシド結合により結合した二糖および/または重合度3以上のオリゴ糖を合成した。
マルトースを500mMとキシロースを750mMとKH2PO4を10mM含む溶液(pH調整なし)に、アノキシバチルスKPをマルトース1g当たり20単位と実施例1で作製したマルトースホスホリラーゼ(酵素液2)をマルトース1g当たり10単位になるように加え、58℃で72時間反応させた。その反応液を沸騰水で10分間処理し、酵素を失活させた後、イオン交換樹脂により脱塩し、糖組成をHPLCで分析した。分析条件はカラム:ULTRON PS-80N・L(二本連結)、溶離液:水、流速:0.5mL/min、カラム温度:50℃、検出器:示差屈折検出器とした。
【0084】
結果を表5および図7に示す。
【表5】
反応72時間後の反応液はDP2を35.1%含有するとともに、DP3以上を8.4%含有することが確認された。反応72時間後に増加したDP2は、キシロース基質が減少していることから、α-1,2結合で結合したグルコシルキシロースであると考えられる。原料のマルトースがリン酸の存在下でマルトースホスホリラーゼの働きにより、グルコースとβ-G1Pに変化し、さらにアノキシバチルスKPの働きにより、グルコシルキシロースが産生されたと考えられる。
【0085】
実施例8:アノキシバチルスKPとマルトースホスホリラーゼを併用したオリゴ糖の合成3
以下の条件で、マルトースとスクロースを原料とし、α-1,2グリコシド結合により結合した二糖および/または重合度3以上のオリゴ糖を合成した。
マルトースを400mMとスクロースを600mMとKH2PO4を10mM含む溶液(pH調整なし)に、アノキシバチルスKPをマルトース1g当たり20単位と実施例1で作製したマルトースホスホリラーゼ(酵素液2)をマルトース1g当たり10単位になるように加え、58℃で72時間反応させた。その反応液を沸騰水で10分間処理し、酵素を失活させた後、イオン交換樹脂により脱塩し、糖組成をHPLCで分析した。分析条件はカラム:ULTRON PS-80N・L(二本連結)、溶離液:水、流速:0.5mL/min、カラム温度:50℃、検出器:示差屈折検出器とした。
【0086】
結果を表6および図8に示す。
【表6】
反応72時間後の反応液はDP3を16.1%含有するとともに、DP4以上を3.6%含有することが確認された。DP3は、保持時間を基にコージトリオースではないと考えられた。DP3は、コージビオシルフラクトシド(Glc(α1-2)Glc(α1-2β)Fru)であると考えられる。原料のマルトースがリン酸の存在下でマルトースホスホリラーゼの働きによりグルコースとβ-G1Pに変化し、さらにアノキシバチルスKPにより、コージビオシルフラクトシドが産生されたと考えられる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2024140649000001.xml