(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140661
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】巻取装置および巻取方法
(51)【国際特許分類】
B65H 54/02 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B65H54/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051918
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西 耕平
(72)【発明者】
【氏名】中谷 誠一
(72)【発明者】
【氏名】宮川 茂
【テーマコード(参考)】
3F056
【Fターム(参考)】
3F056AB01
3F056AB06
(57)【要約】
【課題】渡り糸の混入リスクの低減および糸状体の品質低下リスクの低減を同時に解決することを可能とする巻取装置および巻取方法の提供を目的とする。
【解決手段】この巻取方法は、停止状態にある第2巻枠体20が、回転状態にある第1巻枠体10の回転数に対して同期するように回転を開始し、第1巻枠体10の第1糸状体保持切断機構110と、第2巻枠体20の第2糸状体保持切断機構210とが、所定の位相差が生じるようにして、第1巻枠体10と第2巻枠体20の回転を同期させる工程と、巻枠体移動装置により、回転軸a1の軸方向に沿って、第2巻枠体20を第1巻枠体10側に近接させるように移動させる工程と、第1巻枠体10への糸状体Sの巻回数が所定の巻数に到達した段階で、糸状体供給切替装置により糸状体Sを第2巻枠体20側に移動させ、糸状体Sの第2巻枠体への巻付を開始する工程と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1巻枠体と、前記第1巻枠体と同一形態を有する第2巻枠体とを含み、前記第1巻枠体が回転しながら、前記第1巻枠体に糸状体を巻取り、または、前記第2巻枠体が回転しながら、前記第2巻枠体に前記糸状体を巻取る、巻取装置であって、
前記第1巻枠体は、回転軸を中心に回転させる第1回転機構を有し、
前記第2巻枠体は、前記回転軸と同軸に回転させる第2回転機構を有し、
前記第1回転機構および前記第2回転機構は、前記回転軸の軸方向において、前記第1巻枠体と前記第2巻枠体との間の距離を相対的に変化させる巻枠体移動装置を有し、
前記第1巻枠体および前記第2巻枠体から所定距離離れた位置には、前記第1巻枠体または前記第2巻枠体のいずれか一方に前記糸状体を供給し、前記第1巻枠体または前記第2巻枠体への前記糸状体の供給を切替える糸状体供給切替装置が設けられ、
前記第1巻枠体は、前記糸状体を保持するとともに前記糸状体を切断する第1糸状体保持切断機構を含み、
前記第2巻枠体は、前記糸状体を保持するとともに前記糸状体を切断する第2糸状体保持切断機構を含み、
前記第1回転機構および前記第2回転機構は、前記第1糸状体保持切断機構と前記第2糸状体保持切断機構とが対向する位置から、所定の位相差が生じるようにして、前記第1巻枠体と前記第2巻枠体との回転を同期させることを可能とする、
巻取装置。
【請求項2】
前記第1巻枠体は、放射状に配置される2以上の第1腕を含み、
前記第2巻枠体は、放射状に配置される2以上の第2腕を含み、
前記第1糸状体保持切断機構は、選択された1の前記第1腕の前記第2巻枠体に対向する側に設けられ、
前記第2糸状体保持切断機構は、選択された1の前記第2腕の前記第1巻枠体に対向する側に設けられている、
請求項1に記載の巻取装置。
【請求項3】
前記第1糸状体保持切断機構および前記第2糸状体保持切断機構はいずれも、
前記糸状体を受入れる誘い込み領域と、
前記誘い込み領域において前記糸状体を固定するためのブロックと、
前記誘い込み領域および前記ブロックで固定された前記糸状体を切断するための切断装置と、
有する、請求項2に記載の巻取装置。
【請求項4】
請求項1に記載の巻取装置を用いた、前記糸状体の巻取方法であって、
停止状態にある前記第2巻枠体が、回転状態にある前記第1巻枠体の回転数に対して同期するように回転を開始し、前記第1巻枠体の前記第1糸状体保持切断機構と、前記第2巻枠体の前記第2糸状体保持切断機構とが、所定の位相差が生じるようにして、前記第1巻枠体と前記第2巻枠体との回転を同期させる工程と、
前記第1巻枠体への前記糸状体の巻回数が所定の巻数に到達した段階で、前記糸状体供給切替装置により前記糸状体を前記第2巻枠体側に移動させ、前記糸状体の前記第2巻枠体への巻付を開始する工程と、
を備える、巻取方法。
【請求項5】
前記第1巻枠体の前記第1糸状体保持切断機構と、前記第2巻枠体の前記第2糸状体保持切断機構とが、所定の位相差が生じるようにして、前記第1巻枠体と前記第2巻枠体との回転を同期させる工程の後に、
前記巻枠体移動装置により、前記回転軸の軸方向に沿って、前記第2巻枠体を前記第1巻枠体側に近接させるように移動させる工程を行ない、
その後、前記第1巻枠体への前記糸状体の巻回数が所定の巻数に到達した段階で、前記糸状体供給切替装置により前記糸状体を前記第2巻枠体側に移動させ、前記糸状体の前記第2巻枠体への巻付を開始する工程を行なう、
請求項4に記載の巻取方法。
【請求項6】
前記第1巻枠体と前記第2巻枠体との間に生じる渡り糸の長さが変化しないように、前記第2回転機構により前記第2巻枠体の回転数は維持しながら、前記第1回転機構により前記第2巻枠体に対する前記第1巻枠体の回転速度および位相差を調整し、前記巻枠体移動装置により前記第1巻枠体を前記第2巻枠体から離れる方向に移動させる工程を、さらに備える、
請求項4または請求項5に記載の巻取方法。
【請求項7】
前記第1糸状体保持切断機構および前記第2糸状体保持切断機構により糸状体Sを保持する工程と、
前記第1糸状体保持切断機構および前記第2糸状体保持切断機構により前記糸状体を切断する工程と、さらに備える、
請求項6に記載の巻取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、巻取装置および巻取方法に関する。より詳細には、前工程から連続的に送られてくる糸状体を、連続的かつ自動的に糸状体の束に成形するために用いられる巻取装置およびその巻取装置を用いた巻取方法に関する。本開示において糸状体とは、1本または2本以上の中実糸、1本または2本以上の中空糸を指す。
【背景技術】
【0002】
従来の糸状体を巻き取る巻取装置として、特許第3623874号(特許文献1)、特許第4477866号(特許文献2)および、特許第4574725号(特許文献3)等が挙げられる。
【0003】
特許文献1から特許文献3に開示される巻取装置は、巻枠体を同軸上に並列に配置し、一方の巻枠体への糸状体の巻き取りが完了すると、他方の巻枠体へ糸状体を移動させて、他方の巻枠体への糸状体の巻き取りが開始される。
【0004】
糸状体の巻き取りが完了した側の巻枠体は、他方の巻枠体への糸状体の巻き取りが開始された後、回転を停止させる。その後、巻枠体に巻かれた糸状体の束を紙、フィルム等でラッピングし両端部を切断する。その後、フィルムでラッピングされた糸状体の束が順次回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3623874号
【特許文献2】特許第4477866号
【特許文献3】特許第4574725号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2および特許文献3に開示される巻取装置においては、一方の巻枠体から他方の巻枠体への糸状体の巻き付けを切替える際に生じる渡り糸の最短化のため、切替時に一時的に巻取を停止させる必要があり、その時に発生する糸の弛みを吸収するためのアキューム機構(緩み吸収機構)と呼ばれる機構が採用されている。
【0007】
ここで、一方の巻枠体への糸状体の巻き取りが完了すると、他方の巻枠体へ糸状体を移動させて、他方の巻枠体への糸状体の巻き取りが開始される。このとき、一方の巻枠体と他方の巻枠体との間には、渡り糸が発生する。
【0008】
渡り糸は廃棄されることから、極力短い方が好ましい。また、渡り糸が長い場合には、巻枠体に巻かれた糸状体の束を紙、フィルム等でラッピングし両端部を切断して回収する際に、糸状体の束に渡り糸が混入し易くなる虞がある。特に、特許文献1のように渡り糸が斜めの状態で、渡り糸を切断した場合には、位置関係的にも糸状体の束に渡り糸が混入し易くなると考えられる。
【0009】
このように、アキューム機構を採用しない場合には、糸状体の束に渡り糸が混入するリスクが高くなる。アキューム機構を採用すると、アキューム機構の作動により糸状体に撚り、傷、その他の損傷が発生しやすくなるという糸状体の品質を低下させるリスクが高くなる。
【0010】
本開示では、上記課題を解決することにあり、渡り糸の混入リスクの低減および糸状体の品質低下リスクの低減を同時に解決することを可能とする、巻取装置および巻取方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]本開示の巻取装置においては、第1巻枠体と、前記第1巻枠体と同一形態を有する第2巻枠体とを含み、前記第1巻枠体が回転しながら、前記第1巻枠体に糸状体を巻取り、または、前記第2巻枠体が回転しながら、前記第2巻枠体に前記糸状体を巻取る、巻取装置であって、前記第1巻枠体は、回転軸を中心に回転させる第1回転機構を有し、前記第2巻枠体は、前記回転軸と同軸に回転させる第2回転機構を有し、前記第1回転機構および前記第2回転機構は、前記回転軸の軸方向において、前記第1巻枠体と前記第2巻枠体との間の距離を相対的に変化させる巻枠体移動装置を有し、前記第1巻枠体および前記第2巻枠体から所定距離離れた位置には、前記第1巻枠体または前記第2巻枠体のいずれか一方に前記糸状体を供給し、前記第1巻枠体または前記第2巻枠体への前記糸状体の供給を切替える糸状体供給切替装置が設けられ、前記第1巻枠体は、前記糸状体を保持するとともに前記糸状体を切断する第1糸状体保持切断機構を含み、前記第2巻枠体は、前記糸状体を保持するとともに前記糸状体を切断する第2糸状体保持切断機構を含み、前記第1回転機構および前記第2回転機構は、前記第1糸状体保持切断機構と前記第2糸状体保持切断機構とが対向する位置から、所定の位相差が生じるようにして、前記第1巻枠体と前記第2巻枠体との回転を同期させることを可能とする。
【0012】
[2]:[1]に記載の巻取装置であって、前記第1巻枠体は、放射状に配置される2以上の第1腕を含み、前記第2巻枠体は、放射状に配置される2以上の第2腕を含み、前記第1糸状体保持切断機構は、選択された1の前記第1腕の前記第2巻枠体に対向する側に設けられ、前記第2糸状体保持切断機構は、選択された1の前記第2腕の前記第1巻枠体に対向する側に設けられている。
【0013】
[3]:[1]または[2]に記載の巻取装置であって、前記第1糸状体保持切断機構および前記第2糸状体保持切断機構はいずれも、前記糸状体を受入れる誘い込み領域と、前記誘い込み領域において前記糸状体を固定するためのブロックと、前記誘い込み領域および前記ブロックで固定された前記糸状体を切断するための切断装置と、有する。
【0014】
[4]:本開示の巻取方法においては、[1]から[3]のいずれかに記載の巻取装置を用いた、前記糸状体の巻取方法であって、停止状態にある前記第2巻枠体が、回転状態にある前記第1巻枠体の回転数に対して同期するように回転を開始し、前記第1巻枠体の前記第1糸状体保持切断機構と、前記第2巻枠体の前記第2糸状体保持切断機構とが、所定の位相差が生じるようにして、前記第1巻枠体と前記第2巻枠体との回転を同期させる工程と、前記巻枠体移動装置により、前記回転軸の軸方向に沿って、前記第2巻枠体を前記第1巻枠体側に近接させるように移動させる工程と、前記第1巻枠体への前記糸状体の巻回数が所定の巻数に到達した段階で、前記糸状体供給切替装置により前記糸状体を前記第2巻枠体側に移動させ、前記糸状体の前記第2巻枠体への巻付を開始する工程と、を備える。
【0015】
[5]:[4]に記載の巻取方法であって、前記第1巻枠体の前記第1糸状体保持切断機構と、前記第2巻枠体の前記第2糸状体保持切断機構とが、所定の位相差が生じるようにして、前記第1巻枠体と前記第2巻枠体との回転を同期させる工程の後に、前記巻枠体移動装置により、前記回転軸の軸方向に沿って、前記第2巻枠体を前記第1巻枠体側に近接させるように移動させる工程を行ない、その後、前記第1巻枠体への前記糸状体の巻回数が所定の巻数に到達した段階で、前記糸状体供給切替装置により前記糸状体を前記第2巻枠体側に移動させ、前記糸状体の前記第2巻枠体への巻付を開始する工程を行なう。
【0016】
[6]:[4]または[5]に記載の巻取方法であって、前記第1巻枠体と前記第2巻枠体との間に生じる渡り糸の長さが変化しないように、前記第2回転機構により前記第2巻枠体の回転数は維持しながら、前記第1回転機構により前記第2巻枠体に対する前記第1巻枠体の回転速度および位相差を調整し、前記巻枠体移動装置により前記第1巻枠体を前記第2巻枠体から離れる方向に移動させる工程を、さらに備える。
【0017】
[7]:[6]に記載の巻取方法であって、前記第1糸状体保持切断機構および前記第2糸状体保持切断機により糸状体を保持する工程と、前記第1糸状体保持切断機構および前記第2糸状体保持切断機構により前記糸状体を切断する工程と、をさらに備える。
【発明の効果】
【0018】
本開示に従えば、渡り糸の混入リスクの低減および糸状体の品質低下リスクの低減を同時に解決することを可能とする巻取装置および巻取方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】比較例の巻取装置を用いた巻取方法の巻取工程を示す模式図である。
【
図2】比較例の巻取装置を用いた巻取方法の切替工程を示す模式図である。
【
図3】比較例の巻取装置を用いた巻取方法の渡り糸切断工程を示す模式図である。
【
図4】比較例の巻取装置を用いた巻取方法の第1巻枠体停止工程を示す模式図である。
【
図5】比較例の巻取装置を用いた巻取方法のラッピング工程を示す模式図である。
【
図6】実施の形態の巻取装置の概略構成を示す第1模式図である。
【
図7】実施の形態の巻取装置を用いた巻取方法の巻枠体同期回転工程を示す模式図である。
【
図8】実施の形態の巻取装置を用いた巻取方法の巻枠体近接工程を示す模式図である。
【
図9】実施の形態の巻取装置を用いた巻取方法のトラバースガイド移動工程を示す模式図である。
【
図10】実施の形態の巻取装置を用いた巻取方法の第2巻枠体への巻付開始工程を示す模式図である。
【
図11】実施の形態の巻取装置を用いた巻取方法の渡り糸切断準備工程を示す模式図である。
【
図12】実施の形態の巻取装置を用いた巻取方法の渡り糸切断工程を示す模式図である。
【
図13】実施の形態の巻取装置に設けられる糸状体保持切断機構の概略構成を示す斜視図である。
【
図14】実施の形態の糸状体保持切断機構の動作を示す第1図である。
【
図15】実施の形態の糸状体保持切断機構の動作を示す第2図である。
【
図16】実施の形態の糸状体保持切断機構の動作を示す第3図である。
【
図17】実施の形態の糸状体保持切断機構の動作を示す第4図である。
【
図18】実施の形態の糸状体保持切断機構の動作を示す第5図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示に基づいた各実施の形態の巻取装置およびその巻取装置を用いた巻取方法について、以下、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。同一の部品、相当部品に対しては、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。実施の形態の構成を適宜組み合わせて用いることは当初から予定されていることである。
【0021】
以下の説明では、同軸上に配置された糸状体Sを巻き取る巻枠体を2台設ける場合について説明しているが、2台に限定されるものでなく、同軸上に3以上の巻枠体を設ける場合も含むものである。以下の説明において糸状体Sとは、1本または2本以上の中実糸、1本または2本以上の中空糸を指す。
【0022】
[比較例:巻取方法]
図1から
図5を参照して、比較例として、従来の糸状体の巻取方法について説明する。
図1は、比較例の巻取装置を用いた巻取方法の巻取工程を示す模式図、
図2は、切替工程を示す模式図、
図3は、渡り糸切断工程を示す模式図、
図4は、第1巻枠体停止工程を示す模式図、
図5は、ラッピング工程を示す模式図である。なお、以下の比較の巻取方法では、アキューム機構を採用しない場合を示している。各図において(A)は、巻枠体を上方から見た平面視における模式図であり、(B)は、第1巻枠体10を側面から見た模式図である。
【0023】
図1を参照して、この巻取装置は、第1巻枠体10および第2巻枠体20はいずれも正六角形の多角形形状であり、各頂点が対向するように配置されている。第1巻枠体10および第2巻枠体20は、同一の回転軸a1に並列に配置され、第1巻枠体10および第2巻枠体20は、図中の矢印Rに示す方向に回転する。
【0024】
図1に示す巻取工程では、第1巻枠体10で糸状体Sが巻き取られている状態を示している。第1巻枠体10の各頂点を結ぶように糸状体Sが、巻枠体に巻き取られる。第1巻枠体10の外部には、糸状体供給切替装置40が設けられている。トラバースガイド40bは、図中の矢印Yに示す方向に往復移動可能に設けられている。トラバースガイド40bは、外部から供給される糸状体Sを、第1巻枠体10および第2巻枠体20に切替える機構を有する。
【0025】
図2に示す切替工程では、第1巻枠体10が所定の巻回数に到達し、第1巻枠体10での糸状体Sの巻き取りが完了する。その後、糸状体供給切替装置40により、外部から供給される糸状体Sが、第1巻枠体10から空巻状態の第2巻枠体20に移動し、第2巻枠体20で糸状体Sの巻き取りが開始される。このとき、第1巻枠体10と第2巻枠体20との間には、渡り糸S1が発生する。
【0026】
図3に示す渡り糸切断工程では、渡り糸S1を、第1巻枠体10と第2巻枠体20との間に設けられた切断装置50で切断した状態を示している。第1巻枠体10および第2巻枠体20のそれぞれに、渡り糸S1が残存することとなる。長さの長い残存する渡り糸S1は、製品となる糸状体の束をラッピングする際に、混入を防止できない位置に残存することとなる。
【0027】
図4に示す第1巻枠体停止工程では、第1巻枠体10の回転を停止した状態を示している。この図では、残存した渡り糸S1は下方に位置している。
【0028】
図5に示すラッピング工程では、外部に設けられたラッピング装置300が、第1巻枠体10の下方位置にまで移動し、第1巻枠体10の頂点間の各辺に位置する糸状体Sの束にフィルムFがラッピングされる。その後、糸状体Sの束の両端部が切り取られ、フィルムFを巻いた糸状体Sの束が形成される。第1巻枠体10が順次回転(図示の構成では60度回転)することで、糸状体Sの束が取り出される。なお、第1巻枠体10の頂点部分では、図示省略したクランプ機構により、糸状体Sの束は保持されている。
【0029】
この糸状体Sの束のラッピングの際に、渡り糸S1が糸状体Sの束の内部に混入する場合がある。特に、渡り糸S1が長い場合、渡り糸S1が糸状体Sの束に対して斜めに沿って位置する場合には、渡り糸S1をコントロールすることができずに渡り糸S1が糸状体Sの束の内部に混入する。このように、渡り糸S1が混入した製品は、製品不良となってしまう。
【0030】
以下、実施の形態における巻取装置およびこの巻取装置を用いた巻取方法について、説明する。
【0031】
(実施の形態:巻取装置1)
図6を参照して、本実施の形態の巻取装置1について説明する。
図6は、巻取装置1の概略構成を示す模式図である。本開示において糸状体とは、1本または2本以上の中実糸、1本または2本以上の中空糸を指す。
【0032】
巻取装置1は、第1巻枠体10と、第1巻枠体10と同一形態の第2巻枠体20とを含む。本実施の形態では、第1巻枠体10は、第1本体部11から、6本の第1腕11aが60度ピッチで6本放射状に設けられている。第1腕11aの先端部分には、それぞれ第1糸受け11bが設けられている。第2巻枠体20は、第2本体部21から、6本の第2腕21aが60度ピッチで6本放射状に設けられている。第2腕21aの先端部分には、それぞれ第2糸受け21bが設けられている。
【0033】
巻取装置1は、第1巻枠体10が回転しながら、第1腕11aの頂点を結ぶようにして糸状体Sを第1糸受け11bで保持しながら第1巻枠体10に糸状体Sを巻取る。または、第2巻枠体20が回転しながら、第2腕21aの頂点を結ぶようにして糸状体Sを第2糸受け21bで保持しながら第2巻枠体20に糸状体Sを巻取る。この巻取装置1による糸状体Sの巻取方法については後述する。
【0034】
第1巻枠体10は、回転軸a1を中心に回転させる第1回転機構12を有する。第1回転機構12は、第1フレームF10に保持されている。第2巻枠体20は、回転軸a1と同軸に回転させる第2回転機構22を有する。第2回転機構22は、第2フレームF20に保持されている。
【0035】
第1回転機構12および第2回転機構22は、回転軸a1の軸方向において、第1巻枠体10と第2巻枠体20との間の間隔を相対的に移動させる巻枠体移動装置30を有する。
【0036】
巻枠体移動装置30としては、第1回転機構12を回転軸a1の軸方向に移動可能とし、第2回転機構22を固定状態とする機構、第2回転機構22を回転軸a1の軸方向に移動可能とし、第1回転機構12を固定状態とする機構、または、第1回転機構12および第2回転機構22のいずれもが回転軸a1の軸方向に移動可能とする機構のいずれであってもよい。
【0037】
第1巻枠体10および第2巻枠体20から所定距離離れた位置には、第1巻枠体10または第2巻枠体20のいずれか一方に糸状体Sを供給し、第1巻枠体10または第2巻枠体20への糸状体Sの供給を切替える糸状体供給切替装置40が設けられている。糸状体供給切替装置40は、ガイドフレーム40aと、ガイドフレーム40aに沿って移動するトラバースガイド40bとを含む。トラバースガイド40bは、ガイドフレーム40aに沿って図示中の矢印Y方向に往復移動可能に設けられている。トラバースガイド40bからは、糸状体Sが図示中の矢印T方向に送り出される。
【0038】
第1巻枠体10の選択した第1腕11aの頂点には、第1糸受け11bに加え、糸状体Sの保持および切断が可能な第1糸状体保持切断機構110が設けられている。第2巻枠体20の選択した第2腕21aの頂点には、第2糸受け21bに加え、糸状体Sの保持および切断が可能な第2糸状体保持切断機構210が設けられている。
【0039】
(巻取方法)
次に、
図7から
図12を参照して、上記構成からなる巻取装置1を用いた糸状体Sの巻取り方法について説明する。
図7は、巻取装置1を用いた巻取方法の第1準備工程を示す模式図、
図8は、第2準備工程を示す模式図、
図9は、トラバースガイド移動工程を示す模式図、
図10は、第2巻枠体への巻付開始工程を示す模式図、
図11は、渡り糸切断準備工程を示す模式図、
図12は、渡り糸切断工程を示す模式図である。いずれの図も、
図6中の矢印V方向から第1巻枠体10および第2巻枠体20を見た場合の模式図である。なお、第1糸状体保持切断機構110および第2糸状体保持切断機構210の構成については、後述する。
【0040】
(巻枠体同期回転工程)
図7を参照して、巻枠体同期回転工程について説明する。第1巻枠体10に糸状体Sが巻き付けられている間に、第2巻枠体20に巻き付けられた糸状体Sの束へのラッピングが終了し、第2巻枠体20からは、糸状体Sの束は全て回収され、次の工程への準備が開始される。
【0041】
具体的には、停止状態にある第2巻枠体20が、回転状態にある第1巻枠体10の回転数に対して同期するように回転を開始する。このとき、第1巻枠体10の第1糸状体保持切断機構110と、第2巻枠体20の第2糸状体保持切断機構210とが、所定の位相差(位置ずれ)が生じるようにして、第1巻枠体10と第2巻枠体20との回転を同期させる。
【0042】
位相差を与える目的は、後述するトラバースガイド40bを用いて糸状体Sの巻き付けを、第1巻枠体10から第2巻枠体20に切替えた際に、糸状体Sが第2巻枠体20に設けられた第2糸受け21bに係合しやすい角度とするためである。第1糸状体保持切断機構110と第2糸状体保持切断機構210との位相差は、巻取装置1の腕の数、腕の長さ、巻取速度等の要素によって決められ、たとえば、約5度~30度程度の位相差が選択される。
【0043】
(巻枠体近接工程)
次に、
図8を参照して、巻枠体近接工程について説明する。巻枠体移動装置30により、回転軸a1の軸方向に沿って、第2巻枠体20を第1巻枠体10側に近接させるように移動させる(図中矢印D1方向)。これは、後述するトラバースガイド40bを第1巻枠体10から第2巻枠体20に切替えた際に、第1巻枠体10と第2巻枠体20との間に生じる渡り糸S1(
図9参照)の長さを極力短くするためである。
【0044】
(トラバースガイド移動工程)
次に、
図9を参照して、トラバースガイド移動工程について説明する。第1巻枠体10への糸状体Sの巻回数が所定の巻数に到達した段階で、糸状体供給切替装置40のトラバースガイド40bを第2巻枠体20側に移動させる。
【0045】
(第2巻枠体への巻付開始工程)
次に、
図10を参照して、糸状体Sの第2巻枠体への巻付開始工程について説明する。トラバースガイド40bから送り出される糸状体Sが第2巻枠体20側の第2糸受け21bに係合し、糸状体Sの第2巻枠体20への巻付が開始される。この際、第1巻枠体10と第2巻枠体20との間に位相差を設けてあることから、糸状体Sが第2巻枠体20に設けられた第2糸受け21bに係合しやすい角度となっているために、糸状体Sの切替ミスの発生を抑制可能としている。さらに、第2巻枠体への巻付開始により、第1巻枠体10と第2巻枠体20との間に渡り糸S1が発生する。
【0046】
(渡り糸切断準備工程)
次に、
図11を参照して、渡り糸切断準備工程について説明する。第1巻枠体10と第2巻枠体20との間の渡り糸S1の長さが変化しないように、第2回転機構22により第2巻枠体20の回転数は維持しながら、第1回転機構12により第2巻枠体20に対する第1巻枠体10の回転速度および位相差を調整し、巻枠体移動装置30により第1巻枠体10を第2巻枠体20から離れる方向(図中矢印D2方向)に移動させる。
【0047】
第1巻枠体10の移動に際しては、渡り糸S1が第1巻枠体10および第2巻枠体20に対してなるべく直角方向に引き出されるように、第1巻枠体10の移動、回転速度および位相差の調整を行なう。
【0048】
これは、後述の渡り糸切断工程において、渡り糸S1を、第1糸状体保持切断機構110および第2糸状体保持切断機構210による保持および切断を容易にするとともに、渡り糸S1を第1巻枠体10に巻き取られた糸状体Sの束から遠ざけることで、渡り糸S1の糸状体Sの束への混入を防止するためである。
【0049】
(渡り糸切断工程)
図12を参照して、渡り糸切断工程について説明する。第1糸状体保持切断機構110および第2糸状体保持切断機構210により糸状体Sを保持する。その後、第1糸状体保持切断機構110および第2糸状体保持切断機構210により糸状体Sを切断する。これにより、渡り糸S1が第1巻枠体10および第2巻枠体20から切離される。
【0050】
その後、第2巻枠体20では、糸状体Sの巻き付けを継続し、第1巻枠体10は回転を停止して、第1巻枠体10から糸状体Sの束の切り取りを開始する。糸状体Sの束の切り取りに際しては、
図5に示したように、ラッピング装置300を用いて、糸状体Sの束の切り取りを行なう。
【0051】
その後は、第1巻枠体10および第2巻枠体20への糸状体Sの巻き付けを交互に行ない、順次、ラッピング装置300を用いて、糸状体Sの束の切り取りを行なう。
【0052】
このように、上記巻取装置1を用いた糸状体Sの巻取方法によれば、渡り糸S1を短くするとともに、渡り糸S1を第1巻枠体10に対して略直角方向に引き出していることから、ラッピング時に、渡り糸S1の糸状体Sの束への混入リスクの低減を可能とする。
【0053】
(糸状体保持切断機構)
次に、
図13を参照して、糸状体保持切断機構の概略構成について説明する。第1巻枠体10に設けられる第1糸状体保持切断機構110および第2巻枠体20に設けられる第2糸状体保持切断機構210の構成は同じであるため、ここでは、第2糸状体保持切断機構210の具体的構成について説明する。
【0054】
第2腕21aの先端部分の一方面側には、凹部形状の第2糸受け21bが設けられている。第2糸受け21bは、第1巻枠体10に対向する面に対して反対側の面に設けられている。第2腕21aの先端部分においては、第2腕21aの回転方向(図中の矢印R方向)に沿って見た場合に、上流側と下流側とにそれぞれ、三角形状に凹み糸状体Sを受入れる誘い込み領域230が設けられている。
【0055】
この誘い込み領域230には、誘い込み領域230を開放する位置と、誘い込み領域230を閉じる位置(糸状体Sを保持する位置)との間を移動可能(図中の矢印H方向)に設けられるブロック240が設けられている。ブロック240は、三角形状に凹む誘い込み領域230に対応した形状を有している。
【0056】
第2腕21aの先端部分の他方面側(第1巻枠体10に対向する面側)には、第2腕21aの延びる方向に沿って(図中の矢印X方向)スライド可能に、切断装置としてのナイフ220が2箇所設けられている。
【0057】
次に、
図14から
図18を参照して、上記構成を備える第2糸状体保持切断機構210を用いた、糸状体Sの固定および切断について説明する。
図14から
図18は、糸状体保持切断機構の動作を示す第1図から第5図であるが、
図14は、
図10の「第2巻枠体への巻付開始工程」に対応し、
図15は、
図11の「渡り糸切断準備工程」に対応し、
図16から
図18は、
図12の「渡り糸切断工程」に対応している。
【0058】
図14を参照して、
図10の「第2巻枠体への巻付開始工程」で示したように、トラバースガイド40bから送り出される糸状体Sが第2巻枠体20側の第2糸受け21bに係合し、糸状体Sの第2巻枠体20への巻付が開始される。この際、第1巻枠体10と第2巻枠体20との間に位相差を設けてあることから、糸状体Sが第2巻枠体20に設けられた第2糸受け21bに係合しやすい角度となっている。
【0059】
図15を参照して、
図11の「渡り糸切断準備工程」で示したように、第1巻枠体10と第2巻枠体20との間の渡り糸S1の長さが変化しないように、第2巻枠体20の回転数は維持しながら、第2巻枠体20に対する第1巻枠体10の回転速度および位相差を調整し、第1巻枠体10を第2巻枠体20から離れる方向(図中矢印D2方向)に移動させる。
【0060】
第1巻枠体10の移動に際しては、渡り糸S1が第1巻枠体10および第2巻枠体20に対してなるべく直角方向に引き出されるように、第1巻枠体10の移動、回転速度および位相差の調整を行なう。
【0061】
図16から
図18を参照して、
図12の「渡り糸切断工程」について説明する。
図16および
図17に示すように、第2糸状体保持切断機構210により誘い込み領域230に位置する糸状体Sをブロック240を図中H方向に移動させて、誘い込み領域230とブロック240との間に固定する。
【0062】
次に、
図18に示すように、ナイフ220を図中の矢印X方向にスライドさせて糸状体Sから渡り糸S1を切断する。これにより、第2巻枠体20の第2腕21aには、糸状体Sが固定された状態のままで、渡り糸S1が第2腕21aから切離される。
【0063】
第2巻枠体20では、引続き糸状体Sの巻き付けが行なわれ、第1巻枠体10では、糸状体Sの束に対するラッピング工程が、
図5で示したラッピング装置300を用いて行なわれる。
【0064】
以上、本実施の形態における巻取装置1およびこの巻取装置1を用いた巻取方法によれば、渡り糸を短くしつつ、渡り糸の製品への混入リスクの低減を可能とする。
【0065】
なお、上記実施の形態における第1巻枠体10および第2巻枠体20は、それぞれ6本の腕が放射状に延びる6点で巻き取る六角形状の巻枠体の形状を有しているが、六角形状の巻枠体に限定されるものではない。2点で巻き取る2点巻枠体を用いてもよい。また、円形の巻枠体を用いてもよい。
【0066】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0067】
1 巻取装置、10 第1巻枠体、11 第1本体部、11a 第1腕、11b 第1糸受け、12 第1回転機構、12b 第2糸受け、20 第2巻枠体、21 第2本体部、21a 第2腕、22 第2回転機構、30 巻枠体移動装置、40 糸状体供給切替装置、40a ガイドフレーム、40b トラバースガイド、50 切断装置、110 第1糸状体保持切断機構、210 第2糸状体保持切断機構、220 ナイフ、230 誘い込み領域、240 ブロック、300 ラッピング装置。