(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140666
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/00 20060101AFI20241003BHJP
E02F 9/08 20060101ALI20241003BHJP
E02F 9/24 20060101ALI20241003BHJP
B60R 3/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
E02F9/00 Z
E02F9/08 Z
E02F9/00 Q
E02F9/24 K
B60R3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051930
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】弁理士法人広和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須田 彩冬
(72)【発明者】
【氏名】稲場 康彦
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 尚生
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 智之
【テーマコード(参考)】
2D015
3D022
【Fターム(参考)】
2D015CA00
2D015GA02
2D015GA03
2D015GB01
2D015GB06
2D015GB07
3D022AA01
3D022AB08
3D022AC10
3D022AD01
3D022AE09
3D022AE13
(57)【要約】
【課題】地面と上部旋回体の上面との間を迅速に移動する。
【解決手段】油圧ショベル1は、下部走行体2と、下部走行体2に旋回可能に搭載される上部旋回体3と、上部旋回体3に搭載された燃料タンク9とを備え、燃料タンク9には階段面9Dが設けられている。油圧ショベル1は、燃料タンク9を覆うために階段面9Dに対応する階段状に形成されたタンクカバー11と、タンクカバー11を格納位置と昇降位置との間で移動させるカバー移動装置13とを備える。カバー移動装置13によってタンクカバー11を昇降位置に移動させることにより、燃料タンク9の階段面9Dと階段状のタンクカバー11とにより、上部旋回体3の下方から燃料タンク9の上面9Eへと階段状に連続する足場を形成することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と、前記下部走行体に旋回可能に搭載される上部旋回体と、前記上部旋回体に搭載された貯油タンクとを備えた建設機械において、
前記貯油タンクの外面は、前記貯油タンクの上面に上がるときの足場となる階段面が形成されており、
前記階段面に対応する階段形状に形成されたタンクカバーと、
前記タンクカバーを、前記貯油タンクの前記階段面の上方に重なる格納位置と前記貯油タンクの前記階段面の下段側に隣接して前記上部旋回体よりも下側へと延びる昇降位置とに移動させるカバー移動装置と、を備えることを特徴とする建設機械。
【請求項2】
前記カバー移動装置の動作を制御する制御装置を備え、
前記カバー移動装置は、前記上部旋回体と前記タンクカバーとの間を連結するリンク機構と、前記制御装置によって制御され、前記リンク機構を駆動する駆動源とを含んで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の建設機械。
【請求項3】
油圧アクチュエータと油圧ポンプとの間に設けられたコントロールバルブに対するパイロット信号の出力を遮断するパイロット信号遮断装置を備え、
前記制御装置は、前記パイロット信号遮断装置により前記パイロット信号の出力が遮断されていないときには、前記タンクカバーを前記格納位置に保持することを特徴とする請求項2に記載の建設機械。
【請求項4】
前記制御装置は、前記タンクカバーが前記昇降位置にあるときには、前記パイロット信号遮断装置により前記パイロット信号の出力を遮断することを特徴とする請求項3に記載の建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、油圧ショベル等の建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械を代表する油圧ショベルは、下部走行体と上部旋回体とを備えた自走可能な車体と、上部旋回体の前側に設けられた作業装置とを備えている。上部旋回体は、ベースとなる旋回フレームと、旋回フレーム上に搭載された原動機、油圧ポンプ、熱交換器等の搭載機器と、これら搭載機器を収容する外装カバーと、アクチュエータに供給される作動油あるいは原動機に供給される燃料を貯留する貯油タンクと、運転席を形成するキャブとを含んで構成されている。
【0003】
原動機、油圧ポンプ、熱交換器等の搭載機器は、定期的にメンテナンスを行う必要がある。作業者は、例えば外装カバーの上面に設けられた原動機カバーを開くことにより、外装カバー内に収容された搭載機器に対するメンテナンス作業を行う。このように、メンテナンス作業時に作業者が外装カバーの上面に移動するため、旋回フレームに搭載された燃料タンクに階段状のステップが形成された建設機械が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、旋回フレームの側面に設けられた歩行用の通路に、折畳み式の昇降装置が取付けられ、この昇降装置を足場として地面と歩行用の通路との間を乗降することができるようにした建設機械が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-1790号公報
【特許文献2】特開2005-83033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1によるステップは、旋回フレームに搭載された燃料タンクに形成されており、旋回フレームと外装カバーの上面(メンテナンスフロア)との間を移動するときの足場を形成している。このため、作業者は、例えば下部走行体に設けられた梯子状のステップやシュー(履帯)を足場として、地面と旋回フレームとの間を垂直に移動する必要があり、迅速な移動が困難であるという問題がある。
【0007】
一方、特許文献2による昇降装置は、2基のラダーを折畳み可能に連結した大掛かりな構造であるため、上部旋回体に充分な設置スペースが確保できる大型の油圧ショベルにしか適用することができないという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、地面と上部旋回体の上面との間を迅速に移動することができるようにした建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下部走行体と、前記下部走行体に旋回可能に搭載される上部旋回体と、前記上部旋回体に搭載された貯油タンクとを備えた建設機械において、前記貯油タンクの外面は、前記貯油タンクの上面に上がるときの足場となる階段面が形成されており、前記階段面に対応する階段形状に形成されたタンクカバーと、前記タンクカバーを、前記貯油タンクの前記階段面の上方に重なる格納位置と前記貯油タンクの前記階段面の下段側に隣接して前記上部旋回体よりも下側へと延びる昇降位置とに移動させるカバー移動装置とを備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、タンクカバーを昇降位置に移動させることにより、貯油タンクの階段面と階段形状のタンクカバーとが、上部旋回体の下方から貯油タンクの上面へと階段状に連続する足場を形成する。これにより、作業者は、貯油タンクの上面と地面との間を迅速に移動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態が適用された油圧ショベルを、作業装置を省略した状態で右後方から見た斜視図である。
【
図2】
図1中のタンクカバーが昇降位置に移動した状態を示す斜視図である。
【
図3】燃料タンク、タンクカバー、リンク機構等を
図1中の矢示III-III方向から見た断面図である。
【
図4】
図3中のタンクカバーが昇降位置に移動した状態を示す断面図である。
【
図5】制御装置、遠隔操作器、パイロット信号遮断バルブ、電動モータ、角度センサの接続状態を示すブロック図である。
【
図6】タンクカバーを昇降位置に移動させるときに制御装置が実行する制御処理を示す流れ図である。
【
図7】タンクカバーを格納位置に移動させるときに制御装置が実行する制御処理を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態による建設機械を、油圧ショベルに適用した場合を例に挙げ、
図1ないし
図7を参照しつつ詳細に説明する。なお、実施形態では、油圧ショベルの走行方向を前後方向とし、油圧ショベルの走行方向と直交する方向を左右方向として説明する。
【0013】
油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、下部走行体2に旋回可能に搭載された上部旋回体3とを備え、これら下部走行体2と上部旋回体3とにより車体が構成されている。上部旋回体3の前側には作業装置(図示せず)が設けられ、油圧ショベル1は、上部旋回体3を旋回させつつ作業装置を俯仰動させることにより、土砂の掘削作業等を行う。
【0014】
下部走行体2は、左右のクローラ(履帯)2Aを有し、走行モータによってクローラ2Aを周回させることにより、油圧ショベル1を走行させる。上部旋回体3は、旋回フレーム4、カウンタウエイト5、キャブ6、外装カバー7、作動油タンク8、燃料タンク9、タンクカバー11等を含んで構成されている。
【0015】
上部旋回体3はベースとなる旋回フレーム4を有し、旋回フレーム4は、旋回装置(図示せず)を介して下部走行体2上に旋回可能に取付けられている。
図3に示すように、旋回フレーム4は、上部旋回体3の左右方向の中央部に位置して前後方向に延びるセンタフレーム4Aと、センタフレーム4Aを挟んで左右両側に設けられた断面D字型の左右のサイドフレーム4B(右側のみ図示)とを有している。センタフレーム4Aは、厚肉な底板4A1と、底板4A1上に固定された左右の縦板4A2(右側のみ図示)とを有し、縦板4A2の前端側は、作業装置の基端(ブームフート)を支持するブーム支持部4A3となっている。センタフレーム4A(底板4A1および縦板4A2)とサイドフレーム4Bとの間は、例えば断面C字型の枠状をなす張出しビーム4C等を介して連結されている。張出しビーム4Cの上面には、燃料タンク9が取付けられている。
【0016】
旋回フレーム4の前端側(ブーム支持部4A3)には、作業装置(図示せず)の基端が回動可能に取付けられている。旋回フレーム4の後端側には、作業装置との重量バランスをとるカウンタウエイト5が設けられている。旋回フレーム4の前部左側には、運転室を形成するキャブ6が設けられている。キャブ6内には、運転席、下部走行体2の走行動作を制御する走行操作装置、上部旋回体3の旋回動作および作業装置の動作を制御する作業用の操作装置(いずれも図示せず)が配置されている。また、旋回フレーム4には、カウンタウエイト5よりも前側に位置して原動機、油圧ポンプ、熱交換装置等の各種の搭載機器(いずれも図示せず)が搭載され、これら搭載機器は、旋回フレーム4上に設けられた外装カバー7の内部に収容されている。
【0017】
外装カバー7は、カウンタウエイト5の前側に位置して旋回フレーム4上に設けられ、上部旋回体3の外殻を構成している。外装カバー7は、左側面カバー7Aと、右側面カバー7Bと、上面カバー7Cと、原動機カバー7Dとを含んで構成されている。左側面カバー7Aは、旋回フレーム4に搭載された搭載機器を左側方から覆い、右側面カバー7Bは搭載機器を右側方から覆っている。上面カバー7Cは搭載機器を上方から覆い、原動機カバー7Dは、上面カバー7Cよりも上方に突出した搭載機器の上側部位を覆っている。
【0018】
作動油タンク8は、外装カバー7の前側に位置して旋回フレーム4の右側に搭載されている。作動油タンク8は、油圧ショベル1に搭載された各種の油圧アクチュエータに供給される作動油を貯留する。作動油タンク8の上面は、外装カバー7の上面カバー7Cと同一平面を形成し、上部旋回体3の上面を構成している。
【0019】
貯油タンクとしての燃料タンク9は、作動油タンク8の前側に隣接して旋回フレーム4の右側に配置され、旋回フレーム4の張出しビーム4C上に搭載されている。燃料タンク9は、底面9A、前面(図示せず)、後面9B、左側面9Cおよび階段面9Dによって囲まれた密閉容器として形成され、原動機に供給される燃料を貯留している。燃料タンク9の外面に形成された階段面9Dは、旋回フレーム4の右側のサイドフレーム4Bから外装カバー7の上面カバー7Cに向けて、斜め上向きに連続する複数段(例えば3段)の階段状に形成されている。階段面9Dの最上段は、燃料タンク9の上面9Eとなり、上面9Eは、外装カバー7の上面カバー7Cと同一平面を形成している。上面9Eの前側には給油口(図示せず)が設けられ、この給油口は、キャップ9Fによって開閉可能に封止されている。
【0020】
2本のタンク側ハンドレール10は、燃料タンク9の前面側と後面9B側に間隔をもって1本ずつ固定され、前後方向で対をなしている。タンク側ハンドレール10は、パイプ材等に曲げ加工を施すことにより形成され、立上り部10A、傾斜部10B、立下り部10Cを有している。立上り部10Aは、燃料タンク9の上面9Eから鉛直上向きに延び、傾斜部10Bは、立上り部10Aの上端から右斜め下方に延び、立下り部10Cは、傾斜部10Bの下端から鉛直下向きに延びている。2本のタンク側ハンドレール10は、例えば立上り部10Aの下端が燃料タンク9の上面9Eに固定された状態で、それぞれ燃料タンク9に固定されている。燃料タンク9の階段面9Dを足場として移動する作業者は、タンク側ハンドレール10を把持することにより、姿勢を安定させることができる。
【0021】
タンクカバー11は、油圧ショベル1の稼働時に燃料タンク9を上方から覆う位置に配置されている。タンクカバー11は、鋼板等に曲げ加工を施すことにより、燃料タンク9の階段面9Dに対応する階段形状に形成され、複数段(例えば3段)の踏み面11Aを有している。タンクカバー11の前後方向の長さ寸法は、燃料タンク9に取付けられた2本のタンク側ハンドレール10の間隔よりも小さく設定されている。タンクカバー11の前後方向の両端には、踏み面11Aから下方に張出す四角形状の補強板11Bが固定されている。タンクカバー11の最上段に位置する踏み面11Aに固定された補強板11B(以下、最上段の補強板11Bという)には、後述するリンク16およびリンク17の先端が連結されている。
【0022】
タンクカバー11は、後述するカバー移動装置13により、
図1および
図3に示す格納位置と、
図2および
図4に示す昇降位置との間で移動する。タンクカバー11は、格納位置に移動したときには、燃料タンク9の階段面9Dの上方に重なった状態で燃料タンク9を覆う。タンクカバー11の最上段に位置する踏み面11Aには、タンクカバー11が格納位置となったときに燃料タンク9のキャップ9Fに対応する位置に、切欠き部11Cが形成されている。一方、タンクカバー11は、昇降位置に移動したときには、燃料タンク9の階段面9Dの下段側に隣接して上部旋回体3(旋回フレーム4)よりも下方へと延びる。タンクカバー11が昇降位置を保持した状態では、タンクカバー11の3段の踏み面11Aと燃料タンク9の階段面9Dとが、地面と外装カバー7の上面カバー7C(上部旋回体3の上面)との間を昇降するための階段状に連続する足場を形成する。
【0023】
2本のカバー側ハンドレール12は、タンクカバー11の前端側と後端側に間隔をもって1本ずつ固定され、前後方向で対をなしている。カバー側ハンドレール12は、パイプ材等に曲げ加工を施すことにより形成され、立上り部12A、傾斜部12B、立下り部12Cを有している。立上り部12Aは、タンクカバー11の最上段の踏み面11Aから鉛直上向きに延び、傾斜部12Bは、立上り部12Aの上端から右斜め下方に延び、立下り部12Cは、傾斜部12Bの下端から鉛直下向きに延びている。2本のカバー側ハンドレール12は、立上り部12Aの下端が最上段の踏み面11Aに固定され、立下り部12Cの下端が最下段の踏み面11Aに固定された状態で、それぞれタンクカバー11に固定されている。タンクカバー11の踏み面11Aを足場として移動する作業者は、カバー側ハンドレール12を把持することにより、姿勢を安定させることができる。
【0024】
カバー移動装置13は、上部旋回体3に設けられている。カバー移動装置13は、リンク機構14と電動モータ18とを含んで構成され、タンクカバー11を格納位置と昇降位置とに移動させる。
【0025】
リンク機構14は、タンクカバー11の前後方向の両端部と旋回フレーム4との間に1基ずつ設けられ、タンクカバー11を挟んで前後方向で対をなしている(後側のみ図示)。
図3および
図4に示すように、リンク機構14は、リンク取付板15と、タンクカバー11の最上段の補強板11Bと、リンク16,17とを含んで構成されている。
【0026】
リンク取付板15は、燃料タンク9が取付けられた旋回フレーム4の張出しビーム4Cに固定されている。リンク取付板15のうち燃料タンク9と前後方向で対向する内側面には、直線状に延びる2本のリンク16,17の基端が、ピン(図示せず)を介して回動可能に連結されている。リンク16,17の先端側は、燃料タンク9に干渉しない位置でタンクカバー11側に屈曲し、タンクカバー11の最上段の補強板11Bにピン、長溝等(いずれも図示せず)を介して連結されている。リンク機構14は、タンクカバー11を旋回フレーム4に対し、
図3の格納位置と
図4の昇降位置との間で回動可能に支持する。
【0027】
駆動源としての電動モータ18は、リンク取付板15のうち燃料タンク9とは反対側となる外側面に設けられている。電動モータ18は、後述する制御装置20からの制御信号に応じて作動し、リンク16の基端にトルクを伝達することにより、リンク機構14を駆動してタンクカバー11を格納位置と昇降位置との間で回動させる。
【0028】
角度センサ19は、電動モータ18に隣接してリンク取付板15の外側面に設けられている。角度センサ19は、リンク17の基端の回動角度を検出し、回動角度に応じた検出信号を制御装置20に出力する。制御装置20は、角度センサ19からの検出信号が示すリンク17の回動角度に基づいて、タンクカバー11が格納位置にあるか昇降位置にあるかを判定する。
【0029】
制御装置20は、上部旋回体3に搭載され、カバー移動装置13の動作を制御する。
図5に示すように、制御装置20の入力側には、角度センサ19、後述する遠隔操作器21およびパイロット信号遮断バルブ22が接続され、制御装置20の出力側には、電動モータ18およびパイロット信号遮断バルブ22が接続されている。制御装置20は、角度センサ19からの検出信号、遠隔操作器21からの指令信号、およびパイロット信号遮断バルブ22からの検出信号に基づいて、電動モータ18、およびパイロット信号遮断バルブ22に制御信号を出力する。
【0030】
遠隔操作器21は、タンクカバー11を格納位置と昇降位置とに回動させるため、作業者等により油圧ショベル1から離れた場所で操作される。遠隔操作器21は、制御装置20との間で無線通信を行い、格納位置を保持するタンクカバー11を昇降位置に回動させる指令信号、または昇降位置を保持するタンクカバー11を格納位置に回動させる指令信号を出力する。
【0031】
ここで、油圧ショベル1には、コントロールバルブ(図示せず)が搭載されている。コントロールバルブは、油圧ショベル1に搭載された各種の油圧アクチュエータと油圧ポンプ(いずれも図示せず)との間に設けられている。コントロールバルブには、各種の油圧アクチュエータに対応する複数のパイロット部が設けられ、キャブ6内に配置された走行操作装置、作業用の操作装置は、コントロールバルブのパイロット部とパイロットポンプとの間を接続するパイロット管路に設けられている。キャブ6内の作業者が、走行操作装置あるいは作業用の操作装置を操作すると、パイロットポンプからパイロット管路に吐出したパイロット圧(パイロット信号)が、コントロールバルブの複数のパイロット部に選択的に供給される。これにより、油圧ポンプから吐出した作動油(圧油)が、コントロールバルブを介して油圧アクチュエータに供給され、操作装置の操作に応じて各種の油圧アクチュエータの動作が制御される。
【0032】
パイロット信号遮断装置としてのパイロット信号遮断バルブ22は、パイロット管路に設けられている。パイロット信号遮断バルブ22は、例えば電磁パイロット部を有する電磁弁により構成され、制御装置20からの制御信号に応じてパイロット管路を開閉する。パイロット信号遮断バルブ22が閉弁したときには、パイロット管路が遮断されることにより、コントロールバルブへのパイロット信号の出力が遮断される(パイロット信号遮断状態)。パイロット信号遮断バルブ22が開弁したときには、パイロット管路が開放されることにより、コントロールバルブへのパイロット信号の出力が可能となる。
【0033】
パイロット信号遮断バルブ22が閉弁してパイロット信号遮断状態となった場合には、コントロールバルブへのパイロット信号の出力が遮断されるため、走行操作装置および作業用の操作装置に対する操作の有無に関わらず、油圧ショベル1に搭載された油圧アクチュエータの動作が禁止される。一方、パイロット信号遮断バルブ22が開弁してパイロット信号遮断状態が解除された場合には、コントロールバルブへのパイロット信号の出力が可能となるため、走行操作装置および作業用の操作装置に対する操作に応じて、油圧アクチュエータの動作を制御することができる。
【0034】
制御装置20は、パイロット信号遮断バルブ22が開弁しているとき、即ちコントロールバルブへのパイロット信号の出力が遮断されていないときには、タンクカバー11を格納位置(
図1および
図3の位置)に保持する。従って、油圧ショベル1が作動可能な状態においては、タンクカバー11の格納位置から昇降位置への移動が禁止される。この結果、例えば上部旋回体3が旋回動作を行うときには、タンクカバー11の格納位置から昇降位置への移動を禁止することにより、タンクカバー11が下部走行体2等に衝突するのを防止する構成となっている。
【0035】
一方、制御装置20は、タンクカバー11が昇降位置(
図2および
図4の位置)にあるときには、パイロット信号遮断バルブ22を閉弁させ、コントロールバルブへのパイロット信号の出力を遮断する。従って、タンクカバー11が昇降位置にある状態においては、キャブ6内に配置された走行用操作装置および作業用の操作装置に対する操作の有無に関わらず、油圧ショベル1に搭載された油圧アクチュエータの動作が禁止される。この結果、タンクカバー11が昇降位置にあるときには、例えば上部旋回体3が不用意に旋回動作を行うことが禁止され、タンクカバー11が下部走行体2等に衝突するのを防止する構成となっている。
【0036】
本実施形態による油圧ショベル1は、上述の如き構成を有するもので、油圧ショベル1は、タンクカバー11を格納位置に保持した状態で、下部走行体2により作業現場まで走行し、上部旋回体3を旋回させつつ、作業装置(図示せず)を用いて土砂の掘削作業等を行う。
【0037】
油圧ショベル1に搭載された原動機、油圧ポンプ、熱交換装置等の各種の搭載機器(いずれも図示せず)に対するメンテナンス作業を行うときには、作業者は、例えば外装カバー7の上面カバー7Cに上がり、原動機カバー7Dを開いて作業を行う。このメンテナンス作業を行う前に、作業者は、油圧ショベル1の燃料タンク9から安全な距離を保った場所で遠隔操作器21を操作し、タンクカバー11を格納位置から昇降位置へと回動させる指令信号を、制御装置20に向けて送信する。これにより、制御装置20は、パイロット信号遮断バルブ22からの検出信号、角度センサ19からの検出信号等に基づいて、カバー移動装置13の電動モータ18を制御し、タンクカバー11を昇降位置へと回動させる。
【0038】
次に、タンクカバー11を格納位置から昇降位置へと回動させるときに、制御装置20が実行する制御処理について、
図6を参照して説明する。この制御処理は、遠隔操作器21が操作されることによりスタートし、制御装置20は、ステップS1において遠隔操作器21からの指令、即ち、タンクカバー11を昇降位置に回動させる指令を読み込んだ後、ステップS2に移行する。
【0039】
ステップS2において、制御装置20は、パイロット信号遮断バルブ22からの検出信号に基づいて、パイロット信号遮断バルブ22が閉弁しているか否か、即ちパイロット信号遮断状態にあるかを判定する。ステップS2で「NO」と判定したときには、ステップS1に戻り、ステップS2で「YES」と判定したときには、ステップS3に移行する。ステップS3では、パイロット信号遮断バルブ22に対し、これを閉弁させる制御信号を出力し、パイロット信号遮断状態が解除されるのを禁止する。
【0040】
次に、制御装置20は、ステップS4においてカバー移動装置13の電動モータ18に制御信号を供給し、タンクカバー11の格納位置から昇降位置への移動を開始させた後、ステップS5において、タンクカバーが昇降位置に移動したか否かを判定する。ステップS5の判定は、角度センサ19からの検出信号が示すリンク17の回動角度に基づいて行われる。ステップS5で「NO」と判定したときにはステップS4に戻り、ステップS5で「YES」と判定したときにはステップS6に移行する。ステップS6では、電動モータ18への制御信号の出力を停止し、タンクカバー11の昇降位置への移動動作を終了した状態で、制御処理を終了する。
【0041】
このように、制御装置20は、パイロット信号遮断バルブ22によるパイロット信号遮断状態を保持したまま、タンクカバー11を格納位置から昇降位置へと回動させる。これにより、タンクカバー11が格納位置から昇降位置へと移動する間に、不用意に油圧アクチュエータが作動するのを防止し、タンクカバー11が下部走行体2等に衝突するのを防止することができる。
【0042】
図2に示すように、タンクカバー11が昇降位置に移動した状態では、タンクカバー11は、燃料タンク9の階段面9Dの下段側に隣接して上部旋回体3の旋回フレーム4よりも下方へと延びる。これにより、タンクカバー11の3段の踏み面11Aと燃料タンク9の階段面9Dにより、地面と外装カバー7の上面カバー7Cとの間に階段状に連続する足場を形成することができる。この結果、作業者は、カバー側ハンドレール12およびタンク側ハンドレール10を把持しつつ、タンクカバー11の踏み面11Aおよび燃料タンク9の階段面9Dを踏進むことにより、地面と外装カバー7の上面カバー7Cとの間を迅速かつ安全に移動(昇降)することができる。
【0043】
従って、例えば特許文献2のような昇降装置を設置するための大きな設置スペースを確保することができない油圧ショベル1においても、作業者は、燃料タンク9の階段面9Dと階段状のタンクカバー11とを足場として、燃料タンク9の上面9Eと地面との間を迅速に移動することができる。このため、例えば下部走行体2に設けられた梯子状のステップ(図示せず)やクローラ2Aを足掛かりとして上部旋回体3に上る場合に比較して、作業者の負担を軽減することができる。
【0044】
搭載機器に対するメンテナンス作業が終了した後には、昇降位置を保持したタンクカバー11を格納位置へと回動させる。この場合、作業者は遠隔操作器21を操作し、タンクカバー11を昇降位置から格納位置へと回動させる指令信号を、制御装置20に向けて送信する。これにより、制御装置20は、カバー移動装置13の電動モータ18を制御し、タンクカバー11を格納位置へと回動させる。
【0045】
次に、タンクカバー11を昇降位置から格納位置へと回動させるときに、制御装置20が実行する制御処理について、
図7を参照して説明する。この制御処理は、遠隔操作器21が操作されることによりスタートし、制御装置20は、ステップS11において遠隔操作器21からの指令、即ち、タンクカバー11を格納位置に回動させる指令を読み込んだ後、ステップS12に移行する。
【0046】
ステップS12において、制御装置20は、パイロット信号遮断バルブ22からの検出信号に基づいて、パイロット信号遮断バルブ22が閉弁しているか否か、即ちパイロット信号遮断状態にあるかを判定する。ステップS12で「NO」と判定したときには、ステップS11に戻り、ステップS12で「YES」と判定したときには、ステップS13に移行する。ステップS13では、パイロット信号遮断バルブ22に対し、これを閉弁させる制御信号を出力し、パイロット信号遮断状態が解除されるのを禁止する。
【0047】
次に、制御装置20は、ステップS14においてカバー移動装置13の電動モータ18に制御信号を供給し、タンクカバー11の格納位置から昇降位置への移動を開始させた後、ステップS15において、タンクカバーが格納位置に移動したか否かを判定する。ステップS15の判定は、角度センサ19からの検出信号が示すリンク17の回動角度に基づいて行われる。ステップS15で「NO」と判定したときにはステップS14に戻り、ステップS15で「YES」と判定したときにはステップS16に移行する。
【0048】
ステップS16では、電動モータ18への制御信号の出力を停止し、タンクカバー11の格納位置への移動動作を終了した後、ステップS17に移行する。ステップS17では、パイロット信号遮断バルブ22に対し、これを開弁させる制御信号を出力することにより、パイロット信号遮断状態を解除した状態で、制御処理を終了する。
【0049】
このように、タンクカバー11を昇降位置から格納位置へと回動させる場合にも、制御装置20は、パイロット信号遮断バルブ22によるパイロット信号遮断状態を保持する。これにより、タンクカバー11が昇降位置から格納位置へと移動する間においても、不用意に油圧アクチュエータが作動するのを防止し、タンクカバー11が下部走行体2等に衝突するのを防止することができる。
【0050】
図1に示すように、タンクカバー11が格納位置に移動した状態では、タンクカバー11が下部走行体2等に干渉することがないため、制御装置20は、パイロット信号遮断バルブ22を開弁させる。これにより、パイロット信号遮断状態が解除され、コントロールバルブへのパイロット信号の出力が可能となる。このため、キャブ6内に配置された走行操作装置および作業用の操作装置に対する操作に応じて、油圧アクチュエータの動作を制御することができ、油圧ショベル1を用いて土砂の掘削作業等を行うことができる。
【0051】
しかも、タンクカバー11が格納位置に移動した状態では、タンクカバー11は、燃料タンク9の階段面9Dの上方に重なった状態で燃料タンク9を覆う。このため、上部旋回体3内において燃料タンク9が占有する設置スペース内に、階段状に連続する複数段の踏み面11Aを有するタンクカバー11を収めることができる。この結果、機器類の設置スペースが限られた油圧ショベル1においても、燃料タンク9の設置スペースがあれば、階段を兼用するタンクカバー11を搭載することができる。
【0052】
かくして、実施形態による油圧ショベル1は、下部走行体2と、下部走行体2に旋回可能に搭載される上部旋回体3と、上部旋回体3に搭載された燃料タンク9とを備え、燃料タンク9の外面には、燃料タンク9の上面9Eに上がるときの足場となる階段面9Dが形成されており、階段面9Dに対応する階段形状に形成されたタンクカバー11と、タンクカバー11を、燃料タンク9の階段面9Dの上方に重なる格納位置と燃料タンク9の階段面9Dの下段側に隣接して上部旋回体3よりも下側へと延びる昇降位置とに移動させるカバー移動装置13とを備えている。
【0053】
この構成によれば、カバー移動装置13によってタンクカバー11を昇降位置に移動させることにより、燃料タンク9の階段面9Dと階段状のタンクカバー11とが、上部旋回体3の下方から燃料タンク9の上面9Eへと階段状に連続する足場を形成する。これにより、例えば特許文献2のような昇降装置を設置するための大きな設置スペースを確保することができない油圧ショベル1においても、作業者は、燃料タンク9の階段面9Dと階段状のタンクカバー11とを足場として、燃料タンク9の上面9Eと地面との間を迅速に移動することができる。
【0054】
実施形態では、カバー移動装置13の動作を制御する制御装置20を備え、カバー移動装置13は、上部旋回体3とタンクカバー11との間を連結するリンク機構14と、制御装置20によって制御され、リンク機構14を駆動する電動モータ18とを含んで構成されている。この構成によれば、電動モータ18によって駆動されるリンク機構14により、タンクカバー11を格納位置と昇降位置との間で回動させることができる。
【0055】
実施形態では、制御装置20を離れた場所から操作可能な遠隔操作器21を備えている。この構成によれば、油圧ショベル1を稼働する前の始業点検を行う場合に、作業者は、燃料タンク9から安全な距離を保った場所で遠隔操作器21を操作し、タンクカバー11を昇降位置に移動させることができる。これにより、作業者は、タンクカバー11および燃料タンク9の階段面9Dを利用して、外装カバー7の上面カバー7Cと地面との間を迅速に移動することができ、外装カバー7内に収容された搭載機器に対するメンテナンス作業の作業性を高めることができる。
【0056】
実施形態では、油圧アクチュエータと油圧ポンプとの間に設けられたコントロールバルブに対するパイロット信号の出力を遮断するパイロット信号遮断バルブ22を備え、制御装置20は、パイロット信号遮断バルブ22によりパイロット信号の出力が遮断されていないときには、タンクカバー11を格納位置に保持する。この構成によれば、油圧ショベル1に搭載された油圧アクチュエータの動作が可能な状態、即ち、油圧ショベル1が作動可能な状態においては、タンクカバー11の格納位置から昇降位置への移動が禁止される。この結果、例えば上部旋回体3が旋回動作を行うときには、タンクカバー11の格納位置から昇降位置への移動を禁止することにより、タンクカバー11が下部走行体2等に衝突するのを防止することができる。
【0057】
実施形態では、制御装置20は、タンクカバー11が昇降位置にあるときには、パイロット信号遮断バルブ22によりパイロット信号の出力を遮断する。この構成によれば、タンクカバー11が昇降位置にある状態においては、キャブ6内に配置された走行用操作装置および作業用の操作装置に対する操作の有無に関わらず、油圧ショベル1に搭載された油圧アクチュエータの動作が禁止される。この結果、タンクカバー11が昇降位置にあるときには、例えば上部旋回体3が不用意に旋回動作を行うことが禁止され、タンクカバー11が下部走行体2等に衝突するのを防止することができる。
【0058】
なお、実施形態では、燃料タンク9に階段面9Dを設けた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば作動油タンクに階段面を設け、この階段面9Dに対応する階段状のタンクカバーを備える構成としても良い。
【0059】
また、実施形態では、クローラ式の油圧ショベル1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばホイール式の油圧ショベル、油圧クレーン等の貯油タンクを備えた建設機械に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 油圧ショベル
2 下部走行体
3 上部旋回体
9 燃料タンク(貯油タンク)
9D 階段面
9E 上面
11 タンクカバー
13 カバー移動装置
14 リンク機構
18 電動モータ(駆動源)
20 制御装置
21 遠隔操作器
22 パイロット信号遮断バルブ(パイロット信号遮断装置)