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  • 特開-電解質溶液及び電気化学的防食工法 図1
  • 特開-電解質溶液及び電気化学的防食工法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140668
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】電解質溶液及び電気化学的防食工法
(51)【国際特許分類】
   C23F 13/10 20060101AFI20241003BHJP
   C04B 41/60 20060101ALI20241003BHJP
   C23F 13/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C23F13/10 B
C04B41/60
C23F13/02 L
C23F13/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051933
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】七澤 章
【テーマコード(参考)】
4G028
4K060
【Fターム(参考)】
4G028AA01
4K060AA03
4K060BA03
4K060BA07
4K060BA22
4K060BA43
4K060BA45
4K060BA50
4K060EA08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】塩害及びASRを抑制することができる電気化学的防食工法に用いられる電解質溶液、及び電気化学的防食工法を提供することを目的とする。
【解決手段】電気化学的防食工法に用いられる電解質溶液であって、炭素数3以下のカルボン酸塩及び炭素数3以下のアルキルスルホン酸塩の少なくともいずれかの有機酸塩を電解質として有する、電解質溶液である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学的防食工法に用いられる電解質溶液であって、
炭素数3以下のカルボン酸塩及び炭素数3以下のアルキルスルホン酸塩の少なくともいずれかの有機酸塩を電解質として有する、電解質溶液。
【請求項2】
前記有機酸塩が、アルカリ土類金属を含む、請求項1に記載の電解質溶液。
【請求項3】
pHが、6.5~12.0である、請求項1又は2に記載の電解質溶液。
【請求項4】
前記電解質の濃度が、3~20質量%である、請求項1又は2に記載の電解質溶液。
【請求項5】
コンクリート表面側に設置した電極を外部電極とし、コンクリート内部側に埋設されている鉄筋を内部電極とし、前記内部電極、請求項1又は2に記載の電解質溶液を保持した電解質溶液保持材、及び前記外部電極をこの順に配置して、前記外部電極と前記内部電極との間に直流電流を通電する鉄筋コンクリートの電気化学的防食工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質溶液及び電気化学的防食工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路、鉄道などの土木建設構造物、具体的には橋梁の下部工、橋梁の橋桁、トンネルなどの地下構造物又は半地下構造物、カルバートなどの構築には、一般的に鉄筋コンクリートが使用されている。この鉄筋コンクリートは、高い圧縮強度性能を持つコンクリートと、高い引張強度性能を持つ鉄筋とを組み合わせることにより、圧縮強度と引張強度とを併せ持つ複合構造体を作ることが可能であり、構造物の材料として多く使用されている。なお、この鉄筋コンクリートを用いた構造物には、所謂PC構造物と呼ばれ、更にPC鋼材(PC鋼線、PC鋼棒、PC鋼より線など)をコンクリート内に配置したコンクリート構造物も多く存在する。
【0003】
ところで、コンクリートの鉄筋やPC鋼材などの鋼材周辺に多量の塩化物イオンが存在すると、いわゆる塩害が発生する。「塩害」とは、沿岸部にあるコンクリート構造物の場合、海水の飛沫がコンクリート表面に付着し、その塩化物イオンがコンクリートの吸着現象や濃度勾配によりコンクリート中に浸透して鉄筋まで到達すると、塩化物イオンにより鉄筋の不動態皮膜が破壊され腐食が始まる劣化現象である。さらに、過去のコンクリート構造物では、細骨材として海砂が使用されることもあり、その際、管理の不十分さから塩化物イオンの除去が十分に行われないまま使用されたため、多量の塩化物イオンがコンクリート中に存在することになり、その結果、鉄筋の不動態皮膜が破壊され腐食が始まるケースもある。なお、道路の管理で用いられる塩化物系の凍結防止剤によっても「塩害」は発生する。
上記のような鉄筋コンクリートの劣化現象が進行すると、複合構造物としての耐久性が大きく低下することになる。
【0004】
劣化した鉄筋コンクリートの補修方法として、破壊を伴うことなく電気化学的な方法により補修を行う方法が提案され、実施されてきた。
例えば、特許文献1では、板状体の一方面側に外部電極を配設するとともに、外部電極配設領域の全面を電解質溶液保持材で被覆した電極用ユニットパネルを、処理対象のコンクリート面に対して、並べて配設するとともに、コンクリート内部に埋設されている鉄筋を内部電極とし、外部電極と内部電極との間に直流電流を通電することによりコンクリート内部の塩化物イオンを外部電極側に泳動させて除去する鉄筋コンクリートの電気化学的処理方法が提案されている。この電気化学的処理方法に用いられる電解質溶液の溶質としては、リチウム、ナトリウム及びカリウム、並びにマグネシウムやカルシウムなどの炭酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩、さらに水酸化物や塩化物等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6586000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される方法など、電気化学的な方法により補修を行うことで、コンクリート構造物の脱塩を、非破壊でかつ効率的に行うことができる。
しかしながら、電気化学的な方法においては、コンクリート中に含まれるナトリウム等のアルカリ金属イオンがコンクリート中の陰極に引き寄せられて、陰極である鉄筋(鋼材)周辺に集積され、アルカリシリカ反応(以下「ASR」と記載する。)が開始されることがある。ASRが開始すると、コンクリート内部の反応性の高いシリカがアルカリと反応しケイ酸アルカリゲルが生成され、ゲルの吸水により、膨張が生じて、コンクリート構造物にひび割れが発生し耐久性の低下を招く恐れがある。
【0007】
以上から、本発明は、塩害及びASRを抑制することができる電気化学的防食工法に用いられる電解質溶液、及び電気化学的防食工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために鋭意検討したところ、本発明者は下記本発明に想到し、当該課題を解決できることを見出した。すなわち本発明は下記のとおりである。
[1] 電気化学的防食工法に用いられる電解質溶液であって、炭素数3以下のカルボン酸塩及び炭素数3以下のアルキルスルホン酸塩の少なくともいずれかの有機酸塩を電解質として有する、電解質溶液。
[2] 前記有機酸塩が、アルカリ土類金属を含む、[1]に記載の電解質溶液。
[3] pHが、6.5~12.0である、[1]又は[2]に記載の電解質溶液。
[4] 前記電解質の濃度が、3~20質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の電解質溶液。
[5] コンクリート表面側に設置した電極を外部電極とし、コンクリート内部側に埋設されている鉄筋を内部電極とし、前記内部電極、[1]~[4]のいずれかに記載の電解質溶液を保持した電解質溶液保持材、及び前記外部電極をこの順に配置して、前記外部電極と前記内部電極との間に直流電流を通電する鉄筋コンクリートの電気化学的防食工法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、塩害及びASRを抑制することができる電気化学的防食工法に用いられる電解質溶液、及び電気化学的防食工法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る電気化学的防食工法の実施に用いられる電気化学的防食システムの一例を示す部分断面図である。
図2】実施例の試験方法を説明する図であり、側面側の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[電解質溶液]
本発明の電解質溶液は、電気化学的防食工法に用いられる電解質溶液であって、炭素数3以下のカルボン酸塩及び炭素数3以下のアルキルスルホン酸塩の少なくともいずれかの有機酸塩を電解質として有する。
【0012】
(炭素数3以下のカルボン酸塩)
本発明の電解質溶液に含まれる電解質として、炭素数3以下のカルボン酸塩を用いることができる。炭素数3以下のカルボン酸塩としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸の塩を用いることができる。なかでも、ASRの膨張を抑制する点からプロピオン酸塩が好ましい。
【0013】
また、炭素数3以下のカルボン酸塩は、アルカリ土類金属を含むことが好ましい。アルカリ土類金属としては、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、及びRaであり、中でも、ASRの膨張を抑制する点からCaが好ましい。
したがって、炭素数3以下のカルボン酸塩としては、プロピオン酸カルシウムが好ましい。
【0014】
(炭素数3以下のアルキルスルホン酸塩)
本発明の電解質溶液に含まれる電解質として、炭素数3以下のアルキルスルホン酸塩を用いることができる。炭素数3以下のアルキルスルホン酸塩としてが、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1-プロパンスルホン酸、及び2-プロパンスルホン酸の塩を用いることができる。なかでも、ASRの膨張を抑制する点からエタンスルホン酸塩が好ましい。
【0015】
また、炭素数3以下のアルキルスルホン酸塩は、炭素数3以下のカルボン酸塩と同様に、アルカリ土類金属を含むことが好ましい。アルカリ土類金属としては、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、及びRaであり、中でも、ASRの膨張を抑制する点からCaが好ましい。
したがって、炭素数3以下のアルキルスルホン酸塩としては、エタンスルホン酸カルシウムが好ましい。
【0016】
本発明の電解質溶液を用いることで、コンクリートの塩害及びASRを抑制することができる。この理由は定かではないが、以下のように推定される。
例えばプロピオン酸カルシウムは、溶解度が比較的大きく、水和物との複塩に固定されないイオン半径の大きいプロピオン酸イオンを有する。このようなプロピオン酸カルシウムを水に添加した場合、水和初期は、下記の式(1)に示す反応により、OHが平衡する対イオンが溶解度の高いNaOHから溶解度の低いCa(OH)に変化するため、電解質溶液中のOH濃度が低下する。また、プロピオン酸カルシウムはプロピオン酸イオンのイオン半径が大きく、水和物に固定されにくい影響により、液相中に長く残存でき、OH濃度低下の効果を持続させることができる。したがって、プロピオン酸カルシウムは、水和初期からOH濃度の低下を長期にわたり維持することができるので、ASRによる膨張を抑制する効果があると推察される。
【0017】
【化1】
【0018】
なお、上記では、電解質としてプロピオン酸カルシウムを用いた例で説明するが、炭素数3以下のカルボン酸塩及び炭素数3以下のアルキルスルホン酸塩であれば、同様の効果を奏すると推察される。
【0019】
電解質溶液は、上記電解質を溶媒に溶解させて用いられる。溶媒としては、水が好ましく用いられる。
電解質溶液のpHは、6.5以上12.0以下であることが好ましく、7.0以上11.8以下がより好ましく、7.5以上11.5以下がさらに好ましい。pHを上記範囲とすることで、電圧の上昇を抑え、電解質溶液中に塩素を除去することができ、膨張率も抑えることができる。
【0020】
また、電解質の濃度は、3質量%以上20質量%以下が好ましく、5質量%以上18質量%以下がより好ましく、8質量%以上15質量%以下がさらに好ましい。電解質の濃度を上記範囲とすることで、pHを6.5以上12.0以下とすることができる。また、電圧の上昇を抑え、電解質溶液中に塩素を除去することができ、膨張率も抑えることができる。
【0021】
[電気化学的防食工法]
本発明の電気化学的防食工法は、コンクリート表面側に設置した電極を外部電極とし、コンクリート内部側に埋設されている鉄筋を内部電極とし、内部電極、上記記載の電解質溶液を保持した電解質溶液保持材、及び外部電極をこの順に配置して、外部電極と内部電極との間に直流電流を通電する。
【0022】
本発明の電気化学的防食工法は、直流電流を通電することで、例えば、コンクリート内部の塩化物イオン(Cl)を外部電極側に泳動させて除去したり(脱塩工法)、アルカリ性の電解質溶液をコンクリート内部の鉄筋側に電気浸透させ、中性化しているコンクリートのアルカリ性を回復させたり(再アルカリ化工法)することができる。
また、鉄筋の腐食は電気化学的反応によって進行するため、鉄筋に継続的に直流電流を流すことで、鉄筋の腐食反応を電気化学的に抑制することで、コンクリート構造物の耐久性を向上させる(電気防食工法)こと、及び、電解質溶液中に存在する電解質イオンを電気泳動によって、鉄筋(陰極)側に移動させ、ひび割れ部やコンクリート表面に無機系物質の電着物を析出させることで、コンクリートに発生したひび割れの閉塞やコンクリート表面の緻密化を図る(電着工法)ことができる。
【0023】
さらに、本発明の電気化学的防食工法によれば、炭素数3以下のカルボン酸塩及び炭素数3以下のアルキルスルホン酸塩の少なくともいずれかの有機酸塩を電解質として有する電解質溶液を用いているので、ASRによる膨張を抑制することができ、ひび割れの発生によるコンクリートの劣化を抑制することができる。
【0024】
なお、電気化学的防食工法により、コンクリート内部の塩化物イオン(Cl)を外部電極側に泳動させて除去されるため、電気化学的防食工法を実施することで、pHは低下する。
電気化学的防食工法の実施中の電解質溶液のpHは、上述した電解質溶液のpHである6.5以上12.0以下の範囲であることが好ましく、7.0以上
11.8以下がより好ましく、7.5以上11.5以下がさらに好ましい。電気化学的防食工法により、電解質溶液のpHが変化するため、pHを上記範囲内に調整しながら処理することが好ましい。pHの調整は、電解質溶液のpHが低くなった場合は、新しい電解質溶液を調整し、低くなった電解質溶液を置き換えることにより行うことができる。また、pHが高くなった場合は、水で希釈する等の方法により調整することができる。
【0025】
[電気化学的防食システム]
次に本発明の電気化学的防食工法を行うために用いられるシステムについて説明する。図1は、電気化学的防食工法に用いられる電気化学的防食システムの一例を示す部分断面図である。図1に示す電気化学的防食システムは、コンクリート10の表面側に設置した電極を外部電極20とし、コンクリート10の内部側に埋設されている不図示の鉄筋を内部電極とし、当該内部電極、電解質溶液を保持した電解質保持材22、外部電極20、保護基板24をこの順に配置して、外部電極20と内部電極との間に直流電流を通電する鉄筋コンクリートの電気化学的防食システムである。
【0026】
図1に示すように、電解質溶液を保持した電解質保持材22、外部電極20、及び保護基板24はこの順に配置してなる電極用ユニットパネル26として、例えば、保護基板24の外側に複数の桟木30で、固定化されている。
また、2つの桟木30の間には、電解質供給管としての給水ホース34が設けられて固定されている。給水ホース34の任意箇所には電解質供給口(不図示)が設置されている。また、給水ホース34からの電解質を回収する電解質回収口を有する回収管(不図示)も適宜設けられている。すなわち、給水ホース34の電解質供給口からは継続的又は断続的に、電解質溶液が電解質保持材に供給され、その後は電解質が回収管(不図示)で回収される。
【0027】
つまり、当該システムでは、任意箇所に電解質供給口を設置するとともに、電解質回収口を設置し、継続的又は断続的に、電解質供給口から電解質を電解質保持材に供給するとともに、電解質溶液回収口から電解質を回収するようになっていることが好ましい。かかる構成とすることで、電解質の安定した供給が可能とあり当該システムの効果をより発揮させやすくすることができる。
【0028】
外部電極を構成する電極は、腐食性に優れ、転用を可能とするため、チタン製の丸棒を用いることが好ましく、その表面にイリジウム焼き付け処理を施したものを用いることがより好ましい。丸棒サイズはφ2~5mm程度のものを用いることが好ましい。また、一般的な鋼棒に対してチタン、チタン合金又は白金などでめっき処理したものを用いてもよい。
【0029】
電解質溶液保持材22としては、親水性素材による不織布、親水処理された不織布又はフェルトを用いることができる。
親水性素材による不織布とは、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、綿などの天然繊維のように素材自在に親水性を有する原料により製造された不織布である。
親水処理された不織布とは、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維を原料として製造された不織布であって、合成繊維の製造過程で親水基を持つ化合物、例えばポリエチレングリコールの酸化生成物などを共存させて重合させる方法や、塩化第2スズのような金属塩で処理し、表面を部分溶解し多孔性とし金属の水酸化物を沈着させる方法等により合成繊維を膨潤または多孔性とし、毛細管現象を応用して親水性を与えた不織布である。
フェルトは、羊毛または他の獣毛繊維を縮絨してシート状にしたものである。
【0030】
外部電極20と、コンクリート内部に埋設されている鉄筋(内部電極)とは、それぞれ電極ケーブルと接続し、電極間が通電できるようになっている。
【0031】
以上のような状態で、外部電極と、コンクリート内部に埋設されている鉄筋(内部電極)との間に直流電流を通電(好ましくはコンクリート表面積当り0.5A/m以上、より好ましくは0.7~1.5A/m)しながら、継続的又は断続的(間欠的)に、電解質の供給管に電解質溶液を供給する。
【0032】
ここで、コンクリートへ効率的に電解質を電気浸透性させ、また、コンクリート内部の塩化物イオンを外部電極側に泳動させて除去する観点から、電解質溶液の供給は断続的(間欠的)であることが好ましい。
【実施例0033】
以下、本発明について、実施例、及び比較例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はその趣旨を逸脱しない限り、以下の実施例、及び比較例に限定されるものではない。
【0034】
<実験例1>
下記表1に示す配合のコンクリートと、直径13mmの鉄筋を用いて直径100mm×長さ400mmの円柱試験体を作製した。コンクリートには、各実験において、塩素の溶出を確認するため、外割でClが約5kg/mとなるように試薬のNaClを添加した。なお、コンクリートは28日間封緘養生後、試験に使用した。
【0035】
【表1】
【0036】
通電試験は、図2に示すように、電解質溶液42を内部に含む容器44に、円柱試験体46、さらに、円柱試験体46の周囲にチタンメッシュ48を配置した。鉄筋50を内部電極とし、チタンメッシュ48を外部電極として、これらの間に直流電流が通電できるようにした。
【0037】
電解質溶液は、実施例として、プロピオン酸カルシウム及びエタンスルホン酸カルシウムを用い、表2に示す濃度となるように調整した。また、比較例として、炭酸カルシウム及び炭酸リチウムを用い、表2に示す濃度となるように調整した。
【0038】
通電は、直流電源方式は定電流方式(一定の電流値を通電)を使用し、所定の電流を流すのに必要な電圧を測定し、電圧の経時変化をデータロガーにて記録保存した。コンクリートへの通電は、コンクリート表面積当り、1A/mとした。
【0039】
≪評価方法≫
電圧(V):通電開始後、所定の日数が経過した時点で、陽極と陰極間の電位差についてテスターで測定し、通電中はデータロガーにて記録保存した。
Cl濃度:通電開始後、所定の日数が経過した時点で、電解質溶液を約5ml採取し、電位差滴定装置を使用し塩化物イオン選択制電極を用いて、Cl濃度を測定した。
促進膨張率:JCI-S-011-2017 コンクリート構造物のコア試料による膨張率測定方法に準拠して測定した。促進膨張率は28日間コンクリートに通電した後、通電終了後から100日後、300日後の促進膨張率を測定した。
結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
電解質として、プロピオン酸カルシウム、及びエタンスルホン酸カルシウムを用いた試験No.1-1、1-2については、炭酸カリウム及び炭酸リチウムを用いた試験No.1-3、1-4より低い電圧で通電を行えることが確認できた。
また、電解質溶液中のCl濃度も、14日後においては、試験No.1-1、1-2が、試験No.1-3、1-4より高い濃度を示しており、コンクリート内部の塩化物イオン(Cl)をより多くチタンメッシュ48側に泳動させて除去できていることが確認できた。
さらに、膨張率も、試験No.1-3と比較し、試験No.1-1、1-2は、膨張率を抑えることができており、ASRを抑制できていることが確認できた。
【0042】
(試験例2)
電解質溶液として、プロピオン酸カルシウム、及びエタンスルホン酸カルシウムを用い、pH及び電解質の濃度を変更して試験を行った。結果を表3に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
表3に示すように、電解質にプロピオン酸カルシウム及びエタンスルホン酸カルシウムを用いた実施例のいずれもpH及び電解質濃度を高くすることで、電解質溶液中に溶解するCl濃度を高くすることができ、また、膨張率も抑制できることが確認できた。また、pH及び電解質濃度を高くすることで、通電時の電圧が高くなるが、実用上は問題ないレベルである。
このように、pH及び電解質濃度を高くすることで、Clの除去率を高めるとともに、コンクリートの膨張率を抑制することができるが、通電時の電圧を抑えるためには、pH及び濃度を所定の範囲に調整することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、鉄筋を内部に有する鉄筋コンクリートに用いることのできる電解質溶液及び電気化学的防食工法であり、道路、鉄道などの土木建設構造物などに好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0046】
10 コンクリート
20 外部電極
22 電解質保持材
24 保護基板
26 電極用ユニットパネル
30 桟木
34 給水ホース
42 電解質溶液
44 容器
46 円柱試験体
48 チタンメッシュ
50 鉄筋
図1
図2