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特開2024-140671溶融金属の処理方法および連続鋳造方法
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  • 特開-溶融金属の処理方法および連続鋳造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140671
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】溶融金属の処理方法および連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20241003BHJP
   B22D 11/10 20060101ALI20241003BHJP
   B22D 11/11 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B22D11/108 A
B22D11/10 310G
B22D11/10 310Z
B22D11/11 B
B22D11/108 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051937
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 雅也
(72)【発明者】
【氏名】岡本 真吾
(72)【発明者】
【氏名】清水 悟
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004MB14
(57)【要約】
【課題】耐火物のスラグによる浸潤を抑制して耐用性を向上させる技術を提供する。
【解決手段】溶融金属の保持または処理のために用いられる耐火物が溶融金属上のスラグと接触する溶融金属の処理方法であって、前記スラグの組成のうち、前記耐火物へのスラグの浸潤を促進する成分およびスラグの浸潤を抑制する成分の少なくともいずれか一方を調整して、使用後の前記耐火物に、前記スラグが未浸潤の厚みtを所定量確保する溶融金属の処理方法である。連続鋳造を行うにあたり、前記耐火物が、取鍋から溶鋼を流入させる給湯部と、鋳型へ溶鋼を流出させる排出部との間のタンディッシュ内溶鋼流路に設けられた堰であることが好ましい。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属の保持または処理のために用いられる耐火物が溶融金属上のスラグと接触する溶融金属の処理方法であって、
前記スラグの組成のうち、前記耐火物へのスラグの浸潤を促進する成分およびスラグの浸潤を抑制する成分の少なくともいずれか一方を調整して、使用後の前記耐火物に、前記スラグが未浸潤の厚みtを所定量確保する、溶融金属の処理方法。
【請求項2】
前記耐火物がAlおよびSiOを含む、請求項1に記載の溶融金属の処理方法。
【請求項3】
前記耐火物がAl:45質量%以上、および、SiO:10質量%以上を含む、請求項2に記載の溶融金属の処理方法。
【請求項4】
前記耐火物へのスラグの浸潤を促進する成分が前記スラグ中の酸化鉄および酸化マンガンであり、
前記耐火物へのスラグの浸潤を抑制する成分が前記スラグ中の酸化クロムである、請求項1に記載の溶融金属の処理方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の溶融金属の処理方法を用いて連続鋳造を行うにあたり、
前記耐火物が、取鍋から溶鋼を流入させる給湯部と、鋳型へ溶鋼を流出させる排出部との間のタンディッシュ内溶鋼流路に設けられた堰である、連続鋳造方法。
【請求項6】
前記堰の初期の厚みをtとし、
前記堰の耐火物へのスラグの浸潤を促進する成分としての前記スラグ中の酸化鉄の含有量および酸化マンガンの含有量の和と、
前記堰の耐火物へのスラグの浸潤を抑制する成分としての前記スラグ中の酸化クロムの含有量とから、操業終了時点での、前記スラグが未浸潤の厚みtが所定量となるようにスラグ成分を調整する、請求項5に記載の連続鋳造方法。
【請求項7】
前記スラグが未浸潤の厚みtを下記(1)式で算出する、請求項6に記載の連続鋳造方法。
=t-{a×(Fe+MnO)-b×(Cr)}+c (1)
ここで、
:堰の初期の厚み(mm)、
:スラグが未浸潤の堰の厚み(mm)、
(Fe+MnO):スラグ中の酸化鉄の含有量および酸化マンガンの含有量の和(質量%)、
(Cr):スラグ中の酸化クロムの含有量(質量%)、
a、b、c:係数および定数
を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラグによる耐火物への浸潤を抑制した溶融金属の処理方法に関し、特に、連続鋳造方法について、タンディッシュに設けられた堰のスラグによる浸潤を抑制して耐用性を向上させるものである。
【背景技術】
【0002】
溶融金属の処理、たとえば、溶銑や溶鋼を取り扱うには耐火物を配した処理容器や、耐火物からなる機能材が用いられる。耐火物は、高炉鍋や装入鍋、取鍋のほか、脱硫処理用のインペラ、タンディッシュ、その蓋、堰やロングノズル、スライディングノズルプレートなどに用いられている。たとえば、鋼の連続鋳造は、取鍋内の溶鋼をタンディッシュに注入し、更に浸漬ノズルから鋳型に流し込んで行われる。この際、取鍋からの溶鋼を受け入れるタンディッシュ内の溶鋼注入部と、溶鋼を鋳型に排出するタンディッシュノズルとの間に堰が設けられる。このような堰の効果として、溶鋼注入部からタンディッシュノズルに向かう短絡流を防止するなど、タンディッシュ内での溶鋼流れを制御して介在物の浮上分離を促進することが期待できる。そして、介在物を除去して清浄度の高い鋳片を製造することができる。
【0003】
タンディッシュの堰は、取鍋から流入したスラグと接触する場合が多く、通常は耐食性を考慮してAlやMgOを主成分とした耐火物で構成される。しかしながら、AlやMgOなどの単一成分の含有量が多い場合には熱衝撃による亀裂が入りやすくなる。そこで、一般的にはSiOなどの体積膨張率の低い原料を含有させた複合組成で製造させることが多い。こうした理由から、タンディッシュの堰は、耐火物の成分比率を決定してきた。このような成分系を用いたタンディッシュの堰は、リサイクル使用量に限界があるため、産業廃棄物として処理せざるを得ない場合がある。そこで、たとえば、特許文献1には、耐火物使用量の削減を目的として堰の再使用方法の技術が開示されている。
【0004】
また、取鍋からタンディッシュ内に溶鋼を注入するに際して、不可避的にタンディッシュ内に取鍋スラグが混入する。このような取鍋スラグは、タンディッシュ内で浮上分離した介在物を吸収除去するのに適した成分でない。また、取鍋スラグ自体に含まれるSiOや低級酸化物(Fe、MnO)によって溶鋼が汚染される可能性がある。そのため、タンディッシュ内スラグ組成を制御したり、あるいは、フラックス被覆して溶鋼と空気との接触を防止したりする必要がある。そのために、たとえば、特許文献2には、タンディッシュ内にフラックスを添加する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-183586号公報
【特許文献2】特開2012-110946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術には、以下のような課題があった。
すなわち、特許文献1によれば、使用後に回収したタンディッシュの堰耐火物は、加熱、冷却および酸化物の浸潤などによって様々な応力に晒されている。そのため、損傷、変形し、特に溶鋼圧力を受けて取鍋溶鋼注入側から鋳型への流出側に向けて凸に変形する傾向がある。特許文献1ではタンディッシュ堰が凸変形した際の再使用限界変形量については記載されている。しかし、酸化物の堰耐火物への浸潤を抑制して変形を抑止する技術については述べられていない。
【0007】
また、特許文献2では、タンディッシュ内にフラックスを投入してスラグ組成コントロールするに際して、取鍋スラグや取鍋からの注入開始時に流出する詰め砂による成分変動も考慮して組成コントロールをする技術が記載されている。しかし、特許文献2の技術は、いずれも介在物を吸収除去すること、もしくはスラグ酸化度を低減させることにより溶鋼汚染を防止することを目的としている。しかし、タンディッシュ堰への酸化物浸潤を抑制する技術については述べられていない。つまり、耐火物へのスラグの浸潤に関し、スラグ成分の影響を考慮したものがない状況にある。
【0008】
本発明は、上記した従来の課題を解決し、耐火物のスラグによる浸潤を抑制して耐用性を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる溶融金属の処理方法は、溶融金属の保持または処理のために用いられる耐火物が溶融金属上のスラグと接触する溶融金属の処理方法であって、前記スラグの組成のうち、前記耐火物へのスラグの浸潤を促進する成分およびスラグの浸潤を抑制する成分の少なくともいずれか一方を調整して、使用後の前記耐火物に、前記スラグが未浸潤の厚みtを所定量確保することを特徴とする。
【0010】
なお、本発明にかかる溶融金属の処理方法は、
(a)前記耐火物がAlおよびSiOを含むこと、
(b)前記耐火物がAl:45質量%以上、および、SiO:10質量%以上を含むこと、
(c)前記耐火物へのスラグの浸潤を促進する成分が前記スラグ中の酸化鉄および酸化マンガンであり、前記耐火物へのスラグの浸潤を抑制する成分が前記スラグ中の酸化クロムであること、
などがより好ましい解決手段になり得る。
【0011】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる連続鋳造方法は、上記いずれかにかかる溶融金属の処理方法を用いて連続鋳造を行うにあたり、前記耐火物が、取鍋から溶鋼を流入させる給湯部と、鋳型へ溶鋼を流出させる排出部との間のタンディッシュ内溶鋼流路に設けられた堰であることを特徴とする。
【0012】
なお、本発明にかかる連続鋳造方法は、
(d)前記堰の初期の厚みをtとし、前記堰の耐火物へのスラグの浸潤を促進する成分としての前記スラグ中の酸化鉄の含有量および酸化マンガンの含有量の和と、前記堰の耐火物へのスラグの浸潤を抑制する成分としての前記スラグ中の酸化クロムの含有量とから、操業終了時点での、前記スラグが未浸潤の厚みtが所定量となるようにスラグ成分を調整すること、
(e)前記スラグが未浸潤の厚みtを下記(1)式(式中で、t:堰の初期の厚み(mm)、t:スラグが未浸潤の堰の厚み(mm)、(Fe+MnO):スラグ中の酸化鉄の含有量および酸化マンガンの含有量の和(質量%)、(Cr):スラグ中の酸化クロムの含有量(質量%)、a、b、c:係数および定数を表す。)で算出すること、
などがより好ましい解決手段になり得る。
=t-{a×(Fe+MnO)-b×(Cr)}+c (1)
【発明の効果】
【0013】
本発明による溶融金属の処理方法および連続鋳造方法によれば、スラグ組成の調整により、使用後の耐火物にスラグが未浸潤の厚みを確保できるので、耐火物の耐用性を向上させることが可能となる。また、堰については堰の変形を防止し、堰の耐用性を向上させることが可能となる。ひいては、耐火物のリサイクル性が向上し、溶融金属の高清浄度が維持できるなど、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態にかかるタンディッシュを示す断面概念図である。
図2】上記実施例における使用中のタンディッシュの堰にスラグが浸潤した様子を説明する断面概念図である。
図3】タンディッシュスラグの組成調整の有無による、使用後のタンディッシュの堰へのスラグの浸潤量を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態にかかる連続鋳造方法に用いるタンディッシュの構成を示す断面概念図である。本実施形態に用いるタンディッシュ10は、鉄皮1の内側に内張耐火物2が施工される。図示しない取鍋からロングノズル11を介して給湯部4に溶鋼3が注ぎ込まれ、排湯部5の下部に設置したノズル(図示せず)から図示しない鋳型に溶鋼3を注ぎ込む。
【0017】
図1に示すタンディッシュ10は、給湯部側スラグ6と排湯部側スラグ7とにタンディッシュ内のスラグ6、7を分断する堰8が設けられている。このようなタンディッシュ10を用いて、鋼の連続鋳造を行う場合、堰8は給湯部側スラグ6と排湯部側スラグ7との両面からスラグの浸潤が進行する。
【0018】
なお、図1では単ストランドの連続鋳造機用のタンディッシュを例に示したが、複数のストランドに供給するように複数の排湯部を有していてもよい。その場合、給湯部から排湯部への溶鋼流路のいずれにも堰8を設けることができる。堰8の形状も図1に示した板状に限られず、タンディッシュ内のスラグと接触するものであればどのような形状であってもよい。堰8は楔9によって、固定されており、溶鋼流や浮力に抗している。
【0019】
タンディッシュ10の堰8を構成する耐火物の組成としては、使用環境を考慮し、AlおよびSiOを含有した耐火物であることが好ましい。耐火物組成は、Al:45質量%以上、および、SiO:10質量%以上を含むことが好ましい。さらに好ましくはAl:45質量%以上、および、SiO:30質量%以上である。この組成であれば耐食性と対熱衝撃性に優れる。他の耐火物成分としてはSiC、FCを含有しても良い。
【0020】
タンディッシュ10の堰8は、図2に示すようにタンディッシュ内のスラグ6、7と接する面から垂直方向の寸法を堰の厚みとすると、初期厚みt(mm)を有する。給湯部側スラグ6と排湯部側スラグ7とが堰8の耐火物に浸潤し、浸潤層8aを形成する。浸潤層8a内ではタンディッシュ10の堰8本体材質であるAlやSiOが浸潤したスラグと反応して共融相をなし、溶鋼温度では液相が形成される。このような浸潤層8aはタンディッシュ10の堰8の材質強度に寄与しない層となる。浸潤層8aの厚さを給湯部4側と、排湯部5側の2か所に分類し、それぞれt、tとすると材質強度に寄与する有効な堰厚み、つまり、スラグが未浸潤の厚みtは下記(2)式で表される。
=t-(t+t) ・・・(2)
【0021】
材質強度に寄与する有効な堰厚みtが0になった場合、スラグが堰8の全厚に浸潤した状態となる。全厚浸潤状態のタンディッシュ10の堰8は、強度が溶鋼3からの動圧よりも低くなると、溶鋼3の動圧により排湯部5側へ凸状に変形し、堰8の倒壊などのトラブルに繋がるおそれがある。また、堰8に貫通孔が発生すると給湯部4側スラグ6が排湯部5側に流出し、品質トラブルとなるおそれがある。したがって、堰8の有効堰厚みt≧10mmの状態、つまり、堰8にスラグ未浸潤の厚みを確保する状態で連続鋳造を実施することが求められる。好ましくは、堰8の初期厚みtが100mmのとき、有効堰厚みt≧40mmとすることである。
【0022】
堰8を構成する耐火物へのスラグ浸潤は、前述の通り堰8本体の材質と浸潤したスラグが共融相を形成することで進行する。堰8に接触するスラグの組成が低融点や低粘度であるほどスラグ浸潤がより深くまで進行することになる。したがって、堰8に接触するスラグ組成を、高融点、かつ、高粘度となるように組成コントロールすれば、堰8へのスラグ浸潤を抑制することができる。
【0023】
本実施形態では、タンディッシュ10内のスラグ6、7の組成のうち、酸化鉄(Fe)や酸化マンガン(MnO)は、スラグを低融点、低粘度にする作用を有するため、堰8の耐火物へのスラグの浸潤を促進する成分とする。また、同様に酸化クロム(Cr)は、スラグを高融点、高粘度にする作用を有するため、堰8の耐火物へのスラグの浸潤を抑制する成分とする。
【0024】
発明者らは、連続鋳造におけるタンディッシュ10の使用時間9~11hの範囲で、堰8の耐火物へのスラグ浸潤量(厚み)t+t(mm)を調査した。その結果、下記(3)式の関係を導き出した。
+t=a×(Fe+MnO)-b×(Cr)-c (3)
ここで、
+t:堰8の耐火物へのスラグ浸潤厚み(mm)、
(Fe+MnO):スラグ中の酸化鉄および酸化マンガンの含有量(質量%)、
(Cr):スラグ中の酸化クロムの含有量(質量%)、
a、b、c:係数および定数
を表す。
【0025】
上記(2)および(3)式から、有効堰厚みtを確保するためには以下の(4)式を満足する必要がある。
≧a×(Fe+MnO)-b×(Cr)-c+t (4)
【0026】
本実施形態にかかる連続鋳造方法では、上記(4)式を満たすようにタンディッシュ10の堰8の初期厚みtおよびタンディッシュ10内のスラグ組成を調整する。たとえば、FeOやMnOなどの低級酸化物を還元して低減するために金属Alなどの還元材をタンディッシュ内のスラグに投入することができる。また、スラグ浸潤を抑制する酸化クロムを投入することもできる。スラグの組成を調整する時期も、出鋼時に取鍋内の溶鋼上のスラグにAlなどの還元材を投入すること、二次精錬時に取鍋内の溶鋼上のスラグに還元材や酸化クロムなどを散布すること、および、タンディッシュ内の溶鋼上のスラグに還元材や酸化クロムなどを散布することなどから選ぶことができる。スラグ組成の調整にあたっては、過去の実績から取鍋スラグの組成を推定し、または、実測して、タンディッシュ内のスラグ組成を推定し、または、実測して、上記(3)式から、スラグ浸潤量(厚み)t+tを算出することが好ましい。本実施形態では、スラグ未浸潤の厚みtが10mm以上となるように、好ましくは、40mm以上となるように、堰の初期厚みtを選択したり、スラグ組成を調整したりする。
【0027】
本実施形態にかかるタンディッシュ内スラグ組成の調整により、使用後に堰8にはスラグ未浸潤の厚みtを確保することができ、堰8の熱間強度を維持できる。したがって、堰8の変形の抑制とともに、楔9による堰8の固定を維持できる。
【0028】
上記実施形態では、鋼の連続鋳造方法について、タンディッシュの堰を例に説明したが、タンディッシュの容器を構成する耐火物、取鍋から溶鋼を注入するためのロングノズル、スライディングノズルプレートにも適用できる。他の溶融金属の処理にも適用できる。たとえば、溶銑の予備処理に用いられる高炉鍋、装入鍋の耐火物、機械撹拌式脱硫装置のインペラなどスラグと接触する耐火物に適用できる。
【実施例0029】
図1に示すタンディッシュを用いて鋼の連続鋳造を行った。処理時間は9~11hであり、溶鋼の通過量は3000~4000t程度であった。タンディッシュ内の各種スラグ組成と堰へのスラグ浸潤量の関係を表1にまとめて示す。堰の初期厚みtは100mmとした。タンディッシュ内のスラグ組成として、酸化鉄(Fe)、酸化マンガン(MnO)および酸化クロム(Cr)の含有量(質量%)を分析した。その値を用いて、上記(3)式により、スラグ浸潤量(t+t)を計算値として求めた。式中のa=2.89、b=10.38およびc=-61.19とした。鋳造後に回収したタンディッシュの堰を調査し、スラグ浸潤量の実績値とした。表1の結果から、スラグ浸潤量の計算値と実績値とはよく一致していることが判る。
【0030】
【表1】
【0031】
処理No.1では、スラグ浸潤量が堰の初期厚みtと同じ100mmに達しており、強度の低下した堰が溶鋼流の動圧に押されて、排湯部側に凸に変形した。変形によって生じた亀裂から堰の一部が脱落するトラブルが起きた。
【0032】
タンディッシュ内のスラグ組成のうち、酸化鉄や酸化マンガンは転炉スラグに由来するものと考えられる。一方、酸化クロムは、取鍋からの注入開始時に流入する詰め砂が由来と考えられる。処理No.2はスラグの改質が不十分で残存する有効な堰の厚みが10mm未満となった。処理No.3~6はスラグの改質により、残存する有効な堰の厚みが10mm以上を確保できた。処理No.4~6では、転炉から取鍋に出鋼した溶鋼上のスラグに金属Alを投入して、低級酸化物の還元を行った。処理No.3、5、6は酸化クロムを添加した。スラグ組成を調整した処理No.5および6(発明例)では、(Fe+MnO)を9質量%以下に低減できた。そして、図3に示すように、処理No.5および6に相当する発明例では、スラグ浸潤量が60mm未満、つまり、残存する有効な堰の厚みが40mm以上となり、健全な堰形状が維持できた。
【0033】
なお、本実施例では取鍋に出鋼された溶鋼上のスラグに金属Alを投入することで組成コントロールを実施したが、低級酸化物を低減させる手法であればこの手法に制限されるものではない。また、タンディッシュ内へのフラックス投入によるスラグ組成コントロールも有用である。たとえば、Crを含有するフラックスを投入する方法などでもスラグ浸潤を抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の連続鋳造方法によれば、タンディッシュの堰の耐用性が向上するので、安定してトラブルなく連続鋳造を操業でき、鋼の品質が維持できるので、産業上有用である。
【符号の説明】
【0035】
1 鉄皮
2 内張耐火物
3 溶鋼
4 (取鍋からの)給湯部
5 (鋳型への)排湯部
6 (給湯部側)スラグ
7 (排湯部側)スラグ
8 (タンディッシュの)堰
8a (スラグの)浸潤層
9 楔
10 タンディッシュ
11 ロングノズル
図1
図2
図3