(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140673
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】多孔質陶磁器の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 38/00 20060101AFI20241003BHJP
C04B 38/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C04B38/00 304Z
C04B38/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051944
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000214191
【氏名又は名称】長崎県
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】高松 宏行
(72)【発明者】
【氏名】浦郷 寛康
【テーマコード(参考)】
4G019
【Fターム(参考)】
4G019GA01
(57)【要約】
【課題】簡易な方法でありながら、物性に優れた多孔質構造物が得られると共に、原料粒子間の気孔の大きさ及び気孔の割合を制御することが可能な多孔質陶磁器の製造方法を提供する。
【解決手段】製造方法Aは、▲か▼焼工程(符号S1)と、粉砕工程(符号S2)と、分級工程(符号S3)と、成形工程(符号S4)と、本焼成工程(符号S5)を備える。また、▲か▼焼工程(符号S1)は、陶磁器原料を、焼結が完了する前の状態まで、加熱して焼き固める工程である。また、粉砕工程(符号S2)は、▲か▼焼工程(符号S1)を経て、軽く焼き締まった原料集合体(バルク状の原料)を破砕する工程である。粉砕工程(符号S2)により、バルク状の陶磁器原料を破砕して、多様な粒径サイズの原料粒子が混在した原料粒子群を得ることができる。本焼成工程(符号S5)を行うことで、成形物を充分に焼き締めて、焼結を完了させ、原料粒子間に所望のサイズの気孔を形成した、硬い最終製品、即ち、多孔質陶磁器を形成することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陶磁器原料を加熱して焼結が完了する前の状態に焼き固める▲か▼焼工程と、
前記▲か▼焼工程を経て生成した生成物を粉砕して、粒径サイズが異なる原料粒子とする粉砕工程と、
前記原料粒子を粒径サイズに応じて複数の区画に分ける分級工程と、
前記複数の区画から、少なくとも1つの区画を選択して、選択した区画の原料粒子を成形する成形工程と、
前記成形工程を経た成形物を、前記▲か▼焼の加熱温度よりも高い温度で加熱して焼結を完了させる本焼成工程とを備える
多孔質陶磁器の製造方法。
【請求項2】
前記▲か▼焼の加熱温度が、300度以上、かつ、1000度以下の温度である
請求項1に記載の多孔質陶磁器の製造方法。
【請求項3】
前記陶磁器原料は、
磁器原料、陶器原料、及び、ファインセラミックスからなる群から選択された一つ、又は、磁器原料、陶器原料、及び、ファインセラミックスからなる群から選択された一つと有機バインダーとの組み合わせである
請求項1に記載の多孔質陶磁器の製造方法。
【請求項4】
前記成形工程では、前記複数の区画から、2以上の区画を選択して、選択した区画の原料粒子を成形する
請求項1に記載の多孔質陶磁器の製造方法。
【請求項5】
前記本焼成工程を経た成形体は、前記陶磁器原料由来の組織のみで形成された
請求項1に記載の多孔質陶磁器の製造方法。
【請求項6】
前記陶磁器原料は、
前記磁器原料、又は、前記磁器原料と前記有機バインダーとの組み合わせであり、
前記▲か▼焼の加熱温度が、500度以上、かつ、900度以下の温度である
請求項3に記載の多孔質陶磁器の製造方法。
【請求項7】
前記陶磁器原料は、
前記陶器原料、又は、前記陶器原料と前記有機バインダーとの組み合わせであり、
前記▲か▼焼の加熱温度が、400度以上、かつ、800度以下の温度である
請求項3に記載の多孔質陶磁器の製造方法。
【請求項8】
前記陶磁器原料は、
前記ファインセラミックス、又は、前記ファインセラミックスと前記有機バインダーとの組み合わせであり、
前記▲か▼焼の加熱温度が、900度以上、かつ、1000度以下の温度である
請求項3に記載の多孔質陶磁器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔質陶磁器の製造方法に関する。詳しくは、簡易な方法でありながら、物性に優れた多孔質構造物が得られると共に、原料粒子間の気孔の大きさ及び気孔の割合を制御することが可能な多孔質陶磁器の製造方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、多孔質素材が有する優れた各種機能に注目して、種々の製品開発が行われている。
【0003】
多孔質素材の機能として、例えば、比重が低く軽量である点、断熱性、吸音・消音機能、物質保持・吸着機能、比表面積が大きい点、物質の選択分離機能、及び、物質の通過調整機能等が挙げられる。
【0004】
また、各種機能に基づく用途として、建材、断熱レンガ、建築物や道路の吸音材、調湿タイル、化学工業分野で用いる触媒担体、水や空気の浄化用の吸着剤、物質の精製又はクロマトグラフィーの分子篩材等があり、幅広く活用することができる。
【0005】
また、陶磁器の分野においても、多孔質陶磁器の製造技術が存在し、多孔質の特性を活かした製品づくりが行われている。
【0006】
ここで、例えば、多孔質陶磁器の製造技術の1つとして、有機物からなる気孔形成剤を原料に添加して、多孔質セラミックを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
この有機物からなる気孔形成剤を添加する方法では、焼成により気孔形成剤が消失して、気孔形成剤が存在していた箇所に気孔が形成され、多孔質セラミックとなる。
【0008】
また、多孔質陶磁器の製造方法として、セルベン等の既焼結原料の中にガラスを添加して焼成する方法がある。この方法では、溶融ガラスが結合材として働き、焼結原料の粒子同士が結合していない箇所が粒子間の気孔となり、多孔質陶磁器が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、特許文献1を含めて、有機物からなる気孔形成剤を利用する方法では、種々の気孔形成剤が市販されているが、形成される気孔の大きさが原料に依存するものとなり、所望の気孔の大きさや、気孔の割合に制御することが困難であった。
【0011】
また、複数の気孔形成剤を調合する等して気孔を制御しようとしても、気孔がうまく形成できなかったり、気孔が集中する領域と全くない領域が混在して、陶磁器中に気孔を均一に形成することができなかったりした。
【0012】
また、気孔形成剤の分散性が悪く、原料と混ざらず品質不良になることや、有機物が残留して黒く残り、見た目に悪影響を及ぼすこと又は気孔形成剤としてセルロースを用いた際に、加熱時に悪臭が出る等の不具合が生じていた。
【0013】
また、ガラスを添加する製造方法では、ガラスに起因して、ガラス箇所の強度低下、耐熱性の低下又は強アルカリを作用させると溶けてしまうといった耐薬品性の低下等、多孔質陶磁器の物性に欠点が生じていた。
【0014】
しかしながら、長年蓄積されてきた陶磁器の製造技術を利用して多孔質素材が製造できれば、陶磁器の原料や製造設備を用いて、多機能かつ有用な製品に展開することが可能となるため、陶磁器の製造技術を活用することが望まれている。
【0015】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、簡易な方法でありながら、物性に優れた多孔質構造物が得られると共に、原料粒子間の気孔の大きさ及び気孔の割合を制御することが可能な多孔質陶磁器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、本発明の多孔質陶磁器の製造方法は、陶磁器原料を加熱して焼結が完了する前の状態に焼き固める▲か▼焼工程と、前記▲か▼焼工程を経て生成した生成物を粉砕して、粒径サイズが異なる原料粒子とする粉砕工程と、前記原料粒子を粒径サイズに応じて複数の区画に分ける分級工程と、前記複数の区画から、少なくとも1つの区画を選択して、選択した区画の原料粒子を成形する成形工程と、前記成形工程を経た成形物を、前記▲か▼焼の加熱温度よりも高い温度で加熱して焼結を完了させる本焼成工程とを備える。
【0017】
なお、本明細書及び特許請求の範囲における「▲か▼」の表記は、実際には、JIS第一水準及び第二水準に含まれない外字であり、下記の外字に示す文字となる。また、「▲か▼」の表記の外字は、日本語での音読みは「カ」または「ケ」となる文字である。
【0018】
【0019】
ここで、▲か▼焼工程で、陶磁器原料を加熱して焼結が完了する前の状態に焼き固めることによって、陶磁器原料中の水分及び有機物由来の不純物が除去され、陶磁器原料が焼き締まることで硬くなり、バルク状の生成物にして、強度を向上させることができる。また、強度が向上したことで、この後の粉砕工程で、複数の陶磁器原料の一次粒子が集まって形成された団粒構造の多様な粒径サイズの原料粒子が混在した粒子群(粉末)を得ることが可能となる。
【0020】
一方、▲か▼焼工程を行わない場合には、陶磁器原料が低強度のままであるため、複数の陶磁器原料の一次粒子が集まって形成される団粒構造を維持することができずに、次の粉砕工程を行っても、元の陶磁器原料と同等の大きさの細かい粒径サイズの原料粒子しか得ることができず、多様な粒径サイズの原料粒子が混在した粒子群(粉末)が得られなくなってしまう。
【0021】
なお、ここでいう焼結が完了する前の状態とは、原料粒子が融点よりも低い温度で加熱され、原料粒子同士が結合して、粒子間のすき間が小さくなると同時に全体が収縮し、固まって緻密な物体となる前の状態を意味する。焼結が完了する前は、密度が低く、焼結が完了すると、密度が高くなる。また、焼結が完了する前は、原料粒子組織内に気孔が存在するが、焼結が完了すると、焼き締まって、原料粒子組織内の気孔がほとんど消え、原料粒子間の気孔が形成された状態となる。
【0022】
また、粉砕工程で、▲か▼焼工程を経て生成した生成物を粉砕して、粒径サイズが異なる原料粒子とすることによって、多様な粒径サイズの原料粒子が混在した粒子群(粉末)を得ることができる。即ち、▲か▼焼したバルク状の生成物を破砕して、広い粒度分布を有した、粉末状の原料粒子群が得られることになる。
【0023】
また、分級工程で、原料粒子を粒径サイズに応じて複数の区画に分けることによって、多様な粒径の粒子が混在した原料粒子群を、一定範囲の目的の粒径サイズごとに揃えることができる。
【0024】
また、成形工程で、複数の区画から、少なくとも1つの区画を選択して、選択した区画の原料粒子を成形することによって、所望の粒径サイズの範囲の原料粒子を、最終製品の形状に整えることができる。即ち、最終製品の用途又は形状に応じて、多孔質陶磁器の形状を形作ることができる。
【0025】
また、本焼成工程で、成形工程を経た成形物を、▲か▼焼の加熱温度よりも高い温度で加熱して焼結を完了させることによって、成形物中の原料粒子同士が接触した箇所が焼結により結合して、おこし状の焼成物を得ることができる。また、原料粒子間に、成形工程で選択した区画の原料粒子の、粒径サイズに応じた大きさの気孔を形成することができる。即ち、▲か▼焼の加熱温度よりも高い温度で加熱することによって、成形物を充分に焼き締めて、焼結を促進することが可能となる。この本焼成工程では、隣合う原料粒子の接点から除々に接着し、原料粒子間の隙間が小さくなると同時に、全体が収縮し、硬い最終製品を形成することができる。なお、ここでの隙間が、最終的な原料粒子間の気孔、即ち、多孔質陶磁器の主たる気孔となる部分である。
【0026】
また、▲か▼焼の加熱温度が、300度以上、かつ、1000度以下の温度である場合には、様々な種類の陶磁器原料を対象として、▲か▼焼を行い、バルク状の生成物にして、後の粉砕工程及び分級工程に耐えうるように、その強度を向上させることが可能となる。
【0027】
また、一方で、▲か▼焼の加熱温度が、300度未満の場合には、原料中の水分及び有機物由来の不純物の除去が不充分となり、陶磁器原料において強度を充分に向上させることができなくなってしまうおそれがある。この結果、陶磁器原料が、次工程の粉砕工程に耐えうる強度にならず、粉砕工程において、多様な粒径サイズの原料粒子が混在した粒子群(粉末)が得られなくなるおそれがある。また、▲か▼焼の加熱温度が、1000度を超える場合には、本焼成の適正温度が比較的高めの陶磁器原料であっても、焼結が完了してしまうおそれがあり、その後の粉砕工程以降の工程に、原料粒子を供することができなくなってしまう。
【0028】
また、陶磁器原料が、磁器原料、陶器原料、及び、ファインセラミックスからなる群から選択された一つ、又は、磁器原料、陶器原料、及び、ファインセラミックスからなる群から選択された一つと有機バインダーとの組み合わせである場合には、磁器原料、陶器原料、又は、ファインセラミックスのいずれかの原料の単一組織で構成された多孔質陶磁器を形成することができる。なお、有機バインダーは、原料粒子同士を繋ぎ合わせる助剤であり、添加することで可塑性や保形性を付与又は高めることができるが、本焼成工程において焼き出され、本焼成工程の後、多孔質陶磁器は、磁器原料、陶器原料、又は、ファインセラミックスのいずれかの原料由来の組織のみで構成されるものとなる。
【0029】
また、成形工程で、複数の区画から、2以上の区画を選択して、選択した区画の原料粒子を成形する場合には、複数の粒径サイズの範囲の原料粒子を組み合わせて、最終的に形成する気孔のサイズや、複数の気孔のサイズの組み合わせを多様なものにできる。また、複数の粒径サイズの範囲の原料粒子を組み合わせる際に、各区画の配合量を調整することで、形成される気孔の割合を調整することが可能となる。即ち、例えば、単一の区画のみの場合、その区画の粒径サイズの範囲に応じた大きさの気孔のみが形成されるが、複数の区画の粒径サイズの範囲を組み合わせることで、形成される気孔のサイズが変わり、気孔の大きさのバリエーションを増やすことができる。
【0030】
また、本焼成工程を経た成形体は、陶磁器原料由来の組織のみで形成された場合には、このことに起因して、陶磁器原料の種類に応じた、強度、耐熱性、又は、耐薬品性を多孔質陶磁器に付与することができる。また、原料の種類が簡素化されるため、製造コストを低減することができる。
【0031】
また、陶磁器原料が、磁器原料、又は、磁器原料と有機バインダーとの組み合わせであり、▲か▼焼の加熱温度が、500度以上、かつ、900度以下の温度である場合には、磁器原料に対して、焼結が完了する前の状態に留めながら、効率良く、原料中の水分や有機物などの不純物が除去され、強度を向上させることが可能となる。
【0032】
また、陶磁器原料が、陶器原料、又は、陶器原料と有機バインダーとの組み合わせであり、▲か▼焼の加熱温度が、400度以上、かつ、800度以下の温度である場合には、陶器原料に対して、焼結が完了する前の状態に留めながら、効率良く、原料中の水分や有機物などの不純物が除去され、強度を向上させることが可能となる。
【0033】
また、陶磁器原料が、ファインセラミックス、又は、ファインセラミックスと有機バインダーとの組み合わせであり、▲か▼焼の加熱温度が、900度以上、かつ、1000度以下の温度である場合には、ファインセラミックスに対して、焼結が完了する前の状態に留めながら、効率良く、原料中の水分や有機物などの不純物が除去され、強度を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る多孔質陶磁器の製造方法は、簡易な方法でありながら、物性に優れた多孔質構造物が得られると共に、原料粒子間の気孔の大きさ及び気孔の割合を制御することが可能な方法となっている。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の実施の形態である製造方法における各工程の流れを示す概略工程図である。
【
図2】実施例1の成形体の外観を示す写真図である。
【
図3】実施例1の成形体のデジタルマイクロスコープによる拡大画像を示す写真図である。
【
図4】実施例2の成形体の外観を示す写真図である。
【
図5】実施例3の成形体の外観を示す写真図である。
【
図6】実施例4の成形体の外観を示す写真図である。
【
図7】実施例5の成形体の外観を示す写真図である。
【
図8】実施例6の成形体の外観を示す写真図である。
【
図9】実施例7の成形体の外観を示す写真図である。
【
図10】実施例8及び比較例1の耐アルカリ性比較試験の結果を示す写真図である。
【
図11】水銀圧入法による気孔径分布測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を適用した多孔質陶磁器の製造方法の一例(本発明の実施の形態)の製造方法について説明する。
【0037】
[実施の形態]
本発明の実施の形態である製造方法Aは、
図1に示すように、▲か▼焼工程(符号S1)と、粉砕工程(符号S2)と、分級工程(符号S3)と、成形工程(符号S4)と、本焼成工程(符号S5)を備える。
【0038】
ここで、製造方法Aは、各種の陶磁器原料から、所望のサイズ及び割合の気孔が形成された多孔質陶磁器を製造する方法である。また、製造方法Aでは、従前の、有機物からなる気孔形成剤を利用する方法で製造した多孔質陶磁器よりも、高い気孔率で気孔を形成することが可能な方法である。
【0039】
また、▲か▼焼工程(符号S1)は、陶磁器原料を、焼結が完了する前の状態まで、加熱して焼き固める工程である。
【0040】
この▲か▼焼工程(符号S1)を行うことで、陶磁器原料中の水分が除去され、かつ、陶磁器原料中の有機物由来の不純物が除去される。また、陶磁器原料から、水分及び不純物が除去されることで、陶磁器原料が少し焼き締まり、強度を向上させることができる。
【0041】
また、粉砕工程(符号S2)は、▲か▼焼工程(符号S1)を経て、軽く焼き締まった原料集合体(バルク状の原料)を破砕する工程である。
【0042】
この粉砕工程(符号S2)を行うことで、▲か▼焼工程(符号S1)で生成した、バルク状の陶磁器原料を破砕して、多様な粒径サイズの原料粒子が混在した原料粒子群を得ることができる。
【0043】
また、分級工程(符号S3)は、粉砕工程(符号S2)で得られた、多様な粒径サイズの原料粒子が混在した原料粒子群を、篩等により、一定範囲のサイズごとに分画する工程である。
【0044】
この分級工程(符号S3)を行うことで、多様な粒径サイズの原料粒子群を、一定範囲の目的の粒径サイズごとに揃えることができる。
【0045】
また、成形工程(符号S4)は、分級工程(符号S3)を経た、複数の区画の原料粒子の中から、目的のサイズの気孔が形成できる原料粒子の区画を選択し、原料粒子を最終製品の形状に整える工程である。
【0046】
この成形工程(符号S4)を行うことで、最終製品の用途や形状に応じた、多孔体構造物に形作ることができる。
【0047】
また、本焼成工程(符号S5)は、成形工程(符号S4)で成形した多孔体構造物を、▲か▼焼工程(符号S1)の加熱温度よりも高い温度、かつ、融点よりも低い温度で加熱し、焼結を完了させ、原料粒子同士がその接点で焼結により結合して、おこし状の物体にする工程である。
【0048】
この本焼成工程(符号S5)を行うことで、成形物を充分に焼き締めて、焼結を完了させ、原料粒子間に所望のサイズの気孔を形成した、硬い最終製品、即ち、多孔質陶磁器を形成することができる。
【0049】
また、製造方法Aでは、陶磁器原料として、磁器原料、陶器原料又はファインセラミックスを用いることができる。また、陶磁器原料は、磁器原料、陶器原料又はファインセラミックスと、有機バインダーを組み合わせた原料とすることもできる。
【0050】
また、磁器原料は、各産地で採掘される陶石を主体としたものが採用可能であり、一例として、天草陶土、砥部陶土等が挙げられる。また、磁器原料は、配合陶土が採用可能である。例えば、各産地で独自に配合された陶土(磁器土)、美濃磁器土、瀬戸磁器土、各種▲せっ▼器土等や、耐熱陶土(コーディエライト)及び強化磁器坏土等が挙げられる。
【0051】
また、陶器原料は、例えば、各産地で採掘・調製される、白土、赤土、黒土等の陶土や、耐熱陶土(ペタライト、シャモット)等が採用可能である。
【0052】
また、ファインセラミックスは、例えば、アルミナセラミックス等が採用可能である。
【0053】
また、本発明を適用した製造方法Aでは、上記で挙げた原料以外にも、既知の陶磁器原料を用いることが可能である。
【0054】
また、▲か▼焼工程(符号S1)では、300度以上、かつ、1000度以下の温度で、陶磁器原料を加熱することが好ましい。
【0055】
ここで、▲か▼焼工程(符号S1)の加熱温度が300度未満となる場合には、原料中の水分及び有機物由来の不純物の除去が不充分となり、陶磁器原料の焼き締まりが足りず、強度を充分に向上させることができなくなってしまうおそれがある。また、この結果、次工程の粉砕工程(符号S2)において、原料集合体の強度が足りず、粉砕後に、比較的、粒径サイズの小さい原料粒子しか得られなくなってしまう。
【0056】
また、▲か▼焼工程(符号S1)の加熱温度が1000度を超える場合には、本焼成の適正温度が比較的高めの陶磁器原料であっても、焼結が完了してしまうおそれがあり、その後の粉砕工程(符号S2)以降の工程に、原料粒子を供することができなくなってしまう。
【0057】
また、▲か▼焼工程(符号S1)では、陶磁器原料の種類に応じて、加熱温度を以下のように設定することがさらに好ましい。
【0058】
例えば、磁器原料であれば、▲か▼焼工程(符号S1)の加熱温度が、500度以上、かつ、900度以下の温度に設定されることがさらに好ましい。また、陶器原料であれば、▲か▼焼工程(符号S1)の加熱温度が、400度以上、かつ、800度以下の温度に設定されることがさらに好ましい。また、ファインセラミックスであれば、▲か▼焼工程(符号S1)の加熱温度が、900度以上、かつ、1000度以下の温度に設定されることがさらに好ましい。
【0059】
このように、▲か▼焼工程(符号S1)の加熱温度は、陶磁器原料の種類に応じて、さらに好ましい温度に設定することで、焼結が完了する前の状態に留めながら、効率良く、原料中の水分や有機物などの不純物が除去され、強度を向上させることが可能となる。
【0060】
また、粉砕工程(符号S2)では、乾式又は湿式による粉砕方法が採用しうる。
【0061】
また、粉砕工程(符号S2)では、乾式であれば、一例として、ジョークラッシャー(粗粉砕)、ロールクラッシャー(中粉砕)、及びスタンプミル(粗粉砕~微粉砕)等の手法が採用しうる。また、湿式であれば、一例として、ボールミル(トロンミル)(微粉砕)の手法が採用しうる。
【0062】
また、本発明を適用した製造方法Aでは、上記で挙げた方法以外にも、陶磁器原料の種類や、形成したい気孔のサイズ及び割合に併せて、既知の粉砕手法を適宜用いることができる。
【0063】
また、分級工程(符号S3)では、乾式又は湿式による分画方法が採用しうる。
【0064】
また、分級工程(符号S3)では、乾式であれば、一例として、篩分け(金網等)(大粒径~小粒径)、空気分級(ジグザグ分級機、サイクロン分級機、渦式分級機等)(小粒径~微粒径)等の手法が採用しうる。また、湿式であれば、一例として、湿式篩分け(金網等)(大粒径~小粒径)、水簸(小粒径~微粒径)、湿式サイクロン分級機(小粒径~微粒径)等の手法が採用しうる。
【0065】
また、本発明を適用した製造方法Aでは、上記で挙げた方法以外にも、陶磁器原料の種類や、形成したい気孔のサイズ及び割合に併せて、既知の分画手法を適宜用いることができる。
【0066】
また、成形工程(符号S4)では、一例として、以下に記載する方法が採用しうる。
【0067】
まず、分級工程(符号S3)で分画した原料粒子(粉末)を、アルミナ等のセラミック容器に充填して、焼結させる方法がある。この方法では、得られる成形物の形状が、セラミック容器の形状に依存する。
【0068】
また、成形工程(符号S4)では、分級工程(符号S3)で分画した原料粒子(粉末)に、有機バインダー及び少量の水を添加し、粘土状にして、各種成形(手びねり、ろくろ、機械ろくろ、ローラーマシン)を行う方法も採用しうる。
【0069】
また、成形工程(符号S4)では、分級工程(符号S3)で分画した原料粒子(粉末)に、有機バインダー及び水を添加し、泥漿の状態にして、各種成形(排泥鋳込み、圧力鋳込み)を行う方法も採用しうる。
【0070】
また、本発明を適用した製造方法Aでは、上記で挙げた方法以外にも、陶磁器原料の種類や、形成したい気孔のサイズ及び割合に併せて、既知の成形手法を適宜用いることができる。
【0071】
また、本焼成工程(符号S5)では、陶磁器原料の種類に応じて、加熱温度を以下のように設定することがさらに好ましい。
【0072】
例えば、磁器原料であれば、本焼成工程(符号S5)の加熱温度が、1250度以上、かつ、1400度以下の温度に設定されることがさらに好ましい。また、陶器原料であれば、本焼成工程(符号S5)の加熱温度が、1200度以上、かつ、1350度以下の温度に設定されることがさらに好ましい。また、ファインセラミックスであれば、本焼成工程(符号S5)の加熱温度が、1700度以上、かつ、1800度以下の温度に設定されることがさらに好ましい。
【0073】
このように、本焼成工程(符号S5)の加熱温度は、陶磁器原料の種類に応じて、好ましい温度に設定することで、成形物を充分に焼き締めて、焼結を完了させ、原料粒子間に所望のサイズの気孔を形成した、硬い多孔質陶磁器を形成することができる。
【0074】
以上で説明した本発明の実施の形態である多孔質陶磁器の製造方法では、既存の陶磁器製造技術や設備を活用して、簡易な方法により、多孔質構造物を形成することができる。
【0075】
また、本発明の実施の形態である多孔質陶磁器の製造方法では、原料粒子間の気孔の大きさ及び気孔の割合を制御することが可能となっている。
【0076】
また、最終的に形成される多孔質陶磁器は、各種の陶磁器原料由来の組織のみで構成されることから、陶磁器原料の種類に応じた、強度、耐熱性、又は、耐薬品性を多孔質陶磁器に付与することができる。即ち、物性に優れた多孔質陶磁器を形成可能となる。
【0077】
また、陶磁器原料の種類として、既知の原料が使用でき、かつ、原料の種類が簡素化されるため、製造コストを低減することができる。
【0078】
以上のとおり、本発明を適用した多孔質陶磁器の製造方法は、簡易な方法でありながら、物性に優れた多孔質構造物が得られると共に、原料粒子間の気孔の大きさ及び気孔の割合を制御することが可能な方法となっている。
【0079】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【実施例0080】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0081】
[▲か▼焼工程]
多孔質陶磁器の原料として、天草陶土及び耐熱陶土(ペタライト)を選定した。真空土練機で調製された円柱形のこれらの市販原料を、円盤状に輪切りにし、電気炉で昇温速度100℃/hで900℃まで昇温し、900℃で1時間温度保持した後、自然冷却することで原料の▲か▼焼工程とした。
【0082】
[粉砕工程及び分級工程]
上記で得られた、▲か▼焼工程後の円盤状の原料を、ジョークラッシャーで粗粉砕し、さらにこれをロールクラッシャーで細粉した。この2段階の粉砕で得られる原料粒子群(粉末)は、大小様々な粒径サイズの粒子が存在し、極めて広い粒度分布を有していた。これらの原料粒子群(粉末)を、金網を用いて、500μm~2.36mm、500μm未満及び600μm未満の3種類の粒度に篩い分けした。
【0083】
(実施例1)
耐熱陶土(ペタライト)を原料とした多孔質陶器(酸化焼成、有機バインダー不使用)
500μm未満に粒度調整した耐熱陶土の原料粒子を、アルミナ製のるつぼの内容積の1/4度の嵩となるように入れ、るつぼを机上で数回タップして原料粒子の重力のみで充填を行い成形した。原料粒子が入ったるつぼを、電気炉で昇温速度100℃/hで1250℃まで昇温し、1250℃で1時間温度保持する酸化焼成(本焼成工程。以下同様)の後、自然冷却することで成形体を得た。
【0084】
(実施例2)
耐熱陶土(ペタライト)を原料とした多孔質陶器(酸化焼成、有機バインダー使用)
600μm未満に粒度調整した耐熱陶土の原料粒子にCMC(カルボキシメチルセルロース)を、粒子の重量に対して外割で5%添加し、水を適量加え、手で混合・混練したものを、ステンレス製の円筒型の1/3度の嵩となるように入れ、円筒型の内径より、僅かに小さな直径のステンレス製円柱型押し具を用いて、内容物を手で圧縮し、充填を行うことで成形した。成形した内容物を円柱型から取り出し、アルミナ製容器に移した後、これを電気炉で昇温速度100℃/hで1280℃まで昇温し、1280℃で1時間温度保持する酸化焼成の後、自然冷却することで成形体を得た。
【0085】
(実施例3)
耐熱陶土(ペタライト)を原料とした多孔質陶器(還元焼成、有機バインダー使用)
600μm未満に粒度調整した耐熱陶土の原料粒子にCMC(カルボキシメチルセルロース)を、粒子の重量に対して外割で5%添加し、水を適量加え、手で混合・混練したものを、ステンレス製の円筒型の1/3度の嵩となるように入れ、円筒型の内径より、僅かに小さな直径のステンレス製円柱型押し具を用いて、内容物を手で圧縮し、充填を行うことで成形した。成形した内容物を円柱型から取り出し、アルミナ製容器に移した後、これをガス窯で昇温速度100℃/hで1280℃まで昇温し、1280℃で1時間温度保持する還元焼成の後、自然冷却することで成形体を得た。
【0086】
(実施例4)
天草陶土を原料とした多孔質磁器(大粒径粉末、酸化焼成、有機バインダー使用)
500μm~2.36mmに粒度調整した天草陶土の原料粒子にCMC(カルボキシメチルセルロース)を粒子の重量に対して外割で5%添加し、水を適量加え、手で混合・混練したものを、ステンレス製の円筒型の1/3度の嵩となるように入れ、円筒型の内径より、僅かに小さな直径のステンレス製円柱型押し具を用いて、内容物を手で圧縮し、充填を行うことで成形した。成形した内容物を円柱型から取り出し、アルミナ製容器に移した後、これを電気炉で昇温速度100℃/hで1280℃まで昇温し、1280℃で1時間温度保持する酸化焼成の後、自然冷却することで成形体を得た。
【0087】
(実施例5)
天草陶土を原料とした多孔質磁器(大粒径粉末、還元焼成、有機バインダー使用)
500μm~2.36mmに粒度調整した耐熱陶土の原料粒子にCMC(カルボキシメチルセルロース)を粒子の重量に対して外割で5%添加し、水を適量加え、手で混合・混練したものを、ステンレス製の円筒型の1/3度の嵩となるように入れ、円筒型の内径より、僅かに小さな直径のステンレス製円柱型押し具を用いて、内容物を手で圧縮し充填を行うことで成形した。成形した内容物を円柱型から取り出し、アルミナ製容器に移した後、これをガス窯で昇温速度100℃/hで1280℃まで昇温し、1280℃で1時間温度保持する還元焼成の後、自然冷却することで成形体を得た。
【0088】
(実施例6)
天草陶土を原料とした多孔質磁器(小粒径粉末、酸化焼成、有機バインダー使用)
500μm未満に粒度調整した天草陶土の原料粒子にCMC(カルボキシメチルセルロース)を粒子の重量に対して外割で5%添加し、水を適量加え、手で混合・混練したものを、ステンレス製の円筒型の1/3度の嵩となるように入れ、円筒型の内径より、僅かに小さな直径のステンレス製円柱型押し具を用いて、内容物を手で圧縮し充填を行うことで成形した。成形した内容物を円柱型から取り出し、アルミナ製容器に移した後、これを電気炉で昇温速度100℃/hで1280℃まで昇温し、1280℃で1時間温度保持する酸化焼成の後、自然冷却することで成形体を得た。
【0089】
(実施例7)
天草陶土を原料とした多孔質磁器(小粒径粉末、還元焼成、有機バインダー使用)
500μm未満に粒度調整した耐熱陶土の原料粒子にCMC(カルボキシメチルセルロース)を粒子の重量に対して外割で5%添加し、水を適量加え、手で混合・混練したものを、ステンレス製の円筒型の1/3度の嵩となるように入れ、円筒型の内径より、僅かに小さな直径のステンレス製円柱型押し具を用いて、内容物を手で圧縮し充填を行うことで成形した。成形した内容物を円柱型から取り出し、アルミナ製容器に移した後、これをガス窯で昇温速度100℃/hで1280℃まで昇温し、1280℃で1時間温度保持する還元焼成の後、自然冷却することで成形体を得た。
【0090】
[耐アルカリ性比較試験(実施例8)]
上記の実施例7で得られた成形体から、試験片をダイヤモンドカッターで切り出し、以下の条件で耐アルカリ試験をおこなった。
5mass%NaOH水溶液20ccを入れたポリビーカーに試験片を加え、これを90℃設定のオイルバス中で加熱しながら24時間静置させた後、試験片の状態を目視で確認した(実施例8)。
【0091】
なお、比較用の試験片(ガラス利用法。従来技術)を以下の方法により作製し、同様の条件で耐アルカリ試験をおこなった。比較用の試験片として、300~500μmに粒度調整した陶磁器屑(セルベン)粒子に、ガラスフリットを外割で10%添加し、水を適量加え、手で混合・混練したものを、ステンレス製の円筒型の1/3度の嵩となるように入れ、円筒型の内径より、僅かに小さな直径のステンレス製円柱型押し具を用いて、内容物を手で圧縮し充填を行うことで成形した。成形した内容物を円柱型から取り出し、アルミナ製容器に移した後、これを電気炉で昇温速度100℃/hで1280℃まで昇温し、1280℃で1時間温度保持する酸化焼成の後、自然冷却することで成形体を得た。得られた成形体から試験片をダイヤモンドカッターで切り出し、耐アルカリ試験に供した(比較例1)。
【0092】
[気孔率比較試験]
上記の実施例2~7で得られた成形体について、開気孔率をアルキメデス法で、全気孔率を乾式自動密度計による真密度の測定とアルキメデス法によるかさ密度の測定データより算出した。
【0093】
なお、比較用の試験片(気孔形成剤利用法。従来技術)を以下の方法により作製し、同様の条件で気孔率測定をおこなった。比較用の試験片として、天草陶土に水を加えて水分率30%の泥漿を調製した。これに気孔形成剤として、泥漿中の天草陶土の乾燥重量に対して外割で5%の小麦粉を添加し、水を適量加えて、鋳込みに適した粘性にした泥漿を石膏型に鋳込み、室温乾燥させることで成形した。成形物を石膏型から離型し、アルミナ製容器に移した後、これを電気炉で昇温速度100℃/hで1250℃まで昇温し、1250℃で1時間温度保持する酸化焼成の後、自然冷却することで成形体を得た。得られた成形体から試験片をダイヤモンドカッターで切り出し、気孔率測定に供した(比較例2)。
【0094】
[有機バインダー添加が気孔形成に及ぼす影響の確認試験]
天草陶土に有機バインダーを添加したものと、無添加のもの、2種類の成形体を作製し、水銀圧入法により、細孔分布及び気孔率を測定することで、有機バインダーが、多孔質陶磁器における気孔形成に及ぼす影響について確認した。
【0095】
試験片として、天草陶土に水を加えて水分率30%の泥漿を調製した。これに有機バインダーとして、泥漿中の天草陶土の乾燥重量に対して外割で2.5%のCMC(カルボキシメチルセルロース)を添加し、水を適量加えて、鋳込みに適した粘性にした泥漿、CMC無添加の泥漿2種を、それぞれ石膏型に鋳込み、室温乾燥させることで成形した。成形物を石膏型から離型し、アルミナ製容器に移した後、これを電気炉で昇温速度100℃/hで1250℃まで昇温し、1250℃で1時間温度保持する酸化焼成の後、自然冷却することで成形体を得た。得られた成形体を乳鉢で粗粉砕し、気孔率測定に供した。
【0096】
[結果]
(実施例1)
得られた成形体を
図2に示す。目視では、クッキー状の多孔質組織が認められた(
図2参照)。また、デジタルマイクロスコープによる組織表面の拡大画像を
図3に示す。原料粒子同士が接触した箇所が、焼結によって結合し、粒子同士の隙間からなる多数の孔を形成していることが確認された(
図3参照)。
【0097】
(実施例2)
得られた成形体を
図4に示す。実施例1と同様の多孔体組織が確認された。
【0098】
(実施例3)
得られた成形体を
図5に示す。実施例1と同様の多孔体組織が確認された。
【0099】
(実施例4)
得られた成形体を
図6に示す。目視でおこし状の多孔体組織が確認された。
【0100】
(実施例5)
得られた成形体を
図7に示す。目視でおこし状の多孔体組織が確認された。
【0101】
(実施例6)
得られた成形体を
図8に示す。実施例1と同様の多孔体組織が確認された。
【0102】
(実施例7)
得られた成形体を
図9に示す。実施例1と同様の多孔体組織が確認された。
【0103】
以上より、陶磁器原料が、耐熱陶土であっても、天草陶土であっても、酸化焼成又は還元焼成により、多孔質構造物を形成できることが確認された。このことは、焼成の設備(電気炉、ガス窯)によらず多孔質構造物を製造することができることを意味する。
【0104】
(実施例8)
耐アルカリ性試験の結果を
図10に示す。実施例8の多孔質構造体(
図10の上段)では、耐アルカリ性試験前後で変化は認められなかった。一方、比較例1のガラス利用法によって形成した多孔質構造体(
図10の下段)では、耐アルカリ性試験後に、一部崩壊が認められた。なお、比較例1の一部崩壊した箇所は、図中の矢印で示している。
【0105】
実施例8では、天草陶土を原料とした、▲か▼焼工程後に粉砕した原料粒子同士が、その接点で焼結により結合するため、天草陶土以外の原料成分を含まない。天草陶土を原料とする磁器は、耐薬品性に優れることが知られている。
【0106】
一方、比較例1のガラス利用法で形成した多孔質構造体では、陶磁器屑(セルベン)にガラスを配合し、焼成の段階でガラスが溶融することで陶磁器屑同士を結合している。即ち、ガラスが接着剤の働きをして陶磁器屑をつなぎとめている組織となっており、ガラスは耐アルカリ性が、磁器と比較して低いことから、接着剤としてのガラスが溶解し、陶磁器屑をつなぎとめることができなくなり、部分的な崩壊が生じたと考えられる。
【0107】
[気孔率比較試験]
実施例2~7及び比較例2で得られた成形体に由来する各試験片の気孔率測定結果を表1に示す。
【0108】
【0109】
表1に示すように、開気孔率、全気孔率共に、実施例2~7において、比較例2よりも数値が大きく、かつ、高い数値を示すことが確認された。このことは、本発明を適用した多孔質陶磁器の製造方法では、高価で分散等、取り扱いが難しい気孔形成剤を利用することなく、同等以上の高い気孔率を有した多孔質陶磁器が製造できることを示唆している。
【0110】
また、同原料、同粒度分布の粒子を用いた、実施例2と実施例3の比較、実施例4と実施例5の比較又は実施例6と実施例7の比較では、酸化焼成の方が、還元焼成に比べて、より気孔率が高い傾向が確認された。
【0111】
[有機バインダー添加が気孔形成に及ぼす影響の確認試験]
天草陶土により調製した泥漿による鋳込み成形体について、有機バインダー無添加のもの(天草陶土(標準))と、添加したもの(天草陶土+CMC2.5%)の水銀圧入法による気孔径分布測定結果を
図11に示す。
【0112】
図11の左側に示すように、中央細孔径は、標準が0.83μm、CMC添加が0.49μmを示した。また、
図11の右側に示すように、分布は、標準に比べ、CMC添加の方が、小さい孔径を有していたが、大きな有意差は認められなかった。また、得られた測定データより算出した気孔率は、標準が10.6%、CMC添加が9.6%となり有意差は認められなかった。
【0113】
以上のことから、成形時に有機バインダーを添加しても、有機バインダーが気孔形成剤として働くことはなく、本発明における、▲か▼焼工程後に粉砕した原料粒子同士が、その接点で焼結により結合することで、多孔質陶磁器が作製されることが裏付けられた。