(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140687
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、フィルタ、およびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20241003BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H03H9/17 F
B81B3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051975
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】津田 裕太
(72)【発明者】
【氏名】松田 隆志
(72)【発明者】
【氏名】石田 守
【テーマコード(参考)】
3C081
5J108
【Fターム(参考)】
3C081AA15
3C081BA22
3C081BA48
3C081BA55
3C081CA45
3C081DA03
3C081DA06
3C081DA07
3C081DA08
3C081DA27
3C081DA29
3C081EA22
5J108AA07
5J108BB04
5J108BB07
5J108CC04
5J108CC11
5J108EE03
5J108EE05
5J108EE13
(57)【要約】
【課題】絶縁破壊の発生の抑制が可能な弾性波デバイスを提供する。
【解決手段】弾性波デバイスは、基板10と、基板10上に設けられた圧電層14と、圧電層14の少なくとも一部を挟んで基板10上に設けられた下部電極12および上部電極16と、基板10と下部電極12の間に設けられ、圧電層14を挟んで下部電極12と上部電極16が重なる共振領域50と少なくとも一部が共振領域50の外に設けられる金属膜36を含む第1層32と、第1層32とは異なる音響特性を有する絶縁材料からなる第2層34と、が交互に積層され、第1層32のうち少なくとも圧電層14に最も近い最上層32aに含まれる金属膜36は、上部電極16が共振領域50から引き出された第1引出領域52での共振領域50からの長さL1が、下部電極12が共振領域50から引き出された第2引出領域54での共振領域50からの長さL2より短い音響反射膜30とを備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた圧電層と、
前記圧電層の少なくとも一部を挟んで前記基板上に設けられた下部電極および上部電極と、
前記基板と前記下部電極との間に設けられ、前記圧電層を挟んで前記下部電極と前記上部電極とが重なる共振領域と少なくとも一部が前記共振領域の外に設けられる金属膜を含む1または複数の第1層と、前記1または複数の第1層とは異なる音響特性を有する絶縁材料からなる1または複数の第2層と、が交互に積層され、前記1または複数の第1層のうち少なくとも前記圧電層に最も近い最上層に含まれる前記金属膜は、前記上部電極が前記共振領域から引き出された第1引出領域での前記共振領域からの第1の長さが、前記下部電極が前記共振領域から引き出された第2引出領域での前記共振領域からの第2の長さより短い音響反射膜と、を備える弾性波デバイス。
【請求項2】
前記圧電層に最も近い最上層に含まれる前記金属膜の前記第1引出領域側の端面は、前記共振領域と前記第1引出領域の境界に位置する、請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記1または複数の第2層は、前記第1引出領域において前記圧電層に最も近い最上層に含まれる前記金属膜の端面を接しながら覆う、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記圧電層に最も近い最上層は、前記共振領域に設けられた前記金属膜と、前記金属膜の端面に接して前記第1引出領域に設けられ、前記絶縁材料より音響インピーダンスが高い他の絶縁材料からなる絶縁膜と、を含む、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記絶縁材料は酸化シリコンであり、
前記他の絶縁材料は酸化亜鉛、酸化ハフニウム、窒化ハフニウム、窒化アルミニウム、酸化タンタル、酸化アルミニウム、または炭化シリコンである、請求項4に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記圧電層に最も近い最上層に含まれる前記金属膜の端面に接する空隙が前記第1引出領域に形成されている、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
基板と、
前記基板上に設けられた圧電層と、
前記圧電層の少なくとも一部を挟んで前記基板上に設けられた下部電極および上部電極と、
前記基板と前記下部電極との間に設けられ、前記圧電層を挟んで前記下部電極と前記上部電極とが重なる共振領域と前記共振領域の外に設けられる金属材料からなる1または複数の第1層と、前記1または複数の第1層とは異なる音響特性を有する絶縁材料からなる1または複数の第2層と、が交互に積層され、前記1または複数の第1層のうち前記圧電層に最も近い最上層と前記上部電極との間の距離は、前記共振領域に比べて前記上部電極が前記共振領域から引き出された第1引出領域の方が長い音響反射膜と、を備える弾性波デバイス。
【請求項8】
前記圧電層の前記下部電極が接する面から前記上部電極までの距離は前記共振領域より前記第1引出領域の方が長い、請求項7に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記圧電層に最も近い最上層から前記圧電層までの距離は前記共振領域から前記下部電極が引き出された第2引出領域より前記第1引出領域の方が長い、請求項7または8に記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
前記圧電層は、タンタル酸リチウム層またはニオブ酸リチウム層である、請求項1または7に記載の弾性波デバイス。
【請求項11】
請求項1または7に記載の弾性波デバイスを備えるフィルタ。
【請求項12】
請求項11に記載のフィルタを備えるマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、フィルタ、およびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末等の無線端末の高周波回路用のフィルタおよびデュプレクサとして、圧電薄膜共振器を用いたフィルタおよびデュプレクサが知られている。圧電薄膜共振器は、基板上に設けられた圧電層と、圧電層を挟んで基板上に設けられた下部電極および上部電極と、を備える。圧電層を挟み下部電極と上部電極が重なる共振領域における基板と下部電極の間に、音響特性の異なる2種類の層が積層された音響反射膜を備える構成が知られている(例えば特許文献1-3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-205574号公報
【特許文献2】特開2014-176095号公報
【特許文献3】特開2008-187295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
音響反射膜は、平面視において、共振領域より大きく形成される。また、音響反射膜は、一般的に、金属材料により形成された第1層と絶縁材料により形成された第2層とを音響特性の異なる2種類の層として用いる。このような音響反射膜を有する弾性波デバイスに対して耐電力試験を行ったところ、上部電極と金属材料からなる第1層との間で絶縁破壊が発生する場合があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、絶縁破壊の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた圧電層と、前記圧電層の少なくとも一部を挟んで前記基板上に設けられた下部電極および上部電極と、前記基板と前記下部電極との間に設けられ、前記圧電層を挟んで前記下部電極と前記上部電極とが重なる共振領域と少なくとも一部が前記共振領域の外に設けられる金属膜を含む1または複数の第1層と、前記1または複数の第1層とは異なる音響特性を有する絶縁材料からなる1または複数の第2層と、が交互に積層され、前記1または複数の第1層のうち少なくとも前記圧電層に最も近い最上層に含まれる前記金属膜は、前記上部電極が前記共振領域から引き出された第1引出領域での前記共振領域からの第1の長さが、前記下部電極が前記共振領域から引き出された第2引出領域での前記共振領域からの第2の長さより短い音響反射膜と、を備える弾性波デバイスである。
【0007】
上記構成において、前記圧電層に最も近い最上層に含まれる前記金属膜の前記第1引出領域側の端面は、前記共振領域と前記第1引出領域の境界に位置する構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記1または複数の第2層は、前記第1引出領域において前記圧電層に最も近い最上層に含まれる前記金属膜の端面を接しながら覆う構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記圧電層に最も近い最上層は、前記共振領域に設けられた前記金属膜と、前記金属膜の端面に接して前記第1引出領域に設けられ、前記絶縁材料より音響インピーダンスが高い他の絶縁材料からなる絶縁膜と、を含む構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記絶縁材料は酸化シリコンであり、前記他の絶縁材料は酸化亜鉛、酸化ハフニウム、窒化ハフニウム、窒化アルミニウム、酸化タンタル、酸化アルミニウム、または炭化シリコンである構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記圧電層に最も近い最上層に含まれる前記金属膜の端面に接する空隙が前記第1引出領域に形成されている構成とすることができる。
【0012】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた圧電層と、前記圧電層の少なくとも一部を挟んで前記基板上に設けられた下部電極および上部電極と、前記基板と前記下部電極との間に設けられ、前記圧電層を挟んで前記下部電極と前記上部電極とが重なる共振領域と前記共振領域の外に設けられる金属材料からなる1または複数の第1層と、前記1または複数の第1層とは異なる音響特性を有する絶縁材料からなる1または複数の第2層と、が交互に積層され、前記1または複数の第1層のうち前記圧電層に最も近い最上層と前記上部電極との間の距離は、前記共振領域に比べて前記上部電極が前記共振領域から引き出された第1引出領域の方が長い音響反射膜と、を備える弾性波デバイスである。
【0013】
上記構成において、前記圧電層の前記下部電極が接する面から前記上部電極までの距離は前記共振領域より前記第1引出領域の方が長い構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記圧電層に最も近い最上層から前記圧電層までの距離は前記共振領域から前記下部電極が引き出された第2引出領域より前記第1引出領域の方が長い構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記圧電層は、タンタル酸リチウム層またはニオブ酸リチウム層である構成とすることができる。
【0016】
本発明は、上記に記載の弾性波デバイスを備えるフィルタである。
【0017】
本発明は、上記に記載のフィルタを備えるマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、絶縁破壊の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図である。
【
図3】
図3(a)および
図3(b)は、圧電層がニオブ酸リチウム層またはタンタル酸リチウム層である場合の圧電層の結晶方位と、厚みすべり振動の振動方向と、の関係を示す図である。
【
図4】
図4(a)から
図4(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
【
図5】
図5(a)は、実施例1の変形例1に係る弾性波デバイスの断面図、
図5(b)は、実施例1の変形例2に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図6】
図6は、比較例に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図7】
図7は、比較例に係る弾性波デバイスの電界分布のシミュレーション結果である。
【
図8】
図8(a)および
図8(b)は、電界集中のメカニズムを説明するための図である。
【
図9】
図9(a)は、実施例2に係る弾性波デバイスの平面図、
図9(b)は、
図9(a)のA-A断面図である。
【
図10】
図10(a)は、実施例2の変形例1に係る弾性波デバイスの断面図、
図10(b)は、実施例2の変形例2に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図11】
図11は、実施例2の変形例3に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図12】
図12(a)および
図12(b)は、実施例2および実施例2の変形例1の電界分布のシミュレーション結果である。
【
図13】
図13(a)および
図13(b)は、比較例および実施例2の周波数に対するアドミッタンス|Y|のシミュレーション結果である。
【
図14】
図14(a)および
図14(b)は、シミュレーションに用いたモデルA、Bの一部を示す断面図である。
【
図15】
図15は、モデルA、Bに対する音響反射膜の第1層の長さに対するΔYのシミュレーション結果である。
【
図16】
図16は、実施例3に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図17】
図17(a)は、実施例4に係る弾性波デバイスの断面図、
図17(b)は、実施例4の変形例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図18】
図18(a)は、実施例4の変形例2に係る弾性波デバイスの断面図、
図18(b)は、実施例4の変形例3に係る弾性波デバイスの断面図である。
【
図20】
図20は、実施例6に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【実施例0021】
図1は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図である。
図2(a)は、
図1のA-A断面図、
図2(b)は、
図1のB-B断面図である。
図1においては、図の明瞭化のために、音響反射膜30の第1層32にハッチングを付し、貫通孔22を他より太い線で図示している(以下の同様な図においても同じ)。圧電層14の法線方向をZ方向、圧電層14の平面方向において互いに直交する方向をX方向およびY方向とする。
図1、
図2(a)、および
図2(b)に示すように、実施例1に係る弾性波デバイス100は、下部電極12と圧電層14と上部電極16とを備える圧電薄膜共振器である。
【0022】
基板10上に音響反射膜30が設けられている。音響反射膜30上に圧電層14が設けられている。圧電層14の上面および下面は平坦面である。圧電層14の上下に上部電極16および下部電極12が設けられている。圧電層14の少なくとも一部を挟み下部電極12と上部電極16とが平面視において重なる領域が共振領域50である。共振領域50の平面形状は例えばほぼ矩形である。矩形はほぼ直線の4つの辺を有する。4つの辺のうち一対の辺はほぼY方向に沿って伸び、別の一対の辺はほぼX方向に沿って伸びている。
【0023】
基板10は、例えばシリコン基板、サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、ガラス基板、セラミック基板、またはGaAs基板等である。圧電層14は、例えば単結晶ニオブ酸リチウム層、単結晶タンタル酸リチウム層、窒化アルミニウム層、酸化亜鉛層、チタン酸ジルコン酸鉛層、またはチタン酸鉛層等である。圧電層14の厚さは例えば200nm~1000nm程度である。下部電極12および上部電極16は、例えばルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜である。下部電極12および上部電極16の厚さは例えば20nm~150nm程度である。
【0024】
下部電極12と上部電極16との間に高周波電力が印加されると、共振領域50内の圧電層14に弾性波が励振する。弾性波の波長は圧電層14の厚さのほぼ2倍である。圧電層14が単結晶ニオブ酸リチウム層または単結晶タンタル酸リチウム層である場合、圧電層14には弾性波の変位がZ方向にほぼ直交する方向(すなわち厚さに対して歪み方向)に振動する弾性波が励振される。この振動を厚みすべり振動という。厚みすべり振動の変位の最も大きい方向(厚みすべり振動の変位方向)を厚みすべり振動の振動方向60とする。ここでは、厚みすべり振動の振動方向60はY方向である。圧電層14が窒化アルミニウム層、酸化亜鉛層、チタン酸ジルコン酸鉛層、またはチタン酸鉛層である場合、圧電層14には主に厚み縦振動モードの弾性波が励振される。例えば、圧電層14に厚みすべり振動の弾性波が励振される場合、下部電極12および上部電極16は、共振領域50から厚みすべり振動の振動方向60に引き出されてもよい。
【0025】
音響反射膜30は、1または複数の第1層32と1または複数の第2層34とが交互に積層されている。第1層32と第2層34は音響特性の異なる膜である。実施例1では、第1層32は金属材料により形成されている。第2層34は絶縁材料により形成されている。例えば、第1層32は、第2層34よりも音響インピーダンスの高い膜である。第1層32と第2層34の膜厚は例えばそれぞれほぼλ/4(λは弾性波の波長)である。これにより、音響反射膜30は弾性波を反射する。第1層32と第2層34の積層数は任意に設定できる。
【0026】
音響反射膜30は、平面視において共振領域50に重なって設けられている。第1層32は、共振領域50の外側において、下部電極12および貫通孔22と重なっているが、上部電極16とは重なっていない。すなわち、上部電極16が共振領域50から引き出された領域を第1引出領域52とし、下部電極12が共振領域50から引き出された領域を第2引出領域54とすると、第1層32は、共振領域50と第2引出領域54には設けられているが、第1引出領域52には設けられていない。音響反射膜30を平面視にて共振領域50より大きくするのは、共振領域50から斜め方向に漏れた弾性波を音響反射膜30で反射させることを可能とし、特性の劣化を抑制するためである。
【0027】
1または複数の第1層32のうち圧電層14に最も近い層を最上層32aとし、最上層32a以外の層を下層32bとする。第1層32は金属材料により形成されていることから、最上層32aおよび下層32bは金属膜36により形成されている。最上層32aは、共振領域50および第2引出領域54に設けられ、第1引出領域52には設けられていないことから、第1引出領域52での共振領域50からの長さL1が第2引出領域54での共振領域50からの長さL2より短くなっている。同様に、下層32bは、共振領域50および第2引出領域54に設けられ、第1引出領域52には設けられていないことから、第1引出領域52での共振領域50からの長さL3が第2引出領域54での共振領域50からの長さL4より短くなっている。言い換えると、最上層32aおよび下層32bそれぞれを形成する金属膜36は、第1引出領域52での共振領域50からの長さL1、L3が第2引出領域54での共振領域50からの長さL2、L4より短くなっている。最上層32aおよび下層32bそれぞれの第1引出領域52側の端面33は、例えば共振領域50と第1引出領域52の境界に位置している。したがって、長さL1、L3はほぼゼロである。長さL2、L4はほぼ同じ長さである。
【0028】
金属膜36は、例えばチタン(Ti)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、金(Au)、モリブデン(Mo)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、またはタングステン(W)を主成分とする膜である。第2層34は、例えば酸化シリコン(SiO
2)を主成分とする膜である。表1に各材料の物性値について示す。表1において、音速は密度と体積弾性率の積の値の平方根を求めることで算出した。音響インピーダンスは密度と音速を掛けることで算出した。
【表1】
【0029】
ある膜がある元素を主成分とするには、ある膜に主成分以外の意図的な、または、意図しない不純物が含まれることを許容する。ある膜においてある元素が主成分である場合、ある元素の濃度は例えば50原子%以上であり、例えば80原子%以上である。酸化シリコン等のように、2つの元素を主成分とする場合では、シリコンの濃度と酸素の濃度の合計が例えば50原子%以上であり、例えば80原子%以上であり、シリコンの濃度および酸素の濃度は各々例えば10原子%以上である。
【0030】
第1層32を音響インピーダンスの高い膜とする場合、金属膜36は上記材料の中でAu、Pt、Rh、Ir、またはWを主成分とする膜とすることが好ましく、特に、Pt、Ir、またはWを主成分とする膜とすることがより好ましい。
【0031】
圧電層14には、X方向から共振領域50を挟み、Y方向において共振領域50に沿った一対の貫通孔22が形成されている。貫通孔22は、例えば平面視において下部電極12および上部電極16がない領域に設けられている。例えば、平面視において、貫通孔22は、X方向における共振領域50の両側において共振領域50に接している。すなわち、平面視において、貫通孔22は矩形の共振領域50のX方向で対向する辺を規定している。なお、貫通孔22は、共振領域50に接してなく、共振領域50から離れて設けられていてもよい。貫通孔22は、共振領域50の両側に共振領域50から同じ距離となって形成されている場合が好ましい。貫通孔22は、例えば平面視において矩形状をしている。貫通孔22が設けられることで、共振領域50に励振された弾性波は共振領域50内に閉じ込められるようになる。
【0032】
ここで、圧電層14がニオブ酸リチウム層またはタンタル酸リチウム層である場合の圧電層14の結晶方位と、厚みすべり振動の振動方向60と、の関係について説明する。まず、オイラー角(φ、θ、ψ)の定義について説明する。右手系のXYZ座標系において、圧電層14の上面の法線方向をZ方向とし、Z方向に直交する方向であって圧電層14の上面の面方向で互いに直交する方向をX方向およびY方向とする。X方向、Y方向、およびZ方向をそれぞれ結晶方位のX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向とする。次に、Z方向を中心に+X方向から+Y方向に角度φ回転させる。角度φ回転後のX方向を中心に+Y方向から+Z方向に角度θ回転させる。角度θ回転後のZ方向を中心に+X方向から+Y方向に角度ψ回転させる。このように回転させたときのオイラー角は(φ、θ、ψ)となる。なお、(φ、θ、ψ)を用い表現されるオイラー角は、等価なオイラー角を含む。
【0033】
図3(a)および
図3(b)は、圧電層14がニオブ酸リチウム層またはタンタル酸リチウム層である場合の圧電層14の結晶方位と、厚みすべり振動の振動方向と、の関係を示す図である。
図3(a)および
図3(b)における左側の破線矢印は圧電層14の結晶軸の方位を示す。右側の実線矢印は
図1、
図2(a)、および
図2(b)のX方向、Y方向、およびZ方向に対応する。
図3(a)に示すように、+X方向、+Y方向、および+Z方向をそれぞれ圧電層14の結晶方位の+X軸方向、+Y軸方向、および+Z軸方向とする。
図3(b)に示すように、
図3(a)の状態から、X方向を中心にYZ平面上において+Y方向および+Z方向を+Y方向から-Z方向に105°回転させる。このように回転させると、結晶方位の+Z軸方向を+Y軸方向に向かって105°回転させた方向が+Z方向となる。このとき、Y方向が厚みすべり振動の振動方向60となる。オイラー角では(0°、-105°、0°)となる。なお、上記と同様の方法によって導出されるオイラー角が(0°、-105°、90°)の場合には、X方向が厚みすべり振動の振動方向60となる。オイラー角の各角度は±5°の範囲内を許容し、±1°の範囲内であることがより好ましい。
【0034】
[製造方法]
図4(a)から
図4(c)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
図4(a)から
図4(c)は、
図1のA-A間に相当する箇所の断面図である。
図4(a)に示すように、圧電層14として圧電基板を準備する。圧電層14上に下部電極12を形成する。下部電極12は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて金属膜を成膜し、例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて金属膜を所望の形状にパターニングすることで形成する。下部電極12はリフトオフ法を用いて形成してもよい。
【0035】
図4(b)に示すように、圧電層14上に下部電極12を覆うように音響反射膜30を形成する。音響反射膜30は、第1層32と第2層34を交互に成膜し、第1層32に関しては所望の形状にパターニングすることにより形成する。第1層32および第2層34の成膜は例えばスパッタリング法またはCVD法を用い、パターニングは例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いる。その後、音響反射膜30の上面を例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用い平坦化する。
【0036】
図4(c)に示すように、音響反射膜30を基板10に接合させる。接合には例えば表面活性化法を用いる。基板10と音響反射膜30との間にシリコン膜等の接合層を設けてもよい。次いで、圧電層14を所望の厚さに薄膜化する。薄膜化には、例えば研削法および/またはCMP法を用いる。例えば研削法を用いて圧電層14をほぼ所望の厚さとし、CMP法を用いて上面を平坦化する。これにより、圧電層14の上面は製造誤差程度に平坦面となる。その後、圧電層14上に上部電極16を形成する。上部電極16は、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用いて金属膜を成膜し、例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて金属膜を所望の形状にパターニングすることで形成する。上部電極16はリフトオフ法を用いて形成してもよい。
【0037】
その後、
図2(b)のように、圧電層14を貫通する貫通孔22を形成する。貫通孔22の形成は例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いる。以上により、実施例1に係る弾性波デバイスが形成される。
【0038】
[変形例]
図5(a)は、実施例1の変形例1に係る弾性波デバイスの断面図、
図5(b)は、実施例1の変形例2に係る弾性波デバイスの断面図である。
図5(a)に示すように、実施例1の変形例1に係る弾性波デバイス110では、最上層32aおよび下層32bは、共振領域50と第1引出領域52と第2引出領域54に設けられているが、第1引出領域52での共振領域50からの長さL1、L3が第2引出領域54での共振領域50からの長さL2、L4より短くなっている。したがって、実施例1と同じく、最上層32aおよび下層32bそれぞれを形成する金属膜36は、第1引出領域52での共振領域50からの長さL1、L3が第2引出領域54での共振領域50からの長さL2、L4より短くなっている。長さL1、L3はほぼ同じ長さである。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0039】
図5(b)に示すように、実施例1の変形例2に係る弾性波デバイス120では、最上層32aは、実施例1と同じく、共振領域50および第2引出領域54に設けられ、第1引出領域52には設けられていなく、端面33が共振領域50と第1引出領域52の境界に位置している。したがって、実施例1と同じく、最上層32aを形成する金属膜36は、第1引出領域52での共振領域50からの長さL1が第2引出領域54での共振領域50からの長さL2より短くなっている。下層32bは、共振領域50と第1引出領域52と第2引出領域54に設けられ、第1引出領域52での共振領域50からの長さL3と第2引出領域54での共振領域50からの長さL4とがほぼ同じになっている。すなわち、下層32bを形成する金属膜36は、第1引出領域52での共振領域50からの長さL3と第2引出領域54での共振領域50からの長さL4とがほぼ同じになっている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0040】
[比較例]
図6は、比較例に係る弾性波デバイスの断面図である。
図6に示すように、比較例に係る弾性波デバイス1000では、最上層32aおよび下層32bは、共振領域50と第1引出領域52と第2引出領域54に設けられ、第1引出領域52での共振領域50からの長さL1、L3が第2引出領域54での共振領域50からの長さL2、L4とほぼ同じになっている。すなわち、最上層32aおよび下層32bそれぞれを形成する金属膜36は、第1引出領域52での共振領域50からの長さL1、L3と第2引出領域54での共振領域50からの長さL2、L4とがほぼ同じになっている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0041】
[シミュレーション]
比較例に係る弾性波デバイスに対し、下部電極12と上部電極16との間に高周波電力が印加した場合に生じる電界分布についてシミュレーションをした。シミュレーション条件は以下である。
基板10:シリコン基板
第1層32:厚さが152nmのタングステン膜
第2層34:厚さが194nmの酸化シリコン膜
下部電極12:厚さが46nmのアルミニウム膜
圧電層14:厚さが460nmのニオブ酸リチウム層であり、厚みすべり振動の振動方向がY方向
上部電極16:厚さが46nmのアルミニウム膜
長さL1、L2、L3、L4:1000nm
弾性波の波長λ:920μm
X方向の条件:共振領域50のX方向の幅が27λ
Y方向の条件:共振領域50のY方向の幅が0.5λであり、境界条件は無限に連続
【0042】
図7は、比較例に係る弾性波デバイスの電界分布のシミュレーション結果である。
図7に示すように、最上層32aの下部電極12よりも突出した部分の端部近傍において第2層34に電界が集中する結果となった。これは、次のような理由によるものと考えられる。
【0043】
図8(a)および
図8(b)は、電界集中のメカニズムを説明するための図である。
図8(a)に示すように、最上層32aの下部電極12から突出した部分では、最上層32aを形成する金属膜36と上部電極16とが、絶縁材料からなる第2層34と圧電層14を挟んで対向している。このため、最上層32aと上部電極16との間に容量が形成される。最上層32aと上部電極16との間の容量を容量Cとすると、容量Cは比誘電率の異なる圧電層14の容量C1と第2層34の容量C2とに分けられる。
図8(b)に示すように、最上層32aと上部電極16との間に電圧Vが印加された場合、容量C1の一方の電極に電荷+Qが溜まったとすると、釣り合うために他方の電極には電荷-Qが溜まる。これに伴い、容量C2にも一方の電極に電荷+Qが溜まり、他方の電極に電荷-Qが溜まる。つまり、容量C1と容量C2には同じ電荷が溜まる。ここで、クーロンの法則より、点電荷Qが距離rだけ離れた点に作る電界の強さEは、E=Q/4πε
0ε
rr
2と表される。圧電層14がタンタル酸リチウム層である場合の比誘電率ε
rは43程度であり、第2層34が酸化シリコン膜である場合の比誘電率ε
rは3.8程度である。よって、電界は圧電層14よりも第2層34の方が約11倍強くなる。このため、
図7において、最上層32aの下部電極12よりも突出した部分の端部近傍において、第2層34に電界が集中したものと考えられる。第2層34に電界が集中することで絶縁破壊が生じることがある。
【0044】
実施例1およびその変形例では、最上層32aの金属膜36は、第1引出領域52での長さL1(第1長さ)が第2引出領域54での長さL2(第2長さ)より短くなっている。これにより、第1引出領域52において最上層32aの金属膜36と上部電極16とが対向する範囲が小さくなるため、電界強度を低減でき、絶縁破壊の発生を抑制することができる。また、最上層32aの金属膜36の第2引出領域54での長さL2が長くなることで、共振領域50から斜め方向に漏れた弾性波を音響反射膜30で効果的に反射させることができる。
【0045】
また、実施例1および実施例1の変形例2では、最上層32aの金属膜36の端面33は、共振領域50と第1引出領域52の境界に位置する。これにより、第1引出領域52において最上層32aの金属膜36と上部電極16とが対向することが抑制されるため、電界強度を低減でき、絶縁破壊の発生を抑制ですることができる。端面33が共振領域50と第1引出領域52の境界に位置するとは、端面33が製造誤差程度に境界から共振領域50側または第1引出領域52側にずれている場合も許容する。
【0046】
また、実施例1およびその変形例では、絶縁材料からなる第2層34は、第1引出領域52において最上層32aの金属膜36の端面33に接して覆っている。第2層34と上部電極16との間には容量が生じにくいことから、絶縁破壊の発生を抑制することができる。
【0047】
また、実施例1およびその変形例では、圧電層14はタンタル酸リチウム層またはニオブ酸リチウム層である。タンタル酸リチウム層およびニオブ酸リチウム層は比誘電率が比較的高いため、
図8(a)および
図8(b)に示すメカニズムにより第2層34での電界強度が高くなって絶縁破壊が生じやすくなる。しかしながら、実施例1およびその変形例のように、最上層32aの金属膜36の第1引出領域52での長さL1を第2引出領域54での長さL2より短くすることで、圧電層14にタンタル酸リチウム層またはニオブ酸リチウム層を用いた場合でも、絶縁破壊の発生を抑制できる。
最上層32aおよび下層32bそれぞれの絶縁膜38は、最上層32aおよび下層32bそれぞれの金属膜36の端面33に接して第1引出領域52に設けられている。したがって、最上層32aは、第1引出領域52において、絶縁膜38が第2層34と圧電層14を挟んで上部電極16に対向している。最上層32aは、絶縁膜38の第1引出領域52での共振領域50からの長さL5が金属膜36の第2引出領域54での共振領域50からの長さL2とほぼ同じになっている。同様に、下層32bは、絶縁膜38の第1引出領域52での共振領域50からの長さL6が金属膜36の第2引出領域54での共振領域50からの長さL4とほぼ同じになっている。長さL5、L6はほぼ同じ長さである。実施例2のその他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
実施例2の変形例2および変形例3に対しても同様にしてアドミッタンス特性のシミュレーションを行ってΔYを求めたところ、実施例2の変形例2のΔYは74.75db、実施例2の変形例3のΔYは74.46dbであった。