(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140691
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】擁壁構造物施工方法及び擁壁構造物
(51)【国際特許分類】
E02B 3/06 20060101AFI20241003BHJP
E02D 5/28 20060101ALI20241003BHJP
E02D 27/12 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
E02B3/06 301
E02D5/28
E02D27/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051983
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義信
(72)【発明者】
【氏名】中村 隆一郎
【テーマコード(参考)】
2D041
2D046
2D118
【Fターム(参考)】
2D041AA02
2D041BA36
2D041CA01
2D041CB06
2D041DB02
2D046CA04
2D118BA03
2D118BA05
2D118FB21
2D118GA07
(57)【要約】
【課題】施工性を向上する擁壁構造物施工方法及び擁壁構造物を提供する。
【解決手段】鋼管杭3に剛結される底版部5を備える擁壁構造物1の施工方法では、底版部5を構築する底版部構築工程は、鋼管杭3の杭頭部3aが挿入されるソケット部27を有するソケット付き鋼殻ブロック11Aを含む複数の鋼殻ブロック11を底版部5の構築予定領域6に設置する鋼殻ブロック設置工程と、鋼殻ブロック11同士を接合して鋼殻体9を形成する鋼殻ブロック接合工程と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎杭に剛結される底版部を備える擁壁構造物の施工方法であって、
前記底版部を構築する底版部構築工程は、
前記基礎杭の杭頭部が挿入されるソケット部を有するソケット付き鋼殻ブロックを含む複数の鋼殻ブロックを前記底版部の構築予定領域に設置する鋼殻ブロック設置工程と、
前記鋼殻ブロック同士を接合して鋼殻組立体を形成する鋼殻ブロック接合工程と、を備える、擁壁構造物施工方法。
【請求項2】
前記鋼殻ブロック設置工程では、
前記構築予定領域に予め設置された前記基礎杭の前記杭頭部をソケット部に挿入させながら前記ソケット付き鋼殻ブロックを設置する、請求項1に記載の擁壁構造物施工方法。
【請求項3】
前記底版部構築工程は、
前記構築予定領域にコンクリートを打設し、前記鋼殻組立体とコンクリート部を含む合成構造の前記底版部を構築するコンクリート打設工程を更に有する、請求項1に記載の擁壁構造物施工方法。
【請求項4】
前記コンクリート打設工程では、
前記鋼殻組立体の側壁及び底壁を型枠として前記コンクリートを打設する、請求項3に記載の擁壁構造物施工方法。
【請求項5】
前記底版部構築工程で構築された前記底版部の上に前記擁壁構造物の縦壁部を構築する縦壁部構築工程を更に備える、請求項1に記載の擁壁構造物施工方法。
【請求項6】
基礎杭に剛結される底版部を備える擁壁構造物であって、
前記底版部は、
前記基礎杭の杭頭部が挿入されたソケット部を有するソケット付き鋼殻ブロックを含む複数の鋼殻ブロック同士が接合されてなる鋼殻組立体と、
前記鋼殻組立体の側壁及び底壁を型枠として打設されたコンクリート部と、を有する、擁壁構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擁壁構造物施工方法及び擁壁構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の擁壁構造物として、例えば、下記特許文献1に記載のプレキャスト堤体構造物が知られている。この堤体構造物は、鋼管杭に剛結される底版部と当該底版部から立ち上がる縦壁部と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の擁壁構造物の建造においては、底版部や縦壁部が現場で構築される場合もある。このように現場で擁壁構造物が構築される場合においても、施工性を向上することが望まれる。本発明は、施工性を向上する擁壁構造物施工方法及び擁壁構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0006】
〔1〕基礎杭に剛結される底版部を備える擁壁構造物の施工方法であって、前記底版部を構築する底版部構築工程は、前記基礎杭の杭頭部が挿入されるソケット部を有するソケット付き鋼殻ブロックを含む複数の鋼殻ブロックを前記底版部の構築予定領域に設置する鋼殻ブロック設置工程と、前記鋼殻ブロック同士を接合して鋼殻組立体を形成する鋼殻ブロック接合工程と、を備える、擁壁構造物施工方法。
【0007】
〔2〕前記鋼殻ブロック設置工程では、前記構築予定領域に予め設置された前記基礎杭の前記杭頭部をソケット部に挿入させながら前記ソケット付き鋼殻ブロックを設置する、〔1〕に記載の擁壁構造物施工方法。
【0008】
〔3〕前記底版部構築工程は、前記構築予定領域にコンクリートを打設し、前記鋼殻組立体とコンクリート部を含む合成構造の前記底版部を構築するコンクリート打設工程を更に有する、〔1〕又は〔2〕に記載の擁壁構造物施工方法。
【0009】
〔4〕前記コンクリート打設工程では、前記鋼殻組立体の側壁及び底壁を型枠として前記コンクリートを打設する、〔3〕に記載の擁壁構造物施工方法。
【0010】
〔5〕前記底版部構築工程で構築された前記底版部の上に前記擁壁構造物の縦壁部を構築する縦壁部構築工程を更に備える、〔1〕~〔4〕の何れか1項に記載の擁壁構造物施工方法。
【0011】
〔6〕基礎杭に剛結される底版部を備える擁壁構造物であって、前記底版部は、前記基礎杭の杭頭部が挿入されたソケット部を有するソケット付き鋼殻ブロックを含む複数の鋼殻ブロック同士が接合されてなる鋼殻組立体と、前記鋼殻組立体の側壁及び底壁を型枠として打設されたコンクリート部と、を有する、擁壁構造物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、施工性を向上する擁壁構造物施工方法及び擁壁構造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】底版部構築工程の開始時点における施工現場を示す断面図である。
【
図3】(a)は、ソケット付き鋼殻ブロックを示す斜視図であり、(b)は、ソケット無し鋼殻ブロックを示す斜視図である。
【
図4】(a)は、鋼殻ブロック設置工程における構築予定領域の状態を示す斜視図であり、(b)は、その断面図である。
【
図5】(a)は、鋼殻ブロック接合工程における構築予定領域の状態を示す斜視図であり、(b)は、その断面図である。
【
図6】(a),(b)は、コンクリート打設工程における構築予定領域の状態を示す斜視図である。
【
図7】(a)は、擁壁構造物及びその近傍に存在する他の地中構造体の位置関係を模式的に示す平面図であり、(b)は、その正面図である。
【
図8】(a)~(c)は、変形例に係る縦壁部構築工程を順に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明に係る擁壁構造物施工方法及び擁壁構造物の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
図1は、本実施形態の擁壁構造物1を示す断面図である。この擁壁構造物1は、河岸に設けられる杭基礎形式の擁壁護岸である。擁壁構造物1は、河岸に構築された複数の鋼管杭3(基礎杭)と、鋼管杭3に剛結される底版部5と、底版部5から立ち上がる縦壁部7と、を備えている。底版部5は、鋼殻体内にコンクリートが打設されて構築される合成構造をなしている。また、縦壁部7はRC構造をなしている。底版部5の上下厚さは例えば約2.5mであり、底版部5からの縦壁部7の立ち上がり高さは例えば約10mである。
【0016】
上記のような擁壁構造物1を施工するための擁壁構造物施工方法について説明する。本実施形態の擁壁構造物施工方法は、底版部5を構築する底版部構築工程と、縦壁部7を構築する縦壁部構築工程と、を備えている。底版部構築工程には、鋼殻ブロック設置工程と、鋼殻ブロック接合工程と、鋼管杭剛結工程と、コンクリート打設工程と、が含まれる。各工程について以下説明する。
【0017】
〔底版部構築工程〕
底版部構築工程の開始時点では、
図2に示されるように、河岸には鋼管矢板による仮締切13と鋼矢板による仮締切15とが設置され、仮締切13,15同士の間の空間が掘削され、この空間に鋼管杭3が設置されている。鋼管杭3の杭頭部3aは、底版部5が構築される構築予定領域6に突出している。底版部構築工程では、鋼殻ブロック設置工程と、鋼殻ブロック接合工程と、鋼管杭剛結工程と、コンクリート打設工程と、が実行される。以下、
図3~
図6を参照しながら、底版部構築工程に含まれる上記各工程について説明する。なお、底版部5、構築予定領域6、及び後述する鋼殻体9は、河川の上下流方向を長手方向として延在するものであるが、
図4~
図6には、底版部5、構築予定領域6、及び鋼殻体9のうち長手方向の一部分のみが図示されている。
【0018】
(鋼殻ブロック設置工程)
まず、鋼殻ブロック設置工程で用いられる鋼殻ブロック11について説明する。
図3に示される鋼殻ブロック11は、複数組み合わされて底版部5の鋼殻体9(
図5参照)を構成するものである。すなわち、鋼殻ブロック11は、鋼殻体9が分割されたものであり、底版部5の鋼殻体9の各一部分ずつを構成する。1つの鋼殻ブロック11は、擁壁構造物1の施工現場で使用される揚重機で揚重可能な程度の大きさ及び形状に形成される。各鋼殻ブロック11は、鋼殻体9が規則的に分割された形状であってもよいが、組み合わせたときに鋼殻体9が完成するものであれば、各鋼殻ブロック11はそれぞれ異なる形状をなすものであってもよい。鋼殻ブロック11は、予め工場等で製作される。
【0019】
鋼殻ブロック11は、鋼管杭3が存在する位置に配置されるソケット付き鋼殻ブロック11Aと、鋼管杭3が存在しない位置に配置されるソケット無し鋼殻ブロック11Bと、の2種類に大別することができる。鋼殻体9は、少なくとも1つのソケット付き鋼殻ブロック11Aを含んでいる。
【0020】
図3(a)に示されるソケット付き鋼殻ブロック11Aは、鉛直鋼板21と水平鋼板23と鋼管部25とが、例えば溶接やボルト止めによって一体的に組み立てられユニット化された鋼製部材である。鋼管部25は、鋼管杭3よりもやや大きい内径をもち、鋼管杭3の杭頭部3aが挿入されるソケット部27を構成する。1つの鋼管部25の外壁面に対して複数の鉛直鋼板21が接合されており、平面視においてこれらの鉛直鋼板21は鋼管部25を中心として縦横方向に延びている。この構造により、擁壁構造物1に作用する力が底版部5のソケット部27を通じて鋼管杭3に確実に伝達される。ソケット付き鋼殻ブロック11Aは、少なくとも1つのソケット部27を有する。ソケット付き鋼殻ブロック11Aは、鉛直鋼板21と水平鋼板23と鋼管部25とのみで構成され、例えば、斜材等を含まないものであってもよい。
【0021】
図3(b)に示されるソケット無し鋼殻ブロック11Bは、鋼管部25を含まずに鉛直鋼板21と水平鋼板23とが例えば溶接やボルト止めによって一体的に組み立てられユニット化された鋼製部材である。ソケット無し鋼殻ブロック11Bは、ソケット部27を有していない。ソケット無し鋼殻ブロック11Bは、鉛直鋼板21と水平鋼板23とのみで構成され、例えば、斜材等を含まないものであってもよい。
【0022】
鋼殻ブロック設置工程では、上記のような鋼殻ブロック11が構築予定領域6に複数設置される。具体的には、
図4(a)に示されるように、河川から船で搬送された鋼殻ブロック11が、施工現場に配置された揚重機により吊られて構築予定領域6に移動される。ここでは、複数の鋼殻ブロック11が予め定められたそれぞれの位置に配置され、構築予定領域6には鋼殻体9を形作るように複数の鋼殻ブロック11が設置される。すなわち、構築予定領域6のうち鋼管杭3が存在する箇所にはソケット付き鋼殻ブロック11Aが配置され、鋼管杭3が存在しない箇所にはソケット無し鋼殻ブロック11Bが配置されて、鋼殻体9が形作られる。このとき、
図4(b)に示されるように、ソケット付き鋼殻ブロック11Aは、構築予定領域6に突出した杭頭部3aがソケット部27に挿入されるようにしながら、構築予定領域6の所定の位置に吊り下ろされる。
【0023】
(鋼殻ブロック接合工程)
鋼殻ブロック接合工程では、構築予定領域6に設置された鋼殻ブロック11同士が接合されて鋼殻体9(鋼殻組立体)が形成される。すなわち、
図5(a)に示されるように、構築予定領域6で互いに隣接する鋼殻ブロック11同士が、例えば溶接やボルト止めで接合される。そして、複数の鋼殻ブロック11が組み立てられてなる鋼殻体9が構築予定領域6に形成される。鋼殻体9の平面視形状は底版部5の平面視形状に概ね等しく、鋼殻体9の上下厚さは底版部5の上下厚さに概ね等しい。例えば、本実施形態では、鋼殻体9は直方体をなしている。
【0024】
また、
図5(b)にも示されるように、鋼殻体9は、水平な底壁9aと、底壁9aから鉛直に立ち上がる側壁9bと、を備え、全体として上面が開放された器状をなしている。底壁9aは、各鋼殻ブロック11の底部に位置する水平鋼板23同士が隙間無く水密に接合されて構成される。側壁9bも同様に、各鋼殻ブロック11の側部に位置する鉛直鋼板21同士が隙間無く水密に接合されて構成される。また、鋼殻体9の内部には複数の鉛直鋼板21が井桁状に配置されている。また、鋼殻体9は少なくとも1つのソケット部27を備える。例えば、本実施形態では、鋼殻体9は5つのソケット部27を備えている。各ソケット部27の上端は、側壁9bの上端よりもやや低い位置に位置している。鋼殻体9の上下幅は例えば約2.5mであり、ソケット部27の上端と側壁9bの上端との高さの差は例えば約0.25mである。
【0025】
(鋼管杭剛結工程)
上記鋼殻ブロック接合工程の完了時点では、上記のように構築予定領域6に鋼殻体9が形成され、鋼殻体9の各ソケット部27にはそれぞれ鋼管杭3の杭頭部3aが挿入されている。杭頭部3aの上端はソケット部27の上端と概ね同じ高さに位置している。鋼管杭剛結工程では、杭頭部3aの外周面とソケット部27の内周面との隙間にグラウトが打設される。これにより、鋼殻体9が鋼管杭3に剛結され、最終的には底版部5が鋼管杭3に剛結される。杭頭部3aとソケット部27との軸方向の接合強度を高めるために、杭頭部3aの外周面とソケット部27の内周面とにシアキーが設けられてもよい。
【0026】
(コンクリート打設工程)
コンクリート打設工程では、
図6(a)に示されるように、鋼殻体9内に必要な鉄筋29が設置され、
図6(b)に示されるように、鋼殻体9内にコンクリートが打設される。なお、上記の鉄筋29は、鋼殻体9内部の上部にのみ設置され、底版部5の上面に沿って埋設される。具体的には、鉄筋29は、ソケット部27の上端と側壁9bの上端との間の上下幅の領域にのみ設置される。またここでは、最終的に縦壁部7(
図1)に埋設される鉄筋33(
図6(b))が、鋼殻体9から上方に突出するように設置される。
【0027】
前述の通り、鋼殻体9は、水密な底壁9aと側壁9bとを有し上面が開放された器状をなしている。従って、ここでは底壁9aと側壁9bとがコンクリート打設のための型枠として機能するので、型枠を別途準備することは不用である。このコンクリート打設工程により、構築予定領域6には、鋼殻体9と、鋼殻体9の底壁9aと側壁9bとを型枠として打設されたコンクリート部31と、を有する合成構造(SRC構造)の底版部5が構築される。また、この底版部5は、ソケット部27を介して鋼管杭3に剛結されている。また、底版部5の上面には鉄筋33が突出している。
【0028】
〔縦壁部構築工程〕
縦壁部構築工程では、構築された上記底版部5の上面から立ち上がるようにRC構造の縦壁部7(
図1)が構築される。前述のように、底版部5の上面には縦壁部7との結合を図るために前述の鉄筋33が突出しているので、ここでは、更に必要な鉄筋が追加され、型枠が設置され、コンクリートが打設されて縦壁部7(
図1)が構築される。これにより鋼管杭3と底版部5と縦壁部7とを備える擁壁構造物1(
図1)が完成する。その後、仮締切13,15(
図2)の間の空間が適宜埋め戻され、仮締切13,15が撤去されて擁壁構造物1の工事が完了する。
【0029】
完成した擁壁構造物1は、鋼管杭3(基礎杭)に剛結される底版部5を備え、底版部5は、鋼殻体9とコンクリート部31とを有する。鋼殻体9は、複数の鋼殻ブロック11同士が接合されてなるものであり、上記鋼殻ブロック11には少なくとも1つのソケット付き鋼殻ブロック11Aが含まれている。ソケット付き鋼殻ブロック11Aはソケット部27を有し、ソケット部27には鋼管杭3の杭頭部3aが挿入されている。コンクリート部31は、鋼殻体9の底壁9a及び側壁9bを型枠として打設されたコンクリートからなる。例えば、本実施形態では、底版部5の上下厚さが例えば約2.5mであるのに対し、杭頭部3aは例えば約2.25mの長さ分だけ底版部5の底面から挿入された状態で、底版部5と鋼管杭3とが剛結されている。
【0030】
続いて、上述した擁壁構造物施工方法及び擁壁構造物1による作用効果について説明する。
【0031】
上述した擁壁構造物施工方法及び擁壁構造物1によれば、底版部5は鋼殻体9とコンクリート部31とを有する合成構造をなすので、底版部5の必要な強度や剛性を得るための鉄筋は少なく済む。従って、底版部5を構築する際に構築予定領域6に設置すべき鉄筋が削減される。例えば、本実施形態では、前述したように底版部5の上部のみに鉄筋29が配置されればよい。また、底版部5は、鋼殻体9のソケット部27に杭頭部3aが挿入される構造をもって、鋼管杭3と剛結されている。従って、底版部5と鋼管杭3との剛結を図るための鉄筋も削減可能である。その結果、底版部5の構築における鉄筋配筋作業の負担が軽減され、ひいては、擁壁構造物1の施工性が向上する。なお、底版部5の合成構造は、SC構造であってもよく、SRC構造であってもよい。
【0032】
また、本実施形態の擁壁構造物施工方法のコンクリート打設工程では、鋼殻体9の底壁9a及び側壁9bを型枠としてコンクリートが打設される。従って、構築予定領域6において別途型枠を準備する必要がなく、型枠に関連する作業負担が軽減される。従って、擁壁構造物1の施工性が更に向上する。また、底版部5をSC構造又はSRC構造等の合成構造とし、縦壁部7をRC構造とする複合構造とすることで、品質性能、維持管理、経済性の観点から、合理的な擁壁構造物1を建造することができる。
【0033】
また、本実施形態の擁壁構造物施工方法によれば、次のような条件下においても擁壁構造物を建造することができる。
図7(a)は、上述の擁壁構造物施工方法で建造される擁壁構造物1及びその近傍に存在する他の地中構造体の位置関係を模式的に示す平面図であり、
図7(b)は、その正面図である。この擁壁構造物1は河岸に沿って水平方向に長く延びる底版部5を備えている。底版部5の下方の比較的浅い位置を、シールド工法又は推進工法による管構造躯体60が横切るように通過している。このような位置関係によれば、底版部5のうち平面視で管構造躯体60と重なる部分には鋼管杭3を設置することができない。この場合、底版部5の鋼殻体9のうち、平面視で管構造躯体60と重なる部分はソケット無し鋼殻ブロック11Bで構成され、それ以外の部分がソケット付き鋼殻ブロック11Aで構成されて鋼管杭3に剛結される。
【0034】
すなわち、
図7に示されるように、複数の鋼管杭3からなる鋼管杭群3H,3Hを、管構造躯体60を挟んで互いの間隔を広くあけて配置せざるを得ない。特に、
図7の例では、平面視において管構造躯体60が底版部5を斜めに横切っているので、鋼管杭群3H,3H同士の間隔は特に広くなる。これに対し、本実施形態の擁壁構造物施工方法によれば、底版部5が鋼殻体9とコンクリート部31とを有する合成構造をなすので、底版部5の剛性を高くし易い。そして、底版部5に高い剛性を持たせることにより、鋼管杭群3H,3H同士の間隔が広くあいた状態においても、鋼管杭群3H,3H同士の中間部分における擁壁構造物1の沈下が抑えられ、擁壁構造物1の沈下による管構造躯体60への悪影響も抑えることができる。また、底版部5の高い剛性によって擁壁構造物1自体の沈下が抑えられ、擁壁構造物1の性能が十分満足される。
【0035】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して、変形例を構成することも可能である。各実施形態等の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0036】
例えば、上述の実施形態における鋼殻ブロック設置工程では、ソケット付き鋼殻ブロック11Aは、杭頭部3aがソケット部27に挿入されるようにしながら吊り下ろされるが、これには限定されない。例えば、鋼殻ブロック設置工程の開始時点では、鋼管杭3が未設置であってもよい。この場合、鋼殻ブロック設置工程で構築予定領域6にソケット付き鋼殻ブロック11Aが設置された後、当該ソケット付き鋼殻ブロック11Aのソケット部27に挿入するように鋼管杭3の打設が実行されてもよい。
【0037】
また、実施形態における底版部5は鋼殻体9とコンクリート部31とを有する合成構造をなすが、底版部5は鋼製構造をなすものであってもよい。この場合の擁壁構造物施工方法では、上述の実施形態における鋼管杭剛結工程の後、コンクリート打設工程は実行されない。そして、コンクリート打設工程に代えて、鋼殻体9の上方に開放された開口を塞ぐように鋼板が取付けられ、当該鋼板により底版部5の上面が形成されることで、底版部5が完成する。その他の点においては上述の実施形態における擁壁構造物施工方法と同様であるので、重複する説明を省略する。
【0038】
また、実施形態における縦壁部7はRC構造をなすが、縦壁部7は鋼製構造をなすものであってもよい。この場合の縦壁部構築工程では、
図8(a)~(c)に示されるように、予め工場等で製作された鋼製ブロック41を底版部5上に溶接又はボルト止めによって順次接続しながら組み立てることで、縦壁部7が構築される。鋼製ブロック41は、鉛直鋼板21と水平鋼板23とが例えば溶接やボルト止めによって一体的に組み立てられユニット化された鋼製部材である。鉛直鋼板21、水平鋼板23には、貫通穴43が適宜設けられてもよい。なお、底版部5及び縦壁部7は、河川の上下流方向を長手方向として延在するものであるが、
図8(a)~(c)には、底版部5及び縦壁部7のうち長手方向の一部分のみが図示されている。また、縦壁部7は合成構造(SC構造又はSRC構造)をなすものであってもよい。この場合の縦壁部構築工程では、
図8(a)~(c)に示される工程の後、鋼製ブロック41の内部にコンクリートが打設されればよい。この場合、各鋼製ブロック41の外壁を構成する鋼板を型枠として、貫通穴43を通じてコンクリートが縦壁部7全体に充填される。
【0039】
また、本発明は、河川の擁壁護岸には限定されず、他の擁壁構造物にも適用が可能である。このような他の擁壁構造物の例としては、防潮堤、防波堤等がある。
【符号の説明】
【0040】
1…擁壁構造物、3…鋼管杭(基礎杭)、5…底版部、7…縦壁部、3a…杭頭部、6…構築予定領域、11…鋼殻ブロック、9…鋼殻体(鋼殻組立体)、11A…ソケット付き鋼殻ブロック、27…ソケット部、9a…底壁、9b…側壁、31…コンクリート部。