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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140704
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】モダクリル繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/40 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
D01F6/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051999
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】矢島 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】出口 義国
(72)【発明者】
【氏名】楠 和也
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035AA06
4L035BB03
4L035BB11
4L035BB15
4L035BB21
4L035JJ03
4L035JJ04
4L035JJ06
4L035JJ10
4L035KK05
(57)【要約】
【課題】モダクリル繊維製品をリサイクルしつつモダクリル繊維を製造するモダクリル繊維の製造方法であって、モダクリル繊維製品を有機溶媒に溶解した後に、得られた溶液からノズルの閉塞の原因である不溶成分を良好に除去できるモダクリル繊維の製造方法を提供すること。
【解決手段】モダクリル繊維製品が有機溶媒に溶解した粗繊維原液を調製することと、粗繊維原液の質量に対して、0.5~10質量%の水、及び/又はカチオン系凝集剤水溶液を粗繊維原液と混合して、繊維原液中に不溶物を凝集させることと、不溶物と、繊維原液とを分離して、繊維原液を得ることと、繊維原液であるか、又は繊維原液と、モダクリル樹脂が有機溶媒に溶解したモダクリル樹脂溶液との混合液であるドープを得ることと、ドープを用いて湿式紡糸を行うことと、を含む方法において、粗繊維原液中のモダクリル樹脂の濃度を10質量%未満とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モダクリル繊維製品が有機溶媒に溶解した粗繊維原液を調製することと、
前記粗繊維原液の質量に対して、0.5~10質量%の水、及び/又はカチオン系凝集剤水溶液を前記粗繊維原液と混合して、繊維原液中に不溶物を凝集させることと、
前記不溶物と、前記繊維原液とを分離して、前記繊維原液を得ることと、
前記繊維原液であるか、又は前記繊維原液と、モダクリル樹脂が前記有機溶媒に溶解したモダクリル樹脂溶液との混合液であるドープを得ることと、
前記ドープを用いて湿式紡糸を行うことと、を含み、
前記粗繊維原液中の前記モダクリル樹脂の濃度が10質量%未満であり、
前記有機溶媒が、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、及びN,N-ジメチルアセトアミドからなる群より選択される少なくとも1種である、モダクリル繊維の製造方法。
【請求項2】
前記粗繊維原液中の前記モダクリル樹脂の濃度が、1~9質量%である、請求項1に記載のモダクリル繊維の製造方法。
【請求項3】
前記ドープが、前記繊維原液と、モダクリル樹脂が前記有機溶媒に溶解したモダクリル樹脂溶液との混合液であり、
前記モダクリル樹脂溶液の濃度が20~35質量%である、請求項1、又は2に記載のモダクリル繊維の製造方法。
【請求項4】
前記ドープが、前記繊維原液と、モダクリル樹脂が前記有機溶媒に溶解したモダクリル樹脂溶液との混合液であり、
前記ドープにおける、前記繊維原液に由来する前記モダクリル樹脂の質量M1と、前記モダクリル樹脂溶液に由来する前記モダクリル樹脂の質量M2との比M1:M2が、1:99~25:75である、請求項1、又は2に記載のモダクリル繊維の製造方法。
【請求項5】
前記不溶物の凝集が、50~70℃において行われる、請求項1、又は2に記載のモダクリル繊維の製造方法。
【請求項6】
前記不溶物と、前記繊維原液との分離が、遠心分離により行われる、請求項1、又は2に記載のモダクリル繊維の製造方法。
【請求項7】
前記遠心分離が、1000~2000Gの条件で行われる、請求項6に記載のモダクリル繊維の製造方法。
【請求項8】
前記不溶物を凝集させる際に、前記カチオン系凝集剤水溶液が使用され、
前記カチオン系凝集剤水溶液とともに、凝集助剤が、前記粗繊維原液と混合される、請求項1、又は2に記載のモダクリル繊維の製造方法。
【請求項9】
前記凝集助剤の使用量が、前記粗繊維原液の質量に対して、0.1~0.5質量%である、請求項8に記載のモダクリル繊維の製造方法。
【請求項10】
前記凝集助剤が、アルカリ金属ハロゲン化物である、請求項8に記載のモダクリル繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モダクリル繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系繊維として知られるモダクリル繊維は、その独特の風合いや優れた発色性、染色堅牢度等の特徴を有することから、衣料、建築、及び産業資材用モダクリル繊維等の種々の用途に用いられている。石油製品であるモダクリル繊維について、人間活動の持続可能性の点で、そのリサイクルについて強い要求がある。アクリル系繊維をリサイクルする方法としては、粉砕されたアクリル系繊維を溶媒に溶解させた後、得られたアクリル系樹脂の溶液を用いて湿式紡糸する方法が提案されている(特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-112114
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載される方法でモダクリル繊維製品をリサイクルする場合は、モダクリル繊維製品の種類や、モダクリル繊維製品を構成する樹脂組成物の組成によっては、湿式紡糸を行う際に、ドープ(樹脂溶液)を吐出するノズルでの閉塞が頻発し、良好に紡糸を行えない場合がある。
そこで、本発明者らがノズルの閉塞の原因について検討したところ、本発明者らは、ノズルの閉塞の原因が、ドープに含まれるリサイクルされるモダクリル繊維製品に由来する不溶成分であることを見出した。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、モダクリル繊維製品をリサイクルしつつモダクリル繊維を製造するモダクリル繊維の製造方法であって、モダクリル繊維製品を有機溶媒に溶解した後に、得られた溶液からノズルの閉塞の原因である不溶成分を良好に除去できるモダクリル繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、モダクリル繊維製品が有機溶媒に溶解した粗繊維原液を調製することと、粗繊維原液の質量に対して、0.5~10質量%の水、及び/又はカチオン系凝集剤水溶液を粗繊維原液と混合して、繊維原液中に不溶物を凝集させることと、不溶物と、繊維原液とを分離して、繊維原液を得ることと、繊維原液であるか、又は繊維原液と、モダクリル樹脂が有機溶媒に溶解したモダクリル樹脂溶液との混合液であるドープを得ることと、ドープを用いて湿式紡糸を行うことと、を含む方法において、粗繊維原液中のモダクリル樹脂の濃度が10質量%未満であることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
より具体的には、本発明は、以下の(1)~(10)を提供する。
(1)モダクリル繊維製品が有機溶媒に溶解した粗繊維原液を調製することと、
粗繊維原液の質量に対して、0.5~10質量%の水、及び/又はカチオン系凝集剤水溶液を粗繊維原液と混合して、繊維原液中に不溶物を凝集させることと、
不溶物と、繊維原液とを分離して、繊維原液を得ることと、
繊維原液であるか、又は繊維原液と、モダクリル樹脂が有機溶媒に溶解したモダクリル樹脂溶液との混合液であるドープを得ることと、
ドープを用いて湿式紡糸を行うことと、を含み、
粗繊維原液中のモダクリル樹脂の濃度が10質量%未満であり、
有機溶媒が、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、及びN,N-ジメチルアセトアミドからなる群より選択される少なくとも1種である、モダクリル繊維の製造方法。
(2)粗繊維原液中のモダクリル樹脂の濃度が、1~9質量%である、(1)に記載のモダクリル繊維の製造方法。
(3)ドープが、繊維原液と、モダクリル樹脂が有機溶媒に溶解したモダクリル樹脂溶液との混合液であり、
モダクリル樹脂溶液の濃度が20~35質量%である、(1)、又は(2)に記載のモダクリル繊維の製造方法。
(4)ドープが、繊維原液と、モダクリル樹脂が有機溶媒に溶解したモダクリル樹脂溶液との混合液であり、
ドープにおける、繊維原液に由来するモダクリル樹脂の質量M1と、モダクリル樹脂溶液に由来するモダクリル樹脂の質量M2との比M1:M2が、1:99~25:75である、(1)~(3)のいずれか1つに記載のモダクリル繊維の製造方法。
(5)不溶物の凝集が、50~70℃において行われる、(1)~(4)のいずれか1つに記載のモダクリル繊維の製造方法。
(6)不溶物と、繊維原液との分離が、遠心分離により行われる、(1)~(5)のいずれか1つに記載のモダクリル繊維の製造方法。
(7)遠心分離が、1000~2000Gの条件で行われる、(6)に記載のモダクリル繊維の製造方法。
(8)不溶物を凝集させる際に、カチオン系凝集剤水溶液が使用され、
カチオン系凝集剤水溶液とともに、凝集助剤が、粗繊維原液と混合される、(1)~(7)のいずれか1つに記載のモダクリル繊維の製造方法。
(9)凝集助剤の使用量が、粗繊維原液100質量%に対して、0.1~0.5質量%である、(8)に記載のモダクリル繊維の製造方法。
(10)凝集助剤が、アルカリ金属ハロゲン化物である、(8)に記載のモダクリル繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、モダクリル繊維製品をリサイクルしつつモダクリル繊維を製造するモダクリル繊維の製造方法であって、モダクリル繊維製品を有機溶媒に溶解した後に、得られた溶液からノズルの閉塞の原因である不溶成分を良好に除去できるモダクリル繊維の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪モダクリル繊維の製造方法≫
モダクリル繊維の製造方法は、
モダクリル繊維製品が有機溶媒に溶解した粗繊維原液を調製することと、
粗繊維原液の質量に対して、0.5~10質量%の水、及び/又はカチオン系凝集剤水溶液を粗繊維原液と混合して、繊維原液中に不溶物を凝集させることと、
不溶物と、繊維原液とを分離して、繊維原液を得ることと、
繊維原液であるか、又は繊維原液と、モダクリル樹脂が有機溶媒に溶解したモダクリル樹脂溶液との混合液であるドープを得ることと、
ドープを用いて湿式紡糸を行うことと、を含む。
粗繊維原液中のモダクリル樹脂の濃度は、10質量%未満であり、
有機溶媒は、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、及びN,N-ジメチルアセトアミドからなる群より選択される少なくとも1種である。
上記の製造方法によれば、モダクリル繊維製品の種類や、モダクリル繊維製品を構成する樹脂組成物の組成によらず、良好に湿式紡糸を行うことができる。
【0010】
本出願の明細書において、モダクリル繊維製品が有機溶媒に溶解した粗繊維原液を調製することを、「粗繊維原液調製工程」とも記す。
粗繊維原液の質量に対して、0.5~10質量%の水、及び/又はカチオン系凝集剤水溶液を粗繊維原液と混合して、繊維原液中に不溶物を凝集させることを、「凝集工程」とも記す。
不溶物と、繊維原液とを分離して、繊維原液を得ることを、「繊維原液取得工程」とも記す。
繊維原液であるか、又は繊維原液と、モダクリル樹脂が有機溶媒に溶解したモダクリル樹脂溶液との混合液であるドープを得ることを、「ドープ取得工程」とも記す。
ドープを用いて湿式紡糸を行うことを、「紡糸工程」とも記す。
【0011】
以下、上記のモダクリル繊維の製造方法が含む各工程について説明する。
【0012】
<粗繊維原液調製工程>
粗繊維原液調製工程では、モダクリル繊維製品が有機溶媒に溶解した粗繊維原液を調製する。以下、モダクリル繊維製品について説明する。
【0013】
(モダクリル繊維製品)
モダクリル繊維製品は、特に限定されない。モダクリル繊維製品には、販売目的で製造されたモダクリル繊維のみならず、試験研究目的で製造されたモダクリル繊維、及びモダクリル繊維を製造した企業や個人により使用されることを目的として製造されたモダクリル繊維も包含される。
モダクリル繊維製品の製造方法は、特に限定されない。モダクリル繊維製品の製造方法は、乾式法であっても湿式法であってもよく、湿式法が好ましい。
【0014】
モダクリル繊維製品は、着色された繊維であっても、未着色の繊維であってもよい。モダクリル繊維製品が着色されている場合、典型的には、モダクリル繊維製品は顔料を含む。
顔料としては、周知の種々の顔料を用いることができる。顔料は、有機顔料であっても、無機顔料であってもよい。モダクリル繊維製品は、2種以上の顔料を含んでいてもよく、顔料とともに染料を含んでいてもよい。
【0015】
モダクリル繊維の特性から、モダクリル繊維製品が人工毛髪として使用されることが多い。人工毛髪用のモダクリル繊維において、モダクリル繊維を望ましい色相の黒色に着色できることや、入手が容易であること等から、カーボンブラックが好ましく使用される。
上記の方法によれば、モダクリル繊維製品がカーボンブラック等の含量を含んでいても、モダクリル繊維製品をリサイクルしつつ、良好に湿式紡糸を行ってモダクリル繊維を製造できる。
【0016】
モダクリル繊維製品は、主にモダクリル樹脂からなる。以下、モダクリル樹脂について説明する。
【0017】
(モダクリル樹脂)
例えば、モダクリル樹脂の質量に対するアクリロニトリルに由来する構成単位の質量の比率が35質量%以上85質量%未満であり、アクリロニトリル以外の他の単量体に由来する構成単位の比率が15質量%超65質量%以下であるモダクリル共重合体を、モダクリル樹脂として好ましく用いることができる。かかるモダクリル共重合体としては、モダクリル樹脂の質量に対するアクリロニトリルに由来する構成単位の質量の比率が35質量%以上80質量%以下であり、アクリロニトリル以外の他の単量体に由来する構成単位の比率が20質量%以上65質量%以下であるモダクリル共重合体がより好ましい。
【0018】
より具体的には、モダクリル樹脂の質量に対するアクリロニトリルに由来する構成単位の質量の比率が35質量%以上79.5質量%以下であり、塩化ビニル及び/又は塩化ビニリデンに由来する構成単位の質量の比率が20質量%以上64.5質量%以下であり、スルホン酸基含有ビニル単量体に由来する構成単位の質量の比率が0.5質量%以上5質量%以下であるモダクリル共重合体を特に好ましく用いることができる。
上記のモダクリル共重合体において、アクリロニトリルに由来する構成単位の含有量が35質量%以上79.5質量%以下であると、得られるモダクリル繊維の耐熱性が良好である。モダクリル共重合体において、塩化ビニル及び/又は塩化ビニリデンに由来する構成単位の含有量が20質量%以上64.5質量%以下であると、得られるモダクリル繊維の難燃性が良好である。モダクリル共重合体において、スルホン酸基含有ビニル単量体の含有量が0.5質量%以上5質量%以下含むことにより、得られるモダクリル繊維の親水性が良好である。
【0019】
モダクリル樹脂について、モダクリル共重合体の質量に対する、アクリロニトリルに由来する構成単位の質量の比率が35質量%以上74.5質量%以下であり、塩化ビニル及び/又は塩化ビニリデンに由来する構成単位の質量の比率が、25質量%以上64.5質量%以下であり、スルホン酸基含有ビニル単量体に由来する構成単位の比率が、0.5質量%以上5質量%以下であるのがさらに好ましく、アクリロニトリルに由来する構成単位の質量の比率が39.5質量%以上74.5質量%以下であり、塩化ビニルに由来する構成単位の質量の比率が、25質量%以上60質量%以下であり、スルホン酸基含有ビニル単量体に由来する構成単位の比率が、0.5質量%以上5質量%以下であるのがさらにより好ましい。
【0020】
触感に優れるモダクリル繊維が得られる点で、モダクリル共重合体が、塩化ビニルに由来する構成単位を含むのが好ましい。
【0021】
上記のスルホン酸基含有ビニル単量体としては、例えば、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸並びにこれらのナトリウム塩等の金属塩類及びアミン塩類等を用いることができる。スルホン酸基含有ビニル単量体は一種で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
有機溶媒に溶解しやすい観点から、モダクリル樹脂の比粘度は、0.1~0.3が好ましく、0.15~0.25がより好ましい。本出願の明細書において、モダクリル樹脂2gをジメチルホルムアミド1Lに溶解させた重合体溶液の、30℃でオストワルド粘度計を使用して測定された比粘度を、モダクリル樹脂の比粘度とする。
【0023】
以下、粗繊維原液の調製に用いられる有機溶媒について説明する。
【0024】
粗繊維原液の調製に用いられる有機溶媒は、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、及びN,N-ジメチルアセトアミドからなる群より選択される少なくとも1種である。かかる有機溶媒を用いることにより、モダクリル繊維製品を良好に溶解させることができ、また、後述する紡糸工程において、良好に紡糸を行うことができる。
【0025】
モダクリル繊維製品は、粗繊維原液中のモダクリル樹脂の濃度が、10質量%未満であるように、有機溶媒に溶解される。粗繊維原液中のモダクリル樹脂の濃度は、1質量%以上9質量%以下が好ましく、2質量%以上8質量%以下がより好ましく、3質量%以上7質量%以下がより好ましい。モダクリル繊維製品を有機溶媒に溶解させる際に、必要に応じて、加熱を行ってもよい。モダクリル繊維製品を有機溶媒に溶解させる際の加熱温度は、モダクリル樹脂や有機溶媒の熱劣化が生じない温度であれば特に限定されない。
【0026】
上記のようにモダクリル繊維製品を有機溶媒に溶解させて得られた粗繊維原液中に不溶物が存在する場合、不溶物を除去するのが好ましい。不溶物の除去方法は特に限定されないが、種々のフィルターを用いるろ過が好ましい。
【0027】
このようにして得られた粗繊維原液は、次いで、凝集工程に供される。
【0028】
<凝集工程>
凝集工程では、粗繊維原液の質量に対して、0.5~10質量%の水、及び/又はカチオン系凝集剤水溶液を粗繊維原液と混合して、繊維原液中に不溶物を凝集させる。
水、及び/又はカチオン系凝集剤水溶液の量は、粗繊維原液の質量に対して、1~10質量%が好ましく、3~10質量%がより好ましい。
上記の量の、水、及び/又はカチオン系凝集剤水溶液を粗繊維原液と混合することにより、粗繊維原液中のモダクリル樹脂を過度に析出させることなく、モダクリル繊維製品に由来する不溶物を凝集させる。
なお、粗繊維原液と、水、及び/又はカチオン系凝集剤水溶液とが混合された液は、凝集した不溶物と、繊維原液とからなる。
かかる不溶物は、モダクリル繊維製品に含まれる種々の添加剤に由来する。モダクリル繊維製品に含まれる添加剤としては、二酸化チタン、二酸化ケイ素、及びセルロース誘導体のエステル及びエーテル等の光沢調整剤;耐光性や耐熱性向上のための安定剤等;顔料、及び染料等の着色剤;油剤;ポリグリシジルメタクリレート等の防臭安定剤が挙げられる。
【0029】
油剤は、モダクリル繊維の製造時において、通常、静電防止、モダクリル繊維の膠着防止や風合い改良を目的として用いられる。油剤としては、例えば、リン酸エステル塩、硫酸エステル塩等のアニオン界面活性剤;第四級アンモニウム塩、イミダゾリウム塩等のカチオン界面活性剤;油脂のエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物、多価アルコール部分エステル等の非イオン界面活性剤;動植物油脂、鉱物油、脂肪酸エステル;アミノ変性シリコーン等のシリコーン系界面活性剤等が挙げられる。
【0030】
カチオン系凝集剤としては、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化アルミニウム、及びポリ塩化アルミニウム等の2価又は3価の金属イオンを含む金属塩が挙げられる。特に取り扱いやすさの観点から、塩基性塩化アルミニウムであるポリ塩化アルミニウムが好ましい。
カチオン系凝集剤の水溶液における、カチオン系凝集剤の濃度は、所望する効果が損なわれない範囲で特に限定されない。
カチオン系凝集剤の水溶液における、カチオン系凝集剤の濃度は、1質量~20質量%以下が好ましく、2~15質量%がより好ましい。
【0031】
不溶物を凝集させる際に、カチオン系凝集剤水溶液ともに、凝集助剤が、粗繊維原液と混合されるのが好ましい。凝集助剤を用いることにより、より不溶物を凝集させやすい。
凝集助剤としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、及び塩化カリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物が挙げられる。中でも、扱いやすさの観点から、塩化リチウムが好ましい。
【0032】
凝集助剤の使用量は、粗繊維原液の質量に対して、0.1~1.0質量%が好ましい。
【0033】
粗繊維原液と、水、及び/又はカチオン系凝集剤水溶液とを混合する温度は特に限定されない。モダクリル樹脂の析出を抑制しつつ不溶物を凝集させやすいことから、粗繊維原液と、水、及び/又はカチオン系凝集剤水溶液とを混合する温度は、例えば、0~100℃が好ましく、10~90℃がより好ましく、20~80℃がさらに好ましく、50~70℃が特に好ましい。
【0034】
凝集工程で得られた、繊維原液と、凝集した不溶物とを含む液は、繊維原液取得工程に供される。
【0035】
<繊維原液取得工程>
繊維原液取得工程において、不溶物と、繊維原液とを分離して、繊維原液を得る。
凝集した不溶物と、繊維原液とを分離する方法は特に限定されない。例えば、凝集した不溶物と、繊維原液とを含む液から、上澄みである繊維原液を、デカンテーションや吸引法により回収してもよい。
また、遠心分離により、凝集した不溶物と、繊維原液とを分離してもよい。これらの方法の中では、繊維原液の回収率が高いことから、遠心分離が好ましい。
遠心分離の条件は、特に限定されない。分離効率の点で、遠心分離は、1000~2000Gの条件で行われるのが好ましい。
【0036】
このようにして得られる繊維原液は、次いで、ドープ取得工程に供される。
【0037】
<ドープ取得工程>
ドープ取得工程では、繊維原液であるか、又は繊維原液と、モダクリル樹脂が有機溶媒に溶解したモダクリル樹脂溶液との混合液であるドープを得る。
つまり、繊維原液を、そのままドープとして用いることができる。また、繊維原液と、モダクリル樹脂が有機溶媒に溶解したモダクリル樹脂溶液とが混合された液をドープとして用いることができる。
上記のモダクリル樹脂溶液に含まれるモダクリル樹脂としては、従来より、モダクリル繊維の製造に使用されている種々のモダクリル樹脂を使用できる。上記のモダクリル樹脂溶液に含まれるモダクリル樹脂は、通常バージン材である。
【0038】
ここで、上記のモダクリル樹脂溶液に含まれる有機溶媒は、粗繊維原液調製工程において使用される有機溶媒と同様の有機溶媒である。
【0039】
上記のモダクリル樹脂溶液におけるモダクリル樹脂の濃度は、所望する効果が損なわれない範囲で特に限定されない。上記のモダクリル樹脂溶液におけるモダクリル樹脂の濃度は、モダクリル樹脂溶液の質量に対して20~35質量%が好ましい。
【0040】
ドープが、繊維原液と、上記のモダクリル樹脂溶液との混合液である場合、繊維原液と、モダクリル樹脂溶液との混合比率は、所望する効果が損なわれない範囲で特に限定されない。
繊維原液と、モダクリル樹脂溶液は、繊維原液に由来するモダクリル樹脂の質量M1と、モダクリル樹脂溶液に由来するモダクリル樹脂の質量M2との比M1:M2が、1:99~25:75であるように混合されるのが好ましい。比M1:M2は、5:95~15:85であってもよく、10:90~20:80であってもよい。
【0041】
上記のようにして得られるドープのモダクリル樹脂の濃度は、モダクリル樹脂溶液の質量に対して20~35質量%が好ましい。
【0042】
上記のようにして得られるドープは、水を含んでいてもよい。ドープの含水量は、2.0質量%以上であり、2.5質量%以上が好ましく、3.0質量%以上がより好ましい。
ドープの含水量は、所望する効果が損なわれない範囲で特に限定されない。ドープ中でのモダクリル樹脂の溶解性の点で、ドープの含水量の上限は、10.0質量%以下が好ましく、9.0質量%以下がより好ましく、7.0質量%以下がさらに好ましい。
【0043】
ドープは、顔料を含んでいてもよい。顔料としては、必要に応じて、周知の種々の顔料を用いることができる。顔料は、有機顔料であっても、無機顔料であってもよい。
また、ドープは、2種以上の顔料を含んでいてもよく、顔料とともに染料を含んでいてもよい。
【0044】
ドープに加えられる顔料として、固体の粉末状の顔料を用いてもよく、分散媒中に分散した顔料を含む顔料分散液を用いてもよい。ドープ、及びモダクリル繊維における顔料の分散性の点で、顔料分散液を用いてドープを調製するのが好ましい。
【0045】
顔料としては、モダクリル繊維を望ましい色相の黒色に着色できることや、入手が容易であること等から、カーボンブラックが好ましい。
【0046】
ドープは、所望する効果を阻害されない範囲内であれば、必要に応じて、繊維特性を改良するための他の添加剤を含んでもよい。かかる添加剤としては、例えば、二酸化チタン、二酸化ケイ素、及び酢酸セルロースをはじめとするセルロース誘導体のエステル及びエーテル等の光沢調整剤;耐光性や耐熱性向上のための安定剤等が挙げられる。
【0047】
上記のようにして得られるドープは、湿式紡糸における紡糸原液として使用される。
【0048】
<紡糸工程>
紡糸工程は、上記のドープを用いて湿式紡糸を行う工程である。
以下、湿式紡糸方法について説明する。
湿式紡糸方法としては、
凝固浴にドープをノズルから押し出して凝固させる工程と、
ドープを凝固させて生成した繊維に対して延伸浴中で延伸を行う工程と、を含む方法が好ましい。
【0049】
以下、凝固浴にドープをノズルから押し出して凝固させる工程を、「凝固工程」とも記す。ドープを凝固させて生成した繊維に対して延伸浴中で延伸を行う工程を、「延伸工程」とも記す。
【0050】
(凝固工程)
凝固工程では、凝固浴中にドープをノズルから繊維状に押し出して、繊維状に押し出されたドープを凝固させる。ドープは、モダクリル繊維の繊維径、及び繊維の断面形状に応じたサイズ及び形状のノズルから、凝固浴中に吐出される。
【0051】
凝固工程では、まず、ドープが、紡糸ノズルを通して凝固浴へ押し出される。繊維状に押し出された凝固液は、凝固浴中で凝固して繊維化する。凝固浴としては、凝固状態をコントロールしやすい観点から、水と有機溶媒との混合液を用いることが好ましい。
例えば、凝固浴に張り込まれる液としては、有機溶媒の水溶液が好ましい。有機溶媒の水溶液の有機溶媒の濃度は、20質量%以上75質量%以下が好ましく、30質量%以上70質量%以下がより好ましく、40質量%以上70質量%以下がさらに好ましい。
【0052】
凝固浴に張り込まれる液に含まれる有機溶媒は、モダクリル樹脂の良溶媒であれば、特に限定されない。モダクリル繊維の生産性の観点から、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホン、ε-カプロラクタム、炭酸エチレン、及びスルホランからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。安全性の観点から、ジメチルスルホキシドがより好ましい。モダクリル繊維の品質や工程管理の簡便性の観点から、ドープ中の有機溶媒と、凝固浴に張り込まれる液中の有機溶媒とは同じ有機溶媒であるのが好ましい。
【0053】
凝固浴に押し出されるドープの温度は、35℃以下が好ましい。
凝固浴に張り込まれる液の温度は、10℃以上30℃以下が好ましく、10℃以上25℃以下とすることがより好ましい。
【0054】
(延伸工程)
ドープを凝固浴内で凝固させて生成した繊維は、次いで、延伸浴中で延伸される。延伸される繊維を、凝固浴から延伸浴に移送する方法は特に限定されない。典型的には、凝固浴中のロールと、凝固浴外の1以上の繊維移送用のロールとに延伸される繊維がかけ渡され、ロールを回転させることにより、延伸される繊維が延伸浴中へ移送される。
【0055】
延伸浴中へ移送される繊維は、延伸浴に張り込まれた液中において、延伸される繊維の移動方向上流側の上流側延伸ロールと、延伸される繊維の移動方向下流側の下流側延伸ロールとにかけ渡され、上流側延伸ロール(第1延伸ロールと称す場合がある)と下流側延伸ロール(第2延伸ロールと称す場合がある)との回転により延伸される。
ここで、延伸倍率は、第1延伸ロールと、第2延伸ロールとにより延伸される繊維に対して加えられる張力と、第1延伸ロール及び第2延伸ロールの回転速度とを調製することによって調整される。
延伸倍率は、100%超800%以下が好ましく、120%以上300%以下がより好ましく、150%以上250%以下がさらに好ましい。
延伸浴の繊維の移動方向の長さとは、第1延伸ロールと第2延伸ロールとの間の距離を意味し、ロール間距離と呼ぶ場合がある。ロール間距離は90cm以上が好ましい。
後述するように、複数の延伸浴が用いられる場合があるが、その場合、延伸浴の繊維の移動方向の長さは、各延伸浴における上記のロール間距離の合計である。また、ロール間距離とは、第1延伸ロールの回転軸と、第2延伸ロールの回転軸との最短距離である。
【0056】
延伸されたモダクリル繊維は、延伸浴外に設けられたクローバーロール等のロールにかけ渡され、適宜延伸浴から回収される。
【0057】
延伸浴に張り込まれる浴液としては、良好に延伸を行うことができる限り特に限定されない。延伸浴に張り込まれる浴液としては、例えば、水、又は有機溶媒を含む水溶液を用いることができる。
延伸浴中の浴液としては、浴液の質量に対して10質量%以上90質量%以下の水を含む有機溶媒の水溶液が好ましい。
【0058】
延伸浴中での延伸は、複数回に分けて行われるのが好ましい。また、複数回の延伸のうちの少なくとも2回において、延伸速度の平均値がそれぞれ異なるのが好ましい。延伸浴中での延伸を複数回に分けて行うと、延伸工程における、例えば、初期、中期、後期等の時期ごとの延伸条件の制御が容易である。
ここで、延伸が複数回に分けて行われるとは、延伸と、延伸のための張力の解除とが2回以上の任意の回数繰り返されることを意味する。
複数回の延伸は、同一の延伸浴中で行われてもよく、異なる複数の延伸浴を用いて行われてもよい。延伸浴の温度や、延伸浴に張り込まれる液の組成を、延伸浴ごとに変えることができる点で、異なる複数の延伸浴を用いるのが好ましい。
【0059】
繊維の移動方向の下流側の延伸浴では、上流側延伸ロールと下流側延伸ロールとの間の距離である延伸浴の繊維の移動方向の長さが180cm以上であるのが好ましく、200cm以上であるのがより好ましい。
【0060】
延伸浴の浴中の温度は、30℃以上110℃以下の範囲内が好ましく、40℃以上95℃以下の範囲内がより好ましい。また、複数の延伸浴を用いる場合、最初の延伸浴の温度は50℃以上110℃以下の範囲内が好ましく、60℃以上95℃以下の範囲内がより好ましい。
また、光沢に優れるモダクリル繊維を得やすい点で、延伸浴中での延伸が、複数の延伸浴を用いて行われる場合、繊維の移動方向の最上流側の延伸浴の浴温度が40℃以上95℃以下の範囲内であるのが好ましい。
【0061】
(水洗工程)
延伸されたモダクリル繊維は、通常、水洗工程において水洗される。水洗工程では、延伸浴中で延伸されたモダクリル繊維を水洗して、モダクリル繊維から有機溶媒を除去する。水洗工程では、25℃以上の温水又は凝固浴より有機溶媒の濃度が低い有機溶媒の水溶液を洗浄液として用いるのが好ましい。水洗は、延伸後のモダクリル繊維をこれらの洗浄液が張り込まれた浴に浸漬したり、移動するモダクリル繊維に対して水を吹き付けたりすることで実施することができる。
浸漬により水洗を行う場合、浴中で、モダクリル繊維を揺動してもよく、浴の入口側と出口側とに設けられたローラーを介して、浴中のモダクリル繊維を一定方向に移動させてもよい。
【0062】
水洗工程において、水の吹付け手段は、特に限定されないが、吹付けやすい観点から、ノズルにより水の吹き付けを行うことが好ましい。ノズルを用いて水を吹付けることが可能であれば、ノズルの形状等は特に限定されない。例えば、スリット状や孔形状のノズルを用いることができる。水を吹き付ける向きは特に限定されず、横からや下から吹き付けてもよい。水を均一に吹付ける観点から、複数の孔を有するシャワーノズルを用いることが好ましい。水の吹付けに用いる水の温度は、特に限定されなり。例えば、20~95℃の温度範囲の水を用いることができる。有機溶媒を除去する脱溶媒効果を高める観点から、水の温度は、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましい。
【0063】
特に限定されないが、水洗工程において、有機溶媒を除去する効果を高める観点から、モダクリル繊維束の幅に対する総繊度の比が30万dtex/cm以下であるのが好ましく、20万dtex/cm以下であるのがより好ましく、10万dtex/cm以下であるのがさらに好ましい。
【0064】
(脱水工程)
延伸後のモダクリル繊維を水洗した場合、水洗されたモダクリル繊維は、脱水工程において脱水される。脱水工程では、水洗されたモダクリル繊維を、ニップロール間に挟み込みつつニップロール間を通過させて脱水する。
【0065】
「ニップロール」とは、通常、湿式紡糸法で繊維を製造する際に使用されるものであればよく、特に限定されない。「ニップロールによるプレス」とは、モダクリル繊維を上下の一対のニップロールの間を通過させながら圧力を加えることをいう。圧力を加える方法は、ニップロールによってモダクリル繊維に圧力を加えることができれば特に限定されず、例えば、シリンダーよって上部ニップロールに圧力を加えること、上部ニップロール上に重りを置くこと、上部ニップロールを下へ引っ張ること等が挙げられる。
【0066】
ニップロールとしては、例えば、ゴム系ニップロール、金属製のニップロール等を用いることができる。上部ニップロールとしてはゴム系ニップロール(ゴムロールとも記す。)が好適に用いられ、下部ニップロールとしては金属製のニップロール(金属ロールとも記す。)が好適に用いられる。ゴム系ニップロールの材質としては、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。また、ゴム系ニップロールは、金属製のロールにゴムを巻いたロールでもよい。ゴムの厚さは、繊維の断面形状を維持する観点から、3mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましく、8mm以上がさらに好ましい。金属製のニップロールの材質としては、ステンレス等が挙げられる。ニップロールの硬度は、40以上100以下が好ましく、50以上85以下がより好ましく、55以上80以下がさらに好ましい。ニップロールの硬度は、JIS K 6253に準じ、タイプAデュロメータで測定した値をいう。
【0067】
前述の水洗とニップロールによるプレスとは、一回ずつ交互に複数回行われてもよい。前述の水洗を2回以上行った後に、ニップロールによるプレスを1回以上行ってもよい。
【0068】
(乾燥工程)
延伸浴中で延伸されたモダクリル繊維や、以上のようにして脱水されたモダクリル繊維は、次いで、乾燥工程において乾燥される。乾燥工程では、モダクリル繊維に含まれる水分がほぼ完全に除去されるのが好ましい。乾燥方法としては、モダクリル繊維の水分を除去することが出来る方法であれば特に限定されない。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥や加熱ロールに接触させることで乾燥すること等が挙げられる。乾燥温度は、特に限定されないが、例えば、110℃以上190℃以下が好ましく、110℃以上170℃以下がより好ましい。
【0069】
以上のようにして得られるモダクリル繊維の繊度は、モダクリル繊維の用途に応じて適宜決定される。
【0070】
モダクリル繊維を乾燥する前に、モダクリル繊維に油剤を付着させてもよい。油剤について、前述した通りである。
【0071】
上記の方法により得られた乾燥したモダクリル繊維を、必要に応じてさらに延伸してもよい。延伸方法としては特に限定されず、乾式、湿式が挙げられる。
【0072】
上記の方法により得られた乾燥したモダクリル繊維は、さらに、熱緩和処理工程にて緩和されることが好ましい。緩和率は、特に限定されないが、例えば、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。熱緩和処理は、高温、例えば130℃以上200℃以下、好ましくは140℃以上190℃以下の乾熱雰囲気下又は過熱水蒸気雰囲気下で行うことができる。あるいは、120℃以上180℃以下、0.05MPa以上0.4MPa以下、好ましくは0.1MPa以上0.4MPa以下の加圧水蒸気又は加熱加圧水蒸気雰囲気下で行なうことができる。
【実施例0073】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されない。下記において、特に説明がない場合、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
【0074】
〔実施例1〕
(繊維原液の調製)
カーボンブラックを含むモダクリル繊維製品(AFRELLE(カネカ社製))50gを、ジメチルスルホキシド950g中で60℃で30分間撹拌して溶解させた。得られた溶液を、目開き2mmのメッシュフィルターでろ過した。
ろ過された溶液を60℃に保持しながら、得られた溶液1kgに水95g(溶液の質量に対して9.5質量%)を加えて、溶液中の不溶物を凝集させた。水の添加後、水が添加された溶液の粘度を逐次測定し、粘度の変化がなくなった時点を凝集完了と判断した。
凝集した不溶物を含む溶液を、1200Gの遠心分離条件でろ布(FC-529、日本バイリーン社製、目付300g/cm)を通過させ、溶液から凝集した不溶物を除去した。
以上の方法により、繊維原液を得た。
【0075】
(モダクリル樹脂溶液の調製)
アクリロニトリル/塩化ビニル/スチレンスルホン酸ナトリウムの、モル比54.5/45/0.5(=アクリロニトリル/塩化ビニル/スチレンスルホン酸ナトリウム)である共重合体をモダクリル樹脂として用いた。
上記のモダクリル樹脂を、ジメチルスルホキシド中で60℃で15分撹拌して、モダクリル樹脂濃度28質量%のモダクリル樹脂溶液を得た。
【0076】
(ドープの調製)
上記のモダクリル樹脂溶液900g(モダクリル樹脂252g含有)と、上記の繊維原液90g(モダクリル樹脂4.5g含有)とを混合して、混合液を得た。
得られた混合液に、混合液に含まれるモダクリル樹脂の質量256.5gに対して13.1質量%の水を加えてドープを得た。得られたドープの固形分濃度は25質量%であった。
【0077】
(湿式紡糸)
35℃のドープを、ギアーポンプで、開口面積が0.085mmである吐出孔を10個有するノズルに供給し、ノズル吐出速度を10m/分として、温度25℃の47%のジメチルスルホキシド水溶液が張り込まれた凝固浴中に吐出し、ドラフト比1.25にて紡糸を行った。
得られた繊維を、80℃の水が張り込まれた水洗浴中で水洗した後、繊維を油剤(ひまし油エーテル65質量%と、ソルビタンステアレート35質量%との混合液)に浸漬した。
油剤を付着させた繊維を乾燥させ、次いで、125℃、延伸倍率230%で繊維を延伸し、155℃で緩和処理を施し、モダクリル繊維を得た。
【0078】
〔実施例2〕
水95gを、濃度5質量%のポリ塩化アルミニウム水溶液15gに変えることと、ポリ塩化アルミニウム水溶液とともに、凝集助剤としての固体の塩化リチウム5gをモダクリル繊維製品のジメチルスルホキシド溶液に添加すること他は、実施例1と同様に繊維原液を調製した。
その結果、実施例1と同様に、良好にモダクリル繊維製品に由来する不溶物を除去できた。実施例2における、不溶物の凝集速度は実施例1よりも速かった。
得られた繊維原液を、ドープの原料として用いることの他は、実施例1と同様に、良好にモダクリル繊維が得られた。
【0079】
〔比較例1〕
(繊維原液の調製)
カーボンブラックを含むモダクリル繊維製品(AFRELLE(カネカ社製))100gを、ジメチルスルホキシド900g中で60℃で30分間撹拌して溶解させた。得られた溶液を、目開き2mmのメッシュフィルターでろ過したところ、モダクリル繊維製品に由来する不溶物によりメッシュフィルターが閉塞した。
つまり、粗繊維原液への水、又はカチオン系凝集剤水溶液の添加を行わない場合、粗繊維原液からの不溶物の除去が困難であった。
〔比較例2〕
水の添加を行わないことの他は、実施例1と同様に繊維原液を調製した。その結果、遠心分離による不溶物の除去時に、ろ布が不溶物で閉塞するとともに、ろ液に不溶物が残留してしまい、不溶物を除去できなかった。
このため、比較例2では、湿式紡糸を行わなかった。
【0080】
〔比較例3〕
ポリ塩化アルミニウムの水溶液を、アニオン系凝集剤である粒子径7μmのシリカゲルの濃度5質量%水分散液に変更することの他は、実施例1と同様に繊維原液を調製した。その結果、遠心分離による不溶物の除去時に、ろ布が不溶物で閉塞するとともに、ろ液に不溶物が残留してしまい、不溶物を除去できなかった。
このため、比較例3では、湿式紡糸を行わなかった。
【0081】
〔比較例4〕
ポリ塩化アルミニウムの水溶液を、吸着剤である活性白土粉末(キシダ化学製)の濃度5質量%水分散液に変更することの他は、実施例1と同様に繊維原液を調製した。その結果、遠心分離による不溶物の除去時に、ろ布が不溶物で閉塞するとともに、ろ液に不溶物が残留してしまい、不溶物を除去できなかった。
このため、比較例4では、湿式紡糸を行わなかった。
【0082】
〔比較例5〕
ポリ塩化アルミニウムの水溶液95g(モダクリル繊維のジメチルスルホキシド溶液の質量に対して9.5質量%)を、水100g(モダクリル繊維のジメチルスルホキシド溶液の質量に対して11質量%)に変更することの他は、実施例1と同様に繊維原液を調製した。その結果、水の添加時に、溶液中でモダクリル樹脂のほぼ全量が沈殿した。従って、遠心分離により得られたろ液には、モダクリル樹脂がほとんど含まれていなかった。
このため、比較例5では、湿式紡糸を行わなかった。