(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140705
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】結合材量の推定方法およびソイルセメントの品質管理方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
G01N33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052000
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】依田 侑也
(72)【発明者】
【氏名】浅香 美治
(57)【要約】
【課題】スラッジからなる結合材を含有する複合材料に含まれる結合材量を推定することができる結合材量の推定方法およびソイルセメントの品質管理方法を提供する。
【解決手段】推定対象の複合材料におけるスラッジ単体による酸の基準量を求めるステップS33と、スラッジ単体による酸の基準量と、混和材単体による酸の基準量と、推定対象の複合材料におけるスラッジと混和材の質量比率に基づいて、推定対象の複合材料における酸の基準量を求めるステップS34と、推定対象の複合材料の試料を採取し、この試料を酸で中和反応させた際の少なくとも初期のpHの時間変化特性が所定の基準特性となるような酸の量を求めるステップと、推定対象の複合材料における酸の基準量と、酸の量の割合に応じて結合材量を推定するステップS35とを有するようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラッジおよび混和材からなる結合材を含有する複合材料に含まれる結合材量を推定する方法であって、
複合材料の基準試料を作製し、この基準試料を酸で中和反応させた際の少なくとも初期のpHの時間変化特性が所定の基準特性となるような結合材全体による酸の基準量を求めるステップと、
基準スラッジのみからなる結合材を含有する複合材料の基準試料を作製し、この基準試料を酸で中和反応させた際の少なくとも初期のpHの時間変化特性が所定の基準特性となるような基準スラッジ単体による酸の基準量を求めるステップと、
前記結合材全体による酸の基準量と、前記基準スラッジ単体による酸の基準量に基づいて、混和材単体による酸の基準量を求めるステップと、
推定対象の複合材料に使用するスラッジを用いて、このスラッジのみからなる結合材を含有する複合材料の試料を作製し、この試料を酸で中和反応させた際の少なくとも初期のpHの時間変化特性が所定の基準特性となるようなスラッジ単体による酸の基準量を求めるステップと、
前記スラッジ単体による酸の基準量と、前記混和材単体による酸の基準量と、推定対象の複合材料におけるスラッジと混和材の質量比率に基づいて、推定対象の複合材料における酸の基準量を求めるステップと、
推定対象の複合材料の試料を採取し、この試料を酸で中和反応させた際の少なくとも初期のpHの時間変化特性が所定の基準特性となるような酸の量を求めるステップと、
前記推定対象の複合材料における酸の基準量と、前記酸の量の割合に応じて結合材量を推定するステップとを有することを特徴とする結合材量の推定方法。
【請求項2】
土質材料と、スラッジおよび混和材からなる結合材とを混合してなる複合材料であるソイルセメントの品質を管理する方法であって、
請求項1に記載の結合材量の推定方法により、ソイルセメントに含まれる結合材量を推定するステップと、
推定した結合材量が、所定の設計条件を満たすか否かを判定するステップとを有することを特徴とするソイルセメントの品質管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラッジを用いた結合材を含有する複合材料に含まれる結合材量の推定方法およびソイルセメントの品質管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、戻りコンクリートの処理や生コン車の洗浄時等に発生するコンクリートのスラッジを有効に活用する方策として、スラッジを乾燥、粉砕した微粉末をコンクリートやソイルセメントに再利用することが検討されている。例えば、地盤改良工事や山留め工事、埋戻し工事で使用されるソイルセメントを構成するセメントの代替材料としての再利用がある。
【0003】
一方、ソイルセメントなどに含まれるセメント量を推定する方法として、特許文献1に記載のものが知られている。この特許文献1の方法は、セメントを含有する材料(例えば、ソイルセメント)と酸を接触させ、材料中のセメントと酸を中和反応させた際の少なくとも初期のpHの時間変化特性を取得し、取得した時間変化特性に基づいてセメント量を推定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、スラッジを乾燥させるまでの材齢により、セメントの水和進行度が異なることや、スラッジに残存する微細な骨材の量によって、同じ量の乾燥スラッジを代替材料として添加した場合でもソイルセメントの強度発現性が異なる場合があった。また、一般にスラッジ自体のセメント残存量に差があるため、上記の特許文献1の推定方法を適用して、スラッジからなる結合材を含有するソイルセメントなどに含まれる結合材量を推定することは困難であった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、スラッジからなる結合材を含有する複合材料に含まれる結合材量を推定することができる結合材量の推定方法およびソイルセメントの品質管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る結合材量の推定方法は、スラッジおよび混和材からなる結合材を含有する複合材料に含まれる結合材量を推定する方法であって、複合材料の基準試料を作製し、この基準試料を酸で中和反応させた際の少なくとも初期のpHの時間変化特性が所定の基準特性となるような結合材全体による酸の基準量を求めるステップと、基準スラッジのみからなる結合材を含有する複合材料の基準試料を作製し、この基準試料を酸で中和反応させた際の少なくとも初期のpHの時間変化特性が所定の基準特性となるような基準スラッジ単体による酸の基準量を求めるステップと、前記結合材全体による酸の基準量と、前記基準スラッジ単体による酸の基準量に基づいて、混和材単体による酸の基準量を求めるステップと、推定対象の複合材料に使用するスラッジを用いて、このスラッジのみからなる結合材を含有する複合材料の試料を作製し、この試料を酸で中和反応させた際の少なくとも初期のpHの時間変化特性が所定の基準特性となるようなスラッジ単体による酸の基準量を求めるステップと、前記スラッジ単体による酸の基準量と、前記混和材単体による酸の基準量と、推定対象の複合材料におけるスラッジと混和材の質量比率に基づいて、推定対象の複合材料における酸の基準量を求めるステップと、推定対象の複合材料の試料を採取し、この試料を酸で中和反応させた際の少なくとも初期のpHの時間変化特性が所定の基準特性となるような酸の量を求めるステップと、前記推定対象の複合材料における酸の基準量と、前記酸の量の割合に応じて結合材量を推定するステップとを有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るソイルセメントの品質管理方法は、土質材料と、スラッジおよび混和材からなる結合材とを混合してなる複合材料であるソイルセメントの品質を管理する方法であって、上述した結合材量の推定方法により、ソイルセメントに含まれる結合材量を推定するステップと、推定した結合材量が、所定の設計条件を満たすか否かを判定するステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る結合材量の推定方法によれば、スラッジおよび混和材からなる結合材を含有する複合材料に含まれる結合材量を推定する方法であって、複合材料の基準試料を作製し、この基準試料を酸で中和反応させた際の少なくとも初期のpHの時間変化特性が所定の基準特性となるような結合材全体による酸の基準量を求めるステップと、基準スラッジのみからなる結合材を含有する複合材料の基準試料を作製し、この基準試料を酸で中和反応させた際の少なくとも初期のpHの時間変化特性が所定の基準特性となるような基準スラッジ単体による酸の基準量を求めるステップと、前記結合材全体による酸の基準量と、前記基準スラッジ単体による酸の基準量に基づいて、混和材単体による酸の基準量を求めるステップと、推定対象の複合材料に使用するスラッジを用いて、このスラッジのみからなる結合材を含有する複合材料の試料を作製し、この試料を酸で中和反応させた際の少なくとも初期のpHの時間変化特性が所定の基準特性となるようなスラッジ単体による酸の基準量を求めるステップと、前記スラッジ単体による酸の基準量と、前記混和材単体による酸の基準量と、推定対象の複合材料におけるスラッジと混和材の質量比率に基づいて、推定対象の複合材料における酸の基準量を求めるステップと、推定対象の複合材料の試料を採取し、この試料を酸で中和反応させた際の少なくとも初期のpHの時間変化特性が所定の基準特性となるような酸の量を求めるステップと、前記推定対象の複合材料における酸の基準量と、前記酸の量の割合に応じて結合材量を推定するステップとを有するので、スラッジからなる結合材を含有する複合材料に含まれる結合材量をより正確に推定することができるという効果を奏する。
【0010】
また、本発明に係るソイルセメントの品質管理方法によれば、土質材料と、スラッジおよび混和材からなる結合材とを混合してなる複合材料であるソイルセメントの品質を管理する方法であって、上述した結合材量の推定方法により、ソイルセメントに含まれる結合材量を推定するステップと、推定した結合材量が、所定の設計条件を満たすか否かを判定するステップとを有するので、ソイルセメントの品質を簡易に管理することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明に係る結合材量の推定方法およびソイルセメントの品質管理方法の実施の形態を示す概略フロー図である。
【
図2】
図2は、配合条件と求めた酸の基準量の一例を示すテーブル図である。
【
図3】
図3は、ベースと異なる乾燥スラッジに高炉スラグ微粉末を混合した結合材の酸の基準量の計算値と実測値の違いの一例を示すテーブル図である。
【
図4】
図4は、ソイルセメントの組成の一例を示すテーブル図である。
【
図5】
図5は、ソイルセメント中の組成割合と実際の定量結果の一例を示すテーブル図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る結合材量の推定方法およびソイルセメントの品質管理方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
本実施の形態では、乾燥スラッジと混和材を併用した結合材と、土質材料を含有するソイルセメント(複合材料)において、乾燥スラッジと混和材の酸との中和反応挙動をpHにより評価することで、施工したソイルセメントに含まれる結合材量を推定する。そして、推定した結合材量に基づいて、ソイルセメントの品質を管理する。混和材は、アルカリ活性粉末(例えば、高炉スラグ微粉末やフライアッシュ等)を想定している。乾燥スラッジとアルカリ活性粉末は建設副産物であるため、材料起源のCO2排出量がゼロとなり、環境負荷の低減にも貢献することができる。
【0014】
図1に示すように、本実施の形態は、ステップS11~S35の手順で実施される。
図1の左側のステップS11~S25は「ソイルセメント施工前の準備段階」に実施され、右側のステップS31~S35は「ソイルセメント施工日」に実施される。各ステップの処理内容について以下に説明する。
【0015】
(ソイルセメント施工前の準備段階:ステップS11~S25)
まず、ステップS11において、施工現場で使用する湿潤土(土質材料)と乾燥スラッジをよく混合させた試料を作製する。例えば、湿潤土9.0gと乾燥スラッジ1.0gを用いて試料を作製する。乾燥スラッジは、ベースとなる基準スラッジである。基準スラッジは、施工現場で実際に使用する乾燥スラッジでもよいし、実際に使用しない乾燥スラッジでもよい。
【0016】
次のステップS12において、上記の試料に所定の濃度・種類の酸を加えて中和させる。例えば、試料を約100mlの水中で酸を用いて中和反応させる。酸には、例えばpH=2.0程度に調整した一定濃度の酸(例えば塩酸や有機酸)を用いることができる。
【0017】
次のステップS13において、上記の試料を中和させた際のpHが基準曲線となるような酸の基準量(A)を求める。この基準量(A)は、基準スラッジ単体による酸の基準量に相当する。基準曲線とは、試料と酸を中和反応させた際の初期のpHの時間変化特性(基準特性)のことである。基準曲線は、例えば、試料およびpH=2.0の酸を水中に入れてから1分でのpH=4.0±2.0、30分でのpH=8.0±1.0、60分でのpH=9.0±0.5となるようなpHの時間変化特性に設定することが望ましいが、本発明はこれに限るものではない。なお、この基準曲線の一例は、上記の特許文献1の
図1に示されている。
【0018】
一方、ステップS21において、乾燥スラッジと、施工で使用するアルカリ活性粉末を複数(最低3つ)の配合割合で混合し、結合材を作製する。乾燥スラッジは、上記のステップS11で使用した基準スラッジと同じものを用いる。
【0019】
次のステップS22において、施工現場で使用する湿潤土と、上記の結合材をよく混合させた試料を作製する。例えば、湿潤土9.0gと結合材1.0gを用いて試料を作製する。
【0020】
次のステップS23において、上記の試料に所定の濃度・種類の酸を加えて中和させる。例えば、試料を約100mlの水中で酸を用いて中和反応させる。酸は、上記のステップS12で使用した酸と同じものを用いる。
【0021】
次のステップS24において、中和させた際のpHが基準曲線となるような酸の基準量(B)を試料ごとに求める。この基準量(B)は、結合材全体による酸の基準量に相当する。基準曲線は、上記のステップS13で使用した基準曲線と同じものを用いる。
【0022】
次のステップS25において、A-B×(結合材中の乾燥スラッジの割合)という算定式で、アルカリ活性粉末単体の酸の基準量(C)を求める。この基準量(C)は、混和材単体による酸の基準量に相当する。なお、このようにしてアルカリ活性粉末単体の酸の基準量を求める理由は、アルカリ活性粉末単体では酸と中和反応をしないため、基準曲線を取得することが不可能だからである。
【0023】
(ソイルセメント施工日:ステップS31~S35)
まず、ステップS31において、施工現場で使用する湿潤土と乾燥スラッジをよく混合させた試料を作製する。例えば、湿潤土9.0gと乾燥スラッジ1.0gを用いて試料を作製する。乾燥スラッジは、施工現場で実際に使用する施工日の乾燥スラッジであり、上記の基準スラッジとは水和活性が異なる別ロットのものを想定しているが、基準スラッジと同一ロットのものであってもよい。
【0024】
次のステップS32において、上記の試料に所定の濃度・種類の酸を加えて中和させる。例えば、試料を約100mlの水中で酸を用いて中和反応させる。酸は、上記のステップS12で使用した酸と同じものを用いる。
【0025】
次のステップS33において、中和させた際のpHが基準曲線となるような酸の基準量(A1)を試料ごとに求める。この基準量(A1)は、スラッジ単体による酸の基準量に相当する。基準曲線は、上記のステップS13で使用した基準曲線と同じものを用いる。
【0026】
次のステップS34において、A1×(結合材中の乾燥スラッジの割合)+C×(結合材中のアルカリ活性粉末の割合)という算定式で、施工日の結合材全体による酸の基準量(D)を求める。結合材中の乾燥スラッジの割合、アルカリ活性粉末の割合は、施工時点での結合材中の乾燥スラッジの質量比率、アルカリ活性粉末の質量比率である。酸の基準量(D)は、推定対象のソイルセメントにおける酸の基準量に相当する。
【0027】
次のステップS35において、酸の基準量(D)から、実施工されたソイルセメントの結合材量を推定し、ソイルセメントの品質を管理する。より具体的には、ソイルセメントの試料を採取し、この試料を酸で中和反応させた際のpHが基準曲線となるような酸の量(E)を求める。そして、酸の基準量(D)と、酸の量(E)の割合(例えば、E/D)に応じて結合材量を推定する。酸は、上記のステップS12で使用した酸と同じものを用いる。基準曲線は、上記のステップS13で使用した基準曲線と同じものを用いる。
【0028】
例えば、酸の量(E)と基準量(D)が一致する場合には、上記のステップS22で作製した試料のうち、乾燥スラッジとアルカリ活性粉末の質量比率がソイルセメントの試料と同じ質量比率である試料Xの結合材量と同じ量として推定することができる。また、例えば、酸の量(E)が基準量(D)の2倍の場合には、その試料Xに含まれていた結合材量の2倍の結合材量として推定することができる。
【0029】
このようにすれば、施工に使用したソイルセメントに含まれる結合材量をより正確に推定することができる。例えば、施工に使用する乾燥スラッジのロットが変わった場合に本発明を適用することで、施工したソイルセメントの結合材量をより正確に求めることができ、品質管理を簡易的な分析で行うことができる。
【0030】
なお、ステップS35において、試料を酸で中和反応させた際のpHが基準曲線に適合するか否かは、初期の段階(例えば、ソイルセメントの試料の中和反応の開始から30分程度)で判定可能である。したがって、本実施の形態によれば、試料の採取から30分程度での推定が可能である。また、高額な装置を必要としないため安価に実施することができる。したがって、迅速かつ安価に結合材量を推定することができる。また、試料の採取方法に依存しないため改良地盤の表層だけでなく、任意の深さのソイルセメントの結合材量を推定することができる。
【0031】
上記の実施の形態において、施工現場から採取するソイルセメントの試料は、一定の大きさの改良ブロックを代表する位置から採取できるように、改良ブロック内の上部・中部・下部などから採取器を用いて採取することが好ましい。通常は改良ブロックの中の一箇所で採取してもよいが、複数箇所から採取して、結合材量のばらつき具合を確認してもよい。改良ブロック内に元来異なる地層が存在するような場合には、それぞれの地層の上部・中部・下部などから改めて採取することが品質管理上望ましい。
【0032】
本実施の形態を利用してソイルセメントの品質を評価、管理する場合には、上記の推定方法で採取箇所の結合材量を推定する。その結果、例えば採取箇所の全て(もしくはある一定値以上の件数)で設計上必要な結合材量(設計条件)を満たしているか、採取箇所の結合材量の平均値で設計上必要な結合材量(設計条件)を満たしているか否か等でソイルセメントの品質を判定することができる。そして、設計上必要な結合材量を満たしている場合を高品質であるとして評価してもよい。このようにすることで、ソイルセメントの品質を簡易に管理することができる。
【0033】
(実施例)
本発明の効果を確認するために室内配合試験を行った。アルカリ活性粉末には、高炉スラグ微粉末を用いた。
まず、
図2に示される組成の結合材と現地土を用いて、湿潤土9.0gと結合材1.0gをよく混合させ、約100mlの水中でpH=2.0の酸を用いて中和させ、結合材ごとに基準曲線となるような酸の基準量を把握した。なお、基準曲線は、試料およびpH=2.0の酸を水中に入れてから1分でのpH=4.0±2.0、30分でのpH=8.0±1.0、60分でのpH=9.0±0.5となるような曲線を用いた。現地土は土粒子密度2.69g/cm
3、含水比0.6%の砂質土を用いた。
【0034】
次に、高炉スラグ微粉末単体による酸の基準量を求めた。
図2に示すように、ベースの乾燥スラッジ(基準スラッジ)の酸の基準量は37であったので、
図2の試料番号1~3の酸の基準量の実験値から、ベースの乾燥スラッジの含有量分を差し引いた値を高炉スラグ微粉末単体による酸の基準量とみなし、高炉スラグ微粉末単体の酸の基準量を求めた。その結果、試料番号1~3の高炉スラグ微粉末単体による酸の基準量は、平均値で10.6(g-acid/g-slag)と求められた。
【0035】
次に、乾燥するまでのタイミングがベースの乾燥スラッジよりも長かった2種類の乾燥スラッジ1、2に高炉スラグ微粉末を
図3の組成で混合し、湿潤土9.0gと結合材1.0gをよく混合させ、約100mlの水中でpH=2.0の酸を用いて中和させ、結合材ごとに基準曲線となるような酸の基準量を検討した。
図3に検討結果を示す。
図3に示すように、高炉スラグ微粉末単体による酸の基準量より計算した計算値は、実測値とよく一致することがわかる。なお、計算値は、それぞれのスラッジ単体による酸の基準量×含有率+高炉スラグ微粉末単体による酸の基準量×含有率という算定式で求めている。
【0036】
また、
図4に示すように、結合材量の異なるソイルセメントを作製し、結合材量の推定を試みた。結合材は、ベースの乾燥スラッジ(酸の基準量=37g)と、上記の高炉スラグ微粉末(酸の基準量=10.6g)を用い、質量比率は乾燥スラッジ60%、高炉スラグ微粉末40%とした。土は、土粒子密度2.69g/cm
3、含水比0.6%の砂質土に対し、土粒子密度2.69g/cm
3、含水比78.6%の粘性土を20%混合したものを用いた。結合材と土と水を練混ぜて試料を作製した後、試料全体から10g試料を採取し、採取した10g試料を用いて基準曲線となる酸の量を求め、それぞれの酸の基準量から換算して結合材量の推定を行った。結果を
図5に示す。この図に示すように、結合材量に関わらず、結合材の定量値(推定値)と理論値の差は5%以内であることがわかる。なお、理論値は、[スラッジ単体による酸の基準量(=37)×含有率+高炉スラグ微粉末単体による酸の基準量(=10.6)×含有率]×採取試料量10gという算定式で求めている。したがって、本発明によれば、施工したソイルセメントの結合材量をより正確に求めることができ、品質管理を簡易的な分析で行うことができる。
【0037】
以上説明したように、本発明に係る結合材量の推定方法によれば、スラッジおよび混和材からなる結合材を含有する複合材料に含まれる結合材量を推定する方法であって、複合材料の基準試料を作製し、この基準試料を酸で中和反応させた際の少なくとも初期のpHの時間変化特性が所定の基準特性となるような結合材全体による酸の基準量を求めるステップと、基準スラッジのみからなる結合材を含有する複合材料の基準試料を作製し、この基準試料を酸で中和反応させた際の少なくとも初期のpHの時間変化特性が所定の基準特性となるような基準スラッジ単体による酸の基準量を求めるステップと、前記結合材全体による酸の基準量と、前記基準スラッジ単体による酸の基準量に基づいて、混和材単体による酸の基準量を求めるステップと、推定対象の複合材料に使用するスラッジを用いて、このスラッジのみからなる結合材を含有する複合材料の試料を作製し、この試料を酸で中和反応させた際の少なくとも初期のpHの時間変化特性が所定の基準特性となるようなスラッジ単体による酸の基準量を求めるステップと、前記スラッジ単体による酸の基準量と、前記混和材単体による酸の基準量と、推定対象の複合材料におけるスラッジと混和材の質量比率に基づいて、推定対象の複合材料における酸の基準量を求めるステップと、推定対象の複合材料の試料を採取し、この試料を酸で中和反応させた際の少なくとも初期のpHの時間変化特性が所定の基準特性となるような酸の量を求めるステップと、前記推定対象の複合材料における酸の基準量と、前記酸の量の割合に応じて結合材量を推定するステップとを有するので、スラッジからなる結合材を含有する複合材料に含まれる結合材量をより正確に推定することができる。
【0038】
また、本発明に係るソイルセメントの品質管理方法によれば、土質材料と、スラッジおよび混和材からなる結合材とを混合してなる複合材料であるソイルセメントの品質を管理する方法であって、上述した結合材量の推定方法により、ソイルセメントに含まれる結合材量を推定するステップと、推定した結合材量が、所定の設計条件を満たすか否かを判定するステップとを有するので、ソイルセメントの品質を簡易に管理することができる。
【0039】
なお、2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施の形態に係る結合材量の推定方法およびソイルセメントの品質管理方法は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「11.住み続けられるまちづくりを」の目標などの達成に貢献し得る。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上のように、本発明に係る結合材量の推定方法およびソイルセメントの品質管理方法は、地盤改良工事や山留め工事、埋戻し工事などで使用されるソイルセメントに有用であり、特に、スラッジからなる結合材を含有するソイルセメントに含まれる結合材量を推定するのに適している。