(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014072
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】操舵制御装置及び操舵制御方法
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240125BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240125BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20240125BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D119:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116643
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼台 尭資
(72)【発明者】
【氏名】藤田 祐志
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 雄吾
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 一馬
(72)【発明者】
【氏名】梶澤 祐太
(72)【発明者】
【氏名】山下 正治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 功史
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋介
(72)【発明者】
【氏名】飯田 一鑑
(72)【発明者】
【氏名】高山 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】岩名 毅
(72)【発明者】
【氏名】林 豊大
(72)【発明者】
【氏名】田邊 隼希
(72)【発明者】
【氏名】中島 信頼
(72)【発明者】
【氏名】富澤 弘貴
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232DA05
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA63
3D232DA99
3D232DB05
3D232DC33
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3D232EC37
3D232GG01
3D333CB31
3D333CB46
3D333CC06
3D333CC14
3D333CC15
3D333CC18
3D333CE47
(57)【要約】
【課題】操舵装置の実際の状態との間にずれを生じ難くすることができる操舵制御装置及び操舵制御方法を提供する。
【解決手段】操舵制御装置は、操舵装置の制御に関わる情報を記憶する記憶部と、電源起動後の起動時状態を経て通常制御状態へと状態遷移するように構成される操舵側制御部とを有する。起動時状態は、操舵側補正要素情報を取得し、かつ、取得した操舵側補正要素情報に基づき得られる操舵側中点情報を記憶部に書き込みする操舵側補正情報記憶処理(ステップ104)を実行することができる状態である。起動時状態のとき、操舵側制御部は、操舵側中点情報の記憶部への書き込みが完了したことを示す異常条件が成立するか否かを判断するステップ102の処理を実行する。操舵側補正情報記憶処理は、ステップ102:YESの場合、改めて実行される処理である。ステップ102の処理は、操舵側補正情報記憶処理の後に実行される処理である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵装置を制御する操舵制御装置であって、
前記操舵装置は、操作部材を有する操舵ユニットと転舵輪を転舵させるように構成される転舵ユニットとの間の動力伝達路が分離した構造を有し、
前記操舵制御装置は、
前記操舵装置の制御に関わる情報を記憶する記憶部と、
車両の電源システムが起動された後の起動時状態を経て通常制御状態へと状態遷移するように構成される制御部と、を有し、
前記起動時状態は、前記操舵装置から得られる状態変数を使用して補正要素情報を取得し、かつ、取得した前記補正要素情報に基づき得られる補正情報を前記記憶部に書き込みする補正情報記憶処理を実行することができる状態であり、
前記通常制御状態は、前記補正情報に基づき前記状態変数を補正して得られる制御変数を使用して前記操舵装置を制御する通常処理を実行することができる状態であり、
前記起動時状態のとき、前記制御部は、前記補正情報記憶処理を通じて前記記憶部に書き込んだ前記補正情報が異常であることを示す異常条件が成立するか否かを判断する異常条件判断処理を実行することを含み、
前記補正情報記憶処理は、前記異常条件が成立する場合に改めて実行される処理であり、
前記異常条件判断処理は、前記補正情報記憶処理の前後の少なくともいずれかで実行される処理である操舵制御装置。
【請求項2】
前記起動時状態のとき、前記制御部は、前記補正情報の前記記憶部への書き込みを完了することができなかった場合に異常条件情報を前記記憶部に書き込みする異常情報記憶処理を実行することを含み、
前記異常条件判断処理は、前記補正情報記憶処理の前に実行される処理であり、前記記憶部に前記異常条件情報が書き込まれている場合に前記異常条件の成立を判断する処理を含む請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記起動時状態のとき、前記制御部は、車両の電源システムが有するバッテリが取り外されて交換された後の状態であることを示すバッテリ交換条件が成立するか否かを判断するバッテリ交換条件判断処理を実行することを含み、
前記補正情報記憶処理は、前記バッテリ交換条件が成立する場合に実行される処理であるとともに、前記バッテリ交換条件が成立しない場合に実行されない処理であり、
前記異常条件判断処理は、前記バッテリ交換条件判断処理の前に実行される処理である請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記操舵装置は、前記補正情報に基づき補正して得られた前記制御変数に対応する実測値を検出するセンサを含み、
前記異常条件判断処理は、前記補正情報記憶処理の後に実行される処理であり、前記補正情報に基づき補正して得られた前記制御変数と前記センサから得られる前記実測値とを比較した結果に基づいて、前記異常条件が成立するか否かを判断する処理を含む請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記補正情報は、操舵側補正情報と転舵側補正情報とを含み、
前記操舵側補正情報は、前記操舵ユニットを制御する際に使用する操舵用の制御変数を補正するための情報であり、
前記転舵側補正情報は、前記転舵ユニットを制御する際に使用する転舵用の制御変数を補正するための情報であり、
前記補正情報記憶処理は、操舵側補正情報記憶処理と転舵側補正情報記憶処理とを含み、
前記操舵側補正情報記憶処理は、前記操舵ユニットから得られる状態変数を使用して操舵側補正要素情報を取得し、かつ、取得した前記操舵側補正要素情報に基づき得られる前記操舵側補正情報を前記記憶部に書き込みする処理であり、
前記転舵側補正情報記憶処理は、前記転舵ユニットから得られる状態変数を使用して転舵側補正要素情報を取得し、かつ、取得した前記転舵側補正要素情報に基づき得られる前記転舵側補正情報を前記記憶部に書き込みする処理であり、
前記異常条件判断処理は、
前記操舵側補正情報記憶処理を通じて前記記憶部に書き込んだ前記操舵側補正情報が異常であることを示す異常条件が成立するか否かを判断する処理と、
前記転舵側補正情報記憶処理を通じて前記記憶部に書き込んだ前記転舵側補正情報が異常であることを示す異常条件が成立するか否かを判断する処理と、を含む請求項1~4のうちいずれか一項に記載の操舵制御装置。
【請求項6】
車両の操舵装置を制御する操舵制御方法であって、
前記操舵装置は、操作部材を有する操舵ユニットと転舵輪を転舵させるように構成される転舵ユニットとの間の動力伝達路が分離した構造を有し、
前記操舵制御方法は、
前記操舵装置の制御に関わる情報を記憶することと、車両の電源システムが起動された後の起動時状態を経て通常制御状態へと状態遷移することと、を含み、
前記起動時状態は、前記操舵装置から得られる状態変数を使用して補正要素情報を取得し、かつ、取得した前記補正要素情報に基づき得られる補正情報を記憶する補正情報記憶処理を実行することができる状態であり、
前記通常制御状態は、前記補正情報に基づき前記状態変数を補正して得られる制御変数を使用して前記操舵装置を制御する通常処理を実行することができる状態であり、
前記起動時状態のときには、前記補正情報記憶処理を通じて記憶した前記補正情報が異常であることを示す異常条件が成立するか否かを判断する異常条件判断処理を実行することを含み、
前記補正情報記憶処理は、前記異常条件が成立する場合に改めて実行される処理であり、
前記異常条件判断処理は、前記補正情報記憶処理の前後の少なくともいずれかで実行される処理である操舵制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置及び操舵制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、車両に搭載されるステアバイワイヤ式の操舵装置が記載されている。ステアバイワイヤ式の操舵装置は、車両のステアリングホイールと車両の転舵輪との間の動力伝達路を分離した構造を有している。こうしたステアリングバイワイヤ式の操舵装置は、操舵装置を制御対象とする操舵制御装置を含む。
【0003】
上記操舵制御装置は、制御で使用するためのステアリングホイールの操舵角を演算する際の基準である舵角中点情報をメモリに記憶している。ただし、例えば、車両からバッテリが取り外された場合、メモリに記憶されていた舵角中点情報が消失することがある。舵角中点情報が消失すると、上記操舵制御装置は、改めて舵角中点情報をメモリに記憶するための処理を実行するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、改めて舵角中点情報をメモリに記憶する場合、例えば、メモリへの書き込み異常であったり、そもそも異常な舵角中点情報が書き込まれたりして、メモリにおける異常が発生することがある。メモリにおける異常が発生すると、制御で使用するためのステアリングホイールの操舵角は、異常な舵角中点情報を基準としてしか得られなくなる。これは、操舵装置の実際の状態との間にずれを生じさせる原因となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する操舵制御装置は、車両の操舵装置を制御する。前記操舵装置は、操作部材を有する操舵ユニットと転舵輪を転舵させるように構成される転舵ユニットとの間の動力伝達路が分離した構造を有する。前記操舵制御装置は、前記操舵装置の制御に関わる情報を記憶する記憶部と、車両の電源システムが起動された後の起動時状態を経て通常制御状態へと状態遷移するように構成される制御部と、を有し、前記起動時状態は、前記操舵装置から得られる状態変数を使用して補正要素情報を取得し、かつ、取得した前記補正要素情報に基づき得られる補正情報を前記記憶部に書き込みする補正情報記憶処理を実行することができる状態であり、前記通常制御状態は、前記補正情報に基づき前記状態変数を補正して得られる制御変数を使用して前記操舵装置を制御する通常処理を実行することができる状態であり、前記起動時状態のとき、前記制御部は、前記補正情報記憶処理を通じて前記記憶部に書き込んだ前記補正情報が異常であることを示す異常条件が成立するか否かを判断する異常条件判断処理を実行することを含み、前記補正情報記憶処理は、前記異常条件が成立する場合に改めて実行される処理であり、前記異常条件判断処理は、前記補正情報記憶処理の前後の少なくともいずれかで実行される処理である。
【0007】
また、上記課題を解決し得る操舵制御方法は、車両の操舵装置を制御する方法である。前記操舵装置は、操作部材を有する操舵ユニットと転舵輪を転舵させるように構成される転舵ユニットとの間の動力伝達路が分離した構造を有する。前記操舵制御方法は、前記操舵装置の制御に関わる情報を記憶することと、車両の電源システムが起動された後の起動時状態を経て通常制御状態へと状態遷移することと、を含み、前記起動時状態は、前記操舵装置から得られる状態変数を使用して補正要素情報を取得し、かつ、取得した前記補正要素情報に基づき得られる補正情報を記憶する補正情報記憶処理を実行することができる状態であり、前記通常制御状態は、前記補正情報に基づき前記状態変数を補正して得られる制御変数を使用して前記操舵装置を制御する通常処理を実行することができる状態であり、前記起動時状態のときには、前記補正情報記憶処理を通じて記憶した前記補正情報が異常であることを示す異常条件が成立するか否かを判断する異常条件判断処理を実行することを含み、前記補正情報記憶処理は、前記異常条件が成立する場合に改めて実行される処理であり、前記異常条件判断処理は、前記補正情報記憶処理の前後の少なくともいずれかで実行される処理である。
【0008】
上記構成及び上記方法によれば、起動時状態のとき、制御部は、記憶部に書き込んだ補正情報が異常である場合であっても、改めて補正情報記憶処理を実行することによって、正しい補正情報を使用することができる。これにより、制御部は、補正情報に基づき状態変数を補正することができる状況を創出することができる。したがって、制御変数は、操舵装置の実際の状態との間にずれを生じ難くなる。
【0009】
上記操舵制御装置において、前記起動時状態のとき、前記制御部は、前記補正情報の前記記憶部への書き込みを完了することができなかった場合に異常条件情報を前記記憶部に書き込みする異常情報記憶処理を実行することを含み、前記異常条件判断処理は、前記補正情報記憶処理の前に実行される処理であり、前記記憶部に前記異常条件情報が書き込まれている場合に前記異常条件の成立を判断する処理を含むことが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、補正情報の記憶部への書き込みを完了することができなかったとしても、次に車両の電源システムが起動された際、改めて補正情報記憶処理を実行することができる。したがって、制御部が正しい補正情報に基づき状態変数を補正することができる。
【0011】
上記操舵制御装置において、前記起動時状態のとき、前記制御部は、車両の電源システムが有するバッテリが取り外されて交換された後の状態であることを示すバッテリ交換条件が成立するか否かを判断するバッテリ交換条件判断処理を実行することを含み、前記補正情報記憶処理は、前記バッテリ交換条件が成立する場合に実行される処理であるとともに、前記バッテリ交換条件が成立しない場合に実行されない処理であり、前記異常条件判断処理は、前記バッテリ交換条件判断処理の前に実行される処理であることが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、バッテリ交換条件が成立しないことから補正情報記憶処理を実行する必要がない場合であっても、異常条件が成立すれば、補正情報記憶処理が実行される。起動時状態のとき、制御部は、補正情報記憶処理を通じて記憶部へ書き込んだ補正情報に関して、記憶部における異常に対して適切に対処することができる。したがって、補正情報の正確性に対する信頼性を高めることができる。
【0013】
上記操舵制御装置において、前記操舵装置は、前記補正情報に基づき補正して得られた前記制御変数に対応する実測値を検出するセンサを含み、前記異常条件判断処理は、前記補正情報記憶処理の後に実行される処理であり、前記補正情報に基づき補正して得られた前記制御変数と前記センサから得られる前記実測値とを比較した結果に基づいて、前記異常条件が成立するか否かを判断する処理を含むことが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、起動時状態の間に実行した補正情報記憶処理を通じて得られた補正情報自体が正常な値でないとしても、同じ起動時状態の間に改めて補正情報記憶処理を実行することができる。したがって、制御部が正しい補正情報に基づき状態変数を補正することができる。
【0015】
上記操舵制御装置において、前記補正情報は、操舵側補正情報と転舵側補正情報とを含み、前記操舵側補正情報は、前記操舵ユニットを制御する際に使用する操舵用の制御変数を補正するための情報であり、前記転舵側補正情報は、前記転舵ユニットを制御する際に使用する転舵用の制御変数を補正するための情報であり、前記補正情報記憶処理は、操舵側補正情報記憶処理と転舵側補正情報記憶処理とを含み、前記操舵側補正情報記憶処理は、前記操舵ユニットから得られる状態変数を使用して操舵側補正要素情報を取得し、かつ、取得した前記操舵側補正要素情報に基づき得られる前記操舵側補正情報を前記記憶部に書き込みする処理であり、前記転舵側補正情報記憶処理は、前記転舵ユニットから得られる状態変数を使用して転舵側補正要素情報を取得し、かつ、取得した前記転舵側補正要素情報に基づき得られる前記転舵側補正情報を前記記憶部に書き込みする処理であり、前記異常条件判断処理は、前記操舵側補正情報記憶処理を通じて前記記憶部に書き込んだ前記操舵側補正情報が異常であることを示す異常条件が成立するか否かを判断する処理と、前記転舵側補正情報記憶処理を通じて前記記憶部に書き込んだ前記転舵側補正情報が異常であることを示す異常条件が成立するか否かを判断する処理と、を含むことが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、操舵制御装置は、操舵ユニットと転舵ユニットとのそれぞれに関する状態変数を補正することができる。したがって、操舵ユニットと転舵ユニットとをそれぞれ制御する際に使用する制御変数は、それぞれのユニットとの実際の状態との間にずれを生じ難くなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、操舵装置の実際の状態との間にずれを生じ難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1の実施形態にかかるステアバイワイヤ式の操舵装置の構成を示す図である。
【
図2】
図1の操舵制御装置が実行する処理を示すブロック図である。
【
図3】
図1の操舵制御装置が起動時状態のときに実行する処理の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図3の操舵側補正情報記憶処理の手順を示すフローチャートである。
【
図5】(a)~(f)は
図3の操舵側補正情報記憶処理中のステアリングホイールの動作を示す図である、(g)は仮操舵角θsiと操舵目標角θs*との変化を示す図である。
【
図6】転舵側補正情報記憶処理の手順を示すフローチャートである。
【
図7】第2の実施形態にかかる操舵制御装置が起動時状態のときに実行する処理の手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態を説明する。
図1に示すように、操舵制御装置1は、操舵装置2を制御対象とする。操舵装置2は、ステアバイワイヤ式の車両用の操舵装置として構成されている。操舵装置2は、操舵ユニット4と、転舵ユニット6とを備えている。操舵ユニット4は、操作部材である車両のステアリングホイール3を介して運転者により操舵される。転舵ユニット6は、運転者により操舵ユニット4に入力される操舵に応じて車両の左右の転舵輪5を転舵させる。本実施形態の操舵装置2は、例えば、操舵ユニット4と、転舵ユニット6との間の動力伝達路が機械的に常時分離した構造を有している。後述の操舵アクチュエータ12と、後述の転舵アクチュエータ31との間の動力伝達路は、機械的に常時分離した構造とされている。
【0020】
操舵ユニット4は、ステアリング軸11と、操舵アクチュエータ12とを備えている。ステアリング軸11は、ステアリングホイール3に連結されている。ステアリング軸11におけるステアリングホイール3に連結された側と反対側の端部11aは、ストッパ機構11bを有している。ストッパ機構11bは、ステアリング軸11の回転範囲を規定する。これにより、ステアリング軸11と一体回転するステアリングホイール3の回転範囲は、ストッパ機構11bによって規定される。例えば、ステアリングホイール3は、右方の回転限界位置3aと左方の回転限界位置3bとの間を回転範囲として回転可能である。操舵アクチュエータ12は、駆動源である操舵側モータ13と、操舵側減速機構14とを有している。操舵側モータ13は、ステアリング軸11を介してステアリングホイール3に対して操舵に抗する力である操舵反力を付与する反力モータである。操舵側モータ13は、例えば、ウォームアンドホイールからなる操舵側減速機構14を介してステアリング軸11に連結されている。本実施形態の操舵側モータ13には、例えば、三相のブラシレスモータが採用されている。
【0021】
転舵ユニット6は、ピニオン軸21と、転舵軸としてのラック軸22と、ラックハウジング23とを備えている。ピニオン軸21とラック軸22とは、所定の交差角をもって連結されている。ピニオン軸21に形成されたピニオン歯21aとラック軸22に形成されたラック歯22aとを噛み合わせることによりラックアンドピニオン機構24が構成されている。つまり、ピニオン軸21は、転舵輪5の転舵位置である転舵角θiに換算可能な回転軸に相当する。ラックハウジング23は、ラックアンドピニオン機構24を収容している。ピニオン軸21のラック軸22と連結される側と反対側の一端は、ラックハウジング23から突出している。ラック軸22の両端は、ラックハウジング23の軸方向の両端から突出している。また、ラック軸22の両端には、ボールジョイントからなるラックエンド25を介してタイロッド26が連結されている。タイロッド26の先端は、それぞれ左右の転舵輪5が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。
【0022】
転舵ユニット6は、転舵アクチュエータ31を備えている。転舵アクチュエータ31は、駆動源である転舵側モータ32と、伝達機構33と、変換機構34とを備えている。転舵側モータ32は、伝達機構33及び変換機構34を介してラック軸22に対して転舵輪5を転舵させる転舵力を付与する。転舵側モータ32は、例えば、ベルト伝達機構からなる伝達機構33を介して変換機構34に対して回転を伝達する。伝達機構33は、例えば、ボールねじ機構からなる変換機構34を介して転舵側モータ32の回転をラック軸22の往復動に変換する。本実施形態の転舵側モータ32には、例えば、三相のブラシレスモータが採用されている。
【0023】
このように構成された操舵装置2では、運転者によるステアリング操舵に応じて転舵アクチュエータ31からラック軸22にモータトルクが転舵力として付与されることで、転舵輪5の転舵角θiが変更される。このとき、操舵アクチュエータ12からは、運転者の操舵に抗する操舵反力がステアリングホイール3に付与される。これにより、操舵装置2では、操舵アクチュエータ12から付与されるモータトルクである操舵反力により、ステアリングホイール3の操舵に必要な操舵トルクThが変更される。
【0024】
なお、ピニオン軸21を設ける理由は、ピニオン軸21と共にラック軸22をラックハウジング23の内部に支持するためである。操舵装置2に設けられる図示しない支持機構によって、ラック軸22は、その軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに、ピニオン軸21へ向けて押圧される。これにより、ラック軸22はラックハウジング23の内部に支持される。ただし、ピニオン軸21を使用せずにラック軸22をラックハウジング23に支持する他の支持機構を設けてもよい。
【0025】
<操舵装置の電気的構成>
図1に示すように、操舵側モータ13及び転舵側モータ32は、操舵制御装置1に接続されている。操舵制御装置1は、操舵側モータ13及び転舵側モータ32の作動を制御する。
【0026】
操舵制御装置1には、各種のセンサの検出結果が入力される。操舵制御装置1には、各種のセンサが接続されている。各種のセンサには、例えば、トルクセンサ41、操舵側回転角センサ42、転舵側回転角センサ43、車速センサ44、ピニオン絶対角センサ45が含まれる。
【0027】
トルクセンサ41は、運転者のステアリング操舵によりステアリング軸11に付与されたトルクを示す値である操舵トルクThを検出する。操舵側回転角センサ42は、操舵側モータ13の回転軸の角度である回転角θaを360°の範囲内で検出する。転舵側回転角センサ43は、転舵側モータ32の回転軸の角度である回転角θbを360°の範囲内で検出する。車速センサ44は、車両の走行速度である車速Vを検出する。ピニオン絶対角センサ45は、ピニオン軸21の回転軸の角度の実測値であるピニオン絶対回転角θabpを360°を超える範囲で検出する。
【0028】
具体的には、トルクセンサ41は、ステアリング軸11における操舵側減速機構14よりもステアリングホイール3側の部分に設けられている。トルクセンサ41は、ステアリング軸11の途中に設けられたトーションバー41aの捩れに基づいて操舵トルクThを検出する。なお、操舵トルクThは、例えば、右方向に操舵した場合に正の値、左方向に操舵した場合に負の値として検出する。
【0029】
操舵側回転角センサ42は、操舵側モータ13に設けられている。操舵側モータ13の回転角θaは、操舵角θsの演算に使用される。操舵側モータ13と、ステアリング軸11とは、操舵側減速機構14を介して連動する。このため、操舵側モータ13の回転角θaと、ステアリング軸11の回転角との間には相関がある。また、操舵側モータ13の回転角θaと、ステアリングホイール3の回転位置を示す回転角である操舵角θsとの間には相関がある。したがって、操舵側モータ13の回転角θaに基づき操舵角θsを演算することができる。なお、回転角θaは、例えば、右方向に操舵した場合に正の値、左方向に操舵した場合に負の値として検出する。
【0030】
転舵側回転角センサ43は、転舵側モータ32に設けられている。転舵側モータ32の回転角θbは、ピニオン角θpの演算に使用される。転舵側モータ32と、ピニオン軸21とは、伝達機構33、変換機構34、及びラックアンドピニオン機構24を介して連動する。このため、転舵側モータ32の回転角θbと、ピニオン軸21の回転角度であるピニオン角θpとの間には相関がある。したがって、転舵側モータ32の回転角θbに基づきピニオン角θpを求めることができる。また、ピニオン軸21は、ラック軸22に噛合されている。このため、ピニオン角θpとラック軸22の移動量との間にも相関関係がある。ピニオン角θpは、転舵輪5の転舵状態を示す角度情報であって、転舵輪5の転舵位置である転舵角θiを反映する値である。なお、回転角θbは、例えば、右方向に操舵した場合に正の値、左方向に操舵した場合に負の値として検出する。
【0031】
ピニオン絶対角センサ45は、ピニオン軸21に設けられている。ピニオン軸21のピニオン絶対回転角θabpは、ピニオン角θpの演算に使用される。なお、ピニオン絶対回転角θabpは、例えば、右方向に操舵した場合に正の値、左方向に操舵した場合に負の値として検出する。本実施形態において、ピニオン絶対角センサ45は、ピニオン角θpの実測値を検出するセンサの一例である。
【0032】
操舵制御装置1には、電源システム46が接続されている。電源システム46は、バッテリ47を有している。バッテリ47は、車両に搭載された二次電池であり、操舵側モータ13及び転舵側モータ32が動作するべく供給される電力の電力源になる。また、バッテリ47は、操舵制御装置1が動作するべく供給される電力の電力源になる。
【0033】
操舵制御装置1とバッテリ47との間には、イグニッションスイッチ等の車両の起動スイッチ48(
図1中「SW」)が設けられている。起動スイッチ48は、操舵制御装置1とバッテリ47との間を接続する2つの給電線L1,L2のうちの給電線L1から分岐している給電線L2の途中に設けられている。起動スイッチ48は、エンジン等の車両の走行用駆動源を作動させて車両の動作が可能になるように各種の機能を起動する際に操作される。起動スイッチ48の操作を通じて給電線L2の導通がオンオフされる。本実施形態において、操舵装置2の動作の状態は、車両の動作の状態と関連付けられている。なお、給電線L1については基本的に導通が常時オンとされているが、操舵装置2の動作の状態に応じて給電線L1の導通が操舵装置2の機能として間接的にオンオフされる。操舵装置2の動作の状態は、バッテリ47の電力の供給の状態である給電線L1,L2の導通のオンオフと関連付けられている。
【0034】
<操舵制御装置の機能>
操舵制御装置1は、中央処理装置(以下「CPU」という。)49aやメモリ49bを備えている。操舵制御装置1は、メモリ49bに記憶されたプログラムを所定の演算周期毎にCPU49aが実行することにより、各種の処理を実行する。CPU49a及びメモリ49bは、処理回路であるマイクロコンピュータを構成する。メモリ49bは、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)のようなコンピュータ可読媒体を含む。ただし、各種処理がソフトウェアによって実現されることは一例である。操舵制御装置1が有する処理回路は、少なくとも一部の処理をロジック回路などのハードウェア回路によって実現するように構成されてもよい。
【0035】
図2に、操舵制御装置1が実行処理の一部を示す。
図2に示す処理は、メモリ49bに記憶されたプログラムをCPU49aが実行することで実現される処理の一部を、実現される処理の種類毎に記載したものである。
【0036】
操舵制御装置1は、操舵側制御部50と、転舵側制御部60とを有している。操舵側制御部50は、操舵側モータ13に対する給電を制御する。操舵側制御部50は、操舵側電流センサ55を有している。操舵側電流センサ55は、操舵側制御部50と、操舵側モータ13の各相のモータコイルとの間の接続線を流れる操舵側モータ13の各相の電流値から得られる操舵側実電流値Iaを検出する。操舵側電流センサ55は、操舵側モータ13に対応して設けられる図示しないインバータにおいて、スイッチング素子のそれぞれのソース側に接続されたシャント抵抗の電圧降下を電流として取得する。なお、
図2では、説明の便宜上、各相の接続線及び各相の電流センサをそれぞれ1つにまとめて図示している。本実施形態において、操舵側制御部50は、操舵側モータ13の動作の制御を通じて操舵装置2を制御する制御部の一例である。
【0037】
転舵側制御部60は、転舵側モータ32に対する給電を制御する。転舵側制御部60は、転舵側電流センサ65を有している。転舵側電流センサ65は、転舵側制御部60と、転舵側モータ32の各相のモータコイルとの間の接続線を流れる転舵側モータ32の各相の電流値から得られる転舵側実電流値Ibを検出する。転舵側電流センサ65は、転舵側モータ32に対応して設けられる図示しないインバータにおいて、スイッチング素子のそれぞれのソース側に接続されたシャント抵抗の電圧降下を電流として取得する。なお、
図2では、説明の便宜上、各相の接続線及び各相の電流センサをそれぞれ1つにまとめて図示している。本実施形態において、転舵側制御部60は、転舵側モータ32の動作の制御を通じて操舵装置2を制御する制御部の一例である。
【0038】
<操舵側制御部50>
図2に示すように、操舵側制御部50には、操舵トルクTh、車速V、回転角θa、転舵側実電流値Ib、ピニオン角θp、起動信号Sig、及びバッテリ交換情報FLG2が入力される。操舵側制御部50は、操舵トルクTh、車速V、回転角θa、転舵側実電流値Ib、ピニオン角θp、起動信号Sig、及びバッテリ交換情報FLG2に基づいて、操舵側モータ13に対する給電を制御する。起動信号Sigは、起動スイッチ48のオンオフ状態を示す信号である。バッテリ交換情報FLG2は、電源システム46が有するバッテリ47が取り外されて交換された後の状態であるか否かを示す情報である。電源システム46は、バッテリ47が取り外されて交換された後に起動スイッチ48がオン状態へ切り替えられた場合、「1」の値をバッテリ交換情報FLG2に設定する。「1」の値のバッテリ交換情報FLG2は、バッテリ交換後、最初の電源起動時であることを示す。また、電源システム46は、バッテリ47が取り外されて交換されていないなかで起動スイッチ48がオン状態へ切り替えられた場合、「0(ゼロ)」の値をバッテリ交換情報FLG2に設定する。「0」の値のバッテリ交換情報FLG2は、バッテリ交換後、最初の電源起動時でないことを示す。こうして得られたバッテリ交換情報FLG2は、専用の信号線を介して操舵側制御部50及び転舵側制御部60に出力される。
【0039】
操舵側制御部50は、操舵角演算部51と、目標反力トルク演算部52と、操舵側補正情報演算部53と、通電制御部54とを有している。
操舵角演算部51には、回転角θa及び設定操舵角θs0が入力される。操舵角演算部51は、設定操舵角θs0に基づき回転角θaを記憶部51aに記憶された操舵側中点情報θnsからの積算角に換算する。積算角は、操舵側中点情報θnsからの操舵側モータ13の回転回数をカウントすることにより、360°を超える範囲で換算された値である。設定操舵角θs0は、操舵側補正情報演算部53によって演算される。操舵側中点情報θnsは、例えば、車両が直進しているときのステアリングホイール3の位置であるステアリング中立位置を示す情報である。なお、記憶部51aは、メモリ49bの所定の記憶領域のことである。操舵角演算部51は、換算して得られた積算角に操舵側減速機構14の回転速度比に基づく換算係数を乗算することで、操舵角θsを演算する。操舵角演算部51は、ステアリング中立位置に対する絶対角度として操舵角θsを演算する。こうして得られた操舵角θsは、目標反力トルク演算部52及び転舵側制御部60に出力される。
【0040】
目標反力トルク演算部52には、操舵トルクTh、車速V、転舵側実電流値Ib、操舵角θs、及びピニオン角θpが入力される。目標反力トルク演算部52は、操舵トルクTh、車速V、転舵側実電流値Ib、操舵角θs、及びピニオン角θpに基づいて、目標反力トルクTT*を演算する。目標反力トルクTT*は、操舵側モータ13を通じて発生させるべきステアリングホイール3の操舵反力の目標となる制御量である。こうして得られた目標反力トルクTT*は、加算器56に出力される。
【0041】
操舵側補正情報演算部53には、回転角θa、操舵側実電流値Ia、操舵側中点情報θns、異常条件情報FLG1、及びバッテリ交換情報FLG2が入力される。操舵側補正情報演算部53は、回転角θa、操舵側実電流値Ia、操舵側中点情報θns、異常条件情報FLG1、及びバッテリ交換情報FLG2に基づいて、操舵側中点情報θns、異常条件情報FLG1、及び設定操舵角θs0を演算する。こうして得られた操舵側中点情報θnsは、記憶部51aに書き込み処理される。また、異常条件情報FLG1は、記憶部51bに書き込み処理される。また、設定操舵角θs0は、操舵角演算部51に出力される。
【0042】
操舵側中点情報θnsは、操舵側補正情報演算部53が記憶部51aに設定する情報である。操舵側補正情報演算部53は、操舵側補正要素情報θcsを取得し、かつ、操舵側中点情報θnsを記憶部51aに書き込みする操舵側補正情報記憶処理を含む。操舵側補正要素情報θcsの取得には、操舵ユニット4から得られる回転角θaを使用する。操舵側中点情報θnsは、取得した操舵側補正要素情報θcsに基づき得られる。なお、操舵側補正情報記憶処理は、設定操舵角θs0を演算する処理を含む。操舵側補正情報記憶処理については後で詳しく説明する。
【0043】
異常条件情報FLG1は、操舵側補正情報演算部53が記憶部51bに設定する情報である。操舵側補正情報記憶処理は、異常条件情報FLG1を記憶部51bに設定する処理を含む。操舵側補正情報演算部53は、操舵側中点情報θnsの書き込みを完了することができなかった場合、「1」の値の異常条件情報FLG1を記憶部51bに書き込みする。換言すれば、「1」の値の異常条件情報FLG1は、記憶部51aに記憶されている操舵側中点情報θnsを正常に使用することができないことを示す。また、操舵側補正情報演算部53は、操舵側中点情報θnsの書き込みを完了することができた場合、「0(ゼロ)」の値の異常条件情報FLG1を記憶部51bに書き込みする。換言すれば、「0」の値の異常条件情報FLG1は、記憶部51aに記憶されている操舵側中点情報θnsを正常に使用することができることを示す。なお、記憶部51bには、初期値として「0」の値の異常条件情報FLG1が記憶される。例えば、記憶部51bには、バッテリ交換後、内容がクリアされると初期値である「0」の値の異常条件情報FLG1が記憶される。記憶部51bは、メモリ49bの所定の記憶領域のことである。記憶部51bは、メモリ49bの記憶領域のうち、記憶部51aとは異なる記憶領域である。
【0044】
操舵側補正情報演算部53は、操舵側補正情報記憶処理を通じて操舵側補正要素情報θcsを取得する際、回転角θa及び操舵側実電流値Iaに基づいて、目標回転トルクRT*を演算する。目標回転トルクRT*は、操舵側モータ13を通じて発生させるべきステアリングホイール3の回転力の目標となる制御量である。こうして得られた目標回転トルクRT*は、加算器56に出力される。
【0045】
加算器56には、目標反力トルクTT*及び目標回転トルクRT*が入力される。加算器56は、目標反力トルクTT*と目標回転トルクRT*とを加算することによって、操舵側モータトルク指令値Ts*を演算する。目標反力トルクTT*の値は、運転者によるステアリング操舵に応じて転舵輪5を転舵させるための通常処理を実行するとき、運転者に対して路面反力に応じた適度な手応え感を与える場合に「0(ゼロ)」以外が演算される。目標回転トルクRT*の値は、操舵側補正要素情報θcsを取得するための操舵側補正情報記憶処理を実行するとき、ステアリングホイール3を回転させるための回転トルクを与える場合に「0(ゼロ)」以外が演算される。これにより、操舵側モータトルク指令値Ts*は、上記通常処理を実行するとき、目標反力トルクTT*となる。また、操舵側モータトルク指令値Ts*は、上記操舵側補正情報記憶処理を実行するとき、目標回転トルクRT*となる。こうして得られた操舵側モータトルク指令値Ts*は、通電制御部54に出力される。
【0046】
通電制御部54には、操舵側モータトルク指令値Ts*、回転角θa、及び操舵側実電流値Iaが入力される。通電制御部54は、操舵側モータトルク指令値Ts*に基づき操舵側モータ13に対する電流指令値Ia*を演算する。通電制御部54は、電流指令値Ia*と、操舵側実電流値Iaを回転角θaに基づき変換して得られるdq座標上の電流値との偏差を求め、当該偏差を無くすように操舵側モータ13に対する給電を制御する。これにより、操舵側モータ13は操舵側モータトルク指令値Ts*に応じたトルクを発生する。
【0047】
<転舵側制御部60>
図2に示すように、転舵側制御部60には、車速V、回転角θb、ピニオン絶対回転角θabp、操舵角θs、起動信号Sig、及びバッテリ交換情報FLG2が入力される。転舵側制御部60は、車速V、回転角θb、ピニオン絶対回転角θabp、操舵角θs、起動信号Sig、及びバッテリ交換情報FLG2に基づいて、転舵側モータ32に対する給電を制御する。
【0048】
転舵側制御部60は、ピニオン角演算部61と、ピニオン角フィードバック制御部(図中「ピニオン角F/B制御部」)62と、転舵側補正情報演算部63と、通電制御部64とを有している。
【0049】
ピニオン角演算部61には、回転角θb及び設定ピニオン角θp0が入力される。ピニオン角演算部61は、設定ピニオン角θp0に基づき回転角θbを記憶部61aに記憶された転舵側中点情報θntからの積算角に換算する。積算角は、転舵側中点情報θntからの転舵側モータ32の回転回数をカウントすることにより、360°を超える範囲で換算された値である。設定ピニオン角θp0は、転舵側補正情報演算部63によって演算される。転舵側中点情報θntは、例えば、車両が直進しているときのラック軸22の位置であるラック中立位置を示す情報である。なお、記憶部61aは、メモリ49bの所定の記憶領域のことである。ピニオン角演算部61は、換算して得られた積算角に、伝達機構33の回転速度比と、変換機構34のリードと、ラックアンドピニオン機構24の回転速度比に基づく換算係数を乗算することで、ピニオン軸21の実際の回転角であるピニオン角θpを演算する。つまり、ピニオン角演算部61は、ラック中立位置に対する絶対角度としてピニオン角θpを演算する。こうして得られたピニオン角θpは、ピニオン角フィードバック制御部62及び操舵側制御部50に出力される。
【0050】
ピニオン角フィードバック制御部62には、車速V、操舵角θs、及びピニオン角θpが入力される。ピニオン角フィードバック制御部62は、ピニオン角θpをピニオン目標角θp*に追従させるべくピニオン角θpのフィードバック制御を通じて転舵側モータトルク指令値Tt*を演算する。ピニオン目標角θp*は、操舵角θsに対して、操舵角θsとピニオン角θpとの比率である舵角比を考慮したピニオン角θpのスケールに変換された角度として演算される。ピニオン角フィードバック制御部62は、車速Vに応じて舵角比を変化させる。例えば、ピニオン角フィードバック制御部62は、車速Vが低い場合に高い場合よりも、操舵角θsの変化に対するピニオン角θpの変化を大きくするように舵角比を変化させる。つまり、ピニオン目標角θp*の演算では、操舵角θsとの間で、位置関係が所定の対応関係を満たすようにするための換算演算が施される。
【0051】
転舵側モータトルク指令値Tt*の値は、運転者によるステアリング操舵に応じて転舵輪5を転舵させるための通常処理を実行するとき、転舵輪5を転舵させる場合に「0(ゼロ)」以外が演算される。転舵側モータトルク指令値Tt*の値は、後述の転舵側補正要素情報θctを取得するための転舵側補正情報記憶処理を実行するとき、「0(ゼロ)」が演算される。こうして得られた転舵側モータトルク指令値Tt*は、通電制御部64に出力される。
【0052】
転舵側補正情報演算部63には、回転角θb、転舵側中点情報θnt、ピニオン絶対回転角θabp、異常条件情報FLG1、及びバッテリ交換情報FLG2が入力される。転舵側補正情報演算部63は、回転角θb、転舵側中点情報θnt、ピニオン絶対回転角θabp、異常条件情報FLG1、及びバッテリ交換情報FLG2に基づいて、転舵側中点情報θnt、異常条件情報FLG1、及び設定ピニオン角θp0を演算する。こうして得られた転舵側中点情報θntは、記憶部61aに書き込み処理される。また、異常条件情報FLG1は、記憶部61bに書き込み処理される。また、設定ピニオン角θp0は、ピニオン角演算部61に出力される。
【0053】
転舵側中点情報θntは、転舵側補正情報演算部63が記憶部61aに設定する情報である。転舵側補正情報演算部63は、転舵側補正要素情報θctを取得し、かつ、転舵側中点情報θntを記憶部61aに書き込みする転舵側補正情報記憶処理を含む。転舵側補正要素情報θctの取得には、転舵ユニット6から得られるピニオン絶対回転角θabpを使用する。転舵側中点情報θntは、取得した転舵側補正要素情報θctに基づき得られる。なお、転舵側補正情報記憶処理は、設定ピニオン角θp0を演算する処理を含む。転舵側補正情報記憶処理については後で詳しく説明する。
【0054】
異常条件情報FLG1は、転舵側補正情報演算部63が記憶部61bに設定する情報である。転舵側補正情報記憶処理は、異常条件情報FLG1を記憶部61bに設定する処理を含む。転舵側補正情報演算部63は、転舵側中点情報θntの書き込みを完了することができなかった場合、「1」の値の異常条件情報FLG1を記憶部61bに書き込みする。換言すれば、「1」の値の異常条件情報FLG1は、記憶部61aに記憶されている転舵側中点情報θntを正常に使用することができないことを示す。また、転舵側補正情報演算部63は、転舵側中点情報θntの書き込みを完了することができた場合、「0(ゼロ)」の値の異常条件情報FLG1を記憶部61bに書き込みする。換言すれば、「0(ゼロ)」の値の異常条件情報FLG1は、記憶部61aに記憶されている転舵側中点情報θntを正常に使用することができることを示す。なお、記憶部61aには、初期値として「0」の値の異常条件情報FLG1が記憶される。例えば、記憶部61aには、バッテリ交換後、内容がクリアされると初期値である「0」の値の異常条件情報FLG1が記憶される。記憶部61bは、メモリ49bの所定の記憶領域のことである。記憶部61bは、メモリ49bの記憶領域のうち、記憶部61aとは異なる記憶領域である。
【0055】
通電制御部64には、転舵側モータトルク指令値Tt*、回転角θb、及び転舵側実電流値Ibが入力される。通電制御部64は、転舵側モータトルク指令値Tt*に基づき転舵側モータ32に対する電流指令値Ib*を演算する。通電制御部64は、電流指令値Ib*と、転舵側実電流値Ibを回転角θbに基づき変換して得られるdq座標上の電流値との偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵側モータ32に対する給電を制御する。これにより、転舵側モータ32は転舵側モータトルク指令値Tt*に応じた角度だけ回転する。
【0056】
<起動時状態のときに実行する処理について>
操舵制御装置1は、スイッチ操作等の運転者による要求に基づいて、起動スイッチ48がオン状態にされて車両の電源システム46が起動された後、起動時状態を経て通常制御状態へと状態遷移する。操舵側制御部50は、起動信号Sigの入力後、操舵側補正情報記憶処理を実行するべく起動時状態へと状態遷移する。これと同様、転舵側制御部60は、起動信号Sigの入力後、転舵側補正情報記憶処理を実行するべく起動時状態へと状態遷移する。なお、起動時状態のとき、車両は、停車中である。また、起動時状態のとき、操舵制御装置1は、運転者によるステアリング操舵に応じて転舵輪5を転舵させるための通常処理を実行しない状態である。これにより、起動時状態の間、転舵輪5は、電源起動時の状態を維持する。
【0057】
つぎに、起動時状態のとき、操舵側制御部50が操舵側補正情報演算部53を通じて実行する処理の処理手順の一例について、
図3に示すフローチャートに従って説明する。
同図に示すように、操舵側補正情報演算部53は、起動信号Sigの入力後、メモリ49bから各種情報を読み出す(ステップ101)。ステップ101において、操舵側補正情報演算部53は、操舵側中点情報θns及び異常条件情報FLG1を含む情報を読み出す。例えば、操舵側補正情報演算部53は、記憶部51aから操舵側中点情報θnsを読み出し、かつ、記憶部51bから異常条件情報FLG1を読み出す。
【0058】
つぎに、操舵側補正情報演算部53は、異常条件が成立するか否かを判断する(ステップ102)。ステップ102において、操舵側補正情報演算部53は、ステップ101で読み出した異常条件情報FLG1が「0」であるか否かに基づいて、操舵側中点情報θnsの書き込みを完了することができたか否かを判断する。本実施形態において、操舵側中点情報θnsの書き込みを完了することができなかったことは異常条件の一例である。また、ステップ102の処理は、異常条件判断処理の一例である。
【0059】
つぎに、ステップ102において、操舵側補正情報演算部53は、「1」の値の異常条件情報FLG1を読み出して異常条件が成立することを判断する場合(ステップ102:YES)、操舵側補正情報記憶処理を実行する(ステップ104)。ステップ104において、操舵側補正情報演算部53は、操舵側補正情報記憶処理を通じて、操舵側補正要素情報θcsを取得し、かつ、操舵側中点情報θnsを記憶部51aに書き込みする。本実施形態において、操舵側補正要素情報θcsは、補正要素情報の一例である。また、操舵側中点情報θnsは、補正情報の一例である。
【0060】
一方、操舵側補正情報演算部53は、「0」の値の異常条件情報FLG1を読み出して異常条件が成立しないことを判断する場合(ステップ102:NO)、バッテリ交換条件が成立するか否かを判断する(ステップ103)。ステップ103において、操舵側補正情報演算部53は、バッテリ交換情報FLG2を入力する場合、バッテリ交換後、最初の電源起動時であることを判断する。一方、操舵側補正情報演算部53は、バッテリ交換情報FLG2を入力しない場合、バッテリ交換後、最初の電源起動時でないことを判断する。本実施形態において、バッテリ交換後、最初の電源起動時であることがバッテリ交換条件の一例である。また、ステップ103の処理は、バッテリ交換条件判断処理の一例である。
【0061】
メモリ49bの内容のうち、書き換え可能な内容については、バッテリ交換に伴ってクリアして初期化される。例えば、記憶部51a及び記憶部51bに記憶される内容は、それぞれ書き換え可能な内容に相当し、バッテリ交換に伴ってクリアして初期化される。これにより、ステップ103において、操舵側補正情報演算部53は、バッテリ交換後、最初の電源起動時であることを判断することによって、記憶部51a及び記憶部51bに記憶される内容がクリアして初期化されていることを判断している。一方、操舵側補正情報演算部53は、バッテリ交換後、最初の電源起動時でないことを判断することによって、記憶部51a及び記憶部51bに記憶される内容がクリアして初期化されていないことを判断している。
【0062】
つぎに、操舵側補正情報演算部53は、バッテリ交換条件が成立することを判断する場合(ステップ103:YES)、操舵側補正情報記憶処理を実行する(ステップ104)。この場合のステップ104において、操舵側補正情報演算部53は、ステップ102:YESと同様、操舵側補正情報記憶処理を通じて、操舵側補正要素情報θcsを取得し、かつ、操舵側中点情報θnsを記憶部51aに書き込みする。
【0063】
つぎに、操舵側補正情報演算部53は、ステップ104で実行した操舵側補正情報記憶処理を通じて操舵側中点情報θnsの記憶部51aへの書き込みが完了したか否かを判断する(ステップ105)。ステップ105において、操舵側補正情報演算部53は、例えば、ベリファイ機能を使用する。ベリファイ機能は、ステップ104の処理で記憶部51aに書き込んだ操舵側中点情報θnsを読み出し、読み出した操舵側中点情報θnsがステップ104の処理で書き込んだ内容と一致するか否かを判断する機能である。操舵側補正情報演算部53は、ベリファイ機能を使用して、読み出した操舵側中点情報θnsがステップ104の処理で書き込んだ内容と一致する場合、操舵側中点情報θnsの記憶部51aへの書き込み完了を判断する。一方、操舵側補正情報演算部53は、ベリファイ機能を使用して、読み出した操舵側中点情報θnsがステップ104の処理で書き込んだ内容と一致しない場合、操舵側中点情報θnsの記憶部51aへの書き込み完了できなかったことを判断する。
【0064】
つぎに、操舵側補正情報演算部53は、操舵側中点情報θnsの記憶部51aへの書き込み完了を判断する場合(ステップ105:YES)、「0」の異常条件情報FLG1を記憶部51bに書き込みする(ステップ106)。
【0065】
つぎに、操舵側補正情報演算部53は、設定操舵角θs0を演算し(ステップ107)、起動時状態において実行する処理の完了を設定する。この場合のステップ107において、操舵側補正情報演算部53は、ステップ104の処理で書き込んだ操舵側中点情報θnsに基づき回転角θaを補正して得られる設定操舵角θs0を演算する。設定操舵角θs0は、ステアリング中立位置に対する絶対角度であって、通常処理を実行する際に使用される操舵角θsとして使用される。操舵側制御部50は、起動時状態において実行する処理の完了の設定後、運転者によるステアリング操舵に応じて転舵輪5を転舵させるための通常処理を実行する通常制御状態へと状態遷移する。本実施形態において、回転角θaは操舵ユニット4から得られる状態変数の一例である。また、操舵角θs、すなわち設定操舵角θs0は、通常処理を実行する際に使用される操舵用の制御変数の一例である。
【0066】
一方、ステップ105において、操舵側補正情報演算部53は、操舵側中点情報θnsの記憶部51aへの書き込み完了できなかったことを判断する場合(ステップ105:NO)、「1」の異常条件情報FLG1を記憶部51bに書き込みする(ステップ108)。本実施形態において、ステップ108の処理は、異常情報記憶処理の一例である。
【0067】
つぎに、操舵側補正情報演算部53は、設定操舵角θs0を演算し(ステップ107)、起動時状態において実行する処理の完了を設定する。この場合のステップ107において、操舵側補正情報演算部53は、ステップ104の処理で書き込んだ操舵側中点情報θnsに基づき回転角θaを補正して得られる設定操舵角θs0を演算する。なお、ステップ104の処理で書き込みを完了できなかった(ステップ105:NO)としても、操舵側中点情報θnsの値自体は正常な値であると判断されている。操舵側制御部50は、起動時状態において実行する処理の完了の設定後、運転者によるステアリング操舵に応じて転舵輪5を転舵させるための通常処理を実行する通常制御状態へと状態遷移する。
【0068】
また、ステップ103において、操舵側補正情報演算部53は、バッテリ交換条件が成立しないことを判断する場合(ステップ103:NO)、設定操舵角θs0を演算し(ステップ107)、起動時状態において実行する処理の完了を設定する。この場合のステップ107において、操舵側補正情報演算部53は、ステップ101の処理で読み出した操舵側中点情報θnsに基づき回転角θaを補正して得られる設定操舵角θs0を演算する。なお、ステップ103:NOの場合、操舵側補正情報演算部53は、操舵側補正情報記憶処理(ステップ104)を実行しない。
【0069】
起動時状態のとき、転舵側制御部60は、転舵側補正情報演算部63を通じて操舵側補正情報演算部53が実行する処理に対応する処理を実行する。
例えば、ステップ101に対応する処理として、転舵側補正情報演算部63は、起動信号Sigの入力後、メモリ49bから各種情報を読み出す。この場合、転舵側補正情報演算部63は、記憶部61aから転舵側中点情報θntを読み出し、かつ、記憶部61bから異常条件情報FLG1を読み出す。
【0070】
つぎに、ステップ102に対応する処理として、転舵側補正情報演算部63は、異常条件が成立するか否かを判断する。転舵側補正情報演算部63は、「1」の値の異常条件情報FLG1を読み出して異常条件が成立することを判断する場合、ステップ104に対応する処理として、転舵側補正情報記憶処理を実行する。
【0071】
一方、ステップ103に対応する処理として、転舵側補正情報演算部63は、「0」の値の異常条件情報FLG1を読み出して異常条件が成立しないことを判断する場合、バッテリ交換条件が成立するか否かを判断する。転舵側補正情報演算部63は、バッテリ交換条件が成立することを判断する場合、ステップ104に対応する処理として、転舵側補正情報記憶処理を実行する。
【0072】
つぎに、ステップ104に対応する処理として、転舵側補正情報演算部63は、転舵側補正情報記憶処理を通じて、転舵側補正要素情報θctを取得し、かつ、転舵側中点情報θntを記憶部61aに書き込みする。本実施形態において、転舵側補正要素情報θctは、補正要素情報の一例である。また、転舵側中点情報θntは、補正情報の一例である。
【0073】
つぎに、ステップ105に対応する処理として、転舵側補正情報演算部63は、転舵側補正情報記憶処理を通じて転舵側中点情報θntの記憶部61aへの書き込みが完了したか否かを判断する。この場合、転舵側補正情報演算部63は、操舵側補正情報演算部53と同様、ベリファイ機能を使用して、転舵側中点情報θntの記憶部61aへの書き込みが完了したか否かを判断する。
【0074】
つぎに、ステップ106に対応する処理として、転舵側補正情報演算部63は、転舵側中点情報θntの記憶部61aへの書き込み完了を判断する場合、「0」の異常条件情報FLG1を記憶部61bに書き込みする。この場合、ステップ107に対応する処理として、転舵側補正情報演算部63は、設定ピニオン角θp0を演算し、起動時状態において実行する処理の完了を設定する。転舵側補正情報演算部63は、転舵側補正情報記憶処理で書き込んだ転舵側中点情報θntに基づき回転角θbを補正して得られる設定ピニオン角θp0を演算する。設定ピニオン角θp0は、ラック中立位置に対する絶対角度であって、通常処理を実行する際に使用されるピニオン角θpとして使用される。転舵側制御部60は、起動時状態において実行する処理の完了の設定後、運転者によるステアリング操舵に応じて転舵輪5を転舵させるための通常処理を実行する通常制御状態へと状態遷移する。本実施形態において、回転角θbは転舵ユニット6から得られる状態変数の一例である。また、ピニオン角θp、すなわち設定ピニオン角θp0は、通常処理を実行する際に使用される転舵用の制御変数の一例である。
【0075】
一方、ステップ108に対応する処理として、転舵側補正情報演算部63は、転舵側中点情報θntの記憶部61aへの書き込み完了できかったことを判断する場合、「1」の異常条件情報FLG1を記憶部61bに書き込みする。この場合、ステップ107に対応する処理として、転舵側補正情報演算部63は、設定ピニオン角θp0を演算し、起動時状態において実行する処理の完了を設定する。転舵側補正情報演算部63は、転舵側補正情報記憶処理で書き込んだ転舵側中点情報θntに基づき回転角θbを補正して得られる設定ピニオン角θp0を演算する。なお、転舵側補正情報記憶処理で書き込みを完了できなかったとしても、転舵側中点情報θntの値自体は正常な値であると判断されている。転舵側制御部60は、起動時状態において実行する処理の完了の設定後、運転者によるステアリング操舵に応じて転舵輪5を転舵させるための通常処理を実行する通常制御状態へと状態遷移する。
【0076】
また、ステップ107に対応する処理として、転舵側補正情報演算部63は、バッテリ交換条件が成立しないことを判断する場合、設定ピニオン角θp0を演算し、起動時状態において実行する処理の完了を設定する。この場合、転舵側補正情報演算部63は、ステップ101に対応する処理で読み出した転舵側中点情報θntに基づき回転角θbを補正して得られる設定ピニオン角θp0を演算する。なお、バッテリ交換条件が成立しないことを判断する場合、転舵側補正情報演算部63は、転舵側補正情報記憶処理を実行しない。
【0077】
<操舵側補正情報記憶処理について>
つぎに、操舵側制御部50が操舵側補正情報演算部53を通じて実行する操舵側補正情報記憶処理の処理手順の一例について、
図4に示すフローチャートに従って説明する。
【0078】
同図に示すように、操舵側補正情報演算部53は、ステアリングホイール3を左右一方の右方へ回転させる(ステップ201)。ステップ201において、操舵側補正情報演算部53は、ステアリングホイール3を右方へ回転させるための目標回転トルクRT*を演算する。例えば、操舵側補正情報演算部53は、仮操舵角θsiを操舵目標角θs*に追従させるべく仮操舵角θsiのフィードバック制御を通じて目標回転トルクRT*を演算する。仮操舵角θsiは、電源起動時の回転角θaの位置を仮の基準値として得られる積算角である。操舵目標角θs*は、ステアリングホイール3の回転範囲のうち、舵側補正情報記憶処理の開始時における仮操舵角θsiの値から右方の回転限界位置3aを超えるように徐々に変化するように更新される値である。
【0079】
つぎに、操舵側補正情報演算部53は、ステアリングホイール3が右方の回転限界位置3aに達したか否かを判断する(ステップ202)。ステップ202において、操舵側補正情報演算部53は、例えば、操舵側実電流値Iaを監視する。操舵側実電流値Iaは、ステアリングホイール3が右方の回転限界位置3aに達するまでの間は大きな変化を伴わない。操舵側実電流値Iaは、ステアリングホイール3が右方の回転限界位置3aに達すると絶対値が急増する。これは、ステアリング軸11の回転がストッパ機構11bを通じて規制されることによって、操舵側モータ13の回転が規制されるからである。この場合、操舵側モータ13の回転が規制されるなかでさらに操舵側モータ13を回転させようとして、目標回転トルクRT*が急増するとともに、操舵側実電流値Iaが急増する。操舵側補正情報演算部53は、操舵側実電流値Iaの絶対値が電流閾値Iath以上の場合、ステアリングホイール3が右方の回転限界位置3aに達したことを判断する。一方、操舵側補正情報演算部53は、操舵側実電流値Iaの絶対値が電流閾値Iathよりも小さい場合、ステアリングホイール3が右方の回転限界位置3aに達していないことを判断する。例えば、電流閾値Iathは、ステアリング軸11の回転がストッパ機構11bを通じて規制されることによって、操舵側モータ13の回転が規制されているとして実験的に求められる範囲の値が設定されている。
【0080】
つぎに、操舵側補正情報演算部53は、ステアリングホイール3が右方の回転限界位置3aに達していないことを判断する場合(ステップ202:NO)、ステップ201及びステップ202の処理を繰り返し実行する。一方、操舵側補正情報演算部53は、ステアリングホイール3が右方の回転限界位置3aに達していることを判断する場合(ステップ202:YES)、仮右限界位置θrlを一時的に記憶する(ステップ203)。ステップ203において、操舵側補正情報演算部53は、右方の回転限界位置3aに達していることの判断時の仮操舵角θsiを仮右限界位置θrlとして一時的に記憶する。本実施形態において、操舵側補正情報演算部53が一時的に記憶する仮右限界位置θrlは、操舵側補正要素情報θcsの一例である。
【0081】
つぎに、操舵側補正情報演算部53は、ステアリングホイール3を右方の他方である左方へ回転させる(ステップ204)。ステップ204において、操舵側補正情報演算部53は、ステアリングホイール3を左方へ回転させるための目標回転トルクRT*を演算する。例えば、操舵側補正情報演算部53は、ステップ201の処理と同様、仮操舵角θsiを操舵目標角θs*に追従させるべく仮操舵角θsiのフィードバック制御を通じて目標回転トルクRT*を演算する。操舵目標角θs*は、ステアリングホイール3の回転範囲のうち、右方の回転限界位置3aに達した場合における仮操舵角θsiの値から左方の回転限界位置3bを超えるように徐々に変化するように更新される値である。
【0082】
つぎに、操舵側補正情報演算部53は、ステアリングホイール3が左方の回転限界位置3bに達したか否かを判断する(ステップ205)。ステップ205において、操舵側補正情報演算部53は、ステップ205の処理と同様、例えば、操舵側実電流値Iaを監視する。
【0083】
つぎに、操舵側補正情報演算部53は、ステアリングホイール3が左方の回転限界位置3bに達していないことを判断する場合(ステップ205:NO)、ステップ204及びステップ205の処理を繰り返し実行する。一方、操舵側補正情報演算部53は、ステアリングホイール3が左方の回転限界位置3bに達していることを判断する場合(ステップ205:YES)、仮左限界位置θllを一時的に記憶する(ステップ206)。ステップ206において、操舵側補正情報演算部53は、左方の回転限界位置3bに達していることの判断時の仮操舵角θsiを仮左限界位置θllとして一時的に記憶する。本実施形態において、操舵側補正情報演算部53が一時的に記憶する仮左限界位置θllは、操舵側補正要素情報θcsの一例である。
【0084】
つぎに、操舵側補正情報演算部53は、ステアリングホイール3の操舵範囲である操舵実測範囲SRを演算する(ステップ207)。ステップ207において、操舵側補正情報演算部53は、ステップ203で一時的に記憶した仮右限界位置θrlと、ステップ206で一時的に記憶した仮左限界位置θllとの差分の絶対値を操舵実測範囲SRとして演算する。
【0085】
つぎに、操舵側補正情報演算部53は、操舵実測範囲SRを正常取得できたか否かを判断する(ステップ208)。ステップ208において、操舵側補正情報演算部53は、ステップ206で演算した操舵実測範囲SRと設計値SR0との差分の絶対値が操舵範囲閾値SRthよりも小さいか否かを判断する。例えば、ステップ201又はステップ204の処理の実行中、ステアリングホイール3の回転を運転者が触れる等して妨げると、仮右限界位置θrl又は仮左限界位置θllとして正常な値が記憶されていない可能性がある。この場合、操舵実測範囲SRを正常取得できていない可能性がある。操舵側補正情報演算部53は、操舵実測範囲SRと設計値SR0との差分の絶対値が操舵範囲閾値SRth以上の場合、操舵実測範囲SRを正常取得できていないことを判断する。一方、操舵側補正情報演算部53は、操舵実測範囲SRと設計値SR0との差分の絶対値が操舵範囲閾値SRthよりも小さい場合、操舵実測範囲SRを正常取得できていることを判断する。例えば、設計値SR0は、ステアリングホイール3の操舵範囲を定める値として操舵装置2が搭載される車両毎に設定されている。また、操舵範囲閾値SRthは、ステアリングホイール3の操舵範囲の設計値SR0からずれていないことを判断できるとして公差を加味して得られる範囲の値が設定されている。
【0086】
つぎに、操舵側補正情報演算部53は、操舵実測範囲SRを正常取得できなかったことを判断する場合(ステップ208:NO)、ステップ201~208の処理を繰り返し実行する。なお、ステップ208:NOの場合、操舵側補正情報演算部53は、操舵側補正情報記憶処理を正常終了できなかったことから、起動時状態において実行する処理の未完了を設定するようにしてもよい。この場合、操舵側制御部50は、起動時状態において実行する処理の未完了の設定後、例えば、フェイル状態へと状態遷移するようにしてもよい。
【0087】
一方、操舵側補正情報演算部53は、操舵実測範囲SRを正常取得できたことを判断する場合(ステップ208:YES)、中立実測位置を演算する(ステップ209)。ステップ209において、操舵側補正情報演算部53は、ステップ203で一時的に記憶した仮右限界位置θrlと、ステップ206で一時的に記憶した仮左限界位置θllとの中点に対応する値を中立実測位置として演算する。中立実測位置と仮右限界位置θrlとの差分の絶対値と、中立実測位置と仮左限界位置θllとの差分の絶対値とは、互いに等しくなる。
【0088】
つぎに、操舵側補正情報演算部53は、ステアリングホイール3を中立実測位置へ回転させる(ステップ210)。ステップ210において、操舵側補正情報演算部53は、ステアリングホイール3をステップ209で演算した中立実測位置へ回転させるための目標回転トルクRT*を演算する。例えば、操舵側補正情報演算部53は、仮操舵角θsiを操舵目標角θs*に追従させるべく仮操舵角θsiのフィードバック制御を通じて目標回転トルクRT*を演算する。操舵目標角θs*は、ステアリングホイール3の回転範囲のうち、左方の回転限界位置3bに達した場合における仮操舵角θsiの値から中立実測位置を示す値へと徐々に変化するように更新される値である。
【0089】
つぎに、操舵側補正情報演算部53は、ステアリングホイール3が中立実測位置に達したか否かを判断する(ステップ211)。ステップ211において、操舵側補正情報演算部53は、例えば、仮操舵角θsiを監視する。操舵側補正情報演算部53は、仮操舵角θsiが中立実測位置に一致する場合、ステアリングホイール3が中立実測位置に達したことを判断する。一方、操舵側補正情報演算部53は、仮操舵角θsiが中立実測位置に一致しない場合、ステアリングホイール3が中立実測位置に達していないことを判断する。
【0090】
つぎに、操舵側補正情報演算部53は、ステアリングホイール3が中立実測位置に達していないことを判断する場合(ステップ211:NO)、ステップ210及びステップ211の処理を繰り返し実行する。一方、操舵側補正情報演算部53は、ステアリングホイール3が中立実測位置に達していることを判断する場合(ステップ202:YES)、中立実測位置を記憶部51aに書き込みする(ステップ212)。ステップ212において、操舵側補正情報演算部53は、ステップ209で演算した中立実測位置に対応する仮操舵角θsiを操舵側中点情報θnsとして記憶部51aに書き込みする。これにより、操舵側補正情報演算部53は、操舵側補正情報記憶処理を終了し、
図3の処理へと戻ってステップ105以後の処理を実行する。
【0091】
<ステアリングホイールの動作について>
図5(a)は、操舵側補正情報記憶処理の実行の開始時におけるステアリングホイール3の初期位置がステアリング中立位置(図中「0(ゼロ)」)である場合を例示している。
【0092】
例えば、
図5(a)に示すように、操舵側補正情報記憶処理の実行が開始される場合、ステアリングホイール3は、右方への回転を開始する。この場合、
図5(g)に示すように、時間t1までの間、仮操舵角θsiは、右方の回転限界位置3aを超えるように更新される操舵目標角θs*に従って「0」から正の値側(図中「θsi(+)」)に向かって徐々に変化する。なお、
図5(g)中において、実線は仮操舵角θsiの変化を示し、一点鎖線は操舵目標角θs*の変化を示す。
【0093】
つぎに、
図5(b)に示すように、ステアリングホイール3は、右方の回転限界位置3aに達する場合、回転が停止する。この場合、
図5(g)に示すように、時間t1に達すると、仮操舵角θsiは、右方の回転限界位置3aに対応する値になってそれ以後変化しなくなる。なお、操舵目標角θs*は、仮操舵角θsiが変化しなくなった後も変化し続ける。その後、同図に示すように、操舵側実電流値Iaの絶対値が電流閾値Iath以上になる時間t2に達すると、その時の仮操舵角θsiの値である第1値θsi1が仮右限界位置θrl、すなわち操舵側補正要素情報θcsとして一時的に記憶される。
【0094】
つぎに、
図5(c)に示すように、ステアリングホイール3は、左方への回転を開始する。この場合、
図5(g)に示すように、時間t3までの間、仮操舵角θsiは、左方の回転限界位置3bを超えるように更新される操舵目標角θs*にしたがって「0」から負の値側(図中「θsi(-)」)に徐々に変化する。
【0095】
つぎに、
図5(d)に示すように、ステアリングホイール3は、左方の回転限界位置3bに達する場合、回転が停止する。この場合、
図5(g)に示すように、時間t3に達すると、仮操舵角θsiは、左方の回転限界位置3bに対応する値になってそれ以後変化しなくなる。なお、操舵目標角θs*は、仮操舵角θsiが変化しなくなった後も変化し続ける。その後、同図に示すように、操舵側実電流値Iaの絶対値が電流閾値Iath以上になる時間t4に達すると、その時の仮操舵角θsiの値である第2値θsi2が仮左限界位置θll、すなわち操舵側補正要素情報θcsとして一時的に記憶される。
【0096】
つぎに、
図5(e)に示すように、ステアリングホイール3は、中立実測位置(図中「0」)への回転を開始する。この場合、
図5(g)に示すように、時間t5までの間、仮操舵角θsiは、中立実測位置を示す値として更新される操舵目標角θs*にしたがって第2値θsi2から「0」に向かって徐々に増加する。
【0097】
つぎに、
図5(f)に示すように、ステアリングホイール3は、中立実測位置に達する場合、回転が停止する。この場合、
図5(g)に示すように、時間t5に達すると、仮操舵角θsiは、中立実測位置に対応する値になってそれ以後変化しなくなる。なお、操舵目標角θs*は、仮操舵角θsiが中立実測位置に対応する値に達する前に既に変化しなくなっている。その後、中立実測位置に対応する値を操舵側中点情報θnsとして記憶部51aに書き込みすることによって、操舵側補正情報記憶処理が終了される。
【0098】
<転舵側補正情報記憶処理について>
つぎに、転舵側制御部60が転舵側補正情報演算部63を通じて実行する転舵側補正情報記憶処理の処理手順の一例について、
図6に示すフローチャートに従って説明する。なお、本実施形態において、転舵側制御部60は、転舵側補正情報記憶処理の実行に伴って転舵ユニット6を動作させることはない。これにより、転舵側補正情報記憶処理の実行中、転舵輪5は転舵されない。
【0099】
同図に示すように、転舵側補正情報演算部63は、ピニオン絶対回転角θabpを取得し(ステップ301)、ラック中立位置に対応する値を演算する(ステップ302)。ステップ302において、転舵側補正情報演算部63は、ピニオン絶対回転角θabpに対応する回転回数である転舵側補正要素情報θctを演算する。また、転舵側補正情報演算部63は、転舵側補正要素情報θctに基づき回転角θbを補正して得られるピニオン角θpについてのラック中立位置に対応する値を演算する。
【0100】
つぎに、転舵側補正情報演算部63は、ラック中立位置に対応する値を記憶部61aに書き込みする(ステップ303)。ステップ303において、転舵側補正情報演算部63は、ステップ302で演算したラック中立位置に対応する値を転舵側中点情報θntとして記憶部61aに書き込みする。これにより、転舵側補正情報演算部63は、転舵側補正情報記憶処理を終了し、
図3に対応する処理へと戻ってステップ105に対応する処理以後の処理を実行する。
【0101】
<第1の実施形態の作用および効果>
例えば、ステップ102:YESの判断は、バッテリ交換後に操舵側補正情報記憶処理を実行済であっても、その実行の際に操舵側中点情報θnsの記憶部51aへの書き込み完了できなかった場合に成立し得る。この場合、その後の電源起動時には、記憶部51aに記憶されている操舵側中点情報θnsを使用することができない。つまり、操舵角θsは、操舵ユニット4の実際の状態との間にずれを生じることになる。
【0102】
そこで、起動時状態のとき、操舵側制御部50は、操舵側補正情報演算部53の処理を通じて、記憶部51bに「1」の値の異常条件情報FLG1が記憶されていることを判断する場合(ステップ102:YES)、改めて操舵側補正情報記憶処理を実行する。これにより、操舵側制御部50は、今回の電源起動時に記憶部51aに記憶されている操舵側中点情報θnsを使用することができないとしても、改めて操舵側補正情報記憶処理を実行することによって、正しい操舵側中点情報θnsを使用することができる。また、操舵側制御部50は、改めて操舵側補正情報記憶処理を実行することによって、記憶部51bに操舵側中点情報θnsの書き込みを完了することができる。この場合、操舵側制御部50は、次回以後の電源起動時に記憶部51aに記憶されている操舵側中点情報θnsを使用することができる。つまり、操舵側制御部50は、操舵側中点情報θnsに基づき回転角θaを補正することができる状況を創出することができる。
【0103】
上述のことは、転舵側制御部60についても同様である。具体的には、起動時状態のとき、転舵側制御部60は、転舵側補正情報演算部63の処理を通じて、記憶部61bに「1」の値の異常条件情報FLG1が記憶されていることを判断する場合、改めて転舵側補正情報記憶処理を実行する。これにより、転舵側制御部60は、今回の電源起動時に記憶部61aに記憶されている転舵側中点情報θntを使用することができないとしても、改めて転舵側補正情報記憶処理を実行することによって、正しい転舵側中点情報θntを使用することができる。また、転舵側制御部60は、改めて転舵側補正情報記憶処理を実行することによって、記憶部61bに転舵側中点情報θntの書き込みを完了することができる。この場合、転舵側制御部60は、次回以後の電源起動時に記憶部61aに記憶されている転舵側中点情報θntを使用することができる。つまり、転舵側制御部60は、転舵側中点情報θntに基づき回転角θbを補正することができる状況を創出することができる。
【0104】
したがって、操舵角θs及びピニオン角θpを含む制御変数は、操舵装置2の実際の状態との間にずれを生じ難くなる。
以上説明した本実施形態によれば、さらに以下に記載する作用および効果が得られる。
【0105】
(1-1)起動時状態のとき、操舵側制御部50は、操舵側中点情報θnsの記憶部51aへの書き込み完了できなかった場合に「1」の値の異常条件情報FLG1を記憶部51bに記憶するように構成されている。「1」の値の異常条件情報FLG1が記憶部51bに記憶されているか否か、すなわち異常条件が成立するか否かを判断する処理は、操舵側補正情報記憶処理の前に実行される。これにより、操舵側中点情報θnsの記憶部51aへの書き込み完了できなかったとしても、次に車両が電源起動された際、改めて操舵側補正情報記憶処理を実行することができる。したがって、操舵側制御部50が正しい操舵側中点情報θnsに基づき回転角θaを補正することができる。これは、転舵側制御部60についても同様である。具体的には、転舵側中点情報θntの記憶部61aへの書き込み完了できなかったとしても、次に車両が電源起動された際、改めて転舵側補正情報記憶処理を実行することができる。したがって、転舵側制御部60が正しい転舵側中点情報θntに基づき回転角θbを補正することができる。
【0106】
(1-2)起動時状態のとき、操舵側制御部50は、バッテリ交換条件が成立するか否かを判断するように構成されている。また、操舵側制御部50は、バッテリ交換条件が成立する場合、操舵側補正情報記憶処理を実行するように構成されている。また、操舵側制御部50は、バッテリ交換条件が成立するか否かを判断する処理の前に、異常条件が成立するか否かを判断するように構成されている。これにより、バッテリ交換条件が成立しないことから操舵側補正情報記憶処理を実行する必要がない場合であっても、異常条件が成立すれば、操舵側補正情報記憶処理が実行される。起動時状態のとき、操舵側制御部50は、操舵側補正情報記憶処理を通じて記憶部51aへ書き込んだ操舵側中点情報θnsに関して、記憶部51aにおける異常に対して適切に対処することができる。したがって、操舵側中点情報θnsの正確性に対する信頼性を高めることができる。これは、転舵側制御部60についても同様である。具体的には、起動時状態のとき、転舵側制御部60は、転舵側補正情報記憶処理を通じて記憶部61aへ書き込んだ転舵側中点情報θntに関して、記憶部61aにおける異常に対して適切に対処することができる。したがって、転舵側中点情報θntの正確性に対する信頼性を高めることができる。
【0107】
(1-3)操舵制御装置1は、操舵ユニット4と転舵ユニット6とのそれぞれを対象として、記憶部51a,61aへ書き込んだそれぞれの中点情報θns,θntに関して異常が発生すると、改めてそれぞれの補正情報取得処理を実行することができる。これにより、操舵制御装置1は、操舵ユニット4と転舵ユニット6とのそれぞれに関する回転角θa,θbを補正することができる。したがって、操舵ユニット4と転舵ユニット6とをそれぞれ制御する際に使用する操舵角θs及びピニオン角θpは、それぞれのユニットとの実際の状態との間にずれを生じ難くなる。
【0108】
(1-4)操舵側補正情報記憶処理では、操舵ユニット4の実際の状態に対応した操舵側中点情報θnsを記憶部51aへ書き込みすることができる。これにより、操舵側中点情報θnsは、操舵ユニット4の実際の状態を反映する値になる。これは、操舵側モータ13を制御するに際して重要なパラメータである操舵角θsを適切に演算するのに効果的である。
【0109】
(1-5)起動時状態のとき、転舵側制御部60は、記憶部61aに記憶されている転舵側中点情報θntを取得する代わりに、ピニオン絶対角センサ45から得られるピニオン絶対回転角θabpを使用して設定ピニオン角θp0を演算することもできる。ただし、設定ピニオン角θp0の演算に要する時間は、記憶部61aに記憶されている転舵側中点情報θntを取得する場合の方が、ピニオン絶対回転角θabpをピニオン絶対角センサ45から専用の信号線を介して取得する場合と比較して短くなる。これは、電源起動後、通常制御状態へ状態遷移するまでに要する時間を短縮するのに効果的である。
【0110】
<第2の実施形態>
次に、本開示の第2の実施形態を説明する。なお、説明の便宜上、上記第1実施形態と同一の構成については上記第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0111】
本実施形態にかかる操舵制御装置1に接続されている各種のセンサには、ステアリング絶対角センサ70が含まれる。
図1に二点鎖線で示すように、ステアリング絶対角センサ70は、ステアリング軸11の回転軸の角度の実測値であるステアリング絶対回転角θabsを360°を超える範囲で検出する。具体的には、ステアリング絶対角センサ70は、ステアリング軸11に設けられている。例えば、ステアリング絶対角センサ70は、ステアリング軸11におけるステアリングホイール3とトルクセンサ41との間に設けられている。ステアリング軸11のステアリング絶対回転角θabsは、操舵角θsの演算に使用される。なお、ステアリング絶対回転角θabsは、例えば、右方向に操舵した場合に正の値、左方向に操舵した場合に負の値として検出する。本実施形態において、ステアリング絶対角センサ70は、操舵角θsの実測値を検出するセンサの一例である。
【0112】
本実施形態にかかる操舵側補正情報演算部53には、異常条件情報FLG1の代わりに、ステアリング絶対回転角θabsが入力される。
<起動時状態において実行する処理について>
つぎに、起動時状態のとき、操舵側制御部50が操舵側補正情報演算部53を通じて実行する処理の処理手順の一例について、
図7に示すフローチャートに従って説明する。
【0113】
同図に示すように、操舵側補正情報演算部53は、起動信号Sigの入力後、メモリ49bから各種情報を読み出す(ステップ401)。ステップ401において、操舵側補正情報演算部53は、操舵側中点情報θnsを含む情報を読み出す。例えば、操舵側補正情報演算部53は、記憶部51aから操舵側中点情報θnsを読み出す。
【0114】
つぎに、操舵側補正情報演算部53は、バッテリ交換条件が成立するか否かを判断する(ステップ402)。操舵側補正情報演算部53は、バッテリ交換条件が成立することを判断する場合(ステップ402:YES)、操舵側補正情報記憶処理を実行し(ステップ403)、設定操舵角θs0を演算する(ステップ404)。一方、操舵側補正情報演算部53は、バッテリ交換条件が成立しないことを判断する場合(ステップ402:NO)、設定操舵角θs0を演算する(ステップ404)。なお、ステップ402:NOの場合、操舵側補正情報演算部53は、操舵側補正情報記憶処理(ステップ403)を実行しない。
【0115】
つぎに、操舵側補正情報演算部53は、ステアリング絶対回転角θabsを取得し(ステップ405)、異常条件が成立するか否かを判断する(ステップ406)。ステップ406において、操舵側補正情報演算部53は、例えば、ステップ404の処理で演算した設定操舵角θs0とステップ405の処理で取得したステアリング絶対回転角θabsとを比較した結果に基づいて、異常条件が成立するか否かを判断する。操舵側補正情報演算部53は、設定操舵角θs0とステアリング絶対回転角θabsとの差分の絶対値が操舵側閾値θthsよりも小さいか否かを判断する。例えば、操舵側中点情報θnsが正常な値でない場合、設定操舵角θs0とステアリング絶対回転角θabsとが乖離する。この場合、操舵側中点情報θnsを正常取得できていない可能性がある。操舵側補正情報演算部53は、設定操舵角θs0とステアリング絶対回転角θabsとの差分の絶対値が操舵側閾値θths以上の場合、操舵側中点情報θnsを正常取得できていないことを判断する。また、操舵側補正情報演算部53は、設定操舵角θs0とステアリング絶対回転角θabsとの差分の絶対値が操舵側閾値θthsよりも小さい場合、操舵側中点情報θnsを正常取得できていることを判断する。例えば、操舵側閾値θthsは、設定操舵角θs0とステアリング絶対回転角θabsとが乖離していないことを判断できるとして公差を加味して得られる範囲の値が設定されている。本実施形態において、操舵側中点情報θnsを正常取得できなかったことは異常条件の一例である。また、ステップ102の処理は、異常条件判断処理の一例である。
【0116】
つぎに、操舵側補正情報演算部53は、異常条件が成立することを判断する場合(ステップ406:YES)、ステップ403の処理へと戻って、改めて操舵側補正情報記憶処理(ステップ403)以後の処理を実行する。
【0117】
一方、操舵側補正情報演算部53は、異常条件が成立しないことを判断する場合(ステップ406:NO)、起動時状態において実行する処理の完了を設定する。操舵側制御部50は、起動時状態において実行する処理の完了の設定後、運転者によるステアリング操舵に応じて転舵輪5を転舵させるための通常処理を実行する通常制御状態へと状態遷移する。
【0118】
なお、転舵側制御部60は、操舵側補正情報演算部53に対応する処理手順にて、転舵側補正情報演算部63を通じて起動時状態における処理を実行する。
例えば、ステップ401に対応する処理として、転舵側補正情報演算部63は、起動信号Sigの入力後、メモリ49bから各種情報を読み出す。この場合、転舵側補正情報演算部63は、記憶部61aから転舵側中点情報θntを読み出す。
【0119】
つぎに、ステップ402に対応する処理として、転舵側補正情報演算部63は、バッテリ交換条件が成立するか否かを判断する。転舵側補正情報演算部63は、バッテリ交換条件が成立することを判断する場合、ステップ403に対応する処理として、転舵側補正情報記憶処理を実行し、ステップ404に対応する処理として、設定ピニオン角θp0を演算する。一方、転舵側補正情報演算部63は、バッテリ交換条件が成立しないことを判断する場合、ステップ404に対応する処理として、設定ピニオン角θp0を演算する。なお、バッテリ交換条件が成立しないことを判断する場合、転舵側補正情報演算部63は、転舵側補正情報記憶処理を実行しない。
【0120】
つぎに、ステップ405及びステップ406に対応する処理として、転舵側補正情報演算部63は、ピニオン絶対回転角θabpを取得し、異常条件が成立するか否かを判断する。この場合、転舵側補正情報演算部63は、例えば、ステップ404に対応する処理で演算した設定ピニオン角θp0とステップ405に対応する処理で取得したピニオン絶対回転角θabpとを比較した結果に基づいて、異常条件が成立するか否かを判断する。転舵側補正情報演算部63は、設定ピニオン角θp0とピニオン絶対回転角θabpとの差分の絶対値が転舵側閾値θthtよりも小さいか否かを判断する。例えば、転舵側中点情報θntが正常な値でない場合、設定ピニオン角θp0とピニオン絶対回転角θabpとが乖離する。この場合、転舵側中点情報θntを正常取得できていない可能性がある。転舵側補正情報演算部63は、設定ピニオン角θp0とピニオン絶対回転角θabpとの差分の絶対値が転舵側閾値θtht以上の場合、転舵側中点情報θntを正常取得できていないことを判断する。また、転舵側補正情報演算部63は、設定ピニオン角θp0とピニオン絶対回転角θabpとの差分の絶対値が転舵側閾値θthtよりも小さい場合、転舵側中点情報θntを正常取得できていることを判断する。例えば、転舵側閾値θthtは、設定ピニオン角θp0とピニオン絶対回転角θabpとが乖離していないことが判断できるとして公差を加味して得られる範囲の値が設定されている。
【0121】
つぎに、転舵側補正情報演算部63は、異常条件が成立することを判断する場合、ステップ403に対応する処理へと戻って、改めて転舵側補正情報記憶処理以後の処理を実行する。
【0122】
一方、転舵側補正情報演算部63は、異常条件が成立しないことを判断する場合、起動時状態において実行する処理の完了を設定する。転舵側制御部60は、起動時状態において実行する処理の完了の設定後、運転者によるステアリング操舵に応じて転舵輪5を転舵させるための通常処理を実行する通常制御状態へと状態遷移する。
【0123】
以上説明した第2の実施形態によれば、上記第1の実施形態に準じた作用および効果が得られるとともに、上記第1の実施形態の(1-3)~(1-5)に準じた効果が得られる。また、第2の実施形態によれば、さらに以下に記載する作用及び効果が得られる。
【0124】
(2-1)操舵装置2は、ステアリング絶対角センサ70を含んでいる。ステップ406の処理は、設定操舵角θs0とステアリング絶対回転角θabsとを比較した結果に基づいて、異常条件が成立するか否かを判断する処理を含んでいる。設定操舵角θs0とステアリング絶対回転角θabsとを比較した結果に基づいて、異常条件が成立するか否かを判断する処理は、操舵側補正情報記憶処理の後に実行される。これにより、起動時状態の間に実行した操舵側補正情報記憶処理を通じて得られた操舵側中点情報θns自体が正常な値でないとしても、同じ起動時状態の間に改めて操舵側補正情報記憶処理を実行することができる。したがって、操舵側制御部50が正しい操舵側中点情報θnsに基づき回転角θaを補正することができる。これは、転舵側制御部60についても同様である。具体的には、転舵側中点情報θnt自体が正常な値でないとしても、同じ起動時状態の間に、改めて転舵側補正情報記憶処理を実行することができる。したがって、転舵側制御部60が正しい転舵側中点情報θntに基づき回転角θbを補正することができる。
【0125】
<他の実施形態>
上記各実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
【0126】
・上記第1の実施形態において、操舵側制御部50は、メモリ49bの内容からバッテリ交換後、最初の電源起動時であるか否かを判断してバッテリ交換情報FLG2に相当する情報を内部的に設定する処理を実行するようにしてもよい。この場合、
図3のステップ103の処理は、バッテリ交換情報FLG2に相当する情報を読み出してバッテリ交換条件が成立するか否かを判断する処理であればよい。また、
図3の処理では、ステップ105:NOの場合、ステップ108の処理の代わりに、バッテリ交換情報FLG2に相当する情報をバッテリ交換条件が成立することができる内容に維持する処理を含んでいればよい。これにより、
図3の処理では、ステップ102の処理を削除することができる。一方、
図3の処理では、ステップ103の処理が異常条件判断処理に相当する。ここに記載したその他の実施形態は、転舵側制御部60についても同様に適用することができる。
【0127】
・上記第1の実施形態において、
図3の処理では、ステップ107の処理後に、上記第2の実施形態のステップ405及びステップ406に対応する処理を追加するようにしてもよい。この場合、操舵装置2には、上記第2の実施形態と同様、ステアリング絶対角センサ70を設けるようにすればよい。ここに記載したその他の実施形態では、上記第1の実施形態及び上記第2の実施形態に記載の作用及び効果を奏することができる。
【0128】
・上記第1の実施形態は、例えば、少なくとも操舵側制御部50においてのみ適用されていればよい。この場合、転舵側制御部60は、上記第2の実施形態を適用すればよい。また、転舵側制御部60は、電源起動の毎に、ピニオン絶対回転角θabpを取得してラック中立位置に対応する値を演算することによって、設定ピニオン角θp0を演算する構成であってもよい。
【0129】
・上記第2の実施形態は、例えば、少なくとも転舵側制御部60においてのみ適用されていればよい。この場合、操舵側制御部50は、上記第1の実施形態を適用すればよい。
・上記各実施形態において、操舵側制御部50及び転舵側制御部60は、設定操舵角θs0及び設定ピニオン角θp0の設定後、ステアリングホイール3の位置と転舵輪5の位置との位置関係が所定の対応関係を満たすように同期させる同期処理を実行してもよい。この場合、操舵側制御部50及び転舵側制御部60は、上記同期処理の完了後に起動時状態において実行する処理の完了を設定するように構成されていればよい。
【0130】
・上記各実施形態において、操舵側補正情報記憶処理の処理手順は、
図4に示す手順に限らず、適宜変更可能である。例えば、
図4に示すステップ201~203は、ステップ204~206の処理後に実行するように処理の順番を変更してもよい。
【0131】
・上記各実施形態において、操舵側補正情報記憶処理の処理、すなわち
図4の処理では、ステップ210及びステップ211の処理を削除してもよい。また、ステップ210及びステップ211の処理は、ステアリングホイール3を仮右限界位置θrl又は仮左限界位置θllへ回転させる処理であってもよい。つまり、ステップ210及びステップ211の処理は、操舵側補正情報記憶処理の実行後、ステアリングホイール3の位置が予め定めた位置に達するようにするための処理であればよい。
【0132】
・上記各実施形態において、目標反力トルク演算部52は、操舵トルクTh、車速V、転舵側実電流値Ib、操舵角θs、及びピニオン角θpを入力として目標反力トルクTT*を演算することは必須ではない。例えば、操舵トルクTh及び車速Vを入力として目標反力トルクTT*を演算してもよい。
【0133】
・上記各実施形態において、ピニオン角演算部61では、ラック軸22の移動量の検出値をピニオン角θpに換算する処理であってもよい。この場合、上記各実施形態に対して、ピニオン角θpに関する制御量等は、ラック軸22の移動量の検出値によって換算されることになる。ここに記載したその他の実施形態では、ラック軸22の移動量の検出値が転舵ユニット6から得られる状態変数に相当する。
【0134】
・上記各実施形態において、運転者が車両を操舵するために操作する操作部材としては、ステアリングホイール3に限らない。例えば、ジョイスティックであってもよい。
・上記各実施形態において、ステアリングホイール3に機械的に連結される操舵側モータ13としては、3相のブラシレスモータに限らない。例えば、ブラシ付きの直流モータであってもよい。
【0135】
・上記各実施形態において、操舵側減速機構14を備えることは必須ではない。
・上記各実施形態において、転舵ユニット6は、転舵側モータ32の回転を伝達機構33を介して変換機構34に伝達したが、これに限らず、例えば、転舵側モータ32の回転を歯車機構を介して変換機構34に伝達するように転舵ユニット6を構成してもよい。また、転舵側モータ32が変換機構34を直接回転させるように転舵ユニット6を構成してもよい。さらに、転舵ユニット6が第2のラックアンドピニオン機構を備える構成とし、転舵側モータ32の回転を第2のラックアンドピニオン機構にてラック軸22の往復動に変換するように転舵ユニット6を構成してもよい。
【0136】
・上記各実施形態において、転舵ユニット6としては、右側の転舵輪5と左側の転舵輪5とが連動している構成に限らない。換言すれば、右側の転舵輪5と左側の転舵輪5とを独立に制御できるものであってもよい。
【0137】
・上記実施形態は、操舵装置2を、操舵ユニット4と転舵ユニット6との間が機械的に常時分離したリンクレスの構造としたが、これに限らず、例えば、クラッチにより操舵ユニット4と転舵ユニット6との間が機械的に分離可能な構造としてもよい。
【符号の説明】
【0138】
1…操舵制御装置
2…操舵装置
3…ステアリングホイール(操作部材)
4…操舵ユニット
5…転舵輪
6…転舵ユニット
45…ピニオン絶対角センサ(センサ)
46…電源システム
47…バッテリ
50…操舵側制御部(制御部)
51a…記憶部
51b…記憶部
53…操舵側補正情報演算部
60…転舵側制御部(制御部)
61a…記憶部
61b…記憶部
63…転舵側補正情報演算部
70…ステアリング絶対角センサ(センサ)