(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140724
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】MEMSミラー
(51)【国際特許分類】
G02B 26/08 20060101AFI20241003BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20241003BHJP
G02B 26/10 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G02B26/08 E
B81B3/00
G02B26/10 104Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052028
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】波多野 雅也
(72)【発明者】
【氏名】松島 理
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
(72)【発明者】
【氏名】山本 千早人
(72)【発明者】
【氏名】藤森 敬和
【テーマコード(参考)】
2H045
2H141
3C081
【Fターム(参考)】
2H045AB81
2H141MA12
2H141MB24
2H141MC09
2H141MD12
2H141MD16
2H141MD24
2H141MD40
2H141MF16
2H141MZ06
2H141MZ23
2H141MZ30
3C081AA01
3C081AA13
3C081BA22
3C081BA28
3C081BA32
3C081BA44
3C081BA47
3C081BA55
3C081CA13
3C081DA03
3C081DA04
3C081DA21
3C081DA24
3C081DA27
3C081DA30
3C081EA07
3C081EA11
(57)【要約】
【課題】マイクロミラーを駆動する圧電素子上での反射光の再反射を防止し、ノイズを低減したMEMSミラーを提供する。
【解決手段】基板と、基板に設けられた凹部と、凹部内に第1連結軸で中空に支持されたミラー部と、ミラー部を挟んでその両側に配置された1対の駆動部であって、第1連結軸に接続された第2連結軸と、第2連結軸に接続されて中空に支持され、基板の表面から上方に向かって、第1電極層、圧電体層、および第2電極層が順次積層された圧電素子と、
を備えた駆動部と、を含み、第1電極層と第2電極層の間に電圧を印加して圧電体層を伸縮させることで、第1連結軸に沿った回転軸の周りでミラー部を回転させ、ミラー部に入射する入射光の反射方向を制御するMEMSミラーにおいて、第2電極層の上方に、さらに入射光に対する反射防止膜を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に設けられた凹部と、
前記凹部内に第1連結軸で中空に支持されたミラー部と、
前記ミラー部を挟んでその両側に配置された1対の駆動部であって、
前記第1連結軸に接続された第2連結軸と、
前記第2連結軸に接続されて中空に支持され、前記基板の表面から上方に向かって、第1電極層、圧電体層、および第2電極層が順次積層された圧電素子と、
を備えた駆動部と、を含み、
前記第1電極層と前記第2電極層の間に電圧を印加して前記圧電体層を伸縮させることで、前記第1連結軸に沿った回転軸の周りで前記ミラー部を回転させ、前記ミラー部に入射する入射光の反射方向を制御するMEMSミラーであって、
前記第2電極層の上方に、さらに前記入射光に対する反射防止膜を含むMEMSミラー。
【請求項2】
前記第2電極層の上に、保護膜を介して前記反射防止膜が設けられた請求項1に記載のMEMSミラー。
【請求項3】
前記第2電極層と前記反射防止膜とは同一材料から形成される請求項2に記載のMEMSミラー。
【請求項4】
前記反射防止膜は、酸化イリジウム、窒化チタン、クロム、および酸化ストロンチウムからなる群から選択される材料からなる単層膜または積層膜である請求項1~3のいずれか1項に記載のMEMSミラー。
【請求項5】
前記第2電極層および前記反射防止膜は酸化イリジウムから形成され、前記保護膜はイリジウムから形成される請求項3に記載のMEMSミラー。
【請求項6】
前記入射光に対する前記反射防止膜の反射率は、前記入射光に対する前記ミラー部の反射率の25%以下である請求項1~3のいずれか1項に記載のMEMSミラー。
【請求項7】
前記反射防止膜は、可視光領域の入射光に対して、35%以下の反射率を有する請求項1~3のいずれか1項に記載のMEMSミラー。
【請求項8】
前記反射防止膜の膜厚は、30nm以上でかつ100nm以下である請求項1~3のいずれか1項に記載のMEMSミラー。
【請求項9】
前記反射防止膜の膜厚は、50nm以上でかつ70nm以下である請求項1~3のいずれか1項に記載のMEMSミラー。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか1項に記載のMEMSミラーと、
前記MEMSミラーを内部に搭載するパッケージと、を含み、
前記パッケージは、前記入射光が透過し、前記ミラー部で反射されて再度透過する透明部を有するMEMSミラー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMSミラーに関し、特に、圧電素子を用いてミラーを駆動する圧電式MEMSミラーに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電式MEMSミラーでは、マイクロミラーを支持する圧電素子に電圧を印加することにより、圧電素子に含まれるPZT等の圧電体膜を伸縮させて、マイクロミラーを駆動している。圧電素子では、圧電体膜の上下に金属からなる上部電極および下部電極を設けて、両電極間に電圧を印加し、圧電効果により圧電体膜を伸縮させる。
【0003】
MEMSミラーは、通常、パッケージに入れられて、表面が保護用のガラスで覆われた状態で使用される。そして、例えばこのガラスを透過してパッケージ内に入射するRGBレーザ光を、圧電素子でマイクロミラーを駆動しながら反射することで、再度ガラスを透過した反射光を走査しながらスクリーン等に投影し、プロジェクタとして使用できる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、反射光の一部はガラスを透過する際にガラスの裏面で反射され、マイクロミラーの周囲に配置された圧電素子に入射する。圧電素子の上部電極は白金やイリジウムのような反射率の高い金属からなるため、圧電素子に入射した反射光は、再反射されて、ガラスを透過して外部に出る。再反射された反射光は、本来の反射光に対してノイズとなり、投影画像が不鮮明になる等の問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、マイクロミラーを駆動する圧電素子上での反射光の再反射を防止し、ノイズを低減したMEMSミラーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の形態は、
基板と、
基板に設けられた凹部と、
凹部内に第1連結軸で中空に支持されたミラー部と、
ミラー部を挟んでその両側に配置された1対の駆動部であって、
第1連結軸に接続された第2連結軸と、
第2連結軸に接続されて中空に支持され、基板の表面から上方に向かって、第1電極層、圧電体層、および第2電極層が順次積層された圧電素子と、
を備えた駆動部と、を含み、
第1電極層と第2電極層の間に電圧を印加して圧電体層を伸縮させることで、第1連結軸に沿った回転軸の周りでミラー部を回転させ、ミラー部に入射する入射光の反射方向を制御するMEMSミラーであって、
第2電極層の上方に、さらに入射光に対する反射防止膜を含むMEMSミラーである。
【0008】
本発明の他の形態は、
MEMSミラーと、
MEMSミラーを内部に搭載するパッケージと、を含み、
パッケージは、入射光が透過し、ミラー部で反射されて再度透過する透明部を有するMEMSミラー装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、マイクロミラーを駆動する圧電素子上での反射を防止し、ノイズを低減したMEMSミラーの提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態にかかるMEMSミラーの平面図である。
【
図2】
図1のMEMSミラーをII-II方向に見た場合の断面図である。
【
図3】
図1のMEMSミラーをIII-III方向に見た場合の断面図である。
【
図4】
図1のMEMSミラーをIV-IV方向に見た場合の断面図である。
【
図5】従来構造のMEMSミラーの動作を説明する断面図である。
【
図6】本発明の実施の形態にかかるMEMSミラーの動作を説明する断面図である。
【
図7】入射光の波長と反射率との関係を示す測定結果である。
【
図8】反射防止膜の膜厚と反射率との関係を示すシミュレーション結果である。
【
図9】従来構造と本発明の実施の形態にかかるMEMSミラーの容量特性の比較である。
【
図10】従来構造と本発明の実施の形態にかかるMEMSミラーのコンタクト抵抗の比較である。
【
図11】従来構造と本発明の実施の形態にかかるMEMSミラーの印加電圧とミラー部の変位の関係である。
【
図12】従来構造と本発明の実施の形態にかかるMEMSミラーの印加電圧とミラー部の変位の関係である。
【0011】
図1は、全体が100で表される、本発明の実施の形態にかかる1軸のMEMSミラーの平面図であり、
図2は、
図1のMEMSミラー100をII-II方向に見た場合の断面図である。
【0012】
MEMSミラー100は、枠部50を有する。枠部50は、例えばシリコンからなる基板51と、基板51の上に設けられた、例えば酸化シリコンからなる絶縁膜53と、絶縁膜53の上に設けられた、例えばシリコンからなる基板55からなる。枠部50は、SOI基板(基板55/絶縁膜53/基板51)の中央の基板51を、裏面からエッチングで除去して形成しても良い。
【0013】
枠部50の内側には、Y軸方向に配置された第1連結軸5と、第1連結軸5に両側が接続され、中空に保持されたミラー部30を有する。第1連結軸5は、枠部50と共通する、例えば酸化シリコンからなる絶縁膜53と、シリコンからなる基板55の積層構造からなる。第1連結軸5は、後述するように、ミラー部30の回転軸a1となる。
【0014】
ミラー部30は、枠部50と共通する絶縁膜53、基板55の上に、例えばアルミニウム銅(AlCu)からなるマイクロミラー31を有する。マイクロミラー31の表面は、例えばシリコン酸化膜からなるパッシベーション膜33で覆われている。一方、絶縁膜53の裏面の一部には、基板51が設けられている。基板51は、ミラー部30の重さ調整用の錘として設けられ、例えば枠部50を形成する際のエッチング工程において、基板51の一部をマイクロミラー31の下方に残すことで形成しても良い。
【0015】
図1に示すように、ミラー部30の両側に設けられた第1連結軸5には、それぞれ、X軸方向に延びる第2連結軸4が接続されている。第2連結軸4も、第1連結軸5と同様に、枠部50と共通する、例えば酸化シリコンからなる絶縁膜53と、シリコンからなる基板55の積層構造からなる。
【0016】
第2連結軸4は、ミラー部30の両側(
図1では上下)において、第1連結軸5からX軸の正方向および負方向に延びて、それぞれ圧電素子20に接続されている。圧電素子20は、第2連結軸4に両端が接続され、ミラー部30の両側(
図1では左右)に、第1連結軸5(回転軸a1)に対して対称となるように中空に保持される。第2連結軸4と圧電素子20とで駆動部10が形成される。
【0017】
このように、MEMSミラー100では、ミラー部30が第1連結軸5により中空に保持され、さらに、その両側に、2つの圧電素子20が、第1連結軸5に接続された第2連結軸4により中空に保持されて駆動部10を構成する。
【0018】
次に、
図3、4を用いて圧電素子20について詳しく説明する。
図3は、圧電素子20を、
図1のIII-III方向に見た場合の断面図、
図4は、圧電素子20を、
図1のIV-IV方向に見た場合の断面図である。
【0019】
図3、4に示すように、駆動部10を構成する圧電素子20は、絶縁膜53と基板55とを有する。これらの層は、枠部50、ミラー部30と共通する。
【0020】
基板55の上には、例えば膜厚が500nmの酸化シリコンからなる絶縁膜9を有し、その上に、例えば膜厚が80nmの酸化アルミニウムからなるバリア膜11を有する。バリア膜11の上には、下部電極23と上部電極25に挟まれた圧電体層14が設けられている。
【0021】
下部電極23は、例えば膜厚が38nmの酸化チタンからなる密着層12、例えば膜厚が160nmの白金からなる電極層(第1電極層)13からなる。
【0022】
一方、上部電極25は、例えば膜厚が35nmの酸化イリジウムからなる電極層(第2電極層)15、例えば膜厚が44nmのイリジウムからなる保護膜16、および例えば膜厚が70nmの酸化イリジウムからなる反射防止膜17からなる。
【0023】
下部電極23と上部電極25との間には、例えば膜厚が3100nmのチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層14が設けられている。
【0024】
下部電極23、圧電体層14、上部電極25を覆うように、例えば膜厚が80nmの酸化アルミニウムからなるバリア膜18が設けられ、その上に例えば膜厚が150nmの酸化シリコンからなる絶縁膜19および例えば膜厚が500nmの酸化シリコンからなるパッシベーション膜33が設けられている。
【0025】
さらに、
図3に示すように、下部電極23および上部電極25には、それぞれ例えば銅アルミニウム/窒化チタンからなる配線層27が電気的に接続されている。配線層27を用いて圧電体層14に電圧を印加することで、圧電効果により圧電体層14を伸縮させることができる。
【0026】
図1に示すように、ミラー部30の両側に、第1連結軸5(回転軸a1)に対して対称となるように、第2連結軸4と、第2連結軸4に両端が接続された圧電素子20が、駆動部10として設けられている。圧電素子20は、ミラー部30の両側で、別々に配線されて電圧を印加することができる(
図1、2では配線は省略)。
【0027】
従来構造のMEMSミラーでは、上部電極は、例えば酸化イリジウムからなる電極層15と、例えばイリジウムからなる保護膜16の2層構造であったが、本発明の実施の形態にかかるMEMSミラー100では、さらにその上に例えば酸化イリジウムからなる反射防止膜17が設けられている。
【0028】
なお、ここで例示した各層や膜の厚さや材料は、特にこれらに限定するものではない。例えば、反射防止膜17には、酸化イリジウム(IrO2)の他に、窒化チタン(TiN)、クロム(Cr)、酸化ストロンチウム(STO)等を使用しても良いし、これらの材料の積層としても良い。
【0029】
図5、6は、従来構造のMEMSミラー150と、本発明の実施形態にかかるMEMSミラー100の動作の比較を説明する断面図である。上述のように、MEMSミラー100、150は、通常、保護用のガラスを備えたパッケージ(
図5、6ではガラスのみ表示)に入った状態で使用される。そして、ガラスを透過して入射したRGBレーザ光等の入射光をミラー部30で反射し、反射光としてガラスを透過して外部に出射する構造となる。このときに駆動部10を用いてミラー部30の向きを変えることで、反射光の向きを制御することができる。
【0030】
図5に示す従来構造のMEMSミラー150では、上部電極の上層が反射率の高いイリジウム等の保護膜であるため、ガラスの裏面で反射された反射光が、上部電極で再反射されて再反射光として外部に出射する(破線で表示)。かかる再反射光は、反射光(実線で表示)に対してノイズとなり、投影画像の劣化等の原因となる。
【0031】
これに対して、本発明の実施の形態にかかるMEMSミラー100では、イリジウム等の保護膜の上に、例えば酸化イリジウムからなる反射防止膜17が設けられている(
図3、4参照)。これにより、ガラスの裏面で反射された反射光が、上部電極で反射されて生じる再反射光(破線で表示)を、反射防止膜17により、防止または大きく低減できる。この結果、反射光(実線で表示)に対するノイズも大幅に低減され、鮮明な投影画像を得ることができる。
【0032】
なお、
図6では、ミラー部30の右側の圧電素子20では圧電体層が縮む方向に、ミラー部30の左側の圧電素子20では圧電体層14が伸びる方向に、それぞれ圧電素子に電圧が印加されている。
図3、4に示すように、圧電素子20では、例えばシリコンからなる基板55の上に、例えばPZTからなる圧電体層14が設けられている。このため、圧電体層14に電圧をかけて圧電体層14を伸縮させることで、基板55は伸縮しないため、圧電素子が、上に凸、または下に凸となるように反り、これによりミラー部30の傾きを制御できる。
【0033】
具体的には、
図6の場合、ミラー部30を挟んで右側の圧電素子20の圧電体層14が縮み、左側の圧電素子20の圧電体層14が伸びるように電圧が印加されている。これにより、ミラー部30の回転軸a1(
図1参照)を中心に、右側の第2連結軸4は下方(-Y軸)右側(+X軸)方向に引っ張られ、一方、左側の第2連結軸4は上方(+Y軸)左側(-X軸)方向に引っ張られる。この結果、ミラー部30は、回転軸a1の周りで、Y軸方向に見て右方向(時計周り)に回転して傾斜する。これにより、ミラー部30での入射光の反射方向を制御できる。
【0034】
ここでは、反射防止膜17を保護膜16の直上に設けたが、再反射を防止できる限り、バリア膜18の上やパッシベーション膜33の上のように、反射防止膜17の上方であれば他の位置でも構わない。
【0035】
次に、
図7、8を用いて、上部電極の反射特性について説明する。
図7は、入射光の波長と反射率との関係であり、(1)はミラー部での反射率、(2)は従来構造の上部電極での反射率、(3)は本発明の上部電極での反射率を示す。
【0036】
(1)ミラー部は、SiO2パッシベーション膜/AlCuマイクロミラーからなり、(2)従来の上部電極は、SiO2パッシベーション膜/SiO2絶縁膜/Ir保護膜/IrO2電極層からなり、(3)本発明にかかる上部電極は、SiO2パッシベーション膜/SiO2絶縁膜/IrO2反射防止膜/Ir保護膜/IrO2電極層からなる。測定波長領域は400nm~800nmとした(460nmが青色、520nmが緑色、640nmが赤色に相当する)。なお、ここではIrO2反射防止膜の膜厚は70nmとし、他の膜厚は上述のとおりとした。
【0037】
図7に示すように、全波長領域(400~800nm)において、(1)ミラー部の反射率は80~90%、(2)従来の上部電極では40~70%、であるのに対して、(3)本発明にかかる上部電極では、0~35%となり、特に、光の3原色である青色、緑色、赤色(RGB)の波長域では、10%以下の低い反射率が得られた。
【0038】
このように、本発明にかかる反射防止膜を備えた上部電極を用いることにより、ミラー部の反射率に対して、上部電極での反射率を、25%以下、特にRGBの波長領域では15%以下とすることが可能となる。
【0039】
次に、
図8は本発明にかかる上部電極中のIrO
2反射防止膜の膜厚を変化させたときの、400~800nmの波長領域における反射率のシミュレーション結果である。各グラフは、IrO
2反射防止膜の膜厚が、(a)0nm(従来構造:反射防止膜なし)、(b)10nm、(c)20nm、(d)30nm、(e)40nm、(f)50nm、(g)60nm、(h)70nm、(i)80nm、(j)90nm、(k)100nmの場合を示す。
【0040】
図8から、IrO
2反射防止膜の膜厚が(d)30nm~(k)100nm、好ましくは(f)50nm~(g)100nmにおいて、全波長領域で20%以下の低い反射率となることがわかる。
【0041】
なお、
図3に示すように、配線層27は、反射防止膜17をエッチングして形成したバイアホールを介して保護膜16に電気的に接続される。反射防止膜17の膜厚が大きすぎるとバイアホールの形成が難しくなるため、反射防止膜17の膜厚は100nm以下が好ましく、さらに70nm以下が好ましい。
【0042】
次に、
図9に、従来構造の圧電素子(反射防止膜なし)と、本発明の圧電素子(反射防止膜あり)について、圧電体層の容量特性を測定した結果を示す。圧電素子の各層の材料や膜厚は、
図3を用いて説明したものと同じである。横軸が測定点および測定回数、縦軸が容量の測定値であり、横軸において、I~IVは測定点を、1~6は各測定点における測定回数を示す。
【0043】
本発明の圧電素子、従来の圧電素子とも、容量の測定値は5.5fF/μm2前後となり、反射防止膜の形成が圧電素子の容量特性に影響しないことがわかる。即ち、本発明において、反射防止膜を追加で設けても、駆動部10の圧電素子20を用いたミラー部30の制御に影響はないことがわかる。
【0044】
図10は、従来構造の圧電素子(反射防止膜なし)と、本発明の圧電素子(反射防止膜あり)について、圧電体層の上部電極のコンタクト抵抗の測定結果である。コンタクト抵抗の測定は、配線層27と電極層15との間で行った。
【0045】
図10から、本発明の圧電素子、従来の圧電素子とも、コンタクト抵抗は2.0~2.5Ωで、反射防止膜の形成が上部電極のコンタクト抵抗に影響しないことがわかる。むしり、反射防止膜を設けた本発明の上部電極の方が、従来構造に比較してコンタクト抵抗が小さくなっているが、これは反射防止膜をエッチングしてバイアホールを形成する際に、反射防止膜の下の電極層15の表面もエッチングされて酸化膜等が除去されたためと考えられる。
【0046】
次に、
図11、12は、従来構造のMEMSミラーおよび本発明にかかるMEMSミラーの電極に電圧を印加した場合の、印加電圧とミラー部の変位量との関係を示す。
図11は、ミラー部30のマイクロミラー31の下方に有るSOI構造(基板51、絶縁膜53、基板55)の膜厚が100μmの場合、
図12は、40μmの場合である。SOI構造の膜厚の違いは、基板51の膜厚の違いによる。
図11、12中、白色の丸は従来構造の圧電素子(反射防止膜なし)、白色の四角は本発明の圧電素子(反射防止膜あり)を示す。
【0047】
図11、12の双方において、白い丸と白い四角はほぼ重なり、SOI構造の膜厚、即ちミラー部の重さによらず、従来構造のMEMSミラーと本発明にかかるMEMSミラーで、ほぼ同じ変位特性が得られた。即ち、圧電素子の反射防止膜を形成しても、ミラー部の制御性に影響を与えないことがわかる。
【0048】
以上で述べたように、本発明にかかるMEMSミラー100では、圧電素子20の上部電極が反射防止膜を有することにより、圧電体層の容量特性、上部電極のコンタクト抵抗、およびミラー部の制御性に影響を与えることなく、上部電極での再反射を防止または大きく低減できることがわかる。
【0049】
<付記>
本開示は、
基板と、
基板に設けられた凹部と、
凹部内に第1連結軸で中空に支持されたミラー部と、
ミラー部を挟んでその両側に配置された1対の駆動部であって、
第1連結軸に接続された第2連結軸と、
第2連結軸に接続されて中空に支持され、基板の表面から上方に向かって、第1電極層、圧電体層、および第2電極層が順次積層された圧電素子と、
を備えた駆動部と、を含み、
第1電極層と第2電極層の間に電圧を印加して圧電体層を伸縮させることで、第1連結軸に沿った回転軸の周りでミラー部を回転させ、ミラー部に入射する入射光の反射方向を制御するMEMSミラーであって、
第2電極層の上方に、さらに入射光に対する反射防止膜を含むMEMSミラーである。
駆動部をかかる構成とすることで、マイクロミラーを駆動する圧電素子上での反射を防止し、ノイズを低減したMEMSミラーの提供が可能となる。
【0050】
本開示では、第2電極層の上に、保護膜を介して反射防止膜が設けられる。
マイクロミラーを駆動する圧電素子上での反射を防止し、ノイズを低減したMEMSミラーの提供が可能となる。
【0051】
本開示では、第2電極層と反射防止膜とは同一材料から形成される。
第2電極層と反射防止膜とを同一材料から形成することにより、上部電極の作製が容易になる。
【0052】
本開示では、反射防止膜は、酸化イリジウム、窒化チタン、クロム、および酸化ストロンチウムからなる群から選択される材料からなる単層膜または積層膜である。
反射防止膜にこのような材料を用いることにより、反射を防止し、または反射率を低く抑えることが可能となる。
【0053】
本開示では、第2電極層および反射防止膜は酸化イリジウムから形成され、保護膜はイリジウムから形成される。
上部電極の作製が容易になると共に、反射を防止しまたは反射率を低く抑えることが可能となる。
【0054】
本開示では、入射光に対する反射防止膜の反射率は、入射光に対するミラー部の反射率の25%以下である。
反射防止膜での反射に起因するノイズ等を有効に抑制することが可能となる。
【0055】
本開示では、反射防止膜は、可視光領域の入射光に対して、35%以下の反射率を有する。
反射防止膜での反射に起因するノイズ等を有効に抑制することが可能となる。
【0056】
本開示では、反射防止膜の膜厚は、30nm以上でかつ100nm以下である。
反射防止膜をこのような膜厚とすることで、有効な反射防止効果を奏すると共に、反射防止膜を貫通するバイアホールの作製も容易になる。
【0057】
本開示では、反射防止膜の膜厚は、50nm以上でかつ70nm以下である。
反射防止膜をこのような膜厚とすることで、有効な反射防止効果を奏すると共に、反射防止膜を貫通するバイアホールの作製も容易になる。
【0058】
本開示は、
上述のMEMSミラーと、
MEMSミラーを内部に搭載するパッケージと、を含み、
パッケージは、入射光が透過し、ミラー部で反射されて再度透過する透明部を有するMEMSミラー装置である。
かかるMEMSミラー装置では、ミラー部で反射された反射光の一部が、透明部で反射されてミラー部の周囲の圧電素子に入射しても、圧電素子での再度の反射を防止または抑制することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、MEMSミラー、特に圧電素子でマイクロミラーを駆動する圧電式MEMSミラーに適用できる。
【符号の説明】
【0060】
4 第2連結軸
5 第1連結軸
10 駆動部
13 電極層(第1電極層)
14 圧電体層
15 電極層(第2電極層)
16 保護膜
17 反射防止膜
20 圧電素子
27 配線層
23 下部電極
25 上部電極
30 ミラー部
50 枠部
100 MEMSミラー