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特開2024-140752水中油型乳化物、及びそれを含む飲食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140752
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】水中油型乳化物、及びそれを含む飲食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20241003BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20241003BHJP
   A23L 23/00 20160101ALN20241003BHJP
   A23F 5/24 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
A23D7/00 508
A23L5/00 L
A23L23/00
A23F5/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052068
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永渕 詢大
(72)【発明者】
【氏名】尾森 仁美
(72)【発明者】
【氏名】佐本 裕美
(72)【発明者】
【氏名】湯澤 優一
(72)【発明者】
【氏名】萩原 志保
【テーマコード(参考)】
4B026
4B027
4B035
4B036
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DG02
4B026DG03
4B026DH01
4B026DH05
4B026DK01
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4B026DL04
4B026DL05
4B026DL08
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4B027FB24
4B027FC01
4B027FK04
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4B027FK11
4B027FQ19
4B027FQ20
4B035LC01
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4B035LG15
4B035LG19
4B035LG34
4B035LG44
4B035LK13
4B035LP01
4B035LP21
4B035LP44
4B036LC01
4B036LF04
4B036LG01
4B036LH04
4B036LH13
4B036LH15
4B036LH22
4B036LH39
4B036LP01
4B036LP18
(57)【要約】
【課題】本発明は、加熱処理工程により発生する異風味を抑制させ、初期の風味を長期間保つことができる水中油型乳化物、及びそれを含む飲食品を提供することを課題とする。
【解決手段】下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油脂を含む水中油型乳化物が、飲食品の加熱処理工程由来の異風味を抑制することを見出した。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40質量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が45~80質量%
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)及び(B)を満たす、ランダムエステル交換油脂を含む、水中油型乳化物。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40質量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が45~80質量%
【請求項2】
さらに、該ランダムエステル交換油脂が(C)を満たす、請求項1に記載の水中油型乳化物。
(C)構成脂肪酸組成中、炭素数16~18の飽和脂肪酸の含有量が25質量%以下
【請求項3】
該ランダムエステル交換油脂の原料油脂にラウリン系油脂を配合する、請求項1又は2に記載の水中油型乳化物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の水中油型乳化物を含む、飲食品。
【請求項5】
請求項3に記載の水中油型乳化物を含む、飲食品。
【請求項6】
該飲食品が加熱処理済みである、請求項4に記載の飲食品。
【請求項7】
該飲食品が加熱処理済みである、請求項5に記載の飲食品。
【請求項8】
下記(A)及び(B)を満たす、ランダムエステル交換油脂を含む水中油型乳化物を含有する、飲食品の製造方法。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40質量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が45~80質量%
【請求項9】
さらに、該ランダムエステル交換油脂が(C)を満たす、請求項8に記載の飲食品の製造方法。
(C)構成脂肪酸組成中、炭素数16~18の飽和脂肪酸の含有量が25質量%以下
【請求項10】
該ランダムエステル交換油脂の原料油脂にラウリン系油脂を配合する、請求項8又は9に記載の飲食品の製造方法。
【請求項11】
下記(A)及び(B)を満たす、ランダムエステル交換油脂を含む水中油型乳化物による、飲食品の加熱処理由来の異風味抑制方法。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40質量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が45~80質量%
【請求項12】
さらに、該ランダムエステル交換油脂が(C)を満たす、請求項11に記載の飲食品の加熱処理由来の異風味抑制方法。
(C)構成脂肪酸組成中、炭素数16~18の飽和脂肪酸の含有量が25質量%以下
【請求項13】
該ランダムエステル交換油脂の原料油脂にラウリン系油脂を配合する、請求項11又は12に記載の飲食品の加熱処理由来の異風味抑制方法。
【請求項14】
下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油脂を含む、飲食品。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40質量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が45~80質量%
【請求項15】
さらに、該ランダムエステル交換油脂が(C)を満たす、請求項14に記載の飲食品。
(C)構成脂肪酸組成中、炭素数16~18の飽和脂肪酸の含有量が25質量%以下
【請求項16】
該ランダムエステル交換油脂の原料油脂にラウリン系油脂を配合する、請求項14又は15に記載の飲食品。
【請求項17】
該飲食品が加熱処理済みである、請求項14又は15に記載の飲食品。
【請求項18】
下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油脂を含む、飲食品の製造方法。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40質量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が45~80質量%
【請求項19】
さらに、該ランダムエステル交換油脂が(C)を満たす、請求項18に記載の飲食品の製造方法。
(C)構成脂肪酸組成中、炭素数16~18の飽和脂肪酸の含有量が25質量%以下
【請求項20】
下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油脂による、加熱処理由来の異風味抑制方法。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40質量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が45~80質量%
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化物、及びそれを含む飲食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲食品の多くはその製造工程に加熱処理工程が含まれる。飲食品を加熱処理することにより、飲食品に含まれる油脂が劣化し、異風味が生じる場合がある。このような飲食品は長期間初期の風味を保つことが難しく、これらを改良するような技術が求められている。
【0003】
特許文献1では、加熱殺菌による風味変化が抑制された油脂含有食品が開示されている。中鎖脂肪酸含有トリグリセリドを油脂含有食品に含むことで、加熱殺菌による風味変化が抑制された油脂含有食品が得られる。また、特許文献2では、中鎖脂肪酸トリグリセリドとラウリン系油脂を含む混合油をエステル交換した油脂組成物を含む水中油型乳化物が輸送耐性やホイップ耐性に加えて、良好な風味を保持できることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-80459号公報
【特許文献2】特開2007-236348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、加熱殺菌による風味変化は示されているものの、その後の長期保管による風味変化までは検討されていない。また特許文献2では生クリームのような良好な風味が得られるものであって、加熱殺菌による異風味の発生抑制への示唆はなかった。
【0006】
斯かる実情に鑑み、本発明は、加熱処理工程により発生する異風味を抑制させ、初期の風味を長期間保つことができる水中油型乳化物、及びそれを含む飲食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが前記課題を解決すべく鋭意研究を行ったところ、特定の脂肪酸組成を有するランダムエステル交換油脂を含む水中油型乳化物が、飲食品の加熱処理工程由来の異風味を抑制することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)下記(A)及び(B)を満たす、ランダムエステル交換油脂を含む、水中油型乳化物、
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40質量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が45~80質量%
(2)さらに、該ランダムエステル交換油脂が(C)を満たす、(1)に記載の水中油型乳化物、
(C)構成脂肪酸組成中、炭素数16~18の飽和脂肪酸の含有量が25質量%以下
(3)該ランダムエステル交換油脂の原料油脂にラウリン系油脂を配合する、(1)又は(2)に記載の水中油型乳化物、
(4)(1)又は(2)に記載の水中油型乳化物を含む、飲食品、
(5)(3)に記載の水中油型乳化物を含む、飲食品、
(6)該飲食品が加熱処理済みである、(4)に記載の飲食品、
(7)該飲食品が加熱処理済みである、(5)に記載の飲食品、
(8)下記(A)及び(B)を満たす、ランダムエステル交換油脂を含む水中油型乳化物を含有する、飲食品の製造方法、
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40質量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が45~80質量%
(9)さらに、該ランダムエステル交換油脂が(C)を満たす、(8)に記載の飲食品の製造方法、
(C)構成脂肪酸組成中、炭素数16~18の飽和脂肪酸の含有量が25質量%以下
(10)該ランダムエステル交換油脂の原料油脂にラウリン系油脂を配合する、(8)又は(9)に記載の飲食品の製造方法、
(11)下記(A)及び(B)を満たす、ランダムエステル交換油脂を含む水中油型乳化物による、飲食品の加熱処理由来の異風味抑制方法、
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40質量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が45~80質量%
(12)さらに、該ランダムエステル交換油脂が(C)を満たす、(11)に記載の飲食品の加熱処理由来の異風味抑制方法、
(C)構成脂肪酸組成中、炭素数16~18の飽和脂肪酸の含有量が25質量%以下
(13)該ランダムエステル交換油脂の原料油脂にラウリン系油脂を配合する、(11)又は(12)に記載の飲食品の加熱処理由来の異風味抑制方法、
(14)下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油脂を含む、飲食品、
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40質量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が45~80質量%
(15)さらに、該ランダムエステル交換油脂が(C)を満たす、(14)に記載の飲食品、
(C)構成脂肪酸組成中、炭素数16~18の飽和脂肪酸の含有量が25質量%以下
(16)該ランダムエステル交換油脂の原料油脂にラウリン系油脂を配合する、(14)又は(15)に記載の飲食品、
(17)該飲食品が加熱処理済みである、(14)又は(15)に記載の飲食品、
(18)下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油脂を含む、飲食品の製造方法、
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40質量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が45~80質量%
(19)さらに、該ランダムエステル交換油脂が(C)を満たす、(18)に記載の飲食品の製造方法、
(C)構成脂肪酸組成中、炭素数16~18の飽和脂肪酸の含有量が25質量%以下
(20)下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油脂による、加熱処理由来の異風味抑制方法、
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40質量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が45~80質量%
に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加熱処理工程に由来する異風味を抑制した飲食品を提供することができる。特に、飲料、調理加工食品の初期の風味を長期間保つことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0011】
(飲食品の加熱処理工程由来の異風味)
本発明に係る飲食品の加熱処理工程とは、後述する飲食品の製造時に行う加熱処理全般を意味する。そして、加熱処理工程を行うことで、飲食品の変質が生じることがある。例えばレトルト臭やこもり臭等と言われる、飲食品を喫食した時に好まれない異風味が発生する。このような加熱処理工程を経ることで発生した異風味を、本発明の加熱処理工程由来の異風味という。本発明の特定のランダムエステル交換油脂を含む水中油型乳化物は、飲食品に添加することで、該異風味を抑制する特徴を持つ。
【0012】
本発明に係る飲食品の加熱処理工程とは、加熱されれば特に限定はない。例えば、インジェクション式、インフュージョン式等の直接加熱方式、あるいはプレート式、チューブラー式、掻き取り式などの間接加熱方式を用いたUHT・HTST・低温殺菌、またバッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌もしくは加熱殺菌処理等が挙げられる。該飲食品を容器に充填する際の加熱殺菌処理も、本発明に係る加熱処理工程である。具体的には、飲食品を予め加熱殺菌した後に、容器に充填する方法(例えばUHT殺菌とアセプティック充填を併用する方法)、飲食品を容器に充填した後、容器と共に加熱殺菌する方法(例えばレトルト殺菌)等である。ある態様では、より好ましくは加熱殺菌処理工程である。またある態様では、加熱処理工程の加熱温度が好ましくは45~170℃である。より好ましくは50~150℃である。また処理時間は1秒~120分である。加熱の目的に応じて、適宜加熱処理方法や加熱温度、処理時間を設定して加熱処理を行うことができる。
【0013】
(ランダムエステル交換油脂)
本発明に係るランダムエステル交換油脂は、下記(A)及び(B)を満たす、ランダムエステル交換油脂である。下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油脂であると、加熱処理工程由来の異風味を抑制することができ、また異風味の抑制効果を長期間維持することができる。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40質量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が45~80質量%
なお、構成脂肪酸の測定方法は、AOCS Official Method Ce 1h-05の方法に準拠する。
【0014】
本発明に係るランダムエステル交換油脂は、好ましくは(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が1~35質量%、より好ましくは3~35質量%、さらに好ましくは5~25質量%、さらにより好ましくは5~20質量%である。該ランダムエステル交換油脂中の炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量がこの範囲にあると、加熱処理工程由来の異風味を抑制することができ、また異風味の抑制効果を長期間維持することができる。
【0015】
本発明に係るランダムエステル交換油脂は、好ましくは(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が48~80質量%、より好ましくは50~80質量%、さらに好ましくは60~75質量%である。該ランダムエステル交換油脂中の炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量がこの範囲にあると、加熱処理工程由来の異風味を抑制することができ、また異風味の抑制効果を長期間維持することができる。
【0016】
本発明に係るランダムエステル交換油脂は、好ましくは(C)構成脂肪酸組成中、炭素数16~18の飽和脂肪酸の含有量が25質量%以下である。より好ましくは23質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、さらにより好ましくは18質量%以下である。より好ましくは下限が1質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上、さらにより好ましくは5質量%以上である。該ランダムエステル交換油脂中の炭素数16~18の飽和脂肪酸の含有量がこの範囲にあると、加熱処理工程由来の異風味を抑制することができ、また異風味の抑制効果を長期間維持することができる。
【0017】
本発明に係るランダムエステル交換油脂は、好ましくは構成脂肪酸組成中、炭素数22以上の飽和脂肪酸の含有量が0.5質量%以下である。より好ましくは0.4質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下である。該ランダムエステル交換油脂中の炭素数22以上の飽和脂肪酸の含有量がこの範囲にあると、加熱処理工程由来の異風味を抑制することができ、また異風味の抑制効果を長期間維持することができる。
【0018】
本発明に係るランダムエステル交換油脂は、好ましくは構成脂肪酸組成中、オレイン酸の含有量が10質量%以下、より好ましくは9質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下、さらにより好ましくは6質量%以下である。該ランダムエステル交換油脂中のオレイン酸の含有量がこの範囲にあると、加熱処理工程由来の異風味を抑制することができ、また異風味の抑制効果を長期間維持することができる。
【0019】
本発明に係るランダムエステル交換油脂は、好ましくは(炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量)/(炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量)の比が1.0~6.0、より好ましくは1.0~5.0、さらに好ましくは1.3~4.5、さらにより好ましくは1.5~4.0である。該ランダムエステル交換油脂中の(炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量)/(炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量)の比がこの範囲にあると、加熱処理工程由来の異風味を抑制することができ、また異風味の抑制効果を長期間維持することができる。
【0020】
本発明に係るランダムエステル交換油脂は、好ましくは該油脂における全トリグリセリドに占めるCN30~CN38のトリグリセリド(油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が30~36のトリグリセリド)含有量が27質量%以上、より好ましくは30質量%以上、35質量%以上、40質量%以上、又は45質量%以上である。またより好ましくは上限が65質量%以下、63質量%以下、60質量%以下、又は58質量%以下である。該ランダムエステル交換油脂中の全トリグリセリドに占めるCN30~CN36のトリグリセリド含有量がこの範囲にあると、加熱処理工程由来の異風味を抑制することができ、また異風味の抑制効果を長期間維持することができる。
【0021】
本発明に係るランダムエステル交換油脂の原材料としては、前記構成を満たせば、種々の油脂類の配合量で調製して使用することができる。使用することができる油脂類としては、パーム油、菜種油、ハイエルシン菜種油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、大豆油、こめ油、コーン油、綿実油、落花生油、ベニバナ油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、亜麻仁油、パーム核油、ヤシ油、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、シア脂、サル脂等の植物性油脂、乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂、藻類油、微生物発酵由来の油脂、並びにこれらを分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂、さらにこれらの混合油脂等が例示できる。
また、動物性原料を含有しない植物ベースの水中油型乳化物を得る場合、ランダムエステル交換油脂の原材料は植物性油脂が好ましい。
【0022】
本発明に係るランダムエステル交換油脂の原料油脂として、好ましくはラウリン系油脂を必須成分として使用する。ここでいうラウリン系油脂とは、炭素数12の飽和脂肪酸が30質量%以上含む油脂で、具体的にはヤシ油、パーム核油等が挙げられる。該ラウリン系油脂を分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂、さらにこれらの混合油も、本発明のラウリン系油脂である。またある態様では、ヨウ素価(IV)が10以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは1以下の該ラウリン系油脂を使用することが好ましい。
【0023】
本発明に係るランダムエステル交換油脂のある態様として、原料油脂に炭素数16以上の飽和脂肪酸を30質量%以上含む非ラウリン系油脂を必須成分として含有する必要がない。本発明の効果を阻害しない範囲で、非ラウリン系油脂を使用しても良いが、より好ましい態様として該ランダムエステル交換油脂の原料油脂に非ラウリン系油脂を使用しないことが好ましい。なお、非ラウリン系油脂の具体例として、パーム油、パーム極度硬化油、パーム分別の極度硬化油、菜種極度硬化油、ハイエルシン菜種極度硬化油等が挙げられる。
【0024】
(水中油型乳化物)
本発明の水中油型乳化物は、前記ランダムエステル交換油脂を含む必要がある。そして、前記ランダムエステル交換油脂を含む水中油型乳化物は、該水中油型乳化物を配合した飲食品の加熱殺菌処理により発生した異臭、異風味を抑制することができる。以下に、態様の一例を示すが、これらに限らず、前記ランダムエステル交換油脂を含む水中油型乳化物は、飲食品に配合した際に加熱処理工程由来の異風味を抑制することが可能である。
【0025】
本発明の水中油型乳化物は、該乳化物の油相中に0.2質量%以上含有することが好ましい。より好ましくは下限が0.4質量%以上、1質量%以上、又は2質量%以上である。またより好ましくは上限が50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、又は20質量%以下である。該水中油型乳化物中に適当な量の該エステル交換油脂を含有することで、加熱処理工程由来の異風味を抑制することができ、また異風味の抑制効果を長期間維持することができる。
【0026】
本発明の水中油型乳化物の油相には、該エステル交換油脂を規定量以上含有する限りにおいて、本発明の効果を損なわない範囲で、種々の油脂類を使用することができる。使用することができる油脂類としては、パーム油、菜種油、ハイエルシン菜種油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、大豆油、こめ油、コーン油、綿実油、落花生油、ベニバナ油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、亜麻仁油、パーム核油、ヤシ油、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、シア脂、サル脂等の植物性油脂、乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂、藻類油、微生物発酵由来の油脂、並びにこれらを分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂、さらにこれらの混合油脂等が例示できる。
本発明の水中油型乳化物における油相の量は特に限定されず、油相:水相の比が1:99~65:35が例示できる。より好ましくは同比が5:95~60:40、又は10:90~55:45である。
【0027】
(水中油型乳化物の製造方法)
本発明に係る水中油型乳化物の製造方法について説明する。本発明の水中油型乳化物は、油脂及び/又は油溶性成分を混合した油相と、水及び/又は水溶性成分を混合した水相をそれぞれ調製し、混合して水中油型に乳化することにより得ることができる。
例えば、水又は温水に、水性成分、水溶性乳化剤、必要によりpH調整剤等の水溶性成分を加えて攪拌し、溶解或いは分散させた水相を調製する。別途、油脂に油溶性成分、油溶性乳化剤等を加えて調合する。水相に調合した油相を添加して予備乳化を行う。さらにこれを、好ましくはバルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミルなどの均質化装置により圧力0~100MPaの範囲で均質化する。そして、必要によりインジェクション式、インフュージョン式等の直接加熱方式、あるいはプレート式、チューブラー式、掻き取り式などの間接加熱方式を用いたUHT・HTST・低温殺菌、バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌もしくは加熱殺菌処理を施してもよい。
さらにこれを、好ましくはバルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミルなどの均質化装置により圧力0~100MPaの範囲でさらに均質化してもよい。そして、必要により急速冷却、徐冷却などの冷却操作を施してもよい。また、本発明の水中油型乳化物は、必要により、冷蔵もしくは冷凍状態で保存してもよい。
【0028】
本発明の水中油型乳化物は、必要に応じて副原料を配合することができる。例えば、乳原料(生乳、生乳、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳、生クリーム、バター等)や、糖質甘味料(砂糖、水あめ、果糖、ぶどう糖、糖アルコール、トレハロース等)や、安定剤(グアーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、アラビアガム、カラギナン、アルギン酸ナトリウム、CMC、水溶性セルロース、ゼラチン、ペクチン等)や、澱粉(イネ・小麦・米等の穀類由来の澱粉や、トウモロコシ由来の澱粉や、馬鈴薯・タピオカ等のいも類由来の澱粉等、もしくはこれらの加工澱粉や化工澱粉等)や、乳化剤(レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド等)や、食塩や、香料や、着色料や、酸味料や、風味原料(コーヒー、ココア、茶類、チョコレート原料、果汁、果肉、種実類、蜂蜜、メープルシロップ、酒類等)や、各種栄養素(蛋白質や、アミノ酸や、ポリデキストロース、イヌリン、難消化性デキストリンなどの食物繊維や、ビタミン類や、ミネラル類等)等が挙げられる。
【0029】
また、本発明の水中油型乳化物は、乳原料を配合しない、植物性原料のみで配合を設計しても良い。植物性原料として例えば、大豆、エンドウ豆、ソラマメ、ヒヨコ豆に代表される豆類、アーモンド、へーゼルナッツ、カシューナッツ、クルミ、落花生、ピスタチオなどに代表される種子類、米、オーツ麦に代表される穀物類などが挙げられる。また、これらを適当な割合で混合して使用することも可能である。
【0030】
(飲食品)
本発明に係る飲食品とは、前述の加熱処理工程を含んでいれば、特に形態に制限はない。例えば、カフェラテ、ミルクティー、豆乳等の植物ミルクや清涼飲料等の飲料、プリン、ババロア、ゼリー、ホワイトナー、ホイップクリーム及びフィリング等の生菓、ヨーグルト、チーズ及び発酵飲料等の発酵食品、調味料、ソース、スープ、鍋つゆの素、シチュー、ホワイトソース等の調理用加工食品、フライ食品、水産練製品、鳥獣魚肉製品等の製品形態に使用できる。ある態様では、該飲食品は植物ベースの原料で構成することが好ましい。ある態様では、該飲食品は調理加工食品、飲料が好ましい。
【0031】
本発明に係る飲食品は、該水中油型乳化物を0.5質量%以上含むことが好ましい。より好ましくは下限が1質量%以上、1.5質量%以上、又は2質量%以上である。またより好ましくは上限が60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、又は30質量%以下である。該飲食品中への該水中油型乳化物の含量が適当であると、加熱処理工程由来の異風味を抑制することができ、また異風味の抑制効果を長期間維持することができる。
【0032】
また本発明は、下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油脂を含む水中油型乳化物による、飲食品の加熱処理工程により発生する異風味の抑制方法の発明と捉えることもできる。具体的には、該ランダムエステル交換油脂を含む水中油型乳化物を飲食品に添加することで、飲食品の加熱処理工程由来の異風味を抑制することができ、その異風味抑制効果を長期間維持することができる。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40質量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が45~80質量%
なお、構成脂肪酸の測定方法は、AOCS Official Method Ce 1h-05の方法に準拠する。
【0033】
本発明は、下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油脂を含むことを特徴とする、加熱処理工程により発生する異風味を抑制した飲食品の発明でもある。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40質量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が45~80質量%
なお、構成脂肪酸の測定方法は、AOCS Official Method Ce 1h-05の方法に準拠する。
該ランダムエステル交換油脂を該飲食品に添加することで、該飲食品の加熱処理工程由来の異風味を抑制させることができる。該ランダムエステル交換油脂は該飲食品に対して0.02質量%以上添加することが好ましい。より好ましくは下限が0.05質量%以上、又は0.1質量%以上である。また好ましくは上限が30質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下である。該飲食品への該ランダムエステル交換油脂の添加量が適当であると、該飲食品の加熱処理工程に由来する異風味を抑制することができ、その異風味抑制効果を長期間維持することができる。なお、加熱処理工程由来の異風味抑制効果は、該ランダムエステル交換油脂を直接飲食品に添加するよりも、該ランダムエステル交換油脂を含む水中油型乳化物を飲食品に添加する方が、長期の乳化安定性の観点から好ましい。該ランダムエステル交換油脂を直接飲食品に添加する時の該ランダムエステル交換油脂、該飲食品等の条件詳細は前述の通りである。
【0034】
また本発明は、下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油脂を含むことを特徴とする、飲食品の加熱処理工程により発生する異風味の抑制方法の発明と捉えることもできる。具体的には、該ランダムエステル交換油脂を飲食品に添加することで、飲食品の加熱処理工程由来の異風味を抑制することができ、その異風味抑制効果を長期間維持することができる。
【0035】
(実施例)
以降に本発明をより詳細に説明する。なお、文中「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準を意味する。
【0036】
(脂肪酸組成分析の測定方法)
ランダムエステル交換油脂の脂肪酸組成分析はAOCS Official Method Ce 1h-05の方法に準じて測定した。
(トリグリセリド組成(総炭素数)の測定方法)
ランダムエステル交換油脂のトリグリセリド組成(総炭素数)の測定は、日本油化学会制定の基準油脂分析試験法2.4.6 トリアシルグリセリン組成(ガスクロマトグラフ法)に準じて実施した。
【0037】
(検討1)ランダムエステル交換油脂の調製
ランダムエステル交換油脂の組成を表1に示した。なお、何れの油脂も不二製油株式会社製であった。
【0038】
(エステル交換油脂1)
パーム核ステアリン極度硬化油(ヨウ素価1以下)80部と中鎖脂肪酸結合油脂(ヨウ素価1以下)20部を溶解混合し、ナトリウムメチラートを用いて80℃にてランダムエステル交換反応を行った。その後、常法に従い水洗/脱色/脱臭処理を施したものを、エステル交換油脂1とした。なお、中鎖脂肪酸結合油脂として、n―オクタン酸(炭素数8)とn―デカン酸(炭素数10)を構成脂肪酸とし、これらの質量比が60:40であるMCT-64(不二製油(株)社製)を用いた。
【0039】
(エステル交換油脂2)
エステル交換油脂1のパーム核ステアリン極度硬化油をパーム核ステアリン(ヨウ素価7)に変更した以外はエステル交換油脂1と同じ方法で得たものを、エステル交換油脂2とした。
【0040】
(エステル交換油脂3)
パーム核極度硬化油(ヨウ素価4以下)90部と中鎖脂肪酸結合油脂10部を溶解混合し、それ以外はエステル交換油脂1と同じ方法で得たものを、エステル交換油脂3とした。
【0041】
(エステル交換油脂4)
パーム核油(ヨウ素価17.5)95部と中鎖脂肪酸結合油脂5部を溶解混合し、それ以外はエステル交換油脂1と同じ方法で得たものを、エステル交換油脂4とした。
【0042】
(表1)
【0043】
(検討2)調理用クリーム(ホワイトソース)用の水中油型乳化物の調製
(水中油型乳化物の調製方法)
表2の配合に従い、水中油型乳化物を調製した。各油脂を加温融解し、ここに油溶性乳化剤を加えて混合溶解し油相とした。別途、温水に乳蛋白、水溶性乳化剤、pH調整剤を溶解し水相を調製した。乳化タンクにて油相、水相を調合し、予備乳化、均質化の後、超高温滅菌装置により殺菌処理(140~150℃で3~12秒)、冷却し、各検討油脂を配合した水中油型乳化物1~7を得た。
・油溶性乳化剤:HLB6~9のグリセリン脂肪酸エステル
・水溶性乳化剤:HLB13~16のショ糖脂肪酸エステル
・pH調整剤:クエン酸ナトリウム
【0044】
(表2)
【0045】
(検討3)調理用クリームでの検討
(ホワイトソースの調製)
40℃で溶解した市販のベシャメルソース12部に小麦粉3部を添加して混合し、そこに各水中油型乳化物20部と水64部を加えて混合し、最後に食塩1部を添加し混合した。これを鍋に入れ、とろみが出るまで加熱して(品温70~100℃)、各水中油型乳化物を配合したホワイトソースを得た。
・ベシャメルソース:不二製油株式会社製「ベシャメルソースFB」(バター45%、小麦粉55%含有)
【0046】
(ホワイトソースの風味評価)
得られたホワイトソースをパウチに入れ、レトルト殺菌(121℃、30分)処理をした。これを60℃でボイルしたものを、風味評価に供した。また、レトルト殺菌処理したホワイトソースを3、6、10ヶ月間常温(25℃)で保管したものをそれぞれ60℃でボイルしたものも風味評価に供した。
風味評価は、クリーム素材の研究開発に従事する熟練したパネラー6名で実施した。風味評価は、加熱処理に由来する異風味の発生を抑制する効果について、(1)レトルト殺菌により生じた異風味の強度、(2)(1)を常温で3、6、10ヶ月間保存した後の異風味の強度について、コントロール(比較例1-1)を基準として以下の評価基準に従って評価し、合議により判定した。(1)、(2)共に評価点3点以上を合格とし、結果を表3に示した。
5点:非常に異風味が弱かった。
4点:かなり異風味が弱かった。
3点:やや異風味が弱かった。
2点:コントロールと同等であった。
1点:コントロールよりも異風味が強かった。
【0047】
(表3)
【0048】
(結果)
比較例1-1に対して、実施例1-1~1-6で(1)レトルト殺菌由来の異風味が弱かった。また、(2)(1)を3、6、10ヶ月間常温で保管した後でもこの傾向が得られた。中でも、水中油型乳化物1、4、6を含むホワイトソースでかなり異風味が弱く(実施例1-1、1-4、1-6)、特に水中油型乳化物1を含むホワイトソースで最も良好な効果が見られた。
【0049】
(検討4)飲料用の水中油型乳化物の調製
(水中油型乳化物の調製方法)
表4の配合に従って、水中油型乳化物を調製した。各油脂を加温融解し油相とした。別途、温水に脱脂粉乳、砂糖、乳化剤、pH調整剤を溶解し水相を調製した。乳化タンクにて油相、水相を調合し、予備乳化、均質化の後、超高温滅菌装置により殺菌処理(140~150℃で3~12秒)、再度均質化し、冷却して、水中油型乳化物8~15を得た。
・乳化剤:HLB5~8のショ糖脂肪酸エステルとHLB11~13のポリグリセリン脂肪酸エステル
・pH調整剤:クエン酸ナトリウムと重曹
【0050】
(表4)
【0051】
(検討5)飲料での検討
(カフェラテ飲料の調製 )
表5の配合に従い、カフェラテ飲料を調製した。まず温水をホモミキサーで攪拌しながら砂糖 、乳化剤、脱脂粉乳を加え、ここに水中油型乳化物8~15を加え、最後にpH調整剤をコーヒーエキスと混ぜ合わせてから加えて混合した。温調しながら十分に調合後、均質化し、缶に充填後レトルト殺菌を行い(121℃、30分)、水中油型乳化物8~15を配合したカフェラテ飲料を調製した。殺菌後は冷蔵にて保管した。
・乳化剤:三菱ケミカル株式会社製「リョートーCP-Y040」
・pH調整剤:重曹
【0052】
(カフェラテの風味評価)
容器詰めしたカフェラテ飲料を用い、60℃で8週間までの加温試験に供した。風味評価は、飲料製品の研究開発に従事する熟練したパネラー6名で実施した。風味評価は加熱処理に由来する異風味の発生を抑制する効果について、レトルト殺菌後、冷蔵(5℃)にて保管したものを試飲し、(1)レトルト殺菌により生じた異風味の強度、(2)(1)を60℃で4、6、8週加温して保存した後の異風味の強度について、コントロール(比較例2-1)を基準として以下の評価基準に従って評価し、合議により判定した。(1)、(2)共に評価点3以上となるものを合格とし、表5に結果を示した。
5点:非常に異風味が弱かった。
4点:かなり異風味が弱かった。
3点:やや異風味が弱かった。
2点:コントロールと同等であった。
1点:コントロールよりも異風味が強かった。
【0053】
(表5)
【0054】
(結果)
比較例2-1に対し、実施例2-1~2-6の飲料で異風味が弱かった。同傾向は(2)レトルト殺菌後、60℃で4、6、8週間保存しても維持されていた。特に、実施例2-1、2-2、2-4において異風味がかなり弱く、特に実施例2-1で最も良好な結果が認められた。
【0055】
(検討6)ランダムエステル交換油脂の飲料への直接添加
(カフェラテ飲料の調製)
水中油型乳化物9と共にエステル交換油脂1を加えた以外は、表6の配合に従って、検討5と同様の調製方法でカフェラテ飲料を調製した。
【0056】
(カフェラテの風味評価)
カフェラテの風味評価は、比較例3-1をコントロールとして、検討5と同様の評価方法で評価した。
【0057】
(表6)
【0058】
(結果)
比較例3-1に対して、ランダムエステル交換油脂1を直接飲料に添加してもレトルト殺菌由来の異風味、その後の保管による異風味が非常に弱かった(実施例3-1~3-3)。このことから、該エステル交換油脂を直接飲食品に添加しても、レトルト殺菌由来の異風味を抑制し、その後の保管による異風味も抑制することが確認された。
【0059】
(検討7)植物性調理用クリーム用の水中油型乳化物の調製
(水中油型乳化物の調製)
表7の配合に従って、植物性水中油型乳化物を調製した。各検討油脂を加温融解し、油溶性乳化剤を加えて混合し,溶解したものを油相とした。温水にオーツ麦糖化液、水溶性乳化剤、pH調整剤を溶解したものを水相とした。乳化タンクにて油相と水相を混合し、予備乳化、均質化の後、超高温滅菌装置により殺菌処理(140~150℃で3~12秒)、冷却し、水中油型乳化物16、17を得た。
・油溶性乳化剤:HLB6~9のグリセリン脂肪酸エステル
・水溶性乳化剤:HLB13~16のショ糖脂肪酸エステル
・pH調整剤:クエン酸ナトリウム
【0060】
(表7)
【0061】
(検討8)植物性調理用クリームの検討
表8の配合に従って、植物性調理用クリームとしてホワイトソースを調製した。調製方法は検討3と同様の調製方法とした。
・ベシャメルソース:不二製油株式会社製「ベシャメルソースVG」(小麦粉70%、植物油脂30%含有)
【0062】
(植物性調理用クリームの風味評価)
植物性調理用クリームの風味評価は、比較例4-1をコントロールとして、検討3と同様の評価方法で評価した。結果を表8に示した。
【0063】
(表8)
【0064】
(結果)
動物性原料不使用の植物性ホワイトソースにおいても、実施例4-1は異風味が非常に弱かった。そして、常温で長期間保存しても異風味は非常に弱かった。
【0065】
(検討9)植物性飲料用の水中油型乳化物の調製
(水中油型乳化物の調製)
表9の配合に従って、植物性水中油型乳化物を調製した。各検討油脂を加温融解したものを油相とした。温水にオーツ麦糖化液、砂糖、乳化剤、pH調整剤を溶解したものを水相とした。乳化タンクにて油相と水相を混合し、予備乳化、均質化の後、超高温滅菌装置により殺菌処理(140~150℃で3~12秒)、冷却し、水中油型乳化物18、19を得た。
・乳化剤:HLB5~8のショ糖脂肪酸エステルとHLB11~13のポリグリセリン脂肪酸エステル
・pH調整剤:クエン酸ナトリウムと重曹
【0066】
(表9)
【0067】
(検討10)植物性飲料の調製
(植物性カフェラテ飲料の調製)
表10の配合に従って、植物性カフェラテ飲料を調製した。まず温水をホモミキサーで撹拌しながら砂糖を加え、ここに水中油型乳化物18或いは19、乳化剤を順次加え、最後にpH調整剤をコーヒーエキスと混ぜ合わせてから加え混合した。温調しながら十分に調合後、均質化し、缶に充填後レトルト殺菌を行い(121℃、30分)、植物性カフェラテ飲料を調製した。殺菌後は冷蔵にて保管した。
・乳化剤:三菱ケミカル株式会社製「リョートーCP-Y040」
・pH調整剤:重曹
【0068】
(植物性カフェラテの風味評価)
植物性カフェラテの風味評価は、比較例5-1をコントロールとして、検討5と同様の評価方法で評価した。結果を表10に示した。
【0069】
(表10)
【0070】
(結果)
動物性原料不使用のカフェラテ飲料において、比較例5-1に対して実施例5-1は異風味がかなり弱かった。そして、レトルト殺菌後、長期間加温条件で保管しても異風味もかなり弱かった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明により、特定の組成を有するランダムエステル交換油脂を配合した水中油型乳化物或いは該エステル交換油脂は、飲料や調理用加工食品等の飲食品に配合することで、レトルト殺菌などの加熱工程に由来する異風味の発生を抑制することができる。さらには、該飲食品は長期間保存しても異風味の発生を抑制することができ、調製時の風味を維持することができる。