(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140758
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】バクテリオファージ、及びそれを含む組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 7/00 20060101AFI20241003BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20241003BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20241003BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20241003BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C12N7/00
A23L33/10
A61K35/76
A61P1/00
A61P31/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052080
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000229519
【氏名又は名称】日本ハム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503096591
【氏名又は名称】学校法人酪農学園
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】奥田 雅貴
(72)【発明者】
【氏名】助川 慎
(72)【発明者】
【氏名】岩野 英知
(72)【発明者】
【氏名】藤木 純平
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD79
4B018ME09
4B018ME11
4B065AA98X
4B065CA41
4B065CA43
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA66
4C087ZB35
4C087ZC61
(57)【要約】
【課題】抗生物質によらない、大腸菌症、特に新生期大腸菌下痢及び離乳後大腸菌下痢の予防、治療、又は軽減方法の提供を目的とする。
【解決手段】大腸菌症、特に新生期大腸菌下痢及び離乳後大腸菌下痢の原因菌となるF4陽性大腸菌に特異的に感染し、増殖を抑制可能なバクテリオファージをスクリーニングし、さらに家畜体内で作用可能な耐酸性を有するバクテリオファージを単離したことで、大腸菌症の予防、治療、又は軽減が可能になる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
F4陽性大腸菌の増殖抑制効果を有する、受託番号NITE P-03797又はNITE P-03798で寄託されたバクテリオファージ、その原株、又はそれらの継代株。
【請求項2】
前記増殖抑制効果が、F4陽性大腸菌特異的な増殖抑制効果である、請求項1に記載のバクテリオファージ、その原株、又はそれらの継代株。
【請求項3】
前記バクテリオファージ、その原株、又はそれらの継代株がF4陽性大腸菌の増殖を抑制する一方、F18陽性大腸菌の増殖抑制効果が低い、請求項1に記載のバクテリオファージ、その原株、又はそれらの継代株。
【請求項4】
請求項1に記載のバクテリオファージ、その原株、又はそれらの継代株を含む、バクテリオファージ組成物。
【請求項5】
大腸菌症の治療、予防、又は軽減用の請求項4に記載のバクテリオファージ組成物。
【請求項6】
F4陽性大腸菌防除用の請求項4に記載のバクテリオファージ組成物。
【請求項7】
食品添加物、家畜用飼料添加物、ペット飼料用添加物、非ヒト動物用医薬品、殺菌剤、及び消毒剤からなる群から選択されるいずれかである、請求項4に記載のバクテリオファージ組成物。
【請求項8】
非ヒト動物における大腸菌症の治療、予防、又は軽減方法であって、請求項4に記載のバクテリオファージ組成物を投与することを含む、前記方法。
【請求項9】
バクテリオファージ組成物が経口投与により投与される、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病原性大腸菌を溶菌するバクテリオファージ、当該バクテリオファージを含む組成物、及び当該バクテリオファージ又は組成物を利用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大腸菌は、動物の腸管に存在しており、大半は無害であり、腸内の微生物叢の一部を構成する。一方で、一部の大腸菌には毒性を有する株があり、そのような大腸菌株は、とくに病原性大腸菌と呼ばれている。病原性大腸菌は、下痢や胃腸炎などの大腸菌症を引き起こし、死に至らしめることもある。畜産分野においても、病原性大腸菌感染により下痢や死亡が生じるため、生産性を低下させる要因となる。哺乳期、離乳期、育成~肥育期の全ての段階において、病原性大腸菌による大腸菌症が生じうる。大腸菌症は、哺乳期では新生期大腸菌下痢、離乳期では離乳後大腸菌下痢、育成期及び肥育期では浮腫病(志賀毒素血症)と分類される。特に哺乳期や離乳期では死亡に繋がることが多く、また育成期や肥育期では増体速度が減少してしまう。したがって、病原性大腸菌が蔓延しないよう管理が必要とされている。適正な衛生管理や、ブタ免疫用のワクチンを使用することで、病原性大腸菌の管理なされているが、それだけでは完全な管理が難しく、抗生物質が使用されている。しかしながら、抗生物質を定常的に用いることにより、畜産現場では薬剤耐性菌の増加が問題となっている。畜産現場で発生した薬剤耐性菌は、環境中に拡散されてしまい、ヒトに伝播する可能性が指摘されている。また、薬剤耐性菌の増加は、ヒトの医療現場で抗生物質による治療が難しくなるという問題を引き起こしている。また、抗生物質は、有用な腸内細菌までも死滅させてしまい、適切な腸内環境を維持できないという問題も引き起こしている。
【0003】
大腸菌の管理のために、バクテリオファージを利用する方法が注目されている。バクテリオファージは、細菌や古細菌に感染するウイルスであり、バクテリオファージが感染した細菌は溶菌を引き起こす。バクテリオファージは、細菌や古細菌にしか感染せず、特定の細菌のみに感染するという性質を有することから、抗生物質の代替としてヒトへの使用も研究されている。バクテリオファージ自体は、環境中に普遍的に存在しており、家畜や人体に対して感染力はなく、無害である。バクテリオファージを用いて病原性大腸菌を効率的に予防及び治療するという試みがされている(特許文献1:特許6059827号、特許文献2:特表2017-518036号公報)。また、サルモネラ症を引き起こすサルモネラ属細菌に対するバクテリオファージも研究が行われている(特許文献3:特許6112961号)。大腸菌に感染するバクテリオファージであっても、任意の大腸菌に感染するわけではない。バクテリオファージは、大腸菌の表面に存在するタンパク質、とくに接着因子を足掛かりに感染を引き起こすため、膜タンパク質や接着因子が異なる大腸菌では、その感染性が異なる。
【0004】
一方で、毒素原性大腸菌(ETEC)により生じる大腸菌症は、単に毒素を排出する大腸菌が存在することで生じるわけではない。毒素を排出する大腸菌が、腸管上皮に吸着されることで大腸菌症が生じる。ブタにおいて、新生期大腸菌下痢を引き起こす大腸菌は、接着因子として、F4、F5、F6、又はF41を発現することが特定されている。その一方、離乳後大腸菌下痢を引き起こす大腸菌は、接着因子としてF4又はF18を発現し、育成期以降の浮腫病を引き起こす大腸菌はF18を発現する。このように大腸菌症を引き起こす大腸菌の種類は、成長期に伴って変遷する。これは、成長と共に、これらの接着因子が結合する小腸のレセプターの発現が変動しているためである。したがって、母豚にF抗原を免疫することにより、初乳を介してF抗原を不活性化することで、新生期大腸菌下痢を予防することが可能になってきている。一方で、離乳期に定着するF4又はF18を有する大腸菌に対しては、母乳による不活化が期待できない一方で、ワクチン接種による予防が難しいという問題がある。そこで、特定の接着因子を有する病原性大腸菌に対して、特異的に感染性を有するバクテリオファージの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6059827号公報
【特許文献2】特表2017-518036号公報
【特許文献3】特許第6112961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
大腸菌症の原因菌となる病原性大腸菌に感染し、増殖を抑制可能なバクテリオファージを取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、大腸菌症の原因菌となる病原性大腸菌に感染し、増殖を抑制可能なバクテリオファージを取得すべく鋭意研究を行ったところ、接着因子F4を有する大腸菌に特異的に感染するバクテリオファージを単離し、発明に至った。
そこで本発明は以下に関する:
[1] F4陽性大腸菌の増殖抑制効果を有する、受託番号NITE P-03797又はNITE P-03798で寄託されたバクテリオファージ、その原株、又はそれらの継代株。
[2] 前記増殖抑制効果が、F4陽性大腸菌特異的な増殖抑制効果である、項目1に記載のバクテリオファージ、その原株、又はそれらの継代株。
[3] 前記バクテリオファージ、その原株、又はそれらの継代株がF4陽性大腸菌の増殖を抑制する一方、F18陽性大腸菌の増殖抑制効果が低い、項目1又は2に記載のバクテリオファージ、その原株、又はそれらの継代株。
[4] 項目1~3のいずれか一項に記載のバクテリオファージ、その原株、又はそれらの継代株を含む、バクテリオファージ組成物。
[5] 大腸菌症の治療、予防、又は軽減用の項目4に記載のバクテリオファージ組成物。
[6] F4陽性大腸菌防除用の項目4に記載のバクテリオファージ組成物。
[7] 食品添加物、家畜用飼料添加物、ペット飼料用添加物、非ヒト動物用医薬品、殺菌剤、及び消毒剤からなる群から選択されるいずれかである、項目4に記載のバクテリオファージ組成物。
[8] 非ヒト動物における大腸菌症の治療、予防、又は軽減方法であって、項目4に記載のバクテリオファージ組成物を投与することを含む、前記方法。
[9] バクテリオファージ組成物が経口投与により投与される、項目8に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るバクテリオファージ、その原株、又はそれらの継代株は、接着因子F4を有する大腸菌の増殖を抑制する。これにより、接着因子F4を有する大腸菌が引き起こす大腸菌症を予防、治療又は軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、14か所の畜産場の農場原水から取得されスクリーニングされた受託番号NITE P-03797又は受託番号NITE P-03798で寄託されたバクテリオファージの様々な種の大腸菌株に対する増殖抑制効果(PI)を示すグラフである。
【
図2】受託番号NITE P-03797又は受託番号NITE P-03798で寄託されたバクテリオファージの耐酸性を示すグラフである。
【
図3】受託番号NITE P-03797又は受託番号NITE P-03798で寄託されたバクテリオファージのF4陽性大腸菌に対する増殖抑制効果(PI)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、受託番号NITE P-03797又はNITE P-03798で寄託されたバクテリオファージ、その原株、又はそれらの継代株(以下、本発明に係るバクテリオファージとする)に関する。また、本発明に係るバクテリオファージを含む組成物、並びに当該組成物を投与することを含む、大腸菌症の予防、治療又は軽減方法、或いは当該組成物を散布することを含む、大腸菌症の殺菌、防除又は抑制方法にも関する。
【0011】
本発明に係るバクテリオファージは、F4陽性大腸菌に対して、増殖抑制効果、好ましくは特異的増殖抑制効果を有する。本発明に係るバクテリオファージは、家畜に経口投与して腸内でF4陽性大腸菌に対して増殖抑制効果を発揮させる観点から、耐酸性を有することが好ましい。
【0012】
F4陽性大腸菌に対する特異的な増殖抑制効果とは、F4陽性大腸菌の増殖を抑制する一方、F4陰性大腸菌の増殖を抑制しない効果をいう。F4陰性大腸菌としては、接着因子F4が発現していない任意の大腸菌であってよいが、農場において存在頻度が高いことから、特異性を調べるための比較対象としてF18陽性大腸菌を使用することができる。したがって、本発明に係るバクテリオファージは、F4陰性大腸菌と比較して、F4陽性大腸菌をより増殖抑制していればよく、F4陽性大腸菌に対する増殖抑制効果が、F4陰性大腸菌に対する増殖抑制効果と比較して好ましくは2倍以上、3倍以上、5倍以上、又は10倍以上である場合をいう。
【0013】
増殖抑制効果は、大腸菌とバクテリオファージを混合したものを寒天培地上で培養した場合に形成するプラーク数に基づいて計算することができる。別の態様では、本実施例で使用された増殖抑制率(Percentage of inhibition: PI)により計算することができる。増殖抑制率は、大腸菌とバクテリオファージとを混合したファージ群、大腸菌のみを含む対照群、培地のみを含むブランク群において所定の期間にわたる増殖曲線のArea under the curveについて、それぞれA
phage, A
control, A
Blankと置き、以下の計算式により計算することができる。
【数1】
【0014】
F4陽性大腸菌に対する特異的な増殖抑制効果は、一例として、106CFUのF4陽性大腸菌に対し、108PFUのバクテリオファージを用いた場合に、平均で30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、又は70%以上の増殖抑制率(PI)を有する一方、106CFUのF4陰性大腸菌に対し、108PFUのバクテリオファージを用いた場合において、平均で20%未満、10%未満、又は5%未満の増殖抑制率(PI)を有することにより決定することができる。
【0015】
さらに別の態様では、F4陽性大腸菌に対して特異的な増殖抑制効果は、106CFUの大腸菌に対し、108PFUのバクテリオファージを用いた場合に、F4陽性大腸菌の菌株のうち、半数以上の菌株について、40%以上、50%以上、60%以上、又は70%以上の増殖抑制率(PI)を有する一方で、F4陰性大腸菌の菌株のうち、半数以上の菌株について、20%未満、10%未満、又は5%未満の増殖抑制率(PI)を有することにより決定することができる。大腸菌株の中には、バクテリオファージ耐性を有しているものもあることから、増殖抑制効果は、ランダムで選択された複数の大腸菌株に対する効果を平均する必要がある。好ましくは3種以上、より好ましくは5種以上の株の平均により求めることができる。
【0016】
本発明に係るバクテリオファージは、F4陽性大腸菌に対して、特異的に増殖抑制効果を発揮することで、F4陰性大腸菌に対して、バクテリオファージ耐性を発達させにくいという利点を有する。大腸菌は、感染性のあるバクテリオファージに対して長期間にわたり曝露されると、当該バクテリオファージが結合する膜タンパク質に対して変異が導入され、耐性を発達させうる。したがって、防除対象となる大腸菌に対して特異性が高いことにより、耐性株の出現確率を減少させることができる。耐性株は耐性の水平伝播を引き起こすため、特異性を高めて耐性株の出現確率を減らすことが望まれる。
【0017】
F4陽性大腸菌は、接着因子F4を発現する大腸菌であり、新生期大腸菌下痢や離乳後大腸菌下痢を引き起こす原因細菌である。新生期大腸菌下痢は、母乳による免疫により予防しうる。一方で、離乳後大腸菌下痢は、母乳による予防効果が期待できない一方、ワクチン接種による効果が現出する前の時期に生じる大腸菌症である。F4陽性大腸菌の増殖抑制効果を有するバクテリオファージを投与することにより、大腸菌症、特に新生期大腸菌下痢及び離乳後大腸菌下痢を予防、治療又は軽減することができる。
【0018】
F5陽性大腸菌、F6陽性大腸菌、及びF41陽性大腸菌は、哺乳期に大腸菌症を引き起こす一方、哺乳期をすぎると、感染することはない。したがってこれらの大腸菌に基づく大腸菌症は、母豚にF抗原を免疫することにより、初乳を介してF抗原を不活性化することで予防することができる。
【0019】
F18陽性大腸菌は、哺乳期には見られず、離乳期~肥育期にかけて大腸菌症を引き起こす。離乳期には、離乳後大腸菌下痢を引き起こし、育成期及び肥育期には浮腫病(志賀毒素血症)を引き起こす。育成期及び肥育期には浮腫病は、家畜、特にブタにおいて、F抗原ワクチンを接種することで予防することができる。
【0020】
農場ごとに流行している大腸菌症は異なっており、流行している大腸菌症を引き起こす大腸菌を標的として、防除、予防又は治療を行うことが必要となる。流行している大腸菌症の原因となる大腸菌の種類は、検査を行うことで農場ごとに把握することができ、また把握されていない場合にも大腸菌症の罹患時期に基づいて、流行している大腸菌症の病原性大腸菌の種類を推定することができる。流行している大腸菌症の病原性大腸菌が、F4陽性大腸菌であると特定又は推定される場合に、本発明に係るバクテリオファージを使用することで、効果的な、防除、予防又は治療が可能になるとともに、ファージ耐性の出現の確率を減らすことができる。
【0021】
原株とは、バクテリオファージを寄託用に分離した際の、分離元の株のことを指す。原株は、寄託されたバクテリオファージと遺伝的に同一であるか、又は実質的に同一である。遺伝的に実質的に同一とは、バクテリオファージの特性を変化させるような遺伝的変異を含んでいないことをいう。本発明は、受託番号NITE P-03797又は受託番号NITE P-03798で寄託されたバクテリオファージ、又はその原株、或いはそれらの継代株に関する。継代株は、寄託されたバクテリオファージ又はその原株を継代することにより得られた株をいう。継代株は、通常、その継代前の株と同一の特性を有するが、意図的又は偶発的に異なる特性を有してもよい。したがって、継代株は、通常、継代前の株と遺伝的に同一又は実質的に同一であるが、遺伝子変異を含んでいてもよい。
【0022】
本発明に係るバクテリオファージは、耐酸性を有することにより、経口投与後に、腸管内でF4陽性大腸菌の増殖抑制が可能になる。耐酸性は、本発明に係るバクテリオファージを、pHを変化させた溶液に所定の時間曝露し、その後の生存性を測定することにより決定することができる。一例として、ブタの胃環境を模倣し、pH4、40℃の条件を用い、経時的に生存率を測定することにより決定することができる。さらに、胃滞留時間を考慮して時間を設定することができ、60~120分とすることができる。一例として、pH4、40℃、120分の酸性環境への曝露後の生存性、又は大腸菌の増殖抑制能に基づいて、耐酸性を決定することができる。
【0023】
[組成物]
本発明の別の態様は、本発明に係るバクテリオファージを含む組成物にも関する。バクテリオファージと共に、賦形剤を含んでもよい。このような賦形剤は、組成物の種類に応じて適宜選択することができる。本発明に係る組成物としては、経口投与用の組成物、非経口投与用の組成物、及び散布用の組成物が挙げられる。
【0024】
組成物中のバクテリオファージの濃度は、その用途や、症状の重さに応じて適宜選択することができる。一例として溶液形態の組成物の場合、103~1014PFU/mLの範囲のファージ力価となるように配合することができる。大腸菌症の治療目的の場合は108~1014PFU/mL、予防目的の場合は103~108PFU/mLの範囲のファージ力価となるように配合することができる。組成物は乾燥形態で提供されてもよく、その場合、溶液に再構成された際に、目的の力価を達成できるように使用量を調整することができる。ファージ力価は、バクテリオファージを含有する組成物中のプラークを形成できるファージ数(ファージ溶液中の感染力のあるファージ数)により評価することができる。
【0025】
本発明の組成物は、一例として、経口投与用又は非経口投与用に剤形される。経口投与する際には、バクテリオファージを含む組成物を単独で、又は飼料や水分に混ぜて投与することができる。非経口投与用に剤形する場合は、バクテリオファージを含む組成物を、溶液又は腸溶剤などに剤形して投与することができる。本発明の非経口投与用組成物は、一例として、静脈内、腹腔内、筋肉中、経直腸などの任意の投与経路で投与されうる。経口又は非経口投与用の組成物の場合、103~1014PFU/mLの範囲のファージ力価となるように配合することができる。大腸菌症の治療目的の場合は108~1014PFU/mL、予防目的の場合は103~108PFU/mLの範囲のファージ力価となるように配合することができる。本発明の経口投与用組成物又は非経口投与用組成物は、所定期間にわたって1日1~数回、2日当たり1回、数日あたり1回、1週間に1回等の間隔で投与することができる。より好ましくは、F4陽性大腸菌による大腸菌症が生じる期間、例えば離乳後から症状が回復するまでの期間にわたって投与されうる。大腸菌症を予防又は軽減する観点から、生後14日から離乳後2週間に投与してもよい。これにより、大腸菌症を治療、予防、又は軽減することができる。したがって、本発明に係る経口投与用又は非経口投与用組成物を、大腸菌症に対する治療、予防、又は軽減用の組成物ということもできる。治療される大腸菌症としては、F4陽性大腸菌により引き起こされる大腸菌症であり、好ましくは新生期大腸菌下痢や離乳後大腸菌下痢である。さらに、経口投与用組成物は、食品添加物、家畜用飼料添加物、ペット飼料用添加物、非ヒト動物用医薬品であってよい。大腸菌症の治療、予防、又は軽減用の組成物には、動物医薬として許容される賦形剤が含まれうる。動物飼料用の添加物には、食用に適した賦形剤が含まれうる。
【0026】
本発明の組成物は、一例として、散布用に剤形することができる。散布用の組成物は、畜産場などに散布して、環境中に存在するF4陽性大腸菌を殺菌することができる。散布用の組成物の場合、103~1014PFU/mLの範囲のファージ力価となるように配合することができる。かかるファージ力価の組成物を散布することにより、畜産場の環境中のF4陽性大腸菌の生息数を低減することができ、それによりF4陽性大腸菌による大腸菌症の発症を予防又は抑制することができる。かかる散布用の組成物は、大腸菌、特にF4陽性大腸菌の防除用組成物ということができ、防除剤、殺菌剤、又は消毒剤ということもできる。本発明の散布用の組成物を環境中に散布することで、環境中のF4陽性大腸菌の存在量を低減することができ、家畜に対するF4陽性大腸菌の感染を予防又は低減することができる。
【0027】
本発明の組成物は、使用目的及び形態に合わせて、剤形することができ、例えば液剤、錠剤、散剤、腸溶剤、カプセル剤などに剤形することができる。本発明の組成物は、バクテリオファージに加えて、これらの剤形に適した賦形剤を含んでもよい。このような賦形剤としては、希釈剤、緩衝剤、安定剤、等張化剤、キレート剤、増粘剤などをさらに含んでいてもよい。さらに、抗生物質などの活性成分と組み合わせて配合することもできる。
【0028】
本発明の投与対象は、家畜動物、ペット動物、動物園動物、実験動物など任意の動物であってよいが、F4陽性の大腸菌により大腸菌症を生じうる動物に投与される。この観点から、本発明の組成物は、F4陽性大腸菌症を治療、予防、又は軽減する観点から、ブタに投与されうる。より好ましくは、新生期大腸菌下痢又は離乳後大腸菌下痢を治療、予防、又は軽減する目的で、新生期大腸菌下痢又は離乳後大腸菌下痢を患っている対象、又は患う恐れのあるブタに投与される。
【0029】
本発明に係るバクテリオファージを含む組成物には、さらに他の種類のバクテリオファージを含んでもよい。様々な種類のバクテリオファージを含む組成物を、特にカクテル組成物と呼ぶことができる。カクテル組成物を用いることにより、含まれるバクテリオファージに対応した広範な種類の大腸菌の増殖抑制効果、バクテリオファージ耐性菌の発生抑制効果を発揮することができ、耐性菌の広がりを抑制することができる。予め、畜産場に蔓延している大腸菌の種類を判別し、大腸菌の種類に応じたカクテル組成物を調合することができる。
【0030】
本発明のさらに別の態様では、本発明は、本発明に係るバクテリオファージを投与することを含む、非ヒト動物における大腸菌症の治療、予防、又は軽減方法にも関する。本発明に係るバクテリオファージは、組成物として単独で、又は飼料や水分に混ぜて投与することができる。
【0031】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0032】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0033】
1.バクテリオファージの一次スクリーニング
日本国内の14か所の畜産場の農場原水を取得した。15mL遠沈管に原水10mLを加え、遠心分離を行い(9,000rpm、30min)、上清を回収した。上清を0.45μmフィルターに通過させて原水サンプルを得た。一晩浸透培養された大腸菌培養液50μL及び原水サンプル100μLを1000μLのLB培地に加えて、37℃で3時間振盪培養を行った。3時間振盪培養後の培養液110μLと、一晩浸透培養された大腸菌培養液110μLを混合し、10分間静置して混合液を取得した。取得された混合液200μLを50℃に保温された4mLのLBトップアガーに懸濁し、LB寒天培地上に重層し、37℃で培養を行った。
大腸菌としては、F4陽性大腸菌株(12種)、F6陽性大腸菌株(3種)、F18陽性大腸菌株(23種)、及びF41陽性大腸菌株(1種)の計37種を用いた。使用した具体的な大腸菌株は下記のとおりである:
【表1】
【0034】
2.バクテリオファージのクローニング
形成されたプラークのうち、単一プラークを採取し、1mLのSM Bufferに混合し、遠心分離を行い(12,000rpm、4℃、5分)上清を回収した。一晩浸透培養された大腸菌培養液110μLと、上清110μLとを混合し、10分間静置して混合液を得た。混合液200μLを50℃に保温した4mLのLBトップアガーに懸濁し、LB寒天培地上に重層し、37℃で培養を行った。以上の処理を3回以上実施した後、培養後の培地に3-5mLのSM Bufferを加え、37℃で15分間振盪培養した。15mLのチューブに培地上の液体成分を回収し、遠心分離を行った(9,000rpm、30min)。上清を回収し、0.2μmフィルターに通過させ、単一のバクテリオファージ溶液を28種類得た。
【0035】
3.バクテリオファージの二次スクリーニング
表1の大腸菌から10種類(1000、1001、1007、1012、1013、1015、1019、1027、1031、1035)を選択し、28種類のバクテリオファージの特異性を評価した。一晩振盪培養された大腸菌培養液10μLをLB培地990μlに加えて大腸菌溶液を得た。バクテリオファージ溶液をSM Bufferで10倍希釈してバクテリオファージ希釈液を得た。28種類のバクテリオファージ希釈液と、10種類の大腸菌溶液について、以下の通り96wellプレートに播種した。
ファージ群では、バクテリオファージ希釈液と大腸菌溶液を100μLずつ混合し、ウェルに添加した。28種類のバクテリオファージと10種類の大腸菌の組合せについて実験を行った。対照群について、大腸菌溶液100μLと、SM Buffer100μLを混合し、ウェルに添加した。10種類の大腸菌について、対照群について実験を行った。ブランク群として、SM BufferとLB液体培地を100μLずつ混合してウェルに添加した。96wellプレートを37℃で振盪培養しながら、15分毎にOD=600で測定を開始した。各ウェルについて、測定開始後15分間隔のOD=600の測定値が0.03以上増加した時刻をStart Point of Detection(SPD)とし、測定開始後SPDから2時間後の時刻をEnd Point of Detection(EPD)とした。測定開始後の時刻を横軸、OD=600の測定値を縦軸として作成した曲線について、SPDとEPDに挟まれた領域の面積をArea under the curveと定義し、以下の計算式で算出した:
【数2】
(1)ファージ群、(2)対照群、(3)ブランク群のArea under the curveについて、それぞれA
phage, A
control, A
Blankと置き、28種類のバクテリオファージと10種類の大腸菌の組み合わせについて、以下の計算式で増殖抑制率(Percentage of inhibition:PI)を計算した。
【数3】
この結果、F4陽性大腸菌の増殖抑制効果が高い2種類のバクテリオファージ(受託番号:NITE P-03797、NITE P-03798)を選定した。
【0036】
4.高純度のバクテリオファージ溶液の取得
1000μLのLB培地に、一晩浸透培養された大腸菌培養液50μL、バクテリオファージ溶液(受託番号:NITE P-03797、NITE P-03798)10μLを加え、37℃で5時間、振盪培養を行って培養液を得た。この培養液と、一晩浸透培養された大腸菌培養液を1:1の割合で混合し、10分間静置して混合液を得た。15mLチューブ10本に50℃に保温したLBトップアガーを4mLずつ分注し、それぞれに混合液を200μLずつ加えて懸濁して懸濁液を得た。この懸濁液を10枚のLB寒天培地上に注ぎ、37℃で一晩培養した。培養後のLB寒天培地上にSM Bufferを4mLずつ加え、シャーレ上のLBトップアガーを掻き取り、SM Bufferごと回収した。回収物を遠心分離し(9,000rpm、4℃、60分)、上清を回収した。上清を0.45μmフィルターに通過させた。フィルター後の上清に、PEG(ポリエチレングリコール)を10%w/v,NaClを4%w/vになるように加え、懸濁し、4℃で一晩攪拌した。攪拌後の混合液を遠心分離し(9,000rpm、4℃、60分)、上清を除去した。1mLのSM Bufferを加え攪拌し、得られた溶液と、3種類の密度のCsCl溶液を超遠心分離用チューブに700μLずつ加えた。チューブを超遠心機にセットし、超遠心分離した(40,000rpm、4℃、60min)。バクテリオファージが集積した層を採取し、採取したサンプルを2LのSM Bufferで透析した。以上の処理により、高純度バクテリオファージ溶液(受託番号:NITE P-03797、NITE P-03798)を取得した。
【0037】
5.特異性評価試験
表1に記載の大腸菌に対する特異性を評価した。一晩浸透培養された大腸菌培養液10μLをLB培地990μLに加えて大腸菌溶液を得た。高純度バクテリオファージ溶液をSM Bufferで10倍希釈して希釈液を得た。2種類のバクテリオファージ(受託番号:NITE P-03797、NITE P-03798)と、表1に記載の37種類の大腸菌について、バクテリオファージの二次スクリーニングと同様の手法でPIを計算した。結果を
図1に示した。
【0038】
6.酸耐性試験
高純度バクテリオファージ溶液をSM Bufferで希釈し(TSBSと混合後にファージの力価が1.0×10
8PFU/mLとなるように希釈した)、バクテリオファージ希釈液100μLとpHを調整した5種類のTSBS(pH=3.0、4.0、5.0、6.0、7.0)1900μLを混合し、40℃で振盪を行った。振盪開始から0、60、120、180分経過後にファージ液を採取した。0分で採取したファージ液をSM Bufferで直ちに、10
5倍希釈し、60分、120分及び180分で採取したファージ液をSM Bufferで直ちに、10
5倍希釈、10
3倍希釈、及び10倍希釈した。各希釈液110μLと大腸菌培養液110μLを混合し、5分間静置して混合液を得た。この混合液200μLを4mLのLBトップアガーに加えて懸濁し、LB寒天培地に注いだ。37℃で、一晩培養した。寒天培地に形成されているプラーク数をカウントし、バクテリオファージの生存率を算出した。結果を
図2に示す(n=3)。受託番号NITE P-03797のバクテリオファージは、pH4.0溶液に40℃、120分曝露した場合の生存率は35.2%であった。受託番号NITE P-03798のバクテリオファージは、pH4.0溶液に40℃、120分曝露した場合の生存率は5.6%であった。
【0039】
7.溶菌能評価試験
一晩浸透培養した大腸菌培養液の菌数が1.0×10
7CFU/mLとなるようにLB培地で希釈して大腸菌溶液とした。高純度バクテリオファージ溶液(受託番号:NITE P-03797、NITE P-03798)をそれぞれSM Bufferで1.0×10
6、1.0×10
7、1.0×10
8、1.0×10
9PFU/mLに希釈し、バクテリオファージ希釈液を作成した。各バクテリオファージ希釈液と13種類の大腸菌溶液(1000、1001、1002、1003、1004、1005、1006、1007、1008、1009、1010、1011)の各組合せについて、バクテリオファージの二次スクリーニングと同様の手法でPIを計算した。結果を
図3に示した。