(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014076
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】フッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料、および、フッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20240125BHJP
H01M 10/05 20100101ALI20240125BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/05
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116648
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】福島 潤
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 博胤
(72)【発明者】
【氏名】長 泰亨
(72)【発明者】
【氏名】森谷 祐一
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CD01
5H029AJ01
5H029AM11
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029HJ02
5H029HJ13
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】フッ化物イオン伝導性がより高い、フッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料、および、フッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料の製造方法を提供する。
【解決手段】BaF
2と、SnF
2と、MF
L(L = 2~4であり、Mは、希土類元素もしくはイオン半径が0.8 Å以上の金属元素の少なくとも1種の元素)との混合物の焼成体から成る結晶体であり、その結晶体が、Ba
1-0.01αM
0.01αSnF
4+0.01α(ここで、1≦α≦10)で表される組成を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaF2と、SnF2と、MFL(L=2~4であり、Mは、希土類元素もしくはイオン半径が0.8 Å以上の金属元素の少なくとも1種の元素)との混合物の焼成体から成る結晶体であり、
前記結晶体が、Ba1-0.01αM0.01αSnF4+0.01α(ここで、1≦α≦10)で表される組成を有することを
特徴とするフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料。
【請求項2】
X線回折測定を実施して得られるX線回折スペクトルにおいて、2θ = 25.5°~26°の位置に現れる回折ピークが、前記MFLを添加していない材料に現れるピーク位置に対して、低角側または高角側にシフトしていることを特徴とする請求項1記載のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料。
【請求項3】
前記Mが、Laであることを特徴とする請求項1記載のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料。
【請求項4】
フッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料の製造方法であって、
BaF2と、SnF2と、MFL(L=2~4であり、Mは、希土類元素もしくはイオン半径が0.8 Å以上の金属元素の少なくとも1種の元素)との混合物を、250℃~550℃で焼成する工程を有することを
特徴とするフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料、および、フッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の高エネルギー密度化のために、多価イオンの反応を利用した電池が提案されている。従来は、マグネシウムやアルミニウムなどの2価、3価のカチオンをキャリアとした電池が考えられ、それらを用いた電極も、高い理論体積エネルギー密度を達成していたが、アニオンとのクーロン相互作用が大きく、カチオンの移動速度がリチウム系と比べて遅いという問題があった。一方、高電圧かつ高エネルギー密度の電池として、例えばFイオン電池が知られている。Fイオン電池は、Fイオンをキャリアとし、Fイオンと正極活物質との反応、および、Fイオンと負極活物質との反応を利用したアニオンベースの電池である。理論上の単位重量当たりのエネルギー容量が大きく、LIBに変わる電池として期待されている。
【0003】
従来、フッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料が知られている。例えば、La1-ySnyF3-y(0.1≦y≦0.8)で表される結晶相を有する固体電解質が知られている(例えば、特許文献1参照)。この固体電解質のイオン伝導度は、140℃で10-6 S /cm~10-3 S /cm程度である。また、固体電解質材料の一つとして、室温におけるフッ化物イオン伝導度が 3×10-7 S /cmであるLa0.9Ba0.1F2.9が知られている(例えば、特許文献2参照)。本特許文献の実施例1から6で示されている電解質、すなわち、BiySn1-yF2+y(ここで、0.4≦y≦0.9)
も、フッ化物イオン伝導度がその約10倍程度であるように、常温では十分なイオン伝導度が得られていない。
【0004】
また、PbF2とSnF2とを混合し、焼成した固体電解質も知られており(例えば、特許文献3参照)、例えば、25℃で3.5×10-3 S /cm程度のイオン伝導度を有する固体電解質が開示されている。このPbSnF4を主相とする固体電解質は、高いフッ化物イオン伝導性を有する一方で、Pb元素を含有するため、環境への負荷が大きい可能性がある。
【0005】
蛍石型固体電解質の研究は古くから行われているが、単純な蛍石型構造を持つフッ化物は、室温では、PbF2のフッ化物イオン伝導度が10-7 S /cm程度であり、CaF2では250℃付近であっても2×10-9 S /cmと、イオン伝導度が低かった。そこで、格子間位置(一つ置きに整列したF-副格子の中央)にFイオンを導入することで、イオン伝導度を向上させることが提案されている。例えば、Ba1-aLaaF2+a系の圧粉体が、高いイオン伝導体を示すことが知られている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、その中で最も良いイオン伝導度を持つBa0.6La0.4F2.4であっても、伝導率は室温で10-7 S /cm程度であり、十分とは言えない。また、BaF2とSnF2とを適量で混合することで、より高いイオン伝導度を持つ固体電解質材料が得られるが、BaF2とSnF2との混合物の組成比を制御する必要がある(例えば、非特許文献2参照)。
【0006】
前述のように、蛍石型関連構造の固体電解質は、格子間位置にFイオンを導入することで、イオン伝導度を向上できることが知られており、フッ化物全固体二次電池の作動温度低温化に向けて高いポテンシャルをもつ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-198130号公報
【特許文献2】特開2018-92894号公報
【特許文献3】特開2017-88427号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】K. Mori et al., “Experimental Visualization of Interstitialcy Diffusion Pathways in Fast-Fluoride-Ion-Conducting Solid Electrolyte Ba0.6La0.4F2.4”, ACS Applied Energy Materials, 2020, vol. 3, no. 3, doi: 10.1021/acsaem.9b02494
【非特許文献2】Kazuhiro Mori et al., “Electrochemical, Thermal, and Structural Features of BaF2-SnF2 Fluoride-Ion Electrolytes”, J. Phys. Chem., 2021, vol.125, p.12568-12577
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
フッ化物イオン電池の性能を向上させるために、フッ化物イオン伝導性がより高い固体電解質材料が求められているという課題があった。
【0010】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、フッ化物イオン伝導性がより高い、フッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料、および、フッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係るフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料は、BaF2と、SnF2と、MFL(L=2~4であり、Mは、希土類元素もしくはイオン半径が0.8 Å以上の金属元素の少なくとも1種の元素)との混合物の焼成体から成る結晶体であり、前記結晶体が、Ba1-0.01αM0.01αSnF4+0.01α(ここで、1≦α≦10)で表される組成を有することを特徴とする。
【0012】
本発明に係るフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料は、比較的低い温度におけるフッ化物イオン伝導度が高い。
【0013】
本発明に係るフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料は、X線回折測定を実施して得られるX線回折スペクトルにおいて、2θ = 25.5°~26°の位置に現れる回折ピークが、前記MFLを添加していない材料に現れるピーク位置に対して、低角側または高角側にシフトしていることが好ましい。本発明に係るフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料で、前記Mが、Laであることが好ましい。
【0014】
本発明に係るフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料の製造方法は、BaF2と、SnF2と、MFL(L=2~4であり、Mは、希土類元素もしくはイオン半径が0.8 Å以上の金属元素の少なくとも1種の元素)との混合物を、250℃~550℃で焼成する工程を有することを特徴とする。本発明に係るフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料の製造方法は、本発明に係るフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料を好適に製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フッ化物イオン伝導性がより高い、フッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料、および、フッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料の、実施例1で得られた固体電解質材料のXRD測定の結果を示すX線回折スペクトルである。
【
図2】本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料に関し、比較例1で得られた固体電解質材料のXRD測定の結果を示すX線回折スペクトルである。
【
図3】本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料に関し、比較例2で得られた固体電解質材料のXRD測定の結果を示すX線回折スペクトルである。
【
図4】本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料に関し、比較例3で得られた固体電解質材料のXRD測定の結果を示すX線回折スペクトルである。
【
図5】本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料に関し、比較例4で得られた固体電解質材料のXRD測定の結果を示すX線回折スペクトルである。
【
図6】本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料に関し、比較例5で得られた固体電解質材料のXRD測定の結果を示すX線回折スペクトルである。
【
図7】本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料の、実施例1で得られた固体電解質材料のイオン伝導度のアレニウスプロットを示すグラフである。
【
図8】本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料に関し、比較例4で得られた固体電解質材料のイオン伝導度のアレニウスプロットを示すグラフである。
【
図9】本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料に関し、比較例5で得られた固体電解質材料のイオン伝導度のアレニウスプロットを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は、これらの実施形態に限定されない。
【0018】
本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料は、本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料の製造方法により、好適に製造することができる。すなわち、本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料は、BaF2と、SnF2と、MFL(L=2~4であり、Mは、希土類元素もしくはイオン半径が0.8 Å以上の金属元素の少なくとも1種の元素)との混合物を焼成することにより得られる結晶体である。
【0019】
本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料は、Ba1-0.01αM0.01αSnF4+0.01αの組成を有する。αの範囲は、特に限定されないが、1≦α≦20の範囲内であることが好ましく、1≦α≦10の範囲内であることがより好ましい。また、BaF2とSnF2との混合比率を、BaF2:SnF2 = 40:60~70:30の範囲内とし、添加されるMの混合率を、BaF2に対して化学量論的に1~10%の範囲内にすることで、室温でのイオン伝導度が良好な固体電解質材料とすることができる。
【0020】
本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料は、ランタノイドの少なくとも1種の元素を添加することで、室温においても比較的良好なフッ化物イオン伝導度を有する。高いイオン伝導度が得られる理由は、電荷補償のため格子間位置にF-が導入されることで、F-伝導の活性化エネルギーが最適化されるためと推測される。
【0021】
本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料は、BaF2、SnF2、MFL(L=2~4であり、Mは、希土類元素もしくはイオン半径が0.8 Å以上の金属元素の少なくとも1種の元素)の、例えば、粉末を混合して焼成することにより得られる結晶体である。BaF2とSnF2との混合比率は、例えば、BaF2:SnF2 = 20:80~80:20であることが好ましく、より好ましくはBaF2:SnF2 = 40:60~70:30である。
【0022】
本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料は、Ba元素、Sn元素、M元素(Mは、希土類元素もしくはイオン半径が0.8 Å以上の金属元素の少なくとも1種である)およびF元素で構成される場合と、さらに、他の元素を含有する場合の双方を意味する。後者の場合、固体電解質材料を構成する全ての元素に対するBa元素、Sn元素、M元素およびF元素の合計の割合が、85 mol%以上であることが好ましく、95 mol%以上であることがより好ましい。なお、他の元素は、Ba元素、Sn元素、M元素およびF元素以外の元素であれば特に限定されない。
【0023】
本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料では、添加されるM元素の混合率が、BaF2に対して化学量論的に、例えば、1~30%の範囲内であることが好ましく、1~10%の範囲内であることがより好ましい。
【0024】
本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料で、M元素は、希土類元素もしくはイオン半径が0.8 Å以上の金属元素の少なくとも一種であっても良く、ランタノイドの少なくとも1種であっても良い。Mは、より価数の多いカチオンであることが望ましく、例えば、4価のカチオンであって良く、3価のカチオンであっても良く、2価のカチオンであって良い。すなわち、Lは4であっても良く、3であっても良く、2であっても良い。本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料で、Mのイオン半径は特に制限されないが、0.8 Å以上であることが好ましい。
【0025】
本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料は、Sn元素、A元素(Aはアルカリ土類金属)、M元素(Mは、希土類元素もしくはイオン半径が0.8 Å以上の金属元素の少なくとも1種である)およびF元素を含有する結晶相であり、蛍石型関連構造の結晶相を有することが好ましい。全結晶相における上記結晶相の割合は、例えば、50 mol%以上であり、70 mol%以上であっても良く、90 mol%以上であっても良い。特に、本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料は、上記結晶相を単相で有することが好ましい。
【0026】
本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料の製造方法で、焼成温度は特に制限されないが、例えば、150℃以上であっても良く、250℃以上であっても良い。また、600℃以下であっても良く、550℃以下であっても良い。焼成時間も特に制限されないが、30分以上であっても良く、1時間以上であっても良い。また、5時間以下であっても良く、4時間以下であっても良い。
【0027】
本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料は、X線回折測定において、2θ = 25.5°~26°の位置に回折ピークを有し、M元素(Mは、希土類元素もしくはイオン半径が0.8 Å以上の金属元素の少なくとも1種である)の添加により、回折ピークが低角側または高角側にシフトする材料であることが好ましい。
【0028】
本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料の形状は、特に限定されないが、例えば、粒子状等であることが挙げられる。固体電解質材料の平均粒径(D50)は、例えば0.1μm~200μmの範囲内であることが好ましく、0.01μm~50μmの範囲内であることがより好ましい。
【0029】
なお、本発明の実施の形態のフッ化物イオン電池に用いられる固体電解質材料は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された内容と実質的に同一な構成と同様な効果を有するものは、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0030】
以下に実施例を示す。本発明は、実施例に限定されない。
【実施例0031】
BaF2、SnF2、LaF3((株)高純度化学研究所社製)を原料とし、1.25(1-0.01x):1:0.01xの化学量論比で混合し、メノウ製の乳鉢・乳棒で15分間乾式混合した。上記xは、0 ~ 10である。異なる化学量論比で原料を混合して得られた材料を、0.2 gないし0.4 g取り、φ6 mmのペレッターに入れて、150 MPaで1分間押し固めた。
【0032】
φ10 mm×φ8 mmの反応管をエタノールで洗浄し、反応管の開口部を片方封じてからペレットを入れた。1分間の真空引きと窒素置換とを3回繰り返し、反応管内を窒素雰囲気として開口部を閉じ、密封した。
【0033】
ペレットを入れた反応管を電気炉に入れて加熱した。設定温度まで10 ℃ /minで加熱し、550℃で4時間保持し、その後炉内放冷した。炉内温度が室温まで下がった後、反応管を取り出して切断し、試料を取り出した。これにより固体電解質材料を得た。
【0034】
[比較例1]
BaF2、SnF2、LaF3((株)高純度化学研究所社製)を、1-0.01x:1:0.01xの化学量論比で混合した以外は、実施例1と同様にして固体電解質材料を得た。
【0035】
[比較例2]
BaF2、SnF2、LaF3((株)高純度化学研究所社製)を、1-0.01x:1:0.01xの化学量論比で混合し、焼成時間を30分とした以外は、実施例1と同様にして固体電解質材料を得た。
【0036】
[比較例3]
BaF2、SnF2、LaF3((株)高純度化学研究所社製)を、1-0.01x:1:0.01xの化学量論比で混合し、焼成温度を350℃とした以外は、実施例1と同様にして固体電解質材料を得た。
【0037】
[比較例4]
Mとして、Laよりもイオン半径の小さいYを用い、BaF2、SnF2、YF3 ((株)高純度化学研究所社製)を、1.25(1-0.01x):1:0.01xの化学量論比で混合した以外は、実施例1と同様にして固体電解質材料を得た。
【0038】
[比較例5]
BaF2よりもフレンケル欠陥生成エンタルピーが小さいSrF2を用い、SrF2、SnF2、LaF3 ((株)高純度化学研究所社製)を、1-0.01x:1:0.01xの化学量論比で混合した以外は、実施例1と同様にして固体電解質材料を得た。
【0039】
[評価]
(XRD測定)
実施例1および比較例1~5で得られた固体電解質材料に対して、粉末X線回折測定装置(Rigaku社製「SmartLab SE」)を用いて、粉末X線回折測定(粉末XRD測定)を行った。焼成したペレットをメノウ製乳鉢・乳棒で粉砕して測定した。Cu-Kα線を用い、測定条件は2θ=5~80°、スキャンのスピードは5°min-1、発散スリットは1/2、受光スリットはopen、電流値および電圧値は各々40 mA、50 kVとした。
【0040】
図1に、実施例1で得られた固定電解質材料に対する測定結果を示す。本実験は、BaF
2を過剰に混合した場合である。本結果によれば、La
3+のドープによって、2θ=25.5°~26°の回折ピークが高角側にシフトし、回折ピークのシフトはx = 6で最大である。これにより、La
3+のドープに伴って、格子定数がa軸とc軸の両方向で小さくなったことが確認された。イオン半径がBa
2+(1.42 Å) > La
3+(1.16 Å) > Sn
2+(0.81 Å)であることから、Ba
2+がLa
3+に一部置換されたと推測された。x = 8、10では、回折ピークのシフトは、x = 6のときと比べて低角側に戻っている。また、LaF
3原料に対応する回折ピークは見られなかった。これは、x = 8、10では、Ba
2+がLa
3+に一部置換されたものの、過剰なF
-が格子間位置を占める効果が、カチオンのイオン半径差によって格子定数が小さくなる効果を上回ったと推察された。
【0041】
図2から
図4に、比較例1から3で得られた固定電解質材料に対する測定結果を示す。本実験の結果によれば、異なる焼成条件でも、x ≦4では、2θ=25.5°~26°における回折ピークが低角側にシフトしていることがわかる。これより、La
3+のドープに伴って、格子定数がa軸とc軸の両方向で大きくなったことが確認された。イオン半径がBa
2+(1.42 Å) > La
3+(1.16 Å) > Sn
2+(0.81 Å)であることから、Sn
2+がLa
3+に一部置換されたと推測された。
【0042】
図5に、比較例4で得られた固定電解質材料に対する測定結果を示す。Y
3+のドープによって、2θ=25.5°~26°における回折ピークは低角側にシフトしていることがわかる。これより、Y
3+のドープによって、格子定数がa軸とc軸の両方向で大きくなったことが確認できる。また、YF
3原料の回折ピークが消失している。Ba
2+がY
3+に一部置換されたものの、過剰なF
-が格子間位置を占める効果が、カチオンのイオン半径差によって格子定数が小さくなる効果を上回ったと推察された。
【0043】
図6に、比較例5で得られた固定電解質材料に対する測定結果を示す。2θ=25.5°~26°の回折ピークは高角側にシフトしたことから、La
3+のドープにより、格子定数がa軸とc軸の両方向で小さくなったことが確認できる。また、LaF
3原料に対応する回折ピークが消失した。したがって、Sr
2+がLa
3+に一部置換されたことがわかる。x = 10ではSnO
2相を得たが、これは原料由来である。
【0044】
(RIR定量分析およびXRF元素分析)
表1に、比較例1から3についてのRIR定量の結果を示す。
【0045】
【0046】
表1に示すように、550℃焼成では、2~4%程度のドーパント濃度であれば単相で目的の固溶体が得られた。しかし、ドーパント濃度が6%より高い場合や350℃焼成の場合では単相を得られなかった。550℃焼成では、高濃度ドープでBa2LaF7相が生成したが、350℃焼成ではBaF2相が生成した。BaF2相は原料由来だと考えられる。また、高温ではBaF2がLaF3と反応してBa2LaF7相を生成したと考えられる。
【0047】
表2に、比較例1についてのXRF元素分析の結果を示す。
【0048】
【0049】
原料混合比から予測される試料の組成は、Ba1-0.01xLa0.01xSnF4+0.01xである。したがって、表2から、Ba2+の欠陥が試料中に存在していることが示された。なお、フッ素をはじめとする軽元素の正確な定量はXRFでは難しく、カチオンの欠陥や組成比を見るにとどまった。
【0050】
表3に、実施例1についてのRIR定量の結果を示す。
【0051】
【0052】
表3に示すように、全てのドーパント濃度で、100%近い収率であった。したがって、XRFでのカチオンの定量は正しく、今回得たBaSnF4相の組成は、Ba1-0.01xLa0.01xSnF4+0.01xであると考えられる。
【0053】
(フッ化物イオン伝導度測定)
実施例1および比較例1~5で得られた固体電解質材料に対して、交流インピーダンス法によるイオン伝導度測定を行った。
【0054】
焼成したペレット0.2 gないし0.4 gをメノウ製乳鉢で粉砕し、φ10 mmのペレッターに入れて180 MPaで加圧した。セルは、ペレット化した固体電解質材料を、内径10 mmのテフロン(登録商標)外筒をガイドとしてCu電極で挟むことで作製した。
【0055】
電気炉を150 ℃付近まで昇温させてからセルを電気炉内に設置した。温度を15分程度保った後、セルに5 Nの荷重を加えながら測定を開始し、測定は3分おきに10回繰り返した。得られたコールコールプロットは、交流インピーダンス解析ソフトウェア「ZView(Scribner社製)」を用いて、等価回路によるカーブフィッテングを行った。
【0056】
図7に、実施例1で得られた固体電解質材料の測定結果を示す。本結果によれば、La
3+濃度を0~10%まで変化させると、4%で活性化エネルギーが最小値を取り、室温でのイオン伝導度は最大になった。この値は、La
3+のドープなし時と比べて、約4倍の値であった。BaSnF
4のBa
2+を、低濃度のLa
3+で一部置換することで活性化エネルギーが減少し、イオン伝導度が向上することが確認できた。
【0057】
図8に、比較例4で得られた固体電解質材料の測定結果を示す。Y
3+のドープによって、回折ピークにシフトが起きているにもかかわらず、Y
3+濃度の増加に伴い活性化エネルギーが増加し、伝導度の改善は見られなかった。
【0058】
図9に、比較例5で得られた固体電解質材料の測定結果を示す。添加したLa
3+の濃度が2%のとき、活性化エネルギーが最小値を取り、室温でのイオン伝導度は最大になった。しかし、実施例1と比べると低いイオン伝導度であった。
【0059】
BaF2、SnF2、LaF3、もしくは、SrF2、SnF2、LaF3を原料として混合し、焼成することで得られた結晶体は、La3+を2~4%(x=2~4)ドープすることにより、活性化エネルギーが小さくなり、室温でのイオン伝導度も高くなることがわかった。室温でのイオン伝導度が高くなる効果は、BaF2を過剰にした状態でBaF2、SnF2、LaF3を混合し焼成して得られた結晶体で、La3+を4%ドープしたときに最も高くなるという結果が得られた。
【0060】
実施例1および比較例1~5の結果より、室温でのイオン伝導度向上の効果は、SrF2ではなくBaF2をSnF2と混合し、Y3+ではなくLa3+をドープした場合の方が高いことが確認できた。また、BaF2、SnF2、LaF3を混合する際の化学量論比は、1-0.01x:1:0.01x よりも、BaF2を過剰にした1.25(1-0.01x):1:0.01としたときの方がより効果があることが確認できた。