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  • 特開-消磁方法および消磁装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140760
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】消磁方法および消磁装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/03 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
H02K15/03 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052082
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】593074444
【氏名又は名称】株式会社鈴木商会
(71)【出願人】
【識別番号】523079624
【氏名又は名称】左右田 賢三
(74)【代理人】
【識別番号】100122242
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 多香子
(72)【発明者】
【氏名】左右田 賢三
(72)【発明者】
【氏名】菅原 道紀
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622CA02
5H622CA07
5H622CB05
5H622PP03
(57)【要約】
【課題】本願発明は、大型の電動機や発電機であっても、省エネルギーで確実に永久磁石の消磁を行うことができる消磁方法および消磁装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本願発明は、回転電機2に含まれる永久磁石212の消磁方法であって、回転電機2を構成するロータ21の主軸23が回転しないように固定した状態で、主軸23に高周波電流を印加し、ジュール熱および誘導熱により永久磁石212の消磁を行うことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機に含まれる永久磁石の消磁方法であって、
前記回転電機を構成するロータの主軸が回転しないように固定した状態で、前記主軸に高周波電流を印加し、ジュール熱および誘導熱により前記永久磁石の消磁を行うことを特徴とする消磁方法。
【請求項2】
前記主軸に設けられ前記回転電機を冷却する冷却ファンの回転を拘束することにより、前記主軸を固定することを特徴とする請求項1に記載の消磁方法。
【請求項3】
前記ジュール熱および誘導熱による加熱の後に、前記回転電機を急冷することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の消磁方法。
【請求項4】
前記永久磁石の消磁を不活性ガス雰囲気下で行うことにより、前記回転電機に含まれる導線の被覆材を熱分解して乾留ガスを得ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の消磁方法。
【請求項5】
前記回転電機は、発電機であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の消磁方法。
【請求項6】
前記回転電機は、電動機であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の消磁方法。
【請求項7】
永久磁石を有する回転電機を収容する耐熱収容器と、
高周波電流を発生する高周波電源装置とを有し、
前記耐熱収容器内に前記回転電機を収容し、前記回転電機を構成するロータの主軸が回転しないように固定した状態で、前記高周波電源装置により前記主軸に高周波電流を印加し、ジュール熱および誘導熱により前記永久磁石の消磁を行うことを特徴とする消磁装置。
【請求項8】
前記ロータの前記主軸が回転しないように固定する固定手段を有し、
前記固定手段は、前記主軸に設けられ前記回転電機を冷却する冷却ファンのファンブレード間に挿入し、前記冷却ファンの回転を拘束する棒状の挿入部材を有することを特徴とする請求項7に記載の消磁装置。
【請求項9】
前記耐熱収容器の下流側には、前記ジュール熱および誘導熱による加熱の後に、前記回転電機を急冷する冷却装置が設けられていることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の消磁装置。
【請求項10】
前記耐熱収容器内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段と、
前記不活性ガス雰囲気下で前記永久磁石の消磁を行うことにより、前記回転電機に含まれる導線の被覆材が熱分解して発生する乾留ガスを冷却して再生油を得るための気液分離装置とを有することを特徴とする請求項7または請求項8に記載の消磁装置。
【請求項11】
前記回転電機は、発電機であることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の消磁装置。
【請求項12】
前記回転電機は、電動機であることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の消磁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消磁方法および消磁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機は、産業機械、電気機器、自動車など様々な分野に用いられている。また、地球環境保護や省エネルギー化への関心の高まりから、電動機の中でも、高効率で高性能な希土類磁石を用いた永久磁石モータが、近年急速に普及している。さらには、希土類磁石を用いた発電機も、風力発電施設、水力発電機、ガスタービン発電機等のエネルギーシステムに利用されている。
【0003】
一般的に、使用済みの産業機械や電気機器等から有価資源を回収する場合、手作業による解体や、破砕機や細断機による破砕・細断を行った後に、磁力選別機や比重差分離などを利用して銅や鉄、プラスチック等を選別して回収を行っている。ところが、産業機械や電気機器等に含まれる希土類磁石を用いた電動機等については、希土類磁石が電磁鋼板やステンレスと磁力により強く結合しており、磁石固定用のモールド材も存在するため、解体しても手作業により効率よく磁石を取り除き、回収することが困難である。大型の電動機や発電機の場合は、希土類磁石による人体への影響も懸念される。また、電動機等を破砕機により破砕することも行われているが、希土類磁石が、破砕時に鉄屑や、破砕機の刃等に付着し、回収された鉄の品質に悪影響を及ぼしたり、破砕機の不調や故障の原因になったりしている。
【0004】
このため、使用済みの電動機や発電機の多くは、スクラップ業者に引き取られ、銅線が回収された後、鉄スクラップとして電炉メーカーで鉄回収に供されている。電炉メーカーでは、希土類磁石に用いられているネオジウム(Nd)元素、プラセジウム(Pr)元素、ジスプロシウム(Dy)元素、テリビウム(Tb)元素などのレアアースは回収されることなく、スラグとなっているのが現状である。
【0005】
しかしながら、希土類元素は、価格が高価であるばかりでなく、産出国も限られることから、資源の安定的な確保の観点からも、効率的なリサイクル処理方法が強く望まれている。そこで、電動機や発電機から有価金属やレアアースを回収するための前処理として、希土類磁石の消磁を行うことが検討されている。実用的な永久磁石の消磁方法としては、熱による方法と磁界による方法がある。
【0006】
磁界による方法は、永久磁石に着磁方向とは逆の磁界を印加して磁化を減少させて消磁する方法である。印加する最大磁界は、磁石の保磁力iHcの3倍程度が必要とされており、高い保磁力iHcを有する希土類磁石の消磁には、コンデンサに大量の電気を充電させコイルに電気を流しLC共振を生じさせて大きな磁界を印加する共振減衰消磁法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、大型風力発電施設に用いられる発電機等に含まれるような大きな希土類磁石を共振減衰消磁法により消磁するには、非常に大容量のコンデンサが必要になる。このため、共振減衰消磁法は、大きな希土類磁石の消磁には適さない。
【0008】
熱による方法は、強磁性体がキュリー温度以上では常磁性体となり、磁気を失うことを利用して消磁するものである。このような永久磁石の消磁方法としては、永久磁石を含む製品を加熱炉に投入し永久磁石の温度がキュリー温度以上になるように加熱し、その後冷却することにより消磁を行う方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
しかしながら、大型風力発電施設で用いられる発電機等に含まれるような大きな永久磁石を、加熱炉を用いて消磁するには、多大なエネルギーが必要である。
【0010】
そこで、モータのステータ巻線の端子間に高周波電圧を印加し、ロータコア等の導電材料に誘導電流を流してジュール熱を発生させ、この熱で永久磁石の消磁を行う方法が提案されている(例えば、特許文献3,4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2015-035558号公報
【特許文献2】特開2001-313210号公報
【特許文献3】特許第3835126号公報
【特許文献4】特許第4496413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献3,4の方法では、永久磁石のキュリー温度付近でステータ巻線の被覆材が燃焼して短絡が起こり、ロータコア等の導電材料に所望の誘導電流が流れず、永久磁石の消磁に必要な温度を維持することができないおそれがあった。
【0013】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、大型の電動機や発電機であっても、省エネルギーで確実に永久磁石の消磁を行うことができる消磁方法および消磁装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明による消磁方法は、回転電機に含まれる永久磁石の消磁方法であって、前記回転電機を構成するロータの主軸が回転しないように固定した状態で、前記主軸に高周波電流を印加し、ジュール熱および誘導熱により前記永久磁石の消磁を行うことを特徴とする。
【0015】
また、上述の消磁方法は、前記主軸に設けられ前記回転電機を冷却する冷却ファンの回転を拘束することにより、前記主軸を固定することが好ましい。
【0016】
また、上述の消磁方法は、前記ジュール熱および誘導熱による加熱の後に、前記回転電機を急冷することが好ましい。
【0017】
また、上述の消磁方法は、前記永久磁石の消磁を不活性ガス雰囲気下で行うことにより、前記回転電機に含まれる導線の被覆材を熱分解して乾留ガスを得ることが好ましい。
【0018】
上述の消磁方法は、前記回転電機が発電機であることが好ましい。
【0019】
また、上述の消磁方法は、前記回転電機が電動機であることも好ましい。
【0020】
上記課題を解決するために、本発明による消磁装置は、永久磁石を有する回転電機を収容する耐熱収容器と、高周波電流を発生する高周波電源装置とを有し、前記耐熱収容器内に前記回転電機を収容し、前記回転電機を構成するロータの主軸が回転しないように固定した状態で、前記高周波電源装置により前記主軸に高周波電流を印加し、ジュール熱および誘導熱により前記永久磁石の消磁を行うことを特徴とする。
【0021】
上述の消磁装置は、前記ロータの前記主軸が回転しないように固定する固定手段を有し、前記固定手段は、前記主軸に設けられ前記回転電機を冷却する冷却ファンのファンブレード間に挿入し、前記冷却ファンの回転を拘束する棒状の挿入部材を有することが好ましい。
【0022】
また、上述の消磁装置は、前記耐熱収容器の下流側に、前記ジュール熱および誘導熱による加熱の後に、前記回転電機を急冷する冷却装置が設けられていることが好ましい。
【0023】
また、上述の消磁装置は、前記耐熱収容器内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段と、前記不活性ガス雰囲気下で前記永久磁石の消磁を行うことにより、前記回転電機に含まれる導線の被覆材が熱分解して発生する乾留ガスを冷却して再生油を得るための気液分離装置とを有することが好ましい。
【0024】
上述の消磁装置は、前記回転電機が発電機であることが好ましい。
【0025】
また、前記回転電機が電動機であることも好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る消磁方法および消磁装置によれば、大型の電動機や発電機であっても、省エネルギーで永久磁石の消磁を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態に係る消磁装置の構造を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態に係る消磁装置を適用可能な回転電機の本体の構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る消磁方法および消磁装置の実施形態について説明する。図1は本実施形態に係る消磁方法を実施するための消磁装置の一例を示したものである。
【0029】
本実施形態に係る消磁装置1は、図1に示すように、永久磁石212(図2参照)を有する回転電機2を収容する耐熱収容器3と、高周波電流を発生する高周波電源装置とを有する。消磁装置1は、耐熱収容器3内に回転電機2を収容し、回転電機2を構成するロータ21(図2参照)の主軸23が回転しないように固定した状態で、主軸23に高周波電流を印加し、ジュール熱および誘導熱により永久磁石212の消磁を行うものである。
【0030】
耐熱収容器3は、永久磁石のキュリー温度を超える耐熱性を有していれば、特に限定はないが、鋼板を適宜溶接して成形され、その内外には耐熱材からなる耐熱層(図示しない)が設けられている。また、鋼板と耐熱層との間に断熱材からなる断熱層(図示しない)が設けられていることも好ましい。
【0031】
耐熱収容器3における、消磁工程の上流側側面には、回転電機2を投入するための入口扉31が設けられており、入口扉31と対向する面には、加熱処理後の回転電機2を取り出すための出口扉32が設けられている。耐熱収容器3は、入口扉31および出口扉32を閉めた状態では気密性を有している。
【0032】
ここで、回転電機2は、永久磁石212を有していれば、発電機であってもよいし発動機であってもよいが、本願発明による消磁装置1および消磁方法は、大型の回転電機2に好適に用いることができる。大型の回転電機2としては、例えば、風力発電、水力発電、ガスタービン発電に用いられる発電機、電気自動車やハイブリッド車に用いられるモータ等が挙げられる。
【0033】
このような回転電機2の本体としては、図2に示すものが例示される。回転電機2は、電磁鋼板を積層したロータコア211に複数の永久磁石212が埋め込まれたロータ21と、ステータコア221のティース222に巻き線223が巻かれたステータ22を有しており、巻き線223は3相Y結線となっている。磁化方向はロータ21の半径方向に平行で、周方向に隣り合う永久磁石212の磁化方向は互いに逆向きになっている。永久磁石212は、ステータ22の各挿入孔に、一つの永久磁石212片が埋め込まれていてもよいが、複数の永久磁石212片を積層した積層体が埋め込まれていてもよい。
【0034】
使用する永久磁石212は、希土類磁石であることが好ましく、ネオジム(Nd)系希土類焼結磁石であることがさらに好ましい。希土類磁石は他の磁石に比べて残留磁束密度、保磁力ともに格段に優れており、またネオジム(Nd)系希土類焼結磁石はサマリウム(Sm)系希土類焼結磁石より低コストで残留磁束密度も優れているので、高性能回転電機2には最適な磁石材料である。ネオジム(Nd)系希土類焼結磁石としては、鉄ネオジムボロン(Nd-Fe-B)系組成を有する焼結磁石が挙げられ、NdFe14B等が挙げられる。
【0035】
なお、ロータコア211に埋め込まれる永久磁石212の配置は、図2に示すものに限定されず、本発明の消磁装置1および消磁方法は、永久磁石212が様々な配置でロータコア211に埋め込まれた回転電機2に適用することができる。さらに、永久磁石212がロータコア211に埋め込まれたIPM(Interior Permanent Magnet)型の回転電機2のみならず、永久磁石がロータコアの側表面に設けられたSPM(Surface Permanent Magnet)型の回転電機にも適用することができる。
【0036】
消磁装置1は、高周波電源装置4を有している。高周波電源装置4は、特に限定されるものではないが、例えば、交流電源41の交流電力を直流に変換するコンバータ42と、直流リアクトル43及び直流コンデンサ44による平滑回路で平滑された直流電力を交流電力に変換する電圧形のインバータ45と、該インバータ45の出力電流を検出する変成器46と、この変成器46により検出した検出電流からインバータ45の出力周波数を検出し、PLL(フェースロックループ)回路47を介してインバータ45の出力周波数を制御する周波数制御回路48と、コンバータ42の出力を制御する出力制御回路49とから構成することができる。PLL回路47と周波数制御回路48とにより、インバータ45の出力周波数は主軸23からなる負荷回路の共振周波数に同期する制御が行われる。
【0037】
交流電源41は、100V,200Vの家庭用電源であってもよいが、440Vの工業用電源であっても問題はない。また高周波電流は、周波数が数kHzから40kHzが好ましく、10kHz程度であることがさらに好ましい。主軸23に印加する電力量は、高い程よいが、1MW程度が望ましい。
【0038】
高周波電源装置4には、回転電機2の主軸23に通電するための導線5が接続されており、導線5の先端には、導線5を主軸23に電気的に接続された状態で固定するためのクランプ6が設けられている。また、耐熱収容器3の近傍には、高周波電源装置4からの電源供給のON/OFF操作ボタンおよび非常停止ボタンを有する操作盤7が設けられている。
【0039】
消磁装置1は、ロータ21の主軸23が回転しないように固定する固定手段8を有することが好ましい。固定手段8は、例えば、回転電機2の主軸23の先端近傍に設けられ回転電機2を冷却する冷却ファン9の隣接するファンブレード91間に挿入する挿入部材81と、挿入部材81を支持する支持部材82とから構成することができる。支持部材82は、平板状の基部821と基部821の上面から略垂直に立設された棒状の垂直部822とを有し、挿入部材81は、垂直部822から略直角に折り曲げられ延設されている。挿入部材81および支持部材82は、金属で構成することが好ましい。
【0040】
固定手段8は、上記に限定されることはなく、例えば、主軸23または主軸23に締結されたボス(図示しない)に前処理として溶接される棒状の突出部(図示しない)と、突出部を係止させる係止部材(図示しない)と係止部材を支持する支持部材とから構成することができる。係止部材は上述の挿入部材81と、支持部材は上述の支持部材82と、それぞれ同様の構成とすることができる。
【0041】
耐熱収容器3の消磁工程下流側には、ジュール熱および誘導熱による加熱の後に、回転電機2を急冷する冷却装置10が設けられていることが好ましい。冷却装置10は、水が流れる配水管101と、配水管101の所定の位置に設けられ下方に向けて散水する複数のノズル102とを備えている。また、冷却装置10は、耐熱収容器3の出口扉32から取り出された回転電機2の上方に複数のノズル102が位置し、回転電機2全体に散水可能なように、配置されている。ノズル102の下方には、回転電機2に散水された水を回収して貯留する貯留槽103が設けられている。配水管101は貯留槽103に接続されており、配水管101の途中には、貯留槽103内の水を汲み上げるためのポンプ104が設けられている。これにより、ノズル102から散水される水が貯留槽103との間で循環されるようになっている。また、配水管101の途中に、水を冷却するための熱交換器(図示しない)を設けてもよく、貯留槽103の周面に冷水ジャケット(図示しない)を設けてもよい。
【0042】
消磁装置1は、耐熱収容器3内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段11を有することが好ましい。不活性ガスは、さらに、回転電機2のケーシング24に前処理として不活性ガスを供給するために開けられた供給孔12から、ケーシング24内に供給されることが好ましい。不活性ガス供給手段11は、不活性ガスを発生させる不活性ガス発生装置であってもよいし、不活性ガスが封入されたガスボンベであってもよい。不活性ガスは、供給管13を通して不活性ガス供給手段11から、回転電機2のケーシング24内や耐熱収容器3内に供給される。供給管13の途中には、不活性ガスの供給停止を制御する開閉弁14が設けられていてもよい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、炭酸ガス等を使用することができ、炭酸ガスを用いることが好ましい。
【0043】
永久磁石212の熱消磁を不活性ガス雰囲気下で行うことにより、消磁のための熱を利用して、ステータ22の巻き線223等の導線の被覆材を熱分解させ乾留ガスを発生させることができる。そのため、消磁装置1は、乾留ガスを冷却して再生油を得るための気液分離装置15を有することが好ましい。消磁の熱で乾留を行う前に、被覆材の熱分解で生成される油分の分解をさらに促進させるため、合成ゼオライト、天然ゼオライト、天然モルデナイト、貝類の貝殻、珊瑚の死骸、鍾乳石等を触媒として、回転電機2のケーシング24内に投入しておいてもよい。これにより、乾留ガスの冷却時に起こるコーキングを抑制することができる。なお、被覆材は、例えば、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、ポリベンゾイミダゾール、ポリエステルイミド、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂からなる。
【0044】
乾留ガスは、回転電機2のケーシング24に前処理として乾留ガスを排出するために開けられた排出孔16から、排出管17を通して排出され気液分離装置15へ送られる。乾留ガスは、吸引ファン18等の吸引手段により吸引して排出管17から排出することができる。また、回転電機2のケーシング24の下面に予め孔を開けておき、この孔から炭酸ガスや窒素ガス等をパージガスとして注入することにより乾留ガスをパージして排出管17から排出してもよい。
【0045】
気液分離装置15は、特に限定されるものではなく、従来の樹脂を熱分解して得られた乾留ガスから再生油を得るための処理装置を用いることができる。例えば、気液分離装置15は、乾留ガスを冷却するコンデンサ151と、コンデンサ151内に冷媒を循環させる冷媒循環装置152と、コンデンサ151で乾留ガスを冷却して得られた凝縮液を貯留し油分と水に分離する油水分離槽153と、油水分離槽153で分離された油分を回収する貯油タンク154と水を回収する水タンク155とで構成することができる。
【0046】
さらに、必要に応じて、コンデンサ151を通過したガスの脱臭を行う脱臭装置(図示しない)や、コンデンサ151を通過したガス中に塩化水素が含まれていた場合に、苛性ソーダ中和水を接触させて塩化水素を除去する処理塔(図示しない)を設けてもよい。
【0047】
コンデンサ151を通過するガスの主成分は、乾留ガスに含まれていた炭化水素ガスと乾留のために供給した不活性ガスである。そこで、コンデンサ151を通過したガスの排出経路に、不活性ガスを分離して回収するための分離手段19を設け、回収した不活性ガスを配管20を介して耐熱収容器3内や回転電機2のケーシング24内に供給するようにしてもよい。例えば、不活性ガスが窒素である場合は、分離手段19としては、窒素を透過するゼオライト膜を用いることができる。
【0048】
消磁装置1は、耐熱収容器3の入口扉31の前方から出口扉32の後方まで、回転電機2を載置して搬送させる金属製の搬送ローラ30を有していてもよい。
【0049】
本実施形態に係る消磁装置1を用いた消磁方法について説明する。まず、消磁を行う回転電機2を耐熱収容器3の入口扉31の前方の搬送ローラ30上に載置する。回転電機2が大型の場合は、ハンドクレーン(図示しない)等を用いて行うとよい。次に、ドリルを用いて、回転電機2のケーシング24の上面の所定の位置に、不活性ガスを供給するための供給孔12、および乾留ガスを排出するための排出孔16を開ける。次に、固定手段8の挿入部材81を冷却ファン9の隣接するファンブレード91間に挿入する。そして、回転電機2の主軸23の両端をそれぞれクランプ6で挟持して結線する。この状態で回転電機2を耐熱収容器3の入口扉31から耐熱収容器3内に移動させ、供給管13と供給孔12とを位置合わせするとともに、排出管17と排出孔16とを位置合わせする。その後、入口扉31を閉める。
【0050】
次に、不活性ガス供給手段11から供給管13を通じて供給孔12から回転電機2のケーシング24内に不活性ガスを供給する。このとき、供給管13の先端と供給孔12との隙間から耐熱収容器3内にも不活性ガスが供給される。ケーシング24内および耐熱収容器3内は不活性ガスで置換されることにより酸素が遮断される。
【0051】
次に、操作盤7を操作して、電源装置4をONにし、回転電機2の主軸23に高周波電流を印加する。すると、主軸23に電流が流れ、ジュール熱が発生する。これにより、ロータコア211や永久磁石212が加熱される。また、主軸23に電流が流れることにより、磁界の変動が生じている。ここで、ロータ21が回転しようとするが、固定手段8の挿入部材81に冷却ファン9のファンブレード91が当接して冷却ファン9の回転が拘束され、これに伴い主軸23が回転できなくなっている。このため、磁界の変動により、ロータコア211や永久磁石212、さらにはステータコア221や巻き線223に、誘導加熱の原理で誘導熱が発生する。これにより、ロータコア211や永久磁石212がさらに加熱される。このように、ジュール熱および誘導熱により永久磁石212の温度が上昇し、永久磁石212がキュリー温度以上に熱せられる。
【0052】
このとき、回
転電機2のケーリング内は、ほぼ無酸素状態又は希薄酸素状態であるため、ステータ22の巻き線223等の被覆材が乾留状態となり熱分解され、油分を主成分とする乾留ガスが発生する。また、被覆材の未分解物やタール等の残渣はケーシング24内の底にたまる。熱分解が終了した後、吸引ファン18を作動させる等することにより、排出管17から乾留ガスが排出され、コンデンサ151へ送られる。
【0053】
コンデンサ151に送られた乾留ガスは、コンデンサ151内で冷却され、凝縮した凝縮液が油水分離槽153に貯蓄される。凝縮液は、油水分離槽153で油分と水に分離された後、油分は貯油タンク154に回収され、水は水タンク155に回収される。回収された油分はそのまま燃料油として用いることもできるし、必要に応じて蒸留精製して用いることもできる。
【0054】
コンデンサ151を通過したガスは分離手段19により、不活性ガスが分離回収され、配管20を介して、ケーシング24や耐熱収容器3内に供給される。その他のガスは、大気中に放出して問題がない場合は放出してもよいし、必要に応じて、脱臭装置や処理塔で処理する。
【0055】
キュリー温度以上で所定の時間保持した後、回転電機2を耐熱収容器3の出口扉32から搬出し、冷却装置10のノズル102の下方まで移動させる。その後、ノズル102から散水し回転電機2を冷却する。これにより、回転電機2内の永久磁石212が消磁される。なお、散水された水は下方の貯留槽103で回収され、次の散水に利用される。
【0056】
本実施形態による消磁装置1および消磁方法によれば、回転電機2の主軸23に高周波電流を流すことにより主軸23に生じたジュール熱で永久磁石212を加熱するとともに、主軸23に高周波電流を流すことで生じた磁界の変動で発生した誘導熱でも永久磁石212を加熱して永久磁石212を消磁するため、大型風力発電施設で用いられる発電機等に含まれるような大きな永久磁石であっても、加熱炉で加熱するよりも省エネルギーで消磁することができる。また、回転電機2の主軸23に高周波電流を流すため、ステータ22の巻き線223の被覆が熱分解され巻き線223が短絡しても、主軸23にはジュール熱が発生し続けるとともに、永久磁石212やロータコア211、ステータコア221には誘導熱が発生し続けるため、永久磁石212の消磁に必要な温度を維持することができ、確実に消磁することができる。
【0057】
また、不活性ガス雰囲気下で加熱することにより、ステータ22の巻き線223の被覆材が燃焼してダイオキシンが発生するのを防止することができる。また、消磁のための熱を有効活用して、被覆材を乾留し、エネルギーや資源を回収することができる。
【0058】
本願発明による消磁方法および消磁装置は、次の態様を含む。
【0059】
[1] 回転電機に含まれる永久磁石の消磁方法であって、記回転電機を構成するロータの主軸が回転しないように固定した状態で、主軸に高周波電流を印加し、ジュール熱および誘導熱により永久磁石の消磁を行う消磁方法。
【0060】
[2] 主軸の先端に設けられ回転電機を冷却する冷却ファンの回転を拘束することにより、主軸を固定する[1]に記載の消磁方法。
【0061】
[3] ジュール熱および誘導熱による加熱の後に、回転電機を急冷する[1]または[2]に記載の消磁方法。
【0062】
[4] 永久磁石の消磁を不活性ガス雰囲気下で行うことにより、回転電機に含まれる導線の被覆材を熱分解して乾留ガスを得る[1]から[3]のいずれか一項に記載の消磁方法。
【0063】
[5]回転電機 は、発電機である[1]から[4]のいずれか一項に記載の消磁方法。
【0064】
[6]回転電機 は、電動機である[1]から[5]のいずれか一項に記載の消磁方法。
【0065】
[7]永久磁石を有する回転電機を収容する耐熱収容器と、高周波電流を発生する高周波電源装置とを有し、耐熱収容器内に回転電機を収容し、回転電機を構成するロータの主軸が回転しないように固定した状態で、高周波電源装置により主軸に高周波電流を印加し、ジュール熱および誘導熱により永久磁石の消磁を行う消磁装置。
【0066】
[8]ロータの主軸が回転しないように固定する固定手段を有し、固定手段は、主軸の先端に設けられ回転電機を冷却する冷却ファンを構成するファンブレードに当接させて冷却ファンの回転を拘束する棒状部材を有する[7] に記載の消磁装置。
【0067】
[9]耐熱収容器の下流側には、ジュール熱および誘導熱による加熱の後に、回転電機を急冷する冷却装置が設けられている[7]または[8]に記載の消磁装置。
【0068】
[10]耐熱収容器内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段と、不活性ガス雰囲気下で永久磁石の消磁を行うことにより、回転電機に含まれる導線の被覆材が熱分解して発生する乾留ガスを冷却して再生油を得るための気液分離装置とを有する[7]から[9]のいずれか一項に記載の消磁装置。
【0069】
[11]回転電機は、発電機である[7]から[10]のいずれか一項に記載の消磁装置。
【0070】
[12]回転電機は、電動機である[7]から[10]のいずれか一項に記載の消磁装置。
【符号の説明】
【0071】
1:消磁装置
2:回転電機
21:ロータ
211:ロータコア
212:永久磁石
22:ステータ
221:ステータコア
222:ティース
223:巻き線
23:主軸
24:ケーシング
3:耐熱収容器
4:高周波電源装置
8:固定手段
9:冷却ファン
91:ファンブレード
10:冷却装置
11:不活性ガス供給手段
12:供給孔
13:不純物処理装置
15:気液分離装置
151:コンデンサ
152:冷媒循環装置
153:油水分離槽
154:貯油タンク
155:水タンク
16:排出孔
図1
図2