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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140772
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】積層型電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/00 20060101AFI20241003BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20241003BHJP
   H01F 27/36 20060101ALI20241003BHJP
   H03H 7/01 20060101ALI20241003BHJP
   H03H 7/46 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01F27/00 S
H01F17/00 D
H01F27/36 157
H03H7/01 A
H03H7/46 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052098
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 祐輝
【テーマコード(参考)】
5E058
5E070
5J024
【Fターム(参考)】
5E058CC13
5E070AA05
5E070AB07
5E070AB08
5E070CB13
5J024AA01
5J024CA01
5J024CA02
5J024CA03
5J024CA10
5J024DA04
5J024DA29
5J024DA33
5J024DA34
5J024DA35
5J024EA01
5J024EA02
5J024EA03
5J024KA03
(57)【要約】
【課題】所望の特性を実現しながら小型化が可能な積層型フィルタ装置を実現する。
【解決手段】電子部品1は、インダクタL41,L42と、インダクタL21,L31と、シールド構造体80とを備えている。インダクタL21,L31,L41,L42の各々は、複数のインダクタ用導体層を含んでいる。複数のインダクタ用導体層は、積層体50の第1の面50Aに最も近い第1の導体層と、積層体50の第2の面50Bに最も近い第2の導体層とを含んでいる。シールド構造体80は、積層方向Tから見たときにインダクタL41,L42とインダクタL21,L31の間に配置されていると共に、インダクタL21,L31,L41,L42の各々の第2の導体層すなわち導体層733,735,736,737と、積層体50の第1の面50Aとの間に配置されている。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のインダクタと、
第2のインダクタと、
シールド構造体と、
前記第1のインダクタ、前記第2のインダクタおよび前記シールド構造体を一体化するための積層体であって、積層された複数の誘電体層を含む積層体とを備え、
前記積層体は、前記複数の誘電体層の積層方向の両端に位置する第1の面および第2の面を有し、
前記第1のインダクタと前記第2のインダクタの各々は、前記積層方向において互いに所定の間隔を開けて配置された複数のインダクタ用導体層を含み、
前記複数のインダクタ用導体層は、前記第1の面に最も近い第1の導体層と、前記第2の面に最も近い第2の導体層とを含み、
前記シールド構造体は、前記積層方向から見たときに前記第1のインダクタと前記第2のインダクタの間に配置されていると共に、前記積層方向において前記第2の導体層と前記第1の面との間に配置されていることを特徴とする積層型電子部品。
【請求項2】
前記第1のインダクタの前記第1の導体層と、前記第2のインダクタの前記第1の導体層は、前記積層方向において互いに異なる位置に配置されていることを特徴とする請求項1記載の積層型電子部品。
【請求項3】
前記第2のインダクタの前記第1の導体層は、前記第1のインダクタの前記第1の導体層よりも前記第1の面により近い位置に配置され、
前記シールド構造体は、前記第2の面に最も近い特定の導体を含み、
前記積層方向における前記第2のインダクタの前記第1の導体層と前記特定の導体との間隔は、前記積層方向における前記第1のインダクタの前記第1の導体層と前記特定の導体との間隔よりも小さいことを特徴とする請求項2記載の積層型電子部品。
【請求項4】
前記第1のインダクタと前記第2のインダクタの各々は、所定の方向に延在する軸の周りに巻回され、
前記シールド構造体は、前記所定の方向と交差する方向に延在する特定の導体を含むことを特徴とする請求項1記載の積層型電子部品。
【請求項5】
前記シールド構造体は、複数のスルーホールと、少なくとも1つのシールド用導体層とを含むことを特徴とする請求項1記載の積層型電子部品。
【請求項6】
更に、前記積層体の表面に設けられると共にグランドに接続されるグランド電極を備え、
前記シールド構造体は、前記グランド電極に電気的に接続されていることを特徴とする請求項1記載の積層型電子部品。
【請求項7】
更に、第1の信号端子と、
第2の信号端子と、
前記第1の信号端子に接続されると共に前記第1のインダクタを含む第1の回路と、
前記第2の信号端子に接続されると共に前記第2のインダクタを含む第2の回路とを備え、
前記第1の信号端子、前記第2の信号端子、前記第1の回路および前記第2の回路は、前記積層体に一体化されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の積層型電子部品。
【請求項8】
更に、前記積層体に一体化された共通端子を備え、
前記第1の回路は、回路構成上、前記共通端子と前記第1の信号端子との間に設けられ、
前記第2の回路は、回路構成上、前記共通端子と前記第2の信号端子との間に設けられ、
前記第1の回路と前記第2の回路は、分波器を構成することを特徴とする請求項7記載の積層型電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のインダクタを備えた積層型電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
小型移動体通信機器では、システムおよび使用周波数帯域が異なる複数のアプリケーションで共通に使用されるアンテナを設け、このアンテナが送受信する複数の信号を、分波器を用いて分離する構成が広く用いられている。
【0003】
一般的に、第1の周波数帯域内の周波数の第1の信号と、第1の周波数帯域よりも高い第2の周波数帯域内の周波数の第2の信号を分離する分波器は、共通ポートと、第1の信号ポートと、第2の信号ポートと、共通ポートから第1の信号ポートに至る第1の信号経路に設けられた第1のフィルタと、共通ポートから第2の信号ポートに至る第2の信号経路に設けられた第2のフィルタとを備えている。第1および第2のフィルタとしては、例えば、インダクタとキャパシタを用いて構成されたLC共振器が用いられる。
【0004】
近年、小型移動体通信機器の小型化、省スペース化が市場から要求されており、その通信機器に用いられる分波器の小型化も要求されている。小型化に適した分波器としては、積層された複数の誘電体層と複数の導体層とを含む積層体を用いたものが知られている。
【0005】
LC共振器に用いられるインダクタからは、漏洩磁束が発生する。これにより、第1のフィルタのインダクタと第2のフィルタのインダクタとの間の電磁界結合が強くなりすぎると、所望の特性を実現することができなくなる。
【0006】
特許文献1には、コイルパターンの周囲にシールド壁を設けた積層インダクタが開示されている。この積層インダクタでは、積層体の積層方向において、コイルの上端とシールド壁の上端が同じ位置に配置され、コイルの下端とシールド壁の下端が同じ位置に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-326517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、積層体を用いて構成された分波器において、2つのインダクタ間の結合を抑制するために、2つのインダクタ間に、特許文献1のようなシールド構造体を設けることを考える。分波器が小型化すると、2つのインダクタの各々とシールド構造体との間隔も小さくなる。この場合、2つのインダクタの各々とシールド構造体との間で浮遊容量が生じ、所望の特性を実現することができない場合があった。
【0009】
上記の問題は、分波器に限らず、複数のインダクタを備えた積層型電子部品全般に当てはまる。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、2つのインダクタ間にシールド構造体を設けながら、所望の特性を実現することが可能な積層型電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の積層型電子部品は、第1のインダクタと、第2のインダクタと、シールド構造体と、第1のインダクタ、第2のインダクタおよびシールド構造体を一体化するための積層体であって、積層された複数の誘電体層を含む積層体とを備えている。積層体は、複数の誘電体層の積層方向の両端に位置する第1の面および第2の面を有している。第1のインダクタと第2のインダクタの各々は、積層方向において互いに所定の間隔を開けて配置された複数のインダクタ用導体層を含んでいる。複数のインダクタ用導体層は、第1の面に最も近い第1の導体層と、第2の面に最も近い第2の導体層とを含んでいる。シールド構造体は、積層方向から見たときに第1のインダクタと第2のインダクタの間に配置されていると共に、積層方向において第2の導体層と第1の面との間に配置されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の積層型電子部品では、シールド構造体は、積層方向において第1および第2のインダクタの各々の第2の導体層と第1の面との間に配置されている。これにより、本発明によれば、所望の特性を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の回路構成の一例を示す回路図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の外観を示す斜視図である。
図3】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体における1層目ないし3層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図4】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体における4層目ないし6層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図5】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体における7層目ないし9層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図6】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体における10層目ないし13層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図7】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体における14層目ないし16層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図8】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体における17層目ないし19層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図9】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体における20層目ないし22層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図10】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体における23層目および24層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図11】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体の内部を示す斜視図である。
図12】本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品の積層体の内部を示す平面図である。
図13】本発明の一実施の形態における共通端子と第1の信号端子との間の通過減衰特性の一例を示す特性図である。
図14】本発明の一実施の形態における第1の信号端子の反射減衰特性の一例を示す特性図である。
図15】本発明の一実施の形態における共通端子と第2の信号端子との間の通過減衰特性の一例を示す特性図である。
図16】本発明の一実施の形態における第2の信号端子の反射減衰特性の一例を示す特性図である。
図17】本発明の一実施の形態における共通端子と第3の信号端子との間の通過減衰特性の一例を示す特性図である。
図18】本発明の一実施の形態における第3の信号端子の反射減衰特性の一例を示す特性図である。
図19】本発明の一実施の形態における共通端子の反射減衰特性の一例を示す特性図である。
図20】本発明の一実施の形態における第1の信号端子と第2の信号端子との間のアイソレーションの周波数特性の一例を示す特性図である。
図21】本発明の一実施の形態における第2の信号端子と第3の信号端子との間のアイソレーションの周波数特性の一例を示す特性図である。
図22】本発明の一実施の形態における第3の信号端子と第1の信号端子との間のアイソレーションの周波数特性の一例を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、図1を参照して、本発明の一実施の形態に係る積層型電子部品(以下、単に電子部品と記す。)1の構成の概略について説明する。図1は、電子部品1の回路構成の一例を示す回路図である。図1には、電子部品1の例として、分波器(トリプレクサ)を示している。
【0015】
電子部品1は、共通端子2と、第1の信号端子3と、第2の信号端子4と、第3の信号端子5と、グランド端子6,7とを備えている。第1の信号端子3は、第1の通過帯域内の周波数の信号を選択的に通過させる。第2の信号端子4は、第1の通過帯域よりも高い第2の通過帯域内の周波数の信号を選択的に通過させる。第3の信号端子5は、第2の通過帯域よりも高い第3の通過帯域内の周波数の信号を選択的に通過させる。グランド端子6,7は、グランドに接続される。
【0016】
電子部品1は、更に、第1のフィルタ回路10と、第2のフィルタ回路20と、第3のフィルタ回路30と、第4のフィルタ回路40とを備えている。第1のフィルタ回路10は、回路構成上、共通端子2と第1および第2の信号端子3,4との間に設けられている。第2のフィルタ回路20は、回路構成上、第1のフィルタ回路10と第1の信号端子3との間に設けられている。第3のフィルタ回路30は、回路構成上、第1のフィルタ回路10と第2の信号端子4との間に設けられている。第4のフィルタ回路40は、回路構成上、共通端子2と第3の信号端子5との間に設けられている。なお、本出願において、「回路構成上」という表現は、物理的な構成における配置ではなく、回路図上での配置を指すために用いている。
【0017】
第1のフィルタ回路10は、第1の通過帯域と第2の通過帯域を含むが第3の通過帯域を含まない周波数帯域の信号を選択的に通過させるように構成されたフィルタである。第2のフィルタ回路20は、第1の通過帯域を含むが第2の通過帯域を含まない周波数帯域の信号を選択的に通過させるように構成されたフィルタである。第3のフィルタ回路30は、第2の通過帯域を含むが第1の通過帯域を含まない周波数帯域の信号を選択的に通過させるように構成されたフィルタである。第4のフィルタ回路40は、第3の通過帯域を含むが第1の通過帯域と第2の通過帯域を含まない周波数帯域の信号を選択的に通過させるように構成されたフィルタである。
【0018】
第1および第2のフィルタ回路10,20の各々は、ローパスフィルタであってもよい。第3のフィルタ回路30は、ハイパスフィルタであってもよい。第4のフィルタ回路40は、ハイパスフィルタとローパスフィルタとを直列に接続することによって構成されたバンドパスフィルタであってもよい。
【0019】
電子部品1は、更に、共通端子2と第1の信号端子3とを接続する第1の経路と、共通端子2と第2の信号端子4とを接続する第2の経路と、共通端子2と第3の信号端子5とを接続する第3の経路とを備えている。第1および第2の経路は、共通端子2から第2のフィルタ回路20と第3のフィルタ回路30とが分岐する分岐点までは、同一の経路である。
【0020】
第1のフィルタ回路10は、第1および第2の経路の各々の一部を構成する経路に設けられている。第2および第3のフィルタ回路20,30は、第1のフィルタ回路10の後段に設けられている。第2のフィルタ回路20は、第1の経路に設けられている。第3のフィルタ回路30は、第2の経路に設けられている。第4のフィルタ回路40は、第3の経路に設けられている。
【0021】
共通端子2に入力された第1の通過帯域内の周波数の第1の信号は、第1の経路すなわち第1および第2のフィルタ回路10,20を選択的に通過して、第1の信号端子3から出力される。共通端子2に入力された第2の通過帯域内の周波数の第2の信号は、第2の経路すなわち第1および第3のフィルタ回路10,30を選択的に通過して、第2の信号端子4から出力される。共通端子2に入力された第3の通過帯域内の周波数の第3の信号は、第3の経路すなわち第4のフィルタ回路40を選択的に通過して、第3の信号端子5から出力される。このようにして、電子部品1は、第1ないし第3の信号を分離する。
【0022】
次に、図1を参照して、電子部品1の回路構成の一例について説明する。電子部品1は、更に、一端が共通端子2に接続されたインダクタL10を備えている。第1および第4のフィルタ回路10,40は、インダクタL10の他端に接続されている。
【0023】
第1のフィルタ回路10は、インダクタL11,L12,L13と、キャパシタC11,C12,C13とを含んでいる。インダクタL11の一端は、インダクタL10の他端に接続されている。インダクタL12の一端は、インダクタL11の他端に接続されている。インダクタL13の一端は、インダクタL12の他端に接続されている。
【0024】
キャパシタC11の一端は、インダクタL11とインダクタL12との接続点に接続されている。キャパシタC12の一端は、インダクタL12とインダクタL13との接続点に接続されている。キャパシタC11,C12の各他端は、グランド端子7に接続されている。キャパシタC13は、インダクタL12に対して並列に接続されている。
【0025】
第2および第3のフィルタ回路20,30は、第1のフィルタ回路10のインダクタL13の他端に接続されている。
【0026】
第2のフィルタ回路20は、インダクタL21,L22と、キャパシタC21,C22,C23とを含んでいる。インダクタL21の一端は、第1のフィルタ回路10のインダクタL13の他端に接続されている。インダクタL22の一端は、インダクタL21の他端に接続されている。インダクタL22の他端は、第1の信号端子3に接続されている。
【0027】
キャパシタC21の一端は、インダクタL21とインダクタL22との接続点に接続されている。キャパシタC22の一端は、インダクタL22の他端に接続されている。キャパシタC21,C22の各他端は、グランド端子7に接続されている。キャパシタC23は、インダクタL22に対して並列に接続されている。
【0028】
第3のフィルタ回路30は、インダクタL31,L32と、キャパシタC31,C32,C33とを含んでいる。キャパシタC31の一端は、第1のフィルタ回路10のインダクタL13の他端に接続されている。キャパシタC32の一端は、キャパシタC31の他端に接続されている。キャパシタC32の他端は、第2の信号端子4に接続されている。
【0029】
キャパシタC33の一端は、キャパシタC31の一端に接続されている。キャパシタC33の他端は、キャパシタC32の他端に接続されている。
【0030】
インダクタL31の一端は、キャパシタC31とキャパシタC32との接続点に接続されている。インダクタL32の一端は、キャパシタC32の他端に接続されている。インダクタL31,L32の各他端は、グランド端子7に接続されている。
【0031】
第4のフィルタ回路40は、インダクタL41,L42,L43,L44と、キャパシタC41,C42,C43,C44,C45,C46,C47,C48,C49,C50とを含んでいる。キャパシタC41の一端は、インダクタL10の他端に接続されている。キャパシタC42の一端は、キャパシタC41の他端に接続されている。キャパシタC43の一端は、キャパシタC42の他端に接続されている。
【0032】
キャパシタC44の一端は、キャパシタC41の一端に接続されている。キャパシタC44の他端は、キャパシタC42とキャパシタC43との接続点に接続されている。キャパシタC45の一端は、キャパシタC41とキャパシタC42との接続点に接続されている。キャパシタC45の他端は、キャパシタC43の他端に接続されている。キャパシタC46の一端は、キャパシタC41の一端に接続されている。キャパシタC46の他端は、キャパシタC43の他端に接続されている。
【0033】
インダクタL41の一端は、キャパシタC41とキャパシタC42との接続点に接続されている。インダクタL42の一端は、キャパシタC42とキャパシタC43との接続点に接続されている。インダクタL41,L42の各他端は、グランド端子7に接続されている。
【0034】
インダクタL43の一端は、キャパシタC43の他端に接続されている。インダクタL44の一端は、インダクタL43の他端に接続されている。インダクタL44の他端は、第3の信号端子5に接続されている。
【0035】
キャパシタC47の一端は、インダクタL43の一端に接続されている。キャパシタC48の一端は、インダクタL43とインダクタL44との接続点に接続されている。キャパシタC47,C48の各他端は、グランド端子6に接続されている。
【0036】
キャパシタC49は、インダクタL43に対して並列に接続されている。キャパシタC50は、インダクタL44に対して並列に接続されている。
【0037】
第4のフィルタ回路40において、インダクタL41,L42およびキャパシタC41~C46は、ハイパスフィルタを構成する。第4のフィルタ回路40において、インダクタL43,L44およびキャパシタC47~C50は、ローパスフィルタを構成する。
【0038】
次に、図2を参照して、電子部品1のその他の構成について説明する。図2は、電子部品1の外観を示す斜視図である。
【0039】
電子部品1は、更に、積層された複数の誘電体層と、複数の導体(複数の導体層および複数のスルーホール)とを含む積層体50を備えている。共通端子2、第1ないし第3の信号端子3~5、グランド端子6,7、第1ないし第4のフィルタ回路10,20,30,40、ならびにインダクタL10は、積層体50に一体化されている。
【0040】
積層体50は、複数の誘電体層の積層方向Tの両端に位置する第1の面50Aおよび第2の面50Bと、第1の面50Aと第2の面50Bを接続する4つの側面50C~50Fとを有している。側面50C,50Dは互いに反対側を向き、側面50E,50Fも互いに反対側を向いている。側面50C~50Fは、第2の面50Bおよび第1の面50Aに対して垂直になっている。
【0041】
ここで、図2に示したように、X方向、Y方向、Z方向を定義する。X方向、Y方向、Z方向は、互いに直交する。本実施の形態では、積層方向Tに平行な一方向を、Z方向とする。また、X方向とは反対の方向を-X方向とし、Y方向とは反対の方向を-Y方向とし、Z方向とは反対の方向を-Z方向とする。また、「積層方向Tから見たとき」という表現は、Z方向または-Z方向に離れた位置から対象物を見ることを意味する。
【0042】
図2に示したように、第1の面50Aは、積層体50における-Z方向の端に位置する。第1の面50Aは、積層体50の底面でもある。第2の面50Bは、積層体50におけるZ方向の端に位置する。第2の面50Bは、積層体50の上面でもある。側面50Cは、積層体50における-X方向の端に位置する。側面50Dは、積層体50におけるX方向の端に位置する。側面50Eは、積層体50における-Y方向の端に位置する。側面50Fは、積層体50におけるY方向の端に位置する。
【0043】
電子部品1は、更に、積層体50の第1の面50Aに設けられた電極111,112,113,114,115,116,117,118,119を備えている。電極111は、第1の面50Aと側面50Cと側面50Fが交差する位置に存在する角部の近傍に配置されている。電極113は、第1の面50Aと側面50Dと側面50Fが交差する位置に存在する角部の近傍に配置されている。電極115は、第1の面50Aと側面50Dと側面50Eが交差する位置に存在する角部の近傍に配置されている。電極117は、第1の面50Aと側面50Cと側面50Eが交差する位置に存在する角部の近傍に配置されている。
【0044】
電極112は、電極111と電極113との間に配置されている。電極114は、電極113と電極115との間に配置されている。電極116は、電極115と電極117との間に配置されている。電極118は、電極111と電極117との間に配置されている。電極119は、第1の面50Aの中央に配置されている。
【0045】
電極111は第2の信号端子4に対応し、電極113は第3の信号端子5に対応し、電極114はグランド端子6に対応し、電極115は共通端子2に対応し、電極116は第2の信号端子4に対応し、電極117は第1の信号端子3に対応している。グランド端子7は、電極112,116,118,119によって構成されている。従って、共通端子2、第1ないし第3の信号端子3~5ならびにグランド端子6,7は、積層体50の第1の面50Aに設けられている。
【0046】
次に、図3(a)ないし図10(b)を参照して、積層体50を構成する複数の誘電体層および複数の導体の一例について説明する。この例では、積層体50は、積層された24層の誘電体層を有している。以下、この24層の誘電体層を、下から順に1層目ないし24層目の誘電体層と呼ぶ。また、1層目ないし24層目の誘電体層を符号51~74で表す。
【0047】
図3(a)ないし図9(c)において、複数の円は複数のスルーホールを表している。誘電体層51~72の各々には、複数のスルーホールが形成されている。複数のスルーホールは、それぞれ、スルーホール用の孔に導体ペーストを充填することによって形成される。複数のスルーホールの各々は、電極、導体層または他のスルーホールに接続されている。以下の説明では、複数のスルーホールの各々と、電極、導体層または他のスルーホールとの接続関係については、1層目ないし24層目の誘電体層51~74が積層された状態における接続関係について説明している。
【0048】
また、図3(a)ないし図10(b)では、複数の導体層のうちの複数の特定の導体層と、複数のスルーホールのうちの複数の特定のスルーホールに、それぞれ符号を付している。
【0049】
図3(a)は、1層目の誘電体層51のパターン形成面を示している。誘電体層51のパターン形成面には、電極111~119が形成されている。
【0050】
図3(a)において符号51T2を付したスルーホールは、電極112に接続されている。なお、以下の説明では、符号52T2を付したスルーホールを、単にスルーホール52T2と記す。また、スルーホール52T2以外の符号を付したスルーホールについても、スルーホール52T2と同様に記す。
【0051】
図3(a)に示した2つのスルーホール51T6は、電極116に接続されている。スルーホール51T8,51T9は、それぞれ、電極118,119に接続されている。
【0052】
図3(b)は、2層目の誘電体層52のパターン形成面を示している。誘電体層52のパターン形成面には、それぞれ符号521,522,523,524を付した4つの導体層が形成されている。なお、以下の説明では、符号521を付した導体層を、単に導体層521と記す。また、導体層521以外の符号を付した導体層についても、導体層521と同様に記す。
【0053】
導体層521は、インダクタ用の導体層であり、導体層525に接続されている。導体層523は、導体層522に接続されている。図3(b)では、2つの導体層の境界を点線で示している。なお、これ以降の説明で使用される図3(b)と同様の図においても、2つの導体層の境界については、点線で示している。
【0054】
スルーホール51T2と図3(b)に示したスルーホール52T1は、導体層524に接続されている。スルーホール51T6,51T8と図3(b)に示したスルーホール52T2,52T3は、導体層525に接続されている。
【0055】
図3(c)は、3層目の誘電体層53のパターン形成面を示している。誘電体層53のパターン形成面には、インダクタ用の導体層531と、導体層532,533,534,535,536,537が形成されている。また、スルーホール52T1,52T2,52T3は、それぞれ、図3(c)に示したスルーホール53T1,53T2,53T3に接続されている。
【0056】
図4(a)は、4層目の誘電体層54のパターン形成面を示している。誘電体層54のパターン形成面には、インダクタ用の導体層541と、導体層542,543,544,545,546が形成されている。また、スルーホール53T1,53T3は、それぞれ、図4(a)に示したスルーホール54T1,54T3に接続されている。スルーホール53T2と図4(a)に示したスルーホール54T2は、導体層543に接続されている。
【0057】
図4(b)は、5層目の誘電体層55のパターン形成面を示している。誘電体層55のパターン形成面には、インダクタ用の導体層551と、導体層552,553,554,555,556,557が形成されている。導体層556は、導体層554に接続されている。また、スルーホール54T1,54T2,54T3は、それぞれ、図4(b)に示したスルーホール55T1,55T2,55T3に接続されている。
【0058】
図4(c)は、6層目の誘電体層56のパターン形成面を示している。誘電体層56のパターン形成面には、インダクタ用の導体層561,562と、導体層563,564,565,566,567,568,569が形成されている。また、スルーホール55T1,55T3は、それぞれ、図4(c)に示したスルーホール56T1,56T3に接続されている。スルーホール55T2と図4(c)に示したスルーホール56T2は、導体層569に接続されている。
【0059】
図5(a)は、7層目の誘電体層57のパターン形成面を示している。誘電体層57のパターン形成面には、インダクタ用の導体層571,572と、導体層573,574,575,576,577が形成されている。また、スルーホール56T1,56T2,56T3は、それぞれ、図5(a)に示したスルーホール57T1,57T2,57T3に接続されている。
【0060】
図5(b)は、8層目の誘電体層58のパターン形成面を示している。誘電体層58のパターン形成面には、インダクタ用の導体層581と、導体層582,583が形成されている。また、スルーホール57T1,57T2,57T3は、それぞれ、図5(b)に示したスルーホール58T1,58T2,58T3に接続されている。
【0061】
図5(c)は、9層目の誘電体層59のパターン形成面を示している。誘電体層59のパターン形成面には、インダクタ用の導体層591と、導体層592,593,594が形成されている。導体層591,592の各々は、導体層594に接続されている。また、スルーホール58T1,58T2,58T3は、それぞれ、図5(c)に示したスルーホール59T1,59T2,59T3に接続されている。
【0062】
図6(a)は、10層目の誘電体層60のパターン形成面を示している。誘電体層60のパターン形成面には、導体層601が形成されている。また、スルーホール59T1,59T2,59T3は、それぞれ、図6(a)に示したスルーホール60T1,60T2,60T3に接続されている。
【0063】
図6(b)は、11層目および12層目の誘電体層61,62の各々のパターン形成面を示している。スルーホール60T1,60T2,60T3は、それぞれ、誘電体層61に形成されたスルーホール61T1,61T2,61T3に接続されている。また、誘電体層61,62では、上下に隣接する同じ符号のスルーホール同士が互いに接続されている。
【0064】
図6(c)は、13層目の誘電体層63のパターン形成面を示している。誘電体層63のパターン形成面には、導体層631と、インダクタ用の導体層633,635が形成されている。また、誘電体層62に形成されたスルーホール61T1,61T2,61T3と、図6(c)に示したスルーホール63T1,63T2,63T3は、導体層631に接続されている。
【0065】
図7(a)は、14層目の誘電体層64のパターン形成面を示している。誘電体層64のパターン形成面には、導体層641と、インダクタ用の導体層643,645が形成されている。また、スルーホール63T1,63T2,63T3は、導体層641に接続されている。
【0066】
図7(b)は、15層目の誘電体層65のパターン形成面を示している。誘電体層65のパターン形成面には、インダクタ用の導体層654が形成されている。図7(c)は、16層目の誘電体層66のパターン形成面を示している。誘電体層66のパターン形成面には、インダクタ用の導体層663,664,665が形成されている。
【0067】
図8(a)は、17層目の誘電体層67のパターン形成面を示している。誘電体層67のパターン形成面には、導体層673,674,675が形成されている。図8(b)は、18層目の誘電体層68のパターン形成面を示している。誘電体層68のパターン形成面には、インダクタ用の導体層681,688が形成されている。図8(c)は、19層目の誘電体層69のパターン形成面を示している。誘電体層69のパターン形成面には、導体層691,693,695,696,697,698が形成されている。
【0068】
図9(a)は、20層目の誘電体層70のパターン形成面を示している。誘電体層70のパターン形成面には、インダクタ用の導体層701,702,703,705,706,707,708,709が形成されている。図9(b)は、21層目の誘電体層71のパターン形成面を示している。誘電体層71のパターン形成面には、導体層711,712,714,716,717,718,719が形成されている。図9(c)は、22層目の誘電体層72のパターン形成面を示している。誘電体層72のパターン形成面には、導体層721,722,723,724,725,726,727,728,729が形成されている。
【0069】
図10(a)は、23層目の誘電体層73のパターン形成面を示している。誘電体層73のパターン形成面には、インダクタ用の導体層731,732,733,734,735,736,737,738,739が形成されている。図10(b)は、24層目の誘電体層74のパターン形成面を示している。誘電体層74のパターン形成面には、マーク741が形成されている。
【0070】
図2に示した積層体50は、1層目の誘電体層51のパターン形成面が積層体50の第1の面50Aになり、24層目の誘電体層74のパターン形成面とは反対側の面が積層体50の第2の面50Bになるように、1層目ないし24層目の誘電体層51~74が積層されて構成される。
【0071】
図11は、1層目ないし24層目の誘電体層51~74が積層されて構成された積層体50の内部を示している。図11に示したように、積層体50の内部では、図3(a)ないし図10(a)に示した複数の導体層と複数のスルーホールが積層されている。なお、図11では、マーク741を省略している。
【0072】
以下、図1に示した電子部品1の回路の構成要素と、図3(b)ないし図10(a)に示した積層体50の内部の構成要素との対応関係について説明する。始めに、インダクタL10について説明する。インダクタL10は、インダクタ用の導体層562,572と、これらの導体層を接続するスルーホールとによって構成されている。
【0073】
次に、第1のフィルタ回路10の構成要素について説明する。インダクタL11は、インダクタ用の導体層681,691,701,711,721,731と、これらの導体層を接続する複数のスルーホールとによって構成されている。インダクタL12は、インダクタ用の導体層702,712,722,732と、これらの導体層を接続する複数のスルーホールとによって構成されている。インダクタL13は、インダクタ用の導体層571,581,591と、これらの導体層を接続する複数のスルーホールとによって構成されている。
【0074】
キャパシタC11は、導体層532,542と、これらの導体層の間の誘電体層53とによって構成されている。キャパシタC12は、導体層552,563,573と、これらの導体層の間の誘電体層55,56とによって構成されている。キャパシタC13は、導体層542,552,564と、これらの導体層の間の誘電体層54,55とによって構成されている。
【0075】
次に、第2のフィルタ回路20の構成要素について説明する。インダクタL21は、インダクタ用の導体層633,643,663,673,693,703,723,733と、これらの導体層を接続する複数のスルーホールとによって構成されている。インダクタL22は、インダクタ用の導体層654,664,674,714,724,734と、これらの導体層を接続する複数のスルーホールとによって構成されている。
【0076】
キャパシタC21は、導体層533,543,553と、これらの導体層の間の誘電体層53,54とによって構成されている。キャパシタC22は、電極117と導体層543と電極117と導体層543との間の誘電体層51~53によって構成される容量と、互いに近接する電極117と電極116,118,119との間に生じる浮遊容量とを含んでいる。キャパシタC23は、導体層553,565,574,582と、これらの導体層の間の誘電体層55~57とによって構成されている。
【0077】
次に、第3のフィルタ回路30の構成要素について説明する。インダクタL31は、インダクタ用の導体層635,645,665,675,695,705,725,735と、これらの導体層を接続する複数のスルーホールとによって構成されている。インダクタL32は、インダクタ用の導体層521,531,541,551,561と、これらの導体層を接続する複数のスルーホールとによって構成されている。
【0078】
キャパシタC31は、導体層592,601と、これらの導体層の間の誘電体層59とによって構成されている。キャパシタC32は、導体層583,593と、これらの導体層の間の誘電体層58とによって構成されている。キャパシタC33は、導体層575,583,592と、これらの導体層の間の誘電体層57,58とによって構成されている。
【0079】
次に、第4のフィルタ回路40の構成要素について説明する。インダクタL41は、インダクタ用の導体層696,706,716,726,736と、これらの導体層を接続する複数のスルーホールとによって構成されている。インダクタL42は、インダクタ用の導体層697,707,717,727,737と、これらの導体層を接続する複数のスルーホールとによって構成されている。
【0080】
インダクタL43は、インダクタ用の導体層688,698,708,718,728,738と、これらの導体層を接続する複数のスルーホールとによって構成されている。インダクタL44は、導体層709,719と、導体層709,719を接続する2つのスルーホールと、導体層568,709を接続する複数のスルーホールと、導体層577,709を接続する複数のスルーホールとによって構成されている。
【0081】
キャパシタC41は、導体層544,554と、これらの導体層の間の誘電体層54とによって構成されている。キャパシタC42は、導体層555,566と、これらの導体層の間の誘電体層55とによって構成されている。キャパシタC43は、導体層522,534,545,555,567,576と、これらの導体層の間の誘電体層52~56とによって構成されている。
【0082】
キャパシタC44は、導体層535,555と、これらの導体層の間の誘電体層53,54とによって構成されている。キャパシタC45は、導体層545,556と、これらの導体層の間の誘電体層54とによって構成されている。キャパシタC46は、導体層536,544と、これらの導体層の間の誘電体層53とによって構成されている。
【0083】
キャパシタC47は、導体層523,537と、これらの導体層の間の誘電体層52とによって構成されている。キャパシタC48は、導体層537,546と、これらの導体層の間の誘電体層53とによって構成されている。
【0084】
キャパシタC49は、導体層708,718と、これらの導体層の間の誘電体層70とによって構成されている。キャパシタC50は、導体層546,557,568,577と、これらの導体層の間の誘電体層54~56とによって構成されている。
【0085】
次に、図1ないし図12を参照して、本実施の形態に係る電子部品1の構造上の特徴について説明する。図12は、積層体50の内部を示す側面図である。
【0086】
電子部品1は、積層体50に一体化されたシールド構造体80を備えている。シールド構造体80は、グランドに接続される複数の導体によって構成されている。本実施の形態では、シールド構造体80は、導体層569,631,641と、スルーホール52T1~52T3,53T1~53T3,54T1~54T3,55T1~55T3,56T1~56T3,57T1~57T3,58T1~58T3,59T1~59T3,60T1~60T3,61T1~61T3,63T1~63T3とによって構成されている。
【0087】
シールド構造体80は、グランドに接続される電極112,116,118,119に電気的に接続されている。具体的には、シールド構造体80のスルーホール52T1は、導体層524およびスルーホール51T2を介して電極112に電気的に接続されている。シールド構造体80のスルーホール52T2,52T3は、導体層525およびスルーホール51T6,51T8,51T9を介して電極116,118,119に電気的に接続されている。
【0088】
シールド構造体80は、積層方向Tから見たときに、インダクタL21,L31とインダクタL41,L42との間に配置されている。インダクタL21,L31の各々は、本発明における「第2のインダクタ」に対応する。インダクタL41,L42の各々は、本発明における「第1のインダクタ」に対応する。
【0089】
インダクタL21は、積層方向Tにおいて互いに所定の間隔を開けて配置された複数のインダクタ用の導体層633,643,663,673,693,703,723,733を含んでいる。ここで、インダクタを構成する複数の導体層のうち、積層体50の第1の面50Aに最も近い位置に配置された導体層を第1の導体層と言い、積層体50の第2の面50Bに最も近い位置に配置された導体層を第2の導体層と言う。インダクタL31では、導体層633が第1の導体層に対応し、導体層733が第2の導体層に対応する。
【0090】
インダクタL31は、積層方向Tにおいて互いに所定の間隔を開けて配置された複数のインダクタ用の導体層635,645,665,675,695,705,725,735を含んでいる。インダクタL31では、導体層635が第1の導体層に対応し、導体層735が第2の導体層に対応する。
【0091】
インダクタL41は、積層方向Tにおいて互いに所定の間隔を開けて配置された複数のインダクタ用の導体層696,706,716,726,736を含んでいる。インダクタL41では、導体層696が第1の導体層に対応し、導体層736が第2の導体層に対応する。
【0092】
インダクタL42は、積層方向Tにおいて互いに所定の間隔を開けて配置された複数のインダクタ用の導体層697,707,717,727,737を含んでいる。インダクタL42では、導体層697が第1の導体層に対応し、導体層737が第2の導体層に対応する。
【0093】
シールド構造体80は、積層方向Tにおいて、インダクタL21,L31,L41,L42の各々の第2の導体層すなわち導体層733,735,736,737と、積層体50の第1の面50Aとの間に配置されている。
【0094】
インダクタL21,L31の各々の第1の導体層すなわち導体層633,635は、インダクタL41,L42の各々の第1の導体層すなわち導体層696,697よりも第1の面50Aにより近い位置に配置されている。
【0095】
シールド構造体80は、積層体50の第2の面50Bに最も近い特定の導体である導体層641を含んでいる。積層方向TにおけるインダクタL21,L31の各々の第1の導体層すなわち導体層633,635とシールド構造体80の導体層641との間隔は、積層方向TにおけるインダクタL41,L42の各々の第1の導体層すなわち導体層696,697とシールド構造体80の導体層641との間隔よりも小さい。本実施の形態では特に、シールド構造体80の導体層641は、積層方向Tにおいて、インダクタL21,L31の導体層633,635とインダクタL41,L42の導体層696,697との間に配置されている。
【0096】
インダクタL21,L31,L41,L42の各々は、積層方向Tに平行な方向に延在する軸の周りに巻回されている。シールド構造体80の導体層631,641の各々は、上記軸と交差する方向に延在している。本実施の形態では特に、導体層631,641の各々は、Y方向に平行な方向に延在している。
【0097】
次に、本実施の形態に係る電子部品1の作用および効果について説明する。本実施の形態では、シールド構造体80は、積層方向Tから見たときに、インダクタL21,L31とインダクタL41,L42との間に配置されると共に、積層方向TにおいてインダクタL21,L31,L41,L42の各々の第2の導体層すなわち導体層733,735,736,737と、積層体50の第1の面50Aとの間に配置されている。本実施の形態では特に、インダクタL21,L31の各々の第1の導体層すなわち導体層633,635は、インダクタL41,L42の各々の第1の導体層すなわち導体層696,697よりも第1の面50Aにより近い位置に配置されている。本実施の形態によれば、シールド構造体80によって、インダクタL21,L31の各々の漏洩磁束がインダクタL41,L42と磁気結合することを抑制することができる。
【0098】
また、本実施の形態によれば、積層方向Tにおいてシールド構造体80のうち積層体50の第2の面50Bに最も近い特定の導体がインダクタL21,L31,L41,L42の各々の第2の導体層と同じ位置に配置されている場合または第2の導体層よりも第2の面50Bにより近い位置に配置されている場合に比べて、インダクタL21,L31,L41,L42の各々とシールド構造体80との間に浮遊容量が発生することを抑制することができる。
【0099】
また、本実施の形態では、積層方向TにおけるインダクタL21,L31の各々の第1の導体層すなわち導体層633,635とシールド構造体80の導体層641との間隔は、積層方向TにおけるインダクタL41,L42の各々の第1の導体層すなわち導体層696,697とシールド構造体80の導体層641との間隔よりも小さい。従って、本実施の形態では、シールド構造体80の導体層641は、インダクタL41,L42の各々の第1の導体層すなわち導体層696,697よりも積層体50の第1の面50Aにより近い位置に配置されている。これにより、本実施の形態によれば、インダクタL41,L42の各々とシールド構造体80との間に浮遊容量が発生することをより効果的に抑制することができる。
【0100】
また、本実施の形態では、インダクタL41,L42の各々から第1の面50Aに向かって漏洩する漏洩磁束の大部分は、インダクタL21,L31の各々を構成する複数の導体層によって、インダクタL21,L31の各々の内側に入り込むことが妨げられる。これにより、本実施の形態によれば、インダクタL41,L42がインダクタL21,L31と磁気結合することを抑制することができる。
【0101】
また、本実施の形態では、第2のフィルタ回路20はインダクタL21を含み、第3のフィルタ回路30はインダクタL31を含み、第4のフィルタ回路40は、インダクタL41,L42を含んでいる。本実施の形態によれば、インダクタL21とインダクタL41,L42とが磁気結合することを抑制することができることから、第2のフィルタ回路20と第4のフィルタ回路40との間の不要な結合を抑制することができる。
【0102】
また、本実施の形態では、第2のフィルタ回路20は第1の信号端子3に接続され、第4のフィルタ回路40は第3の信号端子5に接続されている。本実施の形態によれば、第2のフィルタ回路20と第4のフィルタ回路40との間の不要な結合を抑制することによって、第1の信号端子3と第3の信号端子5との間のアイソレーションを十分に大きくすることができる。
【0103】
同様に、本実施の形態によれば、インダクタL31とインダクタL41,L42とが磁気結合することを抑制することができることから、第3のフィルタ回路30と第4のフィルタ回路40との間の不要な結合を抑制することができると共に、第3のフィルタ回路30が接続された第2の信号端子4と第3の信号端子5との間のアイソレーションを十分に大きくすることができる。
【0104】
図1に示した例では特に、第3のフィルタ回路30は、ハイパスフィルタである。また、インダクタL41,L42は、第4のフィルタ回路40のうちのハイパスフィルタを構成する。インダクタL31,L41,L42は、実質的に同一の機能を有している。本実施の形態によれば、同一の機能を有するインダクタ同士が結合して2つの回路間でクロストークが発生することを抑制することができる。
【0105】
以上のことから、本実施の形態によれば、シールド構造体80を設けながら、所望の特性を実現することができる。
【0106】
次に、本実施の形態に係る電子部品1の特性の一例について説明する。ここでは、比較例の電子部品の特性と比較しながら、本実施の形態に係る電子部品1の特性について説明する。比較例の電子部品の構成は、シールド構造体80が設けられていない点を除いて、本実施の形態に係る電子部品1の構成と同じである。従って、以下で説明する本実施の形態に係る電子部品1の特性と比較例の電子部の特性の違いは、シールド構造体80に起因するものである。
【0107】
始めに、第1の信号端子3に関わる特性について説明する。図13は、共通端子2と第1の信号端子3との間の通過減衰特性の一例を示す特性図である。図14は、第1の信号端子3の反射減衰特性の一例を示す特性図である。図13および図14において、横軸は周波数を示し、縦軸は減衰量を示している。また、図13および図14において、実線の曲線は本実施の形態に係る電子部品1の減衰量を示し、破線の曲線は比較例の電子部品の減衰量を示している。なお、これ以降の説明で使用する図13および図14と同様の図においても、本実施の形態に係る電子部品1の減衰量は実線で示し、比較例の電子部品の減衰量は破線で示す。
【0108】
図13において通過減衰量が0に近い値になる周波数領域は、第1の通過帯域を示している。図13から理解されるように、第1の通過帯域よりも高い周波数領域において、本実施の形態に係る電子部品1の通過減衰量は、比較例の電子部品の通過減衰量よりも大きくなっている。
【0109】
次に、第2の信号端子4に関わる特性について説明する。図15は、共通端子2と第2の信号端子4との間の通過減衰特性の一例を示す特性図である。図16は、第2の信号端子4の反射減衰特性の一例を示す特性図である。図15および図16において、横軸は周波数を示し、縦軸は減衰量を示している。図15において通過減衰量が0に近い値になる周波数領域は、第2の通過帯域を示している。図15から理解されるように、第2の通過帯域よりも高い周波数領域において、本実施の形態に係る電子部品1の通過減衰量は、比較例の電子部品よりも大きくなっている。
【0110】
次に、第3の信号端子5に関わる特性について説明する。図17は、共通端子2と第3の信号端子5との間の通過減衰特性の一例を示す特性図である。図18は、第3の信号端子5の反射減衰特性の一例を示す特性図である。図17および図18において、横軸は周波数を示し、縦軸は減衰量を示している。図17において通過減衰量が0に近い値なる周波数領域は、第3の通過帯域を示している。図18から理解されるように、第3の通過帯域内の周波数領域において、本実施の形態に係る電子部品1の反射減衰量は、比較例の電子部品よりも大きくなっている。
【0111】
次に、共通端子2に関わる特性について説明する。図19は、共通端子の反射減衰特性の一例を示す特性図である。図19において、横軸は周波数を示し、縦軸は減衰量を示している。図19から理解されるように、第3の通過帯域(図17参照)内の周波数領域において、本実施の形態に係る電子部品1の反射減衰量は、比較例の電子部品よりも大きくなっている。
【0112】
次に、アイソレーションについて説明する。2つの信号端子間のアイソレーションIは、2つの信号端子の一方に入力する高周波信号の電力P1と、2つの信号端子の他方から出力される信号の電力P2とを用いて、下記の式(1)によって算出することができる。
【0113】
I=10log(P2/P1) …(1)
【0114】
図20は、第1の信号端子3と第2の信号端子4との間のアイソレーションを示している。図21は、第2の信号端子4と第3の信号端子5との間のアイソレーションを示している。図22は、第3の信号端子5と第1の信号端子3との間のアイソレーションを示している。図20ないし図22において、横軸は周波数を示し、縦軸はアイソレーションを示している。また、図20ないし図22において、実線の曲線は本実施の形態に係る電子部品1のアイソレーションを示し、破線の曲線は比較例の電子部品のアイソレーションを示している。
【0115】
図20から理解されるように、第1の信号端子3と第2の信号端子4との間のアイソレーションは、本実施の形態に係る電子部品1と比較例の電子部品との間でほとんど差が無かった。図21から理解されるように、本実施の形態に係る電子部品1の、第2の信号端子4と第3の信号端子5との間のアイソレーションは、第3の通過帯域(図17参照)内の周波数領域において、比較例の電子部品よりも大きくなっている。図22から理解されるように、第1の通過帯域(図13参照)よりも高い周波数領域において、本実施の形態に係る電子部品1の、第3の信号端子5と第1の信号端子3との間のアイソレーションには、比較例の電子部品よりも大きなピークが形成されている。
【0116】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、本発明の積層型電子部品は、トリプレクサに限らず、ダイプレクサやクアッドプレクサ等の分波器であってもよい。
【0117】
また、積層体50の第2の面50Bに最も近いシールド構造体80の特定の導体は、積層方向Tにおいて、インダクタL21,L31の各々の第1の導体層すなわち導体層633,635と同じ位置にあってもよいし、導体層633,635よりも第2の面50Bにより近い位置にあってもよい。
【0118】
以上説明したように、本発明の積層型電子部品は、第1のインダクタと、第2のインダクタと、シールド構造体と、第1のインダクタ、第2のインダクタおよびシールド構造体を一体化するための積層体であって、積層された複数の誘電体層を含む積層体とを備えている。積層体は、複数の誘電体層の積層方向の両端に位置する第1の面および第2の面を有している。第1のインダクタと第2のインダクタの各々は、積層方向において互いに所定の間隔を開けて配置された複数のインダクタ用導体層を含んでいる。複数のインダクタ用導体層は、第1の面に最も近い第1の導体層と、第2の面に最も近い第2の導体層とを含んでいる。シールド構造体は、積層方向から見たときに第1のインダクタと第2のインダクタの間に配置されていると共に、積層方向において第2の導体層と第1の面との間に配置されている。
【0119】
本発明の積層型電子部品において、第1のインダクタの第1の導体層と、第2のインダクタの第1の導体層は、積層方向において互いに異なる位置に配置されていてもよい。第2のインダクタの第1の導体層は、第1のインダクタの第1の導体層よりも第1の面により近い位置に配置されていてもよい。シールド構造体は、第2の面に最も近い特定の導体を含んでいてもよい。積層方向における第2のインダクタの第1の導体層と特定の導体との間隔は、積層方向における第1のインダクタの第1の導体層と特定の導体との間隔よりも小さくてもよい。
【0120】
また、本発明の積層型電子部品において、第1のインダクタと第2のインダクタの各々は、所定の方向に延在する軸の周りに巻回されていてもよい。シールド構造体は、所定の方向と交差する方向に延在する特定の導体を含んでいてもよい。
【0121】
また、本発明の積層型電子部品において、シールド構造体は、複数のスルーホールと、少なくとも1つのシールド用導体層とを含んでいてもよい。
【0122】
また、本発明の積層型電子部品は、更に、積層体の表面に設けられると共にグランドに接続されるグランド電極を備えていてもよい。シールド構造体は、グランド電極に電気的に接続されていてもよい。
【0123】
また、本発明の積層型電子部品は、更に、第1の信号端子と、第2の信号端子と、第1の信号端子に接続されると共に第1のインダクタを含む第1の回路と、第2の信号端子に接続されると共に第2のインダクタを含む第2の回路とを備えていてもよい。第1の信号端子、第2の信号端子、第1の回路および第2の回路は、積層体に一体化されていてもよい。本発明の積層型電子部品は、更に、積層体に一体化された共通端子を備えていてもよい。第1の回路は、回路構成上、共通端子と第1の信号端子との間に設けられていてもよい。第2の回路は、回路構成上、共通端子と第2の信号端子との間に設けられていてもよい。第1の回路と第2の回路は、分波器を構成してもよい。
【符号の説明】
【0124】
1…電子部品、2…共通端子、3…第1の信号端子、4…第2の信号端子、5…第3の信号端子、6,7…グランド端子、10…第1のフィルタ回路、20…第2のフィルタ回路、30…第3のフィルタ回路、40…第4のフィルタ回路、50…積層体、50A…第1の面、50B…第2の面、50C~50F…側面、51~74…誘電体層、80…シールド構造体、111~119…電極、C11~C13,C21~C23,C31~C33,C41~C50…キャパシタ、L10~L13,L21,L22,L31,L32,L41~L44…インダクタ。
図1
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