(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140778
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】巻上機システムおよび巻上機の制御方法
(51)【国際特許分類】
B66F 19/00 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B66F19/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052107
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000129367
【氏名又は名称】株式会社キトー
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】IAT弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】西川 和弘
(57)【要約】
【課題】昇降スイッチを操作することなく、吊り上げたワークの昇降と姿勢の制御を容易に行うことが可能な巻上機システムおよび巻上機の制御方法を提供する。
【解決手段】第1巻上機と第2巻上機とによって、ワークを昇降させる巻上機システムであって、第1巻上機の第1制御手段は、吊り上げたワークの姿勢演算部で得た現在の姿勢情報と、第1張力演算部で得た現在の第1張力と、ワークの所定の姿勢における登録部に登録された値に基づき、第1駆動モータをトルク制御する。また、第2巻上機の第2制御手段は、吊り上げたワークの姿勢演算部で得た現在の姿勢情報と、第2張力演算部で得た現在の第2張力と、ワークの所定の姿勢における登録部に登録された値に基づき、第2駆動モータをトルク制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1線状部材が掛け回される第1巻上手段および当該第1巻上手段を駆動させる第1駆動モータを備える第1巻上機と、第2線状部材が掛け回される第2巻上手段および当該第2巻上手段を駆動させる第2駆動モータを備える第2巻上機を備え、これら第1巻上機と第2巻上機とによって、ワークを昇降させる巻上機システムであって、
前記第1巻上機に設けられ、前記ワークの一方側を吊り下げる前記第1線状部材に掛かる張力を算出する第1張力演算部と、前記第1線状部材で前記ワークを吊り下げる位置を算出する第1位置演算部とを有し、前記第1駆動モータの駆動を制御する第1制御手段と、
前記第2巻上機に設けられ、前記ワークの他方側を吊り下げる前記第2線状部材に掛かる張力を算出する第2張力演算部と、前記第2線状部材で前記ワークを吊り下げる位置を算出する第2位置演算部とを有し、前記第2駆動モータの駆動を制御する第2制御手段と、
を備え、
前記第1制御手段または/および前記第2制御手段は、
前記第1位置演算部および第2位置演算部で得られた位置情報から前記第1線状部材と前記第2線状部材で吊り上げた前記ワークの姿勢に関する姿勢情報を算出する姿勢演算部と、
前記第1張力演算部と前記第2張力演算部と前記姿勢演算部で算出した各値を登録する登録部とを有し、
前記第1制御手段は、吊り上げた前記ワークの前記姿勢演算部で得た現在の姿勢情報と、前記第1張力演算部で得た現在の第1張力と、前記ワークの所定の姿勢における前記登録部に登録された値に基づき、前記第1駆動モータをトルク制御すると共に、
前記第2制御手段は、吊り上げた前記ワークの前記姿勢演算部で得た現在の姿勢情報と、前記第2張力演算部で得た現在の第2張力と、前記ワークの所定の姿勢における前記登録部に登録された値に基づき、前記第2駆動モータをトルク制御する、
ことを特徴とする巻上機システム。
【請求項2】
請求項1記載の巻上機システムであって、
前記登録部は、前記ワークを異なる姿勢で吊り上げた際の前記第1張力演算部と前記第2張力演算部と前記姿勢演算部で算出した各値を登録する、
ことを特徴とする巻上機システム。
【請求項3】
請求項1記載の巻上機システムであって、
前記第1制御手段および前記第2制御手段を介して前記第1駆動モータおよび前記第2駆動モータの駆動を制御する操作スイッチを備え、
前記操作スイッチは、前記登録部が値を登録するタイミングを指令する登録スイッチを備えている、
ことを特徴とする巻上機システム。
【請求項4】
第1線状部材が掛け回される第1巻上手段および当該第1巻上手段を駆動させる第1駆動モータを備える第1巻上機と、第2線状部材が掛け回される第2巻上手段および当該第2巻上手段を駆動させる第2駆動モータを備える第2巻上機を備え、これら第1巻上機と第2巻上機とによって、共通のワークを昇降させ姿勢を制御するための巻上機の制御方法であって、
前記第1巻上機は、
前記ワークの一方側を吊り下げる前記第1線状部材に掛かる張力を算出する第1張力演算部と、
前記第1線状部材で前記ワークを吊り下げる位置を算出する第1位置演算部 と、
前記第1駆動モータの駆動を制御する第1制御手段と、を備え、
前記第2巻上機は、
前記ワークの他方側を吊り下げる前記第2線状部材に掛かる張力を算出する第2張力演算部と、
前記第2線状部材で前記ワークを吊り下げる位置を算出する第2位置演算部と、
前記第2駆動モータの駆動を制御する第2制御手段と、を備え、
前記第1線状部材と第2線状部材で吊り上げた前記ワークの姿勢に関する姿勢情報を算出し登録するステップと、該姿勢における前記第1張力演算部で得た第1張力および前記第2張力演算部で得た第2張力を登録するステップと、
前記第1制御手段および前記第2制御手段が、前記第1位置演算部で得た現在の位置情報と、前記第2位置演算部で得た現在の位置情報に基づき現在の前記ワークの姿勢に関する現在姿勢情報を算出するステップと、
前記第1制御手段が、吊り上げた前記ワークの前記姿勢演算部で得た現在の姿勢情報と、前記第1張力演算部で得た現在の第1張力と、前記ワークの所定の姿勢における前記登録部に登録された値に基づき、前記第1駆動モータをトルク制御すると共に、前記第2制御手段が、吊り上げた前記ワークの前記姿勢演算部で得た現在の姿勢情報と、前記第2張力演算部で得た現在の第2張力と、前記ワークの所定の姿勢における前記登録部に登録された値に基づき、前記第2駆動モータをトルク制御するステップと、
を備えることを特徴とする巻上機の制御方法。
【請求項5】
請求項4記載の巻上機の制御方法であって、
前記第1制御手段および/または前記第2制御手段が、前記登録部に登録された前記第1張力と前記第2張力と前記ワークの異なる姿勢における姿勢情報から、前記第1張力演算部と前記第2張力演算部で得られた張力を補正する係数を算出するステップを備えている、
ことを特徴とする巻上機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻上機システムおよび巻上機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
巻上機の中には、操作スイッチではなく、荷に手を当てつつ、荷に対して少しの力を作用させることにより、あたかも自分の手で重い荷を軽く持ち上げたり降ろしたりする感覚で、重い荷を昇降させる操作を行えるものがある。このような巻上機を複数用いて、例えば、長尺物等のワークを昇降させる例を、特許文献1および特許文献2に示す。特許文献1では、2つの巻上機を用いて、荷重分布が一様でない長尺のワークの昇降を可能とする構成を開示している。この特許文献1では、ワークが力計測手段に及ぼす「力の総和」を基に力目標値を力目標演算手段にて演算し、その力目標値や、演算された位置目標値に基づいて、各モータの駆動手段へ制御指令信号を出力して、巻上機の制御を行っている。
【0003】
また、特許文献2では、荷(31)を多点吊りしているそれぞれの電動チェーンブロック(11)において、各電動チェーンブロック(11)のチェーンの張力を荷重センサ(14)により検出している。そして、荷(31)が平衡状態にあるときの張力値(基準値)と人間の操作力が付加された張力値との差分値に基づいて各ステッピングモータ(12)をそれぞれ制御し、これにより荷(31)を人間が僅かな操作力で空間を移動可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6695134号公報
【特許文献2】特許第4103125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に示す構成では、その段落0034に記載のように、荷役物(1 6)の任意の位置において上下方向の外力を加えると、荷役物(16)の水平姿勢を保ったまま移動させることができる、としている。また、特許文献1の段落0034に記載のように、一方の巻上機と他方の巻上機の間で、高さの差(h)が存在することで荷役物(16)が初めから斜めになっている状態では、荷役物(16)の移動中に位置目標可変手段(19)により、高さの差(h)を可変させない限り、その高さの差(h)を保ちながら上下方向に移動させることを可能としている。
【0006】
しかしながら、例えば特定の装置の軸を軸穴に挿入する作業等においては、軸の一端側または他端側を大幅に、または微妙に上下動させながら、軸穴に対して軸の平行度を調整することになる。このような作業においては、特許文献1に開示の構成では、軸の一端側または他端側を上下動させる度に、位置目標可変手段(19)により、高さの差(h)を微妙に可変させる必要があり、実際の軸等の挿入作業に適したものではない。
【0007】
また、特許文献2に示す構成では、基本的には、位置制御でステッピングモータを制御しつつ、操作者がマニュアルスイッチ(25)やリリーススイッチ(16)がOFFとなったときに、荷重センサでの検出値を更新して、新たな平衡状態の基準値としている。このように、各種のスイッチのOFFの動作と、そのOFFのタイミングで荷重センサの検出値を新たな基準値として更新するため、上述したような、例えば特定の装置の軸を軸穴に挿入する作業等において、軸の一端側または他端側を上下動させながら、軸穴に対して軸の平行度を調整するような作業に適したものではない。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みなされたもので、長尺のワークにおける一端側または他端側を上下動させ、ワークを所定の高さに昇降させると共に所定の姿勢に変更し保持する動作を容易に行うことが可能な巻上機システムおよび巻上機の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点によると、第1線状部材が掛け回される第1巻上手段および当該第1巻上手段を駆動させる第1駆動モータを備える第1巻上機と、第2線状部材が掛け回される第2巻上手段および当該第2巻上手段を駆動させる第2駆動モータを備える第2巻上機を備え、これら第1巻上機と第2巻上機とによって、ワークを昇降させる巻上機システムであって、第1巻上機に設けられ、ワークの一方側を吊り下げる第1線状部材に掛かる張力を算出する第1張力演算部と、第1線状部材でワークを吊り下げる位置を算出する第1位置演算部とを有し、第1駆動モータの駆動を制御する第1制御手段と、第2巻上機に設けられ、ワークの他方側を吊り下げる第2線状部材に掛かる張力を算出する第2張力演算部と、第2線状部材でワークを吊り下げる位置を算出する第2位置演算部とを有し、第2駆動モータの駆動を制御する第2制御手段と、を備え、第1制御手段または/および第2制御手段は、第1位置演算部および第2位置演算部で得られた位置情報から第1線状部材と第2線状部材で吊り上げたワークの姿勢に関する姿勢情報を算出する姿勢演算部と、第1張力演算部と第2張力演算部と姿勢演算部で算出した各値を登録する登録部とを有し、第1制御手段は、吊り上げたワークの姿勢演算部で得た現在の姿勢情報と、第1張力演算部で得た現在の第1張力と、ワークの所定の姿勢における登録部に登録された値に基づき、第1駆動モータをトルク制御すると共に、第2制御手段は、吊り上げたワークの姿勢演算部で得た現在の姿勢情報と、第2張力演算部で得た現在の第2張力と、ワークの所定の姿勢における登録部に登録された値に基づき、第2駆動モータをトルク制御する、ことを特徴とする巻上機システムが提供される。
【0010】
また、上述の発明において、登録部は、ワークを異なる姿勢で吊り上げた際の第1張力演算部と第2張力演算部と姿勢演算部で算出した各値を登録する、ことが好ましい。
【0011】
また、上述の発明において、第1制御手段および第2制御手段を介して第1駆動モータおよび第2駆動モータの駆動を制御する操作スイッチを備え、操作スイッチは、登録部が値を登録するタイミングを指令する登録スイッチを備えている、ことが好ましい。
【0012】
また、本発明の第2の観点によると、第1線状部材が掛け回される第1巻上手段および当該第1巻上手段を駆動させる第1駆動モータを備える第1巻上機と、第2線状部材が掛け回される第2巻上手段および当該第2巻上手段を駆動させる第2駆動モータを備える第2巻上機を備え、これら第1巻上機と第2巻上機とによって、共通のワークを昇降させ姿勢を制御するための巻上機の制御方法であって、第1巻上機は、ワークの一方側を吊り下げる第1線状部材に掛かる張力を算出する第1張力演算部と、第1線状部材でワークを吊り下げる位置を算出する第1位置演算部と、第1駆動モータの駆動を制御する第1制御手段と、を備え、第2巻上機は、ワークの他方側を吊り下げる第2線状部材に掛かる張力を算出する第2張力演算部と、第2線状部材でワークを吊り下げる位置を算出する第2位置演算部と、第2駆動モータの駆動を制御する第2制御手段と、を備え、第1線状部材と第2線状部材で吊り上げたワークの姿勢に関する姿勢情報を算出し登録するステップと、該姿勢における第1張力演算部で得た第1張力および第2張力演算部で得た第2張力を登録するステップと、第1制御手段および第2制御手段が、第1位置演算部で得た現在の位置情報と、第2位置演算部で得た現在の位置情報に基づき現在のワークの姿勢に関する現在姿勢情報を算出するステップと、第1制御手段が、吊り上げたワークの姿勢演算部で得た現在の姿勢情報と、第1張力演算部で得た現在の第1張力と、ワークの所定の姿勢における登録部に登録された値に基づき、第1駆動モータをトルク制御すると共に、第2制御手段が、吊り上げたワークの姿勢演算部で得た現在の姿勢情報と、第2張力演算部で得た現在の第2張力と、ワークの所定の姿勢における登録部に登録された値に基づき、第2駆動モータをトルク制御するステップと、を備えることを特徴とする巻上機の制御方法が提供される。
【0013】
また、上述の発明において、第1制御手段および/または第2制御手段が、登録部に登録された第1張力と第2張力とワークの異なる姿勢における姿勢情報から、第1張力演算部と第2張力演算部で得られた張力を補正する係数を算出するステップを備えている、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、一つのワークを2台の巻上機でそれぞれ異なる2点で吊り上げてワークを上下動させ、ワークを所定の高さに昇降させると共に所定の姿勢に変更し保持する動作を容易に行うことが可能な巻上機システムおよび巻上機の制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る巻上機システムの制御的な全体構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す巻上機システムにおける巻上機のシリンダ操作装置の構成を示す図である。
【
図3】
図1に示す巻上機システムで用いられる操作スイッチの構成を示す図である。
【
図4】
図1に示す巻上機システムにおいて、傾斜角度、張力および位置情報の関係を示す図である。
【
図5】
図1に示す巻上機システムにおいて、共通制御補正係数を算出するためのフローである。
【
図6】
図5のフローに基づいて算出された共通制御補正係数を用いて、巻上機システムの2つの巻上機で、フロートモードにおける協調制御を行うためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態に係る巻上機システム1および巻上機10の制御方法について、図面に基づいて説明する。
【0017】
<1.巻上機システム1の構成について>
図1は、巻上機システム1の全体構成を示す概略的な図である。
図1に示すように、本実施の形態では、巻上機システム1には、2台の巻上機10が設けられている。以下の説明においては、それぞれの巻上機10を区別する必要がある場合には、巻上機10L,10Rと表記するが、例えば共通する構成の説明など、それぞれの巻上機10を区別する必要がない場合には、単に、巻上機10と表記する。なお、巻上機10Lは第1巻上機に対応し、巻上機10Rは第2巻上機に対応する。
【0018】
それぞれの巻上機10は、巻上機本体部20と、上フック30と、シリンダ操作装置150と、巻き上げ済みのロードチェーンC1を保持するチェーンバケット170とを有している。さらに、操作性を向上させるために、シリンダ操作装置150とは別体で操作スイッチ200も備えている。なお、巻上機10LのロードチェーンC1は第1線状部材に対応すると共に、巻上機10RのロードチェーンC1は第2線状部材に対応する。
【0019】
巻上機本体部20は、上フック30を介して、天井等に設置されたレール300上をフリーに走行するトロリ310に吊り下げることが可能となっている。この巻上機本体部20は、ハウジング21の内部に、各種の構成が収納されている。具体的には、ハウジング21の内部には、駆動モータ40と、減速機構50と、ブレーキ機構60と、ロードチェーンC1を巻き上げるロードシーブ70と、上限リミットスイッチ80と、下限リミットスイッチ81と、荷重センサ90と、制御部100と、ドライバ110と、送受信部120とが設けられている。
【0020】
なお、ロードチェーンC1とロードシーブ70に代えて、図示しないロープと巻き取りドラムからなる巻上機本体部とすることができる。この場合、巻き取り済みのロープは巻き取りドラムで保持するのでチェーンバケット170は不要となる。なお、この場合、例えば巻上機10Lといった第1巻上機のロードシーブ70および巻き取りドラムは、第1巻上手段に対応し、巻上機10Rといった第2巻上機のロードシーブ70および巻き取りドラムは、第2巻上手段に対応する。
【0021】
駆動モータ40は、ロードシーブ70を駆動する駆動力を与えるモータである。本実施の形態では、駆動モータ40は、位置(図示しないロータの回転位置)を検出するための検出器(エンコーダ41)を備えるサーボモータであり、その中でも交流サーボモータであることが好ましい。巻上機10L、10Rの制御部100は、それぞれエンコーダ41の出力信号を基にロードチェーンC1の繰り出し長さを算出し、ロードチェーンC1が連結するワークW1との連結点Lp、Rpの位置を算出する位置演算部102を有している。巻上機10L、10Rのそれぞれの位置演算部102は、第1位置演算部または第2位置演算部に対応する。なお、交流サーボモータとしては、同期モータが好ましいが、誘導形モータであっても良い。また、巻上機10Lの駆動モータ40は第1駆動モータに対応すると共に、巻上機10Rの駆動モータ40は第2駆動モータに対応する。
【0022】
また、減速機構50は、駆動モータ40の回転を減速して、ロードシーブ70側に伝達する部分である。また、ブレーキ機構60は、駆動モータ40の作動時には、電磁力によりブレーキ力を解放可能な部分であるものの、駆動モータ40が作動していない状態でも、ワークW1の荷重を保持するように、ブレーキ力を生じさせる部分である。
【0023】
ロードシーブ70は、ロードチェーンC1を巻き上げおよび巻き下げする部分であり、その外周に沿って、ロードチェーンC1の金属環が入り込むチェーンポケットが複数設けられている。
【0024】
上限リミットスイッチ80は、ロードチェーンC1の巻き上げにおける限界位置(機械的・構造的に設定された上限位置)を検出するためのスイッチである。また、下限リミットスイッチ81は、ロードチェーンC1の巻き下げ(繰り出し)における限界位置(機械的・構造的に設定された下限位置)を検出するためのスイッチである。
【0025】
荷重センサ90は、上フック30と巻上機本体部20を連結する部位に掛かる荷重を測定する荷重センサである。巻上機10L、10Rの制御部100は、荷重センサ90の検出値を基にロードチェーンC1にかかる張力を算出する張力演算部103をそれぞれ有している。荷重センサ90は、たとえば上フック30を巻上機本体部20に取り付けるための取付軸に取り付けられている。巻上機10L、10Rのそれぞれの張力演算部103は、第1張力演算部または第2張力演算部に対応する。
【0026】
また、巻上機10L、10Rの制御部100は、姿勢演算部104も有している。姿勢演算部104は、位置演算部102と共に姿勢に関するデータを算出する。巻上機10L、10Rのそれぞれの姿勢演算部104は、姿勢演算部に対応する。
【0027】
なお、荷重センサ90としては、歪みゲージを備えるロードセルを用いることができる。荷重センサ90の配置位置は、上記の他に、上フック30とクレーントロリの間、下フック160とワークW1の間、ロードチェーンC1の端末と下フック160の間など、ワークW1を吊り下げるロードチェーンC1に掛かる張力を算出するのに必要な情報を検出し制御部100に出力できる構成であればいずれでも良い。また荷重センサ90は、ロードセルの他、張力を直接測定するように下フック160とワークW1間に配置するクレーンスケールなどを流用することが可能であるが、測定結果を制御部100に出力し、バランサ制御に利用可能な精度と応答性を有するものである必要がある。また、荷重センサ90は、ロードシーブ70から駆動モータ40間でトルクを伝達する軸のトルクを測定する測定手段、あるいは駆動モータに駆動電力を出力するドライバ110などの電力変換装置に備えられた、電動モータ負荷情報を演算するモータ負荷演算手段を荷重センサ90に置き換えることが可能である。
【0028】
制御部100は、ドライバ110に対し、制御モード(速度制御モード、トルク制御モード)、位置、速度、トルク等の指令値を与える部分である。制御部100としては、たとえば、CPU(Central Processing Unit)、メモリ101(RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、内部ストレージ、外部記憶装置等)、入出力インターフェース等を備えるコンピュータが挙げられる。メモリ101には、後述するようなスイッチ動作モードと、フロートモードとで動作させるための制御プログラムが記憶されている。
【0029】
なお、巻上機10Lの制御部100およびドライバ110は第1制御手段に対応すると共に、巻上機10Rの制御部100およびドライバ110は第2制御手段に対応する。
【0030】
ここで、「フロートモード」とは、荷重センサ90の検出値の変動(すなわち基準値との差)を元に、駆動モータ40を駆動するドライバ110にトルク指令を出力し、巻上機10L,10Rの巻上げ下げを行うトルク制御をいう。したがって、ワークW1を操作者が手で把持して上下方向に押し上げまたは押し下げるなどすると、荷重センサ90の検出値が変動し、検出値と基準値を比較することで操作者の意図(指令)を制御部100が判断し、あたかも、その操作者の意図にワークW1を追従させるような制御を行うので、操作者は、巻上機10L,10R(駆動モータ40)の駆動によるアシストの元で、負荷を感じることなく、ワークW1を昇降させることが可能となっている。
【0031】
また、ドライバ110は、駆動モータ40の電流値とエンコーダ41の出力及び制御部100から与えられるモータ駆動制御のための指令値などに基づいて、外部から供給される電源を適切な電力にコントロールし、その電力を駆動モータ40に与えて当該駆動モータ40を回転させる部分である。また、エンコーダ41の出力信号を基にロードチェーンC1の繰り出し長さに対応する位置情報を制御部100に出力する。なお、本実施の形態では、駆動モータ40がサーボモータであるので、ドライバ110は、サーボドライバであり、速度制御モードとトルク制御モードを有し、制御部100の指令に基づき、速度制御またはトルク制御を選択的に実行するようになっているが、ドライバ110は、トルク制御機能だけ有しているものでも良く、あるいは位置制御機能とトルク制御機能を有するものでも良い。また、エンコーダ41の出力信号から制御部100がロードチェーンC1の繰り出し長さを算出し、ロードチェーンC1の下端の位置情報を算出するようにしても良い。
【0032】
また、送受信部120は、巻上機10Lと巻上機10Rとの間で、情報の送受信を行うための部分である。この送受信部120は、例えば有線または無線によって、巻上機10Lと巻上機10Rとの間で、情報のやり取りを可能としている。なお、かかる情報としては、巻上機10Lと巻上機10Rのそれぞれで検出される、エンコーダ41の出力信号から算出されるロードチェーンC1の繰り出し量やワークW1を吊り上げる連結点Lp、Rpの位置情報yL,yRや、位置情報から算出されるワークW1の姿勢情報(tanθ)や、登録部に登録された情報や、荷重センサ90で検出された値から算出されるロードチェーンC1の張力(荷重負荷)情報TL、TR、シリンダ操作装置150からの操作指令信号などが挙げられる。
【0033】
また、シリンダ操作装置150は、操作者が手で握った状態で操作を行うための操作装置であり、ロードチェーンC1の下端側に連結されている。また、シリンダ操作装置150には、ワークW1を連結点Lp、Rpで吊下げるための下フック160が連結されている。
図2は、シリンダ操作装置150の構成を示す図である。
図2に示すように、シリンダ操作装置150は、動作モード切替スイッチ151と、可動グリップ152と、変位センサ153とを備えている。
なお、操作装置としては、下フック160に連結された操作装置に限定されず、巻上機の本体部等からケーブルで吊り下げられた操作装置(ペンダントスイッチ)であっても良く、無線式リモコン装置であっても良い。
【0034】
動作モード切替スイッチ151は、駆動モータ40の動作モードを切り替えるためのスイッチであり、その動作モード切替スイッチ151のスイッチ信号が制御部100に出力される。本実施の形態では、動作モードには、スイッチ動作モードと、フロートモードの少なくとも2つが存在している。そして、動作モード切替スイッチ151を押すことで、制御部100は、駆動モータ40の動作モードを、スイッチ動作モードと、フロートモード、またはその他のモードに切り替えることが可能となっている。制御部100は、ドライバ110(サーボドライバ)に対し、スイッチ動作モードでは速度制御、フロートモードではトルク制御で駆動モータ40を制御するように速度制御指令またはトルク制御指令を出力する。巻上機10L、10Rの動作モード切替スイッチ151を同時に押すことで、単動モードから連動モードに切り替えるようにしている。また、動作モード切替スイッチ151が押されたことでフロートモードに切り換えられた際には、張力情報TL、TR、位置情報yL,yR等をメモリ101に記録し登録するタイミングとなっている。
【0035】
また、可動グリップ152は、スイッチ動作モードで動作する際に操作する部分である。この可動グリップ152は、上下方向にスライド可能に設けられていて、中立位置にバネ等の付勢手段により保持されており、中立位置から上側および下側に可動グリップ152を付勢手段に抗してスライドさせることができる。変位センサ153は、そのスライド量に応じた検出信号を、制御部100に出力する。それにより、制御部100は、上記の検出信号に基づいて、駆動モータ40の速度を制御する。なお、シリンダ操作装置150は操作装置に対応する。
【0036】
また、チェーンバケット170は、ロードシーブ70を挟んで下フック160とは反対側に存在する無負荷側(巻き取り済み)のロードチェーンC1を蓄え保持する部分である。
【0037】
また、本実施の形態の巻上機システム1は、
図3に示すような操作スイッチ200を有している。この操作スイッチ200は、巻上機選択スイッチ201と、ワーク選択スイッチ202と、第1登録スイッチ203と、第2登録スイッチ204と、第1スイッチ群205Lと、第2スイッチ群205Rとを有している。
【0038】
また、第1スイッチ群205Lおよび第2スイッチ群205Rは、巻上げスイッチ206L,206Rと、巻下げスイッチ207L,207Rと、フロートモード選択スイッチ208L,208Rと、停止スイッチ209L,209Rとを有している。
【0039】
巻上機選択スイッチ201は、それぞれの巻上機10について、単動か、または連動を選択するためのスイッチである。具体的には、巻上機選択スイッチ201において、「単動」側を選択すると、2台の巻上機10は単動モードに切り替えられ、それぞれのシリンダ操作装置150または操作スイッチ200の第1スイッチ群205Lまたは第2スイッチ群205Rの指令に基づき単独で動作する。「連動」側を選択すると、2台の巻上機10を同時に操作する。また、ワーク選択スイッチ202は、複数のワークW1の中から、登録すべきワークW1を選択するためのスイッチである。シリンダ操作装置150および操作スイッチ200は、それぞれ操作スイッチに対応する。
【0040】
また、第1登録スイッチ203は、後述するような、ワークW1のその時点の姿勢(傾斜角度θ0)に関するデータと張力TL0,TR0を登録する。姿勢に関するデータは、制御部100の位置演算部102と姿勢演算部104で算出される。位置演算部102では、エンコーダ41の出力信号がドライバ110で処理されたロードチェーンC1の繰り出し長さ情報から、連結点Lp、Rpの位置情報yL0、yR0を算出する。この位置情報を基に、姿勢演算部104が姿勢情報(tanθ0)を算出する。また、第2登録スイッチ204は、ワークW1を第1登録スイッチ203で登録した姿勢(傾斜角度θ0)とは異なる姿勢(傾斜角度θ1)になるように、ロードチェーンC1を所定量巻き上げ、変更した姿勢に関するデータとその際の張力TL1,TR1を登録する。姿勢に関するデータは、位置演算部102では、エンコーダ41の出力信号がドライバ110で処理されたロードチェーンC1の繰り出し長さ情報から、連結点Lp、Rpの位置情報yL1、yR1を算出する。この位置情報を基に、姿勢演算部104が姿勢情報(tanθ1)を算出する。なお、張力TL0は第1初期張力に対応し、張力TR0は第2初期張力に対応する。また、張力TL1は第1変更後張力に対応し、張力TR1は第2変更後張力に対応する。登録情報の登録部(メモリ101)は、巻上機10L、10Rの制御部100にそれぞれ有しているが、共通の登録情報を記録するメモリは、いずれか一方にのみ備え、送受信部120でデータを送受信するようにしても良い。
【0041】
また、第1スイッチ群205Lは、巻上機10Lを操作するためのスイッチ群であり、第2スイッチ群205Rは、巻上機10Rを操作するためのスイッチ群である。これらのスイッチの中で、巻上げスイッチ206L,206Rは、巻上機10L,10Rに巻上げ動作を実行させるためのスイッチである。また、巻下げスイッチ207L,207Rは、巻上機10L,10Rに巻下げ動作を実行させるためのスイッチである。
【0042】
また、フロートモード選択スイッチ208L,208Rは、押し込むことで、巻上機10L,10Rをフロートモードで動作させるためのスイッチである。また、停止スイッチ209L,209Rは、巻上機10L,10Rの作動を停止させるためのスイッチである。
【0043】
<2.フロートモードにおいてワークW1の重心位置を考慮しないで駆動モータ40の制御を行わない場合の問題について>
次に、フロートモードのトルク制御にて、一つのワークW1を2台の巻上機10L,10Rで吊り上げて駆動制御を行った場合の問題について、以下に説明する。
図4は、2台の巻上機10L,10Rを用いて、ワークW1を吊り下げていると共に、ワークW1が傾斜した状態における力のつり合いを示す図である。
図4では張力T
L,T
Rに対応する連結点Lp、Rpに働く反力と、ワークW1の重心に働く重力を矢印で示している。
【0044】
なお、張力T
L,T
Rは、巻上機10L,10Rの荷重センサ90の検出値から、それぞれ制御部100の張力演算部103が算出するロードチェーンC1の張力である。また、位置情報yL,yRは、巻上機10L,10Rのエンコーダ41の信号出力から、それぞれ制御部100の位置演算部102が算出する連結点Lp、Rpの位置情報(巻上機10L、10Rからの距離)である。なお、位置情報yL,yRは、
図4において、ロードチェーンC1の繰り出し長さと一致しているが、ロードチェーンC1の下端にはフック160以外にも、図示しない吊具を介在させてワークW1を吊り下げる場合がある。その場合は、
図1に示すような吊具(ワークW1の姿勢変化に拘束されない吊具)とワークW1の連結部位(連結点Lp、Rp)の位置情報yL,yRを、ロードチェーンC1の繰り出し長さと吊具の長さから位置演算部102が算出する。
【0045】
張力演算部103が、荷重センサ90の検出値から算出した張力T
L,T
Rに基づいて、駆動モータ40の駆動制御を行う状態において、
図4に示すように、例えば操作者の手等によって、長尺物であるワークW1の一端側を他端側に対して巻上機10Lのアシストのもとで昇降させて、ワークW1の傾斜角度θを変えて、ワークW1の角度調整を行ったとする。しかしながら、操作者によるワークW1の角度調整が終了して、操作者が手を離すと、せっかく角度調整を行ったにも拘わらず、ワークW1が初期の傾斜角度θ
0へと戻ってしまう。
【0046】
この要因を、
図4に基づいて説明する。
図4は、2台の巻上機10L,10Rを用いて、ワークW1を吊り下げていると共に、ワークW1が傾斜した状態を示す図である。
図4において、ワークW1の傾斜角度θが大きくなる場合、後述する(式4)および(式5)から、張力T
Lは大きくなり、張力T
Rは小さくなる。ここで、フロートモード(トルク制御モード)では、巻上機10Lおよび巻上機10Rは、基準とする張力を登録し、登録した張力と現在の張力を比較して巻上げ下げ停止の制御を行っている。基準とする張力を登録したときのワークW1の姿勢である傾斜角度θ
0の際の張力T
L0,T
R0を基準にして、巻上げ、巻下げ、停止保持するモータトルクM
L,M
Rを出力する。
【0047】
この状態において、
図4において、yRは変わらずに、yLが短くなると、傾斜角度θが大きくなる(
図4において時計回りに回動する)。すると、後述する(式4)および(式5)から、張力T
LはT
L0より大きくなり、張力T
RがT
R0より小さくなることが導き出される。ここで、初期姿勢である傾斜角度θ
0の際の張力T
L0,T
R0と、現在の張力T
L,T
Rとを比較すると、T
L>T
L0,T
R<T
R0となる。
【0048】
このため、巻上機10L側では、操作者がワークW1を下向きに押していると制御部100が判断し、ワークW1が下降するようにモータトルクM
Lを制御することになるので、ロードチェーンC1が巻下げられ、ワークW1の連結点Lp側が下がる。一方、巻上機10R側では、操作者がワークW1を上向きに押していると制御部100が判断し、ワークW1が上昇するようにモータトルクM
Rを制御することになるので、ロードチェーンC1が巻上げられ、ワークW1の連結点Rp側が上がる。このようにして、ワークW1は、
図4において反時計回りに回動させられてしまい、ワークW1の角度調整を行ったにも拘わらず、ワークW1が初期の傾斜角度θ
0へと戻ってしまう。ワークW1が初期の傾斜角度θ
0と一致すると張力T
L,T
Rは張力T
L0,T
R0と一致するので、制御部100はワークW1の昇降を停止させるためにワークW1を保持するモータトルクM
L,M
Rを出力するようにドライバ110に指令する。また、同様の理由により、操作者がワークW1の姿勢を変化させるには、傾斜角度を変化させるにつれて大きな操作力をワークW1に加える必要がある。
【0049】
このような問題を解決するために、本実施の形態では、後述するように、ワークW1の重心位置の情報に基づき、あるいは、重心位置情報が不明なワークW1については、巻上機10L、10RでワークW1を吊り上げることで、ワークW1の姿勢変動によるロードチェーンC1の張力の変動を算出するための、巻上機10L、10Rの制御部100で共通に使用するワークW1毎の共通制御補正係数αを算出し、この共通制御補正係数αに基づいて、巻上機10Lおよび巻上機10Rの制御を行っている。共通制御補正係数αは、張力を補正する係数に対応する。
【0050】
<3.共通制御補正係数αの算出するための計算式について>
次に、上述した構成の巻上機10において、共通制御補正係数αを算出するための計算式について、上記の
図4に基づいて説明する。
【0051】
巻上機10L,10Rの制御部100は、荷重センサ90の検出値を基に、張力演算部103でロードチェーンC1の張力T
Lと、張力T
Rを算出する。また、巻上機10L,10Rのドライバ110は、エンコーダ41の出力を基にロードチェーンC1の繰り出し長さを制御部100に出力し、位置演算部102は連結点Lp,Rpの位置情報yL,yRを算出する。連結点Lp,Rpは、ワークを吊下げる位置に対応し、巻上機10Lの制御部100の位置演算部102は、第1位置演算部に対応し、巻上機10Rの制御部100の位置演算部102は、第2位置演算部に対応する。連結点Lp、Rpの位置情報yL,yRは、
図4において、ロードチェーンC1の繰り出し長さと一致しているが、ワークW1の連結点Lp、RpとロードチェーンC1の下端との間にフック160以外にも種種の吊具を介在させることもある。その場合は、ロードチェーンC1の繰り出し長さ情報(検出値)とこれら吊具長さから位置演算部102が位置情報yL,yRを算出する。
【0052】
制御部100は、以下の(式1)~(式18)の演算を行うことにより、上記の共通制御補正係数αを算出するが、ワークW1の重量と重心位置とロードチェーンC1にかかる張力との関係について説明する。ワークW1の質量をM、重力加速度をgとすると、力のつり合い式は、以下の(式1)となる。
TL+TR=M・g …(式1)
【0053】
ワークW1の重心位置は、
図4に示すように、ワークW1の基準面(連結点LpとRpを含む平面で、連結点LpとRpを含む鉛直面と直交する平面)から距離hだけ下側に位置している。図に示す距離bのポイントは、重心Gから基準面に下した垂線の足となっている。連結点Rpを支点とすると、重力と連結点Lpのそれぞれに作用する力のつり合いより、以下の(式2)が成り立つ。Lは、連結点Lpと連結点Rpの間の距離で、θは、ワークW1の姿勢を表す傾斜角度である。(式2)における距離hは、
図4の基準面に対し下側方向を正とし上側方向を負としている。
T
L・L・cosθ=M・g(b・cosθ+h・sinθ) …(式2)
【0054】
ここで、(式2)を変形すると、張力TLは、(式3)のようになる。
TL=(M・g/L)・(b+h・tanθ) …(式4)
また、上記の(式4)と(式1)から、張力TRは、(式5)のようになる。
TR=M・g-TL=(M・g/L)・(L-b-h・tanθ) …(式5)
正接関数は、次の(式6)により求めることができる。
tanθ=(yR-yL)/{L2-(yR-yL)2}1/2 …(式6)
このように、ワークW1の吊り点間の距離Lに加えて、重心位置に関する情報(距離b、距離h)が予め分かっているワークを吊り上げる場合は、ワークW1の姿勢が変動してもロードチェーンC1に働く基準とする張力を算出でき、制御部100は、基準とする張力と現在の張力を比較することで、操作者の指令を判断することができる。
【0055】
次に、予め重心位置が分からない、あるいは重心位置情報用いずにワークW1の重量によりロードチェーンC1にかかる張力の算出方法について説明する。
まず、巻上機10L、10Rで吊り上げたワークW1の姿勢の変動に伴う張力TL、TRの変動情報を得るために、ロードチェーンC1を適宜巻き上げ下げして、ワークW1を異なる姿勢(傾斜角θ0、θ1)にして、連結点Lp、Rpの傾斜角θ0における位置情報yL0、yR0、傾斜角θ1における位置情報yL1、yR1と、ロードチェーンC1の傾斜角θ0における張力TL0、TR0、傾斜角θ1における張力TL1、TR1をそれぞれ測定し算出する。
【0056】
なお、θ0は初期姿勢におけるワークW1の傾斜角度、yL0は初期姿勢における巻上機10L側のロードチェーンC1の繰り出し長さから算出される連結点Lpの位置情報、yR0は初期姿勢における巻上機10R側のロードチェーンC1の繰り出し長さから算出される連結点Rpの位置情報を示している。また、θ1は初期姿勢から巻上機10LのロードチェーンC1を所定量巻上げて得られた変更後姿勢におけるワークW1の傾斜角度、yL1は変更後姿勢における巻上機10L側のロードチェーンC1の繰り出し長さから算出される連結点Lpの位置情報、yR1は変更後姿勢における巻上機10R側のロードチェーンC1の繰り出し長さから算出される連結点Rpの位置情報を示している。
【0057】
また、第1登録スイッチ203が押され、各値が登録された際のワークW1の姿勢を初期姿勢(傾斜角θ0)、第2登録スイッチ204が押され、各値が登録された際のワークW1の姿勢を変更後姿勢(傾斜角θ1)と呼んでいるが、初期姿勢を第1姿勢、変更後姿勢を第2姿勢としても良く、変更後姿勢の傾斜角θ1が傾斜角θ0より小さくても良い。
【0058】
ワークW1の2つの姿勢におけるロードチェーンC1にかかる張力は、(式4)、(式5)より以下の(式7)~(式10)のようになる。
TL0=(M・g/L)・(b+h・tanθ0) …(式7)
TR0=(M・g/L)・(L-b-h・tanθ0) …(式8)
TL1=(M・g/L)・(b+h・tanθ1) …(式9)
TR1=(M・g/L)・(L-b-h・tanθ1) …(式10)
【0059】
また、(式7)と(式9)、または(式8)と(式10)を用いると、上記の距離bと距離hが以下の式により求められる。
h=(TL1-TL0)L/{M・g・(tanθ1-tanθ0)} …(式11)
b=TL0・L/M・g-(TL1-TL0)・L・tanθ0/{M・g・(tanθ1-tanθ0)} …(式12)
ワークW1の重心位置情報(距離b、距離h)と(式1)、(式4)、(式5)によって、ワークW1の任意の姿勢(傾斜角度θ)におけるロードチェーンC1の張力TL、TRを求めることができる。
【0060】
これによって、重心位置の推定後に、任意の傾斜角度にて荷重センサ90で検出した荷重値から算出したTL,TRを、以下の(式13)、(式14)のように任意の傾斜角度における張力cTL,cTRに変換することができる。(式13)、(式14)は、傾斜角度θCにおいて荷重センサ90で検出し算出した荷重値TLC、TRCから傾斜角度θ0における張力に変換した張力cTL0、cTR0を算出するものとなっている。
cTL0=TLC-ΔTLC0=TLC-(M・g・h/L)・(tanθC-tanθ0) …(式13)
cTR0=TRC-ΔTRC0=TRC-(M・g・h/L)・(tanθC-tanθ0) …(式14)
【0061】
以上の(式13)、(式14)を整理すると、以下のようになる。
cTL0=TLC-α・(tanθC-tanθ0) …(式15)
cTR0=TRC+α・(tanθC-tanθ0) …(式16)
α=(TL1-TL0)/(tanθ1-tanθ0) …(式17)
【0062】
すなわち、(式17)で求められるαが、共通制御補正係数で、初期の傾斜角度θ0と、そのときの張力TL0、および初期姿勢の傾斜角度θ0から所定角度姿勢を変更した傾斜角度θ1と、そのときの張力TL1から求める。巻上機10L、10Rの制御部100で検出した、現在の連結点Lp、Rpの位置情報yLC、yRCと、ロードチェーンC1の張力TLC、TRCから、ワークW1の任意の傾斜角度におけるロードチェーンC1の張力を、重心位置情報(ワークWの質量M、距離h、距離b)を使用しなくても、算出することができる。
【0063】
なお、(式17)では、重心位置情報を用いずに共通制御補正係数αを算出する式となっているが、重心位置情報(距離h)を用いた共通制御補正係数αの式は、次式となる。
α=M・g・h/L=(TLC+TRC)・h/L …(式17´)
現在の張力と初期状態等の基準張力との差は、巻上機10L側では、α・(tanθC-tanθ0)となり、巻上機10R側では-α・(tanθC-tanθ0)となる。
また、(式15)、(式16)は、基準とする基準姿勢における張力に現在測定した張力を変換するためのものとなっているが、下記(式15´)、(式16´)によって、基準とする張力を現在の姿勢(傾斜角度θC)における張力cTLC、cTRCに変換できる。
cTLC=TL0-α・(tanθ0-tanθC) …(式15´)
cTRC=TR0+α・(tanθ0-tanθC) …(式16´)
【0064】
これらによって、ワークW1の姿勢が変動しても下記の式によって操作者の操作力(操作指定)を判別できる。
操作力HLC=TLC-cTLC…(式18)
操作力HL0=cTL0-TL0…(式19)
操作力HRC=TRC-cTRC…(式20)
操作力HR0=cTR0-TR0…(式21)
【0065】
制御部100は、次式の張力に対応するトルクを出力するようにドライバ110に、巻上機10Lではトルク指令ML、巻上機10Rではトルク指令MRを出力する。
ML=(cTLC-β・HL0)・r/i…(式22)
MR=(cTRC-β・HR0)・r/i…(式23)
上式において、rはロードシーブ70の半径、iは減速比や機械効率を含めた係数、βは操作力をアシストする係数である。
【0066】
ドライバ110は、トルク指令ML、MRを受け、必要な電力を駆動モータ40に出力し、ワークW1を昇降と姿勢変更と停止保持する。なお、(式22)、(式23)では、操作力に(式19)、(式21)で求めるHL0、HR0を用いているが、(式18)、(式20)で求めるHLC、HRCを用いても良い。また、cTLC、cTRCをTLC、TRCを用いるようにしても良いが、上式(式22)、(式23)を用いる方が操作性が良く好ましい。
【0067】
<4.共通制御補正係数αの算出するためのフローについて>
次に、上述した計算式を経て、(式19)のように得られる共通制御補正係数αを算出するための処理フローについて、
図5に基づいて説明する。
【0068】
まず、
図3に示す操作スイッチ200において、登録するワークW1の番号をワーク選択スイッチ202で選択する(ステップS01)。図示しないテンキー等を用いて、登録するワークW1の連結点LpとRp間の距離Lを入力する。本実施の形態では、ワーク選択スイッチ202を切り替えることによって、異なる3つのワークW1を登録することができるが、ワーク選択スイッチ202を切り替えることで登録できるワークW1の数は、幾つであっても良い。また、距離Lは、予めワーク選択スイッチに対応するメモリに登録済みとし、本ステップでは入力を省略できるのが良い。
【0069】
次に、巻上機選択スイッチ201を「単動」側を選択するように切り替える(ステップS02)。それにより、2つの巻上機10L,10Rは、別個独立して作動する状態となる。具体的には、第1スイッチ群205Lを操作すると、巻上機10Lの昇降動作を実行させることができ、第2スイッチ群205Rを操作すると、巻上機10Rの昇降動作を実行させることができる。
【0070】
次に、第1スイッチ群205Lの各スイッチ、および/または第2スイッチ群205Rの操作を行う(巻上げ、および/または巻下げを行う)ことで、ワークW1の初期姿勢(傾斜角度θ0)を作る(ステップS03)。初期姿勢は水平に近い姿勢とすることが好ましいが、任意の姿勢で良い。
【0071】
次に、第1登録スイッチ203を押して、初期姿勢(傾斜角度θ0)のときの張力TL0,TR0と、それぞれのロードチェーンC1の長さ(位置情報yL0,yR0)と、連結点Lpと連結点Rp間の距離Lとから、姿勢情報tanθ0を算出する(ステップS04)。このとき、算出された姿勢情報tanθ0はメモリ101に登録される。それにより、メモリ101には、上記の張力TL0,TR0、位置情報yL0,yR0および姿勢情報tanθ0とが記憶(登録)される。連結点Lp、Rpで異なる長さの吊り具を用いている場合は、予め吊具の長さを入力し、ロードチェーンC1の繰り出し長さと、入力値を考慮し連結点Lp、Rpを算出するが、吊り具を使わないか、同じ長さの吊り具を使ったものとし、以下の説明では省略する。
【0072】
次に、第1スイッチ群205Lの各スイッチ、および/または第2スイッチ群205Rの操作を行うことで、上記の初期姿勢(傾斜角度θ0)とは異なる、ワークW1の変更後の姿勢(傾斜角度θ1)を作る(ステップS05)。
【0073】
次に、第2登録スイッチ204を押して、変更後の姿勢(傾斜角度θ1)のときの張力TL1,TR1と、それぞれのロードチェーンC1の長さ(位置情報yL1,yR1)と、連結点Lpと連結点Rp間の距離Lとから、姿勢情報tanθ1を算出する(ステップS06)。このとき、算出された各値はメモリ101に登録される。すなわち、メモリ101には、上記の張力TL1,TR1、位置情報yL1,yR1および姿勢情報tanθ1とが記憶(登録)される。
【0074】
次に、スッテップS04,S06で記憶(登録)されたTL0,tanθ0,TL1およびtanθ1とから、共通制御補正係数αを算出し、算出された共通制御補正係数αをメモリ101に記憶させる(ステップS07;張力を補正する係数を算出するステップに対応)。
【0075】
<5.共通制御補正係数αを用いた、巻上機10L,10Rのフロートモードでの協調制御について>
続いて、上述の
図5のフローに基づいて算出された共通制御補正係数を用いて、巻上機システム1の巻上機10Lと巻上機10Rとで、フロートモードにおける協調制御を行う場合について、
図6のフローに基づいて説明する。
【0076】
まず、
図3に示す操作スイッチ200において、既に登録されているワークW1の中から、吊り上げるワークW1をワーク選択スイッチ202の中から選択する(ステップS11)。
【0077】
次に、巻上機選択スイッチ201を「単動」側を選択するように切り替えて、巻上げスイッチ206L、206Rを操作して吊り上げ対象のワークW1を吊り上げる(ステップS12)。このとき、2つの巻上機10L,10Rを、それぞれ独立して作動させることを基本とするが、連動させて同時に吊り上げるようにしても良い。
【0078】
次に、巻上機選択スイッチ201を「連動」側を選択するように切り替え、さらにフロートモード選択スイッチ208L,208Rを押す(ステップS13)。すると、制御部100は、ワーク選択スイッチ202の信号から記憶された協調フロート制御に必要なデータを読み込む。以後は、巻上機10L,10Rは、フロートモードでのトルク制御が開始される。巻上機選択スイッチ201が「連動」に切り替わっている間は、巻上機10L,10Rの制御部100間で「連動」制御に必要なデータが送受信部120によって随時送受信される。
【0079】
フロートモードが開始されると、最初に吊り上げているワークW1について、巻上機10Lの荷重センサ90の検出値から張力TLを算出すると共に、巻上機10Rの荷重センサ90の検出値から張力TRを算出する(ステップS14)。このとき、張力TLと張力TRの和がスッテップS05、S06でワーク選択スイッチ202に対応して記憶された張力の和(TL0+TR0またはTL1+TR1)と一致するか確認してから次のステップに進み、フロートモードでの駆動制御を開始するのが良い。
【0080】
次に、巻上機10L、10Rの制御部100は、それぞれ現在のロードチェーンC1の張力TLC、TRCを測定し算出すると共に、連結点Lp、Rpの位置情報yL、yRを測定し算出を継続して実行し、現在の張力TLC、TRCから、登録されている共通制御補正係数αを用いて基準姿勢での張力cTL0、cTR0を(式15)、(式16)で算出する。補正した張力とステップS04で登録済みの基準姿勢(初期姿勢)での基準張力TL0、TR0と比較し操作者の操作力(指令)HL、HRを算出する(ステップS15)。
【0081】
次に、制御部100は、登録されている共通制御補正係数αを用いて、基準張力TL0、TR0を現在のワークW1の姿勢(傾斜角度)での基準張力cTLC,cTRCに変換し、変換後の基準張力とつり合うモータトルクを出力するようにすると共に、操作者がワークW1を昇降および姿勢を変更しようとしている時には、操作力をアシストするように駆動モータ40の駆動を制御する(ステップS16;駆動モータ制御ステップに対応)。
つまり、巻上機10L、10Rの制御部100は、それぞれステップS15で得られた操作力に所定の係数(ゲイン)を乗算して得られた値に、(式15´)、(式16´)で得られた基準張力cTLC,cTRCを加算した張力に対応するモータトルクを出力するようにモータドライバ110にトルク指令を出力する。
【0082】
続いて、制御部100は、フロートモード(トルク制御モード)を継続するか否かを判断する(ステップS17)。この判断は、上述したフロートモード選択スイッチ208L,208Rが再び押し込まれたか否かで判断するようにしても良いが、別の要素、例えば停止スイッチ209L、209Rをトリガとして判断するようにしても良い。なお、この判断において、フロートモード(トルク制御モード)を継続すると判断される場合(Yesの場合)には、上述したステップS15へと戻り、現在の張力TLC、TRCおよびワークW1の傾斜角θCの正接関数tanθCを測定・算出する2台の巻上機10L、10Rで協調してワークW1の昇降と姿勢を制御する協調フロートモードを継続する。
【0083】
また、上記のステップS17において、フロートモード(トルク制御モード)を継続しないと判断される場合(Noの場合)には、上記のフローを終了する。すなわち、フロートモード(トルク制御モード)を解除して、巻上機10L,10Rの作動を停止させる(ステップS18)。フロートモードの解除後は、スイッチ操作モードに移行し、シリンダ操作装置150または操作スイッチ200からの巻上げ・巻下げ指令に基づく速度制御を実行数る。
【0084】
以上のようにして、共通制御補正係数αを用いて、巻上機システム1の巻上機10Lと巻上機10Rとで、フロートモードにおける協調制御がなされ、操作スイッチ200を操作することなく、操作者はワークW1を所定の高さと姿勢に制御することができる。
【0085】
<3.効果について>
【0086】
以上述べたように、本実施の形態における、巻上機10L(第1巻上機)と巻上機10R(第2巻上機)を備える巻上機システム1においては、ロードチェーンC1(第1線状部材)が掛け回されるロードシーブ70(第1巻上手段)および当該ロードシーブ70(第1巻上手段)を駆動させる駆動モータ40(第1駆動モータ)を備える巻上機10L(第1巻上機)と、ロードチェーンC1(第2線状部材)が掛け回されるロードシーブ70(第2巻上手段)および当該ロードシーブ70(第2巻上手段)を駆動させる駆動モータ40(第2駆動モータ)を備える巻上機10R(第2巻上機)を備えている。
【0087】
また、巻上機10L(第1巻上機)には制御部100(第1制御手段)が設けられているが、制御部100(第1制御手段)は、ワークW1の一方側を吊り下げるロードチェーンC1(第1線状部材)に掛かる張力を算出する張力演算部103(第1張力演算部)と、ロードチェーンC1(第1線状部材)でワークW1を吊り下げる位置を算出する位置演算部102(第1位置演算部)とを有し、駆動モータ40(第1駆動モータ)の駆動を制御する。また、巻上機10R(第2巻上機)には制御部100(第2制御手段)が設けられているが、制御部100(第2制御手段)は、ワークW1の一方側を吊り下げるロードチェーンC1(第2線状部材)に掛かる張力を算出する張力演算部103(第2張力演算部)と、ロードチェーンC1(第2線状部材)でワークW1を吊り下げる位置を算出する位置演算部102(第2位置演算部)とを有し、駆動モータ40(第2駆動モータ)の駆動を制御する。
【0088】
そして、巻上機10L(第1巻上機)の制御部100(第1制御手段)または/および巻上機10R(第2巻上機)の制御部100(第2制御手段)は、巻上機10L(第1巻上機)の位置演算部102(第1位置演算部)および巻上機10R(第2巻上機)の位置演算部102(第2位置演算部)で得られた位置情報から一方側のロードチェーンC1(第1線状部材)と他方側のロードチェーンC1(第2線状部材)で吊り上げたワークW1の姿勢に関する姿勢情報を算出する姿勢演算部104と、巻上機10L(第1巻上機)の張力演算部103(第1張力演算部)と巻上機10R(第2巻上機)の張力演算部103(第2張力演算部)と、姿勢演算部104で算出した各値を登録するメモリ101(登録部)とを有する。
【0089】
また、巻上機10L(第1巻上機)の制御部100(第1制御手段)は、吊り上げたワークW1の姿勢演算部104で得た現在の姿勢情報と、巻上機10L(第1巻上機)の張力演算部103(第1張力演算部)で得た現在の第1張力と、ワークW1の所定の姿勢におけるメモリ101(登録部)に登録された値に基づき、巻上機10Lの駆動モータ40(第1駆動モータ)をトルク制御する。この制御と共に、巻上機10R(第2巻上機)の制御部100(第2制御手段)は、吊り上げたワークW1の姿勢演算部104で得た現在の姿勢情報と、巻上機10R(第2巻上機)の張力演算部103(第2張力演算部)で得た現在の第2張力と、ワークW1の所定の姿勢におけるメモリ101(登録部)に登録された値に基づき、巻上機10Rの駆動モータ40(第2駆動モータ)をトルク制御する。
【0090】
このため、例えば長尺のワークW1が特定の装置の軸であり、そのワークW1を軸穴に挿入する作業等においては、そのワークW1を任意の位置と姿勢に変位させるために一端側または他端側を上下動させる動作を容易に行うことが可能となる。このため、ワークW1を2台の巻上機10L、10Rで吊り上げて、ワークW1を操作スイッチ200を用いずに昇降動作させると共に任意の姿勢に制御することが可能となる。
【0091】
加えて、上述したトルク制御に基づいて、巻上機10Lの駆動モータ40(第1駆動モータ)および巻上機10Rの駆動モータ40(第2駆動モータ)の駆動を制御している。このため、このため、操作者がワークW1を手で押すなどして任意の高さと任意の姿勢に変位させることが容易にできると共に、ワークW1の姿勢(角度)調整が終了して、操作者が手を離しても、ワークW1が初期の傾斜角度θ0へと戻ってしまうといった不具合が発生するのを防止可能となる。
【0092】
また、本実施の形態では、メモリ101(登録部)は、ワークW1を異なる姿勢で吊り上げた際の巻上機10L(第1巻上機)の張力演算部103(第1張力演算部)と巻上機10R(第2巻上機)の張力演算部103(第2張力演算部)と、姿勢演算部104で算出した各値を登録するようにすることができる。また、ワークW1の吊り上げている姿勢(傾斜角度)の変動による張力TL,TRの変動を補正する情報を事前に制御部100に入力する必要がなく、ワークW1の重心位置が不明なものでも、姿勢制御が可能となる。
【0093】
このようにすることで、メモリ101(登録部)に登録された各値に基づいて、巻上機10Lの駆動モータ40(第1駆動モータ)および巻上機10Rの駆動モータ40(第2駆動モータ)の駆動を制御することが可能となる。それによって、ワークW1を2台の巻上機10L、10Rで吊り上げて、ワークW1を操作スイッチ200を用いずに昇降動作させると共に任意の姿勢に制御することが可能となる。
【0094】
また、本実施の形態では、巻上機10L(第1巻上機)の制御部100(第1制御手段)および巻上機10R(第2巻上機)の制御部100(第2制御手段)を介して駆動モータ40(第1駆動モータおよび第2駆動モータ)の駆動を制御する操作スイッチ200を備え、操作スイッチ200は、メモリ101(登録部)が値を登録するタイミングを指令する登録スイッチ(第1登録スイッチ203または第2登録スイッチ204)を備える構成とすることができる。
【0095】
このようにすることで、複数のワークW1について登録することが可能となり、例えば異なる種類のワークW1についてフロートモードで軸合わせ等の作業を行う場合でも、ワークW1の種類毎に、操作者によるワークW1の微妙な角度調整を行うことができ、またその角度調整が終了して、操作者が手を離しても、ワークW1が初期の傾斜角度θ0へと戻ってしまうといった不具合が発生するのを防止可能となる。また、ワークW1の吊り上げている姿勢(傾斜角度)の変動による張力TL,TRの変動を補正する情報を事前に制御部100に入力する必要がなく、ワークW1の重心位置が不明なものでも、姿勢制御が可能となる。
【0096】
また、本実施の形態における、巻上機の制御方法は、巻上機10L(第1巻上機)のロードチェーンC1(第1線状部材)と巻上機10R(第2巻上機)のロードチェーンC1(第2線状部材)とで吊り上げたワークW1の姿勢に関する姿勢情報を算出し登録するステップ(ステップS04、ステップS06)と、該姿勢における、巻上機10L(第1巻上機)の張力演算部103(第1張力演算部)および巻上機10R(第2巻上機)の張力演算部103(第2張力演算部)で得た第2張力を登録するステップ(ステップS14)とを備える。さらに、巻上機10Lの制御部100(第1制御手段)および巻上機10Rの制御部100(第2制御手段)が、巻上機10L(第1巻上機)の位置演算部102(第1位置演算部)で得た現在の位置情報と、巻上機10R(第2巻上機)の位置演算部102(第2位置演算部)で得た現在の位置情報に基づき現在のワークW1の姿勢に関する現在姿勢情報を算出するステップ(ステップS15)とを備える。
【0097】
また、巻上機10L(第1巻上機)の制御部100(第1制御手段)が、吊り上げたワークW1の姿勢演算部104で得た現在の姿勢情報と、巻上機10L(第1巻上機)の張力演算部103(第1張力演算部)で得た現在の第1張力と、ワークW1の所定の姿勢におけるメモリ101(登録部)に登録された値に基づき、巻上機10Lの駆動モータ40(第1駆動モータ)をトルク制御する。この制御と共に、巻上機10R(第2巻上機)の制御部100(第2制御手段)が、吊り上げたワークW1の姿勢演算部104で得た現在の姿勢情報と、巻上機10R(第2巻上機)の張力演算部103(第2張力演算部)で得た現在の第2張力と、ワークW1の所定の姿勢におけるメモリ101(登録部)に登録された値に基づき、巻上機10Rの駆動モータ40(第2駆動モータ)をトルク制御するステップ(ステップS16)と、を備えている。
【0098】
このため、例えば長尺のワークW1が特定の装置の軸であり、そのワークW1を軸穴に挿入する作業等においては、そのワークW1を任意の位置と姿勢に変位させるために一端側または他端側を上下動させる動作を容易に行うことが可能となる。このため、ワークW1を2台の巻上機10L、10Rで吊り上げて、ワークW1を操作スイッチ200を用いずに昇降動作させると共に任意の姿勢に制御することが可能となる。
【0099】
加えて、上述したトルク制御に基づいて、巻上機10Lの駆動モータ40(第1駆動モータ)および巻上機10Rの駆動モータ40(第2駆動モータ)の駆動を制御している。このため、このため、操作者がワークW1を手で押すなどして任意の高さと任意の姿勢に変位させることが容易にできると共に、ワークW1の姿勢(角度)調整が終了して、操作者が手を離しても、ワークW1が初期の傾斜角度θ0へと戻ってしまうといった不具合が発生するのを防止可能となる。
【0100】
また、本実施の形態では、巻上機10L(第1巻上機)の制御部100(第1制御手段)および/または巻上機10R(第2巻上機)の制御部100(第2制御手段)が、メモリ101(登録部)に登録された第1張力と第2張力とワークW1の異なる姿勢における姿勢情報から、巻上機10L(第1巻上機)の張力演算部103(第1張力演算部)と、巻上機10R(第2巻上機)の張力演算部103(第2張力演算部)で得られた張力を補正する共通制御補正係数αを算出するステップ(ステップS07)を備えるようにすることができる。
【0101】
このようにする場合には、算出された共通制御補正係数αに基づいて、巻上機10Lの駆動モータ40(第1駆動モータ)および巻上機10Rの駆動モータ40(第2駆動モータ)の駆動を制御することが可能となる。それによって、ワークW1を2台の巻上機10L、10Rで吊り上げて、ワークW1を操作スイッチ200を用いずに昇降動作させると共に任意の姿勢に制御することが可能となる。また、ワークW1の吊り上げている姿勢(傾斜角度)の変動による張力TL,TRの変動を補正する情報を事前に制御部100に入力する必要がなく、ワークW1の重心位置が不明なものでも、姿勢制御が可能となる。
【0102】
<変形例>
以上、本発明の一実施の形態について説明したが、本発明はこれ以外にも種々変形可能となっている。以下、それについて述べる。
【0103】
上述の実施の形態では、線状部材は、ロードチェーンC1としている。しかしながら、線状部材は、ロードチェーンC1には限られず、ワイヤロープであっても良い。この場合には、巻上機は、ロープホイストに対応することとなる。
【0104】
(変形的な実施の形態)
上述したステップS01において、登録するワークW1の連結点LpとRp間の距離Lを入力するとしているが、距離Lに対し距離hが小さくない場合、ワークW1の初期姿勢(傾斜角度θ0)と姿勢変動後(傾斜角度θ1)におけるロードチェーンC1の繰り出し長さ情報とロードチェーンC1の張力情報を得ているのに加え、初期姿勢(傾斜角度θ0)と姿勢変更後(傾斜角度θ1)とは異なる第2の姿勢変更後(傾斜角度θ2)におけるロードチェーンC1の繰り出し長さ情報とロードチェーンC1の張力情報を得ることで、(式13)と(式11´)の連立方程式を解くことで、連結点LpとRp間の距離Lを距離hと共に算出することができ、距離Lの入力を省略することができる。
h=(TL2-TL0)L/{M・g・(tanθ2-tanθ0)} …(式11´)
【符号の説明】
【0105】
1…巻上機システム、10…巻上機、10L…巻上機(第1巻上機に対応)、10R…10R…巻上機(第2巻上機に対応)、20…巻上機本体部、21…ハウジング、30…上フック、40…駆動モータ(第1駆動モータまたは第2駆動モータに対応)、41…エンコーダ(第1長さ検出手段または第2長さ検出手段に対応)、50…減速機構、60…ブレーキ機構、70…ロードシーブ(第1巻上手段または第2巻上手段に対応)、80…上限リミットスイッチ、81…下限リミットスイッチ、90…荷重センサ(第1張力検出手段の一部または第2張力検出手段の一部に対応)、100…制御部(第1制御手段または第2制御手段の一部、第1張力検出手段の一部または第2張力検出手段の一部に対応)、101…メモリ(登録部に対応)、102…位置演算部(第1一円残部駆動モータまたは第2駆動モータに対応)、103…張力演算部、104…姿勢演算部、
110…ドライバ(第1制御手段または第2制御手段の一部に対応)、120…送受信部、150…シリンダ操作装置、151…動作モード切替スイッチ、152…可動グリップ、153…変位センサ、160…下フック、170…チェーンバケット、200…操作スイッチ、201…巻上機選択スイッチ、202…ワーク選択スイッチ、203…第1登録スイッチ、204…第2登録スイッチ、205L…第1スイッチ群、205R…第2スイッチ群、206L,206R…巻上げスイッチ、207L,207R…巻下げスイッチ、208L,208R…フロートモード選択スイッチ、209L,209R…停止スイッチ、C1…ロードチェーン(第1線状部材または第2線状部材に対応)