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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140797
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】AOD炉のライニング構造
(51)【国際特許分類】
   F27D 1/00 20060101AFI20241003BHJP
   C21C 7/072 20060101ALI20241003BHJP
   F27B 3/14 20060101ALI20241003BHJP
   F27B 3/22 20060101ALI20241003BHJP
   F27D 3/16 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F27D1/00 N
C21C7/072 J
F27B3/14
F27B3/22
F27D3/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052135
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】波多江 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】王丸 善太
(72)【発明者】
【氏名】成子 毅
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴史
(72)【発明者】
【氏名】岸本 光功
【テーマコード(参考)】
4K013
4K045
4K051
4K055
【Fターム(参考)】
4K013CA09
4K013CA21
4K013CF19
4K045AA06
4K045BA02
4K045DA09
4K045RA16
4K051AA02
4K051AA06
4K051AB03
4K051BE03
4K055AA04
4K055MA05
(57)【要約】
【課題】AOD炉のライニング構造の耐用性を向上する。
【解決手段】AOD炉1において、羽口本体5、羽口周辺部を構成する羽口周辺部れんが6、及び羽口上段部を構成する羽口上段部れんが7として、C含有率が1質量%以上5質量%以下のマグネシアカーボンれんが又はマグクロれんがをライニングし、羽口本体、羽口周辺部及び羽口上段部を除く部位には、その部位の炉内表面積の70%以上を占めるように、C含有率が2質量%以上9質量%以下のマグネシアカーボンれんがをライニングする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
AOD炉のライニング構造であって、
羽口本体、羽口周辺部を構成する羽口周辺部れんが、及び羽口上段部を構成する羽口上段部れんがとして、C含有率が1質量%以上5質量%以下のマグネシアカーボンれんが又はマグクロれんががライニングされ、
羽口本体、羽口周辺部及び羽口上段部を除く部位には、その部位の炉内表面積の70%以上を占めるように、C含有率が2質量%以上9質量%以下のマグネシアカーボンれんががライニングされている、AOD炉のライニング構造。
【請求項2】
羽口上段部れんがは、C含有率が1質量%以上5質量%以下のマグネシアカーボンれんがである、請求項1に記載のAOD炉のライニング構造。
【請求項3】
羽口本体及び羽口周辺部れんがのうち少なくとも一方は、C含有率が1質量%以上5質量%以下のマグネシアカーボンれんがである、請求項1又は請求項2に記載のAOD炉のライニング構造。
【請求項4】
羽口本体及び羽口周辺部れんがのうち少なくとも一方は、C含有率が2質量%以上4質量%以下のマグネシアカーボンれんがである、請求項1又は請求項2に記載のAOD炉のライニング構造。
【請求項5】
羽口本体、羽口周辺部及び羽口上段部を除く部位には、その部位の炉内表面積の70%以上を占めるように、C含有率が4質量%以上8質量%以下のマグネシアカーボンれんががライニングされている、請求項1又は請求項2に記載のAOD炉のライニング構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼等のCr含有鋼の精錬時に溶鋼中に酸素ガスと共にアルゴン、窒素等の不活性ガスを吹き込みながら脱炭を行うAOD炉のライニング構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼等の精錬方法としては一般的に、AOD法、VOD法、これらを組み合わせたAOD-VOD法、あるいは転炉-VOD法などが知られている。これらのうち、AOD炉のライニングには通常、ドロマイトれんが又はマグクロれんがが使用されている。
【0003】
しかし、ドロマイトれんがを使用したライニング構造の場合、使用前に、また稼働中においても、常温で放置すると消化(水和反応による組織破壊)が進行することから、築炉後の早期予熱・立ち上げの必要が生じ、また一時的に非稼働とする場合においても予熱待機の必要が生じる。
【0004】
また、マグクロれんがを使用したライニング構造の場合は、築炉後放置してもドロマイトれんがに比較すると消化の懸念は少ないものの、立ち上げ後に休止が必要な場合には、常温まで温度を低下させると、稼働面のダスティング現象(浸潤したスラグ成分が低C/S組成であることに起因するダイカルシウムシリケート(2CaO・SiO)の体積変化現象)により、スラグ浸潤層の脱落が発生する問題がある。また、耐熱衝撃性は一般的にドロマイトれんがより劣る。
【0005】
一方、マグネシアカーボンれんがは、一般的にドロマイトれんがに比較し消化しづらく耐食性も良好である。また、マグクロれんがにおけるスラグ浸潤層の脱落の問題もなく耐熱衝撃性にも優れることからAOD炉への使用も考えられる。ところが、AOD炉では、吹錬の進行と共に炉内のCOガス分圧PCOが次第に低下するため、マグネシアカーボンれんがはマグカーボン反応(MgO+C→Mg↑+CO↑)によりれんがの組織が劣化し、加えてスラグ中のCrの還元処理工程では1700~1800℃となるため上記の劣化した組織の損耗が大きくなり、AOD炉の特に側壁用耐火物としてマグネシアカーボンれんがは使用できないとされてきた。例えば特許文献1には、羽口れんが及びその周囲に配設される羽口受けれんがからなる羽口部れんがをC含有率が3~25質量%のマグネシアカーボンれんがとすることは開示されているが、炉の側壁等への適用はできないとされている。
【0006】
以上の通り、従来のAOD炉のライニング構造では、その耐用性が十分とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-115011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、AOD炉のライニング構造の耐用性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、AOD炉のライニング構造において、マグカーボン反応の原因となるC成分の含有率が低いマグネシアカーボンれんがを使用することで、マグカーボン反応の影響を軽減し組織劣化をある程度抑制することができると考えた。そこで、種々検討した結果、AOD炉のライニング構造において、最も損耗が激しい羽口本体、羽口周辺部を構成する羽口周辺部れんが、及び羽口上段部を構成する羽口上段部れんがを、C含有率が1質量%以上5質量%以下のマグネシアカーボンれんが又はマグクロれんがとし、かつ羽口本体、羽口周辺部及び羽口上段部を除く部位には、基本的にC含有率が2質量%以上9質量%以下のマグネシアカーボンれんがをライニングすることで、マグクロれんがあるいはドロマイトれんがをライニングした従来のライニング構造に比べて格段に耐用性が向上することを知見した。
【0010】
すなわち、本発明の一観点によれば、次のAOD炉のライニング構造が提供される。
AOD炉のライニング構造であって、
羽口本体、羽口周辺部を構成する羽口周辺部れんが、及び羽口上段部を構成する羽口上段部れんがとして、C含有率が1質量%以上5質量%以下のマグネシアカーボンれんが又はマグクロれんががライニングされ、
羽口本体、羽口周辺部及び羽口上段部を除く部位には、その部位の炉内表面積の70%以上を占めるように、C含有率が2質量%以上9質量%以下のマグネシアカーボンれんががライニングされている、AOD炉のライニング構造。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、AOD炉のライニング構造の耐用性が格段に向上する。そのため、AOD炉の寿命を大幅に伸ばすことができ、炉補修回数の削減による操業度の向上、補修作業費用の削減、及び炉材原単価の削減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態であるAOD炉のライニング構造を適用したAOD炉の概略縦断面図。
図2図1のA-A断面図。
図3図1のB-B断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のAOD炉のライニング構造において、羽口本体、羽口周辺部を構成する羽口周辺部れんが、及び羽口上段部を構成する羽口上段部れんがとしては、吹錬ガスによる酸化と溶鋼摩耗の影響が大きくなるため、耐酸化性及び耐溶鋼摩耗性の観点からC含有率が1質量%以上5質量%以下のマグネシアカーボンれんが又はマグクロれんがを使用する。このマグネシアカーボンれんがのC含有率が1質量%未満では、耐熱衝撃性が不十分となるため損耗が大きくなり、C含有率が5質量%を超えると、吹錬ガスによる酸化や溶鋼摩耗により損耗が大きくなる。
【0014】
ここで、C含有率が1質量%以上5質量%以下のマグネシアカーボンれんがは、マグクロれんがのようなスラグ浸潤はないことからダスティング現象の発生もなく、また、耐熱衝撃性にも優れることから、特に羽口上段部に使用することで、より耐用性に優れたライニング構造とすることができる。
また、C含有率が1質量%以上5質量%以下のマグネシアカーボンれんがは、マグクロれんがよりも耐熱衝撃性に優れることから、羽口本体及び羽口周辺部にも使用でき、羽口本体及び羽口周辺部れんがの少なくとも一方をC含有率が1質量%以上5質量%以下のマグネシアカーボンれんがとすることで、より耐用性に優れたライニング構造することができる。
なお、羽口本体及び羽口周辺部れんがは、吹錬ガスによる酸化及び溶鋼摩耗による影響を受けるため、C含有率が少ない方がこれらに対して有利である。また、耐熱衝撃性の観点からはC含有率はある程度の確保が必要である。すなわち、羽口本体及び羽口周辺部れんがの少なくとも一方をC含有率が2質量%以上4質量%未満のマグネシアカーボンれんがとすることで、ライニング構造の耐用性を更に向上することができる。
【0015】
本発明のAOD炉のライニング構造において、羽口本体、羽口周辺部及び羽口上段部を除く部位には、その部位の炉内表面積の70%以上を占めるように、C含有率が2質量%以上9質量%以下のマグネシアカーボンれんがをライニングする。このマグネシアカーボンれんがのC含有率が2質量%未満では、耐熱衝撃性が不十分となるため損耗が大きくなり、C含有率が9質量%を超えると、マグカーボン反応による組織劣化の影響が大きくなるため耐用性の低下が顕著になる。このマグネシアカーボンれんがのC含有率は、耐熱衝撃性及び耐食性を向上する観点から4質量%以上8質量%以下とすることもできる。
【0016】
このように本発明のAOD炉のライニング構造において、羽口本体、羽口周辺部及び羽口上段部を除く部位には、その部位の炉内表面積の70%以上を占めるように、C含有率が2質量%以上9質量%以下のマグネシアカーボンれんがをライニングするが、当該部位の炉内表面積の70%以外の部分には、例えばC含有率が9質量%超15質量%以下のマグネシアカーボンれんがをライニングすることができる。
なお、炉内表面積とは、AOD炉にライニングされているれんがの稼働面の合計面積のことであり、稼働面とは炉内に露出しているれんがの表面のことをいう。
【0017】
本発明で使用されるマグネシアカーボンれんがは、一般的なマグネシアカーボンれんがと同じ製造方法で得ることができ、具体的には耐火原料配合物にフェノール樹脂等の有機バインダーを添加して混練し、成形後に、150℃~800℃で熱処理することで得ることができる。そして、得られるマグネシアカーボンれんがのC含有率が所定の値となるように、耐火原料配合物の組成や有機バインダーの添加量等を調整する。
【0018】
ここで、マグネシアカーボンれんがのC含有率とは、れんが中のトータルカーボン量の質量割合(%)であり、これは、耐火原料配合物及び有機バインダー中の固定炭素量と炭化珪素等の炭化物原料に含有されるC量の合量から計算することができる。耐火原料配合物及び有機バインダー中の固定炭素量は、各原料のメーカーの仕様値から計算することができる。また原料メーカーの仕様値が不明の場合には、使用する原料それぞれの固定炭素をJIS規格によって測定することができる。具体的には、ピッチはJISK2425、黒鉛はJISM8511、有機バインダーはJISK6910、並びにピッチ、黒鉛及び有機バインダー以外はJISM8812に準じ測定して特定することができる。なお、耐火原料配合物及び有機バインダーに含まれるトータルカーボン量は、れんが中のトータルカーボン量と実質的に同一である。
【0019】
一方、本発明で使用されるマグネシアカーボンれんがの組成を耐火原料の含有率の観点から特定すると、マグネシアを88質量%以上99質量%以下、黒鉛を8質量%以下(0を含む)、並びにAl、Al-Mg合金、Si、Al-Si合金、炭化硼素、炭化珪素、ピッチ及びカーボンブラックのうち少なくとも一種を1質量%以上7質量%以下含有することが好ましい。
AOD炉の操業は間欠操業でありその際に炉が冷却されることから、本発明のマグネシアカーボンれんがは耐熱衝撃性に優れる黒鉛を含有することが好ましい。ただし、近年では、黒鉛を含有しなくても、ピッチやカーボンブラック等を少量含有する耐熱衝撃性に優れたマグネシアカーボンれんがが開発されており、黒鉛を含有しないマグネシアカーボンれんがを使用することも可能である。
すなわち、本発明で使用されるマグネシアカーボンれんがの組成は、C含有率で特定することが適当かつ十分であり、その他の成分については技術常識の範囲内で適宜決定すればよい。
【0020】
また、本発明で使用されるマグクロれんがは、一般的なマグクロれんがと同様に、マグネシア原料、マグクロ原料、クロム鉱、酸化クロム等を原料として製造されるれんがであり、焼成タイプ、不焼成タイプのいずれも使用することができる。なお、マグクロれんがは基本的にはC成分を含有しないが、有機バインダー由来のC成分を1質量%以下で含有するものも使用することができる。
【0021】
次に、本発明のAOD炉のライニング構造の具体的な実施形態について図1~3を参照しつつ説明する。図1は本発明の一実施形態であるAOD炉のライニング構造を適用したAOD炉の概略縦断面図、図2図1のA-A断面、すなわち4段目の横断面図、図3図1のB-B断面、すなわち5段目の横断面図である。
【0022】
図1に表れているようにAOD炉1には、鉄皮2の内側にパーマ耐火物3がライニングされ、パーマ耐火物3の内側に内張りれんが4がライニングされている。また、AOD炉1には炉内へガスを吹き込むために羽口本体5が設置されている。ここで羽口本体5とは、ガス吹込み管が装入される貫通孔を有する耐火物であり、本実施形態では図2に表れているように、AOD炉1の周方向にほぼ等間隔に5個の羽口本体5が設置されている。
【0023】
図2に表れているように5個の羽口本体5どうしの間には、それぞれ5個の羽口周辺部れんが6がライニングされ、合計で20個の羽口周辺部れんが6がライニングされている。更に、外側に位置する2つの羽口本体51の羽口本体5とは反対側の円周方向には、それぞれ2個の羽口周辺部れんが6がライニングされている。そして、これらの羽口本体5と羽口周辺部れんが6は、炉の中心から扇形に角度θが150°の範囲にライニングされている。
一方、図3には5段目のライニング構造を示しているが、5段目は炉の中心から扇形に角度θが150°の範囲に羽口周辺部れんが6のみがライニングされている。
【0024】
図面には示していないが、2段目は4段目(図2参照)と同様なパターンで羽口本体5及び羽口周辺部れんが6がライニングされている。また1段目及び3段目は、5段目(図3参照)と同様に、羽口本体は設置されていないが炉の中心から扇形に150°の角度の範囲に羽口周辺部れんが6がライニングされている。
【0025】
ここで、本発明において羽口周辺部れんが(6)とは、羽口本体(5)間に配置されるれんが、外側の羽口本体(51)に接して羽口本体5とは反対側の円周方向に連続して配置されるれんがで最大で5個までのれんが、及びこれらのれんがの上面又は下面に接するれんがとする。この羽口周辺部れんがは、吹錬時に羽口から吹き込まれるガスの影響を受けて損耗が大きくなる部位であり、他の部位よりも耐用性が高くなるようにれんがの長さを長くしたり、高耐用性の材質を使用している場合が多い。
【0026】
また、本発明において羽口上段部れんが(7)とは、図1において少なくとも羽口周辺部れんが6の最上段のれんが61の上面に接するれんがと、このれんが61から上方に最低3段以上最大10段までにライニングされるれんがとする。図1においては、6段目から13段目まで、かつ炉の中心から扇形に150°の角度θの範囲に羽口上段部れんが7がライニングされている。本実施形態において羽口上段部れんが7の高さは100mmであり、この羽口上段部れんが7を8段積んでいる。したがって、羽口上段部の高さは800mmである。
【0027】
ここで、AOD炉1の内張りれんが、すなわち本発明で使用する羽口本体5、羽口周辺部れんが6及び羽口上段部れんが7の高さは、AOD炉1の大きさやライニング構造によって変わるが、本発明では概ね50~150mmの範囲内とする。一方、この範囲外の高さのれんがをライニングする場合の羽口上段部のライニングの高さは、最低150mm以上最大1500mm以下とすることができる。なお、ここでいうれんがの高さとは1個のれんがをAOD炉に配置したときの、れんがの稼働面における炉長方向のれんがの長さのことである。またライニングの高さも同様に、ライニング(れんが積み集合部)の稼働面(内面)の炉長方向の長さのことである。
また、本発明では、AOD炉において羽口上段部れんががライニングされる範囲を羽口上段部、羽口周辺部れんががライニングされる範囲を羽口周辺部という。
【0028】
本発明のライニング構造は通常のAOD炉に適用することができるが、特にCrの還元処理率が比較的低い条件で使用されるAOD炉、具体的には脱炭処理後のスラグ中のCr濃度が7~17.5質量%となるAOD炉に好適に適用することができる。このようなAOD炉の操業ではCO分圧の低下が抑制されるため、マグカーボン反応が抑制され、マグネシアカーボンれんがを使用することで炉の耐用性を格段に向上することができる。このようなAOD炉とは、例えばAOD-VOD法等で使用されるAOD炉が該当する。
【実施例0029】
表1に、図1図3に示したAOD炉のライニング構造において使用した内張りれんがの明細と、実機試験の結果を示している。
【0030】
【表1】
【0031】
表1中、「ライニング構造」の欄における数値は、各例のライニング構造に使用したマグネシアカーボンれんがのC含有率(質量%)を示している。このようにマグネシアカーボンれんがとしては、C含有率の異なるものを使用した。具体的にはマグネシアをベースに黒鉛及びピッチ粉末のうち少なくとも一方、並びに金属粉を含有する耐火原料配合物を使用し、常法で混練、成形後に250℃で10時間熱処理することで製造されたものである。マグネシアカーボンれんがのC含有率は黒鉛及びピッチ粉末のうち少なくとも一方の使用量により変えた。ここで、マグネシアカーボンれんがのC含有率は、マグネシアカーボンれんがの製造時に使用した黒鉛、有機バインダー、及びピッチ粉末等の固定炭素のメーカー仕様値を元に、それぞれの使用割合から計算した計算値である。
また表1中、「マグクロ」とはマグクロれんが、「ドロマイト」とはドロマイトれんがのことである。具体的にマグクロれんがとしては、MgOを65質量%及びCrを20質量%含有するセミリボンドタイプを使用し、ドロマイトれんがとしては、MgOを85質量%及びCaOを11質量%含有する焼成タイプを使用した。なお、使用したマグクロれんが、ドロマイトれんが共にC含有率は0質量%である。
また表1中、「面積割合」とは、AOD炉において羽口本体、羽口周辺部及び羽口上段部を除く部位にライニングされたれんがの稼働面の合計面積、すなわち、羽口本体、羽口周辺部及び羽口上段部を除く部位の炉内表面積(T)に対する、C含有率が2質量%以上9質量%以下のマグネシアカーボンれんがの稼働面の合計面積(M)の割合(100×M(m)/T(m))ことである。
【0032】
実機試験は、各例のライニング構造に従いれんがをライニングしたAOD炉を通常の操業条件で使用し、れんがの損耗量が基準となる限界値になった時点で使用を中止し、その時点の使用回数で評価した。具体的には、比較例1の使用回数を100としてその他各例の使用回数を指数で表示した。なお、AOD炉での脱炭処理後のスラグ中のCr濃度は、平均で14質量%、CaO/SiOは平均で1.8であった。
【0033】
比較例1は羽口本体、羽口周辺部及び羽口上段部をマグクロれんがとし、これら以外の部位をドロマイトれんがとした従来のライニング構造である。また、比較例2は全ての部位をマグクロれんがとした従来のライニング構造である。
【0034】
一方、実施例1及び実施例2並びに実施例4及び実施例5は、羽口本体と羽口周辺部をマグクロれんがとし、これら以外の部位にC含有率が2質量%以上9質量%以下のマグネシアカーボンれんがをライニングした本発明の実施例である。比較例1及び比較例2と比較して使用回数が格段に多くなっていることがわかる。また実施例3は羽口本体、羽口周辺部及び羽口上段部をマグクロれんがとし、他の部位にはC含有率が4質量%のマグネシアカーボンれんがをライニングした例であるが、これも良好な結果となった。
【0035】
これに対して、比較例3は、羽口本体、羽口周辺部及び羽口上段部以外の部位にC含有率が1質量%のマグネシアカーボンれんがをライニングした例であり、耐用性が低下した。その理由は熱衝撃によるれんがの剥離が発生したためであった。また比較例4は、羽口本体、羽口周辺部及び羽口上段部以外にライニングしたマグネシアカーボンれんがのC含有率が高すぎたため、損耗が大きくなり耐用性が不十分であった。
【0036】
実施例6から実施例9は、羽口上段部にライニングしたマグネシアカーボンれんがのC含有率が異なる例であるが、本発明の範囲内であり、十分な使用回数となった。これに対して、比較例5はC含有率が低すぎて耐用性が不十分であった。この原因も熱衝撃によるれんがの剥離が発生したためであった。比較例6は、羽口上段部にライニングしたマグネシアカーボンれんがのC含有率が本発明の上限値を超えた例であり、C成分が多すぎるため損耗が大きくなり、耐用性が不十分となった。
【0037】
実施例10から実施例15は、羽口本体及び羽口周辺部に使用したマグネシアカーボンれんがのC含有率が異なる例であるが、本発明の範囲内であり、良好な耐用性を示した。また、例えば実施例7と実施例11の比較から、羽口本体及び羽口周辺部にマグクロれんがを使用するよりも、これらの部位にマグネシアカーボンれんがを使用する方が、使用回数が多くなることがわかった。
これに対して比較例7は、羽口本体及び羽口周辺部に使用したマグネシアカーボンれんがのC含有率が低すぎて耐用性が不十分であった。この原因も熱衝撃によるれんがの剥離が発生したためであった。比較例8は、羽口本体及び羽口周辺部に使用したマグネシアカーボンれんがのC含有率が本発明の上限値を超えた例であり、C成分が多すぎるため損耗が大きくなり、耐用性が不十分となった。
【0038】
実施例16は、AOD炉のコーン部の一部にC含有率が10質量%のマグネシアカーボンれんがを使用し、コーン部の他の部分はC含有率が6質量%のマグネシアカーボンれんがを使用した例、実施例17はコーン部をドロマイトれんがとした例であるが、コーン部は溶鋼と直接接触する部位ではないため、大きな損耗も発生せず良好な耐用性となった。なお、AOD炉のコーン部とは、図1において炉上部のコーン形状の部位である。
【符号の説明】
【0039】
1 AOD炉
2 鉄皮
3 パーマ耐火物
4 内張りれんが
5 羽口本体
51 外側の羽口本体
6 羽口周辺部れんが
61 最上段の羽口周辺部れんが
7 羽口上段部れんが
図1
図2
図3