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特開2024-140818熱可塑性エラストマー組成物及び物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140818
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物及び物品
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/08 20060101AFI20241003BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20241003BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20241003BHJP
   C08L 63/10 20060101ALI20241003BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L33/08
C08L23/12
C08L23/26
C08L63/10
C08L71/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052163
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】小林 和香子
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB122
4J002BB203
4J002BG041
4J002BG04W
4J002CD194
4J002CH055
4J002EH106
4J002EH146
4J002EJ067
4J002FD025
4J002FD026
4J002FD077
4J002FD144
4J002FD343
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】耐油性、耐圧縮永久歪性、及び機械特性に優れ、物品を成形した際に優れた外観(成形外観性)が得られる熱可塑性エラストマー組成物を提供する。
【解決手段】(a)カルボキシル基含有アクリルゴム100質量部;(b)ポリプロピレン系重合体10~50質量部;(c)エポキシ変性ポリプロピレン5~50質量部;(d)架橋剤0.5~10質量部;及び(e)エステル系可塑剤、及び/又はエポキシ系可塑剤1~150質量部を少なくとも含む、熱可塑性エラストマー組成物を選択する。ただし、前記成分(b)には前記成分(c)を含まないものとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カルボキシル基含有アクリルゴム 100質量部;
(b)ポリプロピレン系重合体 10~50質量部;
(c)エポキシ変性ポリプロピレン 5~50質量部;
(d)架橋剤 0.5~10質量部;及び
(e)エステル系可塑剤、及び/又はエポキシ系可塑剤 1~150質量部
を少なくとも含む、熱可塑性エラストマー組成物。
ただし、前記成分(b)には前記成分(c)を含まないものとする。
【請求項2】
前記成分(a)の酸価が0.1~5KOHmg/gである、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記成分(d)が、エポキシ基含有アクリル系樹脂である、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記エポキシ基含有アクリル系樹脂のエポキシ指数が、0.2~6meq./gである、請求項3に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記成分(e)が、ポリエーテルエステル系可塑剤である、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
(f)酸化防止剤を更に含む、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物の架橋物。
【請求項8】
請求項7に記載の架橋物を含む物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物、及びこれを含む物品に関する。
【背景技術】
【0002】
各種工業製品に利用されるエラストマー(弾性高分子材料)は、その用途に応じて硬度、強度、低温特性、耐油性、成形加工性等といった各種の物性が求められる。所望の物性とするために、複数種の材料(ポリマー等)からなるエラストマーも一般的に利用されている。しかしながら、材料の種類によっては、複数種の材料が互いに溶け合わず、均一に分散させることが困難である場合がある。
【0003】
このような場合、相溶化剤を添加することによって、各材料を相溶化させ、均一に分散させることが可能となることが知られている。なお、相溶化には、複数の材料が分子レベルで溶け合うことのみならず、ミクロ単位あるいはナノ単位の材料粒子が他種の原料に分散することも含まれる。
【0004】
例えば、下記特許文献1や特許文献2に記載のエラストマーは、オレフィン系樹脂とアクリルゴムを相溶化させるための相溶化剤として、グラフト共重合体を含有する。オレフィン系樹脂とアクリルゴムは相溶性が小さいが、グラフト共重合体を利用することにより両者が十分に分散し、物性が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-277571号公報
【特許文献2】特開2004-002743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
相溶化剤は、相溶化の対象である各材料に対して親和性が高いことによって相溶化剤として機能する。即ち、相溶化剤は、どのような材料に対しても相溶化剤として機能するわけではなく、相溶化の対象である材料の種類に応じて適切な構造を有するものでなければならない。
【0007】
ここで、ポリプロピレンは成形加工性に優れるとともに耐油性の高い高分子材料であり、工業的にも多く利用されている。一方で、アクリルゴムは強度が高く、耐熱性にも優れている。このため、ポリプロピレンとアクリルゴムの両材料を十分に分散させることにより、物性に優れたエラストマーを得ることができると考えられる。
【0008】
しかしながら、ポリプロピレンとアクリルゴムは親和性(相溶化パラメータ)が異なり、そのままでは両材料を十分に分散させることが困難である。このため、ポリプロピレンとアクリルゴムからなる熱可塑性エラストマーは相溶性が悪く、機械特性(引張強度及び引張伸び)が非常に低いという課題があった。一方で、両材料を十分に相溶化させることが可能な相溶化剤は、現在までに知られていないのが実情である。
【0009】
本発明の目的は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐油性、耐圧縮永久歪性、及び機械特性に優れ、物品を成形した際に優れた外観(成形外観性)が得られる熱可塑性エラストマー組成物、その架橋物、及び架橋物を含む物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討した結果、特定の熱可塑性エラストマー組成物により上記課題を達成できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の態様を備える。
[1](a)カルボキシル基含有アクリルゴム 100質量部;
(b)ポリプロピレン系重合体 10~50質量部;
(c)エポキシ変性ポリプロピレン 5~50質量部;
(d)架橋剤 0.5~10質量部;及び
(e)エステル系可塑剤、及び/又はエポキシ系可塑剤 1~150質量部
を少なくとも含む、熱可塑性エラストマー組成物。
ただし、前記成分(b)には前記成分(c)を含まないものとする。
[2] 前記成分(a)の酸価が0.1~5KOHmg/gである、[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[3] 前記成分(d)が、エポキシ基含有アクリル系樹脂である、[1]又は[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[4] 前記エポキシ基含有アクリル系樹脂のエポキシ指数が、0.2~6meq./gである、[3]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[5] 前記成分(e)が、ポリエーテルエステル系可塑剤である、[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[6] (f)酸化防止剤を更に含む、[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の架橋物。
[8] [7]に記載の架橋物を含む物品。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、耐油性、耐圧縮永久歪性、及び機械特性に優れた物品が得られるとともに、物品の外観(成形外観性)にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲には、その両端の数値が含まれるものとする。
【0014】
本発明は、(a)カルボキシル基含有アクリルゴム 100質量部;(b)ポリプロピレン系重合体 10~50質量部;(c)エポキシ変性ポリプロピレン 5~50質量部;(d)架橋剤 0.5~10質量部;及び(e)エステル系可塑剤、及び/又はエポキシ系可塑剤 1~150質量部;を少なくとも含み、必要に応じて、(f)酸化防止剤を更に含む、熱可塑性エラストマー組成物、及び該熱可塑性エラストマー組成物を含む物品である。
本発明を構成する成分について、以下に詳細に説明する。
【0015】
<熱可塑性エラストマー組成物>
(a)カルボキシル基含有アクリルゴム
上記成分(a)は、(メタ)アクリル酸エステルを主たるモノマーとし、カルボキシル基含有モノマーに由来する構造単位を、JIS K0070-1992に準拠して測定した酸価が好ましくは0.1~5KOHmg/g、より好ましくは0.2~2KOHmg/gとなる量で含み、ムーニー粘度(ML1+4 150℃)が好ましくは15~40である重合体である。
ここで「主たるモノマー」とは、当該モノマー由来の構造単位の含有量が、通常50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上であることを意味する。「(メタ)アクリル酸エステル」とは、「アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル」の意味である。
【0016】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルなどを挙げることができる。
【0017】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素数1~8のアルキルアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましい。例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、及び(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどを挙げることができる。これらの中でも(メタ)アクリル酸エチル、及び(メタ)アクリル酸n-ブチルがより好ましい。
【0018】
上記(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、炭素数2~8のアルコキシアルカノールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましい。例えば、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、及び(メタ)アクリル酸4-メトキシブチルなどを挙げることができる。これらの中でも(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、及び(メタ)アクリル酸2-メトキシエチルがより好ましく、アクリル酸2-エトキシエチル、及びアクリル酸2-メトキシエチルが更に好ましい。
【0019】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、これらの1種以上を用いることができる。
【0020】
上記カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、及びマレイン酸などの有機酸;マレイン酸モノブチルエステル、及びフマル酸モノブチルエステルなどのブテンジオン酸モノアルキルエステル;マレイン酸モノシクロアルキルエステル、及びフマル酸モノシクロアルキルエステルなどのブテンジオン酸モノシクロアルキルエステル;などを挙げることができる。カルボキシル基含有モノマーとしては、これらの1種以上を用いることができる。
【0021】
上記成分(a)は、上記カルボキシル基含有モノマーに由来する構造単位を、JIS K0070-1992に準拠し、電位差滴定法により測定した酸価が好ましくは0.1~5KOHmg/g、より好ましくは0.2~2KOHmg/gとなる量で含む。機械特性(引張強度)の向上、及び成形品の外観を良好にする観点から、酸価は好ましくは0.1KOHmg/g以上であり、より好ましくは0.2KOHmg/g以上である。また、成形加工性及び成形品の外観を良好にする観点から、酸価は好ましくは5KOHmg/g以下であり、より好ましくは2KOHmg/g以下である。
【0022】
上記成分(a)は、上記カルボキシル基含有モノマーに由来するカルボキシル基を含むため、上記成分(c)のエポキシ基と反応し、耐熱性、耐油性、耐圧縮永久歪性、及び機械特性を高めることができる。
【0023】
上記成分(a)の重合には、モノマーとして、更にビニル基を2以上有する多官能性モノマーを用いることが好ましい。後述する部分架橋体を容易に得ることができるようになる。
【0024】
上記ビニル基を2以上有する多官能性モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、及び1,3,5-トリビニルベンゼンなどの多官能ビニル化合物;ジアリルフタレート、及びジアリルフマレートなどのジアリル化合物;トリメチロールプロパントリアクリレート、及びエチレングルコールジメタアクリレートなどの多官能アクリレート;などを挙げることができる。ビニル基を2以上有する多官能性モノマーとしては、これらの1種以上を用いることができる。
【0025】
上記成分(a)中の上記ビニル基を2以上有する多官能性モノマーに由来する構造単位の含有量は、後述する部分架橋体中に生成するゲルの含有率を、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下にする観点から、好ましくは1.5質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下である。また部分架橋体を容易に得るために、通常0.2質量%以上であり、好ましくは0.3質量%以上である。
【0026】
上記成分(a)の重合には、モノマーとして、上述したモノマー(上記(メタ)アクリル酸エステル、上記カルボキシル基含有モノマー、及び上記ビニル基を2以上有する多官能性モノマー)と共重合可能なその他のモノマーを、当該モノマー由来の構造単位の含有量が、通常49.5質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下となる量で用いることができる。
【0027】
上記その他のモノマーとしては、例えば、共役ジエン系モノマー、非共役ジエン系モノマー、芳香族ビニル系モノマー、α,β-エチレン性不飽和ニトリル系モノマー、アミド基含有(メタ)アクリル系モノマー、多官能性ジ(メタ)アクリル系モノマー、及びα-オレフィン系モノマーなどを挙げることができる。
【0028】
上記共役ジエン系モノマーとしては、ブタジエン、クロロプレン及びピペリレンなどを挙げることができる。
【0029】
上記非共役ジエン系モノマーとしては、1,2-ブタジエン、1,4-ペンタジエン、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4-ヘキサジエン、及びノルボルナジエンなどを挙げることができる。
【0030】
上記芳香族ビニル系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、及びジビニルベンゼンなどを挙げることができる。
【0031】
上記α,β-エチレン性不飽和ニトリル系モノマーとしては、アクリロニトリル、及びメタアクリロニトリルなどを挙げることができる。
【0032】
上記アミド基含有(メタ)アクリル系モノマーとしては、アクリルアミド、及びメタクリルアミドなどを挙げることができる。
【0033】
上記α-オレフィン系モノマーとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、及び1-オクテンなどを挙げることができる。
【0034】
上記その他のモノマーとしては、更に塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、エチルビニルエーテル、及びブチルビニルエーテルなどを挙げることができる。
【0035】
上記その他のモノマーとしては、これらの1種以上を用いることができる。
【0036】
上記成分(a)は、好ましくは、上述した(メタ)アクリル酸エステルを主たるモノマーとする重合体の部分架橋体である。これにより、上記成分(b)との混和性が良好になり、また、機械的特性や耐疲労性が向上する。さらに、上記部分架橋体は、通常、パウダー(微粒子)として得られるため、取扱作業が容易になる。成分(a)は、より好ましくは、上記部分架橋体であって、部分架橋によりゲルが10~30質量%の含有率で生成している部分架橋体である。更に好ましくは、上記部分架橋体であって、部分架橋によりゲルが10~30質量%の含有率で生成しており、生成したゲルが均一に分散している部分架橋体である。
【0037】
上記成分(a)として、上記部分架橋体を用いることにより、上記成分(a)と上記成分(b)とを良好に分散させることが、容易にできる。また予め上記成分(a)と上記成分(b)とを溶融混練し、良好に分散させた後、上記成分(c)及び成分(d)を加えて溶融混練することにより、上記成分(a)と上記成分(b)との動的架橋を効率的に行うことができる。
【0038】
上記成分(a)中の上記ゲルの含有率(ゲル分率)は、柔軟性の観点から、好ましくは35質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。ゲル含有率の下限は、特にないが、通常10質量%以上、好ましくは15質量%以上である。
【0039】
本明細書において、上記成分(a)中の上記ゲルの含有率は、試料0.2gを、温度23℃のメチルエチルケトン200mlに投入して24時間攪拌した後、200メッシュの金網を用いて濾過したとき、メッシュ上に捕捉される不溶解分の溶媒除去後の質量から算出する。
【0040】
上記部分架橋体は、上記成分(b)、成分(c)、及び成分(d)とともに溶融混練する際に、架橋反応をさせてもよいが、上記成分(b)、上記成分(c)、及び成分(d)とともに溶融混練する前に、架橋反応をさせることにより得ることが好ましい。なお「部分架橋」とは、架橋反応をさせた後も熱可塑性を保持していることを意味する。
【0041】
上記成分(a)の上記パウダーの形態は、特に制限されず、任意である。コアシェル構造をとっていてもよい。パウダーの粒子径は特に制限されないが、レーザー回折・散乱式粒度分析計を使用して測定した粒子径分布曲線において、粒子の小さい方からの累積が50質量%となる平均粒子径は、通常0.2~20mm程度である。
【0042】
上記成分(a)のJIS K6300-1-2013に従い、L形ロータを使用し、予熱時間1分間、ロータの回転時間4分間、及び試験温度150℃の条件で測定したムーニー粘度(ML1+4 150℃)は、耐熱性、耐油性、耐圧縮永久歪性、及び機械特性の観点から、好ましくは15~40、より好ましくは20~35である。
【0043】
(b)ポリプロピレン系重合体
上記成分(b)ポリプロピレン系重合体は、プロピレンに由来する構成単位を主として含む重合体である。上記成分(b)は耐熱性、成形加工性に寄与する。ここで、「プロピレンに由来する構成単位を主として含む」とは、プロピレンに由来する構成単位の含有量が、通常50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、典型的には75~100質量%であることを意味する。
【0044】
上記成分(b)としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンと他の少量のα-オレフィンコモノマーとのランダム共重合体、及びプロピレンとα-オレフィンコモノマーとのブロック共重合体を挙げることができる。
【0045】
上記α-オレフィンコモノマーとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、2-メチル-1-プロペン、1-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、2-エチル-1-ブテン、2,3-ジメチル-1-ブテン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、メチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ペンテン、エチル-1-ペンテン、トリメチル-1-ブテン、メチルエチル-1-ブテン、1-オクテン、メチル-1-ペンテン、エチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ヘキセン、プロピル-1-ヘプテン、メチルエチル-1-ヘプテン、トリメチル-1-ペンテン、プロピル-1-ペンテン、ジエチル-1-ブテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、及び1-ドデセンを挙げることができる。上記α-オレフィンコモノマーとしては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0046】
上記プロピレンと他の少量のα-オレフィンコモノマーとのランダム共重合体の具体例としては、例えば、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・1-ブテンランダム共重合体、プロピレン・1-ヘキセンランダム共重合体、プロピレン・1-オクテンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・1-ヘキセンランダム共重合体、及びプロピレン・エチレン・1-オクテンランダム共重合体を挙げることができる。
【0047】
上記プロピレンとα-オレフィンコモノマーとのブロック共重合体は、結晶性ポリプロピレン成分と、プロピレンとα-オレフィンコモノマーとの共重合ゴム成分とから構成される共重合体である。上記結晶性ポリプロピレン成分は、プロピレン単独重合体又はプロピレンと他の少量のα-オレフィンコモノマーとのランダム共重合体から構成される。
【0048】
上記成分(b)としては、耐熱性の観点から、プロピレン単独重合体、又はプロピレンとα-オレフィンコモノマーとのブロック共重合体であって結晶性ポリプロピレン成分がプロピレン単独重合体であるものが好ましく、プロピレン単独重合体がより好ましい。
【0049】
上記成分(b)の市販例としては、サンアロマー株式会社のプロピレン単独重合体「VS200A(商品名)」、サンアロマー株式会社のプロピレン単独重合体「PM900A(商品名)」を挙げることができる。
【0050】
上記成分(b)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0051】
上記成分(b)は、成形加工性の観点から、JIS K 7210-1999に準拠し、230℃、21.18Nの条件で測定したメルトマスフローレート(MFR)が、好ましくは0.1~100g/10分である。
【0052】
上記成分(b)は、耐熱油性の観点から、株式会社パーキンエルマージャパンのDiamond DSC型示差走査熱量計を使用し、230℃で5分間保持し、10℃/分で-10℃まで冷却し、-10℃で5分間保持し、10℃/分で230℃まで昇温するプログラムで測定されるセカンド融解曲線(最後の昇温過程で測定される融解曲線)において、最も高い温度側に現れるピークのピークトップ融点が、好ましくは150℃以上、より好ましくは160℃以上である。ピークトップ融点の上限は特にないが、ポリプロピレン系重合体は、高くても167℃である。
【0053】
上記成分(b)の配合量は、上記成分(a)100質量部に対して、流動性、及び成形品の外観を良好にする観点から、10質量部以上、好ましくは20質量部以上である。また、耐油性、耐圧縮永久歪性及び硬度を抑制する観点から、50質量部以下、好ましくは40質量部以下である。成分(b)の配合量が、上記範囲にあると、流動性と耐油性や耐圧縮永久歪性とのバランスが非常に優れた熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。但し、上記成分(b)には、後述する成分(c)は含まれないものとする。
【0054】
(c)エポキシ変性ポリプロピレン
成分(c)は、エポキシ基を含有するポリプロピレン系重合体である。上記成分(c)は、上記成分(a)と上記成分(b)とをより良好に相溶化させる。さらに、成分(c)は、エポキシ基を含むことにより、上記成分(a)のカルボキシル基と反応し、成形外観を良好にし、機械特性を高める働きをする。
【0055】
上記成分(c)は、プロピレン単量体とグリシジル基又はエポキシ基を有する単量体とを共重合させることによって得られる。
また、上記成分(c)は、ポリプロピレンの単独重合体又は共重合体に、グリシジル基又はエポキシ基を有する単量体を、有機過酸化物と作用させて変性(グラフト重合)することにより得られる。
【0056】
ポリプロピレンの単独重合体又は共重合体としては、上記成分(b)で示したポリプロピレン系重合体が挙げられる。
【0057】
グリシジル基又はエポキシ基を有する単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0058】
有機過酸化物は、重合開始剤として使用することができる。前記有機過酸化物としては、ジ-tert-ブチルパーオキシフタレート、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソプロピオニトリル等のアゾニトリル類等が挙げられる。
【0059】
上記成分(c)としては、具体的には、グリシジル(メタ)アクリレート変性ポリプロピレン、グリシジル(メタ)アクリレート変性エチレン-プロピレン共重合体、グリシジル(メタ)アクリレート変性エチレン-プロピレン-ジエン共重合体などが挙げられる。これらの中でも、上記成分(c)としては、グリシジルメタクリレート変性エチレン-プロピレン共重合体及びグリシジルメタクリレート変性ポリプロピレンからなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましく、流動性及び耐油性の観点からグリシジルメタクリレート変性ポリプロピレン(以下、略してGMA変性ポリプロピレンという場合がある)がより好ましい。
【0060】
上記成分(c)の製造方法としては、特に限定されず、例えばラジカルグラフト反応(即ち主鎖となるポリマーに対してラジカル種を生成し、そのラジカル種を重合開始点としてモノマーをグラフト重合させる反応)、などが挙げられる。
【0061】
上記成分(c)のエポキシ変性率は、成形加工性及び成形外観の観点から、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは2~10質量%である。
【0062】
上記成分(c)の市販例としては、ビックケミー・ジャパン株式会社(BYK)のグリシジルメタクリレート変性ポリプロピレン「SCONA TPPP 8104(商品名)」を挙げることができる。
【0063】
上記成分(c)は、1種類又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0064】
上記成分(b)と上記成分(c)の特に好ましい組み合わせとしては、ポリプロピレン単独重合体とグリシジルメタクリレート変性ポリプロピレンとの組み合わせが挙げられる。
【0065】
上記成分(c)の配合量は、上記成分(a)100質量部に対して、流動性の向上、引張強度及び成形品の外観を良好にする観点から、5質量部以上、好ましくは10質量部以上である。また、耐油性、流動性の抑制、硬度の抑制、及び耐圧縮永久歪性の観点から、50質量部以下、好ましくは30質量部以下である。成分(c)の配合量が、上記範囲にあると、流動性と耐油性や耐圧縮永久歪性とのバランスが非常に優れた熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
【0066】
(d)架橋剤
上記成分(d)は、上記成分(a)カルボキシル基含有アクリルゴムを架橋するために添加されるものであって、アクリルゴムのカルボキシル基と共有結合することによりアクリルゴムを架橋する機能を有する。上記成分(d)としては、エポキシ基含有アクリル系樹脂が好ましい。
【0067】
エポキシ基含有アクリル系樹脂としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートやアリルグリシジルエーテルなどで代表される、1分子中にそれぞれ1個のエポキシ基と(メタ)アクリロイル基のようなエチレン性不飽和基とをもつエポキシ基含有モノマーと、その他の重合性不飽和モノマーとを共重合反応させて得られるエポキシ基含有アクリル系共重合体が包含される。
【0068】
上記エポキシ基含有モノマーと共重合可能なその他の重合性不飽和モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル類;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル類又はこれらのものとε-カプロラクトンとの付加物などの水酸基含有エチレン性不飽和モノマー類;パーフルオロオクチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸フルオロアルキルエステル類;スチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物;(メタ)アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル化合物;テトラフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニルなどのフルオロオレフィン類;ビニルエステル、オレフィン化合物などが包含され、これらはそれぞれ単独で又は2種以上を組合わせて使用することができる。
【0069】
上記エポキシ基含有モノマーと他の重合性不飽和モノマーとの共重合は、特に制限されるものではなく、従来から既知の任意の方法、例えば溶液重合法、懸濁重合法、エマルジョン重合法等によって行なうことができる。
【0070】
エポキシ基含有アクリル系共重合体は、上記エポキシ基含有モノマーから誘導される構造単位を該共重合体の質量を基準にして、5~60質量%、好ましくは15~55質量%、特に好ましくは20~50質量%含む。
【0071】
上記成分(d)の市販例としては、日油株式会社のエポキシ基含有アクリル-スチレン系樹脂「マープルーフ G0250SP(商品名)」を挙げることができる。
【0072】
上記成分(d)は、1種類又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0073】
上記成分(d)のエポキシ指数は、JIS K7236:2001に従い、電位差滴定装置を使用して測定するものであり、引張伸び及び成形品の外観を良好とする観点から、0.2meq./g以上が好ましく、1.0meq./g以上がより好ましい。また、成形品の外観を良好にする観点から、6.0meq./g以下が好ましく、4.0meq./g以下がより好ましい。
【0074】
上記成分(d)の配合量は、上記成分(a)100質量部に対して、耐圧縮永久歪性の観点から、0.5質量部以上、好ましくは1質量部以上である。また、硬度の抑制、及び成形品の外観を良好にする観点から、10質量部以下、好ましくは3.6質量部以下である。成分(d)の配合量が、上記範囲にあると、流動性と耐圧縮永久歪性とのバランスが非常に優れた熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
【0075】
(e)可塑剤
上記成分(e)は、可塑剤である。上記成分(e)を用いることにより、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、引張特性、耐圧縮永久歪、耐油性、成形外観のいずれもが良好となる。上記成分(e)としては、エステル系可塑剤及びエポキシ系可塑剤が挙げられる。
【0076】
エステル系可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、セバシン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、ポリエーテルエステル系可塑剤などが挙げられる。
【0077】
フタル酸エステル系可塑剤としては、例えば、フタル酸ジブチル、フタル酸ブチルヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジウンデシル、フタル酸ジトリデシル、フタル酸ジラウリル、フタル酸ジシクロヘキシル、及びテレフタル酸ジオクチルなどが挙げられる。
【0078】
アジピン酸エステル系可塑剤としては、例えば、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、及びアジピン酸ジイソデシルなどが挙げられる。
【0079】
トリメリット酸エステル系可塑剤としては、例えば、トリメリット酸トリ(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリ(n-オクチル)、及びトリメリット酸トリ(イソノニル)などが挙げられる。
【0080】
セバシン酸エステル系可塑剤としては、例えば、セバシン酸ジブチル、及びセバシン酸ジオクチルなどが挙げられる。
【0081】
ポリエステル系可塑剤としては、多価アルコールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-へキサンジオール、1,6-へキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどを用い、多価カルボン酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、トリメリット酸、ピメリン酸、スベリン酸、マレイン酸、アゼライン酸、セバチン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などを用い、必要により一価アルコール、モノカルボン酸をストッパーに使用したポリエステルなどが挙げられる。
【0082】
ポリエーテルエステル系可塑剤としては、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリエーテルと上記多価カルボン酸とのポリエステルなどが挙げられる。
【0083】
エポキシ系可塑剤としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化脂肪酸オクチルエステル、及びエポキシ化脂肪酸アルキルエステルなどが挙げられる。
【0084】
上記成分(e)としては、これらの中でも、フタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、ポリエーテルエステル系可塑剤、及びエポキシ系可塑剤が好ましく、ポリエーテルエステル系可塑剤がより好ましい。
【0085】
上記成分(e)の市販例としては、アデカ株式会社のポリエーテルエステル系可塑剤「RS735(商品名)」、新日本理化株式会社のフタル酸エステル系可塑剤「サンソサイザーDOP(商品名);フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)」、大日本インキ株式会社のアジピン酸エステル系可塑剤「W320(商品名)」、及びアデカ株式会社のエポキシ系可塑剤「O-130P(商品名);エポキシ化大豆油」を挙げることができる。
【0086】
上記成分(e)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0087】
上記成分(e)の配合量は、上記成分(a)100質量部に対して、耐油性、耐圧縮永久歪性、及び硬度の抑制の観点から、通常1質量部以上、好ましくは10質量部以上である。一方、引張強度、流動性の抑制、及び成形品の外観を良好にする観点から、通常150質量部以下、好ましくは100質量部以下である。
【0088】
(f)酸化防止剤
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、本発明の目的に反しない限度において、所望により、更に上記成分(f)を含ませることができる。酸化防止剤を用いることにより、熱性を向上させ、熱履歴による変色や樹脂劣化を抑制することができる。
【0089】
上記酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-p-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、4,4-ジヒドロキシジフェニル、トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン等のフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などを挙げることができる。これらの中でも、フェノール系酸化防止剤、及びホスファイト系酸化防止剤が好ましい。
【0090】
上記成分(f)の市販例としては、BASF社製の酸化防止剤「Irganox(登録商標)B225」を挙げることができる。
【0091】
上記成分(f)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0092】
上記成分(f)の配合量は、上記成分(a)100質量部に対して、耐熱性向上の観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上である。一方、耐ブルーム性の観点から、好ましくは2.0質量部以下、より好ましくは1.0質量部以下である。
【0093】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、本発明の目的に反しない限度において、所望により、更に無機充填剤、老化防止剤、加水分解防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤など各種の耐候剤、銅害防止剤、変性シリコンオイル、シリコンオイル、ワックス、酸アミド、脂肪酸、脂肪酸金属塩など各種の滑剤、芳香族リン酸金属塩系及びゲルオール系など各種の造核剤、グリセリン脂肪酸エステル系など各種の帯電防止剤、及び有機系・無機系の各種難燃剤を含ませることができる。なお、これらの添加剤類は、成形品の表面にブリードアウト、ブルームするなどのトラブルを防止するため、本発明の熱可塑性エラストマー組成物との相溶性の高いものが好ましい。
【0094】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、上記成分(a)に対する上記成分(c)及び上記成分(d)の配合割合(換言すると、成分(a)のカルボキシル基と、成分(c)+成分(d)のエポキシ基との配合割合)は、相溶性を改善する観点から、通常5%以上であり、好ましくは10%以上である。一方、硬度、成形加工性の観点から、通常60%以下であり、好ましくは50%以下である。
【0095】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、上記成分(b)と上記成分(c)の配合量は、上記成分(a)100質量部に対して、流動性及び成形外観の観点から、好ましくは25質量部以上、より好ましくは30質量部以上である。一方、硬度、耐油性及び耐圧縮永久歪の観点から、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部%以下である。
【0096】
(熱可塑性エラストマー組成物の製造方法)
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記成分(a)~(e)、及び所望により用いる任意成分(f)並びにその他の任意成分を、同時に、又は任意の順に加えて、任意の混練機を使用して、溶融混練することにより得られる。
【0097】
溶融混練は、成分(c)及び成分(d)が確実に働くようにする観点から、180℃以上の温度で1分間以上行うことが好ましく、190℃以上の温度で1分間以上行うことがより好ましい。また、溶融混練温度は、機械物性、組成物の製造性、及び成形性の観点から、通常240℃以下、好ましくは220℃以下であってよい。
【0098】
溶融混練機としては、加圧ニーダーやミキサーなどのバッチ混練機;一軸押出機、同方向回転二軸押出機、及び異方向回転二軸押出機等の押出混練機;カレンダーロール混練機;などを挙げることができる。これらを任意に組み合わせて使用してもよい。得られた組成物は、任意の方法でペレット化した後、任意の方法で物品に成形することができる。
【0099】
上記ペレット化は、ホットカット、ストランドカット、及びアンダーウォーターカットなどの方法により、行うことができる。
【0100】
<物品>
本発明の物品は、上記熱可塑性エラストマー組成物を含む。ここで、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、耐油性、耐圧縮永久歪性、及び機械特性に優れ、物品を成形した際に優れた外観(成形外観性)が得られるため、シート又はフィルム成形品、車載用部品、耐油・耐薬品性チューブ・ホースなどの材料として好適に用いることができる。
【0101】
すなわち、本発明の物品としては、シート又はフィルム成形品、車載用部品、耐油・耐薬品性チューブ・ホースなどが挙げられる。
【0102】
本発明の物品は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を任意の成形方法、例えば、ブロー成形法、押出成形法、射出成形法、プレス成形法、圧縮成形法、及びこれらの2以上を組み合わせる方法により、所望の形状に成形することにより得ることができる。
【0103】
以上説明したように、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、カルボキシル基含有アクリルゴムとポリプロピレン系重合体との相溶化剤としてエポキシ変性ポリプロピレンを用い、カルボキシル基含有アクリルゴムとポリプロピレン系重合体とを動的架橋する。また、架橋剤とカルボキシル基含有アクリルゴムとの反応によって架橋密度がさらに上昇する。これにより、アクリルゴムのカルボキシル基と、エポキシ変性ポリプロピレンや架橋剤のエポキシ基とが反応し、ポリプロピレン(流動相)の架橋ゴムが微分散して、カルボキシル基含有アクリルゴムとポリプロピレン系重合体との相溶性が改善される。したがって、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、相溶化剤としてエポキシ変性ポリプロピレンを添加していない組成物と比較して、耐油性、耐圧縮永久歪性、及び機械特性に優れ、物品を成形した際に優れた外観(成形外観性)が得られる。
【実施例0104】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0105】
<使用した原材料>
(a)カルボキシル基含有アクリルゴム:
(a-1)OMNOVA社の「サニガムP95(商品名)」。酸価0.8KOHmg/g、ムーニー粘度(ML1+4150℃)30、分子量140000、ゲル含有率28質量%。
【0106】
(b)ポリプロピレン系重合体:
(b-1)サンアロマー株式会社のポリプロピレン単独重合体「VS200A(商品名)」。メルトマスフローレート:0.45(g/10min)、融点:164℃。
【0107】
(c)エポキシ変性ポリプロピレン
(c-1)ビックケミー・ジャパン株式会社のグリシジルメタクリレート(GMA)変性ポリプロピレン(PP)「SCONA TPPP 8104(商品名)」。エポキシ指数(FA)0.2meq./g、エポキシ変性率(GMA含有量):2.5質量%。
【0108】
(c)比較成分:
(c’-1)住友化学株式会社のエチレン-グリシジルメタクリレート(E-GMA)系共重合体「ボンドファースト(登録商標)、BF-E(商品名)」。
(c’-2)DOW社のマレイン酸変性ポリプロピレン「FUSABOND(登録商標)、P353(商品名)」。
【0109】
(d)架橋剤
(d-1)日油株式会社のエポキシ基含有アクリル-スチレン系樹脂「マープループG0250SP(商品名)」。重量平均分子量(Mw):2万、エポキシ指数:3.2(meq./g)、ガラス転移温度(Tg):74(℃)。
【0110】
(d-2)阪本薬品工業株式会社のエポキシ基含有モノマー(ジエチレングリコ-ルジグリシジルエーテル)「SR-2EG(商品名)」。エポキシ指数(=1000/エポキシ当量)6.7meq/g
(d-3)阪本薬品工業株式会社のエポキシ基含有モノマー(ジエチレングリコ-ルジグリシジルエーテル)「SR-3EG(商品名)」。エポキシ指数(=1000/エポキシ当量)0.1meq/g
【0111】
(e)可塑剤:
(e-1)株式会社ADEKAのポリエーテルポリエステル系可塑剤「アデカサイザーRS-735(商品名)」。
(e-2)新日本理化株式会社のフタル酸エステル系可塑剤(フタル酸ジ(2-エチルヘキシル):DOP)「サンソサイザーDOP(商品名)」。
(e-3)大日本インキ株式会社のアジピン酸エステル系可塑剤「W320(商品名)」。
(e-4)株式会社ADEKAのエポキシ化大豆油「O-130P(商品名)」。
【0112】
(e)比較成分:
(e’-1)出光興産株式会社のパラフィン系鉱物油「ダイアナプロセスオイルPW-100(商品名)」。
【0113】
(f)酸化防止剤
(f-1)BASFジャパン株式会社のフェノール系酸化防止剤「Irganox(登録商標)B225(商品名)」。
【0114】
<測定方法>
(1)メルトマスフローレート(MFR):
下記で得た組成物を用いて、JIS K 7112に準拠して230℃、10kgの条件にて測定した。
(判定基準)
MFRは、3~200(g/10min)の範囲を合格とした。より好ましい範囲は、5~80(g/10min)である。
【0115】
(2)硬度:
下記で得た組成物を用い、型締め圧力120トンの射出成形機を使用し、成形温度250℃で縦13cm×横13cm、厚み2mmの射出シートを作製した。得られた射出シートを用いて6mm厚のプレスシートを作成した。得られたプレスシートをサンプルとして、ASTM D2240に従い、デュロメータ硬さ(タイプA)の15秒後を測定した。
(判定基準)
硬度は、50~95の範囲を合格とした。より好ましい範囲は、50~92である。
【0116】
(3)引張試験:
JIS K 6251-2010に準拠し、試験片として上記で得た2mm厚射出シートから打抜いた3号ダンベルを用い、引張速度500mm/分の条件で測定した。
(判定基準)
引張強度は、4MPa以上を合格とした。より好ましい範囲は、5MPa以上である。
引張伸びは、85%以上を合格とした。より好ましい範囲は、120%である。
【0117】
(4)圧縮永久歪(高温環境下における耐圧縮永久歪性):
JIS K 6262-2003に準拠し、25%圧縮変形させて、温度70℃、及び22時間の条件で測定した。
(判定基準)
圧縮永久歪は、80%未満を合格とした。より好ましい範囲は、75%未満である。
【0118】
(5)耐油性(高温環境下における耐油性):
JIS K 6258-2003に準拠し、試験片は上記で得た2mm厚射出シートから打ち抜いたものを用い、IRM#903オイルに温度120℃で22時間浸漬した後の体積膨潤率を測定した。
(判定基準)
耐油性は、体積膨張率が30体積%未満を合格とした。より好ましい範囲は、21体積%未満である。
【0119】
(6)成形外観の評価:
組成物製造時のストランドの表面を目視で観察したり、手で触ったりし、以下の基準で判定した。
(判定基準)
○:ストランドの表面は滑らかである。
△:ストランドの表面にやや肌荒れ(ざらつき)が生じている。
×:ストランドの表面に鱗状等の著しい外観不良が生じている。
【0120】
<実施例1~21、比較例1~11>
表1~5の何れか1に示す量(質量部)の成分を、日本製鋼株式会社の28mm径、L/D=42の二軸押出機と水冷ストランドカット方式の造粒機とを備えた装置を使用し、スクリュウ回転数600rpm、押出機出口温度200℃の条件で溶融混練し、組成物のペレットを得た。上記試験(1)~(6)を行った。結果を表1~5の何れか1に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
【表2】
【0123】
【表3】
【0124】
【表4】
【0125】
【表5】
【0126】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、機械特性、高温環境下における耐圧縮永久歪性、耐油性、成形外観に優れている。一方、比較例は、機械特性、高温環境下における耐圧縮永久歪性、耐油性、成形外観の何れか1つ以上が不十分である。