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特開2024-140860晶析操作による化合物の粒子の製造方法および製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140860
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】晶析操作による化合物の粒子の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/14 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C08J3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052208
(22)【出願日】2023-03-28
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】591270556
【氏名又は名称】名古屋市
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100167276
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】安井 望
(72)【発明者】
【氏名】安田 啓司
【テーマコード(参考)】
4F070
【Fターム(参考)】
4F070AA18
4F070AA47
4F070DA24
4F070DC03
4F070DC07
(57)【要約】
【課題】晶析操作による化合物の粒子の製造効率を高めることができる技術を提供する。
【解決手段】晶析操作による化合物の粒子の製造方法は、前記化合物の貧溶媒によって構成された貧溶媒層と、前記貧溶媒よりも高密度で、前記貧溶媒に対して非混和性を有し、相分離する溶媒である分離溶媒によって構成され、前記貧溶媒層の下に配置された分離層と、を有する液槽を準備する工程と、前記化合物を、前記分離溶媒に対する非混和性を有する良溶媒に溶解させた良溶媒溶液の粒状体を前記分離層で生成し、前記粒状体を浮力によって、前記分離層から前記貧溶媒層へと輸送することにより、前記貧溶媒層内において前記化合物を析出させる工程と、を備える。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
晶析操作による化合物の粒子の製造方法であって、
前記化合物の貧溶媒によって構成された貧溶媒層と、前記貧溶媒よりも高密度で、前記貧溶媒に対して非混和性を有し、相分離する溶媒である分離溶媒によって構成され、前記貧溶媒層の下に配置された分離層と、を有する液槽を準備する工程と、
前記化合物を、前記分離溶媒に対する非混和性を有する良溶媒に溶解させた良溶媒溶液の粒状体を前記分離層で生成し、前記粒状体を浮力によって、前記分離層から前記貧溶媒層へと輸送することにより、前記貧溶媒層内において前記化合物を析出させる工程と、
を備える、製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法であって、
前記液槽は、さらに、前記分離溶媒よりも高密度の前記良溶媒溶液で構成された良溶媒層を有し、
前記良溶媒層と前記分離層と前記貧溶媒層とは、前記液槽内において下から順に積層された状態であり、
前記粒状体は、前記良溶媒層に気泡を導入することによって形成され、前記気泡の浮力によって、前記良溶媒層から前記分離層を経て前記貧溶媒層へと輸送される、製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の製造方法であって、
前記粒状体は、前記気泡が、前記分離層から前記良溶媒層へと導入されることによって形成される、製造方法。
【請求項4】
請求項2記載の製造方法であって、
前記気泡は、不活性ガスによって構成されている、製造方法。
【請求項5】
請求項2記載の製造方法であって、
前記気泡は、直径200μm未満である、製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の製造方法であって、
前記化合物は難水溶性化合物によって構成され、前記良溶媒と前記貧溶媒はそれぞれ、非水溶性の溶媒によって構成されている、製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の製造方法であって、
前記化合物は、ポリスチレン、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等のポリマーによって構成され、
前記良溶媒と前記貧溶媒はそれぞれ、ヘキサン、トルエン、オクタン、イソオクタン、デカン、クロロホルム等の有機溶媒によって構成され、
前記分離溶媒は、水等の水溶性溶媒によって構成されている、製造方法。
【請求項8】
晶析操作によって化合物の粒子を製造する製造装置であって、
前記化合物の貧溶媒によって構成された貧溶媒層と、前記貧溶媒よりも高密度で、前記貧溶媒に対して非混和性を有し、相分離する溶媒である分離溶媒によって構成され、前記貧溶媒層の下に配置された分離層と、を有する液槽と、
前記化合物を、前記分離溶媒に対する非混和性を有する良溶媒に溶解させた良溶媒溶液によって構成され、前記分離層での浮力によって前記貧溶媒層に輸送され、前記貧溶媒層での前記化合物の析出によって粒子化する粒状体を前記分離層に生成させる粒状体生成部と、
を備える、製造装置。
【請求項9】
請求項8記載の製造装置であって、
前記液槽は、さらに、前記分離溶媒よりも高密度の前記良溶媒溶液で構成された良溶媒層を有し、
前記良溶媒層と前記分離層と前記貧溶媒層とは、前記液槽内において下から順に積層された状態であり、
前記粒状体生成部は、前記良溶媒層に気泡を導入することによって、前記粒状体を生成させる気泡導入部を含む、製造装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、晶析操作による化合物の粒子の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、化合物の粒子は、樹脂充填剤や、光拡散材、塗料、医療品、化粧品等、様々な用途で用いられている。そうした化合物の粒子は、晶析操作を利用して製造される場合がある。晶析操作によれば、良溶媒に溶解された化合物を過飽和の状態にすることによって、核の形成と粒子成長とを進行させることができる。そのため、晶析操作は、化合物の分離精製や粒子の製造に適している。
【0003】
これまで、化合物の粒子を製造するための様々な晶析操作の方法が開示されてきている。例えば、下記の非特許文献1には、化合物を良溶媒に溶解させた溶液を、マイクロシリンジを用いて貧溶媒に注入して粒子を得る再沈法が開示されている。また、非特許文献2には、W/O/Wエマルジョンを形成した後に、良溶媒の蒸発や貧溶媒の混和により化合物の粒子を得るダブルエマルジョン溶媒蒸留法や、エマルジョン溶媒拡散法などが開示されている。特許文献1には、難水溶性の化合物を難水溶性の有機溶媒に溶解または分散させた溶液を、攪拌されている水に供給し、水の沸点未満の高温で有機溶媒を蒸発させることにより、化合物の粒子を得る蒸発晶析方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】笠井均,馬場耕一,中西八郎,宮下陽介,J.Jpn.Soc.Colour Mate.,82(9),411-416(2009)
【非特許文献2】田原耕平,山本浩充,竹内洋文,川島嘉明,YAKUGAKU ZASSHI,127(10),1541-1548(2007)
【特許文献1】特許第4395897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような化合物の粒子を製造するための晶析操作では、多くの場合、良溶媒の蒸発や冷却によって過飽和の状態を生じさせている。しかしながら、そのような方法では、溶媒の蒸発による化合物濃度の上昇や冷却による溶解度の変化を伴いながら粒子を成長させるため、著しく時間がかかる場合がある。また、好適なサイズや粒度分布等を有するような所望の粒子を得るための溶液の濃度や温度等の条件の制御や、粒子の成長の制御が容易でない場合もある。このように、晶析操作によって化合物の粒子を製造する技術においては、その製造効率を高めることについて、依然として、改良の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の発明者らは、独自の研究により、良溶媒の冷却や蒸発によって過飽和の状態を生じさせるのとは異なる新規な方法の晶析操作によって、化合物の粒子をより効率よく製造できる技術の開発に成功した。本願発明は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
[第1形態]本願発明の第1形態は、晶析操作による化合物の粒子の製造方法として提供される。第1形態の製造方法は、前記化合物の貧溶媒によって構成された貧溶媒層と、前記貧溶媒よりも高密度で、前記貧溶媒に対して非混和性を有し、相分離する溶媒である分離溶媒によって構成され、前記貧溶媒層の下に配置された分離層と、を有する液槽を準備する工程と、前記化合物を、前記分離溶媒に対する非混和性を有する良溶媒に溶解させた良溶媒溶液の粒状体を前記分離層で生成し、前記粒状体を浮力によって、前記分離層から前記貧溶媒層へと輸送することにより、前記貧溶媒層内において前記化合物を析出させる工程と、を備える。
この形態の製造方法によれば、化合物が溶解された良溶媒溶液を、球体に近い粒状体の状態にして、分離層での浮力を利用して、貧溶媒層に簡易に輸送することができる。また、貧溶媒層において、良溶媒溶液を粒状体のまま過飽和の状態にすることができるため、真球度が高い化合物の粒子を析出させることができる。この晶析操作によれば、良溶媒の冷却や蒸発を伴わなくてもよく、常温・常圧の条件下であっても実行することができ、短時間で化合物の粒子を容易に得ることもできる。また、粒状体を分離層に連続的に導入することにより、化合物の微粒子を貧溶媒層中に連続的に高速で多量に生成することができる。よって、化合物の粒子をより効率よく製造することができる。
【0008】
[第2形態]上記第1形態の製造方法において、前記液槽は、さらに、前記分離溶媒よりも高密度の前記良溶媒溶液で構成された良溶媒層を有し、前記良溶媒層と前記分離層と前記貧溶媒層とは、前記液槽内において下から順に積層された状態であり、前記粒状体は、前記良溶媒層に気泡を導入することによって形成され、前記気泡の浮力によって、前記良溶媒層から前記分離層を経て前記貧溶媒層へと輸送されてよい。
第2形態の製造方法によれば、良溶媒層への気泡の導入により、良溶媒溶液を、粒状体の状態で、簡易に、貧溶媒層へと輸送することができるため、化合物の粒子の製造が、より容易になる。また、良溶媒層に気泡を連続的に導入するだけで、貧溶媒層に粒状体を連続的に輸送することができるため、多量の粒子を連続的に製造することができる。さらに、気泡を核とした中空な粒子が形成されやすくなるため、粒子の芯を除去する工程をおこなわずに、中空な粒子を効率よく製造することが可能になる。
【0009】
[第3形態]上記第2形態の製造方法において、前記粒状体は、前記気泡が、前記分離層から前記良溶媒層へと導入されることによって形成されてよい。
第3形態の製造方法によれば、より真球度が高い粒子を容易に形成することができる。
【0010】
[第4形態]上記第2形態、または、第3形態に記載の製造方法において、前記気泡は、不活性ガスによって構成されてもよい。
第4形態の製造方法によれば、気泡が、液槽内に存在する他の物質やイオンと反応して消失することによって縮小したり、消失したりすることが抑制される。よって、気泡による良溶媒溶液の輸送をより効率よく行うことが可能になり、化合物の粒子を、より効率よく製造することができる。
【0011】
[第5形態]上記第2形態、第3形態、および、第4形態のいずれか1つに記載の製造方法において、前記気泡は、直径200μm未満であってよい。
第5形態の製造方法によれば、ファインバブル(登録商標)に相当する気泡を用いることにより、より微細な微粒子を製造することが容易にできる。また、ファインバブルであれば晶析操作の途中で消失することが抑制されるため、中空な微粒子をより効率よく得ることができる。
【0012】
[第6形態]上記第1形態、第2形態、第3形態、第4形態、および、第5形態のいずれか1つに記載の製造方法において、前記化合物は難水溶性化合物によって構成され、前記良溶媒と前記貧溶媒はそれぞれ、非水溶性の溶媒によって構成されていてよい。
第6形態の製造方法によれば、良溶媒に溶解している難水溶性化合物の気泡表面での凝集を促進させることができ、粒子の製造効率をより一層、高めることができる。
【0013】
[第7形態]上記6形態に記載の製造方法において、前記化合物は、ポリスチレン、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等のポリマーによって構成され、前記良溶媒と前記貧溶媒はそれぞれ、ヘキサン、トルエン、オクタン、イソオクタン、デカン、クロロホルム等の有機溶媒によって構成され、前記分離溶媒は、水等の水溶性溶媒によって構成されてよい。
第7形態の製造方法によれば、好適な良溶媒および貧溶媒によって分離溶媒の分離性を高めることができるため、晶析操作をより容易、かつ、安定的に行うことができる。よって、より効率よく化合物の粒子を製造することができる。
【0014】
[第8形態]本願発明の第8形態は、晶析操作によって化合物の粒子を製造する製造装置として提供される。第8形態の製造装置は、前記化合物の貧溶媒によって構成された貧溶媒層と、前記貧溶媒よりも高密度で、前記貧溶媒に対して非混和性を有し、相分離する溶媒である分離溶媒によって構成され、前記貧溶媒層の下に配置された分離層と、を有する液槽と、前記化合物を前記分離溶媒に対する非混和性を有する良溶媒に溶解させた良溶媒溶液によって構成され、前記分離層での浮力によって前記貧溶媒層に輸送され、前記貧溶媒層での前記化合物の析出によって粒子化する粒状体を前記分離層に生成させる粒状体生成部と、を備える。
第8形態の製造装置によれば、化合物が溶解された良溶媒溶液を、球体に近い粒状体の状態にして、分離層での浮力を利用して、貧溶媒層に簡易に輸送することができる。また、貧溶媒層において、良溶媒溶液を粒状体のまま過飽和の状態にすることができるため、化合物を粒子化した状態で析出させることができる。よって、真球度が高い化合物の粒子を効率よく製造することができる。
【0015】
[第9形態]上記第8形態の製造装置において、前記液槽は、さらに、前記分離溶媒よりも高密度の前記良溶媒溶液で構成された良溶媒層を有し、前記良溶媒層と前記分離層と前記貧溶媒層とは、前記液槽内において下から順に積層された状態であり、前記粒状体生成部は、前記良溶媒層に気泡を導入することによって、前記粒状体を生成させる気泡導入部を含んでよい。
第9形態の製造装置によれば、気泡導入部による良溶媒層への気泡の導入により、良溶媒溶液を、粒状体の状態で、簡易に、貧溶媒層へと輸送することができるため、化合物の粒子の製造が、より容易になる。また、気泡導入部によって良溶媒層に気泡を連続的に導入するだけで、貧溶媒層に粒状体を連続的に輸送することができるため、多量の粒子を連続的に製造することができる。さらに、気泡を核とした中空な粒子が形成されやすくなるため、粒子の芯を除去する工程をおこなわずに、中空な粒子を効率よく製造することが可能になる。
【0016】
本願発明は、晶析操作による化合物の粒子の製造方法や製造装置以外の種々の形態で実現することが可能である。例えば、その方法や装置によって製造された粒子や、その粒子を用いた製品等の形態で実現することもできる。また、その晶析操作を実行する方法や、その晶析操作によって化合物を分離精製する方法、その晶析操作を実行するための機械・器具・装置、化合物の粒子の製造装置を制御する制御装置や制御プログラム等の形態で実現することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態の製造方法を説明するための概略図。
図2】第2実施形態の製造方法を説明するための概略図。
図3】第3実施形態の製造方法を説明するための概略図。
図4】実施例で得られた晶析操作後の液槽の様子を写した撮影画像を示す説明図。
図5】実施例で得られた撮影画像をまとめた表を示す第1の説明図。
図6】実施例で得られた撮影画像をまとめた表を示す第2の説明図。
図7】実施例で得られた中空粒子の計測結果に基づいて作成したグラフを示す説明図。
図8】良溶媒溶液の濃度と中空の粒子の寸法との関係を示す第1の説明図。
図9】良溶媒溶液の濃度と中空の粒子の寸法との関係を示す第2の説明図。
図10】比較例で得られた撮影画像をまとめた表を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図を参照しながら、本願発明に係る晶析操作による化合物の粒子の製造方法の実施形態を説明する。
【0019】
1.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における粒子の製造装置10の構成および製造装置10での粒子の製造工程を模式的に示す概略図である。
【0020】
第1実施形態の製造方法では、良溶媒に溶解させた化合物を、貧溶媒を用いて過飽和の状態にして析出させる晶析操作によって化合物の粒子を製造する。この製造方法が対象とする化合物は、溶解可能な溶媒が存在するものであればよい。本実施形態では、化合物は、難水溶性化合物であり、例えば、ポリスチレン(PS)や、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリ乳酸(PLA)等のポリエステル樹脂である。
【0021】
なお、化合物は、前記のポリマーに限定されることはなく、他のポリマーであってもよい。また、化合物は、ポリマーに限定されることはない。他の実施形態では、化合物は、他の有機化合物であってもよく、無機化合物であってもよい。化合物は、難水溶性化合物でなくてもよく、水溶性化合物であってもよい。
【0022】
以下では、まず、晶析操作を実行するための製造装置10の構成を説明した後、製造装置10での晶析操作による化合物の粒子の製造方法を説明する。
【0023】
1-1.製造装置の構成:
製造装置10は、液槽11と、気泡導入部20と、攪拌子25と、を備える。液槽11には、貧溶媒層12と分離層13と良溶媒層14とに分離している液体が収容されている。
【0024】
貧溶媒層12は、化合物の貧溶媒によって構成されている。貧溶媒の種類は、化合物の種類に応じて適宜、選択することができる。貧溶媒としては、例えば、ヘキサン、ベンゼン、トルエンオクタン、2,2,4-トリメチルペンタン(イソオクタン)、デカン等の炭化水素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、ジイソプロピルエーテル等のエーテル等を採用することができる。水溶性溶媒によって構成された後述の分離溶媒に対する分離性を高めるためには、貧溶媒は、非水溶性の溶媒によって構成されることが好ましい。また、分離溶媒を水で構成する場合、前述した種類の貧溶媒であれば、水よりも低比重であるため好ましい。
【0025】
化合物が、上述したPSや、PBS、PLA等のポリマーである場合、貧溶媒としては、例えば、ヘキサンを採用することができる。また、貧溶媒としては、オクタンや、イソオクタン、デカン、ジイソプロピルエーテル等の有機溶媒を採用することもできる。貧溶媒は、前述した以外の他の有機溶媒であってもよい。また、他の実施形態では、貧溶媒は、水溶性溶媒であってもよい。
【0026】
分離層13は、貧溶媒よりも高密度で、貧溶媒に対して非混和性を有し、相分離する溶媒である分離溶媒によって構成される。これにより、分離層13は、液槽11において貧溶媒層12の下に分離した状態で配置される。
【0027】
本実施形態では、分離溶媒は水溶性溶媒によって構成される。なお、分離溶媒が水溶性溶媒によって構成される場合、貧溶媒を非水溶性の溶媒によって構成すれば、貧溶媒と分離溶媒との分離性を高めることができるため、晶析操作の最中に貧溶媒層12の貧溶媒と分離層13の分離溶媒とが混合されることをより一層、抑制できる。
【0028】
水溶性溶媒の分離溶媒としては、例えば、水、グリセリン、エチレングリコール等を採用することができる。なお、他の実施形態では、分離溶媒は、貧溶媒および良溶媒に対する非混和性を有する非水溶性の溶媒によって構成されてもよい。
【0029】
良溶媒層14は、化合物を、分離溶媒よりも高密度で、分離溶媒に対する非混和性を有する良溶媒に溶解させた良溶媒溶液によって構成される。これによって、良溶媒層14は、液槽11において、分離層13の下に分離した状態で配置される。良溶媒溶液における化合物の濃度は、例えば、0.1~1.0wt%程度とすることができる。ただし、良溶媒溶液における化合物の濃度は、この数値範囲に限定されることはない。
【0030】
良溶媒の種類は、化合物の種類に応じて適宜選択されればよい。化合物の種類にもよるが、良溶媒は、例えば、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、オクタン、イソオクタン、デカン等の炭化水素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、ジイソプロピルエーテル等のエーテル等の有機溶媒によって構成することができる。
【0031】
化合物が、上述したPSや、PBS、PLA等のポリマーである場合、良溶媒としては、例えば、クロロホルムが好適である。ただし、良溶媒は、クロロホルムに限定されることはなく、他の有機溶媒や無機溶媒であってもよい。
【0032】
上記のように、本実施形態では、分離溶媒が水溶性溶媒によって構成されているため、良溶媒は、貧溶媒と同様に、非水溶性の溶媒によって構成されることが好ましい。これによって、良溶媒溶液と分離溶媒との分離性を高めることができ、晶析操作の際に、良溶媒層14の良溶媒溶液と分離層13の分離溶媒とが混合されることを抑制できる。なお、良溶媒は、非水溶性の溶媒に限定されることはなく、水溶性の溶媒によって構成されてもよい。
【0033】
気泡導入部20は、良溶媒層14に気泡を導入可能に構成されている。気泡導入部20は、良溶媒層14に気泡14を導入することによって、後述する粒状体16を分離層13に生成させる粒状体生成部を構成する。気泡導入部20は、例えば、微細孔方式のファインバブル発生器であるスパージャーによって構成することができる。気泡導入部20は、筒状の本体部を有しており、先端部側が液槽11内に配置され、後端部側が液槽11の外部に配置されている。
【0034】
気泡導入部20の本体部の内部には、図示しないガス供給部から、後端部の開口を通じて気泡を生成するためのガスが供給される。本実施形態では、例えば、窒素等の不活性ガスが供給される。気泡導入部20の先端側には、多数の細孔が密に形成されており、その細孔から液中にガスが流出することにより、気泡が発生する。
【0035】
上記構成の気泡導入部20によれば、液槽11における各層12,13,14の乱流を抑制したまま気泡を発生させることが容易にできる。よって、気泡の導入によって、各層12,13,14が混合されてしまうことを抑制できる。
【0036】
気泡導入部20は、直径200μm未満の微細孔を有していることが好ましい。これにより、気泡導入部20は、直径200μm未満の気泡を発生させることができる。気泡導入部20は、直径100μm未満の微細孔を有していてもよい。そのような気泡導入部20であれば、直径100μm以下のファインバブルに相当する微細気泡を発生させることができる。
【0037】
気泡導入部20は、貧溶媒層12より下の層に気泡を導入するように設置されている。本実施形態では、気泡導入部20の先端部が良溶媒層14に位置するように配置されている。これにより、気泡導入部20は、良溶媒層14に直接、気泡を発生させることができる。なお、気泡導入部20は、良溶媒層14とともに分離層13にも気泡を発生させるように構成されていてもよい。
【0038】
攪拌子25は、例えば、マグネチックスターラーによって構成される。攪拌子25は、液槽11内の底部に配置されている。本実施形態では、攪拌子25は、良溶媒層14に配置されており、良溶媒層14の良溶媒溶液を攪拌する。攪拌子25の攪拌により、良溶媒層14に導入された気泡の粒度や分散性を調整することが可能である。なお、他の実施形態では、攪拌子25は省略されてもよい。
【0039】
1-2.化合物の粒子の製造方法:
図1を参照しながら、上記の製造装置10における化合物の粒子の製造工程を説明する。なお、図1では、便宜上、1つの気泡15、および、粒状体16が浮力によって移動していく軌跡が模式的に図示されているが、実際には、多数の気泡15および粒状体16が良溶媒層14において連続的に形成され、分離層13および貧溶媒層12に輸送される。
【0040】
第1工程では、上述した良溶媒層14、分離層13、貧溶媒層12が下から順に積層されている状態の液槽11が準備される。液槽11内には、気泡導入部20および攪拌子25が上述した位置に配置される。良溶媒層14を構成する良溶媒溶液の濃度は、例えば、粒子の粒度や殻の厚み等、製造する粒子の目標とする寸法に応じて予め調整されることが好ましい。後述する実施例において説明するように、良溶媒溶液の濃度と製造される粒子の寸法との関係は、予め、実験等によって得ることができる。
【0041】
第2工程では、気泡導入部20によって、良溶媒層14に気泡15が導入される。本実施形態では、気泡導入部20は、直径200μm未満の気泡15を導入する。気泡15の粒度は、気泡導入部20に供給されるガスの流量や、攪拌子25による攪拌によって調整することができる。また、攪拌子25による攪拌によって気泡15の分散性が調整されてもよい。
【0042】
良溶媒層14に導入された気泡15は、浮力によって、分離層13へと移動する。このとき、気泡15に吸着した良溶媒溶液が、気泡15の浮力によって、気泡15とともに分離層13に導入され、以下に説明する粒状体16が生成される。なお、本明細書において「粒状体」との用語は、粒状の外形形状を有する物体を表す広い概念として用いている。そのため、単に「粒状体」と呼ぶときは、その成分やサイズが特に限定されることはないし、気体や液体・固体の区別もなく、中空や中実の区別もない。気泡15に吸着したまま分離層13に輸送された良溶媒溶液は、良溶媒溶液の粘性と表面張力の影響によって、気泡15の全体を覆う良溶媒溶液の薄膜を形成し、気泡15を核とする中空の粒状体16を形成する。あるいは、図示はしていないが、気泡15に吸着したまま分離層13に輸送された良溶媒溶液は、気泡15の一部分に吸着した液滴状の粒状体16を構成する場合もある。分離層13に導入された良溶媒溶液の中空または中実の粒状体16は、気泡15の浮力によって、貧溶媒層12へと輸送される。
【0043】
粒状体16は、貧溶媒層12まで、球体に近い、つまり、真球度が高い状態で輸送される。粒状体16が貧溶媒層12に導入されると、良溶媒溶液と貧溶媒との接触により、粒状体16において化合物の過飽和の状態が生じ、化合物が析出する。中空の粒状体16では、析出した化合物の凝集が気液界面に沿って進行し、気泡15を核とした中空の粒子が形成される。化合物の析出・凝集が進行していくうちに、気泡15全体を覆ったままの状態が維持できなくなる場合もあるが、この場合でも、真球度の高い中実の粒子が形成される。また、中実な粒状体16でも、内部で化合物が析出して凝集することにより、そのまま真球度の高い状態が維持されて中実の粒子が形成される。
【0044】
以上のように、第1実施形態の製造方法によれば、気泡導入部20による良溶媒層12への気泡15の導入によって、良溶媒溶液の粒状体16を分離層13に簡易に生成することができる。また、その粒状体16を、浮力を利用して、真球度が高い状態で、分離層13から貧溶媒層12へと簡易に輸送することができる。また、貧溶媒層12では、良溶媒溶液と貧溶媒との接触によって生じる過飽和の状態により、化合物を析出させることができ、粒状体16を、真球度の低下が抑制された状態で粒子化させることができる。よって、真球度が高い化合物の粒子を簡易に製造することができる。この製造方法の晶析操作によれば、液槽11において、良溶媒の冷却や蒸発を行わなくても、化合物を析出させることができるため、常温・常圧の条件下で実行することができ、化合物の粒子を短時間で得ることができる。
【0045】
第1実施形態の製造方法によれば、気泡導入部20によって多量の気泡15を連続的に良溶媒層14に発生させることができ、多量の粒状体16を分離層13および貧溶媒層12に連続的に輸送することができる。よって、化合物の微粒子を貧溶媒層中に短時間で連続的に生成することができ、化合物の粒子をより効率よく製造することができる。また、導入される気泡15の粒度や粒度分布を調整することにより、製造される粒子の粒度や粒度分布を容易に制御することができる。
【0046】
第1実施形態の製造方法では、上述したように、化合物として、難水溶性化合物が採用され、貧溶媒と良溶媒とが、上記実施形態中で具体的に例示した有機溶媒によって構成されている。これによって、良溶媒に溶解している難水溶性化合物の気泡表面での凝集が促進される。そのため、粒子の製造効率をより一層、高めることができる。また、第1実施形態の製造方法では、分離溶媒が、良溶媒および貧溶媒に対して非混和性を有する水等の水溶性溶媒によって構成されている。これにより、分離層13に対する貧溶媒層12および良溶媒層14のそれぞれの分離性が高められるため、晶析操作をより容易、かつ、安定的に行うことができる。
【0047】
第1実施形態の製造方法では、晶析操作の際に、気泡15を核とする中空の粒状体16を生成させることにより、中空な化合物の粒子を容易に得ることができる。このような中空な粒子は、様々なアプリケーションへの展開が期待される。例えば、中空な粒子によれば、粒子の軽量化が可能である。また、中空な粒子により、高い断熱性や低誘電率を有する薄膜を容易に形成することも可能である。さらに、中空な粒子によれば、光を反射しやすい塗料等を容易に製造することができるし、高い吸音性を有する吸音部材を作製することもできる。その他に、中空の粒子によれば、内包している気体の物性を利用することが可能であるし、内部に他の物質が充填されることによって、新たな機能を発現させることも可能である。
【0048】
上記のように、第1実施形態の製造方法では、不活性ガスによって気泡が生成されている。不活性ガスによって生成された気泡であれば、貧溶媒層12に輸送されるまでの間に、他の物質やイオン等との反応により縮小したり、消失したりすることが抑制される。よって、所望の粒子を、より一層、効率よく製造することが可能であるし、中空な粒子の生成割合を高めることが可能である。
【0049】
また、第1実施形態の製造方法では、上述したように、気泡導入部20によって、気泡として、直径200μm未満の気泡が導入されている。これにより、核となる気泡が微細になるため、より微細な粒子を得ることができる。また、気泡導入部20によって導入される気泡が、直径100μm以下のファインバブルに相当する微細気泡であれば、貧溶媒層12まで輸送される間や、晶析操作の間に消失することが抑制されるため、中空な粒子の生成割合を、より一層、高めることができる。また、形成される粒子の粒度分布のばらつきをより一層、抑制することもできる。
【0050】
ところで、従来から、化合物の粒子の製造に、ファインバブル等の気泡を利用する種々の技術が提案されている。しかしながら、その技術の多くは、気泡の気液界面における重合法によるものであり、特定のポリマーの粒子を製造するものである。これに対して、上記実施形態の製造方法であれば、晶析操作を利用しているため、化合物が、重合法が適用されてきたような特定のポリマーに限定されることがなく、より様々な種類の化合物の粒子の製造が実現可能である。例えば、PS等の乳化重合等によって微粒子が得られるようなポリマーだけでなく、PBSやPLA等、一般に重合による粒子の製造が容易ではないポリエステル樹脂等の微粒子も容易に製造することが可能である。また、従来のファインバブル等の気泡を利用した粒子の製造技術は、回分式であるものや、溶媒の蒸発によって化合物を析出させるものであるため、粒子の製造効率が高いとは言えない。これに対して、本実施形態の製造方法によれば、上述したように、化合物の粒子を効率よく、高速に製造することが可能である。
【0051】
2.第2実施形態:
図2は、第2実施形態における粒子の製造装置10Aの構成および製造装置10Aでの粒子の製造工程を模式的に示す概略図である。第2実施形態の製造装置10Aの構成は、気泡導入部20の先端部が分離層13に位置している点以外は、第1実施形態の製造装置10の構成とほぼ同じである。
【0052】
第2実施形態の粒子の製造方法は、気泡導入部20によって気泡15が、貧溶媒層14の上の分離層13に導入される点以外は、第1実施形態で説明した粒子の製造方法とほぼ同じである。第2実施形態では、気泡導入部20によって分離層13に導入された気泡15の少なくとも一部が、気泡導入部20から噴出する際のガスの圧力や液槽11内での液体の流れによって、分離層13から良溶媒層14へと移動する。
【0053】
良溶媒層14に移動した気泡15は、第1実施形態でも説明したように、良溶媒溶液の粒状体16を形成し、浮力によって、分離層13へと輸送され、さらに、分離層13から貧溶媒層12へと輸送される。貧溶媒層12では、第1実施形態で説明したように、化合物が析出して凝集することにより、化合物の粒子が形成される。
【0054】
第2実施形態の製造方法によれば、後述する実験例において示されているように、より真球度が高く、強度が高い化合物の粒子を得ることができる。その他に、第2実施形態の製造装置10Aおよび製造方法によれば、第1実施形態で説明したのと同様な種々の効果を奏することができる。
【0055】
3.第3実施形態:
図3は、第3実施形態における粒子の製造装置10Bの構成および製造装置10Bでの粒子の製造工程を模式的に示す概略図である。第3実施形態の製造装置10Bの構成は、以下に説明する点以外は、第1実施形態の製造装置10の構成とほぼ同じである。
【0056】
第3実施形態の製造装置10Bでは、液槽11には、良溶媒層14がなく、分離層13が貧溶媒層12の下に配置されている。攪拌子25は、分離層13に配置されている。また、製造装置10Bでは、気泡導入部20の代わりに、良溶媒溶液導入部28が設けられている。良溶媒溶液導入部28は、第3実施形態の製造装置10Bにおいて、粒状体16を分離層13に生成させる粒状体生成部を構成する。良溶媒溶液導入部28は、化合物を良溶媒に溶解させた良溶媒溶液の液滴18を分離層13に導入する。
【0057】
良溶媒溶液導入部28は、例えば、マイクロシリンジによって構成される。良溶媒溶液導入部28は、筒状の本体部を有しており、後端部が液槽11の外部に配置され、先端部が分離層13に配置されている。良溶媒溶液導入部28には、後端部から筒内に、良溶媒溶液が導入される。良溶媒溶液導入部28の先端部には、微小な開口が設けられており、筒内の圧力によって、その先端開口から、良溶媒溶液の液滴18が吐出される。
【0058】
第3実施形態における良溶媒は、第1実施形態と同様に、分離溶媒に対する非混和性を有しているが、第1実施形態とは異なり、分離溶媒よりも低密度である。良溶媒溶液導入部28によって、良溶媒溶液の液滴18が分離層13に導入されると、当該液滴18は、中実な球状の良溶媒溶液の粒状体16となり、分離溶媒と良溶媒の密度差に起因する浮力によって、貧溶媒層12へと輸送される。貧溶媒層12での貧溶媒との接触により、粒状体16において化合物が析出して凝集し、化合物の粒子が形成される。なお、他の実施形態では、良溶媒溶液導入部28に、予め攪拌によって泡立てた良溶媒溶液を導入しておき、良溶媒溶液導入部28によって、気泡を含む良溶媒溶液の液滴18を分離層13に導入してもよい。この構成であれば、良溶媒溶液を分離溶媒よりも高密度であったとしても、良溶媒溶液の粒状体16を、気泡の浮力によって、貧溶媒層12へと輸送することができる。
【0059】
第3実施形態の製造方法によれば、液槽11に、第1実施形態および第2実施形態で説明した良溶媒層14を設けなくとも、貧溶媒と良溶媒とを用いた晶析操作によって化合物の粒子を製造することができる。また、第1実施形態や第2実施形態と同様に、分離層13において良溶媒溶液の粒状体16が形成され、浮力によって貧溶媒層12に輸送されるため、真球度が高い化合物の粒子を簡易に製造することができる。その他に、第3実施形態の製造装置10Bおよび製造方法によれば、第1実施形態や第2実施形態で説明したのと同様な種々の効果を奏することができる。
【実施例0060】
4.本願発明者による実験例:
以下、表1と図4図9とを順に、参照しながら、本願発明者による実験例を、本願発明の実施例およびその比較例として説明する。表1には、実施例1~9および比較例1~4における化合物、良溶媒、貧溶媒の種類と、気泡導入部によって気泡を導入した液槽での位置と、をまとめてある。

【0061】
【表1】
【0062】
(1)実施例1~3:
実施例1,2,3では、第1実施形態で説明したのと同様な構成によって粒子を製造した。実施例1,2,3ではそれぞれ、化合物として、PS、PBS、PLAを用い、良溶媒としてクロロホルムを用いて、濃度0.3wt%の良溶媒溶液を作製して使用した。また、分離溶媒として、純水を使用し、貧溶媒としてヘキサンを使用した。液槽には、500mlのナスフラスコを使用し、その底部には攪拌子であるマグネチックスターラーを配置した。
【0063】
まず、ナスフラスコに、良溶媒溶液5gを入れて良溶媒層を形成した。その後、良溶媒層の上から、純水400gを注いで、しばらく静置した。良溶媒であるクロロホルムは、純水に対して非混和性を有し、かつ、高密度であるため、良溶媒溶液は、分離溶媒である純水に混ざることなく沈殿した。これにより、純水で構成された分離層の下に、良溶媒層が形成された。
【0064】
次に、ナスフラスコに、貧溶媒であるヘキサン50gを、分離層の上から静かに注いで、分離層の上に、貧溶媒層を形成した。なお、実施例1では、この段階で、ヘキサンの貧溶媒層と純水の分離層との間に、PSが析出した薄膜が形成された。この薄膜は、純水に微量の良溶媒溶液が混和したことによって生じたものであると考えられるが、実験結果に大きな影響を与えるものではなかったため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0065】
続いて、貧溶媒層、分離層、および、良溶媒層が形成されたナスフラスコに、気泡導入部であるスパージャーを、その先端部が良溶媒層に位置するように設置した。スパージャーに不活性ガスを供給して、良溶媒層に、直径200μm未満のファインバブルを発生させた。なお、このとき、マグネチックスターラーの攪拌による液体の流動と、不活性ガスの流量とを調整することにより、ファインバブルの大きさを調整した。スパージャーによる気泡の導入を開始してから、数分程度で、良溶媒溶液のほとんどが粒状体として分離層を介して貧溶媒層に輸送され、反応は終了した。
【0066】
図4は、実施例1の反応終了後の液槽11を撮影した撮影画像である。図4の撮影画像に示されているように、分離層13の上の貧溶媒層12が、化合物であるPSの粒子により、白濁していた。
【0067】
図5の表には、実施例1,2,3のにおいて貧溶媒層から回収された化合物の粒子の走査電子顕微鏡(SEM)による撮影画像であるSEM画像E1a,E1b,E2a,E2b,E3a,E3bが示されている。また、図5の表には、実施例1,2において得られた化合物の粒子の透過電子顕微鏡(TEM)による撮影画像であるTEM画像E1c,E2cが示されている。
【0068】
SEM画像E1a,E2a,E3aに示されているように、いずれの実施例1,2,3においても、真球度が高い微小な粒子が多量に生成されていた。SEM画像E1b,E2b,E3bは、SEM画像E1a,E2a,E3aよりも高倍率で撮影したものである。SEM画像E1b,E2b,E3bでは、撮像のために照射された電子線の影響により、粒子が潰れた状態で写っているが、その潰れ方から、粒子の内部に空洞が存在していることが確認できた。
【0069】
実施例2のTEM画像E2cでは、粒子の内部の空洞が、粒子中央の白っぽい像として映っている。実施例2では、中空の粒子の生成割合が高かった。一方、実施例1では、実施例2よりも、中空の粒子の生成割合が低かったため、TEM画像E1cでは、粒子内部の空洞の像は確認できなかった。
【0070】
以上のように、実施例1,2,3では、真球度が高い微細な粒子を、数分程度の短時間で多量に製造することに成功した。また、中空な粒子を得ることもできた。
【0071】
(2)実施例4:
実施例4では、第2実施形態で説明したのと同様な構成によって、分離層に気泡を導入して粒子を製造した。実施例4は、10gの良溶媒溶液を用いた点と、スパージャーの先端部を分離層に位置させて、分離層においてファインバブルを発生させた点以外は、実施例1とほぼ同じ条件で実施した。実施例4では、分離層で生成されたファインバブルの多くは、分離層から貧溶媒層に浮上して消滅していったが、一部は、良溶媒層に到達した。良溶媒層に到達したファインバブルは、良溶媒溶液を吸着し、良溶媒溶液の粒状体として、浮力によって分離層を経て、貧溶媒層に輸送された。ファインバブルの導入を開始してから2時間後に、貧溶媒層からPSの粒子を回収した。
【0072】
図5の表には、実施例4の貧溶媒層から回収されたPSの粒子のSEM画像E4a,E4bが示されている。実施例4では、実施例1,2,3のいずれよりも真球度が高い粒子を得ることができた。また、実施例4では、高倍率のSEM画像E4bでも粒子が潰れておらず、強度の高い粒子が形成されたと考えられる。
【0073】
以上のように、実施例4では、第2実施形態で説明したように、気泡を分離層に発生させて、良溶媒層へと導入した。その結果、他の実施例1,2,3よりも真球度が高い粒子を得ることができた。
【0074】
(3)実施例5:
実施例5では、第3実施形態で説明したのと同様な構成により、良溶媒層を設けず、かつ、気泡を用いずに、分離層に良溶媒溶液の液滴を導入することによって粒子を製造した。実施例5では、上記の実施例1~4と同様に、分離溶媒としての純水400gと、貧溶媒としてのヘキサン50gとを用いて、液槽であるナスフラスコ内に分離層と貧溶媒層とを形成した。
【0075】
また、実施例5では、化合物としてのPSを、純水より低密度な良溶媒であるトルエンに溶解させて、濃度0.3wt%の良溶媒溶液を作製し、シリンジによって、分離層に注入した。これにより、良溶媒溶液の液滴によって構成された粒状体が、分離溶媒と良溶媒の密度差に起因する浮力によって貧溶媒層へと輸送されてPSの粒子が形成された。
【0076】
図5の表には、実施例5で回収された微粒子のSEM画像E5aが示されている。SEM画像E5aに示されているように、実施例5においても、実施例1~4と同様に、真球度が高い多量の粒子を得ることができた。なお、SEM画像E5aでは、開孔している粒子が視認できるが、その開孔は、良溶媒溶液に微量に含有されていた気泡に由来するものであると考えられる。
【0077】
(4)実施例6~9:
実施例6,7,8,9では、化合物としてPBSを使用し、良溶媒としてクロロホルムを使用して良溶媒溶液を作製した。また、実施例6,7,8,9ではそれぞれ、貧溶媒として、オクタン、デカン、2,2,4-トリメチルペンタン、ジイソプロピルエーテルを使用した。それ以外の実施例6,7,8,9の条件は、実施例1~3とほぼ同じとした。
【0078】
図6の表には、実施例6,7,8,9で回収された粒子のTEM画像E6,E7,E8,E9が示されている。TEM画像E6,E7,E8,E9から、実施例6,7,8,9のいずれにおいても、真球度が高い粒子が形成されたことが確認できた。また、実施例6,7,8では、中空な粒子が形成されていたことが確認できた。実施例7,8では特に、中空な粒子を多く確認することができた。
【0079】
(5)実施例2,6,7,8における中空粒子の検証結果:
図7には、実施例2,6,7,8において得られた中空の粒子の寸法の計測結果を棒グラフで示してある。図7のグラフは、実施例2,6,7,8で得られた中空の粒子の外径と内径と殻の厚みとをTEM画像において計測した平均値を用いて作成したものである。実施例2,6,7,8で得られた中空の粒子は、外径が700~800nm程度であり、内径が250~350nm程度であり、殻の厚みが150~250nmであった。
【0080】
なお、実施例2,6,7,8と同様な条件下で、スパージャーに供給する不活性ガスの流量を、10mL/minと、100mL/minとに変更したところ、中空粒子の形状に変化は見られなかったが、中空の粒子の生成割合は100mL/minの方が高かった。
【0081】
(6)良溶媒溶液の濃度の影響(実施例10,実施例11):
図8図9にはそれぞれ、実施例10,11として、良溶媒溶液に溶解させた化合物の濃度を変えたときの中空の粒子の外径、内径、殻の厚みの変化を示すグラフを示してある。図8,9のグラフはそれぞれ、横軸が良溶媒溶液における化合物の濃度を示し、縦軸が、得られた中空の粒子の寸法を示している。実施例10,11では、中空の粒子の寸法として、その外径と、内径を計測し、その計測値の差から、殻の厚みを求めた。図8,9のグラフは、その計測値の平均値に基づいて作成した。
【0082】
実施例10,11ではそれぞれ、良溶媒溶液における化合物の濃度を変えた点以外は、実施例2,8と同様な条件で晶析操作を行って中空の粒子を製造した。図8図9のグラフに示されているように、実施例10,11のいずれにおいても、良溶媒溶液における化合物の濃度が高いほど、中空の粒子の殻の厚みが大きくなる関係が得られた。このように、良溶媒溶液における化合物の濃度が得られる中空粒子の寸法に影響することがわかった。
【0083】
(7)比較例1:
図10の表には、比較例1の貧溶媒層から回収された液体SCを撮影した撮影画像C1が示されている。撮影画像C1には、比較のために、実施例1の晶析操作後の貧溶媒層から回収した液体SEも写っている。
【0084】
比較例1では、実施例1と同様な条件で、液槽であるナスフラスコに、良溶媒層と、分離層と、貧溶媒層と、を作製し、ファインバブルを導入することなく、マグネチックスターラーによって4時間かけて攪拌した。撮影画像C1の液体SCは、その攪拌後のものである。
【0085】
比較例1で回収された液体SCは、実施例1で得られた液体SEと比較すると、ほぼ透明な状態であった。これは、比較例1では、分離溶媒により、良溶媒層と貧溶媒層との間の分離状態が維持され、PSが析出することがなかったことを示している。この結果から、分離層の下に形成された良溶媒層から良溶媒溶液を貧溶媒層に輸送するのには、気泡の浮力を利用することが有効であることがわかる。
【0086】
(8)比較例2:
図10の表には、比較例2において回収された化合物の粒子を撮影したSEM画像C2が示されている。
【0087】
比較例2では、化合物としてのPSを良溶媒としてのクロロホルムに溶解させた濃度0.3wt%の良溶媒溶液5gと、分離溶媒としての純水400gとを用いて、液槽に、貧溶媒層を設けないまま、良溶媒層と分離層とを形成した。そして、この液中にファインバブルを1時間発生させた後、液中に発生していた粒子を回収して洗浄し、SEMにより観察した。
【0088】
比較例2の粒子は、ファインバブルを発生させている間に、良溶媒であるクロロホルムが蒸発することによって析出したPSが凝集することにより形成されたものであると考えられる。SEM画像C2に示されているように、この粒子は、不定形であり、球状からは程遠いものであった。この結果から、真球度が高い粒子を得るためには、良溶媒溶液の粒状体を貧溶媒層に輸送することによって化合物を析出させることが有効であることがわかる。
【0089】
(9)比較例3:
図10の表には、比較例3において回収された化合物の粒子を撮影したSEM画像C3が示されている。
【0090】
比較例3では、晶析操作として貧溶媒添加法を行った。化合物としてのPSを良溶媒としてのクロロホルムに溶解させた、濃度0.3wt%の良溶媒溶液200g中にファインバブル発生器を浸漬し、その良溶媒溶液に、ファインバブルを発生させながら、貧溶媒としてのヘキサン400gを少量ずつ滴下した。貧溶媒の滴下に伴って析出したPSの粒子を回収し、洗浄してSEMによって観察した。SEM画像C3に示されているように、球状の粒子が形成されたが、直径の大きいものと小さいものとの差が著しい粒度分布となった。この結果から、真球度が高く、粒度のばらつきが小さい粒子を得るためには、良溶媒溶液の粒状体を分離層を介して貧溶媒層に輸送することによって化合物を析出させることが有効であることがわかる。
【0091】
(10)比較例4:
図10の表には、比較例4において回収された化合物の粒子を撮影したSEM画像C4が示されている。比較例4では、貧溶媒としてのヘキサン50gに、化合物としてのPSを良溶媒としてのトルエンに溶解させた良溶媒溶液を滴下することによってPSを析出させた。SEM画像C4に示されているように、比較例4では、PSの析出物は粒子として得ることはできなかった。比較例4と上述した実施例5とを比較すると、分離層を通じて溶媒溶液の粒状体を貧溶媒層に輸送する構成が、真球度の高い化合物の粒子を得る上で有効であることがわかる。
【0092】
(11)まとめ:
以上のように、実施例1~9および比較例1~4の結果から、上述した第1実施形態、第2実施形態、および、第3実施形態の製造方法によれば、真球度が高い化合物の粒子を簡易に、効率よく得ることができることがわかった。
【0093】
5.他の実施形態:
本願発明は、上述の実施形態や実施例の構成に限定されることはなく、例えば、以下のような形態で実現することもできる。以下において、他の実施形態として説明する構成はいずれも、上記の実施形態や実施例と同様に、本願発明を実施するための一形態例として位置づけられる。
【0094】
5-1.他の実施形態1:
上記の各実施形態において、良溶媒および貧溶媒を水溶性溶媒で構成し、分離層を非水溶性の溶媒によって構成してもよい。このような構成であっても、分離層に対する貧溶媒と良溶媒の分離性を高めることができる。
【0095】
5-2.他の実施形態2:
上記の各実施形態において、気泡導入部20はスパージャーによって構成されてなくてもよく、他の気泡発生装置によって構成されていてもよい。また、気泡導入部20は、化合物の粒子を製造する際に、直径200μm以上の気泡を導入してもよい。上記の各実施形態において、気泡15は、不活性ガスによって生成されていなくてもよく、例えば、空気によって生成されていてもよい。
【符号の説明】
【0096】
10,10A,10B…製造装置、11…液槽、12…貧溶媒層、13…分離層、14…良溶媒層、15…気泡、16…粒状体、18…液滴、20…気泡導入部、25…攪拌子、28…良溶媒溶液導入部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10