(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140881
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】SOEC/SOFC用多孔性電極材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20241003BHJP
B01J 35/60 20240101ALI20241003BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20241003BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20241003BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20241003BHJP
B01J 23/10 20060101ALI20241003BHJP
C01B 3/02 20060101ALI20241003BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20241003BHJP
B01J 23/83 20060101ALI20241003BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20241003BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M4/86 T
B01J35/10 301G
B01J37/04 102
B01J37/08
B01J37/16
B01J23/10 M
C01B3/02 B
B01J23/63 M
B01J23/83 M
H01M8/12 101
H01M4/88 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052241
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 彰
(72)【発明者】
【氏名】須田 明彦
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悟
(72)【発明者】
【氏名】人見 卓磨
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA05A
4G169BA05B
4G169BA22C
4G169BB06A
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4G169BC40A
4G169BC40B
4G169BC40C
4G169BC43A
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4G169BC51C
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4G169EB17X
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4G169FB57
4G169FC02
4G169FC06
4G169FC09
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB12
5H018BB16
5H018BB17
5H018EE04
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5H018HH00
5H018HH04
5H018HH05
5H018HH08
5H018HH10
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】SOECのカソードやSOFCのアノードに用いられる電極材料であって、電極反応効率(例えば、SOECのカソードにおける還元反応効率)に優れた電極材料を提供すること。
【解決手段】多孔性のイオン導電体を含有し、
大気中、1000~1500℃の範囲内の温度で5時間加熱した後の前記多孔性イオン導電体において、細孔径が1μm以下の細孔容積が0.03cm3/g以上である、
ことを特徴とするSOEC/SOFC用多孔性電極材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性のイオン導電体を含有し、
大気中、1000~1500℃の範囲内の温度で5時間加熱した後の前記多孔性イオン導電体において、細孔径が1μm以下の細孔容積が0.03cm3/g以上である、
ことを特徴とするSOEC/SOFC用多孔性電極材料。
【請求項2】
前記多孔性イオン導電体が酸素貯蔵能を有するものであることを特徴とする請求項1に記載のSOEC/SOFC用多孔性電極材料。
【請求項3】
前記多孔性イオン導電体が少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体であることを特徴とする請求項1に記載のSOEC/SOFC用多孔性電極材料。
【請求項4】
前記少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体が下記組成式(1):
YxCeyZr1-x-yO2-δ (1)
(式(1)中、x及びyはそれぞれ、0<x<0.2、0<y<0.2を満たし、δは電気的中性が保たれる値である。)
で表されるイットリウム添加セリア-ジルコニア固溶体であることを特徴とする請求項3に記載のSOEC/SOFC用多孔性電極材料。
【請求項5】
前記少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体にニッケルが担持されていることを特徴とする請求項3に記載のSOEC/SOFC用多孔性電極材料。
【請求項6】
前記細孔径が1μm以下の細孔容積が0.04cm3/g以上であることを特徴とする請求項1に記載のSOEC/SOFC用多孔性電極材料。
【請求項7】
イットリウム塩とセリウム塩とジルコニウム塩とを含有する塩含有水溶液と、分散剤を含有するアルカリ性水溶液と、熱硬化性樹脂前駆体とを混合して、pHが6.0以上の熱硬化性樹脂前駆体含有スラリーを得る第一の工程と、
前記熱硬化性樹脂前駆体含有スラリー中の前記熱硬化性樹脂前駆体を熱硬化性樹脂に変換して、熱硬化性樹脂含有スラリーを得る第二の工程と、
前記熱硬化性樹脂含有スラリーを乾燥して、前記熱硬化性樹脂を含有する固体成分を得る第三の工程と、
前記固体成分中の前記熱硬化性樹脂を炭化させて、炭化物含有固体成分を得る第四の工程と、
前記炭化物含有固体成分を大気雰囲気下で焼成して、少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体を含有する、請求項3に記載の多孔性電極材料を得る第五の工程と、
を含むことを特徴とするSOEC/SOFC用多孔性電極材料の製造方法。
【請求項8】
前記第一の工程において、前記塩含有水溶液と前記アルカリ性水溶液とを高剪断力下で混合して、スラリーを調製した後、前記スラリーに前記熱硬化性樹脂前駆体を混合して、前記熱硬化性樹脂前駆体含有スラリーを得ることを特徴とする請求項7に記載のSOEC/SOFC用多孔性電極材料の製造方法。
【請求項9】
前記第一の工程において、前記塩含有水溶液と前記アルカリ性水溶液と前記熱硬化性樹脂前駆体とを高剪断力下で混合して、前記熱硬化性樹脂前駆体含有スラリーを得ることを特徴とする請求項7に記載のSOEC/SOFC用多孔性電極材料の製造方法。
【請求項10】
前記第一の工程における高剪断力下が、剪断速度が100,000sec-1以上の高剪断力下であることを特徴とする請求項8又は9に記載のSOEC/SOFC用多孔性電極材料の製造方法。
【請求項11】
前記第二の工程において、前記熱硬化性樹脂前駆体含有スラリーのpHを6.0未満に調整することによって前記熱硬化性樹脂前駆体を前記熱硬化性樹脂に変換して、前記熱硬化性樹脂含有スラリーを得ることを特徴とする請求項7に記載のSOEC/SOFC用多孔性電極材料の製造方法。
【請求項12】
前記第五の工程において、前記炭化物含有固体成分を、不活性雰囲気下で還元焼成した後、大気雰囲気下で焼成して、前記少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体を含有する多孔性電極材料を得ることを特徴とする請求項7に記載のSOEC/SOFC用多孔性電極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形電解セル(SOEC)/固体酸化物型燃料電池(SOFC)用多孔性電極材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形電解セル(SOEC)は、固体電解質を用いた水の電気分解装置であり、カソード(水素極)に二酸化炭素や水蒸気を供給し、電極間に電流を流すことによって、一酸化炭素や水素が生成する。また、固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、固体電解質を用いた燃料電池であり、SOECと構造は同じであるが、電極反応が逆である。すなわち、アノード(燃料極)に水素や一酸化炭素、炭化水素などの燃料を供給し、カソード(酸素極)に酸素を供給することによって、電極反応が進行して、二酸化炭素や水が生成する。このようなSOECのカソードやSOFCのアノードに用いられる電極材料としては、ニッケル-イットリア安定化ジルコニア(Ni-YSZサーメット)やニッケル-スカンジア安定化ジルコニア(Ni-ScSZサーメット)、ニッケル-サマリアドープトセリア(Ni-SDC)が一般的に用いられている。
【0003】
また、特開2015-201428号公報(特許文献1)には、燃料極として作用するNi及び/又はNiOと酸化物(ただし、Zr元素を含む酸化物を除く)とを含む内側第1電極と、燃料極触媒層として作用するNi及びNiOとセリウム含有酸化物とを含む内側第2電極と、を備える固体酸化物形燃料電池セルが記載されている。さらに、特許文献1には、前記内側第1電極として、Ni及び/又はNiOとY2O3とを含むものが記載されており、また、前記セリウム含有酸化物として、イットリウム(Y)がドープされたセリウム含有酸化物(YDC)が記載されている。
【0004】
さらに、特開2013-143189号公報(特許文献1)には、多孔質構造の電極を形成するために用いられる電極形成材料であって、電子伝導性及び/又はイオン電導性を有する電極材料と、糯種の澱粉を含む植物の粉末からなる造孔材とを含む電極形成材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-201428号公報
【特許文献2】特開2013-143189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のSOECのカソードやSOFCのアノードに用いられる電極材料においては、電極反応効率(例えば、SOECのカソードにおける還元反応効率)が必ずしも十分ではなかった。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、SOECのカソードやSOFCのアノードに用いられる電極材料であって、電極反応効率(例えば、SOECのカソードにおける還元反応効率)に優れた電極材料、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、イットリウム塩とセリウム塩とジルコニウム塩とを含有する塩含有水溶液と、分散剤を含有するアルカリ性水溶液と、熱硬化性樹脂前駆体とを混合して、熱硬化性樹脂前駆体含有スラリーを調製し、前記熱硬化性樹脂前駆体含有スラリー中の前記熱硬化性樹脂前駆体を熱硬化性樹脂に変換して、熱硬化性樹脂含有スラリーを調製し、前記熱硬化性樹脂含有スラリーを乾燥して、前記熱硬化性樹脂を含有する固体成分を調製し、前記固体成分中の前記熱硬化性樹脂を炭化させて、炭化物含有固体成分を調製し、前記炭化物含有固体成分を大気雰囲気下で焼成することによって、細孔径が1μm以下の細孔容積が大きい多孔性のイオン伝導体であるイットリウム添加セリア-ジルコニア固溶体が得られることを見出し、さらに、このイットリウム添加セリア-ジルコニア固溶体を含有する電極材料が、電極反応効率(例えば、SOECのカソードにおける還元反応効率)に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0010】
[1]多孔性のイオン導電体を含有し、
大気中、1000~1500℃の範囲内の温度で5時間加熱した後の前記多孔性イオン導電体において、細孔径が1μm以下の細孔容積が0.03cm3/g以上である、
SOEC/SOFC用多孔性電極材料。
【0011】
[2]前記多孔性イオン導電体が酸素貯蔵能を有するものである、[1]に記載のSOEC/SOFC用多孔性電極材料。
【0012】
[3]前記多孔性イオン導電体が少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体である、[1]又は[2]に記載のSOEC/SOFC用多孔性電極材料。
【0013】
[4]前記少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体が下記組成式(1):
YxCeyZr1-x-yO2-δ (1)
(式(1)中、x及びyはそれぞれ、0<x<0.2、0<y<0.2を満たし、δは電気的中性が保たれる値である。)
で表されるイットリウム添加セリア-ジルコニア固溶体である、[3]に記載のSOEC/SOFC用多孔性電極材料。
【0014】
[5]前記少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体にニッケルが担持されている、[3]又は[4]に記載のSOEC/SOFC用多孔性電極材料。
【0015】
[6]前記細孔径が1μm以下の細孔容積が0.04cm3/g以上である、[1]~[5]のうちのいずれか1項に記載のSOEC/SOFC用多孔性電極材料。
【0016】
[7]イットリウム塩とセリウム塩とジルコニウム塩とを含有する塩含有水溶液と、分散剤を含有するアルカリ性水溶液と、熱硬化性樹脂前駆体とを混合して、pHが6.0以上の熱硬化性樹脂前駆体含有スラリーを得る第一の工程と、
前記熱硬化性樹脂前駆体含有スラリー中の前記熱硬化性樹脂前駆体を熱硬化性樹脂に変換して、熱硬化性樹脂含有スラリーを得る第二の工程と、
前記熱硬化性樹脂含有スラリーを乾燥して、前記熱硬化性樹脂を含有する固体成分を得る第三の工程と、
前記固体成分中の前記熱硬化性樹脂を炭化させて、炭化物含有固体成分を得る第四の工程と、
前記炭化物含有固体成分を大気雰囲気下で焼成して、少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体を含有する、[3]~[6]のうちのいずれか1項に記載の多孔性電極材料を得る第五の工程と、
を含む、SOEC/SOFC用多孔性電極材料の製造方法。
【0017】
[8]前記第一の工程において、前記塩含有水溶液と前記アルカリ性水溶液とを高剪断力下で混合して、スラリーを調製した後、前記スラリーに前記熱硬化性樹脂前駆体を混合して、前記熱硬化性樹脂前駆体含有スラリーを得る、[7]に記載のSOEC/SOFC用多孔性電極材料の製造方法。
【0018】
[9]前記第一の工程において、前記塩含有水溶液と前記アルカリ性水溶液と前記熱硬化性樹脂前駆体とを高剪断力下で混合して、前記熱硬化性樹脂前駆体含有スラリーを得る、[7]に記載のSOEC/SOFC用多孔性電極材料の製造方法。
【0019】
[10]前記第一の工程における高剪断力下が、剪断速度が100,000sec-1以上の高剪断力下である、[8]又は[9]に記載のSOEC/SOFC用多孔性電極材料の製造方法。
【0020】
[11]前記第二の工程において、前記熱硬化性樹脂前駆体含有スラリーのpHを6.0未満に調整することによって前記熱硬化性樹脂前駆体を前記熱硬化性樹脂に変換して、前記熱硬化性樹脂含有スラリーを得る、[7]~[10]のうちのいずれか1項に記載のSOEC/SOFC用多孔性電極材料の製造方法。
【0021】
[12]前記第五の工程において、前記炭化物含有固体成分を、不活性雰囲気下で還元焼成した後、大気雰囲気下で焼成して、前記少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体を含有する多孔性電極材料を得る、[7]~[11]のうちのいずれか1項に記載のSOEC/SOFC用多孔性電極材料の製造方法。
【0022】
なお、本発明の多孔性電極材料が、電極反応効率に優れたものとなる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、
図1A及び
図1Bに示すように、本発明において多孔性のイオン伝導体として用いられるイットリウム添加セリア-ジルコニア固溶体(YCZ固溶体)(
図1A)は、従来のYCZ固溶体(
図1B)に比べて、2次粒子内部の細孔径が1μm以下の細孔容積が大きいため、YCZ固溶体内部への反応基質(例えば、SOECのカソードにおける二酸化炭素や水蒸気、SOFCのアノードにおける水素や一酸化炭素、炭化水素)の拡散性が向上し、その結果、電極反応効率が向上すると推察される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、SOECのカソードやSOFCのアノードに用いられる電極材料であって、電極反応効率(例えば、SOECのカソードにおける還元反応効率)に優れた電極材料を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】本発明に用いられるイットリウム添加セリア-ジルコニア固溶体の2次粒子の構造を示す模式図である。
【
図1B】従来のイットリウム添加セリア-ジルコニア固溶体の2次粒子の構造を示す模式図である。
【
図2A】従来のSOEC用カソードにおける水蒸気の還元反応を示す模式図である。
【
図2B】本発明の多孔性電極材料を含有するSOEC用カソードにおける水蒸気の還元反応を示す模式図である。
【
図3】実施例1~3及び比較例1で得られたイットリウム添加セリア-ジルコニア固溶体粉末の細孔分布を示すグラフである。
【
図4】実施例1~3及び比較例1で得られた各イットリウム添加セリア-ジルコニア固溶体粉末にNiOを担持した触媒によるH
2生成量を示すグラフである。
【
図5】実施例1~3及び比較例1で得られた各イットリウム添加セリア-ジルコニア固溶体粉末にPtを担持した触媒による酸素放出量を示すグラフである。
【
図6】実施例1~3及び比較例1で得られた各イットリウム添加セリア-ジルコニア固溶体粉末にNiOを担持した触媒における、細孔径が1μm以下の細孔容積とH
2生成量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0026】
〔SOEC/SOFC用多孔性電極材料〕
先ず、本発明のSOEC/SOFC用多孔性電極材料について説明する。本発明のSOEC/SOFC用多孔性電極材料は、多孔性のイオン導電体を含有するものであり、前記多孔性イオン伝導体としては、酸素貯蔵能を有するものが好ましく、少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体がより好ましく、下記組成式(1):
YxCeyZr1-x-yO2-δ (1)
(式(1)中、x及びyはそれぞれ、0<x<0.2、0<y<0.2を満たし、δは電気的中性が保たれる値である。)
で表されるイットリウム添加セリア-ジルコニア固溶体(YCZ)が特に好ましい。酸素貯蔵能を有する多孔性イオン伝導体を用いることによって、電極反応で生成した酸素が前記多孔性イオン伝導体に貯蔵されるため、電極材料の酸化による劣化が抑制される。なお、「電気的中性が保たれる値」とは、YxとCeyとZr1-x-yの価数の合計とO2-δ価数の合計が等しくなる値を意味し、下記式:
3×x+4×y+4×(1-x-y)=2×(2-δ)
を満たすδである。
【0027】
イットリウムが添加されていないセリア-ジルコニア固溶体(CZ)(すなわち、前記組成式(1)においてx=0)をSOEC/SOFC用電極材料として用いると、酸化物イオン導電性が不足し、電極特性が低下する。また、セリアを含有しないイットリウム添加ジルコニア(YZ)(すなわち、前記組成式(1)においてy=0)をSOEC/SOFC用電極材料として用いると、電極反応時のNiの酸化が抑制できず、電極の劣化が進行する。
【0028】
さらに、前記組成式(1)中、xが前記上限を超えると、YCZの靭性が低下し、電極の強度が低下する。また、yが前記上限を超えると、還元反応時のYCZの格子膨張が大きくなり、電極の耐久性が低下する。
【0029】
また、前記多孔性イオン導電体においては、大気中、1000~1500℃の範囲内の温度で5時間加熱した後の細孔径が1μm以下の細孔容積(以下、単に「細孔径が1μm以下の細孔容積」ともいう)が0.03cm3/g以上であることが必要である。なお、前記細孔径が1μm以下の細孔容積は、水銀ポロシメーターを用いて水銀圧入法により求められる前記多孔性イオン導電体の細孔分布に基づいて算出される、細孔径が1μm以下の細孔についての総細孔容積である。
【0030】
前記細孔径が1μm以下の細孔容積が前記下限未満になると、多孔性イオン導電体の2次粒子内部への反応基質(例えば、SOECのカソードにおける二酸化炭素や水蒸気、SOFCのアノードにおける水素や一酸化炭素、炭化水素)の拡散性が低下し、電極反応効率(例えば、SOECのカソードにおける還元反応効率やSOFCのアノードにおける酸化反応効率)が低下する。また、多孔性イオン導電体の2次粒子内部への反応基質の拡散性が向上し、電極反応効率が向上するという観点から、前記細孔径が1μm以下の細孔容積としては、0.04cm3/g以上が好ましく、0.05cm3/g以上がより好ましく、0.07cm3/g以上が更に好ましく、0.09cm3/g以上が特に好ましい。なお、前記細孔径が1μm以下の細孔容積の上限としては特に制限はないが、電極を形成した際の構造安定性の観点から、1.0cm3/g以下が好ましく、0.7cm3/g以下がより好ましい。また、前記細孔径の下限値は、水銀ポロシメーターにより測定可能な細孔径の検出限界値以上(例えば、0.001μm以上)である。
【0031】
本発明のSOEC/SOFC用多孔性電極材料においては、前記少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体にニッケルが担持されていることが好ましい。前記固溶体に担持されたニッケルの触媒作用により、SOECのカソードにおいては還元反応が促進され、SOFCのアノードにおいては酸化反応が促進され、電極反応効率が向上する。また、ニッケルを前記固溶体に担持することによって、ニッケルの酸化によるSOEC用カソードの劣化が抑制される傾向にある。なお、ニッケルの酸化によるSOEC用カソードの劣化が抑制される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZサーメット)等の支持体にニッケル(Ni)が担持された従来のSOEC用カソードにおいては、
図2Aに示すように、水蒸気の還元反応により生成した酸素がNiの表面を酸化するため、Niの触媒活性が低下し、SOEC用カソードが劣化する。一方、前記YCZ等の少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体に担持されたNiをYSZサーメット等の支持体に担持すると、
図2Bに示すように、水蒸気の還元反応により生成した酸素は前記YCZ等の固溶体中の酸素欠陥に貯蔵されるため、Ni表面の酸化が抑制され、SOEC用カソードの劣化が抑制されると推察される。
【0032】
ニッケルの担持量としては、酸化ニッケル換算で、前記少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体と酸化ニッケルとの合計量に対して、5~70質量%が好ましく、10~60質量%がより好ましい。ニッケルの担持量が前記下限未満になると、ニッケルを担持した効果が十分に発現しない場合があり、他方、ニッケルの担持量が前記上限を超えると、性能が飽和する傾向にある。
【0033】
〔SOEC/SOFC用多孔性電極材料の製造方法〕
次に、本発明のSOEC/SOFC用多孔性電極材料の製造方法について説明する。本発明のSOEC/SOFC用多孔性電極材料の製造方法は、
イットリウム塩とセリウム塩とジルコニウム塩とを含有する塩含有水溶液と、分散剤を含有するアルカリ性水溶液と、熱硬化性樹脂前駆体とを混合して、pHが6.0以上の熱硬化性樹脂前駆体含有スラリーを得る第一の工程と、
前記熱硬化性樹脂前駆体含有スラリー中の前記熱硬化性樹脂前駆体を熱硬化性樹脂に変換して、熱硬化性樹脂含有スラリーを得る第二の工程と、
前記熱硬化性樹脂含有スラリーを乾燥して、前記熱硬化性樹脂を含有する固体成分を得る第三の工程と、
前記固体成分中の前記熱硬化性樹脂を炭化させて、炭化物含有固体成分を得る第四の工程と、
前記炭化物含有固体成分を大気雰囲気下で焼成して、少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体からなる多孔性電極材料を得る第五の工程と、
を含む方法である。
【0034】
<第一の工程>
第一の工程においては、イットリウム塩とセリウム塩とジルコニウム塩とを含有する塩含有水溶液と、分散剤を含有するアルカリ性水溶液と、熱硬化性樹脂前駆体とを混合する。これにより、pHが6.0以上の熱硬化性樹脂前駆体含有スラリーが得られる。
【0035】
前記イットリウム塩としては、例えば、硝酸イットリウム、塩化イットリウム、硫酸イットリウム、酢酸イットリウムが挙げられる。また、前記セリウム塩としては、例えば、硝酸アンモニウムセリウム、硝酸セリウム、塩化セリウム、硫酸セリウム、酢酸セリウムが挙げられる。さらに、前記ジルコニウム塩としては、例えば、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニル、塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウムが挙げられる。
【0036】
前記塩含有水溶液は、前記イットリウム塩と前記セリウム塩と前記ジルコニウム塩とを水に溶解することによって調製することができる。前記塩含有水溶液において、前記イットリウム塩と前記セリウム塩と前記ジルコニウム塩との割合は、前記YCZ中のイットリウム(Y)とセリウム(Ce)とジルコニウム(Zr)とが前記組成式(1)を満たすように適宜調整する。
【0037】
前記分散剤としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン等のアルカノールアミン;ポリアクリル酸アンモニウム(分子量2000~6000)等のカルボン酸のアンモニウム塩が挙げられる。
【0038】
本発明のSOEC/SOFC用多孔性電極材料の製造方法において、前記分散剤を含有する水溶液はアルカリ性であることが必要である。前記分散剤を含有する水溶液がアルカリ性であることによって、イットリウム(Y)が、全て沈殿し、前記少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体内に均一に固溶可能となる。一方、前記分散剤を含有する水溶液が酸性であると、イットリウム(Y)の析出が起こらないため一部分しか前記固溶体に取り込まれない状態になり、酸化イットリウムの偏析の原因となる。
【0039】
前記分散剤を含有するアルカリ性水溶液(分散剤含有アルカリ性水溶液)は、前記分散剤を水に溶解することによって調製でき、得られる水溶液がアルカリ性の場合には、そのまま使用することができ、一方、得られる水溶液が酸性の場合には、塩基性化合物を添加してアルカリ性に調整する。前記塩基性化合物としては、アンモニア水、炭酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。また、前記アルカノールアミン系分散剤の添加量を高めることでもアルカリ性に調整することが可能である。
【0040】
前記熱硬化性樹脂前駆体としては、例えば、尿素樹脂前駆体(尿素とホルムアルデヒドの混合物)、メラミン樹脂前駆体(メラミンとホルムアルデヒド、または市販されているメチロールメラミン)、その他ホルムアルデヒドと反応してメチロール基を形成する樹脂前駆体が挙げられる。
【0041】
本発明のSOEC/SOFC用多孔性電極材料の製造方法において、前記塩含有水溶液と前記分散剤含有アルカリ性水溶液と前記熱硬化性樹脂前駆体との混合方法としては、前記少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体と前記熱硬化性樹脂前駆体とを含有するスラリー(熱硬化性樹脂前駆体含有スラリー)が得られる方法であれば特に制限はなく、例えば、前記塩含有水溶液と前記分散剤含有アルカリ性水溶液とを混合して、前記少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体を含有するスラリーを調製した後、このスラリーに前記熱硬化性樹脂前駆体を混合する方法(第一の方法);前記塩含有水溶液と前記分散剤及び前記熱硬化性樹脂前駆体とを含有するアルカリ性水溶液とを混合する方法(第二の方法)等が挙げられる。これらの方法のうち、得られる固溶体において、前記細孔径が1μm以下の細孔容積が増加するという観点から、第一の方法がより好ましい。
【0042】
前記塩含有水溶液と前記分散剤含有アルカリ性水溶液とを混合する場合や、前記塩含有水溶液と前記分散剤及び前記熱硬化性樹脂前駆体を含有するアルカリ性水溶液とを混合する場合において、混合は、高剪断力下(好ましくは剪断速度が10,000sec-1以上、より好ましくは剪断速度が15,000sec-1以上の高剪断力下)で実施することが好ましい。これにより、得られる前記少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体が微粒子化し、電極反応効率に優れた電極材料が得られる。なお、高剪断力下で混合する方法としては、例えば、特許第6658564号明細書に記載の「超微粒子及び多孔体前駆体の製造装置」を用いて混合する方法が挙げられる。
【0043】
このようにして得られる熱硬化性樹脂前駆体含有スラリーにおいて、前記少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体と前記熱硬化性樹脂前駆体との含有比としては、質量比で、固溶体:熱硬化性樹脂前駆体=1:4~1:10が好ましく、固溶体:熱硬化性樹脂前駆体=1:5~1:8がより好ましく、固溶体:熱硬化性樹脂前駆体=1:6~1:7が特に好ましい。熱硬化性樹脂前駆体の割合が前記下限未満になると、所定の細孔容積が不十分になる傾向にあり、他方、熱硬化性樹脂前駆体の割合が前記上限を超えると、生産効率が下がり、無駄に樹脂成分を消費することになりカーボンニュートラルの観点からも好ましくない傾向にある。なお、前記塩含有水溶液と前記分散剤含有アルカリ性水溶液と前記熱硬化性樹脂前駆体との混合比や、前記塩含有水溶液と前記分散剤及び前記熱硬化性樹脂前駆体とを含有するアルカリ性水溶液との混合比は、前記固溶体と前記熱硬化性樹脂前駆体との含有比が前記範囲内となるように適宜調整する。
【0044】
このようにして得られる熱硬化性樹脂前駆体含有スラリーのpHは、通常6.0以上、好ましくは6.2以上、より好ましくは6.4以上となり、かつ、通常8.0以下、好ましくはpH7.5以下、より好ましくはpH7.0以下となる。また、前記第一の方法で熱硬化性樹脂前駆体含有スラリーを調製する場合、前記塩含有水溶液と前記分散剤含有アルカリ性水溶液とを混合して得られる前記固溶体を含有するスラリーのpHは、前記固溶体を形成させるために、好ましくは9.0以上、より好ましくは9.5以上に調整する。なお、前記固溶体を含有するスラリーのpHの上限としては特に制限はないが、pH10以下が好ましい。そして、このようなpHの前記固溶体を含有するスラリーに、前記熱硬化性樹脂前駆体を混合することによって、pHが前記範囲内にある熱硬化性樹脂前駆体含有スラリーが得られる。
【0045】
<第二の工程>
第二の工程においては、第一の工程で得られた前記熱硬化性樹脂前駆体含有スラリー中の前記熱硬化性樹脂前駆体を熱硬化性樹脂に変換する。これにより、熱硬化性樹脂含有スラリーが得られる。
【0046】
前記熱硬化性樹脂前駆体を熱硬化性樹脂に変換する方法としては、特に制限はないが、例えば、前記熱硬化性樹脂前駆体含有スラリーのpHを6.0未満、好ましくは5.8以下、より好ましくは5.5以下に調整する方法が挙げられる。前記熱硬化性樹脂前駆体含有スラリーのpHを前記範囲に調整する方法としては、例えば、前記熱硬化性樹脂前駆体含有スラリーに酸を添加する方法が挙げられる。前記酸としては、例えば、マレイン酸、クエン酸、リンゴ酸、酢酸、など有機カルボン酸が挙げられる。
【0047】
<第三の工程>
第三の工程においては、第二の工程で得られた前記熱硬化性樹脂含有スラリーを乾燥する。これにより、前記熱硬化性樹脂を含有する固体成分が得られる。
【0048】
前記熱硬化性樹脂含有スラリーの乾燥条件としては、スラリー中の水を除去できる条件であれば特に制限はないが、例えば、乾燥温度としては、110~180℃が好ましく、140~160℃がより好ましく、乾燥時間としては、7~15時間が好ましく、10~12時間がより好ましい。
【0049】
<第四の工程>
第四の工程においては、第三の工程で得られた前記固体成分中の前記熱硬化性樹脂を炭化させる。これにより、炭化物含有固体成分が得られる。
【0050】
前記熱硬化性樹脂を炭化させるための加熱条件としては、特に制限はないが、例えば、加熱温度としては、200~350℃が好ましく、280~320℃がより好ましく、加熱時間としては、1~5時間が好ましく、2~4時間がより好ましい。
【0051】
<第五の工程>
第五の工程においては、第四の工程で得られた前記炭化物含有固体成分を大気雰囲気下で焼成する。これにより、前記細孔径が1μm以下の細孔容積が所定の範囲内にある少なくともイットリウム、セリウム、ジルコニウムを含む固溶体を含有する多孔性電極材料が得られる。
【0052】
前記炭化物含有固体成分の焼成条件としては、特に制限はないが、例えば、焼成温度としては、1250~1400℃が好ましく、1300~1350℃がより好ましく、焼成時間としては、3~10時間が好ましく、4~6時間がより好ましい。
【0053】
また、第五の工程においては、前記炭化物含有固体成分を、不活性雰囲気下で還元焼成した後、大気雰囲気下で焼成することが好ましい。これにより、得られる前記固溶体において、細孔径が1μm以下の細孔容積が増加する。不活性雰囲気下における還元焼成は、炭素を含ませた状態のまま、前記固溶体の酸化物微粒子同士の過度の焼結を抑制しつつ、酸化物微粒子間のネックを成長させることから、多孔質状態を保ちつつ、前記固溶体の酸素イオン導電性を高めることができる。
【0054】
不活性雰囲気としては特に制限はないが、例えば、アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気、ヘリウムガス雰囲気が挙げられる。還元焼成条件としては特に制限はないが、例えば、還元焼成温度としては、800~1000℃が好ましく、850~950℃がより好ましく、還元焼成時間としては、3~10時間が好ましく、4~6時間がより好ましい。前記還元焼成温度が前記下限未満になると、ネックの形成が不十分となりやすく、他方、前記還元焼成温度が前記上限を超えると、熱硬化性樹脂由来の炭素(炭化物)と前記固溶体中のジルコニアが炭化物(ZrC)を形成して多孔質構造が破壊されるおそれがある。
【実施例0055】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
<水溶液A-1の調製>
硝酸イットリウム六水和物(Y(NO3)3・6H2O、関東化学株式会社製)10.34g、硝酸アンモニウムセリウム(Ce(NH4)2(NO3)6、富士フイルム和光純薬株式会社製)10.96g及びオキシ硝酸ジルコニウム水溶液(Zr(NO3)2、18質量%水溶液、第一稀元素化学工業株式会社製「ジルコゾール」)104.74gを混合し、さらにイオン交換水を加えて総量400mlの水溶液A-1を調製した。この水溶液A-1のpHは1.29であった。
【0057】
<水溶液B-1の調製>
2-アミノエタノール(モノエタノールアミン、富士フイルム和光純薬株式会社製)57.04g及びポリアクリル酸アンモニウム(東亞合成株式会社製「アロンA30SL」)253.16gをイオン交換水に添加して総量400mlの水溶液B-1を調製した。この水溶液B-1のpHは10.3であった。
【0058】
<スラリーC-1の調製>
前記水溶液A-1と前記水溶液B-1とを、特許第6658564号明細書に記載の「超微粒子及び多孔体前駆体の製造装置」を用いて、ローターの回転速度8000rpm、送液速度5ml/min、剪断速度15000sec
-1の条件で混合し、スラリーC-1を調製した。なお、前記製造装置のSA(Shear-Agitation)リアクターとしては、前記特許公報の
図5A及び
図5Bに示すタイプのアウターノズル型SAリアクターを使用し、混合時、ノズル15A及び流路16Aは使用せず、ノズル15B及び15C並びに流路16B及び16Cを使用した。また、得られたスラリーC-1のpHは9.72であった。
【0059】
<スラリーD-1の調製>
尿素(富士フイルム和光純薬株式会社製)52.74gを水に添加して総量250mlの尿素水溶液を調製した。また、ホルムアルデヒド(36~38%水溶液、富士フイルム和光純薬株式会社製)128.30gをイオン交換水に添加して総量250mlのホルムアルデヒド水溶液を調製した。前記尿素水溶液と前記ホルムアルデヒド水溶液とを、それぞれカセットチューブポンプを用いて、送液速度10ml/minで前記スラリーC-1に滴下して混合し、尿素樹脂前駆体を含有するスラリーD-1を調製した。このスラリーD-1のpHは6.52であった。
【0060】
<スラリーE-1の調製>
無水マレイン酸29.05gをイオン交換水に添加し、マグネチックスターラーを用いて攪拌して総量200mlのマレイン酸水溶液を調製した。このマレイン酸水溶液のpHは1.59であった。前記マレイン酸水溶液を、カセットチューブポンプを用いて、送液速度10ml/minで前記スラリーD-1に滴下して混合し、前記尿素樹脂前駆体を尿素樹脂に変換して前記尿素樹脂を含有するスラリーE-1を調製した。このスラリーE-1のpHは5.45であった。
【0061】
<乾燥>
先ず、前記スラリーE-1を、マグネチックスターラーを用いて一晩攪拌した後、容量1Lのガラス製ビーカー2個に分配して熱風乾燥機に入れ、150℃で12時間乾燥した。
【0062】
<炭化>
次に、得られた固体成分を、熱風乾燥機を用いて300℃で4時間加熱して前記尿素樹脂を炭化させた。
【0063】
<焼成>
次に、炭化後の固体成分を、ガラス製ビーカーから炭素製容器に移して小型真空加圧焼結炉(富士電波工業株式会社製「FVPS-R-150」)に入れ、アルゴンガス雰囲気下、900℃で5時間還元焼成した。還元焼成後の固体成分を、炭素製容器からアルミナ製るつぼに移してカンタルスーパー電気炉(株式会社モトヤマ製「NE-3550G」)に入れ、大気雰囲気下、昇温速度134℃/hで1340℃まで昇温した後、この温度で5時間保持して、Y添加CeO2-ZrO2固溶体粉末(YCZ粉末)を得た。このYCZ粉末の原子比はY/Ce/Zr=13.5/10.0/76.5である。
【0064】
(実施例2)
<水溶液B-2の調製>
2-アミノエタノール(モノエタノールアミン、富士フイルム和光純薬株式会社製)57.04g、ポリアクリル酸アンモニウム(東亞合成株式会社製「アロンA30SL」)253.16g、尿素(富士フイルム和光純薬株式会社製)52.74g及びホルムアルデヒド(36~38%水溶液、富士フイルム和光純薬株式会社製)128.30gをイオン交換水に添加して総量400mlの水溶液B-2を調製した。この水溶液B-2のpHは8.96であった。
【0065】
<スラリーD-2の調製>
実施例1と同様にして調製した前記水溶液A-1と前記水溶液B-2とを、特許第6658564号明細書に記載の「超微粒子及び多孔体前駆体の製造装置」を用いて、ローターの回転速度8000rpm、送液速度5ml/min、剪断速度15000sec
-1の条件で混合し、尿素樹脂前駆体を含有するスラリーD-2を調製した。なお、前記製造装置のSA(Shear-Agitation)リアクターとしては、前記特許公報の
図5A及び
図5Bに示すタイプのアウターノズル型SAリアクターを使用し、混合時、ノズル15A及び流路16Aは使用せず、ノズル15B及び15C並びに流路16B及び16Cを使用した。また、得られたスラリーD-2のpHは7.12であった。
【0066】
<スラリーE-2の調製>
実施例1と同様にして調製したマレイン酸水溶液を、カセットチューブポンプを用いて、送液速度10ml/minで前記スラリーD-2に滴下して混合し、前記尿素樹脂前駆体を尿素樹脂に変換して前記尿素樹脂を含有するスラリーE-2を調製した。このスラリーE-2のpHは5.75であった。
【0067】
<乾燥、炭化及び焼成>
前記スラリーE-1の代わりに前記スラリーE-2を用いた以外は実施例1と同様にして、Y添加CeO2-ZrO2固溶体粉末(YCZ粉末)を得た。このYCZ粉末の原子比はY/Ce/Zr=13.5/10.0/76.5である。
【0068】
(実施例3)
<焼成>
実施例1と同様にして調製した炭化後の固体成分を、ガラス製ビーカーからアルミナ製るつぼに移してカンタルスーパー電気炉(株式会社モトヤマ製「NE-3550G」)に入れ、大気雰囲気下、昇温速度134℃/hで1340℃まで昇温した後、この温度で5時間保持して、Y添加CeO2-ZrO2固溶体粉末(YCZ粉末)を得た。このYCZ粉末の原子比はY/Ce/Zr=13.5/10.0/76.5である。
【0069】
(比較例1)
CeO2換算で28質量%となる濃度の硝酸セリウム溶液49.1g、ZrO2換算で18質量%となる濃度の硝酸ジルコニウム水溶液418.2g、30%過酸化水素水99.8g、及び硝酸イットリウム水溶液(純水50mlに硝酸イットリウム41.4gを溶解したもの)を混合した。得られた混合溶液を希釈アンモニア水(25%アンモニア水145.9gを純水400mlで希釈したもの)に、プロペラ攪拌機で攪拌しながら、添加し、さらに、ホモジナイザーを用いて1000rpmで10分間攪拌して沈殿物を生成させた。この沈殿物を含む溶液を容量1Lのビーカー3個に分配して脱脂炉に入れ、大気中、150℃で7時間乾燥した後、400℃で5時間仮焼した。仮焼後の粉末をカンタルスーパー電気炉(株式会社モトヤマ製「NE-3550G」)に入れ、大気雰囲気下、昇温速度134℃/hで1340℃まで昇温した後、この温度で5時間保持して、Y添加CeO2-ZrO2固溶体粉末(YCZ粉末)を得た。このYCZ粉末の原子比はY/Ce/Zr=13.5/10.0/76.5である。
【0070】
〔細孔分布測定〕
得られたYCZ粉末の細孔分布を、水銀ポロシメーター(アントンパール社製「PoreMaster 60GT」)を用いて水銀圧入法により測定した。その結果を
図3に示す。また、得られた細孔分布に基づいて、細孔径が1μm以下の細孔容積を求めた。その結果を表1に示す。
【0071】
〔触媒調製〕
得られたYCZ粉末に、NiOの担持量が10質量%となるように硝酸ニッケル(II)を含浸させた後、蒸発乾固させ、得られた乾固物を大気中、400℃で3時間焼成して前記YCZにNiOが担持した粉末(NiO担持YCZ粉末)を調製し、さらに、このNiO担持YCZ粉末を大気中、1340℃で5時間加熱して触媒粉末を得た。この触媒粉末3gとγ-アルミナ粉末1gを乳鉢で混合し、得られた混合粉末に、1000kgf/cm2(98MPa)の圧力(成型圧力)で1分間の冷間静水圧プレス(CIP)を施した後、0.5~1mm径のペレット状に粉砕して水素生成能評価用触媒粉末を得た。
【0072】
また、得られたYCZ粉末を大気中、1340℃で5時間加熱して得た熱処理後のYCZ粉末にジニトロジアンミン白金(II)酸溶液を含浸させた後、蒸発乾固させ、さらに、得られた乾固物を300℃で3時間焼成して前記YCZ粉末に白金(Pt)が担持した酸素放出量測定用触媒粉末(Pt担持量:1質量%)を得た。
【0073】
〔水素生成能評価試験〕
上記のようにして調製した水素生成能評価用触媒粉末1gを反応管に充填して固定床流通式触媒反応評価装置(ベスト測器株式会社製「CATA-5000-SP7)にセットした。O
2(5%)含有ガス(残部:N
2)をガス流量5L/minで流通させながら、触媒床を、室温から700℃まで14分間かけて昇温した(Step1)後、700℃で10分間保持した(Step2)。次に、触媒床を700℃に保持しながら、ガス流量5L/minで、N
2を5分間流通させた(Step3)後、H
2(1%)含有ガス(残部:N
2)を10分間流通させ(Step4)、再度N
2を10分間流通させた(Step5)後、水蒸気(20%)含有ガス(残部:N
2)を20分間流通させた(Step6)。その後、N
2をガス流量5L/minで流通させながら、触媒床を700℃で1分間保持した(Step7)後、室温まで放冷した(Step8)。前記Step6におけるH
2の生成量を測定した。その結果を
図4及び表1に示す。
【0074】
<酸素放出量測定>
上記のようにして調製した酸素放出量測定用触媒粉末15mgを熱重量測定装置(株式会社島津製作所製「TGA-50」)に装入し、この触媒粉末に、温度700℃で、還元ガス(H
2(5容量%)+N
2(残部))と酸化ガス(O
2(5容量%)+N
2(残部))とを5分毎に交互に切替えながら、ガス流量100ml/minで流通させ、この間の前記触媒粉末の質量の増減を測定した。3回目の還元ガス流通時の前記触媒粉末の質量減少量を求め、これを酸素放出量とした。その結果を
図5及び表1に示す。
【0075】
【0076】
表1に示したように、YCZ粉末と樹脂成分との混合物からなる固体成分を加熱して樹脂成分を炭化させることによって調製したYCZ粉末を担体として用いた触媒(実施例1~3)は、共沈法により調製したYCZ粉末を担体として用いた触媒(比較例1)に比べて、細孔径が1μm以下の細孔容積が大きくなることが確認された。
【0077】
また、
図4及び表1に示したように、YCZ粉末と樹脂成分との混合物からなる固体成分を加熱して樹脂成分を炭化させることによって調製したYCZ粉末を担体として用いた触媒(実施例1~3)は、共沈法により調製したYCZ粉末を担体として用いた触媒(比較例1)に比べて、H
2生成量が多く、水素生成能に優れていることがわかった。
【0078】
さらに、
図5及び表1に示したように、YCZ粉末と樹脂成分との混合物からなる固体成分を加熱して樹脂成分を炭化させることによって調製したYCZ粉末を担体として用いた触媒(実施例1~3)は、共沈法により調製したYCZ粉末を担体として用いた触媒(比較例1)に比べて、酸素放出量が多く、酸素貯蔵能に優れていることがわかった。
【0079】
表1に示した結果に基づいて、H
2生成量を細孔径が1μm以下の細孔容積にプロットした。その結果を
図6に示す。
図6に示したように、細孔径が1μm以下の細孔容積が増加するにつれて、H
2生成量も増加することがわかった。この結果は、YCZの2次粒子内部の細孔径が1μm以下の細孔容積が増加したことにより、YCZの2次粒子内部への水蒸気の拡散性が向上し、YCZによる水蒸気の還元反応が効率的に進行したことを示している。したがって、本発明の電極材料は、水蒸気を効率的に還元できることから、電極反応効率に優れた電極であることが確認された。
以上説明したように、本発明によれば、電極反応効率に優れた電極材料を得ることが可能となる。したがって、本発明の多孔性電極材料は、SOECのカソードやSOFCのアノードに用いられる電極材料等として有用である。