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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140895
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ロボットおよびロボットの制御方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/10 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B25J9/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052260
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【弁理士】
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】芝田 武士
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS25
3C707BS15
3C707CT05
3C707CV07
3C707CW07
3C707CX03
3C707HS27
3C707HT24
3C707KS10
3C707LT13
3C707NS13
(57)【要約】
【課題】ロボットアームを駆動させるための駆動機構において、回転の径方向から見て、回転の回転軸方向に対して傾いた方向に沿って延びる歯部を有する傾斜ギアが配置されている場合にも、位置決め精度の低下を抑制可能なロボットおよびロボットの制御方法を提供する。
【解決手段】ロボット100は、ロボットアーム10と、回転の径方向から見て、回転の回転軸方向に対して傾いた方向に沿って延びる歯部を有する傾斜ギアを含み、ロボットアームを駆動する駆動機構と、ロボットアーム10の温度に基づいて、ロボットアーム10と駆動機構との少なくとも一方における熱膨張による、傾斜ギアの回転軸方向における軸方向ずれに起因する影響を補正する制御部30と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームと、
回転の径方向から見て、回転の回転軸方向に対して傾いた方向に沿って延びる歯部を有する傾斜ギアを含み、前記ロボットアームを駆動する駆動機構と、
前記ロボットアームと前記駆動機構との少なくとも一方における熱膨張による、前記傾斜ギアの回転軸方向における軸方向ずれに起因する影響を補正する制御部と、を備える、ロボット。
【請求項2】
前記駆動機構は、前記傾斜ギアが取り付けられる回転軸部を含み、
前記制御部は、前記回転軸部の熱膨張による前記軸方向ずれに起因する前記ロボットアームの回転方向における回転方向ずれを、前記軸方向ずれに起因する影響として補正する、請求項1に記載のロボット。
【請求項3】
前記傾斜ギアは、互いに噛み合う第1傾斜ギアおよび第2傾斜ギアを含み、
前記回転軸部は、前記第1傾斜ギアが取り付けられる第1回転軸部と、前記第2傾斜ギアが取り付けられる第2回転軸部とを含み、
前記制御部は、前記第1回転軸部と前記第2回転軸部との各々の回転軸方向の熱膨張の差異による前記第1傾斜ギアおよび前記第2傾斜ギアの前記軸方向ずれに起因する前記ロボットアームの前記回転方向ずれを補正する、請求項2に記載のロボット。
【請求項4】
前記制御部は、前記軸方向ずれに起因する前記傾斜ギアの回転位置の変化による前記ロボットアームの前記回転方向ずれを補正するように、前記駆動機構による前記ロボットアームの動作を補正する、請求項2または3に記載のロボット。
【請求項5】
前記制御部は、前記駆動機構を含む前記ロボットアームの温度を表す測定値を取得するとともに、取得された前記測定値に基づいて、熱膨張による前記軸方向ずれに起因する影響を補正する、請求項1~3のいずれか1項に記載のロボット。
【請求項6】
前記駆動機構を含む前記ロボットアームの温度を測定するための温度センサをさらに備え、
前記制御部は、
前記温度センサによる測定に基づいて、前記測定値を取得するとともに、
取得された前記測定値に基づいて、熱膨張による前記軸方向ずれに起因する影響を補正する、請求項5に記載のロボット。
【請求項7】
前記駆動機構は、前記駆動機構における駆動力の駆動源となるモータと、前記モータの回転を検出するエンコーダとを含み、
前記温度センサは、前記エンコーダに配置されたエンコーダ温度センサを含み、
前記制御部は、前記エンコーダ温度センサの測定結果により推定された前記測定値に基づいて、熱膨張による前記軸方向ずれに起因する影響を補正する、請求項6に記載のロボット。
【請求項8】
前記温度センサは、前記エンコーダ温度センサと、前記ロボットアームの外気温を測定する外気温センサとを含み、
前記制御部は、前記エンコーダ温度センサの測定結果と前記外気温センサの測定結果との各々により推定された前記測定値に基づいて、熱膨張による前記軸方向ずれに起因する影響を補正する、請求項7に記載のロボット。
【請求項9】
前記制御部は、熱膨張による前記ロボットアームの長さの変化と、熱膨張による前記軸方向ずれに起因する前記ロボットアームの前記回転方向ずれとを補正する、請求項2または3に記載のロボット。
【請求項10】
前記ロボットアームの先端に配置される基板保持ハンドをさらに備える、請求項1~3のいずれか1項に記載のロボット。
【請求項11】
クリーンルームに配置されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のロボット。
【請求項12】
真空環境下に配置されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のロボット。
【請求項13】
回転の径方向から見て、回転の回転軸方向に対して傾いた方向に沿って延びる歯部を有する傾斜ギアを含む駆動機構により駆動されるロボットアームの温度を表す測定値を取得することと、
取得された前記測定値に基づいて、前記ロボットアームと前記駆動機構との少なくとも一方における熱膨張による、前記傾斜ギアの回転軸方向における軸方向ずれに起因する影響を補正することと、を備える、ロボットの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、ロボットおよびロボットの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボットアームを備えるロボットが知られている。たとえば、特許文献1には、複数のリンクを含むロボットアームを備えるロボットが開示されている。このロボットでは、ロボットアームを動作させると、モータおよび歯車減速装置が発熱する。上記特許文献1に記載のロボットは、モータおよび歯車減速装置の発熱に起因するリンクの長さの変化を補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6398204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記特許文献1には記載されていないが、ロボットアームを駆動させるための駆動機構において、回転の径方向から見て、回転の回転軸方向に対して傾いた方向に沿って延びる歯部を有する斜歯歯車などの傾斜ギアが配置されている場合において、熱膨張による傾斜ギアの回転軸方向におけるずれが生じた場合には、径方向から見て、歯部が回転軸方向に対して傾いているため傾斜ギアの回転位置が変化する。しかしながら、上記特許文献1に記載されたロボットでは、温度変化によるロボットアームのリンクの熱膨張に起因する長さの変化が補正されているだけである。そのため、傾斜ギアの回転位置の変化が補正されないため、熱膨張に起因する影響が十分に補正されない。したがって、ロボットアームを駆動させるための駆動機構において、回転の径方向から見て、回転の回転軸方向に対して傾いた方向に沿って延びる歯部を有する傾斜ギアが配置されている場合には、位置決め精度が低下する。
【0005】
この開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ロボットアームを駆動させるための駆動機構において、回転の径方向から見て、回転の回転軸方向に対して傾いた方向に沿って延びる歯部を有する傾斜ギアが配置されている場合にも、位置決め精度の低下を抑制可能なロボットおよびロボットの制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この開示の第1の局面によるロボットは、ロボットアームと、回転の径方向から見て、回転の回転軸方向に対して傾いた方向に沿って延びる歯部を有する傾斜ギアを含み、ロボットアームを駆動する駆動機構と、ロボットアームと駆動機構との少なくとも一方における熱膨張による、傾斜ギアの回転軸方向における軸方向ずれに起因する影響を補正する制御部と、を備える。
【0007】
この開示の第1の局面によるロボットは、上記のように、ロボットアームと駆動機構との少なくとも一方における熱膨張による、傾斜ギアの回転軸方向における軸方向ずれに起因する影響を補正する制御部を備える。これにより、熱膨張による傾斜ギアの回転軸方向における軸方向ずれに起因する影響を補正できるため、ロボットアームを駆動させるための駆動機構において、回転の径方向から見て、回転の回転軸方向に対して傾いた方向に沿って延びる歯部を有する傾斜ギアが配置されている場合にも、位置決め精度の低下を抑制できる。
【0008】
この開示の第2の局面によるロボットの制御方法は、回転の径方向から見て、回転の回転軸方向に対して傾いた方向に沿って延びる歯部を有する傾斜ギアを含む駆動機構により駆動されるロボットアームの温度を表す測定値を取得することと、取得された測定値に基づいて、ロボットアームと駆動機構との少なくとも一方における熱膨張による、傾斜ギアの回転軸方向における軸方向ずれに起因する影響を補正することと、を備える。
【0009】
この開示の第2の局面によるロボットの制御方法は、上記のように、取得された測定値に基づいて、ロボットアームと駆動機構との少なくとも一方における熱膨張による、傾斜ギアの回転軸方向における軸方向ずれに起因する影響を補正する。これにより、熱膨張による傾斜ギアの回転軸方向における軸方向ずれに起因する影響を補正できるため、ロボットアームを駆動させるための駆動機構において、回転の径方向から見て、回転の回転軸方向に対して傾いた方向に沿って延びる歯部を有する傾斜ギアが配置されている場合にも、位置決め精度の低下を抑制可能なロボットの制御方法を提供できる。
【発明の効果】
【0010】
ロボットアームを駆動させるための駆動機構において、回転の径方向から見て、回転の回転軸方向に対して傾いた方向に沿って延びる歯部を有する傾斜ギアが配置されている場合にも、位置決め精度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態によるロボットの構成を示す図である。
図2】一実施形態によるロボットの構成を示すブロック図である。
図3】一実施形態による駆動機構の構成を示す図である。
図4】熱膨張による影響を説明するための図である。
図5】ギアの回転軸方向における熱膨張に起因するロボットアームの回転方向におけるずれを説明するための図である。
図6】基板の位置ずれの補正を説明するための図である。
図7】一実施形態によるロボットの熱膨張による影響の補正における制御方法を説明するためのフローチャートである。
図8】一実施形態によるロボットの比較例との比較を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
(ロボットの構成)
図1から図6までを参照して、一実施形態によるロボット100の構成について説明する。図1に示すように、ロボット100は、基板搬送ロボットである。ロボット100は、クリーンルーム200に配置されている。また、ロボット100は、真空環境下に配置されている。具体的には、ロボット100は、真空室201内に配置されている。
【0014】
ロボット100は、ロボットアーム10と、ロボットアーム10の先端に配置される基板保持ハンド20と、制御部30とを備える。基板保持ハンド20は、基板Wを保持する。具体的には、基板保持ハンド20は、摩擦力により基板Wを保持するパッシブハンドである。基板Wは、たとえば、半導体ウェハである。半導体ウェハは、処理室202において所定の処理が行われる。
【0015】
ロボットアーム10は、水平多関節ロボットアームである。ロボットアーム10は、第1アーム部11と、第2アーム部12とを含む。第1アーム部11の一方端部は、第1関節JT1を介してベース部13に接続されている。第2アーム部12の一方端部は、第2関節JT2を介して第1アーム部11の他方端部に接続されている。第2アーム部12の他方端部には、第3関節JT3を介して基板保持ハンド20が接続されている。
【0016】
第1関節JT1は、ベース部13に対して第1アーム部11を、上下方向に延びる第1回転軸線A1周りに回転させる。第2関節JT2は、第1アーム部11に対して第2アーム部12を、上下方向に延びる第2回転軸線A2周りに回転させる。第3関節JT3は、第2アーム部12に対して基板保持ハンド20を、上下方向に延びる第3回転軸線A3周りに回転させる。
【0017】
第1関節JT1、第2関節JT2および第3関節JT3の各関節には、図2に示すように、ロボットアーム10を駆動する駆動機構40が配置されている。第1関節JT1の駆動機構40は、第1アーム部11に配置され、第2関節JT2の駆動機構40は、第1アーム部11に配置され、第3関節JT3の駆動機構40は、第2アーム部12に配置されている。なお、駆動機構40の配置はこれに限定されない。
【0018】
駆動機構40は、モータ41、エンコーダ42、および、動力伝達部43を含む。モータ41は、駆動機構40における駆動力の駆動源となる。モータ41は、たとえば、サーボモータである。エンコーダ42は、モータ41の回転を検出する。具体的には、エンコーダ42は、モータ41の出力軸41aの回転位置を検出する。動力伝達部43は、モータ41の駆動力を伝達する。駆動機構40は、モータ41の駆動力を伝達することによって、第1アーム部11、第2アーム部12および基板保持ハンド20などの駆動対象を回転させる。
【0019】
図3に示すように、動力伝達部43は、ギア44a、ギア44b、ギア44c、ギア44d、回転軸部45、および、回転軸部46を含む。ギア44aおよびギア44b同士と、ギア44cおよびギア44d同士との各々は、互いに噛み合いながら回転する。ギア44aおよびギア44bの各々は、たとえば、互いの回転軸が直交するベベルギアである。また、本実施形態では、ギア44cおよびギア44dの各々は、回転の径方向から見て、回転の回転軸方向に対して傾いた方向に沿って延びる歯部を有する。ギア44cおよび44dは、たとえば、らせん状の歯筋を有するヘリカルギアである。ヘリカルギアは、斜歯歯車とも言われる。なお、ギア44cは、傾斜ギアおよび第1傾斜ギアの一例である。ギア44dは、傾斜ギアおよび第2傾斜ギアの一例である。回転軸部45は、回転軸部および第1回転軸部の一例である。回転軸部46は、回転軸部および第2回転軸部の一例である。
【0020】
ギア44aは、モータ41の出力軸41aに取り付けられている。ギア44bは、回転軸部45に取り付けられている。ギア44cは、回転軸部45に取り付けられている。ギア44dは、回転軸部46に取り付けられている。モータ41の駆動力は、出力軸41a、ギア44a、および、ギア44bを介して、回転軸部45に伝達される。そして、回転軸部45に伝達されたモータ41の駆動力は、回転軸部45が回転することによって、ギア44cおよびギア44dを介して回転軸部46に伝達される。回転軸部46は、出力側が第2アーム部12、基板保持ハンド20、および、ベース部13などの駆動対象に接続されている。回転軸部46に対してモータ41からの駆動力が伝達されることによって、駆動対象が回転する。たとえば、第1関節JT1に配置されている駆動機構40では、回転軸部46は、ベース部13に接続されている。回転軸部46にモータ41からの駆動力が伝達されることによって、ロボットアーム10は、第1関節JT1を第1回転軸線A1周りに回転させる。なお、動力伝達部43は、図3の構成に限定されない。また、動力伝達部43は、たとえば、ベアリングなどの軸受けを含む。
【0021】
なお、ロボットアーム10は、ギア44c、ギア44d、回転軸部45、および、回転軸部46とは異なる熱膨張係数を有する材料により形成されている。ロボットアーム10の第1アーム部11と第2アーム部12とは、アルミニウムにより形成されている。ギア44c、ギア44d、回転軸部45、および、回転軸部46は、鉄により形成されている。また、アルミニウムの熱膨張係数は、鉄の熱膨張係数よりも大きい。
【0022】
制御部30は、所定のプログラムを実行することにより、ロボットアーム10の動作を制御する。制御部30は、第1関節JT1、第2関節JT2および第3関節JT3の各関節に配置されたモータ41に供給する電力を制御することにより、ロボットアーム10の動作を制御する。制御部30は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)などの演算装置、および、フラッシュメモリなどの記憶装置を有するコンピュータである。制御部30は、ロボットアーム10の動作を制御することによって、予め教示された制御量に基づいて、予め設定された所定の位置に対して基板Wを搬送する搬送動作の制御処理を実行する。予め教示された制御量は、記憶装置に記憶されている。
【0023】
また、図2に示すように、ロボット100は、駆動機構40を含むロボットアーム10の温度を測定するための温度センサ50を備えている。温度センサ50は、外気温センサ51と、エンコーダ温度センサ52とを含む。外気温センサ51は、ロボットアーム10の外気温を測定する。外気温センサ51は、ロボット100の外表面に配置されている。たとえば、外気温センサ51は、ロボットアーム10の第1アーム部11の外表面に配置されている。エンコーダ温度センサ52は、駆動機構40のエンコーダ42に配置されている。エンコーダ温度センサ52は、第1関節JT1、第2関節JT2、および、第3関節JT3の各々における駆動機構40のエンコーダ42に配置されている。温度センサ50は、たとえば、熱電対である。温度センサ50は、測定された温度を示す測定結果を制御部30に対して出力する。
【0024】
〈熱膨張に起因する影響の補正〉
ここで、図4に示すように、ロボットアーム10を動作させていると、モータ41からの発熱、または、外気温の変化などによるロボットアーム10および駆動機構40の少なくとも一方における熱膨張による影響が生じる。熱膨張による影響として、基板Wの搬送動作において、目標位置に対する位置ずれが生じる。なお、図4では、同様の教示位置である目標位置にロボットアーム10が制御された場合におけるロボットアーム10の温度変化に起因する位置ずれを表している。図4では、温度T℃におけるロボットアーム10の位置が模式的な位置を示す実線と共に図示されている。そして、図4において、温度がT+ΔT℃の場合におけるロボットアーム10の模式的な位置が点線によって図示されている。本実施形態では、制御部30は、熱膨張による影響を補正する処理を実行する。
【0025】
図5に示すように、熱膨張による影響として、第1関節JT1、第2関節JT2、および、第3関節JT3の各々において、熱膨張に起因するロボットアーム10の回転方向におけるずれである回転方向ずれが発生する。たとえば、モータ41側である駆動側のギア44cと、出力側である従動側のギア44dとの間において、回転軸部45と回転軸部46との各々の回転軸方向の熱膨張の差異によって、回転軸方向におけるずれが生じる。ギア44cおよびギア44dが互いに斜めに傾いた歯筋を有するため、回転軸方向におけるずれに起因して、回転方向におけるずれが生じる。
【0026】
具体的には、ギア44cが取り付けられている回転軸部45の基準温度における長さをL、熱膨張率をKとし、ギア44dが取り付けられている回転軸部46の基準温度における長さをL、熱膨張率をKとすると、基準温度からΔT℃の温度変化があった場合には、回転軸部45および回転軸部46の各々の回転軸方向の熱膨張の差異である回転軸方向のずれとして、シフト量δが次の式(1)によって表される。
【数1】
そして、ギア44cおよびギア44dの回転軸方向に対する歯部の傾きをαとすると、回転軸方向のシフト量δに起因するギア44cおよびギア44dの回転方向におけるずれを表すシフト量δが次の式(2)によって表される。
【数2】
この回転方向におけるシフト量δは、回転方向におけるずれの大きさを表している。したがって、従動側のギア44dの半径をr、熱膨張による回転軸方向のずれのシフト量δに起因するギア44cおよびギア44dの回転方向のずれの回転角をδθとした場合には、r・δθ=δが成立するため、次の式(3)が成立する。
【数3】
【0027】
ここで、Kは、回転軸方向の熱膨張に起因する回転方向のずれの回転角を算出するための比例定数となる。すなわち、温度変化の大きさに比例してギア44cおよびギア44dの回転角にずれが生じる。上記のギア44cおよびギア44dの回転方向のずれの回転角であるδθが、熱膨張によるロボットアーム10の回転方向におけるずれの回転角となる。言い換えると、熱膨張によるギア44cおよびギア44dの回転軸方向におけるずれに起因する影響として、ロボットアーム10の回転方向におけるずれが生じる。このδθにより表されるロボットアーム10の回転方向のずれの回転角により、ロボットアーム10の駆動において、目標位置に対する位置ずれが発生する。
【0028】
また、図4に示すように、熱膨張による影響として、ロボットアーム10の回転方向におけるずれに加えて、ロボットアーム10の長さの変化が生じる。ロボットアーム10および基板保持ハンド20は、温度変化による熱膨張に起因して、一端から他端までの長さが変化する。たとえば、温度がT℃である場合において、第1アーム部11の第1関節JT1から第2関節JT2までの長さをL、第2アーム部12の第2関節JT2から第3関節JT3までの長さをL、基板保持ハンド20の第3関節JT3から基板保持ハンド20の中心位置までの長さをLとする。この場合に、温度がT℃からT+ΔT℃に変化した場合には、熱膨張によって、L、L、および、Lが、それぞれ、L+δL1、L+δL2、および、L+δLHに変化する。すなわち、δL1、δL2、および、δLHは、ΔT℃の温度変化による熱膨張によるロボットアーム10の長さの変化の大きさを表している。δL1、δL2、および、δLHは、それぞれ、第1アーム部11、第2アーム部12、および、基板保持ハンド20の長さの変化を表している。ロボットアーム10および基板保持ハンド20の長さの変化に起因して、ロボットアーム10の動作における目標位置に対する誤差である位置ずれが生じる。δL1、δL2、および、δLHの大きさは、たとえば、温度変化のΔTに比例する。
【0029】
これらのような熱膨張による影響に対して、本実施形態では、制御部30は、ロボットアーム10の温度に基づいて、熱膨張によるロボットアーム10の長さの変化と、熱膨張による軸方向のずれに起因するロボットアーム10の回転方向のずれとを補正する。すなわち、制御部30は、駆動機構40を含むロボットアーム10の温度に基づいて、熱膨張によるロボットアーム10の長さの変化を補正するとともに、回転軸部45と回転軸部46との各々の回転軸方向の熱膨張の差異によるギア44cおよびギア44dの軸方向のずれであるシフト量δに起因する、ロボットアーム10の回転方向のずれの回転角であるδθを補正する。
【0030】
詳細には、図4に示すように、ロボットアーム10の温度がT℃である場合における基板保持ハンド20に保持された基板Wの位置座標を(X,Y)とすると、以下の式(4)のように表される。
【数4】
θL1、θL2、および、θLHは、それぞれ、X方向に対する第1アーム部11の傾き、第2アーム部12の傾き、および、基板保持ハンド20の傾きを表している。なお、基板Wの位置は、基板保持ハンド20の中心位置であるとする。
【0031】
一方で、温度がT℃からT+ΔT℃に変化した場合における基板保持ハンド20に保持された基板Wの位置座標を(XT+ΔT,YT+ΔT)とすると、以下の式(5)のように表される。
【数5】
なお、δθL1、δθL2、および、δθLHは、それぞれ、第1関節JT1、第2関節JT2、および、第3関節JT3におけるロボットアーム10の回転方向のずれの回転角を表すδθである。また、温度変化ΔTによる熱膨張に起因する位置ずれが、以下の式(6)のように表される。
【数6】
δは、X方向における位置ずれの大きさを表しており、δは、Y方向における位置ずれの大きさを表している。
【0032】
本実施形態では、制御部30は、δおよびδにより表される基板Wの搬送動作における目標位置に対する位置ずれを補正することによって、熱膨張による影響を補正する。具体的には、制御部30は、回転軸部45と回転軸部46との各々の回転軸方向のずれである軸方向ずれに起因するギア44cおよびギア44dの回転位置の変化によるロボットアーム1の回転方向ずれを補正するように、駆動機構40によるロボットアーム10の動作を補正する。言い換えれば、熱膨張による位置ずれであるδおよびδに基づいて、制御部30は、搬送動作における目標位置を補正する。熱膨張による影響を補正するために、制御部30は、温度センサ50による測定に基づいて、ロボットアーム10の温度を表す測定値取得する。具体的には、制御部30は、外気温センサ51の測定結果とエンコーダ温度センサ52の測定結果との各々によりロボットアーム10の温度を表す測定値を推定する。制御部30は、たとえば、ロボットアーム10の温度を表す測定値を算出するためのパラメータおよびプログラムを予め記憶している。制御部30は、外気温センサ51およびエンコーダ温度センサ52の各々による測定結果に基づいて、ロボットアーム10および駆動機構40における温度分布を推定する。たとえば、制御部30は、ロボットアーム10と、駆動機構40の各部との各々における構造、比熱などにより推定されたロボットアーム10および駆動機構40の温度分布に基づいて、熱膨張に起因する影響を補正するためのロボットアーム10の温度を表す測定値を取得する。ここで言うロボットアーム10の温度は、駆動機構40の各部における温度を含む。たとえば、制御部30は、第1関節JT1、第2関節JT2、および、第3関節JT3の各々における駆動機構40における回転軸部45および回転軸部46の温度を、膨張に起因する影響を補正するためのロボットアーム10の温度として温度を表す測定値を取得する。
【0033】
制御部30は、取得されたロボットアーム10の温度を表す測定値に基づいて、熱膨張に起因するロボットアーム10の長さの変化であるδL1、δL2、および、δLHと、熱膨張に起因するロボットアーム10の回転方向のずれの回転角であるδθL1、δθL2、および、δθLHとを補正する。取得されたロボットアーム10の温度を表す測定値に基づいて、制御部30は、上記の式(4)、式(5)、および、式(6)により算出される位置ずれの大きさであるδおよびδが含まれる場合にも、目標位置に対する搬送動作における位置ずれが生じないように、制御量を補正してθL1、θL2、および、θLHを補正することによって、熱膨張によるロボットアーム10の長さの変化と、熱膨張による軸方向ずれに起因するロボットアーム10の回転方向におけるずれとを補正する。
【0034】
制御部30は、ロボットアーム10の長さの変化であるδL1、δL2、および、δLHの各々を算出するための比例定数などのパラメータおよび演算処理のプログラムを予め記憶している。また、制御部30は、第1関節JT1、第2関節JT2、および、第3関節JT3の各々における上記式(3)における比例定数Kを予め記憶している。そして、制御部30は、温度センサ50により取得されたロボットアーム10の温度を表す測定値に基づいて、上記式(5)におけるθL1、θL2、および、θLHの値を補正することによって駆動機構40によるロボットアーム10の動作を補正して、熱膨張による影響を補正する。すなわち、制御部30は、予め設定されている第1関節JT1、第2関節JT2、および、第3関節JT3の各々における回転角を示すθL1、θL2、および、θLHの値を、上記式(5)に基づいて補正することによって、熱膨張に起因する目標位置に対する位置ずれであるδおよびδを補正する。制御部30による補正の演算処理を行うための各種パラメータは、たとえば、複数回に渡る試行によって取得される。
【0035】
〈基板の位置ずれ補正〉
また、図6に示すように、基板Wの基板保持ハンド20における位置が搬送中などに基板保持ハンド20の中心位置からずれる場合がある。基板Wの搬送中における位置ずれは、基板保持ハンド20が摩擦力だけで基板Wを保持するパッシブハンドの場合に発生しやすい。このため、処理室202の近傍に、位置ずれ検出装置60が配置されている。
【0036】
位置ずれ検出装置60は、第1センサ61と、第2センサ62とを備える。第1センサ61および第2センサ62は、非接触式のセンサである。第1センサ61および第2センサ62は、たとえば、反射型センサまたは透過型センサなどの光電センサである。第1センサ61および第2センサ62は、基板Wが処理室202へ搬送される途中において、基板Wの外縁の通過を検出する。第1センサ61および第2センサ62の検出結果は、制御部30に入力される。制御部30は、第1センサ61および第2センサ62からの検出結果に基づいて、基板保持ハンド20における基板Wの位置ずれの大きさを算出する。
【0037】
たとえば、制御部30は、第1センサ61および第2センサ62が基板Wの外縁の通過を検出したタイミングにおける基板保持ハンド20の中心位置を、各関節のエンコーダ42によって取得する。制御部30は、基板保持ハンド20の中心位置を中心として、基板Wの直径と等しい直径の仮想円C1およびC2を算出する。制御部30は、仮想円C1およびC2の交点と、第1センサ61の位置とのずれを表す平面ベクトルを取得する。この平面ベクトルは、図6の右図に白抜き矢印で示されている。この平面ベクトルにより表されるずれが、基板保持ハンド20の中心位置と、基板Wの中心との位置ずれと等しいと考えられる。なお、第2センサ62による基板Wの位置ずれの検出は、第1センサ61の場合と同様であるので、詳細な説明は省略する。制御部30は、第1センサ61の検出結果から得られた平面ベクトルと、第2センサ62の検出結果から得られた平面ベクトルとの平均値を取得し、取得した平均値を、基板Wの基板保持ハンド20での位置ずれの補正量として、基板Wの基板保持ハンド20での位置ずれを補正する。平均値の取得により、基板保持ハンド20に対する基板Wの位置ずれを精度良く取得できる。
【0038】
ここで、基板Wの基板保持ハンド20における位置ずれの補正を行う場合にも、熱膨張に起因する影響が生じる。このため、制御部30は、目標位置における熱膨張に起因する影響だけでなく、基板Wの基板保持ハンド20における位置ずれの補正量に含まれる熱膨張に起因する影響についても補正する。
【0039】
すなわち、制御部30は、ロボットアーム10が、基板Wの基板保持ハンド20での位置ずれ補正時における検出時の姿勢の状態である場合、および、教示位置である目標位置での姿勢の状態である場合の各々において、上記の熱膨張による影響の補正の演算処理を行う。言い換えれば、制御部30は、ロボットアーム10が所定のアクセス先にアクセスする場合において、ロボットアーム10の姿勢ごとに、熱膨張による影響を補正する。したがって、制御部30は、目標位置での熱膨張に起因する影響と、基板Wの基板保持ハンド20での位置ずれの補正量に含まれる熱膨張に起因する影響とを補正可能である。なお、制御部30は、基板保持ハンド20がパッシブハンド以外のハンドの場合など、基板Wの基板保持ハンド20での位置ずれを考慮する必要がない場合には、目標位置での熱膨張に起因する影響のみを補正する。
【0040】
(ロボットの制御方法)
次に、図7を参照して、本実施形態のロボット100による熱膨張の影響の補正処理を行うロボットの制御方法をフローチャートに基づいて説明する。なお、ステップS101からステップS103までの制御処理は、制御部30により実行される。
【0041】
ステップS101において、駆動機構40を含むロボットアーム10の温度を表す測定値が取得される。具体的には、外気温センサ51の測定結果とエンコーダ温度センサ52の測定結果とに基づいて、ロボットアーム10の温度を表す測定値が推定される。そして、ステップS102において、ロボットアーム10の温度を表す測定値に基づいて、熱膨張の影響の補正量が取得される。そして、ステップS103において、ギア44cおよびギア44dの回転位置の変化によるロボットアーム10の回転方向におけるずれである回転方向ずれを補正するように、駆動機構40によるロボットアーム10の動作が補正される。具体的には、熱膨張の影響の補正量に基づいて、熱膨張による駆動機構40におけるギア44cおよびギア44dの回転軸方向におけるずれである軸方向ずれに起因する影響が補正される。
【0042】
〈比較例〉
次に、図8を参照して、熱膨張に起因する影響を補正しない場合と、ロボットアーム10の回転角を補正せずに、ロボットアーム10の長さの変化のみを補正する場合と、ロボットアーム10の回転角と長さの変化との両方を補正する場合との比較について説明する。
【0043】
図8では、所定の教示位置に基板保持ハンド20を移動する制御を繰り返し行った場合における位置ずれの大きさを、互いに直交するX方向とY方向との2方向において検出した値をプロットしたグラフが示されている。図8の上部では、横軸をX方向における位置ずれの大きさとし、縦軸をY方向における位置ズレの大きさとしたグラフが示されている。また、図8の下部では、横軸を測定回数とし、縦軸を位置ずれの大きさとしたグラフが示されている。図8に示す例では、所定の教示位置に対する移動を繰り返し行った場合の値が取得されているため、図8の下部に示されたグラフは、横軸を時間経過と考えることができる。
【0044】
補正を行わない場合には、熱膨張に起因して、X方向、および、Y方向における位置ずれが比較的大きくなる。ロボットアーム10の回転角の補正を行わずに、ロボットアーム10の長さの変化のみを補正した場合には、補正を行わない場合に比べると位置ずれは小さくなっているものの、位置ずれの値は比較的大きい。特に、補正を行わない場合、および、回転角の補正を行わずに長さの変化の補正のみを行う場合では、測定回数の小さい範囲において位置ずれの値が比較的大きく変化する。これは、起動開始から、繰り返しの駆動に伴ってモータ41の発熱により温度が徐々に上昇することに起因していると考えられる。
【0045】
そして、本実施形態によるロボット100のように、ロボットアーム10の回転角の補正と、ロボットアーム10の長さの変化の補正との両方の補正を行う場合には、X方向における位置ずれ、および、Y方向における位置ずれの両方が比較的小さくなる。
【0046】
[本実施形態の効果]
本実施形態では、上記のように、ロボット100は、ロボットアーム10と駆動機構40との少なくとも一方における熱膨張による、傾斜ギアとしてのギア44cおよびギア44dの回転軸方向における軸方向ずれに起因する影響を補正する制御部30を備える。これにより、熱膨張によるギア44cおよびギア44dの回転軸方向における軸方向ずれに起因する影響を補正できるため、ロボットアーム10を駆動させるための駆動機構40において、回転の径方向から見て、回転の回転軸方向に対して傾いた方向に沿って延びる歯部を有するギア44cおよびギア44dが配置されている場合にも、位置決め精度の低下を抑制できる。
【0047】
また、本実施形態では、上記のように、駆動機構40は、傾斜ギアとしてのギア44cおよびギア44dが取り付けられる回転軸部45および回転軸部46を含む。制御部30は、回転軸部45および回転軸部46の熱膨張による軸方向ずれに起因するロボットアーム10の回転方向における回転方向ずれを、軸方向ずれに起因する影響として補正する。これにより、回転軸部45および回転軸部46の回転軸方向における熱膨張に起因して、ロボットアーム10の回転方向におけるずれが発生した場合にも、ロボットアーム10の回転方向におけるずれを補正できるので、温度変化に対する位置決め精度の低下を容易に抑制できる。
【0048】
また、本実施形態では、上記のように、ロボット100の駆動機構40は、互いに噛み合う第1傾斜ギアとしてのギア44cおよび第2傾斜ギアとしてのギア44dを含む。また、駆動機構40は、ギア44cが取り付けられる第1回転軸部としての回転軸部45と、ギア44dが取り付けられる第2回転軸部としての回転軸部46とを含む。制御部30は、回転軸部45と回転軸部46との各々の回転軸方向の熱膨張の差異によるギア44cおよびギア44dの軸方向ずれに起因するロボットアーム10の回転方向ずれを補正する。これにより、回転軸部45と回転軸部46との各々の部材における熱膨張係数の差、または、回転軸部45と回転軸部46との間の温度分布の差などによって、回転軸部45と回転軸部46との熱膨張の程度が異なることに起因して、ギア44cとギア44dとの回転位置が変化する場合にも、ギア44cおよびギア44dの軸方向ずれに起因するロボットアーム10の回転方向ずれを補正することにより、ロボットアーム10の回転のずれ量を容易に補正できる。
【0049】
また、本実施形態では、上記のように、制御部30は、軸方向ずれに起因する傾斜ギアとしてのギア44cおよびギア44dの回転位置の変化によるロボットアーム10の回転方向ずれを補正するように、駆動機構40によるロボットアーム10の動作を補正する。これにより、軸方向ずれに起因する影響の補正として、駆動機構40によるロボットアーム10の動作を補正することができる。そのため、ロボットアーム10の動作を補正することによって、ロボットアーム10の駆動による位置決めを容易に補正することができるので、位置決め精度の低下を容易に抑制できる。
【0050】
また、本実施形態では、上記のように、制御部30は、駆動機構40を含むロボットアーム10の温度を表す測定値を取得するとともに、取得された測定値に基づいて、熱膨張による軸方向ずれに起因する影響を補正する。これにより、温度を表す測定値を取得することによって、駆動機構40を含むロボットアーム10の温度変化を容易に取得することができる。そのため、温度変化と熱膨張との間には相関関係があるため、温度を表す測定値に基づいて、膨張による軸方向ずれに起因する影響を精度よく補正できる。その結果、温度を表す測定値を取得することによって、位置決め精度の低下を精度よく抑制できる。
【0051】
また、本実施形態では、上記のように、ロボット100は、駆動機構40を含むロボットアーム10の温度を測定するための温度センサ50を備えている。制御部30は、温度センサ50による測定に基づいて、測定値を取得するとともに、取得された測定値に基づいて、熱膨張による軸方向ずれに起因する影響を補正する。これにより、温度センサ50による測定に基づいて、ロボットアーム10の温度を表す測定値を容易に取得できる。その結果、取得されたロボットアーム10の温度を表す測定値に基づいて、ロボットアーム10の位置決め精度の低下を容易に抑制できる。
【0052】
また、本実施形態では、上記のように、駆動機構40は、駆動機構40における駆動力の駆動源となるモータ41と、モータ41の回転を検出するエンコーダ42とを含む。温度センサ50は、エンコーダ42に配置されたエンコーダ温度センサ52を含む。制御部30は、エンコーダ温度センサ52の測定結果により推定された測定値に基づいて、熱膨張による軸方向ずれに起因する影響を補正する。これにより、モータ41の回転を検出するエンコーダ42に配置されたエンコーダ温度センサ52の測定結果に基づいて、ロボットアーム10の温度を表す測定値を推定できるので、温度を測定するためのセンサをロボットアーム10の内部に配置することなく、熱膨張に起因する影響を補正するための測定値を取得できる。そのため、温度を測定するためのセンサをロボットアーム10の内部に配置する場合に比べて、ロボットアーム10の内部の構造の複雑化を抑制できる。
【0053】
また、本実施形態では、上記のように、温度センサ50は、エンコーダ温度センサ52と、ロボットアーム10の外気温を測定する外気温センサ51とを含む。制御部30は、エンコーダ温度センサ52の測定結果と外気温センサ51の測定結果との各々により推定された測定値に基づいて、熱膨張による軸方向ずれに起因する影響を補正する。これにより、エンコーダ温度センサ52の測定結果に加えて、外気温センサ51の測定結果を取得することによって、ロボットアーム10の温度を表す測定値をより正確に推定できる。そのため、温度を測定するためのセンサをロボットアーム10の内部に配置することなく、ロボットアーム10の内部の構造の複雑化を抑制できるとともに、測定値に基づいて熱膨張による軸方向ずれに起因する影響をより精度よく補正できる。
【0054】
また、本実施形態では、上記のように、制御部30は、熱膨張によるロボットアーム10の長さの変化と、熱膨張による軸方向ずれである回転軸方向におけるずれに起因するロボットアーム10の回転方向におけるずれとを補正する。これにより、傾斜ギアとしてのギア44cおよびギア44dの回転軸方向における熱膨張による影響に加えて、熱膨張によるロボットアーム10の長さの変化に起因する影響をも補正できる。その結果、ロボットアーム10の位置決め精度の低下をより抑制できる。
【0055】
また、本実施形態では、上記のように、ロボット100は、ロボットアーム10の先端に配置される基板保持ハンド20を備える。これにより、比較的高い位置決め精度が要求される、基板保持ハンド20により基板Wを搬送するロボット100において、ロボットアーム10の位置決め精度の低下を効果的に抑制できる。
【0056】
また、本実施形態では、上記のように、ロボット100は、クリーンルーム200に配置されている。これにより、繰り返しの動作を多く行う場合がある、クリーンルーム200に配置されたロボット100において、温度変化に起因する位置決め精度の低下を効果的に抑制できる。すなわち、温度変化に対して安定した繰り返し精度を確保することができる。
【0057】
また、本実施形態では、上記のように、ロボット100は、真空環境下に配置されている。これにより、放熱が発生しにくく、温度上昇が発生しやすい真空環境下で使用されるロボット100において、熱膨張に起因する影響を補正することができるので、ロボットアーム10の位置決め精度の低下を効果的に抑制できる。
【0058】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0059】
たとえば、上記実施形態では、基板保持ハンド20がパッシブハンドである例を示したが、本開示はこれに限られない。本開示では、基板保持ハンドがパッシブハンド以外のハンドであってもよい。たとえば、基板保持ハンドは、基板を吸着させるバキュームハンドであってもよい。また、基板保持ハンドは、基板を固定するエッジグリップハンドであってもよい。なお、基板保持ハンドがパッシブハンド、または、バキュームハンドである場合には、熱膨張に起因する影響のうち、基板保持ハンドの長さの変化、および、基板保持ハンドの回転方向におけるずれを考慮しなくともよい。すなわち、上記実施形態の式(5)におけるδLH、および、δθLHが除かれた状態で補正の演算処理を行うようにしてもよい。基板保持ハンドがパッシブハンド、または、バキュームハンドである場合には、基板保持ハンドにおいて熱膨張による長さの変化および回転方向におけるずれの影響が生じている場合にも、基板の保持を開始した時点から、基板の保持を終了する時点までの温度変化は非常に小さい。そのため、基板保持ハンドにおける熱膨張による長さの変化、および、回転方向におけるずれによる位置ずれが生じている場合においても、位置ずれが生じたまま保持を開始するとともに、位置ずれが生じたまま保持を終了するため、搬送における影響を無視することができる。一方で、基板保持ハンドにおいて基板の位置を固定するエッジグリップハンドでは、上記実施形態の式(5)においてδLH、および、δθLHが含まれた状態で、補正の演算を行うほうが好ましい。
【0060】
また、上記実施形態では、制御部30が、回転軸部45および回転軸部46の熱膨張による回転軸方向のずれに起因するロボットアーム10の回転方向におけるずれを補正する例を示したが、本開示はこれに限られない。本開示では、ロボットアームと駆動機構との少なくとも一方における熱膨張に起因するロボットアームの回転方向におけるずれを補正するようにしてもよい。すなわち、駆動機構における回転軸部以外の部材における熱膨張に起因する影響を補正してもよいし、ロボットアームの熱膨張に起因する影響を補正するようにしてもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、熱膨張によるロボットアーム10の長さの変化と、熱膨張によるロボットアーム10の回転方向におけるずれとを補正する例を示したが、本開示はこれに限られない。本開示では、熱膨張によるロボットアームの長さの変化を補正せずに、熱膨張によるロボットアームの回転方向におけるずれを補正するようにしてもよい。すなわち、熱膨張によるロボットアームの長さの変化を考慮せずに、ロボットアームの回転方向におけるずれのみを補正するようにしてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、ロボット100がクリーンルーム200において真空環境下に配置される例を示したが、本開示はこれに限られない。本開示では、ロボットがクリーンルーム以外に配置されてもよい。また、ロボットが大気環境下に配置される大気ロボットであってもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、予め記憶された比例定数Kに基づいて、熱膨張によるロボットアーム10の回転方向におけるずれを補正する演算処理が行われる例を示したが、本開示はこれに限られない。本開示では、熱膨張により傾斜ギアの回転軸方向における軸方向ずれの要因となる構造物の長さ、熱膨張係数、および、傾斜ギアの歯筋の傾きなどのパラメータを予め記憶するとともに、予め記憶された熱膨張係数などのパラメータを用いることによって、熱膨張によるロボットアームの回転方向におけるずれを算出して、熱膨張による影響を補正するようにしてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、制御部30が、ロボットアーム10に配置された外気温センサ51と、エンコーダ42に配置されたエンコーダ温度センサ52との測定結果に基づいて、熱膨張に起因する影響を補正する例を示したが、本開示はこれに限られない。本開示では、外気温センサは、ベース部などのロボットアーム以外のロボットの外表面に配置されていてもよい。また、外気温センサを、真空室内のロボットアーム以外の部分に配置するようにしてもよい。制御部が、ロボットの外部からロボットアームの温度を測定した測定結果を取得することによって、駆動機構を含むロボットアームの温度を表す測定値を取得するようにしてもよい。また、制御部が、ロボットアームの内部に配置された温度センサからの測定結果に基づいて、熱膨張による影響を補正してもよい。また、温度センサは、熱電対以外のサーミスタ、測温抵抗体などの接触式温度センサであってもよいし、放射温度センサおよび色温度センサなどの非接触式の温度センサであってもよい。また、外気温センサを配置せずに、エンコーダ温度センサの測定結果に基づいて温度を表す測定値を推定するようにしてもよい。また、制御部を、連続運転時間、モータ電流値、または、ロボットアームの動作速度などを表す測定値に基づいて、間接的に温度の測定値を取得するようにしてもよい。すなわち、連続運転時間、モータ電流値、または、ロボットアームの動作速度などを表す測定値を、駆動機構を含むロボットアームの温度を表す測定値として取得するとともに、連続運転時間、モータ電流値、または、ロボットアームの動作速度などの測定値に基づいて、温度自体を算出せずに、熱膨張に起因する影響を補正するようにしてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、駆動機構40における動力伝達部43が、ギア44aおよびギア44bと、傾斜ギアとしてのギア44cおよびギア44dとの4つのギアを有するギア動力伝達部である例を示したが、本開示はこれに限られない。本開示では、駆動機構における動力伝達部が、傾斜ギアとしてのプーリと、プーリに巻き掛けられた歯付きベルトとを含むベルトプーリ動力伝達部であってもよい。この場合にも、プーリおよび歯付きベルトに、プーリの回転軸方向に対して傾斜した方向に沿う歯部が配置されている場合には、熱膨張による軸方向ずれに起因する影響が生じるため、熱膨張による影響を補正することによって位置決め精度の低下を抑制できる。また、上記実施形態では、傾斜ギアが、ヘリカルギアである例を示したが、本開示では、傾斜ギアは、斜歯の傘歯車であるスパイラルベベルギアであってもよい。また、傾斜ギアは、内歯の斜歯歯車であってもよい。また、駆動機構におけるギアの個数は、4つ以外であってもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、ロボットアーム10が、傾斜ギアとしてのギア44c、ギア44d、回転軸部45、および、回転軸部46とは異なる熱膨張係数を有する材料により形成されている例を示したが、本開示はこれに限られない。本開示では、ロボットアームと傾斜ギアおよび回転軸部とが、互いに同じ熱膨張係数を有する材料により形成されていてもよい。また、能動側の傾斜ギアおよび回転軸部と、従動側の傾斜ギアおよび回転軸部とが、互いに異なる膨張係数を有する材料により形成されていてもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、ロボットアーム10がアルミニウムにより形成され、傾斜ギアとしてのギア44c、ギア44d、回転軸部45、および、回転軸部46が鉄により形成される例を示したが、本開示はこれに限られない。本開示では、ロボットアームと傾斜ギアおよび回転軸部とはどのような材料で形成されてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、ロボット100が、1つのロボットアーム10に1つ基板保持ハンド20が配置されている水平多関節ロボットアームである例を示したが、本開示はこれに限られない。本開示では、ロボットアームの先端に基板保持ハンドが2つ以上配置されてもよい。また、ロボットアームの先端に基板保持ハンド以外のハンドまたはエンドエフェクタが配置されていてもよい。また、複数のロボットアームが備えられていてもよい。また、ロボットアームが垂直多関節ロボットアームであってもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、第1センサ61および第2センサ62を含む位置ずれ検出装置60からの検出結果に基づいて、制御部30が、基板Wの基板保持ハンド20での位置ずれの補正を行うとともに、基板Wの基板保持ハンド20での位置ずれの補正における補正量に含まれる熱膨張に起因する影響を補正する例を示したが、本開示はこれに限られない。本開示では、制御部を、基板の基板保持ハンドでの位置ずれの補正量に含まれる熱膨張に起因する影響を補正しないようにしてもよい。また、制御部を、基板の基板保持ハンドでの位置ずれの補正を行わないようにしてもよい。また、位置ずれ検出装置において、第1センサおよび第2センサのいずれか一方のみを用いて基板保持ハンドにおける基板を検出するようにしてもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、ロボットアーム10の駆動の制御と、ロボットアーム10の温度を表す測定値の取得と、ロボットアーム10の温度を表す測定値に基づく熱膨張による影響の補正との制御処理が、共通の制御部30において実行される例を示したが、本開示はこれに限られない。本開示では、ロボットアームの駆動の制御と、ロボットアームの温度を表す測定値の取得と、ロボットアームの温度を表す測定値に基づく熱膨張による影響の補正との各々の制御処理が、異なる制御装置において実行されるようにしてもよい。
【0071】
本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、および/または、それらの組み合わせ、を含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット、または手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、またはユニットはハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアおよび/またはプロセッサの構成に使用される。
【0072】
[態様]
上記した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0073】
(項目1)
ロボットアームと、
回転の径方向から見て、回転の回転軸方向に対して傾いた方向に沿って延びる歯部を有する傾斜ギアを含み、前記ロボットアームを駆動する駆動機構と、
前記ロボットアームと前記駆動機構との少なくとも一方における熱膨張による、前記傾斜ギアの回転軸方向における軸方向ずれに起因する影響を補正する制御部と、を備える、ロボット。
【0074】
(項目2)
前記駆動機構は、前記傾斜ギアが取り付けられる回転軸部を含み、
前記制御部は、前記回転軸部の熱膨張による前記軸方向ずれに起因する前記ロボットアームの回転方向における回転方向ずれを、前記軸方向ずれに起因する影響として補正する、項目1に記載のロボット。
【0075】
(項目3)
前記傾斜ギアは、互いに噛み合う第1傾斜ギアおよび第2傾斜ギアを含み、
前記回転軸部は、前記第1傾斜ギアが取り付けられる第1回転軸部と、前記第2傾斜ギアが取り付けられる第2回転軸部とを含み、
前記制御部は、前記第1回転軸部と前記第2回転軸部との各々の回転軸方向の熱膨張の差異による前記第1傾斜ギアおよび前記第2傾斜ギアの前記軸方向ずれに起因する前記ロボットアームの前記回転方向ずれを補正する、項目2に記載のロボット。
【0076】
(項目4)
前記制御部は、前記軸方向ずれに起因する前記傾斜ギアの回転位置の変化による前記ロボットアームの前記回転方向ずれを補正するように、前記駆動機構による前記ロボットアームの動作を補正する、項目2または3に記載のロボット。
【0077】
(項目5)
前記制御部は、前記駆動機構を含む前記ロボットアームの温度を表す測定値を取得するとともに、取得された前記測定値に基づいて、熱膨張による前記軸方向ずれに起因する影響を補正する、項目1~3のいずれか1項に記載のロボット。
【0078】
(項目6)
前記駆動機構を含む前記ロボットアームの温度を測定するための温度センサをさらに備え、
前記制御部は、
前記温度センサによる測定に基づいて、前記測定値を取得するとともに、
取得された前記測定値に基づいて、熱膨張による前記軸方向ずれに起因する影響を補正する、項目5に記載のロボット。
【0079】
(項目7)
前記駆動機構は、前記駆動機構における駆動力の駆動源となるモータと、前記モータの回転を検出するエンコーダとを含み、
前記温度センサは、前記エンコーダに配置されたエンコーダ温度センサを含み、
前記制御部は、前記エンコーダ温度センサの測定結果により推定された前記測定値に基づいて、熱膨張による前記軸方向ずれに起因する影響を補正する、項目6に記載のロボット。
【0080】
(項目8)
前記温度センサは、前記エンコーダ温度センサと、前記ロボットアームの外気温を測定する外気温センサとを含み、
前記制御部は、前記エンコーダ温度センサの測定結果と前記外気温センサの測定結果との各々により推定された前記測定値に基づいて、熱膨張による前記軸方向ずれに起因する影響を補正する、項目7に記載のロボット。
【0081】
(項目9)
前記制御部は、熱膨張による前記ロボットアームの長さの変化と、熱膨張による前記軸方向ずれに起因する前記ロボットアームの前記回転方向ずれとを補正する、項目2~4のいずれか1項に記載のロボット。
【0082】
(項目10)
前記ロボットアームの先端に配置される基板保持ハンドをさらに備える、項目1~9のいずれか1項に記載のロボット。
【0083】
(項目11)
クリーンルームに配置されている、項目1~10のいずれか1項に記載のロボット。
【0084】
(項目12)
真空環境下に配置されている、項目1~11のいずれか1項に記載のロボット。
【0085】
(項目13)
回転の径方向から見て、回転の回転軸方向に対して傾いた方向に沿って延びる歯部を有する傾斜ギアを含む駆動機構により駆動されるロボットアームの温度を表す測定値を取得することと、
取得された前記測定値に基づいて、前記ロボットアームと前記駆動機構との少なくとも一方における熱膨張による、前記傾斜ギアの回転軸方向における軸方向ずれに起因する影響を補正することと、を備える、ロボットの制御方法。
【符号の説明】
【0086】
10 ロボットアーム
20 基板保持ハンド
30 制御部
40 駆動機構
41 モータ
42 エンコーダ
44c ギア(傾斜ギア、第1傾斜ギア)
44d ギア(傾斜ギア、第2傾斜ギア)
45 回転軸部(回転軸部、第1回転軸部)
46 回転軸部(回転軸部、第2回転軸部)
50 温度センサ
51 外気温センサ
52 エンコーダ温度センサ
100 ロボット
200 クリーンルーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8