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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140896
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】バッテリモジュール
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/262 20210101AFI20241003BHJP
   H01M 50/293 20210101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M50/262 E
H01M50/293
H01M50/262 P
H01M50/262 Z
H01M50/262 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052261
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】樋口 将成
(72)【発明者】
【氏名】臼井 英正
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 洋介
【テーマコード(参考)】
5H040
【Fターム(参考)】
5H040AA14
5H040AY04
5H040AY05
5H040CC30
5H040LL01
5H040LL06
(57)【要約】
【課題】バッテリセルが部分的に膨張あるいは収縮した場合でもバッテリセルに対して均一でかつ一定の圧力を付与することができるバッテリモジュールを提供すること。
【解決手段】複数個のバッテリセルを積層したセル積層体と、セル積層体の積層方向の両端に配置された一対のエンドプレートとを含むバッテリモジュールであって、バッテリセルとバッテリセルとの間及びバッテリセルとエンドプレートとの間の少なくとも一方に緩衝材が配置されていて、緩衝材は、バッテリセルに接触する接触面を有する第1領域と、第1領域と流体流路を介して接続する第2領域とを有し、第1領域は流体が充填されていて、第2領域は、流体流路に接続し、流体が充填されている流体充填部と、流体充填部の少なくとも一部に接触し、流体充填部に充填されている流体の圧力に応じて流体充填部の体積を調整する体積調整部とを備える、バッテリモジュール。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のバッテリセルを積層したセル積層体と、前記セル積層体の積層方向の両端に配置された一対のエンドプレートとを含むバッテリモジュールであって、
前記バッテリセルと前記バッテリセルとの間及び前記バッテリセルと前記エンドプレートとの間の少なくとも一方に緩衝材が配置されていて、
前記緩衝材は、前記バッテリセルに接触する接触面を有する第1領域と、前記第1領域と流体流路を介して接続する第2領域とを有し、
前記第1領域は流体が充填されていて、前記第2領域は、前記流体流路に接続し、前記流体が充填されている流体充填部と、前記流体充填部の少なくとも一部に接触し、前記流体充填部に充填されている前記流体の圧力に応じて前記流体充填部の体積を調整する体積調整部とを備える、バッテリモジュール。
【請求項2】
前記第1領域と前記第2領域とが互いに隣接する位置に配置されている、請求項1に記載のバッテリモジュール。
【請求項3】
前記第1領域の前記接触面が加圧によって変形可能な材料からなる、請求項1又は2に記載のバッテリモジュール。
【請求項4】
前記流体が鉱物油または不活性ガスである、請求項1又は2に記載のバッテリモジュール。
【請求項5】
前記流体が不活性ガスであって、前記第2領域はチャンバータンクである、請求項4に記載のバッテリモジュール。
【請求項6】
前記流体が鉱物油であって、前記第2領域はアキュムレータである、請求項4に記載のバッテリモジュール。
【請求項7】
前記アキュムレータが金属板ばねを用いた金属板ばね式アキュムレータである、請求項6に記載のバッテリモジュール。
【請求項8】
複数個のバッテリセルを積層したセル積層体と、前記セル積層体の積層方向の両端に配置された一対のエンドプレートとを含むバッテリモジュールであって、
前記バッテリセルと前記バッテリセルとの間及び前記バッテリセルと前記エンドプレートとの間の少なくとも一方に緩衝材が配置されていて、
前記緩衝材は、前記バッテリセルに接触する接触面を有する第1領域と、前記第1領域に接続する流体貯留部と、前記流体貯留部にパイプラインを介して接続する第2領域とを有し、
前記第1領域及び前記流体貯留部は流体が充填されていて、前記第2領域は、前記パイプラインに接続し、前記流体が充填されている流体充填部と、前記流体充填部の少なくとも一部に接触し、前記流体充填部に充填されている前記流体の圧力に応じて前記流体充填部の体積を調整する体積調整部とを備える、バッテリモジュール。
【請求項9】
前記第2領域は、前記エンドプレートの一方の前記セル積層体側とは反対側の面に配置されている、請求項8に記載のバッテリモジュール。
【請求項10】
前記流体が鉱物油であって、前記第2領域はアキュムレータである、請求項8又は9に記載のバッテリモジュール。
【請求項11】
前記第2領域は、定荷重ぜんまいばねを用いた定荷重ぜんまいばね式アキュムレータである、請求項10に記載のバッテリモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献するバッテリモジュールに関する研究開発が行われている。バッテリモジュールは、複数個のバッテリセルを組み合わせてモジュール化したものであり、一般に、複数個のバッテリセルを積層したセル積層体と、セル積層体の積層方向の両端に配置された一対のエンドプレートとを含む。バッテリモジュールは、電気自動車やハイブリッド電気自動車のモータ駆動用等、大電流、高電圧を要する用途に用いられる。
【0003】
バッテリモジュールでは、バッテリセルとバッテリセルとの間やセル積層体とエンドプレートとの間に緩衝材を配置して、バッテリセルの積層方向に圧力(拘束力)を付与することが検討されている。緩衝材としては、変形可能なチャンバと、そのチャンバを変形させる流体を供給するシステムを有する緩衝材(特許文献1)、板ばねや液体ばねなどのばね弾性体(特許文献2、特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-64848号公報
【特許文献2】特開2021-96974号公報
【特許文献3】欧州特許出願公開第3886202号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、バッテリモジュールに関する技術においては、バッテリセルに対して均一でかつ一定の圧力(拘束力)を効率よく付与することが課題である。特に、電解質として固体電解質を用いた固体電池では、固体電解質と電極との界面での接触抵抗を低く抑えるために、バッテリセルの拘束力を高圧としながらも均一でかつ一定とすることが課題である。一方、バッテリセルの電気容量の向上のため、負極活物質としてリチウム金属やシリコン(Si)などリチウムと合金を形成する金属を用いたバッテリセルが検討されている。しかしながら、負極活物質としてリチウム金属などの金属を用いたバッテリセルは充電時に大きく膨張し、放電時に大きく収縮する。従来のバッテリモジュールでは、バッテリセルの体積変化に対する緩衝材の追従性が低く、バッテリセルの体積変化に応じて、バッテリセルに付与する拘束力を調整することが困難となる場合があった。
【0006】
本願は上記課題の解決のため、バッテリセルの体積変化に応じて、バッテリセルに対して均一でかつ一定の圧力を効率よく付与することができるバッテリモジュールを提供することを目的としたものである。そして、延いてはエネルギーの効率化に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、バッテリセルに接触する接触面を有する緩衝材に流体を充填し、バッテリセルの体積変化に応じて、緩衝材の流体の充填量を調整することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
したがって、本発明は、次の(1)~(9)の構成のバッテリモジュールを提供する。
【0008】
(1)複数個のバッテリセルを積層したセル積層体と、前記セル積層体の積層方向の両端に配置された一対のエンドプレートとを含むバッテリモジュールであって、前記バッテリセルと前記バッテリセルとの間及び前記バッテリセルと前記エンドプレートとの間の少なくとも一方に緩衝材が配置されていて、前記緩衝材は、前記バッテリセルに接触する接触面を有する第1領域と、前記第1領域と流体流路を介して接続する第2領域とを有し、前記第1領域は流体が充填されていて、前記第2領域は、前記流体流路に接続し、前記流体が充填されている流体充填部と、前記流体充填部の少なくとも一部に接触し、前記流体充填部に充填されている前記流体の圧力に応じて前記流体充填部の体積を調整する体積調整部とを備える、バッテリモジュール。
【0009】
(1)のバッテリモジュールでは、バッテリセルが膨張すると、バッテリセルと接触する第1領域の接触面がセル積層体の積層方向に加圧されて、第1領域及び第2領域の流体充填部に充填されている流体の圧力が上昇する。この流体の圧力の上昇に応じて、第2領域の体積調整部にて、流体充填部の体積を増加させることによって、バッテリセルが膨張した場合でも、バッテリセルに対して均一でかつ一定の圧力を効率よく付与することができる。また、バッテリセルが膨張後に収縮して、第1領域及び第2領域の流体充填部に充填されている流体の圧力が下降した場合には、第2領域の体積調整部にて、流体充填部の体積を減少させることによって、流体の圧力を一定に維持することができる。よって、(1)のバッテリモジュールによれば、バッテリセルが膨張した後に収縮した場合でも、バッテリセルに対して均一でかつ一定の圧力を効率よく付与することができる。
【0010】
(2)前記第1領域と前記第2領域とが互いに隣接する位置に配置されている、(1)に記載のバッテリモジュール。
【0011】
(2)のバッテリモジュールでは、緩衝材の第1領域と第2領域とが隣接しているので、緩衝材の小型化が容易となる。
【0012】
(3)前記第1領域の前記接触面が加圧によって変形可能な材料からなる、(1)又は(2)に記載のバッテリモジュール。
【0013】
(3)のバッテリモジュールでは、第1領域の接触面が加圧によって変形可能な材料からなるので、バッテリセルの膨張あるいは収縮に対する接触面の形状変化の追随性が高くなる。よって、バッテリセルが膨張もしく収縮した場合でも、バッテリセルに対してより均一に圧力を付与することができる。
【0014】
(4)前記流体が鉱物油または不活性ガスである、(1)から(3)のいずれか一つに記載のバッテリモジュール。
【0015】
(4)のバッテリモジュールでは、流体が鉱物油または不活性ガスであり、温度による流動性の変動が小さいので、広い温度範囲において、バッテリセルに対して均一でかつ一定の圧力を付与することができる。
【0016】
(5)前記流体が不活性ガスであって、前記第2領域はチャンバータンクである、(4)に記載のバッテリモジュール。
【0017】
(5)のバッテリモジュールでは、第2領域はチャンバータンクであり、接触面を介して流体に付与される圧力を効率よく吸収することができるので、バッテリセルに対してより一定の圧力を付与することができる。
【0018】
(6)前記流体が鉱物油であって、前記第2領域はアキュムレータである、(4)に記載のバッテリモジュール。
【0019】
(6)のバッテリモジュールでは、第2領域はアキュムレータであるので、流体の圧力の調整をより高い精度で行うことができる。
【0020】
(7)前記アキュムレータが金属板ばねを用いた金属板ばね式アキュムレータである、(6)に記載のバッテリモジュール。
【0021】
(7)のバッテリモジュールでは、第2領域(アキュムレータ)が金属板ばね式アキュムレータであるので、流体の圧力の調整をさらに高い精度で行うことができる。
【0022】
(8)複数個のバッテリセルを積層したセル積層体と、前記セル積層体の積層方向の両端に配置された一対のエンドプレートとを含むバッテリモジュールであって、前記バッテリセルと前記バッテリセルとの間及び前記バッテリセルと前記エンドプレートとの間の少なくとも一方に緩衝材が配置されていて、前記緩衝材は、前記バッテリセルに接触する接触面を有する第1領域と、前記第1領域に接続する流体貯留部と、前記流体貯留部にパイプラインを介して接続する第2領域とを有し、前記第1領域及び前記流体貯留部は流体が充填されていて、前記第2領域は、前記パイプラインに接続し、前記流体が充填されている流体充填部と、前記流体充填部の少なくとも一部に接触し、前記流体充填部に充填されている前記流体の圧力に応じて前記流体充填部の体積を調整する体積調整部とを備える、バッテリモジュール。
【0023】
(8)のバッテリモジュールでは、バッテリセルが膨張すると、バッテリセルと接触する第1領域の接触面がセル積層体の積層方向に加圧されて、第1領域及び流体貯留部に充填されている流体の圧力が上昇する。この流体の圧力の上昇に応じて、第2領域の体積調整部にて、流体充填部の体積を増加させることによって、バッテリセルが膨張した場合でも、バッテリセルに対して均一でかつ一定の圧力を効率よく付与することができる。また、バッテリセルが膨張後に収縮して、第1領域及び流体貯留部に充填されている流体の圧力が下降した場合には、第2領域の体積調整部にて、流体充填部の体積を減少させることによって、流体の圧力を一定に維持することができる。よって、(8)のバッテリモジュールによれば、バッテリセルが膨張した後に収縮した場合でも、バッテリセルに対して均一でかつ一定の圧力を効率よく付与することができる。
【0024】
(9)前記第2領域は、前記エンドプレートの一方の前記セル積層体側とは反対側の面に配置されている、(8)に記載のバッテリモジュール。
【0025】
(9)のバッテリモジュールでは、第2領域がエンドプレートの一方のセル積層体側とは反対側の面に配置されているので、バッテリモジュールの構造をコンパクトとすることができる。
【0026】
(10)前記流体が鉱物油であって、前記第2領域はアキュムレータである、(8)又は(9)に記載のバッテリモジュール。
【0027】
(10)のバッテリモジュールでは、第2領域はアキュムレータであるので、流体の圧力の調整をより高い精度で行うことができる。
【0028】
(11)前記第2領域は、定荷重ぜんまいばねを用いた定荷重ぜんまいばね式アキュムレータである、(10)に記載のバッテリモジュール。
【0029】
(11)のバッテリモジュールでは、第2領域(アキュムレータ)が定荷重ぜんまいばね式アキュムレータであるので、流体の圧力の調整をさらに高い精度で行うことができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、バッテリセルが部分的に膨張あるいは収縮した場合でもバッテリセルに対して均一でかつ一定の圧力を付与することができるバッテリモジュールを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の第1実施形態に係るバッテリモジュールの断面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るバッテリモジュールで用いることができるバッテリセルの断面図である。
図3】本発明の第1実施形態に係るバッテリモジュールで用いられる緩衝材の平面図である。
図4図3のIV-IV線断面図である。
図5図3のV-V線断面図である。
図6図4のVI-VI線断面図である。
図7A】本発明の第1実施形態に係るバッテリモジュールで用いられる緩衝材の接触面に圧力が付与される状態を示す断面図である。
図7B】本発明の第1実施形態に係るバッテリモジュールで用いられる緩衝材の接触面に圧力が付与された後の状態を示す断面図である。
図8】本発明の第2実施形態に係るバッテリモジュールの断面図である。
図9】本発明の第2実施形態に係るバッテリモジュールで用いられる緩衝材の第1領域の断面図である。
図10】本発明の第2実施形態に係るバッテリモジュールで用いられる緩衝材の第2領域の平面図である。
図11図10のXI-XI線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。たたし、以下に示す
実施形態は、本発明を例示するものであって、本発明は以下に限定されるものではない。
【0033】
<第1実施形態>
本実施形態に係るバッテリモジュール1は、図1に示すように、セル積層体10を含む。セル積層体10の積層方向の両端には、一対のエンドプレート40が配置されている。セル積層体10は、複数個のバッテリセル20と、バッテリセル20とバッテリセル20との間及びバッテリセル20とエンドプレート40との間に配置された緩衝材30とを、図1に矢印で図示する積層方向に積層した積層体である。セル積層体10及びエンドプレート40は、ケース50に収容されている。ケース50は、負極タブ51と正極タブ52とを備える。負極タブ51は、バッテリセル20の負極端子21aにリード線51aを介して接続している。正極タブ52は、バッテリセル20の正極端子24aにリード線52aを介して接続している。
【0034】
(バッテリセル)
バッテリセル20は、図2に示すように、負極層21と正極層24とを固体電解質層27を介して積層した電極積層体を外装体28に収容した固体電池とされている。バッテリセル20の電極層(負極層21、正極層24)の積層方向は、セル積層体10の積層方向と同じである。このため、バッテリセル20の充放電によって負極層21もしくは正極層24が膨張もしくは収縮すると、バッテリセル20がセル積層体10の積層方向に膨張あるいは収縮する。なお、図2に示すバッテリセル20では、外装体28に収容されている電極積層体は1つであるが、外装体28に複数個の電極積層体を収容してもよい。
【0035】
負極層21は、負極集電体22と負極活物質層23とを含む。負極活物質層23は固体電解質層27側に配置されている。負極集電体22は負極端子21aに接続されている。
【0036】
負極集電体22は、負極層21の集電を行う機能を有するものであれば、特に限定されず、負極集電体22の材料としては、例えばニッケル、銅、及びステンレス等を挙げることができる。また、負極集電体の形状としては、例えば箔状、板状等を挙げることができる。
【0037】
負極活物質層23は、負極活物質を必須として含む層である。負極活物質としては、電荷移動媒体を吸蔵・放出可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、リチウムイオン電池であれば、チタン酸リチウム(LiTi12)等のリチウム遷移金属酸化物、TiO、Nb及びWO等の遷移金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、並びにグラファイト、ソフトカーボン及びハードカーボン等の炭素材料、並びに金属リチウム、又は、リチウムと合金を形成する金属を用いることができる。リチウムと合金を形成する金属の例としては、Mg、Si、Ag、In、Ge、Sn、Pb、Al及びZn等が挙げられる。また、前記負極活物質は、粉末状であってもよいし、薄膜状であってもよい。負極活物質層23は、負極活物質以外に導電性を向上させるための導電助剤、及びバインダーを含んでいてもよい。導電助剤及びバインダーについては、一般に固体電池に使用される材料を用いることができる。なお、負極活物質層23が金属リチウムの場合、バッテリセル20の初期状態やバッテリセル20を完全に放電した状態では、負極活物質層23は有していなくてもよい。
【0038】
正極層24は、正極集電体25と正極活物質層26とを含む。正極活物質層26は固体電解質層27側に配置されている。正極集電体25は正極端子24aに接続されている。
【0039】
正極集電体25は、正極層24の集電を行う機能を有するものであれば、特に限定されず、正極集電体25の材料としては、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス、ニッケル、鉄及びチタン等を挙げることができ、中でもアルミニウム、アルミニウム合金及びステンレスが好ましい。また、正極集電体25の形状としては、例えば箔状、板状等を挙げることができる。
【0040】
正極活物質層26は、少なくとも正極活物質を含有する層である。正極活物質層26に含有される正極活物質としては、一般的な固体電池の正極層に用いられるものと同様とすることができ、特に限定されない。例えば、リチウムイオン電池であれば、リチウムを含有する層状活物質、スピネル型活物質、オリビン型活物質等を挙げることができる。正極活物質の具体例としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、LiNiMnCo(p+q+r=1)、LiNiAlCo(p+q+r=1)、マンガン酸リチウム(LiMn)、Li1+xMn2-x-y(x+y=2、M=Al、Mg、Co、Fe、Ni、及びZnから選ばれる少なくとも1種)で表される異種元素置換Li-Mnスピネル、チタン酸リチウム(Li及びTiを含む酸化物)、リン酸金属リチウム(LiMPO、M=Fe、Mn、Co、及びNiから選ばれる少なくとも1種)等が挙げられる。
正極活物質層26は、電荷移動媒体伝導性を向上させる観点から、任意に固体電解質を含んでいてもよい。また、バインダー、導電助剤等を含んでいてもよい。これらの物質としては、一般に固体電池に使用されるものを用いることができる。
【0041】
固体電解質層27は、少なくとも固体電解質材料を含有する層である。固体電解質層27に含まれる固体電解質材料を介して、正極活物質及び負極活物質の間の電荷移動媒体伝導を行うことができる。固体電解質材料としては、電荷移動媒体伝導性、即ちイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば硫化物固体電解質材料、酸化物固体電解質材料、窒化物固体電解質材料、ハロゲン化物固体電解質材料等を挙げることができる。硫化物固体電解質材料としては、例えばリチウムイオン電池であれば、LiS-P、LiS-P-LiI等が挙げられる。なお、上記「LiS-P」の記載は、LiS及びPを含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質材料を意味する。酸化物固体電解質材料としては、例えばリチウムイオン電池であれば、NASICON型酸化物、ガーネット型酸化物、ペロブスカイト型酸化物等を挙げることができる。NASICON型酸化物としては、例えば、Li、Al、Ti、P及びOを含有する酸化物(例えばLi1.5Al0.5Ti1.5(PO)を挙げることができる。ガーネット型酸化物としては、例えば、Li、La、Zr及びOを含有する酸化物(例えばLiLaZr12)を挙げることができる。ペロブスカイト型酸化物としては、例えば、Li、La、Ti及びOを含有する酸化物(例えばLiLaTiO)を挙げることができる。
【0042】
外装体28は、電極積層体を収容可能なものであれば特に限定されず、外装体28の材料としては、例えばラミネートフィルムを用いることができる。ラミネートフィルムは、例えば、アルミニウム、ステンレス(SUS)等からなる金属層に対し、表面にポリオレフィン等の熱融着性樹脂層が積層された多層構造を有する。ラミネートフィルムは、上記以外に、ナイロン等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等からなる層、任意のラミネート接着剤等からなる接着層等を有していてもよい。
【0043】
(緩衝材)
緩衝材30は、バッテリセル20に付与される面圧を均一にする作用を有する。バッテリセル20に付与される面圧は、例えば1~5MPaであってよく、1~2MPaであってもよい。
緩衝材30は、図3~5に示すように、第1領域31と第2領域32とを有する。第1領域31と第2領域32とは互いに隣接する位置に配置されていて、一体となっている。
【0044】
第1領域31は、面圧を均一にする圧力均一部として機能する。
第1領域31は、略直方体の中空体であって、内部に流体33が充填されている第1流体充填部311を有する。第1流体充填部311は、例えば、加圧によって変形可能な材料から形成されている。加圧によって変形可能な材料としては、例えば、ゴム膜を用いることができる。第1流体充填部311の上面及び下面は、バッテリセル20に接触する接触面311sとされている。接触面311sは、バッテリセル20もしくはエンドプレート40と接触する面である。第1流体充填部311の側面は、第1外枠312が設けられている。第1外枠312は、第1流体充填部311が圧力によって過剰に押し潰さないように第1流体充填部311を保護する保護材として作用する。
【0045】
第1流体充填部311及び第1外枠312には、第2領域32に接続する側の端部に第1領域開口部313が設けられている。また、第1流体充填部311の内部には、第1領域開口部313側とは反対側の端部から第1領域開口部313の近傍にまで伸びたベースプレート314が配置されている。ベースプレート314は、接触面311sに圧力が付与されたときに、第1流体充填部311と第2流体充填部321との間を流体33が流れるときに、流体33の流れを制御する機能を有する。
【0046】
第2領域32は、第1流体充填部311に充填されている流体33の圧力を調整する圧力調整部として機能する。本実施形態では、第2領域32として、金属板ばね式アキュムレータが用いられている。
第2領域32は、第2流体充填部321と、体積調整部323とを備える。第2流体充填部321及び体積調整部323はケース326に収容されている。
第2流体充填部321は、流体33が充填されている。第2流体充填部321は第1領域開口部313に接続する第2領域開口部322を有する。第1領域開口部313と第2領域開口部322とで、第1流体充填部311と第2流体充填部321とをつなぐ流体流路が形成される。第2流体充填部321は、伸縮性を有していてもよい。
【0047】
体積調整部323は、第2領域開口部322側とは反対側に配置されている。
体積調整部323は、支持板324と、支持板324の上下の表面に接続された金属板ばね325とを有する。支持板324は、図6に示すように、ケース326によって固定されている。支持板324は、ケース326に接合されていてもよいし、ケース326と一体となっていてもよい。金属板ばね325としては、金属板ばね式アキュムレータの金属板ばねとして利用されている各種の金属板ばねを用いることができる。
【0048】
金属板ばね325と第2流体充填部321とは互いに接触している。第2流体充填部321に充填されている流体33の圧力が上昇すると、金属板ばね325が支持板324側に近づく方向に曲がることによって、第2流体充填部321の体積が増加する。また、第2流体充填部321に充填されている流体33の圧力が下降すると、金属板ばね325が支持板324側から離れる方向に曲がることによって、第2流体充填部321の体積が減少する。
【0049】
流体33としては、液体及び気体を用いることができる。液体としては、鉱物油を用いることができる。気体としては、例えば不活性ガスを用いることができる。本実施形態では、鉱物油が用いられている。
【0050】
(エンドプレート)
エンドプレート40は、セル積層体10を積層方向に拘束する作用を有する。エンドプレート40の拘束力によって、緩衝材30によってセル積層体10に付与される面圧を調整することができる。エンドプレート40の材料は、特に制限はなく、バッテリモジュール用のエンドプレートで利用されている各種の材料を用いることができる。
【0051】
(ケース)
ケース50は、セル積層体10及びエンドプレート40を収容する。ケース50の材料は、特に制限はなく、バッテリモジュール用のケースで利用されている各種の材料を用いることができる。
【0052】
(緩衝材の動作)
次に、バッテリモジュール1のバッテリセル20が膨張したときの緩衝材30の動作を、図7A及び図7Bを用いて説明する。
図7Aに示すように、バッテリセル20が膨張すると、バッテリセル20と接触する第1流体充填部311の接触面311sはセル積層体の積層方向(図7A中の白抜き矢印で示す方向)に加圧されて流体33の圧力が上昇する。第2流体充填部321に充填されている流体33の圧力が上昇することによって、金属板ばね325が支持板324側に近づく方向に曲がって、第2流体充填部321の体積が増加する。第2流体充填部321の体積の増加により、流体33は、流体流路(第1流体充填部311、第2流体充填部321)を通って第1流体充填部311から第2流体充填部321に向かう方向(図7A中の黒色矢印で示す方向)に流れる。
【0053】
流体33が第1流体充填部311から第2流体充填部321に流れることによって、第1流体充填部311の流体33の体積が減少する。これにより、図7Bに示すように、第1流体充填部311aの接触面311sは、膨張したバッテリセル20aの表面に対して高い密着性を維持するように変形する。
【0054】
以上のような構成とされた本実施形態のバッテリモジュール1では、バッテリセル20が膨張すると、バッテリセル20と接触する第1領域31の第1流体充填部311の接触面311sがセル積層体10の積層方向に加圧されて、第1流体充填部311及び第2流体充填部321に充填されている流体33の圧力が上昇する。この流体33の圧力の上昇に応じて、第2領域32の体積調整部323にて、第2流体充填部321の体積を増加させることによって、バッテリセル20が膨張した場合でも、バッテリセル20に対して均一でかつ一定の圧力を効率よく付与することができる。また、バッテリセル20が膨張後に収縮して、第1流体充填部311及び第2流体充填部321に充填された流体33の圧力が下降した場合には、第2領域32の体積調整部にて、第2流体充填部321の体積を減少させることによって、流体33の圧力を一定に維持することができる。よって、本実施形態のバッテリモジュール1によれば、バッテリセル20が膨張した後に収縮した場合でも、バッテリセル20に対して均一でかつ一定の圧力を効率よく付与することができる。
【0055】
本実施形態のバッテリモジュール1では、緩衝材30の第1領域31と第2領域32とが互いに隣接する位置に配置されているので、緩衝材30の小型化が容易となる。また、本実施形態のバッテリモジュール1では、緩衝材30の流体33が鉱物油であり、温度による流動性の変動が小さいので、広い温度範囲において、バッテリセル20に対して均一でかつ一定の圧力を付与することができる。さらに、本実施形態のバッテリモジュール1では、第2領域32が金属板ばね式アキュムレータであるので、流体33の圧力の調整を高い精度で行うことができる。
【0056】
<第2実施形態>
(バッテリモジュール)
本実施形態に係るバッテリモジュール2は、図8に示すように、セル積層体110のバッテリセル20とバッテリセル20との間及びバッテリセル20とエンドプレート40との間に緩衝材130が配置されている。本実施形態のバッテリモジュール2は、緩衝材130の構成が相違すること以外は、第1実施形態のバッテリモジュール1と同様の構成である。このため、第2実施形態の説明では、第1実施形態と共通する構成については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0057】
(緩衝材)
緩衝材130は、第1領域31と、第1領域31に接続する流体貯留部35と、流体貯留部35に接続するパイプライン36と、パイプライン36に接続する第2領域37とを含む。第2領域37は、セル積層体110の積層方向の下方側のエンドプレート40の下面に配置されている。
第1領域31の構成は、第1実施形態のバッテリモジュール1の緩衝材30のものと同じである。
【0058】
流体貯留部35は、バッテリセル20の膨張時には、第1領域31から流入した流体33をパイプライン36に送り、バッテリセル20の収縮時には、パイプライン36から流入した流体33を第1領域31に送るための流体貯留槽として作用する。流体貯留部35は、図9に示すように、流体貯留容器351と整流板352とを有する。整流板352は、第1領域31から流入した流体33をパイプライン36に送りやすくし、パイプライン36から流入した流体33が第1領域31に流れやすくする作用を有する。流体33は、例えば液体(鉱物油)とされている。
【0059】
パイプライン36は、流体33を流体貯留部35から第2領域37、あるいは第2領域37から流体貯留部35に送るための配管である。
【0060】
第2領域37は、図10及び図11に示すように、パイプライン36に接続し、流体33が充填される流体充填部371と、流体33の上面に配置されたフローティングプレート372と、フローティングプレート372に接続する定荷重ぜんまいばね373とを有する。すなわち、第2領域37は、フローティングプレート372と定荷重ぜんまいばね373とを体積調整部として有する定荷重ぜんまいばね式アキュムレータとされている。定荷重ぜんまいばね式アキュムレータでは、バッテリセル20の膨張時は、流体33(液体)によって、フローティングプレートは上方に押されることによって、流体充填部371の体積が増加される。また、バッテリセル20の収縮時は、定荷重ぜんまいばね373によって、フローティングプレートが下方に引き戻されることによって、流体充填部371の体積が減少される。第2領域37としては、コイルスプリング式アキュムレータやリーフスプリング式アキュムレータなどの変位依存性を有するアキュムレータを用いてもよい。定荷重ぜんまいばね式アキュムレータは、変位依存性を有するアキュムレータと比較して、バッテリセル20の膨張量を問わずに、バッテリセル20に対して一定の圧力を付与しやすい点で好ましい。
【0061】
本実施形態のバッテリモジュール2では、バッテリセル20が膨張したときは、第2領域37の流体充填部371の体積を増加させることができ、バッテリセル20が収縮したときは、第2領域37の流体充填部371の体積を減少させることができる。よって、本実施形態のバッテリモジュール2によれば、バッテリセル20が膨張した後に収縮した場合でも、バッテリセル20に対して均一でかつ一定の圧力を効率よく付与することができる。また、本実施形態のバッテリモジュール2では、第2領域37は、セル積層体110の積層方向の下方側のエンドプレート40の下面に配置されているので、バッテリモジュール2の構造をコンパクトとすることができる。
【0062】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0063】
上記実施形態において、バッテリセル20は固体電池として説明したが、バッテリセル20はこれに限定されるものではない。バッテリセル20は、例えば電解質として有機電解液を用いる液系電池であってもよいし、高分子ゲル(ポリマー)を用いるポリマー電池であってもよい。
【0064】
上記実施形態において、緩衝材30、130は、バッテリセル20とバッテリセル20との間及びバッテリセル20とエンドプレート40との間の両方に配置されているが、緩衝材30、130の位置はこれに限定されるものではない。緩衝材30、130は、バッテリセル20とバッテリセル20との間及びバッテリセル20とエンドプレート40との間の少なくとも一方に配置されていればよい。
【符号の説明】
【0065】
1、2 バッテリモジュール
10 セル積層体
20、20a バッテリセル
21 負極層
21a 負極端子
22 負極集電体
23 負極活物質層
24 正極層
24a 正極端子
25 正極集電体
26 正極活物質層
27 固体電解質層
28 外装体
30、130 緩衝材
31 第1領域
32 第2領域
33 流体
35 流体貯留部
36 パイプライン
37 第2領域
40 エンドプレート
50 ケース
51 負極タブ
51a リード線
52 正極タブ
52a リード線
110 セル積層体
311、311a 第1流体充填部
311s 接触面
312 第1外枠
313 第1領域開口部
314 ベースプレート
321 第2流体充填部
322 第2領域開口部
323 体積調整部
324 支持板
326 ケース
351 流体貯留容器
352 整流板
371 流体充填部
372 フローティングプレート
373 定荷重ぜんまいばね
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11