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特開2024-140905ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法、プラスチゾル組成物、塩化ビニル系シート及び塩化ビニル系発泡体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140905
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法、プラスチゾル組成物、塩化ビニル系シート及び塩化ビニル系発泡体
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20241003BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L27/06
C08L71/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052270
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】笹野 竜也
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BD041
4J002BD051
4J002CH052
4J002DE266
4J002FD016
4J002FD020
4J002FD030
4J002FD050
4J002FD070
4J002FD090
4J002FD100
4J002FD170
4J002FD206
4J002FD320
4J002GC00
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】プラスチゾルを作製したときに、得られるプラスチゾルのさらなる低粘度化を実現できるポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を提供する。
【解決手段】塩化ビニル単量体の単独重合、又は、塩化ビニル単量体と他のエチレン系不飽和単量体との共重合において、重合転化率が80%以下の期間に、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを、単量体100重量部に対し0.05重量部~1.5重量部添加して重合を継続する製造方法により、前記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル単量体の単独重合、又は、塩化ビニル単量体と他のエチレン系不飽和単量体との共重合を行う重合工程を含み、
前記重合工程において、重合転化率が80%以下の期間に、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを、単量体100重量部に対し0.05重量部~1.5重量部添加して重合を継続する工程を有する、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルの添加量は、単量体100重量部に対して、0.1重量部~0.3重量部である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法により製造したポリ塩化ビニル系ペースト樹脂、可塑剤、及び充填剤を含む、プラスチゾル組成物。
【請求項4】
前記充填剤として、炭酸カルシウムを含み、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂100重量部に対して、前記炭酸カルシウムを100重量部以上含む、請求項3に記載のプラスチゾル組成物。
【請求項5】
さらに、化学発泡剤を含む、請求項3に記載のプラスチゾル組成物。
【請求項6】
請求項3に記載のプラスチゾル組成物を用いてなる、塩化ビニル系シート。
【請求項7】
請求項5に記載のプラスチゾル組成物を用いてなる、塩化ビニル系発泡体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法、プラスチゾル組成物、塩化ビニル系シート及び塩化ビニル系発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂は、可塑剤、安定剤、充填剤、発泡剤、顔料等の配合剤を必要に応じて適当量配合し、混合及び混練して、プラスチゾルと称する流動体の状態にした後、成形品に加工される。しかしながら、これらの配合剤を含むプラスチゾルは一般的に粘度が高く、ミキサー等でプラスチゾルを作製した後、ミキサーからの取り出し及び移送が困難となる等、取り扱いが困難となる傾向にある。
【0003】
このため、プラスチゾルの粘度を低下させる目的で、重合後に得られるポリ塩化ビニル系水性分散液に、高級アルコール硫酸エステルのアルカリ金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩等のアニオン性乳化剤、又は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタンエステル、グリセリンアルキルエステル等のノニオン性乳化剤の1種又は複数を加えて乾燥してポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を得る方法が一般的に知られている。また、プラスチゾルの粘度を低下させる技術として、アニオン性乳化剤を重合系内に存在せしめた後、重合開始から重合収率80%以前の期間にポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを重合系に添加するポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭55-60504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような従来技術は、プラスチゾルの低粘度化技術として優れたものであるが、プラスチゾルのさらなる低粘度化という観点で改善の余地があった。
【0006】
本発明の一態様は、プラスチゾルを作製したときに、得られるプラスチゾルのさらなる低粘度化を実現できるポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、重合転化率が80%以前の期間にポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを所定量、重合系に添加して重合を継続したところ、驚くべきことに、得られたポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を含むプラスチゾルの粘度をさらに低下できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
【0009】
〔1〕塩化ビニル単量体の単独重合、又は、塩化ビニル単量体と他のエチレン系不飽和単量体との共重合を行う重合工程を含み、前記重合工程において、重合転化率が80%以下の期間に、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを、単量体100重量部に対し0.05重量部~1.5重量部添加して重合を継続する工程を有する、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法。
【0010】
〔2〕前記ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルの添加量は、単量体100重量部に対して、0.1重量部~0.3重量部である、〔1〕に記載の製造方法。
【0011】
〔3〕〔1〕又は〔2〕に記載の製造方法により製造したポリ塩化ビニル系ペースト樹脂、可塑剤、及び充填剤を含む、プラスチゾル組成物。
【0012】
〔4〕前記充填剤として、炭酸カルシウムを含み、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂100重量部に対して、前記炭酸カルシウムを100重量部以上含む、〔3〕に記載のプラスチゾル組成物。
【0013】
〔5〕さらに、化学発泡剤を含む、〔3〕又は〔4〕に記載のプラスチゾル組成物。
【0014】
〔6〕〔3〕又は〔4〕に記載のプラスチゾル組成物を用いてなる、塩化ビニル系シート。
【0015】
〔7〕〔5〕に記載のプラスチゾル組成物を用いてなる、塩化ビニル系発泡体。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、プラスチゾルを作製したときに、得られるプラスチゾルのさらなる低粘度化を実現できるポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0018】
また、本明細書において特記しない限り、共重合体の重合様式は特に限定されず、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、グラフト共重合体であってもよい。
【0019】
〔1.本発明の一実施形態の技術的思想〕
本発明者は、前記課題を解決するために検討を行う中で、重合転化率が80%以前の期間にポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを所定量、重合系に添加して重合を継続したところ、得られたポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を含むプラスチゾルの粘度を、特許文献1に開示のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを添加する場合と比較して、さらに、顕著に低下できることを見出した。
【0020】
ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルは、親油基と親水基とを有するため、重合により得られるポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の粒子同士の表面相互作用、及び、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の粒子と他の成分との表面相互作用を切断し、これによりプラスチゾルの粘度が低下すると考えられる。かかる効果は、特許文献1に開示されているプラスチゾルの低粘度化技術にて添加されるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルにおいても、得られる効果であると考えられる。
【0021】
ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを添加することにより、従来技術である、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを添加する場合と比較して、さらに、プラスチゾルの粘度が顕著に低下する理由は、明らかではないが、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルがフェニル基を複数有することが影響していると考えられる。プラスチゾルの粘度が上昇する一因として、重合転化率80%以前で起こる副反応により、低分子量ポリマーが生じることが考えられる。即ち、重合転化率が70%~80%まで重合が進むと、重合系内に存在する塩化ビニル単量体が少ない状態になって来る。その状態で重合開始剤からラジカルが発生し続けると、塩化ビニル単量体に対するラジカルの量が過剰となり、低分子量のポリマーが発生してしまう。ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルは、フェニル基を複数有することにより、発生するラジカルの反応を効果的に抑制し、低分子量ポリマーの発生を低減していると考えられ、これによる低分子量ポリマーの低減が粘度抑制につながっていると推察される。
【0022】
〔2.ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法〕
(2-1.塩化ビニル単量体の単独重合、又は、塩化ビニル単量体と他のエチレン系不飽和単量体との共重合)
本発明の一実施形態に係るポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法(以下、「本製造方法」と称することがある。)において、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂は、塩化ビニル単量体の単独重合、又は、塩化ビニル単量体と他のエチレン系不飽和単量体との共重合により製造される。すなわち、本製造方法は、塩化ビニル単量体の単独重合、又は、塩化ビニル単量体と他のエチレン系不飽和単量体との共重合を行う重合工程を含む。
【0023】
本製造方法において採用される重合方法は、乳化剤を用いる重合方法であれば特に限定されないが、好ましくは乳化重合、微細懸濁重合、シード乳化重合、シード微細懸濁重合等であり、その中でもシード乳化重合が好適に用いられる。
【0024】
前記他のエチレン系不飽和単量体は、塩化ビニル単量体と共重合可能なエチレン系不飽和単量体であれば、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニリデン等のビニリデン類;アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸及びその酸無水物;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ブチルベンジル等の不飽和カルボン酸エステル類;スチレン、αーメチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;ジアリルフタレート等の架橋性モノマー等が挙げられる。これらの他のエチレン系不飽和単量体は、単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0025】
塩化ビニル単量体と他のエチレン系不飽和単量体との共重合を行う場合、単量体全量に対する、塩化ビニル単量体の使用量は、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上であり、さらに好ましくは80モル%以上であり、特に好ましくは90モル%以上である。
【0026】
本製造方法において、前記重合を行うときの重合温度も特に限定されないが、通常40℃~70℃である。また、前記重合を行うときの圧力も特に限定されないが、通常0.50MPa~1.20MPaである。
【0027】
(2-2.ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルの添加)
本製造方法では、塩化ビニル単量体の単独重合、又は、塩化ビニル単量体と他のエチレン系不飽和単量体との共重合を行う重合工程において、重合転化率が80%以下の期間に、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを、単量体100重量部に対し0.05重量部~1.5重量部添加して重合を継続する工程を有する。これにより、プラスチゾルを作製したときに、得られるプラスチゾルのさらなる低粘度化を実現できる。
【0028】
また、重合中に、ポリエチレンスチレン化フェニルエーテルを添加することにより、プラスチゾルの粘度を低減するために、従来重合後に得られるポリ塩化ビニル系水性分散液に、添加されていた、アニオン性乳化剤、又はノニオン性乳化剤の1種又は複数の添加量を減らすことができ、これにより、耐熱性の向上及びコストの削減が見込める。さらには、従来技術である、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを重合中に添加する場合と比較して、わずかな量のポリエチレンスチレン化フェニルエーテルを添加することにより、プラスチゾルのさらなる低粘度化を実現できることから、添加量を減らすことができ、これにより、耐熱性の向上、ブリードの抑制、及びコストの削減が見込める。加えて、プラスチゾルに、炭酸カルシウムなどの配合剤を含む配合でも粘度低減効果を発揮することができる。
【0029】
前記ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルとしては、例えば、下記式(1)で表される化合物を挙げることができる。
【0030】
【化1】
【0031】
式(1)中、nは4~120であり、より好ましくは9~22、さらに好ましくは12~14である。
【0032】
前記ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルは、式(1)で表される、ポリオキシエチレンモノスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテル、またはこれらの2種以上の混合物であり得る。また、前記ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルは、ポリオキシエチレンモノスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、及び、ポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテルから選択される1種以上であって、そのそれぞれが、nの数が異なる複数の化合物の混合物であってもよい。
【0033】
本製造方法では、重合転化率が80%以下の期間に、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを添加すればよいが、より好ましくは、重合転化率が20%~80%の期間、さらに好ましくは重合転化率が、40%~60%の期間に、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを添加する。
【0034】
重合転化率が20%以上である期間に、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを添加する場合、プラスチゾルを作製したときに、得られるプラスチゾルのさらなる低粘度化を実現できるという利点がある。
【0035】
前記ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルは、一括で添加してもよいし、複数回に分割して添加してもよいし、連続的に添加してもよい。
【0036】
ここで、重合転化率がその時点で何%であるかは、例えば、その時点で重合容器内に存在する反応混合物を取り出し、残存する単量体を気化により除去した後、得られたポリ塩化ビニル系水性分散液の固形分濃度を測定し、投入した単量体の全てが重合したと仮定した場合の理論固形分濃度で割ることにより算出することができる。なお、ポリ塩化ビニル系水性分散液の固形分濃度は、以下の操作を行って得られた重量データを基に、以下の計算式により、算出できる。
【0037】
予め重量(w)を測定しておいたアルミ製容器中に、一定量のポリ塩化ビニル系水性分散液を注ぎ、重量(w)を測定した後、120℃の乾燥機で1時間乾燥させる。乾燥後の固形分を含むアルミ製容器の重量(w)を測定する。
ポリ塩化ビニル系水性分散液の固形分濃度(%)=(w-w)/(w-w)×100
本製造方法においては、重合転化率が80%以下の期間に、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを、単量体100重量部に対し、0.05重量部~1.5重量部添加して重合を継続する。ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを、単量体100重量部に対し、0.05重量部以上添加することにより、プラスチゾルを作製したときに、得られるプラスチゾルのさらなる低粘度化を実現できる。また、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを、1.5重量部超添加しても、プラスチゾルのさらなる低粘度化は見込めないため、耐熱性の向上及びコストの削減の観点から、1.5重量部以下であることが好ましい。重合転化率が80%以下の期間に添加する、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルの添加量は、前記範囲であればよいが、より好ましくは0.1重量部~1.0重量部であり、さらに好ましくは0.1重量部~0.3重量部である。
【0038】
(2-3.ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル以外の乳化剤)
本発明の一実施形態係る製造方法では、アニオン性乳化剤を重合開始前、及び/又は、重合開始後に添加してもよい。なお、ここで、「重合開始前」とは重合開始時より前を意味し、「重合開始後」とは重合開始時から重合終了時までを意味し、「重合開始時」とは、系内に重合開始剤を追加し始めた時点をいう。また、「重合終了時」とは、重合機内の圧力が0.3MPa以下となり、且つ、系内への重合開始剤の添加を終了した時点をいう。
【0039】
前記アニオン性乳化剤としては、これに限定されるものではないが、脂肪酸、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、α-オレフィンスルホン酸、アルキルエーテルリン酸エステル等の塩を挙げることができる。また、前記塩としては、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等を挙げることができる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記アニオン性乳化剤のより具体的な例としては、ラウリルスルホン酸ナトリウム(ラウリル硫酸ナトリウム)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、イソオクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジラウリルスルホコハク酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ラウリン酸カリウム等を挙げることができる。
【0040】
前記アニオン性乳化剤の使用量は特に限定されないが、重合の全工程において、単量体100重量部に対して、好ましくは0.2重量部~2.0重量部であり、より好ましくは0.3重量部~0.8重量部であり、さらに好ましくは0.4重量部~0.6重量部である。前記アニオン性乳化剤の使用量が上記範囲内であれば、重合により得られるポリ塩化ビニル系水性分散液が安定化するため、好ましい。
【0041】
前記アニオン性乳化剤の使用時期も特に限定されるものではなく、重合開始前に添加してもよいし、重合開始後に添加してもよいし、重合開始前及び重合開始後の両方に添加してもよい。前記アニオン性乳化剤を、重合開始前及び重合開始後の両方に添加する場合、重合反応が安定し、得られるラテックス品質が一定となるため好ましい。前記アニオン性乳化剤を、重合開始前及び重合開始後の両方に添加する場合、重合開始前に添加する前記アニオン性乳化剤の量は、単量体100重量部に対して、好ましくは0.01重量部~0.2重量部であり、より好ましくは0.02重量部~0.1重量部であり、さらに好ましくは0.04重量部~0.08重量部である。また、前記アニオン性乳化剤を、重合開始前及び重合開始後の両方に添加する場合、重合開始後に添加する前記アニオン性乳化剤の量は、単量体100重量部に対して、好ましくは0.05重量部~1.0重量部であり、より好ましくは0.1重量部~0.5重量部であり、さらに好ましくは0.2重量部~0.4重量部である。重合開始前に添加する前記アニオン性乳化剤の量及び重合開始後に添加する前記アニオン性乳化剤の量を上記範囲とすることにより、重合時の安定性とゾルにした際の低粘度化とのバランスが取れるとの利点がある。前記アニオン性乳化剤を重合開始後に添加する場合、連続的に添加してもよく、一括で添加してもよく、分割して添加してもよい。前記アニオン性乳化剤を重合開始後に添加する場合、その添加時期は特に限定されないが、重合転化率が2%~10%となった時点から、50%~70%となった時点までの間に添加することができる。これにより、系内に均一に添加できるため、好ましい。
【0042】
また、本発明の一実施形態係る製造方法では、前述のアニオン系乳化剤の存在下で重合を開始した後、重合転化率が80%以下の期間に、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを、添加することがより好ましい。前述のアニオン系乳化剤の存在下で重合を開始した後に、重合転化率が80%以下の期間に、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを、添加することにより、重合安定性が向上し、スケールが少ないとの利点がある。また、他の一実施形態では、前記アニオン性乳化剤を、重合開始前及び重合開始後の両方に添加した後、重合転化率が80%以下の期間に、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを、添加することも好ましい。かかる場合、重合後半における副反応を抑制することが出来るとの利点がある。
【0043】
本製造方法では、重合転化率が80%以下の期間に、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを、前述の添加量、添加すればよいが、本発明の効果に好ましくない影響を及ぼさない範囲で、他のノニオン性乳化剤を添加してもよい。前記他のノニオン性乳化剤としては、例えば、ソルビタンエステル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
前記ノニオン性乳化剤の使用量は特に限定されないが、重合の全工程において、単量体100重量部に対して、好ましくは0.01重量部~0.5重量部であり、より好ましくは0.1重量部~0.3重量部である。前記ノニオン性乳化剤の使用量が上記範囲内であれば、プラスチゾルの粘度低減効果と塩化ビニル系シートの熱安定性悪化のバランスが取れるため、好ましい。
【0045】
前記ノニオン性乳化剤の使用時期も特に限定されるものではなく、重合開始前に添加してもよいし、重合開始後に添加してもよいし、重合開始前及び重合開始後の両方に添加してもよい。
【0046】
また、前記アニオン性乳化剤及びノニオン性乳化剤は、本発明の効果に好ましくない影響を及ぼさない範囲で、重合後に得られるポリ塩化ビニル系水性分散液に添加することも可能である。
【0047】
(2-4.重合開始剤)
本製造方法において使用される重合開始剤としては、例えば、過酸化水素水、有機過酸化物、アゾ系開始剤、ペルオキソ二硫酸塩(「過硫酸塩」とも称される。)等が挙げられる。上記有機過酸化物としては、例えば、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等が挙げられる。上記アゾ系開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。上記ペルオキソ二硫酸塩としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等が挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0048】
本製造方法において使用される重合開始剤は、必要に応じて、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、ロンガリット、Bruggolite(登録商標)FF-6、二酸化チオ尿素等の還元剤と併用することができる。なお、還元剤は、環境への配慮から、ホルムアルデヒド発生のないBruggolite(登録商標)FF-6、二酸化チオ尿素が特に好ましい。これらの還元剤は、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0049】
前記重合開始剤の使用量は、単量体100重量部に対して、0.01重量部~5重量部が好ましく、0.02重量部~3重量部がより好ましい。重合開始剤の使用量が0.01重量部以上であれば、重合が好適に進行する。また、5重量部以下であれば、発熱制御を好適に行うことができる。
【0050】
(2-5.その他の添加剤)
本製造方法では、その他の添加剤として、乳化剤以外の分散剤、触媒、その他の重合助剤等を使用してもよい。
【0051】
前記乳化剤以外の分散剤としては、例えば、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸類等を挙げることができる。これらの分散剤は、単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0052】
前記触媒としては、例えば、遷移金属塩及びキレート剤を併用することにより生成される遷移金属錯体を使用することができる。上記遷移金属塩としては、例えば、硫酸第一鉄(II)、塩化鉄(II)、硫酸銅(I)、塩化銅(I)等が挙げられ、上記キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA・2Na)、酒石酸、アンモニア等が挙げられる。上記遷移金属塩として硫酸第一鉄(II)を用い、上記キレート剤としてEDTA・2Naを用いる場合、Fe-EDTAが生成されて触媒として機能する。
【0053】
前記その他の重合助剤としては、芳香族炭化水素、ポリビニルアルコール、ゼラチン、粒子径調整剤(硫酸ナトリウム及び重炭酸ナトリウム等)、連鎖移動剤、抗酸化剤等を挙げることができる。これらの重合助剤は、単独または二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
(2-6.乾燥工程)
塩化ビニル単量体の単独重合、又は、塩化ビニル単量体と他のエチレン系不飽和単量体との共重合の後、得られるポリ塩化ビニル系水性分散液(以下、本明細書において「ラテックス」と称することがある。)を、噴霧乾燥法、流動床乾燥法等により乾燥することにより、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂が得られる。したがって、本製造方法は、塩化ビニル単量体を単独重合、又は、塩化ビニル単量体と他のエチレン系不飽和単量体とを共重合する重合工程と、重合工程で得られるラテックスを乾燥する乾燥工程を含んでもよい。
【0055】
本発明の一実施形態において、得られるポリ塩化ビニル系ペースト樹脂は、前記重合工程によって得られた単一のラテックスを乾燥することにより得られる樹脂、2種以上のラテックスをブレンドして乾燥することにより得られる樹脂、又は、別々に乾燥した複数のポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を混合することにより得られる樹脂であり得る。
【0056】
(2-7.ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂)
本発明の一実施形態において得られるポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の平均重合度は、特に限定されるものではないが、400~2500の範囲内であることが好ましく、600~2000の範囲内であることがより好ましい。ここで、平均重合度は、JIS K6721に準拠して測定することが可能である。
【0057】
本発明の一実施形態において得られるポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の粒子径は、特に限定されるものではないが、プラスチゾル化した際、0.1μm~15μmの範囲に幅広く分布を有することが好ましく、0.5μm以上4μm未満の粒子をX成分、4μm~15μmの粒子をY成分とした時、X成分とY成分の体積比がX/Y=10/90~60/40の範囲内にあることが好ましく、さらに必要に応じてこれに、0.5μm未満にピークを持つ、乳化重合又は微細懸濁重合で別途作製したラテックスを乾燥することにより得たポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を混合する、或いはラテックス状態で混合し乾燥することによりポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を得ることが好ましい。ここで、ラテックスの粒子径分布は、CPS社製の遠心分離型粒子径測定装置CPSにより測定することが可能である。
【0058】
〔3.プラスチゾル組成物〕
(3-1.プラスチゾル組成物)
本発明の一実施形態に係るプラスチゾル組成物(以下、「本プラスチゾル組成物」と称することがある。)は、前述の製造方法により製造したポリ塩化ビニル系ペースト樹脂、可塑剤、及び充填剤を含む。
【0059】
前記可塑剤は、特に限定されないが、例えば、ジイソノニルフタレート、ジオクチルフタレート等を挙げることができる。前記可塑剤の含有量は、これに限定されるものではないが、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂100重量部に対して、好ましくは50重量部~200重量部であり、より好ましくは50重量部~100重量部である。前記可塑剤の含有量が、前述の範囲内であれば、プラスチゾルの作製が可能であり、成型体からの可塑剤のブリードが少ないため、好ましい。
【0060】
前記充填材としても、特に限定されないが、例えば、炭酸カルシウム等を挙げることができる。前記充填材の含有量は、これに限定されるものではないが、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂100重量部に対して、好ましくは0重量部~200重量部であり、より好ましくは50重量部~100重量部である。前記充填材の含有量が、前述の範囲内であれば、プラスチゾルの作製が可能であり、成型体の強度が維持できる範囲で、充填剤の使用が可能であるため、好ましい。前記充填材として、炭酸カルシウムを配合することは、低コスト、難燃性の付与等といった利点があることから好ましい。しかし、炭酸カルシウムを多く含むプラスチゾル組成物は、特に粘度が高く、ミキサー等でプラスチゾルを作製した後、ミキサーからの取り出しや移送が困難となるなど、取り扱いが困難となる傾向にあった。前述の製造方法により製造したポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を使用することにより、炭酸カルシウムを、例えば、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂100重量部に対して、100重量部以上、更には200重量部以上含むプラスチゾル組成物でも、粘度を低減することができるという利点がある。なお、炭酸カルシウムの含有量の上限は、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂100重量部に対して、好ましくは100重量部以下、より好ましくは200重量部以下である。
【0061】
本プラスチゾル組成物は、前述の製造方法により製造したポリ塩化ビニル系ペースト樹脂、可塑剤、及び充填剤に加えて、さらに化学発泡剤を含んでもよい。化学発泡剤を含むことにより、加熱成型することで発泡体を作製することができる。前記化学発泡剤は、特に限定されないが、例えば、ADCA(アゾジカルボンアミド)、OBSH(4,4´―オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド))、重曹(炭酸水素ナトリウム)等を挙げることができる。前記化学発泡剤の含有量は、これに限定されるものではないが、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂100重量部に対して、好ましくは0.5重量部~10重量部であり、より好ましくは1重量部~3重量部である。前記化学発泡剤の含有量が、前述の範囲内であれば、セル形状が均一な発泡体が作製できるため、好ましい。
【0062】
また、本発明の一実施形態に係るプラスチゾル組成物は、前述の製造方法により製造したポリ塩化ビニル系ペースト樹脂、可塑剤、充填剤、及び必要に応じて化学発泡剤に加えて、さらに、安定剤、希釈剤、顔料、表面処理剤、チキソトロープ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、滑剤、接着性付与剤等を必要に応じて含んでもよい。
【0063】
(3-2.プラスチゾル組成物の製造方法)
本プラスチゾル組成物は、前述の製造方法により製造したポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を、可塑剤、充填剤、及び必要に応じて化学発泡剤に加えて、さらに、安定剤、希釈剤、顔料、表面処理剤、チキソトロープ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、滑剤、接着性付与剤等を必要に応じて用い、これらと混合、混練することにより得られる。なお、本発明の一実施形態に係るプラスチゾル組成物は、希釈剤及び/又は溶剤を含まない組成物であるか、或いは、希釈剤及び溶剤含む場合であっても、これらをポリ塩化ビニル系ペースト樹脂100重量部に対して、10重量部以下含む組成物であることが好ましい。組成物に含まれる希釈剤及び溶剤が10重量部以下であれば、加熱成型後に成型体にボイド等の不良が発生しにくい。
【0064】
〔4.塩化ビニル系シート、塩化ビニル系発泡体〕
本発明には、前述の本発明の一実施形態に係るプラスチゾル組成物を成形してなる、塩化ビニル系シート、及び塩化ビニル系発泡体も含まれる。
【0065】
前記塩化ビニル系シートとしては、例えば、カーペットの裏地、帆布、レザー等を挙げることができる。前記塩化ビニル系シートの製造方法としては、例えば、本ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂、可塑剤、充填剤を含むプラスチゾル組成物を不燃紙、織布、不織布等の基材上に、その基材表面との隙間を所定の厚みに調整したコーティング刃(以下、コーターと称する)を通してコーティングする工程と、このコーティング物を加熱してゲル化させることにより塩化ビニル系シートを得る工程とを含む方法を挙げることができる。
【0066】
前記塩化ビニル系発泡体としては、例えば、壁紙、床材、レザー等を挙げることができる。以下に、壁紙を例に挙げて、塩化ビニル系発泡体の製造方法の一例について説明する。但し、前記塩化ビニル系発泡体およびその製造方法はこれに限定されるものではない。ここで、壁紙とは、JIS A6921に規定されている、主に建築物の壁、天井などの内装仕上げとして張りつけるものである。壁紙の製造方法の一例としては、ペースト加工法と呼ばれる方法、具体的には、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂、可塑剤、充填剤、及び化学発泡剤を含むプラスチゾル組成物を難燃紙等の基材上に、その基材表面との隙間を所定の厚みに調整したコーターを通してコーティングする工程と、このコーティング物を加熱してゲル化させることにより、原反と称する薄い塗膜を得、次いでこの原反に必要に応じて印刷を施し、更に必要に応じてその原反を加熱して発泡させる工程と、を含む方法により得ることができる。このときの原反の厚みには特に制限はないが、50μm~200μmの範囲内であることが好ましい。コーティング物を加熱してゲル化させる時の条件についても特に制限はないが、コーティング物の表面温度が130℃~180℃の範囲で5秒~50秒の範囲であることが好ましい。更に原反を加熱して発泡させる条件についても特に制限はないが、原反の表面温度が180℃~350℃の範囲で5秒~50秒であることが好ましい。これらの加熱に使用する加熱炉は特に制限はないが、一般的には熱風循環炉や遠赤外炉などが好適に用いられる。更に必要に応じて最終製品の意匠性を高めるために、原反の印刷工程において化学発泡剤の分解を抑制する、無水トリメリット酸、ベンゾトリアゾール等の発泡抑制剤を所望の柄に印刷したり、発泡直後に所望の凹凸模様を有するロールを押しつけたりすることにより、最終製品の表面に凹凸模様を施すことも可能である。
【実施例0067】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0068】
〔製造例:ポリ塩化ビニル系シードラテックスの製造〕
撹拌機および温調ジャケットを備えている、容量300Lの耐圧容器に以下の物質を封入した。
・イオン交換水:150kg
・ラウリル硫酸ナトリウム(アニオン性乳化剤):12g
・キシダ化学社製、ロンガリット(ナトリウム・ホルムアルデヒド・スルホキシレート、還元剤):128g
・FeSO・7HO(遷移金属塩):2.5g
・EDTA(キレート剤):4.1g
耐圧容器内の圧力が-0.09MPa以下になるまで、真空ポンプにて減圧した。その後、耐圧容器内に塩化ビニル単量体を136kg送入して、撹拌しながら耐圧容器内の温度が50℃になるまで、温調ジャケットにて昇温した。
【0069】
耐圧容器内の温度が一定になった後、重合機内の圧力が0.3MPaまで低下した時点までの間に、t-ブチルハイドロパーオキサイド(水溶性有機過酸化物)の0.3%水溶液を、単量体100重量部当たり、t-ブチルハイドロパーオキサイドとして全量で0.015重量部となるように、連続的に耐圧容器内に送入した。
【0070】
重合転化率が2%~10%となった時点から、50%~70%となった時点までの間に、ラウリル硫酸ナトリウムの5%水溶液を、t-ブチルハイドロパーオキサイドとは別の配管から、単量体100重量部当たり、ラウリル硫酸ナトリウムとして全量で0.4重量部となるように、等速で連続的に耐圧容器内に送入した。
【0071】
耐圧容器内の圧力が0.3MPa以下まで低下した後、t-ブチルハイドロパーオキサイドの送入を停止し、未反応モノマーを回収し、ポリ塩化ビニル系シードラテックスを得た。
【0072】
〔実施例1〕
撹拌機および温調ジャケットを備えている、容量300Lの耐圧容器に以下の物質を封入した。
・イオン交換水:150kg
・製造例で得られたポリ塩化ビニル系シードラテックス:4.2kg(固形分)
・ラウリル硫酸ナトリウム(アニオン性乳化剤):100g
・キシダ化学社製、ロンガリット(ナトリウム・ホルムアルデヒド・スルホキシレート、還元剤):68g
・FeSO・7HO(遷移金属塩):0.34g
・EDTA(キレート剤):0.57g
耐圧容器内の圧力が-0.09MPa以下になるまで、真空ポンプにて減圧した。その後、耐圧容器内に塩化ビニル単量体を150kg送入して、撹拌しながら耐圧容器内の温度が58℃になるまで、温調ジャケットにて昇温した。耐圧容器内の温度が一定になった後、重合機内の圧力が0.3MPaまで低下した時点までの間に、過酸化水素の0.3%水溶液を、単量体100重量部当たり、過酸化水素として全量で0.01重量部となるように、連続的に耐圧容器内に送入した。
【0073】
重合転化率が2%~10%となった時点から、50%~70%となった時点までの間に、ラウリル硫酸ナトリウムの5%水溶液を、過酸化水素とは別の配管から、単量体100重量部当たり、ラウリル硫酸ナトリウムとして全量で0.4重量部となるように、等速で連続的に耐圧容器内に送入した。
【0074】
重合添加率が約40%となった時点から、重合添加率が約60%となった時点までの間、ポリエチレンスチレン化フェニルエーテル(第一工業製薬社製、ノイゲン(登録商標)EA-137)の30%水溶液を、単量体100重量部当たり、ポリエチレンスチレン化フェニルエーテルとして全量で0.3重量部となるように、等速で連続的に耐圧容器内に送入した。
【0075】
耐圧容器内の圧力が0.3MPa以下まで低下した後、過酸化水素の送入を停止し、未反応モノマーを回収し、ポリ塩化ビニル系ラテックスを得た。
【0076】
上記手順で得られたポリ塩化ビニル系ラテックスをスプレードライヤーで乾燥し、さらに粉砕して、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を得た。
【0077】
〔実施例2〕
重合添加率が約40%となった時点から、重合添加率が約60%となった時点までの間に添加するポリエチレンスチレン化フェニルエーテルの量を、単量体100重量部当たり、ポリエチレンスチレン化フェニルエーテルとして全量で0.1重量部となるように変更した以外は、実施例1と同じ方法により、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を得た。
【0078】
〔比較例1〕
ポリエチレンスチレン化フェニルエーテルを添加しなかった以外は、実施例1と同じ方法により、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を得た。
【0079】
〔比較例2〕
ポリエチレンスチレン化フェニルエーテルの代わりに、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(第一工業製薬社製、ノイゲン(登録商標)EA-130T)を用いて、重合添加率が約40%となった時点から、重合添加率が約60%となった時点までの間、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの30%水溶液を、単量体100重量部当たり、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとして全量で0.3重量部となるように、等速で連続的に耐圧容器内に送入した以外は、実施例1と同じ方法により、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を得た。
【0080】
〔比較例3〕
ポリエチレンスチレン化フェニルエーテルの代わりに、ポリオキシエチレントリデシルエーテル(第一工業製薬社製、ノイゲン(登録商標)TDS―80)を用いて、重合添加率が約40%となった時点から、重合添加率が約60%となった時点までの間、ポリオキシエチレントリデシルエーテルの30%水溶液を、単量体100重量部当たり、ポリオキシエチレントリデシルエーテルとして全量で0.3重量部となるように、等速で連続的に耐圧容器内に送入した以外は、実施例1と同じ方法により、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を得た。
【0081】
〔比較例4〕
ポリエチレンスチレン化フェニルエーテルを、重合中に添加する代わりに、重合終了後(重合機内の圧力が0.3MPaまで低下した後)に添加した以外は、実施例1と同じ方法により、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を得た。
【0082】
〔ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の評価〕
得られたポリ塩化ビニル系ペースト樹脂100g、ジイソノニルフタレート(可塑剤)80g、炭酸カルシウムBF300(備北粉化工業社製)100g、及び、アデカスタブAC-285(安定剤、株式会社AKEKA製)3gをステンレスカップに投入した。投入した混合物を、ディゾルバー(プライミクス株式会社製、LABOLUTION)にて、最初に350rpmで1分、続いて1000rpmで2分、さらに続いて1000rpmで1分、混錬することにより、プラスチゾル組成物を作製した。
【0083】
作製したプラスチゾル組成物を25℃にて保管し、保管開始から、1時間後、1日後、及び1週間後に、それぞれ、BM粘度計にて粘度を測定した。評価結果を表1に示す。表1中、「EA-137」はポリエチレンスチレン化フェニルエーテルを、「EA-130T」はポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを、「TDS-80」はポリオキシエチレントリデシルエーテルを示す。
【0084】
【表1】
【0085】
〔まとめ〕
実施例1、2と比較例1、3より、重合転化率が80%以下の期間に、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを、単量体100重量部に対し0.3重量部又は0.1重量部添加して重合を継続することにより、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを添加しない場合/ポリオキシエチレントリデシルエーテルを添加する場合と比較して、得られたポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を含むプラスチゾル組成物の粘度が顕著に低下することが示された。
【0086】
実施例1と比較例2より、重合転化率が80%以下の期間に、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを、単量体100重量部に対し0.3重量部添加して重合を継続することにより、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを同期間に同量添加する場合と比較しても、得られたポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を含むプラスチゾル組成物の粘度が顕著に低下することが示された。また、実施例2と比較例2より、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルの添加量を1/3にしても、なお、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを同期間に添加する場合と比較して、プラスチゾル組成物の粘度が低いことが示された。さらに、実施例2で得られたポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を含むプラスチゾル組成物は、比較例2で得られたポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を含むプラスチゾル組成物と比較して、経時変色が少なかった。これは、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルの添加量が低減されたことにより、プラスチゾル組成物の熱安定性が向上したためであると考えられる。
【0087】
比較例4より、重合後に、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルを、単量体100重量部に対し0.3重量部添加しても、得られたポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を含むプラスチゾル組成物の粘度低下効果が低いことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の一実施形態によれば、プラスチゾルを作製したときに、得られるプラスチゾルのさらなる低粘度化を実現できるポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を提供することができる。それゆえ、本発明の一実施形態に係るポリ塩化ビニル系ペースト樹脂及びプラスチゾル組成物は、様々な塩化ビニル系シート、塩化ビニル系発泡体の原料/材料として非常に有用であり、広範な産業分野において利用することができる。