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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140919
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】可変容量型液圧回転機
(51)【国際特許分類】
   F04B 1/324 20200101AFI20241003BHJP
【FI】
F04B1/324
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052288
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】弁理士法人広和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】海野 豪
(72)【発明者】
【氏名】松村 隆
【テーマコード(参考)】
3H070
【Fターム(参考)】
3H070AA01
3H070BB04
3H070BB06
3H070CC19
3H070DD64
3H070DD82
3H070DD96
(57)【要約】
【課題】レギュレータ(例えばスプール)の中立位置と傾転部材の任意の傾転角度とを安定的に合わせる。
【解決手段】斜板式油圧ポンプ1は、斜板11と、傾転シリンダ17内に形成された第1液圧室17C内の圧力と第2液圧室17D内の圧力との差圧によって移動するサーボピストン20によって斜板11の傾転角度を変化させる傾転アクチュエータ16と、指令圧に応じて第1液圧室17Cまたは第2液圧室17Dに供給される圧力を調整するレギュレータ23とを備え、レギュレータ23に供給される指令圧が所定の圧力に達するまでの間、サーボピストン20が傾転シリンダ17に対して一定の位置を保持する不感帯領域を有している。サーボピストン20は、レギュレータ23に供給される指令圧が不感帯領域にある間は、傾転シリンダ17内で一定の位置を保持するので、スプール28の中立位置と斜板11の傾転角度とを安定的に合わせることができる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾転角度に応じて吐出容量を変化させる傾転部材と、
傾転シリンダおよび前記傾転シリンダ内に第1液圧室と第2液圧室とを形成するサーボピストンを有し、前記第1液圧室内の圧力と前記第2液圧室内の圧力との差圧によって前記傾転シリンダ内を移動する前記サーボピストンにより前記傾転部材の傾転角度を変化させる傾転アクチュエータと、
前記サーボピストンを移動させるために指令圧に応じて前記第1液圧室または前記第2液圧室に供給される圧力を調整するレギュレータとを備えてなる可変容量型液圧回転機において、
前記レギュレータに供給される前記指令圧が所定の圧力に達するまでの間、前記サーボピストンが前記傾転シリンダに対して一定の位置を保持する不感帯領域を有することを特徴とする可変容量型液圧回転機。
【請求項2】
前記レギュレータは、レギュレータケーシング内にスリーブを介して移動可能に設けられ、前記指令圧に応じて移動することにより前記第1液圧室または前記第2液圧室に供給される圧力を調整するスプールと、
前記レギュレータケーシングに設けられ、前記レギュレータケーシング内に供給される前記指令圧により前記スプールを押圧し前記スリーブに対して移動させるピストンと、
前記レギュレータケーシングと前記スプールとの間に設けられ、前記スプールに対し前記ピストンからの押圧力とは反対方向のばね力を付与するばね機構とを備え、
前記不感帯領域は、前記ばね機構のセット荷重により設定されることを特徴とする請求項1に記載の可変容量型液圧回転機。
【請求項3】
前記ばね機構は、前記スプールの軸方向の一端側を収容するスプール収容穴を有し、前記レギュレータケーシング内に位置調整可能に固定されるアジャスタと、
前記スプール収容穴内で前記スプールに設けられたスプール側係合部材と、
前記スプール収容穴内で前記アジャスタに設けられたアジャスタ側係合部材と、
前記スプール収容穴内で前記スプールに取付けられ、前記スプール側係合部材と前記アジャスタ側係合部材との間で前記スプールの軸方向に移動可能となった一対のばね受けと、
前記一対のばね受け間に縮装された圧縮ばねとを含んで構成されていることを特徴とする請求項2に記載の可変容量型液圧回転機。
【請求項4】
前記傾転アクチュエータは、前記サーボピストンを前記第2液圧室に向けて押圧する第1サーボばねと、
前記サーボピストンを前記第1液圧室に向けて押圧する第2サーボばねとを有し、
前記第1液圧室内の圧力と前記第2液圧室内の圧力との差圧が所定の圧力に達するまでの間、前記サーボピストンが前記第1サーボばねおよび前記第2サーボばねのセット荷重により前記傾転シリンダに対して一定の位置を保持する第2の不感帯領域を有することを特徴とする請求項1,2または3に記載の可変容量型液圧回転機。
【請求項5】
前記第2の不感帯領域内で前記サーボピストンが移動する移動量は、前記不感帯領域内で前記サーボピストンが移動する移動量よりも大きいことを特徴とする請求項4に記載の可変容量型液圧回転機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば油圧ショベル、ホイールローダ等の建設機械に油圧ポンプ、または油圧モータとして搭載される可変容量型液圧回転機に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の建設機械には、油圧ポンプ、油圧モータ等の可変容量型液圧回転機が搭載されている。可変容量型液圧回転機は、例えば斜板等の傾転部材を含む容量可変部を有し、傾転部材が傾転アクチュエータによって傾転駆動されることにより、容量が可変に制御される。傾転アクチュエータは、傾転シリンダと、傾転シリンダ内に摺動可能に挿嵌されたサーボピストンとを含んで構成されている。サーボピストンは、連結部を介して傾転部材に連結され、レギュレータを介して傾転シリンダに供給されるサーボ圧に応じて傾転シリンダ内を移動することにより、傾転部材を傾転させて傾転角度を変化させる。
【0003】
このような可変容量型液圧回転機を、HST(Hydro Static Transmission)等の油圧閉回路に用いる場合、傾転部材は、傾転角度が零となる中立位置を挟んで一方向と他方向との両方向に傾転される。傾転部材が中立位置を保持しているときには、可変容量型液圧回転機による圧油の吐出、または圧油の給排は行われない。一方、傾転部材が中立位置から一方向または他方向に傾転されたときには、可変容量型液圧回転機は、圧油の吐出方向または圧油の給排方向を、傾転部材の傾転角度(傾転方向)に応じて適宜に切換える(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-261158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術による可変容量型液圧回転機では、レギュレータには傾転部材の角度を変化させるために指令圧に応じて変位するスプールが設けられている。当該スプールは、指令圧が所定の圧力未満の場合は変位せず、中立位置にある状態が保たれる。また、レギュレータは、スプールが中立位置にあるときの傾転部材の傾転角度が所望の角度になるように調節されるが、傾転アクチュエータ、レギュレータ等を構成する部品の製作誤差等の影響を受けるため、所望の傾転角度に合わせることは難しい。また、傾転部材の傾転角度をスプールの中立位置を挟んで一方向または他方向に傾転させるときの動作(傾転量)も不安定となり、傾転部材の傾転角度を制御するときの精度が低下してしまう問題がある。
【0006】
本発明の目的は、レギュレータ(例えばスプール)の中立位置を傾転部材の任意の傾転角度に安定的に合わせることができるようにした可変容量型液圧回転機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、傾転角度に応じて吐出容量を変化させる傾転部材と、傾転シリンダおよび前記傾転シリンダ内に第1液圧室と第2液圧室とを形成するサーボピストンを有し、前記第1液圧室内の圧力と前記第2液圧室内の圧力との差圧によって前記傾転シリンダ内を移動する前記サーボピストンにより前記傾転部材の傾転角度を変化させる傾転アクチュエータと、前記サーボピストンを移動させるために指令圧に応じて前記第1液圧室または前記第2液圧室に供給される圧力を調整するレギュレータとを備えてなる可変容量型液圧回転機において、前記レギュレータに供給される前記指令圧が所定の圧力に達するまでの間、前記サーボピストンが前記傾転シリンダに対して一定の位置を保持する不感帯領域を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、レギュレータに供給される指令圧が零から所定の圧力に達するまでの間は、サーボピストンの不感帯領域となって傾転部材の傾転角度が一定に保持されるので、レギュレータ(例えばスプール)の中立位置と傾転部材の傾転角度とを安定的に合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態が適用された斜板式油圧ポンプを示す断面図である。
図2】傾転アクチュエータを図1中の矢示II-II方向から見た断面図である。
図3】傾転アクチュエータをレギュレータ、フィードバックリンク等と共に示す断面図である。
図4図3中のレギュレータを拡大した断面図である。
図5図4中のアジャスタ、スプール、ばね機構等の要部を示す断面図である。
図6】レギュレータ、傾転アクチュエータを含む油圧回路図である。
図7】指令圧とスプールの位置との関係を示す特性線図である。
図8】スプールの位置とサーボピストンの位置との関係を示す特性線図である。
図9】指令圧とサーボピストンの位置との関係を示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態による可変容量型液圧回転機を、可変容量型の斜板式油圧ポンプに適用した場合を例に挙げ、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0011】
図1に示す斜板式油圧ポンプ1は、例えばHST(Hydro Static Transmission)等の油圧閉回路に用いられ、後述する斜板11を、傾転角度が零となる中立位置を挟んで一方向と他方向に傾転させる両傾転タイプの油圧ポンプである。斜板式油圧ポンプ1は、外殻を構成するケーシング2を有している。ケーシング2は、一端側が底部3Aとなった段付筒状のケーシング本体3と、ケーシング本体3の他端側を閉塞する蓋体4とを含んで構成されている。ケーシング本体3には、底部3Aと蓋体4との間から外側に突出するアクチュエータ取付部3Bが設けられ、アクチュエータ取付部3Bには外部に開口する開口部3Cが形成されている。アクチュエータ取付部3Bには、後述の傾転アクチュエータ16が設けられ、開口部3Cには、後述のフィードバックリンク47が挿通されている。ケーシング2の蓋体4には、後述の給排通路15A,15Bが形成されている。
【0012】
ケーシング2の内部には、回転軸5が回転可能に設けられている。回転軸5の軸方向の一側は、ケーシング本体3の底部3Aに軸受を介して回転可能に支持されている。回転軸5の軸方向の他側は、蓋体4に軸受を介して回転可能に支持されている。回転軸5の軸方向の一端は、ケーシング本体3の底部3Aから外部に突出している。この回転軸5の一端(突出端)は、例えばエンジン等の原動機(図示せず)に連結され、この原動機によって回転駆動される。
【0013】
シリンダブロック6は、ケーシング2内で回転軸5の外周側にスプライン結合され、回転軸5と一体に回転する。シリンダブロック6には、周方向に離間して軸線方向に延びる複数のシリンダ7が形成されている。これら複数のシリンダ7内には、それぞれピストン8が摺動可能に挿嵌されている。ピストン8は、シリンダブロック6の回転によってそれぞれのシリンダ7内を往復動する。
【0014】
これら複数のピストン8は、シリンダ7から軸方向に突出(伸長)した下死点位置と、シリンダ7内へと縮小した上死点位置との間を往復動する。複数のピストン8は、シリンダブロック6が1回転する間に、シリンダ7内を上死点から下死点に向けて摺動変位しつつ作動油を吸込む吸入行程と、下死点から上死点に向けて摺動変位しつつ吸込んだ作動油を加圧して吐出する吐出行程とを繰返す。
【0015】
複数のピストン8の突出端には、それぞれシュー9が揺動可能に設けられている。シュー9は、それぞれピストン8からの押付力(油圧力)によって斜板11の平滑面11Aに押圧される。シュー9は、回転軸5、シリンダブロック6およびピストン8と一緒に回転することにより、斜板11の平滑面11A上をリング状の軌跡を描くように摺動する。
【0016】
ケーシング本体3の底部3Aには、斜板支持部材10が固定されている。斜板支持部材10は、斜板11の裏面側に配置され、斜板11を傾転可能に支持する凹湾曲状の傾転摺動面10Aを有している。傾転摺動面10Aは回転軸5を挟んで対をなし、それぞれ斜板11の裏面に摺動可能に当接している。
【0017】
傾転部材としての斜板11は、ケーシング2内に設けられている。斜板11は、ケーシング本体3の底部3A側に斜板支持部材10を介して取付けられている。斜板11の裏面側(底部3A側)は、斜板支持部材10の傾転摺動面10Aに当接している。斜板11の表面側(シリンダブロック6側)は平滑面11Aとなり、この平滑面11A上をシュー9が摺動する。斜板11の中央部には軸挿通穴11Bが設けられ、軸挿通穴11Bには回転軸5が回転可能に挿通されている。
【0018】
斜板11は、斜板支持部材10により傾転可能に支持された状態で、後述する傾転アクチュエータ16により傾転駆動される。斜板式油圧ポンプ1は両傾転タイプの油圧ポンプにより構成され、斜板11の傾転角度がほぼ零となる中立位置を挟んで一方向と他方向とに傾転可能となっている。このような両傾転タイプの斜板式油圧ポンプ1は、例えば油圧閉回路によって油圧モータ(図示せず)に接続することにより、斜板11の傾転角度に応じて、油圧モータの回転速度と回転方向とを適宜に切換えることができる。斜板11の傾転角度が零を保持しているときには、斜板式油圧ポンプ1の回転軸5は無負荷で回転され、圧油の吐出量は零となる。一方、傾転アクチュエータ16により、斜板11が中立位置を挟んで一方向または他方向に傾転されたときには、斜板式油圧ポンプ1から傾転方向および傾転角度に応じた圧油が吐出される。例えば斜板式油圧ポンプ1に走行用の油圧モータ(図示せず)が接続された場合には、走行用の油圧モータを前進方向または後進方向に回転させることができる。
【0019】
傾転レバー12は、斜板11に一体形成されている。傾転レバー12は、斜板11から後述のサーボピストン20に向けて延設されている。傾転レバー12の先端にはピン12Aが突設され、ピン12Aは、連結部材13の中心部に形成された貫通穴13Aに回動可能に挿嵌されている。連結部材13は、サーボピストン20に設けられた連結溝20Cに摺動可能に嵌合し、サーボピストン20が軸方向に移動することにより、連結溝20C内でサーボピストン20の軸中心を横切る方向に移動する。これにより、サーボピストン20の軸方向変位が傾転レバー12を介して斜板11へと伝達され、斜板11は、サーボピストン20の軸方向変位に追従して傾転駆動される。
【0020】
弁板14は、ケーシング2の蓋体4に取付けられている。弁板14は、シリンダブロック6の端面に摺接する切換弁板を構成している。弁板14には、一対の給排ポート14A,14Bが設けられている。給排ポート14A,14Bは、回転軸5の軸中心を中心とした円弧状(眉形状)の長穴として形成され、回転軸5の周囲を取囲むように配置されている。給排ポート14A,14Bは、斜板11の傾転方向に応じて吸込ポートまたは吐出ポートに切換えられる。例えば、給排ポート14Aが低圧側の吸込ポートとなったときには、給排ポート14Bが高圧側の吐出ポートとなる。一方、斜板11の傾転方向が反転したときには、給排ポート14Aが高圧側の吐出ポートとなり、給排ポート14Bが低圧側の吸込ポートとなる。
【0021】
ケーシング2の蓋体4には、一対の給排通路15A,15Bが形成されている。これら給排通路15A,15Bは、弁板14の給排ポート14A,14Bを介して、シリンダ7に対して作動油(圧油)を給排させる。即ち、ケーシング2内で回転軸5が回転すると、シリンダブロック6の回転に伴って各シリンダ7内をピストン8が往復動することにより、給排通路15A,15Bの一方からシリンダ7内に作動油が吸込まれ、給排通路15A,15Bの他方に加圧された作動油(圧油)が吐出する。
【0022】
傾転アクチュエータ16は、ケーシング本体3のアクチュエータ取付部3Bに設けられている。傾転アクチュエータ16は、傾転シリンダ17とサーボピストン20とを含んで構成されている。傾転シリンダ17は、ケーシング本体3のアクチュエータ取付部3Bに形成されている。サーボピストン20は、傾転シリンダ17内に摺動可能に挿嵌され、斜板11を傾転させることにより、斜板11を中立位置を挟んで一方向と他方向との両方向に傾転駆動する。
【0023】
傾転シリンダ17は、一対のシリンダ穴17A,17Bを有している(図2参照)。一対のシリンダ穴17A,17Bは、同一の穴径をもって同心上に配置され、回転軸5の軸中心と直交する方向に延びている。シリンダ穴17A,17Bは、それぞれケーシング本体3にボルト等を用いて取付けられたサイドカバー18,19によって閉塞されている。シリンダ穴17Aを閉塞するサイドカバー18には、傾転シリンダ17内に突出する円柱状の突起部18Aがシリンダ穴17Aと同心上に形成されている。シリンダ穴17Bを閉塞するサイドカバー19には、傾転シリンダ17内に突出する円柱状の突起部19Aがシリンダ穴17Bと同心上に形成されている。
【0024】
サーボピストン20は、傾転シリンダ17内に軸方向に摺動可能に挿嵌され、傾転シリンダ17内に第1液圧室17Cと第2液圧室17Dとを形成している。図2および図3に示すように、サーボピストン20は、軸方向(長さ方向)の中間部が中実な円柱状をなし、軸方向の一側には円筒状をなす一側円筒部20Aが形成され、軸方向の他側には円筒状をなす他側円筒部20Bが形成されている。一側円筒部20Aと他側円筒部20Bとは、互いに等しい外径寸法を有している。
【0025】
一側円筒部20Aは、傾転シリンダ17のシリンダ穴17A内に摺動可能に挿嵌され、サイドカバー18との間に第1液圧室17Cを形成している。他側円筒部20Bは、傾転シリンダ17のシリンダ穴17B内に摺動可能に挿嵌され、サイドカバー19との間に第2液圧室17Dを形成している。サーボピストン20は、第1液圧室17C内の圧力と第2液圧室17D内の圧力との差圧に応じて、傾転シリンダ17内を軸方向に移動する。
【0026】
サーボピストン20の軸方向中間部には、連結溝20Cとリンク取付溝20Dとが径方向で対向するように設けられている。サーボピストン20の連結溝20Cには、連結部材13を介して傾転レバー12のピン12Aが連結されている。サーボピストン20のリンク取付溝20Dには、後述するフィードバックリンク47のレバー部材49が係合している。
【0027】
傾転シリンダ17の第1液圧室17Cには、サーボピストン20を第2液圧室17Dに向けて押圧する第1サーボばね21が設けられている。第1サーボばね21は、ガイド軸21Aと、ばねガイド21Bと、圧縮ばね21Cとを含んで構成されている。ガイド軸21Aは、例えば円筒体からなり、内周側に挿通されたボルト21Dをサイドカバー18の突起部18Aに螺着することにより、サイドカバー18から第1液圧室17C内に突出した状態で固定されている。ばねガイド21Bは、大径筒部21B1と小径筒部21B2とを有する段付き円筒状に形成されている。大径筒部21B1の外径寸法は、サーボピストン20の一側円筒部20Aの内径よりも小さく設定され、小径筒部21B2の外径寸法は、サイドカバー18の突起部18Aの外径と等しく設定されている。小径筒部21B2の中心部には、軸方向に貫通する軸挿通穴21B3が形成されている。ばねガイド21Bは、軸挿通穴21B3をガイド軸21Aに挿通することによりガイド軸21Aに移動可能に支持され、ボルト21Dの頭部により軸方向に抜け止めされている。
【0028】
圧縮ばね21Cは、サイドカバー18とばねガイド21Bとの間に設けられている。具体的には、圧縮ばね21Cは、ばねガイド21Bの小径筒部21B2およびサイドカバー18の突起部18Aの外周側に配置され、ばねガイド21Bを、サイドカバー18から離れる方向に押圧(付勢)している。ここで、圧縮ばね21Cは、自由長さよりも縮小した状態でサイドカバー18とばねガイド21Bとの間に縮装され、所定のセット荷重(初期荷重)をもってばねガイド21Bを押圧している。
【0029】
傾転シリンダ17の第2液圧室17Dには、サーボピストン20を第1液圧室17Cに向けて押圧する第2サーボばね22が設けられている。第2サーボばね22は、第1サーボばね21と同様に、ガイド軸22Aと、ばねガイド22Bと、圧縮ばね22Cとを含んで構成されている。ガイド軸22Aは、ボルト22Dを用いてサイドカバー19に固定され、第2液圧室17D内に突出している。ばねガイド22Bは、大径筒部22B1、小径筒部22B2、軸挿通穴22B3を有し、軸挿通穴22B3をガイド軸22Aに挿通することにより、ガイド軸22Aに移動可能に支持されている。圧縮ばね22Cは、サイドカバー19とばねガイド22Bとの間に設けられ、ばねガイド22Bを、サイドカバー19から離れる方向に押圧している。ここで、圧縮ばね22Cは、自由長さよりも縮小した状態でサイドカバー19とばねガイド22Bとの間に縮装され、所定のセット荷重(初期荷重)をもってばねガイド22Bを押圧している。
【0030】
サーボピストン20が中立位置を保持しているときには、斜板11の傾転角度は零(中立位置)となる。サーボピストン20が中立位置を保持した状態で、傾転シリンダ17の第1液圧室17C内には、サーボピストン20とばねガイド21Bとの間に所定のクリアランス(図示せず)が形成され、第2液圧室17D内には、サーボピストン20とばねガイド22Bとの間に所定のクリアランス(図示せず)が形成されている。従って、第1液圧室17Cにサーボ圧が供給されることにより、第1液圧室17C内の圧力が第2液圧室17D内の圧力よりも大きくなると、サーボピストン20は、第2液圧室17D内に形成されたクリアランスの分だけ第2液圧室17D側に移動する。そして、第1液圧室17C内の圧力と第2液圧室17D内の圧力との差圧によってサーボピストン20に作用する荷重が、第2サーボばね22(圧縮ばね22C)のセット荷重よりも大きくなると、サーボピストン20は、圧縮ばね22Cを縮小させながら、さらに第2液圧室17D側に移動する。
【0031】
一方、傾転シリンダ17の第2液圧室17Dにサーボ圧が供給されることにより、第2液圧室17D内の圧力が第1液圧室17C内の圧力よりも大きくなると、サーボピストン20は、第1液圧室17C内に形成されたクリアランスの分だけ第1液圧室17C側に移動する。そして、第2液圧室17D内の圧力と第1液圧室17C内の圧力との差圧によってサーボピストン20に作用する荷重が、第1サーボばね21(圧縮ばね21C)のセット荷重よりも大きくなると、サーボピストン20は、圧縮ばね21Cを縮小させながら、さらに第1液圧室17C側に移動する。
【0032】
このように、第1液圧室17C内の圧力と第2液圧室17D内の圧力との差圧が、第1サーボばね21(圧縮ばね21C)および第2サーボばね22(圧縮ばね22C)のセット荷重以下であるときには、サーボピストン20は傾転シリンダ17内を移動することなく一定の位置を保持する。即ち、本実施形態では、第1サーボばね21(圧縮ばね21C)および第2サーボばね22(圧縮ばね22C)のセット荷重により、サーボピストン20の第2の不感帯領域が設定されている。なお、何らかの原因により、第1液圧室17C内の圧力と第2液圧室17D内の圧力との差圧が生じなくなった場合には、サーボピストン20は、第1サーボばね21および第2サーボばね22によって中立位置を保持する構成となっている。
【0033】
レギュレータ23は、アクチュエータ取付部3Bに隣接して斜板式油圧ポンプ1のケーシング本体3に設けられ、後述のパイロット油室32またはパイロット油室38に供給される指令圧(パイロット圧)に応じて、傾転アクチュエータ16に供給されるサーボ圧を調整(制御)する。レギュレータ23は、アクチュエータ取付部3Bに取付けられたレギュレータケーシング24を有し、レギュレータケーシング24は、ケーシング本体3のアクチュエータ取付部3Bに形成された開口部3Cを覆うように配置されている。即ち、レギュレータケーシング24の内部は、開口部3Cを介してケーシング本体3の内部と連通している。
【0034】
図4に示すように、レギュレータ23は、レギュレータケーシング24と、スリーブ27と、スプール28と、パイロット筒体29と、アジャスタ33と、ばね機構39と、フィードバックリンク47とを含む油圧サーボ弁として構成されている。
【0035】
レギュレータケーシング24は、スプール28の軸方向に延びる段付筒状に形成されている。レギュレータケーシング24の内部には、軸方向(長さ方向)の中間部に位置するスリーブ摺動穴24Aと、軸方向の一側に位置するアジャスタ取付穴24Bと、軸方向の他側に位置する筒体取付穴24Cとが、同一の軸線上に形成されている。アジャスタ取付穴24Bは、レギュレータケーシング24の軸方向の一端24Dに開口し、アジャスタ33が取付けられる。筒体取付穴24Cは、レギュレータケーシング24の軸方向の他端24Eに開口し、パイロット筒体29が取付けられる。筒体取付穴24Cの穴径は、スリーブ摺動穴24Aよりも大きく、アジャスタ取付穴24Bよりも小さく設定されている。また、レギュレータケーシング24のうち、スリーブ摺動穴24Aとアジャスタ取付穴24Bとの間には、フィードバックリンク47を挿入するためのリンク挿入穴24Fが形成されている。
【0036】
レギュレータケーシング24の軸方向の一端24Dには、一側カバー25がボルト等を用いて取付けられている。一側カバー25にはボルト穴(雌ねじ穴)25Aが形成され、ボルト穴25Aはアジャスタ取付穴24Bと同心上に配置されている。レギュレータケーシング24の軸方向の他端24Eには、他側カバー26がボルト等を用いて取付けられている。他側カバー26にはボルト穴26Aが形成され、ボルト穴26Aは、筒体取付穴24Cと同心上に配置されている。
【0037】
レギュレータケーシング24には、ポンプポート24Gおよび一対のアクチュエータポート24H,24Jが形成されている。ポンプポート24Gおよびアクチュエータポート24H,24Jは、スリーブ摺動穴24Aの軸方向に並んで配置され、それぞれスリーブ摺動穴24Aに開口している。ポンプポート24Gは、アクチュエータポート24Hとアクチュエータポート24Jとの中間部に配置され、後述するポンプ管路53が接続されている。アクチュエータポート24Hは、後述の給排管路57Bを介して傾転シリンダ17の第1液圧室17Cに接続され、アクチュエータポート24Jは、後述の給排管路57Aを介して傾転シリンダ17の第2液圧室17Dに接続されている。また、レギュレータケーシング24には、一対のパイロットポート24K,24Lが形成されている。パイロットポート24Kは、アジャスタ取付穴24Bに開口し、後述のパイロット管路55Bが接続されている。パイロットポート24Lは、筒体取付穴24Cに開口し、後述のパイロット管路55Aが接続されている。
【0038】
スリーブ27は、レギュレータケーシング24のスリーブ摺動穴24Aに挿嵌され、軸方向に移動可能となっている。スリーブ27は円筒状に形成され、スリーブ27の内周側はスプール摺動穴27Aとなっている。スリーブ27は、径方向に貫通する3組の油穴27B,27C,27Dを有し、これら3組の油穴27B,27C,27Dは、それぞれスプール摺動穴27Aの周囲から放射状に延びている。また、スリーブ27の軸方向の一端側(アジャスタ33側)にはリンク係合部27Eが設けられ、このリンク係合部27Eには、フィードバックリンク47の係合ピン48が係合する。
【0039】
3組の油穴27B,27C,27Dのうち、中間(油穴27C,27Dの間)に位置する油穴27Bは、レギュレータケーシング24のポンプポート24Gに連通し、スプール28が中立位置にある状態でアクチュエータポート24H,24Jに対して遮断されている。スリーブ27の軸方向の一側に位置する油穴27Cは、レギュレータケーシング24のアクチュエータポート24Hに連通し、ポンプポート24Gおよびアクチュエータポート24Jに対して遮断されている。スリーブ27の軸方向の他側に位置する油穴27Dは、レギュレータケーシング24のアクチュエータポート24Jに連通し、ポンプポート24Gおよびアクチュエータポート24Hに対して遮断されている。
【0040】
スプール28は、レギュレータケーシング24内にスリーブ27を介して移動可能に設けられている。スプール28は、スリーブ27に対して軸方向に移動することにより、レギュレータケーシング24のポンプポート24Gを、アクチュエータポート24Hまたは24Jに対して連通、遮断する。これにより、傾転アクチュエータ16の第1液圧室17Cまたは第2液圧室17Dに供給されるサーボ圧が調整され、サーボピストン20の移動量が制御される。ここで、本実施形態では、スプール28の移動量とサーボピストン20の移動量とが1対1の関係になるように設定されている。
【0041】
スプール28は、全体として軸方向に延びる段付き円柱状に形成され、軸方向の一側に位置する大径軸部28Aと、軸方向の他側に位置する小径軸部28Bとを有している。スプール28の小径軸部28Bは、スリーブ27のスプール摺動穴27Aに摺動可能に挿嵌されている。また、大径軸部28Aと小径軸部28Bとの間には、大径軸部28Aよりも大きな外径寸法を有する円板状の鍔部28Cが設けられている(図5参照)。スプール28の鍔部28Cは、後述の他側ばね受け44が係合するスプール側係合部材を構成している。
【0042】
スプール28の大径軸部28Aは、スリーブ27から突出してアジャスタ33内に配置されている。スプール28の大径軸部28A側の端部28Dには、後述のピストン35が当接し、小径軸部28B側の端部28Eには、後述のピストン31が当接する。また、スプール28の鍔部28Cには、他側ばね受け44が当接する。
【0043】
スプール28の小径軸部28Bの外周面には、ランド28F,28Gが形成されている。ランド28Fはスリーブ27の油穴27Cに対応し、ランド28Gはスリーブ27の油穴27Dに対応する位置に配置されている。ランド28F,28Gの幅(軸方向の長さ)は、油穴27C,27Dの穴径と等しく形成されている。従って、スプール28が中立位置にあるときには、スリーブ27の油穴27C,27Dが、スプール28のランド28F,28Gによりスプール摺動穴27Aに対して遮断される。一方、スプール摺動穴27A内でスプール28が中立位置から軸方向に移動したときには、スリーブ27の油穴27C,27Dがスプール摺動穴27Aに連通する。
【0044】
パイロット筒体29は、レギュレータケーシング24の筒体取付穴24Cに軸方向の位置調整が可能に固定され、レギュレータケーシング24の一部を構成している。パイロット筒体29は、軸方向の一端29A側が開口端となり、軸方向の他端29Bが閉塞された有底円筒状に形成されている。パイロット筒体29の中心部にはピストン挿嵌穴29Cが形成され、ピストン挿嵌穴29Cは、パイロット筒体29の一端29Aに開口し、パイロット筒体29の他端29B側が底部29Dとなっている。パイロット筒体29の他端29B側には、ピストン挿嵌穴29Cを通って径方向に貫通するポート穴29Eが形成されている。ポート穴29Eは、レギュレータケーシング24のパイロットポート24Lに連通している。
【0045】
筒体当接部材30は、レギュレータケーシング24の他側カバー26に取付けられている。筒体当接部材30は、レギュレータケーシング24の筒体取付穴24C内に突出し、この突出端がパイロット筒体29の他端29Bに当接している。筒体当接部材30は、六角穴付きボルト等を用いて形成され、筒体当接部材30の外周面には、他側カバー26のボルト穴26Aに螺合する雄ねじ30Aが設けられている。筒体当接部材30は、雄ねじ30Aを他側カバー26のボルト穴26Aに螺入することにより、筒体取付穴24C内でパイロット筒体29の他端29Bに当接する。従って、筒体当接部材30の螺入量に応じて、パイロット筒体29のポート穴29Eを、レギュレータケーシング24のパイロットポート24Lに対して位置調整することができる。そして、筒体当接部材30にロックナット30Bを螺着することにより、パイロット筒体29を位置決めすることができる。
【0046】
ピストン31は、パイロット筒体29のピストン挿嵌穴29Cに摺動可能に挿嵌されている。ピストン31の一端31Aは、パイロット筒体29の一端29Aからスプール28の端部28Eに向けて突出している。
【0047】
パイロット油室32は、ピストン31の他端31Bとピストン挿嵌穴29Cの底部29Dとの間に位置して、パイロット筒体29のピストン挿嵌穴29Cに形成されている。パイロット油室32は、パイロット筒体29のポート穴29Eを介してレギュレータケーシング24のパイロットポート24Lに連通している。従って、パイロットポート24Lに導入された指令圧(パイロット圧)が、パイロット筒体29のポート穴29Eを通じてパイロット油室32に供給されたときには、ピストン31は、スプール28をパイロット筒体29から離れる方向に押圧する。
【0048】
アジャスタ33は、レギュレータケーシング24のアジャスタ取付穴24Bに軸方向の位置調整が可能に固定され、レギュレータケーシング24の一部を構成している。アジャスタ33は、小径筒部33Aと大径筒部33Bとを有し、軸方向に延びる段付き円筒状に形成されている。小径筒部33Aの中心部には、後述のストッパ36が挿嵌されるストッパ嵌合穴33Cが形成され、ストッパ嵌合穴33Cは大径筒部33Bまで延在している。大径筒部33Bの端部33D側には、ストッパ嵌合穴33Cよりも大きな穴径を有するスプール収容穴33Eと、スプール収容穴33Eの一部を構成するばね収容穴33Fが形成されている。ばね収容穴33Fは、スプール収容穴33Eよりも大きな穴径を有している。スプール収容穴33Eにはスプール28の大径軸部28Aが収容され、ばね収容穴33Fには、スプール28の大径軸部28Aと後述のばね機構39が収容されている。スプール収容穴33Eとばね収容穴33Fとの境界部は環状段部33Gとなり、環状段部33Gは、後述の一側ばね受け42が係合するアジャスタ側係合部材を構成している。
【0049】
大径筒部33Bには、スプール収容穴33Eに隣接してピストン挿嵌穴33Hが形成されている。ピストン挿嵌穴33Hの一端はストッパ嵌合穴33Cに開口し、ピストン挿嵌穴33Hの他端はスプール収容穴33Eに開口している。ピストン挿嵌穴33Hは、ストッパ嵌合穴33Cよりも小さな穴径を有し、後述のピストン35が挿嵌される。アジャスタ33の大径筒部33Bには、ストッパ嵌合穴33Cを通って径方向に貫通するポート穴33Jが形成され、ポート穴33Jは、レギュレータケーシング24のパイロットポート24Kに連通している。
【0050】
アジャスタ33の小径筒部33Aの外周面には、雄ねじ33Kが設けられている。雄ねじ33Kは、一側カバー25のボルト穴25Aに螺入されている。従って、一側カバー25(ボルト穴25A)に対する雄ねじ33Kの螺入量を調整することにより、レギュレータケーシング24に対するアジャスタ33の位置調整を行うことができる。これにより零位置の調整を行うことができる。そして、雄ねじ33Kに螺着したロックナット34を一側カバー25に当接させることにより、アジャスタ33を位置決めすることができる。また、アジャスタ33の小径筒部33Aに設けられたストッパ嵌合穴33Cの内周面には、雌ねじ33Lが形成されている。
【0051】
ピストン35は、アジャスタ33のピストン挿嵌穴33Hに摺動可能に挿嵌されている。ピストン35の一端35Aは、ストッパ嵌合穴33C内に突出し、ピストン35の他端35Bは、スプール収容穴33E内に突出している。
【0052】
ストッパ36は、アジャスタ33のストッパ嵌合穴33Cに移動可能に嵌合している。ストッパ36の一端36Aには、ドライバ等の工具が係合する工具係合部36Bが設けられ、ストッパ36の一端36A側の外周面には、雄ねじ36Cが形成されている。ストッパ36は、雄ねじ36Cをアジャスタ33の雌ねじ33Lに螺入することにより、アジャスタ33のストッパ嵌合穴33Cに嵌合し、ストッパ36の他端36Dはピストン35の一端35Aに当接する。
【0053】
従って、雌ねじ33Lに対する雄ねじ36Cの螺入量を調整することにより、アジャスタ33のスプール収容穴33E内に突出するピストン35の突出長さを調整することができる。そして、ストッパ36の雄ねじ36Cに螺着したロックナット37を、アジャスタ33の小径筒部33Aの端部に当接させることにより、アジャスタ33に対してストッパ36を位置決めすることができる。
【0054】
パイロット油室38は、ストッパ36の他端36Dとピストン35との間に位置して、アジャスタ33のストッパ嵌合穴33Cに形成されている。パイロット油室38は、アジャスタ33のポート穴33Jを介してレギュレータケーシング24のパイロットポート24Kに連通している。従って、パイロットポート24Kに導入された指令圧(パイロット圧)が、アジャスタ33のポート穴33Jを通じてパイロット油室38に供給されることにより、ピストン35は、スプール28をストッパ36から離れる方向に押圧する。
【0055】
次に、本実施形態に用いられるばね機構39について説明する。
【0056】
ばね機構39は、アジャスタ33のばね収容穴33F内に配置されたスプール28の大径軸部28Aとアジャスタ33との間に設けられている。図5に示すように、ばね機構39は、スプール側係合部材としてのスプール28の鍔部28Cおよび軸用止め輪40と、アジャスタ側係合部材としてのアジャスタ33の環状段部33Gおよび穴用止め輪41と、一側ばね受け42、他側ばね受け44、圧縮ばね46とを含んで構成されている。ばね機構39は、スプール28に対し、ピストン31またはピストン35から作用する押圧力とは反対方向のばね力を付与する。
【0057】
軸用止め輪40は、スプール28を構成する大径軸部28Aの端部28D側の外周面に取付けられている。軸用止め輪40は、一側ばね受け42が係合するスプール側係合部材を構成している。軸用止め輪40の外径寸法は、アジャスタ33に設けられたスプール収容穴33Eの穴径よりも小さく設定されている。穴用止め輪41は、アジャスタ33を構成する大径筒部33Bの端部33D側の内周面に取付けられている。穴用止め輪41は、他側ばね受け44が係合するアジャスタ側係合部材を構成している。穴用止め輪41の内径寸法は、スプール28に設けられた鍔部28Cの外径寸法よりも大きく設定されている。
【0058】
一側ばね受け42は、軸用止め輪40に近接して大径軸部28Aの外周側に挿嵌され、軸方向に移動可能となっている。一側ばね受け42は、圧縮ばね46の一端が当接する環状のフランジ部42Aを有している。フランジ部42Aの外径寸法は、アジャスタ33に設けられたばね収容穴33Fの穴径よりも小さく、スプール収容穴33Eの穴径よりも大きく設定されている。従って、一側ばね受け42は、フランジ部42Aがアジャスタ33の環状段部33Gに係合することにより、ばね収容穴33F内でのみスプール28の大径軸部28Aに対して移動可能となっている。また、軸用止め輪40と一側ばね受け42との間には、大径軸部28Aの外周に嵌合する環状の一側スペーサ43が配置されている。
【0059】
他側ばね受け44は、穴用止め輪41に近接して大径軸部28Aの外周側に挿嵌され、軸方向に移動可能となっている。他側ばね受け44は、圧縮ばね46の他端が当接する環状のフランジ部44Aを有している。他側ばね受け44の内径寸法は、大径軸部28Aの外径寸法よりも大きく、鍔部28Cの外径寸法よりも小さく設定されている。フランジ部44Aの外径寸法は、ばね収容穴33Fの穴径よりも小さく設定されている。また、穴用止め輪41と他側ばね受け44との間には、ばね収容穴33Fの内周面に嵌合する環状の他側スペーサ45が配置されている。他側スペーサ45の内径寸法は、鍔部28Cの外径寸法よりも大きく設定されている。ここで、図5に示すように、スプール28が中立位置を保持している状態で、例えばスプール28の鍔部28Cと他側ばね受け44との間には、所定の軸方向のクリアランスΔXが形成されている。
【0060】
圧縮ばね46は、スプール28の大径軸部28Aの外周側に配置され、一側ばね受け42のフランジ部42Aと他側ばね受け44のフランジ部44Aとの間に設けられている。圧縮ばね46は、自由長さよりも縮小した状態で一側ばね受け42と他側スペーサ45との間に配置され、所定のセット荷重(ばね荷重)をもって軸用止め輪40と穴用止め輪41との間に縮装されている。圧縮ばね46は、スプール28に対し、ピストン31またはピストン35から作用する押圧力とは反対方向のばね力を付与する。
【0061】
従って、スプール28は、パイロット油室32に指令圧が供給されてピストン31に押圧されたときには、まず、クリアランスΔXの分だけアジャスタ33側に移動する。そして、ピストン31からスプール28に作用する荷重が、ばね機構39(圧縮ばね46)のセット荷重よりも大きくなると、スプール28は、圧縮ばね46を縮小させながら、さらにアジャスタ33側に移動する。一方、スプール28は、パイロット油室38に指令圧が供給されてピストン35に押圧されたときには、まず、クリアランスΔXの分だけパイロット筒体29側に移動する。そして、ピストン35からスプール28に作用する荷重が、ばね機構39(圧縮ばね46)のセット荷重よりも大きくなると、スプール28は、圧縮ばね46を縮小させながら、さらにパイロット筒体29側に移動する。
【0062】
ここで、本実施形態では、スプール28の移動量とサーボピストン20の移動量とが1対1の関係になるように設定されている。このため、ピストン31またはピストン35からスプール28に作用する荷重が、ばね機構39(圧縮ばね46)のセット荷重以下であるときには、スプール28は一定の位置を保持し、サーボピストン20も傾転シリンダ17内を移動することなく、一定の位置を保持する。即ち、本実施形態では、ばね機構39(圧縮ばね46)のセット荷重により、サーボピストン20の不感帯領域が設定されている。
【0063】
フィードバックリンク47は、レギュレータ23のスリーブ27とサーボピストン20との間に設けられている。フィードバックリンク47は、斜板式油圧ポンプ1の斜板11が傾転動作を行ったときに、この傾転動作に追従させてレギュレータ23のスリーブ27をフィードバック制御するように、スプール28に対してスリーブ27を軸方向に移動させる。
【0064】
フィードバックリンク47は、長さ方向の一端側が係合ピン48を介してスリーブ27のリンク係合部27Eに係合している。フィードバックリンク47の長さ方向の他端側には、ばね性を有するレバー部材49が一体的に取付けられ、このレバー部材49は、サーボピストン20のリンク取付溝20Dに係合している。フィードバックリンク47の長さ方向の中間部には支点ピン50が挿通され、支点ピン50は、例えばケーシング本体3のアクチュエータ取付部3Bに設けられた開口部3Cの近傍に取付けられている。これにより、フィードバックリンク47は、開口部3Cを通ってスリーブ27とサーボピストン20との間を連結し、支点ピン50を中心として回動(揺動)することにより、サーボピストン20の軸方向の変位がスリーブ27に伝達される。
【0065】
次に、傾転アクチュエータ16およびレギュレータ23を含む油圧回路について、図3および図6を参照して説明する。
【0066】
パイロットポンプ51は、タンク52に貯留された油液をサーボ圧としてポンプ管路53に吐出する。ポンプ管路53は、レギュレータ23(レギュレータケーシング24)のポンプポート24Gに接続され、サーボ圧は、ポンプポート24Gからスリーブ27のスプール摺動穴27A内に供給される。
【0067】
ポンプ管路53には、2つの分岐管路53A,53Bが分岐して接続されている。分岐管路53A,53Bは、傾転操作弁54A,54Bを介してパイロット管路55A,55Bに接続されている。パイロット管路55Aは、レギュレータ23のパイロットポート24Lを介してパイロット筒体29内のパイロット油室32に接続されている。パイロット管路55Bは、レギュレータ23のパイロットポート24Kを介してアジャスタ33内のパイロット油室38に接続されている。
【0068】
傾転操作弁54A,54Bは、例えば電磁比例弁により構成されている。傾転操作弁54A,54Bは、それぞれ常時は戻し位置(a)を保持し、オペレータの操作に応じてコントローラ(図示せず)から目標とする斜板11の傾転角度、傾転量に応じた電流が印加されることにより、供給位置(b)へと切換えられる。傾転操作弁54Aは、戻し位置(a)においては、パイロット管路55Aをタンク管路56Aを介してタンク52に接続し、供給位置(b)においては、分岐管路53Aをパイロット管路55Aを介してパイロット油室32に接続する。傾転操作弁54Bは、戻し位置(a)においては、パイロット管路55Bをタンク管路56Bを介してタンク52に接続し、供給位置(b)においては、分岐管路53Bをパイロット管路55Bを介してパイロット油室38に接続する。ここで、傾転操作弁54A,54Bは、電流値に比例して切換操作されるため、パイロット管路55A,55Bには、分岐管路53A,53Bからの指令圧が、傾転操作弁54A,54Bの操作量に応じて可変に圧力制御(調整)された状態で供給される。
【0069】
サーボ圧の給排管路57A,57Bは、レギュレータ23(レギュレータケーシング24)と傾転アクチュエータ16との間に設けられている。給排管路57Aは、レギュレータ23のアクチュエータポート24Jと傾転シリンダ17の第2液圧室17Dとの間を接続している。給排管路57Bは、レギュレータ23のアクチュエータポート24Hと傾転シリンダ17の第1液圧室17Cとの間を接続している。
【0070】
傾転アクチュエータ16のサーボピストン20は、第1液圧室17C内の圧力と第2液圧室17D内の圧力との差圧に応じて傾転シリンダ17内を軸方向に移動する。サーボピストン20の軸方向の移動は、傾転レバー12を介して斜板式油圧ポンプ1の斜板11に伝達され、斜板11は、サーボピストン20の移動量に応じて傾転動作を行う。一方、サーボピストン20の軸方向の移動は、フィードバックリンク47を介してレギュレータ23のスリーブ27に伝達され、スリーブ27は、斜板11の傾転動作に追従してフィードバック制御される。
【0071】
本実施形態による斜板式油圧ポンプ1は、上述の如き構成を有するもので、次に、斜板11を傾転角度が零の中立位置から一方向および他方向に傾転させるときのレギュレータ23、傾転アクチュエータ16等の動作について説明する。
【0072】
斜板式油圧ポンプ1の斜板11を、中立位置から一方向に傾転駆動する場合には、例えば傾転操作弁54Aを戻し位置(a)に保持し、傾転操作弁54Bを戻し位置(a)から供給位置(b)に切換える。
【0073】
これにより、ポンプ管路53から分岐管路53Bへと流れる指令圧は、傾転操作弁54Bからパイロット管路55Bを介して、レギュレータ23(アジャスタ33)のパイロット油室38に供給される。このとき、傾転操作弁54Aは戻し位置(a)を保持しているため、パイロット管路55A内はタンク圧に保たれ、レギュレータ23(パイロット筒体29)のパイロット油室32もタンク圧に保たれる。このため、ピストン35は、パイロット油室38内の指令圧を受圧し、スプール28に対し、図3中の矢示A方向への押圧力を付与する。
【0074】
このとき、図5に示すように、大径軸部28Aとアジャスタ33との間にはばね機構39が設けられ、大径軸部28Aに取付けられた軸用止め輪40とアジャスタ33に取付けられた穴用止め輪41との間には、圧縮ばね46が所定のセット荷重をもって縮装されている。また、スプール28の鍔部28Cと他側ばね受け44との間には、所定の軸方向のクリアランスΔXが形成されている。
【0075】
これにより、図7に示す特性線58のように、指令圧Ppが、ばね機構39(圧縮ばね46)のセット荷重に対応する圧力Pp0以下の範囲(Pp≦Pp0)では、スプール28の位置Xは、斜板11が中立位置にあるときの中立位置(零)から、スプール28が鍔部28Cと他側ばね受け44との間に形成されたクリアランスΔXを移動した量に対応する位置X1に変位し、この位置X1を保持する。そして、指令圧Ppが、圧縮ばね46のセット荷重に対応する圧力Pp0を超えると、スプール28は、圧縮ばね46のばね力に抗して(圧縮ばね46を縮小させて)図3中の矢示A方向へと移動し、スプール28の位置Xは、指令圧Ppの増加に伴って位置X1から増加していく(スプール28の移動量が増加する)。
【0076】
スプール28が、スリーブ27に沿って矢示A方向に移動すると、スプール28のランド28F,28G間で、スリーブ27の油穴27Bが油穴27Dに連通する。これにより、レギュレータケーシング24のポンプポート24Gが、アクチュエータポート24Jに連通する。従って、パイロットポンプ51からポンプ管路53を介してポンプポート24Gに供給されたサーボ圧は、アクチュエータポート24J、給排管路57Aを介して傾転シリンダ17の第2液圧室17Dに供給される。
【0077】
パイロットポンプ51からのサーボ圧が、傾転シリンダ17の第2液圧室17Dに供給されると、サーボピストン20は、図3中の矢示C方向に移動する。これに伴い、傾転アクチュエータ16の第1液圧室17C内の油液は、給排管路57B、レギュレータケーシング24のアクチュエータポート24H等を介してスリーブ摺動穴24Aに排出され、ドレン通路(図示せず)を通じてタンク52に戻される。
【0078】
ここで、本実施形態による斜板式油圧ポンプ1は、図8の特性線59に示すように、スプール28の移動量とサーボピストン20の移動量とが1対1の関係となるように設定されている。このため、スプール28の位置Xが、斜板11が中立位置にあるときの中立位置(零)から位置X1に変位した場合には、サーボピストン20の位置Sは、斜板11が中立位置にあるときの中立位置(零)に対し、スプール28の移動量に対応した位置S1に変位する。
【0079】
従って、図9に示す特性線60のように、指令圧Ppが、ばね機構39(圧縮ばね46)のセット荷重に対応する圧力Pp0以下の範囲(Pp≦Pp0)では、サーボピストン20の位置Sは、まず、中立位置(零)から位置S1まで移動し、この位置S1を保持する。このときのサーボピストン20の移動量は、スプール28が鍔部28Cと他側ばね受け44との間に形成されたクリアランスΔXを移動した移動量(スプール28の位置X1)に対応する。そして、指令圧Ppが、ばね機構39(圧縮ばね46)のセット荷重に対応する圧力Pp0を超えると、サーボピストン20の位置Sは、スプール28と同様に、指令圧Ppの増加に伴って位置S1から増加していく(サーボピストン20の移動量が増加する)。
【0080】
ここで、傾転シリンダ17の第1液圧室17C内には、サーボピストン20とばねガイド21Bとの間に所定のクリアランス(図示せず)が形成されている。このため、サーボピストン20は、指令圧Ppの増加に伴って、第1サーボばね21の圧縮ばね21Cを縮小させることなく、位置S1から前記クリアランス分だけ移動した位置S2に変位する。そして、指令圧Ppが、第1サーボばね21(圧縮ばね21C)のセット荷重に対応する圧力を超えると、サーボピストン20は、圧縮ばね21Cのばね力に抗して(圧縮ばね21Cを縮小させて)矢示C方向へと移動し、サーボピストン20の位置Sは、指令圧Ppの増加に伴って位置S2からさらに増加していく(サーボピストン20の移動量がさらに増加する)。
【0081】
図9に示すように、本実施形態では、サーボピストン20が位置S1から位置S2まで変位する間の移動量、即ち、サーボピストン20が、第1サーボばね21(圧縮ばね21C)のセット荷重によって設定された第2の不感帯領域内で移動する移動量は、サーボピストン20が零から位置S1まで変位する間の移動量、即ち、サーボピストン20が、ばね機構39(圧縮ばね46)のセット荷重によって設定された不感帯領域内で移動する移動量よりも大きくなっている。
【0082】
サーボピストン20が位置S1を保持している間は、サーボピストン20による斜板11の傾転操作が行われず、斜板11は傾転角度がほぼ零となる中立位置を保持する。斜板11の傾転角度が零に近い状態にあり、レギュレータ23のスプール28に作用するピストン31からの押圧力が、ばね機構39のセット荷重によって設定された不感帯領域内にある場合には、スプール28は移動することなく中立位置を保持し、傾転シリンダ17の第2液圧室17Dに対するサーボ圧の供給が遮断される。このため、斜板11の傾転角度が零に近い状態において、例えばレギュレータ23を構成する部品の製造誤差、パイロットポート24K,24Lに供給される指令圧の誤差等があったとしても、スプール28は中立位置を安定的に保持することができる。この結果、スプール28の中立位置と斜板11の傾転角度とを安定的に合わせることができ、例えば傾転角度が零に近い状態での斜板11の傾転角度を安定させることができる。
【0083】
また、レギュレータ23のパイロット油室38に供給される指令圧Ppが、ばね機構39(圧縮ばね46)のセット荷重に対応する圧力Pp0を超えると、傾転シリンダ17の第2液圧室17Dにサーボ圧が供給され、サーボピストン20は位置S1から移動する。ここで、サーボピストン20が位置S1から位置S2に変位する間は、サーボピストン20は、傾転シリンダ17の第1液圧室17C内でサーボピストン20とばねガイド21Bとの間に形成されたクリアランス分を移動するため、第1サーボばね21によるばね力を受けることはない。
【0084】
このとき、サーボピストン20には、第1液圧室17C内の指令圧と第2液圧室17D内の指令圧との差圧ΔPsと、ピストン8からの油圧力、慣性力等によって斜板11に加わる外力Fとが作用する。従って、サーボピストン20が位置S1から位置S2までの間にあり、斜板11の目標傾転角度が零に近い比較的小さな傾転角度である場合には、サーボピストン20は、差圧ΔPsと外力Fとが釣合う(ΔPs=F)位置で停止し、斜板11を目標傾転角度へと変化させる。
【0085】
さらに、レギュレータ23のパイロット油室38に供給される指令圧Ppが、傾転シリンダ17の第1サーボばね21(圧縮ばね21C)のセット荷重に対応する圧力を超えると、サーボピストン20は、位置S2から圧縮ばね21Cを縮小させながら矢示C方向へと移動する。このとき、サーボピストン20には、第1液圧室17C内の指令圧と第2液圧室17D内の指令圧との差圧ΔPsと、ピストン8からの油圧力、慣性力等によって斜板11に加わる外力Fと、圧縮ばね21Cのばね力Kx(圧縮ばね21Cのばね定数Kと撓み量xとの積)とが作用する。従って、サーボピストン20が位置S2を超えた位置にあり、斜板11の目標傾転角度が比較的大きい場合には、サーボピストン20は、差圧ΔPsと、外力Fと圧縮ばね21Cのばね力Kxとの和が釣合う(ΔPs=F+Kx)位置で停止し、斜板11を目標傾転角度へと変化させる。
【0086】
本実施形態では、サーボピストン20が第1サーボばね21のセット荷重によって設定された第2の不感帯領域内で移動する移動量を、サーボピストン20がばね機構39のセット荷重によって設定された不感帯領域内で移動する移動量よりも大きく設定している。これにより、サーボピストン20が位置S1から位置S2までの間にある場合には、サーボピストン20は、第1サーボばね21(圧縮ばね21C)のばね力に関わらず、第1液圧室17C内の指令圧と第2液圧室17D内の指令圧との差圧ΔPsと、斜板11に加わる外力Fとの釣合いに基づいて斜板11の傾転角度を変化させることができる。従って、仮に圧縮ばね21Cの製作誤差により、第1サーボばね21のばね力Kxに誤差(ばらつき)があったとしても、斜板11の目標傾転角度が零に近い比較的小さな傾転角度である範囲では、第1サーボばね21のばね力Kxの誤差の影響を受けることがない。この結果、斜板11の傾転角度を、零から比較的小さい範囲(傾転角度が零に近い状態)において安定して制御することができる。
【0087】
このようにして、サーボピストン20が矢示C方向に移動すると、サーボピストン20の移動は、フィードバックリンク47を介してレギュレータ23のスリーブ27へと伝えられる。即ち、レギュレータ23は、サーボピストン20の動きがフィードバックリンク47を介して伝えられることにより、スリーブ27をスプール28と同方向に摺動変位させるようにフィードバック制御される。これにより、スリーブ27は、油穴27C,27Dがスプール28のランド28F,28Gによりスプール摺動穴27Aに対して遮断(閉塞)される位置までフィードバック制御される。このようにして、レギュレータ23から傾転アクチュエータ16に対するサーボ圧の供給を停止することにより、サーボピストン20を任意の位置に保持することができ、斜板式油圧ポンプ1の斜板11を、中立位置から一方向に傾転させた状態に保持することができる。
【0088】
一方、斜板式油圧ポンプ1の斜板11を、中立位置から他方向に傾転駆動する場合には、傾転操作弁54Bを戻し位置(a)に保持し、傾転操作弁54Aを戻し位置(a)から供給位置(b)に切換える。これにより、レギュレータ23のパイロット油室32に指令圧(パイロット圧)Ppが供給され、パイロット油室38はタンク圧の状態に保たれる。このため、ピストン31は、パイロット油室32内の指令圧Ppを受圧し、スプール28の小径軸部28B側の端部28Eを押圧する。
【0089】
このように、ピストン31からスプール28に対し、図3中の矢示B方向への押圧力が作用したときには、ばね機構39の圧縮ばね46からスプール28に対し、ピストン31の押圧力とは反対方向(矢示A方向)へのばね力が作用する。このため、ピストン31の押圧力、即ち、パイロット油室32内の指令圧Ppが、圧縮ばね46のセット荷重よりも小さいときには、スプール28が移動することはない。そして、パイロット油室32内の指令圧Ppが、圧縮ばね46のセット荷重以上になると、スプール28は、圧縮ばね46のばね力に抗して矢示B方向へと移動する。
【0090】
これにより、レギュレータ23から傾転シリンダ17の第1液圧室17Cにサーボ圧を供給することができ、サーボピストン20を図3中の矢示D方向に移動させることができる。サーボピストン20の移動は、フィードバックリンク47を介してレギュレータ23のスリーブ27へと伝えられ、スリーブ27は、油穴27C,27Dがスプール28のランド28F,28Gによりスプール摺動穴27Aに対して遮断される位置までフィードバック制御される。このようにして、レギュレータ23から傾転アクチュエータ16に対するサーボ圧の供給を停止することにより、サーボピストン20を任意の位置に保持することができ、斜板式油圧ポンプ1の斜板11を、中立位置から他方向に傾転させた状態に保持することができる。
【0091】
かくして、実施形態では、傾転角度に応じて吐出容量を変化させる斜板11と、傾転シリンダ17および傾転シリンダ17内に第1液圧室17Cと第2液圧室17Dとを形成するサーボピストン20を有し、第1液圧室17C内の圧力と第2液圧室17D内の圧力との差圧によって傾転シリンダ17内を移動するサーボピストン20により斜板11の傾転角度を変化させる傾転アクチュエータ16と、サーボピストン20を移動させるために指令圧に応じて第1液圧室17Cまたは第2液圧室17Dに供給される圧力を調整するレギュレータ23とを備えてなる可変容量型液圧回転機において、レギュレータ23に供給される指令圧が所定の圧力に達するまでの間、当該指令圧の大きさに関わらずサーボピストン20が傾転シリンダ17に対して一定の位置を保持する不感帯領域を有することを特徴としている。
【0092】
この構成によれば、レギュレータ23に供給される指令圧が、零から所定の圧力に達するまでの不感帯領域において、サーボピストン20は、傾転シリンダ17内で一定の位置を保持する。これにより、斜板11の傾転角度を一定に保持することができ、レギュレータ23(例えばスプール28)の中立位置と斜板11の傾転角度とを安定的に合わせることができる。
【0093】
実施形態では、レギュレータ23は、レギュレータケーシング24内にスリーブ27を介して移動可能に設けられ、指令圧に応じて移動することにより第1液圧室17Cまたは第2液圧室17Dに供給される圧力を調整するスプール28と、レギュレータケーシング24に設けられ、レギュレータケーシング24内に供給される指令圧によりスプール28を押圧しスリーブ27に対して移動させるピストン31,35と、レギュレータケーシング24とスプール28との間に設けられ、スプール28に対しピストン31,35からの押圧力とは反対方向のばね力を付与するばね機構39とを備え、前記不感帯領域は、ばね機構39のセット荷重により設定される。この構成によれば、レギュレータ23に供給される指令圧が、ばね機構39のセット荷重によって設定された不感帯領域内にある間は、斜板11の傾転角度を一定に保持することができる。
【0094】
実施形態では、ばね機構39は、スプール28の軸方向の一端側を収容するスプール収容穴33Eを有し、レギュレータケーシング24内に位置調整可能に固定されるアジャスタ33と、スプール収容穴33E内でスプール28に設けられたスプール側係合部材(鍔部28Cおよび軸用止め輪40)と、スプール収容穴33E内でアジャスタ33に設けられたアジャスタ側係合部材(環状段部33Gおよび穴用止め輪41)と、スプール収容穴33E内でスプール28に取付けられ、前記スプール側係合部材と前記アジャスタ側係合部材との間でスプール28の軸方向に移動可能となった一対のばね受け(一側ばね受け42および他側ばね受け44)と、前記一対のばね受け間に縮装された圧縮ばね46とを含んで構成されている。この構成によれば、スプール28の軸方向の一端側に設けられた1個の圧縮ばね46により、ピストン31からスプール28に作用する押圧力、およびピストン35からスプール28に作用する押圧力に対し、それぞれ反対方向のばね力を付与することができる。従って、ピストン31またはピストン35を駆動するためにレギュレータ23に供給される指令圧の不感帯領域を、圧縮ばね46のセット荷重によって等しく設定することができる。
【0095】
実施形態では、傾転アクチュエータ16は、サーボピストン20を第2液圧室17Dに向けて押圧する第1サーボばね21と、サーボピストン20を第1液圧室17Cに向けて押圧する第2サーボばね22とを有し、第1液圧室17C内の圧力と第2液圧室17D内の圧力との差圧が所定の圧力に達するまでの間、サーボピストン20が第1サーボばね21および第2サーボばね22のセット荷重により傾転シリンダ17に対して一定の位置を保持する第2の不感帯領域を有している。この構成によれば、レギュレータ23に供給される指令圧が、ばね機構39のセット荷重によって設定される不感帯領域を超えると、スプール28がスリーブ27に対して移動し、第1液圧室17Cまたは第2液圧室17Dにサーボ圧が供給される。このとき、第1液圧室17C内の圧力と第2液圧室17D内の圧力との差圧が、第2の不感帯領域内にある場合には、サーボピストン20は、第1サーボばね21または第2サーボばね22のばね力を受けることなく傾転シリンダ17内を移動し、斜板11の傾転角度を変化させることができる。
【0096】
実施形態では、前記第2の不感帯領域内でサーボピストン20が移動する移動量は、前記不感帯領域内でサーボピストン20が移動する移動量よりも大きい。この構成によれば、サーボピストン20が、傾転シリンダ17内で移動し始めてから第1サーボばね21または第2サーボばね22のばね力を受けるまでの間、即ち、斜板11の傾転角度を零から比較的小さい傾転角度に変化させるときには、サーボピストン20は、第1サーボばね21および第2サーボばね22のばね力に関わらずに斜板11を傾転させることができる。この結果、斜板11の傾転角度が比較的小さい範囲(傾転角度が零に近い状態)において、斜板11の傾転角度の制御を安定して行うことができる。
【0097】
なお、実施形態では、傾転アクチュエータ16、レギュレータ23等を備えた可変容量型液圧回転機として可変容量型の斜板式油圧ポンプ1を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば可変容量型の斜板式油圧モータにも適用することができ、可変容量型の斜軸式油圧ポンプおよび斜軸式油圧モータにも適用することができる。
【符号の説明】
【0098】
1 斜板式油圧ポンプ(可変容量型液圧回転機)
11 斜板(傾転部材)
16 傾転アクチュエータ
17 傾転シリンダ
17C 第1液圧室
17D 第2液圧室
20 サーボピストン
21 第1サーボばね
22 第2サーボばね
23 レギュレータ
24 レギュレータケーシング
27 スリーブ
28 スプール
28C 鍔部(スプール側係合部材)
31,35 ピストン
33 アジャスタ
33E スプール収容穴
33G 環状段部(アジャスタ側係合部材)
39 ばね機構
40 軸用止め輪(スプール側係合部材)
41 穴用止め輪(アジャスタ側係合部材)
42 一側ばね受け(ばね受け)
44 他側ばね受け(ばね受け)
46 圧縮ばね
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9