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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140920
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】車両用制動装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20241003BHJP
   B60T 13/122 20060101ALI20241003BHJP
   B60T 13/138 20060101ALI20241003BHJP
   B60T 8/36 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B60T8/17 B
B60T13/122 A
B60T13/138 A
B60T8/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052289
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】余語 和俊
【テーマコード(参考)】
3D048
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB02
3D048BB11
3D048CC54
3D048DD02
3D048HH18
3D048HH26
3D048HH42
3D048HH50
3D048HH56
3D048QQ16
3D048RR06
3D048RR35
3D246BA02
3D246CA02
3D246DA01
3D246GA01
3D246GB37
3D246HA03A
3D246HA45A
3D246JB26
3D246LA02Z
3D246LA33Z
3D246LA63Z
3D246LA71Z
3D246LA73B
3D246MA06
3D246MA21
(57)【要約】
【課題】バイワイヤ式の車両用制動装置において、電気的故障が発生した場合でもホイールシリンダに残圧が発生しないようにする。
【解決手段】本発明の車両用制動装置は、車両の車輪に対して設けられ、ブレーキ液が導入されることで制動力を発生させるホイールシリンダと、ブレーキ液を貯留するリザーバと、吐出孔を有する液圧室を備え、電気モータの駆動に応じてピストンが摺動することでブレーキ液の排出、流入を行う電動シリンダと、前記吐出孔と前記ホイールシリンダとを接続するブレーキ液路と、前記ブレーキ液路と前記リザーバとを接続するリリース液路と、前記リリース液路に設けられ、通電時に遮断し、非通電時に連通する常開型の電磁弁であるリザーバ遮断弁と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪に対して設けられ、ブレーキ液が導入されることで制動力を発生させるホイールシリンダと、
ブレーキ液を貯留するリザーバと、
吐出孔を有する液圧室を備え、電気モータの駆動に応じてピストンが摺動することでブレーキ液の排出、流入を行う第1の加圧機構である電動シリンダと、
前記吐出孔と前記ホイールシリンダとを接続するブレーキ液路と、
前記ブレーキ液路と前記リザーバとを接続するリリース液路と、
前記リリース液路に設けられ、通電時に遮断し、非通電時に連通する常開型の電磁弁であるリザーバ遮断弁と、を備え、
前記ホイールシリンダは、第1系統のホイールシリンダと、前記第1系統とは別の第2系統のホイールシリンダと、があり、
前記ブレーキ液路は、前記第1系統のホイールシリンダと接続される第1ブレーキ液路と、前記第2系統のホイールシリンダと接続される第2ブレーキ液路とに第1分岐点で分岐され、
前記第1分岐点よりも前記吐出孔とは遠い側の前記第1ブレーキ液路に設けられ、前記第1ブレーキ液路を非通電時に遮断し、通電時に連通する常閉型の系統連通弁と、
ブレーキ液の導入排出が可能な第2の加圧機構と、
通電時に遮断し、非通電時に連通する常開型の電磁弁であるマスタ遮断弁と、を有し、
前記第2の加圧機構はマスタ液路を介して、前記第1系統のホイールシリンダと前記系統連通弁の間で前記第1ブレーキ液路と接続され、前記マスタ液路には、前記マスタ遮断弁が設けられ、
前記リリース液路は前記系統連通弁よりも前記吐出孔の側で前記ブレーキ液路に接続されることを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
前記ブレーキ液路において、前記ブレーキ液路と前記リリース液路との接続点よりも前記吐出孔の側に設けられ、通電時に連通し、非通電時に遮断する常閉型の電磁弁である連通弁を、さらに備える請求項1に記載の車両用制動装置。
【請求項3】
前記ブレーキ液路として、
前記吐出孔と複数の前記ホイールシリンダのうちの第1系統の前記ホイールシリンダとを接続する前記第1ブレーキ液路と、
前記吐出孔と複数の前記ホイールシリンダのうちの第2系統の前記ホイールシリンダとを接続する前記第2ブレーキ液路と、が設けられ、
前記リリース液路は、前記第2ブレーキ液路と前記リザーバとを接続し、
前記車両用制動装置は、
前記第2ブレーキ液路において、前記第2ブレーキ液路と前記リリース液路との接続点よりも前記吐出孔の側に設けられ、通電時に連通し、非通電時に遮断する常閉型の電磁弁である第2系統側接続弁を、さらに備える請求項1に記載の車両用制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1の技術は、車両(自動車)用のバイワイヤ式のブレーキ制御装置に関する。以下、特許文献1の図1に沿って説明する。第1系統(ホイールブレーキFL,RR)はシングルマスタシリンダ(ブレーキマスターシリンダ21)に接続されている。また、第2系統(ホイールブレーキFR,RL)は電動シリンダ(圧力供給装置22)に接続されている。そして、第1系統と第2系統は常閉型の系統連通弁(接続弁184)を介して接続されている。
【0003】
正常な制動時は、常開型のマスタ遮断弁(分離弁150)を閉弁し、系統連通弁(接続弁184)を開弁し、ブレーキペダル操作量に応じた目標圧を電動シリンダ(圧力供給装置22)で生成して4輪のホイールシリンダ(ホイールブレーキFL,RR,FR,RL)に供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2021-504229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、電動シリンダ(圧力供給装置22)で4輪を加圧している時に、ブレーキ制御装置に電気的故障(ECU故障、バッテリー失陥、配線故障など)が発生すると、電磁弁やモータ(電動シリンダ(圧力供給装置22))を駆動できなくなる。そうすると、マスタ遮断弁(分離弁150)は開弁し、系統連通弁(接続弁184)は閉弁し、電動シリンダ(圧力供給装置22)は第2系統に発生している液圧でピストンが押し戻される。
【0006】
その際、ピストンが初期位置まで戻れば電動シリンダ(圧力供給装置22)の液圧室はリザーバ(圧力媒体貯留容器18)と連通する。しかし、例えば低温の場合、電動シリンダ(圧力供給装置22)において、ピストンの摺動抵抗や伝達ギヤのロストルクが大きいため、ピストンを液圧室の液圧がゼロになる位置まで押し戻せず、ホイールシリンダに残圧が発生してしまうことがあった。そして、ホイールシリンダに残圧が発生すると、摩擦材部分での摩擦によって、燃費が低下したり、摩擦材やその周辺部品が高温になったりするなどの問題があった。
【0007】
そこで、本発明の課題は、バイワイヤ式の車両用制動装置において、電気的故障が発生した場合でもホイールシリンダに残圧が発生しないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両用制動装置は、車両の車輪に対して設けられ、ブレーキ液が導入されることで制動力を発生させるホイールシリンダと、ブレーキ液を貯留するリザーバと、吐出孔を有する液圧室を備え、電気モータの駆動に応じてピストンが摺動することでブレーキ液の排出、流入を行う電動シリンダと、前記吐出孔と前記ホイールシリンダとを接続するブレーキ液路と、前記ブレーキ液路と前記リザーバとを接続するリリース液路と、前記リリース液路に設けられ、通電時に遮断し、非通電時に連通する常開型の電磁弁であるリザーバ遮断弁と、を備える。ホイールシリンダには、第1系統のホイールシリンダと、第1系統とは別の第2系統のホイールシリンダがある。ブレーキ液路は、第1系統のホイールシリンダと接続される第1ブレーキ液路と、第2系統のホイールシリンダと接続される第2ブレーキ液路とに第1分岐点で分岐される。第1分岐点よりも吐出孔とは遠い側の第1ブレーキ液路に設けられ、第1ブレーキ液路を非通電時に遮断し、通電時に連通する常閉型の系統連通弁を備える。リリース液路は系統連通弁よりも吐出孔の側でブレーキ液路に接続される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態の車両用制動装置の全体構成図である。
図2図2は、第2実施形態の車両用制動装置の全体構成図である。
図3図3は、第3実施形態の車両用制動装置の全体構成図である。
図4図4は、第4実施形態の車両用制動装置の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の車両用制動装置の実施形態(第1実施形態~第4実施形態)について説明する。なお、以下に記載する実施形態の構成や当該構成によってもたらされる作用や効果は例であって、本発明は以下の記載内容に限定されない。また、以下の各実施形態において、同一もしくは均等である構成には、同一の符号を付してある。
【0011】
また、電磁弁のうち、通電時に遮断し、非通電時に連通するタイプのものを「常開型」と称し、通電時に連通し、非通電時に遮断するタイプのものを「常閉型」と称する。また、第2実施形態以降の説明において、すでに説明した事項と同様の事項については、説明を適宜省略する。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の車両用制動装置の全体構成図である。図1は、車両用制動装置Sの非通電状態を示す。車両用制動装置Sは、車両の前輪FL、FRと後輪RL、RRのそれぞれに対して設けられたホイールシリンダ81、82、83、84にブレーキ液を供給可能な装置である。ホイールシリンダ81~84のそれぞれは、ブレーキ液が導入されることで制動力を発生させる。
【0013】
図1に示す各構成は、図示のように液路Fによって接続され、また、ECU(Electronic Control Unit)(不図示)によって制御される。以下、車両用制動装置Sにおける各構成について説明する。
【0014】
シミュレータ43は、運転者によるブレーキペダルZの操作(以下、単に「ブレーキペダル操作」とも称する。)に対して反力(負荷)を発生させる装置である。シミュレータ43は、シリンダ、ピストン、付勢部材などを含む。シミュレータ43は、液路Fを介してマスタシリンダ4の出力ポートに接続されている。
【0015】
シミュレータ連通弁44は、液路Fにおいて、シミュレータ43とマスタシリンダ4の間に設けられた常閉型の電磁弁である。
【0016】
マスタシリンダ4は、ブレーキペダル操作に応じて液圧を発生可能な装置である。マスタシリンダ4は、シリンダ、ピストン、マスタ室、付勢部材等を備える。
【0017】
ストロークセンサ71は、ブレーキペダルZのストロークを検出し、検出データをECUに送信する。ECUは、この検出データ(ストローク)に基づいて、ブレーキペダルZの操作量などを認識する。
【0018】
リザーバ45は、ブレーキ液を貯留する。リザーバ45内の圧力は大気圧に保たれている。リザーバ45の内部には、各々にブレーキ液を貯留可能な2つの貯留室451、452が形成されている。
【0019】
貯留室451は、マスタシリンダ4に接続されている。図1には、マスタシリンダ4におけるピストンが初期位置にある状態が示されている。マスタシリンダ4におけるピストンが初期位置にある場合、貯留室451はマスタシリンダ4と液圧的に連通する。また、マスタシリンダ4におけるピストンが所定量摺動した場合、貯留室451はマスタシリンダ4の液圧室と液圧的に遮断される。貯留室451とマスタシリンダ4の液圧室が液圧的に遮断された場合、液圧室の圧力が高まってもブレーキ液が貯留室451に流出されることは無く、マスタシリンダ4の液圧室にピストンの摺動に伴う圧力が発生する。貯留室452は、液路Fを介して電動シリンダ2や下流ユニット3に接続されている。
【0020】
レベルスイッチ74は、リザーバ45に設けられていて、リザーバ45の液面レベルが所定位置未満になったことを検出する。レベルスイッチ74はリザーバ45の液面レベルが所定値未満となった場合、液面レベルが低下したことを示すデータをECUに送信する。ECUは、このデータに基づいて、リザーバ45において液面レベルが低下したことを認識する。
【0021】
圧力センサ72は、液路Fにおいて、マスタ遮断弁62とマスタシリンダ4の間に設けられ、マスタ遮断弁62とマスタシリンダ4の間に位置する液路F内の圧力を検出し、検出データをECUに送信する。ECUは、この検出データ(圧力)に基づいて、マスタシリンダ4によって発生している液圧等を認識する。
【0022】
下流ユニット3は、ホイールシリンダ81~84の各々の液圧を独立に調圧可能な装置である。以下の説明において、下流ユニット3の位置を基準とすると、マスタシリンダ4の側を「上流」と称し、ホイールシリンダ81~84の側を「下流」と称する。
【0023】
下流ユニット3は、ホイールシリンダ81、82それぞれに対応して、常開型の電磁弁である入口弁313(保持弁)と、チェックバルブ313aと、常閉型の電磁弁である出口弁314(減圧弁)と、を備えている。下流ユニット3は液路Fによってマスタシリンダ4と接続されており、マスタシリンダ4と接続される液路Fは下流ユニット3内で分岐され、ホイールシリンダ81,82にそれぞれ接続されている。下流ユニット3内において、マスタシリンダ4と接続された液路Fがホイールシリンダ81に接続される液路Fとホイールシリンダ82に接続される液路Fとに分岐される分岐点を位置C8とする。
【0024】
入口弁313は、液路Fにおいて、位置C8とホイールシリンダ81との間、及び、位置C8とホイールシリンダ82との間に設けられる。
【0025】
チェックバルブ313aは、入口弁313に対して並列に設けられている。チェックバルブ313aは、下流側から上流側に向けてのブレーキ液の流通のみを許容するように構成されている。
【0026】
下流ユニット3は液路Fによってリザーバ45と接続されており、リザーバ45と接続される液路Fは下流ユニット3内で分岐され、ホイールシリンダ81,82にそれぞれ接続されている。下流ユニット3内において、リザーバ45と接続された液路Fが、ホイールシリンダ81に接続される液路Fとホイールシリンダ82に接続される液路Fとに分岐される分岐点を位置C9とする。
【0027】
出口弁314は、液路Fにおいて、位置C9とホイールシリンダ81との間、及び、位置C9とホイールシリンダ82との間に設けられる。
【0028】
出口弁314が開弁状態の場合、ホイールシリンダ81、82内のブレーキ液は液路Fを介してリザーバ45に流入可能である。したがって、出口弁314を開弁させることで、ホイールシリンダ81、82のそれぞれの圧力を減圧可能である。
【0029】
また、下流ユニット3は、ホイールシリンダ83、84それぞれに対応して、常開型の電磁弁である入口弁323(保持弁)と、チェックバルブ323aと、常閉型の電磁弁である出口弁324(減圧弁)と、を備えている。
【0030】
下流ユニット3は液路Fによって後述する電動シリンダ2の吐出孔21と接続されており、吐出孔21と接続される液路Fは下流ユニット3内で分岐され、ホイールシリンダ83,84にそれぞれ接続されている。下流ユニット3内において吐出孔21と接続された液路Fがホイールシリンダ83に接続される液路Fと,ホイールシリンダ84に接続される液路Fとに分岐される分岐点を位置C7とする。
【0031】
入口弁323は、液路Fにおいて、位置C7とホイールシリンダ83との間、及び、位置C7とホイールシリンダ84との間に設けられる。
【0032】
チェックバルブ323aは、入口弁323に対して並列に設けられている。チェックバルブ323aは、下流側から上流側に向けてのブレーキ液の流通のみを許容するように構成されている。
【0033】
下流ユニット3は液路Fによってリザーバ45と接続されており、リザーバ45と接続される液路Fは下流ユニット3内で分岐され、ホイールシリンダ83,84にそれぞれ接続されている。下流ユニット3内においてリザーバ45と接続された液路Fがホイールシリンダ83に接続される液路Fに分岐される分岐点を位置C10とし,下流ユニット3内においてリザーバ45と接続された液路Fがホイールシリンダ84に接続される液路Fに分岐される分岐点を位置C11とする。
【0034】
出口弁324は、液路Fにおいて、位置C10とホイールシリンダ83との間、及び、位置C11とホイールシリンダ84との間に設けられる。
【0035】
出口弁324が開弁状態の場合、ホイールシリンダ83、84内のブレーキ液は液路Fを介してリザーバ45に流入可能である。したがって、出口弁324を開弁させることで、ホイールシリンダ83、84のそれぞれの圧力を減圧可能である。
【0036】
なお、以下では、下流ユニット3における構成について、ホイールシリンダ81、82側の構成を「第1系統」と称し、ホイールシリンダ83、84側の構成を「第2系統」と称する。
【0037】
マスタ遮断弁62は、液路Fにおいて、下流ユニット3とマスタシリンダ4の間に設けられた常開型の電磁弁である。マスタ遮断弁62が閉弁している場合、マスタシリンダ4と下流ユニット3を接続する液路Fはマスタ遮断弁62によって遮断される。マスタシリンダ4と下流ユニット3が液圧的に遮断された場合には、マスタ遮断弁62よりマスタシリンダ4側の圧力と、マスタ遮断弁62より下流ユニット3側の圧力を異なる圧力とすることができる。
【0038】
マスタ遮断弁62が閉弁し、かつ、シミュレータ連通弁44が開弁した状態でブレーキペダルZが操作された場合、シミュレータ43によってブレーキペダル反力を発生させる。
【0039】
系統連通弁61は、液路Fにおいて、第1系統と第2系統の間に設けられた常閉型の電磁弁である。
【0040】
電動シリンダ2は、吐出孔21を有する液圧室24を備え、電気モータMの駆動に応じてピストン23が摺動することでブレーキ液の排出、流入を行う。以下、電動シリンダ2の説明において、液圧室24の容積が小さくなるピストン23の移動方向を前方とし、その反対方向を後方とする。
【0041】
図1には、ピストン23が初期位置にある状態が示されている。ピストン23が初期位置にある場合、液圧室24は入力ポート211と液路Fを介してリザーバ45と連通する。電気モータMの駆動によりピストン23が初期位置から前方に所定量移動した場合、液圧室24はリザーバ45と液圧的に遮断される。液圧室24とリザーバ45とが液圧的に遮断された場合、液圧室24のブレーキ液がリザーバ45に流出されることは無く、液圧室24にピストン23の摺動に伴う圧力が発生する。
【0042】
回転角センサ75は、電気モータMの回転角を検出し、検出データをECUに送信する。ECUは、この検出データ(回転角)に基づいて、ピストン23の移動量や位置などを認識する。
【0043】
以下の説明では、液路Fのうち、電動シリンダ2の吐出孔21からホイールシリンダ81~84までの部分をブレーキ液路と称し、また、ブレーキ液路からリザーバ45までの部分をリリース液路と称する場合がある。また、液路Fのうち、吐出孔21と第1系統のホイールシリンダ81、82とを接続する液路を第1ブレーキ液路と称し、吐出孔21と第2系統のホイールシリンダ83、84とを接続する液路を第2ブレーキ液路と称する場合がある。そして、第1ブレーキ液路と第2ブレーキ液路との分岐点が位置C1であり、第1ブレーキ液路と第2ブレーキ液路の分岐点である位置C1より吐出孔21側のブレーキ液路は第1ブレーキ液路でもあり、第2ブレーキ液路でもある。
【0044】
第1ブレーキ液路は位置C1よりも吐出孔21に対して遠い側に位置する位置C12で、マスタシリンダ4と接続された液路Fと接続している。
【0045】
また、位置C12は、液路Fにおいて、マスタ遮断弁62と位置C8との間に設定される。前出の系統連通弁61は、液路Fにおいて、位置C12と位置C1の間に設けられており、第1ブレーキ液路の位置C12と位置C1間を閉鎖することで、第1系統と第2系統を分離可能となっている。位置C12からホイールシリンダ81,82までの液路Fは、第1ブレーキ液路でもあり、ホイールシリンダ81,82とマスタシリンダ4を接続する液路でもある。
【0046】
なお、位置C12と位置C1間の第1ブレーキ液路を系統接続路とも称する。また、マスタシリンダ4と位置C12との間の液路Fをマスタ液路とも称する。
【0047】
また、リリース液路と出口弁324に接続された液路Fとの接続点が位置C2であり、入力ポート211とリリース液路との接続点が位置C6である。
【0048】
図1では、リリース液路とブレーキ液路は位置C1で接続されている。すなわち、図1に示される第1実施形態では、リリース液路は、常閉型の連通弁92に対し吐出孔21よりも遠い側でブレーキ液路と接続される。図1では、位置C1は第1ブレーキ液路と第2ブレーキ液路の分岐点でもあり、ブレーキ液路とリリース液路との接続点でもある。図1でのリリース液路は、具体的には、液路Fにおいて、位置C1からブレーキ液路に進むことなく位置C2を経由してリザーバ45までの部分である。
【0049】
リリース液路において、図1では、ブレーキ液路とリリース液路との接続点である位置C1と、位置C6との間に、常開型の電磁弁であるリザーバ遮断弁91が設けられている。
【0050】
また、ブレーキ液路において、図1では、ブレーキ液路とリリース液路との接続点である位置C1よりも吐出孔21の側に、常閉型の電磁弁である連通弁92が設けられている。
【0051】
圧力センサ73は、液路Fにおいて、位置C1と連通弁92の間に設けられ、位置C1と連通弁92の間に位置する液路F内の圧力を検出し、検出データをECUに送信する。ECUは、この検出データ(圧力)に基づいて、例えば、連通弁92が開弁状態であれば、電動シリンダ2によって発生している液圧等を認識する。
【0052】
<動作>
次に、車両用制動装置Sにおける各構成の動作について説明する。以下では、車両用制動装置Sにおいて、電気的故障(ECU故障、バッテリー失陥、配線故障など)が発生していない場合を「正常時」と称し、電気的故障が発生している(つまり、各構成が非通電状態となっている)場合を「電気的故障時」と称する。
【0053】
<正常時>
<ブレーキペダル非操作時>
正常時に、ブレーキペダルZが操作されていない場合、以下の状態となる。
・シミュレータ連通弁44「開」
・マスタ遮断弁62「開」
・系統連通弁61「閉」
・連通弁92「閉」
・リザーバ遮断弁91「開」
・電動シリンダ2のピストン23「初期位置」
(電動シリンダ2の液圧室24がリザーバ45と連通)
【0054】
<ブレーキペダル操作時>
正常時に、ブレーキペダルZが操作された場合、以下の状態となる。
・シミュレータ連通弁44「開」
・マスタ遮断弁62「閉」
・系統連通弁61「開」
・連通弁92「開」
・リザーバ遮断弁91「閉」
・電動シリンダ2を駆動してブレーキペダル操作量に応じた液圧をホイールシリンダ81~84に供給
【0055】
<電気的故障時>
車両用制動装置Sに電気的故障が発生した場合、電磁弁は、すべて非駆動位置(図1に示す状態)になる。したがって、第1系統(フロント系)のホイールシリンダ81、82は、マスタシリンダ4と連通し、運転者のブレーキペダル操作量に応じた液圧(マニュアル圧)を発生する。また、ブレーキペダル非操作状態では、マスタシリンダ4の液圧室はリザーバ45と連通し、第1系統(フロント系)の液圧はゼロまで減圧される。
【0056】
また、第2系統(リヤ系)のホイールシリンダ83、84はリザーバ遮断弁91(開弁状態)を介してリザーバ45と連通し、液圧はゼロまで減圧される。
【0057】
このように、バイワイヤ式の車両用制動装置Sにおいて、電気的故障が発生した場合でも、ブレーキペダルの非操作状態では、ホイールシリンダ81~84に残圧が発生しない。したがって、ブレーキの引きずりが発生しないので、摩擦材部分での摩擦によって、燃費が低下したり、摩擦材やその周辺部品が高温になったりするなどの問題は起きない。
【0058】
また、特許文献1では、以下のような問題もあった。電気的故障時に電動シリンダを通じてブレーキ液を排出するために、電気的故障時は電動シリンダと第2系統が接続される必要があり、第2系統と電動シリンダ間に連通弁(シーケンス弁300)を設けた場合には連通弁を常開型にする必要があった。そのため、ホイールシリンダに高い圧力がかかった状態で電気的故障が発生した時には、第2系統のブレーキ液が急激に電動シリンダに流入して電動シリンダのピストンが急激に押し戻され、シリンダの内壁に衝突するなどの問題があった。
【0059】
一方、本実施形態の車両用制動装置Sによれば、図1に示すように、常閉型の連通弁92を用いることにより、電気的故障時には電動シリンダ2へのブレーキ液の流入が阻止されるため、電動シリンダ2のピストン23が急激に戻されることを確実に防止できる。
【0060】
また、電気的故障が発生した場合でもブレーキペダルの非操作状態ではホイールシリンダ81~84に残圧が発生しないようにするということだけを達成すればよいのであれば、連通弁92は、常閉型でなく常開型であってもよい。
【0061】
また、本実施形態の車両用制動装置Sでは、第1系統と第2系統を接続する系統接続路に常閉型の系統連通弁61が設けられている。これにより、電気的故障時やリザーバ遮断弁91が開状態で固着した場合であっても、系統連通弁61が閉弁状態となることにより第1系統は第2系統と遮断され、第1系統の加圧機構によって制動力を発生させることが可能となる。言い換えれば、第1系統の加圧機構によって液圧を発生する際に、第1系統のブレーキ液が第2系統に流出することによって圧力の発生が阻害されることが無いように、系統連通弁61によって第1系統と第2系統が遮断される。第1系統の加圧機構は電気的故障が発生しても加圧可能な機構である。例えば、本実施形態ではマスタシリンダ4が第1系統の加圧機構に該当し、マスタシリンダ4で発生したブレーキ液圧がマスタ液路、位置C12、位置C7を介して、ホイールシリンダ81,82に伝達され制動力が発生する。
【0062】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。図2は、第2実施形態の車両用制動装置Sの全体構成図である。
【0063】
図1の場合と比較して、図2では、連通弁92がない代わりに後輪側接続弁94(第2系統側接続弁)が用いられ、また、第1ブーキ液路と第2ブレーキ液路との分岐点である位置C1は後輪側接続弁94より吐出孔21側に位置している。また、ブレーキ液路に対するリリース液路の接続点は、図1の位置C1とは異なり、図2では位置C3となっている。また、図1の系統連通弁61に代えて、図2では常閉型の前輪側接続弁93が用いられている。図2でのリリース液路は、具体的には、液路Fにおいて、位置C3からブレーキ液路に進むことなく位置C2を経由してリザーバ45までの部分である。以下、詳細に説明する。
【0064】
図2では、圧力センサ73は、液路Fにおいて、吐出孔21と前輪側接続弁93の間に設けられ、吐出孔21と前輪側接続弁93の間に位置する液路F内の圧力を検出する。
【0065】
また、リリース液路は、第2ブレーキ液路とリザーバ45とを接続する(接続点は位置C3)。
【0066】
また、後輪側接続弁94は、第2ブレーキ液路において、図2に示されるブレーキ液路とリリース液路との接続点である位置C3よりも吐出孔21の側に設けられた常閉型の電磁弁であり、図2では、位置C7と位置C1との間に設けられている。すなわち、図2に示される第2実施形態においては、常閉型の後輪側接続弁94よりもホイールシリンダ側でブレーキ液路(第2ブレーキ液路)とリリース液路が接続されている。
【0067】
そして、車両用制動装置Sに電気的故障が発生した場合、電磁弁は、すべて非駆動位置(図2に示す状態)になる。したがって、第1系統(フロント系)のホイールシリンダ81、82はマスタシリンダ4と連通し、運転者のブレーキペダル操作量に応じた液圧(マニュアル圧)を発生する。また、ブレーキペダル非操作状態では、マスタシリンダ4の液圧室はリザーバ45と連通し、第1系統(フロント系)の液圧はゼロまで減圧される。
【0068】
また、第2系統(リヤ系)のホイールシリンダ83、84はリザーバ遮断弁91(開弁状態)を介してリザーバ45と連通し、液圧はゼロまで減圧される。
【0069】
このように、第2実施形態の車両用制動装置Sによれば、電気的故障が発生した場合でも、ブレーキペダルの非操作状態では、ホイールシリンダ81~84に残圧が発生しないようにすることができる。
【0070】
また、図2に示すように、常閉型の前輪側接続弁93および後輪側接続弁94を用いることにより、電気的故障時には電動シリンダ2へのブレーキ液の流入が阻止されるため、電動シリンダ2のピストン23が急激に戻されることを確実に防止できる。
【0071】
なお、電気的故障が発生した場合でもブレーキペダルの非操作状態ではホイールシリンダ81~84に残圧が発生しないようにするということだけを達成すればよいのであれば、後輪側接続弁94は、常閉型でなく常開型であってもよい。
【0072】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。図3は、第3実施形態の車両用制動装置Sの全体構成図である。
【0073】
図1の場合と比較して、図3では、常閉型の連通弁92の代わりに常開型の連通弁92aが用いられている。これにより、図3に示されるブレーキ液路に対するリリース液路の接続点は、図1の位置C1とは異なり、位置C4となっている。図3でのリリース液路は、具体的には、液路Fにおいて、位置C4からブレーキ液路に進むことなく位置C2を経由してリザーバ45までの部分である。すなわち、図3に示される第3実施形態においては、常開型の連通弁92aよりも吐出孔21側でブレーキ液路とリリース液路が接続されている。また、圧力センサ73は、液路Fにおいて、第1ブーキ液路と第2ブレーキ液路との分岐点である位置C1と連通弁92aの間に設けられ、位置C1と連通弁92aの間に位置する液路F内の圧力を検出する。
【0074】
そして、車両用制動装置Sに電気的故障が発生した場合、電磁弁は、すべて非駆動位置(図3に示す状態)になる。したがって、第1系統(フロント系)のホイールシリンダ81、82はマスタシリンダ4と連通し、運転者のブレーキペダル操作量に応じた液圧(マニュアル圧)を発生する。また、ブレーキペダル非操作状態では、マスタシリンダ4の液圧室はリザーバ45と連通し、第1系統(フロント系)の液圧はゼロまで減圧される。
【0075】
また、第2系統(リヤ系)のホイールシリンダ83、84は連通弁92a(開弁状態)とリザーバ遮断弁91(開弁状態)を介してリザーバ45と連通し、液圧はゼロまで減圧される。
【0076】
このように、第3実施形態の車両用制動装置Sによれば、電気的故障が発生した場合でも、ブレーキペダルの非操作状態では、ホイールシリンダ81~84に残圧が発生しないようにすることができる。
【0077】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。図4は、第4実施形態の車両用制動装置Sの全体構成図である。
【0078】
図2の場合と比較して、図4では、常閉型の後輪側接続弁94の代わりに常開型の後輪側接続弁94aが用いられている。また、図4に示される本実施形態のブレーキ液路に対するリリース液路の接続点は、図2の位置C3とは異なり、位置C5となっている。図4でのリリース液路は、具体的には、液路Fにおいて、位置C5からブレーキ液路に進むことなく位置C2を経由してリザーバ45の貯留室452に接続されるまでの部分である。すなわち、図4に示される第4実施形態においては、常開型の後輪側接続弁94aよりも吐出孔21側でブレーキ液路とリリース液路が接続されている。また、圧力センサ73は、液路Fにおいて、第1ブーキ液路と第2ブレーキ液路との分岐点である位置C1と位置C5との間に設けられ、位置C1と位置C5との間に位置する液路F内の圧力を検出する。
【0079】
そして、車両用制動装置Sに電気的故障が発生した場合、電磁弁は、すべて非駆動位置(図4に示す状態)になる。したがって、第1系統(フロント系)のホイールシリンダ81、82はマスタシリンダ4と連通し、運転者のブレーキペダル操作量に応じた液圧(マニュアル圧)を発生する。また、ブレーキペダル非操作状態では、マスタシリンダ4の液圧室はリザーバ45と連通し、第1系統(フロント系)の液圧はゼロまで減圧される。
【0080】
また、第2系統(リヤ系)のホイールシリンダ83、84は後輪側接続弁94a(開弁状態)とリザーバ遮断弁91(開弁状態)を介してリザーバ45と連通し、液圧はゼロまで減圧される。
【0081】
このように、第4実施形態の車両用制動装置Sによれば、電気的故障が発生した場合でも、ブレーキペダルの非操作状態では、ホイールシリンダ81~84に残圧が発生しないようにすることができる。
【0082】
各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
【0083】
図1に示される第1実施形態において、リリース液路は、第1ブレーキ液路と第2ブレーキ液路の分岐点である位置C1に限らず、連通弁92と系統連通弁61を繋ぐ液路F上の何れかの位置、あるいは入口弁323と位置C1を結ぶ第2ブレーキ液路である液路F上の何れかの位置でブレーキ液路に接続されればよい。
【0084】
図2に示される第2実施形態において、ブレーキ液路とリリース液路の接続点であるC5は、第2ブレーキ液路のホイールシリンダ83と繋がるブレーキ液路上にある入口弁323と位置C7との間に設定されているが、第2ブレーキ液路のホイールシリンダ84と繋がるブレーキ液路上にある入口弁323と位置C7との間の液路F上の何れかの位置に設定されても良く、後輪側接続弁94と位置C7との間の液路F上の何れかの位置に設定されても良い。
【0085】
図4に示される第4実施形態において、ブレーキ液路とリリース液路の接続点であるC5は、前輪側接続弁93と位置C1との間に設定されているが、吐出孔21と位置C1との間の液路F上の何れかの位置に設定されても良く、後輪側接続弁94aと位置C1との間の液路F上の何れかの位置に設定されても良い。
【0086】
図1に示される第1実施形態から図4に示される第4実施形態の入力ポート211と接続する液路Fは、何れも位置C6でリリース液路と接続されているが、入力ポート211と接続する液路Fは位置C6でリリース液路と接続することなく、直接、リザーバ45の貯留室452と接続されるように構成されても良い。
【0087】
図1に示される第1実施形態から図4に示される第4実施形態のリリース液路は何れも、位置C2で液路Fのうち出口弁314及び324と接続する液路Fと接続されているが、出口弁314及び324と接続する液路Fは位置C2でリリース液路と接続することなく、直接、リザーバ45と接続されるように構成されても良い。
【0088】
また、出口弁314と出口弁324と接続される流路を共通とせず、出口弁314と接続される流路は直接、リザーバ45の貯留室451に接続され、出口弁324と接続される流路は直接あるいは位置C2経由でリリース液路を介してリザーバ45の貯留室452と接続されるようにしても良い。
【0089】
なお、車両用制動装置Sにおいて、マスタシリンダ4と電動シリンダ2と下流ユニット3は、それぞれ別の筐体に収められるように構成されても良く、すべてが一つの筐体に収められるように構成されても良く、マスタシリンダ4と電動シリンダ2と下流ユニット3のうちの2つを収めた筐体と、残り一つを収めた筐体との2つの筐体として構成されても良い。
【0090】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態はあくまで例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、または変更を行うことができる。また、上述した実施形態およびその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0091】
2…電動シリンダ、3…下流ユニット、4…マスタシリンダ、43…シミュレータ、44…シミュレータ連通弁、45…リザーバ、61…系統連通弁、62…マスタ遮断弁、81~84…ホイールシリンダ、91…リザーバ遮断弁、92…連通弁、93…前輪側接続弁、94…後輪側接続弁、F…液路、M…電気モータ、S…車両用制動装置。
図1
図2
図3
図4