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特開2024-140935多孔性カーボンシートの製造方法及び多孔性カーボンシート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140935
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】多孔性カーボンシートの製造方法及び多孔性カーボンシート
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20241003BHJP
   C01B 32/182 20170101ALI20241003BHJP
【FI】
C01B32/05
C01B32/182
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052311
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506204818
【氏名又は名称】国立大学法人愛知教育大学
(71)【出願人】
【識別番号】523114372
【氏名又は名称】西 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大平 純子
(72)【発明者】
【氏名】竹本 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】本多 重富
(72)【発明者】
【氏名】日野 和之
(72)【発明者】
【氏名】西 信之
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC03A
4G146AC03B
4G146BA50
4G146BB02
4G146BB04
4G146BB07
4G146BB10
4G146BC03
(57)【要約】
【課題】多孔性カーボンシートを容易に製造すること。
【解決手段】多孔性カーボンシートの製造方法は、グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有し、中空ワイヤー状の結晶が互いに絡み合った構造を有する多孔性カーボンシートの製造方法であって、前駆体としての銅メチルアセチリドを含む溶液を攪拌することによって前駆体をワイヤー状にするとともに前駆体を溶液中において互いに絡み合わせる攪拌工程と、前駆体をシート状にするシート化工程と、シート状の前駆体を1000℃以上、1200℃以下において焼成することによりグラフェンの多層膜を成長させるとともに銅を熱的に除去することで多孔性カーボンシートを形成する焼成工程とを有する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有し、中空ワイヤー状の結晶が互いに絡み合った構造を有する多孔性カーボンシートの製造方法であって、
前駆体としての銅メチルアセチリドを含む溶液を攪拌することによって前記前駆体をワイヤー状にするとともに前記前駆体を前記溶液中において互いに絡み合わせる攪拌工程と、
前記前駆体をシート状にするシート化工程と、
シート状の前記前駆体を1000℃以上、1200℃以下において焼成することによりグラフェンの多層膜を成長させるとともに銅を熱的に除去することで前記多孔性カーボンシートを形成する焼成工程と、を有する、
多孔性カーボンシートの製造方法。
【請求項2】
前記焼成工程の前に、シート状の前記前駆体に対してフェノール樹脂を添加する添加工程を更に備える、
請求項1に記載の多孔性カーボンシートの製造方法。
【請求項3】
前記焼成工程を、常圧よりも低い減圧下において行う、
請求項1または請求項2に記載の多孔性カーボンシートの製造方法。
【請求項4】
グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有する中空ワイヤー状の結晶が互いに絡み合った構造を有し、
前記結晶のワイヤー径が、100nm以上、500nm以下であり、
互いに絡み合う前記結晶同士により形成される孔の孔径が、10nm以上、200nm以下である、
多孔性カーボンシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性カーボンシートの製造方法及び多孔性カーボンシートに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、多孔性カーボンシートの製造方法が開示されている。特許文献1に記載の製造方法では、まず、第一塩化銅を含むアンモニア水溶液を攪拌しながら、アンモニア水溶液にメチルアセチレンガスを吹き付けることにより、銅メチルアセチリドのワイヤー状の結晶の沈殿物を得る。次に、上記沈殿物をフィルターで濾別したものを減圧下において加熱することにより、黒色綿状の固形物を得る。次に、上記固形物に硝酸水溶液を加えることで銅を溶解させる。次に、これを濾別したものを洗浄及び乾燥させた後、石英管に入れて1100℃で12時間真空加熱する。これにより、石英管の末端の内壁に、有機物薄膜が沈着するとともに銅が昇華して沈着する。この沈着物から炭素部分のみを取り出して、再度、熱硝酸で残留銅を溶解させる。これを乾燥させた後に、アルミナ製タンマン管に入れて1400℃で10時間加熱することにより、グラフェン層を備えた多孔質炭素材料を得る。そして、上記多孔質炭素材料、過マンガン酸カリウム、及び硫酸を超純水に溶解させたものを、超音波振動を付与しながら還流させる。その後、これを濾別した固形物を250℃で3時間の熱処理することでマンガン酸化物を担持するとともにグラフェン層を備えた多孔質炭素を得る。そして、上記多孔質炭素及びバインダのPTFEをエタノールに溶解させるとともに混練してペースト状のインクを得る。そして、このインクを圧延することによってシート状の多孔質炭素を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-86305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の製造方法の場合、多孔性カーボンシートを製造するための製造工程が多いといった問題や、製造に長い時間を要するといった問題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための多孔性カーボンシートの製造方法は、グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有し、中空ワイヤー状の結晶が互いに絡み合った構造を有する多孔性カーボンシートの製造方法であって、前駆体としての銅メチルアセチリドを含む溶液を攪拌することによって前記前駆体をワイヤー状にするとともに前記前駆体を前記溶液中において互いに絡み合わせる攪拌工程と、前記前駆体をシート状にするシート化工程と、シート状の前記前駆体を1000℃以上、1200℃以下において焼成することによりグラフェンの多層膜を成長させるとともに銅を熱的に除去することで前記多孔性カーボンシートを形成する焼成工程と、を有する。
【0006】
同方法によれば、攪拌工程において、銅メチルアセチリドを含む溶液を攪拌することによってワイヤー状の前駆体が形成される。このとき、前駆体は、後の加熱工程で銅と炭素との比重の違いにより銅が球状または楕円状になるとともに炭素が銅を被覆するワイヤー状となる。また、ワイヤー状の前駆体が溶液中において互いに絡み合う。
【0007】
続いて、シート化工程において、互いに絡み合っており、ワイヤー状の前駆体がシート状にされる。なお、ワイヤー状の前駆体をシート状にする方法としては、例えば前駆体を含む溶液を濾紙によって濾別することで濾紙上においてシート化する方法や、平面状の治具に塗工する方法、平面状の治具にスプレーする方法などがある。
【0008】
続いて、焼成工程において、シート状の前駆体が1000℃以上、1200℃以下において焼成されることにより、銅が昇華して除去される。前駆体の炭素のうち銅と接触している部分は、1000℃以上において溶けた銅に接触する。このとき炭素に発生する表面張力により理想的な炭素の二次元表面が生じることで、上記炭素がグラフェンの多層膜に成長する。これにより、グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有する中空ワイヤー状の結晶が互いに絡み合った構造を有する多孔性カーボンシートが形成される。
【0009】
このようにシート化された銅メチルアセチリドの前駆体を焼成することにより、ワイヤー状の前駆体の構造を維持したまま前駆体が炭化される。このため、従来技術のような前駆体を炭化した後に粉砕してシート化する工程が発生しない。
【0010】
また、上記方法によれば、焼成温度が1000℃以上、1200℃以下であるため、例えば銀メチルアセチリドを2000℃において焼成する従来の製造方法に比べて、焼成温度を低くすることができる。これにより、焼成炉の小型化や焼成に要するエネルギーの節減を図ることができる。
【0011】
また、導電性を高めるべく厚いグラフェンの多層膜を成長させる上では、銀よりも銅の方が好適である。
したがって、多孔性カーボンシートを容易に製造することができる。
【0012】
上記課題を解決するための多孔性カーボンシートは、グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有する中空ワイヤー状の結晶が互いに絡み合った構造を有し、前記結晶のワイヤー径が、100nm以上、500nm以下であり、互いに絡み合う前記結晶同士により形成される孔の孔径が、10nm以上、200nm以下である。
【0013】
同構成によれば、グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有する中空ワイヤー状の結晶が互いに絡み合った構造を有しているので、多孔性カーボンシートが高い導電性を有する。また、上記構成によれば、結晶のワイヤー径が、100nm以上、500nm以下であり、互いに絡み合う結晶同士により形成される孔の孔径が、10nm以上、200nm以下であるため、多孔性カーボンシートが高いガス透過性を有する。また、結晶中に多く存在するメソ孔に水を貯留したり、メソ孔から水を排出したりできるので、多孔性カーボンシートが保水量の調整に優れている。
【0014】
したがって、高い導電性及び高いガス透過性を有するとともに、保水量の調整に優れている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る多孔性カーボンシートの製造方法によれば、多孔性カーボンシートを容易に製造することができる。また、本発明に係る多孔性カーボンシートによれば、高い導電性及び高いガス透過性を有するとともに、保水量の調整に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、一実施形態の多孔性カーボンシートのSEM像である。
図2図2は、一実施形態の多孔性カーボンシートのSEM像である。
図3図3は、一実施形態の多孔性カーボンシートのSEM像である。
図4図4は、一実施形態の多孔性カーボンシートのSEM像である。
図5図5は、一実施形態の多孔性カーボンシートのTEM像である。
図6図6は、一実施形態の乾燥工程途中における前駆体のTEM像である。
図7図7は、一実施形態の多孔性カーボンシートの製造手順を示すフローチャートである。
図8図8は、比較例の多孔性カーボンのSEM像である。
図9図9は、比較例の多孔性カーボンのSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1図7を参照して、多孔性カーボンシートの製造方法及び多孔性カーボンシートの一実施形態について説明する。
図1図4に示すように、多孔性カーボンシートは、グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有する中空ワイヤー状の結晶が互いに絡み合った構造を有する。
【0018】
図5に示すように、多孔性カーボンシートは、グラフェンの多層膜で仕切られた空孔構造を有する。
結晶のワイヤー径は、100nm以上、500nm以下である。互いに絡み合う結晶同士により形成される孔の孔径は、10nm以上、200nm以下である。
【0019】
本実施形態の多孔性カーボンシートは、例えば固体高分子型燃料電池の単セルを構成するガス拡散層に適用することができる。
次に、図7を参照して、本実施形態の多孔性カーボンシートの製造手順について説明する。
【0020】
図7に示すように、多孔性カーボンシートの製造方法は、前駆体合成工程と、攪拌工程と、シート化工程と、乾燥工程と、添加工程と、焼成工程とを備える。
前駆体合成工程は、周知の方法により前駆体としての銅メチルアセチリドを合成する工程である。
【0021】
攪拌工程は、前駆体としての銅メチルアセチリドを含む溶液を攪拌することによって前駆体をワイヤー状にするとともに前駆体を溶液中において互いに絡み合わせる工程である。ここで、溶媒は水である。なお、溶媒に少量のエタノールを添加することで前駆体を伸ばしやすくできる。
【0022】
攪拌工程において、銅メチルアセチリドを含む溶液を攪拌することによってワイヤー状の前駆体が形成される。このとき、前駆体は、後の加熱工程で銅と炭素との比重の違いにより銅が球状または楕円状になるとともに炭素が銅を被覆するワイヤー状となる。また、ワイヤー状の前駆体が溶液中において互いに絡み合う。
【0023】
シート化工程は、前駆体をシート状にする工程である。
シート化工程において、互いに絡み合っており、ワイヤー状の前駆体がシート状にされる。なお、ワイヤー状の前駆体をシート状にする方法としては、例えば前駆体を含む溶液を濾紙によって濾別することで濾紙上においてシート化する方法や、平面状の治具に塗工する方法、平面状の治具にスプレーする方法などがある。
【0024】
乾燥工程は、シート化された前駆体を真空中において170℃~300℃程度まで加熱して乾燥させる工程である。これにより、銅と炭素との相分離が起こるものの前駆体の形状が維持されやすくなる。
【0025】
図6は、乾燥工程において前駆体が60~200℃に加熱される過程において、銅とメチルアセチレン重合物とが分離する様子、詳しくは、銅が球状になり、メチル基がメタンとエチレンガスとなって系外に放出される様子を示している。
【0026】
添加工程は、シート状の前駆体に対してフェノール樹脂を添加する工程である。なお、前駆体は、フェノール樹脂が添加された後に乾燥されることが好ましい。
焼成工程は、シート状の前記前駆体を1000℃以上、1200℃以下において焼成することによりグラフェンの多層膜を成長させるとともに銅を熱的に除去することで多孔性カーボンシートを形成する工程である。
【0027】
焼成工程は、常圧よりも低い減圧下において行うことが好ましい。
ここで、焼成工程において、前駆体が1000℃以上、1200℃以下において焼成されることにより、銅が昇華して除去される。前駆体の炭素のうち銅と接触している部分は、1000℃以上において溶けた銅に接触する。このとき炭素に発生する表面張力により理想的な炭素の二次元表面が生じることで、上記炭素がグラフェンの多層膜に成長する。これにより、グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有する中空ワイヤー状の結晶が互いに絡み合った構造を有する多孔性カーボンシートが形成される。
【0028】
なお、銅の融点は1085℃であるが、50nm以下の粒子の場合、融点降下が生じることで1000℃以下において銅の液化が進行する。
図8及び図9に、比較例の多孔性カーボンのSEM像を示す。比較例の多孔性カーボンは、本実施形態の前駆体をシート化せずに、炉の中に滴下しながら真空焼成することで形成されたものである。
【0029】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
(1)多孔性カーボンシートの製造方法は、攪拌工程と、シート化工程と、焼成工程とを有する。
【0030】
こうした方法によれば、シート化された銅メチルアセチリドの前駆体を焼成することにより、ワイヤー状の前駆体の構造を維持したまま前駆体が炭化される。このため、従来技術のような前駆体を炭化した後に粉砕してシート化する工程が発生しない。
【0031】
また、上記方法によれば、焼成温度が1000℃以上、1200℃以下であるため、例えば銀メチルアセチリドを2000℃において焼成する従来の製造方法に比べて、焼成温度を低くすることができる。これにより、焼成炉の小型化や焼成に要するエネルギーの節減を図ることができる。
【0032】
また、導電性を高めるべく厚いグラフェンの多層膜を成長させる上では、銀よりも銅の方が好適である。
したがって、多孔性カーボンシートを容易に製造することができる。
【0033】
(2)焼成工程の前に、シート状の前駆体に対してフェノール樹脂を添加する添加工程を更に備える。
こうした構成によれば、フェノール樹脂を添加することによって前駆体の剛性が高められるのでシート状の形状が保持されやすくなる。これにより、多孔性カーボンシートの歩留まりを向上できる。
【0034】
(3)焼成工程を、常圧よりも低い減圧下において行うようにしたため、低い焼成温度においてグラフェンの多層膜の成長及び銅の熱的除去を行うことができる。したがって、焼成炉の小型化や焼成に要するエネルギーの節減を図ることができる。
【0035】
(4)グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有する中空ワイヤー状の結晶が互いに絡み合った構造を有しているので、多孔性カーボンシートが高い導電性を有する。また、上記構成によれば、結晶のワイヤー径が、100nm以上、500nm以下であり、互いに絡み合う結晶同士により形成される孔の孔径が、10nm以上、200nm以下であるため、多孔性カーボンシートが高いガス透過性を有する。また、結晶中に多く存在するメソ孔に水を貯留したり、メソ孔から水を排出したりできるので、多孔性カーボンシートが保水量の調整に優れている。
【0036】
したがって、高い導電性及び高いガス透過性を有するとともに、保水量の調整に優れている。
<変形例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0037】
・焼成工程は、常圧下において行うこともできる。
・フェノール樹脂を添加する添加工程を省略することもできる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9