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特開2024-140936燃料電池用ガス拡散層の製造方法及び燃料電池用ガス拡散層
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140936
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】燃料電池用ガス拡散層の製造方法及び燃料電池用ガス拡散層
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20241003BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20241003BHJP
   C01B 32/184 20170101ALI20241003BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20241003BHJP
【FI】
H01M4/88 C
H01M4/86 M
C01B32/184
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052312
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506204818
【氏名又は名称】国立大学法人愛知教育大学
(71)【出願人】
【識別番号】523114372
【氏名又は名称】西 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大平 純子
(72)【発明者】
【氏名】竹本 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】本多 重富
(72)【発明者】
【氏名】日野 和之
(72)【発明者】
【氏名】西 信之
【テーマコード(参考)】
4G146
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AD24
4G146BA50
4G146BB15
4G146BC03
4G146BC34A
5H018AA06
5H018AS01
5H018BB01
5H018BB08
5H018BB12
5H018DD08
5H018EE06
5H018HH01
5H018HH08
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】マイクロポーラス層を有するガス拡散層を容易に製造することができる。
【解決手段】燃料電池用ガス拡散層の製造方法は、前駆体としての銅メチルアセチリドを含む溶液を攪拌することによって前駆体をワイヤー状にするとともに前駆体を溶液中において互いに絡み合わせる攪拌工程と、多孔性の基材シートの表層部に対し、表層部の孔部を埋めるように前駆体を付加する付加工程と、基材シート及び前駆体を、1000℃以上、1200℃以下において焼成することにより前駆体をグラフェンの多層膜を成長させるとともに銅を熱的に除去することで、グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有し、中空ワイヤー状の結晶構造を有する多孔性カーボンを形成する焼成工程とを備える。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用ガス拡散層の製造方法であって、
前駆体としての銅メチルアセチリドを含む溶液を攪拌することによって前記前駆体をワイヤー状にするとともに前記前駆体を前記溶液中において互いに絡み合わせる攪拌工程と、
多孔性の基材シートまたは基材シート前駆体の表層部に対し、前記表層部の孔部を埋めるように前記前駆体を付加する付加工程と、
前記基材シートまたは基材シート前駆体、及び前記前駆体を、1000℃以上、1200℃以下において焼成することにより前記前駆体をグラフェンの多層膜を成長させるとともに銅を熱的に除去することで、グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有し、中空ワイヤー状の結晶構造を有する多孔性カーボンを形成する焼成工程と、を備える、
燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項2】
前記付加工程では、前記表層部に対して前記前駆体を含む溶液を塗布またはスプレーすることで前記表層部に前記前駆体を付加する、
請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項3】
前記前駆体をシート状にするシート化工程を備え、
前記付加工程では、前記表層部に対して、シート状の前記前駆体を重ねた状態で前記前駆体を前記表層部に押し付ける、
請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項4】
燃料電池用ガス拡散層の製造方法であって、
前駆体としての銅メチルアセチリドを含む溶液を攪拌することによって前記前駆体をワイヤー状にするとともに前記前駆体を前記溶液中において互いに絡み合わせる攪拌工程と、
前記前駆体を、1000℃以上、1200℃以下において焼成することによりグラフェン多層膜に成長させるとともに銅を熱的に除去することで、グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有し、中空ワイヤー状の結晶構造を有する多孔性カーボンを形成する第1焼成工程と、
前記結晶構造を維持しつつ前記多孔性カーボンを粉砕する粉砕工程と、
粉砕された前記多孔性カーボンを含む溶液を、多孔性の基材シートの表層部に塗布またはスプレーすることで前記表層部の孔部を埋めるように前記多孔性カーボンを付加する付加工程と、
前記基材シート及び前記多孔性カーボンを焼成することで前記基材シートに前記多孔性カーボンを一体化させる第2焼成工程と、を備える、
燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【請求項5】
多孔性の基材シートを備える燃料電池用ガス拡散層であって、
前記基材シートの表層部の孔部を埋めるように前記基材シートに一体に形成された多孔性カーボンを有し、
前記多孔性カーボンは、グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有する中空ワイヤー状の結晶が互いに絡み合った構造を有し、
前記結晶のワイヤー径が、100nm以上、500nm以下であり、
互いに絡み合う前記結晶同士により形成される孔の孔径が、10nm以上、200nm以下である、
燃料電池用ガス拡散層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用ガス拡散層の製造方法及び燃料電池用ガス拡散層に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、複数の単セルを積層して構成される燃料電池スタックを備える。単セルは、固体高分子電解質膜(以下、電解質膜という)及び電解質膜を挟む一対の触媒層からなる膜電極接合体と、膜電極接合体を挟む一対のガス拡散層と、一対のガス拡散層を挟むアノード側セパレータ及びカソード側セパレータとを有する。
【0003】
こうしたガス拡散層としては、例えば特許文献1に開示のガス拡散電極がある。特許文献1に開示されるガス拡散電極は、シート状の多孔質基材と、多孔質基材の一方の面に接して配置されているマイクロポーラス層とを備える。多孔質基材は、カーボンペーパーや、カーボンクロス、カーボン不織布などである。マイクロポーラス層は、多孔質基材の一方の面に、導電性微粒子、バインダー、溶媒、増粘剤などを混合分散させたペースト状の塗液を塗工することにより形成される。導電性粒子は、平均粒径が20~150nmのアセチレンブラックなどのカーボンブラックである。バインダーは、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-42074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした燃料電池用ガス拡散層においては、簡単な方法により製造できることが求められる。また、燃料電池用ガス拡散層においては、導電性、ガス拡散性、及び保水量の調整において更なる向上が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための燃料電池用ガス拡散層の製造方法は、前駆体としての銅メチルアセチリドを含む溶液を攪拌することによって前記前駆体をワイヤー状にするとともに前記前駆体を前記溶液中において互いに絡み合わせる攪拌工程と、多孔性の基材シートまたは基材シート前駆体の表層部に対し、前記表層部の孔部を埋めるように前記前駆体を付加する付加工程と、前記基材シートまたは基材シート前駆体、及び前記前駆体を、1000℃以上、1200℃以下において焼成することにより前記前駆体をグラフェンの多層膜を成長させるとともに銅を熱的に除去することで、グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有し、中空ワイヤー状の結晶構造を有する多孔性カーボンを形成する焼成工程と、を備える。
【0007】
同方法によれば、攪拌工程において、銅メチルアセチリドを含む溶液を攪拌することによってワイヤー状の前駆体が形成される。このとき、前駆体は、後の加熱工程で銅と炭素との比重の違いにより銅が球状または楕円状になるとともに炭素が銅を被覆するワイヤー状となる。また、ワイヤー状の前駆体が溶液中において互いに絡み合う。
【0008】
続いて、付加工程において、多孔性の基材シートまたは基材シート前駆体の表層部に対し、表層部の孔部を埋めるように前駆体が付加される。
続いて、焼成工程において、基材シートまたは基材シート前駆体と共に前駆体が1000℃以上、1200℃以下において焼成されることにより、銅が昇華して除去される。前駆体の炭素のうち銅と接触している部分は、1000℃以上において溶けた銅に接触する。このとき炭素に発生する表面張力により理想的な炭素の二次元表面が生じることで、上記炭素がグラフェンの多層膜に成長する。これにより、グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有する中空ワイヤー状の結晶が互いに絡み合った構造を有する多孔性カーボンが形成される。また、基材シート前駆体を用いた場合には、基材シート前駆体が焼成されることで基材シートが形成される。このため、前駆体を焼成する際に、基材シート前駆体を同時に焼成することで基材シートを形成することができる。
【0009】
このように銅メチルアセチリドの前駆体を焼成することにより、ワイヤー状の前駆体の構造を維持したまま前駆体が炭化される。
また、上記方法によれば、焼成温度が1000℃以上、1200℃以下であるため、例えば銀メチルアセチリドを2000℃において焼成する従来の製造方法に比べて、焼成温度を低くすることができる。これにより、焼成炉の小型化や焼成に要するエネルギーの節減を図ることができる。
【0010】
また、導電性を高めるべく厚いグラフェンの多層膜を成長させる上では、銀よりも銅の方が好適である。
このように、上記方法によれば、簡単な工程により、上記多孔性カーボンによって基材シートの表層部の孔部が埋められたガス拡散層を得ることができる。上記多孔性カーボンは、マイクロポーラス層として機能する。したがって、簡単な方法により、マイクロポーラス層を有するガス拡散層を製造することができる。
【0011】
また、上記課題を解決するための燃料電池用ガス拡散層の製造方法は、前駆体としての銅メチルアセチリドを含む溶液を攪拌することによって前記前駆体をワイヤー状にするとともに前記前駆体を前記溶液中において互いに絡み合わせる攪拌工程と、前記前駆体を、1000℃以上、1200℃以下において焼成することによりグラフェン多層膜に成長させるとともに銅を熱的に除去することで、グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有し、中空ワイヤー状の結晶構造を有する多孔性カーボンを形成する第1焼成工程と、前記結晶構造を維持しつつ前記多孔性カーボンを粉砕する粉砕工程と、粉砕された前記多孔性カーボンを含む溶液を、多孔性の基材シートの表層部に塗布またはスプレーすることで前記表層部の孔部を埋めるように前記多孔性カーボンを付加する付加工程と、前記基材シート及び前記多孔性カーボンを焼成することで前記基材シートに前記多孔性カーボンを一体化させる第2焼成工程と、を備える。
【0012】
同方法によれば、攪拌工程において、銅メチルアセチリドを含む溶液を攪拌することによってワイヤー状の前駆体が形成される。このとき、前駆体は、後の加熱工程で銅と炭素との比重の違いにより銅が球状または楕円状になるとともに炭素が銅を被覆するワイヤー状となる。また、ワイヤー状の前駆体が溶液中において互いに絡み合う。
【0013】
続いて、第1焼成工程において、前駆体が1000℃以上、1200℃以下において焼成されることにより、銅が昇華して除去される。前駆体の炭素のうち銅と接触している部分は、1000℃以上において溶けた銅に接触する。このとき炭素に発生する表面張力により理想的な炭素の二次元表面が生じることで、上記炭素がグラフェンの多層膜に成長する。これにより、グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有する中空ワイヤー状の結晶が互いに絡み合った構造を有する多孔性カーボンが形成される。
【0014】
このように銅メチルアセチリドの前駆体を焼成することにより、ワイヤー状の前駆体の構造を維持したまま前駆体が炭化される。
続いて、粉砕工程において、結晶構造を維持しつつ多孔性カーボンが粉砕される。
【0015】
続いて、付加工程において、粉砕された多孔性カーボンを含む溶液を、多孔性の基材シートの表層部に塗布またはスプレーすることで表層部の孔部を埋めるように多孔性カーボンが付加される。
【0016】
続いて、第2焼成工程において、基材シート及び多孔性カーボンが焼成されることで基材シートに多孔性カーボンが結合して一体化される。
上記方法によれば、第1焼成工程の焼成温度が1000℃以上、1200℃以下であるため、例えば銀メチルアセチリドを2000℃において焼成する従来の製造方法に比べて、焼成温度を低くすることができる。これにより、焼成炉の小型化や焼成に要するエネルギーの節減を図ることができる。
【0017】
また、導電性を高めるべく厚いグラフェンの多層膜を成長させる上では、銀よりも銅の方が好適である。
このように、簡単な工程により、上記多孔性カーボンによって基材シートの表層部の孔部が埋められたガス拡散層を得ることができる。上記多孔性カーボンは、マイクロポーラス層として機能する。したがって、簡単な方法により、マイクロポーラス層を有するガス拡散層を製造することができる。
【0018】
また、上記課題を解決するための燃料電池用ガス拡散層は、多孔性の基材シートを備える。燃料電池用ガス拡散層は、前記基材シートの表層部の孔部を埋めるように前記基材シートに一体に形成された多孔性カーボンを有し、前記多孔性カーボンは、グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有する中空ワイヤー状の結晶が互いに絡み合った構造を有し、前記結晶のワイヤー径が、100nm以上、500nm以下であり、互いに絡み合う前記結晶同士により形成される孔の孔径が、10nm以上、200nm以下である。
【0019】
同構成によれば、多孔性カーボン自体は脆いものの、基材シートと一体に形成されているため、多孔性カーボンの剛性を高めることができる。また、多孔性カーボンはグラフェンの多層膜によって構成されているので、高い導電性を有する。また、結晶のワイヤー径が、100nm以上、500nm以下であり、互いに絡み合う結晶同士により形成される孔の孔径が、10nm以上、200nm以下であるため、多孔性カーボンは高いガス透過性、すなわちガス拡散性を有する。また、結晶中に多く存在するメソ孔に水を貯留したり、メソ孔から水を排出したりできるので、多孔性カーボンは保水量の調整に優れている。このため、多孔性カーボンは、マイクロポーラス層として機能する。また、燃料電池においては、プロトンがアノードからカソードへ移動する際に、水がプロトンを輸送するキャリアとして機能する。上述したようにガス拡散層の多孔性カーボンが触媒層に隣接しているので、多孔性カーボンによって触媒層の湿度調整が行われる。これにより、触媒層における水分量を増加させることができるので、燃料電池の出力向上に寄与する。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る燃料電池用ガス拡散層の製造方法によれば、マイクロポーラス層を有するガス拡散層を容易に製造することができる。また、本発明に係る燃料電池用ガス拡散層によれば、高い導電性及び高いガス拡散性を有するとともに、保水量の調整に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、燃料電池の単セルの断面図である。
図2図2は、第1実施形態のガス拡散層を模式的に示す断面図である。
図3図3は、第1実施形態のガス拡散層の表層部のSEM像である。
図4図4は、第1実施形態のガス拡散層の表層部のSEM像である。
図5図5は、第1実施形態の第ガス拡散層を構成する多孔性カーボンのSEM像である。
図6図6は、第1実施形態のガス拡散層を構成する多孔性カーボンのSEM像である。
図7図7は、第1実施形態のガス拡散層を構成する多孔性カーボンのSEM像である。
図8図8は、第1実施形態のガス拡散層を構成する多孔性カーボンのSEM像である。
図9図9は、第1実施形態のガス拡散層を構成する多孔性カーボンのTEM像である。
図10図10は、第1実施形態の乾燥工程途中における前駆体のTEM像である。
図11図11は、第1実施形態のガス拡散層の製造手順を示すフローチャートである。
図12図12は、前駆体を含む溶液が塗布された状態の基材シートを示す模式図である。
図13図13は、第2実施形態のガス拡散層の製造手順を示すフローチャートである。
図14図14は、シート状の前駆体を基材シートに重ね合わせる様子を示す模式図である。
図15図15は、第3実施形態のガス拡散層の製造手順を示すフローチャートである。
図16図16は、粉砕された多孔性カーボンを含む溶液が塗布された状態の基材シートを示す模式図である。
図17図17は、比較例の多孔性カーボンのSEM像である。
図18図18は、比較例の多孔性カーボンのSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1実施形態>
以下、図1図12図17、及び図18を参照して、燃料電池用ガス拡散層及びその製造方法の第1実施形態について説明する。
【0023】
固体高分子型燃料電池は、複数の単セル10を積層して構成される燃料電池スタックを備える。
図1に示すように、単セル10は、膜電極接合体13と、膜電極接合体13を挟む一対のガス拡散層20と、一対のガス拡散層20を挟むアノード側セパレータ及びカソード側セパレータ(いずれも図示略)とを有する。膜電極接合体13は、固体高分子電解質膜(以下、電解質膜11という)及び電解質膜11を挟む一対の触媒層12を有する。
【0024】
図1及び図2に示すように、ガス拡散層20は、多孔性の基材シート21と、基材シート21の表層部21aの孔部を埋めるように基材シート21に一体に形成された多孔性カーボン22とを有する。
【0025】
本実施形態の基材シート21は、7μm程度の繊維径を有するとともに1~2μm程度の孔部を有するカーボンクロスである。
図3図8に示すように、多孔性カーボン22は、グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有する中空ワイヤー状の結晶が互いに絡み合った構造を有する。
【0026】
図3に示すように、基材シート21を構成するカーボン繊維、すなわち太い繊維同士の間に形成される孔部が多孔性カーボン22によって埋められている。
図9に示すように、多孔性カーボン22は、グラフェンの多層膜で仕切られた空孔構造を有する。
【0027】
結晶のワイヤー径は、100nm以上、500nm以下である。互いに絡み合う結晶同士により形成される孔の孔径は、10nm以上、200nm以下である。
次に、図11を参照して、本実施形態のガス拡散層20の製造手順について説明する。
【0028】
図11に示すように、本実施形態のガス拡散層20の製造方法は、前駆体合成工程と、攪拌工程と、付加工程と、乾燥工程と、焼成工程とを備える。
前駆体合成工程は、周知の方法により前駆体としての銅メチルアセチリドを合成する工程である。
【0029】
攪拌工程は、前駆体としての銅メチルアセチリドを含む溶液を攪拌することによって前駆体をワイヤー状にするとともに前駆体を溶液中において互いに絡み合わせる工程である。ここで、溶媒は水である。なお、溶媒に少量のエタノールを添加することで前駆体を伸ばしやすくできる。
【0030】
攪拌工程において、銅メチルアセチリドを含む溶液を攪拌することによってワイヤー状の前駆体が形成される。このとき、前駆体は、後の加熱工程で銅と炭素との比重の違いにより銅が球状または楕円状になるとともに炭素が銅を被覆するワイヤー状となる。また、ワイヤー状の前駆体が溶液中において互いに絡み合う。
【0031】
図12に示すように、付加工程は、多孔性の基材シート21の表層部21aに対し、表層部21aの孔部を埋めるように前駆体22Aを付加する工程である。
付加工程では、表層部21aに対して前駆体22Aを含む溶液を塗布またはスプレーすることで表層部21aに前駆体22Aを付加する。本実施形態では、基材シート21の表層部21aに前駆体22Aを含むフェノール樹脂溶液を塗布することにより、基材シート21の表層部21aの孔部に上記溶液を入り込ませる。
【0032】
乾燥工程は、基材シート21の表層部21aに付加された前駆体22Aを真空中において170℃~300℃程度まで加熱して乾燥させる工程である。これにより、銅と炭素との相分離が起こるものの前駆体22Aの形状が維持されやすくなる。
【0033】
図10は、乾燥工程において前駆体22Aが60~200℃に加熱される過程において、銅とメチルアセチレン重合物とが分離する様子、詳しくは、銅が球状になり、メチル基がメタンとエチレンガスとなって系外に放出される様子を示している。
【0034】
焼成工程は、基材シート21及び前駆体22Aを1000℃以上、1200℃以下において焼成することによりグラフェンの多層膜を成長させるとともに銅を熱的に除去することで多孔性カーボン22を形成する工程である。
【0035】
焼成工程は、常圧よりも低い減圧下において行うことが好ましい。
ここで、焼成工程において、基材シート21と共に前駆体22Aが1000℃以上、1200℃以下において焼成されることにより、銅が昇華して除去される。前駆体22Aの炭素のうち銅と接触している部分は、1000℃以上において溶けた銅に接触する。このとき炭素に発生する表面張力により理想的な炭素の二次元表面が生じることで、上記炭素がグラフェンの多層膜に成長する。これにより、グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有する中空ワイヤー状の結晶が互いに絡み合った構造を有する多孔性カーボン22が形成される。
【0036】
なお、銅の融点は1085℃であるが、50nm以下の粒子の場合、融点降下が生じることで1000℃以下において銅の液化が進行する。
図17及び図18に、比較例の多孔性カーボンのSEM像を示す。比較例の多孔性カーボンは、本実施形態の前駆体を炉の中に滴下しながら真空焼成することで形成されたものである。
【0037】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
(1-1)ガス拡散層20の製造方法は、攪拌工程と、付加工程と、焼成工程とを備える。
【0038】
こうした方法によれば、焼成温度が1000℃以上、1200℃以下であるため、例えば銀メチルアセチリドを2000℃において焼成する従来の製造方法に比べて、焼成温度を低くすることができる。これにより、焼成炉の小型化や焼成に要するエネルギーの節減を図ることができる。
【0039】
また、導電性を高めるべく厚いグラフェンの多層膜を成長させる上では、銀よりも銅の方が好適である。
このように、上記方法によれば、簡単な工程により、多孔性カーボン22によって基材シート21の表層部21aの孔部が埋められたガス拡散層20を得ることができる。多孔性カーボン22は、マイクロポーラス層23として機能する。したがって、簡単な方法により、マイクロポーラス層23を有するガス拡散層20を製造することができる。
【0040】
(1-2)付加工程では、表層部21aに対して前駆体22Aを含む溶液を塗布またはスプレーすることで表層部21aに前駆体22Aを付加する。
こうした方法によれば、付加工程において、表層部21aに対して前駆体22Aを含む溶液を塗布またはスプレーすることで表層部21aに前駆体22Aが付加される。したがって、多孔性の基材シート21の表層部21aに対し、表層部21aの孔部を埋めるように前駆体22Aを付加することが容易にできる。
【0041】
(1-3)ガス拡散層20は、多孔性の基材シート21と、基材シート21の表層部21aの孔部を埋めるように基材シート21に一体に形成された多孔性カーボン22とを有する。多孔性カーボン22は、グラフェンの多層膜によって構成されるとともにメソ多孔性を有する中空ワイヤー状の結晶が互いに絡み合った構造を有する。結晶のワイヤー径が、100nm以上、500nm以下であり、互いに絡み合う結晶同士により形成される孔の孔径が、10nm以上、200nm以下である。
【0042】
こうした構成によれば、多孔性カーボン22自体は脆いものの、基材シート21と一体に形成されているため、多孔性カーボン22の剛性を高めることができる。また、多孔性カーボン22はグラフェンの多層膜によって構成されているので、高い導電性を有する。また、結晶のワイヤー径が、100nm以上、500nm以下であり、互いに絡み合う結晶同士により形成される孔の孔径が、10nm以上、200nm以下であるため、多孔性カーボン22は高いガス透過性、すなわちガス拡散性を有する。また、結晶中に多く存在するメソ孔に水を貯留したり、メソ孔から水を排出したりできるので、多孔性カーボン22は保水量の調整に優れている。このため、多孔性カーボン22は、マイクロポーラス層23として機能する。また、燃料電池においては、プロトンがアノードからカソードへ移動する際に、水がプロトンを輸送するキャリアとして機能する。上述したようにガス拡散層20の多孔性カーボン22が触媒層12に隣接しているので、多孔性カーボン22によって触媒層12の湿度調整が行われる。これにより、触媒層12における水分量を増加させることができるので、燃料電池の出力向上に寄与する。
【0043】
<第2実施形態>
以下、図13及び図14を参照して、第2実施形態について、第1実施形態との相違点の中心に説明する。
【0044】
図13に示すように、本実施形態のガス拡散層20の製造方法は、攪拌工程と付加工程との間に、シート化工程及び乾燥工程を備える点において第1実施形態と相違している。
シート工程は、前駆体22Aをシート状にする工程である。
【0045】
シート化工程において、互いに絡み合っており、ワイヤー状の前駆体22Aがシート状にされる。なお、ワイヤー状の前駆体22Aをシート状にする方法としては、例えば前駆体22Aを含む溶液を濾紙によって濾別することで濾紙上においてシート化する方法や、平面状の治具に塗工する方法、平面状の治具にスプレーする方法などがある。
【0046】
乾燥工程は、シート化された前駆体を真空中において170℃~300℃程度まで加熱して乾燥させる工程である。これにより、銅と炭素との相分離が起こるものの前駆体の形状が維持されやすくなる。
【0047】
図14に示すように、付加工程では、表層部21aに対して、シート状の前駆体22Aを重ねた状態で前駆体22Aを表層部21aに押し付ける。本実施形態では、図示しないローラを用いてシート状の前駆体22Aを表層部21aに押し付ける。
【0048】
付加工程が行われた後に、第1実施形態と同様にして焼成工程が行われる。
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
(2-1)ガス拡散層20の製造方法は、前駆体22Aをシート状にするシート化工程を備える。付加工程では、表層部21aに対して、シート状の前駆体22Aを重ねた状態で前駆体22Aを表層部21aに押し付ける。
【0049】
こうした方法によれば、多孔性の基材シート21の表層部21aに対し、表層部21aの孔部を埋めるように均一な厚さの前駆体22Aを付加することが容易にできる。
(2-2)多孔性カーボン22が、中空ワイヤー状の結晶が互いに絡み合った構造を有しているので、マイクロポーラス層23を容易に薄膜化できる。また、マイクロポーラス層23の薄膜化により、マイクロポーラス層23の抵抗過電圧の低減を図ることができる。
【0050】
<第3実施形態>
以下、図15及び図16を参照して、第3実施形態について説明する。
図15に示すように、本実施形態のガス拡散層20の製造方法は、前駆体合成工程と、攪拌工程と、第1焼成工程と、粉砕工程と、付加工程と、第2焼成工程とを備える。
【0051】
前駆体合成工程及び攪拌工程は、第1、2実施形態と同様である。
第1焼成工程は、前駆体を、1000℃以上、1200℃以下において焼成することによりグラフェン多層膜に成長させるとともに銅を熱的に除去することで多孔性カーボン22を形成する工程である。
【0052】
第1焼成工程は、常圧よりも低い減圧下において行うことが好ましい。
ここで、第1焼成工程において、前駆体22Aが1000℃以上、1200℃以下において焼成されることにより、銅が昇華して除去されることは第1実施形態の焼成工程と同様である。
【0053】
粉砕工程は、上記結晶構造を維持しつつ多孔性カーボン22を粉砕する工程である。
図16に示すように、付加工程は、粉砕された多孔性カーボン22を含む溶液を、多孔性の基材シート21の表層部21aに塗布またはスプレーすることで表層部21aの孔部を埋めるように多孔性カーボン22を付加する工程である。本実施形態では、基材シート21の表層部21aに、粉砕された多孔性カーボン22を含むフェノール樹脂溶液を塗布することにより、基材シート21の表層部21aの孔部に上記溶液を入り込ませる。
【0054】
第2焼成工程は、基材シート21及び多孔性カーボン22を焼成することで基材シート21に多孔性カーボン22を一体化する工程である。
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
【0055】
(3-1)ガス拡散層20の製造方法は、攪拌工程と、第1焼成工程と、粉砕工程と、付加工程と、第2焼成工程とを備える。
上記方法によれば、第1焼成工程の焼成温度が1000℃以上、1200℃以下であるため、例えば銀メチルアセチリドを2000℃において焼成する従来の製造方法に比べて、焼成温度を低くすることができる。これにより、焼成炉の小型化や焼成に要するエネルギーの節減を図ることができる。
【0056】
また、導電性を高めるべく厚いグラフェンの多層膜を成長させる上では、銀よりも銅の方が好適である。
このように、上記方法によれば、簡単な工程により、多孔性カーボン22によって基材シート21の表層部21aの孔部が埋められたガス拡散層20を得ることができる。多孔性カーボン22は、マイクロポーラス層23として機能する。したがって、簡単な方法により、マイクロポーラス層23を有するガス拡散層20を製造することができる。
【0057】
<変形例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0058】
・基材シート21を構成するカーボン繊維の繊維径及び基材シート21の孔部の大きさは、適宜変更することができる。
・基材シート21は、カーボンクロスに限定されず、カーボンペーパーやカーボン不織布であってもよい。
【0059】
・上記第1,2実施形態では、付加工程において、基材シート21の表層部21aに対し、前駆体としての銅メチルアセチリドを付加した後、焼成工程において、基材シート21及び前駆体を1000℃以上、1200℃以下において焼成するようにした。これに代えて、付加工程において、基材シート前駆体の表層部に対し、前駆体としての銅メチルアセチリドを付加した後、焼成工程において、基材シート前駆体及び前駆体を1000℃以上、1200℃以下において焼成するようにしてもよい。基材シート前駆体は、焼成されることで基材シートとなるものであればよく、例えばポリアクリロニトリル製の不織布やペーパーなどが好ましい。また、セルロース製の不織布やペーパーなどであってもよい。この場合、基材シート前駆体が焼成されることで基材シートが形成される。このため、前駆体を焼成する際に、基材シート前駆体を同時に焼成することで基材シートとしてのカーボンペーパーやカーボン不織布を形成することができる。
【符号の説明】
【0060】
10…単セル
11…電解質膜
12…触媒層
13…膜電極接合体
20…ガス拡散層
21…基材シート
21a…表層部
22…多孔性カーボン
23…マイクロポーラス層
図1
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