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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140959
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】洗浄剤
(51)【国際特許分類】
   C11D 1/86 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C11D1/86
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052350
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099841
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 恒彦
(72)【発明者】
【氏名】内藤 朋子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 慎二
【テーマコード(参考)】
4H003
【Fターム(参考)】
4H003AB19
4H003BA12
4H003DA05
4H003DB01
4H003DC02
4H003EA21
4H003EB04
4H003EB21
4H003ED02
4H003FA04
4H003FA28
(57)【要約】
【課題】被洗浄物に付着した汚れ、特に、熱変性タンパク質を効果的に除去可能な洗浄剤を実現する。
【解決手段】洗浄剤は、界面活性剤および溶剤としての水を含む水溶液であって、当該水溶液のpHを中性からアルカリ性領域に制御するためのpH調整剤をさらに含む第1剤と、ジスルフィド結合を還元可能な水溶性の還元剤を含む第2剤とを含む。この洗浄剤の使用時は、第1剤と第2剤とを混合して洗浄液を調製し、この洗浄液に医療器具やリネン類等の被洗浄物を浸漬する。この際、洗浄液は適宜希釈されてもよい。また、被洗浄物が浸漬された洗浄液は加熱されてもよいし、洗浄液に浸漬された被洗浄物に対して超音波を適用してもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤および溶剤としての水を含む水溶液であって、当該水溶液のpHを中性からアルカリ性領域に制御するためのpH調整剤をさらに含む第1剤と、
ジスルフィド結合を還元可能な水溶性の還元剤を含む第2剤と、
を含む洗浄剤。
【請求項2】
前記界面活性剤が陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤および非イオン性界面活性剤のうちの少なくとも一つである、請求項1に記載の洗浄剤。
【請求項3】
界面活性剤および溶剤としての水を含む水溶液であって、当該水溶液のpHを中性からアルカリ性領域に制御するためのpH調整剤をさらに含む第1剤と、ジスルフィド結合を還元可能な水溶性の還元剤を含む第2剤とを混合し、洗浄液を調製する工程1と、
被洗浄物を前記洗浄液に浸漬する工程2と、
を含む洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄剤、特に、界面活性剤を用いた洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
多種多様な医療器材は、感染防止や器材の性能低下による医療事故の防止等の医療安全の観点から一度しか使用してはならないものであって使用後に廃棄される単回使用医療器材(SUD/Single Use Devices)のほか、電気メスなどの当初から再利用が予定されたものや例外的に再製造が認められた単回使用医療器材(再製造単回使用医療器材)が存在する。再利用を予定された医療器材は、再利用時に十分な洗浄処理が求められ、再製造単回使用医療器材は再製造に当たり各部品の十分な洗浄処理が求められるが、廃棄対象の医療器材についても公衆衛生や環境衛生の観点から洗浄が求められることが想定される。
【0003】
医療器材の洗浄は、界面活性剤等を含む洗浄液に浸漬したり、ブラシやヘラなどの器具や超音波等の物理的作用を適用したりすることで汚れを浮き上がらせて除去する方法が一般的に採用されている。しかし、医療器材は、人体に対して用いるものであることから、血液等に由来のタンパク質による汚れが入念な洗浄後においても残留しやすい。そこで、医療器材の洗浄では、タンパク質の残留抑制が特に求められており、洗浄後の医療器材にタンパク質が残留する場合は繰り返しの洗浄が必要となる。例えば、非特許文献1は、残留タンパク質の評価方法を規定し、洗浄後の医療器材の残留タンパク質が基準値未満になるよう求めている。
【0004】
医療器材に付着したタンパク質を除去するための洗浄剤として、例えば、0.2Mの水酸化ナトリウム水溶液(例えば、非特許文献1)や1%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液[pH11](例えば、非特許文献2)が用いられる。しかし、これらの洗浄剤は、熱変性したタンパク質の除去が困難である。例えば、電気メスは、人体に高周波電流を流して熱を発生させ、その熱により適用部位を切開するものであることから熱変性したタンパク質が膠着しやすいものであるが、膠着した熱変性タンパク質は上述の洗浄剤によっても除去されにくい。また、医療器材は、洗浄、消毒および乾燥の工程においてタンパク質の変性温度以上に加熱処理されると、洗浄により除去されずに残留したタンパク質が熱変性して膠着しやすい。
【0005】
残留タンパク質の熱変性による膠着は、医療器材に限らず、病院や宿泊施設などで使用されるシーツやタオル等のリネン類や衣類においても生じやすい。これらは高い衛生状態を求められることから高温洗浄や熱水消毒されることが多いところ、このような過程で微細な繊維間等において除去しきれずに残留したタンパク質が熱変性して膠着し、これが衛生状態を損なう原因となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】洗浄評価判定ガイドライン、一般社団法人日本医療機器学会、2012年8月15日初版
【非特許文献2】医療現場における滅菌保証のガイドライン、一般社団法人日本医療機器学会、2021年10月15日初版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、医療器材やリネン類等の被洗浄物に付着した汚れ、特に、熱変性タンパク質を効果的に除去可能な洗浄剤を実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、洗浄剤に関するものである。この洗浄剤は、界面活性剤および溶剤としての水を含む水溶液であって、当該水溶液のpHを中性からアルカリ性領域に制御するためのpH調整剤をさらに含む第1剤と、ジスルフィド結合を還元可能な水溶性の還元剤を含む第2剤とを含む。
【0009】
ここで用いられる界面活性剤は、通常、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤および非イオン性界面活性剤のうちの少なくとも一つである。
【0010】
他の観点に係る本発明は、洗浄方法に関するものである。この洗浄方法は、界面活性剤および溶剤としての水を含む水溶液であって、当該水溶液のpHを中性からアルカリ性領域に制御するためのpH調整剤をさらに含む第1剤と、ジスルフィド結合を還元可能な水溶性の還元剤を含む第2剤とを混合し、洗浄液を調製する工程1と、被洗浄物を工程1において調製した洗浄液に浸漬する工程2とを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る洗浄剤は、特定の第1剤と特定の第2剤とを含むものであることから、被洗浄物に付着した汚れ、特に熱変性したタンパク質を効果的に除去することができる。
【0012】
本発明に係る洗浄方法は、特定の第1剤と特定の第2剤とを混合して調製した洗浄液に被洗浄物を浸漬することから、被洗浄物に付着した汚れ、特に熱変性したタンパク質を効果的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例に関し、4℃で保存した第1剤および第2剤により調製した洗浄液による洗浄能評価の結果を示す図。
図2】比較例に関し、4℃で保存した洗浄液による洗浄能評価の結果を示す図。
図3】実施例に関し、36℃で保存した第1剤および第2剤により調製した洗浄液による洗浄能評価の結果を示す図。
図4】比較例に関し、36℃で保存した洗浄液による洗浄能評価の結果を示す図。
図5】実施例に関し、45℃で保存した第1剤および第2剤により調製した洗浄液による洗浄能評価の結果を示す図。
図6】比較例に関し、45℃で保存した洗浄液による洗浄能評価の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る洗浄剤は、各種の被洗浄物に付着したタンパク質などの各種の汚れ、特に、熱変性したタンパク質を除去し、被洗浄物の清浄さ、清潔さを回復するために用いられるものである。この洗浄剤の適用対象となり得る被洗浄物は、特に限定されるものではないが、典型的な例は病院、介護施設および宿泊施設などの高度の衛生環境が求められる施設において用いられる、再利用を想定した衛生資器材である。具体的には、医療器材の外、浴室用品、洗面用品およびトイレ用品等の衛生用品類、食器類並びに繊維製品を例示することができる。
【0015】
適用対象の医療器材としては、電気メス、各種の刃物(スカルペル)、鉗子、剪刀、鑷子、持針器、鈎、開創器、吸引管、各種のドレーン管、血管シーリングデバイス、各種のカテーテル、各種のシリンジ、各種のチューブ、トレイ、膿盆、マイクロサージェリー用器具およびこれらの部材や部品を例示することができる。対象の医療器材は、当初から再利用を想定されたものであってもよいし、例外的に再製造が認められた単回使用医療器材であってもよい。
【0016】
医療器材、衛生用品類および食器類の材質は、特に限定されるものではなく、例えば、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮およびチタンなどの金属、ガラス、並びに、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、シリコーン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリメタクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、アセタール樹脂、アクリル樹脂、メチレンペンテン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂およびエポキシ樹脂などの樹脂が挙げられる。
【0017】
適用対象の繊維製品としては、タオル、シーツおよび各種の寝具用カバー等のリネン類、医療・介護従事者等が着用する白衣、スクラブ、手術用ガウンおよび看護服並びに患者や被介護者が着用する寝間着等の衣類を例示することができる。繊維製品の材質は、特に限定されるものではなく、例えば、麻や綿等の植物繊維、絹や羊毛等の動物繊維、レーヨン、キュプラ、アセテート、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリウレタンおよびポリ塩化ビニル等の化学繊維、ガラスや金属等の無機繊維並びにこれらの混紡のいずれであってもよい。また、繊維製品を形成する布は、織物、編み物、フェルトおよび不織布のいずれであってもよい。
【0018】
なお、被洗浄物は、再利用を想定したものだけではなく、廃棄されるもの、例えば、廃棄される衛生資器材等であってもよい。廃棄される衛生資器材等は、公衆衛生や環境衛生の観点から廃棄前に洗浄するのが好ましいことがあり、そのような場合はこの洗浄剤の適用対象となり得る。
【0019】
本発明の洗浄剤は、第1剤と、第1剤とは別に用意された第2剤とを含むものであり、第1剤と第2剤とを混合することで被洗浄物の洗浄液を調製可能である。
【0020】
第1剤は、界面活性剤、pH調整剤および溶剤としての水を主に含む水溶液である。
第1剤に含まれる界面活性剤は、特に制限されるものではなく、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤またはポリオキシエチレンアルキルエーテル等の非イオン性界面活性剤である。
【0021】
陰イオン性界面活性剤の例としては、ドデシル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウムおよびドデシル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム並びにポリオキシエチレンアルキルフェノールスルホン酸ナトリウム等の硫酸エステル型のもの、ラウリルリン酸、ラウリルリン酸ナトリウムおよびラウリルリン酸カリウム等のリン酸エステル型のもの、1-ヘキサンスルホン酸ナトリウム、1-オクタンスルホン酸ナトリウム、1-デカンスルホン酸ナトリウム、1-ドデカンスルホン酸ナトリウム、ペルフルオロブタンスルホン酸、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンジスルホン酸二ナトリウム、ナフタレントリスルホン酸三ナトリウム、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムおよびペルフルオロオクタンスルホン酸等のスルホン酸型のもの、並びに、オクタン酸ナトリウム、デカン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ペルフルオロオクタン酸、ペルフルオロノナン酸、N-ラウロイルサルコシンナトリウム、ココイルグルタミン酸ナトリウムおよびアルファスルホ脂肪酸メチルエステル塩等のカルボン酸型のものを挙げることができる。
【0022】
陽イオン性界面活性剤の例としては、塩化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化ドデシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、臭化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、臭化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムおよび塩化ジアルキルジメチルアンモニウム等の第4級アンモニウム塩型のもの、モノメチルアミン塩酸塩、ジメチルアミン塩酸塩およびトリメチルアミン塩酸塩等のアルキルアミン塩型のもの、並びに、塩化ブチルピリジニウム、塩化ドデシルピリジニウムおよび塩化セチルピリジニウム等のピリジン環含有型のものを挙げることができる。
【0023】
両性界面活性剤の例としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ドデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタインおよびオクタデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン等のアルキルベタイン型のもの、コカミドプロピルベタインおよびコカミドプロピルヒドロキシスルタイン等の脂肪酸アミドプロピルベタイン型のもの、2-アルキル-N-カルボキシメチルーN-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のアルキルイミダゾール型のもの、ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、ラウロイルグルタミン酸カリウムおよびラウロイルメチルーβ-アラニン等のアミノ酸型のもの、並びに、ラウリルジメチルアミンN-オキシドおよびオレイルジメチルアミンN-オキシド等のアミンオキシド型のものを挙げることができる。
【0024】
非イオン性界面活性剤の例としては、ラウリン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、ソルビタン脂肪酸エステルおよびショ糖脂肪酸エステル等のエステル型のもの、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルおよびポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等のエーテル型のもの、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステルおよびソルビタン脂肪酸エステルポリエチレングリコール等のエステルエーテル型のもの、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミドおよびコカミドジエタノールアミン等のアルカノールアミド型のもの、オクチルグルコシド、デシルグルコシドおよびラウリルグルコシド等のアルキルグリコシド、並びに、セタノール、ステアリルアルコールおよびオレイルアルコール等の高級アルコールを挙げることができる。
【0025】
界面活性剤は、二種以上のものが併用されてもよい。例えば、陰イオン性界面活性剤であるアルキル硫酸エステル塩(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム)と非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル)とを併用することができる。
【0026】
第1剤における界面活性剤の含有量は、第2剤と混合後の濃度が少なくとも0.1質量%になるよう設定するのが好ましく、少なくとも2.0質量%になるよう設定するのがより好ましい。混合後の界面活性剤の濃度が0.1質量%未満の場合、被洗浄物に付着したタンパク質、特に、熱変性したタンパク質の除去性が低下する可能性がある。第2剤との混合後における界面活性剤の濃度の上限は、現実的には60.0質量%である。
【0027】
pH調整剤は、水溶液である第1剤および第1剤と第2剤との混合後の洗浄液のpHを中性からアルカリ性領域に制御するためのものであり、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウムや炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩または炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩等を用いることができる。pH調整剤は、二種以上のものが併用されてもよい。
【0028】
第1剤におけるpH調整剤の含有量は、第1剤および第1剤と第2剤との混合後の洗浄液のpHを中性からアルカリ性領域に制御可能な量に設定すればよいが、好ましくは第1剤のpHが7~13.0、より好ましくは10.5~11.5になるよう制御する。
【0029】
第1剤は、界面活性剤およびpH調整剤の他に緩衝剤を含んでいてもよい。緩衝剤は、第2剤との混合後において洗浄液のpHを安定させるためのものであり、例えば、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液若しくは酒石酸緩衝液などの緩衝液、トリスヒドロキシメチルアミノメタンまたはグッド緩衝剤などの水溶性のものを用いることができる。
【0030】
溶剤としての水は、第1剤に含まれる界面活性剤やpH調整剤などを溶解するためのものであり、通常、蒸留水や純水などの精製水である。
【0031】
第2剤は、還元剤を含むものである。
第2剤に含まれる還元剤としては、タンパク質中のジスルフィド結合(-S-S-)をチオール基(-SH)に還元可能なものであって、第1剤に溶解可能な水溶性のものが用いられる。
【0032】
このような還元剤としては、2-メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩、トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィンおよび亜ジチオン酸ナトリウムなどを挙げることができる。還元剤は、二種類以上のものが併用されてもよい。
【0033】
第2剤は、実質的に還元剤のみからなる粉状または液状のものであってもよいが、溶剤としての水を含む水溶液であってもよい。溶剤としての水は、第1剤において用いられるものと同様のものが用いられる。
【0034】
第2剤における還元剤の含有量は、第1剤との混合後の濃度が少なくとも0.01質量%になるよう設定するのが好ましい。この濃度が0.01質量%未満の場合、被洗浄物に付着したタンパク質、特に、熱変性したタンパク質の除去性が低下する可能性がある。
【0035】
第2剤が水溶液の場合、第2剤はpH調整剤および緩衝剤をさらに含んでいてもよい。
pH調整剤は、水溶液である第2剤のpHを酸性領域に制御することで還元剤を安定化するためのものであり、例えば、マロン酸、フマル酸、コハク酸、クエン酸またはリンゴ酸などの水溶性の有機酸が用いられる。
【0036】
第2剤におけるpH調整剤の含有量は、第2剤のpHを酸性領域に制御可能な量に設定すればよいが、好ましくは第2剤のpHが4.5~5.5になるよう制御するのが好ましい。
【0037】
緩衝剤は、第1剤との混合後において洗浄液のpHをアルカリ性領域で安定させるためのものであり、第1剤において用いられるものと同様の水溶性のものを用いることができる。
【0038】
本発明の洗浄剤は、第1剤において、または、水溶液状の第2剤において、助剤を含んでいてもよい。助剤は、被洗浄物の洗浄時に用いる洗浄水中のカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の金属イオンを捕捉するかまたは他のイオンと交換することにより、第1剤に含まれる界面活性剤の洗浄力を高めるとともに、洗浄後の被洗浄物に水垢が付着するのを抑えることのできるものであって水溶性のものであれば、種々のものを用いることができる。例えば、金属イオンを捕捉可能なものとして、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸(四)ナトリウムおよびピロリン酸カリウム等の縮合リン酸塩系の捕捉剤並びにエチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウムおよびクエン酸ナトリウム等のキレート剤を挙げることができ、また、金属イオンを他のイオンと交換可能なものとしてケイ酸アルミニウムナトリウム等を挙げることができる。
【0039】
助剤は金属イオンを捕捉可能なものが特に好ましい。このような助剤は、金属イオンによる還元剤の劣化を併せて抑えることができ、被洗浄物に付着したタンパク質、特に、熱変性タンパク質の除去性を高めることができる。
【0040】
第1剤または第2剤における助剤の含有量は、両剤の混合後における濃度がその目的を達成可能な程度になるよう設定することができる。
【0041】
次に、上述の洗浄剤を用いた被洗浄物の洗浄方法を説明する。
先ず、上述の洗浄剤を用いて洗浄液を調製する(工程1)。この洗浄液は、第1剤と第2剤とを混合することで調製することができる。この際、第1剤と第2剤との混合割合は、混合後において第1剤の界面活性剤および第2剤の還元剤の濃度がそれぞれ既述の濃度になるよう設定するのが好ましい。
【0042】
第1剤と第2剤とを混合して調製した洗浄液は、蒸留水や純水などの精製水により希釈して用いられてもよい。この際、洗浄液の希釈率は任意である。一般に、被洗浄物が医療器材、衛生用品類または食器類の場合、洗浄剤は希釈せずに用いるのが好ましく、被洗浄物がリネン類等の繊維製品の場合は希釈して用いるのが好ましい。
【0043】
第1剤と第2剤とを混合することで調製される洗浄液は、そのpHが中性からアルカリ性領域となることから概ね24時間以内の短時間のうちに還元剤の劣化が進行する。そこで、第1剤および第2剤はそれぞれ別々に保存し、被洗浄物を洗浄する直前に両剤を混合することで洗浄液を調製するのが好ましい。なお、第2剤は、還元剤の劣化を抑えるために冷蔵保存するのが好ましい。
【0044】
次に、調製された洗浄液に被洗浄物を浸漬する(工程2)。この際、被洗浄物に付着した炭化物をブラシやヘラを用いる物理的手段により予め除去しておくと、被洗浄物の洗浄効果をより高めることができる。例えば、電気メスは、熱を発生することで適用部位を焼き切ることで切開するものであってその際に付着する血液や組織に由来のタンパク質の表層部分が炭化することがあることから、そのような表層の炭化物を除去してから洗浄液に浸漬すると、被洗浄物の洗浄効果をより高めることができる。
【0045】
洗浄液に浸漬した被洗浄物に付着した汚れは、界面活性剤の作用を受けて洗浄液中へ遊離しやすくなる。特に、タンパク質や熱変性したタンパク質による汚れは、還元剤によりジスルフィド結合がチオール基に還元されることで高次構造が崩壊しやすくなることから洗浄液への溶解性が高まり、界面活性剤の作用により洗浄液中へ遊離しやすくなる。この結果、被洗浄物に付着した汚れは被洗浄物から剥離する。
【0046】
被洗浄物を浸漬した洗浄液は、還元剤の作用を高めるために加熱してもよい。加熱温度は、通常、40~80℃程度に設定するのが好ましい。また、洗浄液に浸漬した被洗浄物は、ブラシやヘラなどの器具を用いて汚れを取り除いてもよいし、微振動を与えたり超音波を適用したりすることで汚れの剥離を促進させてもよい。
【0047】
洗浄液に浸漬した被洗浄物は、洗浄液から取り出すなどすることで洗浄液と分離し、付着している洗浄液を蒸留水や純水などの精製水を用いて濯ぎ落とす。洗浄液を濯ぎ落とした被洗浄物は、必要に応じて手洗いや機械洗浄を経て、滅菌または消毒のための処理および乾燥処理の後に再利用することができる。
【実施例0048】
以下に実施例等を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例等によって限定されるものではない。
【0049】
[実施例]
蒸留水に陰イオン性界面活性剤としてのドデシル硫酸ナトリウムおよびpH調整剤としての水酸化ナトリウムをそれぞれ濃度が2質量%および0.6質量%になるよう溶解してpHが12.5の水溶液を調製し、この水溶液を第1剤とした。また、還元剤としてのジチオスレイトールを濃度が0.3質量%になるよう蒸留水に溶解した水溶液を調製し、この水溶液を第2剤とした。この第2剤は、第1剤を混合後の洗浄液において還元剤を短時間のうちに劣化させるため、還元剤の使用量を通常の好ましい使用量よりも抑制したものである。そして、第1剤および第2剤をそれぞれ調製直後から4℃、36℃または45℃に維持して90時間保存した。
【0050】
90時間保存後に第1剤と第2剤とを質量基準で1対1の割合で混合することにより洗浄液を調製した。このように調製された洗浄液のpHを表1に示す。そして、調製直後の洗浄液について酸化還元電位を測定するとともに、洗浄能評価をした。それぞれの測定方法および評価方法は次のとおりである。
【0051】
酸化還元電位:
酸化還元電位測定用複合電極(株式会社堀場アドバンスドテクノの型番「9300-10D」)を用い、水質分析計(株式会社堀場アドバンスドテクノの型番「D-74」)を用いて測定した。洗浄液は、ジスルフィド結合の還元力が高いほど、酸化還元電位が低くなる。結果を表1に示す。
【0052】
洗浄能評価:
ヘパリン添加羊血液1mL(ヘパリン濃度1質量%)に濃度1質量%の硫酸プロタミン水溶液15μLと蒸留水100μLとを添加して攪拌し、疑似汚液を調製した。この疑似汚液50μLをステンレス板(直径23mm、厚さ1mm)の表面の中心部に滴下してその直径が13mmになるよう塗り広げ、約5分後に疑似汚液が凝固したところでステンレス板をオーブンにて110℃で10分加熱した。この加熱は、疑似汚液中のタンパク質を熱変性させるための処理である。
【0053】
ステンレス板をオーブンから取り出して放冷し、常温となったのを確認後にチャック付き袋(70×50×0.06mm)にピンセットを用いて1枚ずつ入れ、そこへ洗浄液を2.5mL注入してチャックを閉じた。このチャック付き袋を25℃の環境下において起立状態で30分間静置した後、チャックを開けてステンレス板をピンセットで取り出した。そして、取り出したステンレス板をビーカーに入れた蒸留水で軽く濯ぎ、疑似汚液の除去状態を目視で観察した。
【0054】
3枚のステンレス板に対して以上の洗浄能評価をした結果を図1、3および5に示す。
【0055】
[比較例]
実施例1で調製した第1剤と第2剤とを調製直後に質量基準で1対1の割合で混合することにより洗浄液を調製した。このように調製された洗浄液のpHを表1に示す。そして、この洗浄液を調製直後から4℃、36℃または45℃に維持して90時間保存した。保存後の洗浄液について、実施例と同様の方法で酸化還元電位を測定するとともに、洗浄能評価をした。それぞれの結果を表1並びに図2、4および6に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
[結果]
保存温度が36℃および45℃の場合において、実施例は、比較例に対して酸化還元電位が低いことから洗浄液によるタンパク質のジスルフィド結合の還元力が高く、その結果、比較例に対して凝固した疑似汚液の残留が顕著に少なくなっているものと考えられる。したがって、実施例の洗浄液は、比較例の洗浄液よりも洗浄力が高く、特に、熱変性したタンパク質に対して高い除去能を示すものである。
【0058】
保存温度が4℃の場合において実施例と比較例とは、酸化還元電位および疑似汚液の残留の程度において実質的に同程度である。これによると、比較例の洗浄液は冷蔵保存が求められるのに対し、実施例の第1剤および第2剤は、保存時の温度が常温以上であっても使用時に洗浄能の高い洗浄液を調製することができるものであり、比較例よりも保存・保管が容易である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6