(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140969
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】逐次比較型A/Dコンバータ
(51)【国際特許分類】
H03M 1/38 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
H03M1/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052368
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】野村 尚弘
【テーマコード(参考)】
5J022
【Fターム(参考)】
5J022AA02
5J022AB04
5J022BA01
5J022BA06
5J022CA07
5J022CB01
5J022CF02
5J022CF04
(57)【要約】
【課題】変換精度を改善した逐次比較型A/Dコンバータを提供する。
【解決手段】バッファ回路200は、SAR-ADCの容量型D/Aコンバータ110に基準電圧Vrを供給する。基準電圧源210は、定電圧V
REFを生成する。初段増幅器220は、定電圧V
REFを受ける。出力バッファ240は、初段増幅器220の出力電圧Vmに応じた電圧Vnを受ける。フィルタ230は、初段増幅器220と出力バッファ240の間に挿入され、出力バッファ240から初段増幅器220に向かう信号に対して作用する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容量型D/Aコンバータと、
前記容量型D/Aコンバータに基準電圧を供給するバッファ回路と、
を備え、
前記バッファ回路は、
定電圧を生成する基準電圧源と、
前記定電圧を増幅する初段増幅器と、
前記初段増幅器の出力電圧に応じた電圧を受ける利得1の出力バッファと、
前記初段増幅器と前記出力バッファの間に挿入され、前記出力バッファから前記初段増幅器に向かう信号に対して作用するフィルタと、
を備え、
前記出力バッファの差動アンプのテイル電流が、前記初段増幅器の差動アンプのテイル電流より大きい、逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項2】
前記フィルタは、前記初段増幅器から前記出力バッファに向かう信号にも作用する、請求項1に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項3】
前記フィルタは、RCR型である、請求項2に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項4】
前記フィルタは、RC型である、請求項1に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項5】
前記初段増幅器は非反転増幅器である、請求項1から4のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項6】
前記初段増幅器はボルテージフォロアである、請求項1から4のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項7】
前記出力バッファはボルテージフォロアである、請求項1から4のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項8】
前記初段増幅器のテイル電流源と、前記出力バッファのテイル電流源は、共通のトランジスタによってバイアスされている、請求項1から4のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、逐次比較型A/Dコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
中分解能~高分解能(たとえば8ビット以上)のA/Dコンバータ(ADC:Analog Digital Converter)として、逐次比較型(SAR:Successive Approximation Register)が使用される。SAR-ADCは、入力電圧をサンプルホールドし、それを1回目のしきい値電圧と比較する。そして比較結果に応じて、2回目のしきい値電圧を決定し、再び比較を行う。この動作を繰り返すことにより、バイナリ探索によって、アナログ電圧がデジタル信号に変換される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SAR-ADCでは、しきい値電圧を生成するために、容量性D/Aコンバータ(CDAC)が利用される。CDACは、複数のキャパシタと、複数のキャパシタを基準電圧によって個別に充電するスイッチ群を備える。基準電圧は、バッファ回路から供給される。
【0005】
ここで、スイッチ群の切り替えによって、バッファ回路が生成する基準電圧が変動する。基準電圧の変動は、CDACの変換精度、ひいてはSAR-ADCの変換精度の低下を招く。
【0006】
本開示は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、変換精度を改善した逐次比較型A/Dコンバータの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある態様の逐次比較型A/Dコンバータは、容量型D/Aコンバータと、容量型D/Aコンバータに基準電圧を供給するバッファ回路と、を備える。バッファ回路は、定電圧を生成する基準電圧源と、定電圧を増幅する初段増幅器と、初段増幅器の出力電圧に応じた電圧を受ける出力バッファと、初段増幅器と出力バッファの間に挿入され、出力バッファから初段増幅器に向かう信号に対して作用するフィルタと、を備える。出力バッファの差動アンプのテイル電流が、初段増幅器の差動アンプのテイル電流より大きい。
【0008】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、あるいは本開示の表現を、方法、装置などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本開示のある態様によれば、変換精度を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係る逐次比較型A/Dコンバータの基本構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、一実施例に係るバッファ回路の回路図である。
【
図4】
図4は、比較技術に係るバッファ回路の回路図である。
【
図5】
図5は、
図4のバッファ回路の動作波形図(シミュレーション結果)である。
【
図6】
図6は、
図3のバッファ回路の動作波形図(シミュレーション結果)である。
【
図7】
図7は、変形例1に係るバッファ回路の回路図である。
【
図8】
図8は、変形例2に係るバッファ回路の回路図である。
【
図9】
図9は、
図3のバッファ回路と、
図8のバッファ回路それぞれにおける、初段増幅器の周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。この概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、すべての実施形態の重要な要素を特定することも、一部またはすべての態様の範囲を線引きすることも意図していない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0012】
一実施形態に係る逐次比較型A/Dコンバータは、容量型D/Aコンバータと、容量型D/Aコンバータに基準電圧を供給するバッファ回路と、を備える。バッファ回路は、定電圧を生成する基準電圧源と、定電圧を増幅する初段増幅器と、初段増幅器の出力電圧に応じた電圧を受ける出力バッファと、初段増幅器と出力バッファの間に挿入され、出力バッファから初段増幅器に向かう信号に対して作用するフィルタと、を備える。出力バッファの差動アンプのテイル電流が、初段増幅器の差動アンプのテイル電流より大きい。
【0013】
この構成によると、バッファ回路を2段構成とし、その間に逆向きの信号伝搬を阻止するフィルタを挿入したことにより、容量型DACがスイッチングしたときの基準電圧の振動が、初段増幅器に伝わるのを防止できる。これにより、基準電圧源が生成する定電圧の揺れを抑えることができ、バッファ回路の出力である基準電圧を安定化できる。
【0014】
一実施形態において、フィルタは、RCR型であってもよい。
【0015】
一実施形態において、フィルタは、RC型であってもよい。
【0016】
一実施形態において、初段増幅器は非反転増幅器であってもよい。
【0017】
一実施形態において、出力バッファはボルテージフォロアであってもよい。
【0018】
一実施形態において、初段増幅器はボルテージフォロアであってもよい。
【0019】
一実施形態において、初段増幅器のテイル電流源と、出力バッファのテイル電流源は、共通のトランジスタによってバイアスされていてもよい。
【0020】
一実施形態において、逐次比較型A/Dコンバータは、ひとつの半導体基板に一体集積化されてもよい。「一体集積化」とは、回路の構成要素のすべてが半導体基板上に形成される場合や、回路の主要構成要素が一体集積化される場合が含まれ、回路定数の調節用に一部の抵抗やキャパシタなどが半導体基板の外部に設けられていてもよい。回路を1つのチップ上に集積化することにより、回路面積を削減することができるとともに、回路素子の特性を均一に保つことができる。
【0021】
(実施形態)
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0022】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に接続された(設けられた)状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0023】
図1は、実施形態に係る逐次比較型A/Dコンバータ(SAR-ADC)100の基本構成を示すブロック図である。SAR-ADC100は、一つの半導体基板に一体集積化される。SAR-ADC100は、A/Dコンバータの専用のチップであってもよいし、他の機能を有するIC(Integrated Circuit)に集積化されてもよい。あるいは、SAR-ADC100は、デジタル部とアナログ部が別々のチップで構成されてもよい。
【0024】
SAR-ADC100は、容量型DAC110、コンパレータ120、コントローラ130を備える。容量型DAC110は、入力電圧VINをサンプリングする。そして容量型DAC110は、制御コードCODEkに応じたしきい値電圧VTHkを生成する。kは、逐次比較処理のサイクルを示す。コンパレータ120は、容量型DAC110の状態にもとづいて、入力電圧VINとしきい値電圧VTHkの大小関係を示す比較信号compを発生する。たとえば比較信号compは、入力信号VINがしきい値電圧VTHkより大きいときにH(ハイ)、小さいときにL(ロー)である。コントローラ130は、コンパレータ120の出力compにもとづいて、次のサイクルk+1の制御コードCODEk+1を決定する。SAR-ADC100はこの動作を繰り返す。
【0025】
容量型DAC110には、バッファ回路200から基準電圧Vrが供給されている。容量型DAC110は、基準電圧Vrを利用して、内部のキャパシタを充電する。
【0026】
図2は、バッファ回路200の回路図である。バッファ回路200は、基準電圧源210、初段増幅器220、フィルタ230、出力バッファ240を備える。基準電圧源210は、基準電圧V
REFを生成する。その限りでないが、基準電圧源210はバンドギャップリファレンス回路であってもよいし、その他の定電圧源であってもよい。
【0027】
初段増幅器220は、基準電圧VREFを利得gで増幅する。利得gは、基準電圧VREFと、容量型DAC110に供給すべき基準電圧Vrにもとづいて定めればよい。
g=Vr/VREF
【0028】
初段増幅器220の出力電圧Vmは、以下の式で表される。
Vm=g×VREF
【0029】
出力バッファ240は、初段増幅器220の出力電圧Vmにもとづく電圧Vnを受ける。出力バッファ240の利得は1であり、その役割はインピーダンス変換である。出力バッファ240の出力電圧Vrの電圧レベルは、初段増幅器220の出力電圧Vmの電圧レベルと等しい。
【0030】
初段増幅器220と出力バッファ240の間には、フィルタ230が挿入される。ただしフィルタ230は、一般的なそれとは異なり、その機能は、出力バッファ240から初段増幅器220に向かう信号を阻止することにあり、その機能を奏するように構成される。
【0031】
出力バッファ240は、初段増幅器220に比べて相対的に高速動作するように構成される。具体的には、出力バッファ240および初段増幅器220はいずれもオペアンプを用いて構成されており、オペアンプの初段には、差動アンプが設けられる。出力バッファ240のオペアンプの差動アンプのテイル電流(バイアス電流)は、初段増幅器220のオペアンプの初段差動アンプのテイル電流よりも大きい。
【0032】
以上がバッファ回路200の構成である。
【0033】
本開示は、
図1および
図2のブロック図や回路図として把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、方法に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本開示の範囲を狭めるためではなく、本開示や本発明の本質や動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例や実施例を説明する。
【0034】
図3は、一実施例に係るバッファ回路200Aの回路図である。バッファ回路200Aの初段増幅器220Aは、非反転増幅器であり、オペアンプOA1、抵抗R11,R12を含む。初段増幅器220Aの利得gは、g=(R11+R12)/R11である。トランジスタMp1は、初段増幅器220のオペアンプOA1の初段の差動アンプのテイル電流源222を示している。
【0035】
一方で、出力バッファ240はボルテージフォロア回路であり、その利得は1である。出力バッファ240は、オペアンプOA2を含み、オペアンプOA2の反転入力端子と出力が接続されている。トランジスタMp2は、オペアンプOA2の初段の差動アンプのテイル電流源242を示している。
【0036】
テイル電流源242が生成する電流It2と、テイル電流源222が生成する電流It1は、以下の関係を満たしている。
It2>It1
【0037】
トランジスタMp1,Mp2には、トランジスタMp0が接続される。トランジスタMp0,Mp1,Mp2は、トランジスタMp0を入力とし、トランジスタMp1,Mp2を出力とするカレントミラー回路を形成している。トランジスタMp0には、基準電流IREFが供給される。つまりトランジスタMp1,Mp2は、共通のトランジスタMp0によってバイアスされており、トランジスタMp1,Mp2には、基準電流IREFに比例するテイル電流It1、It2が流れる。トランジスタMp2のサイズ(W/L ゲート幅/ゲート長)は、トランジスタMp1のサイズよりも大きく設計されており、これにより、It2>It1となる。
【0038】
フィルタ230Aは、抵抗R31およびキャパシタC31を含む。上述のようにフィルタ230Aの機能は、出力バッファ240から初段増幅器220に向かう信号を阻止することにある。この機能は、抵抗R31およびキャパシタC31からなるRCフィルタが担う。
【0039】
またフィルタ230Aはさらに、抵抗R32を含んでいる。初段増幅器220Aから見たときに、キャパシタC31は容量性負荷となる。キャパシタC31が初段増幅器220Aの出力に直接接続されると、初段増幅器220Aの安定性が低下するため、初段増幅器220Aの設計が難しくなる。抵抗R32は、分離抵抗の役割を果たしており、これにより初段増幅器220Aの安定性を高めることができる。また、抵抗R32とキャパシタC31がローパスフィルタを形成するため、初段増幅器220Aからフィルタ230Aに向かうノイズ信号も除去できる。
【0040】
以上がバッファ回路200Aの構成である。
【0041】
バッファ回路200Aの利点は、比較技術との対比によって明確となる。そこで比較技術の構成およびそれにおいて生ずる問題を説明する。
【0042】
図4は、比較技術に係るバッファ回路200Rの回路図である。バッファ回路200Rは、基準電圧源210および非反転増幅器220Rを備える。非反転増幅器220Rは、オペンプOA4,抵抗R41,R42を含み、その利得はg=(R41+R42)/R41である。非反転増幅器220Rの出力電圧が、基準電圧Vrとして容量型DAC110に供給される。
【0043】
SAR-ADC100の容量型DAC110が、制御コードCODEに応じてスイッチングするとき、非反転増幅器220Rの出力ノードの電位Vrを振動させる。この振動(ノイズ信号)は、抵抗R42を介して、オペアンプOP4の反転入力端子(サミングノード)に回り込む。ここで抵抗R42は、容量Cp2とともにローパスフィルタを形成するため、反転入力端子に周り込む信号は遅れることとなる。これにより反転入力端子のセトリングが遅くなり、振動する出力のセトリングが遅くなる。
【0044】
また、オペアンプOP4の反転入力端子と非反転入力端子の間にも寄生容量Cp1が存在する。この寄生容量Cp1を介してノイズ信号が、基準電圧源210の出力ノードにまで伝搬する。ここで基準電圧源210は、バンドギャップリファレンス回路などであり、出力インピーダンスがゼロの理想電圧源ではなく、無視できない出力インピーダンスを有している。そのためノイズ信号は、基準電圧VREFを変化させる。基準電圧VREFが変化すると、非反転増幅器220Rの出力電圧Vrも変化してしまう。さらに、基準電圧源210が、非反転増幅器220Rのみでなく、他の回路ブロックとも共有される場合、基準電圧VREFが変化すると、回路全体の性能が低下するこことなる。
【0045】
図5は、
図4のバッファ回路200Rの動作波形図(シミュレーション結果)である。上段は出力電圧Vrを、下段は基準電圧V
REFを示している。各図において、右の波形は、左の波形を電圧軸方向に拡大したものである。
【0046】
シミュレーションの条件は以下の通りである。
基準電圧VREF=1V
ゲインg=2
基準電圧Vr=2V
シミュレーションでは、時刻t0において、容量型DAC110のコードCODEを、容量型DAC110の発生電圧が0Vから2Vまでフルコードに相当する量、変化させた。また基準電圧源210の出力インピーダンスを1MΩとしている。
【0047】
容量型DAC110においてスイッチングが発生すると、バッファ回路200Rの出力電圧Vrは振動するが、0.3μs程度でセトリングしているように見える。しかしながら下段の拡大波形を見ると出力電圧Vrは、目標レベルである2Vよりも低い電圧に収束しており、誤差が生じている。
【0048】
下段の基準電圧VREFの波形を参照すると、スイッチングの後、基準電圧VREF、すなわち非反転増幅器220Rの入力電圧が、1Vよりも低い電圧レベルとなっていることが分かる。これは、抵抗R42および寄生容量Cp1を介したノイズの回り込みの影響である。基準電圧VREFがずれることにより、それが増幅されて、出力電圧Vrの誤差となって現れている。
【0049】
このように、比較技術では、容量型DAC110のスイッチングのたびに基準電圧Vrが誤差を持つ。したがって、SAR-ADC100の変換精度が低下する。あるいはスイッチングごとに、基準電圧Vrが正常な電圧レベル(この例では2V)まで戻るまで待つ必要があり、SAR-ADC100の動作速度が低下する。
【0050】
また基準電圧VREFを、他の回路ブロックと共有する場合には、基準電圧VREFの誤差が他の回路ブロックに伝搬し、SAR-ADC100の性能を低下させる。
【0051】
以上が比較技術において発生する問題である。実施例に戻る。
【0052】
図6は、
図3のバッファ回路200Aの動作波形図(シミュレーション結果)である。シミュレーションの条件は、
図5と同じである。
図6には、上から順に、出力バッファ240の出力電圧Vr、基準電圧V
REF、初段増幅器220Aの出力電圧Vm、初段増幅器220の入力電圧Vnが示される。
【0053】
このシミュレーション結果から分かるように、実施例では、基準電圧VREFが1Vに保たれている。また、バッファ回路200Aの出力電圧Vrは、0.1μs(時刻t2)に収束しており、比較技術の0.3μs(時刻t1)よりもセトリング時間を短縮することができる。さらに、セトリング後の電圧レベルは、2Vとなっており、比較技術に比べて、誤差を低減できていることが分かる。
【0054】
上述した実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なことが当業者に理解される。以下、こうした変形例について説明する。
【0055】
(変形例1)
図7は、変形例1に係るバッファ回路200Bの回路図である。このバッファ回路200Bでは、初段増幅器220Bが、ボルテージフォロアとなっており、その他は、
図3のバッファ回路200Aと同様である。この構成によっても、
図3のバッファ回路200Aと同様の効果が得られる。
【0056】
(変形例2)
図8は、変形例2に係るバッファ回路200Cの回路図である。このバッファ回路200Cでは、フィルタ230Cの構成が、
図3のフィルタ230Aと異なっており、具体的には抵抗R32が省略されている。この構成によっても、
図3のバッファ回路200Aと同様の効果が得られる。抵抗R32がないため、回路面積を小さくできるという効果がある。
【0057】
ただし、初段増幅器220の出力に、フィルタ230CのキャパシタC31が直接接続されるため、安定性の観点では不利である。
【0058】
図9は、
図3のバッファ回路200Aと、
図8のバッファ回路200Cそれぞれにおける、初段増幅器220の周波数特性を示す図である。(i)が、抵抗R31の無いバッファ回路200Cの周波数特性を示し、(ii)が抵抗R31があるバッファ回路200Aの周波数特性を示す。抵抗R31が無い構成では、高域においてセカンドポールによって急激に位相が回転する。したがってオペアンプの構成によっては回路が不安定となる。これに対して抵抗R31を挿入することにより、キャパシタC31が分離されるため、周波数特性を改善できる。
【0059】
(付記)
本明細書には以下の技術が開示される。
【0060】
(項目1)
容量型D/Aコンバータと、
前記容量型D/Aコンバータに基準電圧を供給するバッファ回路と、
を備え、
前記バッファ回路は、
定電圧を生成する基準電圧源と、
前記定電圧を増幅する初段増幅器と、
前記初段増幅器の出力電圧に応じた電圧を受ける利得1の出力バッファと、
前記初段増幅器と前記出力バッファの間に挿入され、前記出力バッファから前記初段増幅器に向かう信号に対して作用するフィルタと、
を備え、
前記出力バッファの差動アンプのテイル電流が、前記初段増幅器の差動アンプのテイル電流より大きい、逐次比較型A/Dコンバータ。
【0061】
(項目2)
前記フィルタは、前記初段増幅器から前記出力バッファに向かう信号にも作用する、項目1に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0062】
(項目3)
前記フィルタは、RCR型である、項目2に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0063】
(項目4)
前記フィルタは、RC型である、項目1に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0064】
(項目5)
前記初段増幅器は非反転増幅器である、項目1から4のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0065】
(項目6)
前記初段増幅器はボルテージフォロアである、項目1から4のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0066】
(項目7)
前記出力バッファはボルテージフォロアである、項目1から6のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0067】
(項目8)
前記初段増幅器のテイル電流源と、前記出力バッファのテイル電流源は、共通のトランジスタによってバイアスされている、項目1から7のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0068】
実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにさまざまな変形例が存在すること、またそうした変形例も本開示または本発明の範囲に含まれることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0069】
100 SAR-ADC
110 容量型DAC
120 コンパレータ
130 コントローラ
200 バッファ回路
210 基準電圧源
220 初段増幅器
230 フィルタ
240 出力バッファ