(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140976
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20241003BHJP
C10M 135/10 20060101ALN20241003BHJP
C10M 137/10 20060101ALN20241003BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20241003BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20241003BHJP
C10N 30/12 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M135/10
C10M137/10 A
C10N10:04
C10N40:08
C10N30:12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052376
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】398053147
【氏名又は名称】コスモ石油ルブリカンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 和樹
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BG06C
4H104BH07C
4H104DA02A
4H104FA02
4H104LA06
4H104PA05
(57)【要約】
【課題】従来の潤滑油組成物と比べて防錆剤の含有量が低減され、かつ、防錆性に優れる潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】基油と、ジアルキルジチオリン酸亜鉛と、防錆剤として亜鉛スルホネートを含む金属スルホネートと、を含有する潤滑油組成物であり、上記金属スルホネートが、亜鉛スルホネート及びカルシウムスルホネートであるか、又は、亜鉛スルホネートであり、上記金属スルホネートの含有量が、潤滑油組成物の全量に対して、0.015質量%以上0.300質量%未満である、潤滑油組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、ジアルキルジチオリン酸亜鉛と、防錆剤として亜鉛スルホネートを含む金属スルホネートと、を含有する潤滑油組成物であり、
前記金属スルホネートが、亜鉛スルホネート及びカルシウムスルホネートであるか、又は、亜鉛スルホネートであり、
前記金属スルホネートの含有量が、潤滑油組成物の全量に対して、0.015質量%以上0.300質量%未満である、潤滑油組成物。
【請求項2】
前記金属スルホネートが、前記亜鉛スルホネート及び前記カルシウムスルホネートであり、前記亜鉛スルホネート及び前記カルシウムスルホネートの合計含有量が、潤滑油組成物の全量に対して、0.015質量%以上0.300質量%未満である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記亜鉛スルホネートの含有量に対する前記カルシウムスルホネートの含有量の割合が、質量基準で、0.1以上10.0以下である、請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記金属スルホネートが、前記亜鉛スルホネートであり、前記亜鉛スルホネートの含有量が、潤滑油組成物の全量に対して、0.015質量%以上0.200質量%未満である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
40℃動粘度が、9.00mm2/s以上110m2/s以下である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
油圧作動油用である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油組成物には、基本的な性能の一つとして防錆性が求められている。潤滑油組成物に防錆性を付与する手段としては、防錆剤の配合が挙げられ、アルケニルコハク酸及びアルケニルコハク酸部分エステル、カルシウムスルホネート(スルホン酸カルシウムとも称される。)、脂肪族アミン等の種々の化合物が、防錆剤として用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「基油と、増ちょう剤と、防錆剤と、極圧剤とを含むグリース組成物であって、防錆剤は、グリース組成物の全体の質量に対して、スルホン酸カルシウムを0.10~10.00質量%、スルホン酸亜鉛を0.20~10.00質量%、及びカルボン酸亜鉛を0.10~10.00質量%を含み、極圧剤は、グリース組成物の全体の質量に対して、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を2.00~14.00質量%、を含むグリース組成物。」が記載されている。
【0004】
また、建設機械、射出成型機、プレス機等の工業用機械設備に使用される潤滑油組成物(例えば、油圧作動油)に対しては、高圧、高温、高速、高荷重下で長時間に亘って使用しても機械の性能を損なわないよう、充分な耐摩耗性や熱酸化安定性を備えることが求められる。これに対応して、従来からジアルキルジチオリン酸亜鉛の配合が行われている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-22772号公報
【特許文献2】特開2014-218625号公報
【特許文献3】特開2016-89043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
工業用の機械設備では、温度変化により発生した凝縮水が潤滑油に混入することがある。凝縮水の混入は錆の発生原因となり得る。そのため、潤滑油組成物の中でも工業用の潤滑油組成物には、より高い防錆性が求められている。
【0007】
潤滑油組成物において防錆性を高める手段としては、種々の防錆剤の配合が挙げられることは上記のとおりである。しかし、防錆剤は、潤滑油組成物に配合される摩耗防止剤との競争吸着を起こし易く、防錆剤の配合は、耐摩耗性の低下を引き起こすことがある。また、潤滑油組成物にジアルキルジチオリン酸亜鉛と共に防錆剤を配合した場合においては、防錆剤の配合に期待される防錆能が得られないことがある。
【0008】
本開示はこのような事情に鑑みてなされたものであり、本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、従来の潤滑油組成物と比べて防錆剤の含有量が低減され、かつ、防錆性に優れる潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、以下の態様を含む。
<1> 基油と、ジアルキルジチオリン酸亜鉛と、防錆剤として亜鉛スルホネートを含む金属スルホネートと、を含有する潤滑油組成物であり、上記金属スルホネートが、亜鉛スルホネート及びカルシウムスルホネートであるか、又は、亜鉛スルホネートであり、上記金属スルホネートの含有量が、潤滑油組成物の全量に対して、0.015質量%以上0.300質量%未満である、潤滑油組成物。
<2> 上記金属スルホネートが、亜鉛スルホネート及びカルシウムスルホネートであり、亜鉛スルホネート及びカルシウムスルホネートの合計含有量が、潤滑油組成物の全量に対して、0.015質量%以上0.300質量%未満である、<1>に記載の潤滑油組成物。
<3> 亜鉛スルホネートの含有量に対するカルシウムスルホネートの含有量の割合が、質量基準で、0.1以上10.0以下である、<2>に記載の潤滑油組成物。
<4> 上記金属スルホネートが、亜鉛スルホネートであり、亜鉛スルホネートの含有量が、潤滑油組成物の全量に対して、0.015質量%以上0.200質量%未満、<1>に記載の潤滑油組成物。
<5> 基油の40℃動粘度が、9mm2/s以上110m2/s以下である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の潤滑油組成物。
<6> 油圧作動油用である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一実施形態によれば、従来の潤滑油組成物と比べて防錆剤の含有量が低減され、かつ、防錆性に優れる潤滑油組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
【0012】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0013】
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0014】
本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
【0015】
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0016】
本開示において、「JIS」は、日本産業規格(Japanese Industrial Standards)の略称として用いる。
【0017】
本開示において、序数詞(例えば、「第1」、及び「第2」)は、複数の構成要素を区別するために使用する用語であり、構成要素の数、及び構成要素の優劣を制限するものではない。
【0018】
<潤滑油組成物>
本開示に係る潤滑油組成物は、基油と、ジアルキルジチオリン酸亜鉛と、防錆剤として亜鉛スルホネートを含む金属スルホネートと、を含有する潤滑油組成物であり、上記金属スルホネートが、亜鉛スルホネート及びカルシウムスルホネートであるか、又は、亜鉛スルホネートであり、上記金属スルホネートの含有量が、潤滑油組成物の全量に対して、0.015質量%以上0.300質量%未満である。
【0019】
以下、本開示に係る潤滑油組成物が、防錆剤として特定の含有量範囲で含む「亜鉛スルホネートを含む金属スルホネート」を「特定防錆剤」と総称する。
【0020】
本開示に係る潤滑油組成物は、防錆剤として亜鉛スルホネートを含む金属スルホネート(特定防錆剤)を含有し、特定防錆剤が、亜鉛スルホネートであるか、又は、亜鉛スルホネート及びカルシウムスルホネートを含有することにより、基油とジアルキルジチオリン酸亜鉛とを含有する組成でありながらも、従来の潤滑油組成物と比べて防錆剤の含有量が低減され、かつ、防錆性に優れる。さらに、本開示に係る潤滑油組成物は、耐摩耗性にも優れる。
【0021】
本開示に係る潤滑油組成物が、このような効果を発揮する理由については、明らかではないが、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を配合した潤滑油組成物に防錆剤として亜鉛スルホネートを含む金属スルホネートを組み合わせることで、各化合物が競争吸着起こしにくく、結果として耐摩耗性と防錆性が向上すると推測される。
【0022】
一方、特許文献1~3には、潤滑油組成物において、基油と、ジアルキルジチオリン酸亜鉛と、所定量の特定防錆剤とを含有させる着目はない。
【0023】
(基油)
本開示に係る潤滑油組成物は、基油を含有する。
基油としては、特に限定されず、例えば、鉱油系基油、合成系基油などの潤滑油組成物に適用される基油が挙げられる。基油は、通常、油圧作動油として用いられる基油であってもよい。
【0024】
基油は、1種単独で含まれていてもよく、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。例えば、基油は、1種の鉱油からなる基油、2種以上の鉱油からなる混合基油、1種の合成炭化水素油からなる基油、2種以上の合成炭化水素油からなる混合基油、又は1種以上の鉱油と1種以上の合成炭化水素油とからなる混合基油であってもよい。
【0025】
基油の40℃動粘度は、好ましくは15mm2/s以上110mm2/s以下であり、より好ましくは20mm2/s以上90mm2/s以下であり、更に好ましくは28mm2/s以上75mm2/s以下である。
【0026】
基油の40℃動粘度は、JIS K 2283:2000記載の「動粘度試験方法」に準拠して測定するものとする。
【0027】
なお、本開示において、基油の動粘度とは、2種以上の異なる基油成分を混合した場合には、混合後の混合基油の動粘度を指す。
【0028】
基油の40℃動粘度が上記範囲であることにより、耐荷重能を確保し易く、荷重負荷時において耐摩耗性への影響を抑制し易くなる。また、潤滑油組成物を油圧作動油として用いて場合において、ポンプの容積効率の低下を抑制し易く、10MPa以上の高圧用油圧機器に用いる場合でも油膜を保持し易く、かつ、油圧機器の機械効率を適切な範囲に維持することができる。
【0029】
基油は、ASTM D3238「n-d-M環分析法」における%CPが55以上9以下、%CNが8以上40以下、%CAが10以下であることが好ましく、%CPが60以上90%以下、CNが10以上35以下、%CAが7以下であることがより好ましい。
【0030】
基油の%CP、%CN及び%CAが上記範囲にあることにより、熱酸化安定性が高くなり、スラッジ発生を抑制し易くなる。また、基油の%CP及び%CNが上記範囲にあることにより、潤滑油組成物に含まれるジアルキルジチオリン酸亜鉛をはじめとする各種添加剤の溶解性を確保し易くなる。
【0031】
基油の粘度指数は、好ましくは95以上、より好ましくは98以上である。基油の粘度指数が上記範囲にあることにより、基油の精製度が高くなり、熱酸化安定性が高くなり、スラッジ発生を抑制し易くなる。
【0032】
基油のJIS K 2256:2013「アニリン点試験方法」におけるアニリン点は、好ましくは90℃以上140℃以下、より好ましくは95℃以上130℃以下である。基油のアニリン点が上記範囲にあることにより、基油の精製度が高くなり、熱酸化安定性が高くなり、スラッジ発生を抑制し易くなり、添加剤の溶解性を確保し易くなり、シール材料適合性を確保し易くなる。
【0033】
鉱油系基油としては、溶剤精製鉱油、水素化精製鉱油、水素化分解鉱油などが挙げられる。このうち、水素化精製鉱油、及び、水素化分解鉱油が好ましい。水素化精製鉱油、及び、水素化分解鉱油の製造方法は、特に限定されないが、好ましい製造方法としては、以下の方法が挙げられる。
【0034】
水素化精製鉱油の好ましい製造方法としては、常圧蒸留により得られた残さ油を減圧蒸留したのち、潤滑油留分として得られた留分を溶剤抽出し、水素化精製と溶剤脱ろうとを行う方法が挙げられ、その後、更に2回目の水素化精製を行う方法が挙げられる。
【0035】
水素化分解鉱油の好ましい製造方法としては、まず、原油の常圧蒸留で得られた残さ油を減圧蒸留装置で処理し、そこで得られた減圧軽油に対し水素化処理及び水素化分解を行い、その後、軽質分、燃料分を減圧ストリッパーで除去した残渣物を得、この残渣物を減圧蒸留し、得られた潤滑油留分を水素化脱ロウ処理又はワックス異性化処理し、安定化処理を行う方法が挙げられる。なかでも、潤滑油留分をワックス異性化により高粘度指数化させる方法がより好ましい方法として挙げられる。
【0036】
さらに、溶剤脱ロウによるスラックワックス等の原料を水素化分解処理及び水素化異性化処理して得た基油の製造方法も、好ましい製造方法として挙げられる。
【0037】
合成系基油としては、フィッシャー・トロプシュ合成で得られたワックス等の原料を水素化分解処理及び水素化異性化処理して得られる基油、ポリαオレフィン基油、アルキルベンゼンやアルキルナフタレン等の芳香族系合成油、エステル油、アルキル化フェニルエーテル油等の合成系基油が挙げられる。ポリαオレフィン基油の好適な製造方法としては、エチレンの低重合又はワックスの熱分解によって炭素数6~18のα-オレフィンを合成し、このα-オレフィン2単位~9単位を重合し、水添反応を行う方法が挙げられる。
【0038】
エステル油の好適な例としては、1価アルコールとジカルボン酸とから製造されるジエステル、ポリオールとモノカルボン酸とから製造されるポリオールエステル、又は、ポリオール、モノカルボン酸、ポリカルボン酸とから製造されるコンプレックスエステル等が挙げられる。ジエステルとしては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の二塩基酸のエステルが挙げられる。二塩基酸としては、炭素数4~36の脂肪族二塩基酸が好ましい。エステル部を構成するアルコール残基は、炭素数4~26の一価アルコール残基が好ましい。また、ポリオールエステル又はコンプレックスエステルに用いられるポリオールとしては、具体的には、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール等のβ水素を持たないヒンダードアルコールが好適に用いられる。また、ポリオールエステルやコンプレックスエステルに用いられるモノカルボン酸としては、ヤシ脂肪酸、ステアリン酸などの直鎖飽和脂肪酸、オレイン酸などの直鎖不飽和脂肪酸、イソステアリン酸などの分岐脂肪酸等が好適に用いられ、ポリカルボン酸としてはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの直鎖飽和ポリカルボン酸が好適に用いられる。また、アルキル化フェニルエーテル油の好適な例としては、アルキル化ジフェニルエーテル、(アルキル化)ポリフェニルエーテルなどが挙げられる。
【0039】
なお、基油として、溶剤脱ロウによるスラックワックス又はフィッシャー・トロプシュ合成で得られたワックス等の原料から得られる水素化異性化基油、芳香族系炭化水素油を用いる場合には、%CP及び%CNを適切な範囲に調整するために溶剤精製鉱油、水素化精製鉱油、水素化分解鉱油などを混合して用いることがより好ましい。
【0040】
基油の含有量は、潤滑組成物全量に対して、好ましくは90質量%以上99.8質量%以下であり、より好ましくは92質量%以上99.7質量%以下であり、特に好ましくは95質量%以上99.5質量%以下である。
【0041】
(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)
本開示に係る潤滑油組成物は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有する。ジアルキルジチオリン酸亜鉛は、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0042】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛としては、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0043】
【0044】
式(1)中、R1、R2、R3及びR4は、各々独立に、炭素数が3~18のアルキル基を表す。R1、R2、R3及びR4は、各々独立に、炭素数が6~14のアルキル基が好ましく、炭素数が6~12のアルキル基であることが更に好ましい。
【0045】
R1、R2、R3及びR4は、酸素原子に結合する炭素原子が、第一級炭素原子であるプライマリーアルキル基であってもよく、第二級炭素原子であるセカンダリーアルキル基であってもよい。R1、R2、R3及びR4は、プライマリーアルキル基のみを有していてもよく、セカンダリーアルキル基のみを有していてもよく、又は、プライマリーアルキル基及びセカンダリーアルキル基の両方を有していてもよい。熱酸化安定性の観点からは、R1、R2、R3及びR4は、プライマリーアルキル基であることが好ましい。
【0046】
プライマリーアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基 、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基などが挙げられる
【0047】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛の含有量は、耐摩耗性及び酸化防止性の観点から、潤滑油組成物の全量に対して、0.01質量%以上0.5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.4質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上0.4質量%以下が更に好ましい。
【0048】
(防錆剤)
=特定防錆剤=
本開示に係る潤滑油組成物は、防錆剤として亜鉛スルホネートを含む金属スルホネート(特定防錆剤)を含有する。本開示に係る潤滑油組成物が含有する特定防錆剤は、亜鉛スルホネート及びカルシウムスルホネートであるか、又は、亜鉛スルホネートである。すなわち、特定防錆剤は、亜鉛スルホネート及びカルシウムスルホネートの組合せである第1の態様、又は、亜鉛スルホネートのみからなる第2の態様からなる。
【0049】
また、特定防錆剤の含有量は、防錆剤の含有量の低減と優れた防錆性とを両立する観点から、潤滑油組成物の全量に対して、0.015質量%以上0.300質量%未満である。
【0050】
特定防錆剤の第1の態様は、亜鉛スルホネート及びカルシウムスルホネートの組合せて用いる態様である。
【0051】
特定防錆剤の第1の態様において、亜鉛スルホネート及びカルシウムスルホネートの組合せは、1種の亜鉛スルホネートと1種のカルシウムスルホネートの組合せであってもよいし、1種の亜鉛スルホネートと2種以上のカルシウムスルホネートの組合せであってもよいし、2種の亜鉛スルホネートと1種以上のカルシウムスルホネートの組合せであってもよいし、2種の亜鉛スルホネートと2種以上のカルシウムスルホネートの組合せであってもよい。
【0052】
特定防錆剤が第1の態様である場合、防錆剤の含有量の低減と防錆性とを両立する観点から、亜鉛スルホネート及びカルシウムスルホネートの合計含有量は、潤滑油組成物の全量に対して、0.015質量%以上0.300質量%未満が好ましく、0.020質量%以上0.100質量%以下がより好ましく、0.024質量%以上0.030質量%以下がさらに好ましい。
【0053】
特定防錆剤の第1の態様において、亜鉛スルホネートの含有量に対するカルシウムスルホネートの含有量の割合は、防錆剤の含有量の低減、防錆性及び耐摩耗性の観点から、質量基準で、0.1以上10.0以下であることが好ましく、0.1以上5.0以下であることがより好ましく、0.1以上2.0以下であることが更に好ましい。
【0054】
特定防錆剤の第2の態様は、亜鉛スルホネートのみを用いる態様である。
【0055】
特定防錆剤の第2の態様において、亜鉛スルホネートは、1種のみであってもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
特定防錆剤が第2の態様である場合、防錆剤の含有量の低減と防錆性とを両立する観点から、亜鉛スルホネート含有量は、潤滑油組成物の全量に対して、0.015質量%以上0.200質量%未満が好ましく、0.018質量%以上0.100質量%以下がより好ましく、0.018質量%以上0.024質量%以下がさらに好ましい。
【0057】
亜鉛スルホネートとしては、潤滑油組成物に防錆剤として使用できるものであれば特に限定されない。
【0058】
亜鉛スルホネートの具体例としては、例えば、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0059】
[R5-SO3]2Zn ・・・(2)
式(2)中、R5は、アルキル基、アルケニル基、アルキルナフチル基、ジアルキルナフチル基、又はアルキルフェニル基を表す。
R5において、アルキル及びアルケニルは、いずれも直鎖又は分岐であり、炭素数は2~22である。
【0060】
式(2)で表される化合物としては、具体的には、例えば、ジアルキルナフタレンスルホン酸の亜鉛塩、アルキルベンゼンスルホン酸の亜鉛塩、石油スルホン酸の亜鉛塩等が挙げられ、ジノニルナフタレンスルホン酸の亜鉛塩が特に好ましい。
【0061】
カルシウムスルホネートとしては、潤滑油組成物に防錆剤として使用できるものであれば特に限定されない。
【0062】
カルシウムスルホネートの具体例としては、例えば、下記式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0063】
[R6-SO3]2Ca ・・・式(3)
式(3)中、R6は、アルキル基、アルケニル基、アルキルナフチル基、ジアルキルナフチル基、アルキルフェニル基、又は石油高沸点留分を表す。
R6において、アルキル及びアルケニルは、いずれも直鎖又は分岐であり、炭素数は2~22である。
【0064】
式(3)で表される化合物としては、具体的には、例えば、ジアルキルナフタレンスルホン酸のカルシウム塩、アルキルベンゼンスルホン酸のカルシウム塩、石油スルホン酸のカルシウム塩等が挙げられ、ジノニルナフタレンスルホン酸のカルシウム塩が特に好ましい。
【0065】
本開示に係る潤滑油組成物は、本開示に係る効果が発揮される範囲において、特定防錆剤に加えて、防錆剤として機能する他の成分を含有していてもよい。
【0066】
(その他の添加剤)
本開示に係る潤滑油組成物は、必要に応じて、各種の公知の添加剤を含有することができる。このような必要に応じて含有される添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐摩耗剤、極圧剤、無灰系分散剤、清浄剤分散剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤、摩擦調整剤、抗乳化剤、消泡剤(シリコーン系消泡剤、等)などが挙げられる。
【0067】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤として、具体的には、例えば、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、等の単環フェノール系酸化防止剤、4,4’-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-エチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、6,6’-メチレンビス(2-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール)等のビスフェノール系酸化防止剤、4,4’チオビス-(2,6-ジ-t-ブチル-フェノール)、4,4’チオビス-(2-メチル-6-t-ブチル-フェノール)等の硫黄含有フェノール系酸化防止剤、アルキル化ジフェニルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、アルキルホスファイト、アリールホスファイト類等のリン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0068】
極圧剤としては、硫化オレフィン、ポリサルファイド、硫化油脂、ジチオリン酸誘導体等の硫黄系極圧剤、酸性リン酸エステルまたはそのアミン塩等のリン系極圧剤、ZnDTC等の有機金属系極圧剤が挙げられる。
【0069】
摩耗防止剤としては、リン酸エステル類及び亜リン酸エステル類が挙げられる。リン酸エステル類及び亜リン酸エステル類として具体的には、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2-エチルヘキシル)ホスフェート、ジフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリキシレニルホスファイト、その他のトリアリールホスファイト等が挙げられる。
【0070】
金属型清浄分散剤としては、例えば、金属成分がカルシウム又はマグネシウムである、スルホネート、フィネート、サリシレート等が挙げられる。但し、防錆剤として用いられるカルシウムスルホネートは、金属型清浄分散剤に包含されないものとする。金属型清浄分散剤として具体的には、例えば、過塩基性カルシウムサリシレート、過塩基性カルシウムフィネート、及び過塩基性カルシウムスルホネートが挙げられる。
【0071】
無灰系分散剤としては、無灰系分散剤としてはコハク酸イミド化合物が挙げられ、具体的には、ポリブテニルビスコハク酸イミド及びそのホウ素変性化合物が挙げられる。
【0072】
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、インダゾール及びその誘導体、ベンズイミダゾール及びその誘導体、インドール及びその誘導体、チアジアゾール及びその誘導体、等が挙げられ、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、チアジアゾール及びその誘導体が好ましい。
【0073】
流動点降下剤としては、ポリアルキルメタクリレート、ポリブテン、ポリアルキルスチレン、ポリビニルアセテート、ポリアルキルアクリレート等が挙げられる。
【0074】
抗乳化剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等の抗乳化剤が挙げられ、ノニオン系界面活性剤が好ましく用いられる。具体的には、ポリアルキレングリコールが好ましく用いられる。ポリアルキレングリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールをモノマーとし、これらをそれぞれ単独で重合させたホモポリマー、それぞれを組み合わせて重合させたコポリマーが用いられ、ホモポリマーとコポリマーはそれぞれ単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよいが、コポリマーが好ましい。ポリアルキレングリコールとしては、エチレングリコールとプロピレングリコールを組み合わせて重合させたエチレンオキサイド-プロピレンオキサイドコポリマ-(以下、「EO-POコポリマー」とも称する。)が特に好ましい。
【0075】
粘度指数向上剤としては、ポリイソブチレン、オレフィンコポリマー等が挙げられる。
【0076】
消泡剤としては、ジメチルシリコーン、アルキル変性シリコーン、フェニル変性シリコーン、フッ素変性シリコーンなどのシリコーン系消泡剤、ポリアクリレート系消泡剤等が挙げられる。
【0077】
(潤滑油組成物の物性値)
本開示に係る潤滑油組成物の40℃動粘度は、9.00mm2/s以上110mm2/s以下が好ましく、18mm2/s以上100mm2/s以下がより特に好ましく、25mm2/s以上75mm2/s以下が更に好ましく、30mm2/s以上74.8mm2/s以下がより更に好ましい。
【0078】
40℃動粘度は、JIS K 2283:2000に記載の「動粘度試験方法」に準拠して測定するものとする。
【0079】
本開示に係る潤滑油組成物の粘度指数は、特に制限はないが、好ましくは100以上である。
【0080】
粘度指数は、JIS K 2283:2000に記載の「動粘度試験方法」に準拠して測定するものとする。
【0081】
(用途)
本開示に係る潤滑油組成物の用途は、特に限定されず、防錆性に優れることから、例えば、油圧作動油タービン油、ギヤー油、及び工作機械油の用途に好適に適用することができる。本開示に係る潤滑油組成物は、油圧作動油用として特に好適である。
【0082】
(潤滑組成物の製造方法)
潤滑油組成物の製造方法は、特に限定されず、基油と、ジアルキルジチオリン酸亜鉛と、防錆剤として金属スルホネートとに、必要に応じて、その他の添加剤を適宜混合すればよい。潤滑油組成物を製造するに際しての各成分の混合順序は、特に制限されるものではなく、基油に各成分を順次混合してもよい。
【実施例0083】
以下に実施例について説明するが、本開示に係る潤滑油組成物は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0084】
<実施例1~6、比較例1~10>
1.潤滑油組成物の調製
実施例1~6及び比較例1~10として、表1に示す各成分を表1に示す配合割合(質量%)で混合し、潤滑油組成物を調製した。表1に示す組成欄中の空欄は、該当する成分を配合していないことを示す。
【0085】
表1中、防錆剤の含有量が0.300質量%未満であるか否かを、防錆剤が低減されているか否かの判断基準とした。
【0086】
2.潤滑油組成物の測定及び評価
(1)潤滑油組成物の40℃動粘度
JIS K 2283:2000に記載の「動粘度試験方法」に準拠して、実施例及び比較例の潤滑組成物の40℃動粘度を測定した。
【0087】
(2)錆止め試験
上記により得られた実施例及び比較例の潤滑組成物をそれぞれ用いて、錆止め試験の評価を行った。評価方法及び評価基準を以下に示す。
【0088】
・評価方法
JIS K 2510:1998「潤滑油-さび止め性能試験方法」に規定されている「人工海水を用いるさび止め性能試験」に準拠して、錆止め性能の評価を行った。
なお、試験時間は24時間とした。錆止め性能の評価は、試験終了後の試験片における錆発生の有無を肉眼にて観察することにより行った。
【0089】
・評価基準
さびなし:錆が発生しなかった。
さびあり:錆の発生が認められた。
【0090】
(3)耐摩耗性試験(シェル四球試験)
上記により得られた実施例及び比較例の潤滑組成物をそれぞれ用いて、シェル四球試験を行い耐摩耗性の評価を行った。評価方法及び評価基準を以下に示す。
【0091】
・評価方法
JPI-5S-32「潤滑油の耐摩耗性試験方法(シェル4球式)」に準拠し、JCMAS P 041に規定する試験条件を用い、294N、1200rpm、60min、75℃における摩耗痕径を測定した。
【0092】
・評価基準
摩耗痕径が0.6mm以下であるか否かを、耐摩耗性に優れるか否かの判断基準とした。
【0093】
以上の結果を表1に示す。
【0094】
【0095】
*表1中、「残部」とは、全量が100質量%になるように、混合基油に該当する成分を含有させたことを示す。
※表1中に示す「mass%」は、「質量%」と同義である。
【0096】
表1中の各成分の詳細について以下に記載する。
【0097】
(基油)
・基油1;水素化精製鉱油、40℃動粘度:32.56mm2/s、API基油分類:グループI
・基油2;水素化精製鉱油、40℃動粘度:98.47mm2/s、API基油分類:グループI
基油は、基油1及び基油2を混合して、40℃動粘度が46mm2/sとなるように調整した混合基油を用いた。
【0098】
(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)
・ジアルキルジチオリン酸亜鉛1;式(1)におけるR1~R4が2-エチルヘキシル基であるプライマリージアルキルジチオリン酸亜鉛。
【0099】
(防錆剤)
・Znスルホネート-1;ジノニルナフタレンスルホン酸亜鉛
・Caスルホネート-1;ジノニルナフタレンスルホン酸カルシウム
・Baスルホネート;ジノニルナフタレンスルホン酸のバリウム塩
・アルケニルコハク酸;アルケニルコハク酸、酸価:195mgKOH/g
実施例1及び3に含有される亜鉛スルホネート1、及び、実施例2、4~6に含有される亜鉛スルホネート1とカルシウムスルホネート1との組合せは、特定防錆剤を構成する。
【0100】
(その他の添加剤)
・金属型清浄剤;過塩基性カルシウムサリシレート、過塩素酸法による塩基価:221mgKOH/g、Ca含有量:8.9質量%
・無灰型分散剤;コハク酸イミド系分散剤
・酸化防止剤;フェノール系酸化防止剤
・流動点降下剤:ポリアルキルメタクリレート
・抗乳化剤;エチレンオキサイド-プロピレンオキサイドコポリマー
・シリコーン系消泡剤;ジメチルシリコーン
【0101】
表1に示すとおり、特定防錆剤を含む実施例の潤滑油組成物は、比較例の潤滑油組成物との対比において防錆剤の含有量が低含有量であり、かつ、防錆性に優れていることがわかる。