(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140978
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】原子力発電プラント、及び、出力制御装置
(51)【国際特許分類】
G21D 3/00 20060101AFI20241003BHJP
G21D 3/12 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G21D3/00 A
G21D3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052378
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】伏見 篤
(72)【発明者】
【氏名】横井 公洋
(72)【発明者】
【氏名】石井 佳彦
(57)【要約】
【課題】調整力の幅と期間を含む運用性の高い運転計画を得ることができる。
【解決手段】原子力発電プラント100は、発電システム101と、出力制御装置102と、を備える。出力制御装置は、卸電力及び需要調整の市場価格予測値を入力する評価基準入力装置28と、価格予測値および少なくとも炉心の熱的制限に対する余裕と制御棒位置を含む炉心・プラント状態に関する情報から、需給調整のための調整力供給量を設定する調整力設定装置26と、調整力供給量から運転計画を生成し、計画の可否を評価する運転計画評価装置25と、運転計画に基づき炉心・プラント状態を評価する動特性評価システム24と、調整力設定装置と運転計画評価装置との反復評価により得られた運転計画を出力する運転計画出力装置27と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電システムと、
出力制御装置と、を備え、
前記出力制御装置は、
卸電力及び需要調整の市場価格予測値を入力する評価基準入力装置と、
価格予測値および少なくとも炉心の熱的制限に対する余裕と制御棒位置を含む炉心・プラント状態に関する情報から、需給調整のための調整力供給量を設定する調整力設定装置と、
前記調整力供給量から運転計画を生成し、計画の可否を評価する運転計画評価装置と、
前記運転計画に基づき炉心・プラント状態を評価する動特性評価システムと、
前記調整力設定装置と前記運転計画評価装置との反復評価により得られた運転計画を出力する運転計画出力装置と、を有する
ことを特徴とする原子力発電プラント。
【請求項2】
請求項1に記載の原子力発電プラントにおいて、
前記炉心の熱的制限に対する余裕は、炉心の最大線出力密度、限界出力比または限界熱流束比、アキシャルオフセット、制御棒位置、炉心冷却材流量、冷却材温度、ホウ素濃度のいずれか1つ、又は、これらの複数の組み合わせを含むものである
ことを特徴とする原子力発電プラント。
【請求項3】
請求項1に記載の原子力発電プラントにおいて、
前記出力制御装置は、制御棒、炉心流量、原子炉圧力、給水温度、バイパス弁開度及び炉水ホウ素濃度のいずれか1つ、又は、これらの複数の組み合わせの操作による出力制御を行うための制御信号を前記発電システムに出力する
ことを特徴とする原子力発電プラント。
【請求項4】
請求項1に記載の原子力発電プラントにおいて、
前記動特性評価システムは、中性子動特性計算及び熱水力動特性計算に基づいて、初期の炉心・プラント状態及び前記運転計画に従って得られる評価対象期間の炉心・プラントの状態を前記運転計画評価装置に出力する
ことを特徴とする原子力発電プラント。
【請求項5】
請求項1に記載の原子力発電プラントにおいて、
前記動特性評価システムは、中性子動特性計算及び熱水力動特性計算に基づいて、初期の炉心・プラント状態及び前記運転計画に従って得られる評価対象期間の炉心・プラントの状態を機械学習させておき、初期の炉心・プラント状態及び前記運転計画を入力することで評価対象期間の炉心・プラントの状態を前記運転計画評価装置に出力する
ことを特徴とする原子力発電プラント。
【請求項6】
発電システムと、
出力制御装置と、を備え、
前記出力制御装置は、
卸電力及び需要調整の市場価格予測値を入力する評価基準入力装置と、
価格予測値および少なくとも炉心の熱的制限に対する余裕と制御棒位置を含む炉心・プラント状態に関する情報から、需給調整のための調整力供給量を設定する調整力設定装置と、
初期の炉心・プラント状態に対して、想定し得る最も厳しい条件においても熱的制限の遵守及び制御状態の実現が可能な運転計画のパターンを事前に複数格納しておき、これらパターンから前記調整力設定装置が要求する調整力の期間を満たすパターンを選択する運転計画選択装置と、を有する
ことを特徴とする原子力発電プラント。
【請求項7】
請求項1又は請求項6に記載の原子力発電プラントにおいて、
前記出力制御装置は、
電力市場の過去の価格情報、電力需要情報、他の発電設備の運転・故障情報及び気象情報のうちいずれか、あるいはこれらのうちの複数の組合せに基づいて将来の電力市場の価格を予測して前記評価基準入力装置に出力する電力価格予測装置をさらに有する
ことを特徴とする原子力発電プラント。
【請求項8】
卸電力及び需要調整の市場価格予測値を入力する評価基準入力装置と、
価格予測値および少なくとも炉心の熱的制限に対する余裕と制御棒位置を含む炉心・プラント状態に関する情報から、需給調整のための調整力供給量を設定する調整力設定装置と、
前記調整力供給量から運転計画を生成し、計画の可否を評価する運転計画評価装置と、
前記運転計画に基づき炉心・プラント状態を評価する動特性評価システムと、
前記調整力設定装置と前記運転計画評価装置との反復評価により得られた運転計画を出力する運転計画出力装置と、を有する
ことを特徴とする原子力発電プラントの出力制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の原子力発電プラントの出力制御装置において、
電力市場の過去の価格情報、電力需要情報、他の発電設備の運転・故障情報及び気象情報のうちいずれか、あるいはこれらのうちの複数の組合せに基づいて将来の電力市場の価格を予測して前記評価基準入力装置に出力する電力価格予測装置をさらに有する
ことを特徴とする原子力発電プラントの出力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラント、及び、出力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラントの運転時において、調整力市場へ応札するための運転計画を自動的に生成する原子力発電プラントがある。
【0003】
近年、再生可能エネルギーの導入が拡大する中、送配電事業者は、従来の需要の変化に加えて太陽光発電や風力発電などの発電量の変化も含めて、変動する発電量と電力需要とを時々刻々に渡って一致させるために、様々な電源の調整や送電による電力融通を行っている。
【0004】
他の地域との電力の相互融通により、対象地域の電力需要にあった電力を供給することができない分については、発電量を調整して電力需要に見合った電力を供給する必要がある。調整可能な発電設備としては、まず揚水式を含む水力発電がある。ただし、水力発電所の発電量は再生可能エネルギーの変動性を補うほど大きくないため、従来、この調整には主に火力発電が使用されてきた。火力発電は安定した発電量を供給できる他、発電量を比較的速く変化させることができる。しかし、火力発電所は二酸化炭素の排出が伴う。近年、各国がカーボンニュートラルに向けた施策を進めるなか、火力発電所によるCO2排出の増加は望ましくない。そこで、再生可能エネルギーによる発電量の変動を原子力発電で補うニーズがある。原子力発電プラントは、これまでベースロード電源として活用されてきたが、フランスやドイツ等では負荷に応じて発電量を調整する運転の実績がある。原子力での発電量の調整は、原子炉の出力を調整することで実施し、その方法としては制御棒の挿入位置、炉心流量、ホウ素濃度などを制御することで行われる。特に、沸騰水型原子炉においては、出力を調整するために中性子の減速を促進する炉心内の冷却材密度を減炉心流量によって制御する方式と、中性子吸収材である制御棒を炉心に挿抜して制御する方式が一般的である。炉心流量で出力を制御する場合、燃料の健全性を維持するために炉心熱出力と炉心流量との間に運転可能な制限範囲があり、これを逸脱しないようにする必要がある。また、燃料の健全性を維持するために、予め核燃料をならし運転した時の出力分布(エンベロープ)の範囲内でのみ出力分布を変更する必要がある。そのため、予めオフラインで運転可能であることが確認されている出力変更パターン(例えば、高出力一定運転を14時間、低出力運転を8時間、出力変更を1時間で行う)を用いることが検討されていた。
【0005】
特許文献1には、実際の電力需要にできるだけ沿った運転が実現できるような原子力発電プラントの負荷追従運転方式を提供するため、原子炉内に配置された各種計測器から得られる炉心流量、炉心圧力、中性子束などのプラントデータを入力して現在の炉心熱出力や出力分布等の炉心状態量を演算する炉心性能計算評価部と、前記演算結果及び運転員からの要求に基づいて負荷追従運転パターンを推定する運転パターン推定部と、前期推定された運転パターンに沿って運転したときの炉心状態変化を予測する予測演算部および運転員からの要求を入力する入力部と前期運転パターンならびに前期予測結果を表示する表示器を備えた運転員操作卓とを具備した負荷追従運転方式が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
日本国内では2016年から電力自由化が導入され、発電された電力は相対契約から市場を通じた取引への移行が進んでいる。需要と供給の調整も市場を通じて行われる仕組みが構築されつつあり、送配電事業者は電力需要と発電量を一致させるために、市場を通じて電力を調達する。このとき、電力量を取引する卸電力市場の他に、需要と供給を一致させるために調整できる電力量を取引する調整力市場が存在する。送配電事業者は、ある時間に増加する、または減少できる発電量をこの市場を介して調達し、実際に調整が必要となったときに発電量の増加または減少を依頼する。一方、発電事業者は、市場価格に応じて卸電力と併せて調整力を提供して売価を得ることにより利益を得られる。
【0008】
例えば、太陽光や風力など変動性再生可能エネルギー(VRE)が大量の電力を発生し、他の電力を抑制するために卸電力価格がほぼゼロとなる一方で、調整力(増出力側)が高価になっている場合が考えられる。このような条件では、出力を最低出力まで低下して調整力(増出力側)を最大にする運転をすることで利益を最大にすることができるが、その時の炉心状態によっては、最低出力まで低下した後に最大出力まで上昇することができない可能性がある。例えば、出力を増加するために制御棒の挿入位置を調整すると、炉心内で部分的に出力が上昇するため、燃料の健全性を担保するための熱的な制限により最大出力まで増加することができないケースが考えられる。あるいは、その時の制御状態として、炉心流量が最大(最小)で制御されているため、炉心流量により出力を上昇(低下)させることができないケースも考えられる。
【0009】
これら炉心状態や制御状態は、過去の運転履歴に依存するものであり、時々刻々変化する状態を踏まえて、実現可能な調整力を評価して市場に応札する必要がある。しかしながら、前述したように、このような判断は日々行う必要があり、人手による計画では多数の要員が必要になるという課題、あるいは、迅速な評価ができずに利益を損なうという課題が生じる。
【0010】
一方、原子力発電プラントでは、上述した運転領域の制限や熱的制限などが存在し、単純に利益を最大にする出力変更や調整力を行使するための待機状態を作れない可能性がある。
【0011】
本発明は、前記した課題を解決するためになされたものであり、調整力の幅と期間を含む運用性の高い運転計画を得ることができる原子力発電プラント、及び、出力制御装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、本発明は、原子力発電プラントであって、発電システムと、出力制御装置と、を備え、前記出力制御装置は、卸電力及び需要調整の市場価格予測値を入力する評価基準入力装置と、価格予測値および少なくとも炉心の熱的制限に対する余裕と制御棒位置を含む炉心・プラント状態に関する情報から、需給調整のための調整力供給量を設定する調整力設定装置と、前記調整力供給量から運転計画を生成し、計画の可否を評価する運転計画評価装置と、前記運転計画に基づき炉心・プラント状態を評価する動特性評価システムと、前記調整力設定装置と前記運転計画評価装置との反復評価により得られた運転計画を出力する運転計画出力装置と、を有する構成とする。
その他の手段は、後記する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、調整力の幅と期間を含む運用性の高い運転計画を得ることができる原子力発電プラント、及び、出力制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態1に係る原子力発電プラントの全体構成図である。
【
図2】実施形態1に係る原子力発電プラントの動作を示すフローチャートである。
【
図3】評価基準入力装置の入力画面の一例を示す説明図である。
【
図4A】調整力設定装置での調整力の幅と期間の設定方法の説明図(1)である。
【
図4B】調整力設定装置での調整力の幅と期間の設定方法の説明図(2)である。
【
図5A】運転計画評価装置が作成する運転計画の説明図である。
【
図6】運転計画出力装置の出力画面の一例を示す説明図である。
【
図7】実施形態2に係る原子力発電プラントの動特性評価システムの説明図である。
【
図8】実施形態3に係る原子力発電プラントの全体構成図である。
【
図9】実施形態3に係る原子力発電プラントの運転計画選択装置の説明図である。
【
図10】実施形態4に係る原子力発電プラントの全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と称する)について詳細に説明する。なお、各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示しているに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。また、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0016】
[実施形態1]
<原子力発電プラントの構成>
以下、
図1を参照して、本実施形態1に係る原子力発電プラント100の構成について説明する。
図1は、本実施形態1に係る原子力発電プラント100の全体構成図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態1に係る原子力発電プラント100は、発電システム101と、出力制御装置102と、を備える。出力制御装置102は、制御棒、炉心流量、原子炉圧力、給水温度、バイパス弁開度及び炉水ホウ素濃度のいずれか1つ、又は、これらの複数の組み合わせの操作による出力制御を行うための制御信号を発電システム101に出力する。
【0018】
沸騰水型の原子炉圧力容器1の内部には、炉心2が保持されている。炉心2には、複数本(
図1では1本のみ図示)の制御棒3が挿抜可能な構造で取り付けられている。発電システム101は制御棒制御装置4を備え、制御棒3が所定の位置となるように制御する。
【0019】
原子炉圧力容器1には、炉心2の出口から流出した冷却水を再び炉心2内に送り込む再循環ポンプ5が備えられ、再循環制御装置6により所定の炉心流量となるように制御されている。
【0020】
また、炉心2の内部には中性子束検出器7が複数(
図1では1個のみ図示)備えられ、出力監視装置8により炉心出力、出力分布及び炉心2の熱的制限に対する余裕が監視される。炉心2の熱的制限に対する余裕は、炉心2の最大線出力密度、限界出力比または限界熱流束比、アキシャルオフセット、制御棒位置、炉心冷却材流量、冷却材温度、ホウ素濃度のいずれか1つ、又は、これらの複数の組み合わせを含むものである。
【0021】
原子炉圧力容器1で炉心から流出した主蒸気は、圧力制御装置9により開度が制御された調整弁10を通過して、高圧タービン11に送られる。高圧タービン11を通過した主蒸気は、湿分分離加熱器12で乾燥・加熱された後に低圧タービン13に送られる。高圧タービン11及び低圧タービン13には発電機14が取り付けられており、高圧タービン11及び低圧タービン13の回転により生成された電力が系統に送出される。
【0022】
低圧タービン13を通過した主蒸気は、復水器15で凝縮される。また、高圧タービン11に送られることなくバイパス弁16から復水器15に直接送られた蒸気も、復水器15で凝縮される。復水器15で凝縮された凝縮水は、給水ポンプ17により再び原子炉内に戻される。このとき、低圧給水加熱器18および高圧給水加熱器19において、主蒸気から抽気された蒸気により給水が加熱されることでタービン・復水システムの熱効率が改善される。
【0023】
さらに、
図1に示す例では、原子力発電プラント100は、高圧タービン11と高圧給水加熱器19との間に、高圧タービン11から高圧給水加熱器19に抽気される蒸気量を調整するための抽気弁20が取り付けられ、給水温度制御装置21により給水温度が制御される。原子力発電プラント100は、給水温度の変更により、炉心2内部の冷却水のボイド率(含有する蒸気の体積比率)を変えることで、原子炉の出力を制御することができる。
【0024】
制御棒制御装置4、再循環制御装置6、出力監視装置8、圧力制御装置9、給水温度制御装置21、及び、発電機に取り付けた発電機出力検出器22は、プラント制御装置23に接続される。プラント制御装置23は、これらの機器により原子力発電プラント100の発電機出力を制御する。
【0025】
プラント制御装置23には、動特性評価システム24及び運転計画評価装置25が接続される。時々刻々の制御状態及び炉心出力、出力分布、炉心2の熱的制限に対する余裕が、動特性評価システム24及び運転計画評価装置25に送出される。動特性評価システム24は、中性子動特性計算及び熱水力動特性計算に基づいて、初期の炉心・プラント状態及び運転計画に従って得られる評価対象期間の炉心・プラントの状態を運転計画評価装置25に出力する。又は、
図7を参照して実施形態2で説明するように、動特性評価システム24は、中性子動特性計算及び熱水力動特性計算に基づいて、初期の炉心・プラント状態及び運転計画に従って得られる評価対象期間の炉心・プラントの状態を機械学習させておき、初期の炉心・プラント状態及び運転計画を入力することで評価対象期間の炉心・プラントの状態を運転計画評価装置25に出力するようにしてもよい。
【0026】
また、運転計画評価装置25は、調整力設定装置26と運転計画出力装置27が接続され、調整力設定装置26には評価基準入力装置28が接続されている。
【0027】
<原子力発電プラントの動作>
原子力発電プラント100の出力制御装置102は、例えば、
図2に示すフローに沿って動作する。
図2は、原子力発電プラントの動作を示すフローチャートである。
図2は、出力制御装置102における、市場価格の入力から最適な運転計画の出力までの処理フローを示している。
【0028】
図2に示すように、出力制御装置102は、原子力発電プラント100の制御開始時に、まず、最初に、外部の機器(図示せず)と通信して、外部の機器から、将来の卸電力価格及び調整力市場の調整力価格からなる電力価格予測値を評価基準入力装置28に入力する(ステップS1)。
【0029】
電力価格予測値は、評価基準入力装置28から調整力設定装置26に送出される。調整力設定装置26は、電力価格予測値と運転計画評価装置から送出される現状の制御状態及び炉心2の熱的制限に対する余裕から供給する調整力の期間と幅を設定する(ステップS2)。
【0030】
設定された調整力の期間と幅は、調整力設定装置26から運転計画評価装置25に送られる。運転計画評価装置25は、プラント制御装置23と同一の制御アルゴリズムに従って、設定された調整力の期間と幅を実現する制御棒や炉心流量などの操作を含む運転計画を作成する(ステップS3)。
【0031】
作成された運転計画は、運転計画評価装置25から動特性評価システム24に入力される。動特性評価システム24は、運転計画を実行した際の原子炉の制御状態と炉心2の熱的制限に対する余裕を計算する(ステップS4)。
【0032】
この後、動特性評価システム24は、計算結果を運転計画評価装置25に送出する。計算結果を受信した運転計画評価装置25は、制御状態及び炉心2の熱的制限に対する余裕が許容範囲かを判定する(ステップS5)。
【0033】
ステップS5の判定で、制御状態及び炉心2の熱的制限に対する余裕が許容範囲外である場合(“No”の場合)に、運転計画評価装置25は、プラント制御装置23に組み込まれた制御アルゴリズムの範囲内で制御棒操作と炉心流量操作の切換え点の変更や給水温度制御の適用などの運転計画の変更が可能かを判定する(ステップS6)。
【0034】
ステップS6の判定で、転計画の変更が可能である場合(“Yes”の場合)に、処理はステップS2に戻る。この場合に、運転計画評価装置25は、変更を実施して、変更結果を動特性評価システム24に送出する。動特性評価システム24は、運転計画を実行した際の原子炉の制御状態と炉心2の熱的制限に対する余裕を計算し、その計算結果を運転計画評価装置25に送る。
【0035】
ステップS6の判定で、転計画の変更が可能でない(“No”の場合)に処理はステップS3に戻る。この場合に、運転計画評価装置25は、設定した調整力の幅に対して、運転計画及び供給できる調整力の期間と制御状態及び熱的制限に対する逸脱分の最大値を調整力設定装置26に出力する。
【0036】
前記したステップS5の判定で、制御状態及び炉心2の熱的制限に対する余裕が許容範囲内である場合(“Yes”の場合)に、運転計画評価装置25は、運転計画と制御状態及び炉心2の熱的制限に対する余裕を運転計画出力装置27に出力する(ステップS7)。
【0037】
このような原子力発電プラント100の出力制御装置102は、調整力設定装置26は、調整力を供給できる(制御状態と炉心2の熱的制限に対する余裕が許容値内の)期間に基づいて、運転計画で得られる利益を算出する。また、出力制御装置102は、より高い利益を得られる運転計画を探索するために、制御状態及び熱的制限に対する逸脱分に基づき、供給する調整力の幅を縮小する。このとき、調整力の幅は、変更前の実現可能な調整力の幅と期間及び電力価格予測値に基づいて評価した利益よりも利益が小さくならない範囲で変更する。このような、調整力設定装置26、運転計画評価装置25及び動特性評価システム24の反復評価により、最終的に利益を最大化する運転計画が運転計画出力装置27に出力される。このような出力制御装置102は、最新の市場価格動向とプラントの炉心状態、制御状態に基づいて、実現可能な運転計画の中で、最大の利益を得られる運転計画を自動的に生成することができる。これにより、出力制御装置102は、多数の人員を要することなく迅速に、調整力市場への応札に必要な調整力の幅と期間の情報を効率よく得られる発電システム101の制御を行うことができる。
【0038】
<評価基準入力装置の入力画面>
以下、
図3を参照して、評価基準入力装置28の入力画面について説明する。
図3は、評価基準入力装置28の入力画面の一例を示す説明図である。
図1に示す例では、評価基準入力装置28の入力画面は、「卸電力価格の予測値」欄、「調整力価格の予測値」欄、「評価実行」欄を含む構成になっている。
【0039】
「卸電力価格の予測値」欄には、所定の時間間隔(
図3では3時間毎)に対する卸電力価格の予測値が入力される。価格予測値は、例えばCSV形式でファイルから読み込ませることもできる。評価基準入力装置28は、ファイルを入力するためのフラッシュメモリ等の読み込み装置を備えるか、ネットワークに接続してファイルデータを読み込む。
【0040】
「調整力価格の予測値」欄には、調整力価格の予測値を所定の時間間隔に対する調整力価格の予測値が入力される。価格予測値は、卸電力価格と同様の方法でファイルを入力する。ただし、調整力価格の予測値には増出力側と減出力側の2種類を入力する。
【0041】
「評価実行」欄には、「熱的制限」欄と「出力制御」欄と「入力クリア」ボタンと「評価実行」ボタンが設けられている。「熱的制限」欄には、出力制御に使用する熱的制限要素を指定するための欄である。「出力制御」欄は、出力制御に使用する制御要素を指定するための欄である。プラント管理者によって「熱的制限」欄で熱的制限要素が選択され、「出力制御」欄で制御要素が選択され、「評価実行」ボタンが押下されると、動特性評価システム24は、評価を開始する。
【0042】
<調整力の幅と期間の設定方法>
以下、
図4A及び
図4Bを参照して、調整力設定装置26での調整力の幅と期間の設定方法について説明する。
図4A及び
図4Bは、調整力設定装置26での調整力の幅と期間の設定方法の説明図である。
【0043】
(1)
図4Aは、卸電力の価格と調整力の価格により、各時刻での最適な調整力の供給量(期間と幅)を設定されることを示している。
図4Aに示すように、まず、調整力設定装置26は、初期の調整力の幅と期間の設定を行う。このとき、各時刻で、原子力発電プラント100の電力及び調整力を合計の売価が最大となるように初期値を設定する。その際に、卸電力価格と調整力価格により、各時刻での最適な調整力の供給量を設定する。この調整力の供給量に対し、調整力設定装置26は、動特性評価システム24での計算結果を得る。そして、2回目以降の調整力の幅の決定では、調整力設定装置26は、調整力を供給できる(制御状態と炉心2の熱的制限に対する余裕が許容値内の)期間において卸電力価格及び調整力価格の予測値に基づいて、運転計画で得られる利益を算出する。
【0044】
(2)
図4Bは、調整力の供給量(期間と幅)に対し、逸脱比率に応じて調整力の幅が変更されるように調整されることを示している。
図4Bに示すように、次に、調整力設定装置26は、調整力の幅と期間を変更する。このとき、調整力設定装置26は、調整力の期間、制御状態及び熱的制限値の逸脱分の逸脱比率分に応じて調整力の幅を減少させる。ただし、調整力の減少は、前回の反復で得られた利益よりも利益が小さくならない範囲で調整する。例えば、調整力設定装置26は、より高い利益を得られる運転計画を探索するために、制御状態及び熱的制限に対する超過比率に応じて供給する調整力の幅を縮小する。そして、調整力設定装置26は、調整力の幅を調整した後に運転計画評価装置25で運転計画を作成し、運転計画の結果得られる利益を前回の値と比較する。こうして、調整力設定装置26は、利益が最大となる調整力の幅が求まるまで運転計画評価装置25との間で反復評価を繰り返す。
【0045】
<運転計画>
以下、
図5Aを参照して、運転計画評価装置25が作成する運転計画について説明する。
図5Aは、運転計画評価装置25が作成する運転計画の説明図である。
【0046】
図5Aに示す例では、横軸を時間とし、縦軸を発電機出力とし、太線で炉心流量制御を表し、細線で制御棒制御を表し、破線で調整力実行時の計画を表している。運転計画評価装置25は、調整力設定装置26により設定された調整力に適合するように作成・更新する。
図5Aに示す例では、運転計画の開始の6時間後から12時間後まで調整力市場に50%出力増の条件で応札し、それ以外の時間は卸電力市場に電力を提供する設定がされる内容になっている。運転計画評価装置25の内部には、出力を変更する際に100%から70%までは炉心流量制御を実施し、70%から50%までの出力変更では制御棒制御を実施する出力制御アルゴリズムが組み込まれている。なお、本実施形態では、運転計画評価装置25の内部に組み込まれた出力制御アルゴリズムとプラント制御装置23の内部に組み込まれた出力制御アルゴリズムが同一のものであるものとして説明する。発電システム101は、運転計画の開始の5時間後から炉心流用で出力を低下し、出力70%となったところで制御棒挿入による出力低下に切り換える。
【0047】
<制御棒グループ分割>
以下、
図5Bを参照して、制御棒グループ分割について説明する。
図5Bは、制御棒グループ分割の説明図である。
図5Bに示すように、制御棒による出力調整では、任意の制御棒グループに属する複数の制御棒を同時に操作する(挿入操作又は引抜操作を行う)。
【0048】
<制御棒操作手順>
以下、
図5Cを参照して、制御棒操作手順について説明する。
図5Cは、制御棒操作手順の説明図である。
図5Cに示すように、操作の順序は、予め定められており、出力を低下する際はこの順番に従って挿入する。運転計画の開始の6時間後に出力が50%まで低下したところで、調整力の供給待機状態となる。
【0049】
なお、
図5Cの横1行に書かれている1~30の数字は、手順の番号を示す。また、縦1列に書かれているGr1~Gr8の値は、制御棒グループ(
図5B参照)を示す。ちなみに、
図5Bの左図には、Gr1~Gr5の制御棒のグループ分けと配置が示され、
図5Bの右図には、Gr6~Gr8の制御棒のグループ分けと配置が示されている。また、
図5Cの横2行縦2列に書かれている値「32」と値「4」は、「32」が連続操作するときの停止位置である引抜リミットを表し、「4」は複数のステップを一度に操作するブロック操作時のステップ数(0-32ステップまでを4ステップずつ操作する)を表している。制御棒制御装置4はプラント制御装置23からの操作方法の指令、すなわち連続操作か、ブロック操作か、1ステップ操作かの指定に基づき、1回の操作で
図5Cに示したステップ数だけ操作する。
図5Cの横2行縦2列以外の欄に記載されている値は、これと同様である。
【0050】
調整力の供給待機状態では、いつでも指定の調整力の出力増を実現できることを確認するため、運転計画評価装置25は、複数ケースの運転計画を作成する。例えば、運転計画評価装置25は、6時間後、7時間後など、1時間ごとに50%の出力増の調整力を供給する場合の運転計画を7ケース、調整力を実行せずに元の100%の出力に戻す場合の運転計画を1ケース、合計8ケースの運転計画を作成する。そして、順次、動特性評価システム24で動特性計算を実施する。運転計画評価装置25は、各ケースの制御状態として制御棒の操作範囲及び炉心流量の変化範囲を、炉心状態として炉心2の熱的制限に対する余裕(または逸脱量)の最も厳しい値を動特性評価システム24から読み込む。このとき、読み込んだ制御状態及び炉心状態がプラント制御装置23に組み込まれた通常とは異なる特別な制御アルゴリズムの適用により改善可能であり、調整力の期間が増加できる可能性がある場合に、運転計画評価装置25は、特別な制御アルゴリズムを用いた運転計画を再作成する。
【0051】
ここで言及した特別な制御アルゴリズムとは、以下のように運転計画を変更するアルゴリズムである。例えば、出力上昇後の高出力状態で炉心流量が通常制御範囲を超えて低流量となる場合、特別な制御アルゴリズムは、制御棒操作(引抜)で出力上昇する出力範囲において、再循環流量の操作(増加)で出力上昇し、高出力状態で再循環流量が通常制御範囲となるように運転計画を変更する。逆に、出力上昇後の高出力状態で再循環流量が通常制御範囲よりも高流量となる場合、特別な制御アルゴリズムは、再循環流量で出力上昇する出力範囲において、制御棒(引抜)で出力上昇することにより、高出力状態での再循環流量を低下し、通常制御範囲となるように運転計画を変更する。
【0052】
また、例えば、出力上昇後の鉛直方向の出力分布が上部寄りに偏ってしまったために上部において熱的制限値を逸脱してしまう場合は、炉心流量で出力上昇する出力範囲において、給水温度制御により炉心入口の冷却材温度を低下して出力上昇することにより、高出力状態での再循環流量を低下し、鉛直方向の出力分布を下側にシフトすることで上部における熱的制限値の逸脱を回避する。さらに、キセノン影響により、炉心流量で出力を制御するときに、炉心流量が制御範囲を超えてしまう場合は、一時的に給水温度を制御して出力を上昇または下降させ、時間の経過とともにキセノン影響が減少した後に、給水温度を元に戻す制御アルゴリズムも適用できる。
【0053】
<運転計画出力装置の出力画面>
以下、
図6を参照して、運転計画出力装置27の出力画面について説明する。
図6は、運転計画出力装置27の出力画面の一例を示す説明図である。
図6に示す例では、運転計画出力装置27の出力画面は、運転計画評価装置25で作成された運転計画に加えて、それぞれの運転計画の調整力供給量を付加した構成になっている。出力制御装置102は、このような出力画面をプラント管理者に提供することにより、調整力市場に応札する期間と供給可能な調整力の幅を即座にプラント管理者に把握させて、迅速に応札させることができる。これにより、出力制御装置102は、利益を最大化するとともに電力を安定供給することができる。また、出力制御装置102は、プラント管理者の応札判断業務を軽減し、安全確保等の業務に人的リソースを集中させることができる。
【0054】
さらに、
図6に示す例では、出力画面には「ダウンロード」ボタン(運転計画の送信ボタン)が表示されている。プラント管理者が「ダウンロード」ボタンを押下すると、出力制御装置102は、運転計画出力装置27が作成した運転計画をプラント制御装置23に読み込ませ、最適な運転計画に従ってプラント制御装置23に自動的に発電システム101を運転することができる。
【0055】
<原子力発電プラントの主な特徴>
(1)
図1に示すように、本実施形態に係る原子力発電プラント100は、発電システム101と、出力制御装置102と、を備える。出力制御装置102は、卸電力及び需要調整の市場価格予測値を入力する評価基準入力装置28と、価格予測値および少なくとも炉心2の熱的制限に対する余裕と制御棒位置を含む炉心・プラント状態に関する情報から、需給調整のための調整力供給量を設定する調整力設定装置26と、調整力供給量から運転計画を生成し、計画の可否を評価する運転計画評価装置25と、運転計画に基づき炉心・プラント状態を評価する動特性評価システム24と、調整力設定装置26と運転計画評価装置25との反復評価により得られた運転計画を出力する運転計画出力装置27と、を有する。
【0056】
このような本実施形態に係る原子力発電プラント100は、例えば、最新の市場価格動向とプラントの炉心状態、制御状態に基づいて、実現可能な運転計画の中で、最大の利益を得られる運転計画を自動的に生成することができる。これにより、原子力発電プラント100は、調整力市場への応札に必要な調整力の幅と期間を含む運用性の高い運転計画を得ることができる。
【0057】
(2)本実施形態に係る原子力発電プラント100において、炉心2の熱的制限に対する余裕は、炉心2の最大線出力密度、限界出力比または限界熱流束比、アキシャルオフセット、制御棒位置、炉心冷却材流量、冷却材温度、ホウ素濃度のいずれか1つ、又は、これらの複数の組み合わせを含むものである。
【0058】
このような本実施形態に係る原子力発電プラント100は、これらの項目を出力制御に使用する熱的制限要素又は制御要素として処理された運転計画を作成することができる。
【0059】
(3)本実施形態に係る原子力発電プラント100において、出力制御装置102は、制御棒、炉心流量、原子炉圧力、給水温度、バイパス弁開度及び炉水ホウ素濃度のいずれか1つ、又は、これらの複数の組み合わせの操作による出力制御を行うための制御信号を発電システム101に出力する。
【0060】
このような本実施形態に係る原子力発電プラント100は、これらの項目を出力制御に使用する熱的制限要素又は制御要素として処理された運転計画を作成することができる。
【0061】
(4)
図1に示すように、本実施形態に係る原子力発電プラント100において、動特性評価システム24は、中性子動特性計算及び熱水力動特性計算に基づいて、初期の炉心・プラント状態及び運転計画に従って得られる評価対象期間の炉心・プラントの状態を運転計画評価装置25に出力する。
【0062】
このような本実施形態に係る原子力発電プラント100は、利益が大きくなるように、動特性評価システム24と運転計画評価装置25との間で、運転計画における調整力の幅を変更と反復評価とを繰り返すことができるため、好適な運転計画を得ることができる。
【0063】
以上の通り、本実施形態1に係る原子力発電プラント100によれば、調整力の幅と期間を含む運用性の高い運転計画を得ることができる。
また、最新市場動向やプラント状態を踏まえた運転計画に基づいて応札することで利益最大化が図れ、電力安定供給に貢献することができる。
また、プラント管理者の応札判断業務を軽減し、安全確保等の業務に人的リソースを集中することができる。
【0064】
[実施形態2]
本実施形態2では、前記した実施形態1に係る原子力発電プラント100の動特性評価システム24(
図1参照)に、AI(Artificial Intelligence)機能を組み込んだ原子力発電プラント100A(
図7参照)を提供する。
【0065】
以下、
図7を参照して、本実施形態2に係る原子力発電プラント100Aの構成について説明する。
図7は、本実施形態2に係る原子力発電プラント100Aの動特性評価システム24の説明図である。
【0066】
図7に示すように、本実施形態2に係る原子力発電プラント100Aは、実施形態1に係る原子力発電プラント100(
図1参照)と比較すると、出力制御装置102の代わりに、出力制御装置102Aを備える点で相違する。
【0067】
本実施形態2の出力制御装置102Aは、動特性評価システム24にAI機能(機械学習機能)が組み込まれた装置である。
【0068】
図7に示すように、本実施形態2において、出力制御装置102Aの動特性評価システム24は、入力層24aと、中間層24bと、出力層24cと、を有している。
図7に示す例では、入力層24aは、5つの入力ノードを有する構成となっており、サイクル燃焼度と、初期炉心流量と、初期制御棒位置と、初期の熱的制限への余裕と、運転計画評価装置25で作成した運転計画との各入力パラメータが各ノードに入力される。また、中間層24bは、3つの中間ノードを有する構成となっている。また、出力層24cは、4つの出力ノードを有する構成となっており、熱的制限への最小余裕(逸脱量)と、制御棒の最大引抜量と、炉心流量の範囲と、調整力を供給可能な期間との各出力パラメータが各ノードから出力される。
【0069】
出力制御装置102Aの動特性評価システム24は、入力ノードに選定した5つのパラメータを変えて動特性を計算し、動特性計算の結果を用いて予めオフラインで学習を行う。これにより、出力制御装置102Aの動特性評価システム24は、例えば、5つの入力パラメータから物理的な計算をせずに直接調整力を供給可能な期間や熱的制限への余裕などの結果を得ることができる。
【0070】
このような出力制御装置102Aの動特性評価システム24は、例えば、中性子動特性計算及び熱水力動特性計算に基づいて、初期の炉心・プラント状態及び運転計画に従って得られる評価対象期間の炉心・プラントの状態を機械学習させておくことができる。そして、出力制御装置102Aの動特性評価システム24は、初期の炉心・プラント状態及び運転計画を入力することで評価対象期間の炉心・プラントの状態を運転計画評価装置25に出力することができる。
【0071】
本実施形態2の出力制御装置102Aは、このようなAI機能が組み込まれた動特性評価システム24を有するため、前記した実施形態1の出力制御装置102に比べて、動特性評価システム24の応答時間を短縮することができ、リアルタイムに近い迅速な応札が可能となる。
【0072】
[実施形態3]
本実施形態2では、動特性評価システム24(
図1参照)と運転計画評価装置25(
図1参照)の代わりに、運転計画選択装置29を備える原子力発電プラント100B(
図8参照)を提供する。
【0073】
以下、
図8及び
図9を参照して、本実施形態3に係る原子力発電プラント100Bの構成について説明する。
図8は、本実施形態3に係る原子力発電プラント100Bの全体構成図である。
図9は、本実施形態3に係る原子力発電プラント100Bの運転計画選択装置29の説明図である。
【0074】
図8に示すように、本実施形態3に係る原子力発電プラント100Bは、前記した実施形態1に係る原子力発電プラント100(
図1参照)と比較すると、出力制御装置102の代わりに、出力制御装置102Aを備える点で相違する。
【0075】
本実施形態3の出力制御装置102Bは、前記した実施形態1の出力制御装置102と比較すると、動特性評価システム24(
図1参照)及び運転計画評価装置25(
図1参照)の代わりに、運転計画選択装置31を有する点で相違する。
【0076】
運転計画選択装置29は、調整力設定装置26が要求する調整力の期間を満たすパターンの運航計画を選択するものである。運転計画選択装置31は、予めオフラインで評価した定格運転から実現可能な運転計画を多数格納している。例えば、運転計画選択装置31は、初期の炉心・プラント状態に対して、想定し得る最も厳しい条件においても熱的制限の遵守及び制御状態の実現が可能な運転計画のパターンを事前に複数格納している。そして運転計画選択装置31は、これらパターンから調整力設定装置26が要求する調整力の期間を満たすパターンの運航計画を選択する。
【0077】
図9に示すように、運転計画選択装置31は、調整力設定装置26が要求する調整力の期間を満たすパターンを選択すると、選択したパターンを調整力設定装置26に出力する。換言すると、調整力設定装置26は、運転計画選択装置29から、運転計画選択装置29に格納された運転計画を取得する。また、調整力設定装置26は、外部の機器(図示せず)と通信して、外部の機器から、電力市場価格の予測値を取得する。
【0078】
このような運転計画選択装置31を有する出力制御装置102Bは、外部の機器から取得される電力市場価格の予測値に基づいて、調整力設定装置26が要求する調整力の期間を満たすパターンの運航計画を自動的に選択することができる。
【0079】
なお、前記した実施形態1以外の他の実施形態(例えば、
図7に示す実施形態2に係る原子力発電プラント100A)においても、動特性評価システム24及び運転計画評価装置25の代わりに、運転計画選択装置31を設けるようにしてもよい。
【0080】
[実施形態4]
本実施形態4では、電力価格予測装置30を備える原子力発電プラント100C(
図10参照)を提供する。
【0081】
以下、
図10を参照して、本実施形態4に係る原子力発電プラント100Cの構成について説明する。
図10は、本実施形態4に係る原子力発電プラント100Cの全体構成図である。
【0082】
図10に示すように、本実施形態4に係る原子力発電プラント100Cは、前記した実施形態1に係る原子力発電プラント100(
図1参照)と比較すると、出力制御装置102の代わりに、出力制御装置102Cを備える点で相違する。
【0083】
本実施形態4の出力制御装置102Cは、前記した実施形態1の出力制御装置102と比較すると電力価格予測装置30を有する点で相違する。
【0084】
電力価格予測装置30は、前記した実施形態1に係る原子力発電プラント100(
図1参照)において外部から入力していた電力市場の価格を予測し、評価基準入力装置28に入力するものである。電力価格予測装置30は、電力市場の過去の価格情報、電力需要情報、他の発電設備の運転・故障情報及び気象情報のうちいずれか、あるいはこれらのうちの複数の組合せに基づいて将来の電力市場の価格を予測する。そして電力価格予測装置30は、予測した将来の電力市場の価格を評価基準入力装置28に出力する。
【0085】
このような電力価格予測装置30を有する出力制御装置102Cは、運転計画の評価が必要なタイミングで最新の情報に基づいて電力市場の価格予測値を電力価格予測装置30によって自動的に取得することができる。そのため、出力制御装置102Cは、前記した実施形態1の出力制御装置102(
図1参照)よりも予測の精度が向上できる。
【0086】
なお、実施形態1以外の他の実施形態(例えば、
図7に示す実施形態2に係る原子力発電プラント100A及び
図8に示す実施形態3に係る原子力発電プラント100B)においても、電力価格予測装置30を設けるようにしてもよい。
【0087】
本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に他の構成を加えることも可能である。また、各構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 原子炉圧力容器
2 炉心
3 制御棒
4 制御棒制御装置
5 再循環ポンプ
6 再循環制御装置
7 中性子束検出器
8 出力監視装置
9 圧力制御装置
10 調整弁
11 高圧タービン
12 湿分分離加熱器
13 低圧タービン
14 発電機
15 復水器
16 バイパス弁
17 給水ポンプ
18 低圧給水加熱器
19 高圧給水加熱器
20 抽気弁
21 給水温度制御装置
22 発電機出力検出器
23 プラント制御装置
24 動特性評価システム
24a 入力層
24b 中間層
24c 出力層
25 運転計画評価装置
26 調整力設定装置
27 運転計画出力装置
28 評価基準入力装置
29 運転計画選択装置
30 電力価格予測装置
100,100A,100B,100C 原子力発電プラント
101 発電システム
102,102A,102B,102C 出力制御装置