(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140984
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】メチルアルミノキサン組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 5/06 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C07F5/06 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052388
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】松尾 啓史
(72)【発明者】
【氏名】松添 哲
(72)【発明者】
【氏名】重弘 大樹
【テーマコード(参考)】
4H048
【Fターム(参考)】
4H048AA02
4H048AD11
4H048AD17
4H048BB11
4H048BC51
(57)【要約】
【課題】安定化剤を含まなくても安定性に優れるメチルアルミノキサン組成物の提供。
【解決手段】メチルアルミノキサン組成物の製造方法は、(1)トリメチルアルミニウムと水を反応させて粗メチルアルミノキサンを得る工程と、(2)メチルアルミノキサン濃度が最大で43.0質量%になるまで粗メチルアルミノキサンを濃縮する工程と、(3)工程(1)又は(2)の後に固形物を取り除く工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルアルミノキサン組成物の製造方法であって、
(1)トリメチルアルミニウムと水を反応させて粗メチルアルミノキサンを得る工程と、
(2)メチルアルミノキサン濃度が最大で43.0質量%になるまで前記粗メチルアルミノキサンを濃縮する工程と、
(3)前記工程(1)又は(2)の後に固形物を取り除く工程と、
を含む、メチルアルミノキサン組成物の製造方法。
【請求項2】
前記工程(2)において、前記メチルアルミノキサン濃度が40.5質量%~43.0質量%である時間が1時間以内となるように前記粗メチルアルミノキサンを濃縮する、請求項1に記載のメチルアルミノキサン組成物の製造方法。
【請求項3】
前記工程(2)において、前記メチルアルミノキサン濃度が最大で40.5質量%になるまで前記粗メチルアルミノキサンを濃縮する、請求項1又は2に記載のメチルアルミノキサン組成物の製造方法。
【請求項4】
前記工程(2)において、60℃以下で前記粗メチルアルミノキサンを濃縮する、請求項1又は2に記載のメチルアルミノキサン組成物の製造方法。
【請求項5】
前記工程(2)において、40℃以下で前記粗メチルアルミノキサンを濃縮する、請求項1又は2に記載のメチルアルミノキサン組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチルアルミノキサン組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水とトリメチルアルミニウムの縮合生成物であるメチルアルミノキサンが、メタロセン触媒の助触媒としてエチレン重合に対して高い活性を示すことは広く知られている(非特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、メチルアルミノキサンを含む溶液を長期間にわたって保存すると、粘性のあるゲル状物質が析出し、溶液中のメチルアルミノキサン濃度が変化すること、ゲル状の析出物は、メチルアルミノキサン濃度が高い、残存トリメチルアルミニウム濃度が低い、又は保存温度が高い方が多いことが記載されている。
【0004】
特許文献2には、電子に富むヘテロ原子を含む有機化合物を添加することで、メチルアルミノキサンのゲル化が抑制できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3-271295号公報
【特許文献2】特開平6-016681号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H. Sinn, W. Kaminsky. Adv. Organomet. Chem. 18, 99 (1980).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリオレフィン中に不純物が存在すると、ポリオレフィンの機能低下、着色、人体への影響等が生じるおそれがあることから、助触媒であるメチルアルミノキサンを含む組成物は、安定化剤を含まないことが望ましい。特許文献2に記載の方法において、ヘテロ原子含有化合物はアルミニウムに配位した形でメチルアルミノキサン溶液中に残存するため、その除去は困難である。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、安定化剤を含まなくても安定性に優れるメチルアルミノキサン組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、トリメチルアルミニウムと水を反応させて得られたメチルアルミノキサン組成物は、メチルアルミノキサン濃度が高い状態での熱履歴を有すると、保存中に加速度的に分解が進むこと、そのため、メチルアルミノキサン濃度が所定値を超えないように制御して粗メチルアルミノキサンの濃縮を実施すると、メチルアルミノキサン組成物の安定性が高まることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本願は以下の発明を包含する。
[1]メチルアルミノキサン組成物の製造方法であって、
(1)トリメチルアルミニウムと水を反応させて粗メチルアルミノキサンを得る工程と、
(2)メチルアルミノキサン濃度が最大で43.0質量%になるまで前記粗メチルアルミノキサンを濃縮する工程と、
(3)前記工程(1)又は(2)の後に固形物を取り除く工程と、
を含む、メチルアルミノキサン組成物の製造方法。
[2]前記工程(2)において、前記メチルアルミノキサン濃度が40.5質量%~43.0質量%である時間が1時間以内となるように前記粗メチルアルミノキサンを濃縮する、項目1に記載のメチルアルミノキサン組成物の製造方法。
[3]前記工程(2)において、前記メチルアルミノキサン濃度が最大で40.5質量%になるまで前記粗メチルアルミノキサンを濃縮する、項目1又は2に記載のメチルアルミノキサン組成物の製造方法。
[4]前記工程(2)において、60℃以下で前記粗メチルアルミノキサンを濃縮する、項目1~3のいずれか一項に記載のメチルアルミノキサン組成物の製造方法。
[5]前記工程(2)において、40℃以下で前記粗メチルアルミノキサンを濃縮する、項目1~4のいずれか一項に記載のメチルアルミノキサン組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安定化剤を含まなくても安定性に優れるメチルアルミノキサン組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】反応槽及びバッファタンクを備えた反応装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、メチルアルミノキサン組成物の製造方法を提供する。一実施形態のメチルアルミノキサン組成物の製造方法は、
(1)トリメチルアルミニウムと水を反応させて粗メチルアルミノキサンを得る工程と、
(2)メチルアルミノキサン濃度が最大で43.0質量%になるまで粗メチルアルミノキサンを濃縮する工程と、
(3)工程(1)又は(2)の後に固形物を取り除く工程と、
を含む。
【0014】
メチルアルミノキサンは、反応性の高いトリメチルアルミニウムを部分的に加水分解して得られる縮合生成物であり、式:[(CH3)AlO]で表される構造単位を有する。メチルアルミノキサンは、一般に分子量の異なる2種以上の化合物の混合物であり、当該化合物は、直鎖構造、環状構造又はこれらの組み合わせを有する。メチルアルミノキサンの平均オリゴマー化度(平均重合度)は一般に60以下である。メチルアルミノキサンに分岐構造又は架橋構造が含まれる場合もある。メチルアルミノキサンの組成及び構造と安定性との間には密接な関係があるものと考えられるが、前記のとおりメチルアルミノキサンは非常に複雑な構造を有しているため、メチルアルミノキサン組成物の安定性の違いをメチルアルミノキサンの組成及び構造の観点から特定することは困難である。
【0015】
工程(1)は、トリメチルアルミニウムと水を反応させて粗メチルアルミノキサンを得る工程である。工程(1)において、トリメチルアルミニウム及び水のみからメチルアルミノキサンを生成させることが、メチルアルミノキサン組成物の純度の観点から好ましい。トリメチルアルミニウム及び水のみからメチルアルミノキサンを生成させる場合、一般に、水酸化アルミニウムが副生しやすく、反応を制御することは難しい。また、この反応系を使用した場合、メチルアルミノキサン組成物に安定化剤を添加しないと、保存中に縮合が進行してゲル状物質が生成しやすい。しかし、本発明によれば、このように反応制御が難しい反応系を用いた場合であっても、安定化剤の添加を必要とせずに、高い安定性を有するメチルアルミノキサン組成物を製造することができる。
【0016】
工程(1)は溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、トリメチルアルミニウム及びメチルアルミノキサンに対して不活性である、脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素が挙げられる。脂肪族炭化水素としては、例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、精製ケロシンなどの飽和炭化水素化合物;並びにシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘプタンなどの環状炭化水素化合物が挙げられる。芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン及びクメンが挙げられる。溶媒はトルエンであることが好ましい。
【0017】
反応温度は、一般に0℃~100℃であり、好ましくは10℃~40℃である。
【0018】
反応時間は、一般に0.5時間~100時間であり、好ましくは1時間~10時間である。
【0019】
トリメチルアルミニウムと水のモル比(トリメチルアルミニウムのモル数/水のモル数)は、好ましくは1.0~5.0、より好ましくは1.2~4.0、更に好ましくは1.5~3.0である。
【0020】
トリメチルアルミニウムと水の反応の初期段階で生成した低分子量のメチルアルミノキサンは、トリメチルアルミニウムと同様に水との反応性が依然として非常に高いため、反応場に全量の水が予め存在した状態で反応を行うと、反応が不規則に進行してゲル状物質が生成しやすい。そのため、工程(1)では、トリメチルアルミニウム溶液に対して、水又は水系分散液を徐々に添加することが好ましい。これにより、トリメチルアルミニウム又は低分子量のメチルアルミノキサンと共存する水の量を制御しながら反応を行うことができ、その結果、ゲル状物質の生成を抑制することができる。
【0021】
トリメチルアルミニウム溶液は、トリメチルアルミニウムに前記溶媒を混合することにより調製することができる。トリメチルアルミニウム溶液中のトリメチルアルミニウム濃度は、好ましくは1質量%~20質量%、より好ましくは5質量%~15質量%である。
【0022】
水は水系分散液の形態で添加することが好ましい。水系分散液とすることにより、添加速度の調整を容易にすることができる。水系分散液は、水に前記溶媒を混合することにより調製することができる。水系分散液の媒体は、トリメチルアルミニウム溶液の溶媒と同じであることが好ましい。水系分散液中の水濃度は、好ましくは1質量%~20質量%、より好ましくは5質量%~15質量%である。
【0023】
一実施形態では、トリメチルアルミニウム、水又はそれらの両方をトルエンで15質量%以下に希釈して得られる溶液又は分散液を用いて工程(1)が実施される。
【0024】
水又は水系分散液の添加速度は、反応場、例えば反応槽中に存在するAlの量に応じて決定することができる。
【0025】
一実施形態では、反応槽へ1時間当たり投入した水(mol/h)と反応槽中に存在するAl(mol)の比(反応槽へ1時間当たり投入した水(mol/h)/反応槽中に存在するAl(mol))が、1~30、好ましくは2~20、より好ましくは3~15となるように、水又は水系分散液の添加速度が設定される。反応槽へ1時間当たり投入した水(mol/h)と反応槽中に存在するAl(mol)の比を上記範囲とすることにより、反応効率を過度に低下させずに、高分子量のメチルアルミノキサン及びゲル状物質の生成を抑制し、メチルアルミノキサン組成物の安定性を高めることができる。
【0026】
撹拌装置としては、特に限定されないが、高速ホモジナイザーを使用することが好ましい。高速ホモジナイザーを用いることにより、トリメチルアルミニウムと水を速やかに反応させることができる。高速ホモジナイザーの回転数は、例えば1000rpm~20000rpmとすることができる。
【0027】
高速ホモジナイザーのモーター電流値が反応開始前の値の90%以上となるように維持しながら反応を行うことが好ましい。トリメチルアルミニウムの加水分解に伴って発生したメタンガスにより、反応場、例えば反応槽内の気相の割合が増加すると、モーターが空転して仕事量が低下し、モーター電流値(表示アンペア数)が低下する。いかなる理論に拘束される訳ではないが、モーター電流値を反応開始前の値の90%以上と高い値で維持することにより、反応液が十分に撹拌されている状態を担保し、局所的な反応の進行に起因するゲル状物質の核形成を抑制することができると考えられる。モーター電流値の維持は、例えば、水又は水系分散液の添加速度、後述するバッファタンクと反応槽の間の循環流量、圧力、又は温度を調整することにより行うことができる。
【0028】
一実施形態では、トリメチルアルミニウムと水の反応生成物を含む反応液を、反応槽とバッファタンクの間で循環させながら、反応槽内に水又は水系分散液が添加される。この実施形態では、反応槽でトリメチルアルミニウムと水の初期反応((CH3)3Al+H2O→(CH3)2AlOH+CH4)の大半が進行し、バッファタンク内、及びバッファタンクと反応槽をつなぐ循環ライン内で、その後の加水分解及び環化又は縮合が進行すると考えられる。そのため、この実施形態は、反応槽の体積当たりの撹拌動力を大きくすることができ、それにより初期反応を促進できる点で有利である。
【0029】
この実施形態において、循環流量は、好ましくは反応槽の容積(L)あたり500kg/(h・L)以上、より好ましくは500kg/(h・L)~10000kg/(h・L)、更に好ましくは1000kg/(h・L)~2000kg/(h・L)となるように設定される。いかなる理論に拘束される訳ではないが、循環流量を上記範囲とすることにより、反応槽内の気相の割合が減少し、それにより撹拌装置の動力の空転が抑制されて、撹拌装置が反応液に与える仕事量を確保することができる。そのため、局所的な反応の進行に起因するゲル状物質の核形成を抑制することができると考えられる。
【0030】
図1に、反応槽及びバッファタンクを備えた反応装置の模式図を示す。バッファタンク1と反応槽6とは循環ライン5を介して連通している。循環ライン5上に配設された循環ポンプ4により、バッファタンク1→循環ライン5→反応槽6→循環ライン5→バッファタンク1の順で反応液が循環する。バッファタンク1は、モーター3に取り付けられた撹拌翼2を備えており、バッファタンク1内に収容された反応液が撹拌される。撹拌翼2は例えばパドル撹拌翼とすることができる。
図1では、反応槽6には高速ホモジナイザー7が取り付けられており、反応液が高速で撹拌されながらトリメチルアルミニウムの加水分解反応が進行する。反応槽6は、循環ライン5とは別に水投入口8を備えており、水投入口8を通して水又は水系分散液が反応槽6に添加される。図示されていないが、反応槽6及び/又はバッファタンク1は、反応液の温度を調整する冷却ジャケットを備えていてもよく、循環ライン5は熱交換器を備えていてもよい。
【0031】
図1の反応装置を用いて、例えば以下の手順で工程(1)を行うことができる。トルエンを溶媒として含むトリメチルアルミニウム溶液をバッファタンク1に仕込み、モーター3を作動させて撹拌翼2でトリメチルアルミニウム溶液を撹拌する。循環ポンプ4を作動させてバッファタンク1と反応槽6の間でトリメチルアルミニウム溶液を循環させる。高速ホモジナイザー7を作動させてトリメチルアルミニウム溶液を高速(例えば12000rpm)で撹拌しながら、トルエンを媒体として含む水系分散液を水投入口8から反応槽6に少しずつ投入して、トリメチルアルミニウムと水を反応させる。反応により生成した粗メチルアルミノキサンを含む反応液は、循環ライン5を通って反応槽6とバッファタンク1との間を循環する。水系分散液の添加が完了した後、必要に応じて循環を更に継続して、粗メチルアルミノキサンが得られる。
【0032】
工程(2)は、メチルアルミノキサン濃度が最大で43.0質量%になるまで粗メチルアルミノキサンを濃縮する工程である。工程(2)において、メチルアルミノキサン濃度が43.0質量%を超えないように濃縮を実施することにより、メチルアルミノキサン濃度が高い状態での熱履歴を少なくして、メチルアルミノキサン組成物の安定性を高めることができる。メチルアルミノキサン濃度が最大で40.5質量%になるまで粗メチルアルミノキサンを濃縮することが好ましい。
【0033】
粗メチルアルミノキサンは、一般に、溶媒及び未反応のトリメチルアルミニウムを含む。溶媒と未反応のトリメチルアルミニウムを工程(2)で除去することにより、メチルアルミノキサン組成物中のメチルアルミノキサン濃度及び純度を高めることができる。例えば、トルエンの沸点は111℃、トリメチルアルミニウムの沸点は125℃であるため、トルエンと一緒にトリメチルアルミニウムを共沸除去することができる。
【0034】
濃縮設備としては、特に限定されないが、自然循環型、カランドリア型、強制循環型、又はジャケット・コイル型の濃縮設備であることが好ましい。
【0035】
濃縮は減圧下で行うことが好ましい。濃縮圧力は、好ましくは1kPaA(絶対圧)~50kPaA、より好ましくは2.6kPaA~7.5kPaAである。
【0036】
濃縮は、一般に0℃(273K)~110℃(383K)の温度範囲で行われる。濃縮温度は、好ましくは60℃(333K)以下、より好ましくは40℃(313K)以下である。一実施形態では、濃縮温度は、0℃(273K)~60℃(333K)であり、好ましくは20℃(293K)~40℃(313K)である。
【0037】
濃縮時間は、特に限定されないが、好ましくは1時間~100時間、より好ましくは8時間~20時間である。
【0038】
メチルアルミノキサン濃度が40.5質量%~43.0質量%である時間が1時間以内となるように粗メチルアルミノキサンを濃縮することが好ましい。これにより、メチルアルミノキサン濃度が特に高い状態での熱履歴を少なくして、メチルアルミノキサン組成物の安定性をより高めることができる。
【0039】
濃縮は連続濃縮であってもよく、バッチ濃縮であってもよい。一実施形態では、連続濃縮の後にバッチ濃縮が実施される。連続濃縮とは、粗メチルアルミノキサンの体積を一定に保持して行う濃縮であり、濃縮槽に粗メチルアルミノキサンを連続的に供給しながら濃縮が行われる。バッチ濃縮は、例えば、メチルアルミノキサン組成物の濃度を精密に調整する目的で行うことができる。連続濃縮とバッチ濃縮を実施する実施形態において、前記濃縮時間は、連続濃縮及びバッチ濃縮の合計時間を意味する。
【0040】
工程(3)は、工程(1)又は(2)の後に固形物を取り除く工程である。固形物には一般に工程(1)で副生した水酸化アルミニウムが含まれる。固形物の除去は、特に限定されないが、ろ過によって行うことができる。ろ過方法としては、ろ過媒体の閉塞が生じにくいクロスフローろ過を用いることが好ましい。
【0041】
工程(3)は、工程(1)の後のみ、工程(2)の後のみ、又は工程(1)の後及び工程(2)の後の両方で行われる。工程(3)は、少なくとも工程(1)の後で行うことが好ましい。
【0042】
工程(3)の後、又は工程(2)の後(工程(3)を工程(1)の後に実施した場合)に、メチルアルミノキサン組成物が得られる。
【0043】
メチルアルミノキサン組成物は、メチルアルミノキサン、溶媒、及び任意に未反応のトリメチルアルミニウムを含む。一実施形態のメチルアルミノキサン組成物は、メチルアルミノキサン、溶媒、及び任意に未反応のトリメチルアルミニウムからなる。メチルアルミノキサン組成物に含まれる溶媒としては、工程(1)で説明した溶媒が挙げられる。メチルアルミノキサン組成物に含まれる溶媒は、工程(1)で使用した溶媒と同じであってもよい。
【0044】
メチルアルミノキサン組成物のメチルアルミノキサン濃度は、好ましくは5.0質量%~43.0質量%とすることができ、より好ましくは10.0質量%~40.5質量%である。
【0045】
メチルアルミノキサン組成物は酸素との反応性が非常に高いため、一般に窒素ガス雰囲気下で保存される。メチルアルミノキサン組成物は、溶液状態で直接オレフィン重合に使用することができる。メチルアルミノキサン組成物をスプレー乾燥などにより乾燥して、粉末形態でオレフィン重合に使用することもできる。
【0046】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0047】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0048】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0049】
<安定性試験>
安定性試験では、トルエンを用いてメチルアルミノキサン組成物をメチルアルミノキサン濃度27%に調整した後、不活性ガスに置換したガラス容器へ封入し、-20℃にて静置保管して、目視にてゲルが発生した日数を記録した。
【0050】
<実施例1>
トリメチルアルミニウム(181g、2.51mol)をトルエン(1100g、11.9mol)にて希釈して、トリメチルアルミニウム濃度14.1質量%の原料溶液を得た。原料溶液をバッファタンクである2Lセパラブルフラスコへ投入して撹拌した。循環ポンプを介してセパラブルフラスコと反応槽との間で原料溶液を流量17.5L/hで循環させた。循環ラインに設置した反応槽(35mL)に取り付けた高速ホモジナイザーを12000rpmにて回転させながら、水(18.0g、1.00mol)/トルエン(144g、1.56mol)の分散液(水濃度11.1質量%)を、高速ホモジナイザーのモーター電流値を、水を投入する前(反応開始前)の値の90%以上となるよう維持しながら、反応槽温度10℃にて1.5時間かけて投入した(反応槽1L当たりの水の投入速度:0.35kg/(h・L))。その後、粗メチルアルミノキサン反応液1396gを回収した。
【0051】
粗メチルアルミノキサン反応液のゲルを目開き5~15μmのガラスフィルターにてろ過して除去し、粗メチルアルミノキサンろ過液(1385g)を得た。ろ過液の組成は、1H-NMR換算で、トリメチルアルミニウム(91.7g、1.27mol)、メチルアルミノキサン(75.0g)であり、Al濃度は4.88質量%であった。
【0052】
粗メチルアルミノキサンろ過液を、500mLセパラブルフラスコに230g(約255mL)、滴下ロートに910g(約1010mL)、それぞれ仕込んだ。次いで、セパラブルフラスコ内の溶液体積が約230mLに維持されるように、滴下ロートからの供給量を逐次調整しながら滴下し、真空度を7.5kPaA、内温40℃(313K)にて9時間連続濃縮を実施した。滴下ロートの溶液を全て投入した時点でメチルアルミノキサン濃度は34.2質量%であった。その後、メチルアルミノキサン濃度が35質量%を超えないようにトルエンを適時追加しながら、連続濃縮と同じ真空度及び内温にて0.6時間バッチ濃縮を行い、メチルアルミノキサン濃縮液(メチルアルミノキサン組成物)179gを得た。メチルアルミノキサン濃縮液の組成は、1H-NMR換算で、トリメチルアルミニウム(14.0g、0.194mol)、メチルアルミノキサン(62.0g)、トルエン(103g、1.11mol)であり、メチルアルミノキサン濃度は34.6質量%であった。得られたメチルアルミノキサン組成物について安定性試験を実施した結果、460日でゲルの析出を確認した。
【0053】
<実施例2>
濃縮工程において、バッチ濃縮の時間を0.7時間、トルエンの適時追加をメチルアルミノキサン濃度が40.5質量%を超えないように行った以外は実施例1と同じ操作を実施して、メチルアルミノキサン濃縮液(メチルアルミノキサン組成物)154gを得た。メチルアルミノキサン濃縮液の組成は、1H-NMR換算で、トリメチルアルミニウム(13.5g、0.193mol)、メチルアルミノキサン(62.2g)、トルエン(78.3g、0.851mol)であり、メチルアルミノキサン濃度は40.4質量%であった。得られたメチルアルミノキサン組成物について安定性試験を実施した結果、460日でゲルの析出を確認した。
【0054】
<実施例3>
濃縮工程において、バッチ濃縮の時間を1時間、トルエンの適時追加をメチルアルミノキサン濃度が43質量%を超えないように行った以外は実施例1と同じ操作を実施して、メチルアルミノキサン濃縮液(メチルアルミノキサン組成物)143gを得た。メチルアルミノキサン濃縮液の組成は、1H-NMR換算で、トリメチルアルミニウム(12.8g、0.177mol)、メチルアルミノキサン(61.5g)、トルエン(68.7g、0.747mol)であり、メチルアルミノキサン濃度は43.0質量%であった。得られたメチルアルミノキサン組成物について安定性試験を実施した結果、430日でゲルの析出を確認した。
【0055】
<比較例1>
濃縮工程において、バッチ濃縮時間を1.5時間、トルエンの適時追加を行わなかった以外は、実施例1と同じ操作を実施して、メチルアルミノキサン濃縮液(メチルアルミノキサン組成物)130gを得た。メチルアルミノキサン濃縮液の組成は、1H-NMR換算で、トリメチルアルミニウム(11.3g、0.158mol)、メチルアルミノキサン(61.0g)、トルエン(57.7g、0.627mol)であり、メチルアルミノキサン濃度は46.8質量%であった。得られたメチルアルミノキサン組成物について安定性試験を実施した結果、120日でゲルの析出を確認した。
【0056】
実施例1~実施例3及び比較例1の結果を以下の表1にまとめる。
【0057】
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、使用する材料、各種条件等は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。