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特開2024-140985プラスチック光ファイバー、光コード、及びアクティブ光ケーブル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140985
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】プラスチック光ファイバー、光コード、及びアクティブ光ケーブル
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/036 20060101AFI20241003BHJP
   G02B 6/42 20060101ALI20241003BHJP
   G02B 6/028 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G02B6/036
G02B6/42
G02B6/028
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052389
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】守屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】高山 一也
(72)【発明者】
【氏名】大村 紘司
【テーマコード(参考)】
2H137
2H250
【Fターム(参考)】
2H137AA01
2H137AB04
2H137BA06
2H250AA30
2H250AA36
2H250AB33
2H250AB35
2H250AB37
2H250AB45
2H250AB46
2H250AD15
2H250AD32
2H250AD36
2H250AD43
2H250AH22
2H250AH23
(57)【要約】
【課題】曲げ損失を改善するためのトレンチを備えたプラスチック光ファイバーについて、短距離における帯域が改善されたプラスチック光ファイバーを提供する。
【解決手段】本開示のプラスチック光ファイバーは、コア11と、コア11の外周に配置されたトレンチ12と、を備える。コア11は、中心から外縁に向かう方向に減少する屈折率n1を有する第1領域111と、第1領域111の外周に位置し、コア12の外縁を含み、かつ一定の屈折率n2を有する第2領域112と、を有する。前記第2領域の前記屈折率n2は、前記第1領域の前記屈折率n1以下であり、前記第2領域の厚みは、2μm以上5μm未満であり、前記トレンチの屈折率n3は、前記第2領域の前記屈折率n2よりも低い。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック光ファイバーであって、
前記プラスチック光ファイバーは、
コアと、
前記コアの外周に配置されたトレンチと、
を備え、
前記コアは、
中心から外縁に向かう方向に減少する屈折率n1を有する第1領域と、
前記第1領域の外周に位置し、前記コアの前記外縁を含み、かつ一定の屈折率n2を有する第2領域と、
を有し、
前記第2領域の前記屈折率n2は、前記第1領域の前記屈折率n1以下であり、
前記第2領域の厚みは、2μm以上5μm未満であり、
前記トレンチの屈折率n3は、前記第2領域の前記屈折率n2よりも低い、
プラスチック光ファイバー。
【請求項2】
5mでオーバーフィル光を入射した時の-1.5dB帯域値が40MHz・km以上である、
請求項1に記載のプラスチック光ファイバー。
【請求項3】
前記プラスチック光ファイバーを曲げ半径1.5mmでU字に曲げたときの第1光損失が、3.0dB以下である、
請求項1に記載のプラスチック光ファイバー。
【請求項4】
前記第1光損失が、1.0dB以下である、
請求項3に記載のプラスチック光ファイバー。
【請求項5】
前記プラスチック光ファイバーを曲げ半径2.0mmでU字に曲げたときの第2光損失が、0.5dB以下である、
請求項1に記載のプラスチック光ファイバー。
【請求項6】
前記第2領域の前記厚みは、2.9μm以上4.8μm以下である、
請求項1に記載のプラスチック光ファイバー。
【請求項7】
前記第2領域の前記厚みは、2.9μm以上4.5μm以下である、
請求項6に記載のプラスチック光ファイバー。
【請求項8】
前記第2領域の前記厚みは、3.5μm以上4.4μm以下である、
請求項7に記載のプラスチック光ファイバー。
【請求項9】
前記プラスチック光ファイバーの開口数(N.A.)が、0.190以上0.235以下である、
請求項1に記載のプラスチック光ファイバー。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のプラスチック光ファイバーを備えた、
光コード。
【請求項11】
請求項10に記載の光コードと、
光電混載モジュールと、
を備えた、アクティブ光ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラスチック光ファイバー、光コード、及びアクティブ光ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバーは、光を伝送する部分としての中心部のコアと、当該コアの外周に設けられた、コアに光を閉じ込めるためのクラッド又はトレンチと呼ばれる領域とを備えている。
【0003】
光ファイバーには、コアが樹脂材料で形成されたプラスチック光ファイバー(以下、「POF」と記載する。)と、コアがガラス材料によって形成されているガラス光ファイバー(以下、「GOF」と記載する。)とがある。POFは、GOFよりも柔軟性が高く、GOFと比較して耐曲げ性(すなわち、屈曲性)及び加工性に優れている。したがって、POFは、一般に、光ファイバー伝送網の末端部分(例えば、家庭内配線等)の短距離の用途に用いられる。
【0004】
POFには、SI(ステップインデックス)型POFと、GI(グレーデッドインデックス)型POFとがある。SI型POFは、コアの屈折率が均一であるPOFである。GI型POFは、コアの屈折率がコアの中心からコアの外縁に向かって減少する屈折率分布を有するPOFである。SI型では光の経路(モード)によって伝搬時間が異なるため信号パルスが広がり、帯域が低い。これに対し、GI型POFは、屈折率分布によって伝搬時間差が大幅に低減されるため、帯域が高く高速通信が可能である。
【0005】
また、GI型POFにおいて、曲げ損失をより小さくし、さらに、より広域の光を受け取れる(すなわち、より大きい開口数(N.A.)を実現できる)ようにするため、コアの外周に、コアの外縁の屈折率よりも低い屈折率を有するように光学設計されたトレンチが設けられる。
【0006】
例えば、特許文献1には、トレンチの光学設計によって実現された、漏洩モードの影響を抑えた曲げに強いマルチモード光ファイバーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-527547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、曲げ損失を小さくする等の目的で設けられるトレンチは、当該トレンチに入射した光の反射光により、帯域を低下させる。なお、トレンチで光が反射することによる帯域の低下は、POFの距離が短い場合に顕著となり、POFの距離が長くなるとその影響は小さくなる。その理由は、光がPOFを導波する際に、POFの開口数(N.A.)よりも大きい角度でPOFに入射した光及び散乱した光のような、帯域を低下させる原因となる光の成分が失われるからである。すなわち、POFの距離が長くなるほど、帯域を低下させる光の成分が減少するからである。
【0009】
上述のとおり、POFは、一般に短距離(例えば、1m以上100m以下)の用途に用いられ、さらに短距離では帯域を低下させる光の成分の影響を受けやすい。しかし、従来、光ファイバーのうちPOFについて、特に曲げ損失を小さくするためのトレンチが設けられたPOFについて、短距離における帯域の改善に着目した技術は提案されていない。
【0010】
本開示は、曲げ損失を改善するためのトレンチを備えたPOFについて、短距離における帯域が改善されたPOFを提供することを目的とする。さらに、そのような短距離における帯域が改善されたPOFを備えた光コード及びアクティブ光ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の第1態様に係るPOFは、
コアと、
前記コアの外周に配置されたトレンチと、
を備え、
前記コアは、
中心から外縁に向かう方向に減少する屈折率n1を有する第1領域と、
前記第1領域の外周に位置し、前記コアの前記外縁を含み、かつ一定の屈折率n2を有する第2領域と、
を有し、
前記第2領域の前記屈折率n2は、前記第1領域の前記屈折率n1以下であり、
前記第2領域の厚みは、2μm以上5μm未満であり、
前記トレンチの屈折率n3は、前記第2領域の前記屈折率n2よりも低い。
【0012】
本開示の第2態様に係る光コードは、本開示の第1態様に係るPOFを備える。
【0013】
本開示の第3態様に係るアクティブ光ケーブルは、本開示の第2態様に係る光コードと、光電混載モジュールと、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、短距離における帯域が改善されたPOFを提供することができる。さらに、本開示は、そのような短距離における帯域が改善されたPOFを備えた光コード及びアクティブ光ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本開示の実施形態によるPOFの断面構造の一例を示す模式図である。
図2図2は、本開示の実施形態によるPOFの屈折率のプロファイルを示すグラフである。
図3図3は、本開示の実施形態によるPOFの変形例の断面構造の一例を示す模式図である。
図4図4は、本開示の実施形態によるPOFの製造に使用できる製造装置の一例を示す概略断面図である。
図5図5は、本開示の実施形態による光コードの一例を示す模式図である。
図6図6は、本開示の実施形態によるアクティブ光ケーブルの一例を示す模式図である。
図7図7は、実施例及び比較例において、POFの曲げ損失を測定する測定システムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(定義)
この明細書において、屈折率は、プリズムカプラ法によって測定される値を意味する。
【0017】
本明細書において、「プラスチック光ファイバー(POF)を曲げ半径RmmでU字に曲げたときの光損失」とは、下記の手順によって求められる光損失を意味する。
(a)POF(長さ:5m)の入射側に、光源を接続し、POFの受光側には、光パワーメーターを接続すること
(b)POFの入射側の1mの箇所をφ12.5mmの円柱に10回巻き付けてクラッドモードを除去すること
(c)POFの中央部(2.5m部)を、曲げ半径RのU字の溝が付いたプレートにセットしてPOFを曲げること
(d)直線状態から曲げ状態に変わることに伴う挿入損失の変化量を確認し、光損失を求めること
【0018】
(本開示の実施形態)
本開示の実施形態によるPOFについて説明する。
【0019】
図1は、本開示の実施形態によるPOFの断面構造の一例を示す模式図である。図2は、本開示の実施形態によるPOFの屈折率のプロファイルを示すグラフである。
【0020】
本実施形態によるPOF10は、コア11と、コア11の外周に配置されたトレンチ12とを備える。コア11は、第1領域111と、第2領域112とを有する。第1領域111は、コア11の中心11aから外縁11bに向かう方向に減少する屈折率n1を有する。第2領域112は、第1領域111の外周に位置し、コア11の外縁11bを含み、かつ一定の屈折率n2を有する。第2領域112の屈折率n2は、第1領域111の屈折率n1以下である。第2領域112の厚みは、2μm以上5μm未満である。トレンチ12の屈折率n3は、コア11の第2領域112の屈折率n2よりも低い。なお、コア11(第1領域111及び第2領域112)及びトレンチ12の屈折率とは、コア11内を伝搬する光の波長(例えば、850nm)の光についての屈折率である。
【0021】
本実施形態によるPOF10は、コア11の第1領域111の屈折率n1が屈折率分布を有している。したがって、本実施形態によるPOF11は、GI型である。具体的に説明すると、図2が示すようにコア11の第1領域111の中心が最大の屈折率を有して、第2領域112に向かって、第1領域111の屈折率が徐々に低下する。また、第2領域112における屈折率は、一定である。ここで、「第2領域112における屈折率が一定」とは、第2領域112における最大屈折率と最小屈折率との差が、0.005以下であることを意味する。さらに、トレンチ12における屈折率も、例えば一定であってもよい。「トレンチ12における屈折率が一定」とは、トレンチ12における最大屈折率と最小屈折率との差が、0.005以下であることを意味する。図2に示すように、POF径とは、コア11とトレンチ12とを有するPOFの径を意味する。また、図2の縦は屈折率の相対的な高さを意味する。
【0022】
本実施形態によるPOF10は、屈折率分布を有するコア11の第1領域111(屈折率n1)と、コア11に光を閉じ込めるために設けられたトレンチ12(屈折率n3)との間に、n1≧n2>n3の関係を満たす、一定の屈折率n2を有する第2領域112が設けられた構成を有する。さらに、第2領域112の厚みは、2μm以上5μm未満である。この構成により、コア11を伝搬する光がトレンチ12に届かないように、すなわちトレンチ12へ光が入射しないようにすることができる。したがって、本実施形態によるPOF10は、トレンチ12に入射する光の反射によって帯域が低下することを抑制することができる。これにより、本実施形態によるPOF10は、低い曲げ損失を有しつつ、短距離において低い帯域を実現することができる。
【0023】
ここで、短距離のPOFとは、例えば30m以下のPOFであり、望ましくは10m以下のPOFであり、より望ましくは5m以下のPOFである。短距離のPOFは、例えば1m以上である。
【0024】
本実施形態によるPOF10は、例えば、5mでオーバーフィル光を入射した時の-1.5dB帯域値を、40MHz・km以上とすることができる。このように、本実施形態によるPOF10は、5mの非常に短い距離においても、40MHz・km以上の高い帯域を実現することができる。なお、本実施形態によるPOF10の帯域は、IEC60793-1-41に準拠した手法のうちパルス法にて測定される値であり、オーバーフィル光を用いた全モード励振の励振条件で行われる。オーバーフィル光とは、入射光の開口数(N.A.)が被測定POFの開口数(N.A.)よりも大きく、かつ入射光のビーム径が被測定POFのコア径よりも大きい光である。
【0025】
ここで、本明細書において、POFのコア径とは、コアの外径のことである。コアの外径は、IEC60793-1-20及びIEC60793-2-40 subcategory A4h に準拠した手法のうち、波長850nmの光を用いたニアフィールドパターン法(以下、「NFP法」という)によって測定される光強度5%の径である。光強度5%の径とは、光強度のピーク値に対して5%の光強度を有する箇所によって特定される近似円の径のことである。また、輝度が100%のところとは、コアの中でも輝度が最も高いところを意味する。なお、コア11の外縁11bは、コア径と同様の方法、すなわちNFP法によって特定されることができる。
【0026】
本実施形態によるPOF10において、コア11の第1領域111と第2領域112とは、上記のPOFのコア径の測定方法と同様に、NFP法を用いて特定することができる。NFP法による測定で得られる出射光の光強度の面分布によって、コア11における屈折率が確認されうる。したがって、出射光強度の面分布を利用して、面分布を微分して変極点を求めることにより、屈折率分布を有する第1領域111と、一定の屈折率を有する第2領域112とを区別することができる。第2領域112の外縁は、コア11の外縁11bであり、すなわちコア11とトレンチ12との界面(コア/トレンチ界面)に相当する。したがって、第2領域112は、上記変曲点とコア/トレンチ界面との間の領域である。上記変曲点により第1領域111の外径を特定することができ、コア/トレンチ界面により第2領域112の外径を特定することができる。それぞれの領域の外径が特定されることにより、第2領域112の厚みを求めることができる。
【0027】
トレンチ12の外径も、コア径と同様に、NFP法を用いて求めることができる。
【0028】
コア11の第1領域111の屈折率n1及び第2領域112の屈折率n2、並びにトレンチ12の屈折率n3は、次の方法で求めることができる。コア材料及びトレンチ材料を用いて、それぞれシート状の試験片を熱プレスによって作製する。その試験片を用いて、プリズムカプラ法によってコア材料及びトレンチ材料の屈折率を求める。ついで、ファーフィールドパターン法によって、開口角を測定し、コアとトレンチの屈折率差を求めた。そして、論文(立花光廣、「光ファイバの屈折率分布測定法」、応用物理 第48巻 第8号)の2.4を参照し、コア11の第1領域111の屈折率n1及び第2領域112の屈折率n2、並びにトレンチ12の屈折率n3を算出する。
【0029】
本実施形態によるPOF10において、曲げ半径1.5mmでU字に曲げたときの第1光損失は、例えば3.0dB以下であることが好ましく、1.0dB以下であることがより好ましい。本実施形態によるPOF10は、コア10が樹脂材料で形成されているPOFであるため、GOFと比較して曲げ損失が低く、さらにトレンチ12を備えているので、曲げ損失を上記の範囲に小さく抑えられることができる。この構成により、本実施形態によるPOF10は、曲げ損失を上記の範囲により小さく抑えつつ、短距離における高い帯域を実現することができる。上記第1光損失は、例えば、0.5dB以上、0.7dB以上または0.75dB以上である。なお、曲げ損失である第1光損失の測定方法は、後述の実施例で説明する。
【0030】
また、本実施形態によるPOF10において、曲げ半径2.0mmでU字に曲げたときの第2光損失は、例えば0.5dB以下であることが好ましい。この構成により、本実施形態によるPOF10は、曲げ損失を上記の範囲により小さく抑えつつ、短距離における高い帯域を実現することができる。上記第2光損失は、例えば0.1dB以上、0.3dB以上または、0.4dB以上である。なお、曲げ損失である第2光損失の測定方法は、後述の実施例で説明する。
【0031】
帯域をより向上させるために、本実施形態によるPOF10のコア11における第2領域112の厚みは、例えば2.9μm以上4.8μm以下であることが好ましい。帯域をさらに向上させるために、第2領域112の厚みは、2.9μm以上4.5μm以下であることがより好ましい。帯域をより一層向上させるために、第2領域112の厚みは、3.5μm以上4.4μm以下であることがより好ましい。
【0032】
本実施形態によるPOF10は、トレンチ12が設けられることにより、大きい開口数(N.A.)を実現できる。したがって、本実施形態によるPOF10は、より広域の光を受け取ることができる。本実施形態によるPOF10は、例えば、0.190以上0.235以下の開口数(N.A.)を有する。
【0033】
以下に、本実施形態のPOF10の各構成について、より詳しく説明する。
【0034】
(コア11)
コア11は、光を伝送する領域である。上述のとおり、コア11は、屈折率分布(屈折率n1)を有する第1領域111と、一定の屈折率n2を有する第2領域112とを有する。第1領域111及び第2領域112の屈折率(すなわち、屈折率n1及び屈折率n2)は、トレンチ12の屈折率n3よりも高い屈折率を有している。この構成により、コア11内に入射した光は、トレンチ12によってコア11内部に閉じ込められて、POF10内を伝搬する。
【0035】
コア11は、第1樹脂を含む。コア11は、第1樹脂を主成分として含んでいてもよい。ここで、コア11が第1樹脂を主成分として含むとは、コア11において、質量比で最も多く含まれる成分が第1樹脂であることである。コア11は、第1樹脂を75質量%以上含んでいてもよく、80質量%以上含んでいてもよく、85質量%以上含んでいてもよい。
【0036】
コア11は、第1樹脂の他に、添加物をさらに含んでいてもよい。添加物は、例えば屈折率調整剤である。すなわち、コア11は、第1樹脂と、屈折率調整剤等の添加剤とを含む樹脂組成物によって形成されていてもよい。屈折率調整剤として、例えば、POF10のコア11の材料に用いられる公知の屈折率調整剤が用いられ得る。コア11の材料は、屈折率調整剤以外の他の添加物を含んでいてもよい。
【0037】
コア11の第1領域111は、コア11の中心11aから外縁11bに向かう方向に屈折率が減少する屈折率分布を有する。このような屈折率分布は、例えば、第1樹脂に屈折率調整剤を添加し、屈折率調整剤を第1樹脂中で拡散(例えば、熱拡散)させることによって、形成され得る。一定の屈折率n2を有するコア11の第2領域111は、例えば、屈折率調整剤を第1樹脂中で拡散(例えば、熱拡散)させる際の条件(例えば、拡散温度及び拡散時間)、溶融紡糸法によって本実施形態によるPOF10を製造する場合はコア材料の吐出量等を調整することによって、形成することができる。
【0038】
コア11に含まれる第1樹脂は、高い透明性を有する樹脂であればよく、特には限定されない。第1樹脂としては、例えば、含フッ素樹脂、メチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、及びカーボネート系樹脂等が挙げられる。
【0039】
コア11に含まれる第1樹脂は、全フッ素系樹脂、部分フッ素系樹脂、部分塩素系樹脂、及び部分重水素化系樹脂からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。部分フッ素系樹脂、部分塩素系樹脂、及び部分重水素化系樹脂は、ここでは、POFのコア材料として当該技術分野で公知の樹脂において、C-H結合の水素原子の一部が、それぞれフッ素置換、塩素置換、及び重水素置換された樹脂を意味する。全フッ素系樹脂は、ここでは、POFのコア材料として当該技術分野で公知の樹脂において、C-H結合の水素原子の全てがフッ素置換された樹脂を意味する。コア材料として当該技術分野で公知の樹脂の例としては、上述したような、メチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、及びカーボネート系樹脂等が挙げられる。ジオキソラン構造を有する重合体のような、脂肪族環構造を有する重合体が用いられてもよい。
【0040】
第1樹脂は、全フッ素系樹脂及び部分フッ素系樹脂からなる群より選択される少なくとも1つであることが望ましい。すなわち、第1樹脂は、含フッ素樹脂であることが望ましい。
【0041】
コア11の第1樹脂は、含フッ素重合体を含む含フッ素樹脂であることが好ましい。以下、コア11に含まれる含フッ素樹脂を第1含フッ素樹脂と記載し、第1含フッ素樹脂に含まれる含フッ素重合体を第1含フッ素重合体と記載する。
【0042】
第1含フッ素樹脂に含まれる第1含フッ素重合体は、C-H結合の伸縮エネルギーによる光吸収を抑制する観点から、実質的に水素原子を含んでいないことが好ましく、炭素原子に結合している全ての水素原子がフッ素原子に置換されていることが特に好ましい。すなわち、第1含フッ素重合体は、実質的に水素原子を含まず、かつ全フッ素化されていることが好ましい。本明細書において、含フッ素重合体が実質的に水素原子を含んでいないとは、含フッ素重合体における水素原子の含有率が1モル%以下であることを意味する。
【0043】
第1含フッ素重合体は、含フッ素脂肪族環構造を有することが好ましい。含フッ素脂肪族環構造は、含フッ素重合体の主鎖に含まれていてもよく、第1含フッ素重合体の側鎖に含まれていてもよい。第1含フッ素重合体は、例えば、下記構造式(1)で表される構成単位(A)を有する。
【化1】
【0044】
式(1)中、Rff 1~Rff 4は各々独立に、フッ素原子、炭素数1~7のパーフルオロアルキル基、又は炭素数1~7のパーフルオロアルキルエーテル基を表す。Rff 1及びRff 2は、連結して環を形成してもよい。「パーフルオロ」は、炭素原子に結合している全ての水素原子がフッ素原子に置換されていることを意味する。式(1)において、パーフルオロアルキル基の炭素数は、1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1であることがさらに好ましい。パーフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。パーフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基などが挙げられる。
【0045】
式(1)において、パーフルオロアルキルエーテル基の炭素数は、1~5が好ましく、1~3がより好ましい。パーフルオロアルキルエーテル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。パーフルオロアルキルエーテル基としては、パーフルオロメトキシメチル基などが挙げられる。
【0046】
ff 1及びRff 2が連結して環を形成している場合、当該環は、5員環であってもよく、6員環であってもよい。この環としては、パーフルオロテトラヒドロフラン環、パーフルオロシクロペンタン環、パーフルオロシクロヘキサン環などが挙げられる。
【0047】
構成単位(A)の具体例としては、例えば、下記式(A1)~(A8)で表される構成単位が挙げられる。
【化2】
【0048】
構成単位(A)は、上記式(A1)~(A8)で表される構成単位のうち、構成単位(A2)、すなわち下記式(2)で表される構成単位であることが好ましい。
【化3】
【0049】
第1含フッ素重合体は、構成単位(A)を1種又は2種以上含んでいてもよい。第1含フッ素重合体において、構成単位(A)の含有量は、全構成単位の合計に対し、20モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがより好ましい。構成単位(A)が20モル%以上含まれることにより、第1含フッ素重合体は、より高い耐熱性を有する傾向がある。構成単位(A)が40モル%以上含まれる場合、第1含フッ素重合体は、高い耐熱性に加えて、より高い透明性及び高い機械的強度も有する傾向がある。第1含フッ素重合体において、構成単位(A)の含有量は、全構成単位の合計に対し、95モル%以下であることが好ましく、70モル%以下であることがより好ましい。
【0050】
構成単位(A)は、例えば、下記式(3)で表される化合物に由来する。式(3)において、Rff 1~Rff 4は、式(1)と同じである。なお、式(3)で表される化合物は、例えば特表2007-504125号公報に開示された製造方法をはじめ、すでに公知である製造方法によって得ることができる。
【化4】
【0051】
上記式(3)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記式(M1)~(M8)で表される化合物が挙げられる。
【化5】
【0052】
含フッ素重合体は、構成単位(A)以外に、他の構成単位をさらに含んでいてもよい。他の構成単位としては、以下の構成単位(B)~(D)が挙げられる。
【0053】
構成単位(B)は、下記式(4)で表される。
【化6】
【0054】
式(4)中、R1~R3は各々独立に、フッ素原子、又は炭素数1~7のパーフルオロアルキル基を表す。R4は、炭素数1~7のパーフルオロアルキル基を表す。パーフルオロアルキル基は、環構造を有していてもよい。フッ素原子の一部は、フッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい。パーフルオロアルキル基におけるフッ素原子の一部は、フッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0055】
含フッ素重合体は、構成単位(B)を1種又は2種以上含んでいてもよい。含フッ素重合体において、構成単位(B)の含有量は、全構成単位の合計に対し、5~10モル%が好ましい。構成単位(B)の含有量は、9モル%以下であってもよく、8モル%以下であってもよい。
【0056】
構成単位(B)は、例えば、下記式(5)で表される化合物に由来する。式(5)において、R1~R4は、式(4)と同じである。式(5)で表される化合物は、パーフルオロビニルエーテル等の含フッ素ビニルエーテルである。
【化7】
【0057】
構成単位(C)は、下記式(6)で表される。
【化8】
【0058】
式(6)中、R5~R8は各々独立に、フッ素原子、又は炭素数1~7のパーフルオロアルキル基を表す。パーフルオロアルキル基は、環構造を有していてもよい。フッ素原子の一部は、フッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい。パーフルオロアルキル基におけるフッ素原子の一部は、フッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0059】
含フッ素重合体は、構成単位(C)を1種又は2種以上含んでいてもよい。含フッ素重合体において、構成単位(C)の含有量は、全構成単位の合計に対し、5~10モル%が好ましい。構成単位(C)の含有量は、9モル%以下であってもよく、8モル%以下であってもよい。
【0060】
構成単位(C)は、例えば、下記式(7)で表される化合物に由来する。式(7)において、R5~R8は、式(6)と同じである。式(7)で表される化合物は、テトラフルオロエチレン及びクロロトリフルオロエチレン等の含フッ素オレフィンである。
【化9】
【0061】
構成単位(D)は、下記式(8)で表される。
【化10】
【0062】
式(8)中、Zは、酸素原子、単結合、又は-OC(R1920)O-を表し、R9~R20は各々独立に、フッ素原子、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基、又は炭素数1~5のパーフルオロアルコキシ基を表す。フッ素原子の一部は、フッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい。パーフルオロアルキル基におけるフッ素原子の一部は、フッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい。パーフルオロアルコキシ基におけるフッ素原子の一部は、フッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい。s及びtはそれぞれ独立に0~5でかつs+tが1~6の整数(ただし、Zが-OC(R1920)O-の場合、s+tは0であってもよい)を表す。
【0063】
構成単位(D)は、好ましくは下記式(9)で表される。なお、下記式(9)で表される構成単位は、上記式(8)においてZが酸素原子、sが0、かつtが2の場合である。
【化11】
【0064】
式(9)中、R141、R142、R151、及びR152は各々独立に、フッ素原子、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基、又は炭素数1~5のパーフルオロアルコキシ基を表す。フッ素原子の一部は、フッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい。パーフルオロアルキル基におけるフッ素原子の一部は、フッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい。パーフルオロアルコキシ基におけるフッ素原子の一部は、フッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0065】
含フッ素重合体は、構成単位(D)を1種又は2種以上含んでいてもよい。含フッ素重合体において、構成単位(D)の含有量は、全構成単位の合計に対し、30~67モル%が好ましい。構成単位(D)の含有量は、例えば35モル%以上であり、60モル%以下であってもよく、55モル%以下であってもよい。
【0066】
構成単位(D)は、例えば、下記式(10)で表される化合物に由来する。式(10)において、Z、R9~R18、s及びtは、式(4)と同じである。式(10)で表される化合物は、2個以上の重合性二重結合を有し、かつ環化重合し得る含フッ素化合物である。
【化12】
【0067】
構成単位(D)は、好ましくは下記式(11)で表される化合物に由来する。式(11)において、R141、R142、R151、及びR152は、式(9)と同じである。
【化13】
【0068】
式(10)又は式(11)で表される化合物の具体例としては、下記の化合物が挙げられる。
CF2=CFOCF2CF=CF2
CF2=CFOCF(CF3)CF=CF2
CF2=CFOCF2CF2CF=CF2
CF2=CFOCF2CF(CF3)CF=CF2
CF2=CFOCF(CF3)CF2CF=CF2
CF2=CFOCFClCF2CF=CF2
CF2=CFOCCl2CF2CF=CF2
CF2=CFOCF2OCF=CF2
CF2=CFOC(CF32OCF=CF2
CF2=CFOCF2CF(OCF3)CF=CF2
CF2=CFCF2CF=CF2
CF2=CFCF2CF2CF=CF2
CF2=CFCF2OCF2CF=CF2
CF2=CFOCF2CFClCF=CF2
CF2=CFOCF2CF2CCl=CF2
CF2=CFOCF2CF2CF=CFCl
CF2=CFOCF2CF(CF3)CCl=CF2
CF2=CFOCF2OCF=CF2
CF2=CFOCCl2OCF=CF2
CF2=CClOCF2OCCl=CF2
【0069】
第1含フッ素重合体は、構成単位(A)~(D)以外の他の構成単位をさらに含んでいてもよいが、実質的に構成単位(A)~(D)以外の他の構成単位を含まないことが好ましい。なお、含フッ素重合体が実質的に構成単位(A)~(D)以外の他の構成単位を含まないとは、含フッ素重合体における全構成単位の合計に対し、構成単位(A)~(D)の合計が95モル%以上、好ましくは98モル%以上であることを意味する。
【0070】
第1含フッ素重合体の重合方法は、特に限定されず、例えば、ラジカル重合などの一般的な重合方法を利用できる。含フッ素重合体を重合するための重合開始剤は、全フッ素化された化合物であってもよい。
【0071】
第1含フッ素重合体は、第1樹脂として用いられる第1含フッ素樹脂を構成する。第1樹脂の第1ガラス転移温度Tg1は、特に限定されず、例えば100℃~140℃であり、105℃以上であってもよく、120℃以上であってもよい。本明細書において、Tgは、JIS K7121:1987の規定に準拠して求められる中間点ガラス転移温度 (Tmg)を意味する。
【0072】
コア11の第1領域111の屈折率n1は、例えば、以下の数式(1)において、gが1.9≦g≦2.1を満たすような屈折率分布を有することが好ましい。なお、数式(1)におけるΔは、以下の数式(2)で表される。
【0073】
n1(r)=nA[1-2Δ(r/a)g1/2 ・・・数式(1)
【0074】
Δ=(nA 2-nB 2)/2nA 2 ・・・数式(2)
【0075】
数式(1)及び(2)において、r、a、nA、及びnBは、以下のとおりである。
r:半径
a:コア11の第1領域111の半径
A:コア11の中心、すなわちr=0の屈折率値
B:コア11の第1領域111の外縁の屈折率値
【0076】
第1領域111の屈折率n1は、例えば、波長850nmについて、1.329以上1.341以下の範囲内とすることができる。
【0077】
第2領域112の屈折率n2は、屈折率n1以下であればよく、例えば、波長850nmについて、1.327以上1.331以下の範囲内とすることができる。
【0078】
(トレンチ12)
本実施形態のPOF10において、トレンチ12は、例えば第2樹脂を含む。トレンチ12は、第2樹脂を主成分として含んでいてもよい。ここで、トレンチ12が第2樹脂を主成分として含むとは、トレンチ12において、質量比で最も多く含まれる成分が第2樹脂であることである。トレンチ12は、第2樹脂を80質量%以上含んでいてもよく、90質量%以上含んでいてもよく、95質量%以上含んでいてもよい。トレンチ12は、第2樹脂のみから構成されていてもよい。トレンチ12は、第2樹脂の他に、添加物をさらに含んでいてもよい。
【0079】
トレンチ12に含まれる第2樹脂は、高い透明性を有する樹脂であればよく、特には限定されない。第2樹脂の例は、第1樹脂として用いることができる樹脂として例示したものと同じである。第1樹脂と同様に、第2樹脂としては、含フッ素樹脂が好適に用いられる。
【0080】
トレンチ12の第2樹脂は、含フッ素重合体を含む含フッ素樹脂であることが好ましい。以下、トレンチ12に含まれる含フッ素樹脂を第2含フッ素樹脂と記載し、第2含フッ素樹脂に含まれる含フッ素重合体を第2含フッ素重合体と記載する。
【0081】
第2含フッ素樹脂として、第1含フッ素樹脂として用いることができる含フッ素樹脂として例示したものを用いることができる。
【0082】
第2含フッ素樹脂として、さらに、下記式(12)で表される構成単位(E)を含有し、かつ非晶質構造を有する含フッ素重合体と、含フッ素可塑剤とを含有する含フッ素樹脂が用いられてもよい。
【化14】
(式(12)中、Zは、酸素原子、単結合、又は-OC(R3132)O-を表し、R21~R32は各々独立に、フッ素原子、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基、又は炭素数1~5のパーフルオロアルコキシ基を表す。「パーフルオロ」は、炭素原子に結合している全ての水素原子がフッ素原子に置換されていることを意味する。フッ素原子の一部は、フッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい。パーフルオロアルキル基におけるフッ素原子の一部は、フッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい。パーフルオロアルコキシ基におけるフッ素原子の一部は、フッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい。s及びtはそれぞれ独立に0~5で、かつs+tが1~6の整数(ただし、Zが-OC(R3132)O-の場合、s+tは0であってもよい)を表す。u及びvはそれぞれ独立に0または1である。)
【0083】
構成単位(E)を含有する含フッ素重合体は、下記式(13)で表される構成単位(F)をさらに含有してもよい。
【化15】
(式(13)中、R33~R36は各々独立に、フッ素原子、又は炭素数1~7のパーフルオロアルキル基を表す。パーフルオロアルキル基は、環構造を有していてもよい。フッ素原子の一部は、フッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい。パーフルオロアルキル基におけるフッ素原子の一部は、フッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい。)
【0084】
第2含フッ素重合体が上記の共重合体である場合、構成単位(E)と構成単位(F)との比率は任意であり、特に限定されない。
【0085】
第2含フッ素重合体は、例えば、以下に示す含フッ素重合体Aおよび含フッ素重合体Bからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0086】
含フッ素重合体Aは、下記式(14)で表される構成単位(G)および下記式(15)で表される構成単位(H)を含有する。なお、下記式(14)において、R23、R24、R31、およびR32は、上記式(12)と同じである。
【0087】
【化16】
【化17】
(式(15)中、R37~R40は各々独立に、フッ素原子、又は炭素数1~7のパーフルオロアルキル基を表す。パーフルオロアルキル基は、環構造を有していてもよい。フッ素原子の一部は、フッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい。パーフルオロアルキル基におけるフッ素原子の一部は、フッ素原子以外のハロゲン原子で置換されていてもよい。)
【0088】
含フッ素重合体Bは、下記式(16)で表される構成単位(I)を含有する。なお、下記式(16)において、R21~R24、R27~R30、R31、およびR32は、上記式(12)と同じである。
【化18】
【0089】
上記含フッ素重合体Aおよび含フッ素重合体Bは、非常に高い透明性を有し、さらにコア11の材料に用いられる第1含フッ素樹脂の一般的な屈折率と比較して、非常に低い屈折率を有することができる。したがって、含フッ素重合体Aおよび含フッ素重合体Bからなる群より選択される少なくとも1つを第2含フッ素重合体として含有する第2含フッ素樹脂は、トレンチ12の高い透明性を維持しつつ、屈折率をさらに低下させることが可能となる。その結果、コア11の屈折率とトレンチ12の屈折率との差をより一層大きくすることができるので、トレンチ12によるコア11内への光の閉じ込め効果がさらに向上し、POF10の低い伝送損失を実現しやすくなる。
【0090】
第2含フッ素重合体は、下記式(17)で表される構成単位(J)を含有することが好ましい。
【化19】
(式(17)中、mおよびnは任意の整数)
【0091】
第2含フッ素重合体は、第2樹脂として用いられる第2含フッ素樹脂を構成する。第2樹脂の第2ガラス転移温度Tg2は、特に限定されず、例えば100℃~150℃であり、105℃以上であってもよく、125℃以上であってもよい。
【0092】
トレンチ12の屈折率n3は、コア11の第2領域112の屈折率n2に応じて設計されればよいため、特には限定されない。トレンチ12の屈折率n3は、波長850nmにおいて、例えば1.34以下でもよく、1.33以下でもよい。トレンチ12の屈折率n3は、波長850nmにおいて、例えば1.32以上であってもよい。
【0093】
トレンチ12の屈折率n3は、コア11の第2領域112の屈折率n2との差が0.005以上0.010以下であることが好ましい。
【0094】
(POFの変形例)
図3は、本実施形態のPOFの変形例を示す。図3に示すPOF20は、POF10に対して、トレンチ12の外周に配置された補強層21がさらに設けられた構成を有する。補強層21は、POF10の機械的強度を向上させるために設けられる。補強層21には、例えば、公知のPOFにおいて補強層として用いられている材料及び構成が適用され得る。補強層21の材料としては、例えば、ポリカーボネート等の各種エンジニアリングプラスチック、ポリエステル、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、変性PTFE、及びテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、またはそれらの共重合体や混合体等が挙げられる。
【0095】
(POFの製造方法)
本実施形態のPOFは、例えば溶融紡糸法を用いて製造される。すなわち、本実施形態のPOFの製造方法の一例は、
コア材料を溶融させてファイバー状に押出成形して、前記コア材料からなるファイバー状の成形体を作製すること、
トレンチ材料を溶融させて、前記成形体の表面を被覆するように押出成形して、前記コア材料及び前記トレンチ材料が同心円状に積層した積層体を作製すること、
を含む。上記コア材料は、例えば第1樹脂を含む。上記トレンチ材料は、例えば第2樹脂を含む。
【0096】
コア材料からなるファイバー状の成形体を作製する際に、まず、屈折率調整剤を含む第1コア材料を押出成形してコア内層部を形成し、次に第2コア材料を第1コア材料1aで形成されたコア内層部2の外周を被覆するように押出成形してもよい。この場合、第1コア材料に含まれる屈折率調整剤を、第2コア材料で形成されたコア外周部に向かって拡散させることによって、コア11の第1領域111と第2領域112とを形成することができる。一定の屈折率n2を有するコア11の第2領域111を形成するために、例えば、屈折率調整剤を拡散(例えば、熱拡散)させる際の条件(例えば、拡散温度及び拡散時間)、第1コア材料及び第2コア材料の吐出量等を調整する。
【0097】
図4は、図3に示されたPOF20の製造に使用できる製造装置の一例を示す概略断面図である。
【0098】
図4に示された装置1000は、第1コア材料を押出成形するための第1押出装置101a、第2コア材料を押出成形するための第2押出装置101b、トレンチ材料を押出成形するための第3押出装置101c、及び被覆層形成用の第4押出装置101dを備える。
【0099】
第1押出装置101aは、第1コア材料1aを収容する第1収容部102aと、第1収容部102aに収容されている第1コア材料1aを第1収容部102aから押し出す第1押出部103aとを有する。第1押出装置101aには、第1収容部102aで第1コア材料1aを溶融させることができるように、さらに溶融された第1コア材料1aが成形されるまで溶融状態を保つことができるように、加熱部(図示せず)がさらに設けられている。ロッド状の第1コア材料(プリフォーム)1aが、第1収容部102aの上方の開口部を通じて第1収容部102a内に挿入されて、第1収容部102a内で加熱されることによって溶融される。
【0100】
第1押出装置101aにおいては、第1コア材料1aは、ガス押出によって、第1押出部103aを介して第1収容部102aからコア内層部2を形成するように外に押し出される。第1押出部103aを介してコア内層部2を形成するように押し出された第1コア材料1aは、その後鉛直方向下方に移動し、第1室110に供給される。
【0101】
第2押出装置101bは、第2コア材料1bを収容する第2収容部102bと、第2収容部102bに収容されている第2コア材料1bを第2収容部102bから押し出す第2押出部103bとを有する。第2押出装置101bは、溶融した第2コア材料を、第1押出装置101aから押し出された第1コア材料1aで形成されたコア内層部2の外周を被覆するように押し出す。具体的には、第2押出装置101bから押し出された第2コア材料は、第1室110に供給される。第1室110内において、第1コア材料1aで形成されるコア内層部2を第2コア材料で被覆することによって、コア内層部2の外周を覆うコア外周部3を形成することができる。コア内層部2と、コア内層部2の外周を被覆するコア外周部3とで形成された積層体4は、第1室110から第1室110の鉛直方向下方に配置された拡散管120に移動する。拡散管120には、この積層体を加熱するためのヒーター(図示せず)が配置されている。拡散管120は、拡散管120の内部を通過する積層体4のコア内層部2に含まれる屈折率調整剤等のドーパントを、コア外周部3に向かって拡散させる。すなわち、コア内層部2とコア外周部3とによって、最終的にコアが形成される。
【0102】
第3押出装置101cは、トレンチ材料1cを収容する第3収容部102cと、第3収容部102cに収容されているトレンチ材料1cを第3収容部102cから押し出す第3押出部103cとを有する。第3押出装置101cは、溶融したトレンチ材料1cを、拡散管120を通過した積層体4の外周を被覆するように押し出す。具体的には、第3押出装置101cから押し出されたトレンチ材料1cは、第2室130に供給される。第2室130内において、積層体4(すなわちコア)をトレンチ材料1cで被覆することによって、コアの外周を覆うトレンチ5を形成することができる。なお、以下、積層体4をコア4という。コア4とトレンチ5で形成された積層体は、第2室130から第2室130の鉛直方向下方に配置された第3室140に移動する。
【0103】
第4押出装置101dは、被覆層材料1dを収容する第4収容部102d、第4収容部102d内に配置されたスクリュー104、及び、第4収容部102dに接続されたホッパー105を備えている。第4押出装置101dでは、例えばペレット状の被覆層材料1dが、ホッパー105を通じて、第4収容部102dに供給される。第4収容部102dに供給された被覆層材料1dは、加熱されながらスクリュー104によって混錬されることによって、軟化して流動可能となる。軟化した被覆層材料1dは、スクリュー104によって第4収容部102dから押し出される。
【0104】
第4押出装置101dから押し出された被覆層材料1dは、第3室140に供給される。第3室140内において、コア4及びトレンチ5で形成された積層体の表面を被覆層材料1dで被覆することによって、トレンチ5の外周を覆う被覆層6が形成される。
【0105】
コア4、トレンチ5、及び被覆層6が同心円状に積層された積層体7は、第3室140からノズル150の流入口を介して内部流路に流入する。積層体7は、内部流路を通過して縮径されて、ノズル150の吐出口からファイバー状に吐出される。
【0106】
ノズル150の吐出口からファイバー状に吐出された積層体7は、冷却管160の内部空間161内に流入し、内部空間161内を通過しながら冷却されて、開口部から冷却管160の外へ放出される。冷却管160から放出された積層体7は、ニップロール170が有する2つのロール171及び172の間を通過し、さらにガイドロール173~175を経由して、POF10として巻き取りロール176に巻き取られる。巻き取りロール176の近傍、例えばガイドロール175と巻き取りロール176との間、においてPOF10の外径を測定する変位計180をさらに備えていてもよい。
【0107】
本実施形態によるPOFは、光コード及びアクティブ光ケーブル等にも適当できる。
【0108】
図5は、本実施形態のPOF10(又はPOF20)を備えた光コードの一例を示す模式図である。図5に示された光コード50は、本実施形態のPOF10(又はPOF20)が収容されたケーブル51と、ケーブル51の少なくとも一方の端部に取り付けられたコネクタ52と、を備える。
【0109】
図6は、本実施形態のPOF10(又はPOF20)を備えたアクティブ光ケーブルの一例を示す模式図である。図6に示されたアクティブ光ケーブル60は、本実施形態のPOF10(又はPOF20)が収容されたケーブル61と、ケーブル61の第1端部61aに取り付けられた、電気信号を光信号に変換する第1変換部(図示せず)を備えた第1コネクタ62と、ケーブル61の第2端部61bに取り付けられた、光信号を電気信号に変換する第2変換部(図示せず)を備えた第2コネクタ63と、を備える。
【実施例0110】
(実施例1)
[第1含フッ素樹脂の作製]
第1含フッ素樹脂として、パーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン(PFMMD)の重合体を準備した。パーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソランは、まず2-カルボメチル-2-トリフルオロメチル-4-メチル-1,3-ジオキソランを合成し、これをフッ素化し、得られたカルボン酸塩を脱炭酸分離することによって合成された。パーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソランの重合には、重合開始剤として、パーフルオロ過酸化ベンゾイルが用いられた。
【0111】
以下に、2-カルボメチル-2-トリフルオロメチル-4-メチル-1,3-ジオキソランの合成、2-カルボメチル-2-トリフルオロメチル-4-メチル-1,3-ジオキソランのフッ素化、パーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソランの合成、及びパーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソランの重合について、詳細を説明する。
【0112】
<2-カルボメチル-2-トリフルオロメチル-4-メチル-1,3-ジオキソランの合成>
水冷冷却器を備えた3L三口フラスコ、温度計、マグネチックスターラー、及び等圧滴下漏斗を準備し、2-クロロ-1-プロパノールと1-クロロ-2-プロパノールとの混合物を139.4g(計1.4モル)をフラスコに投入した。フラスコは0℃に冷やし、その中にトリフルオロピルビン酸メチルをゆっくりと加え、さらに2時間攪拌した。そこに100mLのジメチルスルホキシド(DMSO)と194gの炭酸カリウムとを1時間かけて加えた後、さらに続けて8時間攪拌し、反応混合物を得た。この生成した反応混合物を1Lの水と混合し、その水相をわけ、これを更にジクロロメチレンで抽出後、このジクロロメチレン溶液を有機反応混合物相と混合し、その溶液を硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を除去した後、245.5gの粗製物が得られた。この粗製物を減圧下(12Torr)で分留し、2-カルボメチル-2-トリフルオロメチル-4-メチル-1,3-ジオキソランの精製物を230.9g得た。精製物の沸点は、77~78℃で、収率は77%であった。なお、得られた精製物が2-カルボメチル-2-トリフルオロメチル-4-メチル-1,3-ジオキソランであることは、HNMR及び19FNMRによって確認された。
【0113】
HNMR(ppm):4.2-4.6,3.8-3.6(CHCH2,muliplet,3H),3.85-3.88(COOCH3,multiplet,3H),1.36-1.43(CCH3,multiplet,3H)
19FNMR(ppm):-81.3(CF3,s,3F)
【0114】
<2-カルボメチル-2-トリフルオロメチル-4-メチル-1,3-ジオキソランのフッ素化>
10Lの攪拌反応槽に4Lの1,1,2-トリクロロトリフルオロエタンを注入した。攪拌反応槽で、窒素を1340cc/minの流速で流し、フッ素を580cc/minの流速で流し、窒素/フッ素の雰囲気下とした。5分後、先に準備した2-カルボメチル-2-トリフルオロメチル-4-メチル-1,3-ジオキソランの290gを750mLの1,1,2-トリクロロトリフルオロエタン溶液に溶かし、この溶液を反応槽に0.5ml/分の速度で加えた。反応槽は0℃に冷却した。全てのジオキソランを24時間で加えた後、フッ素ガス流を止めた。窒素ガスをパージした後、水酸化カリウム水溶液を弱アルカリ性になるまで加えた。
【0115】
減圧下で揮発物質を除去した後、反応槽の周囲を冷却し、その後48時間70℃の減圧下で乾燥して、固体の反応生成物を得た。固形の反応生成物は、500mLの水に溶解させ、過剰の塩酸を添加して、有機相と水相とに分離させた。有機相を分離して減圧下で蒸留し、パーフルオロ-2,4-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-カルボン酸を得た。主蒸留物の沸点は103℃-106℃/100mmHgであった。フッ素化の収率は、85%であった。
【0116】
<パーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソランの合成>
上記蒸留物を水酸化カリウム水溶液で中和し、パーフルオロ-2,4-ジメチル-2-カルボン酸カリウム-1,3-ジオキソランを得た。このカリウム塩を1日間70℃で真空乾燥した。250℃~280℃で、かつ窒素又はアルゴン雰囲気下で、塩を分解した。-78℃に冷やした冷却トラップで凝縮させ、収率82%でパーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソランを得た。生成物の沸点は45℃/760mmHgであった。19FNMRとGC-MSを用いて生成物を同定した。
【0117】
19FNMR:-84ppm(3F,CF3),-129ppm(2F,=CF2
GC-MS:m/e244(Molecular ion)225,197,169,150,131,100,75,50.
【0118】
<パーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソランの重合>
上記方法で得られたパーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン100gと、パーフルオロ過酸化ベンゾイル1gとをガラスチューブに封入した。このガラスチューブは、凍結脱気法によって系中の酸素が除去された後にアルゴンが再充填されて、50℃で数時間加熱された。内容物は固体となったが、さらに70℃で一晩加熱すると、100gの透明な棒状物が得られた。
【0119】
得られた透明棒状物をFluorinert FC-75(住友スリーエム社製)に溶かし、得られた溶液をガラス板に注ぎ、重合体の薄膜を得た。得られた重合体のガラス転移温度は117℃で、完全な非晶質であった。透明棒状物をヘキサフルオロベンゼンに溶かし、これにクロロホルムを加え沈殿させることで、生成物を精製させた。精製された重合体のガラス転移温度は、約131℃であった。この重合体を、第1含フッ素樹脂とした。
【0120】
[屈折率調整剤]
屈折率調整剤として、クロロトリフルオロエチレンオリゴマー(分子量585)を用いた。具体的には、ダイキン工業社製「ダイフロイル#10」を蒸留し、分子量585の成分のみを分取した。分取した分子量585の成分を孔径40nmのフィルター「DFA1ANDESW44」(PALL社製)でろ過し、屈折率調整剤を得た。
【0121】
[第1コア材料]
上記の方法で作製した第1含フッ素樹脂を、溶媒であるバートレルXF-UP(三井・ケマーズ フロロプロダクツ社製)に溶解した。溶解液を孔径100nmのフィルター「LPJ-CTA-001-N3」(ロキテクノ社製)で2回ろ過し、そのろ過液を260℃に加熱されたハステロイ製の容器に滴下して溶媒を蒸発させて、乾固させた。乾固させて得られたろ過処理後の含フッ素樹脂と、上記の屈折率調整剤とを、260℃にて溶融混合して樹脂組成物を作製した。得られた樹脂組成物における屈折率調整剤の濃度は、12質量%であった。この樹脂組成物を第1コア材料として用いた。
【0122】
[第2コア材料]
上記の方法で作製した第1含フッ素樹脂を、第1コア材料の作製における含フッ素樹脂のろ過と同様の方法でろ過し、ろ過処理後の含フッ素樹脂を得た。このろ過処理後の含フッ素樹脂を、第2コア材料として用いた。
【0123】
[トレンチ材料]
トレンチ材料としての、第2含フッ素樹脂を準備した。第2含フッ素樹脂としての「Teflon AF1600」(三井・ケマーズ フロロプロダクツ社製)と、粘度調整剤としての「Fomblin YR」(Solvay社製)とを、溶媒であるバートレルXF-UP(三井・ケマーズ フロロプロダクツ社製)に溶解した。なお、「Teflon AF1600」と「Fomblin YR」との混合比率は、質量比で、「Teflon AF1600」:「Fomblin YR」=7:3とした。得られた溶解液を孔径300nmのフィルター「LPA-SLF-003-N2」(ロキテクノ社製)でろ過し、そのろ過液を260℃に加熱されたハステロイ製の容器に滴下して溶媒を蒸発させて、乾固させた。乾固させて得られた樹脂組成物を、トレンチ材料として用いた。
【0124】
[被覆層材料]
被覆層材料として、Xylex(SABIC社製、ガラス転移温度:113℃)を用いた。
【0125】
[POFの作製]
上記の方法で準備した第1コア材料、第2コア材料、トレンチ材料、及び被覆層材料を用い、溶融紡糸法によって、図3に示されたPOF20と同様の構成を有するPOFを作製した。本実施例では、POFの製造に、図4に示された製造装置が用いられた。
【0126】
本実施例では、拡散管120の内径(直径)は、6.3mmであった。拡散管120の長さは、拡散時間が120minとなるように設定された。
【0127】
本実施例において、第1コア材料の溶融温度は250℃、第2コア材料の溶融温度は255℃、トレンチ材料の溶融温度は260℃、被覆層材料の溶融温度は240℃であった。また、拡散管120の温度は275℃に設定された。第1コア材料と第2コア材料とでコアが形成された。コア、トレンチ、及び被覆層からなる積層体7の引き落としの温度は、240℃であった。
【0128】
各材料の吐出の体積割合は、第1コア材料1に対して、第2コア材料1.04、トレンチ材料0.705、被覆層材料40.438の比率にて、溶融押出を行った。
【0129】
図4に示された第1室110内において、第1コア材料で形成されるコア内層部を第2コア材料で被覆する際に用いられる合流金型の温度は260℃に設定された。図4に示された第2室130内において、コアをトレンチ材料で被覆する際に用いられる合流金型の温度は205℃に設定された。図4に示された第3室140内において、コア及びトレンチで形成された積層体の表面を被覆層材料で被覆する際に用いられる合流金型の温度は250℃に設定された。
【0130】
実施例1で作製されたPOFについて、後述の方法で測定されたコア径(コアの外径)は50μmであり、コアの第2領域の厚みは2.85μmであり、トレンチの外径は58μm(すなわち、トレンチの厚みは4μm)であり、被覆層の外径は230μmであった。
【0131】
(実施例2)
POFの作製において、各材料の吐出の体積割合を、第1コア材料1に対して、第2コア材料1.441、トレンチ材料1.559、被覆層材料47.660の比率に変更したことを除き、実施例1と同様の方法で実施例2のPOFを作製した。
【0132】
実施例2で作製されたPOFについて、後述の方法で測定されたコア径(コアの外径)は50μmであり、コアの第2領域の厚みは4.01μmであり、トレンチの外径は64μm(すなわち、トレンチの厚みは7μm)であり、被覆層の外径は230μmであった。
【0133】
(実施例3)
POFの作製において、各材料の吐出の体積割合を、第1コア材料1に対して、第2コア材料1.602、トレンチ材料1.661、被覆層材料50.785の比率に変更したことを除き、実施例1と同様の方法で実施例3のPOFを作製した。
【0134】
実施例3で作製されたPOFについて、後述の方法で測定されたコア径(コアの外径)は50μmであり、コアの第2領域の厚みは4.53μmであり、トレンチの外径は64μm(すなわち、トレンチの厚みは7μm)であり、被覆層の外径は230μmであった。
【0135】
(実施例4)
POFの作製において、各材料の吐出の体積割合を、第1コア材料1に対して、第2コア材料1.74、トレンチ材料1.47、被覆層材料53.787の比率に変更したことを除き、実施例1と同様の方法で実施例4のPOFを作製した。
【0136】
実施例4で作製されたPOFについて、後述の方法で測定されたコア径(コアの外径)は50μmであり、コアの第2領域の厚みは4.96μmであり、トレンチの外径は62μm(すなわち、トレンチの厚みは6μm)であり、被覆層の外径は230μmであった。
【0137】
(実施例5)
POFの作製において、各材料の吐出の体積割合を、第1コア材料1に対して、第2コア材料1.100、トレンチ材料0.726、被覆層材料41.618の比率に変更したことを除き、実施例1と同様の方法で実施例5のPOFを作製した。
【0138】
実施例5で作製されたPOFについて、後述の方法で測定されたコア径(コアの外径)は50μmであり、コアの第2領域の厚みは2.89μmであり、トレンチの外径は58μm(すなわち、トレンチの厚みは4μm)であり、被覆層の外径は230μmであった。
【0139】
(比較例1)
比較例1のPOFとして、FONTEX(AGC社製)を準備した。比較例1のPOFについて、後述の方法で測定されたコア径(コアの外径)は55μmであり、コアの第2領域の厚みは0μmであり、トレンチの外径は65μm(すなわち、トレンチの厚みは5μm)であり、被覆層の外径は490μmであった。
【0140】
(比較例2)
POFの作製において、各材料の吐出の体積割合を、第1コア材料1に対して、第2コア材料1.815、トレンチ材料1.513、被覆層材料55.241の比率に変更したことを除き、実施例1と同様の方法で比較例2のPOFを作製した。
【0141】
比較例2で作製されたPOFについて、後述の方法で測定されたコア径(コアの外径)は50μmであり、コアの第2領域の厚みは5.00μmであり、トレンチの外径は62μm(すなわち、トレンチの厚みは6μm)であり、被覆層の外径は230μmであった。
【0142】
(比較例3)
POFの作製において、各材料の吐出の体積割合を、第1コア材料1に対して、第2コア材料1.873、トレンチ材料1.544、被覆層材料56.370の比率に変更したことを除き、実施例1と同様の方法で比較例3のPOFを作製した。
【0143】
比較例3で作製されたPOFについて、後述の方法で測定されたコア径(コアの外径)は50μmであり、コアの第2領域の厚みは5.12μmであり、トレンチの外径は62μm(すなわち、トレンチの厚みは6μm)であり、被覆層の外径は230μmであった。
【0144】
(比較例4)
POFの作製において、各材料の吐出の体積割合を、第1コア材料1に対して、第2コア材料1.973、トレンチ材料1.898、被覆層材料58.031の比率に変更したことを除き、実施例1と同様の方法で比較例4のPOFを作製した。
【0145】
比較例4で作製されたPOFについて、後述の方法で測定されたコア径(コアの外径)は50μmであり、コアの第2領域の厚みは5.22μmであり、トレンチの外径は64μm(すなわち、トレンチの厚みは7μm)であり、被覆層の外径は230μmであった。
【0146】
(比較例5)
比較例5のPOFとして、Giga-POF-50SR(Chromis社製)を準備した。比較例5のPOFについて、後述の方法で測定されたコア径(コアの外径)は50μmであり、コアの第2領域の厚みは0μmであり、被覆層の外径は490μmであった。なお、比較例5のPOFには、トレンチは設けられていなかった。
【0147】
(POFの評価)
[コア径、コアの第2領域の厚み、並びにトレンチの外径の測定]
コア径、コアの第2領域の厚み、及びトレンチの外径は、IEC60793-1-20及びIEC60793-2-40 subcategory A4h に準拠した手法のうち、波長850nmの光を用いたNFP法によって求められた。具体的には、POF出射光強度の面分布を利用して、コア11の外縁11bおよびトレンチの外縁が特定され、コア径およびトレンチの外径を求めた。なお、コア11の外縁11bは、コア11とトレンチ12との界面(コア/トレンチ界面)に相当する。さらに、POFの出射光強度の面分布を利用して、面分布を微分して変極点を求めることにより、屈折率分布を有する第1領域111と、一定の屈折率を有する第2領域112とを区別して、第1領域111の外径を特定した。第2領域112の外縁は、コア11の外縁11b(すなわち、コア/トレンチ界面)であるので、NFP法で特定されたコア/トレンチ界面を第2領域112の外縁と特定した。特定されたそれぞれの領域の外径から、第2領域112の厚みを求めた。
【0148】
[被覆層の外径の測定]
POFを2cmに切断し、デジタルマイクロスコープ:キーエンス社製VHX-950Fの試料台に対してPOFの軸が垂直になるようにPOFを設置した。マイクロスコープ付属の光源をPOFの一方の末端に照射し、他方の末端から出射される透過光を観察し、POFの被覆層を計測した。
【0149】
[屈折率の測定]
コアの第1領域の屈折率n1、コアの第2領域の第2屈折率n2、及びトレンチの屈折率n3を、メトリコン社製のプリズムカプラー(モデル 2010/M)を用いて、室温(約23℃)の環境下で測定した。具体的には、コアおよびトレンチの材料をそれぞれ約210℃で熱プレス成形して、厚み約100μmのシートを得た。ついで、得られたシートをメトリコン社製のプリズムカプラー(モデル 2010/M)に導入して、屈折率を求めた。さらに、ファーフィールドパターン法によって、開口角を測定し、コアとトレンチの屈折率差を求めた。最後に、論文(立花光廣、「光ファイバの屈折率分布測定法」、応用物理 第48巻 第8号)の2.4を参照しながら、コアの第1領域の屈折率n1、コアの第2領域の屈折率n2、及びトレンチ12の屈折率n3を算出した。この方法により、実施例1~5のPOFが、n1≧n2>n3の屈折率の関係を満たすことが確認された。なお、比較例2~4のPOFについても、同様の方法で、n1≧n2>n3の屈折率の関係を満たすことが確認された。
【0150】
[帯域の評価]
IEC60793-1-41に準拠した手法のうちパルス法にて、実施例1~5及び比較例1~5のPOFの5mの帯域を測定した。ただし、5mの非常に短距離のPOFの帯域を測定するために、光パルス発生機としては、超高速のパルスを発振することができる装置を使用し、かつ受光機としては、短時間での画像認識が可能な装置を用いた。具体的には、以下の方法で帯域が測定された。
【0151】
光パルス発生機としては、SpectraPhisics株式会社製のInSightX3+が用いられた。この光パルス発生機にて、波長850nmのレーザーを発振させた。発振したレーザーは、レンズを通してOM1ファイバー(THORLABS社製、「M31L01-OM1, 0.275 NA, Graded-Index Patch Cable」)に結合し、株式会社Newport製のFM-1にてモードスクランブルをかけた。出射側を、2mのモードフィルター付きOM1ファイバー(株式会社FLUKE Networks社製 テスト基準コード MRC-625-EFC-SCFC)と接続し、当該OM1ファイバーの出射側に測定対象のPOFを接続した。
【0152】
測定対象のPOFへの入射光のコア径は57.3μmであり、開口数(N.A.)は0.26であり、それぞれ、測定対象のPOFのコア径及び開口数(N.A.)よりも大きいことを確認した。すなわち、オーバーフィル光を入射して、POFの帯域が測定された。
【0153】
受光機としては、浜松ホトニクス株式会社製のユニバーサルストリークカメラC10910シリーズを用いた。この受光機を用いて、パルス波形を取得した。
【0154】
距離5mの測定は、次の方法で行った。まず、7m長さのPOFを準備し、一方の端部から光パルスを入射し、7m先の出射光の光パルスを測定した。その後、POFを切断し2mの長さにして、同様に、光パルスを入射して出射パルス測定した。2つの出射パルスをIEC60793-1-41に規定のフーリエ変換を行って伝達関数を求め、光パワーで-1.5dBの周波数を求めた。結果は、表1に示されている。なお、表1には、距離5mで測定した際に取得した帯域の測定結果(単位:GHz)と、測定結果を単位「MHz・km」に換算したものとの両方が示されている。また、表1に示す「5mの帯域値」とは、帯域の評価により求められた帯域の値のことである。
【0155】
[曲げ損失の評価]
5m長さのPOFを準備した。図7は、実施例及び比較例において、POFの曲げ損失を測定する測定システムを示す模式図である。測定システム70において、POF71の入射側71aに、光源72として株式会社澤木工房製のFOLS-01(波長850nmLED)を接続した。POF70の受光側71bには、光パワーメーター73として、株式会社エーディーシー社製の光パワーメーター8230Eを接続させた。入射側の1mの箇所をφ12.5mmの円柱に10回巻き付けてクラッドモードを除去し、POFの中央部(2.5m部)を、図7に示すような、曲げ半径RのU字の溝が付いたプレート74にセットしてPOFを曲げた。このようにして、直線状態から曲げ状態での挿入損失の変化量を確認し、光損失を求めた。本実施例及び比較例では、曲げ半径R=1.5mmでU字に曲げたときの光損失(第1光損失)と、曲げ半径R=2.0mmでU字に曲げた時の光損失(第2光損失)とを求めた。結果は、表1に示されている。
【0156】
[開口数(N.A.)の評価]
IEC60793-1-43及びIEC60793-2-40 sub-category A4h に準拠した手法のうち、波長850nmの光を用いたFFP法(Far Field Pattern)によって開口数(N.A.)を測定した。6m長さのPOFを準備し、一方の端部から850nmのLEDの光を入射した。6m先の出射光の角度位置に対する光強度分布を測定し、開口数(N.A.)を算出した。
【0157】
【表1】
【0158】
表1に示すように、トレンチを有し、かつコアが2μm以上5μm未満の厚みの第2領域を有している実施例1~5のPOFは、曲げ損失を小さく抑えつつ、5mの短距離において40MHz・km以上の高い帯域を実現できた。これに対し、トレンチは設けられているものの、第2領域が設けられていない比較例1は、トレンチで反射された光によって帯域が低下するため、帯域値が低かった。一方、トレンチは設けられているものの、第2領域の厚みが5μm以上である比較例2~4は、は、第2領域が厚いため、第2領域に入射した光の反射によって帯域が低下するため、比較例1よりは帯域値が高いものの、実施例よりも帯域値が低かった。比較例5のPOFは、トレンチが設けられていなかったため、帯域値が高かったが、曲げ損失が大きく、開口数(N.A.)も小さかった。
【0159】
[付記]
以上をまとめると、本開示の発明の一形態は、下記である。
【0160】
(1)
プラスチック光ファイバーであって、
前記プラスチック光ファイバーは、
コアと、
前記コアの外周に配置されたトレンチと、
を備え、
前記コアは、
中心から外縁に向かう方向に減少する屈折率n1を有する第1領域と、
前記第1領域の外周に位置し、前記コアの前記外縁を含み、かつ一定の屈折率n2を有する第2領域と、
を有し、
前記第2領域の前記屈折率n2は、前記第1領域の前記屈折率n1以下であり、
前記第2領域の厚みは、2μm以上5μm未満であり、
前記トレンチの屈折率n3は、前記第2領域の前記屈折率n2よりも低い、
プラスチック光ファイバー。
【0161】
(2)
5mでオーバーフィル光を入射した時の-1.5dB帯域値が40MHz・km以上である、
上記(1)に記載のプラスチック光ファイバー。
【0162】
(3)
前記プラスチック光ファイバーを曲げ半径1.5mmでU字に曲げたときの第1光損失が、3.0dB以下である、
上記(1)又は(2)に記載のプラスチック光ファイバー。
【0163】
(4)
前記第1光損失が、1.0dB以下である、
上記(3)に記載のプラスチック光ファイバー。
【0164】
(5)
前記プラスチック光ファイバーを曲げ半径2.0mmでU字に曲げたときの第2光損失が、0.5dB以下である、
上記(1)から(4)のいずれか1つに記載のプラスチック光ファイバー。
【0165】
(6)
前記第2領域の前記厚みは、2.9μm以上4.8μm以下である、
上記(1)から(5)のいずれか1つに記載のプラスチック光ファイバー。
【0166】
(7)
前記第2領域の前記厚みは、2.9μm以上4.5μm以下である、
上記(6)に記載のプラスチック光ファイバー。
【0167】
(8)
前記第2領域の前記厚みは、3.5μm以上4.4μm以下である、
上記(7)に記載のプラスチック光ファイバー。
【0168】
(9)
前記プラスチック光ファイバーの開口数(N.A.)が、0.190以上0.235以下である、
上記(1)から(8)のいずれか1つに記載のプラスチック光ファイバー。
【0169】
(10)
上記(1)から(9)のいずれか1つに記載のプラスチック光ファイバーを備えた、
光コード。
【0170】
(11)
上記(10)に記載の光コードと、
光電混載モジュールと、
を備えた、アクティブ光ケーブル。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本開示のPOFは、曲げ損失を小さく抑えつつ、短距離における高い帯域を実現できる。したがって、本開示のPOFは、家庭内等の短距離の信号伝送の用途に適している。
【符号の説明】
【0172】
1a 第1コア材料
1b 第2コア材料
1c トレンチ材料
1d 被覆層材料
2 コア内層部
3 コア外周部
4 積層体(コア)
5 トレンチ
6 被覆層
7 積層体
10、20 POF
11 コア
11a 中心
11b 外縁
111 第1領域
112 第2領域
12 トレンチ
21 被覆層
50 光コード
51 ケーブル
52 コネクタ
60 アクティブ光ケーブル
61 ケーブル
61a 第1端部
61b 第2端部
62 第1コネクタ
63 第2コネクタ
70 測定システム
71 POF
71a 入射側
72 光源
73 光パワーメーター
74 プレート
101a 第1押出装置
101b 第2押出装置
101c 第3押出装置
101d 第4押出装置
102a 第1収容部
102b 第2収容部
102c 第3収容部
102d 第4収容部
103a 第1押出部
103b 第2押出部
103c 第3押出部
104 スクリュー
105 ホッパー
110 第1室
120 拡散管
130 第2室
140 第3室
150 ノズル
160 冷却管
161 内部空間
170 ニップロール
171,172 ロール
173,174,175 ガイドロール
176 巻き取りロール
180 変位計
1000 製造装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7