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特開2024-140992モータ駆動制御装置、アクチュエータ、およびモータ駆動制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140992
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】モータ駆動制御装置、アクチュエータ、およびモータ駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 8/12 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
H02P8/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052405
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】中澤 一瑛
(72)【発明者】
【氏名】宇野 寿一
【テーマコード(参考)】
5H580
【Fターム(参考)】
5H580AA08
5H580BB02
5H580CA02
5H580FA02
5H580FA22
5H580HH22
(57)【要約】
【課題】モータの負荷に応じた安定したモータ駆動を実現する。
【解決手段】モータ駆動制御装置10は、モータ20のコイル電流が電流基準値Sisに一致するように、駆動制御信号SdとしてのPWM信号を生成する制御回路12と、駆動制御信号Sdに基づいてモータ20のコイル21を励磁する駆動回路14とを備える。制御回路12は、コイル電流が電流基準値Sisに到達していない場合に、PWM信号の最大デューティ比Maxdutyを100%未満の所定の範囲Rd内において上昇させ、コイル電流が電流基準値Sisに到達している場合に、最大デューティ比Maxdutyを所定の範囲Rd内において低下させ、制御回路12は、PWM信号のデューティ比が最大デューティ比Maxdutyを超えないように、PWM信号を生成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータのコイルに流れる電流であるコイル電流が電流基準値に一致するように、前記モータの駆動を制御するための駆動制御信号としてのPWM信号を生成する制御回路と、
前記駆動制御信号に基づいて、前記モータのコイルを励磁する駆動回路と、を備え、
前記制御回路は、前記コイル電流が前記電流基準値に到達していない場合に、前記PWM信号の一周期であるPWM周期に対する前記PWM信号が第1論理レベルとなる期間の割合を示すデューティ比の最大値を定める最大デューティ比を所定の範囲内において上昇させ、前記コイル電流が前記電流基準値に到達している場合に、前記最大デューティ比を前記所定の範囲内において低下させ、
前記制御回路は、前記PWM信号のデューティ比が前記最大デューティ比を超えないように、前記PWM信号を生成する
モータ駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動制御装置において、
前記制御回路は、
前記コイル電流の測定値を取得する電流値取得部と、
前記PWM信号を生成し、前記駆動制御信号として出力する駆動制御信号生成部と、
前記電流基準値を設定する電流基準値設定部と、
前記PWM周期毎に、前記電流値取得部によって取得した前記コイル電流の測定値と前記電流基準値とを比較し、比較結果を出力する比較部と、を有し、
前記駆動制御信号生成部は、
前記最大デューティ比を決定する最大デューティ比決定部と、
前記PWM信号のデューティ比が前記最大デューティ比を超えないように、前記比較結果に応じて前記PWM信号を前記第1論理レベルと前記第1論理レベルの反対の第2論理レベルとの間で切り替えることにより、前記PWM信号を生成するPWM信号生成部と、
前記PWM信号のデューティ比を測定するデューティ比測定部と、を含み、
前記最大デューティ比決定部は、前記デューティ比測定部によって測定された前記PWM信号のデューティ比が前記最大デューティ比と一致する場合に、前記所定の範囲内において前記最大デューティ比が大きくなるように前記最大デューティ比を更新し、前記デューティ比測定部によって測定された前記PWM信号のデューティ比が前記最大デューティ比と一致しない場合に、前記所定の範囲内において前記最大デューティ比が小さくなるように前記最大デューティ比を更新する
モータ駆動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ駆動制御装置において、
前記最大デューティ比決定部は、前記デューティ比測定部によって測定された前記PWM信号の前記デューティ比が前記最大デューティ比と一致する状態が、連続する複数の前記PWM周期にわたって継続した場合に、前記所定の範囲内において前記最大デューティ比が大きくなるように前記最大デューティ比を更新し、前記デューティ比測定部によって測定された前記PWM信号の前記デューティ比が前記最大デューティ比と一致しない状態が、連続する複数の前記PWM周期にわたって継続した場合に、前記所定の範囲内において前記最大デューティ比が小さくなるように前記最大デューティ比を更新する
モータ駆動制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のモータ駆動制御装置において、
前記最大デューティ比決定部は、前記デューティ比測定部によって測定された前記PWM信号の前記デューティ比が前記最大デューティ比と一致する状態が、連続する複数の前記PWM周期にわたって継続し、且つ前記最大デューティ比が前記所定の範囲内の上限値に到達している場合に、前記最大デューティ比を前記所定の範囲を超えた値に設定する
モータ駆動制御装置。
【請求項5】
前記モータと、
請求項1乃至4の何れか一項に記載されたモータ駆動制御装置と、
前記モータの回転力を駆動対象に伝達する動力伝達機構と、を備えるアクチュエータ。
【請求項6】
モータ駆動制御装置によってモータの駆動を制御するためのモータ駆動制御方法であって、
前記モータ駆動制御装置が、前記モータのコイルに流れる電流であるコイル電流が電流基準値に一致するように、前記モータの駆動を制御するための駆動制御信号としてのPWM信号を生成する第1ステップと、
前記モータ駆動制御装置が、前記駆動制御信号に基づいて前記モータのコイルを励磁する第2ステップと、を含み、
前記第1ステップは、
前記コイル電流が前記電流基準値に到達していない場合に、前記モータ駆動制御装置が、前記PWM信号の一周期であるPWM周期に対する前記PWM信号が第1論理レベルとなる期間の割合を示すデューティ比の最大値を定める最大デューティ比を所定の範囲内において上昇させる第3ステップと、
前記コイル電流が前記電流基準値に到達している場合に、前記モータ駆動制御装置が、前記最大デューティ比を前記所定の範囲内において低下させる第4ステップと、
前記モータ駆動制御装置が、前記PWM信号のデューティ比が前記最大デューティ比を超えないように、前記PWM信号を生成する第5ステップと、を含む
モータ駆動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動制御装置、アクチュエータ、およびモータ駆動制御方法に関し、例えば、ステッピングモータを駆動するためのモータ駆動制御装置、当該モータ駆動制御装置を搭載したアクチュエータ、およびステッピングモータを駆動するためのモータ駆動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステッピングモータやブラシレスDCモータ等のモータの駆動制御方法として、モータのコイルに流れる電流が正弦波状になるようにコイルを駆動する方法が知られている。
【0003】
例えば、ステッピングモータの駆動方式の一つであるマイクロステップ方式では、モータ駆動制御装置が、ステッピングモータを構成する各相のコイルの電流が正弦波状になるように、ステッピングモータの電気角θ(ロータの位置)に応じて電流の基準値(指令値)を階段状に変化させるとともに、コイルの電流を監視し、コイルの電流の検出値が基準値を超えないように、各相のコイルの励磁状態を切り替える(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-254542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者は、本願に先立って、マイクロステップ方式でステッピングモータを駆動するための新たなモータ駆動制御装置を検討した。検討の結果、本願発明者は、以下に示す課題を見出した。
【0006】
本願発明者による先行検討例のモータ駆動制御装置は、ステッピングモータの各相のコイルを駆動するインバータ回路の駆動制御信号であるPWM信号を生成する。モータ駆動制御装置は、PWM信号を生成するとき、各相のコイルに流れるコイル電流が正弦波状に変化するように、PWM信号の一周期であるPWM周期毎にコイル電流の電流基準値を設定する。例えば、A相のコイル電流およびB相のコイル電流が正弦波状となり、且つA相のコイル電流の位相とB相のコイル電流の位相とが互いに90度相違するように、相毎に電流基準値が階段状に設定される。
【0007】
モータ駆動制御装置は、PWM信号を生成するとき、ステッピングモータの各相のコイル電流を検出し、PWM周期毎に、各相のコイル電流と電流基準値とを比較する。モータ駆動制御装置は、コイル電流が電流基準値より低い場合に、コイルを励磁してコイル電流を流し、コイル電流が電流基準値より高い場合に、コイル電流を回生させて減衰させるように、PWM信号のデューティ比を決定する。
【0008】
ここで、PWM信号のデューティ比は、ステッピングモータの負荷の状態に応じて変化する。例えば、ステッピングモータの負荷が大きい場合、負荷を駆動するために大きなコイル電流が必要となるため、PWM信号のデューティ比は大きくなる。一方、ステッピングモータの負荷が小さい場合、小さなコイル電流でも負荷を駆動することができるので、PWM信号のデューティ比は小さくなる。
【0009】
このように、PWM信号のデューティ比はステッピングモータの負荷の状態によって変化する。ステッピングモータの駆動時にPWM信号のデューティ比が大きく変化すると、コイル電流が大きく変動し、コイルの電流の大きな変動(リプル)により、ステッピングモータから大きな異音が発生する場合がある。
【0010】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、モータの負荷に応じた安定したモータ駆動を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置は、モータのコイルに流れる電流であるコイル電流が電流基準値に一致するように、前記モータの駆動を制御するための駆動制御信号としてのPWM信号を生成する制御回路と、前記駆動制御信号に基づいて、前記モータのコイルを励磁する駆動回路と、を備え、前記制御回路は、前記コイル電流が前記電流基準値に到達していない場合に、前記PWM信号の一周期であるPWM周期に対する前記PWM信号が第1論理レベルとなる期間の割合を示すデューティ比の最大値を定める最大デューティ比を100%未満の所定の範囲内において上昇させ、前記コイル電流が前記電流基準値に到達している場合に、前記最大デューティ比を前記所定の範囲内において低下させ、前記制御回路は、前記PWM信号のデューティ比が前記最大デューティ比を超えないように、前記PWM信号を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るモータ駆動制御装置によれば、モータの負荷に応じた安定したモータ駆動を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態に係るモータ駆動制御装置を搭載したアクチュエータの構造の一例を示す分解斜視図である。
図2】モータおよびモータ駆動制御装置の構成を模式的に示す図である。
図3】実施の形態に係るモータ駆動制御装置の制御回路の構成を示すブロック図である。
図4A】チャージモードを説明するための図である。
図4B】減衰モードを説明するための図である。
図5】モータのコイルの電流と駆動制御信号の時間的な変化を示すタイミングチャートの一例である。
図6】最大デューティ比の決定方法の流れの一例を示すフローチャートである。
図7】最大デューティ比の増加処理(ステップS6)の流れを示すフローチャートである。
図8】最大デューティ比の低下処理(ステップS11)の流れを示すフローチャートである。
図9A】本願発明者による先行検討例のモータ駆動制御装置によって2相のステッピングモータを駆動したときのコイル電流とコイル間電圧のシミュレーション結果を示す図である。
図9B】実施の形態に係るモータ駆動制御装置によって2相のステッピングモータを駆動したときのコイル電流とコイル間電圧のシミュレーション結果を示す図である。
図10】ステッピングモータを駆動したときの雑音の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0015】
図1は、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置を搭載したアクチュエータの構造の一例を示す分解斜視図である。
【0016】
アクチュエータ1は、例えば、車載用途の空調ユニットとしてのHVAC(Heating Ventilation and Air-Conditioning)システムにおける空調装置を駆動するための装置である。アクチュエータ1としては、ダンパアクチュエータ、弁アクチュエータ、ファンアクチュエータ、ポンプアクチュエータ等のHVACシステムで使用可能な各種のアクチュエータを例示することができる。
【0017】
HVACシステムにおいて、アクチュエータ1は、例えば、他のアクチュエータとともに、上位装置としてのECU(不図示)とバスを介して互いに接続され、LIN(Local Interconnect Network)通信ネットワークを構成している。
【0018】
図1に示されるように、アクチュエータ1は、ケース51とカバー52とで覆われている。アクチュエータ1の内部には、モータ20と、モータ20の駆動を制御するモータ駆動制御装置10と、モータ20の回転力を駆動対象に伝達する動力伝達機構としての1次ギヤ26,2次ギヤ31、3次ギヤ32、および出力ギヤ33とが収納されている。
【0019】
モータ20は、アクチュエータ1の駆動力を発生させる。モータ20は、例えばステッピングモータである。本実施の形態では、モータ20が、A相のコイルおよびB相のコイルを有する2相ステッピングモータであるとして説明する。モータ20は、後述するように、モータ駆動制御装置10から各相のコイルに駆動電力が供給されて動作する。
【0020】
図2は、モータ20およびモータ駆動制御装置10の構成を模式的に示す図である。
【0021】
上述したように、モータ20は、2相ステッピングモータである。図2に示されるように、モータ20は、A相のコイル21aと、B相のコイル21bと、ロータ22と、2相のステータ(図示せず)とを有している。
【0022】
コイル21a,21bは、それぞれ、ステータ(不図示)を励磁するコイルである。コイル21aは、モータ端子29として、正極端子APと負極端子ANを有する。コイル21bは、モータ端子29として、正極端子BPと負極端子BNとを有する。コイル21aの正極端子APおよび負極端子ANと、コイル21bの正極端子BPおよび負極端子BNとは、駆動回路14を構成するインバータ回路143a,143bに接続されている。インバータ回路143a,143bの詳細については後述する。
【0023】
コイル21a,21bは、インバータ回路143a,143bによって駆動される。これにより、コイル21a,21bには、互いに位相が異なる電流Ia,Ibが流れる。例えば、コイル21a,21bには、互いに位相が90度ずれた電流Ia,Ibが流れる。
【0024】
なお、以下の説明において、コイル21aとコイル21bとを区別しない場合には、単に、「コイル21」と表記する。
【0025】
ロータ22は、円周方向に沿って、S極22SとN極22Nとが交互に反転するように、単極または多極着磁された永久磁石を備えている。なお、図2では、一例として、ロータ22が2極である場合が示されている。
【0026】
ステータ(不図示)は、ロータ22の周囲に、ロータ22の外周部に近接して配置されている。ロータ22は、コイル21a,21bのそれぞれに流れるコイル電流の位相が周期的に切り替えられることにより、回転する。ロータ22には、出力軸25が接続されており、ロータ22の回転力により、出力軸25が駆動される。
【0027】
図1に示すように、モータ20の出力軸25には、1次ギヤ26が取り付けられている。モータ20の1次ギヤ26は、2次ギヤ31と噛み合っている。2次ギヤ31は、3次ギヤ32と噛み合っている。3次ギヤ32は、出力ギヤ33と噛み合っている。ケース51の底面には、出力ギヤ33に設けられている外部出力ギヤ(不図示)が露出し、この外部出力ギヤが駆動対象に連結されている。
【0028】
モータ駆動制御装置10は、モータ20を駆動させるための装置である。モータ駆動制御装置10は、例えば,バスを介して上位装置(ECU)との間で通信を行う。モータ駆動制御装置10は、上位装置から受信した制御フレームである駆動指令Scに基づいて、モータ20の各相のコイル21a,21bの通電状態を制御することにより、モータ20の回転および停止を制御して、アクチュエータ1全体の動作を制御する。モータ駆動制御装置10がモータ20を駆動することにより、モータ20の出力軸25に接続された1次ギヤ26が回転する。1次ギヤ26の回転による駆動力が2次ギヤ31、3次ギヤ32、出力ギヤ33、外部出力ギヤと順に伝達され、外部出力ギヤが駆動対象である空調装置の可動部を駆動する。
【0029】
図1に示すように、モータ駆動制御装置10は、ハードウェア資源として、例えば、プリント基板42と、プリント基板42とモータ20のモータ端子29とを接続するフレキシブルプリント基板43とを有している。プリント基板42には、制御回路12、駆動回路14、および複数の外部接続端子41が設けられている。
【0030】
なお、ケース51及びカバー52の内部に収納される回路は、駆動回路14だけであってもよい。例えば、モータ駆動制御装置10は、ケース51およびカバー52の内部に設けられた駆動回路14と、ケース51およびカバー52の外部に設けられた制御回路12とによって構成されるようにしてもよい。
【0031】
制御回路12は、モータ20のコイル21に流れる電流であるコイル電流が、当該コイル電流の目標値である電流基準値に一致するように、モータ20の駆動を制御するための駆動制御信号としてのPWM信号を生成する。具体的には、制御回路12は、上位装置(ECU)からの駆動指令Scに基づいて、モータ20のA相のコイル21aを励磁するための駆動制御信号Sdaと、モータ20のB相のコイル21bを励磁するための駆動制御信号Sdbとを生成して駆動回路14に供給することにより、モータ20の回転を制御する。なお、以下の説明において、駆動制御信号Sdaと駆動制御信号Sdbを区別しない場合には、駆動制御信号Sdaおよび駆動制御信号Sdbを「駆動制御信号Sd」と表記する。
【0032】
駆動指令Scは、モータ20の目標とする状態を指示する信号である。駆動指令Scは、例えば、モータ20の回転速度を指定する情報、およびモータ20の目標となる回転角度(目標回転位置)を指定する情報等を含む。
なお、制御回路12の詳細については後述する。
【0033】
駆動回路14は、制御回路12から出力された駆動制御信号Sdに基づいて、モータ20のコイル21を通電する制御を行う。駆動回路14は、モータ20のコイル21を駆動するためのインバータ回路143とモータ20のコイル21に流れる電流を検出するための電流センサ144とを有する。
【0034】
インバータ回路143は、駆動制御信号Sdに基づいて、モータ20に駆動電力を供給する。図2に示すように、インバータ回路143は、例えば、駆動対象のコイル21a,21b毎に対応して設けられている。例えば、図2に示すように、A相のコイル21aを駆動するためのインバータ回路143aとB相のコイル21bを駆動するためのインバータ回路143bが設けられている。インバータ回路143a,143bは、例えば、Hブリッジ回路によって構成されている。
なお、以下の説明において、インバータ回路143aとインバータ回路143bとを区別しない場合には、インバータ回路143aおよびインバータ回路143bを「インバータ回路143」と表記する場合がある。
【0035】
図2に示すように、インバータ回路143aは、A相のコイル21aの正極端子APとコイル21aの負極端子ANとに接続されている。インバータ回路143bは、B相のコイル21bの正極端子BPとコイル21bの負極端子BNとに接続されている。
【0036】
インバータ回路143aは、制御回路12から出力された駆動制御信号Sdaに基づいて、端子APと端子ANとの間に電圧Vaを印加することにより、コイル21aに電流Iaを流す。インバータ回路143bは、制御回路12から出力された駆動制御信号Sdbに基づいて、端子BPと端子BNとの間に電圧Vbを印加することにより、コイル21bに電流Ibを流す。
【0037】
例えば、A相のコイル21aを正側に励磁する場合、すなわち、コイル21aの正極端子APから負極端子ANに電流Ia(+)を流す場合、負極端子ANに対する正極端子APの電圧Vaを“正”にする。一方、A相のコイル21aを負側に励磁する場合、すなわち、コイル21aの負極端子ANから正極端子APに電流Ia(-)を流す場合、負極端子ANに対する正極端子APの電圧Vaを“負”にする。B相のコイル21bを励磁する場合も同様である。以下の説明において、コイル21aに流れる電流を「コイル電流Ia」、コイル21bに流れる電流を「コイル電流Ib」と称する場合がある。
【0038】
なお、インバータ回路143の具体的な回路構成およびインバータ回路143による具体的なコイル21の励磁方法については後述する。
【0039】
図2に示すように、電流センサ144は、例えば、駆動対象のコイル21a,21b毎に対応して設けられている。例えば、図2に示すように、A相のコイル21aに流れるコイル電流Iaを検出するための電流センサ144aと、B相のコイル21bに流れるコイル電流Ibを検出するための電流センサ144bとが設けられている。
【0040】
電流センサ144a,144bは、例えば、検出対象のコイル21a,21bのコイル電流Ia,Ibを電圧に変換するシャント抵抗をそれぞれ含む。詳細は後述するが、シャント抵抗は、各相のコイル21a,21b毎に設けられ、インバータ回路143a,143bのグラウンド電位GND側または電源電圧VDDにインバータ回路143a,143bと直列に接続されている。電流センサ144aは、シャント抵抗の両端の電圧をA相のコイル電流Iaの測定値を表す電流検出信号Viaとして出力する。電流センサ144bは、シャント抵抗の両端の電圧をB相のコイル電流Ibの測定値を表す電流検出信号Vibとして出力する。
【0041】
図3は、実施の形態に係るモータ駆動制御装置10の制御回路12の構成を示すブロック図である。
【0042】
制御回路12は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の各種メモリ、タイマ、カウンタ、A/D変換回路、入出力I/F回路、およびクロック生成回路等のハードウェア要素を有し、各構成要素がバスや専用線を介して互いに接続されたプログラム処理装置(例えば、マイクロコントローラ:MCU(Micro Control Unit))である。制御回路12は、メモリとして、例えば、フラッシュメモリやEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の書き換え可能な不揮発性の記憶装置を有している。
【0043】
制御回路12は、主として、モータ20が駆動指令Scによって指定された状態となるように、モータ20の通電を制御する機能を有する。具体的には、制御回路12は、所定の励磁方式に基づく所定のタイミングでA相のコイル21aとB相のコイル21bを励磁するように、駆動制御信号Sda,Sdbを生成してインバータ回路143a,143bを駆動することにより、モータ20を駆動指令Scによって指定された目標回転位置まで移動(回転)させる。
【0044】
ここで、所定の励磁方式とは、例えば、公知の、1相励磁方式、2相励磁方式、1-2相励磁方式、およびマイクロステップ方式の何れかである。本実施の形態では、所定の励磁方式が2相マイクロステップ方式である場合を例にとり、説明する。
【0045】
具体的に、制御回路12は、2相マイクロステップ方式によって駆動制御信号Sdを生成する。例えば、制御回路12は、モータ20を構成する各相のコイル21a,21bのコイル電流Ia,Ibが正弦波状になるように、コイル電流の目標値である電流基準値(目標電流値)Sisa,Sisbを階段状に変化させるとともに、コイル電流Ia,Ibを監視し、コイル電流Ia,Ibの測定値Sia,Sibが電流基準値Sisa,Sisbを超えないように、各相のコイル21a,21bの励磁状態を切り替える。より具体的には、制御回路12は、モータ20のコイル電流Ia,Ibの測定値Sia,Sibと電流基準値Sisa,Sisbとの大小関係に応じてパルス幅が変化するPWM信号(駆動制御信号Sda,Sdb)を相毎に生成し、駆動回路14を介してモータ20の駆動を制御するPWM制御を行う。このとき、制御回路12は、PWM信号のデューティ比が最大デューティ比Maxdutyを超えないように、PWM信号を生成する。
【0046】
ここで、デューティ比とは、PWM信号の一周期であるPWM周期に対するPWM信号が第1論理レベル(例えば、ハイレベル)となる期間の割合である。最大デューティ比Maxdutyとは、PWM信号のデューティ比の最大値を定めるパラメータである。
【0047】
更に、制御回路12は、駆動制御信号Sda,SdbとしてのPWM信号を生成するとき、最大デューティ比Maxdutyを動的に切り替える機能を有している。具体的に、制御回路12は、コイル電流が電流基準値に到達していない場合に、最大デューティ比Maxdutyを100%未満の所定の範囲内において上昇させ、コイル電流が電流基準値に到達している場合に、最大デューティ比Maxdutyを上記所定の範囲内において低下させる機能を有している。
【0048】
制御回路12は、上述した機能を実現するための機能ブロックとして、電流値取得部121、電流基準値設定部122、電流情報記憶部123、比較部125、および駆動制御信号生成部130を有している。これらの機能ブロックは、例えば、上述したMCU内のプロセッサが、メモリに記憶されているプログラムに従って各種演算を実行するとともに、タイマおよびカウンタ、A/D変換回路および入出力I/F回路等の周辺回路を制御することによって、実現される。なお、これらの機能ブロックの一部または全部が専用のハードウェア回路によって実現されていてもよい。また、制御回路12は、上記機能に加えて、例えば、モータ20の逆起電圧に基づいてモータ20の脱調の発生の有無を判定する機能を有していてもよい。
【0049】
電流値取得部121は、モータ20の各相のコイル電流Ia,Ibの測定値Sia,Sibを取得する機能部である。電流値取得部121は、例えば、A/D変換回路を含んで構成されている。
【0050】
電流値取得部121は、電流センサ144a,144b(シャント抵抗)から出力される、各相のコイル電流Ia,Ibに応じた電圧である電流検出信号Via,Vibを受け付ける。電流値取得部121は、入力された電流検出信号Via,Vibの大きさ(電圧)に基づいて、各相のコイル電流Ia,Ibの測定値Sia,Sibを算出する。
【0051】
例えば、電流値取得部121は、電流検出信号Viaの電圧をデジタル値に変換し、A相のコイル電流Iaの測定値Siaとして出力する。また、電流値取得部121は、電流検出信号Vibの電圧をデジタル値に変換し、B相のコイル電流Ibの測定値Sibとして出力する。電流値取得部121は、例えば、後述するPWM周期毎に、A相のコイル電流Iaの測定値SiaとB相のコイル電流Ibの測定値Sibをそれぞれ出力する。以下、コイル電流Iaの測定値Siaとコイル電流Ibの測定値Sibとを区別しない場合には、コイル電流Iaの測定値Siaおよびコイル電流Ibの測定値Sibを「コイル電流の測定値Si」と表記する。
【0052】
駆動制御信号生成部130は、駆動制御信号Sda,SdbとしてのPWM信号を生成する機能部である。以下、PWM信号の1周期、すなわち、一つのPWM信号が生成される周期を「PWM周期」と称する。駆動制御信号生成部130の詳細については、後述する。
【0053】
電流基準値設定部122は、各相のコイル電流Ia,Ibの基準となる電流基準値Sisa,Sisbを設定する機能部である。電流基準値設定部122は、コイル21に流れる電流Ia,Ibが正弦波状に変化するように、PWM周期毎に、電流基準値Sisa,Sisbをそれぞれ設定する。例えば、電流基準値設定部122は、後述する駆動指令取得部131からの指示に応じて、A相のコイル電流IaおよびB相のコイル電流Ibが正弦波状となり、且つコイル電流Iaの位相とコイル電流Ibの位相とが互いに90度相違するように、電流基準値Sisa,Sisbを階段状にそれぞれ変化させる。以下、電流基準値Sisaと電流基準値Sisbとを区別しない場合には、電流基準値Sisaおよび電流基準値Sisbを「電流基準値Sis」と表記する。
【0054】
例えば、電流情報記憶部123には、電気角θと電流基準値Sisとの対応関係を示す電流基準値情報124が記憶されている。ここで、電流基準値情報124は、例えば、電気角θ=0~360°の範囲において電流基準値Sisが正弦波状になるように、電気角θ毎に電流基準値Sisが対応付けられた情報(例えば、関数またはテーブル)である。電流情報記憶部123の少なくとも一部は、例えば、制御回路12の電源供給が停止してもデータを保持する不揮発性の記憶装置の記憶領域を利用して実現されている。
【0055】
電流基準値設定部122は、PWM周期毎に、そのときの電気角θに応じた電流基準値Sisa,Sisbを電流情報記憶部123に記憶された電流基準値情報124から読み出して逐次出力する。
【0056】
比較部125は、PWM周期毎に、電流値取得部121によって取得したコイル電流の測定値Siと電流基準値Sisとを比較する。例えば、比較部125は、A相の1つのPWM周期が開始されたタイミングにおいて、コイル電流Iaの測定値Siaと電流基準値Sisaとの比較を開始し、比較結果Scmaを出力する。また、B相の1つのPWM周期が開始されたタイミングにおいて、コイル電流Ibの測定値Sibと電流基準値Sisbとの比較を開始し、比較結果Scmbを出力する。なお、比較結果Scmaと比較結果Scmbをそれぞれ区別しない場合には、比較結果Scmaおよび比較結果Scmbを「比較結果Scm」と表記する。
【0057】
例えば、比較部125は、1つのPWM周期が開始されたとき、コイル電流の測定値Siと電流基準値Sisとの比較処理を開始する。具体的には、コイル電流の測定値Siが電流基準値Sisより低い場合に(Si<Sis)、比較部125は、比較結果Scmとして第1論理レベル(例えば、ハイレベル)の信号を出力する。一方、コイル電流の測定値Siが電流基準値Sis以上となった場合に(Si≧Sis)、比較部125は、比較結果Scmbとして第1論理レベルの反対の第2論理レベル(例えば、ローレベル)の信号を出力し、そのPWM周期が終了するまで、コイル電流の測定値Siと電流基準値Sisの大小関係に関わらず比較結果Scmb(ローレベル)の出力を維持する。そして、一つのPWM周期が終了し、次のPWM周期が開始されたとき、比較部125は、再びコイル電流の測定値Siと電流基準値Sisの比較処理を開始する。
【0058】
このように、比較部125は、各相のコイル電流に係る比較処理を、各相のPWM周期毎に繰り返し行う。これにより、比較部125による比較結果Scmbを参照することにより、モータ20のコイル電流が電流基準値に到達しているか否かを判定することができる。
【0059】
駆動制御信号生成部130は、駆動指令Scおよび比較部125の比較結果Scmに基づいて、各相の駆動制御信号Sda,Sdbを生成する機能部である。例えば、駆動制御信号生成部130は、駆動指令取得部131およびPWM信号生成部132を含む。
【0060】
駆動指令取得部131は、例えば、上位装置(ECU)から入力された駆動指令Scを取得する。上述したように、駆動指令Scは、例えば、モータ20の目標となる回転位置(目標回転位置)を指定する情報を含む。駆動指令取得部131は、駆動指令Scを解析することにより、モータ20の目標回転位置の情報を取得して出力するとともに、モータ20を駆動するための処理の開始を他の機能部(例えば、電流基準値設定部122およびPWM信号生成部132等)に指示する。
【0061】
PWM信号生成部132は、PWM信号を生成する機能部である。PWM信号生成部132は、駆動指令取得部131からの指示に応じてPWM信号を生成し、駆動制御信号Sda,Sdbとして出力する。例えば、PWM信号生成部132は、駆動指令取得部131から出力された目標回転位置の情報を取得する。PWM信号生成部132は、モータ20(ロータ)が目標回転位置まで移動するように、相毎にPWM信号を生成し、駆動制御信号Sda,Sdbとして出力する。
【0062】
具体的には、PWM信号生成部132は、比較部125による比較結果Scmと後述する最大デューティ比決定部135によって決定された最大デューティ比Maxdutyとに基づいてPWM信号を生成し、駆動制御信号Sdとして出力する。
【0063】
より具体的には、PWM信号生成部132は、PWM信号のデューティ比が最大デューティ比Maxdutyを超えないように、比較部125の比較結果Scmに応じてPWM信号を第1論理レベル(例えば、ハイレベル)と第1論理レベルの反対の第2論理レベル(例えば、ローレベル)との間で切り替えることにより、PWM信号を生成する。
【0064】
例えば、PWM信号生成部132は、一つのPWM周期において、コイル電流の測定値Siが電流基準値Sisより小さい(比較結果Scmがハイレベル)期間に、PWM信号を第1論理レベル(例えば、ハイレベル)にする。PWM信号生成部132は、一つのPWM周期において、コイル電流の測定値Siが電流基準値Sis以上(比較結果Scmがローレベル)である期間に、PWM信号を第2論理レベル(例えば、ローレベル)にする。
【0065】
更に、PWM信号生成部132は、PWM信号が第1論理レベルである場合において、PWM信号が第1論理レベルである状態が継続している時間が最大デューティ比Maxdutyに相当する時間と一致したとき、PWM信号を第1論理レベルから第2論理レベルに切り替える。これにより、PWM信号のデューティ比の上限値は最大デューティ比Maxdutyによって制限される。
このようにして生成されたPWM信号は、駆動制御信号Sda,Sdbとしてインバータ回路143a,143bに供給される。
【0066】
上述したように、インバータ回路143は、駆動制御信号Sdの信号レベルによってモータ20のコイル21の励磁状態を切り替える。すなわち、インバータ回路143は、PWM信号としての駆動制御信号Sdが第1論理レベルであるとき、コイル21を励磁してコイル電流を増加させ、駆動制御信号Sdが第2論理レベルであるとき、コイル21の励磁を停止してコイル電流を減衰させる。以下、コイル電流を増加させる励磁モードを「チャージモード」、コイル電流を減衰させる励磁モードを「減衰モード」と称する。
【0067】
先ず、チャージモードについて説明する。
チャージモードは、モータ20のコイル電流を増加させる励磁モードである。
【0068】
図4Aは、チャージモードを説明するための図である。
本実施の形態において、A相のコイル21aを駆動するためのインバータ回路143aの構成とB相のコイル21bを駆動するためのインバータ回路143bの構成は同一であることから、A相のコイル21aを駆動するためのインバータ回路143aを例にとり、励磁モードについて説明する。
【0069】
図4Aに示すように、モータ20の各相のコイル21は、インバータ回路143(Hブリッジ回路)に接続されている。例えば、インバータ回路143aは、スイッチとしてのトランジスタQ1~Q4と、ダイオードD1~D4とを有している。
【0070】
トランジスタQ1とトランジスタQ2とは電源電圧VDDとグラウンド電位との間に、電流センサ144aとしてのシャント抵抗を介して直列に接続されている。同様に、トランジスタQ3とトランジスタQ4とは電源電圧VDDとグラウンド電位との間に、電流センサ144aとしてのシャント抵抗を介して直列に接続されている。トランジスタQ1とトランジスタQ2とが共通に接続されるノードには、コイル21aの負極端子AN(またはコイル21bのBN)が接続され、トランジスタQ3とトランジスタQ4とが共通に接続されるノードには、コイル21aの正極端子AP(またはコイル21bのBP)が接続されている。
【0071】
ダイオードD1のアノードは、トランジスタQ1とトランジスタQ2とが共通に接続されるノードに接続され、ダイオードD1のカソードは、電源電圧VDDに接続されている。ダイオードD2のアノードは、グラウンド電位GNDに接続され、ダイオードD2のカソードは、トランジスタQ1とトランジスタQ2とが共通に接続されるノードに接続されている。
【0072】
ダイオードD3のアノードは、トランジスタQ3とトランジスタQ4とが共通に接続されるノードに接続され、ダイオードD3のカソードは、電源電圧VDDに接続されている。ダイオードD4のアノードは、グラウンド電位GNDに接続され、ダイオードD4のカソードは、トランジスタQ3とトランジスタQ4とが共通に接続されるノードに接続されている。
【0073】
ダイオードD1~D4は、例えば、トランジスタQ1~Q4の寄生ダイオードであってもよいし、トランジスタQ1~Q4とは別個に設けた電子部品によって実現してもよい。
【0074】
チャージモードにおいて、コイル21は、電源電圧VDDとグラウンド電位GNDとの間に接続され、正または負の方向に励磁される。
【0075】
例えば、図4Aに示すように、トランジスタQ1,Q4をオフし、トランジスタQ2,Q3をオンすることにより、コイル21aの正極端子AP側からコイル21aの負極端子AN側に電流が流れ、コイル21aが正の方向に励磁される。一方、トランジスタQ2,Q3をオフし、トランジスタQ1,Q4をオンすることにより、コイル21aの負極端子AN側からコイル21aの正極端子AP側に電流が流れ、コイル21aが負の方向に励磁される。
【0076】
次に、減衰モードについて説明する。
減衰モードは、コイル21の電流を減衰させるモードである。
【0077】
図4Bは、減衰モードを説明するための図である。
例えば、チャージモードによって正の方向に励磁されていたコイル21の電流を減衰させる場合、減衰モードによって、インバータ回路143におけるトランジスタQ1,Q3をオフし、トランジスタQ2,Q4をオンする。これにより、図4Bに示すように、コイル21aの電流をグラウンド電位GND側に回生させて減衰させることができる。負の方向に励磁されていたコイル21aの電流を減衰させる場合も同様に、減衰モードによってトランジスタQ1,Q3をオフし、トランジスタQ2,Q4をオンすることにより、コイル21aの電流をグラウンド電位GND側に回生させて減衰させることができる。
【0078】
なお、減衰モードにおけるトランジスタQ1~Q4のオン/オフ状態の組み合わせは上述の例に限定されない。例えば、チャージモードによって正の方向に励磁されていたコイル21aの電流を減衰させる場合、減衰モードによって、インバータ回路143におけるトランジスタQ2,Q3をオフし、トランジスタQ1,Q4をオンしてもよい。これによれば、図4Bに示す場合に比べて、コイル21aの電流をより高速に減衰させることができる。
【0079】
図5は、モータのコイルの電流と駆動制御信号の時間的な変化を示すタイミングチャートの一例である。
【0080】
図5の紙面上側から下側に向かって、A相のコイル21aのコイル電流Ia、A相のコイル21aのコイル間電圧の各波形が示されている。
【0081】
上述したように、電流基準値設定部122は、駆動対象のコイル21a,21b毎(相毎)に、電流基準値Sisが正または負の方向に増加する電流増加期間と、電流基準値Sisがゼロに向かって変化する電流減衰期間とが交互に繰り返されるように、電流基準値Sisを設定する。そして、駆動制御信号生成部130は、コイル電流の測定値Siが電流基準値Sisを超えず、且つデューティ比が最大デューティ比Maxduty以下になるようにPWM信号を生成し、駆動制御信号Sdとしてインバータ回路143に与える。これにより、図5に示すように、各相のコイル21のコイル電流が正弦波状になるように制御される。
【0082】
なお、図5には、一例として、A相のコイル電流Iaの位相が示されている。本実施の形態では、B相のコイル21bのコイル電流Ibの位相がA相のコイル電流Iaの位相から90度ずれて検出されることになる。
【0083】
このように、制御回路12が駆動制御信号Sd(PWM信号)のデューティ比を調整することによって、モータ20のコイル21に正弦波状のコイル電流が流れる。そして、コイル電流は、駆動制御信号Sdのデューティ比の変動に応じて変動する。上述したように、コイル電流の変動幅は、駆動制御信号SdとしてのPWM信号のデューティ比の変動幅が大きいほど大きくなる傾向がある。
【0084】
そこで、駆動制御信号SdとしてのPWM信号のデューティ比の変動を抑えるために、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10は、上述したように、駆動制御信号Sdの最大デューティ比Maxdutyを100%未満の所定の範囲内において可変する機能を有している。具体的には、駆動制御信号生成部130は、前述の駆動指令取得部131およびPWM信号生成部132に加えて、デューティ比情報記憶部133、デューティ比測定部134、および最大デューティ比決定部135を有している。
【0085】
デューティ比測定部134は、駆動制御信号Sda,SdbとしてのPWM信号のデューティ比を測定する。デューティ比測定部134は、駆動制御信号Sda,Sdbのデューティ比を測定し、各駆動制御信号Sda,Sdbのデューティ比の測定値の情報200をデューティ比情報記憶部133に記憶する。
【0086】
例えば、デューティ比測定部134は、PWM周期毎に、駆動制御信号Sdが第1論理レベル(例えば、ハイレベル)となる第1期間を測定し、第1期間のPWM周期に対する割合を駆動制御信号Sdのデューティ比の測定値としてデューティ比情報記憶部133に記憶する。デューティ比測定部134がPWM周期毎に各駆動制御信号Sda,Sdbのデューティ比の測定値をデューティ比情報記憶部133に記憶することにより、デューティ比情報記憶部133内の各駆動制御信号Sda,Sdbのデューティ比の測定値の情報200が、PWM周期毎に更新される。
【0087】
デューティ比情報記憶部133は、駆動制御信号Sda,SdbとしてのPWM信号を生成するために必要な各種情報を記憶するための機能部である。デューティ比情報記憶部133の少なくとも一部は、例えば、制御回路12の電源供給が停止してもデータを保持する不揮発性の記憶装置の記憶領域を利用して実現されている。
【0088】
例えば、デューティ比情報記憶部133には、上述したデューティ比の測定値の情報200に加えて、最大デューティ比Maxdutyの情報201、最大デューティ比範囲Rdの情報202、および固定最大デューティ比Dmfの情報203が記憶されている。
【0089】
最大デューティ比Maxdutyの情報201は、駆動制御信号Sda,Sdbのデューティ比の最大値を定める情報であり、後述する最大デューティ比決定部135によって設定され、更新される。例えば、制御回路12の起動直後には、最大デューティ比Maxdutyの初期値がデューティ比情報記憶部133に設定され、モータ20の駆動開始後に、最大デューティ比決定部135によってデューティ比情報記憶部133に設定されている最大デューティ比Maxdutyの値が更新される。
【0090】
最大デューティ比範囲Rdの情報202は、最大デューティ比Maxdutyの設定可能な範囲を定める情報である。例えば、最大デューティ比範囲Rdの情報202は、最大デューティ比Maxdutyの下限値D1および最大デューティ比Maxdutyの上限値D2を含み、D1≦Maxduty≦D2を定める。最大デューティ比範囲Rdの情報202は、例えば、予め制御回路12の記憶装置に記憶されている。最大デューティ比範囲Rdは100%未満の範囲であり、例えば、下限値D1が80%、上限値D2(<100%)が92.5%である。
【0091】
固定最大デューティ比Dmfの情報203は、モータ駆動制御装置10として設定可能な駆動制御信号Sdのデューティ比の最大値を定める情報である。固定最大デューティ比Dmfは、例えば、最大デューティ比範囲Rd(D1≦Maxduty≦D2)を超えた値である(Dmf>D2)。固定最大デューティ比Dmfは、例えば、100%である。
【0092】
最大デューティ比決定部135は、駆動制御信号SdとしてのPWM信号のデューティ比を決定する機能部である。最大デューティ比決定部135は、駆動制御信号Sdのデューティ比の測定値に応じて最大デューティ比Maxdutyを決定する。
【0093】
具体的には、最大デューティ比決定部135は、デューティ比測定部134によって測定された駆動制御信号Sd(PWM信号)のデューティ比が最大デューティ比Maxdutyと一致する場合に、最大デューティ比が大きくなるように最大デューティ比を更新し、デューティ比測定部134によって測定された駆動制御信号Sdのデューティ比が最大デューティ比Maxdutyと一致しない場合に、最大デューティ比Maxdutyが小さくなるように最大デューティ比Maxdutyを更新する。
【0094】
より好ましくは、デューティ比測定部134によって測定された駆動制御信号Sdのデューティ比が最大デューティ比Maxdutyと一致する状態が連続する複数のPWM周期にわたって継続した場合に、最大デューティ比決定部135は、最大デューティ比範囲Rd内において最大デューティ比Maxdutyが大きくなるように最大デューティ比Maxdutyを更新する増加処理を実行する。一方、デューティ比測定部134によって測定された駆動制御信号Sdのデューティ比が最大デューティ比Maxdutyと一致しない状態が連続する複数のPWM周期にわたって継続した場合に、最大デューティ比決定部135は、最大デューティ比範囲Rd内において最大デューティ比Maxdutyが小さくなるように最大デューティ比を更新する低下処理を実行する。
【0095】
例えば、最大デューティ比決定部135は、最大デューティ比Maxdutyの増加処理の実行の可否を判定するためのカウンタCNT1と、最大デューティ比Maxdutyの低下処理の実行の可否を判定するためのカウンタCNT2を有している。
【0096】
最大デューティ比決定部135は、PWM周期毎に、駆動制御信号Sd(PWM信号)のデューティ比が最大デューティ比Maxdutyと一致していることを検出した場合に、カウンタCNT1をインクリメント(+1)するとともに、カウンタCNT2をクリア(0)する。一方、最大デューティ比決定部135は、駆動制御信号Sd(PWM信号)のデューティ比が最大デューティ比Maxdutyと一致していないこと、すなわちデューティ比が最大デューティ比Maxduty未満であることを検出した場合に、カウンタCNT1をクリア(0)するとともに、カウンタCNT2をインクリメント(+1)する。
【0097】
最大デューティ比決定部135は、カウンタCNT1の値が基準値A(A≧1)と一致した場合に、最大デューティ比Maxdutyを増加させる増加処理を実行する。最大デューティ比決定部135は、カウンタCNT2の値が基準値B(B≧1)と一致した場合に、最大デューティ比Maxdutyを低下させる低下処理を実行する。
【0098】
ここで、基準値A,Bは、例えば、予めデューティ比情報記憶部133等に記憶されている。特に制限されないが、基準値A,Bは、2以上の自然数であることが好ましい。基準値Aと基準値Bは、共に同じ値であってもよいし、互いに異なる値であってもよい。
【0099】
より好ましくは、駆動制御信号Sdのデューティ比が最大デューティ比Maxdutyと一致する状態が連続する複数のPWM周期にわたって継続し、且つ最大デューティ比Maxdutyが最大デューティ比範囲Rd内の上限値D2に到達している場合に、最大デューティ比決定部135は、最大デューティ比Maxdutyを、最大デューティ比範囲Rdを超えた値、すなわち固定最大デューティ比Dmf(=100%)に設定する。
【0100】
以下、最大デューティ比Maxdutyを決定するための処理の流れについて、図を用いて詳細に説明する。
【0101】
図6は、最大デューティ比Maxdutyの決定方法の流れの一例を示すフローチャートである。
【0102】
ここでは、一例として、A相のコイル21aを駆動するための駆動制御信号Sdaの最大デューティ比Maxdutyを決定するための処理について説明するが、B相の最大デューティ比MaxdutyもA相と同様の手法によって決定される。
【0103】
最大デューティ比決定部135は、PWM周期毎に、後述する最大デューティ比Maxdutyを決定するための処理を繰り返し行う。
例えば、一つのPWM周期が開始されたとき、先ず、最大デューティ比決定部135は、デューティ比測定部134によって測定された一つ前のPWM周期における駆動制御信号Sdaのデューティ比の測定値の情報200をデューティ比情報記憶部133から取得する(ステップS1)。
【0104】
次に、最大デューティ比決定部135は、取得したデューティ比の測定値がデューティ比情報記憶部133に設定されている最大デューティ比Maxdutyと一致しているか否かを判定する(ステップS2)。
【0105】
デューティ比の測定値が最大デューティ比Maxdutyと一致している場合(ステップS2:YES)、最大デューティ比決定部135は、カウンタCNT1をインクリメントする(ステップS3)。また、最大デューティ比決定部135は、カウンタCNT2をクリアする(ステップS4)。
【0106】
次に、最大デューティ比決定部135は、カウンタCNT1の値が基準値A以上であるか否かを判定する(ステップS5)。カウンタCNT1の値が基準値A(例えば、“3”)未満である場合(ステップS5:NO)、最大デューティ比決定部135は、最大デューティ比Maxdutyを決定するための処理を終了する。カウンタCNT1の値が基準値A以上である場合(ステップS5:YES)、最大デューティ比決定部135は、最大デューティ比Maxdutyの増加処理を実行する(ステップS6)。なお、最大デューティ比Maxdutyの増加処理の詳細については後述する。
【0107】
最大デューティ比決定部135は、最大デューティ比Maxdutyの増加処理の終了後、カウンタCNT1をクリアし(ステップS7)、最大デューティ比Maxdutyを決定するための処理を終了する。
【0108】
ステップS2において、デューティ比の測定値が最大デューティ比Maxdutyと一致していない場合、すなわちデューティ比の測定値が最大デューティ比Maxduty未満である場合(ステップS2:NO)、最大デューティ比決定部135は、カウンタCNT2をインクリメントする(ステップS8)。また、最大デューティ比決定部135は、カウンタCNT1をクリアする(ステップS9)。
【0109】
次に、最大デューティ比決定部135は、カウンタCNT2の値が基準値B(例えば、“3”)以上であるか否かを判定する(ステップS10)。カウンタCNT2の値が基準値B未満である場合(ステップS10:NO)、最大デューティ比決定部135は、最大デューティ比Maxdutyを決定するための処理を終了する。カウンタCNT2の値が基準値B以上である場合(ステップS10:YES)、最大デューティ比決定部135は、最大デューティ比Maxdutyの低下処理を実行する(ステップS11)。なお、最大デューティ比Maxdutyの低下処理の詳細については後述する。
【0110】
最大デューティ比決定部135は、最大デューティ比Maxdutyの低下処理の終了後、カウンタCNT2をクリアし(ステップS12)、最大デューティ比Maxdutyを更新する処理を終了する。
【0111】
次に、最大デューティ比Maxdutyの増加処理(ステップS6)について説明する。
【0112】
図7は、最大デューティ比Maxdutyの増加処理(ステップS6)の流れを示すフローチャートである。
【0113】
図7に示すように、最大デューティ比Maxdutyの増加処理が開始されると、先、最大デューティ比決定部135は、その時点で設定されている最大デューティ比Maxdutyの値が最大デューティ比範囲Rdの上限値D2以上であるか否かを判定する(ステップS61)。
【0114】
最大デューティ比Maxdutyの値が最大デューティ比範囲Rdの上限値D2以上である場合(ステップS61:YES)、最大デューティ比決定部135は、最大デューティ比範囲Rdを超える値である固定最大デューティ比Dmf(例えば、100%)を最大デューティ比Maxdutyに決定する(ステップS62)。最大デューティ比決定部135は、デューティ比情報記憶部133に設定されている最大デューティ比Maxdutyの値をステップS62で決定した値(Dmf)に更新し(ステップS66)、最大デューティ比Maxdutyの増加処理を終了する。
【0115】
ステップS61において、最大デューティ比Maxdutyの値が最大デューティ比範囲Rdの上限値D2未満である場合(ステップS61:NO)、最大デューティ比決定部135は、その時点で設定されている最大デューティ比Maxdutyの値に単位量αを加算した加算値を算出する(ステップS63)。単位量αは、例えば、予めデューティ比情報記憶部133等に記憶されている。単位量α(>0%)は、例えば、2.5%である。
【0116】
次に、最大デューティ比決定部135は、ステップS63において算出した加算値が最大デューティ比範囲Rdの上限値D2以上であるか否かを判定する(ステップS64)。
【0117】
上記加算値が最大デューティ比範囲Rdの上限値D2未満である場合(ステップS64:NO)、最大デューティ比決定部135は、デューティ比情報記憶部133に設定されている最大デューティ比Maxdutyの値をステップS63で算出した加算値に更新し(ステップS66)、最大デューティ比Maxdutyの増加処理を終了する。これにより、最大デューティ比Maxdutyが単位量α(例えば2.5%)だけ増加する。
【0118】
ステップS64において上記加算値が最大デューティ比範囲Rdの上限値D2以上である場合(ステップS64:YES)、最大デューティ比決定部135は、最大デューティ比範囲Rdの上限値D2を最大デューティ比Maxdutyに決定する(ステップS65)。最大デューティ比決定部135は、デューティ比情報記憶部133に設定されている最大デューティ比Maxdutyの値をステップS65で決定した上限値D2に更新し(ステップS66)、最大デューティ比Maxdutyの増加処理を終了する。
【0119】
次に、最大デューティ比Maxdutyの低下処理(ステップS11)について説明する。
【0120】
図8は、最大デューティ比Maxdutyの低下処理(ステップS11)の流れを示すフローチャートである。
【0121】
図8に示すように、最大デューティ比Maxdutyの増加処理が開始されると、先ず、最大デューティ比決定部135は、その時点で設定されている最大デューティ比Maxdutyの値が最大デューティ比範囲Rdの下限値D1であるか否かを判定する(ステップS111)。
【0122】
最大デューティ比Maxdutyの値が最大デューティ比範囲Rdの下限値D1である場合(ステップS111:YES)、最大デューティ比決定部135は、最大デューティ比Maxduty(=D1)を変更しないことを決定する(ステップS112)。
【0123】
一方、最大デューティ比Maxdutyの値が最大デューティ比範囲Rdの下限値D1に一致していない場合(ステップS111:NO)、最大デューティ比決定部135は、その時点で設定されている最大デューティ比Maxdutyの値が、固定最大デューティ比Dmf(=100%)であるか否かを判定する(ステップS113)。
【0124】
最大デューティ比Maxdutyの値が固定最大デューティ比Dmf(=100%)である場合(ステップS113:YES)、最大デューティ比範囲Rdの上限値D2(<Dmf=100%)を最大デューティ比Maxdutyに決定する(ステップS114)。最大デューティ比決定部135は、デューティ比情報記憶部133に設定されている最大デューティ比Maxdutyの値をステップS114で決定した上限値D2に更新し(ステップS118)、最大デューティ比Maxdutyの低下処理を終了する。これにより、最大デューティ比Maxdutyが固定最大デューティ比Dmf(=100%)から上限値D2に低下する。
【0125】
ステップS113において、最大デューティ比Maxdutyの値が固定最大デューティ比Dmf(=100%)でない場合(ステップS113:NO)、最大デューティ比決定部135は、その時点でデューティ比情報記憶部133に設定されている最大デューティ比Maxdutyの値から単位量βを減算した減算値を算出する(ステップS115)。単位量βは、例えば、予めデューティ比情報記憶部133等に記憶されている。単位量β(>0%)は、例えば、2.5%である。なお、単位量αと単位量βは、共に同じ値であってもよいし、互い異なる値であってもよい。
【0126】
次に、最大デューティ比決定部135は、ステップS115において算出した減算値が最大デューティ比範囲Rdの下限値D1以下であるか否かを判定する(ステップS116)。
【0127】
上記減算値が最大デューティ比範囲Rdの下限値D1より大きい場合(ステップS116:NO)、最大デューティ比決定部135は、デューティ比情報記憶部133に設定されている最大デューティ比Maxdutyの値をステップS115で算出した減算値に更新し(ステップS118)、最大デューティ比Maxdutyの低下処理を終了する。これにより、最大デューティ比Maxdutyが単位量β(例えば、2.5%)だけ減少する。
【0128】
ステップS115において上記減算値が最大デューティ比範囲Rdの下限値D1以下である場合(ステップS115:YES)、最大デューティ比決定部135は、最大デューティ比範囲Rdの下限値D1を最大デューティ比Maxdutyに決定する(ステップS117)。最大デューティ比決定部135は、デューティ比情報記憶部133に設定されている最大デューティ比Maxdutyの値をステップS117で決定した最大デューティ比範囲Rdの下限値D1に更新し(ステップS117)、最大デューティ比Maxdutyの低下処理を終了する。
【0129】
上述した手法により、最大デューティ比決定部135は、コイル電流、すなわち駆動制御信号Sdのデューティ比に応じて、最大デューティ比Maxdutyを更新する。
【0130】
次に、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10による効果について説明する。
【0131】
図9Aは、上述した本願発明者による先行検討例のモータ駆動制御装置によって2相のステッピングモータを駆動したときのコイル電流とコイル間電圧のシミュレーション結果を示す図である。
【0132】
図9Aにおいて、参照符号301は、ステッピングモータのA相のコイル電流の時間的な変化を表し、参照符号302は、ステッピングモータのA相のコイル間電圧の時間的な変化を表している。
【0133】
図9Bは、実施の形態に係るモータ駆動制御装置10によって2相のステッピングモータを駆動したときのコイル電流とコイル間電圧のシミュレーション結果を示す図である。
【0134】
図9Bにおいて、参照符号401は、ステッピングモータのA相のコイル電流の時間的な変化を表し、参照符号402は、ステッピングモータのA相のコイル間電圧の時間的な変化を表している。
【0135】
ステッピングモータにおけるコイル間電圧はPWM信号の信号レベルの切り替わりに応じてスイッチングするので、図9Aおよび図9Bにおいて、コイル間電圧はPWM信号を実質的に表していることになる。
【0136】
先行検討例のモータ駆動制御装置において、インバータ回路の駆動制御信号としてのPWM信号の最大デューティ比は、100%に固定されている。そのため、図9Aに示すように、先行検討例のモータ駆動制御装置によって2相のステッピングモータを駆動した場合、PWM信号のデューティ比が大きく変動する。特に、PWM信号のデューティ比が100%となる状態が複数のPWM周期に渡って継続した後にPWM信号がローベルとなったとき、コイル電流に大きなリップルが発生する。
【0137】
これに対し、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10によれば、モータ20のトルクが不足している場合を除いて、インバータ回路の駆動制御信号としてのPWM信号のデューティ比の上限値が最大デューティ比範囲Rd内に制限されるので、PWM信号のデューティ比が100%となる状態が発生することがない上に、PWM信号のデューティ比の変動幅、すなわちPWM信号のデューティ比のばらつきを抑えることができる。これにより、図9Bに示すように、コイル電流の大きなリップルの発生を抑えることが可能となる。
【0138】
図10は、ステッピングモータを駆動したときの雑音の測定結果を示す図である。
【0139】
図10において、横軸は周波数を表し、縦軸は雑音の大きさを表している。図10において、参照符号501は実施の形態に係るモータ駆動制御装置10によって2相のステッピングモータを駆動したときの雑音特性を表し、参照符号502は先行検討例のモータ駆動制御装置(最大デューティ比を100%に固定)によって2相のステッピングモータを駆動したときの雑音特性を表している。
【0140】
図10から理解されるように、実施の形態に係るモータ駆動制御装置10によれば、最大デューティ比を100%に固定した先行検討例のモータ駆動制御装置に比べて、ステッピングモータを駆動したときの雑音のレベルを抑えることができる。
【0141】
以上、実施の形態に係るモータ駆動制御装置10によれば、モータ20のコイル電流Ia,Ibが電流基準値Sisa,Sisbに到達していない場合に、駆動制御信号Sda,SdbとしてのPWM信号の最大デューティ比Maxdutyを100%未満の所定の範囲(最大デューティ比範囲Rd)内において上昇させ、コイル電流Ia,Ibが電流基準値Sisa,Sisbに到達している場合に、最大デューティ比Maxdutyを所定の範囲内において低下させ、PWM信号のデューティ比が最大デューティ比Maxdutyを超えないように、PWM信号を生成する。
【0142】
これによれば、上述したように、PWM信号のデューティ比の上限値が最大デューティ比範囲Rd内で制限されるので、PWM信号のデューティ比が100%となる状態が発生することがない上に、PWM信号のデューティ比のばらつきを抑えることができる。これにより、コイル電流の大きなリップルの発生を抑えることが可能となり、モータ駆動時の異音の発生を抑えることが可能となる(図9Bおよび図10参照参照)。
【0143】
また、コイル電流Ia,Ibが電流基準値Sisa,Sisbに到達しているか否かに応じて、最大デューティ比Maxdutyを最大デューティ比範囲Rd内において動的に変化させるので、モータ20に必要なコイル電流の大きさ、すなわちモータ20に必要なトルクに応じて、適切なデューティ比のPWM信号を生成することが可能となる。これにより、モータ20の負荷に応じた安定したモータ駆動が可能となる。
【0144】
したがって、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10によれば、モータの負荷に応じた安定したモータ駆動を実現することが可能となる。
【0145】
また、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10において、好ましくは、制御回路12は、コイル電流の測定値Siと電流基準値Sisとを比較し、比較結果に応じて信号レベルが第1論理レベルと第2論理レベルの間で切り替わるPWM信号を生成する。制御回路12は、測定したPWM信号のデューティ比が設定されている最大デューティ比Maxdutyと一致する場合に、最大デューティ比範囲Rd内において最大デューティ比Maxdutyが大きくなるように最大デューティ比Maxdutyを更新し、測定されたPWM信号のデューティ比が最大デューティ比Maxdutyと一致しない場合に、最大デューティ比範囲Rd内において最大デューティ比Maxdutyが小さくなるように最大デューティ比Maxdutyを更新する。
【0146】
これによれば、PWM信号のデューティ比と最大デューティ比Maxdutyとを比較することにより、コイル電流Ia,Ibが電流基準値Sisに到達しているか否かを容易に判定することできるので、コイル電流Ia,Ibと電流基準値Sisa,Sisbとの関係に応じた最大デューティ比Maxdutyの動的な調整を容易に実現することができる。
【0147】
また、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10において、より好ましくは、制御回路12は、測定したPWM信号のデューティ比が最大デューティ比Maxdutyと一致する状態が、連続する複数のPWM周期(CNT1≧A)にわたって継続した場合に、最大デューティ比範囲Rd内において最大デューティ比Maxdutyが大きくなるように最大デューティ比Maxdutyを更新し、測定したPWM信号のデューティ比が最大デューティ比Maxdutyと一致しない状態が、連続する複数のPWM周期(CNT2≧B)にわたって継続した場合に、最大デューティ比範囲Rd内において最大デューティ比Maxdutyが小さくなるように最大デューティ比Maxdutyを更新する。
【0148】
これによれば、最大デューティ比Maxが頻繁に変更されることによって意図せずモータの駆動制御が不安定になることを回避できるので、より安定したモータ駆動を実現することが可能となる。
【0149】
また、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10において、より好ましくは、制御回路12は、測定したPWM信号のデューティ比が最大デューティ比Maxdutyと一致する状態が、連続する複数のPWM周期にわたって継続し、且つ最大デューティ比Maxdutyが最大デューティ比範囲Rd内の上限値D2に到達している場合に、最大デューティ比Maxdutyを最大デューティ比範囲Rdを超えた値(固定最大デューティ比Dmf(例えば100%))に設定する。
【0150】
これによれば、モータ20の駆動電圧としての電源電圧が低下する等によってモータ20のトルクが不足した場合には、駆動制御信号Sd(PWM信号)のデューティ比の制限を解除してモータ20のコイル電流を更に増やすことができるので、負荷に応じたより安定したモータ駆動を実現することが可能となる。
【0151】
≪実施の形態の拡張≫
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0152】
例えば、上記実施の形態では、コイル電流Ia,Ibが電流基準値Sisに到達しているか否かを判定するために、PWM信号のデューティ比と最大デューティ比Maxdutyとを比較する手法を例示したが、これに限られない。例えば、最大デューティ比決定部135は、比較部125の比較結果を直接監視することによって最大デューティ比Maxdutyの更新を行ってもよい。
【0153】
また、上記実施の形態におけるモータ20の相数は、2相に限定されない。
【0154】
また、上記実施の形態におけるモータ20は、ステッピングモータに限られない。例えば、モータ20はブラシレスDCモータであってもよい。
【0155】
また、上述のフローチャートは、動作を説明するための一例を示すものであって、これに限定されない。すなわち、フローチャートの各図に示したステップは具体例であって、このフローに限定されるものではない。例えば、一部の処理の順番が変更されてもよいし、各処理間に他の処理が挿入されてもよいし、一部の処理が並列に行われてもよい。
【符号の説明】
【0156】
1…アクチュエータ、10…モータ駆動制御装置、12…制御回路、14…駆動回路、20…モータ(ステッピングモータ)、21,21a,21b…コイル、22…ロータ、22n…N極、22s…S極、25…出力軸、26…1次ギヤ、29…モータ端子、31…2次ギヤ(動力伝達機構)、32…3次ギヤ(動力伝達機構)、33…出力ギヤ(動力伝達機構)、42…プリント基板、43…フレキシブルプリント基板、51…ケース、52…カバー、121…電流値取得部、122…電流基準値設定部、123…電流情報記憶部、124…電流基準値情報、125…比較部、130…駆動制御信号生成部、131…駆動指令取得部、132…PWM信号生成部、133…デューティ比情報記憶部、134…デューティ比測定部、135…最大デューティ比決定部、143,143a,143b…インバータ回路(Hブリッジ回路)、144a,144b…電流センサ、200…デューティ比の測定値の情報、201…最大デューティ比Maxdutyの情報、202…最大デューティ比範囲Rdの情報、203…固定最大デューティ比Dmfの情報、AP,BP…コイル21の正極端子、AN,BN…コイル21の負極端子、CNT1,CNT2…カウンタ、Q1~Q4…トランジスタ、D1~D4…ダイオード、Ia,Ib…コイル電流、Scm,Scma,Scmb…比較結果、Sd,Sda,Sdb…駆動制御信号、Si,Sia,Sib…コイル電流の測定値、Sis,Sis1,Sis2…電流基準値、Via,Vib…電流検出信号。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10