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特開2024-141011水性処理剤、ゴム補強用部材の製造方法、ゴム補強用部材、及びゴム製品
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  • 特開-水性処理剤、ゴム補強用部材の製造方法、ゴム補強用部材、及びゴム製品 図1A
  • 特開-水性処理剤、ゴム補強用部材の製造方法、ゴム補強用部材、及びゴム製品 図1B
  • 特開-水性処理剤、ゴム補強用部材の製造方法、ゴム補強用部材、及びゴム製品 図2
  • 特開-水性処理剤、ゴム補強用部材の製造方法、ゴム補強用部材、及びゴム製品 図3
  • 特開-水性処理剤、ゴム補強用部材の製造方法、ゴム補強用部材、及びゴム製品 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141011
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】水性処理剤、ゴム補強用部材の製造方法、ゴム補強用部材、及びゴム製品
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/41 20060101AFI20241003BHJP
   D06M 15/693 20060101ALI20241003BHJP
   D06M 15/248 20060101ALI20241003BHJP
   D06M 15/273 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
D06M15/41
D06M15/693
D06M15/248
D06M15/273
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052428
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】山口 達也
(72)【発明者】
【氏名】下川 幸正
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA09
4L033AB01
4L033AB03
4L033AC11
4L033CA15
4L033CA21
4L033CA34
4L033CA68
(57)【要約】
【課題】被膜を有するゴム補強用部材について、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体を含むゴムマトリックスとの優れた接着性を確保しつつ、耐屈曲性を向上させることが可能な被膜を形成しうる水性処理剤を提供する。
【解決手段】本発明の水性処理剤は、被膜を有するゴム補強用コード及びゴム補強用シートからなる群より選択される少なくとも1つの前記被膜を作製するための水性処理剤である。本発明の水性処理剤は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、ゴムラテックスと、を含む。前記ゴムラテックスは、ゴム成分として、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体と、クロロスルホン化ポリエチレンとを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被膜を有するゴム補強用部材の前記被膜を作製するための水性処理剤であって、
前記水性処理剤は、
レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、
ゴムラテックスと、
を含み、
前記ゴムラテックスは、ゴム成分として、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体と、クロロスルホン化ポリエチレンとを含む、
水性処理剤。
【請求項2】
前記ゴムラテックスの前記ゴム成分において、
エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合が15質量%以上かつ95質量%以下であり、
クロロスルホン化ポリエチレンの含有割合が5質量%以上かつ85質量%以下である、
請求項1に記載の水性処理剤。
【請求項3】
前記ゴムラテックスの前記ゴム成分において、
エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合が15質量%以上かつ70質量%以下であり、
クロロスルホン化ポリエチレンの含有割合が30質量%以上かつ85質量%以下である、
請求項2に記載の水性処理剤。
【請求項4】
前記ゴムラテックスの前記ゴム成分において、
エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の前記含有割合が15質量%以上かつ50質量%以下であり、
クロロスルホン化ポリエチレンの前記含有割合が50質量%以上かつ85質量%以下である、
請求項3に記載の水性処理剤。
【請求項5】
前記ゴムラテックスの前記ゴム成分において、
エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の前記含有割合が15質量%以上かつ40質量%以下であり、
クロロスルホン化ポリエチレンの前記含有割合が60質量%以上かつ85質量%以下である、
請求項4記載の水性処理剤。
【請求項6】
前記ゴムラテックスの前記ゴム成分において、クロロスルホン化ポリエチレンの含有割合は、質量比で、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合以上である、
請求項1に記載の水性処理剤。
【請求項7】
(a)補強用基材の少なくとも表面の一部に、請求項1~6のいずれか1項に記載の水性処理剤を供給して乾燥させることによって、前記補強用基材の前記表面上に被膜を形成すること、
を含む、ゴム補強用部材の製造方法。
【請求項8】
前記補強用基材がフィラメント束であり、
前記製造方法は、
(b)複数のフィラメントを束ねて少なくとも1つの前記フィラメント束を作製すること、
をさらに含み、
前記(a)において、前記フィラメント束の少なくとも表面の一部に、前記水性処理剤を供給して乾燥させることによって、前記フィラメント束の表面上に前記被膜が形成されたストランドを作製する、
請求項7に記載のゴム補強用部材の製造方法。
【請求項9】
前記補強用基材が繊維シートであり、
前記(a)において、前記繊維シートの少なくとも表面の一部に、前記水性処理剤を供給して乾燥させることによって、前記繊維シート上に前記被膜を形成する、
請求項7に記載のゴム補強用部材の製造方法。
【請求項10】
ゴム製品を補強するためのゴム補強用部材であって、
前記ゴム補強用部材は、
補強用基材と、
前記補強用基材の少なくとも表面の一部を覆うように設けられた被膜と、
を含み、
前記被膜は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、ゴム成分とを含み、
前記ゴム成分は、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体と、クロロスルホン化ポリエチレンとを含む、
ゴム補強用部材。
【請求項11】
前記被膜の前記ゴム成分において、
エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合が15質量%以上かつ95質量%以下であり、
クロロスルホン化ポリエチレンの含有割合が5質量%以上かつ85質量%以下である、
請求項10に記載のゴム補強用部材。
【請求項12】
前記被膜の前記ゴム成分において、
エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合が15質量%以上かつ70質量%以下であり、
クロロスルホン化ポリエチレンの含有割合が30質量%以上かつ85質量%以下である、
請求項11に記載のゴム補強用部材。
【請求項13】
前記被膜の前記ゴム成分において、
エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の前記含有割合が15質量%以上かつ50質量%以下であり、
クロロスルホン化ポリエチレンの前記含有割合が50質量%以上かつ85質量%以下である、
請求項12に記載のゴム補強用部材。
【請求項14】
前記被膜の前記ゴム成分において、
エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の前記含有割合が15質量%以上かつ40質量%以下であり、
クロロスルホン化ポリエチレンの前記含有割合が60質量%以上かつ85質量%以下である、
請求項13に記載のゴム補強用部材。
【請求項15】
前記被膜において、クロロスルホン化ポリエチレンの含有割合は、質量比で、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合以上である、
請求項10に記載のゴム補強用部材。
【請求項16】
前記被膜は、前記ゴム補強用部材の最表面に設けられている、
請求項10に記載のゴム補強用部材。
【請求項17】
マトリックスゴムと、
請求項10~16のいずれか1項に記載のゴム補強用部材と、
を含むゴム製品。
【請求項18】
前記マトリックスゴムは、エチレンプロピレンジエンゴムを含む、
請求項17に記載のゴム製品。
【請求項19】
前記ゴム補強用部材の前記被膜と、前記マトリックスゴムとが接している、
請求項17に記載のゴム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム補強用部材を形成するための水性処理剤、ゴム補強用部材の製造方法、ゴム補強用部材、及びゴム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムベルト又はゴムタイヤなどのゴム製品について、その強度及び耐久性を向上させるために、ゴム製品を構成するマトリックスゴム内にゴム補強用コード及びゴム補強用シート等のゴム補強用部材を埋め込むことが広く一般に行われている。例えばゴム補強用コードにおいては、ガラス繊維又は化学繊維が補強用繊維として用いられている。
【0003】
エチレンプロピレンジエンゴム(EPDMゴム)は、耐熱性、耐候性、対オゾン性などに優れている。したがって、伝動ベルト、コンベヤベルト等のベルト、タイヤ、ゴムホース等のゴム製品に広く利用されている。EPDMゴムは、ハロゲンを含まないその構造により、環境的な側面から近年より注目されている。
【0004】
ゴム製品のマトリックスゴムがEPDMゴムである場合、EPDMゴムに補強用繊維をそのまま埋め込むと、マトリックスゴムと補強用繊維との十分な接着性が得られない。そこで、従来、様々な工夫が行われてきた。
【0005】
例えば、特許文献1は、EPDMを含むゴム組成物に繊維材料を接着させるための処理剤として、レゾルシン-ホルマリン-ラテックス系処理剤を開示している。当該レゾルシン-ホルマリン-ラテックス系処理剤のラテックス成分として、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体のラテックスを用いることが提案されている。また、特許文献2は、EPDMを含むゴム組成物にガラス繊維コードを接着させるための処理剤として、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体のラテックスと、カルボキシル変性スチレン-ブタジエン共重合体のラテックスとを含む処理剤を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4286393号公報
【特許文献2】特許第4899495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の従来の処理剤を用いて補強用繊維を処理することによって得られた補強用部材は、補強用繊維の表面に形成される被膜によって、EPDMゴムとの優れた接着性を有することができる。しかし、上記の従来の処理剤で補強用繊維を処理することによって得られた補強用部材は、上記被膜によって硬くなってしなやかさを失うので、その結果、耐屈曲性が低下する。
【0008】
そこで、本発明の目的の一つは、EPDMゴムとの優れた接着性を確保しつつ、耐屈曲性を向上させることが可能な被膜を形成しうる水性処理剤を提供することである。さらに、本発明の別の目的の一つは、EPDMゴムとの優れた接着性を確保しつつ、耐屈曲性が向上したゴム補強用部材を提供することである。さらに、本発明の別の目的の一つは、マトリックスゴムがEPDMゴムを含む場合でも、マトリックスゴムとゴム補強用部材との優れた接着性を有し、かつ耐屈曲性を有するゴム製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、被膜を有するゴム補強用部材の前記被膜を作製するための水性処理剤であって、
前記水性処理剤は、
レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、
ゴムラテックスと、
を含み、
前記ゴムラテックスは、ゴム成分として、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体と、クロロスルホン化ポリエチレンとを含む。
【0010】
別の側面から、本発明は、
(a)補強用基材の少なくとも表面の一部に、上記本発明の水性処理剤を供給して乾燥させることによって、前記補強用基材の前記表面上に被膜を形成すること、
を含む、ゴム補強用部材の製造方法を提供する。
【0011】
別の側面から、本発明は、ゴム製品を補強するためのゴム補強用部材であって、
前記ゴム補強用部材は、
補強用基材と、
前記補強用基材の少なくとも表面の一部を覆うように設けられた被膜と、
を含み、
前記被膜は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、ゴム成分とを含み、
前記ゴム成分は、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体と、クロロスルホン化ポリエチレンとを含む。
【0012】
別の側面から、本発明は、
マトリックスゴムと、
上記本発明のゴム補強用部材と、
を含むゴム製品を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、EPDMゴムとの優れた接着性を確保しつつ、耐屈曲性を向上させることが可能な被膜を形成しうる水性処理剤を提供することができる。さらに、本発明によれば、EPDMゴムとの優れた接着性を確保しつつ、耐屈曲性が向上したゴム補強用部材を提供することができる。さらに、本発明によれば、マトリックスゴムがEPDMゴムを含む場合でも、マトリックスゴムとゴム補強用部材との優れた接着性を有し、かつ耐屈曲性を有するゴム製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】本発明のゴム製品の一例を模式的に示す一部分解斜視図である。
図1B】本発明のゴム製品の別の例を模式的に示す断面図である。
図2】実施例のストランドを示す断面図である。
図3】実施例のゴム補強用コードを示す断面図である。
図4】実施例及び比較例のゴム補強用コードに対して実施された屈曲試験の方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第1態様は、被膜を有するゴム補強用部材の前記被膜を作製するための水性処理剤であって、
前記水性処理剤は、
レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、
ゴムラテックスと、
を含み、
前記ゴムラテックスは、ゴム成分として、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体と、クロロスルホン化ポリエチレンとを含む。
【0016】
本発明の第2態様において、例えば、第1態様にかかる水性処理剤では、
前記ゴムラテックスの前記ゴム成分において、
エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合が15質量%以上かつ95質量%以下であり、
クロロスルホン化ポリエチレンの含有割合が5質量%以上かつ85質量%以下である。
【0017】
本発明の第3態様において、例えば、第2態様にかかる水性処理剤では、
前記ゴムラテックスの前記ゴム成分において、
エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の前記含有割合が15質量%以上かつ70質量%以下であり、
クロロスルホン化ポリエチレンの前記含有割合が30質量%以上かつ85質量%以下である。
【0018】
本発明の第4態様において、例えば、第3態様にかかる水性処理剤では、
前記ゴムラテックスの前記ゴム成分において、
エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の前記含有割合が15質量%以上かつ50質量%以下であり、
クロロスルホン化ポリエチレンの前記含有割合が50質量%以上かつ85質量%以下である。
【0019】
本発明の第5態様において、例えば、第4態様にかかる水性処理剤では、
前記ゴムラテックスの前記ゴム成分において、
エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の前記含有割合が15質量%以上かつ40質量%以下であり、
クロロスルホン化ポリエチレンの前記含有割合が60質量%以上かつ85質量%以下である。
【0020】
本発明の第6態様において、例えば、第1~第5態様のいずれか1つにかかる水性処理剤では、前記ゴムラテックスの前記ゴム成分において、クロロスルホン化ポリエチレンの含有割合は、質量比で、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合以上である。
【0021】
本発明の第7態様は、
(a)補強用基材の少なくとも表面の一部に、第1~第6態様のいずれか1つにかかる水性処理剤を供給して乾燥させることによって、前記補強用基材の前記表面上に被膜を形成すること、
を含む、ゴム補強用部材の製造方法。
【0022】
本発明の第8態様において、例えば、第7態様にかかる製造方法では、
前記補強用基材がフィラメント束であり、
前記製造方法は、
(b)複数のフィラメントを束ねて少なくとも1つの前記フィラメント束を作製すること、
をさらに含み、
前記(a)において、前記フィラメント束の少なくとも表面の一部に、前記水性処理剤を供給して乾燥させることによって、前記フィラメント束の表面上に前記被膜が形成されたストランドを作製する。
【0023】
本発明の第9態様において、例えば、第7態様にかかる製造方法では、
前記補強用基材が繊維シートであり、
前記(a)において、前記繊維シートの少なくとも表面の一部に、前記水性処理剤を供給して乾燥させることによって、前記繊維シート上に前記被膜を形成する。
【0024】
本発明の第10態様は、ゴム製品を補強するためのゴム補強用部材であって、
前記ゴム補強用部材は、
補強用基材と、
前記補強用基材の少なくとも表面の一部を覆うように設けられた被膜と、
を含み、
前記被膜は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、ゴム成分とを含み、
前記ゴム成分は、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体と、クロロスルホン化ポリエチレンとを含む。
【0025】
本発明の第11態様において、例えば、第10態様にかかるゴム補強用部材では、
前記被膜の前記ゴム成分において、
エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合が15質量%以上かつ95質量%以下であり、
クロロスルホン化ポリエチレンの含有割合が5質量%以上かつ85質量%以下である。
【0026】
本発明の第12態様において、例えば、第11態様にかかるゴム補強用部材では、
前記被膜の前記ゴム成分において、
エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の前記含有割合が15質量%以上かつ70質量%以下であり、
クロロスルホン化ポリエチレンの前記含有割合が30質量%以上かつ85質量%以下である。
【0027】
本発明の第13態様において、例えば、第12態様にかかるゴム補強用部材では、
前記被膜の前記ゴム成分において、
エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の前記含有割合が15質量%以上かつ50質量%以下であり、
クロロスルホン化ポリエチレンの前記含有割合が50質量%以上かつ85質量%以下である。
【0028】
本発明の第14態様において、例えば、第13態様にかかるゴム補強用部材では、
前記被膜の前記ゴム成分において、
エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の前記含有割合が15質量%以上かつ40質量%以下であり、
クロロスルホン化ポリエチレンの前記含有割合が60質量%以上かつ85質量%以下である。
【0029】
本発明の第15態様において、例えば、第10~第14態様のいずれか1つにかかるゴム補強用部材では、前記被膜において、クロロスルホン化ポリエチレンの含有割合は、質量比で、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合以上である。
【0030】
本発明の第16態様において、例えば、第10~第15態様のいずれか1つにかかるゴム補強用部材では、前記被膜は、前記ゴム補強用部材の最表面に設けられている。
【0031】
本発明の第17態様にかかるゴム製品は、
マトリックスゴムと、
第10~第16態様のいずれか1つにかかるゴム補強用部材と、
を含む。
【0032】
本発明の第18態様において、例えば、第17態様にかかるゴム製品では、前記マトリックスゴムは、EPDMを含む。
【0033】
本発明の第19態様において、例えば、第17または第18態様にかかるゴム製品では、前記ゴム補強用部材の前記被膜と、前記マトリックスゴムとが接している。
【0034】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0035】
(第1実施形態)
第1実施形態として、本発明の水性処理剤の実施形態について説明する。
【0036】
本実施形態の水性処理剤は、被膜を有するゴム補強用部材を形成するための水性処理剤である。すなわち、本実施形態の水性処理剤は、ゴム補強用部材の被膜を作製するための処理剤である。ゴム補強用部材は、例えば、ゴム補強用コード、ゴム補強用シート等である。
【0037】
本実施形態の水性処理剤は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、ゴムラテックスとを含む。すなわち、本実施形態の水性処理剤は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物(RF)と、ゴムラテックス(L)との混合液(RFL)を含む。ゴムラテックスは、ゴム成分として、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体と、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)とを含む。
【0038】
本実施形態の水性処理剤において、RFLのゴムラテックスのゴム成分として、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体とCSMとが含まれている。ゴム成分としてエチレン-グリシジルメタクリレート共重合体とCSMとが組み合わされて含まれることにより、本実施形態の水性処理剤は、補強用基材として用いられる補強用繊維(例えば、複数のフィラメントを含むフィラメント束又は繊維シート)の表面に、EPDMゴムとの優れた接着性を確保しつつ、耐屈曲性を向上させることが可能な被膜を作製することができる。本実施形態の水性処理剤におけるゴムラテックスは、例えば、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体のゴムラテックスと、CSMのゴムラテックスとを含む。
【0039】
本実施態様の水性処理剤では、ゴムラテックスのゴム成分において、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合が15質量%以上かつ95質量%以下であり、CSMの含有割合が5質量%以上かつ85質量%以下であることが好ましい。エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体とCSMとがこのような割合で含まれることにより、本実施態様の水性処理剤は、接着性と耐屈曲性とのバランスに優れた被膜を作製することができる。
【0040】
接着性と耐屈曲性とのバランスにより優れた被膜を作製するために、本実施形態の水性処理剤では、ゴムラテックスの前記ゴム成分において、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合が15質量%以上かつ70質量%以下であり、CSMの含有割合が30質量%以上かつ85質量%以下であることがより好ましい。
【0041】
接着性と耐屈曲性とのバランスにより優れた被膜を作製するために、本実施形態の水性処理剤では、ゴムラテックスの前記ゴム成分において、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合が15質量%以上かつ50質量%以下であり、CSMの含有割合が50質量%以上かつ85質量%以下であることがより好ましい。
【0042】
接着性と耐屈曲性とのバランスにさらに優れた被膜を作製するために、本実施形態の水性処理剤では、ゴムラテックスのゴム成分において、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合が15質量%以上かつ40質量%以下であり、CSMの含有割合が60質量%以上かつ85質量%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
接着性と耐屈曲性とのバランスに優れた被膜を作製するために、本実施形態の水性処理剤では、ゴムラテックスのゴム成分において、CSMの含有割合は、質量比で、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合以上であることが好ましく、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合よりも大きいことがより好ましい。
【0044】
本実施形態の水性処理剤では、ゴムラテックスのゴム成分において、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体に対するCSMの質量比(CSMの質量/エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の質量)は、5/95以上が好ましく、30/70以上がより好ましく、50/50以上がさらに好ましい。本実施形態の水性処理剤では、ゴムラテックスのゴム成分において、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体に対するCSMの質量比(CSMの質量/エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の質量)は、85/15以下が好ましく、70/30以下がより好ましい。
【0045】
本実施態様の水性処理剤において、ゴムラテックスのゴム成分は、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体及びCSM以外の他のゴム成分をさらに含んでいてもよい。他のゴム成分は、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体、ジカルボキシル化ブタジエン-スチレン重合体、スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、カルボキシル変性されたニトリルゴム、及びカルボキシル変性された水素化ニトリルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1つであってもよい。
【0046】
接着性と耐屈曲性とのバランスに優れた被膜を作製するために、ゴムラテックスのゴム成分は、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合とCSMの含有割合との合計が、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。ゴムラテックスのゴム成分に占めるエチレン-グリシジルメタクリレート共重合体及びCSMの割合が上記範囲を満たすことにより、接着性と耐屈曲性とを優れたバランスで有する被膜を作製することができる。
【0047】
接着性と耐屈曲性とのバランスにより優れた被膜を作製するために、ゴムラテックスのゴム成分は、実質的にエチレン-グリシジルメタクリレート共重合体とCSMとからなっていてもよい。ゴムラテックスのゴム成分が実質的にエチレン-グリシジルメタクリレート共重合体とCSMとからなるとは、ゴムラテックスのゴム成分が、不可避に混入される成分を除いて、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体及びCSM以外の他の成分を含まないことを意味する。具体的には、ゴムラテックスのゴム成分において、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合とCSMの含有割合との合計が、95質量%以上であることをいい、好ましくは98質量%以上であることをいう。ゴムラテックスのゴム成分は、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体及びCSMのみからなっていてもよい。
【0048】
本実施態様の水性処理剤において、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物(RF)は、特に限定されない。レゾルシンとホルムアルデヒドとを水酸化アルカリ及びアミンなどのアルカリ性触媒の存在下で反応させることによって得られたレゾール型RF、及び、レゾルシンとホルムアルデヒドとを酸触媒の存在下で反応させることによって得られたノボラック型RFなどが、好適に利用され得る。レゾール型RFとノボラック型RFとの混合物が用いられてもよい。特に、レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)とを、モル比R:F=2:1~1:3で反応させて得られたRFを用いることが好ましい。水性処理剤におけるRF成分の含有割合は、固形分で、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。水性処理剤の固形分におけるRF成分の含有割合は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。RF成分の含有割合が固形分で1質量%以上20質量%以下である水性処理剤によれば、マトリックスゴム、特にEPDMを含むマトリックスゴムに対する接着が良好な被膜を作製することができる。
【0049】
本実施態様の水性処理剤において、固形分で、ゴムラテックスに対するレゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物の質量比(レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物の質量/ゴムラテックスの質量)は、0.05を超え、かつ0.12以下であることが好ましい。これにより、より優れた接着性を有する被膜を作製することができる。
【0050】
本実施形態の水性処理剤は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物及びゴムラテックス以外の他の成分を含んでいてもよい。例えば、架橋剤、充填材、樹脂、可塑剤、老化防止剤、安定剤、充填材ではない金属酸化物などをさらに含んでいてもよい。
【0051】
本実施形態の水性処理剤の構成成分(溶媒を除く成分)は、溶媒中に分散又は溶解される。本実施形態の水性処理剤の溶媒は、50質量%以上の割合で水を含む水性溶媒である。水性溶媒中の水の含有率は、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。水性溶媒としては、取り扱い性がよく、構成成分の濃度管理が容易であり、有機溶媒と比較して環境負荷が格段に軽減されることから、水が好適に用いられる。なお、水性溶媒は、低級アルコールなどを含んでいてもよい。低級アルコールの例には、炭素数が4以下又は3以下のアルコール(例えばメタノール、エタノール、及びプロパノール)が含まれる。ただし、水性溶媒は、低級アルコール以外の有機溶媒を含まないことが好ましい。
【0052】
(第2実施形態)
第2実施形態として、本発明のゴム補強用部材及びゴム製品の実施形態について説明する。
【0053】
本実施形態のゴム補強用部材は、補強用基材と、補強用基材の少なくとも表面の一部を覆うように設けられた被膜と、を含む。被膜は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、ゴム成分とを含む。ゴム成分は、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体とCSMとを含む。
【0054】
被膜は、補強用基材の少なくとも表面の一部を覆うように設けられている。なお、被膜は、補強用基材の表面上に直接設けられていてもよいし、他の層を介して補強用基材の表面を覆っていてもよい。
【0055】
被膜は、上述のとおり、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体及びCSMを含むゴム成分とを含む。この構成を有する被膜を備えることにより、本実施形態のゴム補強用部材は、EPDMゴムとの優れた接着性を確保しつつ、耐屈曲性を向上させることができる。
【0056】
本実施形態のゴム補強用部材では、被膜のゴム成分において、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合が15質量%以上かつ95質量%以下であり、CSMの含有割合が5質量%以上かつ85質量%以下であることが好ましい。エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体とCSMとがこのような割合で含まれる被膜を備えることにより、本実施態様のゴム補強用部材は、接着性と耐屈曲性とを優れたバランスで有することができる。
【0057】
接着性と耐屈曲性とのバランスにより優れたゴム補強用部材を実現するために、本実施形態のゴム補強用部材では、被膜のゴム成分において、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合が15質量%以上かつ70質量%以下であり、CSMの含有割合が30質量%以上かつ85質量%以下であることがより好ましい。
【0058】
接着性と耐屈曲性とのバランスにより優れたゴム補強用部材を実現するために、本実施形態のゴム補強用部材では、被膜のゴム成分において、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合が15質量%以上かつ50質量%以下であり、CSMの含有割合が50質量%以上かつ85質量%以下であることがより好ましい。
【0059】
接着性と耐屈曲性とのバランスにさらに優れたゴム補強用部材を実現するために、本実施形態のゴム補強用部材では、被膜のゴム成分において、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合が15質量%以上かつ40質量%以下であり、CSMの含有割合が60質量%以上かつ85質量%以下であることがさらに好ましい。
【0060】
接着性と耐屈曲性とのバランスに優れたゴム補強用部材を実現するために、本実施形態のゴム補強用部材では、被膜において、CSMの含有割合は、質量比で、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合以上であることが好ましく、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合よりも大きいことがより好ましい。
【0061】
本実施形態のゴム補強用部材では、被膜のゴム成分において、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体に対するCSMの質量比(CSMの質量/エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の質量)は、5/95以上が好ましく、30/70以上がより好ましく、50/50以上がさらに好ましい。本実施形態のゴム補強用部材では、被膜のゴム成分において、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体に対するCSMの質量比(CSMの質量/エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の質量)は、85/15以下が好ましく、70/30以下がより好ましい。
【0062】
本実施形態のゴム補強用部材では、被膜のゴム成分は、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体及びCSM以外の他のゴム成分をさらに含んでいてもよい。他のゴム成分は、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体、ジカルボキシル化ブタジエン-スチレン重合体、スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、カルボキシル変性されたニトリルゴム、及びカルボキシル変性された水素化ニトリルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1つであってもよい。
【0063】
接着性と耐屈曲性とのバランスに優れたゴム補強用部材を実現するために、本実施形態のゴム補強用部材では、被膜のゴム成分において、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合とCSMの含有割合との合計が、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。被膜のゴム成分に占めるエチレン-グリシジルメタクリレート共重合体及びCSMの割合が上記範囲を満たすことにより、接着性と耐屈曲性とのバランスに優れたゴム補強用部材を実現できる。
【0064】
接着性と耐屈曲性とのバランスにより優れたゴム補強用部材を実現するために、本実施形態のゴム補強用部材では、被膜のゴム成分が、実質的にエチレン-グリシジルメタクリレート共重合体とCSMとからなっていてもよい。被膜のゴム成分が実質的にエチレン-グリシジルメタクリレート共重合体とCSMとからなるとは、被膜のゴム成分が、不可避に混入される成分を除いて、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体及びCSM以外の他の成分を含まないことを意味する。具体的には、被膜のゴム成分において、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合とCSMの含有割合との合計が、95質量%以上であることをいい、好ましくは98質量%以上であることをいう。被膜のゴム成分は、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体及びCSMのみからなっていてもよい。
【0065】
本実施形態のゴム補強用部材では、被膜に含まれるレゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物(RF)は、特に限定されない。レゾルシンとホルムアルデヒドとを水酸化アルカリ及びアミンなどのアルカリ性触媒の存在下で反応させることによって得られたレゾール型RF、及び、レゾルシンとホルムアルデヒドとを酸触媒の存在下で反応させることによって得られたノボラック型RFなどが、好適に利用され得る。レゾール型RFとノボラック型RFとの混合物が用いられてもよい。特に、レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)とを、モル比R:F=2:1~1:3で反応させて得られたRFを用いることが好ましい。被膜におけるRF成分の含有割合は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。被膜におけるRF成分の含有割合は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。RF成分の含有割合が1質量%以上20質量%以下である被膜を備えることにより、マトリックスゴム、特にEPDMを含むマトリックスゴムに対する接着が良好なゴム補強用部材を実現できる。
【0066】
本実施形態のゴム補強用部材では、被膜において、ゴム成分に対するレゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物の質量比(レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物の質量/ゴム成分の質量)は、0.05を超え、かつ0.12以下であることが好ましい。これにより、より優れた接着性を有するゴム補強用部材を実現できる。
【0067】
本実施形態のゴム補強用部材における被膜は、レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物及びゴムラテックス以外の他の成分を含んでいてもよい。例えば、架橋剤、充填材、樹脂、可塑剤、老化防止剤、安定剤、充填材ではない金属酸化物などをさらに含んでいてもよい。
【0068】
本実施形態のゴム補強用部材において、上記被膜は、ゴム補強用部材の最表面に設けられていてもよい。上記被膜は、EPDMゴムとの優れた接着性を有する。したがって、マトリックスゴムがEPDMゴムを含む場合でも、本実施形態のゴム補強用部材は、マトリックスゴムとの接着性を向上させることを目的として上記被膜の上にさらに別の被膜を設ける必要はない。したがって、本実施形態のゴム補強用部材は、製造コストの上昇を抑えつつ、マトリックスゴムとの十分な接着性と耐屈曲性とを両立させることができる。なお、本実施形態のゴム補強用部材には、上記被膜以外にさらなる別の被膜が設けられていてもよい。
【0069】
補強用基材の少なくとも表面に設けられる被膜の質量は、特には限定されず、適宜調整すればよい。例えば、被膜は、補強用基材の質量の5質量%以上かつ35質量%以下の範囲内となるように設けられることが好ましい。被膜の質量は、補強用基材の質量の10質量%以上であってもよい。被膜の質量は、補強用基材の質量の25質量%以下であってもよく、20質量%以下であってもよい。被膜の質量は、補強用基材の質量の10質量%以上かつ20質量%以下の範囲であってもよい。被膜の質量が大きすぎる(被膜の量が多すぎる)場合、ゴム製品内におけるゴム補強用部材の寸法安定性の低下や、ゴム補強用部材の弾性率の低下などの不具合が発生することがある。一方、被膜の質量が小さすぎる(被膜の量が少なすぎる)場合、例えば補強用部材がストランドを含むゴム補強用コードである場合はストランドがほつれやすくなったり、被膜により繊維を保護する機能が低下したりして、その結果、ゴム製品の寿命が低下する場合がある。
【0070】
本実施形態のゴム補強用部材は、例えば、ゴム補強用コード又はゴム補強用シートである。以下、ゴム補強用部材として、ゴム補強用コード及びゴム補強用シートについて具体的に説明する。
【0071】
[ゴム補強用コード]
本実施形態のゴム補強用コードは、ゴム製品を補強するためのコードである。このゴム補強用コードは、少なくとも1つのストランドを備えている。このストランドは、少なくとも1つのフィラメント束(補強用繊維)と、フィラメント束の少なくとも表面の一部を覆うように設けられた被膜と、を含んでいる。なお、ゴム補強用コードにおいては、フィラメント束が補強用基材に相当する。被膜は、上述の被膜であり、すなわちレゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体及びCSMを含むゴム成分とを含む。
【0072】
本実施形態のゴム補強用コードにおいて、ストランドを構成するフィラメント束は、複数のフィラメントを含む。フィラメントの材料は、特には限定されない。本実施形態におけるゴム補強用コードのフィラメントとして、例えば、ガラス繊維フィラメント、ビニロン繊維に代表されるポリビニルアルコール繊維フィラメント、ポリエステル繊維フィラメント、ナイロンやアラミド繊維(芳香族ポリアミド)などのポリアミド繊維フィラメント、炭素繊維フィラメント、又はポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維フィラメントなどを用いることができる。これらの中でも、寸法安定性、引張強度、モジュラス及び耐屈曲疲労性に優れる繊維のフィラメントを用いることが好ましい。例えば、ガラス繊維フィラメント、アラミド繊維フィラメント、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維フィラメント及び炭素繊維フィラメントから選ばれる少なくとも1つの繊維フィラメントを用いることが好ましい。特に、ガラス繊維フィラメント、アラミド繊維フィラメント、及び炭素繊維フィラメントから選ばれる少なくとも1つの繊維フィラメントを用いることが好ましい。フィラメント束は、1種類のフィラメントで構成されていてもよいし、複数種のフィラメントで構成されていてもよい。
【0073】
フィラメント束に含まれるフィラメントの数は、特に制限はない。フィラメント束は、例えば、200本~24000本の範囲のフィラメントを含むことができる。
【0074】
フィラメント束に含まれるフィラメントの表面は、接着強度を高めるための前処理が行われていていてもよい。前処理剤の好ましい一例は、エポキシ基及びアミノ基からなる群より選ばれる少なくともいずれか1つの官能基を含有する化合物である。前処理剤の例には、アミノシラン、エポキシシラン、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂などが含まれる。具体的な例としては、ナガセケムテックス社のデナコールシリーズ、DIC社のエピクロンシリーズ、三菱化学社のエピコートシリーズなどが挙げられる。また、前処理剤として、ポリウレタン樹脂及びイソシアネート化合物も同様に使用できる。例えば、前処理剤として、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂及びイソシアネート化合物からなる群より選択される少なくともいずれか1つを含む処理剤を用いてもよい。このような処理剤を用いて前処理することにより、フィラメント束と被膜との間に、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂及びイソシアネート化合物からなる群より選択される少なくともいずれか1つを含む樹脂層がさらに設けられる。表面が前処理されることにより、例えばポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメントといった接着が発現しにくいような繊維フィラメントを用いる場合においても、マトリックスゴムとゴム補強用コードとの接着性を高めることが可能である。なお、フィラメントの前処理によってフィラメント表面に形成される前処理剤からなる被膜(前処理剤膜)は、本実施形態で特定するような、フィラメント束の表面の少なくとも一部を覆う被膜とは異なるものであり、本実施形態で特定する被膜には含まれない。
【0075】
ゴム補強用コードに含まれるフィラメント束の数に限定はなく、1本であってもよいし、複数本であってもよい。フィラメント束は、フィラメント束を複数本束ねたものであってもよい。この場合、複数本のフィラメント束のそれぞれは、撚られていてもよいし、撚られていなくてもよい。また、複数本のフィラメント束が合わせられた状態で撚られていてもよいし、撚られていなくてもよい。フィラメント束の撚り数は、特には限定されない。1本のフィラメント束に加えられる撚り(以下、下撚りということもある)の数は、例えば1~6回/25mmの範囲であってよい。さらに、複数のフィラメント束に加えられる撚り(以下、上撚りということもある)の数は、例えば1~8回/25mmの範囲であってよい。下撚り方向と上撚り方向が同じラング撚りであってもよく、下撚り方向と上撚り方向が逆方向のモロ撚りでもよい。撚りの方向に限定はなく、S方向であってもよいし、Z方向であってもよい。
【0076】
被膜は、フィラメント束の少なくとも表面の一部を覆うように設けられている。なお、被膜は、フィラメント束の表面上に直接設けられていてもよいし、他の層を介してフィラメント束の表面を覆っていてもよい。
【0077】
本実施形態のゴム補強用コードには、上記被膜以外にさらなる別の被膜が設けられていてもよいし、設けられていなくてもよい。なお、上述のとおり、ここでの「さらなる別の被膜」には上記の前処理剤膜は含まれない。したがって、この被膜が、前処理剤膜が設けられたフィラメントを含むフィラメント束の表面に設けられているゴム補強用コードであっても、「被膜以外にさらなる別の被膜が設けられていないゴム補強用コード」となり得る。
【0078】
本実施形態のゴム補強用コードの撚り数は、特には限定されない。1本のストランドに加えられる撚り(以下、下撚りということもある)の数は、例えば1~6回/25mmの範囲であってよい。さらに、複数のストランドに加えられる撚り(以下、上撚りということもある)の数は、例えば1~8回/25mmの範囲であってよい。下撚り方向と上撚り方向が同じラング撚りであってもよく、下撚り方向と上撚り方向が逆方向のモロ撚りでもよい。撚りの方向に限定はなく、S方向であってもよいし、Z方向であってもよい。
【0079】
[ゴム補強用シート]
本実施形態のゴム補強用シートは、ゴム製品を補強するためのシートである。このゴム補強用シートは、補強用基材である繊維シートと、繊維シート上に形成された被膜とを備える。なお、ゴム補強用シートにおいては、繊維シートが補強用基材に相当する。被膜は、上述の被膜であり、すなわちレゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体及びCSMを含むゴム成分とを含む。
【0080】
本実施形態のゴム補強用シートの被膜は、上述の本実施形態のゴム補強用コードの被膜と同様である。したがって、ここでは、ゴム補強用シートの被膜についての詳細な説明は省略される。
【0081】
補強用基材である繊維シートは、補強用繊維で構成されたシートである。補強用繊維は、補強用繊維シートの形状安定性や強度を高めるものである限り、特に限定されない。例えば、ガラス繊維、ビニロン繊維に代表されるポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、ナイロン、アラミド(芳香族ポリアミド)などのポリアミド繊維、カーボン繊維またはポリパラフェニレンベンゾオキサゾール繊維などが利用できる。繊維シートの好ましい一例は、ナイロン繊維をシート状に編んだものである。これらの繊維は単独で使用してもよいし、複数種を組み合わせて使用してもよい。また、繊維シートは、シート状である限りその形状に限定はなく、織布であってもよいし、不織布であってもよい。
【0082】
本実施形態のゴム補強用シートにおいて、ゴム補強用シートの形状や繊維シートの具体例等の、被膜以外の構成についての詳細な説明は、例えば特開2006-144932号公報に開示されているゴム補強用シートの説明が適用されうる。したがって、ここでは、繊維シート等の被膜以外の構成について、詳細な説明が省略される。
【0083】
[ゴム補強用部材の製造方法]
本実施形態のゴム補強用部材を製造する方法の一例(以下、本実施形態の製造方法と記載する)を、以下に説明する。なお、第1実施形態の水性処理剤及び本実施形態のゴム補強用部材、ゴム補強用コード、及びゴム補強用シートについて説明した事項は、以下の製造方法に適用できるため、重複する説明を省略する場合がある。また、以下の本実施形態の製造方法で説明した事項は、第1実施形態の水性処理剤及び本実施形態のゴム補強用部材、ゴム補強用コード、及びゴム補強用シートに適用できる。
【0084】
本実施形態の製造方法は、
(a)補強用基材の少なくとも表面の一部に、処理剤を供給して乾燥させることによって、補強用基材の表面上に被膜を形成すること、
を含む。上記処理剤は、第1実施形態の水性処理剤である。
【0085】
本実施形態の製造方法において、補強用基材としてフィラメント束が用いられる場合、本実施形態の製造方法によってゴム補強用コードを製造することができる。例えば、本実施形態の製造方法において補強用繊維がフィラメント束である場合、本実施形態の製造方法は、例えば、
(b)複数のフィラメントを束ねて少なくとも1つの前記フィラメント束を作製すること、
をさらに含み、上記(a)において、フィラメント束の少なくとも表面の一部に、水性処理剤を供給して乾燥させることによって、フィラメント束の表面上に被膜が形成されたストランドを作製する。
【0086】
本実施形態の製造方法によってゴム補強用コードを製造する場合、本実施形態の製造方法は、複数のフィラメントを束ねて少なくとも1つのフィラメント束を作製すること、及び前記フィラメント束の少なくとも表面の一部に処理剤を供給して乾燥させることによって、前記フィラメント束の表面上に被膜が形成されたストランドを作製すること、を含む。上記処理剤は、第1実施形態の水性処理剤である。
【0087】
上記方法によって、補強用基材の表面の少なくとも一部に被膜が形成される。水性処理剤を補強用基材の表面の少なくとも一部に供給する方法に限定はなく、たとえば、補強用基材の表面に水性処理剤を塗布してもよいし、補強用基材を水性処理剤中に浸漬してもよい。
【0088】
乾燥の条件、すなわち水性処理剤の溶媒を除去するための熱処理の条件は、特に限定されない。一例では、80℃~280℃の雰囲気で0.1~2分間乾燥すればよい。
【0089】
水性処理剤は、被膜の質量が補強用基材の質量に対して5質量%以上かつ35質量%以下となるように、補強用基材の少なくとも表面の一部に供給されることが好ましい。水性処理剤は、被膜の質量が補強用基材の質量に対して10質量%以上となるように、補強用基材の少なくとも表面の一部に供給されてもよい。水性処理剤は、被膜の質量が補強用基材の質量に対して25質量%以下、又は20質量%以下となるように、補強用基材の少なくとも表面の一部に供給されてもよい。水性処理剤は、被膜の質量が補強用基材の質量に対して10質量%以上かつ20質量%以下となるように、補強用基材の少なくとも表面の一部に供給されてもよい。
【0090】
本実施形態の製造方法によってゴム補強用コードを製造する場合、すなわち補強用基材としてフィラメント束が用いられる場合、被膜が形成されたフィラメント束は、一方向に撚られてもよい。撚る方向は、S方向であってもよいし、Z方向であってもよい。フィラメント束に含まれるフィラメントの数及びフィラメント束の撚り数は、上述したため、説明を省略する。このようにして、本実施形態のゴム補強用コードを製造できる。なお、被膜が形成されたフィラメント束を複数形成し、それら複数のフィラメント束を束ねて上撚りを加えてもよい。上撚りの方向は、フィラメント束の撚りの方向(下撚りの方向)と同じであってもよいし、異なってもよい。また、被膜が形成されたフィラメント束を複数形成し、フィラメント束それぞれには撚りを与えず、複数のフィラメント束を束ねたものに撚りを加えてもよい。
【0091】
なお、フィラメント束に撚りを加えてから被膜を形成してもよい。なお、フィラメントの種類、数、及び撚り数は、上述した通りである。
【0092】
上記のように作製されたストランドを複数準備し、複数の上記ストランドを撚り合わせてもよい。すなわち、本実施形態の製造方法は、複数のストランドを撚り合わせること、をさらに含んでもよい。
【0093】
本実施形態の製造方法の好ましい一例では、フィラメント束に水性処理剤を塗布又は含浸した後、その束ねたものを一方向に撚ることによって、ゴム補強用コードを形成する。
【0094】
本実施形態の製造方法によってゴム補強用シートを製造する場合、すなわち補強用基材として繊維シートが用いられる場合、本実施形態のゴム補強用部材を製造する方法の一例は、補強用基材が繊維シートであり、上記(a)において、繊維シートの少なくとも表面の一部に、水性処理剤を供給して乾燥させることによって、繊維シート上に被膜を形成する。
【0095】
繊維シートに水性処理剤を供給する方法は、特には限定されず、例えば繊維シートを水性処理剤が入った浴槽中に浸漬し、これを引き上げた後に乾燥炉を通して溶媒を除去することによって、被膜を形成できる。また、本実施形態のゴム補強用シートの製造方法には、水性処理剤の成分についての説明を除き、例えば特開2006-144932号公報に開示されているゴム補強用シートの製造方法の説明が適用されうる。
【0096】
[ゴム製品]
本実施形態のゴム製品は、マトリックスゴムと、上述の本実施形態のゴム補強用部材と、を含む。言い換えると、本実施形態のゴム製品は、本実施形態のゴム補強用コード及び本実施形態のゴム補強用シートからなる群より選択される少なくとも1つの補強部材で補強されたゴム製品である。ゴム製品は、特に限定されない。本実施形態のゴム製品の例には、自動車や自転車のタイヤ、及び、伝動ベルトなどが含まれる。伝動ベルトの例には、噛み合い伝動ベルトや摩擦伝動ベルトなどが含まれる。噛み合い伝動ベルトの例には、自動車用タイミングベルトなどに代表される歯付きベルトが含まれる。摩擦伝動ベルトの例には、平ベルト、丸ベルト、Vベルト、Vリブドベルトなどが含まれる。すなわち、本実施形態のゴム製品は、歯付ベルト、平ベルト、丸ベルト、Vベルト、又はVリブドベルトであってもよい。本実施形態のゴム製品は、家庭用、工業用、自動車用又は農業用などのホースであってもよい。
【0097】
本実施形態のゴム製品は、例えば、本実施形態のゴム補強用コードをゴム組成物(マトリックスゴム)に埋め込むことによって形成されていてもよい。すなわち、本実施形態のゴム製品の一例は、例えば、マトリックスゴムと、当該マトリックスゴムに埋設されたゴム補強用コードと、を含む。ゴム補強用コードをマトリックスゴム内に埋め込む方法は特に限定されず、公知の方法を適用してもよい。本実施形態のゴム製品(たとえばゴムベルト)には、例えば、本実施形態のゴム補強用コードが埋め込まれている。したがって、本実施形態のゴム製品は、マトリックスゴムとゴム補強用コードとが互いに強固に接着した優れた接着性を有し、かつ高い機械的強度を実現することができる。本実施形態のゴム製品は、例えば、車輌用エンジンのタイミングベルトや、車輌用の補機駆動用ベルトなどの用途に特に適している。
【0098】
本実施形態のゴム製品は、例えば、本実施形態のゴム補強用シートが、ゴム製品のゴム本体部(マトリックスゴムで形成された部材)の内部に埋め込まれた構成を有していてもよいし、ゴム本体部の表面を覆うように配置された構成を有していてもよい。
【0099】
本実施形態のゴム製品におけるマトリックスゴムは、例えば、EPDMを含む。本実施形態のゴム製品を構成するゴム補強用部材は、EPDMを含むマトリックスゴムに対しても優れた接着性を有する。また、EPDMは、耐熱性、耐候性、対オゾン性などに優れている。したがって、この構成によれば、高い強度及び優れた耐屈曲性を有し、かつ耐熱性、耐候性、対オゾン性などに優れたゴム製品を実現できる。
【0100】
本実施形態のゴム製品におけるマトリックスゴムは、EPDM以外の別のゴム成分を含んでいてもよい。例えば、クロロプレンゴム、CSMゴム、水素化ニトリルゴム、カルボキシル変性されたニトリルゴム、カルボキシル変性された水素化ニトリルゴム、天然ゴム、スチレン-ブタジエンゴム(すなわち、スチレン-ブタジエン共重合体)などが含まれていてもよい。水素化ニトリルゴムは、アクリル酸亜鉛誘導体(たとえばメタクリル酸亜鉛)を分散させた水素化ニトリルゴムであってもよい。
【0101】
本実施形態のゴム製品では、ゴム補強用部材の上記被膜とマトリックスゴムとが接していてもよい。
【0102】
ゴム製品の一例として、歯付きベルトを図1Aに示す。図1Aに示す歯付ベルト10は、ベルト本体11と、複数のゴム補強用コード12とを含む。ベルト本体11は、ベルト部13と、一定間隔でベルト部13から突き出した複数の歯部14とを含む。ゴム補強用コード12は、ベルト部13の内部に、ベルト部13の長手方向と平行となるように埋め込まれている。ゴム補強用コード12は、本実施形態のゴム補強用コードである。
【0103】
ゴム製品の別の例としての歯付きベルトを図1Bに示す。図1Bに示す歯付ベルト20は、ベルト本体21およびゴム補強用シート22を含む。ベルト本体21は、ベルト部23と、一定間隔でベルト部23から突き出した複数の歯部24とを含む。ゴム補強用シート22は、ベルト本体21の表面のうち歯部24が形成されている側の表面を覆うように配置されている。図1Bに示すように、ベルト部23の内部には、例えばゴム補強用コード25が埋め込まれていてもよい。ゴム補強用シート22は、本実施形態のゴム補強用シートである。ゴム補強用コード25は、本実施形態のゴム補強用コードである。歯付ベルト20におけるゴム補強用部材として、ゴム補強用シート22のみが設けられていてもよい。
【実施例0104】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の実施形態をさらに具体的に説明する。
【0105】
[ゴム補強用コードの製造]
ガラスフィラメント(Eガラス組成、平均直径9μm)を200本集束したガラス繊維(フィラメント束)を用意した。このガラス繊維を3本引き揃えて、各成分が以下の表1~表3に示すとおりである水性処理剤を塗布した。この後、150℃に設定した乾燥炉内で1分間乾燥した。このようにしてストランドを形成した。
【0106】
形成されたストランドは、図2に示すような断面を有していた。すなわち、多数のガラスフィラメントからなるガラス繊維31の3本の束の表面を覆うように被膜32が設けられて、ストランド30が形成されていた。なお、3本のガラス繊維31は、被膜32によって互いに接着されていた。このようにして得られたストランドを、2回/25mmの割合で下燃りした。そして、下撚りしたストランドを11本引き揃え、2回/25mmの割合で上撚りした。このようにして、図3に示すような断面を有するゴム補強用コード40を得た。得られたコードに占める被膜の割合は、20質量%であった。フィラメント束の質量に対する被膜の質量は、650±20℃の加熱による強熱減量の方法で求められた値である。このようにして、実施例1~7及び比較例1~9の補強用コードを得た。
【0107】
[接着性評価(マトリックスゴムとの接着強度及び破壊形態)]
表4に示す組成からなるゴム片(幅25mm×長さ50mm×厚さ5mm)を2枚用意した。次に、ゴム補強用コードがゴム片の長手方向と平行になるように、複数本のゴム補強用コードをゴム補強用コード間に隙間が開かないように並べて、2枚のゴム片で挟んだ。本実施例及び比較例では、幅25mmのゴム片に約30本のゴム補強用コードが並列に並べられた。ゴム補強用コードが2枚のゴム片に挟まれたものを、165℃で30分加熱して、ゴム片とゴム補強用コードとを接着した。このようにして得られた試験片について、180度剥離試験によって、ゴム補強用コードとマトリックスゴム(すなわち、ゴム片)との接着性が評価された。具体的には、引張試験機を用い、引張試験機の一方のチャックで試験片の一方のゴム片のみをつかみ、他方のチャックで試験片の他方のゴム片と並列している複数のゴム補強用コードとをつかみ、引き剥がし方向が接着面に対して180度となるように、試験片を長手方向に引っ張る。このときの引張速度は50mm/minに設定された。測定されたマトリックスゴムと各実施例及び比較例のゴム補強用コードとの間の剥離強度を、接着強度とした。なお、剥離強度は、剥離力の最大値と最小値とから求められる平均値(最大値と最小値とを加えて2で除した値)とした。
【0108】
また、試験片の破壊形態を、ゴム補強用コードとマトリックスゴムとが接着したまま破壊が生じ、ゴム補強用コード上にマトリックスゴムが完全に残った状態の「完全ゴム破壊」を「5」、マトリックスゴムとゴム補強用コードとの界面で剥離が生じた「界面剥離」を「0」として、6段階で評価した。「4」はゴム補強用コードの表面面積の75%、「3」はゴム補強用コードの表面面積の50%、「2」はゴム補強用コードの表面面積の25%にゴムが残っている状態とした。
【0109】
ここで、ゴム補強用コードの表面面積におけるマトリックスゴムが残っている面積の割合は、ゴム補強用コードの表面の写真の印刷画像を用いて求めた。具体的には、先ず、試料片における剥離界面の全体が入るように写真をとり、その写真の印刷画像から試料片全体を切り取って、切り取られた試料片全体の印刷画像の重量Wを測定した。次に、その試験片全体の印刷画像からゴムの箇所を切り取って、切り取られたゴムの箇所の全体の重量wを測定した。得られた重量W,wの値から、残存するゴムの存在割合((w/W)×100%)を求めた。
【0110】
各実施例及び比較例のゴム補強用コードの接着性評価の結果は、表1~3に示されている。なお、表1では、本発明の水性処理剤及びゴム補強用コードによる効果を理解しやすくする目的で、実施例2及び比較例1、3~6を対比している。表2には実施例1~7、表3には比較例1~9をそれぞれ示している。
【0111】
[耐屈曲性評価]
表4に示す組成からなるゴム片(幅10mm×長さ500mm×厚さ3mm)を2枚用意した。次に、ゴム補強用コードがゴム片の長手方向と平行になるように、ゴム片の中心部分に1本のゴム補強用コードを配置して、2枚のゴム片で挟んだ。ゴム補強用コードが2枚のゴム片に挟まれたものを、165℃で30分加熱して、ゴム片とゴム補強用コードとを接着した。このようにして得られた試験片を、耐屈曲性評価の試験片として用いた。
【0112】
それぞれの試験片について、5万回屈曲させる屈曲試験を行った。屈曲試験は、図4に示す屈曲試験機50を用いて行われた。それぞれの試験片について、屈曲試験前及び屈曲試験後の引張強度が測定された。ここで、引張強度は、一般的に用いられる引張試験機と一般的に用いられるコードグリップとを用いて実施され、その際に得られた破断強度(単位はN/コード)であった。
【0113】
屈曲試験機50は、直径10mmの1個の平プーリ51と、モータ(図示せず)と、4個のガイドプーリ52とを備えていた。まず、作製された試験片53を、5個のプーリに架けた。そして、試験片53の一端53aにおもりをつけて、試験片53に20Nの荷重を加えた。その状態で、試験片53の他端53bを図4に示された矢印の方向に5万回往復運動させ、平プーリ51の部分で試験片53を繰り返し屈曲させた。屈曲試験は室温で行った。このようにして、試験片53の屈曲試験を行ったのち、屈曲試験後の試験片53の引張強度を測定した。
【0114】
屈曲試験前の試験片の引張強度を100%としたときの、屈曲試験後の試験片の引張強度の割合、すなわち強度保持率(%)を求めた。この強度保持率の値が高いほど、耐屈曲性に優れている。各実施例及び比較例のゴム補強用コードの耐屈曲性の評価結果は、表1~3に示されている。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
【表3】
【0118】
【表4】
【0119】
表1に示すように、本発明の水性処理剤、すなわちレゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体及びCSMをゴム成分として含むゴムラテックスとを含む水性処理剤を用いて被膜が形成された実施例1のゴム補強用コードは、EPDMゴムとの優れた接着性を確保しつつ、優れた耐屈曲性も有していた。これに対し、ゴム成分がエチレン-グリシジルメタクリレート共重合体のみである比較例1のゴム補強用コードは、EPDMゴムとの優れた接着性を有することはできたが、耐屈曲性が悪かった。また、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体と、CSMではない他のゴム成分とが含まれている水性処理剤が用いられた比較例3~6のゴム補強用コードは、耐屈曲性は改善されたものの、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体を含んでいるにも関わらず接着性が悪かった。実施例1と比較例3~6との比較から、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体とCSMとが組み合わされることにより、接着性と耐屈曲性とのバランスに優れた被膜を作製できることがわかる。
【0120】
表2に示された結果から、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体の含有割合が15質量%以上かつ95質量%以下であり、かつCSMの含有割合が5質量%以上かつ85質量%以下の範囲内である実施例1~5のゴム補強用コードは、EPDMゴムとの優れた接着性を確保しつつ、より優れた耐屈曲性も有していた。すなわち、実施例1~5のゴム補強用コードは、接着性と耐屈曲性とのバランスにより優れた被膜を作製できることがわかる。
【0121】
表3に示された結果から、ゴム成分がCSMのみである比較例2のゴム補強用コードは、耐屈曲性は改善されたが、マトリックスゴムとの接着性が悪かった。また、CSMと、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体ではない他のゴム成分とが含まれている水性処理剤が用いられた比較例7~9のゴム補強用コードは、耐屈曲性は非常に優れていたが、接着性が非常に悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は、ゴム製品を補強するためのゴム補強部材に利用できる。
【符号の説明】
【0123】
10、20 歯付ベルト
11、21 ベルト本体
12、25 ゴム補強用コード
13、23 ベルト部
14、24 歯部
22 ゴム補強用シート
30 ストランド
31 ガラス繊維
32 被膜
40 ゴム補強用コード
50 屈曲試験機
51 平プーリ
52 ガイドプーリ
53 試験片
図1A
図1B
図2
図3
図4