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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014102
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】行動制限推定システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20240125BHJP
   G16H 50/30 20180101ALI20240125BHJP
【FI】
A61B5/055 380
G16H50/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116694
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】591014813
【氏名又は名称】株式会社田代合金所
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧 聡
(72)【発明者】
【氏名】新納 義昭
【テーマコード(参考)】
4C096
5L099
【Fターム(参考)】
4C096AB41
4C096AC01
4C096AD14
4C096DC21
4C096DD18
5L099AA04
(57)【要約】
【課題】将来における患者に対する各種拘束等の実施可能性を推定できる行動制限推定システムを提供すること。
【解決手段】患者Pの脳についての複数の断層像を撮影するMRI1と、MRI1によって得た患者Pの複数の断層像を記憶する断層像記憶手段2と、記憶した複数の断層像に基づいて患者3次元脳画像を構成し、それをインターネット回線経由で送信することができる患者脳画像送信手段3と、送信された患者3次元脳画像を受信し、将来において患者Pが行動制限を受ける可能性に関する予測結果を出力するニューラルネットワーク4と、出力された予測結果に応じて、患者Pが将来行動制限を受ける可能性に関する報知を行う行動制限報知手段5を備えている行動制限推定システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MRIによって得た患者の脳についての複数の断層像を記憶する断層像記憶手段と、
前記断層像記憶手段に記憶された前記複数の断層像に基づいて患者脳画像を送信する患者脳画像送信手段と、
前記患者脳画像送信手段から送信された前記患者脳画像を受信し、将来において前記患者が行動制限を受ける可能性に関する予測結果を出力するニューラルネットワークと、
前記予測結果に応じて、前記患者が行動制限を受ける可能性に関する報知を行う行動制限報知手段を備え、
前記ニューラルネットワークは、予め多数の被検者からMRIによって得た各被検者の脳についての複数の被検者断層像に基づく被検者脳画像と、各被検者の行動制限履歴データからなる多数の学習データセットが予め与えられ、学習させることによって最適化されている
ことを特徴とする行動制限推定システム。
【請求項2】
前記行動制限は、少なくとも身体拘束を含んでおり、
前記行動制限報知手段は、少なくとも前記患者が前記身体拘束を受ける可能性に関する報知を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の行動制限推定システム。
【請求項3】
前記身体拘束は、少なくとも5点拘束又はベッド柵設置を伴うベッド上での強拘束、前記ベッド上での強拘束以外のベッド上での弱拘束及び車いす上での拘束を含んでおり、
前記行動制限報知手段は、少なくとも前記患者が前記ベッド上での強拘束、前記ベッド上での弱拘束及び前記車いす上での拘束を受ける可能性に関する報知を行う
ことを特徴とする請求項2に記載の行動制限推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、MRI(Magnetic Resonance Imaging:核磁気共鳴画像)によって得られた脳の断層像を利用して、将来における患者の行動制限が実施される傾向(患者に対する各種拘束等の実施可能性)を推定するための行動制限推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、認知症等が疑われる患者に対する身体拘束(当該患者の生命を保護すること及び重大な身体損傷を防ぐことに重点を置いた行動制限)が行われている。
身体拘束に当たる例としては、目的に応じ以下の様な事項が挙げられる。
(1)徘徊しないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
(2)転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
(3)自分で降りることができないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
(4)点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
(5)点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、又は皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。
(6)車いすやいすからずり落ちたり、車いすやいすの上に立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける。
(7)立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する。
(8)脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
(9)他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。
(10)行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
(11)自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。
【0003】
しかし、厚生省令では「入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため、緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者の行動を制限する行為を行ってはならない。」とされており、厚生労働省身体拘束ゼロ作戦推進会議がまとめた「身体拘束ゼロへの手引き」等には、次の緊急・やむを得ない場合の三原則が示されている。
(原則1)切迫性:利用者本人又は他の利用者等の生命又は身体が危険にさらされる可能性が著しく高い事。
(原則2)非代替性:身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替えする介護方法がない事。
(原則3)一時性:身体拘束その他の行動制限が一時的なものである事。
これを受けて、各自治体・病院で身体拘束ゼロにむけた取り組みが行われているが、身体拘束者数は2003年度の5000人強から2014年度の11000人弱まで増加が続き、その後も高止まりしている(2019年度は約11000人)。
【0004】
ところで、特許文献1(特許第5641629号公報)には、機械学習の手法を用い、MRIなどでスキャンした脳画像に基づいて、個人の特性(IQ、注意力、記憶力、社会性、病気、性格、価値観、資質)を推測する点が記載されている(特に、段落0045~0047を参照)。
また、特許文献2(特表2018-531648号公報)には、機械学習システムが人間の脳の入力された3D放射線体積を、出血の識別、アルツハイマーの可能性の証拠又は発作の兆候などを含む異常として分類し、分類の信頼度も提供される点が記載されている(特に、段落0048を参照)。
さらに、特許文献3(特許第6483890号公報)には、機械学習された予測アルゴリズムに従って、被検者が所定期間内にアルツハイマー病を発症するか否かの予測を行う点が記載されている(特に、請求項1を参照)。
しかし、特許文献1に記載されている個人特性予測システムは、大脳の各部位の特性値と能力又は資質との相関に関する情報とを記憶させておく必要があるため(請求項1を参照)、段落0042や図10に記載されているように、ある能力又は資質がどの部位の特性値と相関が高いかを予め定めておく必要がある。
そして、特許文献2に記載されている機械学習システムは、出血の識別、アルツハイマーの可能性の証拠又は発作の兆候などを分類し、特許文献3に記載されている診断支援装置は、被検者が所定期間内にアルツハイマー病を発症するか否かの予測を行うものであって、いずれも医師等が行う診断を支援するシステムに関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5641629号公報(特開2015-84970号公報)
【特許文献2】特表2018-531648号公報(特許第6450053号公報)
【特許文献3】特許第6483890号公報(特開2019-187966号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、身体拘束者数は2003年度から10年間で倍増した後高止まりしており、身体拘束ゼロにむけた取り組みが困難な状況にあることが分かる。
この状況を打開するには、各患者が各種の行動制限を受ける可能性を予測し、受ける可能性の高い行動制限が発生しないようにするための対策を事前に行う必要があるが、特許文献1~3に記載されているシステムは、将来の行動制限を予測するものではないため、身体拘束ゼロを目指す対策に利用することができるものではなかった。
本発明が解決しようとする課題は、上記の現状に鑑み、将来における患者の行動制限が実施される傾向を推定できる行動制限推定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための請求項1に係る発明の行動制限推定システムは、
MRIによって得た患者の脳についての複数の断層像を記憶する断層像記憶手段と、
前記断層像記憶手段に記憶された前記複数の断層像に基づいて患者脳画像を送信する患者脳画像送信手段と、
前記患者脳画像送信手段から送信された前記患者脳画像を受信し、将来において前記患者が行動制限を受ける可能性に関する予測結果を出力するニューラルネットワークと、
前記予測結果に応じて、前記患者が行動制限を受ける可能性に関する報知を行う行動制限報知手段を備え、
前記ニューラルネットワークは、予め多数の被検者からMRIによって得た各被検者の脳についての複数の被検者断層像に基づく被検者脳画像と、各被検者の行動制限履歴データからなる多数の学習データセットが予め与えられ、学習させることによって最適化されていることを特徴とする。
【0008】
上記の課題を解決するための請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の行動制限推定システムにおいて、
前記行動制限は、少なくとも身体拘束を含んでおり、
前記行動制限報知手段は、少なくとも前記患者が前記身体拘束を受ける可能性に関する報知を行うことを特徴とする。
【0009】
上記の課題を解決するための請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明の行動制限推定システムにおいて、
前記身体拘束は、少なくとも5点拘束又はベッド柵設置を伴うベッド上での強拘束、前記ベッド上での強拘束以外のベッド上での弱拘束及び車いす上での拘束を含んでおり、
前記行動制限報知手段は、少なくとも前記患者が前記ベッド上での強拘束、前記ベッド上での弱拘束及び前記車いす上での拘束を受ける可能性に関する報知を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1及び2に係る発明の行動制限推定システムは、MRIによって得た患者の脳についての複数の断層像に基づく患者脳画像を受信し、将来において患者が行動制限(請求項2に係る発明では少なくとも身体拘束を含む)を受ける可能性に関する予測結果を出力するニューラルネットワークと、予測結果に応じて、患者が行動制限を受ける可能性に関する報知を行う行動制限報知手段を備え、
ニューラルネットワークは、予め多数の被検者からMRIによって得た各被検者の脳についての複数の被検者断層像に基づく被検者脳画像と、各被検者の行動制限履歴データからなる多数の学習データセットが予め与えられ、学習させることによって最適化されているので、将来における患者に対する各種拘束等の実施可能性を推定でき、その患者が受ける可能性の高い拘束等の行動制限が発生しないようにするための対策を事前に実施することができる。
【0011】
請求項3に係る発明の行動制限推定システムは、請求項2に係る発明の行動制限推定システムが奏する上記の効果に加え、少なくとも患者が将来においてベッド上での強拘束、ベッド上での弱拘束及び車いす上での拘束を受ける可能性に関する予測結果を出力し、報知を行うことができるので、その患者が受ける可能性の高い拘束が発生しないようにするための、よりきめ細かな対策を事前に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例に係る行動制限推定システムの概念図。
図2】ニューラルネットワーク4の構成を示すブロック図。
図3】ニューラルネットワーク4に対して行った学習における学習曲線。
図4】行動制限に関する予測結果と実際の行動制限実施情報との比較結果を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施例によって、本発明の実施の形態を説明する。
【実施例0014】
図1は実施例に係る行動制限推定システムの概念図である。
図1に示すように、実施例に係る行動制限推定システムは、認知症が疑われる患者Pの脳についての複数の断層像を撮影するMRI1と、MRI1によって得た患者Pの複数の断層像を記憶する断層像記憶手段2と、記憶した複数の断層像に基づいて患者Pの3次元脳画像(以下「患者3次元脳画像」という。)を構成し、その患者3次元脳画像をインターネット回線経由で送信することができる患者脳画像送信手段3と、送信された患者3次元脳画像を受信し、将来において患者Pが行動制限を受ける可能性に関する予測結果を出力するニューラルネットワーク4と、出力された予測結果に応じて、患者Pが将来行動制限を受ける可能性に関する報知を行う行動制限報知手段5を備えている。
そして、断層像記憶手段2、患者脳画像送信手段3及び行動制限報知手段5は、院内PC6に備えられ、行動制限報知手段5には、ニューラルネットワーク4によって予測された、患者Pが将来行動制限を受ける可能性に関する情報が表示されるので、医師Dはその情報を参考にしつつ、患者Pに対する治療計画を的確に策定することができる。
なお、行動制限報知手段5は、ニューラルネットワーク4の出力が「将来身体拘束を受ける可能性有り」である場合には、患者Pは将来身体拘束を受ける可能性が有る旨の報知を行い、同出力が「将来身体拘束を受ける可能性無し」である場合には、患者Pは将来身体拘束を受ける可能性が無い旨の報知を行う。報知の仕方としては画面上に表示する場合、「有」又は「無」のような文字による報知、「×」又は「○」のような記号による報知、「画面の一部又は全部を赤色とする」又は「画面の一部又は全部を青色とする」ような色による報知等が挙げられ、音声による報知も可能である。
【0015】
患者Pの脳についての複数の断層像を撮影するに先立って、数年から10年程の時間をかけて、多数の認知症が疑われる被検者から脳についての複数の被検者断層像がMRI1によって撮影され、患者脳画像送信手段3と同じ手法によって、複数の被検者断層像に基づく3次元脳画像(以下「被検者3次元脳画像」という。)が構成されるとともに、各被検者の行動制限履歴データが作成され、各被検者の被検者3次元脳画像と行動制限履歴データを紐づけた学習データセットが、学習データセット蓄積手段7に蓄積されている。
そして、ニューラルネットワーク4には、事前に学習データセット蓄積手段7に蓄積された各被検者の学習データセットが与えられており、学習させることによってニューラルネットワーク4が最適化され、AIパラメータの設定が行われる。
すなわち、特許文献1の個人特性予測システムのように、大脳の各部位の特性値と能力又は資質との相関に関する情報とを記憶させるような面倒な処理を行うことなく、被検者3次元脳画像を構成したり、被検者の行動制限履歴データを作成したりといった、通常の検査及び診療で行われている作業により発生するデータを紐づけて学習データセットとし、多くの被検者の学習データセットをニューラルネットワーク4に与え学習させておくだけで、新たな患者Pの患者3次元脳画像をニューラルネットワーク4に入力することによって、患者Pが将来行動制限を受ける可能性に関する情報を得ることができる。
なお、ニューラルネットワーク4及び学習データセット蓄積手段7は、院内PC6とインターネット回線等を介して通信可能に接続されている解析サーバ8に備えられている。
【0016】
ニューラルネットワーク4は、図2に示すように、入力層4I、出力層4O、サンプルデータ蓄積手段4L、サンプルデータ蓄積手段4Lに学習データセット蓄積手段7から多数の学習データセットからなるサンプルデータを入力するサンプルデータ入力手段4T並びに図示しない複数の畳み込み層、プーリング層、BN層(Batch-normalization層)、ドロップアウト層(drop-out層)、全結合層、その他で構築される畳み込みニューラルネットワークである。一般には2~3層の畳み込み層と1層のプーリング層を組み合わせたものを1単位とし、数単位を直列させたものに、さらに2~4層の全結合層を組み合わせることが多い。なお、BN層及びドロップアウト層は必須ではないが、これらを挿入することにより、ニューラルネットワーク全体の過学習の抑制が期待できる。
本実施例では、ニューラルネットワーク4として、画像認識タスクにおいて高い予測性能をもつResNet152(「152-layer residual Network」の略称)を3次元データ用に改良したものを利用した。
【0017】
入力層4Iには、上述した患者脳画像送信手段3から患者3次元脳画像が与えられる。 また、出力層4Oからは、将来において患者Pが行動制限を受ける可能性に関する予測結果が出力され、その予測結果は上述した行動制限報知手段5に与えられる。
ニューラルネットワーク4は、サンプルデータ蓄積手段4Lに蓄えられる多数のサンプルデータ(通常は数百人~数千人分の被検者3次元脳画像及び行動制限履歴データ)を学習させることによって最適化される。そして、十分な数のサンプルデータによってニューラルネットワーク4を最適化することにより8割以上の予測精度を得ることができる。
【0018】
本実施例では、患者3次元脳画像及び被検者3次元脳画像を、早期アルツハイマー型認知症に特徴的にみられる海馬傍回付近の萎縮の程度をMRI画像から読み取るために使用されている画像処理・統計解析ソフトウエアであるVSRAD(登録商標)と同じ撮影方法で取得したデータを使用して生成している。具体的には、DICOMと呼ばれる医用データ規格に従って生成される256×256×110ドットの全脳をカバーする3次元画像であり、2バイトの濃淡データで構成されている。そして、本実施例では学習データセットとして用いるため、256×256×110ドットの3次元画像を128×128×110ドットの3次元画像に縮小変換するとともに、画像を縦横奥行方向に平行移動、回転などのデータ拡張(Data Augmentation)を行って少ないデータを補完し、濃淡情報を0から1に正規化している。また、3次元脳画像とともに記録される情報のうち患者又は被検者を特定可能な情報については、個人情報の保護に関する法律及び医療情報利活用における匿名化技術ガイドに従って匿名化するため、患者の名前に代えて患者ID、被検者の名前に代えて被検者IDを用い、その患者ID又は被検者IDに対応させて、少なくとも画像撮影日と患者又は被検者の性別及び年齢を記録している。
【0019】
学習データセットに用いる被検者の行動制限履歴データは、被検者3次元脳画像と紐づけるために被検者IDを含んでおり、各被検者IDに対応させて、少なくとも身体拘束の必要性を判断した日と、その日に判断した身体拘束の要不要に関する情報とを記録しており、身体拘束が必要と判断したケースについては、身体拘束の例として上記した(1)~(9)の事項を3つのカテゴリ(5点拘束又はベッド柵設置を伴うベッド上での強拘束の実施、強拘束以外のベッド上での弱拘束の実施及び安全ベルトや腰ベルト等を用いる車いす上での拘束の実施)に分け、いずれの身体拘束が必要かに関する情報を記録している。
【0020】
本実施例では、被検者3次元脳画像と被検者の行動制限履歴データを紐づけた366件の学習データセットを準備し、そのうち268件をサンプルデータ蓄積手段4Lに蓄えるサンプルデータとして利用し、68件をニューラルネットワーク4の最適化に必要なテストデータとして利用し、30件を行動制限推定システムによる予測結果を検証するための評価データとして利用した。
図3は、ニューラルネットワーク4を最適化するに当たって行った学習における学習曲線(推定誤差の推移)を示すグラフである。縦軸は推定誤差を評価する指標「val_loss」の値であり、横軸は学習回数である。なお、縦軸は学習の初期段階で値が大きく変化するため、対数表示にしてある。学習は2000回行い、学習の効果によって推定誤差が減少しなくなった時点(正解率が最大化した時点)で終了するように設定した。
そして、本実施例において行った学習では、177回目から277回目まで推定誤差が減少しなかったため、図3では横軸(学習回数)の最大値は277となっており、本実施例では、最小の推定誤差となった177回目におけるAIパラメータを使用した。
【0021】
図4は、そのようにして最適化されたニューラルネットワーク4に対して、30件の評価データにおける被検者3次元脳画像を入力し、出力された行動制限に関する予測結果と実際の行動制限実施情報との比較結果を示す表である。
ここで、出力された行動制限に関する予測結果は、入力した被検者3次元脳画像に紐づけられている被検者が将来行動制限(身体拘束)を受ける可能性に関する予測結果(可能性の有無)であり、予測結果「1」は身体拘束有を意味し、予測結果「0」は身体拘束無を意味している。また、実際の行動制限実施情報は、同被検者の行動制限履歴データに記録されている身体拘束の要不要に関する情報であり、「1」は身体拘束要と記録されていることを意味し、「0」は身体拘束不要と記録されていることを意味している。
図4から分かるように、予測結果「1」は19件あり、そのうち予測が合っているものは17件なので、身体拘束有と予測した場合の正解率は89.5%となっている。一方、予測結果「0」は11件あり、そのうち予測が合っているものは9件なので、身体拘束無と予測した場合の正解率は81.8%となっている。
身体拘束有無の内訳は身体拘束有が63.3%、身体拘束無が36.7%と身体拘束有に偏っているが、いずれも正解率は8割を超えているので、ニューラルネットワーク4による行動制限の予測は十分にできているものといえる。
すなわち、認知症が疑われる患者Pの脳を撮影したMRI画像を解析するだけで、患者Pの将来における行動制限実施の有無をある程度の正確さで予測できるので、本発明の行動制限推定システムは、医師Dが患者Pのその他の状態を考慮しつつ、将来において患者Pが行動制限を受けないようにするための対策を立てたり、現在患者Pに対して行動制限を実施すべきか否かを判断したりする際に十分役立つシステムであると評価できる。
【0022】
実施例の変形例を列記する。
(1)実施例の患者脳画像送信手段3は、患者Pの複数の断層像に基づいて患者3次元脳画像を構成し、その患者3次元脳画像をニューラルネットワーク4に送信するものであったが、ニューラルネットワーク4に各被検者の複数の被検者断層像と行動制限履歴データからなる多数の学習データセットが予め与えられ、学習させることによって最適化されている場合には、患者脳画像送信手段3は、患者Pの複数の断層像をそのままニューラルネットワークに送れば良く、ニューラルネットワーク4に各被検者の複数の被検者断層像に基づいて構成された複数の被検者2次元脳画像と行動制限履歴データからなる多数の学習データセットが予め与えられ、学習させることによって最適化されている場合には、患者脳画像送信手段3は、患者Pの複数の断層像に基づいて構成された複数の患者2次元脳画像をニューラルネットワークに送れば良い。
そのため、特許請求の範囲においては、「患者3次元脳画像」及び「被検者3次元脳画像」に代えて、それぞれ「患者脳画像」及び「被検者脳画像」という表現を用いている。
【0023】
(2)実施例においては、ニューラルネットワーク4から出力される行動制限に関する予測結果として、身体拘束を受ける可能性の有無を採用したが、図1に記載しているように、身体拘束を受ける可能性の大きさ(拘束発生確率)を採用することもできる。
また、実施例においては、患者Pが将来身体拘束を受ける可能性が有るか否かの予測結果を出力するだけであったが、行動制限履歴データには各被検者IDに対応させて、少なくとも身体拘束の必要性を判断した日と、その日に判断した身体拘束の要不要に関する情報が記録してあるので、各被検者について長期間にわたって継続的に患者3次元脳画像及び行動制限履歴データが作成され、学習データセット蓄積手段7に蓄積されていれば、将来の任意の時間を指定した上で、患者Pがその指定時間において身体拘束を受ける可能性が有るか否かの予測結果を出力させるように改良することもできる。
【0024】
(3)実施例においては、サンプルデータ蓄積手段4Lに蓄えるサンプルデータが少なかったため、被検者の行動制限履歴データとして3つのカテゴリに分けた身体拘束のうち、いずれの身体拘束が必要かに関する情報を記録しているにもかかわらず、身体拘束を受ける可能性に関する予測結果を出力することができなかったが、サンプルデータを1000件以上、テストデータを200件以上用意できれば、患者が将来においてベッド上での強拘束、ベッド上での弱拘束及び車いす上での拘束のうちのいずれの身体拘束を受ける可能性に関する予測結果を出力しつつ、十分な正解率を得ることができる。
さらに、サンプルデータを数千件以上、テストデータを500件以上用意でき、かつ、被検者の行動制限履歴データとして、実施例で採用した3つのカテゴリ以外に、身体拘束の例として上記した(10)及び(11)の事項の実施、通信制限の実施、面会制限の実施、院内移動制限の実施、外出制限の実施の中から、少なくとも1つ以上を選択して、選択したいずれの行動制限が必要かに関する情報を記録すれば、より様々なパターンの行動制限を受ける可能性に関する予測結果を出力しつつ、十分な正解率を得ることができる。
また、サンプルデータやテストデータの件数を増やし学習回数を増やすだけでなく、人工知能(AI)の新しい技術であるTransformer(Attention)を応用することによっても正解率は上がっていくものと予想される。
【符号の説明】
【0025】
1 MRI 2 断層像記憶手段 3 患者脳画像送信手段
4 ニューラルネットワーク 4I 入力層 4L サンプルデータ蓄積手段
4O 出力層 4T サンプルデータ入力手段 5 行動制限報知手段
6 院内PC 7 学習データセット蓄積手段 8 解析サーバ
D 医師 P 認知症が疑われる患者
図1
図2
図3
図4