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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141048
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】接続構造、及び接続構造構築方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/38 20060101AFI20241003BHJP
   E04B 1/41 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
E04B1/38 400Z
E04B1/41 503A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052486
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000108111
【氏名又は名称】セメダイン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596036692
【氏名又は名称】株式会社タツミ
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 駿
(72)【発明者】
【氏名】田所 洋介
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA71
2E125AF01
2E125AF03
2E125AF05
2E125AG13
2E125BA13
2E125BA22
2E125BA35
2E125BB08
2E125BB30
2E125BC09
2E125BD01
2E125BD03
2E125BE07
2E125BE08
2E125BF01
2E125CA81
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち従来に比してアンカー材(連結体)がその靭性を発揮することができる接続構造とその構築方法を提供することである。
【解決手段】本願発明の接続構造は、構造体に他の部材を接続するための構造であり、構造体に設けられる挿通孔と、貫通孔を有する調整体、一部が構造体の表面から突出する棒状の連結体を備えたものである。貫通孔のうち調整体の設置位置よりも孔奥側に形成される定着部には、貫通孔の内周面と連結体の外周面との間に接着空間が形成される。なお、連結体と構造体との付着強度より連結体と調整体との付着強度の方が低強度とされる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体に他の部材を接続するための構造であって、
前記構造体に設けられる挿通孔と、
前記挿通孔の開口部に設置され、貫通孔を有する調整体と、
前記貫通孔に通されたうえで前記挿通孔内に配置され、一部が前記構造体の表面から突出する棒状の連結体と、を備え、
前記挿通孔の内径と、前記調整体の外径と、が同一又は略同一であり、
前記挿通孔のうち前記調整体の設置位置よりも孔奥側に定着部が形成され、
前記定着部では、前記挿通孔の内周面と、前記連結体の外周面と、の間に接着空間が形成され、
前記連結体は、前記接着空間に充填された接着剤によって前記構造体に接着固定され、
前記連結体と前記構造体との付着強度より、該連結体と前記調整体との付着強度の方が低強度とされた、
ことを特徴とする接続構造。
【請求項2】
前記調整体には、前記挿通孔の軸方向にスリットが形成された、
ことを特徴とする請求項1記載の接続構造。
【請求項3】
前記調整体には、前記挿通孔の軸方向に貫通する壁内貫通孔が形成された、
ことを特徴とする請求項1記載の接続構造。
【請求項4】
前記調整体の一端側に、外側に拡径され前記挿通孔よりも大径のフランジ部が形成され、
前記フランジ部が前記構造体の表面に当接すると、前記調整体はさらに孔奥側に移動しない、
ことを特徴とする請求項1記載の接続構造。
【請求項5】
前記挿通孔の軸方向に間隔を設けて、複数の横溝が前記調整体の外周面に形成された、
ことを特徴とする請求項1又は請求項4記載の接続構造。
【請求項6】
前記挿通孔のうち前記調整体の設置位置よりも孔奥側に設置される隔壁体を、さらに備え、
前記定着部は、前記挿通孔のうち前記隔壁体の設置位置よりも孔奥側に形成され、
前記調整体と前記隔壁体の間に、接着剤が充填されない自由部が形成された、
ことを特徴とする請求項1記載の接続構造。
【請求項7】
前記調整体の外周面と前記挿通孔の内周面との間に、剥離剤が配置された、
ことを特徴とする請求項1記載の接続構造。
【請求項8】
前記連結体は、定着用接着剤によって前記構造体に接着固定され、
前記調整体は、調整体用接着剤によって前記連結体に接着固定され、
前記定着用接着剤の接着強度より、前記調整体用接着剤の接着強度の方が低強度とされた、
ことを特徴とする請求項1記載の接続構造。
【請求項9】
構造体に他の部材を接続するための接続構造を構築する方法であって、
前記接続構造は、前記構造体に設けられる挿通孔と、貫通孔を有するとともに該挿通孔の内径と同一又は略同一の外径とされる調整体と、一部が該構造体の表面から突出する棒状の連結体と、を含んで構成され、
前記構造体に前記挿通孔を設ける削孔工程と、
前記挿通孔の開口部に、前記調整体を設置する調整体設置工程と、
前記貫通孔を通じて、前記挿通孔内に接着剤を充填する接着剤充填工程と、
接着剤が充填された前記挿通孔に、前記貫通孔を通じて前記連結体を挿通する連結体挿通工程と、を備え、
前記挿通孔に挿通された前記連結体の外周面と、該挿通孔の内周面と、の間には接着空間が形成されるとともに、該接着空間に充填された接着剤によって該連結体は前記構造体に接着固定され、
前記連結体と前記構造体との付着強度より低い付着強度となるように、接着剤によって前記調整体を該連結体に接着固定する、
ことを特徴とする接続構造構築方法。
【請求項10】
構造体に他の部材を接続するための接続構造を構築する方法であって、
前記接続構造は、前記構造体に設けられる挿通孔と、貫通孔を有するとともに該挿通孔の内径と同一又は略同一の外径とされる調整体と、一部が該構造体の表面から突出する棒状の連結体と、を含んで構成され、
前記連結体を前記貫通孔に通したうえで、接着剤によって前記調整体を該連結体に接着固定する調整体固定工程と、
前記構造体に前記挿通孔を設ける削孔工程と、
前記挿通孔内に接着剤を充填する接着剤充填工程と、
接着剤が充填された前記挿通孔に、前記調整体が接着固定された前記連結体を挿通する連結体挿通工程と、を備え、
前記挿通孔に挿通された前記連結体の外周面と、該挿通孔の内周面と、の間には接着空間が形成されるとともに、該接着空間に充填された接着剤によって該連結体は前記構造体に接着固定され、
前記調整体固定工程では、前記連結体と前記構造体との付着強度より低い付着強度となるように、前記調整体を該連結体に接着固定し、
また前記調整体固定工程では、前記連結体を前記挿通孔に挿通したときに、前記調整体が該挿通孔の開口部に配置されるように該調整体を該連結体に接着固定する、
ことを特徴とする接続構造構築方法。
【請求項11】
前記調整体固定工程では、前記調整体よりも孔奥側に隔壁体を前記連結体に取り付け、
前記連結体挿通工程では、前記挿通孔のうち前記隔壁体の設置位置よりも孔奥側に接着剤が充填される定着部が形成されるとともに、前記調整体と該隔壁体の間に接着剤が充填されない自由部が形成される、
ことを特徴とする請求項10記載の接続構造構築方法。
【請求項12】
前記調整体には、前記挿通孔の軸方向に切り欠かれたスリット、又は貫通する壁内貫通孔が形成され、
前記連結体挿通工程では、前記連結体を挿通するときに、前記スリット又は前記壁内貫通孔を通じて前記挿通孔内の空気を外部に送り出し得る、
ことを特徴とする請求項9又は請求項10記載の接続構造構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、部材の接続技術に関するものであり、より具体的には、接着剤を利用して構造体に他の部材を接続する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既設の構造体に、他の部材を接続することがある。例えば、既設の壁体(構造体)に水平配置のブラケット(他の部材)を接続したり、既設の基礎コンクリート(構造体)に柱状体(他の部材)を接続したり、様々なケースで構造体に部材が接続されている。
【0003】
既設構造体に他の部材を接続するにあたっては、鉄筋や鋼管といったアンカーが利用されることがある。このアンカーは、既設構造体に固定されるもので、すなわちアンカーを介して既設構造体に部材を接続するわけである。例えば構造体がコンクリート造であって、あらかじめアンカーを設置することが予定されている場合は、アンカーの一部が埋設されるようにコンクリートを打込み、コンクリートが硬化した後にその表面から突出するアンカーの一部を利用して他の部材を接続することができる。
【0004】
一方、構造体が完成した後に、いわば後発的な事情により他の部材を接続するケースもある。この場合、構造体に小孔を設けるとともに、その小孔に挿通したアンカーを固定したうえで、そのアンカーを利用して構造体に部材を接続することがある。従来、小孔内でアンカーを固定するにあたっては、モルタル(例えば、無収縮モルタル)を用いることが多かったが、近年では接着剤が利用されることもある。例えば特許文献1では、構造部材に穴を穿設したうえでその穴内に接合部材(アンカー)を配置し、接合部材内に設けられた注入孔を通じて接着剤を孔内に注入する方法について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-044400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される技術は、接着剤を使用するため、モルタルを使用するケースに比べてアンカー(接合部材)を挿入する孔径を小さくすることができるうえ、モルタルを生成する手間などを要しないなど比較適容易に施工することができる。また、ベースプレートのネジ孔に螺合したうえでアンカーを挿入するため、片持ち梁(キャンチレバー)状態とはなるものの、孔内の断面中央付近にアンカーを配置することができる特長も有している。
【0007】
しかしながら特許文献1に開示される技術は、いくつか問題を指摘することができる。一般的にアンカーとしては鉄筋など小径の棒状材料が利用されるが、その鉄筋内に形成される注入孔はさらに小径となり、そのため接着剤が円滑に注入できないという問題がある。特に、難流動性の接着剤を採用する場合、小径の注入孔を移動せずに目詰まりするおそれさえある。また、アンカーがベースプレート(あるいは中間部材)のネジ孔に螺合されるため、アンカーを軸方向に引張したときベースプレート(あるいは中間部材)に拘束されるが故にアンカーが自由に伸長することができず、すなわち柔軟に靭性を発揮することができず比較的容易に破断するといった問題もある。
【0008】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち従来に比してアンカー材(連結体)がその靭性を発揮することができる接続構造とその構築方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、挿通孔の開口部に調整体を設置することとし、「連結体と構造体との付着強度」より「連結体と調整体との付着強度」の方を低強度とすることによって、連結体の靭性を確保する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0010】
本願発明の接続構造は、構造体に他の部材を接続するための構造であり、構造体に設けられる挿通孔と、貫通孔を有する調整体、一部が構造体の表面から突出する棒状の連結体を備えたものである。なお、調整体は挿通孔の開口部に設置され、連結体は貫通孔に通したうえで挿通孔内に配置される。また、挿通孔の内径と調整体の外径は略同一(同一を含む)とされ、挿通孔のうち調整体の設置位置よりも孔奥側に定着部が形成される。この定着部には、挿通孔の内周面と連結体の外周面との間に接着空間が形成され、この接着空間に充填された接着剤によって連結体は構造体に接着固定される。なお、連結体と構造体との付着強度より、連結体と調整体との付着強度の方が低強度とされる。
【0011】
本願発明の接続構造は、挿通孔の軸方向に「スリット」が調整体に形成されたものとすることもできる。
【0012】
本願発明の接続構造は、挿通孔の軸方向に貫通する「壁内貫通孔」が調整体に形成されたものとすることもできる。
【0013】
本願発明の接続構造は、調整体の一端側にフランジ部が形成されたものとすることができる。このフランジ部は、本体部分より外側に拡径されたいわば鍔状の部材であり、その外径は挿通孔より大きな寸法とされる。フランジ部が構造体の表面に当接すると、調整体はそれ以上孔奥側に移動することができず、すなわち調整体を過剰に押し込んでしまうことを防止することができる。
【0014】
本願発明の接続構造は、調整体の外周面に複数の横溝が形成されたものとすることができる。この横溝は、挿通孔の軸方向に間隔を設け形成され、外周面を周回するような環状とされる。横溝を設けることによって調整体の外周面は凹凸形状となり、すなわち平坦面とされたときよりも摩擦係数が向上し、その結果、挿通孔に挿通された調整体の抜け落ちを抑制することができる。
【0015】
本願発明の接続構造は、隔壁体をさらに備えたものとすることもできる。この隔壁体は、挿通孔のうち調整体の設置位置よりも孔奥側に設置される。この場合の定着部は、挿通孔のうち隔壁体の設置位置よりも孔奥側に形成され、調整体と隔壁体との間には接着剤が充填されない自由部が形成される。
【0016】
本願発明の接続構造は、調整体の外周面と挿通孔の内周面との間に剥離剤が配置されたものとすることもできる。
【0017】
本願発明の接続構造は、定着用接着剤によって連結体が構造体に接着固定され、調整体用接着剤によって調整体が連結体に接着固定されたものとすることもできる。ただし調整体用接着剤の接着強度は、定着用接着剤の接着強度より低強度とされる。
【0018】
本願発明の接続構造構築方法は、本願発明の接続構造を構築する方法であり、削孔工程と、調整体設置工程、接着剤充填工程、連結体挿通工程を備えた方法である。このうち削孔工程では、削孔することによって構造体に挿通孔を設け、調整体設置工程では、挿通孔の開口部に調整体を設置する。また接着剤充填工程では、貫通孔を通じて挿通孔内に接着剤を充填し、連結体挿通工程では、接着剤が充填された挿通孔に貫通孔を通じて連結体を挿通する。なお、挿通孔に挿通された連結体の外周面と挿通孔の内周面との間には接着空間が形成されるとともに、接着空間に充填された接着剤によって連結体は構造体に接着固定される。また、連結体と構造体との付着強度より低い付着強度となるように、接着剤によって調整体を連結体に接着固定する。
【0019】
本願発明の接続構造構築方法は、調整体固定工程を備えた方法とすることもできる。この調整体固定工程では、連結体を貫通孔に通したうえで、接着剤によって調整体を連結体に接着固定する。この場合、連結体挿通工程では、接着剤が充填された挿通孔に調整体が接着固定された連結体を挿通する。
【0020】
本願発明の接続構造構築方法は、調整体固定工程において調整体よりも孔奥側に隔壁体を連結体に取り付ける方法とすることもできる。この場合、連結体挿通工程では、挿通孔のうち隔壁体の設置位置よりも孔奥側に接着剤が充填される定着部が形成されるとともに、調整体と隔壁体の間に接着剤が充填されない自由部が形成される。
【0021】
本願発明の接続構造構築方法は、スリットが形成された調整体を使用する方法とすることもできる。なお、このスリットは挿通孔の軸方向に切り欠かれたものである。この場合、連結体挿通工程では、連結体を挿通するときにスリットを通じて挿通孔内の空気を外部に送り出すことができる。
【発明の効果】
【0022】
本願発明の接続構造、及び接続構造構築方法には、次のような効果がある。
(1)連結体と調整体との付着強度を、連結体と構造体との付着強度より低強度としたため、従来技術に比して連結体が高い靭性を発揮し、すなわち連結体の破断強度が向上する。
(2)定着部では挿通孔の内周面と連結体の外周面との間に接着空間が形成され、その接着空間に充填された接着剤によって連結体は構造体に確実に接着固定される。
(3)連結体に隔壁体を取り付けることによって、調整体と隔壁体との間に接着剤が充填されない自由部が形成される。これにより、連結体(特に、定着部以外の部分)がより伸びやすくなり、すなわちより高い靭性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】(a)は本願発明の接続構造を模式的に示す断面図、(b)は本願発明の接続構造を模式的に示す調整部における断面図、(c)は本願発明の接続構造を模式的に示す定着部における断面図。
図2】(a)は略鉛直に配置された連結体が構造体表面から上方向に突出する本願発明の接続構造を模式的に示す断面図、(b)は略鉛直に配置された連結体が構造体表面から下方向に突出する本願発明の接続構造を模式的に示す断面図。
図3】(a)はスリットが形成された調整体を模式的に示す側面図、(b)はスリットが形成された調整体を模式的に示す正面図。
図4】(a)は孔軸方向に平行なスリットが形成された調整体を模式的に示す斜視図、(b)は孔軸方向に対して傾斜するスリットが形成された調整体を模式的に示す斜視図、(c)は2つのスリットが形成された調整体を模式的に示す斜視図、(d)は4つのスリットが形成された調整体を模式的に示す斜視図。
図5】(a)はカギ状のスリットが形成された調整体を模式的に示す斜視図、(b)はX字状のスリットが形成された調整体を模式的に示す斜視図。
図6】(a)は2つの壁内貫通孔が形成された調整体を模式的に示す斜視図、(b)は6つの壁内貫通孔が形成された調整体を模式的に示す斜視図、(c)は1つの壁内貫通孔が形成されさらに排出管が設けられた調整体を模式的に示す斜視図。
図7】(a)は隔壁体を備えた接続構造を模式的に示す断面図、(b)は隔壁体を備えた接続構造を模式的に示す定着部における断面図、(c)は隔壁体を備えた接続構造を模式的に示す自由部における断面図。
図8】(a)はフランジ部が形成された調整体を示す側面図、(b)はフランジ部が形成された調整体を挿通孔の開口部に設置した状態を示す断面図。
図9】(a)は外周面に複数の横溝が形成された調整体を示す側面図、(b)は外周面に複数の横溝が形成された調整体を示す側面図を示す断面図。
図10】第1形態における接続構造構築方法の主な工程の流れを示すフロー図。
図11】第1形態における接続構造構築方法の主な工程を示すステップ図。
図12】第2形態における接続構造構築方法の主な工程の流れを示すフロー図。
図13】第2形態における接続構造構築方法の主な工程を示すステップ図。
図14】本願発明の接続構造に対して行った種々の試験結果を示す試験結果図。
図15】(a)は接続構造に対して行った引き抜き試験を模式的に示す断面図、(b)は接続構造に対して行った曲げ試験を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本願発明の接続構造、及び接続構造構築方法の実施の一例を図に基づいて説明する。
【0025】
1.接続構造
はじめに、本願発明の接続構造について詳しく説明する。なお、本願発明の接続構造構築方法は、本願発明の接続構造を構築する方法である。したがって、まずは本願発明の接続構造について説明し、その後に本願発明の接続構造構築方法について説明することとする。
【0026】
図1(a)は、本願発明の接続構造100を模式的に示す断面図である。本願発明の接続構造100は、構造体STに他の部材を接続するための構造であり、図1(a)に示すように挿通孔110と棒状の連結体120、調整体130を含んで構成され、さらに後述する隔壁体を含んで構成することもできる。なお、接続構造100が設けられる構造体STは、木製や単板積層材(LVL:Laminated Veneer Lumber)製、コンクリート製、樹脂製など種々の材質の物とすることができる。また、例えばコンクリート製の構造体STに設けられる接続構造100は、コンクリート打ち込み時に構築することもできるし、事後的(コンクリート硬化後)に構築することもできる。さらに、図1(a)では連結体120が略水平方向に配置され、すなわち構造体STの表面から横方向に突出した連結体120を利用して他の部材を接続する構成を示しているが、これに限らず図2(a)に示すように略鉛直に配置された連結体120が構造体ST表面から上方向に突出する構成や、図2(b)に示すように略鉛直に配置された連結体120が構造体ST表面から下方向に突出する構成とすることもできるし、もちろん連結体120を斜方向に配置する構成とすることもできる。
【0027】
挿通孔110は、図1(a)に示すように構造体STに設けられる空洞であって、連結体120を挿通するための柱状孔である。なお挿通孔110の孔径(断面径)は、連結体120の断面径よりも大きな寸法とされる。便宜上ここでは、挿通孔110の軸方向(図1(a)では左右方向)のことを単に「孔軸方向」ということとし、孔底に向かう方向(図1(a)では左方向)のことを「孔奥側」ということとする。
【0028】
連結体120は、棒状の部材であって、その一部(図1(a)では左側)が挿通孔110内に配置され、他の部分(図1(a)では右側)は構造体STの表面から突出する。なお、連結体120の突出長は、接続しようとする他の部材の寸法や形状、構造などに応じて適宜決定するとよい。また、図1(a)に示す連結体120は、表面全体にネジが設けられたいわゆる「全ネジ」の鋼棒を利用しているが、これに限らず一部(特に突出部分)にネジが設けられた鋼棒や、ネジが設けられない鋼棒を連結体120として利用することもできるし、鋼棒のほか樹脂製や硬質木材製など他の材質の部材を利用することもできる。
【0029】
調整体130は、図1(a)に示すように挿通孔110の開口部に設置される環状(リング状)体であって、連結体120の位置(特に、挿通孔110の断面内における位置)を調整するものである。調整体130の外径(断面径)は、挿通孔110の孔径(内径)と略同一(同一を含む)とされ、これにより挿通孔110の入り口側から嵌め込むことで連結体120を開口部に設置することができる。また環状の調整体130には貫通孔が設けられ、この貫通孔の内径(断面径)は連結体120の外径と略同一(同一を含む)とされる。すなわち、挿通孔110の開口部に設置された調整体130は、挿通孔110の断面内における位置が固定されることからその貫通孔の位置も固定され、したがって貫通孔に通された連結体120の位置も固定される。換言すれば、開口部に設置された調整体130によって、挿通孔110の断面内における連結体120の位置を調整(例えば、断面中心となるように調整)することができるわけである。
【0030】
調整体130は挿通孔110のうち開口部の一部を占有するものであり、したがって調整体130の軸長(孔軸方向の寸法)は任意に設計することができるものの挿通孔110の孔長よりは短い寸法とされる。なお調整体130は、鋼製のリング状(あるいは、管状)の部材のほか、樹脂製や硬質木材製など他の材質の部材を利用することもできる。
【0031】
また調整体130は、図3に示すようにスリット131が形成されたものとすることもできる。図3(a)はスリット131が形成された調整体130を模式的に示す側面図であり、図3(b)はスリット131が形成された調整体130を模式的に示す正面図(孔軸方向に見た図)である。この図に示すようにスリット131は、調整体130の一部を孔軸方向に切り欠くことによって形成される。
【0032】
スリット131は、図4(a)に示すように孔軸方向に対して平行となるように切り欠かれたものとすることもできるし、図4(b)に示すように孔軸方向に対して斜方向となるように(傾斜するように)切り欠かれたものとすることもできる。また直線状に限らず、図5(a)に示すように正面視でカギ状(階段状)となるようなスリット131を形成することもできるし、図5(b)に示すように正面視でX字状となるようなスリット131を形成することもできる。
【0033】
調整体130には、これらのスリット131を1箇所のみに形成することもできるし、複数個所にスリット131を形成することもできる。例えば、図3(b)や図4(c)では調整体130のうち2箇所にスリット131が形成されており、図4(d)では調整体130のうち4箇所にスリット131が形成されている。なお、図3図5に示すスリット131は、いずれも調整体130の側壁を貫通するように形成されているが、側壁を貫通することなく、この側壁の表面が凹んだ形状で形成することもできる。
【0034】
調整体130には、スリット131に代えて(あるいは、加えて)壁内貫通孔132を形成することもできる。この壁内貫通孔132は、図6に示すように挿通孔の軸方向に貫通する小孔であり、調整体130の側壁を肉厚方向に貫通することなく、つまり側壁内に収められるものである。また壁内貫通孔132は、スリット131と同様、調整体130のうち1又は2以上の箇所に形成することができる。例えば、図6(a)では2箇所に壁内貫通孔132が形成されており、図6(b)では6箇所に壁内貫通孔132が形成されている。
【0035】
後述するように、調整体130にスリット131や壁内貫通孔132を形成することによって、接着剤が充填された挿通孔110に連結体120を挿通する際、スリット131や壁内貫通孔132から接着剤がリーク(漏出)することでその充填を目視確認することができるうえに、挿通孔110内の空気(ガス)を外部に送り出すことができて好適となる。なお、接着剤や空気を外部に送り出す際に、その排出先を限定したいときは、図6(c)に示すように、壁内貫通孔132の外側(孔奥側とは反対側)の孔口に排出管133を取り付けるとよい。例えばこの図の場合、挿通孔110内の接着剤や空気は壁内貫通孔132を通過し、さらに排出管133を通って左側に排出されるわけである。
【0036】
連結体120は、調整体130の貫通孔に通されたうえで、その一部が挿通孔110内に配置される。既述したように挿通孔110の孔径は、連結体120の外径(断面径)よりも大きな寸法とされる。そのため図1(a)に示すように、調整体130が設置されていない区間では、挿通孔110の内周面と連結体120の外周面との間に、所定の空間(以下、「接着空間」という。)が形成される。便宜上ここでは、調整体130が設置されていない区間、すなわち挿通孔110のうち調整体130の設置位置より孔奥側の区間のことを「定着部」ということとし、これに対して調整体130が設置された区間のことを「調整部」ということとする。
【0037】
図1(b)は調整部における接続構造100を模式的に示す断面図(図1(a)のA-A断面図)であり、図1(c)は定着部における接続構造100を模式的に示す断面図(図1(a)のB-B断面図)である。図1(b)に示すように調整部では、挿通孔110の内周面と調整体130の外周面との間には空間が形成されず(あるいは、極めて小さい空間が形成され)、調整体130(貫通孔)の内周面と連結体120の外周面との間には接着剤が充填される程度の極めて小さい空間が形成される。そして、調整体130の内周面と連結体120の外周面との間に充填された接着剤によって、調整体130は連結体120に接着固定される。なお、既述したように調整体130の貫通孔の内径は連結体120の外径と略同一とされることから、調整体130と連結体120との間に接着剤が充填されることなく、調整体130を連結体120に固定することもできる。
【0038】
一方、図1(c)に示すように定着部では、挿通孔110の内周面と連結体120の外周面との間に接着空間GSが形成され、この接着空間GSに充填された接着剤によって連結体120は挿通孔110の内周面(つまり、構造体ST)に接着固定される。ただし、連結体120と構造体STとの付着強度、すなわち定着部における付着強度(以下、「定着部付着強度」という。)より、連結体120と調整体130との付着強度、すなわち調整部における付着強度(以下、「調整部付着強度」という。)の方が低強度とされる。調整部付着強度を定着部付着強度よりも低強度とするにあたっては、換言すれば定着部付着強度を調整部付着強度よりも高強度とするにあたっては、同じ接着剤を用いる場合、定着部ではその接着面を調整部よりも粗い面(凹凸のある面)としたり、定着部ではその接着面を調整部よりも接着しやすい材質としたりするなど、適宜調整するとよい。あるいは、連結体120と構造体STとの接着に用いる接着剤(以下、「定着用接着剤」という。)と、連結体120と調整体130との接着に用いる接着剤(以下、「調整体用接着剤」という。)をそれぞれ異なる種類の接着剤を採用することもできる。ただしこの場合は、定着用接着剤の接着強度よりも調整体用接着剤の接着強度の方が低強度となるように、それぞれ定着用接着剤と調整体用接着剤を採用する。なお、ここで使用する接着剤(定着用接着剤や調整体用接着剤を含む)は、特に限定されることなく従来公知の接着剤を用いることができ、例えば、ウレタン系、アクリル系、エポキシ系、シリコーン系、変成シリコーン系、酢酸ビニル系、ゴム系等を例示することができる。また、この接着剤は、溶媒揮散型、化学反応型、熱溶融型などそれぞれ現地に適した形態で用いればよい。
【0039】
定着部付着強度より調整部付着強度の方が低強度とされる結果、連結体120をその軸方向に引張したとき、連結体120はより柔軟に伸長し、すなわち高い靭性を発揮する。定着部付着強度と調整部付着強度を同じ付着強度とした場合、連結体120を軸方向に引張すると、その引張強度が付着強度を超えるまでは連結体120はあまり伸長することができない。つまり連結体120の伸長は、1種類の付着強度に支配されることとなる。一方、本願発明のように定着部付着強度と調整部付着強度の付着強度が異なる場合、連結体120を軸方向に引張すると、その引張強度が高強度側の付着強度(つまり、定着部付着強度)を超える前であっても、低強度側の付着強度(つまり、調整部付着強度)を超えた後であれば、少なくとも調整部における連結体120は柔軟に伸長することができる。すなわち本願発明の接続構造100は、定着部において連結体120を堅固に接着固定するとともに、調整部では連結体120の高い靭性を確保しているわけである。なお、調整部で連結体120の靭性を確保するという意味においては、調整体130の外周面と挿通孔110の内周面との間に剥離剤を配置することもできる。この剥離剤によって調整体130がスライド可能となり、調整体130のスライドに伴って連結体120はより円滑に伸長することができる。
【0040】
本願発明の接続構造100は、図7に示すように隔壁体140を備えたものとすることもできる。図7は、隔壁体140を備えた接続構造100を模式的に示す図であり、(a)はその断面図、(b)は定着部における断面図(図7(a)のB-B断面図)、(c)は自由部における断面図(図7(a)のC-C断面図)である。
【0041】
隔壁体140は、環状(リング状)の板状部材であって、図7(a)に示すように挿通孔110のうち調整体130の設置位置よりも孔奥側(図では、左側)に設置される。なお、連結体120は隔壁体140に設けられた孔に挿通され、隔壁体140は挿通孔110の内周面、あるいは連結体120の外周面に固定される。隔壁体140を挿通孔110や連結体120に固定するにあたっては、接着固定や溶接固定、蒸着固定など、従来用いられている種々の固定技術を利用することができる。また調整体130は、鋼製のリング状の板材のほか、樹脂製や硬質木材製など他の材質の部材を利用することもできる。
【0042】
接続構造100が隔壁体140を備える場合、隔壁体140の設置位置よりも孔奥側に定着部が形成され、調整体130と隔壁体140との間には「自由部」が形成される。この自由部には、図7(c)に示すように挿通孔110の内周面と連結体120の外周面との間に所定の空間が設けられるものの、その空間には接着剤が充填されない。一方の定着部では、図7(b)に示すように挿通孔110と連結体120との間に形成される接着空間GSに接着剤が充填される。つまり連結体120は、定着部において挿通孔110の内周面(つまり、構造体ST)に接着固定されるが、自由部においては固定されない。したがって、連結体120をその軸方向に引張したとき、連結体120は自由部において柔軟に伸長し、すなわちより高い靭性を発揮することができる。
【0043】
図8に示すように、調整体130の一端側にはフランジ状(鍔状)の部材(以下、「フランジ部134」という。)を形成することもできる。図8(a)はフランジ部134が形成された調整体130を示す側面図であり、図8(b)はフランジ部134が形成された調整体130を挿通孔110の開口部に設置した状態を示す断面図である。図8(a)に示すようにフランジ部134は、「本体部」より外側に拡径された環状の部材であり、その外径は挿通孔110より大きな寸法とされる。もちろんフランジ部134にも貫通孔が設けられており、本体部の貫通孔と連通している。
【0044】
図8(b)に示すように、フランジ部134が設けられた調整体130を挿通孔110の中に押し込んでいくと、フランジ部134の裏面(図では左側)が構造体STの表面に当接する。そしてフランジ部134が構造体STに当接すると、調整体130はそれ以上孔奥側に移動することができず、すなわち調整体130を過剰に押し込んでしまうような事態を防止することができるわけである。
【0045】
図9に示すように、調整体130の外周面には複数の横溝135を形成することもできる。この横溝135は、孔軸方向に間隔を設けたうえで形成され、外周面を周回するような環状(リング状)とされる。横溝135を設けることによって調整体130の外周面は凹凸形状となり、すなわち平坦面とされたときよりも摩擦係数が向上し、その結果、挿通孔110に挿通された調整体130の抜け落ちを抑制することができる。なお横溝135は、貫通孔の軸を中心とする円形形状とし、これを孔軸方向に対して略平行(平行を含む)となるよう配置することもできるし、いわゆる螺旋状となるように連続して形成することもできる。また、調整体130の一端側にフランジ部134を形成するとともに調整体130の外周面に調整体130を形成することもできるし、フランジ部134を形成することなく調整体130を形成することもできる。
【0046】
2.接続構造構築方法
続いて、本願発明の接続構造構築方法ついて、図を参照しながら説明する。なお、本願発明の接続構造構築方法は、ここまで説明した接続構造100を構築する方法である。したがって、接続構造100について説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の接続構造構築方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.接続構造」で説明したものと同様である。
【0047】
本願発明の接続構造構築方法は、調整体130を設置した後に挿通孔110内に接着剤を充填する形態(以下、「第1形態の接続構造構築方法」という。)と、挿通孔110内に接着剤を充填した後に調整体130を設置する形態(以下、「第2形態の接続構造構築方法」という。)に大別することができる。以下、第1形態の接続構造構築方法と第2形態の接続構造構築方法について順に説明する。
【0048】
(第1形態の接続構造構築方法)
図10は、第1形態における接続構造構築方法の主な工程の流れを示すフロー図であり、図11は、第1形態における接続構造構築方法の主な工程を示すステップ図である。第1形態の接続構造構築方法では、まず図11(a)に示すように、削孔機DRなどを利用して削孔し、構造体STに挿通孔110を形成する(図10のStep201)。次いで図11(b)に示すように、例えば挿通孔110の入り口側から嵌め込むことによって、調整体130を挿通孔110の開口部に設置する(図10のStep202)。このとき、調整体130の外周面に剥離剤を塗布したうえで、挿通孔110の開口部に設置することもできる。
【0049】
挿通孔110の開口部に調整体130を設置すると、図11(c)に示すように充填装置GNなどを利用しながら挿通孔110内に接着剤ADを充填していく(図10のStep203)。このとき、充填装置GNの筒先を調整体130の貫通孔に挿入し、この貫通孔を通じて接着剤ADを充填するとよい。
【0050】
挿通孔110内に接着剤ADを充填すると、図11(d)に示すように調整体130の貫通孔を通じて挿通孔110内に連結体120を挿通していく(図10のStep204)。連結体120を挿通孔110内に挿通することによって、挿通孔110の内周面と連結体120の外周面との間に形成された接着空間GSに接着剤ADが充填され、この接着剤ADによって連結体120は挿通孔110の内周面(つまり、構造体ST)に接着固定される。また、挿通孔110内に配置された接着剤ADに連結体120を貫入することによって、一部の接着剤ADが調整体130と連結体120との間に浸入し、その浸入した接着剤ADによって調整体130が連結体120に接着固定される。この場合、定着部ではその接着面を調整部よりも粗い面としたり、定着部ではその接着面を調整部よりも接着しやすい材質としたりするなど、定着部付着強度よりも調整部付着強度の方が低強度となるように調整しておく。あるいは、定着用接着剤と調整体用接着剤を利用することとし、あらかじめ調整体130(貫通孔)の内周面(あるいは、連結体120の外周面)に調整体用接着剤を塗布したうえで、連結体120を調整体130の貫通孔に挿通することもできる。ただし、定着用接着剤の接着強度よりも調整体用接着剤の接着強度の方が低強度となるように、それぞれ定着用接着剤と調整体用接着剤を採用する。
【0051】
調整体130にスリット131や壁内貫通孔132が形成されている場合、接着剤ADが充填された挿通孔110に連結体120を貫入することによって、スリット131や壁内貫通孔132から接着剤ADがリーク(漏出)し、これにより接着剤ADの充填を目視確認することができる。さらに、連結体120を挿通孔110内の接着剤ADに貫入することによって、挿通孔110内の空気(ガス)をスリット131や壁内貫通孔132から外部に送り出すこともできる。
【0052】
(第2形態の接続構造構築方法)
図12は、第2形態における接続構造構築方法の主な工程の流れを示すフロー図であり、図13は、第2形態における接続構造構築方法の主な工程を示すステップ図である。第2形態の接続構造構築方法では、まず図13(a)に示すように、削孔機DRなどを利用して削孔し、構造体STに挿通孔110を形成する(図12のStep201)。
【0053】
また、調整体130(貫通孔)の内周面(あるいは、連結体120の外周面)に接着剤AD(例えば、調整体用接着剤)を塗布したうえで、連結体120を調整体130の貫通孔に挿通することによって、調整体130を連結体120に接着固定する(図12のStep205)。このとき、最終的に調整体130が挿通孔110の開口部に配置されるように、しかも定着部付着強度よりも調整部付着強度の方が低強度となるように調整体130を連結体120に接着固定する。さらに隔壁体140を備える場合は、図13(b)に示すように調整体130の設置位置よりも孔奥側となるように、隔壁体140を連結体120に固定する。隔壁体140を挿通孔110や連結体120に固定するにあたっては、接着固定や溶接固定、蒸着固定など、従来用いられている種々の固定技術を利用することができる。なお、構造体STに挿通孔110を形成する工程(図12のStep201)と、調整体130を連結体120に接着固定する工程(図12のStep205)は、どちらを先に行ってもよいし、もちろん並行して行ってもよい。
【0054】
次いで、図13(c)に示すように充填装置GNなどを利用しながら挿通孔110内に接着剤ADを充填していく(図12のStep203)。挿通孔110内に接着剤ADを充填すると、調整体130が接着固定された連結体120を挿通孔110内に挿通していく(図12のStep204)。もちろん隔壁体140を備える場合は、図13(d)に示すように調整体130と隔壁体140が固定された連結体120を挿通孔110内に挿通していく。このとき、調整体130の外周面に剥離剤を塗布したうえで、連結体120を挿通孔110内に挿通していくこともできる。
【0055】
調整体130のみが接着固定されたケースでは、連結体120の挿通に伴って調整体130(特に、孔奥側の壁面)が挿通孔110内の接着剤ADを押すように移動させ、これにより調整体130の設置位置よりも孔奥側に定着部が形成される。一方、調整体130と隔壁体140が固定されたケースでは、連結体120の挿通に伴って隔壁体140(特に、孔奥側の壁面)が挿通孔110内の接着剤ADを押すように移動させ、これにより隔壁体140の設置位置よりも孔奥側に定着部が形成され、隔壁体140と調整体130との間には自由部が形成される。
【0056】
調整体130にスリット131や壁内貫通孔132が形成されている場合、接着剤ADが充填された挿通孔110に連結体120を貫入することによって、スリット131や壁内貫通孔132から接着剤ADがリーク(漏出)し、これにより接着剤ADの充填を目視確認することができる。さらに、連結体120を挿通孔110内の接着剤ADに貫入することによって、挿通孔110内の空気(ガス)をスリット131や壁内貫通孔132から外部に送り出すこともできる。
【0057】
(試験例)
発明者らが実際に行った試験について説明する。図14は、本願発明の接続構造100に対して行った種々の試験結果を示す試験結果図である。この試験では、調整体130が異なる3種類の本願発明の接続構造100と、調整体130を設置しない2種類の接続構造を比較している。より詳しくは次のとおりである。
CASE-1:外周に剥離剤が塗布されたアルミニウム製の調整体130を利用した本願発明の接続構造100
CASE-2:アクリル樹脂製の調整体130を利用した本願発明の接続構造100
CASE-3:アルミニウム製の調整体130を利用した本願発明の接続構造100
CASE-4:調整体130を設置しない比較例としての接続構造
CASE-5:調整体130を設置しない比較例としての接続構造
いずれのケースも、連結体120には全ネジの鋼棒を利用するとともに、挿通孔110内に充填する接着剤は「2液エポキシ樹脂系接着剤」を採用している。また、CASE-1~CASE-3(つまり、本願発明)はいずれも、調整体130の軸長を50mm、挿通孔110の軸長を100mm、定着部の軸長を50mmとし、しかも調整部付着強度の方が定着部付着強度より低強度となるように接着固定している。これに対してCASE-4では挿通孔110と定着部の軸長をともに50mmとしており、CASE-5では挿通孔110と定着部の軸長をともに100mmとしている。
【0058】
上記したCASE-1~CASE-5の接続構造に対して、それぞれ引き抜き試験と曲げ試験を実施した。このうち引き抜き試験は、図15(a)に示すように連結体120を軸方向(図では右方向)に引張する試験であり、一方の曲げ試験は、図15(b)に示すように連結体120を軸直角方向(図では下向き)に押下する試験である。なお便宜上、図15では調整体130が設置された本願発明の接続構造100の例を示しているが、もちろんCASE-4とCASE-5では調整体130が設置されていない。
【0059】
引き抜き試験では、23℃かつ50%RHで7日間静置した供試体を用い、試験機によって連結体120を3mm/minで軸方向に引張した。そして、連結体120の破断の傾向が見られる荷重の上昇が緩やかになる最大応力の95%に到達した値から、ボルト破断する時までの伸びが1.8mm以上(靭性性能)であって、しかも継ぎ手性能の構造強度が発現する最大引き抜き強度が8.0kN以上(引抜強度)となるものを合格とした。その結果、引抜強度に関してはいずれのケースも合格したが、靭性性能に関してはCASE-1~CASE-3(つまり、本願発明)のみが合格している。
【0060】
曲げ試験では、同じく23℃かつ50%RHで7日間静置した供試体を用い、試験機によって連結体120に対して3mm/minで下方に荷重をかけ、試験終了時までの荷重と移動量を測定した。そして、構造強度の最大曲げ応力が0.80kN以上(曲げ強度)であって、曲げヤング係数が2000KN/cm以上(補強効果)となるものを合格とした。その結果、曲げ強度、補強効果ともにCASE-1~CASE-3(つまり、本願発明)のみが合格している。以上の結果から、本願発明の接続構造100の有効性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本願発明の接続構造、及び接続構造構築方法は、工場などの生産施設や建設現場で利用できるほか、コンクリート構造物、鋼製構造物、木造建築物などあらゆる構造体で利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
100 本願発明の接続構造
110 (接続構造の)挿通孔
120 (接続構造の)連結体
130 (接続構造の)調整体
131 (調整体の)スリット
132 (調整体の)壁内貫通孔
133 (調整体の)排出管
134 (調整体の)フランジ部
135 (調整体の)横溝
140 (接続構造の)隔壁体
AD 接着剤
DR 削孔機
GN 充填装置
GS 接着空間
ST 構造体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15