(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141057
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】フレキシブルイオン吸着電極及びその作製方法、並びに汚染土壌浄化装置及び汚染土壌浄化方法
(51)【国際特許分類】
B09C 1/00 20060101AFI20241003BHJP
B01D 57/02 20060101ALI20241003BHJP
B03C 5/00 20060101ALI20241003BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20241003BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20241003BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20241003BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20241003BHJP
G21F 9/28 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B09C1/00 ZAB
B01D57/02
B03C5/00 Z
B01J20/18 B
B01J20/28 Z
B01J20/30
C02F1/28 B
G21F9/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052496
(22)【出願日】2023-03-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り https://www.mdpi.com/2075-4701/13/2/320,令和5年2月4日
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(71)【出願人】
【識別番号】505089614
【氏名又は名称】国立大学法人福島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001890
【氏名又は名称】三和テッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128277
【弁理士】
【氏名又は名称】專徳院 博
(72)【発明者】
【氏名】カビール ムハムドゥル
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 理夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友祐
(72)【発明者】
【氏名】岩田 光司
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 貴広
【テーマコード(参考)】
4D004
4D054
4D624
4G066
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB03
4D004AB09
4D004AC07
4D004CA44
4D004CA47
4D004CC06
4D004CC11
4D004DA03
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4D054FB20
4D624AA04
4D624AB15
4D624AB16
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4D624BC01
4G066AA04D
4G066AA61B
4G066AC01D
4G066AC07D
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA12
4G066CA45
4G066CA46
4G066CA47
4G066CA50
4G066DA08
4G066DA15
4G066FA03
4G066FA21
4G066FA25
4G066FA38
(57)【要約】
【課題】従来のフレキシブルイオン吸着電極に比較して性能及び再現性に優れるフレキシブルイオン吸着電極及びその作製方法を提供する。
【解決手段】水、導電材、吸着材、バインダーを混合する混合工程、前記混合工程を経て得られる混合物を脱水し固形化させる固形化工程、固形化物を圧縮する圧縮工程、圧縮された固形化物を乾燥させる仕上げ工程を備えるフレキシブルイオン吸着電極の作製方法において、前記固形化工程と前記圧縮工程との間に、固形化物を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程を経て得られる乾燥した固形化物を水に浸漬し軟化させる軟化工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、導電材、吸着材、バインダーを混合する混合工程、前記混合工程を経て得られる混合物を脱水し固形化させる固形化工程、固形化物を圧縮する圧縮工程、圧縮された固形化物を乾燥させる仕上げ工程を備えるフレキシブルイオン吸着電極の作製方法において、
前記固形化工程と前記圧縮工程との間に、
固形化物を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程を経て得られる乾燥した固形化物を水に浸漬し軟化させる軟化工程と、
を含むことを特徴とするフレキシブルイオン吸着電極の作製方法。
【請求項2】
前記フレキシブルイオン吸着電極は、水平電極式動電法において使用するマット状の電極であり、
前記導電材がくん炭、前記吸着材がゼオライト、前記バインダーがアバカ及びでんぷん粉であることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブルイオン吸着電極の作製方法。
【請求項3】
前記混合工程が、
熱湯、前記でんぷん粉、前記ゼオライト、前記アバカを撹拌混合する第1混合工程と、
前記第1混合工程で得られる混合物と前記くん炭とを撹拌混合する第2混合工程と、
を含み、
前記第2混合工程の撹拌速度が前記第1混合工程の撹拌速度に比較して低速であることを特徴とする請求項2に記載のフレキシブルイオン吸着電極の作製方法。
【請求項4】
前記混合工程前に前記導電材を乾燥させる前処理工程を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のフレキシブルイオン吸着電極の作製方法。
【請求項5】
くん炭、ゼオライト、アバカ及びでんぷん粉が混合されマット状に成形されたフレキシブルイオン吸着電極であって、
濃度500ppbの非放射性セシウム溶液に浸漬し測定した該フレキシブルイオン吸着電極の単位重量当たりの吸着量が50~65mg/kgであり、
湿潤状態において10V直流電圧を印加し測定した該フレキシブルイオン吸着電極の導電率が5000~7000μS/mであり、
長辺97mm×短辺68mm×厚さ6mmの寸法の該フレキシブルイオン吸着電極の長辺の一端から他端に向け10mm幅で固定し、長辺の他端を70gの荷重で引き上げたときの持ち上がり高さが70~80mmであることを特徴とするフレキシブルイオン吸着電極。
【請求項6】
処理対象である汚染土壌の表面に載置される、請求項1から4のいずれか1項に記載のフレキシブルイオン吸着電極の作製方法により得られるフレキシブルイオン吸着電極又は請求項5に記載のフレキシブルイオン吸着電極を備え、
動電現象により前記フレキシブルイオン吸着電極に前記汚染土壌中の汚染物質を吸着させ、前記汚染土壌を浄化することを特徴とする汚染土壌浄化装置。
【請求項7】
前記フレキシブルイオン吸着電極と、
前記フレキシブルイオン吸着電極とは異なる電極と、
前記フレキシブルイオン吸着電極と前記電極との間に直流電圧を印加する直流電圧印加手段と、
を備え、
前記フレキシブルイオン吸着電極と前記電極との間に直流電圧が印加され前記動電現象が生じることを特徴とする請求項6に記載の汚染土壌浄化装置。
【請求項8】
前記電極が電極杭であり、
前記電極杭は、前記汚染土壌中に差し込まれることを特徴とする請求項7に記載の汚染土壌浄化装置。
【請求項9】
さらに前記汚染土壌及び/又は前記フレキシブルイオン吸着電極を湿潤させる給水手段を備えることを特徴とする請求項6から8のいずれか1項に記載の汚染土壌浄化装置。
【請求項10】
前記汚染物質が、重金属類及び放射性セシウムのうち1種又は2種以上であることを特徴とする請求項6から8のいずれか1項に記載の汚染土壌浄化装置。
【請求項11】
請求項6から10のいずれか1項に記載の汚染土壌浄化装置を使用し、前記フレキシブルイオン吸着電極に前記汚染土壌中の汚染物質を吸着させ、前記汚染土壌を浄化することを特徴とする汚染土壌浄化方法。
【請求項12】
請求項1から4のいずれか1項に記載のフレキシブルイオン吸着電極の作製方法により得られるフレキシブルイオン吸着電極又は請求項5に記載のフレキシブルイオン吸着電極を汚染物質の吸着材として使用する汚染土壌の浄化方法であって、
前記フレキシブルイオン吸着電極を処理対象である汚染土壌と接触させ、前記汚染土壌中の汚染物質を吸着させ、前記汚染土壌を浄化することを特徴とする汚染土壌浄化方法。
【請求項13】
前記汚染土壌及び/又は前記フレキシブルイオン吸着電極が湿潤状態であることを特徴とする請求項12に記載の汚染土壌浄化方法。
【請求項14】
前記汚染物質が、重金属類及び放射性セシウムのうち1種又は2種以上であることを特徴とする請求項12又は13に記載の汚染土壌浄化方法。
【請求項15】
請求項1から4のいずれか1項に記載のフレキシブルイオン吸着電極の作製方法により得られるフレキシブルイオン吸着電極又は請求項5に記載のフレキシブルイオン吸着電極を汚染物質の吸着材として使用する汚染水の浄化方法であって、
前記フレキシブルイオン吸着電極を処理対象である汚染水と接触させ、前記汚染水中の汚染物質を吸着させ、前記汚染水を浄化することを特徴とする汚染水浄化方法。
【請求項16】
前記汚染水が、前記汚染物質を含有する排水又は廃液であることを特徴とする請求項15に記載の汚染水浄化方法。
【請求項17】
前記汚染物質が、重金属類及び放射性セシウムのうち1種又は2種以上であることを特徴とする請求項15又は16に記載の汚染水浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平電極式動電法において使用する電極及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原位置で汚染土壌を浄化する方法として、動電現象(界面動電現象)を利用した動電学的手法が知られている。動電学的手法は、湿潤状態の土壌に直流電圧を印加することで土壌中の重金属を電極近傍に集める手法である。従来の動電学的手法は、電極を一定間隔で土壌に挿入し、電極間に直流電圧を印加することで界面動電現象を誘起し、汚染物質を電界方向に移動させ土壌から除去する。
【0003】
従来の動電学的手法は、広範囲の原位置処理が困難であり、また排水による二次汚染の発生が懸念されるとし、従来の動電学的手法を改善した水平電極式動電法(FEM-EK法)が開発されている。水平電極式動電法の代表例を示せば、電極にマット状の電極と棒状電極とを用い、マット状の電極を陰極として土壌表面に密着させ、棒状電極を陽極として土壌中に挿入し垂直方向で動電処理を行う(例えば特許文献1,非特許文献1参照)。
【0004】
水平電極式動電法において使用するマット状の電極には、汚染物質の吸着性、導電性及びフレキシブル性を有することが必要条件となり、非特許文献1には当該電極の作製方法及び電極の評価結果が記載されている。以下、この電極をフレキシブルイオン吸着電極と記す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】畠山喜考ら、「天然ゼオライトとくん炭を用いたフレキシブルイオン吸着電極の作製」、静電気学会誌、41,2(2017)111-116
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおりフレキシブルイオン吸着電極には、優れた吸着性、導電性、フレキシブル性が要求されており、これまでにも各性能を高めるための取り組みもなされている。例えば、フレキシブルイオン吸着電極を作製する工程に圧縮工程を組み込むことでフレキシブル性が高まるとの報告もある。しかしながら従来のフレキシブルイオン吸着電極は、性能が十分とはいえず、またフレキシブルイオン吸着電極の性能の再現性が低いことも解決すべき課題となっている。
【0008】
本発明の目的は、従来のフレキシブルイオン吸着電極に比較して性能及び再現性に優れるフレキシブルイオン吸着電極及びその作製方法、さらに該フレキシブルイオン吸着電極を用いた汚染土壌浄化装置及び汚染土壌浄化方法、汚染水浄化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、水、導電材、吸着材、バインダーを混合する混合工程、前記混合工程を経て得られる混合物を脱水し固形化させる固形化工程、固形化物を圧縮する圧縮工程、圧縮された固形化物を乾燥させる仕上げ工程を備えるフレキシブルイオン吸着電極の作製方法において、前記固形化工程と前記圧縮工程との間に、固形化物を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程を経て得られる乾燥した固形化物を水に浸漬し軟化させる軟化工程と、を含むことを特徴とするフレキシブルイオン吸着電極の作製方法である。
【0010】
本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の作製方法において、前記フレキシブルイオン吸着電極は、水平電極式動電法において使用するマット状の電極であり、前記導電材がくん炭、前記吸着材がゼオライト、前記バインダーがアバカ及びでんぷん粉であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の作製方法において、前記混合工程が、熱湯、前記でんぷん粉、前記ゼオライト、前記アバカを撹拌混合する第1混合工程と、前記第1混合工程で得られる混合物と前記くん炭とを撹拌混合する第2混合工程と、を含み、前記第2混合工程の撹拌速度が前記第1混合工程の撹拌速度に比較して低速であることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の作製方法において、前記混合工程前に前記導電材を乾燥させる前処理工程を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明は、くん炭、ゼオライト、アバカ及びでんぷん粉が混合されマット状に成形されたフレキシブルイオン吸着電極であって、濃度500ppbの非放射性セシウム溶液に浸漬し測定した該フレキシブルイオン吸着電極の単位重量当たりの吸着量が50~65mg/kgであり、湿潤状態において10V直流電圧を印加し測定した該フレキシブルイオン吸着電極の導電率が5000~7000μS/mであり、長辺97mm×短辺68mm×厚さ6mmの寸法の該フレキシブルイオン吸着電極の長辺の一端から他端に向け10mm幅で固定し、長辺の他端を70gの荷重で引き上げたときの持ち上がり高さが70~80mmであることを特徴とするフレキシブルイオン吸着電極である。
【0014】
本発明は、処理対象である汚染土壌の表面に載置される、前記のフレキシブルイオン吸着電極の作製方法により得られるフレキシブルイオン吸着電極又は前記フレキシブルイオン吸着電極を備え、動電現象により前記フレキシブルイオン吸着電極に前記汚染土壌中の汚染物質を吸着させ、前記汚染土壌を浄化することを特徴とする汚染土壌浄化装置である。
【0015】
本発明に係る汚染土壌浄化装置は、前記フレキシブルイオン吸着電極と、前記フレキシブルイオン吸着電極とは異なる電極と、前記フレキシブルイオン吸着電極と前記電極との間に直流電圧を印加する直流電圧印加手段と、を備え、前記フレキシブルイオン吸着電極と前記電極との間に直流電圧が印加され前記動電現象が生じることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る汚染土壌浄化装置において、前記電極が電極杭であり、前記電極杭は、前記汚染土壌中に差し込まれることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る汚染土壌浄化装置は、さらに前記汚染土壌及び/又は前記フレキシブルイオン吸着電極を湿潤させる給水手段を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る汚染土壌浄化装置において、前記汚染物質が、重金属類及び放射性セシウムのうち1種又は2種以上であることを特徴とする。
【0019】
本発明は、前記汚染土壌浄化装置を使用し、前記フレキシブルイオン吸着電極に前記汚染土壌中の汚染物質を吸着させ、前記汚染土壌を浄化することを特徴とする汚染土壌浄化方法である。
【0020】
本発明は、前記フレキシブルイオン吸着電極の作製方法により得られるフレキシブルイオン吸着電極又は前記フレキシブルイオン吸着電極を汚染物質の吸着材として使用する汚染土壌の浄化方法であって、前記フレキシブルイオン吸着電極を処理対象である汚染土壌と接触させ、前記汚染土壌中の汚染物質を吸着させ、前記汚染土壌を浄化することを特徴とする汚染土壌浄化方法である。
【0021】
本発明に係る汚染土壌浄化方法において、前記汚染土壌及び/又は前記フレキシブルイオン吸着電極が湿潤状態であることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る汚染土壌浄化方法において、前記汚染物質が、重金属類及び放射性セシウムのうち1種又は2種以上であることを特徴とする。
【0023】
本発明は、前記フレキシブルイオン吸着電極の作製方法により得られるフレキシブルイオン吸着電極又は前記フレキシブルイオン吸着電極を汚染物質の吸着材として使用する汚染水の浄化方法であって、前記フレキシブルイオン吸着電極を処理対象である汚染水と接触させ、前記汚染水中の汚染物質を吸着させ、前記汚染水を浄化することを特徴とする汚染水浄化方法である。
【0024】
本発明に係る汚染水浄化方法において、前記汚染水が、前記汚染物質を含有する排水又は廃液であることを特徴とする。
【0025】
本発明に係る汚染水浄化方法において、前記汚染物質が、重金属類及び放射性セシウムのうち1種又は2種以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、従来のフレキシブルイオン吸着電極に比較して性能及び再現性に優れるフレキシブルイオン吸着電極及びその作製方法、さらに該フレキシブルイオン吸着電極を用いた汚染土壌浄化装置及び汚染土壌浄化方法、汚染水浄化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の作製手順を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の実施の一形態としての汚染土壌浄化装置1の構成図である。
【
図3】本発明の実施の一形態としての汚染土壌浄化方法、汚染水浄化方法を説明するための図である。
【
図4】本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の吸着量の測定結果である。
【
図5】本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の吸着量の測定結果である。
【
図6】本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の導電率の測定結果である。
【
図7】本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極のフレキシブル性の測定結果である。
【
図8】本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極のフレキシブル性の測定結果である。
【
図9】本発明に係る汚染土壌浄化方法を用いた汚染土壌浄化実験の要領を説明するための図である。
【
図10】本発明に係る汚染土壌浄化方法を用いた汚染土壌浄化実験の結果である。
【
図11】本発明に係る汚染土壌浄化方法を用いた汚染土壌浄化実験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の作製工程を示すフローチャートである。本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極は、水平電極式動電法において使用するマット状の電極であり、作製工程は、導電材を乾燥させる前処理工程(ステップS1)と、水、導電材、吸着材、バインダーを混合する混合工程(ステップS2)と、混合工程を経て得られる混合物を脱水し固形化させる固形化工程(ステップS3)と、固形化物を乾燥させる乾燥工程(ステップS4)と、乾燥した固形化物を水に浸漬し軟化させる軟化工程(ステップS5)と、軟化した固形化物を圧縮する圧縮工程(ステップS6)と、圧縮された固形化物を乾燥させる仕上げ工程(ステップS7)と、を含む。
【0029】
本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極において、電極の原材料は導電材、吸着材、バインダーである。導電材にはくん炭、吸着剤にはゼオライト、バインダーにはアバカ及びでんぷん粉を好適に使用することができる。
【0030】
くん炭は、もみ殻を炭化させたものである。くん炭は、特に粉砕及び分級の必要はない。導電材としては、くん炭の他、木・竹を炭化させた炭化材、活性炭などの導電材を使用することができる。
【0031】
ゼオライトは、特に限定されるものではないが、吸着除去しようとする汚染物質の吸着性能に優れるものが好ましい。ゼオライトは、天然ゼオライト、合成ゼオライトのいずれでもよいが安価に入手できるものが好ましい。ゼオライトは、ふるいを用いて分級した53μm以下の粒径を有するものを好適に使用することができる。
【0032】
アバカは、マニラアサから取れる耐質性があり、軽量で丈夫な繊維質の素材である。でんぷん粉は、特に限定されるものではなく主にゼオライトのバインダーとして機能する。
【0033】
本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の原材料であるくん炭、ゼオライト、アバカ及びでんぷん粉の代表的な混合割合を示せば、くん炭9.0~9.1gに対してアバカ1.0g、でんぷん粉2.0g、ゼオライト0.5~4.0gである。
【0034】
本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極において、ゼオライトの含有量は特に吸着性能に影響を及ぼし、ゼオライトの含有量が多いほど吸着性能が高まる。一方でゼオライトの含有量が極端に多くなると導電率の低下、さらには形状保持性が低下する。これらの点からゼオライトの添加量は、くん炭+アバカに対して質量比で2.5~40%、好ましくは5~20%、より好ましくは10~15%であり、使用場所の汚染物の種類及びその濃度に応じて適宜選択すればよい。
【0035】
以下、導電材、吸着材、バインダーとして、くん炭9.1g、ゼオライト1.0g、アバカ1.0g及びでんぷん粉2.0g、また混合工程(ステップS2)で使用する水は、熱湯150mLであるものとして、本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の作製工程を従来法1及び従来法2と対比しつつ詳述する。
【0036】
前処理工程(ステップS1)では、導電材であるくん炭9.1gを乾燥させる。この乾燥操作は、くん炭の分散性向上及びステップS3の固形化工程で行う脱水操作における脱水性向上を目的とするものであり、代表的には恒温乾燥機を用いて75℃で12時間の乾燥を行う。
【0037】
混合工程(ステップS2)は、水、導電材、吸着材、バインダーを混合する工程であるが、本発明では均一な混合を目的として混合工程を2ステップで行う。
【0038】
第1混合工程(ステップS2-1)では、熱湯150mLにでんぷん粉2.0g、ゼオライト1.0g、アバカ1.0gを投入し、撹拌機を用いて撹拌混合を行う。でんぷん粉を熱湯に溶かすことで熱湯(溶液)の粘度が上昇する。熱湯の粘度を上昇させることで比重の軽いゼオライト及びアバカを一度熱湯中に沈ませれば浮上を防ぐことができる。これにより均一な混合が可能となる。第1混合工程では、熱湯(溶液)の粘度を上昇させるべく熱湯に対するでんぷん粉の投入割合が、従来法1、従来法2に比較して高くなっている。従来法1、従来法2では、熱湯200mLにでんぷん粉2.0gを投入している。
【0039】
第2混合工程(ステップS2-2)では、第1混合工程で得られる混合物に対してくん炭9.1gを加え、撹拌混合する。第2混合工程における撹拌速度は、第1混合工程における撹拌速度に比較して低速で行うのがよい。第2混合工程では、撹拌速度を低速にすることでくん炭の破砕・解砕を防ぐ。
【0040】
固形化工程(ステップS3)は、第2混合工程(ステップS2-2)で得られる混合物を脱水することで固形化させる工程である。具体例を示せば、電極成型のための型枠を準備し、そこに混合物を流し込み、真空ポンプを用いた吸引ろ過を行い、水分を取り除く。型枠には電極の不均一性を防ぐためにメッシュが組み込まれている。
【0041】
乾燥工程(ステップS4)は、固形化工程(ステップS3)で得られる固形化物を乾燥させる。この乾燥工程は、ステップS5の軟化工程の前処理として位置づけられるものであり、乾燥工程(ステップS4)と軟化工程(ステップS5)は、セットとなっている。乾燥工程(ステップS4)は、代表的には恒温乾燥機を用いて75℃で12時間の乾燥を行う。
【0042】
軟化工程(ステップS5)は、乾燥工程(ステップS4)で得られる乾燥した固形化物を水に浸漬し軟化させる。ここでは代表的には約10mLの水に乾燥した固形化物を浸漬し、軟化させる。乾燥した固形化物に再度水を添加することで固形化物が軟化する。乾燥した固形化物を圧縮すると、有機物の繊維状態、電極としての形状を保持できないが、固形化物を軟化させることで圧縮しても有機物の繊維状態、電極としての形状を保持することができる。これらにより最終的に得られるフレキシブルイオン吸着電極の性能、特性のばらつきが小さくなり、再現性が高まる。
【0043】
圧縮工程(ステップS6)では、軟化工程(ステップS5)で得られる軟化させた固形化物を型枠に入れ、プレス機を用いて固形化物をこれらの限定厚さまで圧縮処理する。例えば、くん炭9.1g、アバカ1.0g、でんぷん粉2.0g、ゼオライト1.0gを原材料とした場合、軟化工程(ステップS5)後の固形化物の厚さは約10mmであり、圧縮工程(ステップS6)で限界厚さ約6mmまで圧縮する。圧縮操作は、代表的にはプレス圧力2.5~10MPa、加圧時間1minである。
【0044】
仕上げ工程(ステップS7)は、圧縮工程(ステップS6)後の固形化物を乾燥させる工程である。ここでは、代表的には恒温乾燥機を用いて75℃で12時間の乾燥を行う。
【0045】
以上のステップS1からステップS7の工程を経て本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極を得ることができる。
【0046】
次に本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の評価方法について説明する。フレキシブルイオン吸着電極の評価項目は、(1)吸着性、(2)導電性、(3)フレキシブル性である。
【0047】
吸着性の評価方法は、次の通りである。
吸着性の評価にはセシウム溶液を用いた。蒸留水と和光純薬工業株式会社の非放射性セシウム標準液(133Cs,1000mg/L)を混合して濃度500ppbのセシウム溶液(以下、溶液)を調製した。作製したフレキシブルイオン吸着電極(以下、測定電極)を20mm×20mm×6mmにカットし、これに銅線を巻き付けた。銅線を巻き付けるのは溶液中での測定電極の浮き沈みを防ぐためである。
【0048】
調製した溶液150mLを容器に移し、銅線を巻き付けた測定電極を容器内に吊るした。実験中に溶液が蒸発するのを防ぐため容器は密閉した。投入から48時間後に溶液から測定電極を取り出し、溶液をろ過した後、ICP質量分析装置(Agilent Technologies製,Agilent 7500 series)を用いて溶液のセシウム残留量を測定した。この値を溶液の初期値から減算することで測定電極のセシウム吸着量を算出し、投入した測定電極の重量当たりの吸着量を求めた。
【0049】
導電性の評価方法順は、次の通りである。
測定電極を上下一対の銅板電極で挟み込んだ。下に配置する銅板電極は、測定電極に対して十分に大きいものを使用し、上に配置する銅板電極は、直径20mmの円形状のものを使用した。さらに漏れ電流を削減するために測定電極の上面であって銅板電極の周囲にガード電極を設置した。
【0050】
上の銅板電極にデジタルマルチメータ(R8340/8340A、ADVANTEST)のプラス極、下の銅板にデジタルマルチメータのマイナス極を接続し、直流電圧を印加し、そのときの電流を測定し、電圧-電流特性から抵抗を求め、その値から導電率を算出した。測定電極の導電率は、測定電極が乾燥状態及び湿潤状態で測定し、乾燥状態では測定電極に100V、湿潤状態では測定電極に10Vの電圧を印加した。また電圧印加の際は、接触抵抗を減らすために測定電極に100Paの圧力をかけた。
【0051】
湿潤状態の導電率測定では、水道水(6900μS/cm)を測定電極の中心部に2~10mLの範囲で2mLずつ滴下し、滴下5分後に電圧を印加し電流値を記録した。測定は、電気分解により導電率が変化することを防ぐため電圧の印加時間を短時間とした。
【0052】
導電率は、式(1)を用い、印加した電圧および測定した電流、銅板の面積から算出した。
σ=I/V×L/S・・・(1)
ここで、σは導電率(S/m)、Iは測定電流(A)、Vは印加電圧(V)
Lは電極間の距離(m)、Sは電極の面積(m2)
【0053】
フレキシブル性の評価方法は、次の通りである。
測定電極には、長辺97mm×短辺68mm×厚さ6mmの長方体形状のものを使用した。長辺の一端部を短辺に平行に10mm幅で固定し、長辺の他端に紐を結び付け、紐に70gの錘を取付けた。測定電極の上方に丸棒を設置し、紐の中間部を丸棒に引っ掛け錘を付け下げることで測定電極を持ち上げ、そのときの測定電極の他端の高さHを測定し、フレキシブル性を求めた。
【0054】
測定電極は、一端部が10mmの幅で固定されているため、持上り高さの最大値H0は87mmとなる。フレキシブル性は、持上り高さの最大値H0に対する割合とし、H/H0×100から算出した。フレキシブル性の測定は、導電率と同様に、測定電極が乾燥状態及び2~10mLの範囲で2mLずつ滴下量を増加した湿潤状態で行った。
【0055】
次に、本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の作製工程を経て得られるフレキシブルイオン吸着電極の特性を、従来法1及び従来法2と比較しつつ説明する。ここでは適宜後述の実施例のデータを参照する。
【0056】
従来法1は、
図1に示すように本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の作製工程のうち、前処理工程(ステップS1)、乾燥工程(ステップS4)、軟化工程(ステップS5)、圧縮工程(ステップS6)を備えていない。また混合工程(ステップS2)は、1ステップで行われる。
【0057】
従来法2は、
図1に示すように本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の作製工程のうち、前処理工程(ステップS1)、乾燥工程(ステップS4)、軟化工程(ステップS5)を備えていない。また混合工程(ステップS2)は、1ステップで行われる。
【0058】
本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の作製工程を経て得られるフレキシブルイオン吸着電極を上記評価方法で評価したときの代表値を示せば、吸着性は50~65mg/kg、水を10mL添加した湿潤状態における導電率は5000~7000μS/m、水を10mL添加した湿潤状態における測定電極の他端の高さHは、70~80mmであり、フレキシブル性は80~90%である。
【0059】
本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の吸着性は、実施例の表2及び
図4に示すように従来法1で得られるフレキシブルイオン吸着電極の吸着性と同程度であった。ゼオライトを含まないデータであるが、
図5に示すように本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の吸着量は、圧縮工程(ステップS6)におけるプレス圧力に比例して増加した。
【0060】
また本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の吸着性は、
図5に示すように従来法2に比較して100倍以上向上した。このことから圧縮工程(ステップS6)に先立ち、固形化物を乾燥しさらにこれを水に浸漬し軟化させることで吸着性が向上することが分かる。
【0061】
本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の湿潤状態の導電率は、実施例の
図6に示すように従来法2で得られるフレキシブルイオン吸着電極の導電率と同程度であった。一方、従来法1と比較すると導電率は、7~8倍程度向上した。このことから圧縮工程(ステップS6)がフレキシブルイオン吸着電極の導電率向上に寄与することが分かる。
【0062】
本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の湿潤状態のフレキシブル性は、実施例の
図7に示すように従来法2で得られるフレキシブルイオン吸着電極の0.8~0.9倍程度であった。一方、従来法1と比較すると8~10倍程度向上した。このことから圧縮工程(ステップS6)がフレキシブルイオン吸着電極のフレキシブル性向上に寄与することが分かる。
【0063】
表1に、本発明、従来法1、従来法2に係るフレキシブルイオン吸着電極の作製工程を経て得られるフレキシブルイオン吸着電極の特性の比較結果を示した。
【0064】
【0065】
以上のように本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の作製工程を経て得られるフレキシブルイオン吸着電極は、従来法に比較して吸着性、導電性及びフレキシブル性に優れる。また本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の作製工程を経て得られるフレキシブルイオン吸着電極は、吸着性、導電性及びフレキシブル性の再現性に優れる。上記実施形態ではマット状のフレキシブルイオン吸着電極について説明したが、フレキシブルイオン吸着電極はシート状であってもよい。
【0066】
図2は、本発明の実施の一形態としての汚染土壌浄化装置1の構成図である。汚染土壌浄化装置1は、汚染土壌表面101に載置されるフレキシブルイオン吸着電極10と、汚染土壌100中に差し込まれる電極20と、直流電圧印加装置30とを備える。
【0067】
フレキシブルイオン吸着電極10は、本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の作製工程を経て得られるマット状又はシート状のフレキシブルイオン吸着電極である。フレキシブルイオン吸着電極10が備える吸着性,導電率,フレキシブル性は、処理対象である汚染土壌100の状態に応じ、これに適したものを使用すればよい。
【0068】
汚染土壌100の状態としては、汚染土壌表面101の凹凸、汚染土壌100に含まれる汚染物質及びその濃度、汚染土壌100の含水率が挙げられる。ここで汚染物質には、鉛、水銀、ヒ素、カドミウム、ニッケル、六価クロムなどの重金属類、放射性セシウムが挙げられる。
【0069】
汚染土壌の表面101の凹凸が大きい場合には、柔軟性に優れるフレキシブルイオン吸着電極10を使用すればよい。フレキシブルイオン吸着電極10の吸着性については、汚染物質の種類及びその濃度に適したものを使用すればよい。汚染土壌100の含水率が低い場合は、導電率に優れるフレキシブルイオン吸着電極10を使用すればよい。但し、汚染土壌100の含水率ついては、別途、給水手段・散水手段(図示省略)を設け、これを用いて汚染土壌100、フレキシブルイオン吸着電極10を湿潤状態とすることで対応することができる。
【0070】
電極20は、汚染土壌100中に差し込むことができる電極杭20である。電極杭20は、導電性を有する杭本体21を備え、杭本体21は、先端部22と直流電圧印加装置30が接続される基端部23とを除き電気的絶縁材24で被覆されている。
【0071】
直流電圧印加装置30は、フレキシブルイオン吸着電極10と電極杭20の基端部23とに接続され、フレキシブルイオン吸着電極10と電極(電極杭)20との間に直流電圧を印加する。
【0072】
汚染土壌浄化装置1を用いた汚染土壌100の浄化方法を説明する。
図2に示すようにフレキシブルイオン吸着電極10を処理対象である汚染土壌100の表面101に載置する。一方、電極20は、汚染土壌100中に差し込む。直流電圧印加装置30は、フレキシブルイオン吸着電極10が陰極、電極20が正極となるように接続し、フレキシブルイオン吸着電極10と電極(電極杭)20との間に直流電圧を印加する。この方法は、水平電極式動電法(FEM-EK法)と呼ばれる方法である。フレキシブルイオン吸着電極10及び/又は汚染土壌100が乾燥している場合には、適宜、給水又は散水し、フレキシブルイオン吸着電極10及び/又は汚染土壌100を湿潤状態とする。
【0073】
フレキシブルイオン吸着電極10と電極(電極杭)20との間に直流電圧が印加されると、電気分解、電気泳動及び電気浸透といった界面動電現象(動電現象)が誘起される。これにより汚染土壌100に含まれる陽イオン性の汚染物質は、陰極であるフレキシブルイオン吸着電極10側に移動し、フレキシブルイオン吸着電極10に吸着される。これにより汚染土壌100を浄化することができる。
【0074】
上記の通り汚染土壌浄化装置1は、装置構成が簡単で取扱いも容易であり、現位置浄化に好適に使用することができる。後述の実施例にも示す通り吸着材にゼオライトを使用した本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極10は、セシウムの吸着性能に優れており、本発明に係る汚染土壌浄化方法を放射性セシウムに汚染された土壌の浄化に好適に使用することができる。
【0075】
図3(A)は、本発明の実施の一形態としての汚染土壌浄化方法、
図3(B)は、本発明の実施の一形態としての汚染水浄化方法を説明するための図である。
【0076】
本実施形態では、本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の作製工程を経て得られるフレキシブルイオン吸着電極10を吸着材として使用し、汚染土壌又は汚染水を浄化する。本発明のフレキシブルイオン吸着電極10は、後述の実施例にも示す通り汚染物質の吸着性能に優れており、吸着材として好適に使用することができる。
【0077】
汚染土壌及び汚染水は、特に限定されるものではなく、汚染水として汚染物質を含有する排水、廃液が挙げられる。また汚染物質には、鉛、水銀、ヒ素、カドミウム、ニッケル、六価クロムなどの重金属類、放射性セシウムが挙げられる。
【0078】
本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の作製工程を経て得られるフレキシブルイオン吸着電極10を吸着材として使用し汚染土壌100を浄化するには、
図3(A)に示すように汚染土壌100の表面101にマット状又はシート状のフレキシブルイオン吸着電極10を載置すればよい。フレキシブルイオン吸着電極10及び/又は汚染土壌100が乾燥している場合には、適宜、給水又は散水し、フレキシブルイオン吸着電極10及び/又は汚染土壌100を湿潤状態とする。
【0079】
これにより汚染土壌100の表面101の汚染物質がフレキシブルイオン吸着電極10に吸着され汚染土壌100が浄化される。他の方法としては、汚染土壌100の中にフレキシブルイオン吸着電極10を埋めてもよい。要すれば汚染土壌100とフレキシブルイオン吸着電極10とを接触させればよい。
【0080】
本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の作製工程を経て得られるフレキシブルイオン吸着電極10を吸着材として使用し汚染水200を浄化するには、
図3(B)に示すように汚染水200中にフレキシブルイオン吸着電極10を浸漬すればよい。
【0081】
これにより汚染水200に含まれる汚染物質がフレキシブルイオン吸着電極10に吸着され汚染水200が浄化される。他の方法としては、フレキシブルイオン吸着電極10に汚染水を流し掛けてもよい。要すれば汚染水200とフレキシブルイオン吸着電極10とを接触させればよい。
【0082】
本実施形態の汚染土壌浄化方法及び汚染水浄化方法で使用するフレキシブルイオン吸着電極10は、柔軟性を有し、さらにマット状又はシート状のフレキシブルイオン吸着電極10を使用すれば、汚染物質が吸着したフレキシブルイオン吸着電極10の回収も容易である。
【実施例0083】
実施例1
本発明に係るフレキシブルイオン吸着電極の作製方法により作製したフレキシブルイオン吸着電極である。熱湯150mLにでんぷん粉2.0gと、ミキサー(SKS-H TIGER)で粉砕し、ふるい(SKH-01 アズワン)を用いて分級した53μm以下の天然ゼオライト(東北ゼオライト工業株式会社)0.5gと、アバカ1.0gとを投入し、撹拌機(SMT-102 アズワン)により1000rpmで撹拌混合した。その後、予め恒温乾燥機(STAC P-50K アズワン)を用いて75℃で12時間乾燥したくん炭9.1gを加え、500rpmで撹拌混合した。
【0084】
上記混合物を電極成型のための型枠に流し込み、真空ポンプを用いた吸引ろ過を行い、水分を取り除き固形化物を得た。型枠には電極の不均一性を防ぐためにメッシュを組み込んだ。その後、該固形化物を恒温乾燥機を用いて75℃で12時間乾燥した。
【0085】
乾燥した固形化物を約10mLの水に浸漬し、固形化物を軟化させた。その後、軟化させた固形化物を圧縮成形用の型枠に入れ、熱プレス機(H300-01K アズワン)を用いて2.5MPaの圧力で1分間圧縮成形した。その後、圧縮成形した固形化物を恒温乾燥機を用いて75℃で12時間乾燥しフレキシブルイオン吸着電極を得た。
【0086】
実施例2~5、参考例1~3
ゼオライト含有量及び熱プレス機(H300―01K アズワン)のプレス圧力を変更し、実施例1と同様にフレキシブルイオン吸着電極を作製した。参考例1~3は、ゼオライトを含まないフレキシブルイオン吸着電極である。
【0087】
比較例2
従来法1の方法で作製したフレキシブルイオン吸着電極である。熱湯200mLにでんぷん粉2.0gを溶かし、そこにミキサー(SKS-H TIGER)で粉砕し、ふるい(SKH-01 アズワン)を用いて分級した53μm以下の天然ゼオライト(東北ゼオライト工業株式会社)0.5gと、アバカ1.0gと、くん炭9.0gを加え、均一となるまで十分に撹拌混合した。
【0088】
上記混合物を電極成型のための型枠に流し込み、真空ポンプを用いた吸引ろ過を行い、水分を取り除き固形化物を得た。型枠には電極の不均一性を防ぐためにメッシュを組み込んだ。その後、固形化物を恒温乾燥機を用いて75℃で12時間乾燥しフレキシブルイオン吸着電極を得た。
【0089】
比較例1,3~5
ゼオライト含有量を変更し、比較例2と同様にフレキシブルイオン吸着電極を作製した。
【0090】
比較例7
従来法2の方法で作製したフレキシブルイオン吸着電極である。熱湯200mLにでんぷん粉2.0gを溶かし、そこにミキサー(SKS-H TIGER)で粉砕し、ふるい(SKH-01 アズワン)を用いて分級した53μm以下の天然ゼオライト(東北ゼオライト工業株式会社)0.5gと、アバカ1.0gと、くん炭9.0gを加え、均一となるまで十分に撹拌混合した。
【0091】
上記混合物を電極成型のための型枠に流し込み、真空ポンプを用いた吸引ろ過を行い、水分を取り除き固形化物を得た。型枠には電極の不均一性を防ぐためにメッシュを組み込んだ。その後、固形化物を圧縮成形用の型枠に入れ、熱プレス機(H300-01K アズワン)を用いて2.5MPaの圧力で1分間圧縮成形した。その後、圧縮成形した固形化物を恒温乾燥機を用いて75℃で12時間乾燥しフレキシブルイオン吸着電極を得た。
【0092】
比較例6,8~13
ゼオライト含有量及び熱プレス機(H300-01K アズワン)のプレス圧力を変更し、比較例7と同様にフレキシブルイオン吸着電極を作製した。
【0093】
実施例1~5,参考例1~3,比較例1~5,比較例6~13のフレキシブルイオン吸着電極は、段落[0046]~[0054]に記載の方法で吸着性,導電性及びフレキシブル性を測定した。結果を表2、
図4~8に示した。表2、
図4~8に示す結果のうち、導電率及びフレキシブル性は、水を10mL添加した湿潤状態の値である。また比較例1,2の吸着性の評価は、50ppbのセシウム溶液を使用して行った。
【0094】
【0095】
本発明に係る作製方法で得られたフレキシブルイオン吸着電極は、ゼオライト含有量5~20wt%の範囲において、吸着量が51.6~58.4mg/kg、導電率が5340~6100μS/m、フレキシブル性が79~86%であった。
【0096】
従来法1に係る作製方法で得られたフレキシブルイオン吸着電極は、ゼオライト含有量5~20wt%の範囲において、吸着量が55.9mg/kg、導電率が800~850μS/m、フレキシブル性が7.5~11%であった。
【0097】
従来法2に係る作製方法で得られたフレキシブルイオン吸着電極は、ゼオライト含有量5~20wt%の範囲において、導電率が6000~6700μS/m、フレキシブル性が91~103%であった。
【0098】
汚染土壌の浄化実験1
本発明に係る汚染土壌浄化装置1を用い、以下の要領で汚染土壌の浄化実験を実施した。フレキシブルイオン吸着電極10には、導電材としてくん炭の代わりに活性炭を使用し、実施例2と同じ要領で作製したフレキシブルイオン吸着電極10を使用した。ゼオライト含有量は10wt%である。電極20には、ステンレスメッシュ20を使用した。
【0099】
図9に汚染土壌の浄化実験装置1を示した。容器150に20mmの厚さで未汚染土壌110を充填した。未汚染土壌110の上にステンレスメッシュ20を載置し、ステンレスメッシュ20の上にセシウム濃度50ppmの人工汚染土壌100を50mmの厚さで充填した。充填した未汚染土壌110は150g、汚染土壌100は350gであり、ともに水道水を添加し含水比60%とした。容器150に土壌充填後、蓋160を被せた。
【0100】
直流電圧印加装置30の陰極をフレキシブルイオン吸着電極10に、陽極をステンレスメッシュ20に接続した。さらに直流電圧印加装置30とフレキシブルイオン吸着電極10とをつなぐケーブルの途中に1Ωの抵抗40を取付け、抵抗40と並列にデータロガー50を設置した。フレキシブルイオン吸着電極10とステンレスメッシュ20との間隔は50mmである。
【0101】
直流電圧印加装置30を介して両電極間に10V(200V/m)の電圧を7日間連続して印加した。その後、汚染土壌100を上層、中層、下層に分割し、各層から土壌を採取し、フレキシブルイオン吸着電極10及び各層の土壌中のセシウム濃度を測定した。また電圧を印加しない場合のデータも取得した。
【0102】
実験の結果を
図10、
図11に示した。
図10は、汚染土壌100中のセシウム濃度、
図11は、フレキシブルイオン吸着電極10に吸着したセシウム濃度の測定結果である。7日間連続して電圧を印加した場合の各層及びフレキシブルイオン吸着電極10のセシウム濃度は、下層が47ppm、中層が49ppm、上層が54ppmであり、フレキシブルイオン吸着電極10のセシウム濃度は21ppmであった。未汚染土壌110のセシウム濃度は、6.4ppmであり、フレキシブルイオン吸着電極10に近いほどセシウム濃度が高く、セシウムがフレキシブルイオン吸着電極10に向け移動していることが伺える。
【0103】
電圧を印加しなかった場合の各層及びフレキシブルイオン吸着電極10のセシウム濃度は、下層が52ppm、上層が53ppmであり、フレキシブルイオン吸着電極10のセシウム濃度は、4.4ppmであった。未汚染土壌110のセシウム濃度は、10ppmであった。汚染土壌100の上層と下層との間にセシウム濃度の差は殆どなく、電圧を印加しない場合、セシウムがフレキシブルイオン吸着電極10に向け移動しないことが分かる。
【0104】
フレキシブルイオン吸着電極10の使用前(初期)に測定したセシウム濃度は、0.66ppmであるから、電圧を印加しない場合であってもフレキシブルイオン吸着電極10を汚染土壌100と接触させるだけでフレキシブルイオン吸着電極10がセシウムを吸着することが分かる。このことはフレキシブルイオン吸着電極10がセシウムの吸着材として機能することを示していると言える。
【0105】
汚染土壌の浄化実験2
土壌を変えて、汚染土壌の浄化実験1と同じ要領で汚染土壌の浄化実験2を実施した。土壌には汚染土壌100としてセシウム濃度100ppmの腐葉土を使用した。充填した未汚染土壌110は100g、汚染土壌100は280gであり、ともにイオン交換水を添加し含水比200%とした。未汚染土壌110及び汚染土壌100の充填高さは、汚染土壌の浄化実験1と同じである。
【0106】
7日間連続して電圧を印加した場合の汚染土壌100の下半分、上半分のセシウム濃度は、それぞれ41ppm、150ppmであった。未汚染土壌110のセシウム濃度は、1.7ppmであり、フレキシブルイオン吸着電極10に近いほどセシウム濃度が高く、セシウムがフレキシブルイオン吸着電極10に向け移動していることが伺える。
【0107】
電圧を印加しなかった場合の汚染土壌100の下半分、上半分のセシウム濃度は、それぞれ87ppm、100ppm、未汚染土壌110のセシウム濃度は、7.8ppmであった。汚染土壌100の下半分と上半分との間のセシウム濃度の差が小さく、電圧を印加しない場合、セシウムがフレキシブルイオン吸着電極10に向け殆ど移動しないことが分かる。
【0108】
汚染土壌の浄化実験3
汚染土壌100に添加する水をイオン交換水から蒸留水に代えて、汚染土壌の浄化実験2と同じ要領で汚染土壌の浄化実験3を実施した。
【0109】
7日間連続して電圧を印加した場合の汚染土壌100の下半分、上半分のセシウム濃度は、それぞれ64ppm、120ppmであった。未汚染土壌110のセシウム濃度は、2.4ppmであり、フレキシブルイオン吸着電極10に近いほどセシウム濃度が高く、セシウムがフレキシブルイオン吸着電極10に向け移動していることが伺える。
【0110】
電圧を印加しなかった場合の汚染土壌100の下半分、上半分のセシウム濃度は、それぞれ110ppm、97ppm、未汚染土壌110のセシウム濃度は、7.7ppmであった。この結果から電圧を印加しない場合、セシウムがフレキシブルイオン吸着電極10に向け移動しないことが分かる。