(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141076
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】評価方法、及び評価装置
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/40 20060101AFI20241003BHJP
G01N 33/10 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C12Q1/40
G01N33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052528
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】澤田 隆行
(72)【発明者】
【氏名】島村 淳一
(72)【発明者】
【氏名】大谷 優太
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA20
4B063QQ67
4B063QQ68
4B063QR15
4B063QS02
4B063QS12
(57)【要約】
【課題】得られる評価結果と官能評価の結果との乖離を抑制することができる評価方法を提供する。
【解決手段】デンプンを分解する酵素により米への糖類分解処理を行う分解ステップと、分解ステップにより前記糖類分解処理が行われた後の前記米の甘味度を評価する評価ステップと、を有する評価方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプンを分解する酵素により米への糖類分解処理を行う分解ステップと、
前記分解ステップにより前記糖類分解処理が行われた後の前記米の甘味度を評価する評価ステップと、
を有する評価方法。
【請求項2】
前記糖類分解処理は、前記酵素と前記米とを混合した検体を、前記酵素の至適温度の範囲内に含まれる保持温度で、前記酵素に応じた時間保持する処理を含む、
請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記米は、炊飯米であり、
前記保持温度は、前記至適温度の範囲内に含まれる温度のうち、前記米を食べた場合における人の口腔内の温度として予め決められた温度である、
請求項2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記酵素は、αアミラーゼであり、
前記保持温度は、40℃である、
請求項3に記載の評価方法。
【請求項5】
請求項1に記載の評価方法を実行する、
評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、評価方法、及び評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
米の甘味度を評価する評価方法についての研究、開発が行われている。
【0003】
これに関し、炊飯米からオリゴ糖の抽出を行い、抽出した糖類に基づいて炊飯米の甘味度を評価する評価方法が知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】横野一歩、渡邉義之、高津地志、藤田明子、岡田芳治、野村正人、「米飯中のオリゴ糖含有量と食味との関係」、美味技術学会誌第15巻2号、2017年、p.15-20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載されたような評価方法は、得られる結果が、炊飯米の甘味度の官能評価と乖離することがあった。
【0006】
本開示は、このような事情を考慮してなされたもので、得られる評価結果と官能評価の結果との乖離を抑制することができる評価方法、及び評価装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、デンプンを分解する酵素により前記米への糖類分解処理を行う分解ステップと、前記分解ステップにより前記糖類分解処理が行われた後の前記米の甘味度を評価する評価ステップと、を有する評価方法である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、得られる評価結果と官能評価の結果との乖離を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】評価装置1の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】評価装置1が検体の甘味度を評価する処理の流れの一例を示す図である。
【
図3】糖類分解処理の有無によって検体から検出される糖類の濃度の違いの一例を示す図である。
【
図4】糖類分解処理の有無によって検体から検出される糖類の濃度の違いの他の例を示す図である。
【
図5】評価装置1による検体の甘味度の評価の結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態>
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
<評価方法の概要>
まず、本実施形態に係る評価方法の概要について説明する。
【0012】
実施形態に係る評価方法は、デンプンを分解する酵素により米への糖類分解処理を行う分解ステップと、分解ステップにより糖類分解処理が行われた後の米の甘味度を評価する評価ステップと、を有する。
【0013】
これにより、実施形態に係る評価方法は、米を食べた人の口腔内において起きる事象を糖類分解処理によって再現することができる。その結果、当該評価方法は、得られる評価結果と官能評価の結果との乖離を抑制することができる。
【0014】
以下では、実施形態に係る評価方法を実行可能な評価装置の構成と、当該評価装置が行う処理とについて説明することにより、当該評価方法について詳しく説明する。
【0015】
<評価装置の構成>
以下、実施形態に係る評価方法を実行可能な評価装置の構成について、評価装置1を例に挙げて説明する。
【0016】
図1は、評価装置1の構成の一例を示すブロック図である。
【0017】
評価装置1は、デンプンを含む食材を検体として、検体の甘味度の評価を行う装置である。検体は、例えば、米、小麦、芋等であるが、デンプンを含む他の食材であってもよい。以下では、一例として、検体が、炊飯米である場合について説明する。なお、検体は、炊飯前の米であってもよい。
【0018】
より具体的には、評価装置1は、デンプンを分解する酵素により検体への糖類分解処理を行い、検体に含まれるデンプンを各種の糖類へ分解する。当該酵素は、例えば、αアミラーゼ、グルコアミラーゼ等であるが、デンプンを糖類へ分解可能な他の酵素であってもよい。ただし、評価装置1が用いる酵素は、人の口腔内に存在する酵素であることが望ましい。このため、以下では、一例として、評価装置1が、人の口腔内に存在する酵素として、αアミラーゼを用いる場合について説明する。これにより、評価装置1は、人が甘味を感じる場合において口腔内で起きている反応の少なくとも一部を再現することができる。そして、評価装置1は、検体に対して糖類分解処理を行った後、糖類分解処理を行った後の検体の甘味度を評価する。このため、評価装置1は、米を食べた人の口腔内において起きる事象を糖類分解処理によって再現することができ、その結果、得られる評価結果と官能評価の結果との乖離を抑制することができる。具体的には、評価装置1は、例えば、官能評価で甘いと評価された検体であり、且つ、従来の評価方法によって甘くないと評価された検体の甘味を、官能評価と同様に甘いと評価することができる。
【0019】
評価装置1は、例えば、検体供給部10と、酵素供給部11と、反応容器部12と、加熱部13と、評価部14と、制御部15と、記憶部16と、操作受付部17と、通信部18と、表示部19を備える。なお、評価装置1は、検体供給部10と、酵素供給部11と、反応容器部12と、通信部18と、表示部19とのうちの一部又は全部を備えない構成であってもよい。例えば、評価装置1は、検体供給部10を備えない場合、検体供給部10に相当する部材を外部から取り付けられる、又は、検体供給部10が有する機能が人により行われる。また、例えば、評価装置1は、酵素供給部11を備えない場合、酵素供給部11に相当する部材を外部から取り付けられる、又は、酵素供給部11が有する機能が人により行われる。また、例えば、評価装置1は、反応容器部12を備えない場合、反応容器部12に相当する部材を外部から取り付けられる。また、例えば、評価装置1は、通信部18を備えない場合、通信部18に相当する部材を外部から取り付けられる、又は、他の装置との通信による各種情報の授受を行わない。また、例えば、評価装置1は、表示部19を備えない場合、表示部19に相当する部材を外部から取り付けられる。
【0020】
検体供給部10は、図示しない貯留部に貯留された検体を、反応容器部12に供給する。検体供給部10は、貯留部に貯留された検体を反応容器部12に供給することが可能な構成であれば、如何なる構成であってもよい。
【0021】
酵素供給部11は、図示しない貯留部に貯留されたαアミラーゼを、反応容器部12に供給する。酵素供給部11は、貯留部に貯留されたαアミラーゼを反応容器部12に供給することが可能な構成であれば、如何なる構成であってもよい。
【0022】
反応容器部12は、検体供給部10から供給される検体と、酵素供給部11から供給されるαアミラーゼとを反応させる容器と、当該容器内に供給された検体及びαアミラーゼを混合する混合部材とを含んで構成される。反応容器部12は、当該容器及び当該混合部材を含み、当該容器内において糖類分解処理を行うことが可能な構成であれば、如何なる構成であってもよい。
【0023】
加熱部13は、反応容器部12に含まれる容器内において混合された検体及びαアミラーゼを、αアミラーゼの至適温度の範囲内に含まれる保持温度で加熱する。αアミラーゼの至適温度の範囲は、35℃~40℃程度である。ここで、保持温度は、至適温度の範囲内に含まれる温度のうち、検体を食べた場合における人の口腔内の温度として予め決められた温度であることが望ましい。これは、検体を食べた人の口腔内における反応の少なくとも一部を、反応容器部12に含まれる容器内において起こしたいからである。以下では、一例として、保持温度が、40℃である場合について説明する。これは、体温よりも高い温度の食品を人が咀嚼する場合、人の口腔内の温度が人の体温よりも高くなると考えられるためである。従って、保持温度の一例である40℃は、人の口腔内において少なくとも部分的に実現している温度に近いはずである。すなわち、保持温度を40℃にすることは、妥当であると考えられる。なお、保持温度は、αアミラーゼの至適温度の範囲内であれば、40℃より低い温度であってもよく、40℃より高い温度であってもよい。
【0024】
また、加熱部13は、制御部15からの制御により、反応容器部12に含まれる容器内において混合された検体及びαアミラーゼを、保持温度で、αアミラーゼに応じて予め決められた保持時間加熱し続ける。換言すると、加熱部13は、制御部15からの制御により、反応容器部12に含まれる容器内において混合された検体及びαアミラーゼを、保持温度で、αアミラーゼに応じて予め決められた保持時間保持する。保持時間は、αアミラーゼを用いた糖類分解処理によって検体から得られる各種の糖類を、後述する評価部14によって検出するために必要な時間以上の時間であれば、如何なる時間であってもよい。保持時間は、例えば、5~10分程度であるが、これに限られるわけではない。なお、評価装置1では、技術革新等によって評価部14による各種の糖類の検出感度を高まった場合、人が検体を咀嚼する時間と同程度の時間に保持時間を近づけることが望ましい。これは、当該容器内においてデンプンが各種の糖類に分解される時間が、人の口腔内においてデンプンが各種の糖類に分解される時間に近づくからである。
【0025】
評価部14は、反応容器部12に含まれる容器内において糖類分解処理が行われた後の検体に含まれる各種の糖類の濃度を、予め決められた方法に基づいて検出し、検出した濃度に基づいて、検体の甘味度を評価する装置を含んで構成される。予め決められた方法は、検体に含まれる各種の糖類の濃度を検出可能な方法であり、例えば、HPLC(High Performance Liquid Chromatography)法、グルコース定量法、キャピラリー電気泳動法、及びこれらの一部又は全部を組み合わせた方法等の既知の方法であってもよく、これから開発される方法であってもよい。すなわち、評価部14は、検体内に含まれる各種の糖類の濃度を検出可能であり、且つ、検出した濃度に基づいて検体の甘味度を評価可能な構成であれば、如何なる構成であってもよい。なお、本開示において、検体の甘味度の評価は、検体の甘味度の算出と言い換えられてもよい。
【0026】
制御部15は、評価装置1の全体を制御する。制御部15は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプロセッサを含んで構成される。
【0027】
記憶部16は、記憶装置であり、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)等を含んで構成される。なお、記憶部16は、外部から接続される外部記憶装置であってもよい。
【0028】
操作受付部17は、キーボード、マウス、タッチパッド、レバー、ボタン等を含んで構成される入力装置である。なお、操作受付部17は、表示部19と一体に構成されたタッチパネルであってもよい。
【0029】
通信部18は、無線通信用のアンテナ、有線通信用の各種のポートを含んで構成される通信装置である。
【0030】
表示部19は、ディスプレイを含んで構成される表示装置である。
【0031】
<評価装置が検体の甘味度を評価する処理>
以下、
図2を参照し、評価装置1が検体の甘味度を評価する処理について説明する。
図2は、評価装置1が検体の甘味度を評価する処理の流れの一例を示す図である。なお、
図2に示したフローチャートのステップS110~ステップS180の処理のうちの一部又は全部は、評価装置1と異なる装置によって行われてもよく、評価装置1を用いずに人により行われてもよい。なお、評価装置1は、検体の甘味度を評価する処理を開始する操作を受け付けることにより、
図2に示したフローチャートの処理を開始する。
【0032】
検体の甘味度を評価する処理を開始する操作を受け付けた後、制御部15は、検体供給部10を制御し、反応容器部12に含まれる容器内へ予め決められた量の検体を供給する(ステップS110)。
【0033】
次に、制御部15は、酵素供給部11を制御し、反応容器部12に含まれる容器内へ予め決められた量のαアミラーゼを供給する(ステップS120)。
【0034】
なお、ステップS120の処理は、ステップS110の処理と逆の順で行われてもよく、並列に行われてもよい。また、ステップS110又はステップS120において、検体供給部10又は酵素供給部11は、反応容器部12に含まれる容器内へ、予め決められた量、且つ、予め決められた温度の水を供給する構成であってもよい。
【0035】
ステップS120の処理が行われた後、制御部15は、反応容器部12の混合部材を制御し、反応容器部12に含まれる容器内における検体とαアミラーゼとを混合する(ステップS130)。なお、ステップS130の処理は、ステップS110と、ステップS120とのうちのいずれか一方又は両方と並列に行われてもよい。
【0036】
次に、制御部15は、加熱部13を制御し、反応容器部12に含まれる容器内の検体及びαアミラーゼを、前述の保持温度で加熱し始める(ステップS140)。なお、
図2では、ステップS140の処理を「加熱開始」によって示している。また、ステップS140の処理は、ステップS130の処理と逆の順で行われてもよく、並列に行われてもよい。
【0037】
次に、制御部15は、ステップS140において検体及びαアミラーゼの加熱が開始されたタイミングから、前述の保持時間が経過するまで待機する(ステップS150)。
【0038】
制御部15は、ステップS140において検体及びαアミラーゼの加熱が開始されたタイミングから保持時間が経過したと判定した場合(ステップS150-YES)、加熱部13を制御し、検体及びαアミラーゼの加熱を終了する(ステップS160)。
【0039】
ここで、ステップS130~ステップS160の処理は、実施形態に係る評価方法における糖類分解処理の一例である。このような糖類分解処理により、評価装置1は、検体を食べた人の口腔内において検体に含まれるデンプンが糖類に分解される状況を再現でき、その結果、検体から検出される糖類の濃度を上昇させることができる。
【0040】
ここで、
図3は、糖類分解処理の有無によって検体から検出される糖類の濃度の違いの一例を示す図である。
図3に示した例では、検体から糖類の濃度を検出する方法として、グルコース定量法とキャピラリー電気泳動法とを組み合わせた方法が用いられている。
【0041】
図3に示した棒グラフの横軸は、糖類の濃度の検出を行った検体の種類を示す。当該検体の種類は、6種類であり、これら6種類のそれぞれが「第1米_未処理」、「第2米_未処理」、「第3米_未処理」、「第1米_酵素処理」、「第2米_酵素処理」、「第3米_酵素処理」によって示されている。ここで、第1米、第2米、第3米のそれぞれは、互いに品種が異なる米のことであり、例えば、コシヒカリ(登録商標)、ササニシキ(登録商標)、ひとめぼれ(登録商標)等の品種の米のことである。一方、当該棒グラフの縦軸は、これら6種類の検体のそれぞれから検出された3種類の糖類の濃度(この濃度の単位は、μg/50mg)を示す。当該3種類の糖類は、グルコース、マルトース、マルトトリオースのことである。この一例のように検体が米である場合、検体から検出される主な糖類は、これら3種類の糖類である。そして、当該場合、これら3種類の糖類以外の糖類は、これら3種類の糖類の濃度に比べて、無視できる程度に低い濃度でしか検体から検出されない。従って、この一例において、検体を人が咀嚼した場合において人に甘味を感じさせる主要な糖類は、これら3種類の糖類であると考えられる。このような事情から、この一例において、評価装置1は、後述するステップS170において、これら3種類の糖類それぞれの濃度を検出する。
【0042】
図3を見ると、「第1米_酵素処理」のラベルが示す検体から検出されたグルコースの濃度は、「第1米_未処理」のラベルが示す検体から検出されたグルコースの濃度の5倍程度高くなっていることが分かる。同様に、
図3を見ると、「第2米_酵素処理」のラベルが示す検体から検出されたグルコースの濃度は、「第2米_未処理」のラベルが示す検体から検出されたグルコースの濃度の5倍程度高くなっていることが分かる。また、
図3を見ると、「第3米_酵素処理」のラベルが示す検体から検出されたグルコースの濃度は、「第3米_未処理」のラベルが示す検体から検出されたグルコースの濃度の5倍程度高くなっていることが分かる。すなわち、糖類分解処理は、検体を食べた人の口腔内において検体に含まれるデンプンがグルコースに分解される状況を再現できており、その結果、検体から検出されるグルコースの濃度を上昇させることができていることが分かる。これにより、実施形態に係る評価方法は、得られる評価結果と官能評価の結果との乖離を抑制することができる。
【0043】
また、
図3を見ると、「第1米_酵素処理」のラベルが示す検体から検出されたマルトースの濃度は、「第1米_未処理」のラベルが示す検体から検出されたマルトースの濃度の10倍以上高くなっていることが分かる。同様に、
図3を見ると、「第2米_酵素処理」のラベルが示す検体から検出されたグルコースの濃度は、「第2米_未処理」のラベルが示す検体から検出されたマルトースの濃度の10倍以上高くなっていることが分かる。また、
図3を見ると、「第3米_酵素処理」のラベルが示す検体から検出されたマルトースの濃度は、「第3米_未処理」のラベルが示す検体から検出されたマルトースの濃度の10倍以上高くなっていることが分かる。すなわち、糖類分解処理は、検体を食べた人の口腔内において検体に含まれるデンプンがマルトースに分解される状況を再現できており、その結果、検体から検出されるマルトースの濃度も上昇させることができていることが分かる。これによっても、実施形態に係る評価方法は、得られる評価結果と官能評価の結果との乖離を抑制することができる。
【0044】
更に、
図3に示した例では、「第1米_未処理」~「第3米_未処理」については、グルコースよりもマルトースの方が、濃度が低くなっている。これに対し、当該例では、「第1米_酵素処理」~「第3米_酵素処理」については、グルコースよりもマルトースの方が、濃度が高くなっている。この違いは、従来の検体の甘味度の評価の結果と、官能評価による検体の甘味度の評価の結果との乖離の原因であると考えられる。すなわち、実施形態に係る評価方法に含まれる糖類分解処理は、このような乖離を抑制することができる。
【0045】
また、
図3を見ると、「第1米_酵素処理」のラベルが示す検体から検出されたマルトトリオースの濃度は、「第1米_未処理」のラベルが示す検体から検出されたマルトトリオースの濃度の10倍以上高くなっていることが分かる。同様に、
図3を見ると、「第2米_酵素処理」のラベルが示す検体から検出されたマルトトリオースの濃度は、「第2米_未処理」のラベルが示す検体から検出されたマルトトリオースの濃度の10倍以上高くなっていることが分かる。また、
図3を見ると、「第3米_酵素処理」のラベルが示す検体から検出されたマルトトリオースの濃度は、「第3米_未処理」のラベルが示す検体から検出されたマルトトリオースの濃度の10倍以上高くなっていることが分かる。すなわち、糖類分解処理は、検体を食べた人の口腔内において検体に含まれるデンプンがマルトトリオースに分解される状況を再現できており、その結果、検体から検出されるマルトトリオースの濃度を上昇させることができていることが分かる。これによっても、実施形態に係る評価方法は、得られる評価結果と官能評価の結果との乖離を抑制することができる。
【0046】
更に、
図3に示した例では、「第1米_未処理」~「第3米_未処理」については、グルコースよりもマルトトリオースの方が、濃度が低くなっている。これに対し、当該例では、「第1米_酵素処理」~「第3米_酵素処理」については、グルコースよりもマルトトリオースの方が、濃度が高くなっている。また、当該例では、「第1米_未処理」~「第3米_未処理」については、マルトースの濃度とマルトトリオースの濃度とが、同程度の濃度である。これに対し、当該例では、「第1米_酵素処理」~「第3米_酵素処理」については、マルトースよりもマルトトリオースの方が、濃度が低くなっている。これらの違いも、従来の検体の甘味度の評価の結果と、官能評価による検体の甘味度の評価の結果との乖離の原因であると考えられる。すなわち、実施形態に係る評価方法に含まれる糖類分解処理は、このような乖離を抑制することができる。
【0047】
一方、
図4は、糖類分解処理の有無によって検体から検出される糖類の濃度の違いの他の例を示す図である。
図4に示した例では、検体から糖類の濃度を検出する方法として、HPLC法が用いられている。
【0048】
図4に示した棒グラフの横軸は、甘味度の評価を行った検体の種類を示す。当該検体の種類は、
図3に示した例と同様の6種類である。一方、当該棒グラフの縦軸は、これら6種類の検体のそれぞれから検出された3種類の糖類の濃度(この濃度の単位は、μg/50mg)を示す。当該3種類の糖類も、
図3に示した例と同様に、グルコース、マルトース、マルトトリオースのことである。
【0049】
図3と
図4を比較すると、HPLC法を用いて評価した場合であっても、糖類分解処理を行った後の検体から検出される糖類の濃度は、糖類分解処理を行わなかった検体から検出される糖類の濃度よりも高いことが分かる。
【0050】
ステップS160の処理が行われた後、制御部15は、評価部14を制御し、反応容器部12に含まれる容器内の検体の甘味度を評価する(ステップS170)。ここで、ステップS170の処理について説明する。評価部14は、ステップS170において、前述の予め決められた方法によって、グルコース、マルトース、マルトトリオースの3種類の糖類それぞれの濃度を検体から検出する。その後、評価部14は、これら3種類の糖類毎に、検出した糖類の濃度に、糖類に応じた補正係数を乗じる。例えば、評価部14は、検出したグルコースの濃度に、グルコースに応じた補正係数を乗じる。また、例えば、評価部14は、検出したマルトースの濃度に、マルトースに応じた補正係数を乗じる。また、例えば、評価部14は、検出したマルトトリオースの濃度に、マルトトリオースに応じた補正係数を乗じる。グルコースに応じた補正係数は、スクロースの甘味を1としたときのグルコースの甘味を示す値であり、この一例において、0.7である。また、例えば、マルトースに応じた補正係数は、スクロースの甘味を1としたときのマルトースの甘味を示す値であり、この一例において、0.4である。また、例えば、マルトトリオースに応じた補正係数は、スクロースの甘味を1としたときのマルトトリオースの甘味を示す値であり、この一例において、0.3である。3種類の糖類毎に補正係数を乗じた濃度を算出した後、評価部14は、補正係数を乗じた後の3つの濃度の和を、検体の甘味度として評価(算出)する。すなわち、評価部14は、検出したグルコースの濃度にグルコースに応じた補正係数を乗じた値と、検出したマルトースの濃度にマルトースに応じた補正係数を乗じた値と、検出したマルトトリオースの濃度にマルトトリオースに応じた補正係数を乗じた値との和を、検体の甘味度として評価する。
【0051】
ここで、
図5は、評価装置1による検体の甘味度の評価の結果の一例を示す図である。なお、
図5では、グルコースがG1によって示され、マルトースがG2によって示され、マルトトリオースがG3によって示されている。
図5に示した例では、例えば、2016年の圃場Bにおいて生産された品種xxx1を炊飯した炊飯米から、
図2に示したフローチャートの処理によって検出されたグルコースの濃度は、179.3[μg/50mg]である。このため、当該例では、グルコースの濃度にグルコースに応じた補正係数0.7を乗じた値は、125.5である。また、当該炊飯米から当該処理によって検出されたマルトースの濃度は、417.9[μg/50mg]である。このため、当該例では、マルトースの濃度にマルトースに応じた補正係数0.4を乗じた値は、167.2である。また、当該炊飯米から当該処理によって検出されたマルトトリオースの濃度は、402.7[μg/50mg]である。このため、当該例では、マルトトリオースの濃度にマルトトリオースに応じた補正係数0.3を乗じた値は、120.8である。従って、当該例では、評価装置1は、当該炊飯米の甘味度は、これら3つの値の和、すなわち、413.5と評価している。
図5に示したこれらの結果は、官能評価の結果とも一致する。従って、評価装置1は、得られる評価結果と官能評価の結果との乖離を抑制することができる。
【0052】
次に、制御部15は、ステップS170において評価部14に評価させた結果を示す評価結果情報を表示部19に表示させ(ステップS180)、
図2に示したフローチャートの処理を終了する。なお、評価結果情報は、当該結果を示す情報であれば、文章、画像、表等の如何なる情報であってもよい。
【0053】
なお、評価部14は、グルコース、マルトース、マルトトリオースの3種類の糖類のうちの予め決められた2種類の糖類の濃度を検体から検出し、検出した濃度に基づいて検体の甘味度を評価する構成であってもよい。
【0054】
以上のように、実施形態に係る評価方法は、デンプンを分解する酵素(この一例において、αアミラーゼ)により米(この一例において、炊飯米)への糖類分解処理を行う分解ステップ(この一例において、
図2に示したステップS130~ステップS160の処理)と、分解ステップにより糖類分解処理が行われた後の米の甘味度を評価する評価ステップ(この一例において、
図2に示したステップS170の処理)と、を有する。これにより、評価方法は、米を食べた人の口腔内において起きる事象を糖類分解処理によって再現することができ、その結果、得られる評価結果と官能評価の結果との乖離を抑制することができる。
【0055】
なお、上記において説明した事項は、如何様に組み合わされてもよい。
【0056】
<付記>
[1]
デンプンを分解する酵素により米への糖類分解処理を行う分解ステップと、前記分解ステップにより前記糖類分解処理が行われた後の前記米の甘味度を評価する評価ステップと、を有する評価方法。
[2]
前記糖類分解処理は、前記酵素と前記米とを混合した検体を、前記酵素の至適温度の範囲内に含まれる保持温度で、前記酵素に応じた時間保持する処理を含む、[1]に記載の評価方法。
[3]
前記米は、炊飯米であり、前記保持温度は、前記至適温度の範囲内に含まれる温度のうち、前記米を食べた場合における人の口腔内の温度として予め決められた温度である、[2]に記載の評価方法。
[4]
前記酵素は、αアミラーゼであり、前記保持温度は、40℃である、[3]に記載の評価方法。
[5]
[1]に記載の評価方法を実行する、評価装置。
【0057】
以上、本開示の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない限り、変更、置換、削除等されてもよい。
【0058】
また、以上に説明した装置における任意の構成部の機能を実現するためのプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録し、そのプログラムをコンピュータシステムに読み込ませて実行するようにしてもよい。ここで、当該装置は、例えば、評価装置1等である。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD(Compact Disk)-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバーやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリーのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0059】
また、上記のプログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上記のプログラムは、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル又は差分プログラムであってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…評価装置、10…検体供給部、11…酵素供給部、12…反応容器部、13…加熱部、14…評価部、15…制御部、16…記憶部、17…操作受付部、18…通信部、19…表示部