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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141081
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】冷菓用チョコレート類
(51)【国際特許分類】
   A23G 1/36 20060101AFI20241003BHJP
   A23G 9/48 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A23G1/36
A23G9/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052535
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】後飯塚 叡
(72)【発明者】
【氏名】横東 優香子
【テーマコード(参考)】
4B014
【Fターム(参考)】
4B014GB03
4B014GB18
4B014GE03
4B014GG06
4B014GG07
4B014GG11
4B014GG14
4B014GK07
4B014GL06
4B014GP02
4B014GP14
4B014GP20
4B014GP27
(57)【要約】
【課題】被覆時に固化が速く、喫食時に良好な口溶けや滑らかな食感を有する冷菓用チョコレート類を提供することを課題とする。より好ましくは、被覆された場合に割れや剥がれが抑制された冷菓用チョコレート類を提供することを課題とする。
【解決手段】チョコレート類が特定の脂肪酸および特定のトリグリセリドを一定量含む油脂組成を有することで、前記課題を解決する冷菓用チョコレート類を提供することができる。
さらに、前記冷菓用チョコレート類に特定の乳化剤を組み合わせることで、被覆時と喫食時に、特に良好な物性を両立させることができる、冷菓用チョコレート類を提供することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相中の油脂組成が(A)~(E)の全要件を満たす、油分35~80質量%の冷菓用チョコレート類。
(A)構成脂肪酸中の炭素数12及び炭素数14の飽和脂肪酸含量が15~30質量%
(B)構成脂肪酸中の炭素数16~22の飽和脂肪酸含量が18~30質量%
(C)構成脂肪酸中の炭素数16~22の不飽和脂肪酸含量が40~60質量%
(D)構成トリグリセリドの総炭素数34~40のトリグリセリド含量が15~30質量%
(E)構成トリグリセリドの総炭素数48~54のトリグリセリド含量が58~75質量%
【請求項2】
油相中に、パーム軟質油を10~35質量%、ヨウ素価80以上の液状油脂を15~50質量%含む、請求項1に記載の冷菓用チョコレート類。
【請求項3】
1)又は2)の要件を満たす乳化剤を0.01~1質量%含む、請求項1又は請求項2に記載の冷菓用チョコレート類。
1)HLB5以下で主要構成脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸のポリグリセリン脂肪酸エステル、
2)HLB3以下で主要構成脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル
【請求項4】
カカオバターの含有量が0質量%以上10質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載の冷菓用チョコレート類。
【請求項5】
冷菓被覆用である、請求項1又は請求項2に記載の冷菓用チョコレート類。
【請求項6】
冷菓被覆用である、請求項3に記載の冷菓用チョコレート類。
【請求項7】
請求項5に記載の冷菓用チョコレート類を被覆した複合冷菓。
【請求項8】
請求項6に記載の冷菓用チョコレート類を被覆した複合冷菓。
【請求項9】
油相を(A)~(E)の全要件を満たす油脂組成に調整し、粉砕工程及び混合工程を有する、冷菓用チョコレート類の製造方法。
(A)構成脂肪酸中の炭素数12及び炭素数14の飽和脂肪酸含量が15~30質量%、
(B)構成脂肪酸中の炭素数16~22の飽和脂肪酸含量が18~30質量%、
(C)構成脂肪酸中の炭素数16~22の不飽和脂肪酸含量が40~60質量%、
(D)構成トリグリセリドの総炭素数34~40のトリグリセリド含量が15~30質量%、
(E)構成トリグリセリドの総炭素数48~54のトリグリセリド含量が58~75質量%
【請求項10】
1)又は2)に該当する乳化剤を0.01~1質量%含有させる、請求項9に記載の冷菓用チョコレート類の製造方法。
1)HLB5以下で主要構成脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸のポリグリセリン脂肪酸エステル、
2)HLB3以下で主要構成脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル
【請求項11】
請求項1又は請求項2に記載の冷菓用チョコレート類を用いて、複合冷菓中のチョコレート類のひび割れ及び/又は剥がれを抑制する方法。
【請求項12】
請求項3に記載の冷菓用チョコレート類を用いて、複合冷菓中のチョコレート類のひび割れ及び/又は剥がれを抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷菓用チョコレート類に関する。
【背景技術】
【0002】
アイスクリーム等の冷菓製品には、風味の多様化や水分移行防止、食感付与のため、チョコレート類などの油性食品素材でコーティング(被覆)、または練り込み(滴下)することがある。ここで、一般的な被覆用チョコレート類に求められる適性としては、薄く均一にコーティングできて、固化が速い、固化した後にひび割れしない、食べた時の口溶けの良さ等が挙げられる。
【0003】
特許文献1や特許文献2には、冷菓にコーティングして、ひび割れが生じにくい被覆用油脂組成物や冷菓用チョコレートの発明が開示されている。
また、特許文献3には冷菓にコーティングした際に特定の乳化剤を含有させて、良好なツヤを有するチョコレートの発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-036142号公報
【特許文献2】特開2015-015915号公報
【特許文献3】特開2016-129494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは、冷菓用に適したチョコレート類について考察した。従来、冷菓用のチョコレート類は、いわゆる板チョコレートなどのように喫食時に一定の硬さを求める物が多く、特許文献2のようにパリパリ食感などを特徴とすることが多かった。
しかし、近年食の多様化が進み、さまざまな食感が求められ、冷菓用チョコレート類に従来とは異なる、良好な口溶けや喫食時の滑らかな食感が求められることがある。特許文献1では良好な口溶けのチョコレート類について記載があるが、固化の速さは不充分であった。特許文献3では、ツヤに関する記載はあるが、固化についての示唆は無い。そのため良好な口溶けや滑らかな食感を追求する場合に、被覆時に求められる均一な被覆状態や、固化の速さを口溶けの良さと同時に実現することは困難であった。
また、冷菓に被覆されたチョコレート類は、油脂によってはひび割れたり、喫食時にはがれ落ちたりする場合があり、口溶けと併せて剥がれ落ちたりひび割れたりしないという食べやすさも求められる。
【0006】
従って本発明は、被覆時に固化が速く、喫食時に良好な口溶けや滑らかな食感を有する冷菓用チョコレート類を提供することを課題とする。より好ましくは被覆された場合に割れ及び/又は剥がれが抑制された冷菓用チョコレート類を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、鋭意検討を繰り返し、チョコレート類が特定の脂肪酸および特定のトリグリセリドを一定量含む油脂組成を有することで、前記課題を解決する冷菓用チョコレート類を提供することができることを見出した。
また、発明者らはさらに、前記冷菓用チョコレート類に特定の乳化剤を組み合わせることで、被覆時と喫食時に、特に良好な物性を両立させることができる、冷菓用チョコレート類を提供することができることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、
(1)油相中の油脂組成が(A)~(E)の全要件を満たす、油分35~80質量%の冷菓用チョコレート類、
(A)構成脂肪酸中の炭素数12及び炭素数14の飽和脂肪酸含量が15~30質量%、
(B)構成脂肪酸中の炭素数16~22の飽和脂肪酸含量が18~30質量%、
(C)構成脂肪酸中の炭素数16~22の不飽和脂肪酸含量が40~60質量%、
(D)構成トリグリセリドの総炭素数34~40のトリグリセリド含量が15~30質量%、
(E)構成トリグリセリドの総炭素数48~54のトリグリセリド含量が58~75質量%、
(2)油相中に、パーム軟質油を10~35質量%、ヨウ素価80以上の液状油脂を15~50質量%含む、(1)に記載の冷菓用チョコレート類、
(3)1)又は2)の要件を満たす乳化剤を0.01~1質量%含む、(1)又は(2)に記載の冷菓用チョコレート類、
1)HLB5以下で主要構成脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸のポリグリセリン脂肪酸エステル、
2)HLB3以下で主要構成脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル、
(4)カカオバターの含有量が0質量%以上10質量%以下である、(1)又は(2)に記載の冷菓用チョコレート類、
(5)冷菓被覆用である、(1)又は(2)に記載の冷菓用チョコレート類、
(6)冷菓被覆用である、(3)に記載の冷菓用チョコレート類、
(7)(5)に記載の冷菓用チョコレート類を被覆した複合冷菓、
(8)(6)に記載の冷菓用チョコレート類を被覆した複合冷菓、
(9)油相を(A)~(E)の全要件を満たす油脂組成に調整し、粉砕工程及び混合工程を有する、冷菓用チョコレート類の製造方法、
(A)構成脂肪酸中の炭素数12及び炭素数14の飽和脂肪酸含量が15~30質量%、
(B)構成脂肪酸中の炭素数16~22の飽和脂肪酸含量が18~30質量%、
(C)構成脂肪酸中の炭素数16~22の不飽和脂肪酸含量が40~60質量%、
(D)構成トリグリセリドの総炭素数34~40のトリグリセリド含量が15~30質量%、
(E)構成トリグリセリドの総炭素数48~54のトリグリセリド含量が58~75質量%、
(10)1)又は2)に該当する乳化剤を0.01~1質量%含有させる、(9)に記載の冷菓用チョコレート類の製造方法、
1)HLB5以下で主要構成脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸のポリグリセリン脂肪酸エステル、
2)HLB3以下で主要構成脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル、
(11)(1)又は(2)に記載の冷菓用チョコレート類を用いて、複合冷菓中のチョコレート類のひび割れ及び/又は剥がれを抑制する方法、
(12)(3)に記載の冷菓用チョコレート類を用いて、複合冷菓中のチョコレート類のひび割れ及び/又は剥がれを抑制する方法、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、被覆時に固化が速く、喫食時に良好な口溶けや滑らかな食感を有する冷菓用チョコレート類を提供することができる。より好ましい態様として、本発明の冷菓用チョコレート類は、従来のチョコレート類よりも割れ及び/又は剥がれを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0011】
本発明でいう冷菓とは、冷凍温度域で喫食される菓子類であれば、特にその種類は限定されないが、代表的なものとして、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」、いわゆる、「乳等省令」で規定される、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイスや、厚生省告示「食品、添加物等の規格基準」で規定される氷菓が挙げられる。
【0012】
本発明でいうチョコレート類とは、油脂が連続相である油性食品であれば特に限定はされない。チョコレート類とは、全国チョコレート業公正取引協議会、チョコレート利用食品公正取引協議会が規定するところの、「純チョコレート」「チョコレート」「準チョコレート」及び「チョコレート利用食品」から、カカオバター以外の油脂とカカオ固形分以外の可食物よりなる「チョコレート様食品」、その他、野菜や果物由来の粉末を混合させる抹茶風味、イチゴ風味といった、油脂をベースとして可食物を分散させた食品を総称するものであってもよい。
【0013】
本発明の冷菓用チョコレート類に含まれる油脂は、要件を満たせば特に限定されないが、大豆油、ひまわり種子油、綿実油、菜種油、ハイエルシン酸菜種油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、中鎖トリグリセリド(MCT)等の植物性油脂、および乳脂、牛脂、豚脂等の動物性油脂、ならびに、それらの硬化油、分別油、硬化分別油、分別硬化油、エステル交換等を施した加工油脂、さらにこれらの混合油脂等を使用することができる。
【0014】
本発明の冷菓用チョコレート類に含まれる油分は、チョコレート類全体に対して、35~80質量%である。好ましくは、37~75質量%、より好ましくは40~70質量%、42~68質量%に調製ことができる。油分が適切であれば、冷菓と組み合わせることが容易であり、特に被覆作業がおこないやすく、冷菓に均一に被覆することができる。油分が多すぎると油性感が強くなり、良好なチョコレートの風味を感じにくくなる場合がある。冷菓用チョコレート類に含まれる油脂は、全粉乳などに含まれる油分すべてを含めた質量%を意味する。
【0015】
本発明の冷菓用チョコレート類の油相は、全構成脂肪酸中に炭素数12の飽和脂肪酸及び炭素数14の飽和脂肪酸を合計15~30質量%含む。好ましくは15~25質量%、より好ましくは18~25質量%である。油相中に炭素数12の飽和脂肪酸及び炭素数14の飽和脂肪酸が適切な量含まれると、冷菓にチョコレート類を被覆した際に作業性が良好になる。具体的には、被覆時に冷菓から垂れ落ちる時間が短くなること、及び固化時間が適切になる。
油相の脂肪酸組成は日本油化学協会基準油脂分析試験法(1996年版)2.4.1.2メチルエステル化法(三フッ化ホウ素メタノール法)に規定の方法に準じて測定した値を用いるものとする。
なお、本発明でいう油相とは、冷菓用チョコレート類に含まれる油脂全体のことをいい、冷菓用チョコレート類の連続相のことをいう。
【0016】
本発明の冷菓用チョコレート類の油相は、全構成脂肪酸中に炭素数16~22の飽和脂肪酸を合計18~30質量%含む。好ましくは18~27質量%、より好ましくは18~25質量%である。また、油相中の構成脂肪酸として好ましくは、炭素数16~20の飽和脂肪酸を18~29質量%含む。より好ましくは18~26質量%、さらに好ましくは18~24質量%含む。油相中にこれらの飽和脂肪酸が適切な量含まれると、冷菓に被覆した際に作業性が良くなるだけでなく、ひび割れや剥がれが発生しにくい冷菓用チョコレート類を調製することができる。
【0017】
本発明の冷菓用チョコレート類の油相は、全構成脂肪酸中に炭素数16~22の不飽和脂肪酸を合計40~60質量%含む。好ましくは43~60質量%、より好ましくは43~56質量%である。油相中にこれらの不飽和脂肪酸が適切な量含まれると冷菓に被覆したチョコレート類のひび割れや剥がれが発生しにくく、口溶けが良好で滑らかな食感が得られる。
【0018】
本発明の冷菓用チョコレート類の油相は、全構成トリグリセリド中に構成脂肪酸の総炭素数(CN)が34~40のトリグリセリドを15~30質量%含む。好ましくは15~25質量%、より好ましくは17~25質量%である。これらのトリグリセリドが適切な量であれば、冷菓に被覆した際の作業性が良く、特に垂れ落ちや固化に要する時間が適切になる。量が多すぎると、被覆したチョコレート類がひび割れたり、喫食時にはがれ落ちたりする場合がある。
油相のトリグリセリドを構成している脂肪酸の総炭素数の測定は、日本油化学協会基準油脂分析試験法(1996年版)2.4.6トリアシルグリセリン組成(ガスクロマトグラフ法)に規定の方法に準じて測定した値を用いるものとする。
【0019】
本発明の冷菓用チョコレート類の油相は、全構成トリグリセリド中に構成脂肪酸の総炭素数(CN)が48~54のトリグリセリドを58~75質量%含む。好ましくは58~73質量%、より好ましくは60~73質量%である。これらのトリグリセリドが適切な量含まれていると、冷菓に被覆した際に作業性が良好であって、良好な口溶けと滑らかな食感のチョコレート類が得られる。
【0020】
本発明の冷菓用チョコレート類は、好ましい態様として、油相中にパーム軟質油を含む。パーム軟質油とは、パームを分別して得られたヨウ素価50~80の低融点側の画分である。油相中のパーム軟質油の含有量は、好ましくは10~35質量%、より好ましくは15~35質量%であり、さらに好ましくは18~32質量%である。
【0021】
本発明の冷菓用チョコレート類は、好ましい態様として、油相中にヨウ素価80以上の液状油脂を15~50質量%含む。より好ましくは18~58質量%、さらに好ましくは20~45質量%である。
本発明でいう液状油脂とは、20℃で液体状態の油脂をいい、ヨウ素価が80以上であるものとして一例をあげるとすれば、大豆油、菜種油、ひまわり種子油、綿実油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油およびそれらの分別加工油である。
なお、ヨウ素価は、社団法人日本油化学会制定の基準油脂分析試験法2.3.4 ヨウ素価に準じて測定したものである。
【0022】
本発明の冷菓用チョコレート類は、好ましい態様として1)または2)の要件を満たす乳化剤を0.01~1質量%含む。より好ましくは0.05~0.9質量%、0.08~0.8質量%、さらに好ましくは0.1~0.7質量%、0.2~0.6質量%である。
1)HLB5以下、主要構成脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸であるグリセリン脂肪酸エステル。
2)HLB3以下、主要構成脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸であるショ糖脂肪酸エステル。
【0023】
1)について、グリセリン脂肪酸エステルとしては、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステルの他、グリセリン脂肪酸エステルが複数重合したポリグリセリン脂肪酸エステルが挙げられ、グリセリンの水酸基が複数エステル結合したグリセリン脂肪酸エステルも含む。中でも最も好ましい態様としては、グリセリン脂肪酸エステルが複数重合したポリグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。
グリセリン脂肪酸エステルのHLBは5以下が好ましく、より好ましくはHLB1~5、最も好ましくはHLB2~5、3~5である。なお、乳化剤のHLBとは、Hydrophilic-Lipophilic Balanceの略であって、親水性と親油性のバランスのことであり、乳化剤が親水性か親油性かを知る指標である。HLBは0~20の値をとり、HLB値が小さいほど親油性が強い。
主要構成脂肪酸とは、乳化剤を構成する脂肪酸として製品中に60質量%以上含まれる脂肪酸のことをいう。本発明の冷菓用チョコレート類に含まれる乳化剤としては、主要構成脂肪酸が炭素数16~22の飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0024】
2)について、ショ糖脂肪酸エステルのHLBは3以下が好ましく、より好ましくはHLB1~3である。主要構成脂肪酸としては、炭素数が16~22の飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0025】
1)または2)の要件を満たす乳化剤が冷菓用チョコレート類に含まれることで、従来技術では被覆作業時に固化させることが困難であった、口溶けが良好で滑らかな食感を有するチョコレート類でも、固化が速くなり、適切な作業時間で被覆させることが可能となる。
乳化剤を好ましい含有量に調整することで、冷菓に被覆した際の垂れ落ちや固化に要する時間が軽減されて、より良好な作業性が得られる。これらの乳化剤は1)または2)の要件を満たす乳化剤であれば、1種類または2種類以上の乳化剤を併用することができる。
【0026】
本発明の冷菓用チョコレート類は、カカオバターの含有量が0質量%以上10質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.5質量%以上9質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上8質量%以下である。カカオバターを適切な量含むことで、冷菓用チョコレート類に滑らかな食感やチョコレートらしい濃厚な風味を付与することができる。
【0027】
本発明の冷菓用チョコレート類は、一般的なチョコレート類を製造する要領で行うことができる。具体的には、油脂に、糖類、粉乳等の各種粉末食品、カカオマス、ココアパウダー、乳化剤、香料、色素等の原料を適宜選択して混合し、ロール掛けすることによって粉砕し、コンチング若しくはミキシング処理を行い、得ることができる。あるいは、油脂に、糖類、粉乳等の各種粉末食品、カカオマス、ココアパウダー、乳化剤、香料、色素等の原料を適宜選択して混合し、ボールミルなどの粉砕と混合を並行して行うような処理工程を経て、得ることもできる。
【0028】
本発明の冷菓用チョコレート類は、好ましくは粘度が4000mPa・s以下である。粘度とは、BM型粘度計で測定できるものをいう。より詳細には、BM型粘度計2号ローターあるいは3号ローターを用いて30rpmの条件で測定される40℃での粘度をいう。通常2号ローターを用いて測定され、2号ローターで測定できないものは3号ローターを用いて測定される。
粘度のより好ましい範囲は、200mPa・s~4000mPa・s、200mPa・s~3000mPa・s、さらに好ましい範囲は220mPa・s~2000mPa・sである。粘度が所定の範囲内であれば、冷菓との組合せが実施しやすく、特に被覆用途において冷菓に均一に被覆しやすくなる。
【0029】
本発明の冷菓用チョコレート類は主たる用途は被覆であるが、冷菓に対する組合せであれば特にその組合せ方法に限定はされない。一例では被覆以外では流動状態のアイスクリームへの滴下や練り込み、線描き等に利用することができる。ただし、作業性、口溶けと滑らかな食感、及びひび割れや剥がれの抑制という効果を最も発揮するのは、冷菓被覆用途の場合である。被覆する方法は特に限定されないが、エンローバー法、ディピング法などが挙げられる。
組合せ条件としては、例えば被覆の場合、通常の冷菓用チョコレート類と同様に40~50℃の湯煎で、冷菓用チョコレート類を融解した後、品温40℃前後まで下げ、冷菓を浸漬させたり、冷菓に直接塗布したりするなどの方法で組合せを行えばよい。
【0030】
本発明の冷菓用チョコレート類を用いた複合冷菓は、アイスクリームなどの冷菓の口溶けと冷菓用チョコレート類の口溶け、両者が有する滑らかな食感の一体感を感じることができるものとなる。従来の複合冷菓は、チョコレートの存在感を風味だけでなく食感でも発揮させるためにパリパリとした硬い食感のものが多かった。このような場合に、複合冷菓喫食時にはアイスクリームなどの冷菓とチョコレート類を個別に感じられていた。一方、本発明の冷菓用チョコレート類を用いた複合冷菓はアイスクリームなどの冷菓とチョコレート類が同様の口溶けであるため、一体感を有する風味や食感を感じることができる。
【0031】
本発明の冷菓用チョコレート類は、要件を満たせば糖類、全脂粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、バターミルクパウダー等の乳製品、カカオマス、ココアパウダー、調整ココアパウダー等のカカオ分、チーズ粉末、コーヒー粉末、果汁紛末等の原材料を適宜使用することができる。また、風味や色調調整のため、バニリンや香料、酸味料、色素類を適宜使用することができる。さらに、上述した乳化剤の他にもレシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの乳化剤を適宜使用することができる。
【0032】
本発明において、ひび割れとは、冷菓用チョコレート類を被覆した冷菓をナイフでカットする際に、クラッキングが発生する状態を意味する。はがれとは、冷菓用チョコレート類を被覆した冷菓をナイフでカットした後に、冷菓用チョコレート類の一部が冷菓から剥がれ落ちることを意味する。
【0033】
本発明の冷菓用チョコレート類は、被覆時に固化の速さを有し、喫食時に口溶け良く、割れや剥がれが抑制された、良好な物性を有する。さらに、前述の物性を有する冷菓用チョコレートは、冷菓へ被覆時に均一な被覆状態にすることができる。均一な被覆状態であることは、見た目が良好であることだけでなく、喫食時に口溶けや、冷菓との一体感を感じられる点で有益である。
発明者らが検討する中で、均一に被覆されるためには、被覆作業時に冷菓に被覆したチョコレート類が垂れ落ちる時間が少ないことが求められることに着目し、垂れ落ちる時間と固化に要する時間から被覆作業時に良好な物性を見出した。
【0034】
本発明において、固化の速さは、固化時間で評価することができる。固化時間は、冷菓に冷菓用チョコレート類を被覆した後、チョコレート類の表面を指で撫でても指にチョコレート類が付着しなくなるまでの時間を意味する。垂れ落ちとは、冷菓用チョコレート類を冷菓に被覆した際に、冷菓表面から冷菓用チョコレート類が滴り落ちることを意味する。
固化の速さについては、目付量も判断の重要な要素になる。冷菓に被覆されたチョコレート類の量が多ければ、固化に時間を要する。しかし、被覆されたチョコレート類の量が多いと、被覆の厚みが増すため、チョコレート類の食感をより感じやすくなる。
本願の冷菓用チョコレート類は被覆に用いた場合に、ソフトな食感を感じられる。そのため、被覆に用いた場合に目付量が多いと、よりソフトな食感を感じることができるので、多くの目付量であっても固化の速さが遅くならないものが冷菓用チョコレート類として好ましい。
本発明において、目付量あたりの固化時間は、好ましくは7秒/g、より好ましくは6秒/g、さらに好ましくは5秒/gである。
【0035】
本発明において、口の中で冷菓用チョコレート類と冷菓が共に溶けていくことを意味する。また、食感が良好であるとは、パリパリやバリバリ、ゴリゴリといった冷菓とは異なる食感ではなく、冷菓と馴染む軟らかさや口当たりの滑らかさを有することを意味する。
【実施例0036】
以下、本発明について実施例を示し、より詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、%および部はいずれも質量基準を意味する。
【0037】
●検討1
表1記載の油脂を含有する冷菓用チョコレート類を表2および表3の配合で調製した。油脂A、B、C、D、Eは以下に示した。冷菓用チョコレート類の調製は、全粉乳、砂糖を、融解した一部の油脂とミキサーで混合し、これをロールリファイナーにて粉砕した後、残りの油脂及びレシチンを加え、ミキシングを行った。
油脂A:ヨウ素価131の大豆白絞油を用いた。
油脂B:ヨウ素価68のパーム分別軟質油を用いた。
油脂C:ヨウ素価45のパーム中融点画分を用いた。
油脂D:ヨウ素価58のパーム分別軟質油を用いた。
油脂E:ヨウ素価9の精製やし油を用いた。
カカオバターは不二製油社製ココアバター201を使用した。
レシチンは、大豆レシチンである辻製油社製SLP-ペーストを使用した。
表中の「C12+C14飽和」は炭素数12および炭素数14の飽和脂肪酸の構成脂肪酸中の総量、「C16~C22飽和」は炭素数16~炭素数22の飽和脂肪酸の構成脂肪酸中の総量、「C16~C20飽和」は炭素数16~炭素数20の飽和脂肪酸の構成脂肪酸中の総量、「C16~C22不飽和」は炭素数16~炭素数22の不飽和脂肪酸の構成脂肪酸中の総量、「CN34~CN40」は炭素数34~炭素数40のトリグリセリドの構成トリグリセリド中の総量、「CN48~CN54」は炭素数48~炭素数54のトリグリセリドの構成トリグリセリド中の総量を示した。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
表2および表3の配合で調製した冷菓用チョコレート類を加温融解して35℃に調整した。35℃に調整した冷菓用チョコレート類を円柱状の容器に充填し、その中に冷菓を浸漬させ、素早く引き上げることで全面にコーティングさせた。
コーティング作業時は、浸漬し引き上げた後、付着したチョコレート類の滴が垂れ落ちなくなるまでの時間、チョコレート類の表面がべたつかなくなるまでの固化に要した時間、冷菓に付着した目付量を確認した。
冷菓としては、株式会社ロッテ製バニラバーの先端を10mmカットした概形23mm×23mm×63mmの四角柱型のアイスバーを使用した。
【0042】
(垂れ時間)
滴が垂れ落ちなくなるまでの時間を垂れ時間とし、以下のように評価した。
◎:10秒以内で垂れ落ちなくなる
○:10秒を上回り、15秒以内で垂れ落ちなくなる
△:15秒を上回り、20秒以内で垂れ落ちなくなる
×:20秒を超えてから、垂れ落ちなくなる
(固化時間)
冷菓に付着したチョコレート類表面がべたつかなくなるまでの、固化に要した時間を固化時間とし、以下の様に評価した。
◎:30秒以内で指にチョコレートが付着しなくなる
○ 30秒を上回り、40秒以内で指にチョコレートが付着しなくなる
△ 40秒を上回り、50秒以内で指にチョコレートが付着しなくなる
× 50秒を超えてから、指にチョコレートが付着しなくなる
(食感及び口溶け)
チョコレート類が被覆された複合冷菓を-25℃で一週間保管し、その複合冷菓を喫食した際の評価を以下のように行った。
◎:噛み出しから食べ終わりまでソフトな食感。口溶けも非常に良い
○:噛み出しから食べ終わりまでソフトな食感。口溶けも良い
△:噛み出しには若干のパリ感があるが、噛み出し以降の食感はソフトで口溶けも良い
×:噛み出しでパリパリした食感があり、噛み出し以降もパリ感が持続する
(割れ及びはがれ)
チョコレート類が被覆された複合冷菓を-25℃で一週間保管し、その複合冷菓をナイフでカットした際に、チョコレート類が冷菓から剥がれないか、ナイフでカットした後に、ひび割れが発生しないか、を評価した。
○:ナイフをどの角度から複合冷菓に入れてカットしても、ひび割れ及び剥がれが発生しない
△:ナイフを入れてカットした場合、ひび割れ及び剥がれが発生しない、又はわずかであり許容範囲である
×:ナイフを入れてカットした場合、明らかなひび割れ及び/又は剥がれが発生する
結果を表4および表5に示した。すべてが△以上であるものが冷菓用チョコレート類として適当であると判断した。
なお、表4および表5の粒度は、マイクロメーター(株式会社ミツトヨ社製、デジタル式マイクロメーター)を用いて測定した粒度であり、5回測定した平均値を示した。
粘度は、BM型粘度計(東機産業株式会社製、デジタル式粘度計 TVB-10)の2号ローターを用いて、40℃、30rpmにて測定した値を示した。
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
比較例1、2及び4~6は固化時間が短く、食感がパリパリとしていた。対して比較例3はソフトな食感を有するが、垂れ時間がかかり、被覆が部分的に薄くなっていた。また、固化時間も長かった。一方で実施例はどれも固化時間が適当でソフトな食感を有しており、均一に被覆していた。また、割れも剥がれもない品質であった。
【0046】
●検討2
検討1と同様の方法で調製したチョコレート類に以下の乳化剤を表6の配合に従って添加した。添加にあたり、それぞれの乳化剤は油脂に混合して添加、あるいは透明なペースト状である乳化剤Y、Zはチョコレート類に直接添加した。
使用した乳化剤W、X、Y、Zを以下に示した。
乳化剤W:「SYグリスター HB-750」(ポリグリセリン脂肪酸エステル、HLB4.2、主要構成脂肪酸:炭素数22の飽和脂肪酸、阪本薬品工業株式会社製)
乳化剤X:「リョートーシュガーエステルP170」(ショ糖脂肪酸エステル、HLB1、主要構成脂肪酸:炭素数16の飽和脂肪酸、三菱化学フーズ株式会社製)
乳化剤Y:「リョートーシュガーエステルER290」(ショ糖脂肪酸エステル、HLB2、主要構成脂肪酸:炭素数22の一価不飽和脂肪酸、三菱化学フーズ株式会社製)
乳化剤Z:「SYグリスター CR-350」(ポリグリセリン縮合リシノ-ル酸エステル、主要構成脂肪酸:炭素数18の一価不飽和脂肪酸、阪本薬品工業株式会社製)
【0047】
【表6】
【0048】
検討1と同様に、調製した冷菓用チョコレート類を冷菓にコーティングし、その性状を検討1と同様に評価した。結果を表7に示した。
【0049】
【表7】
【0050】
乳化剤を添加することで垂れ時間が改善した。どの実施例もすべて均一に被覆されていた。また、目付量は増加傾向であったが、目付量を増やしても固化時間が適当であった。乳化剤を添加することによって、目付量あたりの固化時間を同程度以上に短く調整できることが示された。
【0051】
●検討3
検討1と同様の方法で表8の配合に従って冷菓用チョコレート類を調製した。調製した冷菓用チョコレート類を冷菓にコーティングし、その性状を検討1と同様に評価した。結果を表9に示した。
【0052】
【表8】
【0053】
【表9】
【0054】
実施例はどれも均一に被覆されていた。ココアを含む冷菓用チョコレート類であっても、固化時間が適当でソフトな食感を有する冷菓用チョコレート類を調製できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によって、被覆時に固化が速く、喫食時に良好な口溶けや滑らかな食感を有する冷菓用チョコレート類を提供することができる。前記冷菓用チョコレート類を被覆した場合に、喫食時の割れや剥がれを抑制することができる。