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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141084
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】架橋反応シミュレーション装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 35/02 20060101AFI20241003BHJP
   B29K 7/00 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
B29C35/02
B29K7:00
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052539
(22)【出願日】2023-03-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】住田 弘志
(72)【発明者】
【氏名】野口 真秀
(72)【発明者】
【氏名】西村 翔汰
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 哲也
【テーマコード(参考)】
4F203
【Fターム(参考)】
4F203AA45
4F203AB03A
4F203AB18
4F203AM23
4F203AP20
4F203AR20
4F203DA11
4F203DA12
4F203DB01
4F203DC01
4F203DF01
4F203DF02
(57)【要約】
【課題】架橋反応時におけるポリマーの温度履歴を精度よく推定可能な架橋反応シミュレーション装置を提供する。
【解決手段】記憶部2と、伝熱解析を行う伝熱解析部3と、を備える架橋反応シミュレーション装置1であって、記憶部2は、成形型モデルMMと、対象ワークモデルWMと、原料ポリマーに対するカーボンブラックの質量比とポリマー部12の熱拡散率との関係を表す熱拡散率特性TSと、を記憶し、伝熱解析部3は、対象ワークモデルWMにおける原料ポリマーに対するカーボンブラックの質量比、および、成形型モデルMMの温度条件を入力する条件入力部30と、カーボンブラックの質量比と熱拡散率特性TSとに基づいて、ポリマー熱拡散率を決定するポリマー熱拡散率決定部31と、成形型モデルMMに対象ワークモデルWMを配置した状態で、ポリマー熱拡散率および温度条件TCを用いて、伝熱解析を行う解析部32と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シミュレーションに用いるデータを記憶する記憶部と、
対象ワークモデルのポリマー部の架橋反応時における伝熱解析を行う伝熱解析部と、
を備える架橋反応シミュレーション装置であって、
前記記憶部は、
成形型モデルと、
原料ポリマーおよびカーボンブラックを含んで構成される前記ポリマー部、を有する対象ワークモデルと、
前記原料ポリマーに対する前記カーボンブラックの質量比と前記ポリマー部の熱拡散率との関係を表す熱拡散率特性と、を記憶し、
前記伝熱解析部は、
前記対象ワークモデルにおける前記原料ポリマーに対する前記カーボンブラックの質量比、および、前記成形型モデルの温度条件を入力する条件入力部と、
前記条件入力部により入力された前記質量比と前記記憶部に記憶された前記熱拡散率特性とに基づいて、前記対象ワークモデルの前記ポリマー部の熱拡散率であるポリマー熱拡散率を決定するポリマー熱拡散率決定部と、
前記成形型モデルに前記対象ワークモデルを配置した状態で、前記ポリマー熱拡散率決定部により決定された前記ポリマー熱拡散率および前記記憶部に記憶された前記温度条件を用いて、伝熱解析を行う解析部と、を備える、架橋反応シミュレーション装置。
【請求項2】
前記熱拡散率特性は、前記原料ポリマーの種類に依存しない関係である、請求項1に記載の架橋反応シミュレーション装置。
【請求項3】
前記熱拡散率特性は、複数種の原料ポリマーで、異なるカーボンブラックの質量比で実験した場合の実測値より設定された関係である、請求項1に記載の架橋反応シミュレーション装置。
【請求項4】
前記熱拡散率特性は、前記カーボンブラックの質量比に対して線形の関係を有する、請求項1に記載の架橋反応シミュレーション装置。
【請求項5】
前記対象ワークモデルは、
前記ポリマー部と、
前記ポリマー部に接合された接合部材と、を備え、
前記記憶部は、さらに、
前記成形型モデルに前記対象ワークモデルを配置した状態で、前記成形型モデルと前記接合部材との間の熱伝達率である接触熱伝達率を記憶し、
前記解析部は、前記成形型モデルに前記対象ワークモデルを配置した状態で、前記ポリマー熱拡散率決定部により決定された前記ポリマー熱拡散率、前記記憶部に記憶された前記温度条件および前記接触熱伝達率を用いて、前記伝熱解析を行う、請求項1に記載の架橋反応シミュレーション装置。
【請求項6】
前記条件入力部は、
前記成形型モデルから脱型された前記対象ワークモデルの周囲の気温を含む外気条件が入力されるようになっており、
前記記憶部は、さらに
空気の熱伝達係数である空気熱伝達係数を記憶し、
前記解析部は、前記対象ワークモデルの前記ポリマー部を前記成形型モデル内にて架橋反応させた後に前記成形型モデルから前記対象ワークモデルを脱型した状態で、前記ポリマー熱拡散率決定部により決定された前記ポリマー熱拡散率、前記記憶部に記憶された前記空気熱伝達係数および前記外気条件を用いて、前記伝熱解析を行う、請求項1に記載の架橋反応シミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋反応シミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリマーを架橋反応させることにより化学物質の物性を向上させることが行われている。このようなポリマーとしてゴムが例示される。ゴムは、原料ゴムに硫黄やその他の架橋剤,加硫促進剤等を加え、加熱を行なうことによって、ゴム分子鎖間あるいはその分子鎖の中に三次元網目状の架橋構造が形成されている。
【0003】
ゴムの加硫度、すなわち、ゴムの架橋反応の反応率を推定する技術として、非特許文献1に記載のものがある。上記の技術は、アレニウスの式に基づいて、ゴムの温度履歴から加硫度を推定し、適切な加硫条件(金型温度、加硫時間)を推定する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】有松利雄、“加硫工程設計の実際”、日本ゴム協会誌、第59巻,第3号,(1986)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の技術を用いる場合、架橋反応時におけるポリマーの温度履歴をできるだけ正確に推定することが好ましい。しかしながら、架橋反応時におけるポリマーの温度履歴を推定することは困難であった。以下に説明する。
【0006】
例えば、金型内にポリマーを配置した状態で架橋反応させる場合、金型の局所的な温度は管理および測定が可能である。しかし、金型からポリマーへの熱伝導、さらには、ポリマーの内部における熱伝導は、ポリマーの形状や、ポリマーに含まれるフィラーの組成などに影響を受ける。このため、ゴムの温度履歴は、製品の形状が異なる場合には製品ごとに異なる。さらに、同じ形状の製品であってもフィラーの組成が異なる場合には、組成の異なる製品ごとに異なる。特に、ポリマーの熱拡散率と、フィラーの熱拡散率とが異なっている場合には、ポリマーの温度履歴を推定することは非常に困難である。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、架橋反応時におけるポリマーの温度履歴を精度よく推定可能な架橋反応シミュレーション装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
シミュレーションに用いるデータを記憶する記憶部と、
対象ワークモデルのポリマー部の架橋反応時における伝熱解析を行う伝熱解析部と、
を備える架橋反応シミュレーション装置であって、
前記記憶部は、
成形型モデルと、
原料ポリマーおよびカーボンブラックを含んで構成される前記ポリマー部、を有する対象ワークモデルと、
前記原料ポリマーに対する前記カーボンブラックの質量比と前記ポリマー部の熱拡散率との関係を表す熱拡散率特性と、を記憶し、
前記伝熱解析部は、
前記対象ワークモデルにおける前記原料ポリマーに対する前記カーボンブラックの質量比、および、前記成形型モデルの温度条件を入力する条件入力部と、
前記条件入力部により入力された前記質量比と前記記憶部に記憶された前記熱拡散率特性とに基づいて、前記対象ワークモデルの前記ポリマー部の熱拡散率であるポリマー熱拡散率を決定するポリマー熱拡散率決定部と、
前記成形型モデルに前記対象ワークモデルを配置した状態で、前記ポリマー熱拡散率決定部により決定された前記ポリマー熱拡散率および前記記憶部に記憶された前記温度条件を用いて、伝熱解析を行う解析部と、を備える、架橋反応シミュレーション装置にある。
【発明の効果】
【0009】
カーボンブラックは、ポリマー部に比べて熱を伝えやすいので、カーボンブラックの質量比は、ポリマー部の熱拡散率に大きな影響を及ぼす。本発明の一態様によれば、原料ポリマーに対するカーボンブラックの質量比に基づいて、対象ワークモデルのポリマー部の熱拡散率であるポリマー熱拡散率を決定することができる。この結果、架橋反応時におけるポリマーの温度履歴を精度よく推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1の架橋反応シミュレーション装置を示すブロック図。
図2】実施形態1において、成形型モデルに対象ワークモデルを配置した状態を示す図。
図3】実施形態1の対象ワークモデルを示す図。
図4】実施形態1の架橋反応シミュレーション装置の動作を示すフローチャート。
図5】実施形態1において、成形型モデルに対象ワークモデルを配置した状態の各部の温度の経時変化を示す図。
図6】従来技術において、ポリマー部の温度の実測値と予測値とを示すグラフ。
図7】実施形態1において、ポリマー部の温度の実測値と予測値とを示すグラフ。
図8】実施形態1において、カーボンブラックの含有量に対する熱伝導率の変化量を示すグラフ。
図9】実施形態1において、成形型モデルに対象ワークモデルが配置された状態の解析メッシュの様子を説明するための図。
図10】実施形態1の加硫試験機の構造を示す模式図。
図11】実施形態1の加硫試験機によって測定されたトルクの、反応率への変換方法を説明するための図であって、(a)は、トルクの、反応時間に対する変化を示すグラフであり、(b)は、反応率の、反応時間に対する変化を示すグラフである。
図12】実施形態1の架橋反応解析処理における、傾き係数の算出方法を説明するための図。
図13】実施形態1の架橋反応解析処理における、等価反応量の算出方法を説明するための図。
図14】実施形態1の架橋反応解析処理における、等価反応量増加量から等価反応量を算出する方法を説明するための図。
図15】実施形態1の架橋反応解析処理における、等価反応量から反応率への変換方法を説明するための図。
図16】従来技術において、ポリマー部の反応率の、実測値と予測値とを示す図。
図17】実施形態1において、架橋反応の反応進行度に応じて区分し、活性化エネルギーを、各区分ごとに算出する方法を説明するための図
図18】実施形態1において、ポリマー部の反応率の、実測値と予測値とを示す図。
図19】実施形態1において、反応率の、反応時間に対する変化量の表現方法を説明するための図。
図20】実施形態1において、反応率の、反応時間に対する変化量を示す図。
図21】実施形態1の第二関数を示す図。
図22】実施形態1における、対象ワークモデルの解析メッシュの様子を説明するための図。
図23】ポリマー部に内部気泡が発生した状態を示す図。
図24】架橋反応における、ブローポイントにおける反応率、脱型時における反応率および最終反応率を示す図。
図25】(a)複数のサンプルのブローポイントにおける反応率を示すグラフ。(b)複数のサンプルのブローポイントにおける、加硫試験機によって測定されたトルクを示すグラフ。
図26】内部気泡を抑制するメカニズムを説明するための図。
図27】実施形態1において、ポリマー部の反応率分布を示すヒートマップ図。
図28】実施形態1において、金型温度が低温の場合の、反応時間に対する、対象ワークモデルの軸直角方向の弾性率の変化量を示す図。
図29】実施形態1において、金型温度が中温の場合の、反応時間に対する、対象ワークモデルの軸直角方向の弾性率の変化量を示す図。
図30】実施形態1において、金型温度が高温の場合の、反応時間に対する、対象ワークモデルの軸直角方向の弾性率の変化量を示す図。
図31】実施形態1において、ポリマー部の弾性率と、内部気泡の発生状況の、反応時間に対する変化を示す図。
図32】実施形態1において、内部気泡の発生予想結果を視覚的に表示する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態1)
1.架橋反応シミュレーション装置1の構成
1-1.架橋反応シミュレーション装置1の全体構成
実施形態1の架橋反応シミュレーション装置1の全体構成について、図1を参照して説明する。本形態の架橋反応シミュレーション装置1は、原料ポリマーの分子鎖同士を架橋させる架橋反応についてのシミュレーションを行う。
【0012】
原料ポリマーは、分子鎖同士が架橋反応可能であれば特に限定されず、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂、架橋ポリエチレン、架橋ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム等の合成ゴム、などの任意のポリマーを適宜に選択できる。本形態においては、天然ゴムおよび合成ゴムを含むゴムがポリマーとして用いられる。なお、ゴムの場合、硫黄等の架橋剤が添加された状態で加熱されることにより、ゴムを構成する分子鎖が架橋し、いわゆる加硫反応が起こる。
【0013】
図1に示すように、架橋反応シミュレーション装置1は、記憶部2と、伝熱解析部3と、架橋反応解析部4と、構造解析部5と、内部気泡推定部6と、表示部7と、を備える。
【0014】
1-2.記憶部2の構成
記憶部2は、シミュレーションに用いるデータを記憶する。データは、成形型モデルMMと、対象ワークモデルWMと、伝熱解析部3が用いる伝熱解析用データTDと、架橋反応解析部4が用いる架橋反応解析用データRDと、内部気泡推定部6が用いる内部気泡推定用データBDと、を含む。
【0015】
成形型モデルMMについて図2を参照して説明する。図2に示すように、成形型モデルMMは、金型10と、金型10に取付けられる熱板11と、を含んで構成される。金型10は、下側に位置する下型10Aと、下型10Aに上方から組付けられる上型10Bと、を備える。熱板11は、下型10Aの下面に取付けられる下熱板11Aと、上型10Bの上面に取付けられる上熱板11Bと、を含んで構成される。下型10Aには、上方に開口する下キャビティ100Aが形成されている。また、上型10Bには、下方に開口する上キャビティ100Bが形成されている。下型10Aと上型10Bとが組付けられた状態で、下キャビティ100Aと上キャビティ100Bとによって形成される空間内には、対象ワークモデルWMが配置される。
【0016】
対象ワークモデルWMについて図3を参照して説明する。図3に示すように、対象ワークモデルWMは、ポリマー部12を備える。ポリマー部12は、原料ポリマーを含む。さらに、ポリマー部12は、酸化防止剤等の添加剤や、カーボンブラック等を含んでも良い。本形態のポリマー部12は、原料ポリマーおよびカーボンブラックを含んで構成される。原料ポリマーは特に限定されず、ゴム、熱硬化性樹脂等、任意の材料を適宜に選択できる。本形態では、原料ポリマーはゴムにより構成される。本形態のポリマー部12は、防振性能を発揮するように構成されたゴム部であり、対象ワークモデルWMは、防振ゴム装置のモデルである。ただし、ポリマー部12は、原料ポリマーとして熱硬化性樹脂を含む構成としてもよいし、また、カーボンブラックを含まない構成としても良い。
【0017】
本形態のポリマー部12は、上下方向に延びる軸線Aに沿った筒状に形成されている。ポリマー部12の外周部には、上下方向に延びる円筒形状に形成された外側接合部材13(接合部材の一例)が配置されている。外側接合部材13は、金属製、樹脂製、または金属と樹脂との複合体として構成される。本形態の外側接合部材13は金属製であって、ポリマー部12の外周部と接合されている。ポリマー部12の内周部には、上下方向に延びる円筒形状に形成された内側接合部材14(接合部材の一例)が配置されている。内側接合部材14は、金属製、樹脂製、または金属と樹脂との複合体として構成される。本形態の内側接合部材14は金属製であって、ポリマー部12の内周部と接合されている。内側接合部材14の上下方向の長さ寸法は、外側接合部材13の上下方向の長さ寸法よりも大きく形成されている。ポリマー部12の上面、および下面は凹形状に形成されている。ただし、ポリマー部12の形状は上記の形状に限定されない。また、対象ワークモデルWMは、外側接合部材13および内側接合部材14の、双方または一方を備えない構成としても良い。
【0018】
図2に戻って、成形型モデルMMに対象ワークモデルWMを配置した状態で、成形型モデルMMと外側接合部材13および内側接合部材14との間には、それぞれ、隙間15が形成されている。
【0019】
図1に戻って、伝熱解析用データTDは、原料ポリマーに対するカーボンブラックの質量比とポリマー部12の熱拡散率との関係を示す熱拡散率特性TSと、成形型モデルMMに対象ワークモデルWMを配置した状態で、成形型モデルMMと外側接合部材13および内側接合部材14との間の熱伝達率である接触熱伝達率CHと、成形型モデルMMから対象ワークモデルWMを脱型した状態で、対象ワークモデルWMの周囲の空気の熱伝達係数である空気熱伝達係数ACと、後述する条件入力部30から入力される成形型モデルMMの温度条件TCと、脱型した対象ワークモデルWMの周囲の気温を含む外気条件OCと、を含む。
【0020】
架橋反応解析用データRDは、基準反応温度での基準反応時間のときの架橋反応の反応量に対する、対象反応温度での対象反応時間のときの架橋反応の反応量の比を等価反応量として定義し、アレニウスプロットの傾きを表す傾き係数を含んで定義される等価反応量算出モデルEMと、ポリマー部12の架橋反応の進行度に応じて設定された傾き係数SCと、を含む。架橋反応解析用データRDは、さらに、後述する第一関係データマップDM1、第二関係データマップDM2、第一関数F1、第二関数F2および基準反応曲線RCを含む。
【0021】
内部気泡推定用データBDは、架橋反応開始からの経過時間と、対象ワークモデルWMのポリマー部12における架橋反応の進行度に対応する値であってポリマー部12に相当する試験対象ポリマー材料を用いて架橋反応特性試験機により測定可能なトルクと、の関係を定義する架橋反応曲線CCを含む。
【0022】
1-3.伝熱解析部3の構成
伝熱解析部3は、対象ワークモデルWMのポリマー部12の架橋反応時における伝熱解析を行う。図1に示すように、伝熱解析部3は、条件入力部30と、ポリマー熱拡散率決定部31と、解析部32と、を備える。
【0023】
条件入力部30は、対象ワークモデルWMにおける原料ポリマーに対するカーボンブラックの質量比、および、成形型モデルMMの温度条件TCを入力する。条件入力部30としては、キーボード、マウス、トラックボール、ジョイスティック等の入力装置でもよいし、半導体メモリ、ハードディスクメモリ等の外部記憶媒体でもよい。
【0024】
ポリマー熱拡散率決定部31は、条件入力部30により入力されたカーボンブラックの質量比と、記憶部2に記憶された熱拡散率特性TSと、に基づいて、対象ワークモデルWMのポリマー部12の熱拡散率であるポリマー熱拡散率を決定する。
【0025】
解析部32は、成形型モデルMMに対象ワークモデルWMを配置した状態で、ポリマー熱拡散率決定部31により決定されたポリマー熱拡散率および記憶部2に記憶された温度条件TCを用いて、対象ワークモデルWMのポリマー部12の架橋反応時における伝熱解析を行う。
【0026】
1-4.架橋反応解析部4の構成
架橋反応解析部4は、伝熱解析部3による伝熱解析の結果を用いてポリマー部12の架橋反応の反応率の解析を行う。図1に示すように、架橋反応解析部4は、温度取得部40と、反応率算出処理部41と、を備える。
【0027】
温度取得部40は、伝熱解析部3による伝熱解析の結果として、架橋反応における対象ワークモデルWMのポリマー部12の各要素について時刻毎の温度を取得する。
【0028】
反応率算出処理部41は、取得した架橋反応におけるポリマー部12の各要素についての時刻毎の温度、等価反応量算出モデルEM、対象時刻における架橋反応の進行度に応じた傾き係数SCに基づいて、時刻毎のポリマー部12の等価反応量を算出し、算出した等価反応量に基づいてポリマー部12の架橋反応の反応率を算出する。
【0029】
1-5.構造解析部5の構成
構造解析部5は、架橋反応解析部4により解析されたポリマー部12の架橋反応の反応率を用いて構造解析を行う。図1に示すように、構造解析部5は、温度取得部50と、反応率取得部51と、弾性率割当部52と、特性取得部53と、を備える。ただし、温度取得部50は省略しても良い。
【0030】
温度取得部50は、伝熱解析部3による伝熱解析の結果として、架橋反応における対象ワークモデルWMのポリマー部12の各要素について時刻毎の温度を取得する。
【0031】
反応率取得部51は、架橋反応解析部4の反応率算出処理部41により算出されたポリマー部12の各要素における反応率を取得する。
【0032】
弾性率割当部52は、ポリマー部12において、取得した反応率に応じた弾性率を割り当てる。
【0033】
特性取得部53は、ポリマー部12に弾性率を割り当てた状態で構造解析を行うことにより、対象ワークモデルWMの特性を取得する。
【0034】
1-6.内部気泡推定部6の構成
内部気泡推定部6は、対象ワークモデルWMのポリマー部12を成形型モデルMM内にて架橋反応させた後に成形型モデルMMを脱型する架橋反応工程に適用され、対象ワークモデルWMのポリマー部12の内部において成形型モデルMMの脱型に伴う内部気泡の発生を推定する。図1に示すように、内部気泡推定部6は、反応率取得部60と、トルク算出部61と、推定部62と、を備える。
【0035】
反応率取得部60は、対象ワークモデルWMのポリマー部12の架橋反応の反応率を取得する。上記の反応率は、金型10を型開きした時点、すなわち型締め圧力が解放される時点での反応率である。なお、ポリマー部12がゴムである場合、上記の反応率は脱型時加硫度とも呼ばれる。
【0036】
トルク算出部61は、反応率取得部60により取得された反応率(脱型時反応率)と記憶部2に記憶された架橋反応曲線CCとに基づいて、取得された反応率に対応するトルク(脱型時トルクともいう)を算出する。
【0037】
推定部62は、トルク算出部61が算出したトルク(脱型時トルク)と、ポリマー部12におけるブローポイント加硫度(後に詳述する)から算出したブローポイントトルク(後に詳述する)と、を比較して、ポリマー部12の内部に気泡が発生するか否かを推定する。
【0038】
1-7.表示部7の構成
表示部7は、架橋反応解析部4の解析結果に基づいて、反応時間に応じた反応率から得られる値を表示する。また、表示部7は、構造解析部5の構造解析の結果に基づいて、ポリマー部12の架橋反応に用いられる成形型モデルMMの温度と、架橋反応開始から成形型モデルMMの脱型までの型内反応時間と、に応じた特性を表示する。
【0039】
また、表示部7は、内部気泡推定部6の推定結果に基づいて、成形型モデルMMの温度と、架橋反応開始から成形型モデルMMの脱型までの型内反応時間と、に応じて、内部気泡の発生の有無を表示する。また、表示部7は、架橋反応解析部4の解析結果に基づいて、成形型モデルMMの温度と、架橋反応開始から成形型モデルMMの脱型までの型内反応時間と、に応じた反応率から得られる値を、内部気泡の発生の有無に合わせて表示する。また、表示部7は、構造解析部5の構造解析の結果に基づいて、成形型モデルMMの温度と、架橋反応開始から成形型モデルMMの脱型までの型内反応時間と、に応じた特性を、内部気泡の発生の有無に合わせて表示する。
【0040】
2.架橋反応シミュレーション装置1の全体の動作
図4を参照しつつ、本形態に係る架橋反応シミュレーション装置1の全体の動作を説明する。ただし、以下の説明は架橋反応シミュレーション装置1の動作の一例であり、架橋反応シミュレーション装置1の動作は以下の記載に限定されない。
【0041】
架橋反応シミュレーション装置1が起動されると、伝熱解析処理S1が実行される。伝熱解析処理S1により、架橋反応における対象ワークモデルWMのポリマー部12の各要素について時刻毎の温度が得られる。詳細については後述する。
【0042】
次に、架橋反応解析処理S2が実行される。架橋反応解析処理S2においては、伝熱解析の結果として得られた、架橋反応における対象ワークモデルWMのポリマー部12の各要素についての時刻毎の温度、等価反応量算出モデルEM、対象時刻における架橋反応の進行度に応じた傾き係数SCに基づいて、時刻毎のポリマー部12の等価反応量を算出し、算出した等価反応量に基づいて、ポリマー部12の架橋反応の反応率が算出される。詳細については後述する。
【0043】
次に、構造解析処理S3が実行される。構造解析処理S3においては、架橋反応解析部4により算出されたポリマー部12の各要素における反応率に応じて弾性率を割り当て、ポリマー部12に弾性率を割り当てた状態で構造解析を行うことにより、対象ワークモデルWMの特性を取得する。詳細については後述する。
【0044】
次に、内部気泡推定処理S4が実行される。内部気泡推定処理S4においては、架橋反応解析処理により算出されたポリマー部12の反応率と記憶部2に記憶された架橋反応曲線CCとに基づいて、ポリマー部12の反応率に対応するトルクを算出し、脱型時におけるトルクに基づいて、対象ワークモデルWMのポリマー部12の内部における内部気泡の発生を推定する。詳細については後述する。
【0045】
次に、表示処理S5が実行される。表示処理S5においては、内部気泡推定部6による推定結果に基づいて、成形型モデルMMの温度と、架橋反応開始から成形型モデルMMの脱型までの型内反応時間と、に応じて、内部気泡の発生の有無を表示する。また、架橋反応解析部4による解析結果に基づいて、成形型モデルMMの温度と、架橋反応開始から成形型モデルMMの脱型までの型内反応時間と、に応じた反応率から得られる値を、内部気泡の発生の有無に合わせて表示する。また、構造解析部5による構造解析の結果に基づいて、成形型モデルMMの温度と、架橋反応開始から成形型モデルMMの脱型までの型内反応時間と、に応じた特性を、内部気泡の発生の有無に合わせて表示する。
【0046】
表示処理S5が終了すると、架橋反応シミュレーション装置1の動作が終了する。
【0047】
3.伝熱解析処理S1
3-1.カーボンブラックの質量比
次に、伝熱解析処理S1の詳細について、図2および図5図8を参照して説明する。図2に示すように、下型10Aと上型10Bとが組合された状態で、下キャビティ100Aと上キャビティ100Bとによって形成される空間内に、外側接合部材13と内側接合部材14とが配置される。さらに、下キャビティ100Aと上キャビティ100Bとによって形成される空間内に原料ポリマーが射出される。その後、金型10内において、ポリマー部12を構成する分子鎖の架橋反応が進行する。
【0048】
図5に示すように、熱板11の温度は一定に設定されている。金型10の温度は、熱板11と同じ温度に設定されている。射出時におけるポリマー部12の温度は、金型10の設定温度よりも低い。このため、金型10の温度は原料ポリマーが射出された後、一時的に下がる。その後、金型10の温度は上昇し、熱板11の温度と同じになる。ポリマー部12の温度は、金型10に射出された後、上昇し、十分に時間が経過した場合には金型10の温度と同じになる。内側接合部材14および外側接合部材13の温度は、金型10に配置される前の状態においては、外気温と同じであってもよいし、また、予熱されていても良い。外気温と同じである場合には、例えば冬季には0℃程度まで下がる場合もある。また、予熱される場合には、任意の温度に昇温してもよく、例えば100℃付近まで昇温してもよい。内側接合部材14および外側接合部材13が金型10に配置された後、内側接合部材14および外側接合部材13の温度は金型10からの熱伝導により上昇し、原料ポリマーが射出された後は、さらに上昇し、十分に時間が経過した場合には金型10の温度と同じになる。
【0049】
図5に示すように、ポリマー部12の温度が熱板11および金型10の温度に達して平衡状態になるまでにある程度の時間が必要となる。平衡状態に達するまでの非定常な過程を計算するために下記の式(1)が用いられる。式(1)は、いわゆる、非定常熱伝導方程式である。
【0050】
【数1】
ここで、
t:時間変数
x:位置変数
T:温度
α:熱拡散率
【0051】
上記の熱拡散率αは、下記の式(2)で表される。
【0052】
【数2】
ここで、
λ:熱伝導率
ρ:密度
C:比熱
【0053】
熱拡散率αおよび熱伝導率λが、熱拡散率特性TSに相当する。ただし、熱拡散率特性TSは、熱拡散率αおよび熱伝導率λに限定されない。
【0054】
熱拡散率αが既知である場合には、熱拡散率αを直接用いて、非定常熱伝導方程式(1)によりポリマー部12の温度を計算することができる。熱拡散率αが既知でない場合には、式(2)から、熱伝導率λ、密度ρおよび比熱Cを用いて熱拡散率αを計算し、算出されたαを用いて、式(1)によりポリマー部12の温度を計算することができる。
【0055】
しかしながら、式(1)を用いてポリマー部12の温度を計算する際に、一般的なJIS等においてゴムの熱拡散率αとして記載されている値を用いたり、または式(2)を用いる場合においても、JIS等に熱伝導率λとして記載されている値を用いたりした場合には、図6に示すように、金型10内に配置した対象ワークモデルWMのポリマー部12の温度を実測したときの値と、式(1)に基づいてポリマー部12の温度を予測したときの値が、十分な精度で一致しないという問題が生じた。発明者らが鋭意検討した結果、JIS等に記載されたポリマー部12の原料ポリマーの熱拡散率αまたは熱伝導率λの値と、実際のポリマー部12の熱拡散率αまたは熱伝導率λの値とが、異なっていたことが原因であることが分かった。
【0056】
そこで、測定対象となる対象ワークモデルWMのポリマー部12の温度を実測し、ポリマー部12の熱拡散率αまたは熱伝導率λを同定することにより、測定対象となる対象ワークモデルWMのポリマー部12の熱拡散率αまたは熱伝導率λを得た。
【0057】
図7には、対象ワークモデルWMのポリマー部12の温度の実測値と、上記のようにして得られた熱拡散率αまたは熱伝導率λの実測値を用いて計算した温度と、を示す。すると、ポリマー部12の温度について、実測値と予測値とが高い精度で一致することが分かった。
【0058】
しかしながら、対象ワークモデルWMを構成するポリマー部12の熱拡散率αまたは熱伝導率λは、ポリマー部12の原料ポリマーの種類や、原料ポリマーに添加される添加材料の配合量または種類等により、変化する。このため、異なる配合のすべてのポリマー部12について、熱拡散率αまたは熱伝導率λを実測することは煩雑である。
【0059】
そこで、発明者らは、ポリマー部12に添加される添加材料のうち、カーボンブラックに着目した。ポリマー部12を構成するゴムは、熱が伝わりにくい材料である。一方、カーボンブラックは熱が伝わりやすい材料である。このため、ポリマー部12の熱拡散率αまたは熱伝導率λは、ポリマー部12を構成する原料ポリマーに対するカーボンブラックの質量比と、関連性が高いと考えられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。
【0060】
図8に、複数種の原料ポリマーを用い、異なるカーボンブラックの質量比で実験した場合における、原料ポリマーに対するカーボンブラックの質量比と、ポリマー部12の熱伝導率λとの関係性を示す。図8においては、原料ポリマーに対するカーボンブラックの質量比は、質量部とした。ただし、原料ポリマーに対するカーボンブラックの質量比は、質量%としてもよい。
【0061】
図8に示すように、ポリマー部12の熱伝導率λは、原料ポリマーに対するカーボンブラックの質量比に対して、線形の関係を有する。また、ポリマー部12の熱伝導率λは、原料ポリマーの種類に依存しない関係であることが分かった。これにより、原料ポリマーの種類によらず、カーボンブラックの配合量に基づいて、ポリマー部12の熱伝導率λを精度よく予測することが可能になった。また、式(2)を用いて熱伝導率λから熱拡散率αを算出することができるので、熱拡散率αについても精度よく予測することが可能となった。
【0062】
3-2.接触熱伝達率CH
図2に示すように、金型10内に外側接合部材13が配置された状態で、金型10の内面と、外側接合部材13との間には、外側隙間15Aが形成される場合がある。この場合、熱は、金型10の内面から、外側隙間15A内の空気を介して、外側接合部材13に伝わる。伝熱解析処理S1においては、金型10の内面と外側接合部材13とが接触した状態を仮定し、金型10および外側接合部材13において外側隙間15Aを考慮する面を選択し、外側隙間15Aの大きさに応じて、接触熱伝達率CHを設定する。接触熱伝達率CHは、テストピースを用いた実験において、外側隙間15Aの大きさを変化させたときの温度挙動を測定し、それぞれの温度挙動を再現可能な値を解析で求めたものが採用される。
【0063】
また、金型10内に内側接合部材14が配置された状態で、金型10の内面と内側接合部材14との間には、内側隙間15Bが形成される場合がある。この場合、熱は、金型10の内面から、内側隙間15B内の空気を介して、内側接合部材14に伝わる。伝熱解析処理S1においては、金型10の内面と内側接合部材14とが接触した状態を仮定し、金型10および内側接合部材14において内側隙間15Bを考慮する面を選択し、内側隙間15Bの大きさに応じて、接触熱伝達率CHを設定する。接触熱伝達率CHは、テストピースを用いた実験において、内側隙間15Bの大きさを変化させたときの温度挙動を測定し、それぞれの温度挙動を再現可能な値を解析で求めたものが採用される。
【0064】
上記したように、記憶部2は、成形型モデルMMに対象ワークモデルWMを配置した状態で、成形型モデルMMと金具との隙間15A,15Bにおける接触熱伝達率CHを記憶している。
【0065】
伝熱解析処理S1においては、解析部32は、成形型モデルMMに対象ワークモデルWMを配置した状態で、ポリマー熱拡散率決定部31により決定されたポリマー熱拡散率、記憶部2に記憶された温度条件TCおよび接触熱伝達率CHを用いて、伝熱解析を行う構成となっている。これにより、精度よく、ポリマー部12の温度を予測することができる。
【0066】
3-3.空気熱伝達係数AC
成形型モデルMMから対象ワークモデルWMが脱型された後も、対象ワークモデルWMのポリマー部12の温度はすぐには下がらないので、ポリマー部12において架橋反応が進行する。そこで、本形態においては、成形型モデルMMから対象ワークモデルWMが脱型された後においても、ポリマー部12の温度を予測するために、条件入力部30は、成形型モデルMMから脱型された対象ワークモデルWMの周囲の気温を含む外気条件OCが入力されるようになっている。さらに記憶部2は、成形型モデルMMから脱型された対象ワークモデルWMの周囲の空気の熱伝達係数である空気熱伝達係数ACを記憶する。
【0067】
本形態の解析部32は、対象ワークモデルWMのポリマー部12を成形型モデルMM内にて架橋反応させた後に成形型モデルMMから対象ワークモデルWMを脱型した状態で、ポリマー熱拡散率決定部31により決定されたポリマー熱拡散率、記憶部2に記憶された空気熱伝達係数ACおよび外気条件OCを用いて、伝熱解析を行う。これにより、成形型モデルMMから対象ワークモデルWMが脱型された後の状態において、ポリマー部12の温度を精度よく予測することができる。
【0068】
図9に示すように、成形型モデルMMに対象ワークモデルWMを配置した状態について解析メッシュを作成する。解析メッシュのサイズは、予め定められていても良いし、条件入力部30から入力されても良い。解析メッシュの作成には、成形型モデルMMおよび対象ワークモデルWMの形状の特性(例えば対称性)を考慮する。メッシュタイプとしては、8節点ソリッド要素を採用した。ただし、メッシュタイプは任意のモデルを採用可能であり、例えば4節点ソリッド要素を用いても良い。
【0069】
解析メッシュを用いることにより、対象ワークモデルWMの各節点における温度を予測することができる。つまり、対象ワークモデルWMのポリマー部12の温度分布を予測することができる。特に、各時刻における、ポリマー部12の各節点の温度を予測することができる。
【0070】
4.架橋反応解析処理S2
次に架橋反応解析処理S2について説明する。架橋反応解析処理S2については、まず反応率について説明する。次に従来技術について説明し、続いて従来技術の課題について説明する。その後、本形態の架橋反応解析処理について説明する。
4-1.反応率について
架橋反応の反応率は、以下のようにして測定される。図10に示すように、本形態に係るゴムの反応率については、JIS K6300-2に準拠し、加硫試験機70(架橋反応試験機の一例)を使用して、得られたトルクと反応時間との関係性から、反応率(加硫度)を算出する。加硫試験機70としては、例えばキュラストメーター(登録商標)を用いることができる。また、反応率(加硫度)を考慮した振動特性を出力する場合には、例えばゴム加工性試験機(RPA)を用いて、所望の振動条件での反応挙動(加硫挙動)を測定することができる。RPAは、広範な範囲で振動数、振幅の設定が可能に構成されている。
【0071】
図10に示すように、加硫試験機70は、キャビティ71を有する下ダイ72と上ダイ73の間に、ロータ74の先端に取付けられたディスク75が配置されている。下ダイ72と上ダイ73は所定の温度に設定することができる。ロータ74は、ねじり角が+3°~-3°、または+1°~-1°に選択可能になっている。キャビティ71とディスク75との間に測定試料76が配置され、一定温度下でディスク75から回転トルクを与えながら架橋反応させ、トルクの変化から架橋反応の進行を検出するようになっている。
【0072】
図11に測定結果の一例を示す。図11(a)は、所定の反応温度における、反応時間に対するトルクの変化量のグラフ(架橋反応曲線CC)である。一方、反応率は、最小トルクを反応率0%とし、最大トルクを反応率100%と定義される。図11(b)に、所定の反応温度における、反応時間に対する反応率の変化を示すグラフ(基準反応曲線RC)を示す。本形態に係るゴムの場合、反応率は加硫度と呼称される。加硫度は、加硫ゴムの物性(弾性率、伸び、引張強さ、硬さなど)を指標としてみた場合の加硫の程度と定義される。なお、図11(a)において、反応時間0から最小トルクを示す反応時間までの領域は、ポリマー部12の架橋反応が未反応であり、可塑的な領域となっている。このため、図11(b)においては、当該領域においては、反応率は0%とする。
【0073】
4-2.反応率の算出方法
次に、反応率の算出方法について説明する。上記した非特許文献1においては、アレニウスの式(3)を変形することにより得られた等価反応量に係る式(4)を用いて、架橋反応の等価反応量を推定している。なお、等価反応量に係る式(4)は、反応温度T、反応時間tにおける反応量が、ある基準温度T、基準時間tにおける反応量の何倍になっているかを表す。なお、式(4)は、ゴムの加硫反応においては、等価加硫の式と呼称される。この等価加硫の式を用いることにより、後述する反応戻り期における反応率を予測することができる。後に詳述するが、本形態においては、反応戻り期における予測精度を、単に等価加硫の式を用いた場合に比べて、さらに向上させることが可能となる。なお、一般的な解析ソフトにおいて、ゴムやエポキシ等の熱硬化反応の挙動を予測する際に用いられる式(例えば、Kamalの反応速度式)によっては、反応戻り期における反応率を予測することはできない。
【0074】
【数3】
ここで、
k:反応速度
A:頻度因子
E:活性化エネルギー
R:ガス定数
T:反応温度
【0075】
【数4】
ここで、
U:等価反応量
E:活性化エネルギー
R:ガス定数
T:反応温度
:基準温度
t:反応時間
【0076】
アレニウスの式(3)から、以下のように式変形して、等価反応量の式(4)が導出される。
【0077】
反応時間tにおける架橋反応の反応量Zは、式(5)で表される。
【0078】
【数5】
ここで、
Z:反応量
t:反応時間
【0079】
反応量Zは、アレニウスの式(3)と、上記の式(5)から、下記の式(6)のようになる。
【0080】
【数6】
【0081】
ここで、ある基準になる反応温度Tで、反応時間tのときの反応量Zを考えると、Zは、下記の式(7)で表される。
【0082】
【数7】
【0083】
反応温度Tおよび反応時間tにおける反応量Zに対する、反応温度Tおよび反応時間tにおける反応量Zの比Uをとると、比Uは下記の式(8)で表される。
【0084】
【数8】
【0085】
式(8)に、式(6)および式(7)を代入すると比Uについて式(9)を得る。
【0086】
【数9】
【0087】
式(9)において、t=1のとき、式(9)は上記した式(4)のように表される。
【0088】
反応温度Tが刻々と変わるときは、対象時刻における温度、上記の式(4)、傾き係数SCに基づいて、対象時刻の微小時間における等価反応量増加量を算出し、等価反応量増加量に基づいて、架橋反応開始から対象時刻までの等価反応量積算値を算出し、架橋反応開始から対象時刻までの前記等価反応量積算値に基づいて、対象時刻における反応率を算出する。
【0089】
式(4)に基づいて、対象時刻の微小時間Δtにおける等価反応量増加量ΔUは、下記の式(10)により表される。
【0090】
【数10】
ここで、
ΔU:対象時刻の微小時間における等価反応量増加量
Δt:対象時刻の微小時間
【0091】
反応温度Tが刻々と変わるときには、下記の式(11)のように単位時間毎に累積することにより、等価反応量Uを求めることができる。
【0092】
【数11】
ここで、
U:等価反応量
E:活性化エネルギー
R:ガス定数
T:反応温度
:基準温度
Δt:対象時刻の微小時間
【0093】
上記した式(4)は、上記の式(11)のうち、Σの内部の式であって、累積される個々の等価反応量に対応する。
【0094】
式(4)または式(11)を計算するためには、(-E/R)の値が必要となる。従来技術においては、(-E/R)を下記のようにして求めていた。
【0095】
アレニウスの式(3)の両辺の自然対数をとることにより、下記の式(12)を得る。
【0096】
【数12】
ここで、
k:反応速度
A:頻度因子
E:活性化エネルギー
R:ガス定数
T:反応温度
【0097】
上記した反応量について、所定の反応率γにおける反応時間tγと、反応速度kとの間に下記の式(13)が成り立つと考える。反応率γは、例えば5%、90%等、0%~100%の任意の値を適宜に採用することができる。
【0098】
【数13】
ここで、
B:任意の定数
γ:所定の反応率γにおける反応時間
【0099】
式(13)の両辺の自然対数をとり、式(12)に代入して式変形することにより、式(14)を得る。
【0100】
【数14】
【0101】
式(14)から、ln(1/tγ)を縦軸に、(1/T)を横軸にして、反応率がα%に到達する時間と、各測定温度をプロットすると、直線に近似することが可能であり、この直線の傾きが(-E/R)になることがわかる(図12参照)。
【0102】
実際の反応においては、図13に示すように、反応時間の経過とともに温度が変化する。このような場合、等価反応量の計算には式(4)および式(11)を用い、下記のように計算する。
【0103】
まず、図13に示すように、反応時間を所定の間隔(例えば、1分)で区切る。次に、所定間隔ごとの温度を読取る。
【0104】
次に、所定間隔当たりの等価反応量を、式(4)を用いて計算する。式(4)において、所定間隔Δtを代入して計算する。所定間隔として、例えば、Δt=1とすることにより、計算を簡略化できる。
【0105】
次に、式(4)によって計算された所定間隔Δt当たりのΔUを足し合わせる。具体的な計算方法について、図14を参照して説明する。
【0106】
図14に示すように、反応時間ti-1、反応温度Ti-1における等価反応量Ui-1を式(4)で計算する。同様にして、反応時間t、反応温度Tにおける等価反応量Uを算出する。
【0107】
次に、Ui-1×Δtと、U×Δtとを足す。これにより、反応時間ti-1~tにおける、等価反応量の積算値が得られる。なお、本形態ではΔt=1/2tである。同様にして、式(11)に従い、t=1~t=nまで所定時間当たりの等価反応量ΔUを積算することにより、等価反応量Uを得ることができる。
【0108】
続いて、等価反応量Uから反応率を算出する方法について説明する。まず、反応温度T、反応時間tにおける反応量Zは式(5)で表される。次に、式(5)から、反応温度Tで、反応時間tのときの反応量Zは、下記の式(15)で表される。ここで、式(5)と式(15)の反応温度は同一の値Tであるため、式(3)からそれぞれのkは同一の値となる。
【0109】
【数15】
【0110】
上記した式(8)に、上記した式(5)および式(15)を代入すると、反応速度kが約分されて下記の式(16)を得る。
【0111】
【数16】
【0112】
式(16)において、t=1とすると、式(16)は下記の式(17)のように表される。
【0113】
【数17】
式(17)によれば、t=1としたとき、反応時間tを、等価反応量Uと読み替えることができる。これにより、図11(b)に示した、反応温度Tでの、反応率の、反応時間に対する変化を示すグラフにおいて、反応時間tを等価反応量Uと読み替えることができる。図15に、縦軸を反応率とし、横軸を等価反応量としたグラフを示す。このグラフに基づいて、計算によって得られた等価反応量Uから反応率を算出することができる。
【0114】
4-3.反応率算出方法の課題
しかしながら、上記した方法に基づいて反応率を推定した場合、実測値との差が大きく、十分な精度が得られないという問題があった。
【0115】
図16に、反応時間に対する反応率の変化を示す。式(4)を用いるに際して、基準温度を160℃としたので、反応温度160℃の場合については、実測値と予測値とは精度よく一致している。
【0116】
しかし、反応温度170℃および180℃については、実測値と予測値とが十分に一致していない。概ね、実測値よりも予測値の方が大きな値となっている。なお、反応率の極大値が一致しているのは、上記したように、反応率の極大値を100%と定義したためである。
【0117】
図17を参照して、従来技術において、実測値と予測値とが十分に一致しない理由について説明する。図17には、反応時間に対する反応率の変化を表すグラフを示す。本形態に係る架橋反応は、以下の過程を経て進行する。
【0118】
反応が開始した反応進行初期においては、徐々に反応率が増加する。ある程度、時間が経過して反応進行促進期に達すると、反応率が急激に増加する。その後、反応進行後期になると、反応率の増加量は緩やかになり反応率は極大値に達する。反応率が極大値に達した後は、戻り反応が進行する反応戻り期となる。この反応戻り期においては、反応率は漸減する。
【0119】
上記した技術においては、反応進行初期から反応戻り期に至るまでを、いわば、1つの架橋反応として捉えていた。このため、1つの活性化エネルギーEを用いて、反応率の予測を行っていた。この結果、反応率の実測値と、予測値とが十分に一致しなかったと考えられる。
【0120】
4-4.本形態の架橋反応解析処理
本形態においては、反応の進行状態に対応して複数の活性化エネルギーを算出し、得られた活性化エネルギーに基づいて等価反応量を予測する構成とした。この考え方に基づいて、式(4)を下記の式(18)のように変形した。
【0121】
【数18】
ここで、
:N段階に分けられた、反応の進行段階ごとの活性化エネルギー
【0122】
図17には、反応の進行状態を、反応進行初期、反応進行促進期、反応進行後期および反応戻り期の4段階に分ける例を示す。ただし、反応の進行状態は2つ~3つ、または5つ以上の任意の段階に分けてもよい。また、反応進行期および反応戻り期を含む全期間を等間隔に区分してもよい。等間隔に区分する指標として、架橋反応の全期間の進行度を基準として、例えば架橋反応の進行度を5%ごとに区分してもよい。ただし、区分の指標は5%に限られず、1%~4%または、6%以上でも良い。
【0123】
本形態においては、反応率が0%~5%までを反応進行初期とし、反応率が5%~50%までを反応進行促進期とし、反応率が50%~100%までを反応進行後期とし、反応進行後期よりも後の段階において、反応率が100%から90%にまで減少した範囲を反応戻り期とした。
【0124】
各反応段階において、上記した式(14)を用いて、活性化エネルギーEを含む項(E/R)の値を求めた。図17に示すように、反応進行初期(反応率が0%~5%)における(E/R)は約12000であり、反応進行促進期(反応率が5%~50%)における(E/R)は約9000であり、反応進行後期(反応率が50%~100%)における(E/R)は約13000であり、反応戻り期(反応率が100%~90%)における(E/R)は約16000であった。ただし、(E/R)の数値は上記の値に限定されない。なお、反応進行初期から反応戻り期までを1つの反応段階として捉えたときの(E/R)は11000であった。
【0125】
図18に、上記のようにして得られた活性化エネルギーE~Eを用いて反応率を予測した結果を、実測値と合わせて示す。基準温度である160℃において、実測値と予測値とが一致するだけでなく、反応温度170℃および180℃においても、実測値と予測値とが精度よく一致した。これにより、精度よく反応率を予測することができる。
【0126】
本形態においては、傾き係数SCは、架橋反応の反応率がピークに到達するまでの反応進行期と、反応率がピークを越えた反応戻り期とで、異なる値に設定される。また、本形態においては、傾き係数SCは、反応進行期より反応戻り期の方が小さな値に設定される。
【0127】
また、本形態においては、傾き係数SCは、反応進行初期、反応進行促進期、反応進行後期および反応戻り期のそれぞれで、異なる値に設定される。また、本形態においては、反応促進期における傾き係数SCが、反応進行初期および反応進行後期より大きな値に設定される。
【0128】
また、傾き係数SCは、架橋反応の全期間が等間隔に区分された場合には、各区分に応じた値に設定される。
【0129】
4-5.架橋反応の反応率の表現方法
図19を参照して、本形態における架橋反応の反応率の表現方法について説明する。図19は、反応時間に対する、架橋反応の反応率の変化を示すグラフである。実線で示されたグラフは、反応率の実測値である。
【0130】
実線で示す架橋反応の反応率は、極大値に達した後は、戻り反応が進行することによって反応率は漸減する。このため、例えば、反応率が極大値に達する前に反応率が80%なる点と、反応率が極大値に達した後に反応率が80%になる点と、が存在することになる。この場合、単に反応率の数字だけで比較すると、反応率が極大値に達する前の80%の数値と、反応率が極大値に達した後の80%の数値を区別することができない。
【0131】
そこで、本形態においては、架橋反応の反応率は、架橋反応の反応率がピークに到達するまでの反応進行期において、架橋反応の開始時を0%とし、架橋反応の反応率の増加度を0%~100%までの範囲で定義し、反応率がピークを越えた反応戻り期において、反応率のピークからの反応率の低下度を100%に加算した値として定義する。
【0132】
図19のグラフで説明すると、反応率が100%の点から横軸に平行に延びる直線を対称軸として、反応率がピークを越えた反応戻り期のグラフを、矢線Bで示すように反転させる。これにより、反応率が極大値に達した後の反応率80%の点は、反応率120%と表現することができる。この結果、反応率が極大値に達する前における反応率と、反応率が極大値に達した後における反応率と、を明確に識別することができる(図20参照)。
【0133】
4-6.シミュレーションにより算出される値の決定方法
次に、シミュレーションにより算出される値の決定方法について説明する。本形態においては、傾き係数SCおよび反応率は、データベースおよび関数の、一方または双方を用いて決定される。データベースを用いることにより、推定値の精度を向上させることができる。一方、関数を用いることにより、演算速度を向上させることができる。
【0134】
(1)データベースを用いる方法
図1に示すように、記憶部2は、ポリマー部12の架橋反応の反応率と傾き係数SCとの対応関係を定義した第一関係データマップDM1を記憶する。反応率算出処理部41は、前回時刻の反応率および第一関係データマップDM1を用いて、傾き係数SCを決定する。
【0135】
記憶部2は、等価反応量積算値と対象時刻における反応率との対応関係を定義した第二関係データマップDM2を記憶する。反応率算出処理部41は、対象時刻における等価反応量積算値および第二関係データマップDM2を用いて、対象時刻における反応率を決定する。
【0136】
第二関係データマップDM2は、対象ワークモデルWMのポリマー部12に相当する試験対象ポリマー材料を用いて、加硫試験機70により測定された基準反応温度において架橋反応時間と試験対象ポリマー材料に発生したトルクとの関係に基づく基準反応曲線RCより設定されている。
【0137】
(2)関数を用いる方法
図1に示すように、記憶部2は、ポリマー部12の架橋反応の反応率と傾き係数SCとの対応関係を定義した第一関数F1を記憶する。反応率算出処理部41は、前回時刻の反応率および第一関数F1を用いて、傾き係数SCを決定する。
【0138】
第一関数F1は、ポリマー部12の架橋反応の進行度に応じて設定された複数の反応率区分に応じて、異なる関数に設定されている。架橋反応の進行度の区分数は任意であり、1つまたは2つ以上の複数に区分してもよい。関数については、線形補完を含むn次関数、スプライン曲線等、任意の関数を適宜に選択できる。本形態では、例えば、6次関数が好適に用いられる。なお、第一関数F1の区分数は、N段階に分けられた反応の進行段階ごとの活性化エネルギーEの値を求める際の区分とは独立して設定することができる。
【0139】
記憶部2は、等価反応量積算値と対象時刻における反応率との対応関係を定義した第二関数F2を記憶する。反応率算出処理部41は、対象時刻における等価反応量積算値および第二関数F2を用いて、対象時刻における反応率を決定する。
【0140】
第二関数F2は、対象ワークモデルWMのポリマー部12に相当する試験対象ポリマー材料を用いて、加硫試験機70により測定された基準反応温度において架橋反応時間と前記試験対象ポリマー材料に発生したトルクとの関係に基づく基準反応曲線RCより設定されている。
【0141】
第二関数F2は、ポリマー部12の架橋反応の進行度に応じて設定された複数の反応率区分に応じて、異なる関数に設定されている。架橋反応の進行度の区分数は任意であり、1つまたは2つ以上の複数に区分してもよい。関数については、線形補完を含むn次関数、スプライン曲線等、任意の関数を適宜に選択できる。本形態では、例えば、6次関数が好適に用いられる。なお、第二関数F2の区分数は、N段階に分けられた反応の進行段階ごとの活性化エネルギーEの値を求める際の区分とは独立して設定することができる。
【0142】
図21に、第二関数F2について、架橋反応の進行度を4つに区分した場合の関数を例示する。本形態では、反応進行初期、反応進行促進期、反応進行後期および反応戻り期に区分されている。各区分において、反応率と、反応時間とが、互いに異なる関数により近似されている。
【0143】
次に、対象ワークモデルWMの解析メッシュを作成する。解析メッシュのサイズは、予め定められていても良いし、条件入力部30から入力されても良い。解析メッシュの作成には、対象ワークモデルWMの形状の特性(例えば対称性)を考慮して、図22に示すような解析メッシュを作成する。メッシュタイプとしては、8節点ソリッド要素を採用した。ただし、メッシュタイプは任意のモデルを採用可能であり、例えば4節点ソリッド要素を用いても良い。
【0144】
解析メッシュを用いて、対象ワークモデルWMのポリマー部12のみの各時刻の各節点の温度から、各節点の反応率を算出することができる。
【0145】
5.構造解析処理S3
5-1.初期処理
次に、構造解析処理S3について説明する。構造解析部5は、対象ワークモデルWMの解析メッシュを作成する。対象ワークモデルWMの解析メッシュは、架橋反応解析処理S2で作成した解析メッシュと同じでも良いし、異なっていても良い。本形態では構造解析処理S3で用いられる解析メッシュは、架橋反応解析処理S2で用いられた解析メッシュと同じものを使用した。
【0146】
5-2.温度および反応率取得
次に、構造解析部5は、伝熱解析部3によって解析された対象ワークモデルWMのポリマー部12の温度分布についての解析結果を取得する。また、構造解析部5は、架橋反応解析部4によって解析された対象ワークモデルWMのポリマー部12の反応率についての解析結果を取得する。
【0147】
5-3.弾性率予測
次に、構造解析部5は、対象ワークモデルWMのポリマー部12の、各時刻における各節点の弾性率を算出する。まず、架橋反応の反応率が100%のテストピースを作成し、このテストピースの弾性率が実測される。次に、対象とする反応率におけるトルクを、反応率100%におけるトルクで除した商に基づいて、補正係数が算出される。上記のトルクは、加硫試験機70で測定可能なトルクである。構造解析部5は、実測された弾性率に、算出された補正係数を乗じることにより、各時刻における各節点の弾性率を算出する。
【0148】
5-4.特性予測
次に、構造解析部5は、対象ワークモデルWMの特性を予測する。有限要素解析に用いる入力条件は、各時刻の各節点の温度、各時刻の各節点の弾性率、並びに、外側接合部材13および内側接合部材14の境界条件である。
【0149】
入力条件が設定された後、対象ワークモデルWMの軸線Aに対して直角な方向の力または歪を、対象ワークモデルWMに付与する。
【0150】
構造解析部5は、対象ワークモデルWMの全体の弾性率を出力する。本形態では、対象ワークモデルWMの軸線Aに直角な方向に静的に加えられた力に対する弾性率が、特性として予測される。ただし、予測される特性は、軸線Aに直角な方向の力または歪に対する弾性率に限られず、軸線Aに直角な方向に振動する力に対する弾性率、軸線Aに沿う方向に静的に加えられた力または歪に対する弾性率、軸線Aに沿う方向に振動する力に対する弾性率等、任意の物性値を特性として予測することができる。
【0151】
6.内部気泡推定処理S4
次に内部気泡推定処理S4について説明する。本形態の一例であるゴム製品は、成形加硫して作られる。このため、元々ゴムに溶解していた気体、または加硫反応によって発生した気体が、加硫の高温高圧条件下でゴム中に溶解した状態になっている。金型10を開放すると、ゴムへかかる圧力が低下し、ゴムへの気体の溶解度が低下するため、加硫が十分に進行していない状態では、ゴムにより構成されるポリマー部12の中に内部気泡80が発生する場合がある(図23参照)。
【0152】
金型10内にゴムを配置した状態で加硫時間を長くし、加硫を進行させると内部気泡80が発生しなくなる。実際の製品の加硫においては、熱源である金型10からの距離が異なる製品内部の点において、温度上昇履歴の違いから、受ける総熱量が異なり、同じ加硫時間であっても、加硫進行状況が異なる。そのため、最遅加硫部分において、内部気泡80の発生が見られなくなる時間まで金型10内で加熱して加硫する必要がある。この最遅加硫部分において内部気泡80の発生が見られなくなるまでの加硫時間で成形した時の、金型10を開放した時点での、最遅加硫部分のゴムの加硫度をブローポイント加硫度(以下、ブローポイント)という(図24参照)。
【0153】
内部気泡80を抑制するためには、金型10内での加熱時間はできるだけ長くした方が好ましい。しかし、金型10内での加熱時間を過剰に伸ばすと製品の製造効率が低下する。このため、製品の加硫時間を決めるためには、上記のブローポイントを推定することが重要となる。
【0154】
図25(a)に、複数種のポリマーに対して、複数種のフィラーを、異なる配合量で添加した場合の、ブローポイント反応率を示す。ブローポイント反応率は、ブローポイントにおけるポリマー部12の架橋反応の反応率である。
【0155】
原料ポリマーは、A~Hの8種類のポリマーを用いた。サンプルA1~A3は、原料ポリマーAを用いて、フィラーの配合量を変化させたものである。同様に、サンプルB1~B3は、原料ポリマーBに対して、フィラーの配合量を変化させたものであり、サンプルC1~C3は、原料ポリマーCに対して、フィラーの配合量を変化させたものである。サンプルは市販品を用いたため、フィラーの種類および配合量について正確には分からない。
【0156】
図25(a)に示すように、ブローポイント反応率は、原料ポリマーの種類、フィラーの配合量によって大きく異なる。このため、ブローポイント反応率を用いて、ポリマー部12のブローポイントを予測することは困難であることが分かった。
【0157】
図26に示すように、内部気泡80が膨張しようとする圧力P1と、ポリマー部が内部気泡80を抑え込もうとする圧力P2とが、P1<P2となったときに、内部気泡80がゴムによって抑え込まれて消失すると考えられる。そこで、ブローポイント反応率を、当該ブローポイント反応率に対応する、加硫試験機70により測定されたトルクに変換して、各サンプルで比較した。
【0158】
図25(b)に、複数種のポリマーに対して、複数種のフィラーを、異なる配合量で添加した場合の、ブローポイントトルクを示す。ブローポイントトルクは、上記したように、ブローポイント反応率を、当該ブローポイント反応率に対応する、加硫試験機70により測定されたトルクに変換したものである。
【0159】
図25(b)に示すように、原料ポリマーの種類や、フィラーの配合量によらず、内部気泡80の発生が見られなくなるトルク(ブローポイントトルク)は、ほぼ同等の値となった。つまり、容易に測定可能なトルクを用いることにより、ブローポイントを容易に予測可能となる。図25(b)の縦軸に、閾値を記載した。内部気泡推定部6の推定部62は、対象ワークモデルWMが脱型されるときにおけるトルクが閾値を超えていない場合に、対象ワークモデルWMのポリマー部12において内部気泡80が発生したと推定する。
【0160】
閾値は、複数種の原料ポリマーに対して統一した値に設定されている。また、閾値は、ポリマー部12のブローポイントにおける架橋反応の反応率よりも大きな反応率に対応するトルクである。ただし、閾値は、複数のグループを設定し、グループごとに閾値を設定してもよい。複数のグループは任意の基準で区分することができる。
【0161】
反応率取得部51は、ポリマー部12の部位ごとの反応率を取得し、トルク算出部61は、ポリマー部12の部位ごとのトルクを算出し、推定部62は、ポリマー部12の部位ごとの内部気泡80の発生を推定する。
【0162】
7.表示処理S5
次に、表示処理S5について説明する。図1に示すように、表示部7は、架橋反応解析部4の解析結果に基づいて、反応時間に応じた反応率から得られる値を表示する。
【0163】
さらに、表示部7は、構造解析部5の解析結果に基づいて、ポリマー部12の架橋反応に用いられる成形型モデルMMの温度と、架橋反応開始から成形型モデルMMの脱型までの型内反応時間と、に応じた特性を表示する。
【0164】
さらに、表示部7は、内部気泡推定部6の推定結果に基づいて、成形型モデルMMの温度と、架橋反応開始から成形型モデルMMの脱型までの型内反応時間と、に応じて、内部気泡80の発生の有無を表示する。
【0165】
さらに、表示部7は、架橋反応解析部4の解析結果に基づいて、成形型モデルMMの温度と、架橋反応開始から成形型モデルMMの脱型までの型内反応時間と、に応じた反応率から得られる値を、内部気泡80の発生の有無に合わせて表示する。ただし、表示部7が表示する内容は上記に限定されない。
【0166】
7-1.表による表示方法
(1)反応率を表示する形態
表1~表4を参照して、架橋反応の反応率を、表を用いて表示する形態について説明する。
【0167】
【表1】
【0168】
表1は、対象ワークモデルWMのうち、架橋反応の反応率が最小である要素における架橋反応の反応率について、金型温度と、反応時間との関係についてまとめた表である。
【0169】
表1に記載された反応時間は、金型10の内部に対象ワークモデルWMが配置された状態における反応時間を表す。また、表1に記載された反応率の数値は、金型10の内部に対象ワークモデルWMが配置された状態における反応時間と、対象ワークモデルWMが金型10から脱型された後の時間と、の双方の温度履歴に基づいて算出されたものである。対象ワークモデルWMが金型10から脱型された後も架橋反応が進行することから、上記のような考慮が必要となる。以下の説明において、表2~表4に記載された反応時間および反応率についても同様である。
【0170】
表1のうち、右上部において太い罫線で囲まれた領域は、反応率が115%より大きい値となっている。この領域においては、架橋反応の戻り反応が過剰に進行しているので、好ましくない。ただし、反応率の範囲は任意に設定可能であり、115%と異なる値を閾値としても良い。
【0171】
表1の左下部において太い罫線で囲まれた領域は、反応率が95%よりも小さな値となっている。この領域においては、架橋反応が十分に進行していないので、好ましくない。ただし、反応率の範囲は任意に設定可能であり、95%と異なる値を閾値としても良い。
【0172】
表1のうち、太い罫線で囲まれた、右上部の領域および左下部の領域を除く領域は、架橋反応の反応率の観点からは好ましい領域である。なお、表1には、後述する内部気泡80に関する情報は記載されていない。
【0173】
表2は、対象ワークモデルWMのすべての要素の架橋反応の平均値について、金型温度と、反応時間との関係についてまとめた表である。
【0174】
【表2】
【0175】
表2のうち、右上部において太い罫線で囲まれた領域は、反応率が115%より大きい値となっている。この領域においては、架橋反応の戻り反応が過剰に進行しているので、好ましくない。ただし、反応率の範囲は任意に設定可能であり、115%と異なる値を閾値としても良い。
【0176】
表2の左下部において太い罫線で囲まれた領域は、反応率が95%よりも小さな値となっている。この領域においては、架橋反応が十分に進行していないので、好ましくない。ただし、反応率の範囲は任意に設定可能であり、95%と異なる値を閾値としても良い。
【0177】
表2のうち、右上部の領域と、左下部の領域と、を除く領域は、架橋反応の反応率の観点からは好ましい領域である。なお、表2には、後述する内部気泡80に関する情報は記載されていない。
【0178】
表3は、対象ワークモデルWMのうち、架橋反応の反応率が最大である要素における架橋反応の反応率について、金型温度と、反応時間との関係についてまとめた表である。
【0179】
【表3】
【0180】
表3のうち、右上部において太い罫線で囲まれた領域は、反応率が115%より大きい値となっている。この領域においては、架橋反応の戻り反応が過剰に進行しているので、好ましくない。ただし、反応率の範囲は任意に設定可能であり、115%と異なる値を閾値としても良い。
【0181】
表3の左下部において太い罫線で囲まれた領域は、反応率が95%よりも小さな値となっている。この領域においては、架橋反応が十分に進行していないので、好ましくない。ただし、反応率の範囲は任意に設定可能であり、95%と異なる値を閾値としても良い。
【0182】
表3のうち、右上部の領域と、左下部の領域と、を除く領域は、架橋反応の反応率の観点からは好ましい領域である。なお、表3には、後述する内部気泡80に関する情報は記載されていない。
【0183】
表4は、表2に、内部気泡80に関する情報を追記したものである。
【0184】
【表4】
【0185】
表4のうち、右上部において太い罫線で囲まれた領域は、反応率が115%より大きい値となっている。この領域においては、架橋反応の戻り反応が過剰に進行しているので、好ましくない。ただし、反応率の範囲は任意に設定可能であり、115%と異なる値を閾値としても良い。
【0186】
表4のうち、二重線の罫線で囲まれた部分においては、対象ワークモデルWMのポリマー部12において内部気泡80が発生したことを示す。
【0187】
表4の左下部において二重線の罫線で囲まれた部分のうち破線よりも下方の領域は、反応率が95%よりも小さな値となっている。この領域においては、架橋反応が十分に進行していないので、好ましくない。ただし、反応率の範囲は任意に設定可能であり、95%と異なる値を閾値としても良い。
【0188】
表4において、二重線の罫線で囲まれた領域のうち、破線よりも上方の領域は、架橋反応の反応率は95%~115%の範囲内であったが、対象ワークモデルWMのポリマー部12に内部気泡80が発生したものであることを示す。この領域については、ポリマー部12に内部気泡80が発生したので、製品として好ましくない。
【0189】
本形態では、表2に記載された予測結果に、内部気泡80に関する情報を追加することにより表4を作成したが、これに限られず、内部気泡80に関する情報は、任意の温度における反応率の予測結果に追加することができる。
【0190】
(2)弾性率を表示する形態
表5は、対象ワークモデルWMの弾性率について、金型温度と、反応時間との関係についてまとめた表である。
【0191】
表5に記載された反応時間は、金型10の内部に対象ワークモデルWMが配置された状態における反応時間を表す。また、表5に記載された弾性率の値は、金型10の内部に対象ワークモデルWMが配置された状態における反応時間と、対象ワークモデルWMが金型10から脱型された後の時間と、の双方の温度履歴に基づいて算出されたものである。対象ワークモデルWMが金型10から脱型された後も架橋反応が進行することから、上記のような考慮が必要となる。なお、以下の説明において、図28図31に記載された反応時間および弾性率についても同様である。
【0192】
【表5】
【0193】
弾性率は、対象ワークモデルWMの軸線Aに直角な方向について静的な力を加えたときの弾性率である。表中の数値は、架橋反応の反応率が100%であるときの弾性率に対する比の値である。ただし、対象ワークモデルWMに加えられる力の方向は限定されず、対象ワークモデルWMの軸線Aに対して平行な方向について静的な力を加えた場合、対象ワークモデルWMの軸線Aを軸にして回転する方向について静的な力を加えた場合、対象ワークモデルWMの軸線Aに対して傾ける方向について静的な力を加えた場合等、任意の方向の力を加えた場合の弾性率を採用しうる。また、対象ワークモデルWMに加えられる力は静的な力に限定されず、例えば、対象ワークモデルWMに振動が加えられた場合の弾性率であってもよい。
【0194】
表5は、対象ワークモデルWMの各要素に、加硫度に応じた弾性率を割り当てて構造解析を行った結果得られる弾性率を、金型温度と、反応時間との関係についてまとめた表である。表5に記載された、太い罫線、二重線の罫線および破線の罫線の意味は、表4に記載された内容と同じなので、重複する説明を省略する。なお、表5において、「-」が記入されたセルについては、弾性率のシミュレーションにおいて計算エラーが発生した箇所である。
【0195】
さらに、表5には、例えば内部気泡80に関する情報等、任意の情報を追加することができる。
【0196】
本形態においては、表に記載された数値を区分するために罫線を用いたが、これに限られず、表に記載された数値の色を変えたり、フォントを変えたり、書体を斜字体や太字に変えたり、数値が記載されたセルの背景色を変えたり、セルの背景のパターンを変えたりする等、任意の手法により、表中の数値を区分することができる。
【0197】
7-2.ヒートマップ図90による表示方法
図27を参照して、架橋反応の反応率を、ヒートマップ図90を用いて表示する形態について説明する。図27には、対象ワークモデルWMについて、架橋反応の反応率の分布を濃淡で表示したヒートマップ図90を示す。
【0198】
ヒートマップ図90においては、対象ワークモデルWMのうち、外側接合部材13および内側接合部材14は白抜きで表示されている。また、対象ワークモデルWMのうち、ポリマー部12は架橋反応の反応率の大小にしたがって領域91~領域94に分割して表示され、分割された各領域91~領域94が、架橋反応率の大小に従って濃淡表示されている。
【0199】
領域91は、架橋反応の反応率が最も高く、最も濃い色調で表示されている。領域92は、架橋反応の反応率が二番目に高く、二番目に濃い色調で表示されている。領域93は、架橋反応の反応率が三番目に高く、三番目に濃い色調で表示されている。領域94は、架橋反応の反応率が最も低く、最も薄い色調で表示されている。
【0200】
表示部7はヒートマップ図90を作業者に表示する。作業者は、対象ワークモデルWMのポリマー部12における架橋反応の反応率について、濃淡表示された領域91~領域94を視認することにより、ポリマー部12の架橋反応の反応率の分布について直感的に理解することができる。
【0201】
ヒートマップ図90は、対象ワークモデルWMに関するすべての反応条件(例えば、温度、時間等)について、作製し、出力することができる。また、ヒートマップ図90は、所定の反応条件についてのみ作製し、出力する態様としても良い。
【0202】
表示部7によるヒートマップ図90の表示方法は特に限定されず、例えば、表示部7が上記した表5を表示し、作業者が、表示された表5の各セルを選択することにより、当該セルに対応する反応条件におけるヒートマップ図90が表示される形態としてもよい。また、作業者が架橋反応の反応条件を入力することにより、入力された反応条件に対応するヒートマップ図90が表示される態様としても良い。
【0203】
本形態においては、ヒートマップ図90は、ポリマー部12が領域91~領域94に分割して表示される構成としたが、これに限られず、ポリマー部12が2個~3個、または5個以上の領域に分割されて表示される構成としても良い。また、ヒートマップ図90において、反応率の高い領域を薄い色調で表示し、反応率の低い領域を濃い色調で表示しても良い。
【0204】
また、ヒートマップ図90において、反応率の高い領域を赤色などの暖色系の色で表示し、反応率の低い領域を青色などの寒色系の色で表示してもよいし、反応率の高い領域を青色などの寒色系の色で表示し、反応率の低い領域を赤色などの暖色系の色で表示してもよい。
【0205】
7-3.グラフによる表示方法
(1)弾性率を表示する形態
図28図30を参照して、対象ワークモデルWMの弾性率について、グラフを用いて表示する形態について説明する。図28図30は、対象ワークモデルWMの弾性率の、架橋反応の反応時間に対するグラフである。図28は、最も低い金型10の温度で、対象ワークモデルWMのポリマー部12の架橋反応を行ったときのグラフであり、図29は、中程度の金型10の温度で、対象ワークモデルWMのポリマー部12の架橋反応を行ったときのグラフであり、図30は、最も高い金型10の温度で、対象ワークモデルWMのポリマー部12の架橋反応を行ったときのグラフである。図28図30において、実線は弾性率の実測値を示し、破線は予測値を示す。
【0206】
図28図30に示すように、弾性率は、架橋反応が開始してから上昇して極大値に達し、極大値に達した後は減少する。
【0207】
金型10の温度が最も低い図28においては、弾性率の、実測値と予測値とは精度よく一致した。
【0208】
金型10の温度が中程度である図29においては、反応開始後2分までは、弾性率の実測値と予測値とが一致しなかったが、2分以後は、実測値と予測値とは精度よく一致した。反応開始後2分までは、弾性率は、実測値よりも小さく予測されていた。しかしながら、反応開始後2分以内の領域については、製品として利用されることは考えられないので、製品への影響は少ない。
【0209】
金型10温度が最も高い図30においては、反応開始後2分までは、弾性率の実測値と予測値とが一致しなかったが、2分以後は、実測値と予測値とは精度よく一致した。反応開始後2分までは、弾性率は、実測値よりも小さく予測されていた。実測値と予測値との差は、金型10温度が中程度である場合よりも大きかった。しかしながら、上記したように、反応開始後2分以内の領域については、製品として利用されることは考えられないので、製品への影響は少ない。
【0210】
(2)弾性率と内部気泡80とを併せて表示する形態
図31を参照して、対象ワークモデルWMのポリマー部12の弾性率と、内部気泡80の発生についての予測結果を、グラフを用いて表示する形態について説明する。金型10の温度は、上記した図29と同様に、中程度の温度に設定されている。
【0211】
図31には、対象ワークモデルWMの軸線Aに直角な方向に力が加えられたときの弾性率の、反応時間に対するグラフを示す。四角形状のシンボルは、対象ワークモデルWMのポリマー部12の温度が最高値である要素における弾性率を示す。丸形状のシンボルは、対象ワークモデルWMのポリマー部12の温度が中央値である要素における弾性率を示す。三角形状のシンボルは、対象ワークモデルWMのポリマー部12の温度が最低値である要素における弾性率を示す。また、図31において、白抜きのシンボルは、内部気泡80が発生すると予測された場合を示し、黒塗りのシンボルは、内部気泡80が発生しないと予測された場合を示す。
【0212】
なお、ポリマー部12の温度が最高値である要素と、中央値である要素についてのグラフは、反応進行期を過ぎて、反応戻り期におけるグラフとなっている。
【0213】
ポリマー部12の温度が最高値である要素においては、架橋反応の進行が最も早い。このため、反応時間が3分を超えて、3分30秒経過したときに、内部気泡80が発生しないと予測された。ポリマー部12の温度が最も高い要素においては、架橋反応の戻り反応の進行も早くなるので、反応時間6分経過時の弾性率は、最も低くなっている。
【0214】
ポリマー部12の温度が中央値である要素においては、架橋反応の進行も中程度である。このため、反応時間が3分30秒を超えて4分経過したときに、内部気泡80が発生しないと予測された。反応時間6分経過時の弾性率は、ポリマー部12の温度が最高値である要素よりも大きい。
【0215】
ポリマー部12の温度が最低値である要素においては、架橋反応の進行が最も遅い。このため、反応時間が4分より前の状態においては、反応進行期となっており、弾性率は反応時間の経過とともに増加すると予測された。反応時間が4分経過した後は、架橋反応の戻り反応が進行し、弾性率が漸減すると予測された。ポリマー部12の温度が最低値である要素においては、反応時間が5分を超えて、5分30秒経過したときに、内部気泡80が発生しないと予測された。この時点で、対象ワークモデルWMのポリマー部12の全領域において内部気泡80が消失したと予測された。反応時間6分経過時の弾性率は、ポリマー部12の全領域の中で最も大きいと予測された。
【0216】
上記したように、反応時間が5分30秒経過したときに、対象ワークモデルWMのポリマー部12の全領域において内部気泡80が消失したと予測されたが、危険率を考慮して、反応時間6分経過時を、この対象ワークモデルWMの反応時間として採用した。反応時間6分経過時において、ポリマー部12の弾性率のばらつきは、12%であると予測された。
【0217】
このように、本形態によれば、対象ワークモデルWMについて、内部気泡80が発生しなくなる反応時間を予測可能であるとともに、当該反応時間におけるポリマー部12の弾性率のばらつきも予測することができる。
【0218】
(3)内部気泡80を視覚的に表示する形態
図32を参照して、対象ワークモデルWMのポリマー部12における、内部気泡80の発生の予測結果を視覚的に表示する形態について説明する。
【0219】
図32は、対象ワークモデルWMの断面図を利用して、ポリマー部12における内部気泡80の発生可能性の高さを濃淡で表示した図である。対象ワークモデルWMの外側接合部材13および内側接合部材14は、図32において最も濃いパターンで示されている。
【0220】
対象ワークモデルWMのポリマー部12は、図32において最も薄いパターンで示されている。ポリマー部12の内部には、楕円形状の領域Pと、領域Pの内部に位置する楕円形状の領域Qが表示されている。領域Pは、ポリマー部12を表す薄いパターンよりもやや濃いパターンで表示されている。領域Qは、領域Pよりもやや濃いパターンで表示されている。
【0221】
内部気泡推定処理S4の結果、例えば、領域Pが比較的に内部気泡80の発生しやすい領域と判定され、領域Qが領域Pよりも内部気泡80の発生しやすい領域と判定された場合を例にして説明する。領域Pおよび領域Qは、実際に内部気泡80の発生しやすい領域に対応している(図23参照)。
【0222】
内部気泡推定処理S4が終了すると、表示部7は、図32に示す対象ワークモデルWMを表示する。作業者は、表示部7に表示された図32を見ることにより、比較的に濃いパターンで示される外側接合部材13および内側接合部材14と、比較的に薄いパターンで示されるポリマー部12と、を視認する。作業者は、濃いパターンで示される外側接合部材13および内側接合部材14が、ポリマー部12と異なる部分であることを直感的に理解することができる。これにより、作業者は、内部気泡80を探すためには、比較的に薄いパターンで示されるポリマー部12を確認すればよいことを、直感的に理解することができる。ただし、外側接合部材13および内側接合部材14を白抜きで表示しても良い。
【0223】
次に、作業者は、薄いパターンで示されるポリマー部12の中に、比較的に濃いパターンで示される領域Pおよび領域Qが表示されていることを視認する。これにより、作業者は、ポリマー部12のうち、領域Pおよび領域Qにおいて、内部気泡80が発生しやすいことを直感的に理解することができる。さらに、領域Qは領域Pよりも濃いパターンで表示されているので、領域Pにおいて最も内部気泡80が発生しやすいことを直感的に理解することができる。これにより、対象ワークモデルWMの製造条件を検討する際に、内部気泡80が発生する可能性の高い領域において内部気泡80を探せばよいので、対象ワークモデルWMの製造条件を効率的に検討することができる。ただし、内部気泡80の発生する可能性の高い領域を比較的に薄いパターンで表示しても良い。
【0224】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【0225】
本形態においては、内部気泡推定部6は、トルク算出部61を備える構成としたが、これに限られず、対象ワークモデルWMのポリマー部12の架橋反応の反応率(加硫度)を取得する反応率取得部60と、脱型時における反応率に基づいて、対象ワークモデルWMのポリマー部12における気泡の発生を推定する推定部62と、を備える構成としても良い。この場合、加硫反応の反応解析を行う前に、基準反応曲線RCから、閾値となるトルクにおける加硫度を求め、この加硫度をブローポイント加硫度とすることができる。また、ブローポイント加硫度は、例えば、ブローポイントアナライザや、ブローポイントテスタ等の公知の測定機器を用いて直接計測しても良い。その後、加硫反応の反応解析を行い、反応率取得部60の演算結果(加硫度)と、上記のブローポイント加硫度と、を比較して、内部気泡の発生を推定することができる。例えば、加硫度が、ブローポイント加硫度を超えていない場合に、対象ワークモデルWMのポリマー部12において内部気泡80が発生したと推定する。
【符号の説明】
【0226】
1:架橋反応シミュレーション装置、2:記憶部、3:伝熱解析部、4:架橋反応解析部、5:構造解析部、6:内部気泡推定部、7:表示部、10:金型、11:熱板、12:ポリマー部、13:外側接合部材、14:内側接合部材、15:隙間、15A:外側隙間、15B:内側隙間、30:条件入力部、31:ポリマー熱拡散率決定部、32:解析部、40:温度取得部、41:反応率算出処理部、50:温度取得部、51:反応率取得部、52:弾性率割当部、53:特性取得部、60:反応率取得部、61:トルク算出部、62:推定部、70:加硫試験機、80:内部気泡、A:軸線、AC:空気熱伝達係数、BD:内部気泡推定用データ、C:比熱、CC:架橋反応曲線、DM1:第一関係データマップ、DM2:第二関係データマップ、E:活性化エネルギー、EM:等価反応量算出モデル、E:活性化エネルギー、F1:第一関数、F2:第二関数、CH:接触熱伝達率、k:反応速度、MM:成形型モデル、OC:外気条件、RC:基準反応曲線、RD:架橋反応解析用データ、S1:伝熱解析処理、S2:架橋反応解析処理、S3:構造解析処理、S4:内部気泡推定処理、S5:表示処理、SC:係数、t:反応時間、T:反応温度、t:基準時間、T:基準温度、TC:温度条件、TD:伝熱解析用データ、TS:熱拡散率特性、U:等価反応量、WM:対象ワークモデル、Z:反応量、α:熱拡散率、Δt:微小時間、ΔUi:等価反応量増加量、λ:熱伝導率
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