(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141087
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ネットワークシステムおよびネットワーク管理装置
(51)【国際特許分類】
H04L 43/0852 20220101AFI20241003BHJP
【FI】
H04L43/0852
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052542
(22)【出願日】2023-03-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人情報通信研究機構、「高度通信・放送研究開発委託研究/5G・Beyond 5Gの多様なサービスに対応する有線・無線アクセスネットワークのプラットフォーム技術の研究開発 副題:5G・Beyond 5Gの多様なサービスに対応する有線・無線アクセスネットワークの仮想化とエッジクラウド基盤技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 雅章
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ユーザ端末とサーバとの間の遅延を計測する方法を提供する。
【解決手段】ネットワークシステム100は、基地局1、中継システムであるMEC基盤2及び管理装置である情報収集サーバ3を備える。中継システムは、複数のスイッチ21及びユーザ端末5にサービスを提供するサーバであるMECサーバ22を含む。各スイッチは、受信パケットの複製にタイムスタンプを付与した複製パケットを生成して管理装置に送信する。管理装置は、サーバからユーザ端末に向かう第1のパケットに対して第1のスイッチにより生成される第1の複製パケットを受信すると共に、第1のパケットに応じてユーザ端末からサーバに送信される第2のパケットに対して第1のスイッチにより生成される第2の複製パケットを受信し、第1の複製パケット及び第2の複製パケットに付与されているタイムスタンプの差分に基づいて、ユーザ端末と中継システムとの間の遅延時間を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザ端末を収容する基地局と、
前記基地局に接続する中継システムと、
前記中継システムに接続するネットワーク管理装置と、を備え、
前記中継システムは、受信パケットを転送する複数のスイッチおよび前記ユーザ端末にサービスを提供するサーバを含み、
各スイッチは、
受信パケットの複製にタイムスタンプを付与することで複製パケットを生成し、
生成した複製パケットを前記ネットワーク管理装置に送信し、
前記ネットワーク管理装置は、
前記サーバから前記ユーザ端末に向かう第1のパケットに対して前記複数のスイッチの中の第1のスイッチにより生成される第1の複製パケットを受信し、
前記第1のパケットに応じて前記ユーザ端末から前記サーバに送信される第2のパケットに対して前記第1のスイッチにより生成される第2の複製パケットを受信し、
前記第1の複製パケットに付与されているタイムスタンプと前記第2の複製パケットに付与されているタイムスタンプとの差分に基づいて、前記ユーザ端末と前記中継システムとの間のパケットの伝搬遅延時間を算出する
ことを特徴とするネットワークシステム。
【請求項2】
前記第1のスイッチは、前記複数のスイッチの中で前記基地局の最も近くに設けられているスイッチである
ことを特徴とする請求項1に記載のネットワークシステム。
【請求項3】
前記ユーザ端末と前記サーバとの間で伝送される各パケットのヘッダには、シーケンス番号、確認応答番号、およびセグメント長を表す情報が設定され、
前記ネットワーク管理装置は、前記第2の複製パケットのヘッダに設定されている確認応答番号が、前記第1の複製パケットのヘッダに設定されているシーケンス番号とセグメント長との合計値と一致するときに、前記差分に基づいて、前記ユーザ端末と前記中継システムとの間のパケットの伝搬遅延時間を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のネットワークシステム。
【請求項4】
前記中継システムは、MEC(Multi-access Edge Computing)基盤であり、
前記ネットワーク管理装置は、前記ユーザ端末と前記MEC基盤との間のアクセスネットワークにおけるパケットの伝搬遅延時間を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のネットワークシステム。
【請求項5】
前記第2のパケットは、前記ユーザ端末が前記第1のパケットを受信したことに起因して生成される応答パケットまたは前記ユーザ端末が前記第1のパケットを受信したことを表すACK(Acknowledgement)パケットである
ことを特徴とする請求項1に記載のネットワークシステム。
【請求項6】
前記ネットワーク管理装置は、
前記ユーザ端末から前記サーバに向かう第3のパケットに対して、前記複数のスイッチの中の第2のスイッチにより生成される第3の複製パケットを受信し、
前記第3のパケットに応じて前記サーバから前記ユーザ端末に送信される第4のパケットに対して前記第2のスイッチにより生成される第4の複製パケットを受信し、
前記第3の複製パケットに付与されているタイムスタンプと前記第4の複製パケットに付与されているタイムスタンプとの差分に基づいて、前記第2のスイッチと前記サーバとの間のパケットの伝搬遅延時間を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のネットワークシステム。
【請求項7】
前記ネットワーク管理装置は、
前記ユーザ端末と前記サーバとの間の経路上にある2個のスイッチにより生成される2個の複製パケットを受信し、
前記2個の複製パケットにそれぞれ付与されているタイムスタンプの差分に基づいて、前記2個のスイッチ間のパケットの伝搬遅延時間を算出する
ことを特徴とする請求項6に記載のネットワークシステム。
【請求項8】
ユーザ端末を収容する基地局および前記基地局に接続する中継システムを備えるネットワークの遅延を計測するネットワーク管理装置であって、
前記中継システムは、受信パケットを転送する複数のスイッチおよび前記ユーザ端末にサービスを提供するサーバを含み、
各スイッチは、受信パケットの複製にタイムスタンプを付与することで複製パケットを生成して前記ネットワーク管理装置に送信する構成であり、
前記サーバから前記ユーザ端末に向かう第1のパケットに対して前記複数のスイッチの中の第1のスイッチにより生成される第1の複製パケット、および、前記第1のパケットに応じて前記ユーザ端末から前記サーバに送信される第2のパケットに対して前記第1のスイッチにより生成される第2の複製パケットを受信する通信インタフェースと、
前記第1の複製パケットに付与されているタイムスタンプと前記第2の複製パケットに付与されているタイムスタンプとの差分に基づいて、前記ユーザ端末と前記中継システムとの間のパケットの伝搬遅延時間を算出する遅延時間算出部と、
を備えるネットワーク管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワークシステムおよびネットワーク管理装置に係わる。
【背景技術】
【0002】
次世代の移動通信システムにおいては、スマートフォンなどのユーザ端末だけでなく、自動車、産業機械、スマートメータ等の様々な機器が接続され得る。そして、モバイルブロードバンドの高速化(eMBB:enhanced Mobile Broadband)、超高信頼低遅延通信(URLLC:Ultra-Reliable and Low Latency Communication)、および大規模マシンタイプ通信(mMTC:massive Machine Type Communication)の実現が要求される。
【0003】
低遅延通信を実現する技術の1つとしてMEC(Multi-access Edge Computing)が提案されている。MECは、サーバを含むMEC基盤を、地理的にユーザに近い位置に設けることで、ユーザとサーバとの間の遅延を低減することができる。
【0004】
また、低遅延通信の実用化においては、遅延時間を計測する技術が必要となる。このため、パケットの伝搬遅延時間を計測する技術が提案されている。例えば、MEC基盤内の各スイッチは、受信パケットにタイムスタンプ情報を付与した複製パケットを生成する。そして、情報収集サーバは、各複製パケットに付与されているタイムスタンプ情報に基づいて、MEC基盤内の各スイッチ区間の遅延時間を計測する(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、MEC基盤内の各区間の遅延を計測する方法は知られている。ただし、この方法では、ユーザ端末とサーバとの間の遅延(或いは、無線アクセスネットワークの遅延)を計測することはできず、End-to-Endの遅延を検出できない。
【0007】
なお、ユーザ端末においてサーバの応答時間をモニタすることで、End-to-Endの遅延を計測することは可能である。ただし、この場合、ユーザ端末に、応答時間をモニタする機能を有するアプリケーションを実装する必要がある。また、この方法であっても、ユーザ端末とサーバとの間の遅延(或いは、無線アクセスネットワークの遅延)を計測することはできない。
【0008】
本発明の1つの側面に係わる目的は、ユーザ端末とサーバとの間の遅延を計測する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様に係わるネットワークシステムは、ユーザ端末を収容する基地局と、前記基地局に接続する中継システムと、前記中継システムに接続するネットワーク管理装置と、を備える。前記中継システムは、受信パケットを転送する複数のスイッチおよび前記ユーザ端末にサービスを提供するサーバを含む。各スイッチは、受信パケットの複製にタイムスタンプを付与することで複製パケットを生成し、生成した複製パケットを前記ネットワーク管理装置に送信する。前記ネットワーク管理装置は、前記サーバから前記ユーザ端末に向かう第1のパケットに対して前記複数のスイッチの中の第1のスイッチにより生成される第1の複製パケットを受信し、前記第1のパケットに応じて前記ユーザ端末から前記サーバに送信される第2のパケットに対して前記第1のスイッチにより生成される第2の複製パケットを受信し、前記第1の複製パケットに付与されているタイムスタンプと前記第2の複製パケットに付与されているタイムスタンプとの差分に基づいて、前記ユーザ端末と前記中継システムとの間のパケットの伝搬遅延時間を算出する。
【発明の効果】
【0010】
上述の態様によれば、ユーザ端末とサーバとの間の遅延を計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係わるネットワークシステムの一例を示す図である。
【
図2】伝搬遅延時間を計測する区間の一例を示す図である。
【
図3】スイッチおよび情報収集サーバの機能ブロック図である。
【
図4】スイッチのハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図5】情報収集サーバのハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係わるネットワークシステムにおいて転送されるパケットについて説明する図である。
【
図7】送信されたパケットとその応答パケットとを対応づける方法の一例を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態が他の通信プロトコルに適用されるケースの一例を示す図である。
【
図10】応答データが複数のセグメントに分割されて送信されるケースにおいて遅延時間を計測する方法の一例を示す図である。
【
図11】複数の送信パケットに対して1個のACKパケットが生成されるケースにおいて遅延時間を計測する方法の一例を示す図である。
【
図12】情報収集サーバの処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係わるネットワークシステムの一例を示す。本発明の実施形態に係わるネットワークシステム100は、基地局1、MEC基盤2、情報収集サーバ3、およびサービス管理オーケストレーション(SMO)基盤4を備える。尚、ネットワークシステム100は、
図1に示していない他の装置または機能を備えてもよい。また、ネットワークシステム100は、SMO基盤4を含まなくてもよい。
【0013】
基地局1は、例えば、O-RAN仕様に準拠する無線基地局であり、ユーザ端末5を収容することができる。また、基地局1は、この実施例では、RU(Radio Unit)11、DU(Distributed Unit)12、およびCU(Central Unit)13を備える。RU11は、1または複数のアンテナを備え、ユーザ端末5から無線信号を受信すると共に、ユーザ端末5に無線信号を送信する。DU12は、受信信号の復調、送信信号の変調、およびMAC(Media Access Control)層の通信制御などを行う。CU13は、配下のRU11/DU12の制御、コアネットワークとの接続の制御、PDCP(Packet Data Convergence Protocol)処理、およびRRC(Radio Resource Control)処理などを行う。
【0014】
MEC基盤2は、1または複数のスイッチ21(21a、21b)および1または複数のMECサーバ22(22a、22b)を備え、ユーザ端末5にサービスを提供する。なお、MEC基盤2は、地理的にユーザに近い位置に設けられる。この実施例では、MEC基盤2は、基地局1に接続する。なお、MEC基盤2は、
図1に示していない他の機能を備えてもよい。
【0015】
各スイッチ21は、受信パケットを宛先に向けて転送する。よって、MEC基盤2は、パケットを転送する中継システムの一例である。
【0016】
スイッチ21aは、基地局1から受信するパケットをMECサーバ22aに導き、MECサーバ22aから受信するパケットを基地局1に導く。MECサーバ22aは、この例では、仮想eNB(evolved Node B)または仮想EPC(Evolved Packet Core)として動作する。スイッチ21bは、MECサーバ22aから受信するパケットをMECサーバ22bに導き、MECサーバ22bから受信するパケットをMECサーバ22aに導く。MECサーバ22bは、アプリケーションプログラムを実行してユーザ端末5にサービスを提供する。なお、以下の記載において、ユーザ端末5からMECサーバ22bに向かう通信路を「上りリンク」と呼ぶことがある。また、MECサーバ22bからユーザ端末5に向かう通信路を「下りリンク」と呼ぶことがある。
【0017】
各スイッチ21は、通過するパケットの複製を生成し、生成した複製パケットにタイムスタンプを付与して情報収集サーバ3に送信する。ただし、各スイッチ21は、所定のプロトコル(例えば、TCP)で送信されるパケットの複製パケットを生成するように構成されてもよい。
【0018】
情報収集サーバ3は、各スイッチ21から受信する複製パケットに付与されているタイムスタンプを利用して、MEC基盤2内の各区間の遅延時間、および、ユーザ端末5とMEC基盤2との間の遅延時間を計測する。具体的には、
図2に示すように、上りリンクにおいてスイッチ21aからスイッチ21bに至る区間D1の遅延時間、スイッチ21bからMECサーバ22bを経由してスイッチ21bに至る区間D2の遅延時間、下りリンクにおいてスイッチ21bからスイッチ21aに至る区間D3の遅延時間、およびスイッチ21aから基地局1、ユーザ端末5、および基地局1を経由してスイッチ21aに至る区間D4の遅延時間が計測される。なお、区間D1の遅延時間は、上りリンクにおけるMECサーバ22aの処理時間を含む。区間D2の遅延時間は、MECサーバ22bの処理時間を含む。区間D3の遅延時間は、下りリンクにおけるMECサーバ22aの処理時間を含む。区間D4の遅延時間は、ユーザ端末5の処理時間を含み、無線アクセスネットワークの遅延時間を表す。
【0019】
ユーザ端末5からMECサーバ22bにパケットP1が送信されるときには、スイッチ21aは、タイムスタンプt1が付与された複製パケットP1aを生成し、スイッチ21bは、タイムスタンプt2が付与された複製パケットP1bを生成する。MECサーバ22bからユーザ端末5にパケットP2が送信されるときには、スイッチ21bは、タイムスタンプt3が付与された複製パケットP2bを生成し、スイッチ21aは、タイムスタンプt4が付与された複製パケットP2aを生成する。パケットP2は、例えば、パケットP1に対する応答パケットである。ユーザ端末5からMECサーバ22bにパケットP3が送信されるときには、スイッチ21aは、タイムスタンプt5が付与された複製パケットP3aを生成し、スイッチ21bは、タイムスタンプt6が付与された複製パケットP3bを生成する。パケットP3は、例えば、パケットP2に対する応答パケットまたはACKパケットである。
【0020】
情報収集サーバ3は、各複製パケットに付与されているタイムスタンプを利用して、各区間D1~D4の遅延時間をそれぞれ計測することができる。すなわち、タイムスタンプt1とタイムスタンプt2との差分に基づいて、上りリンクにおいてスイッチ21aからスイッチ21bに至る区間D1の遅延時間が算出される。タイムスタンプt2とタイムスタンプt3との差分に基づいて、スイッチ21bからMECサーバ22bを経由してスイッチ21bに至る区間D2の遅延時間が算出される。タイムスタンプt3とタイムスタンプt4との差分に基づいて、下りリンクにおいてスイッチ21bからスイッチ21aに至る区間D3の遅延時間が算出される。タイムスタンプt4とタイムスタンプt5との差分に基づいて、スイッチ21aから基地局1、ユーザ端末5、および基地局1を経由してスイッチ21aに至る区間D4の遅延時間が算出される。
【0021】
このように、情報収集サーバ3は、各スイッチ21から通知される時刻情報(実施例では、複製パケットに付与されているタイムスタンプ)に基づいて、MEC基盤2内の各区間の遅延時間、および、アクセスネットワーク(即ち、ユーザ端末5とMEC基盤2との間の遅延時間)を計測できる。加えて、情報収集サーバ3は、これらの計測値を利用してEnd-to-Endの遅延時間も算出できる。なお、情報収集サーバ3は、ネットワークの遅延を計測するネットワーク管理装置の一例である。
【0022】
上述の例では、情報収集サーバ3は、互いに隣接する2個のスイッチの間の伝搬遅延時間を計測する。ただし、本発明の実施形態はこのような計測に限定されるものではなく、情報収集サーバ3は、任意の区間の伝搬遅延時間を計測できる。例えば、
図1に示す複製パケットP1aおよび複製パケットP2bを取得すれば、情報収集サーバ3は、
図2に示す区間D1の遅延時間および区間D2の遅延時間の合計を計測できる。また、
図1に示す複製パケットP1aおよび複製パケットP2aを取得すれば、情報収集サーバ3は、
図2に示す区間D1の遅延時間、区間D2の遅延時間、および区間D3の遅延時間の合計を計測できる。
【0023】
SMO基盤4は、情報収集サーバ3により計測される遅延に基づいて基地局1を制御する。例えば、遅延時間が所定の閾値より大きくなったときには、SMO基盤4は、ユーザ端末5とMEC基盤2との間の通信に割り当てる帯域を大きくしてもよい。
【0024】
図3は、スイッチ21および情報収集サーバ3の機能ブロック図である。スイッチ21は、通信インタフェース(IF)211、スイッチ制御部212、信号制御部213、テーブル情報処理部214、管理テーブル215、ハードウェア処理部216、ヘッダ解析制御部217、およびタイムスタンプ情報制御部218を含む。なお、スイッチ21は、例えば、プログラマブルスイッチである。
【0025】
通信IF211は、例えば、Northbound APIにより実現される。スイッチ制御部212は、通信IF211を介して不図示のSDN(Software-Defined Network)コントローラとの間で制御メッセージを送受信する。
【0026】
信号制御部213は、通知される制御メッセージのフロー情報を解読し、データ信号およびルーティング信号を制御する。また、信号制御部213は、テーブル情報処理部214を介して管理テーブル215に各種情報を保存する。
【0027】
ハードウェア処理部216は、フロー情報に従って受信パケットを転送する。また、ハードウェア処理部216は、受信パケットの複製パケットを生成することができる。このとき、ヘッダ解析制御部217は、受信パケットのヘッダを解析する。また、タイムスタンプ情報制御部218は、受信パケットの受信時刻を表すタイムスタンプを生成する。このタイムスタンプは、タイムスタンプ情報制御部218またはハードウェア処理部216により複製パケットに付与される。
【0028】
情報収集サーバ3は、パケット解析制御部31、タイムスタンプテーブル32、遅延時間算出部33、計測結果集計部34、外部IF35、および表示部36を含む。パケット解析制御部31は、各スイッチ21から送信される複製パケットを受信して解析する。そして、パケット解析制御部31は、各複製パケットに付与されているタイムスタンプをタイムスタンプテーブル32に書き込む。
図1に示す例では、パケット解析制御部31は、スイッチ21aから複製パケットP1a、P2a、P3aを受信し、スイッチ21bから複製パケットP1b、P2b、P3bを受信する。そして、各複製パケットに対応づけてタイムスタンプt1~t6がタイムスタンプテーブル32に書き込まれる。
【0029】
遅延時間算出部33は、タイムスタンプテーブル32を参照し、計測する区間に対応する一対のタイムスタンプを抽出する。そして、遅延時間算出部33は、抽出したタイムスタンプの差分を算出することでパケットの伝搬遅延時間を計測する。計測結果集計部34は、区間ごとの遅延時間およびEnd-to-Endの遅延時間を集計する。計測結果集計部34は、集計した遅延時間を、外部IF35を介して、指定された情報処理装置に送信する。また、計測結果集計部34は、集計した遅延時間を、情報収集サーバ3の表示部36に表示する。
【0030】
図4は、スイッチ21のハードウェア構成の一例を示す。スイッチ21は、プロセッサ61、メモリ62、通信IF63(63a~63c)、記憶装置64、およびプログラマブルASIC(Application Specific Integrated Circuit)65を備える。
【0031】
プロセッサ61は、例えばCPUであり、記憶装置64に格納されているプログラムを実行する。また、プロセッサ61は、スイッチ21の動作を制御する制御部として機能する。このとき、メモリ62は、プロセッサ61の作業領域として使用される。メモリ62は、例えば、ROMおよびRAMにより構成される。記憶装置64は、HDD、SSD、またはフラッシュメモリ等により構成される。通信IF63aは、オペレータとの間で制御情報を送信および受信する。通信IF63bおよび63cは、他のスイッチ21またはMECサーバ22との間でパケットを送信および受信する。プログラマブルASIC65は、パケットの転送を実行する。
【0032】
プロセッサ61は、記憶装置64に格納されているプログラムを実行することにより、
図3に示すスイッチ制御部212、信号制御部213、テーブル情報処理部214、ヘッダ解析制御部217、およびタイムスタンプ情報制御部218の機能を提供する。プログラマブルASIC65は、
図3に示すハードウェア処理部216に相当する。記憶装置64は、
図3に示す管理テーブル215を実現する。通信IF63a~63cは、
図3に示すハードウェア処理部306の通信処理にかかる機能を実現する。
【0033】
図5は、情報収集サーバ3のハードウェア構成の一例を示す。情報収集サーバ3は、プロセッサ71、メモリ72、記憶装置73、および通信IF74(74a~74b)を備える。
【0034】
プロセッサ71は、例えばCPUであり、記憶装置73に格納されているプログラムを実行する。また、プロセッサ71は、情報収集サーバ3の動作を制御する制御部として機能する。このとき、メモリ72は、プロセッサ71の作業領域として使用される。メモリ72は、例えば、ROMおよびRAMにより構成される。記憶装置73は、HDD、SSD、またはフラッシュメモリ等により構成される。通信IF74aは、オペレータとの間で制御情報を送信および受信する。通信IF74bは、スイッチ21と接続し、タイムスタンプが付与された複製パケットを受信する。なお、通信IF74bは、例えば、スマートNIC(Network Interface Card)により実現される。
【0035】
プロセッサ71は、記憶装置73に格納されているプログラムを実行することにより、
図3に示すパケット解析制御部31、遅延時間算出部33、および計測結果集計部34の機能を提供する。記憶装置73は、タイムスタンプテーブル32を実現する。通信IF74は、パケット解析制御部31の通信処理にかかる機能、および外部IF35の機能を実現する。なお、ユーザ端末5は、図示しないが、プロセッサ、メモリ、記憶装置、入出力装置等のハードウェアで構成される。
【0036】
図6は、本発明の実施形態に係わるネットワークシステム100において転送されるパケットについて説明する図である。この実施例では、ユーザ端末5は、無線パケットヘッダおよびデータを含むパケットを送信する。「データ」は、
図6に示すように、アプリケーションレイヤのデータ(APL)、TCP(Transmission Control Protocol)情報、およびIP(Internet Protocol)情報を含む。すなわち、TCPで通信が制御される。
【0037】
基地局1は、ユーザ端末5から受信するパケットの無線パケットヘッダをGTPパケットヘッダに変換する。GTPパケットヘッダは、
図6に示すように、L1/L2ヘッダを含む。そして、基地局1は、このパケットをMEC基盤2に送信する。
【0038】
MEC基盤2において、スイッチ21aは、基地局1から受信するパケットをMECサーバ22aに転送すると共に、複製パケットを生成する。このとき、スイッチ21aは、タイムスタンプを生成して複製パケットに付与する。すなわち、スイッチ21aにおいてタイムスタンプが付与された複製パケットが情報収集サーバ3に送信される。
【0039】
MECサーバ22aは、仮想eNBまたは仮想EPCとして動作し、GTPトンネルを終端する。よって、MECサーバ22aにおいてGTPパケットヘッダは削除される。ただし、GTPパケットヘッダ中のL1/L2ヘッダは、削除されない。
【0040】
スイッチ21bは、MECサーバ22aから出力されるパケットをMECサーバ22bに転送すると共に、複製パケットを生成する。このとき、スイッチ21bは、スイッチ21aと同様に、タイムスタンプを生成して複製パケットに付与する。すなわち、スイッチ21bにおいてタイムスタンプが付与された複製パケットが情報収集サーバ3に送信される。
【0041】
下りリンク(すなわち、MEC基盤2からユーザ端末5に向かう通信路)におけるパケット変換は、上りリンク(すなわち、ユーザ端末5からMEC基盤2に向かう通信路)におけるパケット変換と実質的に同じである。ただし、スイッチ21bは、MECサーバ22bから出力されるパケットをMECサーバ22aに転送すると共に、複製パケットを生成する。また、スイッチ21aは、MECサーバ22aから出力されるパケットを基地局1に転送すると共に、複製パケットを生成する。そして、各スイッチ21b、21aにおいてタイムスタンプが付与された複製パケットは、それぞれ情報収集サーバ3に送信される。
【0042】
情報収集サーバ3は、MEC基盤2内に設けられる各スイッチ21から複製パケットを受信する。そして、情報収集サーバ3は、各複製パケットに付与されているタイムスタンプを利用して、区間ごとに、パケットの伝搬遅延時間を計測する。
【0043】
図2に示す区間D1の遅延時間を計測するときは、情報収集サーバ3は、上りリンクにおいてスイッチ21aにより生成される複製パケットおよびスイッチ21bにより生成される複製パケットを取得する。ここで、情報収集サーバ3は、各パケットの送信元アドレスおよび宛先アドレスに基づいて、当該パケットが上りリンクを伝搬するパケットか下りリンクを伝搬するパケットかを識別できる。また、情報収集サーバ3は、複製パケットを生成したスイッチ21(21aまたは21b)を識別できるものとする。そして、情報収集サーバ3は、同じ上りリンクパケットからスイッチ21aおよび21bにより生成される1組の複製パケットにそれぞれ付与されているタイムスタンプに基づいて、区間D1の遅延時間を算出する。
【0044】
同様に、
図2に示す区間D3の遅延時間を計測するときは、情報収集サーバ3は、下りリンクにおいてスイッチ21bにより生成される複製パケットおよびスイッチ21aにより生成される複製パケットを取得する。そして、情報収集サーバ3は、同じ下りリンクパケットからスイッチ21bおよび21aにより生成される1組の複製パケットにそれぞれ付与されているタイムスタンプに基づいて、区間D3の遅延時間を算出する。
【0045】
このように、情報収集サーバ3は、ユーザ端末5とMECサーバ22bとの間の経路上で互いに隣接する2個のスイッチにより生成される2個の複製パケットを受信する。そして、情報収集サーバ3は、それら2個の複製パケットにそれぞれ付与されているタイムスタンプの差分に基づいて、互いに隣接する2個のスイッチ間のパケットの伝搬遅延時間を算出できる。
【0046】
これに対して、
図2に示す区間D2の遅延時間または区間D4の遅延時間を計測するときは、情報収集サーバ3は、上りリンクを伝搬するパケットの複製パケットおよび下りリンクを伝搬するパケットの複製パケットを取得する。
【0047】
図2に示す区間D2の遅延時間を計測するときは、情報収集サーバ3は、例えば、上りリンクを介して伝搬する要求パケットの複製パケット、および、その要求パケットに対してMECサーバ22bにより生成される応答パケットの複製パケットを、スイッチ21bから取得する。そして、これらの複製パケットに付与されているタイムスタンプ(
図1に示す例では、t2およびt3)に基づいて、区間D2の遅延時間が算出される。なお、スイッチ21bは、MEC基盤2を構成する複数のスイッチ21の中でMECサーバ22bの最も近くに設けられるスイッチである。
【0048】
図2に示す区間D4の遅延時間を計測するときは、情報収集サーバ3は、例えば、下りリンクを介して伝搬する応答パケットの複製パケット、および、その要求パケットに対してユーザ端末5により生成されるACKパケットの複製パケットを、スイッチ21aから取得する。そして、これらの複製パケットに付与されているタイムスタンプ(
図1に示す例では、t4およびt5)に基づいて、区間D4の遅延時間が算出される。なお、スイッチ21aは、MEC基盤2を構成する複数のスイッチ21の中で基地局1の最も近くに設けられるスイッチである。
【0049】
よって、情報収集サーバ3は、上りリンクまたは下りリンクを伝搬するパケットと、そのパケットに対する応答パケットまたはACKパケットとを対応づける機能を備える。そして、この機能は、例えば、TCPのシーケンス番号SN(Sequence Number)、確認応答番号AN(Acknowledgement Number)、およびセグメント長Lenを利用して実現される。
【0050】
図7は、送信されたパケットとその応答パケットとを対応づける方法の一例を示す。この例では、ユーザ端末5とMECサーバ22bとの間でパケットが伝送される。具体的には、以下のパケット送信が行われる。
(1)ユーザ端末5からMECサーバ22bにパケットP1が送信される。
(2)MECサーバ22bは、パケットP1を受信したことに応じて、ユーザ端末5にパケットP2を送信する。
(3)ユーザ端末5は、パケットP2を受信したことに応じて、MECサーバ22bにパケットP3を送信する。
なお、パケットP2は、パケットP1を受信したことに起因して生成されるので、パケットP1に対する応答パケットである。また、パケットP3は、パケットP2を受信したことに起因して生成されるので、パケットP2に対する応答パケットである。
【0051】
各パケットP1~P3のヘッダには、シーケンス番号SN、確認応答番号AN、およびセグメント長Lenが設定される。シーケンス番号SNは、送信パケットに格納されるデータの先頭セグメントを表す。したがって、シーケンス番号SNは、直前の送信パケットのシーケンス番号SNにその送信パケットのセグメント長Lenを加算することで算出される。確認応答番号ANは、相手装置から、どのセグメントまで受信しているかを表す。したがって、確認応答番号ANは、現在の確認応答番号ANに受信パケットのセグメント長Lenを加算することで算出される。セグメント長Lenは、パケットにより伝送されるデータの長さを表す。なお、シーケンス番号SNおよび確認応答番号ANの初期値は、それぞれ「1」であるものとする。
【0052】
ユーザ端末5からMECサーバ22bに送信されるパケットP1には、シーケンス番号SNおよび確認応答番号ANとしてそれぞれ「1」が設定される。また、パケットP1のセグメント長は100バイトであるものとする。この場合、パケットP1のヘッダに、セグメント長Lenとして「100」が設定される。
【0053】
MECサーバ22bは、パケットP1を受信したことに起因してユーザ端末5にパケットP2を送信する際に、確認応答番号ANを計算する。確認応答番号ANは、現在の確認応答番号ANに、受信パケットのセグメント長を加算することで算出される。ここで、MECサーバ22bにおいて、現在の確認応答番号ANは「1」であり、受信したパケットP1のセグメント長Lenは100バイトである。したがって、パケットP2のヘッダには、確認応答番号ANとして「101(=1+100)」が設定される。なお、パケットP2のセグメント長は1300バイトであるものとする。この場合、パケットP2のヘッダに、セグメント長Lenとして「1300」が設定される。また、シーケンス番号SNとしては、初期値である「1」が設定される。
【0054】
ユーザ端末5は、パケットP2を受信したことに起因してMECサーバ22bにパケットP3を送信する際に、シーケンス番号SNおよび確認応答番号ANを計算する。シーケンス番号SNは、前回の送信パケット(即ち、パケットP1)に設定したシーケンス番号SN(即ち「1」)に、前回の送信パケットのセグメント長Len(即ち「100」)を加算することで算出される。よって、パケットP3のヘッダには、シーケンス番号SNとして「101(=1+100)」が設定される。また、確認応答番号ANは、上述したように、現在の確認応答番号ANに、受信パケットのセグメント長Lenを加算することで算出される。ここで、ユーザ端末5において、現在の確認応答番号ANは「1」であり、受信したパケットP2のセグメント長は1300バイトである。よって、パケットP3のヘッダには、確認応答番号ANとして「1301(=1+1300)」が設定される。なお、この実施例では、パケットP3のセグメント長は「0」である。
【0055】
上述の手順において、各スイッチ21(21a、21b)は、パケットP1~P3の複製パケットを生成して情報収集サーバ3に送信する。具体的には、パケットP1に対して複製パケットP1aおよび複製パケットP1bが生成され、パケットP2に対して複製パケットP2bおよび複製パケットP2aが生成され、パケットP3に対して複製パケットP3aおよび複製パケットP3bが生成される。各複製パケットには、上述したように、タイムスタンプが付与される。
【0056】
ここで、TCPにおいては、送信パケットのヘッダに設定されているシーケンス番号SNおよびセグメント長Lenの合計値と、その送信パケットに対応する応答パケットのヘッダに設定されている確認応答番号ANとが一致する。
図7に示す例では、パケットP1のシーケンス番号SNおよびセグメント長Lenの合計値が「101」であり、パケットP2の確認応答番号ANも「101」である。また、パケットP2のシーケンス番号SNおよびセグメント長Lenの合計値が「1301」であり、パケットP3の確認応答番号ANも「1301」である。
【0057】
このように、1組の装置間で双方向にパケット通信が行われるときに、ある方向に伝搬するパケットのヘッダに設定されているシーケンス番号SNおよびセグメント長Lenの合計値と、その反対方向に伝搬するパケットのヘッダに設定されている確認応答番号ANとが互いに一致するときには、それら2つのパケットのうちの一方のパケットが他方のパケットの応答パケットであることが分かる。したがって、情報収集サーバ3は、各スイッチ21(21a、21b)から複製パケットを受信したときに、各パケットのヘッダに設定されているシーケンス番号SN、確認応答番号AN、およびセグメント長Lenを参照することにより、送信パケットとその応答パケットとを対応づけることができる。
【0058】
例えば、情報収集サーバ3は、
図2に示す区間D2の遅延時間を計測するときには、スイッチ21bから複製パケットP1bおよび複製パケットP2bを受信する。ここで、複製パケットP1bのシーケンス番号SNとセグメント長Lenとの合計値が「101」であり、複製パケットP2bの確認応答番号ANも「101」である。この場合、情報収集サーバ3は、複製パケットP2bの複製元であるパケットP2が、複製パケットP1bの複製元であるパケットP1の応答パケットであると判定する。そうすると、情報収集サーバ3は、複製パケットP1bに付与されているタイムスタンプt2と複製パケットP2bに付与されているタイムスタンプt3との差分に基づいて、スイッチ21bからMECサーバ22bを経由してスイッチ21bに至る区間D2の遅延時間を算出する。
【0059】
また、情報収集サーバ3は、
図2に示す区間D4の遅延時間を計測するときには、スイッチ21aから複製パケットP2aおよび複製パケットP3aを受信する。ここで、複製パケットP2aのシーケンス番号SNとセグメント長Lenとの合計値が「1301」であり、複製パケットP3aの確認応答番号ANも「1301」である。この場合、情報収集サーバ3は、複製パケットP3aの複製元であるパケットP3が、複製パケットP2aの複製元であるパケットP2の応答パケットであると判定する。そうすると、情報収集サーバ3は、複製パケットP2aに付与されているタイムスタンプt4と複製パケットP3aに付与されているタイムスタンプt5との差分に基づいて、スイッチ21aから基地局1、ユーザ端末5、および基地局1を経由してスイッチ21aに至る区間D4の遅延時間を算出する。
【0060】
なお、複製パケットP2bの確認応答番号ANは、複製パケットP1aのシーケンス番号SNおよびセグメント長Lenの合計値とも一致している。よって、情報収集サーバ3は、複製パケットP2bに付与されているタイムスタンプt3および複製パケットP1aに付与されているタイムスタンプt1に基づいて遅延時間を計測してもよい。ただし、この遅延時間は、区間D2の遅延時間および区間D3の遅延時間の和を表す。同様に、複製パケットP3aの確認応答番号ANは、複製パケットP2bのシーケンス番号SNおよびセグメント長Lenの合計値とも一致している。したがって、情報収集サーバ3は、複製パケットP3aに付与されているタイムスタンプt5および複製パケットP2bに付与されているタイムスタンプt3に基づいて遅延時間を計測してもよい。ただし、この遅延時間は、区間D3の遅延時間および区間D4の遅延時間の和を表す。
【0061】
図8は、遅延時間の算出方法の一例を示す。この実施例では、情報収集サーバ3は、
図3に示すタイムスタンプテーブル32を利用して遅延時間を算出する。タイムスタンプテーブル32は、特に限定されるものではないが、例えば、計測対象の各区間に対してそれぞれ設けられる。また、タイムスタンプテーブル32は、パケット解析制御部31により更新され、遅延時間算出部33により参照される。なお、以下の記載では、一例として、
図2に示す区間D4の遅延時間が計測される。
【0062】
タイムスタンプテーブル32は、
図8(a)に示すように、複数の格納アドレスに対してタイムスタンプの値を書き込むための領域を備える。格納アドレスは、「シーケンス番号SN+セグメント長Len」または「確認応答番号AN」で参照される。なお、初期状態において、タイムスタンプテーブル32の各領域は「0」にリセットされている。
【0063】
図8(b)において、情報収集サーバ3は、スイッチ21aから複製パケットP2aを受信する。複製パケットP2aは、
図1または
図7に示すように、MECサーバ22bからユーザ端末5に送信されるパケットP2の複製である。そして、複製パケットP2aのヘッダには、「SN=1、Len=1300、AN=101」が設定されている。この場合、パケット解析制御部31は、シーケンス番号SNとセグメント長Lenとの合計値が示すアドレスに、複製パケットP2aに付与されているタイムスタンプを書き込む。すなわち、タイムスタンプテーブル32のアドレス1301に「t4」が書き込まれる。
【0064】
続いて、
図8(c)において、情報収集サーバ3は、スイッチ21aから複製パケットP3aを受信する。複製パケットP3aは、
図1または
図7に示すように、ユーザ端末5からMECサーバ22bに送信されるパケットP3の複製である。また、複製パケットP3aのヘッダには、「SN=101、Len=0、AN=1301」が設定されている。この場合、パケット解析制御部31は、図示しないが、シーケンス番号SNとセグメント長Lenとの合計値が示すアドレスに、複製パケットP3aに付与されているタイムスタンプを書き込んでもよい。
【0065】
続いて、遅延時間算出部33は、複製パケットP3aのヘッダに設定されている確認応答番号ANの値でタイムスタンプテーブル32を参照する。すなわち、タイムスタンプテーブル32のアドレス1301が参照される。ここで、このアドレスには、タイムスタンプが書き込まれている。この場合、遅延時間算出部33は、このアドレスに記録されているタイムスタンプを取得する。そして、遅延時間算出部33は、タイムスタンプテーブル32から取得したタイムスタンプと、複製パケットP3aに付与されているタイムスタンプとの差分を算出する。すなわち、「t4」と「t5」との差分が算出される。これにより、区間D4の遅延時間が算出される。
【0066】
遅延時間の算出が終了した後、遅延時間算出部33は、タイムスタンプを取得した領域をリセットする。なお、確認応答番号ANの値に対応するアドレスにタイムスタンプが記録されていないときは、遅延時間算出部33は、遅延時間の算出を行わない。また、タイムスタンプテーブル32は、シーケンス番号SNがサイクリックにカウントされることを考慮し、遅延誤検出を回避するために、定期的(例えば、数秒~数10秒)にリセットされることが好ましい。
【0067】
このように、情報収集サーバ3は、基地局1およびMEC基盤2を含むネットワークシステムにおいて、MEC基盤2内の各区間だけでなく、MEC基盤2とユーザ端末5との間の区間(すなわち、無線アクセスネットワーク)の伝搬遅延時間を計測することができる。よって、各区間の伝搬遅延時間の合計を計算することにより、End-to-Endの伝搬遅延時間も算出できる。
【0068】
<バリエーション1>
上述の実施例は、ユーザ端末5からMECサーバ22bに要求パケットが送信され、MECサーバ22bからユーザ端末5に対応する応答パケットが送信され、さらに、ユーザ端末5からMECサーバ22bに対応するACKパケットが送信される手順を前提としているが、本発明の実施形態はこの手順に限定されるものではない。すなわち、MECサーバ22bからユーザ端末5に送信されるパケットに応じてユーザ端末5がMECサーバ22bにパケットを送信する手順であれば、本発明の実施形態に従って無線アクセスネットワークの伝搬遅延時間を計測できる。
【0069】
例えば、
図9に示す実施例では、WebsocketプロトコルでMECサーバ22bからデータが送信される。Websocketは、ブラウザとWebサーバとの間で双方向通信を行うための通信プロトコルであり、Webサーバは、任意のタイミングでデータ送信を開始することができる。
【0070】
このケースでは、MECサーバ22bから送信されるパケットは、スイッチ21により基地局1に転送され、基地局1からユーザ端末5に無線パケットが送信される。また、ユーザ端末5は、MECサーバ22bから送信されるパケットの受信に応じて、応答パケットをMECサーバ22bに送信する。このとき、各スイッチ21(21a、21b)は、受信パケットの複製を生成し、タイムスタンプを付与して情報収集サーバ3に送信する。なお、複製パケットにはタイムスタンプが付与されるが、MECサーバ22とユーザ端末5との間で伝送されるパケットにはタイムスタンプが付与される必要はない。
【0071】
情報収集サーバ3が複製パケットに付与されているタイムスタンプを利用して伝搬遅延時間を計測する方法は、
図6~
図8を参照して説明した方法と実質的に同じである。すなわち、下りリンクにおいてスイッチ21aにより生成されるパケットの複製に付与されているタイムスタンプ、及び、上りリンクにおいてスイッチ21aにより生成されるパケットの複製に付与されているタイムスタンプに基づいて、無線アクセスネットワークの伝搬遅延時間が算出される。
【0072】
<バリエーション2>
図7に示す実施例では、MECサーバ22bは、ユーザ端末5からの要求パケットに対して1個の応答パケットを送信する。ただし、MECサーバ22bは、応答データを複数のセグメントに分割してユーザ端末5に送信してもよい。
【0073】
例えば、
図10に示すケースにおいては、ユーザ端末5は、MECサーバ22bに要求パケットP1を送信する。これに対して、MECサーバ22bは、1300バイトの応答データをユーザ端末5に送信する。このとき、1000バイトのデータが応答パケットP2-1に格納され、残りの300バイトのデータが応答パケットP2-2に格納される。また、MECサーバ22bは、応答パケットP2-1に対するACKパケットを受信した後に応答パケットP2-2を送信するものとする。この場合、応答パケットP2-1のヘッダには下記の情報が設定される。
シーケンス番号SN:1
セグメント長Len:1000
確認応答番号AN:101
また、応答パケットP2-2のヘッダには下記の情報が設定される。
シーケンス番号SN:1001
セグメント長Len:300
確認応答番号AN:101
そして、応答パケットP2-1および応答パケットP2-2は、スイッチ21を介してユーザ端末5に転送される。
【0074】
ユーザ端末5は、各受信パケットに対してそれぞれACKパケットを送信する。すなわち、ユーザ端末5は、応答パケットP2-1に対してACKパケットP3-1を返送し、応答パケットP2-2に対してACKパケットP3-2を返送する。ここで、各ACKパケットのセグメント長はゼロであるものとする。この場合、ACKパケットP3-1のヘッダには下記の情報が設定される。
シーケンス番号SN:101
セグメント長Len:0
確認応答番号AN:1001
また、ACKパケットP3-2のヘッダには下記の情報が設定される。
シーケンス番号SN:101
セグメント長Len:0
確認応答番号AN:1301
そして、ACKパケットP3-1およびACKパケットP3-2は、スイッチ21を介してMECサーバ22bに転送される。
【0075】
各スイッチ21(21a、21b)は、要求パケットP1、応答パケットP2-1、2-2、ACKパケットP3-1、P3-2を転送する際に、複製パケットを生成して情報収集サーバ3に送信する。このとき、各複製パケットには、スイッチ21がパケットを受信した時刻を表すタイムスタンプが付与される。そして、情報収集サーバ3は、各複製パケットに付与されているタイムスタンプを利用して、各区間の遅延時間を計測する。なお、
図10においては、スイッチ21bにより生成される複製パケットを省略している。
【0076】
例えば、応答パケットP2-1の複製である複製パケットP2a-1に設定されているシーケンス番号SNおよびセグメント長Lenの合計値は「1001」である。また、ACKパケットP3-1の複製である複製パケットP3a-1に設定されている確認応答番号ANも「1001」である。すなわち、情報収集サーバ3は、ACKパケットP3-1が応答パケットP2-1に起因して生成されたパケットであると判定する。この場合、情報収集サーバ3は、複製パケットP2a-1に付与されているタイムスタンプt12と複製パケットP3a-1に付与されているタイムスタンプt13との差分に基づいて、無線アクセスネットワークの伝搬遅延時間を算出する。
【0077】
同様に、応答パケットP2-2の複製である複製パケットP2a-2に設定されているシーケンス番号SNおよびセグメント長Lenの合計値は「1301」である。また、ACKパケットP3-2の複製である複製パケットP3a-2に設定されている確認応答番号ANも「1301」である。すなわち、情報収集サーバ3は、ACKパケットP3-2が応答パケットP2-2に起因して生成されたパケットであると判定する。この場合、情報収集サーバ3は、複製パケットP2a-2に付与されているタイムスタンプt14と複製パケットP3a-2に付与されているタイムスタンプt15との差分に基づいて、無線アクセスネットワークの伝搬遅延時間を算出する。
【0078】
このように、MECサーバ22bが複数の応答パケットをユーザ端末5に送信し、ユーザ端末5が各応答パケットに対してそれぞれACKパケットを返送するケースでは、同じ区間に対して複数回の遅延時間計測を行うことができる。よって、例えば、これらの平均を計算することで、精度のよい遅延測定が実現される。
【0079】
<バリエーション3>
図10に示すケースでは、MECサーバ22bが複数の応答パケットをユーザ端末5に送信し、ユーザ端末5が各応答パケットに対してそれぞれACKパケットを返送する。ただし、TCPにおいては、送信側装置は、受信側装置からのACKを待たずに、後続のパケットを連続して送信できる。この場合、受信側装置は、複数の連続するパケットに対して1個のACKパケットを送信する。
【0080】
例えば、
図11に示すケースでは、MECサーバ22bは、応答パケットP2-1および応答パケットP2-2を連続してユーザ端末5に送信する。そして、ユーザ端末5は、応答パケットP2-1および応答パケットP2-2に対して1個のACKパケット(すなわち、ACKパケットP3)をMECサーバ22bに送信する。この場合、ACKパケットP3のヘッダには下記の情報が設定される。
シーケンス番号SN:101
セグメント長Len:0
確認応答番号AN:1301
なお、応答パケットP2-1および応答パケットP2-2のヘッダに設定されるシーケンス番号SN、セグメント長Len、確認応答番号ANは、
図10および
図11において同じである。
【0081】
図11に示すケースでは、応答パケットP2-2の複製である複製パケットP2a-2に設定されているシーケンス番号SNおよびセグメント長Lenの合計値は「1001」である。また、ACKパケットP3の複製である複製パケットP3aに設定されている確認応答番号ANも「1001」である。すなわち、情報収集サーバ3は、ACKパケットP3が応答パケットP2-2に対応するパケットであると判定する。この場合、情報収集サーバ3は、複製パケットP2a-2に付与されているタイムスタンプt23と複製パケットP3aに付与されているタイムスタンプt24との差分に基づいて、無線アクセスネットワークの伝搬遅延時間を算出する。
【0082】
尚、このケースでは、応答パケットP2-1に対してACKパケットは生成されない。このため、応答パケットP2-1の複製である複製パケットP2a-1に設定されているシーケンス番号SNおよびセグメント長Lenの合計値と同じ値の確認応答番号ANを有する複製パケットは検出されない。この場合、情報収集サーバ3は、遅延時間の計測をスキップする。
【0083】
<フローチャート>
図12は、情報収集サーバ3の処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、指定された計測区間に対して実行される。この実施例では、ユーザ端末とMEC基盤との間の伝搬遅延時間が計測される。すなわち、例えば、
図1~
図2に示すネットワークシステム100において、区間D4の伝搬遅延時間が計測される。
【0084】
S1において、情報収集サーバ3は、エッジスイッチから、下りリンクパケットの複製パケットを取得する。エッジスイッチは、MEC基盤内に設けられている複数のスイッチの中で基地局の最も近くに設けられているスイッチを表し、
図1~
図2に示すMEC基盤2においては、基地局1に接続するスイッチ21aに相当する。下りリンクパケットは、MEC基盤内に設けられているアプリケーションサーバからユーザ端末に送信されるパケットを表し、
図1~
図2に示す実施例では、MECサーバ22bからユーザ端末5に送信されるパケットに相当する。複製パケットには、エッジスイッチによりタイムスタンプが付与されている。このタイムスタンプは、エッジサーバが上述の下りリンクパケットを受信した時刻を表す。なお、以下の記載において、S1で受信する複製パケットを「下りリンク複製パケット」と呼ぶことがある。
【0085】
S2において、情報収集サーバ3は、下りリンク複製パケットのヘッダに設定されているシーケンス番号SNおよびセグメント長Lenを取得する。このとき、情報収集サーバ3は、下りリンク複製パケットに付与されているタイムスタンプを取得してもよい。この場合、
図8に示すように、タイムスタンプテーブル32において、シーケンス番号SNおよびセグメント長Lenの合計値が指定するアドレスに、下りリンク複製パケットから取得したタイムスタンプが書き込まれる。
【0086】
S3において、情報収集サーバ3は、エッジスイッチから、上りリンクパケットの複製パケットを取得する。上りリンクパケットは、ユーザ端末からアプリケーションサーバに送信されるパケットを表し、
図1~
図2に示す実施例では、ユーザ端末5からMECサーバ22bに送信されるパケットに相当する。この複製パケットにも、エッジスイッチによりタイムスタンプが付与されている。ただし、この複製パケットに付与されているタイムスタンプは、エッジサーバが上述の上りリンクパケットを受信した時刻を表す。なお、以下の記載において、S3で受信する複製パケットを「上りリンク複製パケット」と呼ぶことがある。
【0087】
S4において、情報収集サーバ3は、下りリンク複製パケットの送信元アドレスおよび宛先アドレスのペアと、上りリンク複製パケットの送信元アドレスおよび宛先アドレスのペアとが互いに対応しているか否かを判定する。ここで、これらのアドレスのペアが互いに対応していないときは、情報収集サーバ3の処理はS3に戻る。他方、下りリンク複製パケットの送信元アドレスおよび宛先アドレスのペアと、上りリンク複製パケットの送信元アドレスおよび宛先アドレスのペアとが互いに対応しているときは、情報収集サーバ3は、S5において、上りリンク複製パケットの確認応答番号ANを取得する。
【0088】
S6において、情報収集サーバ3は、下りリンク複製パケットのシーケンス番号SNおよびセグメント長Lenの合計値と、上りリンク複製パケットの確認応答番号ANとを比較する。ここで、確認応答番号ANが上記合計値と一致しないときは、情報収集サーバ3の処理はS3に戻る。
【0089】
上りリンク複製パケットの確認応答番号ANが、下りリンク複製パケットのシーケンス番号SNおよびセグメント長Lenの合計値と一致するときは、情報収集サーバ3は、上りリンク複製パケットの複製元パケットが、下りリンク複製パケットの複製元パケットに起因してユーザ端末において生成されたと判定する。この場合、情報収集サーバ3は、S7において、上りリンク複製パケットに付与されているタイムスタンプと下りリンク複製パケットに付与されているタイムスタンプとの差分に基づいて、指定された計測区間におけるパケットの伝搬遅延時間を算出する。これにより、ユーザ端末とMEC基盤との間の無線アクセスネットワークの伝搬遅延時間が計測される。
【0090】
なお、S1において下りリンク複製パケットを受信した時刻から所定時間内に伝搬遅延時間を算出できないときは、
図12に示すフローチャートは終了する。また、
図12に示す手順は、MEC基盤内でアプリケーションサーバの処理時間を計測するケースにも適用可能である。ただし、この場合は、アプリケーションサーバの最も近くに設けられているスイッチから複製パケットを取得する。この結果、
図2に示す区間D2の伝搬遅延時間が計測される。
【符号の説明】
【0091】
1 基地局
2 MEC基盤
3 情報収集サーバ
4 SMO
5 ユーザ端末
21(21a、21b) スイッチ
22(22a、22b) MECサーバ
31 パケット解析制御部
33 遅延時間算出部