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特開2024-141101対象音加工装置、対象音加工方法および対象音加工プログラム
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  • 特開-対象音加工装置、対象音加工方法および対象音加工プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141101
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】対象音加工装置、対象音加工方法および対象音加工プログラム
(51)【国際特許分類】
   G10K 15/00 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
G10K15/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052567
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】稲留 康一
(72)【発明者】
【氏名】阪本 一生
(57)【要約】      (修正有)
【課題】試聴音を生成した後に発生した因子による試聴環境の変更に対応する対象音加工装置、方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】対象音加工装置は、所定場所で収音された対象音から、対象音を収音した収音部の第1特性に基づく第1加工用補正値を用いて加工済対象音を生成し、所定環境下で試聴した場合に実際に聞こえる絶対音を再現する試聴音を加工済対象音を用いて生成して所定ストレージに格納し、試聴音を出力するための出力部の第2特性に基づく第2加工用補正値を用いて格納された試聴音から加工済試聴音を生成して所定ストレージに格納する生成格納部と、所定場所に対して対象音の聞こえ方に影響を与える因子が後発的に発生した場合に対象音の聞こえ方に与える影響をシミュレートするシミュレーション部と、シミュレート結果に基づいて加工済試聴音を修正して修正済試聴音を生成する修正部と、修正済試聴音を出力する出力制御部と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定場所において収音された対象音について、前記対象音を収音した収音部の第1特性から得られる第1加工用補正値を用いて、前記対象音を加工して加工済対象音を生成し、所定環境下で試聴した場合に、実際に聞こえる絶対音を再現する試聴音を、前記加工済対象音を用いて生成し、生成した前記試聴音を所定ストレージに格納し、前記試聴音を出力するための出力部の第2特性から得られる第2加工用補正値を用いて、格納された前記試聴音を加工して加工済試聴音を生成して、前記所定ストレージに格納する生成格納部と、
前記生成格納部により、前記加工済試聴音が生成されて以後、前記所定場所に対して、前記対象音の聞こえ方に影響を与える因子が後発的に発生した場合、前記因子が前記対象音の聞こえ方に与える影響をシミュレートするシミュレーション部と、
前記シミュレーション部によるシミュレート結果に基づいて、前記所定ストレージに格納された前記加工済試聴音を修正して修正済試聴音を生成する修正部と、
前記修正済試聴音を出力する出力制御部と、
を備えた対象音加工装置。
【請求項2】
前記シミュレーション部は、前記因子による、前記対象音の音源から試聴点までの間における周波数帯域ごとの減音量をパラメータとしてシミュレートする請求項1に記載の対象音加工装置。
【請求項3】
所定場所において収音された対象音について、前記対象音を収音した収音部の第1特性から得られる第1加工用補正値を用いて、前記対象音を加工して加工済対象音を生成し、所定環境下で試聴した場合に、実際に聞こえる絶対音を再現する試聴音を、前記加工済対象音を用いて生成し、生成した前記試聴音を所定ストレージに格納し、前記試聴音を出力するための出力部の第2特性から得られる第2加工用補正値を用いて、格納された前記試聴音を加工して加工済試聴音を生成して、前記所定ストレージに格納する生成格納ステップと、
前記生成格納ステップにおいて、前記加工済試聴音が生成されて以後、前記所定場所に対して、前記対象音の聞こえ方に影響を与える因子が後発的に発生した場合、前記因子が前記対象音の聞こえ方に与える影響をシミュレートするシミュレーションステップと、
前記シミュレーションステップにおけるシミュレート結果に基づいて、前記所定ストレージに格納された前記加工済試聴音を修正して修正済試聴音を生成する修正ステップと、
前記修正済試聴音を出力する出力制御ステップと、
を含む対象音加工方法。
【請求項4】
所定場所において収音された対象音について、前記対象音を収音した収音部の第1特性から得られる第1加工用補正値を用いて、前記対象音を加工して加工済対象音を生成し、所定環境下で試聴した場合に、実際に聞こえる絶対音を再現する試聴音を、前記加工済対象音を用いて生成し、生成した前記試聴音を所定ストレージに格納し、前記試聴音を出力するための出力部の第2特性から得られる第2加工用補正値を用いて、格納された前記試聴音を加工して加工済試聴音を生成して、前記所定ストレージに格納する生成格納ステップと、
前記生成格納ステップにおいて、前記加工済試聴音が生成されて以後、前記所定場所に対して、前記対象音の聞こえ方に影響を与える因子が後発的に発生した場合、前記因子が前記対象音の聞こえ方に与える影響をシミュレートするシミュレーションステップと、
前記シミュレーションステップにおけるシミュレート結果に基づいて、前記所定ストレージに格納された前記加工済試聴音を修正して修正済試聴音を生成する修正ステップと、
前記修正済試聴音を出力する出力制御ステップと、
をコンピュータに実行させる対象音加工プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象音加工装置、対象音加工方法および対象音加工プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
音の響き方や遮音の程度などは通常、数値で示されることが多く、このような数値に馴染みの薄い一般の人は、具体的な音の聞こえ方をイメージすることは難しい。そのため、例えば、建物の設計仕様から音の響き方や遮音性能などを計算して、騒音などを収音した対象音に予測計算結果を加味した視聴音を生成することが行われている。例えば、特許文献1には、環境騒音(対象音)に対して、受音室内への伝搬経路ごと、例えば、戸境壁直接透過経路、開口部からの迂回伝搬経路、側壁個体伝搬経路などの経路ごとの減衰量を予測し、予測計算した減衰量から求まるインパルス応答波形を環境騒音の音源波形に畳み込み演算して評価音(視聴音)を生成することが開示されている(請求項1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-156388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、試聴音を生成した後に発生した因子による試聴環境に変更が生じた場合に対応することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る対象音加工装置は、
所定場所において収音された対象音について、前記対象音を収音した収音部の第1特性から得られる第1加工用補正値を用いて、前記対象音を加工して加工済対象音を生成し、所定環境下で試聴した場合に、実際に聞こえる絶対音を再現する試聴音を、前記加工済対象音を用いて生成し、生成した前記試聴音を所定ストレージに格納し、前記試聴音を出力するための出力部の第2特性から得られる第2加工用補正値を用いて、格納された前記試聴音を加工して加工済試聴音を生成して、前記所定ストレージに格納する生成格納部と、
前記生成格納部により、前記加工済試聴音が生成されて以後、前記所定場所に対して、前記対象音の聞こえ方に影響を与える因子が後発的に発生した場合、前記因子が前記対象音の聞こえ方に与える影響をシミュレートするシミュレーション部と、
前記シミュレーション部によるシミュレート結果に基づいて、前記所定ストレージに格納された前記加工済試聴音を修正して修正済試聴音を生成する修正部と、
前記修正済試聴音を出力する出力制御部と、
を備えた。
【0006】
また、上記目的を達成するため、本発明に係る対象音加工方法は、
所定場所において収音された対象音について、前記対象音を収音した収音部の第1特性から得られる第1加工用補正値を用いて、前記対象音を加工して加工済対象音を生成し、所定環境下で試聴した場合に、実際に聞こえる絶対音を再現する試聴音を、前記加工済対象音を用いて生成し、生成した前記試聴音を所定ストレージに格納し、前記試聴音を出力するための出力部の第2特性から得られる第2加工用補正値を用いて、格納された前記試聴音を加工して加工済試聴音を生成して、前記所定ストレージに格納する生成格納ステップと、
前記生成格納ステップにおいて、前記加工済試聴音が生成されて以後、前記所定場所に対して、前記対象音の聞こえ方に影響を与える因子が後発的に発生した場合、前記因子が前記対象音の聞こえ方に与える影響をシミュレートするシミュレーションステップと、
前記シミュレーションステップにおけるシミュレート結果に基づいて、前記所定ストレージに格納された前記加工済試聴音を修正して修正済試聴音を生成する修正ステップと、
前記修正済試聴音を出力する出力制御ステップと、
を含む。
【0007】
さらに、上記目的を達成するため、本発明に係る対象音加工プログラムは、
所定場所において収音された対象音について、前記対象音を収音した収音部の第1特性から得られる第1加工用補正値を用いて、前記対象音を加工して加工済対象音を生成し、所定環境下で試聴した場合に、実際に聞こえる絶対音を再現する試聴音を、前記加工済対象音を用いて生成し、生成した前記試聴音を所定ストレージに格納し、前記試聴音を出力するための出力部の第2特性から得られる第2加工用補正値を用いて、格納された前記試聴音を加工して加工済試聴音を生成して、前記所定ストレージに格納する生成格納ステップと、
前記生成格納ステップにおいて、前記加工済試聴音が生成されて以後、前記所定場所に対して、前記対象音の聞こえ方に影響を与える因子が後発的に発生した場合、前記因子が前記対象音の聞こえ方に与える影響をシミュレートするシミュレーションステップと、
前記シミュレーションステップにおけるシミュレート結果に基づいて、前記所定ストレージに格納された前記加工済試聴音を修正して修正済試聴音を生成する修正ステップと、
前記修正済試聴音を出力する出力制御ステップと、
をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、試聴音を生成した後に発生した因子による試聴環境に変更が生じた場合に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の好ましい実施形態に係る対象音加工装置の動作の概要を説明するための図である。
図2】本発明の好ましい実施形態に係る対象音加工装置の構成を説明するためのブロック図である。
図3A】本発明の好ましい実施形態に係る対象音加工装置が有するマイク補正値テーブルの一例を説明するための図である。
図3B】本発明の好ましい実施形態に係る対象音加工装置が有するスピーカ補正値テーブルの一例を説明するための図である。
図3C】本発明の好ましい実施形態に係る対象音加工装置が有する減音量テーブルの一例を説明するための図である。
図4】本発明の好ましい実施形態に係る対象音加工装置のハードウェア構成を説明するための図である。
図5】本発明の好ましい実施形態に係る対象音加工装置の処理手順を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して、例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている、構成、数値、処理の流れ、機能要素などは一例に過ぎず、その変形や変更は自由であって、本発明の技術範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。
【0011】
本発明の好ましい実施形態としての対象音加工装置110について、図1図5を参照して説明する。まず、図1を参照して、本実施形態に係る対象音加工装置110を含む対象音加工システム100について説明する。対象音加工システム100は、例えば、所定場所において収音した対象音を、建築仕様などにより決まる建物の構造や設備などを介して、どのように聞こえるかを評価するための音を生成するために用いられる。
【0012】
対象音加工システム100は、対象音加工装置110および携帯端末120を含んで構成されている。また、携帯端末120には、収音部130(マイク)と出力部140(スピーカ)とが、携帯端末120の外部からケーブルを用いて有線接続されている。なお、収音部130と出力部140とは、無線通信規格を用いて携帯端末120と無線接続されていてもよく、さらに、収音部130と出力部140とは、携帯端末120に内蔵されているものを用いてもよい。
【0013】
例えば、携帯端末120を所有する作業者やユーザが、携帯端末120に接続された収音部130(マイク)を用いて、所定場所において、対象音を収音する。ここで、対象音は、例えば、室内の音、屋外の音などが含まれるが、これらには限定されない。また、所定場所は、例えば、戸建て住宅や集合住宅などの建築予定地、商業施設やオフィスビル、道路、鉄道施設、空港、発電所、工場などの建設予定地、既存建物などであり、当該所定場所の関係者や購入希望者などが、当該所定場所の音に関する環境を知りたい場所である。
【0014】
まず、所定場所における対象音131の収音作業者が、収音部130を用いて所定場所の対象音を収音し、収音した対象音131を携帯端末120へ保存する。そして、収音作業者(または携帯端末120の所有者など)が、携帯端末120に保存された対象音データを対象音加工装置110へ送信する。なお、携帯端末120と対象音加工装置110とは、無線接続により接続されている。また、対象音加工装置110は、クラウド上に設置されたクラウドサーバなどであってもよい。
【0015】
そして、対象音加工装置110は、受信した対象音データに基づいて、所定場所で収音された対象音131を加工して、評価音(加工済試聴音141)を生成する。なお、携帯端末120は、対象音データを対象音加工装置110へ送信する際に、携帯端末120に接続されている収音部130(マイク)および出力部140(スピーカ)の特性に関するデータも合わせて送信することが好ましいが、対象音加工装置110からの要求に応じる形で送信してもよい。
【0016】
これは、収音部130の収音特性により、収音された対象音131の一部の周波数成分がカットされたり、出力部140の出力特性により、出力される試聴音が実際に聞こえる音と異なる周波数成分を持つ音が出力されたりするためである。そのため、対象音加工システム100においては、マイクやスピーカの特性をも加味した上で、対象音131を加工して試聴音(加工済試聴音141)を生成するようになっている。
【0017】
例えば、携帯端末120に内蔵された内蔵型のマイクやスピーカは、携帯端末120の価格を抑える目的や、携帯端末120の筐体内のスペースの問題などから、外付け型のマックやスピーカと比べて、小型化されており、特定の性能が制限されていたり、特定の機能が削られていたりする場合がある。また、外付け型のマイクやスピーカであっても、使用目的や価格によっては、特定の機能に限定されていたり、特定の性能が制限されていたり、これとは反対に特定の機能が強化されていたりする場合がある。そのため、マイクやスピーカには、様々な機能や性能を持ったものが存在している。
【0018】
このように、マイクやスピーカなどについて、対象音の収音専用のマイクや、試聴音の出力専用のスピーカを使用していれば、マイクやスピーカごとのばらつきを調整する必要はない。しかしながら、専用のマイクやスピーカを使用しなければならないとすれば、対象音の収音の際には、専用マイクをその都度、所定場所まで運搬しなければならず、また、試聴音を聴取する場合には、専用スピーカの設置場所まで出向かなければならず、臨機応変、機動的に対応することが困難となる。
【0019】
そのため、対象音加工システム100においては、各機器の特性等に依存する誤差を解消するために、収音した対象音を加工する各段階において、機器による誤差を解消した絶対音(加工済対象音、試聴音、加工済試聴音)を生成し、これらの絶対音を加工することにより、現実の音と変わらない音を再現して、聴取者が体験できるようにしている。
【0020】
よって、対象音加工システム100においては、収音した対象音の対象音データとともに、収音部130(マイク)の特性と、出力部140(スピーカ)の特性とを対象音加工装置110に送信する。あるいは、収音部130および出力部140の特性を対象音とは別個に対象音加工装置110に送信してもよく、例えば、対象音の送信前に送信しても、対象音の送信後に送信してもよい。対象音加工装置110は、受信した対象音データについて、収音した収音部130の特性に応じた補正値を用いて加工して、加工済対象音を生成する。次に、対象音加工装置110は、生成した加工済対象音から、所定場所において、所定環境下で対象音を聴取した場合に、実際に聞こえる音を再現する試聴音を生成する。
【0021】
ここで、所定環境には、例えば、対象音を収音した所定場所における建設予定の集合住宅や戸建住宅などの建物などであり、これらの建物の室内やベランダ等の室外などが含まれる。さらに、所定環境には、当該建物の壁の位置や面積、遮音性能(音響透過損失)、建物に取り付けられる窓の位置、面積、遮音性能(音響透過損失)、給気口の面積、数、遮音性能(基準化音響透過損失)、室内の表面積、吸音性能(吸音力)など、当該建物の住環境等を実現する様々な要因が含まれてもよい。
【0022】
そして、対象音加工装置110は、例えば、仮想空間上に所定環境(建物など)を再現し、収音した対象音のデータを用いて、当該所定環境下における、音響効果を予測して、試聴音を生成する。対象音加工装置110は、生成した試聴音を、出力部140の特性に応じた補正値を用いて加工して、加工済試聴音を生成する。このように、出力部140の特性に基づいた補正値を用いて試聴音を加工することで、専用スピーカを用いなくても、出力部140において、実際に聞こえる音を確実に再現することが可能となる。なお、加工済試聴音の試聴結果に基づいて、試聴音を再度生成するようにしてもよい。このように、試聴音を再度生成するようにすることにより、様々な環境下における試聴音を再現できるので、例えば、窓の面積や遮音性能のグレードを変更することにより、様々な環境下における試聴音を試聴することが可能となる。
【0023】
以上のようにして、様々な環境下における試聴音が生成されるが、これらの試聴音が生成された後、対象音を収音した所定環境に変化が生じた場合、再度、その所定環境に赴いて、対象音を再収音するのは手間がかかる。そこで、本実施形態の対象音加工装置110においては、一度試聴音を生成した後に、環境の変化が生じた場合には、環境変化を引き起こした因子による、既に生成されている試聴音に対する影響をシミュレートして、シミュレーション結果が反映されるように、試聴音を修正する。
【0024】
このようにして、対象音加工装置110においては、生成した試聴音を無駄にすることなく、さらに、対象音を再度収音することなく、環境変化による試聴音の変化を反映させた試聴音を生成することができる。環境変化は、例えば、ある建物150の横に防音壁151が建てられた場合や、音源となる工場などが建設された場合、新たな道路が建設された場合などである。
【0025】
このような場合、既に収音した対象音を基に生成された試聴音には、後発の防音壁151による影響が反映されていないこととなる。そのため、後発的に発生した因子に対して、試聴音に与える影響をシミュレートして、シミュレーション結果を反映させて、事後的に発生した因子の影響を反映させた試聴音を生成する。そして、後発事象を反映させた試聴音を、例えば、所定ストレージに保存しておくことで、これらの試聴音をいつでも利用できるようにしている。
【0026】
次に図2を参照して、対象音加工装置110の構成について説明する。対象音加工装置110は、生成格納部201、シミュレーション部202、修正部203および出力制御部204を有する。
【0027】
生成格納部201は、所定場所において収音された対象音について、対象音を収音した収音部の第1特性から得られる第1加工用補正値を用いて、対象音を加工して加工済対象音を生成し、所定環境下で試聴した場合に、実際に聞こえる絶対音を再現する試聴音を、加工済対象音を用いて生成し、生成した試聴音を所定ストレージに格納し、試聴音を出力するための出力部の第2特性から得られる第2加工用補正値を用いて、格納された試聴音を加工して加工済試聴音を生成して、所定ストレージに格納する。
【0028】
対象音については、所定場所において収音部130により収音される。対象音加工装置110は、収音された対象音を取得する。ここで、収音された対象音に関するデータは、例えば、アナログデータとなっており、対象音加工装置110は、取得した対象音のアナログデータをデジタル変換して、対象音データ(デジタルデータ)として保存する。なお、収音部130が、ADコンバータを有していれば、収音部130において、デジタル変換してもよい。
【0029】
次に、対象音加工装置110は、対象音が収音された収音条件を取得する。収音条件は、対象音を収音した際の諸々の条件であり、例えば、収音部130(マイク)の周波数特性などの機械特性や、収音部130に組み込まれているソフトウェアの特徴、所定場所の気温、温度、風向、風量などの環境特性を含むが、これらには限定されない。
【0030】
対象音加工装置110は、取得した収音条件に基づいて、対象音を加工するための第1加工用補正値を取得する。第1加工用補正値は、収音部130の特性基づいて、対象音を加工するための補正値である。対象音加工装置110は、例えば、内部ストレージや外部ストレージなどから第1加工用補正値を取得する。
【0031】
そして、対象音加工装置110は、取得した第1加工用補正値を用いて、対象音(対象音データ)を加工して加工済対象音を生成する。対象音加工装置110は、例えば、特定の周波数成分をキャンセルなどして、対象音データを加工して、加工済対象音を生成する。
【0032】
次に、対象音加工装置110は、対象音を収音した所定場所において、所定環境下で、対象音を聴取した場合に、実際に聞こえる音を再現する試聴音を、生成された加工済対象音を加工して生成する。ここで、所定環境は、例えば、対象音を収音した所定場所における建設予定の集合住宅や戸建住宅などの建物などであり、これらの建物の室内やベランダ等の室外を含む。さらに、所定環境には、当該建物の壁の位置や面積、遮音性能(音響透過損失)、建物に取り付けられる窓の位置、面積、遮音性能(音響透過損失)、給気口の面積、数、遮音性能(基準化音響透過損失)、室内の表面積、吸音性能(吸音力)、周辺建物からの音の反射など、当該建物の住環境等を実現する様々な要因が含まれてもよい。
【0033】
また、生成される試聴音は、例えば、(1)外部騒音に起因する室内騒音、(2)空間遮音性能(隣室から伝搬する騒音)、(3)建物内外から敷地境界へ伝搬する騒音、(4)空調設備に起因する室内静ひつ性能、(5)床衝撃音遮断性能(床衝撃音)、(6)室内残響時間(音の響き)である。
【0034】
具体的には、(1)は、外部に鉄道などの騒音源がある場合に、その音が室内においてどのように聞こえるかについての音である。(2)は、ある部屋にTVや会議の音などの騒音源がある場合に、その音が隣室においてどのように聞こえるかについての音である。(3)は、建物敷地(建物内や建物外)にある設備機械や作業音などの騒音源が敷地境界や近隣に対してどのように聞こえるかの伝搬する音である。(4)は、エアコンや全熱交換器などの室内の空調設備の騒音源である場合に、室内の静粛性がどのように変化するか、あるいは、室内において空調設備の音がどのように聞こえるかについての音である。(5)は、上階の部屋からの飛び跳ねや走り回り音などが下階の室でどのように聞こえるかについての音である。(6)は、室内で会議や講演などをする場面で話し声や音響機器からの音が、当該室内においてどのように響いて聞こえるかについての音である。
【0035】
対象音加工装置110は、生成された試聴音を出力するための出力部140(スピーカ)の出力条件に基づいて、試聴音を加工するための第2加工用補正値を取得し、取得した第2加工用補正値を用いて、試聴音を加工して加工済試聴音を生成する。
【0036】
出力部140から出力した場合の、試聴音の再現性は、出力部140の特性に依存するため、同じ試聴音のデータを再生したとしても、特性の異なる複数の出力部140から出力させた場合には、聴取者にとっては、聞こえ方に差が生じることがある。このような事態が発生すると、実際に建物などを建築した後に、追加の工事が必要となる場合もある。そのため、事前に実際に聞こえる音を再現するために、出力部140の出力特性に応じて、生成した試聴音を加工する。試聴音の加工には、加工用の補正値(第2加工用補正値)が用いられる。
【0037】
第2加工用補正値は、出力部140(スピーカ)のそれぞれについて、基準となる実験用の音を出力させて、それぞれの出力部140の周波数特性などの出力特性を確認した上で、決定される。そして、対象音加工装置110は、上述のようにして決定された第2加工用補正値を用いて、試聴音を加工して、生成された試聴音を出力部140の特性に応じて加工された加工済試聴音を生成する。
【0038】
生成された加工済試聴音は、所定ストレージに格納される。加工済試聴音を所定ストレージに格納することにより、生成した加工済試聴音を利用することが可能となる。対象音加工装置110は、生成された加工済試聴音を出力部140へ送信する。なお、対象音加工装置110は、生成された加工済試聴音を他の携帯端末や出力装置へ送信してもよい。
【0039】
シミュレーション部202は、生成格納部201により、加工済試聴音が生成されて以後、所定環境に対して、対象音の聞こえ方に影響を与える因子が後発的に発生した場合、その因子が前記対象音の聞こえ方に与える影響をシミュレートする。
【0040】
シミュレーションは、当該因子による、音源から試聴点(対象音を聴取する位置)までの間における周波数帯域ごとの減音量をパラメータとして行われる。例えば、防音壁151などの後発的な因子が発生した場合に、その防音壁151により、音源から評価点までの間で、対象音がどの程度減音するかをシミュレーションする。なお、後発的に発生する因子としては、防音壁151の他に、例えば、植栽、窓(二重窓)、扉などがあるが、これらには限定されない。
【0041】
修正部203は、シミュレーション部202によるシミュレート結果に基づいて、所定ストレージに格納された加工済試聴音を修正して修正済試聴音を生成する。すなわち、修正部203は、シミュレーション部202によりシミュレーションした減音量をパラメータとして、所定ストレージに格納された加工済試聴音を修正する。
【0042】
出力制御部204は、修正済試聴音を出力する。つまり、出力制御部204は、シミュレーションにより所定音量を減音された修正済試聴音を出力部140から出力するように制御する。
【0043】
次に図3A図3Cを参照して対象音加工装置110が有するマイク補正値テーブル301、スピーカ補正値テーブル302および減音量テーブル303の一例について説明する。マイク補正値テーブル301は、マイクID(Identifier)311に関連付けて特性312および補正値313を記憶する。マイクID311は、マイクの特性を示し、周波数特性および収音可能レベルを含む。補正値313は、周波数補正値およびレベル補正値を含む。そして、対象音加工装置110は、マイク補正値テーブル301を参照して、マイク(収音部130)の特性に応じた補正値を抽出し、受信した対象音を加工する。
【0044】
スピーカ補正値テーブル302は、スピーカID321に関連付けて特性322および補正値323を記憶する。スピーカID321は、対象音加工装置110から送信された加工済試聴音を出力可能なスピーカを識別するための識別子である。特性321は、スピーカの特性を示し、周波数特性および出力可能レベルを含む。補正値323は、周波数補正値およびレベル補正値を含む。そして、対象音加工装置110は、スピーカ補正値テーブル302を参照して、スピーカ(出力部140)の特性に応じた補正値を抽出し、生成した試聴音を加工する。
【0045】
減音量テーブル303は、因子331に関連付けて環境条件332および減音量333を記憶する。因子331は、対象音の聞こえ方に影響を及ぼすものである。環境条件332は、対象音の聞こえ方、例えば、減音量に影響を与える要素であり、気温や湿度、風速/風向などである。減音量333は、周波数帯ごとの減音の量である。そして、シミュレーション部202は、減音量テーブル303を用いて、減音量をシミュレートする。
【0046】
図4を参照して、対象音加工装置110のハードウェア構成について説明する。CPU(Central Processing Unit)410は、演算制御用のプロセッサであり、プログラムを実行することで図2の対象音加工装置110の各機能構成を実現する。CPU410は複数のプロセッサを有し、異なるプログラムやモジュール、タスク、スレッドなどを並行して実行してもよい。ROM(Read Only Memory)420は、初期データおよびプログラムなどの固定データおよびその他のプログラムを記憶する。また、ネットワークインタフェース430は、ネットワークを介して他の装置などと通信する。なお、CPU410は1つに限定されず、複数のCPUであっても、あるいは画像処理用のGPU(Graphics Processing Unit)を含んでもよい。また、ネットワークインタフェース430は、CPU410とは独立したCPUを有して、RAM(Random Access Memory)440の領域に送受信データを書き込みあるいは読み出しするのが望ましい。また、RAM440とストレージ450との間でデータを転送するDMAC(Direct Memory Access Controller)を設けるのが望ましい(図示なし)。さらに、CPU410は、RAM440にデータが受信あるいは転送されたことを認識してデータを処理する。また、CPU410は、処理結果をRAM440に準備し、後の送信あるいは転送はネットワークインタフェース430やDMACに任せる。
【0047】
RAM440は、CPU410が一時記憶のワークエリアとして使用するランダムアクセスメモリである。RAM440には、本実施形態の実現に必要なデータを記憶する記憶領域が確保されている。対象音データ441は、所定場所において収音部130を用いて収音された対象音のデータであり、デジタル変換されたデータである。
【0048】
マイク補正値442は、対象音を収音する際に使用した収音部130(マイク)に依存するマイク感度(実際の音と収音された音との差)を校正するために用いられる。スピーカ補正値443は、生成した加工済試聴音を再生する出力部140(スピーカ)に依存するスピーカ固有の音響特性(生成された試聴音と再生される試聴音との差)をキャンセルするために用いられる。
【0049】
加工済対象音データ444は、収音された対象音を第1加工用補正値により加工した対象音のデータである。試聴音データ445は、加工済対象音を加工して得られる、所定場所において、所定環境下で、対象音を試聴した場合に実際に聞こえる音を再現する試聴音のデータである。加工済試聴音データ446は、生成された試聴音を出力するための出力部140の出力条件に基づいて、第2加工用補正値を用いて加工された試聴音である。減音量データ447は、後発的に発生した因子による音源の減音量を示すデータである。
【0050】
送受信データ448は、ネットワークインタフェース430を介して送受信されるデータである。また、RAM440は、各種アプリケーションモジュールを実行するためのアプリケーション実行領域449を有する。
【0051】
ストレージ450には、データベースや各種パラメータ、あるいは本実施形態の実現に必要な以下のデータまたはプログラムが記憶されている。ストレージ450は、マイク補正値テーブル301、スピーカ補正値テーブル302および減音量テーブル303を格納する。マイク補正値テーブル301は、図3Aに示した、マイクID311と補正値313などとの関係を管理するテーブルであり、スピーカ補正値テーブル302は、図3Bに示した、スピーカID321と補正値323などとの関係を管理するテーブルである。また、減音量テーブル303は、図3Cに示した、因子331と減音量333などとの関係を管理するテーブルである。
【0052】
ストレージ450は、さらに、生成格納モジュール451、シミュレーションモジュール452、変換モジュール453および出力制御モジュール454を格納する。生成格納モジュール451は、収音した対象音から加工済試聴音を生成して、所定ストレージに格納するモジュールである。シミュレーションモジュール452は、所定環境に対して、対象音の聞こえ方に影響を与える因子が後発的に発生した場合、当該因子が対象音の聞こえ方に与える影響をシミュレートするモジュールである。変換モジュール453は、シミュレート結果に基づいて、所定ストレージに格納された加工済試聴音を修正して修正済試聴音を生成するモジュールである。出力制御モジュール454は、修正済試聴音を出力するモジュールである。これらのモジュール451~454は、CPU410によりRAM440のアプリケーション実行領域449に読み出され、実行される。制御プログラム455は、対象音加工装置110の全体を制御するためのプログラムである。
【0053】
入出力インタフェース460は、入出力機器との入出力データをインタフェースする。入出力インタフェース460には、表示部461、操作部462、が接続される。また、入出力インタフェース460には、さらに、記憶媒体464が接続されてもよい。さらに、音声出力部であるスピーカ463や、音声入力部であるマイク(図示せず)、あるいは、GPS位置判定部が接続されてもよい。なお、図4に示したRAM440やストレージ450には、対象音加工装置110が有する汎用の機能や他の実現可能な機能に関するプログラムやデータは図示されていない。
【0054】
次に図5に示したフローチャートを参照して、対象音加工装置110の処理手順について説明する。このフローチャートは、図4のCPU410がRAM440を使用して実行し、図2の対象音加工装置110の各機能構成を実現する。
【0055】
ステップS501において、対象音加工装置110は、所定場所において収音された対象音を携帯端末120等から取得する。ステップS503において、対象音加工装置110は、取得した対象音の収音条件を取得する。ステップS505において、対象音加工装置110は、取得した収音条件に基づいて、対象音を加工するための第1加工用補正値を取得する。ステップS507において、対象音加工装置110は、取得した第1加工用補正値を用いて、対象音を加工して加工済対象音を生成する。
【0056】
ステップS509において、対象音加工装置110は、所定場所において、所定環境下で対象音を聴取した場合に実際に聞こえる音である試聴音を、生成された加工済対象音を加工して生成する。ステップS511において、対象音加工装置110は、生成した試聴音を出力する出力部140の出力条件に基づいて、試聴音を加工するための第2加工用補正値を取得する。ステップS513において、対象音加工装置110は、取得した第2加工用補正値を用いて、生成した試聴音を加工して加工済試聴音を生成する。対象音加工装置110は、生成した加工済試聴音を所定ストレージに格納する。
【0057】
ステップS515において、シミュレーション部202は、後発的に発生した因子が対象音に与える影響をシミュレートする。ステップS517において、修正部203は、シミュレート結果に基づいて、所定ストレージに格納され加工済試聴音を修正して、修正済試聴音を生成する。ステップS519において、対象音加工装置110は、修正済試聴音を出力する。
【0058】
本実施形態によれば、試聴音を生成した後に発生した因子による試聴環境に変更が生じた場合に対応することができる。また、対象音を収音して、加工済試聴音を生成した後に発生した、対象音の聞こえ方に影響を与える因子による影響をシミュレートして加工済試聴音を修正するので、より正確に後発的因子による影響を加味した試聴音を生成することができる。
【0059】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は、上述した実施形態に制限されず適宜変更可能である。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。また、それぞれの実施形態に含まれる別々の特徴を如何様に組み合わせたシステムまたは装置も、本発明の範疇に含まれる。
【0060】
また、本発明は、複数の機器から構成されるシステムに適用されてもよいし、単体の装置に適用されてもよい。さらに、本発明は、実施形態の機能を実現する情報処理プログラムが、システムあるいは装置に供給され、内蔵されたプロセッサによって実行される場合にも適用可能である。したがって、本発明の機能をコンピュータで実現するために、コンピュータにインストールされるプログラム、あるいはそのプログラムを格納した媒体、そのプログラムをダウンロードさせるWWW(World Wide Web)サーバも、プログラムを実行するプロセッサも本発明の技術的範囲に含まれる。特に、少なくとも、上述した実施形態に含まれる処理ステップをコンピュータに実行させるプログラムを格納した非一時的コンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)は本発明の技術的範囲に含まれる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5