IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日揮触媒化成株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141110
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】粒子、及び該粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09C 3/08 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C09C3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052579
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 光章
(72)【発明者】
【氏名】町田 成
(72)【発明者】
【氏名】俵迫 祐二
(72)【発明者】
【氏名】村口 良
【テーマコード(参考)】
4J037
【Fターム(参考)】
4J037AA08
4J037CA14
4J037CA19
4J037CA21
4J037CB23
4J037DD05
4J037DD07
4J037FF02
(57)【要約】
【課題】被膜に使用した時に着色がなく、高い抗菌性能や抗ウイルス性能を有する粒子、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】この粒子は、金属元素の酸化物と、プロトン供与性官能基と、を含む粒子である。この粒子の単位グラム当たりのプロトン供与能は、0.1~30mmol/gである。この粒子は、高い抗菌性能と抗ウイルス性能の少なくとも一方を有する。このような粒子を含む塗布液によれば、着色が抑制され、かつ、高い抗菌性能と抗ウイルス性能の少なくとも一方を有する被膜が得られる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素の酸化物を含む粒子であって、
前記粒子がプロトン供与性官能基を含み、
前記粒子のプロトン供与能が、前記粒子の単位グラム当たり、0.1~30mmol/gであることを特徴とする粒子。
【請求項2】
前記金属元素が、Sb、Mo、Sn、Nb、Zr、及び、Wから選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記金属元素の含有量が、酸化物基準で20~100質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の粒子。
【請求項4】
前記プロトン供与性官能基が、-SOOH、-SOH、-POOH、-OPO(OH)、-COOH、及び、-OHから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の粒子。
【請求項5】
アルカリ金属含有量が、酸化物基準で1000ppm未満であることを特徴とする請求項1に記載の粒子。
【請求項6】
平均粒子径が1~100nmであることを特徴とする請求項1に記載の粒子。
【請求項7】
前記粒子が、官能基を有する有機珪素化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の粒子。
【請求項8】
少なくとも1種の金属元素を含むヘテロポリ酸塩を含む第一の溶液を作製する工程1と、
前記第一の溶液を脱イオンして、第二の溶液を作製する工程2と、
前記第二の溶液を加熱する工程3と、
を含むことを特徴とする粒子の製造方法。
【請求項9】
前記金属元素が、Sb、Mo、Sn、Nb、Zr、及び、Wから選ばれる少なくとも1種の金属元素であることを特徴とする請求項8に記載の粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属元素の酸化物と、プロトン供与性官能基と、を含む粒子に関する。また、該粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス、プラスチック等で形成されたシートやレンズ等の基材表面の反射を防止するために、その表面に反射防止膜が形成されている。ところで、透明性や反射防止能が要求される部材には、例えば、スマートフォン、ATM、券売機等のタッチパネルを有する表示装置がある。これらの表面には、大腸菌や黄色ブドウ球菌等の菌類や、種々のウイルスに汚染されていることが問題となっており、衛生的見地から抗菌性や抗ウイルス性が要求される。
【0003】
被膜への抗菌性及び抗ウイルス性付与については、従来から被膜表面に抗菌剤や抗ウイルス剤を塗工することが知られている。例えば、有機系の抗菌剤や抗ウイルス剤であれば、塗工自体は比較的容易であるが、溶剤によって被膜が侵されるおそれや、被膜への定着性や耐擦傷性における抗菌性能の持続性に問題がある。一方、無機系の抗菌剤や抗ウイルス剤であれば、被膜内に存在すれば抗菌剤や抗ウイルス性能の持続性は期待できるものの、これを含む被膜を別に作製する必要がある。例えば、反射防止層と、抗菌層や抗ウイルス層とを別々に作製した場合、最表面でない層の効果が不十分となるおそれや、生産性が低下して生産コストが高騰するおそれがある。これに対して、一つの被膜中に、低屈折率成分、抗菌及び抗ウイルス成分を配合させる場合、反射防止性能や抗菌性能、及び抗ウイルス性能が不十分になったり、被膜の透明性や強度が不十分となったりするおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-001557号公報
【特許文献2】国際公開2013/073555号
【特許文献3】特開2021-031450号公報
【特許文献4】特開2007-090336号公報
【特許文献5】特開平7-033616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
抗菌性能を有する粒子が配合された被膜付基材において、その粒子サイズがマイクロメートル程度に大きいと、所望する抗菌性能を得るためには粒子の配合量を多くせねばならず、該粒子を含む塗布液の分散安定性が低下するおそれがある。また、被膜付基材の硬度や強度、透明性及び光沢性が損なわれるおそれがある(例えば、特許文献1~3)。一方、抗菌性能を有する粒子のサイズが、例えばナノメートルオーダーの様にマイクロメートルオーダーよりも小さい粒子の方が、分散性が高く、単位量あたりの個数も多くなるので、被膜付基材の粒子の配合量が少量でも十分な抗菌性能が発揮されやすい。ただし、その抗菌性能発現の場が酸化分解反応であると、分散媒や基材等も分解してしまうおそれがある(例えば、特許文献4)。また、抗菌性を示す金属元素であるAgがAgOとして粒子中に混在していると、AgOが他の組成物と反応して着色を呈したり、粒子が不均一であるために溶媒分散時に凝集したりするおそれがある(例えば、特許文献5)。更には、安定性の低い粒子が混在していると、分散液の濃縮安定性が低く高濃度にできない問題があり、塗布液への持ち込み分散媒が多くなる問題や、低濃度の塗布液使用による被膜付基材の製造における生産性低下や、膜中の粒子分散性低下等の問題がある。
【0006】
そのため、被膜に使用した時に着色がなく、高い抗菌性能や抗ウイルス性能を有する粒子が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するため、以下のような粒子を見出した。
【0008】
この粒子は、金属元素の酸化物と、プロトン供与性官能基と、を含む粒子である。この粒子の単位グラム当たりのプロトン供与能は、0.1~30mmol/gである。
【0009】
この粒子は、高い抗菌性能と抗ウイルス性能の少なくとも一方を有する。このような粒子を含む塗布液によれば、着色が抑制され、かつ、高い抗菌性能と抗ウイルス性能の少なくとも一方を有する被膜が得られる。
【0010】
この粒子を得るために、以下のような製造方法を見出した。
【0011】
まず、少なくとも1種の金属元素を含むヘテロポリ酸塩を含む第一の溶液を作製する。次に、この第一の溶液を脱イオンして、第二の溶液を作製する。そして、この第二の溶液を加熱することで本発明の粒子が製造される。
【0012】
この製造方法で得られた粒子の性状は、前述の粒子の性状に準じる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の粒子によれば、高い抗菌性能と抗ウイルス性能の少なくとも一方を有する被膜を作製可能な塗布液が得られる。
【0014】
また、本発明の粒子によれば、熱や光によって、この粒子を含む分散液、塗布液、及び被膜が、変色して着色することが抑制される。
【0015】
このように、本発明の粒子によれば、高い抗菌性能と抗ウイルス性能の少なくとも一方と、着色の抑制との両立が可能となる。そのため、本粒子を用いれば、テレビやタッチパネル等の透明フィルムをはじめ、建材や電車内装塗料など幅広い分野で抗菌性や抗ウイルス性を付与でき信頼性の高い塗膜として使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る粒子(以下、この本発明に係る粒子を単に「粒子」ということがある)は、金属元素の酸化物を含む粒子であって、プロトン供与性官能基を含む。この粒子のプロトン供与能は、粒子の単位グラム当たり、0.1~30mmol/gである。
【0017】
このような粒子は、抗菌性と抗ウイルス性の少なくとも一つ(以下、この本発明に係る「抗菌性と抗ウイルス性の少なくとも一つ」の特性を単に「抗菌・抗ウイルス性」ということがある)を有する。この粒子を使用した被膜付基材は、抗菌・抗ウイルス性が得られる。
【0018】
粒子に含まれる金属元素が酸化物として存在すると、金属として存在するよりも比表面積が高く、プロトン供与性官能基が導入されやすくなる。
【0019】
粒子に含まれる金属元素の酸化物としては、Sb、Mo、Sn、Nb、Zr、及び、Wから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む酸化物であることが好ましい。これら金属元素の酸化物としては、1種の金属元素からなるものであっても良いし、複合酸化物であっても良いし、混合物であっても良い。粒子に含まれるこれらの金属元素は、十分な抗菌・抗ウイルス性を示す。
【0020】
この酸化物としては、例えば、Sb、Sb、Sb、Sb、MoO、Mo、MoO、SnO、SnO、NbO、Nb、NbO、Nb、WO、WO、H[SiW1240]・nHO(n≒24)、H[SiMo1240]・nHO(n=14)等が、好ましい形態として挙げられる。これらの中でも、ナノ粒子形態を取りやすく官能基を保持させやすい点で、Sb、MoO、SnO、Nb、WO、Nbが、より好ましい。
【0021】
粒子中の金属元素は、酸化物基準で20~100質量%含まれることが好ましい。金属元素の含有量がこの範囲にあると、粒子が多孔質であり、プロトン供与性官能基が導入されやすく、十分なプロトン供与能が得られる。
【0022】
ここで、粒子中の金属元素の含有量が20質量%未満であると、プロトン供与性官能基が導入されにくく、十分なプロトン供与能が得られないおそれがある。粒子中の金属元素の含有量は、酸化物基準で、より好ましくは50~100質量%、更に好ましくは80~100質量%、特に好ましくは98~100質量%である。
【0023】
粒子には、プロトン供与性官能基が含まれる。粒子にプロトン供与性官能基が含まれると、抗菌・抗ウイルス性が発揮されやすくなる。
【0024】
粒子に含まれるプロトン供与性官能基としては、-SOOH、-SOH、-POOH、-OPO(OH)、-COOH、及び、-OHから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。中でも、-SOOH、-POOH、及び、-OHは、プロトンの解離が容易で、プロトン供与性が高いため、より好ましい。
【0025】
粒子のプロトン供与能としては、粒子の単位グラム当たり、0.1~30mmol/gである。プロトン供与能がこの範囲にあると、系内の酸性度が高く、抗菌・抗ウイルス性が安定的に発現することができる。また、この粒子を含む分散液、塗布液、及び被膜が、熱や光によって、変色したり着色したりすることが抑制される。
【0026】
ここで、プロトン供与能が粒子の単位グラム当たり、0.1mmol/g未満であると、系内の酸性度が低く、抗菌・抗ウイルス性を得ることが困難となるおそれがある。逆に、プロトン供与能が粒子の単位グラム当たり、30mmol/gより大きいと、粒子が過度に多孔質な状態となるため、粒子としての形状を保つことが困難となるおそれがある。粒子の単位グラム当たりのプロトン供与能は、好ましくは0.5~20mmol/g、より好ましくは0.7~18mmol/gである。
【0027】
粒子のアルカリ金属含有量は、酸化物基準での合計が1000ppm未満であることが好ましい。
【0028】
ここで、1000ppm以上であると、十分なプロトン供与能を発揮できないおそれ、粒子同士が凝集して、塗布液中や被膜中での粒子の分散性が低下するおそれ、十分な被膜の強度や硬度が得られないおそれ、被膜の透明性が不十分になるおそれがある。アルカリ金属含有量は、より好ましくは500ppm未満、更に好ましくは100ppm未満、最も好ましいのはアルカリ金属を含有していないことである。
【0029】
ところで、粒子にアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニア、及び、アミン類のいずれかが含まれる場合は、上述の「アルカリ金属含有量」を「アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニア、及びアミン類の合計の含有量」と読み替えることとする。ただし、アンモニア及びアミン類については、NHに換算した量とする。なお、アルカリ金属とは、Li、Na、K、Rb、Cs、Frを、アルカリ土類金属とは、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Raを表す。
【0030】
粒子の平均粒子径は、被膜付基材の用途や、その被膜の厚みにもよるため、特に限定されるものではないが、例えば、1~100nmが好ましい。これは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて所定の倍率で撮影し、その写真(TEM写真)の任意の300個の粒子について、画像処理を行い粒子の面積を求め、その面積から円相当径を算出したものの平均値である。
【0031】
ここで、平均粒子径が1nm未満の粒子は、得ること自体が困難である。逆に、100nmを超えると、塗布液中での分散性が低いため、被膜の強度が低下するおそれや、所望する抗菌・抗ウイルス性能を得られないおそれがある。この平均粒子径は、より好ましくは5~70nm、更に好ましくは5~50nmである。
【0032】
粒子の窒素吸着法による法による比表面積としては、30~800m/gであることが好ましい。比表面積がこの範囲にあると、粒子は高表面積で多孔質であり、抗菌・抗ウイルス性を有することができるからである。
【0033】
ここで、粒子の比表面積が30m/g未満であると、表面積が不足し、金属成分元素の担持量が不足となるおそれがある。逆に、800m/gを超えると、粒子が小さくなり過ぎて、安定性が低下し凝集し易くなるおそれがある。この比表面積は、より好ましくは50~600 m/g、更に好ましくは100~500m/gである。この範囲であれば、酸性度が高く、より安定な粒子を得ることができる。
【0034】
粒子の形状については特に制限されない。例えば、球状、楕球体(ラグビーボール)状、繭状、金平糖状、鎖状、サイコロ状等が挙げられる。中でも、球状粒子は、分散性が高く、被膜中で均一に分散できるため好ましい。
【0035】
上述のように、本発明の粒子は、抗菌・抗ウイルス性と、この粒子を含む分散液、塗布液、及び被膜の、熱や光による着色の抑制と、を両立することができる。ところで、Ag、Cu、Zn、Biといった金属元素は、抗菌性能を有する公知の金属元素である。これらの金属元素が粒子に含まれていると、その粒子を含む分散液、塗布液、及び被膜が、熱や光によって、変色して着色するおそれがある。本発明の粒子においては、これらの金属元素を含まなくとも十分な抗菌・高ウイルス性を有する。本発明の粒子は、プロトン供与性が高く、これら金属元素との相互作用が強い。このため、粒子に、Ag、Cu、Zn、Biといった金属元素を含んでいても、本発明の粒子を含む分散液、塗布液、及び被膜は、着色や変色が抑制される。この場合、Ag、Cu、Zn、Biといった金属元素は、粒子中に単独で存在していても、複数種で存在していても良い。これら金属元素の形態としては、イオン或いは錯体であることが好ましい。本発明の粒子において、Ag、Cu、Zn、Biといった金属元素を加えることによる「抗菌・抗ウイルス性の向上」と、「着色・変色の抑制」とを両立させるためには、これらの金属元素は、金属基準で0.1~5質量%含まれていることが好ましい。このような金属元素を含む形態は、含まない場合に比べて、より高い抗菌性と抗ウイルス性を示す。
【0036】
ここで、Ag、Cu、Zn、Biといった金属元素の含有量が0.1質量%よりも少ないと、これら金属元素を含むことによる抗菌・抗ウイルス性能の相乗効果は得られないおそれがある。逆に、5質量%を超えても、それ以上に抗菌・抗ウイルス性能が向上することもなく、場合によっては、これら金属元素を含む成分が不安定となり、粒子からの遊離や、変色等を生じやすくなる。この金属元素の含有量は、より好ましくは0.5~4質量%、更に好ましくは2.5~3質量%である。
【0037】
粒子は、シランカップリング材等、公知の有機珪素化合物で表面処理されていてもよい。この有機珪素化合物としては、例えば、下記式(1)で表されるものが挙げられる。このような有機珪素化合物で表面処理された粒子は、粒子の分散媒中や被膜形成用塗布液中、あるいは被膜のマトリックス中での分散性が高くなるため、好ましい。また、このような表面処理された粒子を使用した被膜付基材は、粒子の凝集が抑制されていて、十分な硬度と強度とを有するため、好ましい。
-SiX4-n ・・・式(1)
(式中、Rは炭素数1~10の非置換又は置換炭化水素基で、互いに同一であっても異なっていてもよい。置換基としては、例えば、アルキル基、ビニル基、エポキシ基、アクリロイル基、(メタ)アクリロイル基、アルコキシ基、メルカプト基、グリシドキシ基、カルボキシル基、アミノ基、フェニル基、フェニルアミノ基が挙げられる。Xは炭素数1~4のアルコキシ基、水酸基、水素原子であり、nは0~4の整数を示す。)
【0038】
具体的には、次表1に示す有機珪素化合物が挙げられる。中でも、樹脂との結合力が高い点でアルキル基、エポキシ基、アクリロイル基、及び(メタ)アクリロイル基の少なくとも一つを含む有機珪素化合物がより好ましい。
【0039】
【表1】
【0040】
粒子の分散液の抗菌性試験は、抗菌製品技術評議会が定めるシェーク試験法に準じて行う。この抗菌活性値が2.0以上であることが好ましい。3.0以上であれば抗菌性を有すると判断できる。この抗菌活性値は、より好ましくは4.0以上である。
【0041】
粒子の分散液の抗ウイルス性試験は、JIS L1922に準じて行う。この抗ウイルス活性値が2.0以上であることが好ましい。3.0以上であれば抗ウイルス性を有すると判断できる。この抗菌活性値は、より好ましくは4.0以上である。
【0042】
粒子は、水分散液として用いても良く、有機系分散媒に置換して用いても良く、乾燥して粉体として用いても良い。
【0043】
[粒子の製造方法]
本発明に係る粒子の製造方法は、次の工程1、2、及び3を含む。まず、少なくとも1種の金属元素を含むヘテロポリ酸塩を含む第一の溶液を作製する(工程1)。次に、この第一の溶液を脱イオンして、第二の溶液を作製する(工程2)。この第二の溶液を加熱して粒子を得る(工程3)。
【0044】
工程1では、少なくとも1種の金属元素を含むヘテロポリ酸塩を含む第一の溶液を作製する。この金属元素としては、Sb、Mo、Sn、Nb、Zr、及び、Wから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの金属元素を含むヘテロポリ酸塩としては、例えば、アンチモン酸カリウム、アンチモン酸ナトリウム、アンチモン酸アンモニウム、リンタングステン酸ナトリウム、リンタングステン酸カリウム、リンタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸カリウム、パラタングステン酸アンモニウム、ケイタングステン酸アンモニウム、ケイタングステン酸ナトリウム、ケイタングステン酸カリウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸アンモニウム、リンモリブデン酸ナトリウム、リンモリブデン酸カリウム、リンモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウム、ケイモリブデン酸ナトリウム、ケイモリブデン酸カリウム、ケイモリブデン酸アンモニウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸ナトリウム、スズ酸カリウム、が挙げられる。これらの中でも、ナノ粒子を得やすい点と不純物を除去しやすい観点で、ナトリウム塩、カリウム塩が、より好ましい。
【0045】
工程2では、工程1で作製された第一の溶液を脱イオンする。この脱イオンによって、該ヘテロポリ酸塩から、カウンターイオンであるアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、及び、水素イオンといった陽イオンを脱離させる。これにより、続く工程3において、ヘテロポリ酸が立体的に結合することが容易になる。この脱イオンは、陽イオン交換樹脂等を使用することで行うことができる。
【0046】
工程3では、工程2で作製された第二の溶液を加熱する。この加熱によって、ヘテロポリ酸が立体的に結合し、本発明の「金属元素の酸化物を含む粒子」が製造される。この加熱温度は、目的とする粒子が製造できれば特に限定されないが、溶媒の沸点未満が好ましい。例えば、溶媒が水の場合、50℃以上、100℃未満で行うことが、より好ましい。加熱温度が、この範囲にあれば、ヘテロポリ酸が立体的に結合することが効率的に行われ、粒子の形成が容易となる。この粒子の形成を促進するために、第二の溶液に、例えば酸化を促進する酸化剤などを追加したり、溶液を濃縮したり、溶液のpHを例えば、5以上のように変化させたりしても良い。また、これらの操作を組み合わせて行っても良い。更に別のプロトン供与官能基を付与するため、リン酸や硫酸、酢酸を加えて追加で加熱熟成してもよく、乾燥後、200~600℃で焼成して、水に再分散させても良い。粒子を再分散させる手法としては、従来公知の分散方法で構わない。例えば、ビーズミルや超音波分散等は、高分散された子が得られるため好適である。
【0047】
もし、前述のAg、Cu、Zn、Biといった金属元素を粒子に加える場合は、工程3よりも後に行うことが好ましい。使用されるAg、Cu、Zn、Biといった金属元素を含む成分としては、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩といった金属塩や金属の錯イオンの溶液、金属アルコキシドの溶液として添加して複合酸化物粒子化することが可能である。中でも、銀の場合は硝酸銀がより好ましく、銅、亜鉛、錫の場合は塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩がより好ましい。その添加量としては、最終的に、粒子中に担持されるAg、Cu、Zn、Biといった金属元素が、金属として0.1~5質量%となるように添加することが好ましい。添加時は、Ag、Cu、Zn、Biといった金属元素を単独で含む成分を添加しても良いし、複数種の金属種を含む成分を別々に、或いは同時に添加してもよい。また、含有量を高めるために、この金属元素を含む成分を複数回に分けて添加してもよい。これら、金属元素を含む成分を添加する際の条件としては、最終的に所望するAg、Cu、Zn、Biといった金属元素の含有量となれば特に制限はないが、この時の粒子の分散液の濃度としては、固形分として1~2質量%が好ましい。また、この金属元素を含む成分の添加時のpHとしては2~5が好ましく、より好ましくは3~4である。
【0048】
ここで、pHが2未満であると粒子中の金属元素が溶解して粒子が不安定となり凝集するおそれがある。逆に、pHが5を超えるとAg、Cu、Zn、Biといった金属元素が酸化物となり、変色する事がある。また、この金属元素を含む成分の添加時の温度としては、溶媒の沸点未満が好ましい。例えば、溶媒が水の場合100℃未満が好ましく、より好ましくは30~95℃である。
【0049】
粒子中のアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニア、及び、アミン類の含有量を低減するために、各工程の少なくとも一つにおいて、イオン交換樹脂や限外濾過膜を使用して、洗浄することが好ましい。中でも、工程2の脱イオンの後に洗浄することが効果的である。前述のように、粒子の「アルカリ金属含有量」としての合計は、1000ppm未満となるように洗浄することが好ましい。
【0050】
[粒子の表面処理]
本発明では、粒子を含む分散液に有機珪素化合物を添加して、粒子を表面処理してもよい。粒子を有機珪素化合物で表面処理する場合は、工程3よりも後に行うことが好ましい。使用する有機珪素化合物としては、前述の式(1)に示すnが1~3の有機珪素化合物を用いることが好ましい。ここで、nが0の有機珪素化合物を用いる場合は、有機珪素化合物の部分加水分解物を用いることが好ましい。また、粒子に官能基を導入することにより、粒子と樹脂成分との相溶性が向上するため、塗布液及び膜中での分散性が高い粒子が得られる上で好ましい。この有機珪素化合物は、単独で使用しても組み合わせて使用してもよい。もし、前述のように、Ag、Cu、Zn、Biといった金属元素を粒子に加える場合は、これら金属元素を担持した後に行うことが好ましい。
【0051】
粒子の表面処理の方法としては、まず、粒子の分散液を準備する。分散媒としては、メタノール、エタノールといったアルコール類を使用することが好ましい。これに、式(1)に表される有機珪素化合物を所定量加えて、有機珪素化合物を加水分解して行う。この加水分解には、必要に応じて水を添加することも可能である。使用する水のモル数(Mw)と有機珪素化合物のモル数(Mo)との比(Mw/Mo)は、1以上であることが好ましい。
【0052】
ここで、比(Mw/Mo)が1未満の場合は、加水分解が不十分となり、被膜の透明性、及びヘイズ等が不十分となるおそれがある。この比の上限は特に設定されないが、この比が500を超えると、加水分解反応が激しくなり、有機珪素化合物同士が重合して、粒子表面への効率的な処理が困難となるおそれがある。この比は、より好ましくは1~100である。
【0053】
また、この加水分解においては、必要に応じて、加水分解用触媒として酸又はアルカリを使用することも可能である。中でもアンモニアが好ましい。それは、アンモニアを用いると、分散液中に残存しても除去が容易であり、分散液の安定性が維持されやすいためである。使用するアンモニアのモル数(M)と、有機珪素化合物のモル数(Mo)との比(M/Mo)は、0.05~50の範囲にあることが好ましい。
【0054】
ここで、比(M/Mo)が0.05未満の場合は、加水分解が不十分となり、被膜の透明性、及びヘイズ等が不十分となるおそれがある。この比が50を超える場合は加水分解反応が激しくなるため、有機珪素化合物同士が重合し、粒子表面への効率的な処理が困難となるおそれがある。この比は、より好ましくは0.1~10である。
【0055】
表面処理は、均一系で行うことが好ましく、粒子と有機珪素化合物との反応を促進させるために、分散媒の沸点未満の温度(例えば、室温~120℃)で0.5~48時間加熱することが好ましい。
【0056】
有機珪素化合物としては、例えば、前述の表1に示すものが挙げられる。これらの有機珪素化合物は、粒子に単独で含まれていても良いし、複数種が含まれていても良い。表面処理においては、これら有機珪素化合物を単独で処理したり、混合して処理したりすることはもちろん、同一の種類、複数の種類を混合したもの、あるいは複数の種類を別々に、段階的に処理することも可能である。
【0057】
この有機珪素化合物の量は、表面処理前の「元の粒子」100質量部に対して、固形分(R-SiO(4-n)/2)として1~100質量部となるように表面処理することが好ましい。
【0058】
ここで、1質量部未満であると、その添加効果を十分に得ることが困難となるおそれがある。逆に、100質量部よりも多いと、分散安定性は向上するが、粒子の酸性度が低くなり、抗菌性や抗ウイルス性が低くなる場合がある。有機珪素化合物量は、より好ましくは3~50質量部、更に好ましくは10~30質量部である。
【0059】
なお、最終的に得られる粒子、及びその分散液に係る物性、及びその好ましい範囲は、前述の粒子、及びその分散液と同様である。
【0060】
[被膜形成用塗布液]
本発明の粒子は、被膜形成用の塗布液に適用できる。この塗布液は、粒子とマトリックス形成成分とを含む。これ以外に、有機系分散媒や、重合開始剤、レベリング剤、界面活性剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0061】
[被膜付基材]
本発明の粒子は、抗菌・抗ウイルス性能が要求される材に使用することができる。本発明の粒子によれば、高い抗菌・抗ウイルス性能を有するだけでなく、組成物の変色が抑制され、十分な硬度と強度とを有している。このため、例えば、被膜を作製可能な塗布液に使用される。また、この塗布液を使用して、抗菌・抗ウイルス性能が要求される被膜付基材を作製することができる。
【0062】
本発明に係る被膜付基材は、上述の粒子と、マトリックスとを含む被膜が、基材上に形成された被膜付基材である。マトリックスとしては、粒子以外で、固形分として含まれるもので、塗布液に由来する樹脂や、重合開始剤やレベリング剤等の添加剤が挙げられる。具体的には、基材に塗布液を公知の方法で塗布した後、乾燥及び紫外線照射を行い、基材上に被膜を形成する。被膜では、塗布液中の粒子とマトリックス形成成分の固形分の割合が、そのまま被膜中の粒子成分とマトリックスの割合となる。
【0063】
この被膜と基材との間に、その用途に応じて、従来公知のハードコート層、アンチグレア層、高屈折率層、導電性層等を配置してもよい。これらの層は、複数の層を組み合わせることも可能である。例えば、ディスプレイ用途の透明被膜付基材として、更に反射率を低減する場合には、ハードコート層と高屈折率層との組合せや、ハードコート層とアンチグレア層との組合せが例示される。
【0064】
被膜の膜厚は、用途に応じて適宜選択できる。例えば、反射防止膜用であれば、80~350nmが好ましい。ここで、膜厚が80nm未満であると、膜の強度、耐擦傷性が不十分となる場合がある。また、膜が薄すぎて十分な反射防止性能が得られないことがある。逆に、350nmより厚いと、反射防止性能が低下する場合がある。また、収縮が非常に大きい場合には、クラックが発生するおそれもある。この膜厚は、より好ましくは85~220nm、更に好ましくは90~110nmである。
【0065】
反射防止能を有する透明被膜付基材の反射率は、2.0%以下が好ましく、より好ましくは1.5%以下である。
【0066】
また、透明被膜付基材のヘイズは、3.0%以下が好ましく、より好ましくは0.3%以下である。
【0067】
透明被膜付基材の全光線透過率は、85.0%以上が好ましい。ここで、全光線透過率が85.0%未満であると、得られた被膜の表示装置等において画像の鮮明度が不十分となるおそれがある。この全光線透過率は、より好ましくは90.0%以上である。
【0068】
被膜の黄色度(イエローインデックス値:YI値)は、国際照明委員会(CIE)により、CIE1931としてXYZ表色系で制定された値より黄色度(YI)を算出することができ、被膜の黄色度の違いを比較する指標とした。黄色度は、好ましくは1.0以下であり、より好ましくは0.2未満である。ここで、YI値が1.0以下であれば、目視で確認した際に明確に塗布膜が黄色いことを視認されにくい。更に、YI値が0.2未満であれば、目視では黄色は視認されないのでより好ましい。
【0069】
被膜の黄変度(耐光性試験前後のYI値の差)は、好ましくは1.0以下であり、より好ましくは0.2未満である。ここで、耐光性試験前後のYI値の差が1.0以下であれば、目視で確認した際に明確に黄色く変化したことを視認されにくい。更に、YI値の差が0.2未満であれば、目視では黄変の変化は視認されないのでより好ましい。
【0070】
被膜の強度(耐擦傷性)は、#0000のスチールウールを用い、荷重1000g/cmにて摺動させて評価する。この摺動回数が少なくとも100回の時点で膜表面に筋状の傷が認められないことが好ましい。この耐擦傷性は、より好ましくは500回の時点で傷が認められないこと、更に好ましくは1000回の時点で傷が認められないことである。
【0071】
被膜の鉛筆硬度は、H以上が好ましい。ここで、H未満では、反射防止膜として使用する場合、硬度が不十分である。この鉛筆硬度は、より好ましくは2H以上、更に好ましくは3H以上である。
【0072】
被膜の抗菌性試験は、JIS Z 2801に準じて行う。この抗菌活性値が2.0以上であることが好ましい。2.0以上であれば抗菌性を有すると判断できる。この抗菌活性値は、より好ましくは4.0以上である。
【0073】
被膜の抗ウイルス性試験は、ISO21702に準じて行う。この抗ウイルス活性値が2.0以上であることが好ましい。2.0以上であれば抗ウイルス性を有すると判断できる。この抗菌活性値は、より好ましくは3.0以上である。
【0074】
基材は、公知のものが使用可能である。例えば、ガラス、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタラート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリイミド、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、シクロオレフィンポリマー(COP)等の透明な樹脂基材が好ましい。これらの基材は、上述の塗布液によって形成される透明被膜との密着性が優れ、硬度、強度等に優れた被膜付基材を得ることができる。このため、薄い基材に好適に用いられる。基材の厚みに特に制限はないが、10~100μmが好ましく、より好ましくは20~80μmである。
【0075】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例0076】
[実施例1]
[五酸化二アンチモン粒子の製造]
純水1800gに、水酸化カリウム(関東化学(株)製 特1級 純度98%)64.1gを溶解した溶液中に、三酸化アンチモン(日本精鉱(株)製 PATOX-K、斜方晶形、Sb換算濃度30質量%)100gを懸濁させた。
【0077】
この懸濁液を98℃に加熱し、これに、過酸化水素水(三菱ガス化学(株)製 濃度35質量%)58.2gを純水191.6gで希釈した水溶液を6時間(添加速度0.20mmol/hr.)で添加し、三酸化アンチモンを溶解した。
【0078】
次に、これを室温まで冷却した後、得られた溶液から未溶解の残渣150gを分離しアンチモン酸カリウムの溶液(Sb換算濃度4.7質量%)を得た(工程1)。
【0079】
この溶液を純水10000gで希釈した後、陽イオン交換樹脂(三菱ケミカル(株)製 PK-216)を使用して脱イオンを行った(工程2)。
【0080】
次に、この脱イオンした溶液(Sb換算濃度0.05質量%)を温度60℃で10時間加熱した。その後、限外膜(ザルトリウス(株)製 ビバフローMw10000)を使用して濃縮し、五酸化二アンチモン粒子の水分散液を製造した。この水分散液のSb換算濃度は15質量%であった(工程3)。
【0081】
〈有機珪素化合物による粒子の表面処理〉
工程3で製造された五酸化二アンチモン粒子の水分散液の固形分として8g相当量、シランカップリング剤(信越化学工業(株)製 KBM403)0.8g、及びメタノール50gを混合し、攪拌しながら50℃の恒温槽で24時間保持した。
【0082】
次に、限外膜を使用して、この混合液を50gまで濃縮した。
【0083】
次に、これに、メタノール800gを連続添加しながら濾水を排出させて、溶媒をメタノールに置換した。このメタノール置換品の固形分濃度は3.0質量%、水分は0.3質量%であった。
【0084】
次に、このメタノール置換品50gをナス型フラスコに入れて、メチルイソブチルケトン(MIBK)150gを加え、ロータリーエバポレーターに取り付けた。これを減圧しながら、80℃の湯浴にてMIBKに溶媒置換させ、五酸化二アンチモン粒子のMIBK分散液を製造した。この時の固形分濃度は2.0質量%、Sb換算濃度は1.8質量%、水分は0.2質量%であった。
【0085】
粒子、及びその分散液について、以下の方法で測定した。
【0086】
粒子の各製造工程における特徴、及び粒子及び分散液の性状を表2に示す(以下の実施例及び比較例も同様)。
【0087】
(1)金属元素の酸化物の確認
粒子の分散液を溶液のまま、X線回折による解析を行い、金属酸化物の存在の有無と、その形態を確認した。試料のX線回折による定性分析は、RIGAKU(株)製 X-RAY DIFFRACT METER(Smart Lab)にて行った。具体的には、試料をセルに入れ装置にセットし、管電圧45.0kV、管電流200.0mA、対陰極Cu、測定範囲:開始角度~終了角度(2θ)5.000°~70.000°、スキャンスピード5.000°/minにて測定した。
【0088】
(2)プロトン供与官能基
粒子の水分散液をビーカーに採取し、200℃で加熱乾燥させて、粒子の粉末を得た。得られた粉末について、FT-IR分析を行い、吸収ピークの位置により、官能基のプロトン供与官能基の有無、及び種類を調べた。
【0089】
(3)プロトン供与量
粒子の水分散液を粒子固形分として1.50gに相当する量をビーカーに採取し、これに水を加えて100gとし、25℃に保持された恒温反応槽に移した。次に、陽イオン交換樹脂(三菱ケミカル(株)製 ダイヤイオンSK-IBH)を20g加え、1時間攪拌した後、イオン交換樹脂を除去した。次に、このイオン交換された溶液を50g(粒子の固形分 0.75g)ビーカーに採取した。これを25℃に保持された恒温反応槽に移し、pH電極をセットし、攪拌しながら塩化ナトリウム(関東化学(株)製 特級)を添加して、pHの変化を観察した。pHの変化が認められなくなった時点で、塩化ナトリウムの添加を停止し、添加前後のpH変化を測定した。この得られたpHの変化量より、溶液50g中のプロトン量を計算し、分散液中の固形分で除したものを、単位グラム当たりのプロトン供与能とした。
【0090】
(4)金属元素、アルカリ金属、及びアルカリ土類金属の含有量
粒子中の金属元素(Sb、Mo、Sn、Nb、Si、Al及び、W)の酸化物含有量、金属元素(Ag、Cu、Zn、Biの含有量、不純分元素として、アルカリ金属、及び、アルカリ土類金属の含有量については、粒子の分散液0.1gに61%硝酸5gを加え、必要に応じて純水を加え、得られた溶液についてICP誘導結合プラズマ発光分光質量分析装置((株)島津製作所製 ICPM-8500)を用いて測定した。なお、もし、上記不純分元素以外の金属元素が存在する場合は、粒子に含まれる金属元素の量の合計を酸化物基準で100質量部となるように算出した。
【0091】
(5)アンモニア及びアミン類の含有量
粒子の分散液に20質量%NaOH水溶液を加えて、粒子を溶かしながら蒸留する。出てきたアンモニアを0.05モル/L硫酸で捕集し、0.1NNaOHで滴定することで、消費された硫酸量を求め、液中に含まれる全アンモニア量を求める。
【0092】
(6)平均粒子径
粒子の分散液を0.01質量%に希釈した後、電子顕微鏡用銅セルのコロジオン膜上で乾燥させた。次に、これを電界放出型透過電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製 HF5000)にて、所定の倍率で写真撮影した。得られた写真投影図(TEM写真)の任意の300個の粒子について、画像処理から粒子の面積を求め、その面積から円相当径を求めた。その円相当径の平均値を粒子の平均粒子径とした。
【0093】
(7)比表面積
比表面積は、窒素吸着によるBET法により求めたものをいう。測定用の試料は、粒子の分散液を105℃で乾燥させ、粉末状にしたものを用いた。
【0094】
(8)粒子形状
前述の粒子の平均粒子径を求める際に撮影したTEM写真の任意の300個の粒子について、粒子外観を観察した。
【0095】
(9)粒子の水分散液の抗菌性試験
抗菌製品技術評議会が定めるシェーク試験法に従って行った。この時使用した菌は、黄色ブドウ球菌を用い、粒子の水分散液の固形分濃度は、15ppmとした。
【0096】
(10)粒子の水分散液の抗ウイルス性試験
粒子の水分散液の抗ウイルス性試験はJIS L1922に従って行った。この時使用したウイルスは、インフルエンザA(H3N2)型を用い、粒子の水分散液の固形分濃度は、500ppmとした。
【0097】
(11)粒子の分散液の固形分濃度
粒子の分散液を1g磁性るつぼに採取し300℃灼熱減量を行い、秤量して求めた。
【0098】
〈被膜形成用塗布液の製造〉
日揮触媒化成(株)製 反射防止膜形成塗料(Anti-Reflection塗料、或いはAR塗料ということがある)ELCOM-P-5062(固形分濃度3.0質量%)に、前述の「有機珪素化合物による粒子の表面処理」で得られた粒子のMIBK分散液(固形分濃度2.0質量%)を粒子の固形分比率で5質量%相当分添加して被膜形成用塗布液を製造した。
【0099】
〈被膜付基材の製造〉
ハードコート塗料(日揮触媒化成(株)製 ELCOM HP-1004)を、TACフィルム(パナック(株)製 FT-PB80UL-M、厚さ 80μm、屈折率 1.51)にバーコーター法(#18)にて塗布し、80℃で120秒間乾燥した。その後、300mJ/cmの紫外線を照射、硬化させてハードコート膜を作製した。このハードコート膜の膜厚は8μmであった。
【0100】
次に、本発明の粒子を使用した被膜形成用塗布液をバーコーター法(#4)にて塗布し、80℃で120秒間乾燥した。その後、N雰囲気下で400mJ/cmの紫外線を照射、硬化させて被膜付基材を製造した。
【0101】
被膜付基材を以下の項目について測定した。結果を表2に示す(以下の実施例及び比較例も同様)。
【0102】
(12)膜厚、反射率
エリプソメーター(ULVAC社製、EMS-1)を使用して、被膜付基材の膜厚、波長550nmの反射率を測定した。
【0103】
(13)ヘイズ、全光線透過率、及び、イエローインデックス値
ヘーズメーター(スガ試験機(株)製)を使用して、被膜付基材のヘイズ、全光線透過率、及び、イエローインデックス値(YI値)を測定した。
【0104】
(14)耐光性試験
被膜付基材をサンシャインウエザオメーター(スガ試験機(株)製 S80DHBBR型)にセットし、JIS K 7350-4に従って行った。その前後のフィルムのYI値の差を耐光性有無の指標とした。
【0105】
(15)耐擦傷性の測定
#0000スチールウールを用い、荷重1000g/cmで100回摺動した。摺動後の被膜付基材の表面を目視観察し、以下の基準で評価した。
評価基準;
筋状の傷が認められない :◎
筋状の傷が僅かに認められる:〇
筋状の傷が多数認められる :△
面が全体的に削られている :×
【0106】
(16)鉛筆硬度の測定
JIS-K-5400に準じて鉛筆硬度試験器により測定した。
【0107】
(17)被膜の抗菌性試験
被膜の抗菌性試験は、JIS Z 2801に従って行い、下記式(2)により抗菌活性値を求めた。
=UBt-ABt ・・・・(2)
(但し、Qは抗菌活性値、UBtは無加工試験片の24時間後の1cm当たりの生菌数の対数値の平均値、ABtは抗菌加工試験片の24時間後の1cm当たりの生菌数の対数値の平均値を示す。)
【0108】
この抗菌活性値が2.0以上ある場合に抗菌効果があると判断した。
【0109】
試験菌には、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC 12732)、大腸菌(Escherichia coli NBRC3972)を用い、栄養として1/500普通ブイヨン培地(培地1000mlあたり、肉エキス3g+ペプトン10g、塩化ナトリウム5.0g)を使用した。
【0110】
測定は5cm角に切り取った被膜付基材と無加工フィルムとに、それぞれ0.4mlの菌液を滴下し、4cm角のPEフィルムで被覆した。試験片を35℃±1℃、相対湿度90%以上で24時間培養し、試験片上の試験菌をSCDLP培地10mlで洗い出して回収した後、洗い出し液の生菌数を平板混釈培養法にて1cm2当たりの生菌数を測定した。
【0111】
(18)被膜の抗ウイルス性試験
被膜の抗ウイルス性試験は、ISO 21702に従って行い、下記式(3)により抗ウイルス活性値を求めた。
=UVt-AVt ・・・・(3)
(但し、Qは抗ウイルス活性値、UVtは無加工試験片の24時間後の1cm当たりのウイルス感染価の対数値の平均値、AVtは抗ウイルス加工試験片の24時間後の1cm当たりのウイルス感染価の対数値の平均値を示す。)
【0112】
この抗ウイルス活性値が2.0以上ある場合に抗ウイルス効果があると判断した。
【0113】
測定は5cm角に切り取った被膜付基材と無加工フィルムにそれぞれ1~5×10pfu/mlに調製されたウイルス懸濁液(A型インフルエンザウイルス(H3N2)ATCC VR-1679)0.4mlを滴下し、4cm角のPEフィルムで被覆した。試験片を25℃±1℃、相対湿度90%以上で24時間培養し、試験片上の試験菌をSCDLP培地10mlで洗い出して回収した後、洗い出し液の10倍希釈系列を作製し、プラーク測定法によって、1cm2当たりのウイルス感染価を測定した。
【0114】
[実施例2]
[酸化タングステン粒子の製造]
純水1800gに、水酸化カリウム64.1gを溶解した溶液中に、パラタングステン酸アンモニウム(キシダ化学(株)製 WO換算濃度83質量%)133gを懸濁させた。
【0115】
この懸濁液を98℃に加熱し、これに、過酸化水素水58.2gを純水191.6gで希釈した水溶液を6時間(添加速度0.20mmol/hr.)で添加し、パラタングステン酸アンモニウムを溶解した。
【0116】
次に、これを室温まで冷却した後に、得られた溶液から未溶解の残渣50gを分離し、パラタングステン酸アンモニウム溶解液(WO換算濃度2.7質量%)を得た。
【0117】
この溶液を純水10000gで希釈した後、陽イオン交換樹脂(三菱ケミカル(株)製 PK-216)を使用して脱イオンを行った。
【0118】
次に、この脱イオンした溶液(WO換算濃度0.1質量%)を温度98℃で10時間加熱した。その後、限外膜を使用して濃縮し、酸化タングステン粒子の水分散液を製造した。この水分散液のWO換算濃度は15質量%であった。
【0119】
〈有機珪素化合物による粒子の表面処理〉
工程3で製造された酸化タングステン粒子の水分散液を使用した以外は、実施例1と同様に粒子の表面処理をして、酸化タングステン粒子のMIBK分散液を製造した。この時の固形分濃度は2.0質量%、WO換算濃度は1.8質量%、水分は0.2質量%であった。
【0120】
この酸化タングステン粒子のMIBK分散液を使用した以外は、実施例1と同様にして、塗布液及び被膜付き基材を製造し、その特性を評価した。
【0121】
[実施例3]
[酸化モリブデン粒子の製造]
純水1800gに水酸化カリウム64.1gを溶解した溶液中に、モリブデン酸アンモニウム四水和物(富士フィルム和光(株)製 MoO換算濃度82質量%)258.6gを懸濁させた。
【0122】
この懸濁液を98℃に加熱し、これに、過酸化水素水58.2gを純水191.6gで希釈した水溶液を6時間(添加速度0.20mmol/hr.)で添加し、モリブデン酸アンモニウム四水和物を溶解した。
【0123】
次に、これを室温まで冷却した後に、得られた溶液から未溶解の残渣50gを分離し、モリブデン酸アンモニウム溶解液(MoO換算濃度5.6質量%)を得た。
【0124】
この溶液を純水10000gで希釈した後、陽イオン交換樹脂(三菱ケミカル(株)製 PK-216)を使用して脱イオンを行った。
【0125】
次に、この脱イオンした溶液(MoO換算濃度0.25質量%)を温度60℃で10時間加熱した。その後、限外膜を使用して濃縮し、酸化モリブデン粒子の水分散液を製造した。この水分散液のMoO換算濃度は15質量%であった。
【0126】
〈有機珪素化合物による粒子の表面処理〉
工程3で製造された酸化モリブデン粒子の水分散液を使用した以外は、実施例1と同様に粒子の表面処理をして、酸化モリブデン粒子のMIBK分散液を製造した。この時の固形分濃度は2.0質量%、MoO換算濃度は1.8質量%、水分は0.2質量%であった。
【0127】
この酸化モリブデン粒子のMIBK分散液を使用した以外は、実施例1と同様にして、塗布液及び被膜付き基材を製造し、その特性を評価した。
【0128】
[実施例4]
[酸化スズ粒子の製造]
純水1800gに水酸化カリウム64.1gを溶解した溶液中に、スズ酸カリウム(昭和加工(株)製 SnO換算濃度51.8質量%)258.6gを懸濁させた。
【0129】
この懸濁液を98℃に加熱し、これに、過酸化水素水58.2gを純水191.6gで希釈した水溶液を6時間(添加速度0.20mmol/hr.)で添加し、スズ酸カリウムを溶解した。
【0130】
次に、これを室温まで冷却した後に、得られた溶液から未溶解の残渣50gを分離し、スズ酸カリウム溶解液(酸化スズ換算5.6%)を得た。
【0131】
この溶液を純水10000gで希釈した後、陽イオン交換樹脂(三菱ケミカル(株)製 PK-216)を使用して脱イオンを行った。
【0132】
次に、この脱イオンした溶液(SnO換算濃度0.2質量%)を温度60℃で10時間加熱した。その後、限外膜を使用して濃縮し、酸化スズ粒子の水分散液を製造した。この水分散液のSnO換算濃度は15質量%であった。
【0133】
〈有機珪素化合物による粒子の表面処理〉
工程3で製造された酸化スズ粒子の水分散液を使用した以外は、実施例1と同様に粒子の表面処理をして、酸化スズ粒子のMIBK分散液を製造した。この時の固形分濃度は2.0質量%、SnO換算濃度は1.8質量%、水分は0.2質量%であった。
【0134】
この酸化スズ粒子のMIBK分散液を使用した以外は、実施例1と同様にして、塗布液及び被膜付き基材を製造し、その特性を評価した。
【0135】
[実施例5]
[五酸化二ニオブ粒子の製造]
純水1800gに水酸化カリウム64.1gを溶解した溶液中に、ニオブ酸カリウム(富士フィルム和光純薬(株)製 Nb換算濃度72質量%)300.0gを懸濁させた。
【0136】
この懸濁液を98℃に加熱し、これに、過酸化水素水58.2gを純水191.6gで希釈した水溶液を6時間(添加速度0.20mmol/hr.)で添加し、ニオブ酸カリウムを溶解した。
【0137】
次に、これを室温まで冷却した後に、得られた溶液から未溶解の残渣10gを分離し、スズ酸カリウム溶解液(Nb換算濃度5.8質量%)を得た。
【0138】
この溶液を純水10000gで希釈した後、陽イオン交換樹脂(三菱ケミカル(株)製 PK-216)を使用して脱イオンを行った。
【0139】
次に、この脱イオンした溶液(Nb換算濃度0.2質量%)を温度60℃で10時間加熱した。その後、限外膜を使用して濃縮し、五酸化二ニオブ粒子の水分散液を製造した。この水分散液のNb換算濃度は15質量%であった。
【0140】
〈有機珪素化合物による粒子の表面処理〉
工程3で製造された五酸化二ニオブ粒子の水分散液を使用した以外は、実施例1と同様に粒子の表面処理をして、五酸化二ニオブ粒子のMIBK分散液を製造した。この時の固形分濃度は2.0質量%、Nb換算濃度は1.8質量%、水分は0.2質量%であった。
【0141】
この五酸化二ニオブ粒子のMIBK分散液を使用した以外は、実施例1と同様にして、塗布液及び被膜付き基材を製造し、その特性を評価した。
【0142】
[実施例6]
[ケイタングステン酸化物粒子の製造]
純水1800gに水酸化カリウム64.1gを溶解した溶液中に、ケイタングステン酸24水和物(キシダ化学(株)製 WO換算濃度85.8質量%)300.0gを懸濁させた。
【0143】
この懸濁液を98℃に加熱し、これに、過酸化水素水58.2gを純水191.6gで希釈した水溶液を6時間(添加速度0.20mmol/hr.)で添加し、ケイタングステン酸を溶解した。
【0144】
次に、これを室温まで冷却した後に、得られた溶液から未溶解の残渣5gを分離し、ケイタングステン酸カリウム溶解液(WO換算濃度 5.9質量%)を得た。
【0145】
この溶液を純水10000gで希釈した後、陽イオン交換樹脂(三菱ケミカル(株)製 PK-216)を使用して脱イオンを行った。
【0146】
次に、この脱イオンした溶液(ケイタングステン酸換算濃度0.2質量%)を温度60℃で10時間加熱した後、過酸化水素水を100g添加し、更に温度60℃で10時間加熱した。その後、限外膜を使用して濃縮し、ケイタングステン酸化物粒子の水分散液を製造した。この水分散液のケイタングステン酸化物粒子のWO換算濃度は15質量%であった。
【0147】
〈有機珪素化合物による粒子の表面処理〉
工程3で製造されたケイタングステン酸化物粒子の水分散液を使用した以外は、実施例1と同様に粒子の表面処理をして、ケイタングステン酸化物粒子のMIBK分散液を製造した。この時の固形分濃度は2.0質量%、WO換算濃度は1.8質量%、水分は0.2質量%であった。
【0148】
このケイタングステン酸化物粒子のMIBK分散液を使用した以外は、実施例1と同様にして、塗布液及び被膜付き基材を製造し、その特性を評価した。
【0149】
[実施例7]
[ケイモリブデン酸化物粒子の製造]
純水1800gに水酸化カリウム64.1gを溶解した溶液中に、ケイモリブデン酸n水和物(富士フィルム和光純薬(株)製 ケイモリブデン酸MoO換算濃度換算濃度97質量%)150.0gを懸濁させた。
【0150】
この懸濁液を98℃に加熱し、これに、過酸化水素水58.2gを純水191.6gで希釈した水溶液を6時間(添加速度0.20mmol/hr.)で添加し、ケイモリブデン酸を溶解した。
【0151】
次に、これを室温まで冷却した後に、得られた溶液から未溶解の残渣10gを分離し、ケイモリブデン酸カリウム溶解液(MoO換算濃度 5.5質量%)を得た。
【0152】
この溶液を純水10000gで希釈した後、陽イオン交換樹脂(三菱ケミカル(株)製 PK-216)を使用して脱イオンを行った。
【0153】
次に、この脱イオンした溶液(MoO換算濃度0.2質量%)を温度60℃で10時間加熱した後、過酸化水素水を100g添加し、更に温度60℃で10時間加熱した。その後、限外膜を使用して濃縮し、ケイモリブデン酸化物粒子の水分散液を製造した。この水分散液のMoO換算濃度は15質量%であった。
【0154】
〈有機珪素化合物による粒子の表面処理〉
工程3で製造されたケイモリブデン酸化物粒子の水分散液を使用した以外は、実施例1と同様に粒子の表面処理をして、ケイモリブデン酸化物粒子のMIBK分散液を製造した。この時の固形分濃度は2.0質量%、MoO換算濃度は1.8質量%、水分は0.2質量%であった。
【0155】
このケイモリブデン酸化物粒子のMIBK分散液を使用した以外は、実施例1と同様にして、塗布液及び被膜付き基材を製造し、その特性を評価した。
【0156】
[実施例8]
[リンモリブデン酸化物粒子の製造]
純水1800gに水酸化カリウム64.1gを溶解した溶液中に、リンモリブデン酸ナトリウム30水和物(日本新金属(株)製 MoO換算濃度73質量%)200.0gを懸濁させた。
【0157】
この懸濁液を98℃に加熱し、これに、過酸化水素水58.2gを純水191.6gで希釈した水溶液を6時間(添加速度0.20mmol/hr.)で添加し、リンモリブデン酸を溶解した。
【0158】
次に、これを室温まで冷却した後に、得られた溶液から未溶解の残渣5gを分離し、リンモリブデン酸ナトリウム・カリウム溶解液(MoO換算濃度 6.0質量%)を得た。
【0159】
この溶液を純水10000gで希釈した後、陽イオン交換樹脂(三菱ケミカル(株)製 PK-216)を使用して脱イオンを行った。
【0160】
次に、この脱イオンした溶液(MoO換算濃度0.5質量%)を温度60℃で10時間加熱した後、過酸化水素水を100g添加し、更に温度60℃で10時間加熱した。その後、限外膜を使用して濃縮し、リンモリブデン酸化物粒子の水分散液を製造した。この水分散液のリンモリブデン酸化物粒子のMoO換算濃度は15質量%であった。
【0161】
〈有機珪素化合物による粒子の表面処理〉
工程3で製造されたリンモリブデン酸化物粒子の水分散液を使用した以外は、実施例1と同様に粒子の表面処理をして、リンモリブデン酸化物粒子のMIBK分散液を製造した。この時の固形分濃度は2.0質量%、MoO換算濃度1.8質量%、水分は0.2質量%であった。
【0162】
このケイモリブデン酸化物粒子のMIBK分散液を使用した以外は、実施例1と同様にして、塗布液及び被膜付き基材を製造し、その特性を評価した。
【0163】
[実施例9]
[リンタングステン酸化物粒子の製造]
純水1800gに水酸化カリウム64.1gを溶解した溶液中に、リンタングステン酸30水和物(日本新金属(株)製 WO換算濃度73質量%)150.0gを懸濁させた。
【0164】
この懸濁液を98℃に加熱し、これに、過酸化水素水58.2gを純水191.6gで希釈した水溶液を6時間(添加速度0.20mmol/hr.)で添加し、リンタングステン酸を溶解した。
【0165】
次に、これを室温まで冷却した後に、得られた溶液から未溶解の残渣10gを分離し、リンタングステン酸カリウム溶解液(WO換算濃度5.6質量%)を得た。
【0166】
この溶液を純水10000gで希釈した後、陽イオン交換樹脂(三菱ケミカル(株)製 PK-216)を使用して脱イオンを行った。
【0167】
次に、この脱イオンした溶液(WO換算濃度0.2質量%)を温度60℃で10時間加熱した後、過酸化水素水を100g添加し、更に温度60℃で10時間加熱した。その後、限外膜を使用して濃縮し、リンタングステン酸化物粒子の水分散液を製造した。この水分散液のWO換算濃度は15質量%であった。
【0168】
〈有機珪素化合物による粒子の表面処理〉
工程3で製造されたリンタングステン酸化物粒子の水分散液を使用した以外は、実施例1と同様に粒子の表面処理をして、リンタングステン酸化物粒子のMIBK分散液を製造した。この時の固形分濃度は2.0質量%、WO換算濃度は1.8質量%、水分は0.2質量%であった。
【0169】
このリンタングステン酸化物粒子のMIBK分散液を使用した以外は、実施例1と同様にして、塗布液及び被膜付き基材を製造し、その特性を評価した。
【0170】
[実施例10]
[Ag担持五酸化二アンチモン酸化物粒子の製造]
実施例1で製造した五酸化二アンチモン粒子の水分散液100gと純水1900gとを混合した。これに硝酸銀(富士フィルム和光純薬(株)製 Ag換算濃度63質量%)1.2gを純水90gで溶解させた液を混合した。
【0171】
この混合液を98℃で6時間加熱攪拌した。その後、限外膜を使用して固形分濃度が15質量%になるまで濃縮し、これを純水400gで洗浄して銀担持五酸化二アンチモン粒子の水分散液を製造した。この水分散液のSb換算濃度は15質量%であり、Ag換算濃度は0.6質量%であった。
【0172】
〈有機珪素化合物による粒子の表面処理〉
この銀担持五酸化二アンチモン粒子の水分散液を使用した以外は、実施例1と同様に粒子の表面処理をして、銀担持五酸化二アンチモン粒子のMIBK分散液を製造した。この時の固形分濃度は2.0質量%、Sb換算濃度は1.73質量%、Ag換算濃度は0.07質量%、水分は0.2質量%であった。
【0173】
この銀担持五酸化二アンチモン粒子のMIBK分散液を使用した以外は、実施例1と同様にして、塗布液及び被膜付き基材を製造し、その特性を評価した。
【0174】
[実施例11]
[Cu担持五酸化二アンチモン酸化物粒子の製造]
実施例1で製造した五酸化二アンチモン粒子の水分散液100gと純水1900gを混合した。これに硝酸銅3水和物(富士フィルム和光純薬(株)製 Cu換算濃度23質量%)1.5gを純水90gで溶解させた液を混合した。
【0175】
この混合液を98℃で6時間加熱攪拌した。その後、限外膜を使用して固形分濃度が15質量%になるまで濃縮し、これを純水400gで洗浄して銅担持五酸化二アンチモン粒子の水分散液を製造した。この水分散液の銅担持五酸化二アンチモン粒子のSb換算濃度は15質量%であり、Cu換算濃度は0.3質量%であった。
【0176】
〈有機珪素化合物による粒子の表面処理〉
この銅担持五酸化二アンチモン粒子の水分散液を使用した以外は、実施例1と同様に粒子の表面処理をして、銅担持五酸化二アンチモン粒子のMIBK分散液を製造した。この時の固形分濃度は2.0質量%、Sb換算濃度は1.76質量%、Cu換算濃度は0.04質量%、水分は0.2質量%であった。
【0177】
この銅担持五酸化二アンチモン粒子のMIBK分散液を使用した以外は、実施例1と同様にして、塗布液及び被膜付き基材を製造し、その特性を評価した。
【0178】
[実施例12]
[Zn担持五酸化二アンチモン酸化物粒子の製造]
実施例1で製造した五酸化二アンチモン粒子の水分散液100gと純水1900gを混合した。これに硝酸亜鉛6水和物(富士フィルム和光純薬(株)製 Zn換算濃度22質量%)2.4gを純水90gで溶解させた液を混合した。
【0179】
この混合液を98℃で6時間加熱攪拌した。その後、限外膜を使用して固形分濃度が15質量%になるまで濃縮し、これを純水400gで洗浄して亜鉛担持五酸化二アンチモン粒子の水分散液を製造した。この水分散液の亜鉛担持五酸化二アンチモン粒子のSb換算濃度は15質量%であり、Zn換算濃度は0.6質量%であった。
【0180】
〈有機珪素化合物による粒子の表面処理〉
この亜鉛担持五酸化二アンチモン粒子の水分散液を使用した以外は、実施例1と同様に粒子の表面処理をして、亜鉛担持五酸化二アンチモン粒子のMIBK分散液を製造した。この時の固形分濃度は2.0質量%、Sb換算濃度は1.73質量%、Zn換算濃度は0.07質量%、水分は0.2質量%であった。
【0181】
この亜鉛担持五酸化二アンチモン粒子のMIBK分散液を使用した以外は、実施例1と同様にして、塗布液及び被膜付き基材を製造し、その特性を評価した。
【0182】
[実施例13]
[スルホ基付与シリカ粒子の製造]
純水1666.7gにシリカゾル(日揮触媒化成(株)製 カタロイド SI-30 SiO換算濃度 30質量% 平均粒子径 12nm)を333.3g加えて混合した。
【0183】
この混合液に陽イオン交換樹脂(三菱ケミカル(株)製 SK-1BH)を200g加えて80℃で24時間攪拌した。次に、これを室温まで冷却し、イオン交換樹脂を分離して、SiO換算濃度 5質量%、平均粒子径 12nmの、イオン交換されたシリカゾルを得た。次いで、このイオン交換されたシリカゾルを80℃で乾燥し、無水硫酸ガスを吹き付けて、乾燥粉末を得た。
【0184】
次に、この乾燥粉末100gと、純水400gと、石英ビーズ(φ0.1mm 3kg)とを混合し、ビーズミルで分散させた。その後、石英ビーズと分散液とを分離し、陽イオン交換樹脂(三菱ケミカル(株)製 SK-1BH)を用いて、室温にてイオン交換を行い、スルホ基が付与されたシリカ粒子の水分散液を得た。この水分散液のSiO換算濃度は15質量%であった。
【0185】
〈有機珪素化合物による粒子の表面処理〉
このスルホ基が付与されたシリカ粒子の水分散液を使用した以外は、実施例1と同様に粒子の表面処理をして、スルホ基が付与されたシリカ粒子の水分散液のMIBK分散液を製造した。この時の固形分濃度は2.0質量%、SiO換算濃度は1.8質量%、水分は0.2質量%であった。
【0186】
このスルホ基が付与されたシリカ粒子のMIBK分散液を使用した以外は、実施例1と同様にして、塗布液及び被膜付き基材を製造し、その特性を評価した。
【0187】
[実施例14]
実施例1で調製した五酸化二アンチモン粒子の水分散液80gに、実施例13にて製造されたスルホ基付与シリカ粒子の水分散液20gを加えて混合した。
【0188】
〈有機珪素化合物による粒子の表面処理〉
この混合分散液を使用した以外は、実施例1と同様に粒子の表面処理をして、五酸化二アンチモン粒子とスルホ基が付与されたシリカ粒子の水分散液のMIBK分散液を製造した。この時の固形分濃度は2.0質量%、SiO換算濃度は0.36質量%、Sb換算濃度は1.44質量%、水分は0.2質量%であった。
【0189】
このMIBK分散液を使用した以外は実施例1と同様にして、塗布液及び被膜付き基材を製造し、その特性を評価した。
【0190】
[比較例1]
[シリカ粒子の製造]
純水1666.7gに、シリカゾル(日揮触媒化成(株)製 カタロイド SI-30、SiO換算濃度 30質量%、平均粒子径12nm)を333.3g加えて混合した。次いで、陽イオン交換樹脂(三菱ケミカル(株)製 SK-1BH)を200g加えて80℃で24時間攪拌した。次いで室温まで冷却し、イオン交換樹脂を分離して、イオン交換処理されたシリカゾル(SiO換算濃度 5質量%、平均粒子径12nm)を得た。
【0191】
〈有機珪素化合物による粒子の表面処理〉
このイオン交換処理されたシリカゾルの固形分として8g相当量、シランカップリング剤(信越化学工業(株)製 KBM403)0.8g、及びメタノール160gを混合した以外は実施例1と同様に粒子の表面処理をして、シリカ粒子のMIBK分散液を製造した。この時の固形分濃度は16.0質量%、SiO換算濃度は14.0質量%、水分は0.2質量%であった。
【0192】
このシリカ粒子のMIBK分散液を使用した以外は実施例1と同様にして、塗布液及び被膜付き基材を製造し、その特性を評価した。
【0193】
[比較例2]
[シリカ粒子の製造]
比較例1で調製したイオン交換処理されたシリカゾル(SiO換算濃度 5質量%、平均粒子径12nm)をオートクレーブに入れ、200℃で24時間、攪拌しながら熟成した。この熟成品のSiO換算濃度は5質量%、平均粒子径は12nmであった。
【0194】
〈有機珪素化合物による粒子の表面処理〉
このシリカゾルの熟成品の固形分として8g相当量、シランカップリング剤(信越化学工業(株)製 KBM403)0.8g、及びメタノール160gを混合した以外は実施例1と同様に粒子の表面処理をして、シリカ粒子のMIBK分散液を製造した。この時の固形分濃度は16.0質量%、SiO換算濃度は14.0質量%、水分は0.2質量%であった。
【0195】
このシリカ粒子のMIBK分散液を使用した以外は実施例1と同様にして、塗布液及び被膜付き基材を製造し、その特性を評価した。
【0196】
[比較例3]
[シリカアルミナ粒子の製造]
純水1200gにシリカアルミナゾル(日揮触媒化成(株)製 カタロイドUSBB-120、酸化物換算濃度 12.5質量%、アルミナ分率 25質量%、平均粒子径 25nm)を800g加えて混合した。次いで、陽イオン交換樹脂(三菱ケミカル(株)製 SK-1BH)を200g加えて、pHが4.0になるまで攪拌した。次いでイオン交換樹脂を分離して、イオン交換処理されたシリカアルミナゾル(シリカアルミナ換算濃度 5質量%、平均粒子径25nm)を得た。
【0197】
〈有機珪素化合物による粒子の表面処理〉
このイオン交換処理されたシリカアルミナゾルを50g、シランカップリング剤(信越化学工業(株)製 KBM403)0.8g、及びメタノール500gを混合した以外は実施例1と同様に粒子の表面処理をして、シリカアルミナ粒子のMIBK分散液を製造した。この時の固形分濃度は2.0質量%、シリカアルミナ換算濃度は1.8質量%、水分は0.2質量%であった。
【0198】
このシリカアルミナ粒子のMIBK分散液を使用した以外は実施例1と同様にして、塗布液及び被膜付き基材を製造し、その特性を評価した。
【0199】
[比較例4]
[Ag担持シリカアルミナ粒子の製造]
純水1200gにシリカアルミナゾル(日揮触媒化成(株)製 カタロイドUSBB-120、酸化物換算濃度 12.5質量%、アルミナ分率 25質量%、平均粒子径 5nm)を800g加えて混合した。次いで、陽イオン交換樹脂(三菱ケミカル(株)製 SK-1BH)を200g加えてpHが4.0になるまで攪拌した。次いでイオン交換樹脂を分離して、イオン交換処理されたシリカアルミナゾル(シリカアルミナ換算濃度 5質量%、平均粒子径25nm)を得た。
【0200】
次にこのイオン交換処理されたシリカアルミナゾル100gに、Agとして1質量%の硝酸銀水溶液100g、及び28.8%アンモニア水を添加してpHを10に調整し、98℃で6時間熟成した。
【0201】
次に、限外膜を使用して、この混合液を50gまで濃縮し、その後純水2000gを用いて連続添加しながら濾水を排出させて洗浄し、AgO担持シリカアルミナゾルを得た。この時の固形分濃度は3.0質量%(内、固形分中のAg換算濃度としては1.5質量%)pHは7.4であった。
【0202】
次に、限外膜を使用して、この溶液100gを50gまで濃縮した。この水分散液の酸化物換算濃度は1.82質量%、AgO換算濃度は0.06質量%(Ag換算濃度としては2質量%)であった。
【0203】
〈有機珪素化合物による粒子の表面処理〉
このAgO担持シリカアルミナゾルを50g、シランカップリング剤(信越化学工業(株)製 KBM403)0.8g、及びメタノール500gを混合し、攪拌しながら50℃の恒温槽で24時間保持した。
【0204】
次に、限外膜を使用して、この混合液を50gまで濃縮した。
【0205】
これに、メタノール800gを連続添加しながら濾水を排出させて、溶媒をメタノールに置換した。このメタノール置換品の固形分濃度は3.0質量%、水分は0.3質量%であった。
【0206】
次に、このメタノール置換品50gをナス型フラスコに入れて、メチルイソブチルケトン(MIBK)150gを加え、ロータリーエバポレーターに取り付けた。これを減圧しながら、80℃の湯浴にてMIBKに溶媒置換させ、AgO担持シリカアルミナ粒子のMIBK分散液を製造した。この時の固形分濃度は2.0質量%、酸化物換算濃度は1.82質量%、AgO換算濃度は0.06質量%(Ag換算濃度としては、2質量%)、水分は0.2質量%であった。
【0207】
このAgO担持シリカアルミナ粒子のMIBK分散液を使用した以外は実施例1と同様にして、塗布液及び被膜付き基材を製造し、その特性を評価した。
【0208】
【表2】