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特開2024-141133固体電解質担持用不織布及び固体電解質シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141133
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】固体電解質担持用不織布及び固体電解質シート
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/44 20210101AFI20241003BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241003BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20241003BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20241003BHJP
   H01M 50/429 20210101ALI20241003BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20241003BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20241003BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20241003BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M50/44
H01M10/0562
H01M50/443 M
H01M50/434
H01M50/429
H01M50/489
H01M50/414
H01M50/446
H01M50/451
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052618
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】重松 俊広
(72)【発明者】
【氏名】森川 貴之
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
5H021BB05
5H021CC01
5H021CC02
5H021CC04
5H021EE02
5H021EE08
5H021EE11
5H021EE21
5H021HH01
5H021HH03
5H021HH05
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029DJ04
5H029DJ15
5H029EJ12
5H029HJ04
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、ポリエステル繊維を含む固体電解質担持用不織布において、穴欠点が少なく、固体電解質の担持性に優れた固体電解質担持用不織布を提供することである。また、インピーダンスが低く、固体電解質担持用不織布の繊維に起因したひび割れが少なく、繊維と固体電解質との界面での密着不良が発生し難い固体電解質シートを提供することにある。
【解決手段】フィブリル化天然セルロース繊維と合成樹脂短繊維とを含有してなり、固体電解質担持用不織布に含まれる全繊維成分に対して、フィブリル化天然セルロース繊維の含有率が5質量%以上20質量%以下であり、合成樹脂短繊維として、平均繊維径が2.7μm以下の延伸ポリエステル繊維と平均繊維径が4.5μm以下の未延伸ポリエステル繊維を含み、坪量が3.0g/m未満である固体電解質担持用不織布、並びに、該固体電解質担持用不織布の表面及び内部に担持されている固体電解質とを有している固体電解質シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布の表面及び内部に固体電解質を担持させる固体電解質担持用不織布において、該固体電解質担持用不織布は、フィブリル化天然セルロース繊維と合成樹脂短繊維とを含有してなり、該固体電解質担持用不織布に含まれる全繊維成分に対して、フィブリル化天然セルロース繊維の含有率が5質量%以上20質量%以下であり、合成樹脂短繊維として、平均繊維径が2.7μm以下の延伸ポリエステル繊維と平均繊維径が4.5μm以下の未延伸ポリエステル繊維を含み、該固体電解質担持用不織布の坪量が3.0g/m未満であることを特徴とする固体電解質担持用不織布。
【請求項2】
該固体電解質担持用不織布の坪量が2.0g/m以上2.9g/m以下であり、該固体電解質担持用不織布の厚さが4μm以上10μm未満である請求項1記載の固体電解質担持用不織布。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の固体電解質担持用不織布と、該固体電解質担持用不織布の表面及び内部に担持されている固体電解質とを有していることを特徴とする固体電解質シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質担持用不織布及び固体電解質シートに関する。以下、「固体電解質担持用不織布」を「担持用不織布」と略記する場合がある。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、モーターを動力源とする自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に用いられる大容量で高性能な二次電池の需要が増加している。使用する用途が広がるに伴い、二次電池の更なる安全性の向上及び高性能化が要求されている。
【0003】
代表的な二次電池であるリチウム電池の安全性を確保する方法として、有機溶媒電解質に代えて固体電解質を用いる方法が有効である。固体電解質は、不燃性であり、有機溶媒電解質と比較して安全性が高い。固体電解質を用い、高い安全性を備えた全固体リチウム電池は、固体電解質層と、正極活物質層及び負極活物質層と、正極活物質層及び負極活物質層に接合された集電部材とを備えている。固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有する必要があり、例えば、硫化物系固体電解質、水素化物系固体電解質、酸化物系固体電解質などが挙げられる。
【0004】
取り扱いの便宜上、シート状の固体電解質層が求められている。また、固体電解質のリチウムイオン伝導性は固体電解質層の厚みに依存するため、シート状の固体電解質層を薄くする必要がある。しかしながら、固体電解質だけからなる単一層の薄い固体電解質層を形成することは難しい。
【0005】
このような課題に対し、特許文献1では、基材上に設置された不織布の表面に、固体電解質を含む塗工液を塗布、乾燥することにより形成される固体電解質シートが開示されている。また、不織布、及び、当該不織布の表面及び内部に固定電解質を含むシートであって、不織布の平方メートル当たりの重量が8g以下であり、前記不織布の厚さが10μm以上25μm以下である、固体電解質シートが開示されている。さらに、不織布は、繊度が0.01~1dtexの範囲であり、可撓性を有する繊維からなること、及び、可撓性を有する繊維は、ポリエチレンテレフタラート(ポリエチレンテレフタレート)繊維であることが開示されている。
【0006】
しかしながら、引用文献1に開示されている不織布は、引張強度が極めて低く、連続塗工が困難であることから、基材上に設置された不織布に塗工液を塗布しており、量産性が低く、生産コストが高くなるという課題があった。
【0007】
また、固体電解質だけからなる単一層の固体電解質層と比べると、不織布の表面及び内部に固体電解質を含むシートは、抵抗が高いため、不織布の更なる低坪量化と薄膜化が求められている。湿式抄造法により製造された湿式不織布の場合、3~4g/m以下の坪量では、不織布を構成する繊維本数自体が減るため、繊維が抄紙ワイヤーや抄紙毛布に付着して欠落した部分が穴欠点となる。この穴欠点部分には、固体電解質を担持できないという課題があった。
【0008】
さらに、不織布に固体電解質の塗工液を塗布した後、固体電解質層の緻密性を上げるために、熱プレス処理した際に、不織布を構成する繊維に起因する微細なひび割れが固体電解質シートに入る課題があった。また、不織布を構成する繊維と固体電解質との界面での密着不良が発生するため、リチウムイオン伝導性が低下する課題があった。
【0009】
引用文献2には、不織布の表面及び内部に固体電解質を担持させる固体電解質担持用不織布において、該固体電解質担持用不織布はフィブリル化耐熱性繊維と合成樹脂短繊維とを含有してなり、該固体電解質担持用不織布に含まれる全繊維成分に対して、フィブリル化耐熱性繊維の含有率が2質量%以上40質量%以下であり、合成樹脂短繊維として、融点160℃以上の樹脂を芯成分とし、ポリエチレン樹脂を鞘成分とする芯鞘型複合繊維を含むことを特徴とする固体電解質担持用不織布が開示されている。また、引用文献3には、固体電解質を担持するための固体電解質担持用不織布であって、捲縮を有する熱融着性複合繊維が60質量%以上100質量%以下で含有され且つ熱融着されている不織布Aであることを特徴とする固体電解質担持用不織布が開示されている。そして、捲縮を有する熱融着性複合繊維として、芯がポリプロピレン系重合体からなり、鞘が、芯で用いられたポリプロピレン系重合体よりも融点の低いポリオレフィン系重合体からなる、芯鞘型の熱融着性複合繊維が開示されている。引用文献2及び3には、ポリエチレンテレフタレート繊維に代表されるポリエステル繊維を主に含む固体電解質担持用不織布において、穴欠点、繊維に起因するひび割れ、繊維と固体電解質との界面での密着不良等を解決する手段については何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2016-31789号公報
【特許文献2】特開2020-24860号公報
【特許文献3】国際公開第2021/200621号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、ポリエステル繊維を含む固体電解質担持用不織布において、穴欠点が少なく、固体電解質の担持性に優れた固体電解質担持用不織布を提供することである。また、インピーダンスが低く、固体電解質担持用不織布の繊維に起因したひび割れが少なく、繊維と固体電解質との界面での密着不良が発生し難い固体電解質シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために鋭意研究した結果、下記発明を見出した。
【0013】
(1)不織布の表面及び内部に固体電解質を担持させる固体電解質担持用不織布において、該固体電解質担持用不織布は、フィブリル化天然セルロース繊維と合成樹脂短繊維とを含有してなり、該固体電解質担持用不織布に含まれる全繊維成分に対して、フィブリル化天然セルロース繊維の含有率が5質量%以上20質量%以下であり、合成樹脂短繊維として、平均繊維径が2.7μm以下の延伸ポリエステル繊維と平均繊維径が4.5μm以下の未延伸ポリエステル繊維を含み、該固体電解質担持用不織布の坪量が3.0g/m未満であることを特徴とする固体電解質担持用不織布。
【0014】
(2)該固体電解質担持用不織布の坪量が2.0g/m以上2.9g/m以下であり、該固体電解質担持用不織布の厚さが4μm以上10μm未満である(1)記載の固体電解質担持用不織布。
【0015】
(3)(1)又は(2)に記載の固体電解質担持用不織布と、該固体電解質担持用不織布の表面及び内部に担持されている固体電解質とを有していることを特徴とする固体電解質シート。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ポリエステル繊維を含む固体電解質担持用不織布において、穴欠点が少なく、固体電解質の担持性に優れた固体電解質担持用不織布を提供できることである。また、インピーダンスが低く、固体電解質担持用不織布の繊維に起因したひび割れが少なく、繊維と固体電解質との界面での密着不良が発生し難い固体電解質シートを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
全固体リチウム電池の構造の一例について説明する。本発明の固体電解質担持用不織布及び固体電解質シートが利用できる全固体リチウム電池は、この一例に限定されない。
【0018】
全固体リチウム電池は、正極集電部材、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電部材から構成される。
【0019】
正極集電部材と負極集電部材は、導電体であれは、特に限定されず、例えば、銅、マグネシウム、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、ゲルマニウム、インジウム、リチウム等の金属又はこれらの金属を含む合金等からなる板状体や箔状体等が使用できる。
【0020】
正極活物質層は、固体電解質、正極活物質、正極層導電助剤及び正極層結着剤を含有する。
【0021】
固体電解質は、第1成分として、少なくとも硫化リチウムを含み、第2成分として、硫化ケイ素、硫化リン及び硫化ホウ素からなる群より選ばれる一つ以上の化合物を含むことが好ましく、特に、LiS-Pが好ましい。この硫化物系の固体電解質は、リチウムイオン伝導性が他の無機化合物より高いことが知られている。LiS-Pに、さらに、SiS,GeS,B等の硫化物を含んでいてもよい。また、固体電解質には、適宜、Li、ハロゲン、ハロゲン化合物等を添加した固体電解質を用いても良い。
【0022】
また、硫化物系固体電解質は、LiSとPとを溶融温度以上に加熱して所定の比率で両方を溶融混合し、所定時間保持した後、急冷することにより得られる(溶融急冷法)。熱処理の所定時間は、0.1時間以上が好ましい。急冷方法としては、液体窒素中に投入して急冷し、目的とするガラス化した固体電解質を得る方法、ガラス管中に真空封止し、これを加熱溶融した後、氷水などで急冷する方法等が挙げられる。また、LiS-Pメカニカルミリング法によって得ることもできる。上記のLiS-Pで示される硫化物としては、LiSとPをモル比で、好ましくは50:50~80:20、より好ましくは60:40~75:25で混合させて得られる硫化物が挙げられる。
【0023】
固体電解質として、硫化物系固体電解質の他に、無機化合物からなるリチウムイオン伝導体を無機固体電解質として含有するものが例示される。このようなリチウムイオン伝導体としては、例えば、LiN、LISICON、LiPON(Li3+yPO4-x)、Thio-LISICON(Li3.25Ge0.250.75)、LiO-Al-TiO-P(LATP)がある。
【0024】
固体電解質は、非晶質、ガラス状、結晶(結晶化ガラス)等の構造をとる。正極活物質層、負極活物質層、電解質層の各々における固体電解質は、例えば、非晶体と結晶体との混合物から構成される。非晶体は、前述の硫化物の第1成分と第2成分とを混合して、メカニカルミリング法によって処理することによって製造することができる。結晶体は非晶質体を焼成処理することなどによって製造することができる。
【0025】
正極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することが可能な物質であれば、特に限定されず、例えば、コバルト酸リチウム(LCO)、ニッケル酸リチウム、ニッケルコバルト酸リチウム、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(以下、「NCA」と略記する場合がある)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(以下、「NCM」と略記する場合がある)、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、硫化ニッケル、硫化銅、硫黄、酸化鉄、酸化バナジウム等が挙げられる。これらの正極活物質は、単独で用いられても良く、2種類以上が併用されても良い。
【0026】
正極活物質としては、特に、層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩であることが好ましい。ここで言う「層状」とは、薄いシート状の形状のことを意味し、「岩塩型構造」とは、結晶構造の一種である塩化ナトリウム型構造のことであり、陽イオン及び陰イオンのそれぞれが形成する面心立方格子が、互いに単位格子の稜の1/2だけずれた構造を指す。このような層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩として、例えば、Li1.1-xNiCoAl1-y-z(NCA)又はLi1.1-xNiCoMn1-y-z(NCM)(0<x<0.6、0<y<1、0<z<1かつy+z<1)で表される3元系の遷移金属酸化物のリチウム塩が挙げられる。
【0027】
正極層導電助剤は、正極活物質間に導電ネットワークを構成して、正極活物質層の抵抗を低減するために添加される。導電助剤は正極活物質層中に適量含有されれば良い。正極層導電助剤としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、天然黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等が挙げられる。正極層の導電性を高めるものであれば特に制限されず、単独で使用されても良いし、複数を併用しても良い。
【0028】
正極層結着剤としては、例えば、SBS(スチレンブタジエンスチレンブロック重合体)、SEBS(スチレンエチレンブタジエンスチレンブロック重合体)、スチレン-スチレンブタジエン-スチレンブロック重合体等のスチレン系熱可塑性エラストマー類、SBR(スチレンブタジエンゴム)、BR(ブタジエンゴム)、NR(天然ゴム)、IR(イソプレンゴム)、EPDM(エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体)、NBR(ニトリルゴム)、CR(クロロプレンゴム)、及びこれらの部分水素化物、あるいは完全水素化物、ポリアクリル酸エステルの共重合体、PVDF(ポリビニリデンフロライド)、PDF-HFP(ビニリデンフロライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)及び、それらのカルボン酸変性物、CM(塩素化ポリエチレン)、ポリメタクリル酸エステル、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等が例示される。その他、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリシクロオレフィン、シリコン樹脂等が例示される。
【0029】
正極活物質層中の固体電解質、正極活物質、正極層導電助剤、及び、正極層結着剤の含有量の比については、特に制限されない。例えば、正極活物質層の総質量に対して、固体電解質は3~50質量%、正極活物質は45~95質量%、正極層導電助剤は1~10質量%、正極層結着剤は0.5~4質量%であることが好ましい。
【0030】
固体電解質層は、本発明の固体電解質シートからなる。固体電解質シートは、固体電解質担持用不織布と、該固体電解質担持用不織布の表面及び内部に担持されている固体電解質とを有している。固体電解質は、電解質結着剤とともに担持されていても良い。固体電解質シートは自立性であることが好ましい。固体電解質、特に、硫化物系固体電解質は反応性が高いため、電解質結着剤は、極性官能基を有しない非極性樹脂である方が好ましい。固体電解質としては、前述の正極層結着剤と同様の固体電解質を使用することができる。電解質結着剤としては、前述の正極層結着剤として例示した結着剤を含むことが好ましい。
【0031】
固体電解質層内において、固体電解質及び電解質結着剤の含有量の比については、特に制限されない。例えば、固体電解質及び電解質結着剤の総質量に対して、固体電解質は95~99.5質量%、電解質結着剤は0.5~5質量%であることが好ましい。
【0032】
本発明の固体電解質シートを製造する方法について説明する。本発明の固体電解質シートは、媒体を用いて固体電解質をスラリー化して固体電解質を含む塗工液を調製し、担持用不織布に塗工し、乾燥することで作製できる。該媒体は、固体電解質の性能に悪影響を与えないものであれば、特に限定されない。該媒体としては、例えば、非水系溶媒が挙げられる。非水系溶媒としては、例えば、乾燥ヘプタン、トルエン、ヘキサン、テトラヒドロフラン(THF)、N-メチルピロリドン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート等の電解液に用いられる非水系溶媒が挙げられる。媒体の水分含有量は100ppm以下が好ましく、より好ましくは50ppm以下である。
【0033】
固体電解質を含む塗工液を担持用不織布の両面又は片面に塗工する場合の装置としては、各種の塗工装置を用いることができる。例えば、グラビアコーター、ダイコーター、リップコーター、ブレードコーター、カーテンコーター、エアーナイフコーター、ロッドコーター、ロールコーター、キスタッチコーター、ディップコーター等の各種コーターを用いることができる。
【0034】
固体電解質の塗工液を塗工後、乾燥を行い、固体電解質の塗層を形成する。乾燥には、熱風、ヒーター、高周波等による乾燥装置を用いることができる。乾燥は、固体電解質シートの両面から行っても良いし、片面から行っても良い。この時、スラリー中の溶媒の取り除きが不十分にならないように、乾燥条件を調整することが好ましい。例えば、熱風乾燥の場合、温度と風量を最適に調整することが好ましい。乾燥した固体電解質シートをそのまま用いることもできるが、さらに熱プレス処理して強度を高くすることもできる。熱プレス処理には、シートプレスやロールプレス等を用いることができる。加圧時の圧力が低いと、固体電解質層の厚さが不均一になるおそれがある。該圧力が高いと、固体電解質にひび割れや固体電解質層と構成繊維の界面に密着不良が発生する場合がある。また、固体電解質が塗工された担持用不織布が破損するおそれがある。
【0035】
負極活物質層は、負極活物質と負極層結着剤と固体電解質を含有する。負極層結着剤と固体電解質としては、前述の正極層結着剤と同様の結着剤と固体電解質を使用することができる。
【0036】
負極活物質として、黒鉛系活物質グラファイト(例えば、人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛等)、金属リチウム、シリコン合金、スズ合金などが挙げられる。グラファイトの粉末は、無機化合物や金属などで少なくとも一部分を被覆しても良い。
【0037】
負極活物質、固体電解質、負極層結着剤の含有量の比については、特に制限されない。例えば、負極活物質層の総質量に対して、硫化物系固体電解質は0~40質量%、負極活物質は60~99.5質量%、負極層結着剤は0.5~5質量%含んでいることが好ましい。
【0038】
次に、本発明の固体電解質担持用不織布について説明する。
【0039】
本発明の固体電解質担持用不織布は、不織布の表面及び内部に固体電解質を担持させる固体電解質担持用不織布である。本発明の固体電解質担持用不織布は、フィブリル化天然セルロース繊維と合成樹脂短繊維とを含有してなり、該固体電解質担持用不織布に含まれる全繊維成分に対して、フィブリル化天然セルロース繊維の含有率が5質量%以上20質量%以下であり、合成樹脂短繊維として、平均繊維径が2.7μm以下の延伸ポリエステル繊維と平均繊維径が4.5μm以下の未延伸ポリエステル繊維を含み、該固体電解質担持用不織布の坪量が3.0g/m未満であることを特徴とする。
【0040】
天然セルロース繊維としては、針葉樹や広葉樹などの木材繊維;コットンリンター、ボンバックス綿、カボックなどの種子毛繊維;竹繊維、サトウキビ繊維、麻、コウゾ、ミツマタなどのジン皮繊維;マニラ麻などの葉繊維などが挙げられる。
【0041】
これらの天然セルロース繊維のうち、フィブリル化により適度な繊維径に調整しやすい木材繊維や種子毛繊維などのパルプ由来の天然セルロース繊維が好ましい。天然セルロース繊維は、リグニンやヘミセルロース含量の少ない、α-セルロース含有量が98~100質量%の高純度セルロースの天然セルロース繊維が好ましい。
【0042】
本発明では、フィブリル化天然セルロース繊維の平均繊維径は、0.15~5μmであることが好ましく、より好ましくは0.20~3μmであり、さらに好ましくは0.25~2μmであり、特に好ましくは0.25~1μmである。フィブリル化天然セルロース繊維の平均繊維径は、固体電解質担持用不織布の表面や断面の走査型電子顕微鏡観察により、不織布を形成する繊維から無作為に選んだ50本の繊維径を計測し、50本の繊維径の平均値である。
【0043】
フィブリル化天然セルロース繊維の長さ加重平均繊維長は0.2mm以上3.0mm以下であることが好ましく、0.2mm以上2.0mm以下であることがより好ましく、0.2mm以上1.6mm以下であることがさらに好ましい。長さ加重平均繊維長が0.2mm以上であることにより、湿式抄造の際に抄紙網から抜け落ちて排水に流失する割合が多くなるのを防ぐことができる。そして、フィブリル化天然セルロース繊維が合成樹脂短繊維との緻密なネットワークを形成するために、湿紙強度が強くなり、抄紙網や抄紙毛布への繊維脱落を防止し、穴欠点の発生を防ぐことができる。また、長さ加重平均繊維長が3.0mm以下であることにより、繊維がもつれてダマになることを防ぐことができる。その結果、固体電解質を均一に塗工できるため、インピーダンスを低く保つことができ易くなる。
【0044】
本発明のフィブリル化天然セルロース繊維の長さ加重平均繊維長は、「JIS P 8226-2:2011、パルプ-光学自動分析法による繊維長測定方法 第2部:非偏光法」に基づき、OpTest Equipment Inc.社製ファイバークオリティーアナライザー(FQA-360)を使用して測定した値である。ファイバークオリティーアナライザー(FQA-360)では、検出部を通過する個々の繊維について、屈曲した繊維の全体の真の長さ(L)と屈曲した繊維の両端部の最短の長さ(l)を測定することができる。「長さ加重平均繊維長」とは、屈曲した繊維の両端部の最短の長さ(l)を測定した投影繊維長から計算した長さ加重平均繊維長である。
【0045】
フィブリル化される(叩解される)ことによる効果としては、フィブリル化天然セルロース繊維が固体電解質担持用不織布内部で細密構造を形成することにより、固体電解質スラリーの保持性能が向上し、固体電解質の担持性が向上する効果が挙げられる。また、細孔径が小さくなり、固体電解質が脱落し難くなる効果が挙げられる。
【0046】
本発明において、フィブリル化天然セルロース繊維を作製する方法としては、原料である天然セルロース繊維を媒体に分散させて、分散液を調整する。該媒体としては、水や有機溶媒が挙げられるが、生産性やコストの面から水が好適である。分散は、ホモディスパー、スリーワンモーター(登録商標)などを用いる。分散液の濃度は、0.01~5質量%が好ましく、0.1~3質量%がさらに好ましい。例えば、この分散液に20~200MPaの圧力差を与えて小径のオリフィスを通過させて高速度とし、これを壁面へ衝突させて急減速することにより、天然セルロース繊維に剪断力や切断力を加える高圧ホモジナイザーを用いて、5~100回繰り返すことで、フィブリル化天然セルロース繊維が得られる。
【0047】
本発明において、フィブリル化天然セルロース繊維は、高圧ホモジナイザーだけでフィブリル化させて製造しても良いが、高圧ホモジナイザーとその他の装置とを組み合わせて製造することもできる。他の装置としては、例えば、リファイナー、ビーター、摩砕装置などが挙げられる。
【0048】
固体電解質担持用不織布に含まれる全繊維成分に対して、フィブリル化天然セルロース繊維の含有率は、5質量%以上20質量%以下である。7質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。また、18質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。フィブリル化天然セルロース繊維の含有率が5質量%未満である場合、合成樹脂短繊維との緻密なネットワークが不足し、湿紙強度が低下し、抄紙網や抄紙用毛布に構成繊維が脱落し、担持用不織布に穴欠点が発生する場合がある。一方、フィブリル化天然セルロース繊維の含有率が20質量%を超えた場合、固体電解質担持用不織布の坪量が低いと、担持用不織布の強度が不足し、担持用不織布に固体電解質を塗工する際に皺や破れが発生する場合がある。また、フィブリル化天然セルロース繊維同士の結合が増え過ぎて、担持用不織布の空隙が減少し、固体電解質が塗工できない部分ができ、リチウムイオンの伝導性を阻害するため、インピーダンスが悪化する場合がある。
【0049】
本発明の固体電解質担持用不織布は、合成樹脂短繊維としては、平均繊維径が2.7μm以下の延伸ポリエステル繊維と平均繊維径が4.5μm以下の未延伸ポリエステル繊維を含む。
【0050】
固体電解質担持用不織布の全繊維成分に対して、平均繊維径が2.7μm以下の延伸ポリエステル繊維の含有率は、40質量%以上60質量%以下が好ましく、45質量%以上58質量%以下がより好ましく、50質量%以上55質量%以下がさらに好ましい。平均繊維径が2.7μm以下の延伸ポリエステル繊維の含有率が40質量%未満である場合、担持用不織布の空隙量が減少し、固体電解質の担持性が低下するため、リチウムイオンの伝導性が低下する場合がある。一方、60質量%を超えた場合、未延伸ポリエステル繊維の含有量が減少するため、担持用不織布の強度が低下し、固体電解質を塗工し難くなる場合がある。
【0051】
固体電解質担持用不織布の全繊維成分に対して、平均繊維径が4.5μm以下の未延伸ポリエステル繊維の含有率は、35質量%以上45質量%以下が好ましく、35質量%以上42質量%以下がより好ましく、35質量%以上40質量%以下がさらに好ましい。平均繊維径が4.5μm以下の未延伸ポリエステル繊維の含有率が35質量%未満である場合、担持用不織布の強度が低下し、固体電解質を塗工し難くなる場合がある。一方、平均繊維径が4.5μm以下の未延伸ポリエステル繊維の含有率が45質量%を超えた場合、固体電解質の担持性が低下するためにリチウムイオンの伝導性が低下する場合や、固体電解質シートを熱プレス処理した場合にシート内部に微細なひび割れが発生する場合や、固体電解質と繊維の界面に密着不良が発生する場合がある。
【0052】
延伸ポリエステル繊維の平均繊維径は、2.7μm以下であり、2.0μm以下がより好ましく、1.5μm以下が更に好ましい。一方、延伸ポリエステル繊維の平均繊維径の下限はないが、繊維の生産性や価格、担持用不織布製造時の繊維の分散性の面から、0.7μm以上が好ましい。
【0053】
未延伸ポリエステル繊維の平均繊維径は、4.5μm以下であり、3.7μm以下がより好ましく、3.5μm以下が更に好ましい。一方、未延伸ポリエステル繊維の平均繊維径の下限はないが、繊維の生産性やバインダー能力の面から、3.1μm以上が好ましい。
【0054】
延伸ポリエステル繊維及び未延伸ポリエステル繊維の平均繊維径とは、担持用不織布断面の走査型電子顕微鏡写真より、担持用不織布を形成する繊維について、繊維の長さ方向に対して垂直な断面又は垂直に近い断面の繊維を50本選択し、その繊維径を測定した平均値である。合成樹脂短繊維は熱や圧力によって溶融する場合や変形する場合がある。その場合は、断面積を測定して、真円換算の繊維径を算出する。
【0055】
合成樹脂短繊維の繊維長は1~15mmが好ましく、2~10mmがより好ましく、3~5mmがさらに好ましい。合成樹脂短繊維の繊維長が1mmより短い場合、担持用不織布から合成樹脂短繊維が脱落する場合や担持用不織布の強度が低下し、固体電解質を塗工し難くなる場合がある。合成樹脂短繊維の繊維長が15mmより長い場合、繊維がもつれてダマになることがあり、固体電解質を担持用不織布の内部や表面に押し込めない場合や固体電解質シートを熱プレス処理した際に、シート内部のひび割れや固体電解質と繊維の界面に密着不良が発生する場合や所定の厚さに調整できない場合がある。
【0056】
本発明において、ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステルが挙げられる。ポリエステル繊維は細くすることができるため、固体電解質担持用不織布の坪量を減らし、厚みを薄くすることができる。また、ポリエステル繊維は湿式抄造がし易いという利点がある。ポリエステル繊維を構成するポリエステルは、1種類であっても良いし、2種類以上であっても良い。
【0057】
固体電解質担持用不織布の坪量は、3.0g/m未満であり、2.0g/m以上2.9g/m以下が好ましく、2.3g/m以上2.8g/m以下がより好ましく、2.5g/m~2.7g/m以下がさらに好ましい。担持用不織布の坪量が2.0g/m未満の場合、担持用不織布の強度が低下し、固体電解質を担持させる際の作業性が悪化する場合や担持用不織布に穴欠点が発生しやすくなる場合がある。担持用不織布の坪量が3.0g/m以上である場合、構成する繊維の平均繊維径にも因るが、固体電解質層の緻密性を向上させるために行う熱プレス処理において、固体電解質にひび割れが発生する場合やリチウムイオンの伝導性が低下する場合がある。
【0058】
固体電解質担持用不織布の厚さは、10μm未満が好ましく、9μm以下がより好ましく、8μm以下がさらに好ましい。また、固体電解質担持用不織布の厚さは、4μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、6μm以上がさらに好ましい。担持用不織布の厚さを上記の範囲とした場合、本発明の担持用不織布では、スラリー化した固体電解質の塗工時に必要な強度を維持できるため、担持用不織布の湿式抄造工程も含め、各工程での作業性を損なうことがない。担持用不織布の厚さが10μmを超えると、担持用不織布のリチウムイオンの伝導性が低下する場合がある。また、全固体リチウム電池を高容量にすることができなくなる場合がある。担持用不織布の厚さが4μm未満であると、担持用不織布の引張強度が弱くなり過ぎて、担持用不織布の取り扱い時やスラリー化した固体電解質の塗工時に破損するおそれがあり、塗工作業性が悪化する場合がある。
【0059】
固体電解質担持用不織布の密度は、0.25g/cm以上0.50g/cm以下が好ましく、0.28g/cm以上0.46g/cm以下がより好ましく、0.30g/cm以上0.40g/cm以下がさらに好ましい。固体電解質担持用不織布の密度が0.25g/cm未満である場合、担持用不織布の強度が弱くなり過ぎて、担持用不織布の取り扱い時や塗工時に破損するおそれがある。固体電解質担持用不織布の密度が0.50g/cmを超えた場合、担持用不織布が緻密になり過ぎて、固体電解質の担持性が悪化し、その結果、固体電解質シートのリチウムイオンの伝導性が悪化する場合がある。
【0060】
本発明の固体電解質担持用不織布は、湿式抄造法によって製造される湿式不織布であることが好ましい。湿式抄造法では、繊維を水に分散した抄紙スラリーを抄紙機で漉きあげて湿式不織布を製作する。抄紙機としては、円網抄紙機、長網抄紙機、傾斜型抄紙機、傾斜短網抄紙機、これらの複合機が挙げられる。湿式不織布を製造する工程において、必要に応じて水流交絡処理を施しても良い。湿式不織布の加工処理として、熱処理、カレンダー処理、熱カレンダー処理などを施しても良い。
【実施例0061】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例において百分率(%)及び部は、断りのない限り全て質量基準である。また、塗工量は乾燥塗工量である。
【0062】
実施例1
<正極構造体の作製>
正極活物質としてのLiNiCoAlO三元系粉末と、硫化物系固体電解質としてのLiS-P(80:20モル%)非晶質粉末と、正極活物質層導電性物質(導電助剤)としての炭素繊維からなる導電助剤を、60/35/5の質量比となるように秤量し、自転公転ミキサを用いて混合した。
【0063】
この混合粉に、結着剤としてのSBRが溶解した脱水キシレン溶液をSBRが混合粉の総質量に対して5.0%となるように添加して1次混合液を作製した。さらに、この1次混合液に、粘度調整のための脱水キシレンを適量添加することで、2次混合液を作製した。さらに、混合粉の分散性を向上させるために、直径5mmのジルコニアボールを、空間、混合粉、ジルコニアボールがそれぞれ混練容器の全容積に対して1/3ずつを占めるように2次混合液に投入した。生成された3次混合液を自転公転ミキサに投入し、3000rpmで3分撹拌することで、正極塗工液を作製した。
【0064】
正極集電体として厚さ15μmのアルミ箔集電体を用意し、ガラス板上に正極集電体を載置し、ギャップを150μmに調整したアプリケーターを用いて正極塗工液をアルミ箔集電体に塗工した。その後、正極塗工液が塗工された集電体を60℃のホットプレートで30分乾燥させた後、80℃で12時間真空乾燥させた。これにより、正極集電体上に正極活物質層を形成した。乾燥後の正極集電体及び正極活物質層の総厚さは165μm前後であった。正極活物質層の塗工量は150g/mであった。
【0065】
正極活物質層を塗布した正極集電体をロールギャップ10μmのロールプレス機を用いて圧延することで、正極構造体を生成した。正極構造体の厚みは120μm前後であった。
【0066】
<負極構造体の作製>
負極活物質としての黒鉛粉末(80℃で24時間真空乾燥したもの)と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを95.0:5.0の質量%比で秤量した。そして、これらの材料と適量のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)とを自転公転ミキサに投入し、3000rpmで3分撹拌した後、1分脱泡処理することで、負極塗工液を作製した。
【0067】
負極集電部材として厚さ16μmの銅箔集電部材を用意し、ガラス板上に負極集電体を載置し、ギャップを150μmに調整したアプリケーターを用いて、銅箔集電部材上に負極塗工液を塗工した。負極塗工液が塗工されたシートを、80℃に加熱された乾燥機内に収納し、15分乾燥した。さらに、乾燥後の集電体を80℃で24時間真空乾燥を行った。負極活物質を塗布した負極集電体をロールギャップ10μmのロールプレス機を用いて圧延することで、負極構造体を作製した。負極構造体の厚みは140μm前後であった。負極活物質層の塗工量は150g/mであった。
【0068】
<スラリー化した固体電解質の調製>
LiS-P(80:20モル%)非晶質粉末に、SBR(電解質層結着剤)のキシレン溶液をSBRが非晶質粉末に対して1%となるように添加することで、1次混合液を作製した。さらに、この1次混合液に、NBR(電解質層結着剤)のキシレン溶液をNBRが非晶質粉末に対して0.5%となるように添加することで、2次混合液を作製した。さらに、この2次混合液に、粘度調整のために、脱水キシレンを適量添加することで、3次混合液を作製した。さらに、粉末の分散性を向上させるため、空間、混合液、ジルコニアボールがそれぞれ混錬容器の全容積に対して、1/3ずつを占めるように、3次混合液及び直径5mmのジルコニアボールを混練容器に投入した。これにより作製された4次混合液を自転公転ミキサに投入し、3000rpmで3分間攪拌することで、スラリー化した固体電解質を作製した。
【0069】
<担持用不織布の作製>
コットンリンターパルプを濃度2%になるように水に分散させ、クリアランスを徐々に狭めながら、ダブルディスクリファイナーを用いて10回繰り返し処理した後、49MPaの条件で高圧ホモジナイザーを用いて20回繰り返し処理し、平均繊維径0.3μm、長さ加重平均繊維長0.22mmのフィブリル化天然セルロース繊維を得た。
【0070】
平均繊維径が2.7μmの延伸ポリエステル短繊維が50部と、平均繊維径4.5μmの未延伸ポリエステル短繊維が40部と、フィブリル化天然セルロース繊維10部とを、パルパーにより水中に分散し、濃度0.5%の均一な抄紙スラリーを調製した。抄紙スラリーを円網型抄紙機で漉き上げて湿紙ウェブを得た。湿紙ウェブを表面温度135℃のシリンダードライヤーによって乾燥し、シートを得た。片方のロールがクロムメッキされた鋼製ロールであり、他方のロールがショアー硬度D92の樹脂ロールであり、鋼製ロールの表面温度が200℃の熱カレンダー装置により、シートを熱カレンダー処理し、坪量が2.9g/m、厚さ9.4μmの固体電解質担持用不織布を作製した。
【0071】
<固体電解質シートの作製>
実施例1の固体電解質担持用不織布は、連続して上方からガイドローラーを経て、前述のスラリー化した固体電解質を入れた塗工槽内に導かれる。塗工槽内において、スラリー化した固体電解質に浸漬され、固体電解質を担持用不織布の内部まで含浸させることを目的として、塗工槽内のロールプレスでニップされ、ガイドローラーを経て上に引き上げられる。その後、担持用不織布の両面は、プラスチックブレードを当てて平滑にされ、余分なスラリーが掻き落とされ、固体電解質を含浸させた担持用不織布を熱風乾燥機に導き、両面から乾燥し、厚さ180μmの固体電解質シートを作製した。
【0072】
実施例2
平均繊維径が2.7μmの延伸ポリエステル短繊維が60部と、平均繊維径4.5μmの未延伸ポリエステル短繊維が35部と、フィブリル化天然セルロース繊5部とした以外、実施例1と同様な方法で坪量2.7g/m、厚さ8.0μmの固体電解質担持用不織布を作製した。ついで、実施例1と同様の方法で、固体電解質シートを作製した。
【0073】
実施例3
平均繊維径が2.7μmの延伸ポリエステル短繊維が40部と、平均繊維径4.5μmの未延伸ポリエステル短繊維が40部と、フィブリル化天然セルロース繊20部とした以外、実施例1と同様な方法で坪量2.5g/m、厚さ7.8μmの固体電解質担持用不織布を作製した。ついで、実施例1と同様の方法で、固体電解質シートを作製した。
【0074】
実施例4
平均繊維径が2.2μmの延伸ポリエステル短繊維が50部と、平均繊維径3.7μmの未延伸ポリエステル短繊維が40部と、フィブリル化天然セルロース繊10部とした以外、実施例1と同様な方法で坪量2.3g/m、厚さ5.6μmの固体電解質担持用不織布を作製した。ついで、実施例1と同様の方法で、固体電解質シートを作製した。
【0075】
実施例5
平均繊維径が1.0μmの延伸ポリエステル短繊維が50部と、平均繊維径3.7μmの未延伸ポリエステル短繊維が40部と、フィブリル化天然セルロース繊10部とした以外、実施例1と同様な方法で坪量2.0g/m、厚さ4.4μmの固体電解質担持用不織布を作製した。ついで、実施例1と同様の方法で、固体電解質シートを作製した。
【0076】
実施例6
実施例4と同様な方法で坪量1.9g/m、厚さ5.1μmの固体電解質担持用不織布を作製した。ついで、実施例1と同様の方法で、固体電解質シートを作製した。
【0077】
実施例7
実施例1と同様な方法で坪量2.8g/m、厚さ12.5μmの固体電解質担持用不織布を作製した。ついで、実施例1と同様の方法で、固体電解質シートを作製した。
【0078】
実施例8
実施例1と同様な方法で坪量2.5g/m、厚さ3.8μmの固体電解質担持用不織布を作製した。ついで、実施例1と同様の方法で、固体電解質シートを作製した。
【0079】
比較例1
平均繊維径が2.7μmの延伸ポリエステル短繊維が56部と、平均繊維径4.5μmの未延伸ポリエステル短繊維が40部と、フィブリル化天然セルロース繊維4部とした以外、実施例1と同様な方法で坪量2.8g/m、厚さ9.3μmの固体電解質担持用不織布を作製した。ついで、実施例1と同様の方法で、固体電解質シートを作製した。
【0080】
比較例2
平均繊維径が2.7μmの延伸ポリエステル短繊維が38部と、平均繊維径4.5μmの未延伸ポリエステル短繊維が40部と、フィブリル化天然セルロース繊維22部とした以外、実施例1と同様な方法で坪量2.7g/m、厚さ9.2μmの固体電解質担持用不織布を作製した。ついで、実施例1と同様の方法で、固体電解質シートを作製した。
【0081】
比較例3
平均繊維径が3.2μmの延伸ポリエステル短繊維が50部と、平均繊維径4.5μmの未延伸ポリエステル短繊維が40部と、フィブリル化天然セルロース繊維10部とした以外、実施例1と同様な方法で坪量2.7g/m、厚さ9.5μmの固体電解質担持用不織布を作製した。ついで、実施例1と同様の方法で、固体電解質シートを作製した。
【0082】
比較例4
平均繊維径が2.7μmの延伸ポリエステル短繊維が50部と、平均繊維径5.5μmの未延伸ポリエステル短繊維が40部と、フィブリル化天然セルロース繊維10部とした以外、実施例1と同様な方法で坪量2.9g/m、厚さ9.8μmの固体電解質担持用不織布を作製した。ついで、実施例1と同様の方法で、固体電解質シートを作製した。
【0083】
比較例5
実施例1と同様な方法で坪量3.2g/m、厚さ9.5μmの固体電解質担持用不織布を作製した。ついで、実施例1と同様の方法で、固体電解質シートを作製した。
【0084】
比較例6
平均繊維径が2.7μmの延伸ポリエステル短繊維が50部と、平均繊維径4.5μmの未延伸ポリエステル短繊維が40部と、1.25dtex(平均繊維径9.5μm)、繊維長4mmの溶剤紡糸セルロース繊維を、リファイナーを用いて、叩解処理し、幹部分の最大繊維径が5.2μmになるまで叩解を進めたフィブリル化した溶剤紡糸セルロース繊維を10部とした以外、実施例1と同様な方法で坪量2.8g/m、厚さ9.8μmの固体電解質担持用不織布を作製した。ついで、実施例1と同様の方法で、固体電解質シートを作製した。
【0085】
比較例7
平均繊維径が2.7μmの延伸ポリエステル短繊維が50部と、平均繊維径4.5μmの未延伸ポリエステル短繊維が40部と、パラ系全芳香族ポリアミド繊維のパルプ状物(帝人社製トワロン(登録商標)1094)を10部とした以外、実施例1と同様な方法で坪量2.7g/m、厚さ9.5μmの固体電解質担持用不織布を作製した。ついで、実施例1と同様の方法で、固体電解質シートを作製した。
【0086】
実施例及び比較例の固体電解質担持用不織布及び固体電解質シートについて、下記物性の測定と評価を行い、結果を表1及び表2に示した。
【0087】
<不織布の坪量>
JIS P8124:2011に準拠して、担持用不織布の坪量を測定した。
【0088】
<不織布の厚さ>
JIS B7502:2016に規定された外側マイクロメーターを用いて、5N荷重時の厚さを測定した。
【0089】
<固体電解質担持用不織布の穴欠点の有無>
実施例と比較例で得られた固体電解質担持用不織布について、透過型欠点探傷機を用いて、穴欠点の有無を50m確認した。不織布に穴欠点がある場合、穴欠点部分の固体電解質が脱落して、穴が開き、全固体リチウム電池の短絡の原因となる。そのため、担持用不織布から穴欠点の部分を除去する必要があり、固体電解質担持用不織布の生産性が著しく悪化する。
【0090】
<固体電解質の担持性>
固体電解質シートを作製する際に、固体電解質担持用不織布をスラリー化した固体電解質に連続して浸漬し、プレスロールでニップし、乾燥する際に、張力に耐えられずに発生する担持用不織布における幅方向の収縮や走行中の皺を、目視にて観察し、次の評価基準で評価した。
【0091】
○:走行中の担持用不織布において、幅の収縮や皺や破れが発生せず、担持用不織布の内部や表面に固体電解質が担持されている。
△:走行中の担持用不織布において、わずかに、幅の収縮又は皺が発生する場合がある。しかし、担持用不織布の内部や表面に固体電解質が担持されている。
×:走行中の担持用不織布において、幅の収縮、皺、破れが発生する場合がある。または、担持用不織布の内部に固体電解質が十分に担持できない。
【0092】
<全固体リチウム電池の作製>
上述の負極構造体を88mm×58mmに、正極構造体を87mm×57mmに、固体電解質シートを92mm×62mmにトムソン刃で打ちぬいた。負極構造体/固体電解質シート/正極構造体を積層したのち、ロールギャップ50μmの熱ロールプレス機を用いたドライラミネーション法により貼り合わせることで、全固体リチウム電池の単セル(単電池)を作製した。
【0093】
<固体電解質層のひび割れや密着不良>
作製した全固体リチウム電池の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察し、固体電解質層にひび割れや担持不織布を構成する繊維と固体電解質の密着不良が発生していないかどうかを、次の評価基準で評価した。固体電解質層にひび割れや繊維との密着不良でわずかな空間が発生した場合、リチウムイオンの伝導性の低下要因になる。
【0094】
○:固体電解質層にひび割れや繊維との密着不良が無い。
△:固体電解質層にひび割れ、又は、繊維との密着不良がわずかに見られる。
×:固体電解質層にひび割れや繊維との密着不良が見られる。
【0095】
<全固体リチウム電池のインピーダンス>
作製した全固体リチウム電池の単セルを、端子を取り付けたアルミニウムラミネートフィルムに入れ、真空機で真空排気してヒートシールを行い、パックした。得られた試験用セルを、25℃の環境下で0.1mA/cm(0.1C)の電流密度で4.0Vまで充電を行い、インピーダンスの値を、LCZメーター(横河ヒューレットパッカード社製)を用い、交流周波数0.1Hz~1MHzで測定した。全固体リチウム電池のインピーダンスが高い場合、リチウムイオンの伝導性が低いことを表している。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
表1に示したように、実施例1~8で作製した固体電解質担持用不織布は、フィブリル化天然セルロース繊維と合成樹脂短繊維とを含有してなり、該固体電解質担持用不織布に含まれる全繊維成分に対して、フィブリル化天然セルロース繊維の含有率が5質量%以上20質量%以下であり、合成樹脂短繊維として、平均繊維径が2.7μm以下の延伸ポリエステル繊維と平均繊維径が4.5μm以下の未延伸ポリエステル繊維を含み、該固体電解質担持用不織布の坪量が3.0g/m未満である。実施例1~5の固体電解質担持用不織布は3.0g/m未満の低坪量であるが、担持用不織布に穴欠点がなく、固体電解質にひび割れがなく、全固体リチウム電池のインピーダンスが低く、リチウムイオンの伝導性が優れていた。
【0099】
実施例6の担持用不織布は、坪量が2g/m未満であり、担持用不織布の強度の低下により、実施例1~5の担持用不織布と比較して、固体電解質の担持性が低下した。
【0100】
実施例7の担持用不織布は、厚みが10μm以上であり、担持用不織布に穴欠点がなく、固体電解質にひび割れがなかった。しかし、担持用不織布強度の低下により、実施例1~5の担持用不織布と比較して、固体電解質の担持性が低下した。
【0101】
実施例8の担持用不織布は、厚みが4μm未満の場合であり、担持用不織布に穴欠点がなく、固体電解質にひび割れがなかった。しかし、未延伸ポリエステル繊維の融着が進み、担持用不織布内部の空隙が減少したことにより、実施例1~5の担持用不織布と比較して、固体電解質の担持性が低下し、また、全固体リチウム電池のインピーダンスが上昇し、リチウムイオンの伝導性が低下した。
【0102】
フィブリル化天然セルロース繊維の含有率が5質量%未満である比較例1の担持用不織布には穴欠点が発生した。穴欠点の発生した担持用不織布に固体電解質を塗工した場合、固体電解質シートにも穴欠点が発生した。穴欠点のある固体電解質シートを用いた場合、全固体リチウム電池の電池性能の挙動が異常な場合や短絡が見られた。
【0103】
フィブリル化天然セルロース繊維の含有率が20質量%を超えた比較例2の担持用不織布は、担持用不織布の強度の低下により、固体電解質の担持性が低下した。
【0104】
平均繊維径が2.7μmを超えた延伸ポリエステル短繊維を使用した比較例3の担持用不織布は、担持用不織布に穴欠点が発生しやすく、また、固体電解質層に微細なひび割れがあり、繊維と固体電解質の界面に密着不良がわずかに見られた。
【0105】
平均繊維径が4.5μmを超えた未延伸ポリエステル短繊維を用いた比較例4の担持用不織布は、担持用不織布に穴欠点が発生しやすく、また、担持用不織布の強度の低下により、固体電解質の担持性が低下した。さらに、固体電解質層に微細なひび割れがあり、繊維と固体電解質の界面に密着不良が見られた。
【0106】
坪量が3.0g/mを超えた比較例5の担持用不織布は、固体電解質層に微細なひび割れがあり、繊維と固体電解質の界面に密着不良がわずかに見られ、実施例1の担持用不織布と比較して、全固体リチウム電池のインピーダンスの上昇が見られた。
【0107】
フィブリル化溶剤紡糸セルロース繊維を10質量部使用し、坪量が3.0g/mg未満の比較例6の担持用不織布では、穴欠点が発生した。また、リファイナーを用いて叩解処理しても、フィブリル化溶剤紡糸セルロース繊維に最大繊維径が5.2μmの幹部分が残っているため、固体電解質層にひび割れがあり、繊維と固体電解質の界面に密着不良が見られ、実施例1の担持用不織布と比較して、全固体リチウム電池のインピーダンスの上昇が見られた。
【0108】
パラ系全芳香族ポリアミド繊維のパルプ状物を10質量部使用し、坪量が3.0g/mg未満の比較例7の担持用不織布では、穴欠点が発生した。また、固体電解質層に微細なひび割れが見られ、繊維と固体電解質の界面に密着不良もわずかに見られ、実施例1の担持用不織布と比較して、全固体リチウム電池のインピーダンスの上昇が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の固体電解質担持用不織布及び固体電解質シートは、全固体リチウム電池に好適に使用できる。