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特開2024-141134新規な高分子化合物、並びに、これを用いた、固形物、フィルム、低誘電正接材料、低伝送損失材料、プリント配線板、積層体、及び、電子材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141134
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】新規な高分子化合物、並びに、これを用いた、固形物、フィルム、低誘電正接材料、低伝送損失材料、プリント配線板、積層体、及び、電子材料
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/30 20060101AFI20241003BHJP
   C08F 8/14 20060101ALI20241003BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20241003BHJP
   H01B 3/18 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08F8/30
C08F8/14
H05K1/03 610J
H01B3/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052619
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000205638
【氏名又は名称】大阪有機化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】椿 幸樹
(72)【発明者】
【氏名】中浜 健太
【テーマコード(参考)】
4J100
5G305
【Fターム(参考)】
4J100AS02P
4J100HA03
4J100HA11
4J100HA35
4J100HA62
4J100HC63
4J100HC85
4J100HE14
4J100HE41
4J100JA44
5G305AA06
5G305AA07
5G305AB10
5G305BA12
5G305BA18
5G305CA01
5G305CA08
5G305CA32
5G305CA56
5G305DA13
(57)【要約】
【課題】低伝送損失が求められる用途に有用な新規な高分子化合物、並びに、これを用いた、固形物、フィルム、低誘電正接材料、低伝送損失材料、プリント配線板、積層体、及び、電子材料を提供する。
【解決手段】
下記式(1)で示される化合物に対応する構成単位Aを含む、高分子化合物。
【化1】
(式中、X1及びX2は、各々独立して、直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルキレン基を示す。Zは、水添ポリオレフィン骨格を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される化合物に対応する構成単位Aを含む、高分子化合物。
【化1】
(式中、X1及びX2は、各々独立して、直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルキレン基を示す。Zは、水添ポリオレフィン骨格を示す。)
【請求項2】
前記水添ポリオレフィン骨格が、水添ポリブタジエン骨格、又は、水添ポリ2-メチル-1,3-ブタジエン骨格である、請求項1に記載の高分子化合物。
【請求項3】
前記水添ポリオレフィン骨格の重量平均分子量(Mw)が1,000~10,000である、請求項1に記載の高分子化合物。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の高分子化合物を含む、固形物。
【請求項5】
請求項4に記載の固形物を含む、フィルム。
【請求項6】
請求項4に記載の固形物を含む、低誘電正接材料。
【請求項7】
請求項4に記載の固形物を含む、低伝送損失材料。
【請求項8】
請求項4に記載の固形物を含む、樹脂層を備えたプリント配線板。
【請求項9】
請求項4に記載の固形物を含む、積層体。
【請求項10】
請求項4に記載の固形物を含む、電子材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低伝送損失が求められる用途に有用な新規な高分子化合物、並びに、これを用いた、固形物、フィルム、低誘電正接材料、低伝送損失材料、プリント配線板、積層体、及び、電子材料に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信機器等の電子機器の発展は目覚ましく、多くの技術が開発されている。例えば、情報通信機器内の配線基板に用いられる絶縁材料としては、例えば、末端マレイミド変性ポリブタジエンを用いる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-250683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、情報通信機器の高周波数化が進行しており、信号帯域やCPUのクロックタイムはGHz帯に達し、さらに、数GHz及び数十GHzのマイクロ波やミリ波を用いる技術も開発されてきている。周波数が高くなると誘電体に交流電場を加えた際にエネルギーの一部が誘電体内部で熱となりやすく誘電体損失が増大する。電気信号の伝送損失は、誘電体損失と導体損失との和と凡一致しているため、電気信号の周波数が高くなるほど伝送損失が大きくなる。伝送損失が大きいと、電気信号が減衰し、その信頼性が低下してしまう。このため、高周波の電気信号を取り扱う配線基板には、回路を形成する絶縁材料として比誘電率及び誘電正接の低い材料を選定することによって伝送損失の増大を抑制することが求められている。
【0005】
さらに、高周波の電気信号を取り扱う配線基板などの電子材料に用いられる絶縁材料には、比誘電率や誘電正接が低く、伝送損失が低い(低伝送損失である)ことに加えて、絶縁層(永久膜)等としての良好な硬化性や高い靭性の他、高い耐熱性などが求められる。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決すべく、低伝送損失が求められる用途に有用な新規な高分子化合物、並びに、これを用いた、固形物、フィルム、低誘電正接材料、低伝送損失材料、プリント配線板、積層体、及び、電子材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1>
下記式(1)で示される化合物に対応する構成単位Aを含む、高分子化合物。
【化1】
(式中、X1及びX2は、各々独立して、直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルキレン基を示す。Zは、水添ポリオレフィン骨格を示す。)
<2>
前記水添ポリオレフィン骨格が、水添ポリブタジエン骨格、又は、水添ポリ2-メチル-1,3-ブタジエン骨格である、前記<1>に記載の高分子化合物。
<3>
前記水添ポリオレフィン骨格の重量平均分子量(Mw)が1,000~10,000である、前記<1>又は<2>に記載の高分子化合物。
<4>
前記<1>~前記<3>のいずれか一つに記載の高分子化合物を含む、固形物。
<5>
前記<4>に記載の固形物を含む、フィルム。
<6>
前記<4>に記載の固形物を含む、低誘電正接材料。
<7>
前記<4>に記載の固形物を含む、低伝送損失材料。
<8>
前記<4>に記載の固形物を含む、樹脂層を備えたプリント配線板。
<9>
前記<4>に記載の固形物を含む、積層体。
<10>
前記<4>に記載の固形物を含む、電子材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低伝送損失が求められる用途に有用な新規な高分子化合物、並びに、これを用いた、固形物、フィルム、低誘電正接材料、低伝送損失材料、プリント配線板、積層体、及び、電子材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
《本実施形態の高分子化合物》
本実施形態の高分子化合物は、下記式(1)で示される化合物(以下、単に「化合物(1)」と称することがある。)に対応する構成単位A(以下、単に「構成単位A」と称することがある)を含む。
【0010】
【化2】
(式中、X1及びX2は、各々独立して、直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルキレン基を示す。Zは、水添ポリオレフィン骨格を示す。)
【0011】
本実施形態の高分子化合物は、重合性を有する高分子化合物である。本実施形態の高分子化合物を重合させた固形物(重合体)は、低比誘電率性(例えば、比誘電率ε’(10GHz)2.5以下)や低誘電正接性(例えば、誘電正接tanδ(10GHz)0.005以下)を発揮できるため、電子材料等に用いた場合に伝送損失を抑制することができる。また、本実施形態の高分子化合物は、固形物とした際に、硬化性や靭性に優れるとともに、優れた耐熱性を有する。このため、本実施形態の高分子化合物は、固形物とした際に優れた力学的物性や寸法安定性(伸び、応力)を発揮でき、さらに熱による黄色化など光学特性への影響が少ない。これらの観点から、本実施形態の高分子化合物の重合体である固形物(以下、本実施形態の「固形物」と称することがある。)は高周波の電波を用いた電子材料など、低伝送損失が求められる用途に好適に用いることができる。
【0012】
本実施形態の高分子化合物の態様としては、下記のように、化合物(1)自体の他、化合物(1)に対応する構成単位Aを2以上含む重合性高分子化合物等が含まれる。以下、各々を「重合性高分子(A)」のように称することがある。
(A)一つの構成単位Aのみで構成される重合性高分子化合物(この場合、式(1)で示される化合物自体が本実施形態の高分子化合物に相当する。)
(B)2以上の構成単位Aで構成される重合性高分子化合物
【0013】
<化合物(1)>
化合物(1)は、水添ポリオレフィン骨格を有し、両末端にマレイミド基を有するビスマレイミド水添ポリオレフィン化合物である。
【0014】
式(1)において、X1及びX2は、各々独立して、直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルキレン基を示す。当該アルキレン基の炭素数としては、溶解性の点から、1~11が好ましく、1~5がさらに好ましく、具体的には、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、i-プロピレン基、n-ブチレン基、i-ブチレン基、t-ブチレン基、n-ブチレン基、i-ブチレン基、t-ブチレン基、n-ペンチレン基、i-ペンチレン基、t-ペンチレン基、n-ヘキシレン基、i-ヘキシレン基、t-ヘキシレン基、n-ウンデシレン基が好ましく、n-エチレン基がさらに好ましい。また、X1及びX2は各々異なっていてもよいが、生産性の点からは、同じアルキレン基であることが好ましい。
【0015】
式(1)におけるZは水添ポリオレフィン骨格を示す。「水添ポリオレフィン骨格」とは、オレフィンに対応する構造を構成単位として含み、当該構造中の二重結合が水素添加された(水素化された)骨格である。すなわち、化合物(1)は、水添ポリオレフィン構造の両末端にマレイミドエステルが結合された構造を有する。
【0016】
水添ポリオレフィン骨格としては、特に限定されるものではないが、低比誘電率化又は低誘電正接化の点で、水添ポリブタジエン骨格、水添ポリ2-メチル-1,3-ブタジエン骨格、が挙げられ、水添ポリブタジエン骨格、又は、水添ポリ2-メチル-1,3-ブタジエン骨格であることが好ましい。
【0017】
-水添率-
上述のように水添ポリオレフィン骨格はオレフィンに対応する構造に由来する二重結合が水添されている。水添ポリオレフィン骨格の水添率は、低比誘電率化又低誘電正接化の点から、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。水添ポリオレフィン骨格の水添率は、NMRにより水添ポリオレフィン中の水添ポリオレフィン由来の不飽和結合の量を測定することにより算出したものをいう。換言すると、水添ポリオレフィン骨格における水添ポリオレフィン由来の二重結合の含有率は10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
【0018】
水添ポリオレフィン骨格の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されるものではないが、溶解性の点で1,000~10,000が好ましく、1,000~5,000がさらに好ましく、2,000~3,000が特に好ましい。
また、水添ポリオレフィン骨格の数平均分子量(Mn)は、特に限定されるものではないが、溶解性の点で1,000~10,000が好ましく、1,000~5,000がさらに好ましく、2,000~3,000が特に好ましい。
また、水添ポリオレフィン骨格の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、特に限定されるものではないが、粘度の点で1.00~3.00が好ましく、1.00~2.00がさらに好ましく、1.10~1.80が特に好ましい。
水添ポリオレフィン骨格の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー〔東ソー(株)製、品番:HLC-8320GPC、カラム:東ソー(株)製、品番:TSKgel GMHH-R、溶媒:テトラヒドロフラン、流速:0.6mL/min〕を用いてポリスチレン換算で測定することができる。
【0019】
化合物(1)の具体例としては、以下が挙げられる。
【0020】
【化3】
(式中、l、mは、各々独立して5~95を示す。上記式中の各構成単位の結合順序は例 示であり、実際は上記の構造式に示された順序に限定されるものではなく、各構成単位 が規則的に又はランダムに結合している。また、水添率に応じて二重結合を有する構造 が含まれうるが、式中では図示せず省略している。)
【0021】
(化合物(1)の合成)
化合物(1)の合成方法は特に限定されるものではないが、例えば、溶媒中で、水添ポリオレフィンジオール等の末端水酸基変性水添ポリオレフィン(例えば、両末端が水酸基で変性された、水添ポリブタジエン又は水添ポリ2-メチル-1,3-ブタジエン等)と、マレイミドエステルとをジ-n-オクチル錫オキシド等の触媒下で反応させることで得ることができる。
【0022】
化合物(1)の合成方法に用いられる末端変性水添ポリオレフィンは、特に限定はなく目的とするポリオレフィン骨格を形成する観点から本発明の効果を損なわない範囲で適宜選定して用いることができる。なお、化合物(1)の合成方法は末端変性水添ポリオレフィンを用いるものに限定されず、例えば、水添されていない末端変性ポリオレフィンとマレイミドエステルとを反応させた後、ポリオレフィン骨格中の二重結合を水素還元して化合物(1)を合成してもよい。
【0023】
化合物(1)の合成方法に用いることのできるマレイミドエステルとしては、所望の化合物(1)の末端基に対応する化合物を適宜選定でき、例えば、3-マレイミドプロピオン酸メチル、3-マレイミドブチル酸メチル、3-マレイミドペンチル酸メチル、3-マレイミドヘキシル酸メチル、3-マレイミドドデシル酸メチルが挙げられる。マレイミドエステルの合成方法は特に限定はないが、例えば、無水マレイン酸とアミノ基を有するカルボン酸との反応によって合成することができる。アミノ基を有するカルボン酸の例としては、例えば、3-マレイミドプロピオン酸メチルを合成する場合には3-アミノプロピオン酸(別名:βアラニン)が挙げられる。
【0024】
化合物(1)の合成方法に用いられる溶媒は、特に限定はなく本発明の効果を損なわない範囲で公知のものを適宜選定して用いることができる。化合物(1)の合成方法に用いられる溶媒としては、例えば、トルエン、ノルマルヘキサン、及び、これらの混合溶媒を用いることができる。
【0025】
化合物(1)の合成方法に用いられる触媒は、特に限定はなく本発明の効果を損なわない範囲で公知のものを適宜選定して用いることができる。化合物(1)の合成方法に用いられる触媒としては、例えば、ジ-n-オクチル錫オキシド、テトラメトキシチタン等を用いることができる。
【0026】
<重合性高分子(A)>
上述のように重合性高分子(A)は、本実施形態の高分子化合物の一態様であり、一つの構成単位Aのみで構成される重合性高分子化合物である。すなわち、重合性高分子(A)は上述の式(1)で示される化合物自体が本実施形態の高分子化合物に相当する。重合性高分子(A)は、常温常圧下において液状の化合物である。
【0027】
<重合性高分子(B)>
上述のように重合性高分子(B)は、本実施形態の高分子化合物の一態様であり、2以上の構成単位Aを有する重合性高分子化合物である。重合性高分子(B)としては、例えば、上述の化合物(1)の二量体(構成単位Aが2つ連結した化合物)等が挙げられる。重合性高分子(B)内に含まれる構成単位Aの数は特に限定はないが、例えば、2~10が好ましく、2~5がさらに好ましく、2又は3が特に好ましい。重合性高分子(B)は、本発明の効果に影響を与えない範囲で構成単位Aの間に他の構成単位を含むコポリマーであってもよいが、構成単位Aのみを含むホモポリマーであることが好ましい。
【0028】
重合性高分子(B)の重量平均分子量(Mw)は、用途に応じて決定されるため特に限定されるものではないが、例えば、溶解性の点で、2,000~100,000が好ましく、2,000~50,000がさらに好ましく、2,000~30,000が特に好ましい。
また、重合性高分子(B)の数平均分子量(Mn)も、用途に応じて決定されるため特に限定されるものではないが、溶解性の点で2,000~100,000が好ましく、2,000~50,000がさらに好ましく、2,000~30,000が特に好ましい。
また、重合性高分子(B)の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、特に限定されるものではないが、粘度の点で1,00~5,00が好ましく、1,00~3,00がさらに好ましく、1,00~2,00が特に好ましい。
重合性高分子(B)の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー〔東ソー(株)製、品番:HLC-8320GPC、カラム:東ソー(株)製、品番:TSKgel GMHH-R、溶媒:テトラヒドロフラン、流速:0.6mL/min〕を用いてポリスチレン換算で測定することができる。
重合性高分子(B)のガラス転移温度(Tg)は、特に限定はないが、柔軟性の観点から、-70~50℃であることが好ましく、-60~30℃であることがさらに好ましく、-55~0℃であることが特に好ましい。
【0029】
重合性高分子(B)の合成方法は特に限定はなく、例えば、化合物(1)を熱または光により重合することにより得ることができる。
【0030】
(組成物(A):硬化性組成物)
本実施形態の高分子化合物を含む組成物(以下、「組成物(A)」と称することがある。)は硬化性組成物(光硬化性組成物、熱硬化性組成物等)として用いることができる。組成物(A)は、用途に応じて、溶媒や光重合開始剤、熱重合開始剤等の添加物を含むことができる。また、組成物(A)は、本実施形態の高分子化合物として同種の化合物(1)等のみを含んでいてもよいし、構造が異なる2種以上の本実施形態の高分子化合物を含んでいてもよい。さらに、組成物(A)は、本実施形態の高分子化合物以外のモノマー成分を含んでいてもよい。モノマー成分は化合物(1)と反応(例えば、共重合、付加、置換等)するものであってもよく、反応しないものであってもよい。
【0031】
-溶媒-
組成物(A)に用いられる溶媒としては、特に限定はなく本発明の効果を損なわない範囲で公知のものを適宜選定して用いることができるが、例えば、トルエン、ノルマルヘキサン、並びに、これらの混合溶媒を用いることができる。組成物(A)に用いられる溶媒は、化合物(1)の合成の際に用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
【0032】
-重合開始剤-
本実施形態の化合物(1)は重合開始剤を用いなくても硬化させることが可能であるが、固形物とした際に硬化性をさらに高める観点からは、組成物(A)において、化合物(1)と重合開始剤とを併用することが好ましい。重合開始剤としては、光や熱によってラジカルを発生する公知のラジカル重合開始剤が挙げられる。また、重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤、熱重合開始剤などが挙げられるが、固形物に熱履歴を残さないようにする観点からは、光重合開始剤が好ましい。
【0033】
ラジカル光重合開始剤としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
アシルフォスフィンオキサイド系化合物:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(製品名:イルガキュアTPO、BASF製)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(製品名:イルガキュア819、BASF製;製品名:イルガキュア819DW、BASF製)
【0034】
α-ヒドロキシケトン系化合物:1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(製品名:イルガキュア184、BASF製)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(製品名:イルガキュア1173、BASF製)、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(イルガキュア2959、BASF製)、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン(製品名:イルガキュア127、BASF製)
【0035】
分子内水素引抜系化合物:フェニル グリオキシリック アシッド メチル エステル(製品名:イルガキュアMBF、BASF製)
チタノセン化合物系化合物:1-[4-(フェニルチオ)-2-(o-ベンゾイルオキシム)]、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)ビス〔2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)フェニルチタニウム〕(製品名:イルガキュア784、BASF製)
ベンジルケタール系化合物:2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(製品名:イルガキュア651、BASF製)
【0036】
α-アミノケトン系化合物:2-メチル-4’-メチルチオ-2-モルホリノプロピオフェノン(製品名:イルガキュア907、BASF製)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1(製品名:イルガキュア369、BASF製)、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン(製品名:イルガキュア379EG、BASF製)
【0037】
オキシムエステル系化合物:1-[4-(フェニルチオ)-2-(O-ベンゾイルオキシム)](製品名:イルガキュアOXE-01、BASF製)、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)(例えば、製品名:イルガキュアOXE-02、BASF製;製品名:イルガキュアOXE-03、BASF製;製品名:イルガキュアOXE-04、BASF製;製品名:N-1919、ADEKA製;製品名:N-1414、ADEKA製)などを用いることができる。
【0038】
他のラジカル光重合開始剤としては、例えば、キノン類化合物(例えば、2-エチルアントラキノン、2-tert-ブチルアントラキノン);芳香族ケトン類(例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイン);ベンゾインエーテル類化合物(例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル);アクリジン化合物化合物(例えば、9-フェニルアクリジン(製品名:N-1717、ADEKA製));トリアジン類化合物(例えば、2,4-トリクロロメチル-(4”-メトキシフェニル)-6-トリアジン、2,4-トリクロロメチル-(4’-メトキシナフチル)-6-トリアジン、2,4-トリクロロメチル-(ピペロニル)-6-トリアジン、2,4-トリクロロメチル-(4’-メトキシスチリル)-6-トリアジン2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン)などが挙げられる。
【0039】
また、光重合開始剤と併せて光増感剤を用いてもよい。光増感剤としては、例えば、アミン類としてエチル-4-ジメチルアミノベンゾエート(ダロキュアEDB:BASF製)、2-エチルへキシル-4-ジメチルアミノベンゾエート(ダロキュアEHA:BASF製)、ケト化合物としてベンゾフェノン類、チオキサントン類、ケト-クマリン類、アントラキノン類(アントラキュアー UVS-581:川崎化成工業製)を用いてもよい。
【0040】
重合開始剤の量は、当該重合開始剤の種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、本実施形態の高分子化合物の総量100質量部あたり、0.1~10質量部であることが好ましく、1~5質量部がさらに好ましい。
【0041】
その他、組成物(A)には、本発明の効果を損なわない範囲で、レベリング剤、密着付与剤等の公知の添加剤を含めることができる。組成中の全固形分100質量部に対する本実施形態の高分子化合物の含有量は、5~95質量部が好ましく、10~80質量部がさらに好ましく、20~60質量部が特に好ましい。
【0042】
(本実施形態の高分子化合物及び組成物(A)の応用)
本実施形態の高分子化合物は、直接固形物の形成に用いる用途の他、様々な用途への応用が可能である。本実施形態の高分子化合物及び組成物(A)は、例えば、接着剤、ワニス、粘着剤等に用いることもできる。
【0043】
<本実施形態の固形物(重合体))>
本実施形態の固形物は、本実施形態の高分子化合物を含む固体状の物質である。本実施形態の固形物は、本実施形態の高分子化合物(即ち、重合性高分子(A)又は(B))を重合させることによって得ることができる。換言すると、本実施形態の固形物は、本実施形態の高分子化合物に対応する構成単位を含む重合体であり、本実施形態の高分子化合物を用いて得ることができる。なお、本実施形態において「固形物」の概念には、完全硬化状態に加え、Bステージのもの等の半硬化状態も含まれる。
【0044】
上述のように本実施形態の固形物は、本実施形態の高分子化合物の重合体であり、化合物(1)に対応する構成単位Aを含む。本実施形態の固形物は、モノマー成分として構成単位Aのみを含むホモポリマーであってもよいし、構成単位A以外の他の構成単位を含むコポリマーであってもよい。本実施形態の固形物は、例えば、モノマー成分として化合物(1)を単独で、或いは、少なくとも化合物(1)を含む組成物(A)を重合反応(例えば、ラジカル重合)させることで得ることができる。
【0045】
本実施形態の固形物の形状としては、その用途に応じて適宜選定が可能であるが、例えば、種々の用途に応じて粉状、粒状、フィルム(即ち、本実施形態の硬化物を含むフィルム)、基板、基板上に1以上の層状の本実施形態の固形物を備えた積層体(本実施形態の硬化物を含む積層体)などとすることができる。
【0046】
本実施形態の固形物の比誘電率ε’(10GHz)としては、伝送損失を効果的に抑制する観点から、2.5以下が好ましく、2.4以下がさらに好ましく、2.3以下が特に好ましい。
本実施形態の固形物の誘電正接 tanδ(10GHz)としては、伝送損失を効果的に抑制する観点から、0.005以下が好ましく、0.004以下がさらに好ましく、0.002以下が特に好ましい。
本実施形態の固形物の破断伸長率(%)としては、柔軟性の観点から、30~500%が好ましく、50~300%がさらに好ましい。
本実施形態の固形物の破断応力(MPa)としては、耐久性の観点から、0.5~10.0MPaが好ましく、1.0~5.0MPaがさらに好ましく、1.5~5.0MPaが特に好ましい。
【0047】
(本実施形態の固形物(重合体)の応用)
本実施形態の高分子化合物の重合体である固形物は、以下の特性を発揮することができる。
・低比誘電率性や低誘電正接性を発揮できることから低伝送損失性に優れる。
・固形物とした際に、優れた、硬化性や靭性、更には、力学的物性や寸法安定性(伸び、応力)を発揮できる。
・優れた耐熱性を有するため、黄色化など熱による光学特性への影響が少ない。
【0048】
以上の特性から、本実施形態の固形物は、高周波(例えば、周波数帯300MHz以上、又は、1GHz以上、さらには30GHz以上)の電波を用いた装置に用いられる電子材料用途に好適に用いることができる。このような「電子材料」には、電子機器に用いられる電池、電子部品、半導体、ディスプレイや液晶基板といった電子機器向けのデバイスやモジュールの製造に必要な部材や材料が含まれる。このような部材や材料としては、例えば、低誘電正接材料や低比誘電率性が求められる用途に用いられる樹脂材料等の低伝送損失材料(例えば、低誘電基板、プリプレグ、半導体封止材料等)が挙げられ、さらにこれら低伝送損失材料を用いたプリント配線基板にも好適に用いることができる。このような低伝送損失材料を用いたプリント配線基板としては、例えば、本実施形態の高分子化合物を用いて形成した基板や樹脂層を備えたプリント配線基板などが挙げられる。当該プリント配線基板の樹脂層としては、配線上等に設けられる封止層や各回路の間に位置する絶縁層などが挙げられる。また、低伝送損失材料を用いたプリント配線基板の他の例としては、本実施形態の高分子化合物を用いて形成された低誘電基板やプリプレグなどを用いたプリント配線基板が挙げられる。本実施形態の固形物は、具体的には、上述の製品の基板自体、基板上の膜、フィルム等に用いることができる。
【0049】
さらに、本実施形態の固形物は、粉体状又は粒状として用いることも可能である。例えば、粒子状の本実施形態の固形物を溶媒中に分散させたディスパージョン(分散組成物)、粉体又は粒状の本実施形態の固形物を圧縮成形したペレット、粉体状の本実施形態の固形物と他の粉体とを混合した粉体組成物、さらに、この粉体組成物を圧縮成形したペレット等として用いることも可能である。
なお、本実施形態の固形物を射出成型用のペレットとして用いた場合、当該ペレットを射出成型によって特定の形状に成形した成型物も本実施形態の固形物の概念に含まれる。
【実施例0050】
以下、本実施形態を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0051】
[製造例1-1]
(3-マレイミドプロピオン酸メチルの合成)
ディーンスターク型分流器及び攪拌機を備えた容量500mLの4つ口フラスコにトルエン150.0g、リン酸24.7gを仕込み、脱水還流を1時間行った。その後、トリエチルアミン8.3g、無水マレイン酸30.0g、βアラニン25.9gを仕込み、生成する水を除去しながら7時間、還流温度で反応を行った。その後、トルエンを濃縮し、メタノール219.0g、硫酸2.7gを加え、65℃で3時間反応を行った。反応終了後、5%炭酸水素ナトリウム水溶液でpH7に調整し、メタノールを濃縮した。濃縮液に酢酸エチル200.0g、5%炭酸水素ナトリウム水溶液100.0gを加え、分液操作を行い、有機層を分離した。得られた有機層を濃縮することで、3-マレイミドプロピオン酸メチル34.7gを淡黄色液体として得た。
【0052】
[製造例1-2]
(ビスマレイミド化水添ポリブタジエン(SPBDMI)の合成)
ディーンスターク型分流器及び攪拌機を備えた容量300mLの4つ口フラスコに末端水酸基変性ポリブタジエン(水添率97%以上;CRAY VALLEY社製「HLBH-P2000」)50.0g、製造例1で得られた3-マレイミドプロピオン酸メチル8.0g、トルエン58.0g、ノルマルヘキサン116.0g、ジ-n-オクチル錫オキシド0.2gを加え、生成するメタノールを除去しながら、8時間、還流温度で反応を行った。反応終了後、濃縮することでビスマレイミド化水添ポリブタジエン56.3gを淡黄色粘性液体として得た。得られたビスマレイミド化水添ポリブタジエンのGPCによる重量平均分子量(Mw)は5,700であった。
【0053】
[製造例2]
(ビスアクリル化水添ポリブタジエン(SPBDA)の合成)
ディーンスターク型分流器及び攪拌機を備えた容量300mLの4つ口フラスコに末端水酸基変性ポリブタジエン(水添率97%以上:CRAY VALLEY社製「HLBH-P2000」)100.0g、アクリル酸メチル23.6g、ノルマルヘキサン50.0g、ジ-n-オクチル錫オキシド0.2gを加え、生成するメタノールを除去しながら、8時間、還流温度で反応を行った。反応終了後、濃縮することでビスアクリル化水添ポリブタジエン100.5gを淡黄色粘性液体として得た。得られたビスアクリル化水添ポリブタジエンのGPCによる重量平均分子量(Mw)は4,400であった。
【0054】
(硬化性樹脂組成物の調製)
下記表に記載した配合となるように各成分を均一に混合し硬化性樹脂組成物を調製した。開始剤としては、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(「イルガキュアTPO」、BASF社製)を用いた。
【0055】
【表1】
BAC-45:ポリブタジエン末端ジアクリレート(大阪有機化学工業(株)製:「BAC-45」)
UVA-153:水添ポリブタジエン系ウレタンアクリレート(両末端ヒドロキシル基水添ポリブタジエン-IPDI-ヒドロキシエチルアクリレート反応物)
【0056】
各実施例及び比較例で用いたポリマーの分子量及び構造を以下に示す。なお、式中、l,mは括弧内の構成単位のモル比を示す。
【0057】
【化4】
【0058】
【表2】
【0059】
(硬化フィルムの作製方法)
離形処理されたPETフィルム(基材)上に硬化性樹脂組成物を塗布し、厚さ150~200μmの塗膜を形成した。ついで照度360mW/cm2、露光量3000mJ/cm2となるように紫外線を塗膜に照射し、硬化性樹脂組成物を光重合させることにより、硬化フィルムを得た。なお、「仕上がり膜厚」は、デジタル測長機((株)ニコン製「DIGIMICRO MFC-101A」で測定した。
【0060】
(比誘電率、誘電正接の測定)
硬化フィルムを幅1.5mm、厚み1.5mm、長さ80mmにカットし、ネットワークアナライザ(アジレント・テクノロジー製、品番:PNA-LネットワークアナライザN5230A)を用いて、10GHzの比誘電率、誘電正接を測定した。
【0061】
(表面、内部硬化性の評価)
基材より剥離した硬化のフィルムを用いて、空気界面側、基材側の膜状態を評価した。空気界面側の結果を「表面硬化性評価」、基材側の結果を「内部硬化性」とした。また、各評価は共に下記の評価基準に従っておこなった。
A:膜は硬化しており、表面にベタツキがない。
B:膜は硬化しているが表面にベタツキがあった。
C:膜が硬化しておらず液体状態になっていた。
【0062】
(破断伸長率、破断応力の測定)
硬化フィルムをダンベル型(7号)で打ち抜き、引張試験機(オリエンテック(株)製、品番:Tensilon RTG-1310)を用いて破断時の伸長率(%)、応力(MPa)を測定した。
【0063】
(5%Tdの測定)
硬化フィルムを示唆熱重量同時測定装置(日立ハイテク製、品番:NEXTA STA200)を用いて重量減少率5%時の温度を測定した。
【0064】
(黄変評価)
硬化後のフィルムを150℃で3時間加熱し、加熱前後の色変化を目視で観察し下記基準に従って評価した。
[基準]
A:色調の変化がほぼない。
B:色調の変化が少しみられたが、黄変は認められなかった。
C:色調が大きく変化し黄変又は白濁がみられた。
【0065】
【表3】
【0066】
表1の結果からわかるように、実施例1及び2は、誘電特性(比誘電率及び誘電正接が低い)及び硬化性に優れ、破断伸長率及び破断応力(脆さ)が高く、耐熱性(=5%Td、黄変)において優れていた。
これに対し、マレイミド基及び水添ポリオレフィン構造を有さないBAC-45を用いた比較例1は、実施例に比して、耐熱性及び表面硬化性に劣っており、硬化膜が脆く(=破断応力小さく)、誘電特性が劣っていた。
マレイミド基を有さないSPBDAを用いた比較例2は、実施例に比して耐熱性や誘電特性は同程度で良好であったが、表面硬化性が劣っており、硬化膜も脆かった
マレイミド基を有さないUVA-153を用いた比較例3は、実施例に比して、耐熱性、及び表面硬化性に劣っており、誘電正接が高く誘電特性も劣っていた。