(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141135
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】皮膜および皮膜形成方法
(51)【国際特許分類】
C23C 24/04 20060101AFI20241003BHJP
C23C 18/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C23C24/04
C23C18/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052620
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】312012760
【氏名又は名称】株式会社鈴木商店
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137615
【弁理士】
【氏名又は名称】横山 照夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 弘朗
【テーマコード(参考)】
4K022
4K044
【Fターム(参考)】
4K022AA02
4K022BA25
4K022BA34
4K022BA36
4K022DA06
4K044AA02
4K044AB05
4K044BA10
4K044BA14
4K044BB03
4K044BC02
4K044CA21
4K044CA25
4K044CA27
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】亜鉛または亜鉛合金皮膜を有する皮膜の密着性を向上させることが可能な皮膜形成方法を提供する。
【解決手段】皮膜形成方法は、下地材10の表面に、亜鉛または亜鉛合金を含む複数の粉体を衝突させることで、亜鉛または亜鉛合金皮膜であり表面が凹凸状である第1皮膜14を形成する工程と、前記第1皮膜14の表面に、亜鉛または亜鉛合金を含む第2皮膜16を形成する工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地材の表面に、亜鉛または亜鉛合金を含む複数の粉体を衝突させることで、亜鉛または亜鉛合金皮膜であり表面が凹凸状である第1皮膜を形成する工程と、
前記第1皮膜の表面に、亜鉛または亜鉛合金を含む第2皮膜を形成する工程と、
を含む皮膜形成方法。
【請求項2】
前記複数の粉体は、前記亜鉛または亜鉛合金より硬い剛体紛を含む請求項1に記載の皮膜形成方法。
【請求項3】
前記複数の粉体は、亜鉛および鉄を含有する合金、または、亜鉛、マグネシウムおよびアルミニウムを含有する合金を含む請求項1または2に記載の皮膜形成方法。
【請求項4】
前記第2皮膜を形成する工程は、前記第1皮膜の表面に亜鉛粉体および有機ケイ素化合物を含む溶液を塗布し、加熱処理することにより前記第2皮膜を形成する工程を含む請求項1または2に記載の皮膜形成方法。
【請求項5】
前記第2皮膜を形成する工程は、前記第1皮膜の表面に亜鉛粉体、アルミニウム粉体、並びにアルコキシシランおよびその加水分解物の少なくとも一方を含む溶液を塗布し、加熱処理することにより前記第2皮膜を形成する工程を含む請求項1または2に記載の皮膜形成方法。
【請求項6】
前記下地材は、鉄材または鉄合金材である請求項1または2に記載の皮膜形成方法。
【請求項7】
前記第2皮膜の表面にシリカ皮膜を形成する工程を含む請求項1または2に記載の皮膜形成方法。
【請求項8】
下地材上の表面に、亜鉛または亜鉛合金と前記亜鉛または亜鉛合金より硬い剛体紛とを含む複数の粉体を衝突させることで、亜鉛合金皮膜であり表面が凹凸状である第1皮膜を形成する工程と、
前記第1皮膜の表面に、亜鉛粉体、アルミニウム粉体、並びにアルコキシシランおよびその加水分解物の少なくとも一方を含む溶液を塗布し、加熱処理することで第2皮膜を形成する工程と、
を含む皮膜形成方法。
【請求項9】
下地材と、
前記下地材の表面に設けられ、亜鉛または亜鉛合金を含む複数の粉体が潰れ互いに接合した構造を有する亜鉛または亜鉛合金皮膜であり表面が凹凸状である第1皮膜と、
前記第1皮膜の表面に設けられ、亜鉛または亜鉛合金を含む第2皮膜と、
を備える皮膜。
【請求項10】
前記複数の粉体は、亜鉛および鉄を含有する合金、または、亜鉛、マグネシウムおよびアルミニウムを含有する合金を含み、
前記第2皮膜は、亜鉛およびアルミニウムを含む請求項9に記載の皮膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膜および皮膜形成方法に関し、例えば亜鉛または亜鉛合金皮膜を有する皮膜および皮膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛または亜鉛合金皮膜の耐食性向上のため、亜鉛または亜鉛合金皮膜上に、亜鉛、アルミニウムおよびシリカ化合物を含む皮膜を焼付塗装し、その上に多孔質シリカ皮膜を形成することが知られている(例えば特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法によれば、耐食性を高めることができる。しかしながら、過酷な条件下では皮膜に剥がれが生じることがある。これにより、耐食性が低下することがある。このように、亜鉛または亜鉛合金皮膜を複数積層するときに、皮膜が剥がれることがある。また、亜鉛または亜鉛合金皮膜を、電気めっき法を用い形成すると、水を用いるため環境負荷が大きい。さらに、工程数が多くなる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、亜鉛または亜鉛合金皮膜を有する皮膜の密着性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下地材の表面に、亜鉛または亜鉛合金を含む複数の粉体を衝突させることで、亜鉛または亜鉛合金皮膜であり表面が凹凸状である第1皮膜を形成する工程と、前記第1皮膜の表面に、亜鉛または亜鉛合金を含む第2皮膜を形成する工程と、を含む皮膜形成方法である。
【0007】
上記構成において、前記複数の粉体は、前記亜鉛または亜鉛合金より硬い剛体紛を含む構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記複数の粉体は、亜鉛および鉄を含有する合金、または、亜鉛、マグネシウムおよびアルミニウムを含有する合金を含む構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記第2皮膜を形成する工程は、前記第1皮膜の表面に亜鉛粉体および有機ケイ素化合物を含む溶液を塗布し、加熱処理することにより前記第2皮膜を形成する工程を含む構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記第2皮膜を形成する工程は、前記第1皮膜の表面に亜鉛粉体、アルミニウム粉体、並びにアルコキシシランおよびその加水分解物の少なくとも一方を含む溶液を塗布し、加熱処理することにより前記第2皮膜を形成する工程を含む構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記下地材は、鉄材または鉄合金材である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記第2皮膜の表面にシリカ皮膜を形成する工程を含む構成とすることができる。
【0013】
本発明は、下地材上の表面に、亜鉛または亜鉛合金と前記亜鉛または亜鉛合金より硬い剛体紛とを含む複数の粉体を衝突させることで、亜鉛合金皮膜であり表面が凹凸状である第1皮膜を形成する工程と、前記第1皮膜の表面に、亜鉛粉体、アルミニウム粉体、並びにアルコキシシランおよびその加水分解物の少なくとも一方を含む溶液を塗布し、加熱処理することで第2皮膜を形成する工程と、を含む皮膜形成方法である。
【0014】
本発明は、下地材と、前記下地材の表面に設けられ、亜鉛または亜鉛合金を含む複数の粉体が潰れ互いに接合した構造を有する亜鉛または亜鉛合金皮膜であり表面が凹凸状である第1皮膜と、前記第1皮膜の表面に設けられ、亜鉛または亜鉛合金を含む第2皮膜と、を備える皮膜である。
【0015】
上記構成において、前記複数の粉体は、亜鉛および鉄を含有する合金、または、亜鉛、マグネシウムおよびアルミニウムを含有する合金を含み、前記第2皮膜は、亜鉛およびアルミニウムを含む構成とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、亜鉛または亜鉛合金皮膜を有する皮膜の密着性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(a)から
図1(d)は、実施形態1に係る皮膜形成方法を示す断面図である。
【
図2】
図2(a)および
図2(b)は、実施形態1における第2皮膜の形成方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施形態1]
図1(a)から
図1(d)は、実施形態1に係る皮膜形成方法を示す断面図である。
【0019】
[工程1:下地材の準備]
図1(a)に示すように、下地材10を準備する。下地材10は、例えば鉄(Fe)または鉄合金であり、例えばボルト、ナット等である。鉄合金は、鉄を50質量%以上含む。下地材10は鉄または鉄合金以外の部材でもよく、例えば銅、アルミニウムまたはこれらの合金等の金属材料または硬めの樹脂でもよい。
【0020】
[工程2:第1皮膜14の形成]
次に、
図1(b)に示すように、下地材10の表面に第1皮膜14を形成する。
図2(a)および
図2(b)は、実施形態1における第1皮膜の形成方法を示す断面図である。
図2(a)に示すように、メカニカル乾式めっき法を用い下地材10上に第1皮膜14(
図2(b)参照)を形成する。メカニカル乾式めっき法としては、常温において下地材10の表面に複数の粉体20を衝突させる。粉体20は、例えば亜鉛紛または亜鉛合金紛を含む。亜鉛粉は亜鉛(Zn)以外の元素を意図的に含まない。亜鉛合金粉は、例えば亜鉛を50質量%以上含み、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)およびマグネシウム(Mg)の少なくとも1つの元素を含む。粉体20の一例は、亜鉛を50質量%以上含み、鉄を含む亜鉛合金である。粉体20の別の一例は、亜鉛を50質量%以上含み、アルミニウムおよびマグネシウムを含む亜鉛合金である。亜鉛合金は亜鉛を70質量%以上含むことが好ましい。粉体20は例えば球形であり、粉体20の粒径は例えば10μm以上かつ1mm以下であり、0.2mm以上かつ0.7mm以下であり、または0.2mm以上かつ0.3mm以下である。例えば、粉体20をバレル内に投入しバレルを回転させたときの遠心力、または空気圧等の熱以外のエネルギーを主に用い、粉体20を下地材10の表面に高速に投射する。
【0021】
図2(b)に示すように、粉体20が下地材10の表面に衝突すると、粉体20の運動エネルギーにより、粉体20が潰れる。潰れた粉体13は下地材10の表面に凝着する。複数の潰れた粉体13は互いに接合し、積層する。これにより、潰れた粉体13が接合した第1皮膜14となる。第1皮膜14には、潰れた粉体13の接合した界面が存在する。また、第1皮膜14の上面は粉体20が衝突するため、凹凸が大きくなる。粉体20が亜鉛粉のとき、第1皮膜14は亜鉛皮膜となり、粉体20が亜鉛合金粉のとき、第1皮膜14は亜鉛合金皮膜となる。第1皮膜14の厚さは例えば0.1μm以上かつ15μm以下であり、例えば0.3μm以上かつ3μm以下である。
【0022】
図2(b)において、粉体20は、亜鉛または亜鉛合金より硬い核と、核の周囲に亜鉛層または亜鉛合金層と、を有してもよい。核は、例えば金属または絶縁体であり、例えば鉄または鉄合金である。亜鉛層または亜鉛合金層の好ましい組成は上記した亜鉛紛または亜鉛合金紛の好ましい組成と同じである。
図2(b)において、粉体20を下地材10の表面に衝突させるときに、複数の粉体20と複数のショット球とを下地材10の表面に衝突させてもよい。ショット球は粉体20より硬い金属または絶縁体であり、例えば鉄または鉄合金のである。ショット球は例えば球形であり、ショット球の平均粒径は例えば10μm以上かつ150μm以下であり、例えば100μm以下である。
【0023】
図2(a)および
図2(b)のように形成した第1皮膜14は、粉体20が下地材10に衝突するため第1皮膜14と下地材10との密着性がよい。特に、粉体20が硬い核を有する場合、またはショット球と粉体20とを下地材10に衝突させる場合、核またはショット球が潰れた粉体13の表面に衝突するため、潰れた粉体13は下地材10の表面により強固に凝着する。複数の潰れた粉体13は互いに強固に接合する。さらに、第1皮膜14の表面の凹凸はより大きくなる。粉体20は、チタン粉体等の亜鉛および亜鉛合金以外の金属粉体、酸化アルミニウム等のセラミック粉体を含んでもよい。
【0024】
[工程3:第2皮膜16の形成]
次に、
図1(c)に示すように、第1皮膜14の表面に亜鉛または亜鉛合金を含む第2皮膜16を形成する。亜鉛化合物は、亜鉛に例えばアルミニウム、ニッケル、錫、鉄およびマグネシウムの少なくも1つを含む。第2皮膜16は、亜鉛または亜鉛合金に加えケイ素化合物を含んでもよい。
【0025】
第2皮膜16の形成方法の一列としては、第1皮膜14上に第2皮膜用溶液を塗布し、加熱処理(焼付け処理)することで形成する。第2皮膜用溶液は、亜鉛粉体、有機ケイ素化合物および溶媒を含む。第2皮膜用溶液は、亜鉛粉体に加え、アルミニウム粉体、ニッケル粉体、錫粉体、鉄粉体およびマグネシウム粉体の少なくも1種類の金属粉体を含んでいてもよい。特に、第2皮膜用溶液は、亜鉛粉体とアルミニウム粉体を含むことが好ましい。亜鉛粉体および金属粉体の形状は、例えば球状でもよいし鱗片状でもよい。粉体の短径は例えば0.05μm~5μmであり、長径は例えば0.5μm~100μmである。亜鉛粉体は、例えば亜鉛を90質量%以上または99質量%以上含む。亜鉛以外の金属粉体(例えばアルミニウム粉体)は、例えば亜鉛以外の金属元素(例えばアルミニウム)を90質量%以上または99質量%以上含む。亜鉛粉体と亜鉛以外の金属粉体(例えばアルミニウム粉体)との合計の粉体質量に対する亜鉛粉体の質量の比は50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。亜鉛粉体と亜鉛以外の金属粉体(例えばアルミニウム粉体)との合計の粉体質量に対する亜鉛以外の金属粉体(例えばアルミニウム)の質量の比は1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。
【0026】
有機ケイ素化合物は例えばアルコキシシランおよびその加水分解物の少なくとも一方を含む。アルコキシシランは、特に炭素数が3個以下のテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等のテトラアルコキシシランが好ましい。第2皮膜用溶液の溶媒は、例えばアルコール類、エステル類、グリコール類またはエーテル類である。溶媒は、特にメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、メトキシブタノール、メトキシメチルブタノール等のアルコール類が好ましい。第2皮膜用溶液内の亜鉛粉体および金属粉体の合計の含有量は例えば20~60質量%である。溶液内の有機シリコン化合物の含有量は例えば5~40質量%である。第2皮膜用溶液内の有機溶剤の含有量は例えば10~60質量%である。
【0027】
第2皮膜用溶液の第1皮膜14の表面への塗布は、例えば浸漬法、スプレー法またはスピンコート法を用いる。第2皮膜用溶液を塗布した後の加熱処理の温度は例えば100℃~400℃である。加熱処理の温度は第2皮膜用溶液内の溶媒が蒸発する温度以上である。加熱処理の時間は例えば10分~120分である。これにより、第1皮膜14の表面に第2皮膜16が形成される。第2皮膜16の膜厚は、例えば1μm~20μmであり、一例として8μmである。第2皮膜16内の亜鉛粉体および亜鉛以外の金属粉体(例えばアルミニウム粉体)の合計の含有量は例えば70質量%以上かつ95質量%以下であり、シリコン化合物の含有量は例えば5質量%以上かつ30質量%以下である。亜鉛粉体と亜鉛以外の金属粉体(例えばアルミニウム粉体)との合計の粉体質量に対する亜鉛粉体の質量の比は50%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。一例として第2皮膜16における亜鉛粉体の含有量は70質量%、アルミニウム粉体の含有量は15質量%、シリコン化合物の含有量は15質量%である。
【0028】
[工程4:シリカ皮膜18の形成]
次に、
図1(d)に示すように、第2皮膜16上に多孔質シリカ皮膜18を形成する。多孔質シリカ皮膜18の形成は、第2皮膜16上にシリカ皮膜用溶液を塗布し、加熱処理(焼付け処理)することで形成する。シリカ皮膜用溶液は、シリコン化合物および溶媒を含む。シリコン化合物は例えばオルガノシロキサンおよびシランカップリング剤の少なくとも一方である。シリコン化合物は、ケイ酸アルカリ金属を含んでもよい。シリカ皮膜用溶液はチタン化合物を含んでもよい。チタン化合物は例えば有機チタネート化合物である。シリカ皮膜用溶液の溶媒は、例えば水、アルコール類、エステル類、グリコール類またはエーテル類である。シリカ皮膜用溶液内のシリコン化合物の含有量は例えば40質量%以上かつ90質量%以下であり、溶媒の含有量は例えば10質量%以上かつ60質量%以下である。シリカ皮膜用溶液を第2皮膜16の表面へ塗布することで、第2皮膜16の表面に例えばポリオルガノシロキサン薄膜が形成される。
【0029】
シリカ皮膜用溶液の第2皮膜16の表面への塗布は、例えば浸漬法、スプレー法またはスピンコート法を用いる。シリカ皮膜用溶液を塗布した後の加熱処理の温度は例えば100℃~400℃である。加熱処理の温度はシリカ皮膜用溶液内の溶媒が蒸発する温度以上である。加熱処理の時間は例えば10分~120分である。これにより、第2皮膜16の表面に多孔質シリカ皮膜18が形成される。シリカ皮膜18の膜厚は、例えば0.1μm~10μmであり、一例として1μmである。多孔質シリカ皮膜18がシリコン化合物とチタン化合物を含む場合、シリコン化合物の含有量は例えば50質量%以上かつ95質量%以下であり、チタン化合物の含有量は例えば5質量%以上かつ50質量%以下であり、一例としてシリコン化合物およびチタン化合物の含有量はそれぞれ75質量%および25質量%である。
【0030】
特許文献1では、亜鉛または亜鉛合金皮膜上に第2皮膜16に相当する混合皮膜を形成することで、耐食性を向上させることができる。しかし、亜鉛または亜鉛合金皮膜と混合皮膜との間に剥がれが生じることがある。実施形態1では、
図2(a)および
図2(b)のように、下地材10の表面に、亜鉛または亜鉛合金を含む複数の粉体20を衝突させることで、亜鉛または亜鉛合金皮膜であり表面が凹凸状である第1皮膜14を形成する。
図1(c)のように、第1皮膜14の表面に、亜鉛または亜鉛合金を含む第2皮膜16を形成する。複数の粉体20が下地材10の表面に衝突することで、下地材10と第1皮膜14とは強固に接合する。また、第1皮膜14の表面は凹凸面となるため、第1皮膜14と第2皮膜16とが強固に接合する。これにより、第1皮膜14と第2皮膜16との密着性を向上させることができる。このように形成した第1皮膜14は、
図2(b)のように、亜鉛または亜鉛合金を含む複数の粉体13が潰れ互いに接合した構造を有する。
【0031】
図2(a)において、第1皮膜14を形成するときに、複数の粉体20は、亜鉛または亜鉛合金より硬い剛体紛(核またはショット球)を含む。剛体紛が下地材10の表面に付着した亜鉛または亜鉛合金に衝突する。これにより、下地材10と第1皮膜14とがより強固に接合し、第1皮膜14の表面はより凹凸面となり第1皮膜14と第2皮膜16とがより強固に接合する。これにより、下地材10と第2皮膜16との密着性をより向上させることができる。また、水を用いないため、環境負荷を低減できる。さらに、電気めっきと比べ乾式めっきは工程数が少ないため、工程削減することができる。
【0032】
粉体20は、亜鉛および鉄を含有する合金、または、亜鉛、マグネシウムおよびアルミニウムを含有する合金を含む。これにより、下地材10と第2皮膜16との密着性をより向上させることができる。
【0033】
図1(c)における第2皮膜16の形成では、第1皮膜14の表面に亜鉛粉体および有機ケイ素化合物を含む溶液を塗布し、加熱処理することで第2皮膜16を形成する。特許文献1のように下地材10上に第2皮膜16を形成することにより耐食性を向上できる。しかし、下地材10上に第2皮膜16を形成すると下地材10と第2皮膜16との密着性が低下する。そこで、第1皮膜14を形成することが好ましい。
【0034】
また、
図1(c)における第2皮膜16の形成では、第1皮膜14の表面に亜鉛粉体、アルミニウム粉体、並びにアルコキシシランおよびその加水分解物の少なくとも一方を含む溶液を塗布し、加熱処理することで第2皮膜16を形成する。これにより下地材10上に第2皮膜16を形成することにより耐食性を向上できる。しかし、下地材10上に第2皮膜16を形成すると下地材10と第2皮膜16との密着性が低下する。そこで、第1皮膜14を形成することが好ましい。このように形成した第2皮膜16は、亜鉛およびアルミニウムを含む。
【0035】
また、
図1(d)のように、第2皮膜16上にシリカ皮膜18(多孔質シリカ皮膜)を形成してもよい。これにより、耐食性がより向上する。
【実施例0036】
実施例1および比較例1として、以下の実験を行った。実験の工程は以下である。
工程1:下地材10としてSPCC-SD鋼材のM24六角ボルト、M24ナットおよびM24ワッシャーを準備した。
【0037】
工程2:下地材10の表面に第1皮膜14を形成した。粉体20を球形の鉄核と鉄核を囲むように亜鉛合金層を有する粉体とした。粉体20の直径は、約0.2mm~0.3mmであり、亜鉛合金層は、亜鉛、アルミニウムおよびマグネシウムの合金であり50質量%以上の亜鉛を含む。第1皮膜14の厚さは0.3μm~3μm程度である。
【0038】
工程3:第1皮膜14の表面に第2皮膜16を形成した。第2皮膜用溶液として、ユケン工業株式会社製 メタス YC-B17Jとメタス YC-B3とを体積比25:3の比率で混合し、第1皮膜14の表面に塗布した。その後、250℃~290℃において30分以上の加熱処理を行った。以上の塗布および加熱処理を2回繰り返した。YC-B17Jには、亜鉛粉体、亜鉛以外の金属粉体としてアルミニウム粉体、有機ケイ素化合物としてテトラエトキシシランが含まれている。第2皮膜16の膜厚は約8μmであり、第2皮膜16内の亜鉛、アルミニウムおよびシリコン化合物の含有率はそれぞれ70質量%、15質量%および15質量%である。
【0039】
工程4:第2皮膜16の表面に多孔質シリカ皮膜18を形成した。シリカ皮膜用溶液として、ユケン工業株式会社製 メタスYC-T、ルブラスC14またはルブラスC24を用い、第2皮膜16の表面に塗布した。その後、110℃~160℃において10分以上の加熱処理を行った。多孔質シリカ皮膜18の膜厚は約1μmであり、シリコン化合物およびチタン化合物の含有量はそれぞれ75質量%および25質量%である。
【0040】
[比較例1]
比較例1として、工程2の乾式めっきの代わりに、下地材10に湿式の電気めっきを施し第1皮膜14として亜鉛ニッケル合金皮膜を形成した。亜鉛とニッケルとの質量比を20:3とし、水酸化ナトリウム水溶液に溶解させためっき液を用いた。第1皮膜14を形成後、第1皮膜14の表面を水洗した。第1皮膜14の膜厚は約6μmであり、第1皮膜14内の亜鉛の含有率は87~92質量%、ニッケルの含有量は8~13質量%である。その後、三価クロムを含む溶液を用いクロメート処理を行った。その後、実施例1と同様に、工程3および工程4を行った。
【0041】
[クロスカット法試験]
密着性の評価として、JIS-K5600-5-6(ISO2409)により規定されているクロスカット法を用い皮膜の付着性を評価した。皮膜に1mm間隔で格子状の6本×6本の切り込みを入れ、切込みを入れた皮膜上に粘着テープを貼り付けはがす。切込みを入れた領域の皮膜の剥がれの程度により皮膜の密着性を評価した。剥がれの程度はJIS-K5600-5-6の分類とした。分類0では、剥がれがほとんどなく、分類が大きくなると剥がれが大きいことを示している。
【0042】
表1は、比較例1および実施例1におけるクロスカット法試験による密着性評価の結果を示す表である。
【表1】
【0043】
表1に示すように、比較例1では、クロスカット法の分類4であり密着性が低い。実施例1では、クロスカット法の分類0であり、密着性が高い。比較例1では、耐食性が高いものの下地材10と第1皮膜14との間、および第1皮膜14と第2皮膜16との間の密着性が低く、第1皮膜14が下地材10から剥がれやすく、第2皮膜16が第1皮膜14から剥がれやすい。実施例1のように、下地材10上に第1皮膜14を形成し、第1皮膜14上に第2皮膜16を形成すると、第1皮膜14と第2皮膜16との密着性が向上する。
【0044】
図2(a)および
図2(b)のように、実施例1では、粉体20を下地材10の表面に衝突させることにより、潰れた粉体13と下地材10との密着性を向上させている。よって、実施例1の結果は、下地材10が鉄材または鉄合金材以外の場合に一般化できると考えられる。第1皮膜14の表面の凹凸が大きくなるため、第1皮膜14と第2皮膜16との密着が向上する。よって、実施例1の結果は、第2皮膜16が亜鉛または亜鉛合金の場合に一般化できると考えられる。シリカ皮膜18は、耐食性の向上に寄与するものの、第1皮膜14と第2皮膜16との密着性にはあまり寄与しないと考えられる。よって、実施例1の結果はシリカ皮膜18を用いない場合にも一般化できる。
【0045】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。